発明の詳細な説明
[発明の背景]
(i)発明の分野
本発明は、α−セクレターゼおよび認知増強(cognitive enhancement)の調節(modulation)に関する。更に、本発明は、アミロイドプロセッシングに関連する容態(例えば、アルツハイマー病)の治療のための化合物及び係る容態(conditions)の治療のための組成物に関する。
(ii)発明の背景
認知(cognition)に影響する様々な障害(disorders)および疾患(diseases)が存在する。認知は、一般に少なくとも3つの異なるコンポーネントを含んでいると説明できる、即ち:注意(attention)、学習(learning)、および記憶(memory)である。これらのコンポーネントの各々とそれらの個々のレベルとは、被験者の認知能力の全体のレベルに影響する。例えば、アルツハイマー病患者は全体の(overall)認知の損失、それに伴うそれらの個々の特性の衰退(deterioration)を受けるが、前記疾患に最も多く関連するものは記憶喪失(loss of memory)である。他の疾患において、患者は、認知の異なる特性と優先的に関連する認知損傷(cognitive impairment)を経験する。例えば、注意欠陥多動性障害(ADHD)は、注意状態(attentive state)を維持する個体の能力に集中(focuses)している。他の容態には、他の神経疾患、加齢、および精神的な能力(mental capacity)に有害な(deleterious)効果を生じ得る容態の治療(例えば、癌治療、発作/虚血、および精神遅滞)と関連する、一般的な痴呆が含まれる。
認知障害(Cognition disorders)は、現在の社会に様々な問題を生み出している。
それゆえに、科学者は、認知増強剤(cognitive enhancers)または認知活性化因子(cognition activators)を開発する努力に労力を費やしてきた。開発された認知の増強剤または活性化剤には、向知性因子(nootropics)、血管拡張因子(vasodilators)、代謝増強因子(metabolic enhancers)、精神刺激因子(psychostimulants)、コリン作用性因子、生体アミン薬およびニューロペプチド(neuropeptides)が含まれると一般的に分類されている。
血管拡張因子および代謝増強因子(例えば、ジヒドロエルゴトキシン)は、大脳血管 連結−虚血(cerebral vessel ligation−ischemia)により誘導された認知障害において主に効果的である;しかしながら、それらは臨床使用に及び他のタイプの認知障害に無効である。開発された認知増強剤の中で、典型的には代謝性薬物のみが臨床使用(clinical use)に用いられるが、他のものはいまだ研究段階である。向知性因子の中で、例えば、ピラセタム(piracetam)は末梢性の内分泌系を活性化し、患者において産生される高濃度のステロイドのためにアルツハイマー病に適切ではない、一方タクリン(コリン作動薬)は、嘔吐、下痢、および肝毒性を含む様々な副作用を有している。
罹患した個体の認知能力を改善する方法は、様々な研究の主題となっている。近年、アルツハイマー病に関する認知状態(cognitive state)と患者の記憶を改善する異なる方法とは、多様なアプローチおよび戦略の主題となっている。残念ながら、これらのアプローチおよび戦略は、罹患した個体における症候性の(symptomatic)及び一過性の認知のみを改善するものであり、疾患の進行に対処するものではなかった。アルツハイマー病のケースにおいて、典型的にはコリン作用性経路を介した又は他の脳伝達物質経路を介した、認知を改善する取り組みが研究されてきた。主要なアプローチは、薬物療法を介したアセチルコリンエステラーゼ酵素の阻害に依存するものである。
アセチルコリンエステラーゼは主要な脳酵素であり、そのレベルを操作することにより他の神経学的な機能に多様な変化を生じさせ、副作用を生じさせる。
それらの方法および他の方法により認知が改善されるが(少なくとも一過性に)、それらにより疾患の進行は修正されず、疾患の原因が特定されることもない。例えば、アルツハイマー病は、典型的にはアミロイド前駆体タンパク質の蓄積を介した、プラーク(plaques)の形成に関連する。免疫学的な応答を惹起するための試行(アミロイドおよびプラーク形成に対する治療を介した)が、動物モデルで実施されたが、ヒトに首尾よく応用されてはいない。
さらにまた、コリンエステラーゼ阻害剤は、いくつかの症候を短時間改善し、これは中間から中等度(mid to moderate)の症状(symptoms)を有するアルツハイマー病患者の一部のみにおいて生じ、それゆえに全体の患者集団の小部分に対してのみ有用な治療である。さらに重大なことは、認知を改善することに対しての本試行は、疾患状態の治療に至らず、症状を単に寛解(ameliorative)させるだけである。現行の治療は、疾患の進行に影響しない。これらの治療には、アルツハイマー病患者の症状を治療するための「ワクチン」の使用も含まれ、これは(理論的に妥当であり、マウス試験では効果的であるが)ヒトにおいは重度な副作用の原因であることが示されている。
結果として、認知損傷(cognitive impairment)の(特にアルツハイマー病の)治療に対するコリン作用性経路の使用は、不十分(inadequate)であることが証明されている。
更に、認知改善(cognitive improvement)に対する現在の治療は、特定の神経変性疾患に限定されており、他の認知状態(cognitive conditions)の治療に効果的であるとは証明されていない。
アルツハイマー病は、脳における特定のニューロンのサブポピュレーションの広範な損失と関連し、最も普遍的な症状である記憶喪失(memory loss)を伴う(Katzman, R. (1986) New England Journal of Medicine 314:964)。アルツハイマー病は、神経病理学的な変化に関して良く特性が調べられている。しかしながら、異常性(abnormalities)が末梢組織において報告されており、これはアルツハイマー病が全身性の障害(最も顕著である中枢神経系の病状(pathology)を伴う)である可能性を支持している(Connolly, G., Fibroblast models of neurological disorders: fluorescence measurement studies, Review, TiPS Vol. 19, 171−77 (1998))。
アルツハイマー病の議論に関しては、遺伝的起源、染色体1、14、および21にリンクする(St. George−Hyslop, P. H., et al., Science 235: 885 (1987); Tanzi, Rudolph et al., The Gene Defects Responsible for Familial Alzheimer’s Disease, Review, Neurobiology of Disease 3, 159−168 (1996); Hardy, J., Molecular Genetics of Alzheimer’s disease, Acta Neurol Scand: Supplement 165: 13−17 (1996)を参照されたい)。
ニューロンの損失に至る細胞変化および疾患の根底にある病因学は調査中であるが、APP代謝の重要性に関しては確立されている。アルツハイマー病を有する患者の脳において、一貫してその存在が同定され、脳の生理学または病態生理学において作用する2つのタンパク質は、β−アミロイドおよびtauである。(Selkoe, D., Alzheimers Disease: Genes, Proteins, and Therapy, Physiological Reviews, Vol. 81, No.2, 2001を参照されたい)。β−アミロイドタンパク質代謝および異常なカルシウムホメオスタシスおよび/またはカルシウム活性化キナーゼにおける欠陥(defects)の考察(Etcheberrigaray et al., Calcium responses are altered in fibroblasts from Alzheimer’s patients and pre−symptomatic PSI carriers: a potential tool for early diagnosis, Alzheimer’s Reports, Vol. 3, Nos. 5 & 6, pp. 305−312 (2000); Webb et al., Protein kinase C isozymes: a review of their structure, regulation and role in regulating airways smooth muscle tone and mitogenesis, British Journal of Pharmacology, 130, pp 1433−52 (2000))。
正常な及び異常な記憶に関する更なる事項は、K+およびCa2+チャネルの双方が、記憶(memory)の保存(storage)および想起(recall)において鍵となる役割を担っていることが実証されていることである。
例えば、カリウムチャネルが記憶の保存の間に変化することが見出されている(Etcheberrigaray, R., et al. (1992) Proceeding of the National Academy of Science 89:7184; Sanchez−Andres, J. V. and Alkon, D. L. (1991) Journal of Neurobiology 65:796; Collin, C., et al. (1988) Biophysics Journal 55:955; Alkon, D. L., et al. (1985) Behavioral and Neural Biology 44:278; Alkon, D. L. (1984) Science 226:1037)。この観察は、アルツハイマー患者における記憶喪失の殆ど全ての一般的な症状と連関しており、このことにより、アルツハイマー病の病状に関連し得る部位としてカリウムチャネル機能および認知におけるPKC調節(PKC modulation)の効果の研究が導かれた。
PKCは、非受容体型セリン−スレオニンタンパク質キナーゼの最大の遺伝子ファミリーの1つとして同定された。Nishizukaおよび共同研究者による80年代初期のPKCの発見(Kikkawa et al., J. Biol. Chem., 257, 13341 (1982), )及びそのホルボールエステルに対する主要な受容体としての同定(Ashendel et al., Cancer Res., 43, 4333 (1983) )により、多数の生理的なシグナル伝達機構に本酵素がかかわっていることが理解されている。PKCに関する多大な興味は、カルシウムおよびジアシルグリセロール(およびそのホルボールエステル模倣体(mimetics))によって、インビトロで活性化されるそのユニークな能力に起因する。ジアシルグリセロールは、その形成が成長および分化因子の作用によるリン脂質ターンオーバーと連関(coupled)しているエフェクターである。
現在、PKC遺伝子ファミリーは11遺伝子からなり、これらは4つのサブグループに分けられる、即ち:1)古典的(classical)PKCα、β1、β2(β1およびβ2は同じ遺伝子の選択的スプライシングされた形態である)およびγ、2)新規(novel)PKCδ、ε、ηおよびθ、3)非定型(atypical)PKCζ、λ、ηおよびι並びに4)PKCμである。PKCμは、新規PKCアイソフォームと似ているが、推定上の膜貫通ドメインを有していることにより異なっている(Blohe et al., Cancer Metast. Rev., 13, 411 (1994); Ilug et al., Biochem J., 291,329 (1993); Kikkawa et al., Ann. Rev. Biochem. 58,31 (1989) により論評された)。α、β1、β2、およびγアイソフォームは、Ca2+、リン脂質、およびジアシルグリセロール−依存的であり、PKCの古典的アイソフォームを代表する。他のアイソフォームは、リン脂質およびジアシルグリセロールにより活性化されるが、Ca2+依存的ではない。全アイソフォームは、5つの可変性(V1−V5)領域を含む、またα、β、γアイソフォームは4つの(C1−C4)構造ドメインを含有しており、これらは高度に保存されている。
全アイソフォーム(PKCα、βおよびγ以外)はC2ドメインを欠いている。またλ、ηおよびアイソフォームも、ジアシルグリセロールが結合するC1における2つのシステインリッチジンクフィンガードメインの9(nine)を欠いている。またC1ドメインは偽基質配列を含み、該偽基質配列は全アイソフォーム間で高度に保存され、また該偽基質配列は基質結合サイトをブロッキングすることにより自己制御的な機能を提供して酵素の不活性のコンホメーションを形成する(House et al., Science, 238, 1726 (1987))。
これらの構造的な特徴が理由で、多様なPKCアイソフォームは、生理的な刺激に(Nishizuka, Cancer, 10, 1892 (1989))、同様に腫瘍性転化(neoplastic transformation)および分化に(Nishizuka, Cancer, 10, 1892 (1989))応答するシグナル伝達に、高度に特殊化した役割を有していると考えられる。既知のPKC調節因子の議論に関しては、PCT/US97/08141、米国特許第5,652,232;6,043,270;6,080,784;5,891,906;5,962,498;5,955,501;5,891,870および5,962,504号を参照されたい。
PKCがシグナル伝達に作用するという中心的役割の考察において、PKCがAPPプロセッシングの調節の興味深い標的であることが証明されている。PKCがAPPプロセッシングに作用することは確立されている。例えば、ホルボールエステルは、PKC活性化を介して分泌される非アミロイド形成性の可溶性APP(sAPP)の相対量を顕著に増加させることが示されている。しかしながら、ホルボールエステルによるPKCの活性化が、APP分子の直接のリン酸化を生じるようには思われない。作用の正確な部位とは無関係に、ホルボール誘導性のPKC活性化は、α−セクレターゼ、非アミロイド形成性の経路の増強または支援を生じる。従って、PKC活性化は、無害(non−deleterious)のsAPPの産生に影響する、および、更に有益なsAPPを産生する、および、同時にAβペプチドの相対量(relative amount)を減らす、ための魅力的なアプローチである。しかしながら、ホルボールエステルは、最終的な薬剤開発に向けた適切な化合物ではない、なぜならそれらは腫瘍促進活性(tumor promotion activity)を有しているからである(lbarreta, et al., Benzolactam (BL) enhances sAPP secretion in fibroblasts and in PC12 cells, NeuroReport, Vol. 10, No. 5&6, pp 1035−40 (1999))。
個々のPKCアイソザイムが、生物学的プロセスにおいて異なる(場合によっては逆の)作用を発揮するという証拠が増えており、このことは薬理学的な探索に2つの方向性を提起する。1つは、PKCの特異的な(好ましくは、アイソザイム特異的な)阻害剤の設計である。触媒ドメインがPKCのアイソタイプ特異性を主に決定するドメインではないとの事実から考えると、このアプローチは困難である。他のアプローチは、アイソザイム選択的で、制御部位特異的(regulatory site−directed)なPKC活性化因子を開発することである。これらにより、他のシグナル伝達経路の効果を、逆の生物学的効果で支配(override)する方法を提供し得る。或いは、急性活性化(acute activation)の後にPKCのダウンレギュレーションを誘導することにより、PKC活性化因子は長期の拮抗作用を生じ得る。現在、ブリオスタチン(Bryostatin)が、抗癌剤として臨床試験中である。ブリオスタチンが、PKCの制御ドメインに結合すること、また本酵素を活性化することが知られている。ブリオスタチンは、PKCのアイソザイム選択的活性化因子の例である。
化合物(ブリオスタチンに加えて)が、PKCを調節(modulate)することが発見されている(例えば、WO97/43268を参照されたい)。認知能力(cognitive ability)の特定の特性または一般的な認知(general cognition)の何れかを介して、全体の認知を改善する治療方法を開発する必要性がいまだ存在している。また、認知増強(cognitive enhancement)を改善する方法を開発する必要性がいまだ存在している(それが特定の疾患状態または認知障害(cognitive disorder)に関するかどうにかかわらず)。本発明の方法および組成物は、それらの必要性を充足(fulfill)し、アルツハイマー病および他の神経変性疾患(neurodegenerative diseases)のための臨床治療を多大に改善し、同様に改善された認知増強を提供する。また、前記の方法および組成物は、αセクレターゼの調節を介した、認知状態の治療および/または増強を提供する。
[発明の概要]
本発明は、認知能力の増強/改善に関連する容態の治療のための、化合物、組成物、および方法に関する。好適な態様において、更に本発明は、アミロイドプロセッシングに関連する容態(例えば、アルツハイマー病)の治療のための、化合物、組成物、および方法に関し、治療された被検者における改善された/増強された認知能力のために提供される。特に、本発明の化合物および組成物は、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラスのマクロサイクリックラクトンから選択される。
別の側面において、本発明は、マクロサイクリックラクトン化合物、組成物、およびα−セクレターゼ活性を調節する方法に関する。特にブリオスタチンおよびネリスタチンクラス化合物に関する、更にブリオスタチン−1に関する。
本発明の別の側面は、PKC活性化因子としての、ブリオスタチン(bryostatin)およびネリスタチン(neristatin)クラス化合物に関し、これらはアミロイドプロセッシングに関連する容態を変化させるためのものであり、α−セクレターゼを増強して可溶性α−アミロイド前駆体タンパク質(αAPP)を産生してβ−アミロイド凝集を阻止(prevent)し、認知能力を改善/増強するためのものである。そのような活性化は、例えば、アルツハイマー病の治療において実施し得る(特に、ブリオスタチン―1)。
別の側面において、本発明は、プラーク形成(例えば、アルツハイマー病と関連する)を治療するための方法、および被験者の認知状態を改善/増強するために、被験者にブリオスタチンまたはネリスタチンクラス化合物の効果的な量を投与することを含む方法に関する。より好適な態様において、前記化合物はブリオスタチン−1である。
本発明の別の側面は、プラーク形成を治療する及び認知能力を改善/増強するための組成物、即ち:(i)可溶性のβ−アミロイドを上昇させ、可溶性αAPPを産生し、β−アミロイド凝集を阻止するために効果的な量のマクロサイクリックラクトン;および(ii)薬学的に効果的な担体、を含む組成物に関する。好適な態様において、前記組成物は、アルツハイマー病に関連する認知能力を改善/増強するために使用される。前記マクロサイクリックラクトンは、好ましくはブリオスタチンまたはネリスタチンクラス化合物、特にブリオスタチン−1から選択される。
本発明の一態様において、PKCアイソザイムの活性化は、改善された認知能力を生じる。一態様において、前記改善された認知能力は記憶である。別の態様において、前記改善された認知能力は、学習である。別の態様において、前記改善された認知能力は、注意である。別の態様において、PKCのアイソザイムは、マクロサイクリックラクトン(即ち、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラス)により活性化される。特に、ブリオスタチン−1から18およびネリスタチンを使用して、PKCアイソザイムが活性化される。好適な態様において、ブリオスタチン−1が使用される。
別の側面において、本発明は、認知能力を改善するために効果的な量で投与される、PKCアイソザイム活性化因子の組成物を含む。好適な態様において、前記PKCアイソザイム活性化因子は、マクロサイクリックラクトン(即ち、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラス)から選択される。好適な態様において、投与されるPKCアイソザイム活性化因子の量は、sAPPの産生を増加するために効果的な量である。より好適な態様において、投与される組成物の量は、筋肉痛(myalgia)を生じさせない。
好適な態様において、前記PKCアイソザイムは、被検者において活性化され、この被検者は神経疾患、発作(strokes)、または低酸素症(hypoxia)を罹患している(suffering or have suffered)被検者である。
より好適な態様において、前記PKCアイソザイムは、アルツハイマー病の被検者またはモデルにおいて活性化される。
本発明の別の態様において、前記PKC活性化は、アミロイド前駆体タンパク質代謝の調節を生じる。更にPKC活性化による調節は、アルファ・セクレターゼ経路において増加を生じる。アルファ・セクレターゼ経路は、認知損傷に関連する非毒性(non−toxic)で非アミロイド形成性(non−amyloidogenic)の断片を生じる。結果的に被検者の認知状態が改善する。
本発明の別の態様において、前記PKC活性化は、アミロイド形成性の及び毒性の断片であるAbeta40およびAb42を減少させる。
本発明の別の態様は、PKCアイソエンザイムの活性化を介した、認知能力を改善する方法である。本発明の別の態様において、前記PKC活性化は、「正常(normal)」な被検者において生じる。本発明の別の態様において、PKC活性化は、認知能(cognitive faculties)を衰退させる、または認知を機能不全にする、疾患を罹患している被検者において生じる。好適な態様において、前記方法は、アルツハイマー病を治療するための方法である。
本発明の別の態様において、PKCの調節は、非腫瘍促進因子(non−tumor promoting agent)の使用を介したものであり、改善された認知能力を生じる。好適な態様において、前記PKC活性化因子は、ブリオスタチン−1からブリオスタチン−18およびネリスタチンから選択される。より好適な態様において、ブリオスタチン−1が使用される。
別の態様において、ブリオスタチン−1は、非ブリオスタチンクラス化合物と組み合わせて使用して、認知能力を改善し、副作用を減らす。
本発明の別の態様において、マクロサイクリックラクトン(即ち、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラス)を介したPKCの調節は、アルツハイマー病と関連した容態の検査のためにインビトロで使用される。インビトロ使用(in vitro use)は、例えば、線維芽細胞、血液細胞の検査、または細胞モデル(cellular models)におけるイオンチャネルコンダクタンスのモニタリング(monitoring)を含み得る。
本発明の好適な態様において、前記化合物および組成物は、経口のおよび/または注射可能な、形態で投与され、これには静脈内および脳室内(intraventricularly)への投与が含まれる。
以上のとおり、本発明は、障害された記憶(impaired memory)または学習障害(learning disorder)を治療する方法を提供し、該方法は対象者に本化合物の1つの治療的に効果的な量を投与することを含む。本化合物(present compounds)は、記憶欠陥(memory defects)または障害された学習(impaired learning)が発生する、臨床症状(clinical conditions)の治療上の処置において使用し得る。このようにして記憶および学習を改善し得る。被験者の容態をこのようにして改善し得る。
前記組成物および方法は、臨床症状および障害(それらでは中心的な特性又は関連する症状の何れかとして、障害された記憶または学習障害が発生している)の治療に有用性を有する。本化合物(present compounds)を治療に使用できる容態の例には、アルツハイマー病、多重梗塞性痴呆症(multi−infarct dementia)、およびパーキンソン病と関連(association)する又はしないアルツハイマー病のローリー体バリアント(Lewy−body variant);クロイツフェルトヤコブ病およびカルサコフ障害(Korsakow’s disorder)が含まれる。
前記組成物および方法を使用して、障害された記憶または学習を治療でき、それは年齢に関連したもの、電気痙攣療法(electro−convulsive therapy)の結果として発症したものである又はそれは脳損傷(例えば、発作(stroke)、麻酔事故(anesthetic accident)、頭部外傷(head trauma)、低血糖(hypoglycemia)、一酸化炭素中毒(carbon monoxide poisoning)、リチウム中毒(lithium intoxication)またはビタミン欠乏症(vitamin deficiency)により発生した脳損傷)の結果として発症したものである。
前記化合物は、非腫瘍促進性(non−tumor promoting)であること、また既に第二相臨床試験に入っていること、から付加的な利点(added advantage)を有している。
本発明は、認知を増強し、認知障害を阻止および/または治療するための薬学的組成物に関する。より具体的には、本発明は、認知を増強し、認知障害を阻止および/または治療するための活性成分として、マクロサイクリックラクトン(即ち、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラス)及びその誘導体(derivatives)を含む薬学的組成物に関する。
以上のとおり、認知を増強し、認知障害を阻止および/または治療するための薬学的組成物を提供することは、本発明の主要な課題である。前記薬学的組成物は、マクロサイクリックラクトン(特にブリオスタチンおよびネリスタチンクラス)、またはその薬学的に許容される塩もしくは誘導体、および薬学的に許容される担体(carrier)もしくは賦形剤(excipient)を含む。
本発明による薬学的組成物は、認知の増強、認知障害の予防(prophylaxis)および/または治療に有用であり、この認知障害には、本明細書中に記載された学習獲得(learning acquisition)、記憶連結(memory consolidation)、および想起(retrieval)が含まれるが、これらに限定されない。
本発明は、神経疾患(アルツハイマー病を含む)に関連するアミロイド症(amyloidosis)の治療のための方法であって、哺乳類細胞におけるタンパク質のリン酸化を調節する、又は、に影響(affects)する、少なくとも1つの薬剤の効果的な量を患者に投与することにより治療する方法に関する。
また、本発明は、アルツハイマー病を治療するための方法であって、マクロサイクリックラクトン(即ち、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラス)の効果的な量を患者に投与することを含む方法を提供する。
別の態様において、前記ブリオスタチンまたはネリスタチンクラス化合物は、被験者における腫瘍形成性の応答を阻止する又は減少させるために、ホルボールエステルと組み合わせて、上記方法において使用し得る。
[好適な態様の詳細な記載]
記憶喪失と障害された学習能力とは、臨床症状の範囲(a range of)の特性である。例えば、記憶喪失は、アルツハイマー病を含む、痴呆状態の最も一般的な症状である。また、記憶欠陥は、他の種類の痴呆、例えば、多重梗塞性痴呆症(MID)、脳血管性欠乏(cerebrovascular deficiency)により発生する老年痴呆(senile dementia)、およびパーキンソン病と関連する又はしないアルツハイマー病のローリー体バリアント(Lewy−body variant)、またはクロイツフェルトヤコブ病と共に発症する。記憶喪失は、脳損傷の患者に共通する特性である。脳損傷(Brain damage)は、例えば、古典的な発作(classical stroke)の後または麻酔事故、頭部外傷、低血糖、一酸化炭素中毒、リチウム中毒、ビタミン(B1、チアミンおよびB12)欠乏、もしくは過剰なアルコール使用もしくはカルサコフ障害の結果として発症し得る。更に、記憶障害(Memory impairment)は、年齢関連の;年齢の増加と共に減少するように思われる、例えば、名前、場所および単語などの情報を想起する能力であってもよい。一過性の記憶喪失は、電気痙攣療法(ECT)後の主要な抑鬱性の障害(depressive disorder)に罹患した患者においても発生し得る。アルツハイマー病は、老齢人口(ageing populations)における進行性の痴呆に関して、実際に最も重要な臨床上の本体(entity)であり、一方で低酸素症/発作は、神経学的な障害に関連しない顕著な記憶欠陥の原因である。
アルツハイマー病を有する個体は、進行性の記憶障害、言語および視空間能力(visuospatial skills)の損失並びに行動欠陥(behavior deficits)により特徴づけられる(McKhann et al., 1986, Neurology, 34:939−944)。アルツハイマー病を有する個体の認知損傷は、大脳皮質、海馬、前脳基底核(basal forebrain)、および他の脳領域に局在するニューロン細胞の変性の結果である。
剖検で採取されたアルツハイマー病の脳の組織学的分析は、変性しているニューロンの核周部(perikarya)およびアクソンにおける神経原線維タングル(NFT;neurofibrillary tangles)、細胞外の神経炎(老年性)プラーク、並びに罹患した脳領域の血管の内側および周囲のアミロイドプラーク、の存在を実証した。神経原線維タングルは、ラセン状様式(helical fashion)でペアを形成した線維(直径、約10nm)を含有している、異常なフィラメント状構造体であり、ペアのラセン状フィラメント(paired helical filaments)とも称される。神経炎プラーク(Neuritic plaques)は、変性している神経末端(軸索および樹状の双方)に局在し、アミロイドタンパク質線維のコア混合物(core compound)を含有する。要約すると、アルツハイマー病は、神経病理学的な特性(これには、主に細胞骨格タンパク質、並びに細胞外の実質性の(parenchymal)及び脳血管のアミロイドから構成される、細胞内の神経原線維タングルが含まれる)により特徴付けられる。更に現在、当該技術分野において、アルツハイマー患者、正常な老齢集団(normal aged people)、および他の神経変性疾患(例えば、パーキンソン、ハンチントン舞踏病、ウェルニッケ・コルサコフまたは統合失調症)の間を区別するための方法が存在し、例えば、米国特許第5,580,748号および米国特許第6,080582号に更に記載されている。
アルツハイマー病は、変化したタンパク質カタボリズム(protein catabolism)により特徴付けられる脳障害であり、典型的には早期の記憶喪失と共に発症する。ADの最も特徴的な臨床症状は、記憶喪失である。記憶喪失は、典型的には病気の進行の初期に生じ、主に最近の情報の学習に影響する。正常な連想記憶(associative memory)貯蔵に関連する及びAD患者の細胞において影響される又は非制御された(disregulated)、分子的および細胞的なプロセスは、ADを治療する又は緩和(alleviating)するための手段および/または記憶を改善させるための手段である。ADにおける記憶獲得(memory acquisition)および記憶喪失の間の集束(convergence)の中心的および部分的に重要な中心(locus)は、プロテインキナーゼCである。動物モデルにおける連想記憶に関する、いくつかの分子および分子的なイベントは、ADにおいて変更されているか又は欠陥のある(defective)ことが示されている。これらには、K+チャンネル、カルシウム制御、およびプロテインキナーゼC(PKC)が含まれる。また、PKCは、アミロイド前駆物質タンパク質(APP)(AD病態生理学において中心的な要素)のプロセッシングに関与する。変化したタンパク質リン酸化は、アルツハイマー病に認められる細胞内の神経原線維タングルの形成と結び付けられている。ADに認められるアミロイドプラークの主要なコンポーネントが由来する、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のカタボリズムにおけるタンパク質リン酸化の役割も調査されている。アルツハイマー病の病状の中心的な特性は、プラーク内でのアミロイドタンパク質の沈着である。
アミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセッシングは断片の産生を決定付ける、該断片は、後に凝集して、アルツハイマー病(AD)に特徴的な老年性またはADプラークとして知られる、アミロイド沈着を形成する。従って、APPプロセッシングは、ADにおける、早期の及び鍵となる病態生理学的なイベントである。
3つの代替的なAPPプロセッシング経路が同定されている。以前に命名された「正常」なプロセッシングは、APPをAβ配列内の残基Lys16(またはLys16およびLeu17の間;APP770命名法(nomenclature))で切断する酵素の関与を含み、非アミロイド形成性の断片:大きいN−末端の外部ドメイン(ectodomain)および小さい9kDaの膜結合断片を生じる。この酵素は、いまだ完全に同定されていない、α−セクレターゼとして知られている酵素である。2つの付加的なセクレターゼが、APPプロセッシングに関与する。1つの副経路(alternative pathway)では、Aβドメインの外側のAPPの切断(Met671およびAsp672の間(β−セクレターゼによる))およびエンドソーム―リソゾーム系が関与する。付加的な切断部位は、Aβ部分のカルボキシル末端に生じ、それは形質膜内でAβペプチドのアミノ酸39の後である。セクレターゼ(γ)作用は、細胞外のアミノ酸末端(全体のAβ配列を含有する)および〜6kDaの細胞と相互作用する断片(a cell−associated fragment)を産生する。従って、βおよびγセクレターゼによるプロセッシングは、潜在的なアミロイド形成性の断片を産生する(それらが完全なAβ配列を含有しているので)。いくつかの証拠は、全ての副経路が特定の系(given system)において発生すること及び可溶性のAβが「正常な産物」であろうことを示している。しかしながら、CSFおよびプラズマにおける循環型(circulating)Aβの量が、「スウェーデン(Swedish)」変異を保持している患者において上昇しているとの証拠も存在する。そのうえ、この変異またはAPP717変異を形質移入した培養細胞は、大量のAβを分泌する。最近、他のAPP変異並びにPS1およびPS2変異の保因者が、特定の形態、長い(42−43アミノ酸)Aβ、を多量に分泌することが示された。
従って、全ての副経路は正常に生じ得るが、アミロイド形成性のプロセッシングに有利なアンバランスが家族性の及びおそらく散発性の(sporadic)ADにおいて発生する。これらの増強されたアミロイド形成性の経路により、最終的にはAD患者の脳における原繊維(fibril)およびプラークの形成が生じる。従って、非アミロイド形成性の、α−セクレターゼ経路を支援する方向への干渉(intervention)は、APPプロセッシングのバランスを、おそらく非病原性のプロセス(このプロセスは、sAPPの相対量を潜在的に毒性のAβペプチドと比較して増加させる)の方向に効果的にシフトさせる。
PKCアイソザイムは、決定的(critical)、特異的、および律速(rate limiting)となる分子標的(この分子標的を介して、生化学的な、生物物理学的な、および行動的な(behavioral)有効性のユニークな関連性を実証できる)を提供し、そして被検者に適用されて認知能力が改善される。
本発明者は、プロテインキナーゼ(PKC)の活性化因子としてのブリオスタチンを研究してきた。PKCにおける変化(Alterations)、同様にカルシウム制御およびカリウム(K+)チャネルにおける変化は、アルツハイマー病(AD)患者の線維芽細胞における変化に含まれる。PKC活性化は、正常なK+チャンネル機能を回復させることが示され、これはTEA誘導による[Ca2+]上昇によって測定された。更にパッチクランプデータは、113pS K+チャンネル活性の回復(restoration)におけるPKC活性化因子の効果を裏付けている(substantiates)。従って、K+チャンネルのPKC活性化因子に基づく回復は、AD病態生理学の研究に対する1つのアプローチとして完成され、AD薬物療法学(therapeutics)に関する有用なモデルを提供する。(その全体が本明細書中に援用される、係属中の出願09/652,656を参照されたい。)
アルツハイマー病(AD)患者からの末梢組織および動物ニューロン細胞の使用により、AD脳における対応するプロセスを反映している多くの細胞/分子の変化の識別が可能となり、その結果として多くの病態生理学的な関連性を識別することが可能となった(Baker et al., 1988; Scott, 1993; Huang, 1994; Scheuner et al., 1996; Etcheberrigaray & Alkon, 1997; Gasparini et al., 1997)。
カリウムチャネル機能の変化が、AD患者から採取された線維芽細胞(Etcheberrigaray et al., 1993)および血液細胞(Bondy et al., 1996)において同定されている。更に、AD病態生理学における主たる因子であると広く受け入れられた、β−アミロイド(Gandy & Greengard, 1994; Selkoe, 1994; Yankner, 1996)は、コントロール線維芽細胞においてAD類似のK+チャネル変化を誘導する能力を有していたことが示された(Etcheberrigaray et al., 1994)。K+チャンネルにおけるβ−アミロイドの類似する又は対応する(comparable)効果が、実験動物のニューロンに関して報告されている(Good et al., 1996; also for a review see Fraser et al., 1997)。AD脳におけるアパミン(apamin)感受性K+チャンネルの海馬での変化の早期の観察(アパミン結合により測定された)により、K+チャンネルがADにおいて病態生理学的に関連性を有するとの示唆を更に支持するデータが提供された(Ikeda et al., 1991)。
さらにまた、プロテインキナーゼC(PKC)は、AD患者の末梢および脳の組織において並行的な変化を提示させる。この酵素のレベル(The levels)および/または活性が、AD患者の脳および線維芽細胞に導入された(Cole et al., 1988; Van Huynh et al., 1989; Govoni et al., 1993; Wang et al., 1994)。免疫ブロット分析を用いた研究により、多様なPKCアイソザイムのうち、主にαアイソフォームが線維芽細胞中で有意に減少していたこと(Govoni et al., 1996)、一方でαおよびβアイソフォームの双方がAD患者の脳で減少していること(Shimohama et al., 1993; Masliah et al., 1990)が明らかにされた。これらの脳のPKC変化は、疾病プロセスにおける初期のイベントであろう(Masliah et al., 1991)。PKC活性化が、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の非アミロイド形成性のプロセッシングを支援(favor)するように思われる(Buxbaum et al., 1990; Gillespie et al., 1992; Selkoe, 1994; Gandy & Greengard, 1994; Bergamashi et al., 1995; Desdouits et al., 1996; Efhimiopoulus et al., 1996)ことも興味深い。従って、PKCおよびK+チャンネルの変化の双方がADにおいて共存し、ADにおける末梢および脳での発現を伴う。
PKCおよびK+チャンネルの変化の間のリンク(link)が調査された。なぜならPKCがイオンチャネル(K+チャンネルを含む)を制御することが知られており、欠陥のある(defective)PKCが欠陥のあるK+チャンネルを生じるからである。これは、APPの調節に関してのみならず、PKCおよびK+チャンネルが記憶の確立(establishment)および想起に作用するという役割に関しても重要である。(例えば、Alkon et al., 1988; Covarrubias et al. , 1994; Hu et al., 1996を参照されたい) AD線維芽細胞を使用してK+チャンネルおよびPKC欠陥の双方を実証している(Etcheberrigaray et al., 1993; Govoni et al., 1993, 1996)。研究は次のことも示している、PKC活性化因子で処理された、既知の機能障害性の(dysfunctional)K+チャンネルを有する線維芽細胞が、TEAで誘導されたカルシウム上昇の存在/非存在(absence)によりモニターされたチャンネル活性を回復する。更に、テトラエチルアンモニウムクロライド(TEA;tetraethylammonium chloride)誘導性の[Ca2+]上昇に基づくアッセイを使用して、機能的な113pS K+チャンネル(TEA遮断に感受性)が示されている(Etcheberrigaray et al., 1993, 1994; Hirashima et al., 1996)。コントロール個体の線維芽細胞において観察された、TEA誘導性[Ca2+]上昇およびK+チャンネル活性は、AD患者の線維芽細胞において実質的に欠除している(Etcheberrigaray et al., 1993; Hirashima et al., 1996)。PKC活性化因子の使用がAD線維芽細胞株のTEAチャレンジに対する応答性を回復できることを、これらの研究は実証している。更に、これらの研究の免疫ブロットの証拠は、この回復がαアイソフォームの優先的な関与と関連することを実証している。
また、本発明者は、プロテインキナーゼCの活性化が、アルツハイマー病(AD)アミロイド前駆体タンパク質(APP)のα−セクレターゼ・プロセッシングを支援し、非アミロイド形成性の可溶性APP(sAPP)の産生を生じることをも観察した。結果的に、アミロイド形成性のA1−40およびA1−42(3)の相対的な分泌が減少する。これは特に重要である、なぜならAPPおよびプレセニリンAD変異体を発現している線維芽細胞および他の細胞は、増加した量の全体Aβを分泌する、および/または、A1−42(3)/A1−40比の増加を生じるからである。興味深いことに、PKC欠陥は、AD脳(αおよびβアイソフォーム)において及びAD患者の線維芽細胞(α−アイソフォーム)において発見されている。
いくつかの研究は、α、βおよびγアイソフォームに対して改善された選択性を有する、他のPKC活性化因子(即ち、ベンゾラクタム(benzolactam))が、sAPP分泌を基礎レベルを超えて増強することを示している。また、ベンゾラクタム処理したAD細胞におけるsAPP分泌は、10μM BL処理後のsAPP分泌の顕著な増加のみを示した、コントロールのベンゾラクタム処理した線維芽細胞と比較して若干高かった。スタウロスポリン(PKC阻害剤)がコントロールおよびAD線維芽細胞の双方におけるベンゾラクタムの効果を排除(eliminated)し、一方で関連化合物(related compounds)がPC12細胞に〜3倍のsAPP分泌を生じさせることが更に報告された。本発明者は、非アミロイド形成性のAPPプロセッシングを支援するPKC活性化因子としてのブリオスタチンの使用は、特に治療的な価値を有することを見出した、なぜならブリオスタチンは非腫瘍促進性であり、またステージIIの臨床試験に既に入っているからである。
記憶は、情報処理に関する脳構造における、継続的な(lasting)シナプスの修飾の結果生じると考えられる。シナプスは、最終的な標的における決定的な部位であると考えられ、それを介して記憶関連イベントがそれらの機能的な発現を実現する(前記イベントが、変化した遺伝子発現およびタンパク質翻訳、変化したキナーゼ活性、または修飾されたシグナル伝達カスケードに関与しているかどうかにかかわらず)。少数のタンパク質が連想記憶(associative memory)に関与していると指摘されており、これにはCa2+/カルモジュリンIIキナーゼ、プロテインキナーゼC、カレクシチン(calexcitin)、22−kDaの学習に関連するCa2+結合タンパク質、およびII型リアノジンレセプターが含まれる。マクロサイクリックラクトンの投与を介したPKCの調節は、シナプス修飾に作用する機構を提供する。
記憶および学習機能障害の領域は、記憶および学習過程の異なる特性を実証することが可能な動物モデルにおいて豊富(rich)である。(例えば、Hollister, L.E., 1990, Pharmacopsychiat., 23, (SUPPL 11) 33−36を参照されたい)。記憶喪失および障害された学習に関して利用可能な動物モデルでは、別々のイベントを記憶する動物の能力の測定を実施する。これらの試験には、モーリス水迷路(Morris Water Maze)および受動的回避手順(passive avoidance procedure)が含まれる。モーリス水迷路において、動物は4つのクワドラント(quadrants)に分けられたタンク中で泳がされ、その中で1つのみが水面下に安全な足場(safety platform)を有している。その足場が除去され、その動物は、正しいクアドラント(間違ったクアドラントと比べて)を如何に長く探索するかに関して試験される。受動的回避手順において、動物は、区別される(distinctive)環境(穏やかな電撃が与えられ、次の機会にはそれが回避される)を記憶する。受動的回避手順のバリアントは、暗い閉鎖された環境に対する(明るい解放された環境に比べ)、げっ歯類の嗜好性を利用するものである。更なる考察は、文献(Crawley, J.N., 1981, Pharmacol. Biochem. Behav., 15,695−699 ; Costall, B. et al, 1987, Neuropharmacol., 26,195−200 ; Costall, B. et al, 1989, Pharmacol. Biochem. Behav., 32, 777−785 ; Barnes, J.M. et al, 1989, Br. J.Pharmacol., 98 (suppl) 693P; Barnes, J.M. et al, 1990, Pharmacol. Biochem. Behav., 35, 955−962.)中に記載されている。
「正常(normal)」の用語により、減退した(diminished)又は別の障害された(impaired)認知機能(cognitive function)を、伴うと診断されていないか或いは現在提示していない個体を含むことが意味される。異なる認知能力(different cognitive abilities)は、当該技術分野において樹立されている既知の手段により試験及び評価でき、これらには基礎の運動空間的な(motor−spatial)能力から複雑な記憶想起試験が含まれるが、これらに限定されない。非霊長類の認知能力に関して使用される試験の非限定的な例には、モーリス水迷路、放射状迷路(Radial Maze)、T迷路(T Maze)、眼瞬き条件づけ(Eye Blink Conditioning)、遅延再生(Delayed Recall)、および手掛かり想起(Cued Recall)が含まれ、一方で霊長類被験者の試験には眼瞬き(Eye Blink)、遅延再生、手掛かり想起、顔認識(Face Recognition)、ミニメンタル(Minimental)、およびADAS−Cogが含まれ得る。これらの試験の多くは、ADを罹患した患者に関する精神的な状態評価に一般的に使用される。同様に、類似の目的のための動物モデルに関する評価は、文献に記載されている。
特に重要なものは、PKCを刺激するマクロサイクリックラクトン(即ち、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラス)である。ブリオスタチンクラス化合物のうち、ブリオスタチン−1は、PKCを活性化することが示されており、また腫瘍促進活性がないことが証明されている。ブリオスタチン−1(PKC活性化因子として)は特に有用であり、その理由はブリオスタチン−1の用量反応曲線が二相性(biphasic)だからである。更に、ブリオスタチン−1は、PKCアイソザイム(PKCα、PKCδ、およびPKCεを含む)において異なる制御を示す。ブリオスタチン−1は、動物およびヒトにおける毒性および安全性試験が実施され、抗癌剤として活発に調査されている。試験にブリオスタチン−1を使用することにより、ヒトにおける主な副作用が筋肉痛(myalgia)であることが決定され、最大用量は40mg/m2に制限された。本発明は、0.1nMの濃度のブリオスタチン−1を利用して、sAPP分泌の劇的な増加を生じさせた。ブリオスタチン−1は、ビヒクル単独と、また別のPKC活性化因子であるベンゾラクタム(BL)(10,000倍高い濃度で使用された)と比較された。また、ブリオスタチンの0.01nMでの使用は、sAPP分泌の増加になおも効果的であることが証明された。(図1(a)を参照されたい)。活性化の測定が、30minで最大となり、次に部分的に減退し、6時間まで基礎のトランスロケーションレベルよりも高いまま維持されることを、PKCトランスロケーションは示している(図1(b)、2、8、および9を参照されたい)。PKC阻害薬スタウロスポリンの使用は、sAPP分泌におけるブリオスタチンの効果を完全に阻止する。更に、PKC活性化が、sAPP分泌におけるブリオスタチンの効果を仲介することを、データは実証している。(図1および2を参照されたい)
マクロサイクリックラクトン、および特にブリオスタチン−1は、米国特許第4,560,774号に記載されている。マクロサイクリックラクトン及びその誘導体は、当該技術分野における他の文献(例えば、米国特許第6,187,568号、米国特許第6,043,270号、米国特許第5,393,897号、米国特許第5,072,004号、米国特許第5,196,447号、米国特許第4,833,257号、および米国特許第4,611,066号)に記載されている。上記特許は、マクロサイクリックラクトンに関する多様な化合物および多様な使用を記載しており、それには抗炎症性の又は抗腫瘍性の薬剤としてのそれらの使用が含まれる。ブリオスタチンクラス化合物に関する他の議論は、以下の文献中に見つけることができる、即ち:Differential Regulation of Protein Kinase C Isozymes by Bryostatin 1 and Phorbol 12−Myristate 13−Acetate in NIH 3T3 Fibroblasts, Szallasi et al., Journal of Biological Chemistry, Vol. 269, No.3, pp.2118−24 (1994); Preclinical Pharmacology of the Natural Product Anticancer Agent Bryostatin 1, an Activator of Protein Kinase C, Zhang et al., Caner Research 56, 802−808 (1996); Bryostatin 1, an activator of protein kinase C, inhibits tumor promotion by phorbol esters in SENCAR mouse skin, Hennings et al., Carcinogenesis vol. 8, no. 9, pp 1343−46 (1987); Phase II Trial of Bryostatin 1 in Patients with Relapse Low−Grade Non−Hodgkin’s Lymphoma and Chronic Lymphocytic Leukemia, Varterasian et al., Clinical Cancer Research, Vol. 6, pp. 825−28 (2000);および総説:Chemistry and Clinical Biology of the Bryostatins, Mutter et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry 8, pp. 1841−1860 (2000)である。
マクロサイクリックラクトン(ブリオスタチンクラスを含む)は、もとはBugula neritina Lに由来する既知の化合物を示す。マクロサイクリックラクトン、特にブリオスタチンクラスに関して複数の用途(multiple use)は既知であるが、マクロサイクリックラクトンと認知増強との間の関連性は以前は未知であった。
本発明に使用し得る化合物の例は、マクロサイクリックラクトン(即ち、ブリオスタチンクラスおよびネリスタチンクラス化合物)を含む。
これらの化合物の特定の態様が、例および詳細な記載に記載されるが、参照文献中に開示される化合物およびその誘導体が、本発明の組成物および方法にも使用できるだろうことを理解すべきである。
当該技術における通常の知識を有する当業者により認識されるとおり、マクロサイクリックラクトン化合物およびその誘導体、特にブリオスタチンクラスをコンビナトリアル合成技術(combinatorial synthetic techniques)に適用し、次に前記化合物のライブラリーを作製して、薬理学的パラメーター(前記化合物の有効性および安全性を含むが、これらに限定されない)を至適化できる。更に、それらのライブラリーをアッセイして、好ましくはα−セクレターゼおよび/またはPKCを調節するメンバーを決定できる。
コンビナトリアルライブラリー、天然産物の高スロープットスクリーニングおよび発酵ブロス(fermentation broths)により、新しい薬物が発見されている。現在、化学的な多様性を作り出し、そしてスクリーニングすることは、リード化合物を発見するための主な技術として広範に利用されており、これは確実に創薬(drug discovery)の領域における主な重要な進歩である。更に、「リード(lead)」化合物が同定された後でさえも、コンビナトリアル技術は所望の生物活性の至適化のための価値ある道具を提供する。理解されるであろうとおり、対象反応(subject reactions)は、容易に薬学的または他の生物学的または医学的に関連した活性の又は材料に関連する品質の、スクリーニングのための化合物のコンビナトリアルライブラリーの作製に適用される。本発明の課題に関するコンビナトリアルライブラリーは、化学的な関連化合物の混合物であり、これらは共に所望の性質に関してスクリーニングされてもよく;前記ライブラリーは溶液中に存在していてもよく又は固体の支持体に共有結合で連結されてもよい。多くの関連化合物を一反応で調製することにより、実施すべきスクリーニングプロセスの数が大きく減らされ、単純化される。適切な生物学的性質に対するスクリーニングは、従来の方法により実施し得る。従って、本発明は、1以上の(one or more)発明化合物(inventive compounds)のα−セクレターゼおよび/またはPKCに結合して効果的に調節する能力を決定するための方法をも提供する。
種々の技術が、以下に記載されるコンビナトリアルライブラリーを作製するための技術に利用可能であるが、本発明は上述(foregoing)の例および記載により限定されない。例えば、以下の文献、即ち、Blondelle et al. (1995) Trends Anal. Chem. 14: 83;Affymax 米国特許第5,359,115号および5,362,899号:Ellman 米国特許第5,288,514号:Still et al. PCT公開番号WO94/08051;Chen et al.(1994) JACSl 1 6: 266 1 : Kerr et al. (1993) JACSl 1 5: 252::PCT公開番号W092/10092、W093/09668およびW091/07087;およびLemer et al. PCT公開番号W093/20242)を参照されたい。結果的に、約16から1,000,000以上のディバーソマー(diversomers)のオーダーの様々なライブラリーを、特定の活性または特性に関して合成し、スクリーニングできる。
本化合物を、種々の経路、種々の剤形(dosage forms)で投与でき、これらには口内、直腸内、非経口的(例えば、皮下、筋肉内および静脈内)、硬膜外(epidural)、くも膜下腔内(intrathecal)、関節内(intra−articular)、局所的(topical)および頬内(buccal)投与に関するものが含まれる。ヒト成体に対する用量範囲は、年齢、重量および患者の容態および投与経路を含む多くの因子に依存する。
経口投与に関して、希釈、分散および/または界面活性剤(surface−active agents)を含んでいる微粉(fine powders)または顆粒(granules)を、ドラフト(draught)に、水またはシロップに、乾燥状態でカプセルまたはサチェット(sachets)に、非水性懸濁液(懸濁剤を含めてもよい)に、或いは水またはシロップ中で懸濁状態に、存在させてもよい。望ましいか又は必要な場合には、香味剤(flavouring)、保存剤(preserving)、懸濁剤、濃化剤(thickening)または乳化剤(emulsifying)を含めてもよい。
混合物(admixture)に含めてもよい他の化合物は、例えば、医学的に不活性な成分、例えば、固形および液体の希釈剤、ラクトース、デキストロース、ショ糖、セルロース、澱粉またはリン酸カルシウムなどを錠剤またはカプセルに対して、オリーブ油またはエチルオレアート(ethyl oleate)を軟カプセルに対して、および水または野菜油を懸濁剤またはエマルジョン剤に対して;潤滑剤(lubricating agents)、例えば、シリカ、滑石(talc)、ステアリン酸、マグネシウムまたはカルシウム ステアレート(stearate)および/またはポリエチレングリコール;ゲル化剤、例えば、コロイド粘土(colloidal clays);濃縮剤(thickening agents)、例えば、トラガカントゴムまたはアルギン酸ナトリウム、結合剤、例えば、澱粉、アラビアガム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルピロリドン;崩壊剤(disintegrating agents)、例えば、澱粉、アルギン酸、アルギナートまたはソジュウム・スターチ・グリコレート(sodium starch glycolate);沸騰剤(effervescing mixtures);染料(dyestuff);甘味剤(sweeteners);湿潤剤(wetting agents)、例えば、レシチン、ポリソルベートまたはラウリルサルフェート(laurylsulphates);並びに他の治療上許容される副成分、例えば、保湿剤(humectants)、保存剤、緩衝剤および抗酸化剤であって、これらは係る処方(formulations)に関して既知の添加物である。
経口投与に対する液体分散剤(Liquid dispersions)は、シロップ、エマルジョンまたは懸濁剤であってもよい。前記シロップは、担体として、例えば、ショ糖またはショ糖(グリセリンを添加)および/またはマンニトールおよび/またはソルビトールを含んでいてもよい。特に糖尿病患者のためのシロップは、担体として、例えば、ソルビトール(グルコースに代謝されないか又は極少量がグルコースに代謝される)を含有できる。前記懸濁剤およびエマルジョン剤は、担体、例えば、天然ガム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを含み得る。
筋肉内注射に関する懸濁剤または溶剤は、活性化合物と共に、薬学的に許容される担体、例えば、滅菌水、オリーブ油、エチルオレアート、グリコール、例えば、プロピレングリコールおよび、必要に応じて適切な量のリドカインハイドロクロライドを含んでもよい。静脈内注射または点滴のための溶剤は、担体、例えば、滅菌水(一般に注射のための水)を含み得る。好ましくは、それらは無菌の、水性の、等張性の塩類溶液の形態であってもよい。或いは、本化合物は、リポソーム内に被包されてもよい。また、本化合物は、他の既知の活性薬剤デリバリーシステム(active agent delivery systems)を利用し得る。
また、本化合物は、他の添加物と非関連(unassociated)の純粋な形態で投与されてもよく、この場合はカプセル剤、サチェットまたは錠剤が好適な剤形である。
別々のユニットで提示される、錠剤および他の形態は、本化合物の1つの、一日量(daily dose)、または適切なその分画(fraction)を適切に含有する。例えば、ユニット(units)は、本化合物の1つを5mgから500mg含有し得るが、より一般的には10mgから250mg含有し得る。
本発明の化合物の薬理学的な活性は、当該技術において既知の標準的な薬理学的モデルを用いて実証できる。さらにまた、発明組成物(inventive compositions)を、部位特異的なデリバリーのために、適切なポリマーのマトリックスまたは膜に導入または被包できる、或いは、該組成物を、部位特異的なデリバリーに作用する能力を有する特異的なターゲティング因子と共に機能的にする(functionalized)ことができる。これらの技術、同様に他の薬物デリバリー技術は、当該技術において周知である。
要約すると、PKCの活性化は、記憶獲得に影響し、同様に非アミロイド形成的、α−セクレターゼ、APPのプロセッシングを促進する。非腫瘍プロモーターPKC活性化物質(ブリオスタチン1)は、AD患者の線維芽細胞において、α―セクレターゼ産物(sAPPα)の分泌を劇的に増強させる。その効果は、ブリオスタチンのサブナノモーラー(sub−nanomolar)濃度で著明であった。また、ブリオスタチン(脳室内に注射された)は、モーリス水迷路パラダイム(Morris Water Maze paradigm)に供試されたラットの能力(performance)を増強した。最近のインビボ研究により次のことが示された、即ち、ベンゾラクタム(PKC活性化物質であって、K+チャンネル欠陥(K+ channels defects)を逆転させること及びAD細胞におけるsAPPαを増強することが以前に示された)は、sAPPαの量を有意に増加させ、London V717I APP突然変異を保持しているトランスジェニックマウスの脳におけるAβ40を減少させる。これらの結果は、PKC(及びその活性化)がADおよび記憶喪失に関連する症状の治療する又は緩和させるための道具になり得ることを実証した。ブリオスタチン1は特に重要である;というのもより強力(potent)であるのみならず、腫瘍促進活性を欠いており、ヒトにおいて癌治療に関する臨床試験をもう経験しているからである。以下の例は次の証拠を提供する、それはブリオスタチン1が劇的に且つ強力にAPPのα−プロセッシング(sAPPα量の増加を発生させる)を増強し、モーリスの水迷路課題においてラットの能力を有意に改善させるということである。また、前記例は次の証拠を提供する、それは別のPKC活性化物質(ベンゾラクタム)が、有意なsAPPαの増加およびAβ40の減少(インビボ)を生ずるということである。
本明細書中の全ての書籍、論文(article)、または特許は、本願の開示と矛盾しない範囲内で、参照によって援用される。以下、本発明を例により記載するが、これは例示を目的とするものであり、発明の範囲を限定するものではない。
図1(a)は、ブリオスタチン−1でのsAPPα分泌における、異なるPKC阻害剤および濃度の効果を示す(大きな有効性が、コントロールおよびベンゾラクタムよりも低濃度で示されている)。また、ブリオスタチン(0.1nM、ソリッドバー)は、培地中のsAPP−αの量を3hインキュベーション後に、特性がよく調査され、剖検により確認されたAD株化細胞において、劇的に増加させた(p<0.0001、ANOVA)。グラフ・ユニットは、ビヒクル(DMSO)単独と比例される。ブリオスタチンは、別のPKC活性化物質(BL)の同じ(0.1nM)濃度よりも有意(p<0.01、ターキーのポスト検定)により強力であった。スタウロスポリン(100nM)での前処理(一番右のバー)により、ブリオスタチン(0.1nM)の効果が完全に無効となった。また、ブリオスタチンは、2つのコントロール細胞株における分泌の増強に効果的であったが、より低い程度(前記AD株化細胞におけるよりも)であった(ハッチバー(hatched bar))。
図1(b)は、sAPPα分泌におけるブリオスタチン−1の異なる濃度の効果を時間経過に対し示す;分泌は、明白に15minインキュベーション(ブリオスタチン 0.1nM)でほぼ増強され(near enhanced)、160 インキュベーションでほぼ最大となり、3hまで上昇している。より低い濃度(0.01nM)でのブリオスタチンは、非常に緩徐であったが、分泌においては、ほぼ同じ効果を有していた(120minインキュベーション後)。
図1(c)は、sAPPαの分泌を、多様な実験条件および細胞株を用いて、ヒト繊維芽細胞におけるsAPP−αのウエスタンブロット呈示により示している;
図2は、異なる濃度のブリオスタチン−1のPKCαアイソザイムにおける効果を示す。
図3は、治療したラット 対 コントロールの水迷路を学習するために必要な時間の量を示す。モーリス水迷路の学習曲線は、ブリオスタチン(i.v.c.)が前記動物の能力を改善することを示しており、このことは早期の試行からの避難潜伏期の減少により証明される。
図4(a)は、コントロールラットが異なるクアドラントにおいて遊泳に費やした時間の量を示す。双方(コントロールおよび治療動物)は、標的クアドラント(target quadrant)に対する優先度の保持を示した(図4(b)も参照されたい)。図4(b)は、治療ラットが異なるクアドラントにおいて遊泳に費やした時間の量を示す。図4(c)は、治療されたラットが標的クアドラントにおいて費やした時間量の間の差異を、コントロールラットと比較して示す。治療された動物は、改善された保持を示した(コントロールと比較して);
図5(a)は、ヒト繊維芽細胞におけるPKCトランスロケーションを棒グラフで示す。このグラフは、膜結合PKC(P=粒子性)の免疫反応性(総タンパク質量内容でノーマライズした)およびサイトゾルの分画(S=可溶性)において検出された免疫反応性の間の比率を示す。PKC−αトランスロケーションは、0.1nMブリオスタチン(ソリッドバー)で30minインキュベーション後に著しかった。トランスロケーションは、180minインキュベーション(一番右のバー)で、なおも存在していた(P>S)。図5(b)は、他のPKCアイソエンザイムが検出され、それらのトランスロケーションレベルがPKC−αに対して観察されたレベルに匹敵していたことを示す。
図6(a)は、トランスジェニックマウス(若い動物)を用いたインビボ試験を示す。該トランスジェニックマウスは、離乳直後(3週)から開始された、BL 1mg/kg(i.p.、毎日)での17週間の治療を施された。治療群の脳のsAPP−αにおいて有意な増加が認められた(ビヒクル単独と比較して)。図6(b)は、同じ動物がAβ40の比例減力(a proportional reduction)を有していたことを示す。
図7(a)は、約6月齢のトランスジェニックマウス(成体動物)を用いたインビボ試験を示す。該トランスジェニックマウスは、BLおよびLQ12治療を棒グラフに示される用量とスケジュールとで7週間実施された。治療でsAPP−αの少量の増加が認められた(ソリッドバーにより示される)。図(7b)は、小さいAβ40減少(有意差なし)を示す、これはBLおよびLQ12(双方は10mg/kg 毎週)で治療された動物において観察された(ソリッドバー)。Aβ40における予想外の(ハッチバー)の増加が、BL 10mg/kg(毎日)で治療された動物において観察された。
図8は、コントロールおよびAD細胞の双方に対するブリオスタチン 0.1nMの投与後のヒト線維芽細胞におけるsAPPα分泌を示す。
図9は、AD細胞にブリオスタチン投与した後のsAPPの免疫ブロットを示す。
図10は、治療したマウスにおけるブリオスタチンのポジティブ効果および寿命(life span)の増加(コントロールと比較した)を示す。
図11は、治療した動物 対 無治療の動物に関する、水の試験における時間経過の期間(duration)を示す。
図12は、治療した動物 対 コントロールにおける、可溶性Aβ−40の濃度の減少を示す。
図13は、治療した動物 対 コントロールにおける、可溶性Aβ−42の濃度の減少を示す。
図14は、チオフラビンS染色後に、治療した動物において認められたプラークのパーセントの減少(コントロールと比較した)を示す。
[例]
例I
細胞培養
培養した皮膚線維芽細胞を、コリエル・セル・レポジトリー(Coriell Cell Repositories)から入手し、それらの培養に関して樹立された一般的なガイドラインに若干の修正を加えたものにしたがって成長させた(Cristofalo & Carptentier, 1988; Hirashima et al., 1996)。細胞を成長させる培養液は、ダルベッコ修正イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium;ギブコ社)に10%ウシ胎児血清(Biofluids, Inc.)を添加したものを使用した。コントロール細胞株(AC) ケース(cases) AG07141およびAG06241、並びに家族性AD(FAD) ケース (AG06848)からの線維芽細胞を利用した。
PKC活性化因子(Activators)
異なる組織分布、異なるアイソザイムの明らかに区別される役割、および病状における差別的な関与という事項は、特異的なアイソザイムを優先的にターゲティングする能力を有する、薬理学的な道具の使用が重要であることを意味している(Kozikowski et al., 1997; Hofmann, 1997)。医薬品化学分野における最近の研究により、いくつかのPKC活性化因子、例えば異なるベンゾラクタムおよびピロリジノン(pyrollidinones)が開発された。しかしながら、現在研究されたブリオスタチン PKC活性化因子は、アイソスペシフィック(isospecific)な活性を提供するとの利点を有するだけでなく、以前に使用されたPKC活性化因子(例えば、腫瘍促進性の)の問題(set back)にも影響されない。ブリオスタチンは、PKCの制御ドメイン(regulatory domain)と競合し、この部位内で非常に特異的な水素結合による相互作用に関与(engage)する。
この化合物の有機化学および分子モデリングに関する付加的な情報は、前記文献中に記載されている。
治療
細胞をコンフルエンス(confluence)まで、6cmペトリ皿中で5〜7日間成長させた。実験日に培地をDMEM(血清なし)で置換し、2h静置した。2時間の血清欠乏を達成させ、治療を、前記培地にBryo、BLおよびDMSOを適切な濃度で直接適用することにより達成した。(ブリオスタチンに関して、0.1および0.01nM;0.1nM、0.1μM、および1μM BL)。DMSOは全てのケースで1%未満であった。大抵の場合、sAPP分泌のための処理の3時間後に、培地を収集して処理した。また、他の時間ポイント(time points)を使用して、分泌の時間経過(time course)を調査した。
PKCトランスロケーションに関する免疫ブロットアッセイ
免疫ブロット実験を、樹立された手順を用いて実施した(Dunbar, 1994)。細胞をコンフルエント(〜90%)まで、6cmペトリ皿中で成長させた。
0.1nM ブリオスタチン−1(5、30、60、および120分)での処理に応答したアイソザイムのレベルを、Racchi等(1994)により樹立された方法を若干修正した手順を用いて定量した。線維芽細胞を、氷冷PBSで2回洗浄し、PBS中に剥離し、そして低速度の遠心分離で収集した。ペレットを以下の均質化緩衝剤(homogenization buffer)、即ち:20mM Tris−HC1、pH7.5、2mM EDTA、2mM EGTA、5mM DTT、0.32Mスクロース、およびプロテアーゼ阻害薬カクテル(シグマ)中に再懸濁した。ホモジネートを、超音波処理で採取し、そして〜12,000gで20分間 遠心分離し、そして上清をサイトゾル分画として使用した。
ペレットを同じ緩衝剤(1.0%トリトンX−100を含有している)中で均質化し、氷中で45分間インキュベーションし、そして〜12,000gで20分間 遠心分離した。このバッチの上清を、膜分画(membranous fraction)として使用した。タンパク量決定(protein determination)の後、20μgのタンパク質を2X電気泳動法サンプル緩衝剤(Novex)中に希釈し、5分間煮沸し、10%アクリルアミドゲルで泳動し、そして電気泳動的にPVDF膜へと転写した。前記膜を、5%ミルク・ブロッキング剤(milk blocker)で、室温で1時間インキュベーションすることにより飽和させた。PKCアイソフォームに対する一次抗体(Transduction Laboratories)を、(1:1000)にブロッキング溶液剤中で希釈し、前記膜と一晩4℃でインキュベーションした。二次抗体 アルカリスファターゼ 抗マウスIgG(Vector Laboratories)とインキュベーションした後に、前記膜を化学発光基質(Vector Laboratories)を用いて製造者の指示にしたがって発色させた。バンド強度をデンシトメトリーにより定量した、その際、BioRad GS−800較正走査デンシトメーターおよびMultianalystソフトウェア(BioRad)を用いた。
sAPP−決定(Determinations)/sAPPαの測定
分泌されたAPPの濃度を、従来の免疫ブロット技術を若干修正したプロトコールを用いて測定した。各皿からの沈殿させたタンパク質抽出物/治療を、新たに調製した10%アクリルアミド Tris HCl ミニゲルにロードし、SDPAGEで分離した。ロードしたサンプルの容量を、皿ごとのトータル細胞タンパク質(total cell protein)に対して修正した。タンパク質を、次に電気泳動的にPVDF膜に転写した。膜を5%無脂肪ドライミルクで飽和させ、非特異的な結合をブロックした。ブロックした膜を商業的に入手可能な抗体6E10(1:500)と一晩4℃でインキュベーションした、この抗体はsAPP−アルファを条件培地(conditioned medium)中で認識する(SENETEK)。洗浄後、前記膜を、西洋わさびペルオキシダーゼ抱合型の抗マウスIgG二次抗体(Jackson’s Laboratories)と室温でインキュベーションした。
次にシグナルを、増強された化学発光を用い、Hyperfilm ECL(アマシャム)へ暴露することにより検出した。バンド強度をデンシトメトリーにより定量した、その際、BioRad GS−800較正走査デンシトメーターおよびMultianalystソフトウェア(BioRad)を用いた。
図8および9に示したとおり、ブリオスタチン−1は強力な応答を惹起させ、PKCの活性化を実証した。PKCの活性化が、僅か0.1nMのブリオスタチン−1用量のデリバリー後30分間で容易に検出可能であることに注意すべきある。
APP代謝に及びそのサブプロダクト(sub−products)の効果に関するデータを考慮することも有用である。PKC活性化が、非アミロイド形成性(可溶性のAPP、おそらく前記セクレターゼの産物) vs. アミロイド形成性(Aβ1−40および/またはAβ1−42)の分泌された断片の比の量を増加させることを、研究は実証した(Buxbaum et al., 1990; Gillespie et al., 1992; Selkoe, 1994)。この理論を固持するつもりはないが、AD細胞(低いPKCを有する)が、sAPPの障害された分泌を有するだろうこと、および/または、アミロイド形成性断片(amyloidogenic fragments)の増加した比を有するだろうことを推測できた。実際、いくつかのAD細胞株が、欠陥のあるPKCおよび障害されたsAPP分泌の双方を示すとの証拠が存在する(Bergamaschi et al., 1995; Govoni et al., 1996)。加えて、β−アミロイドが、線維芽細胞においてAD類似のK+チャンネル欠陥を誘導すること(Etcheberrigaray et al., 1994)および培養されたニューロンにおけるK+カレントをブロックすること(Good et al., 1996)が示されている。従って、アイソザイム特異的なPKC欠陥が異常なAPPプロセッシングを誘発し、他の潜在的に有害な効果のなかでもとりわけ、このプロセッシングがK+チャンネル機能を変化させるような機構的なリンク(mechanistic link)を我々は提唱する。また、最近の予備的なデータは、おそらく悪循環の様式(vicious cyclical manner)で、β−アミロイドが次々にPKCの減少を生じさせることを示唆している(Favit et al., 1997)。
要約すると、特定のアイソザイムを標的として、PKCの機能を上方制御する戦略により、sAPP産生が増加することをデータは示唆している。これらの研究と係る線維芽細胞モデルとを、拡大(expanded)することは可能と思われ、これらを根底に存在する病理学的な潜在的プロセスを変化させる、化合物(ブリオスタチン、例えば)の効果をモニターするための道具として使用できるだろう。更に、当該技術において通常の知識を有する当業者は、これらのサンプルを更にCa2+イメージングおよび電気生理学により如何に試験するかに関して理解するだろう。次に係る化合物を、この障害のための薬学的な薬剤の合理的なデザインのための基礎として使用できるだろう。
例II
行動研究(Behavioral Studies)
モーリス水迷路パラダイム(48)を使用して、ブリオスタチン1の学習および記憶における効果を研究した。220−250gの間である計量されたウィスター アルビノ ラット(n=20)を、1週間飼育し(housed)、食物および水を自由に摂食させた。ステンレス・スチールのカニューレを、以前に記載された手順にしたがって、各ラットにおいて両側に配置した(placed bilaterally)(49)。全動物は、1週の回復期間を更なる実験に先立って与えられた。引き続いて、動物は、ランダムに実験およびコントロール群へと割当られた。少なくとも、治療および訓練の24h前に、全動物をMWM実験状況へと、彼らを水中に配置することにより前暴露(pre−exposed)し、120s泳がせた。前記訓練は、標準の手順(49)が引き続くもので、2試行/日が4連続日からなるものであった。処理された動物は、(i.c.v.)1μl/部位の2μM溶液のブリオスタチン1を訓練試行(training trials)1および5の約30min前に受けた。コントロール群は、同じ容量のビヒクル単独を、同一のスケジュールで受け取った。第5日(the fifth day)に、足場は除去され、保持試験(retention test)を実施した。動物の動作(movements)および避難潜伏期(escape latencies)を、自動追跡システムで記録した。学習を、試行から試行の避難潜伏期の減少として測定し、それは治療した動物において顕著に低かった。
記憶の獲得を、関連性のあるクアドラント(第5日)における時間経過(time spent)として測定した。記憶または保持は、シャム注射動物(sham injection animals)と比較して、治療された動物において有意に増強された(図3から4(a)−4(c)を参照されたい)。ブリオスタチン−1で治療したラットは、治療の2日間以内に、コントロールラットと比べて改善された認知を示した(図3を参照されたい)。ブリオスタチン−1は、認知を改善する濃度で使用可能で、その濃度は300から300,000倍 腫瘍を治療するために使用される濃度よりも低い。認知能力を、ブリオスタチン−1の投与により、非罹患の被験者(non−diseased subjects)において(他の非罹患の被験者と比較して)改善できることを上記の例は更に示している。
以前に実施されていた癌に対する安全性、毒性、および第二相臨床試験ゆえに、PKC活性化因子(特にブリオスタチン−1)の使用が安全であると認識されるだろうと、またAD治療/認知増強のための第二相試験を促進できるだろうと、結論付けることができる。さらにまた、ブリオスタチン−1の親油性の性質は、血液脳関門輸送の増加を提供する。本発明は、静脈内、経口、脳室内(intraventricullar)、および他の既知の投与方法を認容するものであろう。
sAPP分泌実験、PKC活性化実験、および動物行動実験の試験により、sAPP分泌の増加が増加したPKC活性化に続いて生じ、動物行動試験において改善された認知が生じることが示された。
例III
トランスジェニック動物およびインビボ試験
V717I突然変異を保持しているトランスジェニックマウスを、BL(1mg/kg、i.p.;毎日)で、〜3週齡(離乳後)から17週間処理した(n=4)。コントロール群(n=4)は、ビヒクル単独(Tween20 1%、DMSO 25%、74% PBS)を受けた。
別の実験群は、5〜6月齢の動物から構成され、7週間治療された。これらの動物のサブグループは次の試薬で処理された、即ち、BL 1mg/kg、一日(n=5);BL 10mg/kg、一日(n=3; 2個体死亡のため);BL 10mg/kg、毎週(n=4; 1個体死亡)、LQ12 10mg/kg、一日(n=5);およびLQ12 10mg/kg、毎週(n=5)。5個体の付加的な動物は、ビヒクル単独を同じ期間受けた。治療後、動物をK.U.L.(Belgium)ガイドラインにしたがって安楽死させた。
脳を、除去し、APP種の生化学的な分析のために調製した。
APP tgマウスの脳におけるAPPプロセッシングの生化学的分析。
免疫ブロット分析。APP代謝の中間代謝物(intermediates)の生化学的分析は、Dewachterらにより他に記載されている(Aging increased amyloid peptide and caused amyloid plaques in brain of old APP/V717I transgenic mice by a different mechanism than mutant presenilin 1. J Neurosci. 2000; 20: 6452−8.を参照されたい)。要約すると、脳を6.5vol.の氷冷緩衝液(20mM Tris−HCl、pH8.5、およびプロテイナーゼ阻害剤の混合物(Roche, Darmstadt, Germany)を含有している)中でホモジナイズした。遠心分離(135,000xg、4°C、1hr)の後に、上清を、可溶性のアミロイドペプチドを規定のELISA(specified ELISA)により分析する前に、再び遠心分離(2hr、200,000xg)した。最初の遠心分離からのペレットを、TBS(2%TritonX−100、2%Nonidet P40およびプロテイナーゼ阻害剤を含有している)に再懸濁し、遠心分離(100,000xg、4°C、1hr)した。このタンパク質分画は、膜結合型APPの分析に使用された。膜結合型APPのウエスタンブロットを、このタンパク質分画(膜結合型のタンパク質を含有している)において、モノクローナル抗体8E5で実施した。トータルの分泌されたAPPおよびα−セクレターゼで切断された分泌されたAPP−αを、最初の遠心分離の上清でのウエスタンブロット分析で検出した(それぞれ、モノクローナル抗体8E5およびモノクローナル抗体JRF14を用いた)。タンパク質を、サンプル緩衝剤(2%SDS、1% 2−MEの終濃度を含有する)中で変性および還元させ、8%TRISグリシンゲル(Novex, San Diego, CA)上で分離した。適切な二次抗体とのインキュベーション後、全ウエスタンブロットをECL検出システムで発光させ、写真技術で記録した。一連の希釈したサンプルの適用により、定量化が可能であった。
フィルムの濃度測定スキャニングおよびノーマライゼーションを、フラットベッド光学濃度スキャナー(a flatbed optical density scanner)並びに分析および測定のための専用ソフトウェア(Image Master; Pharmacia, Uppsala, Sweden)を用いて実施した。
アミロイドペプチドのELISA タンパク質抽出物を、逆相カラム(C18−Sep−packカートリッジ;Waters Corporation, Milord, MA)に適用し、アセトニトリル濃度を増加させた溶液(5、25、および50%)に0.1%トリフルオロ酢酸を含有している溶液で洗浄した。最後の分画は、アミロイドペプチドを含有していた、そして真空中で一晩乾燥させ、そしてELISAでの測定のために溶解させた。ヒトAβ40およびAβ42ペプチドに対するサンドイッチELISAを、それぞれ捕獲抗血清(capture antiserum) JRF/cAβ4O/1Oおよび21F12を用いて実施した、そしてそれらをそれぞれモノクローナル抗体JRFcAβtot/14hrpoおよび3D6で発色させた(Vanderstichele H, Van Kerschaver E, Hese C, Davidsson P, Buyse MA, Andreansen N, Minthon L, Wallin A, Blennow K, Vanmechelen E. Standardization of measurements of beta−amyloid (1−42) in cerebrospinal fluid and plasma. Amyloid 2000; 7: 245−258)。
標準の一般健康評価(Standard general health assessment)およびオープン・フィールド(open field)を、全動物において生化学的な評価の前に実施した。加えて、半定量的なアド・ホック・スコア(ad hoc score)を考案(devised)して、注射に続く腹腔の収縮を測定した(+= 弱い、≦ 2min;++:強い、≧min;+++:非常に強い、≧1.2min)。
例IV
トランスジェニック動物およびブリオスタチンを用いたインビボ試験
第二のトランスジェニック研究(同様の手順/試験およびプロトコールを用いた)を、二重のトランスジェニックマウス(前記V717I突然変異およびプレセニリン−1(PS1)突然変異を保持している)を用いて実施した、これにより促進されたアミロイド形成を生じ、次の主要な差異を伴うものであった。約40マウス(治療およびコントロールの両方を含む)を利用した。治療は、約3週齡で開始され、40μg/kg. i.p.で週に3回、ブリオスタチン−1を用いた治療からなるものであった。
コントロールには、ビヒクル単独が与えられた。治療は、非治療動物の罹患率が実験の終了を要する前、約7月間継続された(図10を参照されたい)。治療および非治療の動物の間の行動上の差異は、水の試験(water testing)(図11を参照されたい)では有意ではなかったが、治療された動物は可溶性Aβ−40(図12を参照されたい)および可溶性Aβ−42(図13を参照されたい)の減少を示していた。さらに、治療したマウスはトータルAPP(total APP)が全体的に低量であった;この結果は図14に示されるとおりであり、ここではチオフラビンS染色によりパーセント プラークロード(percent plaque load)の減少が示されている(コントロールと比較して)。
上記実験の考察
sAPPα分泌: AD株化細胞AG06848を0.1nMブリオスタチンで治療した3時間後、sAPPαの分泌の劇的な増加が認められた(全ての他の条件と比較して)(全体のANOVA、p<0.0001(図1(a)、ソリッドバー))。また、この効果は、別のPKC活性化物質(BL)を同じ(0.1nM)濃度で使用した際よりも有意に高い効果であった(p<0.01、ターキーのポスト検定)。BL 0.1nMは、如何なる現実的な影響力も分泌において有していなかった;また、DMSO単独と差異はなかった。100nMのスタウロスポリン(PKCブロッカー)での前処理により、0.1nMブリオスタチンの効果が無効になった(図1A、一番右のバー)。また、2つの細胞株が、年齢適合コントロール(age−matched controls)から使用された。これらの細胞株(プールされた)において、ブリオスタチン(0.1nM)は同じく有意に(DMSO単独と比較して、p<0.05、ターキーの検定)sAPPαの分泌を増強したが、AD株化細胞における程度よりも有意に低い程度までであった(図1A、ハッチバー;p<0.05、ターキーの検定)。時間経過実験(図1(b)、インセット)により、sAPPα分泌の著しい(marked)増加が、0.1nMブリオスタチンで15分インキュベーションした後に示された。進行性で比例的(Progressive and proportional)な増加が、30および60minで観察された。インキュベーション期間(2および3h)は、分泌されたAPPαの量に関して、60minインキュベーションと実質的に異なっていなかった。より低い濃度のブリオスタチン(0.01nM)により、APPα分泌の強力(robust)な増強が、僅か60minのインキュベーション後に生じた。しかしながら、低濃度(0.01nM)の効果は、より高い濃度(0.1nMブリオスタチン)を2および3hインキュベーションした際のものと区別できなかった(図1(b))。代表的な免疫ブロット(多様な実験の条件および細胞株でのsAPPαの分泌を説明している)を図1(c)に示す。
PKCトランスロケーション: αアイソエンザイムのサイトゾルおよび膜結合型のレベルを、ブリオスタチン(多様な時間ポイント)を0.1および0.01nMでインキュベーション後に決定した。PKC α−アイソエンザイムの膜結合コンポーネントの相対的な増加(DMSO単独と比較して)が認められ、これは粒子性(particulate)/可溶性の(P/S)免疫反応性の比率として測定された。前記増加は、非常に一貫性(consistent)のものであり、30minのインキュベーション後にDMSO単独とは有意に異なるものであった(p=0.411;t−検定、両側)。P/S比率は、進行性に下落したが、180minのインキュベーション後でさえも、DMSO単独よりも高いまま維持された(統計学的に有意ではないが)(図5a)。短期のインキュベーション(5min)により、DMSO単独と比べて、一貫性の又は有意に異なったトランスロケーションが誘導されなかった(示さず)。0.01nMブリオスタチンの効果は、著しくなく且つ緩徐であり(much less marked and slow)、最大P/S比の値を120minインキュベーションで有するものであった。他のPKCアイソエンザイムのトランスロケーションのレベルは、30minインキュベーションにおいて0.1nMブリオスタチンで評価された。明瞭な免疫反応性が、ε、βおよびδアイソエンザイムに対する特異的抗体で検出された(膜結合型およびサイトゾルの双方)。比率S/Pは、全例においてDMSO単独よりも高く、PKC−αのレベルと匹敵するものであった(図5b)。
行動(MWM):ブリオスタチンを受けた群の学習曲線(learning curve)は、コントロール群よりも有意に速かった。避難潜伏期は、明瞭に早期の試行(early trials)から減少し、試行3からのコントロール群よりも低かった。クアドラント優先度(quadrant preference)試験は、両群において保持を示したが、ブリオスタチン治療群に関しては有意に増強していた(コントロールと比較して)。図3〜4(c)は、これらの結果を要約する。
トランスジェニック動物:トランスジェニック動物(BLで治療された、3週齡の動物であって、17週間治療された動物)は、sAPP−αの有意な増加とAβ40の随伴性(concomitant)で比例的な減少とを示している(図6(a)−(b))。Aβ42、APP膜結合、およびトータルの分泌されたsAPP(sAPPα+sAPPβ)の量において差異は認められなかった。
動物は一般健康において差異は示されず、また重量増加は両群で類似していた。注射により、可変性の腹腔の収縮(可逆的な)が生じた(両群で同様の頻度)。強度は、BL治療群において多少(somewhat)上昇していた(データ示さず)。加えて、BL治療動物は、オープン・フィールド試験スコアの増加を示した(統計学的な有意性に達しなかった)(示さず)。
高年齢(later in life)(6月齢)の、短期間(〜7週間)治療された動物は、APP種に関連する劇的な変化を示さなかった。しかしながら、一般的な傾向(小さい変化)は、より長期間の治療(前のセクション)に関して記載されたのと同じ方向性であった。sAPPαの若干の増加が、BL 10mg/kg(毎日および毎週)で治療された動物において認められた;またLQ12 10mg/kg(毎日)で治療された動物においても認められた(図7(b)、ソリッドバー(solid bars))。BL 1mg/kg(毎日)およびLQ12 10mg/kg(毎週)は、効果がなかった(図5A、パターンバー)。Aβ40における若干の減少が、BL(n=5)およびLQ12(n=5)で治療(両方とも10mg/kg、毎週)された動物において観察された(図7(b)、ソリッドバー)。Aβ42において、治療により如何なる観察できる(noticeable)有意な変化も認められなかった。同様に、トータルの可溶性APPおよび膜結合型APPにおいて、如何なる有意な変化も認められなかった。また、腹腔の収縮および後肢の弛緩が、注射の際に老齢の動物(older animals)において観察された(可逆的)。それらは用量に関連しているように思われたが、しかし、如何なる明瞭な系も、より正確な評価に関して配置されなかった。一般健康および重量も正常であった。少数(2−3)の動物は、実験の過程の間に、治療に関連して出現しない原因で死亡した(全体の7.8%)。オープン・フィールド試験において差異は認められなかった(示さず)。
しかしながら、ブリオスタチン−1での治療は、双方(Aβ−40、Aβ−42、およびトータルAPP)において観察できる変化を示した。(図12〜14を参照されたい)。加えて、ブリオスタチン−1で治療した動物は、大きな超過寿命パーセンテージ(a greater life percentage over time)を示した。(図10を参照されたい)。
これらの結果は、AD病態生理学におけるPKCの役割を実証している。これらの結果は、共通のAPPプールが存在することを更に実証している。従って、1つの酵素経路の増加は、代替的な酵素に対する基質の低下を生じる。この場合において、アミロイド形成性(amyloidogenenic)で毒性の断片(Aβ40)の減少は、APPの非病原性のα−セクレターゼ・プロセッシングを増加させることにより達成される。トータルの分泌されたAPP(α+β産物)が、治療および無治療の動物の間で異なっていないとの事実は、そのような解釈と一貫し、該解釈を確証するものである。sAPPαにおける増加が、上昇したトータルAPP(又は増加した発現)の結果ではないことも明白である、というのも膜結合型APPが両群において類似しているからである。
最も著しい「有益な(beneficial)」効果が、早期に(そして長い期間)治療を開始した動物において観察された。このことは、毒性の断片の長期間の効果を阻止することが、治療の重要なゴールであるべきことを示唆している。高年齢での及び疾病プロセスの過程の後期での介入(臨床症状なしでさえも)により、毒性の断片による損傷を阻止することにおいて非常に低い影響力が与えられるだろう(老齢の動物で得られた結果により示唆されたように)。この特定のトランスジェニックモデルが、最初に生化学的な変化を生じ、次に認知の欠陥(deficits)を生じ、次に(かなり後に)アミロイドの沈着およびプラークを生じることである。インビトロ試験と一致して、この順序(sequence)は、アミロイド種(amyloid species)が有害(おそらく可溶性の形態で)でありえる(任意の顕著な沈着が生じる前に)ということを示していることに言及することも重要である。
ブリオスタチン投与(i.c.v.)後のMWM課題における正常ラットの能力の改善を示す結果により、PKC活性化が認識増強を付加的な治療上の効果として生じ得ることが実証された。加えて、分泌型APPは、それ自身で、正常および健忘性(amnestic)のマウスにおける記憶を改善し得る。これらの実験およびモデルは、PKC制御(特にブリオスタチン−1を介した)が、sAPPの増加および/または記憶の改善を生じ得ることを実証している。
それらにより、PKC活性化物質を含む療法(regime)を使用して、毒性の断片の集積(build up)を阻止し、記憶減退(memory decline)を阻止できることも実証された。