以下、本発明に係る超音波診断装置及び超音波診断装置の制御プログラムの好適な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
図1には、本実施形態に係る超音波診断装置100の全体的な構成を示すブロック図が示されている。図1に示されるように、超音波診断装置100は、図示しない被検体との間で超音波を送受信する超音波プローブ2と、超音波プローブ2によって受信された超音波に基づいて取得された被検体の2次元形態像(Bモード像)と、2次元血流像と、ドプラスペクトラム波形とを表示する表示部6とを含んで構成されている。
超音波プローブ2と表示部6の間には、信号処理等を行うユニットとして、送受信部3と、信号処理部4と、デジタルスキャンコンバータ(DSC)5とが設けられている。そして、送受信部3と信号処理部4との間に、データ記憶部11が設けられている。さらに、超音波診断装置100は、これら各ユニット2,3,4,5,6を統括制御する制御部8を備えている。この制御部8には、入力マンマシンインターフェイスとしての操作パネル7が接続されている。
超音波プローブ2は、圧電セラミック等の圧電振動子を複数配列して備える。これら複数の圧電振動子に送受信部3から電圧パルスが印加されることで、超音波が発生し、被検体に対して超音波が送信されるようになる。超音波プローブ2は、送信された超音波が被検体で反射することにより得られる超音波エコーを受信し、この超音波エコーを、電気信号であるエコー信号に変換して、送受信部3に出力する。
送受信部3には、パルス発生器、送信遅延回路、パルサ、プリアンプ、A/D、受信遅延回路、加算器、位相検波回路(いずれも不図示)が設けられている。
パルス発生器は、電圧パルスの送信タイミングを制御するもので、タイミング信号(クロックパルス)を所定時間毎に生成し、送信遅延回路に送信する。送信遅延回路は、電圧パルスの印加を圧電振動子毎に遅延させて時間差を設け、超音波ビームの走査方向を決定する。パルサは、送信遅延回路から受けたタイミングで各圧電振動子に各モードに応じたパルス幅の電圧パルスを印加する。
プリアンプは、エコー信号を増幅する。A/Dは、増幅した信号をデジタル信号に変換する。受信遅延回路と加算器は、各振動子からの信号を整相加算して、単一信号を生成する。位相検波回路は、加算器を経た信号の所望中心周波数を0Hzにする周波数シフトを行った後、直交位相検波したデジタル信号データ(ドプラ信号)を、所定のサンプリング周期で、データ記憶部11に出力する。
データ記憶部11は、直交位相検波された信号を保存するためのファーストインファーストアウト(FIFO)メモリを備えており、送受信部3から出力されたデジタル信号データを、時系列に従ってそのメモリ内に格納する。本実施形態では、説明を簡単にするため、このメモリの記憶容量が、表示部6に表示される画像の1枚分を格納可能な容量であるものとする。後述するフリーズ操作が行われない限り、送受信部からのデジタル信号データにより、メモリの記憶内容は、随時更新される。メモリ内に格納されたデジタル信号データは、古い順に、前記所定のサンプリング周期で、信号処理部4に出力される。データ記憶部11は、データの書き込みの禁止又は許可をすることが可能な外部入力を備えている。
信号処理部4は、データ記憶部11から出力されたデジタル信号データを入力し、このデジタル信号データに基づいて、各像を生成するための信号処理を実行する。
Bモード処理部14は、エコーフィルタ、包絡線検波回路、LOG(いずれも不図示)を備えており、2次元形態像を生成する信号処理(Bモード信号処理)を実行する。エコーフィルタは、データ記憶部11から入力された周波数シフトによる信号にローパスフィルタをかける。包絡線検波回路は、包絡線を検波し、包絡線検波信号を得る。LOGは、包絡線検波信号に対して対数変換を施す。このようにして生成された2次元形態像のデータは、DSC5へ送信される。
カラードプラモード処理部15は、コーナーターニングバッファ、ウォールフィルタ、自己相関器、演算部(いずれも不図示)を備えており、2次元血流像を生成する信号処理(CFMモード信号処理)を実行する。コーナーターニングバッファは、送受信3の位相検波回路からの直交位相検波による信号(データ記憶部11を介して得られる信号)のデータ列を一時的に記憶した後、並べ替えを行う。ウォールフィルタは、コーナーターニングバッファに記憶されたデータ列を所定順で読み出し、所定のフィルタ帯域をもって信号のクラッタ成分を除去する。自己相関器は、2次元のドプラ信号処理をリアルタイムで行い、信号を周波数分析する。演算部は、平均速度演算部、分散演算部、パワー演算部を有しており、それぞれ平均ドプラシフト周波数、分散値、または血流パワー値等の2次元血流像のデータを求める。例えば、演算部は、信号に含まれる血流の速度成分を対応するカラー情報に変換する。
図2には、Dモード処理部16の詳細構成が示されている。図2に示されるように、Dモード処理部16は、レンジゲート部21と、ウォールフィルタ23と、FFT処理部25と、トレース処理部27とを備えており、ドプラスペクトラム波形データを形成するための信号処理(Dモード信号処理)を実行する。
レンジゲート部21は、サンプルホールド回路(不図示)を有している。レンジゲート部21は、レンジゲートに相当するサンプリングパルスに従って、被検体内の所望位置のドプラ信号をサンプルホールドする。ウォールフィルタ23は、その所望位置のドプラ信号から、比較的動きの遅い血管壁、心臓壁等の不要低周波成分(クラッタ成分)を除去する。
FFT処理部25は、クラッタ成分が除去されたドプラ信号を周波数分析してそのスペクトラムデータを得る。このスペクトラムデータは、DSC5に送信される。
図3(A)、図3(B)には、FFT処理部25におけるFFT処理が模式的に示されている。図3(A)は、FFT処理部25に入力されるドプラ信号Axが示されており、図3(B)には、このドプラ信号Axの所定区間をFFT処理して得られたドプラスペクトラムデータBx(x=1、2、・・・)が示されている。このFFT処理においては、離散的なドプラ信号(図3(A))のうち、例えば、q1乃至qmのm個のドプラ信号成分(すなわち時間長Tmの成分)が抽出され、この成分に対してFFT処理が行なわれ、スペクトラム成分p1乃至pmに対する最初のドプラスペクトラムデータB1が生成される。次いで、時間ΔT後のm個のドプラ信号成分q1+j乃至qm+jがFFT処理されて新たなドプラスペクトラムデータB2が生成される。なお、図3(A)ではj=3の場合について示している。
以下、同様にして、時間2ΔT後のq1+2j乃至qm+2j、時間3ΔT後のq1+3j乃至qm+3j・・・のm個のドプラ信号成分に対しても順次FFT分析が行なわれ、スペクトラム成分p1乃至pmに対するドプラスペクトラムデータB3、B4、・・・・が生成される。(図3(B))。
mは、制御部8によって設定可能な処理パラメータである。このmによって決定される時間Tmは、各時点でのスペクトラムを算出するために抽出される波形データの時間長であり、この時間Tmを、以下では、観測時間長という。この観測時間長Tmを長くすれば、各サンプル地点でのドプラスペクトラム波形は、広い速度範囲の血流を捉えた正確なものとなり、速度検出感度が向上するが、時間方向には平滑化された波形となり、時間分解能は低下する。また、観測時間長Tmを短くすると、各サンプル地点での速度検出感度は低下するが、時間分解能は向上するようになる。
一方、FFT処理部25から出力されたスペクトラムデータは、トレース処理部27にも送られる。トレース処理部27は、入力したスペクトラムデータから、最高流速Vp(Vpeak)、平均流速Vm(Vmean)のトレース波形データを作成して出力する。この最高流速Vp、平均流速Vmのトレース波形データは、DSC5や不図示の計測部にも出力されている。また、このトレース波形データは、計測部における被検体の診断対象の診断指標(血液流量や拍動流のHR(Heart Rate)、PI、RI(Resistance Index))の計測に用いられる。
DSC5は、Bモード処理部14、カラードプラモード処理部15及びDモード処理部16から出力される各データを、表示部6に表示可能な画像信号(標準TV走査のアナログ信号)に変換して表示部6へ送信する。
表示部6は、モニタにより構成され、DSC5で処理された各画像データに対応する画像を合成して表示する。図4には、表示部6が表示する表示画面の一例が示されている。図4に示されるように、この表示画面は、トリプレックスモードで表示されている。この表示画面において、その画面上部の断層像表示部31には、2次元形態像内の関心領域(ROI、Region Of Interest)に2次元血流像がオーバーレイ表示されている。図4では、心臓の断層像が示されている。また、画面下部の波形表示部33には、その2次元形態像とともに、ドプラスペクトラム波形、すなわち血流の時系列データが表示されている。表示されるドプラスペクトラム波形は、断層像表示部31内の断層像上に表示されたサンプルボリューム35に示された位置に対応する波形となっている。このサンプルボリューム35の位置を変更すると、レンジゲート部21のサンプリングパルスのタイミングが変わり、変更されたサンプルボリューム35の位置に対応するドプラスペクトラム波形が表示されるようになる。
ドプラスペクトラム波形は、例えばムービングバーMBを先頭にして、波形表示部33上を、左端から右端へと一定速度で進むようにして描かれる。そして、ムービングバーMBは、右端に到達すると左端に戻り、改めて右端へ進む。このムービングバーに追従して、ドプラスペクトラム波形の波形表示が更新されていく。このような画面の更新をスクロールという。後述する速度レンジの更新や、処理パラメータの変更は、ムービングバーが左端にあって、画面が更新される時点において、その更新と同時にしか行うことができないように規定されている。
操作パネル7は、キーボード、トラックボール、マウス等により構成される。この操作パネル7は、操作者が各モードの切替えや、ROIの位置やレンジゲート(サンプルボリューム35)の切替え、ドプラスペクトラム波形データを収集するポイントの変更等を入力するために用いられる。また、この操作パネル7上には、表示部6に表示される画像を、動画像か静止画像かのいずれかに切り替えるフリーズON/OFFボタン(不図示)が設けられている。動画像が表示されている場合にこのフリーズON/OFFボタンが押下されると、表示部6には静止画像が表示される。このときのボタン操作をフリーズ操作という。また、静止画像が表示されている場合にこのフリーズON/OFFボタンが押下されると、表示部6には、動画像が表示される。このときのボタン操作をフリーズ解除操作という。
制御部8は、CPU81、RAM82、HDD83等のコンピュータとシーケンサ84により構成される。HDD83には、超音波診断装置100の制御プログラムが記憶されている。制御部8では、HDD83からRAM82上に、この制御プログラムを読み出し、CPU81がその制御プログラムを実行することにより、図2に示される制御部8内に設けられた操作解析部61、パラメータ設定部63、判定部65、波形情報算出部67、自動調整部69などの機能が実現される。操作解析部61、パラメータ設定部63、判定部65、波形情報抽出部67、自動調整部69は、所定の周期(例えばタイマ割り込みなど)で、定期的に実行される、リアルタイム実行タスクである。
操作解析部61は、操作パネル7から送信されるその操作内容に関する情報を受信し、その受信結果を解析し、その解析結果に応じた処理を行う。例えば、操作解析部61は、操作パネルの操作内容を解析し、必要であれば、パラメータ設定部63にパラメータ変更指令を発する。また、操作解析部61は、必要に応じて、データ記憶部11への書き込み禁止、書き込み許可の指令を、データ記憶部11に与える。また、操作解析部61は、信号処理部4に対して、データ記憶部11に保存されたデータの再処理指令などを送信することもできるようになっている。
パラメータ設定部63は、操作解析部61や判定部65からのパラメータ変更指令に応じて、FFT処理部25の処理パラメータの値を変更することができる。本実施形態では、説明を簡単にするため、値が変更される処理パラメータを、上述した観測時間長Tmのみとする。一般に、観測時間長Tmを長めに設定した方が、速度検出感度を上げて診断対象に対応するドプラスペクトラム波形データを検出し易くなるため、波形データを検出する検出段階では、パラメータ設定部63は、観測時間長Tmの値としては、長めの数値を設定するようになる。また、観測時間長Tmを短めに設定した方が、波形の時間分解能が高くなるため、診断指標を計測する計測段階では、パラメータ設定部63は、観測時間長Tmの設定値としては、短めの数値を設定するようになる。各段階での観測時間長Tmの値は、それぞれHDD83上のパラメータ設定値格納部71に予め格納されており、パラメータ設定部63は、パラメータの値を変更する際に、このパラメータ設定値格納部71に格納されたパラメータ設定値を参照すればよいようになっている。
判定部65は、ドプラスペクトラム波形などに基づいて、パラメータの値の変更の可否を自動判定するために設けられている。判定部65は、後述する波形情報抽出部67から得られるドプラスペクトラム波形の特徴や、自動調整部69から受信する表示部6における表示画面の自動調整の調整状態などから、例えば、診断対象に関する波形が検出されたか否かを判定する。そして、判定部65は、この判定が肯定的であった場合には、パラメータ変更指令を、パラメータ設定部63に送信する。
波形情報抽出部67は、トレース処理部27から、最高流速Vp、平均流速Vmのトレースデータを入力している。波形情報抽出部67は、これらのトレースデータに基づいて、被検体の診断対象の特徴を抽出する。
個々の診断対象に対応する波形データにはそれぞれ特徴がある。波形情報抽出部67は、その特徴を抽出して出力する。以下、この診断対象の特徴について、具体的に説明する。
図5(A)、図5(B)には、心臓の弁の血流に対応するドプラスペクトラム波形が示されている。
図5(A)に示されるトレース波形データでは、負側だけにピークが現れている。通常、ドプラ法においては、血流の方向が超音波プローブに向かってくる血流に正、遠ざかっていく血流に負の符号が付与される。ある血管に超音波プローブを当てると、その血管が動脈の場合には、血流の速度は拍動により変動するが、正負に跨って変化することはなく、通常は、正負どちらかに偏っている。したがって、図5(A)に示される波形では、心臓の弁流は常に負の方向であり、弁逆流は検出されていないことになる。この場合、太線であらわされる正側、負側の最高流速Vpのトレースデータの波形のうち、一方の極性のみ、すなわち負側のトレースデータの波形のみが、所定レベルを超えるようになる。
図5(B)に示されるトレース波形データでは、正側だけでなく、負側にもピークが現れている(中央の横線が流速がゼロであることを示す。)。この場合、同じ位置(サンプルボリューム35で指定された位置)で、正逆の血液の流れが存在することになる。ここで、サンプルボリューム35の指定位置が心臓の弁であったとすると、正側の波形は、弁逆流を表していることになる。
このように、診断対象が心臓であり、その弁逆流が存在するような場合には、最高流速Vpのトレースデータの波形は、一方の極性だけでなく、正側でも負側でも一定レベルを超えるようになる。波形情報抽出部67は、このような波形の特徴を抽出して、判定部65に送信する。
自動調整部69は、トレース処理部27から最高流速Vp、平均流速Vmのトレースデータを入力し、そのトレースデータに基づいて、表示部6に表示されるドプラスペクトラム波形に発生する折り返しを防止すべく、速度レンジ(ドプラスペクトラム波形の速度表示範囲)、ベースライン(ドプラスペクトラム波形のゼロレベル)の自動調整を行う。自動調整部69は、一定時間のトレースデータを抽出し、抽出されたトレースデータにおける血流の最大流速Vp、及び平均流速Vmの分布に対する統計値を算出する。そして、算出された統計値に基づいて、現在のドプラスペクトラム波形を、適切に表示する速度レンジ等を調整する。なお、自動調整部の具体的な処理内容については、例えば、特開2005−185731号公報に開示されているので、詳細な説明を省略する。自動調整部69は、調整した速度レンジ等に関する情報を判定部65に出力している。
判定部65は、波形情報抽出部67で抽出された波形の特徴や、自動調整部69から入力した速度レンジ等に関する情報などを受信し、受信した情報に基づいて、診断対象に対応する波形が検出されているか否か、又は、調整状態が安定しているか否かの判定を行う。
次に、本実施形態に係る超音波診断装置の各部の処理動作についてさらに具体的に説明する。
図6には、操作解析部61の処理の一例のフローチャートが示されている。図6に示されるように、ステップ201では、操作解析部61は、操作入力待ちとなっている。操作パネル7から操作入力があると、操作解析部61は、その操作内容がフリーズ操作であるか否かを判断する(ステップ203)。この判断が肯定されるとステップ205に進み、否定されると、ステップ213に進む。
ステップ205〜ステップ211は、操作内容がフリーズ操作であった場合の処理である。操作解析部61は、まず、データ記憶部11に対し、書き込み禁止指令を発信する(ステップ205)。データ記憶部11は、この書き込み禁止指令を受けて、所定のタイミングで、送受信部3から入力されるデータの書き込みを禁止する。ここで、所定のタイミングとは、表示部6の波形表示部33の波形がその右端に到達し、左端から波形が更新される際のその波形に対応するデータが、メモリに書き込まれるタイミング、すなわち、画像1枚分の最初の画像データに用いられる最初の信号データ(図3(A)では、例えばq1)の書き込みが行われるタイミングである。
次のステップ207では、操作解析部61は、パラメータ設定部63に対して、パラメータ変更指令を発信し、ステップ209において、パラメータ設定部63からの変更完了通知を待つ。この指令を受けて、パラメータ設定部63は、後述するように、FFT処理部25の処理パラメータの設定値を変更し、その変更が完了すると、操作解析部61に変更完了通知を返す。操作解析部61は、これを受けて、ステップ211に進む。
ステップ211では、Dドプラモード処理部16に対し、再処理を指令する。これを受けて、Dドプラモード処理部16は、書き込みが禁止されたデータ記憶部11から、すでに書き込まれているデータを先頭から古い順に読み出して、レンジゲート部21、ウォールフィルタ23、FFT処理部25、トレース処理部27での再処理を実行する。これにより、表示部6の表示画面には、この再処理の結果、すなわち、データ記憶部11に保存された信号データの処理結果の静止画像が表示されるようになる。
一方、ステップ203で、操作内容がフリーズ操作でないと判断された場合には、ステップ213で、操作内容がフリーズ解除操作であるか否かが判断される。この判断が肯定されれば、ステップ215に進み、否定されればステップ221に進む。
ステップ215〜ステップ219は、操作内容がフリーズ解除操作であった場合の処理である。まず、ステップ213では、データ記憶部11に対し、書き込み許可指令を発信する。これを受けて、データ記憶部11は、送受信部3からのデータの書き込み禁止を解除する。送受信部3からのデータの書き込みは、メモリの先頭から行われる。次のステップ215では、パラメータ設定部63に対し、パラメータ変更指令を発信し、次のステップ217で、変更完了通知を待つ。これを受けて、パラメータ設定部63は、FFT処理部25の処理パラメータを変更し、変更完了通知を、操作解析部61に返す。
一方、ステップ213で、操作内容がフリーズ操作でなく、他の操作であったと判定された場合には、ステップ221において、その他の操作に対応するコマンド処理が実行される。
ステップ211、ステップ219、ステップ221終了後は、ステップ201に戻り、再び、操作入力待ちとなる。
次に、パラメータ設定部63の動作について説明する。図7には、パラメータ設定部63の一例のフローチャートが示されている。図7に示されるように、まず、パラメータ設定部63は、ステップ251において、パラメータ変更指令の受信待ちとなっている。前述したように、操作解析部61等から、パラメータ変更指令を受信すると、ステップ253に進む。ステップ253では、検出モードが設定されているか否かを判断する。パラメータ設定部63は、現在、診断対象に対応する波形を検出する検出段階のモード、すなわち検出モードであるか、診断指標を計測する計測段階のモード、すなわち計測モードであるかを内部で管理しており、その管理情報を参照することにより、この判断がなされる。
ステップ253の判断が肯定されればステップ255に進み、否定されればステップ257に進む。ステップ255では、検出モードから計測モードへ切り替えのために計測モードの処理パラメータの値(すなわち、観測時間長Tmの短めの値)を、パラメータ設定値格納部71から読み出す。また、ステップ257では、計測モードから検出モードへの切り替えのために、検出モードの処理パラメータの値(すなわち、観測時間長Tmの長めの値)をパラメータ設定値格納部71から読み出す。
次のステップ261では、読み出した観測時間長Tmの設定値を、FFT処理部25に設定することにより、FFT処理の観測時間長Tmの値を変更する。次のステップ263では、変更完了通知を、パラメータ変更指令の発信元(例えば、操作解析部61等)に返す。ステップ263終了後は、再び、ステップ251に戻り、パラメータ変更指令待ちとなる。
図8(A)には、フリーズ操作前における表示部6の表示画面の一例が示されており、図8(B)には、フリーズ操作後の表示部6の表示画面の一例が示されている。図8(A)、図8(B)に示されるように、フリーズ操作前とフリーズ操作後とでは、FFT処理部25の処理パラメータ(観測時間長Tm)の値が変更されているため、両者の間で、表示されているドプラスペクトラム波形が大きく異なっているのがわかる。
次に、波形情報抽出部67の動作について説明する。図9には、波形情報抽出部67の処理の一例のフローチャートが示されている。図9に示される処理は、診断対象を心臓の弁逆流とし、その特徴に関する情報を抽出する処理である。
図9に戻り、波形情報抽出部67は、定期的なタイマ割り込みによってスタートする。まず、ステップ301において、一定時間内のトレースデータを、トレース処理部27から取得する。次のステップ303では、正側の最高流速のトレースデータの平均値を算出し、次のステップ305では、負側の最高流速のトレースデータの平均値を算出する。次のステップ307では、最高流速Vpのトレースデータの平均値(正、負)を、判定部65に送信し、処理を終了する。
次に、判定部65の動作について説明する。図10には、判定部65の処理の一例のフローチャートが示されている。判定部65の処理モードには、AモードとBモードとが含まれている。Aモードとは、波形情報抽出部67から送られる情報に基づいて、処理パラメータの変更の可否を判定するモードであり、Bモードとは、自動調整部69から送られる情報に基づいて、処理パラメータの変更の可否を判定するモードである。Aモード/Bモードは、装置パラメータにより、予め設定されているものとする。
図10に示されるように、判定部65は、定期的なタイマ割り込みによって処理を開始する。まず、ステップ351では、処理モードがAモードに設定されているか否かを判断する。この判断が肯定されればステップ353に進み、否定されればステップ361に進む。
ステップ353〜ステップ359における処理は、Aモード設定時の処理である。まず、ステップ353では、最高流速のトレースデータ(正、負)の平均値を受信する。次のステップ355では、正側の最高流速のトレースデータの平均値と、負側の最高流速のトレースデータの平均値とが、ともに閾値を上回っているか否かを判断する。そして、この判断が肯定された場合にのみ、ステップ357において、パラメータ変更指令を、パラメータ設定部63に発信して、ステップ359において、その変更完了通知を待つ。これを受けて、パラメータ設定部63は、FFT処理部25の処理パラメータを変更して、変更完了通知を返す。判定部65は、この変更完了通知を受けて、処理を終了する。ステップ355において、判断が否定された場合には、そのまま処理を終了する。
一方、ステップ355で判断が否定された場合には、パラメータ変更指令を発することなく処理を終了する。
ステップ361〜ステップ371の処理は、Bモード設定時の処理である。まず、ステップ361では、Bモードが設定されているか否かを判断する。この判断が肯定された場合にはステップ363に進み、否定された場合には、処理を終了する。
ステップ363では、自動調整部69から出力される速度レンジのデータを受信する。次のステップ365では、一定期間の速度レンジのばらつき、例えば分散を算出する。次のステップ367では、その分散が許容値以内であるか否かを判断する。この判断が肯定された場合にのみステップ369に進んでパラメータ変更指令を発し、ステップ371では、変更完了通知の受信待ちとなる。これを受けて、パラメータ設定部63は、FFT処理部25の処理パラメータを変更して、変更完了通知を返す。判定部65は、この変更完了通知を受けて、処理を終了する。
一方、ステップ367において、判断が否定された場合には、そのまま処理を終了する。
以上述べたように、制御部8では、操作パネル7から入力されるフリーズ操作又はフリーズ解除操作、波形情報抽出部67によって抽出された波形情報、自動調整部69での調整状態に関する情報に基づいて、FFT処理部25における処理パラメータの値(観測時間長Tmの値)を変更する。なお、Bモードの処理(ステップ363〜ステップ371)では、速度レンジの分散を基準として、パラメータの変更の可否を判断したが、速度レンジの分散の代わりに、速度レンジの変動の大きさを示す他の統計値(例えば、標準偏差など)を用いることが可能である。
次に、上述した構成及び動作を有する超音波診断装置100を用いた診断の流れについて説明する。
まず、フリーズ操作を行う診断方法について説明する。最初の時点では、オペレータは、超音波プローブ2を被検体にあて、表示部6の断層像表示部31に表示された断層像を見ながら、サンプルボリューム35の診断対象部位への位置合わせを行う。その位置合わせの際には、波形表示部33を確認し、取得すべき波形データが表示されているか否かを確認する。この段階は、まだ波形の検出段階であり、FFT処理の処理パラメータ(観測時間長Tm)には、波形を検出し易いように、長めの値が設定されている。これにより、オペレータは、高い速度検出感度の下で、波形データを検出することが可能となる。
波形表示部33に、診断対象に対応する波形データが波形表示部33に表示され、その波形データが得られたことを確認すると、オペレータは、操作パネル7のフリーズON/OFFボタンを押下する。このフリーズON/OFFボタンの押下により、その操作内容が、操作解析部61に送られると、パラメータ変更指令が、パラメータ設定部63に送られて、FFT処理の処理パラメータ(観測時間長Tm)の値が短めの値に変更される。これにより、高い時間分解能を提供する処理パラメータの下で、FFT処理された波形データ(静止画像)が作成されるようになり、この波形データを用いて診断指標を高精度に計測できるようになる。
次に、Aモード(波形情報抽出部によるパラメータ変更)を用いた診断方法について説明する。最初の時点では、オペレータは、超音波プローブ2を被検体にあて、表示部6の断層像表示部31に表示された断層像を見ながら、サンプルボリューム35の診断対象部位への位置合わせを行う。その位置合わせの際には、波形表示部33を確認し、取得すべき波形データが表示されているか否かを確認する。この段階は、まだ、波形の検出段階であり、FFT処理の処理パラメータ(観測時間長)には、長めの値が設定されている。これにより、オペレータは、高い速度検出感度の下で、波形データを検出することが可能となる。
サンプルボリューム35が適切に設定され、逆弁流の特徴が波形データに出現すると、波形情報抽出部67で抽出された正負の最高流速のトレースデータの平均値は、ともに閾値を超えるようになるため、判定部65は、パラメータ設定部63にパラメータ変更指令を発する。これを受けて、パラメータ設定部63は、処理パラメータ(観測時間長Tm)の値を変更する。これにより、高い時間分解能を提供する処理パラメータの下で、FFT処理された波形データが作成されるようになり、この波形データを用いて、診断指標を高精度に計測できるようになる。
次に、Bモード(自動調整の調整状態によるパラメータ変更)を用いた診断方法について説明する。最初の時点では、オペレータは、超音波プローブ2を被検体にあて、表示部6の断層像表示部31に表示された断層像を見ながら、サンプルボリューム35の診断対象部位への位置合わせを行う。その位置合わせの際には、波形表示部33を確認し、取得すべき波形データが表示されているか否かを確認する。この段階は、まだ波形の検出段階であり、FFT処理の処理パラメータ(観測時間長)の値としては、長めの値が設定されている。これにより、オペレータは、高い速度検出感度の下で、波形データを検出することが可能となる。
自動調整部69は、トレース処理部27から得られる最高流速Vp.平均流速Vmのトレース波形に基づいて、速度レンジを調整し、その調整値を、判定部65に出力する。判定部65は、その速度レンジの変動状態を示す分散が、許容範囲内となったときに、波形データが検出されたものと判断して、パラメータ設定部63に、パラメータ変更指令を発し、パラメータ設定部63は、処理パラメータ(観測時間長)の値を短めの値に変更する。これにより、高い時間分解能を提供する処理パラメータの下で、FFT処理された波形データが作成されるようになり、この波形データを用いて、診断指標を高精度に計測できるようになる。
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、被検体の診断対象からの超音波エコーに相当する信号データに対する信号処理部4において、被検体の診断対象に関する波形が得られる前にあっては、波形を検出しやすい値に設定された処理パラメータ(観測時間長Tm)の下での診断対象に関する波形の検出が可能となり、その検出が容易となる。さらに、画像データが得られた後では、診断指標を計測しやすい値に設定された処理パラメータ(観測時間長Tm)の下での波形データを用いた診断指標の計測が可能となり、正確に診断指標を計測することが可能となる。これにより、微小量のドプラスペクトラム信号であっても検出が容易となってその検出までに要する時間が短縮され、高精度、かつ、短時間な超音波診断が実現される。
また、本実施形態に係る超音波診断装置100では、パラメータ設定部63は、操作パネル7で切り替え操作が行われた場合に、観測時間長Tmの値を変更する。このようにすれば、波形が検出されたものと判断したオペレータは、操作パネル7を用いた切り替え操作を行えば、その操作に伴って処理パラメータの値が自動的に変更されるようになるため、装置の操作性が著しく向上するようになる。
また、本実施形態に係る超音波診断装置100では、パラメータの変更は、表示する画像を、動画像から静止画像へ切り替えるフリーズ操作によって行われる。このようなフリーズ操作は、通常、波形の検出後において行われるため、このフリーズ操作に連動して、処理パラメータの値の変更を自動的に行うようにすれば、オペレータの作業負担が著しく軽減される。
また、本実施形態に係る超音波診断装置100では、データ記憶部11には、Dモード処理等が施される前のデータが保存される。そして、制御部8のDモード処理部16は、表示する画像を動画像から静止画像に切り替える場合に、パラメータ設定部により値が変更された観測時間長Tmの下で、データ記憶部11に保存された信号データに対して所定の処理を再び行って波形データを作成する。このようにすれば、すでに、長い観測時間長Tmの下で、FFT処理がすでに行われた波形データであっても、観測時間長Tmを短く設定してDモード処理を再処理して、表示部6の画面上に再表示することが可能となる。
また、本実施形態に係る超音波診断装置100では、波形情報抽出部67が、波形データの特徴を抽出する。そして、判定部65は、抽出された特徴が、被検体の診断対象の特徴と符合するか否かを判定する。そして、パラメータ設定部63は、判定部65の判定が肯定的であると判定した場合に、処理パラメータの値を変更する。このようにすれば、波形の特徴に基づいて、診断対象の波形データを検出した後、処理パラメータを自動的に変更するようになるため、オペレータの作業負担が著しく軽減されるようになる。
なお、上記実施形態では、心臓の弁逆流を診断対象として、その波形データに現れる特徴を抽出して、波形検出を確認したが、このような波形の特徴は、診断対象によって様々である。したがって、波形情報抽出部67は、その診断対象に応じた波形情報を抽出し、判定部は、その波形の特徴に応じた判定処理を行う必要がある。
また、本実施形態に係る超音波診断装置100では、自動調整部69が、波形データの大きさに基づいて、波形の表示状態を自動調整する。そして、判定部65は、自動調整部69による調整状態が安定しているか否かを判断する。さらに、パラメータ設定部63は、判定部65の判定が肯定的であると判定した場合に、処理パラメータの値を変更する。このようにすれば、自動調整部69の調整状態が安定している場合には、処理パラメータを自動的に変更するようになるため、オペレータの作業負担が著しく軽減されるようになる。
なお、上記実施形態に係る超音波診断装置100では、値を変更する処理パラメータを、FFT処理部における観測時間長Tmとしたが、本発明はこれには限られず、信号処理部4の分解能に関わる処理パラメータであれば、すべて変更の対象となる。例えば、図3(A)に示されるサンプリング間隔ΔTが変更されるパラメータの一例として挙げられる。
また、処理パラメータの変更対象となる処理部は、FFT処理部25には限らない。例えば、トレース処理部27において最高流速Vp等を求めるために抽出される波形データの時間長などを変更するようにしてもよい。さらには、Bモード処理部14、カラードプラモード処理部15の処理パラメータを変更するようにしてもよい。
この他、変更可能なパラメータとしては、ピクセルレシオ、表示色などの、表示部6における表示パラメータが含まれるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、変更するパラメータの値を、波形が検出される段階で1つ、診断指標を計測する段階で1つとしたが、これには限られず、各段階で複数備えるようにしてもよい。このようにすれば、各段階において、複数の設定値の中から最適な設定値を選択することもできるようになる。このとき、フリーズ操作後に、パラメータの値を順次切り替えつつ、データ記憶部11に記憶された信号データに対してDモード処理を再処理させて、表示部6に表示させて、最も良好な波形データに対応する最適な処理パラメータを選択するようにしてもよい。なお、このような処理を行うには、操作パネル7上に、別途、フリーズON/OFFボタンとは別に、処理パラメータを切り替えるためのマンマシンインターフェイスが別途必要となる。
なお、上記実施形態では、データ記憶部11を、送受信部3と信号処理部4との間に配置したが、本発明はこれには限られず、信号処理部4の各処理部14、15、16内にそれぞれ設けるようにしてもよい。この場合、Dモード処理部16では、ウォールフィルタ23とFFT処理部25との間に、データ記憶部が設けられていても良い。要は、データ記憶部は、値が変更される処理パラメータに対応する処理部の前段に設けられていればよい。
また、上記実施形態では、表示部6の表示モードをトリプレックスモードとしたが、本発明はこれには限られない。ドプラスペクトラム波形の単独表示であっても構わないのは勿論である。
また、上記実施形態に係る超音波診断装置100は、ドプラスペクトラム波形の算出に、パルスドプラ法を用いたが、連続波ドプラ法についても本発明を適用することができるのは勿論である。
なお、上記実施形態では、超音波振動子として、圧電振動子を用いたが、超音波振動子としては、近年のMEMS技術の進歩によって、振動部をシリコン基板上に作製可能となった容量検出型超音波トランスデューサ (CMUT:Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)を用いるようにしてもよい。
上述した実施態様及び各種変形例は、本発明の範囲を制限するものではない。従って、当業者であればこれらの各要素もしくは全要素をこれと均等なものによって置換した実施態様を採用することが可能であるが、これらの実施態様も本発明の範囲に含まれる。