JP2012036432A - 非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法、及び非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品 - Google Patents

非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法、及び非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品 Download PDF

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Abstract

【課題】金属光沢を有しながら、非導通性の金属膜を形成した樹脂製品を安価に提供する。
【解決手段】めっき触媒核となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体を用いて、表面から深さ1μmまでの表層領域1cmあたり、触媒成分を、触媒成分の金属換算で0.003〜0.05mg含有する樹脂成形体を作製し、触媒成分を含有する樹脂成形体を無電解めっき処理することにより非導通性金属光沢めっき膜を形成する。
【選択図】図1

Description

本発明は、非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法、及びその製造方法によって製造される非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品に関する。
携帯電話などの電子回路を有する電子機器用ケースや自動車のラジエータグリルなどの自動車部品においては、装飾性向上のため、樹脂成形体の表面に金属光沢を有する金属膜が形成された樹脂製品が用いられる場合がある(非特許文献1)。これらの樹脂成形体に形成される金属膜は、導通性を有すると、例えば、携帯電話においては静電気により内部の電子回路が誤動作したり、電子回路の損傷が生じる虞がある。また、導通性を有する金属膜は電磁波シールド性を有するため、携帯電話においてはアンテナ感度が低下したり、自動車部品では距離測定用のミリ波透過性が低下するという問題がある。そのため、これらの樹脂製品では、金属光沢を有しながら、非導通性の金属膜を形成する必要がある。
上記観点から、これらの金属膜を有する樹脂製品を製造する場合、物理蒸着法により、金属粒子が微視的に離間している不連続構造の金属膜を樹脂成形体に形成する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
しかしながら、特許文献1及び2に記載されているように、物理蒸着法により非導通性の金属膜を形成する場合、樹脂成形体と金属膜との密着性を得るために、樹脂材料あるいは無機材料からなる下地膜を形成する必要があり、また物理蒸着を行なうためには高価な蒸着設備を使用する必要があることから、生産コストが嵩むという問題がある。また、下地膜の種類と蒸着する金属の種類によっては均一な金属膜が形成されなかったり、下地膜と蒸着された金属膜との密着性が不十分となるため、下地膜と金属膜の材料が制限されるという問題がある。さらに、物理蒸着法により複雑な形状の樹脂成形体に金属膜を形成する場合、金属膜が均一に形成されず、金属光沢を有する不連続構造の金属膜が得られない場合がある。
一方、樹脂成形体の表面に金属膜を形成する方法として、無電解めっき法も知られている。この無電解めっき法は、触媒的な化学反応を利用して金属イオンを還元することにより、被めっき物上に金属膜を形成する方法であるため、被めっき物それ自体が還元剤の還元作用に対して触媒活性を示す場合を除いて、触媒活性がある金属などの触媒成分を被めっき物の表面内部に安定、且つ均一に付着させておく必要がある。そのため、被めっき物が樹脂成形体である場合、無電解めっき処理の前に六価クロム酸や過マンガン酸などの環境負荷の大きな酸化剤を含有するエッチング液を用いて樹脂成形体の表面を粗化するエッチング処理を行って、樹脂成形体の表面に凹凸を形成し、該凹凸に触媒核となる触媒成分を付与している。
しかしながら、このようなエッチング液で浸漬される樹脂成形体の樹脂材料はABS系樹脂に限定されている。これは、ABS系樹脂がエッチング液に選択的に浸食されるブタジエンゴム成分を含んでいるのに対して、他の樹脂ではこのようなエッチング液に選択的に浸食される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。そのため、樹脂成形体の種類が制限されるという問題がある。また、上記のように無電解めっき法により金属膜を形成する場合、エッチング処理により樹脂成形体の表面に凹凸を形成する必要があり、それゆえ導通性の低いめっき膜を得ようとして薄いめっき膜を形成すると、凹凸の形状に起因してめっき膜の表面性が低下し、金属光沢の不十分なめっき膜が形成されるという問題がある。従って、無電解めっき法により金属光沢を有するめっき膜を得るには厚いめっき膜を形成する必要があり、その結果めっき膜が導電性を帯びてきて、電磁波の透過性が低下する。このため、非導通性の金属膜が要求される用途では上記のような無電解めっき法は利用されていないのが実情である。
特開2006−281726号公報
特開2007−144988号公報
林良三,「携帯電話の変遷に見るデザインの変化と社会の変化」,シャープ技法,第95号,2007年2月
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、金属光沢を有しながら、優れた密着性を有する非導通性の金属膜が形成された樹脂製品を安価に提供することにある。
本発明は、めっき触媒核となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体を用いて、表面から深さ1μmまでの表層領域1cmあたり、前記触媒成分を、前記触媒成分の金属換算で0.003〜0.05mg含有する樹脂成形体を作製する触媒成分付与工程と、
前記触媒成分を含有する樹脂成形体を無電解めっき処理するめっき処理工程とを有する非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法である。
上記製造方法は、前記触媒成分付与工程後、前記めっき処理工程前に、
前記触媒成分を含有する樹脂成形体を、常圧下で、アルコール含有処理液に浸漬処理するアルコール処理工程をさらに有してもよい。
また、上記製造方法において、前記触媒成分付与工程は、
前記加圧流体と、第1の溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分を付与した第1の溶融樹脂を金型内に射出し、さらに前記触媒成分を付与した第1の溶融樹脂が射出された金型内に、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を射出することにより、前記触媒成分を含有する樹脂成形体を作製することを含んでもよい。
さらに、上記射出成形による触媒成分付与工程を有する製造方法において、前記加圧流体は、フッ素系有機溶媒を含んでもよい。
そして、本発明は、上記に記載の製造方法によって製造される非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品である。
本発明によれば、樹脂成形体の表面に金属光沢を有しながら、密着性に優れた非導通性の金属膜を有する樹脂製品を安価に提供することができる。
図1は、本発明の実施例1に係る触媒成分付与工程で用いられる製造装置の一例を示す概略断面図である。 図2は、本発明の実施例1で製造されためっき膜を有する樹脂製品の表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。 図3は、本発明の比較例1で製造されためっき膜を有する樹脂製品の表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。 図4は、本発明の比較例2で製造されためっき膜を有する樹脂製品の表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。 図5は、本発明の実施例及び比較例で製造されためっき膜を有する樹脂製品の電界シールド効果を測定したグラフであり、(a)は実施例1〜3及び比較例1の樹脂製品の電界シールド効果を、(b)は比較例2の樹脂製品の電界シールド効果を示す。 図6は、本発明の実施例及び比較例で製造されためっき膜を有する樹脂製品の磁界シールド効果を測定したグラフであり、(a)は実施例1〜3及び比較例1の樹脂製品の磁界シールド効果を、(b)は比較例2の樹脂製品の磁界シールド効果を示す。
本実施の形態の非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法は、めっき触媒核となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体を用いて、少なくとも表層領域に少量の触媒成分を含有する樹脂成形体を作製する触媒成分付与工程を有する。めっき触媒核となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体を用いることにより、少量の触媒成分を均一に表層領域に含有する樹脂成形体を得ることができる。また、加圧二酸化炭素を用いることにより、触媒成分を樹脂成形体の内部に均一に浸透させることができるため、樹脂成形体の表面を粗化するエッチング処理を行うことなく、触媒成分を含有する樹脂成形体を得ることができる。このため、ナイロン系樹脂のようなエッチング成分がない樹脂材料からなる樹脂成形体にも後述するめっき処理工程により金属光沢を有する非導通性のめっき膜を形成することができる。
触媒成分付与工程により付与される樹脂成形体中の触媒成分の含有量は、表面から深さ1μmまでの表層領域1cmあたり、触媒成分の金属換算で0.003〜0.05mgである。触媒成分の含有量が0.003mg/1cm未満では、樹脂成形体の表層領域における触媒成分が少なくなり、めっき処理工程においてめっき膜が十分に形成されず、形成されるめっき膜の金属光沢が不十分となったり、めっき膜と樹脂成形体との密着性が低下する。一方、触媒成分の含有量が0.05mg/1cmより多いと、めっき処理工程においてめっき膜のつきまわり性が速くなり、連続構造のめっき膜が形成され、導通性のめっき膜が形成されやすくなる。本実施の形態において、触媒成分の金属換算による含有量は、触媒成分を含有する樹脂成形体の表面から深さ1μmまでの一定質量の表層領域を12Mの塩酸に溶解させた溶液試料を作製し、この溶液試料中の触媒成分に含まれていた金属濃度をICP発光分光分析装置を用いて測定することにより求めることができる。なお、樹脂成形体は、樹脂成形体の表面にめっき膜を形成するために少なくとも表層領域に触媒成分を含有していればよく、表層領域より内部にも触媒成分を含有してもよい。ただし、後のめっき処理工程におけるめっき液の浸透性を考慮すると、樹脂成形体の深部の触媒成分はめっき反応への寄与が少ないため、表層領域のみに触媒成分を含有する樹脂成形体を作製すれば、触媒成分の使用量を低減することができ、より低コスト化を図ることができる。
触媒成分としては、触媒成分付与工程において加圧二酸化炭素により樹脂成形体の内部に浸透し、めっき処理工程においてめっき触媒核となる金属を含むものであれば特に制限されない。具体的には、パラジウム、白金、ニッケル、銅、銀などの金属を含む微粒子、これらの金属を含む錯体、及び金属錯体の酸化物などの変性物が挙げられる。これらの中でも加圧二酸化炭素に対して溶解性に優れる金属錯体が好ましい。このような金属錯体としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して用いてもよい。これらの中でも、フッ素を配位子として有する金属錯体は加圧二酸化炭素に優れた溶解性を有するため、好ましい。なお、金属錯体は樹脂成形体に付与された後、製造装置内の熱などにより還元され、金属単体として樹脂成形体中で存在する場合があるが、このような還元により樹脂成形体の内部にめっき処理時にめっき触媒核となる金属を固定化することができる。従って、触媒成分として金属錯体を用いた場合、樹脂成形体は、めっき処理工程前に金属錯体が金属単体に変性した状態で触媒成分を含有してもよい。
加圧二酸化炭素としては、液体状態、ガス状態、または超臨界状態の加圧二酸化炭素を用いることができる。加圧二酸化炭素は、臨界点(温度が31℃以上、圧力が7.38MPa以上の超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素を用いてもよいし、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素を用いてもよい。より具体的には、加圧二酸化炭素の圧力は、好ましくは5〜30MPaであり、温度は、好ましくは10〜150℃である。圧力が5MPa未満の場合、加圧二酸化炭素の密度が低下する傾向がある。一方、圧力が30MPaより高い場合、製造装置に高耐圧の設備が必要となり、コスト高となる。また、温度が10℃未満の場合、触媒成分の分散性が低下する傾向がある。一方、温度が150℃より高い場合、製造装置のシールが困難となる傾向がある。また、加圧二酸化炭素の密度は、好ましくは0.10〜0.99g/cmである。
触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体の調製にあたっては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、ポンプなどの加圧手段により液体二酸化炭素を加圧し、加圧二酸化炭素を触媒成分が投入されている槽に供給し、該触媒成分と加圧二酸化炭素とを混合することによって加圧流体を調製することができる。加圧流体中の触媒成分の濃度は、加圧二酸化炭素の圧力、温度や、触媒成分の種類によっても異なり、得られる樹脂成形体中の触媒成分の含有量を確保できれば特に限定されないが、好ましくは飽和濃度未満である。加圧流体中の触媒成分の濃度が飽和濃度未満であれば、後述する射出成形法や押出成形法で触媒成分を溶融樹脂に付与する際に圧力変化が生じても、加圧流体中での触媒成分の析出を低減することができる。これにより、経済性を向上することができるとともに、均一に触媒成分が付与された樹脂成形体を得ることができる。さらに、加圧流体中の触媒成分の濃度が低濃度であれば、樹脂成形体の最表面に付着した触媒成分の量も少なくなる。このため、最表面でのアンカー効果の低いめっき膜の形成も抑えられる。
触媒成分付与工程において、後述する射出成形法や押出成形法を利用して溶融樹脂と加圧流体とを接触させる場合、加圧流体はさらにフッ素系有機溶媒を含有してもよい。フッ素系有機溶媒は金属錯体などの触媒成分の溶解性に優れるため、触媒成分を加圧二酸化炭素及びフッ素系有機溶媒に分散させた加圧流体を用いることにより、触媒成分付与工程において樹脂成形体の表層領域に触媒成分を効率よく付与することができる。また、フッ素系有機溶媒は優れた耐熱性を有するため、該フッ素系有機溶媒を含有する加圧流体を用いることにより、高温の接触混練時における触媒成分の分解を抑制することができる。さらに、加圧流体を調製する場合、上記のように加圧二酸化炭素を触媒成分が投入された槽に供給して、高圧下でこれらが混合撹拌されるため、新たに加圧流体を調製する場合、供給経路を一旦減圧して触媒成分を槽に供給する必要がある。これに対し、フッ素系有機溶媒を使用すれば、触媒成分とフッ素系有機溶媒とを混合した混合液を常圧下で調製することができ、該混合液を加圧し、これと加圧二酸化炭素とを配管内で混合することにより加圧流体を調製できる。そのため、触媒成分と加圧二酸化炭素とを混合するために高圧の槽を用いる必要がなく、また新たな触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させるために槽を減圧する必要もない。これにより、さらに生産効率を向上することができる。なお、上記のようにフッ素系有機溶媒を使用する場合、触媒成分とフッ素系有機溶媒とを混合して混合液を調製し、得られた混合液を加圧し、加圧した混合液と加圧二酸化炭素とを混合して加圧流体を調製することが好ましい。
フッ素系有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、パーフルオロアルキルアミン、パーフルオロアルキルポリエーテルカルボン酸、パーフルオロアルカン、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。これらは、単独でも複数混合して用いてもよい。これらの中でも、安価で、加圧二酸化炭素への溶解性に優れ、高耐熱性(望ましくは、沸点が150℃以上)を有するパーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなどのパーフルオロアルキルアミンがより好ましい。市場で入手可能なフッ素系有機溶媒としては、住友スリーエム社製のフロリナートFC−40、フロリナートFC−43などが挙げられる。フッ素系有機溶媒を使用する場合の混合液中の触媒成分の濃度は、使用する触媒成分やフッ素系有機溶媒の種類にもよるため、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01〜10質量%である。
触媒成分が付与される樹脂成形体を構成する樹脂材料は任意であり、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを用いることができる。これらの中でも、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の種類は任意であり、非晶性、結晶性いずれも使用できる。例えば、ナイロン系樹脂、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、及びこれら複合材料を用いることができる。これらの中でも、加圧二酸化炭素及び金属錯体と相性の良いアミド基を有する、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン12Tなどのナイロン系樹脂が好ましい。
触媒成分が付与された樹脂成形体は、成形された樹脂成形体と加圧流体とを接触させることにより作製されてもよいし、成形前の溶融樹脂と加圧流体とを接触させることに作製されてもよい。すなわち、触媒成分を付与する際の被処理物の形態は、それ自体が最終的な形状の成形品であってもよいし、所定の形状に成形される前の溶融樹脂であってもよい。さらに、後で所定の形状に加工可能なシートなどの中間製品であってもよい。
触媒成分付与工程において触媒成分を含有する樹脂成形体を作製する方法は、特に限定されない。溶融樹脂に触媒成分を付与して触媒成分を含有する樹脂成形体を作製する場合、例えば、製造装置内で、触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体と溶融樹脂とを接触させ、触媒成分を付与した溶融樹脂を所望の形状に射出成形または押出成形することにより、触媒成分を含有する樹脂成形体を得ることができる。このような射出成形法あるいは押出成形法を利用すれば、溶融樹脂に直接触媒成分を付与できるため、成形と同時に触媒成分を含有する樹脂成形体を作製することができる。
上記のような射出成形法または押出成形法を利用して触媒成分を溶融樹脂に付与する場合、加圧流体と溶融樹脂との接触は、可塑化シリンダ内であってもよいし、金型あるいは押出ダイの内部であってもよい。ただし、可塑化シリンダ内で加圧流体と溶融樹脂とを接触させれば、触媒成分を付与した溶融樹脂を金型内に射出する前に、可塑化シリンダに設けたベントポートから加圧二酸化炭素を排気することができ、加圧二酸化炭素が溶融樹脂から脱離する際に生じる樹脂成形体の表面の発泡やスワルマーク(ガスマーク)による表面性の劣化を抑制できる。また、射出成形法として、スキン層とコア部とを有する樹脂成形体を形成するためにいわゆるサンドイッチ成形法を使用してもよい。具体的には、上記のようにして触媒成分を付与した第1の溶融樹脂を金型に射出し、この触媒成分及び第1の溶融樹脂が射出された金型内に触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を射出して、スキン層とコア部とを有する樹脂成形体を作製してもよい。この成形法によれば、表層領域を構成するスキン層にのみ触媒成分を含有する樹脂成形体を製造することができる。これにより、製造コストをさらに低減することができる。第1及び第2の溶融樹脂は同種のものを使用してもよいが、第1の溶融樹脂と異なる第2の溶融樹脂を使用することにより、樹脂成形体の高強度化や軽量化などを図ることができる。なお、第1及び第2の溶融樹脂の樹脂材料としては、既述した熱可塑性樹脂を使用することができる。
また、成形された樹脂成形体に触媒成分を付与する場合、例えば、樹脂成形体を高耐圧の密閉容器に収容し、触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体を密閉容器へ供給し、樹脂成形体と加圧流体とを接触させることにより、触媒成分を含有する樹脂成形体を得ることができる。さらに、シート状に成形された樹脂成形体に触媒成分を付与する場合、シート状の樹脂成形体が無機物から形成されているセパレータを介して巻回された巻回体を高圧容器に収容してもよい。このような無機物から形成されているセパレータとしては、具体的には、例えば、アルミ製のメッシュシート、SUS製のメッシュシート、ガラスクロスなどが挙げられる。加圧流体はこれらのセパレータを通過できるので、拡散性の高い加圧流体がセパレータを介してシート状の樹脂成形体の全面に均一に拡散して浸透する。これにより、得られる樹脂成形体へのダメージを低減できるとともに、樹脂成形体に触媒成分を凝集の少ない状態で付与することができる。シート状の樹脂成形体が用いられる場合、その厚さは特に限定されないが、好ましくは10〜200μmである。
以上の触媒成分付与工程により触媒成分を含有する樹脂成形体を形成することができるが、本実施の形態において、被処理物としてシート状の樹脂成形体を用いる場合、金型内に触媒成分を含有するシート状の樹脂成形体を配設し、該金型内に溶融樹脂を射出して、シート状の樹脂成形体と溶融樹脂とを一体化させるインサート成形をさらに行ってもよい。これにより、シート状の樹脂成形体と溶融樹脂とを一体化させることができるため、得られる樹脂成形体の強度を向上することができる。また、シート状の樹脂成形体を構成していた部分が樹脂成形体の表層領域を構成するため、表層領域のみに触媒成分を含有する樹脂成形体を作製できる。なお、シート状の樹脂成形体を金型に配設する場合、予め金型の内部形状に合うようにシート状の樹脂成形体をプリフォームしておいてもよいし、インサート成形する溶融樹脂の射出前に、真空吸着手段等によりシート状の樹脂成形体を金型に密着させておいてもよい。
本実施の形態の製造方法においては、上記の触媒成分付与工程後、めっき処理工程前に、触媒成分を含有する樹脂成形体を、常圧下で、アルコール含有処理液に浸漬処理するアルコール処理工程を設けてもよい。めっき処理工程前に、アルコール処理工程を設けることにより、アルコールが樹脂成形体の内部に浸透し、樹脂成形体の表層領域が膨潤して、樹脂成分の自由体積が増大し、後のめっき処理工程において常圧下でもめっき液が樹脂成形体の内部に浸透しやすくなり、より均一なめっき膜を形成することができる。
アルコール含有処理液に使用されるアルコールとしては、具体的には、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。これらの中でも、樹脂成形体への浸透性を考慮すると、20℃において、水の表面張力(73dyn/cm)よりも低い表面張力を有するアルコールが好ましく、50dyn/cm以下の表面張力を有するアルコールがより好ましい。さらに製造上の安全性を考慮すると、40℃以上の引火点を有するアルコールが好ましい。上記のような低表面張力及び高引火点を有するアルコールとしては、例えば、1,3−ブタンジオール(表面張力:37.8dyn/cm,引火点:121℃)、2−メトキシエタノール(表面張力:31.8dyn/cm,引火点:43℃)、2−(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(表面張力:28.8dyn/cm,引火点:74℃)などが挙げられる。これらの中でも、樹脂成形体への浸透性に優れる1,3−ブタンジオールがより好ましい。
アルコール含有処理液は、少なくともアルコールを含有していれば、使用するアルコールと相溶する他の溶媒、例えば水を含有してもよい。ただし、他の溶媒の含有量が多くなりすぎると、めっき膜の成長に長時間が必要となる場合がある。このため、アルコール含有処理液中のアルコールの含有量は、好ましくは50vol%以上であり、より好ましくは90vol%以上である。特に、工業製品を使用する場合に混入してくる不可避不純物を除いて実質的にアルコールのみを含有するアルコール含有処理液が好ましい。なお、アルコール含有処理液は樹脂成形体への浸透性を促進するために添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、具体的には、例えば、界面活性剤が挙げられる。
アルコール処理工程は、上記したように常圧下で行うことができる。このため、高耐圧容器などの高価な製造装置を使用する必要がなく、連続して処理を行うことができる。なお、本明細書において、常圧下とは、加圧していない雰囲気下を意味する。処理時間は、樹脂成形体の種類やアルコールの種類によるため、特に限定されるものではないが、好ましくは1分〜2時間である。処理時間が短すぎると、アルコールが樹脂成形体に十分に浸透しないため、アルコールによる効果が十分に得られない。一方、処理時間が長すぎると、生産効率が低下するとともに、アルコールにより樹脂成形体の樹脂構造が脆弱化する場合がある。また、アルコール処理工程は、常温で行ってもよいし、アルコールの樹脂成形体への浸透を促進するために、加温して行ってもよい。なお、アルコール処理工程を実施する場合、樹脂成形体を乾燥することなく、樹脂成形体にアルコールが含浸された状態でめっき処理工程を行なうことが好ましい。
次に、本実施の形態の製造方法では、上記のようにして得られる触媒成分を含有する樹脂成形体を無電解めっき処理するめっき処理工程が行われる。表層領域に少量の触媒成分を含有する樹脂成形体を無電解めっき処理することにより、下地膜を形成することなく、金属光沢を有しながら、密着性に優れた非導通性のめっき膜が表面に均一に形成された樹脂製品を得ることができる。
めっき処理工程は、従来公知の無電解めっき法を使用することができる。無電解めっき処理に用いられるめっき液としては、例えば、ニッケル−リンめっき液、ニッケル−ホウ素めっき液、パラジウムめっき液、銅めっき液、銀めっき液、コバルトめっき液などの従来公知のめっき液を使用することができる。
めっき液は、アルコールを含有することが好ましい。アルコールを含有するめっき液は樹脂成形体に対する浸透性に優れており、またアルコールはめっき膜の成長を遅らせる還元剤として作用するので、樹脂成形体の表層領域にめっき液が浸透し始めた時点で、最表面におけるめっき反応を遅らせることができる。その結果、樹脂成形体の表面内部からめっき膜が成長し、より密着性に優れためっき膜を形成できる。
めっき液に混合されるアルコールとしては、上記のアルコール処理工程で使用されるアルコールと同様のものを使用することができる。これらの中でも低表面張力及び高引火点を有する1,3−ブタンジールが好ましい。めっき液中のアルコールの含有量は、好ましくは20〜60vol%である。
本実施の形態のめっき処理工程は常圧下で行うことができる。このため、めっき反応のばらつきを抑えることができ、密着力のばらつきの少ないめっき膜を形成することができる。しかも、常圧下で樹脂成形体をめっき液に浸漬するので、複雑なめっき設備を使用することなく、めっき液が投入された開放容器に樹脂成形体を浸漬することにより、連続して無電解めっき処理を実施できる。
めっき処理工程における処理条件は、触媒成分、樹脂成形体、及びめっき液の種類を考慮して適宜選択できるが、めっき温度は、好ましくは25〜90℃であり、めっき時間は、好ましくは1〜10分である。めっき温度が25℃未満であると、めっき処理に長時間を要する場合がある。一方、めっき温度が90℃より高いと、樹脂成形体の種類にもよるが、樹脂成形体が損傷する場合がある。また、めっき時間が1分より短いと、めっき膜が十分に成長せず、金属光沢を有するめっき膜が得られなかったり、めっき膜と樹脂成形体との密着性が不十分となる場合がある。一方、めっき時間が10分より長いと、生産効率が低下するだけでなく、めっき反応が進行しすぎて、導通性を有するめっき膜が形成される場合がある。
本実施の形態の製造方法により形成されるめっき膜は、樹脂成形体の表面に金属粒子が微視的に不連続構造で形成されるため、金属光沢を有しながら、非導通性を有している。例えば、本実施の形態の製造方法によれば、1×E11Ω/□以上の表面抵抗値を有する非導通性の金属光沢めっき膜を形成することができる。このため、本実施の形態のめっき膜を有する樹脂製品は、電磁波の透過性に優れている。また、下地膜を必要とする物理蒸着法やエッチング処理を必要とする従来の無電解めっき法を用いて形成される金属膜と異なり、本実施の形態の製造方法により形成されるめっき膜は、加圧二酸化炭素を用いて表面内部に触媒成分が付与された樹脂成形体を無電解めっき処理することにより形成されるため、各種の樹脂材料からなる樹脂成形体に密着性に優れた金属光沢めっき膜を均一に形成することができる。従って、本実施の形態により製造される樹脂製品は、装飾性のための金属光沢を有しながら、非導通性が要求される携帯電話用ケース(筐体)や、ラジエータグリル、バックパネルなどの自動車部品に好適に使用することができる。
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本実施例では、触媒成分をフッ素系有機溶媒及び加圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用い、射出成形法により作製した触媒成分を含有する樹脂成形体にめっき膜を形成した。なお、本実施例では、スキン層を形成する第1の樹脂として、熱可塑性樹脂であるポリアミド6(三菱エンジニアリングプラスチック社製,ノバミッド1010C2)を、コア部を形成する第2の樹脂として、熱可塑性樹脂であるポリフタルアミド(ソルベイアドバンストポリマーズ社製,アモデルAS−1566)を用いた。また、触媒成分として、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を、フッ素系有機溶媒として、フッ素系不活性液体(住友3M社製,フロリナートFC−43,分子式:C12F33N,分子量:671,沸点:174℃)を用いた。
(触媒成分付与工程)
図1は本実施例で触媒成分を含有する樹脂成形体を作製するために用いられた製造装置を示す概略断面図である。図1に示すように、この製造装置は、触媒成分をフッ素系有機溶媒及び加圧二酸化炭素に溶解した加圧流体を第1の可塑化シリンダ210に供給する加圧流体供給部100と、スキン層を形成するための第1の可塑化シリンダ210、コア部を形成するための第2の可塑化シリンダ240及び金型部250を有する射出成形部200とを備えている。これら加圧流体供給部100及び射出成形部200は図示しない制御装置で動作制御される。
加圧流体供給部100は、液体二酸化炭素ボンベ101と、液体二酸化炭素を所定の圧力に加圧した加圧二酸化炭素を供給するための二酸化炭素用シリンジポンプ102と、触媒成分をフッ素系有機溶媒に溶解させた混合液Cを調製し、供給するための溶液調製部110とを有している。液体二酸化炭素ボンベ101と二酸化炭素用シリンジポンプ102とを接続する配管及び二酸化炭素用シリンジポンプ102と第1の可塑化シリンダ210とを接続する配管にはそれぞれ、吸引用エアオペレートバルブ104と供給用エアオペレートバルブ105が配設されている。また、二酸化炭素用シリンジポンプ102は図示しないチラーを備えており、これにより所定の温度となるように加圧二酸化炭素が温調される。
溶液調製部110は、触媒成分をフッ素系有機溶媒に溶解して混合液Cを調製するための混合槽111と、混合液Cを所定の圧力に加圧し、送液するための溶液用シリンジポンプ112とを備えており、混合槽111と溶液用シリンジポンプ112とを接続する配管及び溶液用シリンジポンプ112と第1の可塑化シリンダ210とを接続する配管にはそれぞれ、吸引用エアオペレートバルブ114と供給用エアオペレートバルブ115が配設されている。
加圧流体を調製する場合、まず混合槽111で触媒成分とフッ素系有機溶媒とを常温、常圧下で混合撹拌して、混合液Cを調製する。本実施例では、触媒成分の濃度が2質量%の混合液を調製した。
次に、吸引用エアオペレートバルブ114を開放して、混合槽111から混合液Cをフィルタ113を介して常温で吸引し、溶液用シリンジポンプ112の圧力制御により所定圧力まで混合液Cを加圧する。本実施例では、混合液Cを10MPaに加圧した。一方、手動バルブ106を開放した状態で、液体二酸化炭素ボンベ101から液体二酸化炭素をフィルタ107を介して吸引し、二酸化炭素用シリンジポンプ102の圧力制御により所定圧力まで液体二酸化炭素を加圧する。本実施例では、液体二酸化炭素ボンベ101から液体二酸化炭素を吸引し、これを二酸化炭素用シリンジポンプ102により加圧して、圧力が10MPa、温度が10℃の加圧二酸化炭素を供給した。なお、高密度の液体二酸化炭素を低温で計量することにより、加圧二酸化炭素を安定して供給することができる。
加圧流体を第1の可塑化シリンダ210に供給する際には、吸引用エアオペレートバルブ104,114を閉鎖し、供給用エアオペレートバルブ105,115を開放した後、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112を圧力制御から流動制御に切替え、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112のシリンダの駆動スピード(流量)及び駆動時間を制御することにより、加圧した混合液Cと加圧二酸化炭素とを所定の流量比となるように流動させる。これにより、配管内で混合液Cと加圧二酸化炭素とが混合される。本実施例では、混合液Cと加圧二酸化炭素とを流量比1:2で混合した。
上記のようにして所定流量比で混合された加圧流体を流動させた状態で、金型部250からのトリガー信号に応じて後述する導入バルブ212の流体供給口218を開放することにより、一定量の加圧流体が第1の可塑化シリンダ210に供給される。流動制御により加圧流体が供給された後、流体供給口218が閉じられるとともに、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112が一旦停止され、供給用エアオペレートバルブ105,115が閉じられる。次に、二酸化炭素用シリンジポンプ102及び溶液用シリンジポンプ112を流動制御から圧力制御に再度切替え、上記と同様にして液体二酸化炭素ボンベ101から液体二酸化炭素を、混合槽111から混合液Cを吸引し、それぞれを加圧して、待機する。さらに、金型部250からのトリガー信号に応じて、上記した流動制御により加圧流体を供給する。これらの動作を繰り返すことにより、間欠的に加圧流体が第1の可塑化シリンダ210に供給される。本実施例では、導入バルブ212の流体供給口218の開放から加圧流体の供給完了までの間、圧力計260で検出される圧力が10MPaとなる範囲で、第1の可塑化シリンダ210に1ショットあたり0.12mlの加圧流体を間欠供給した。なお、本実施例の加圧流体は低濃度で触媒成分を含有するため、第1の可塑化シリンダ210内の圧力が変化しても、加圧流体中での触媒成分の析出を防止することができるとともに、触媒成分を均一に含有する樹脂成形体を作製することができる。
第1の可塑化シリンダ210の上部側面には上流側から順に、第1の樹脂を第1の可塑化シリンダ210に供給するための第1の樹脂供給用ホッパ211と、加圧流体を供給するための導入バルブ212と、第1の可塑化シリンダ210内から加圧二酸化炭素を排気するためのベントポート213とが設けられている。また、第1の可塑化シリンダ210の下部側面の導入バルブ212と対向する位置及びベントポート213に対向する位置にはそれぞれ、内圧を検出するための圧力計215,216及び図示しない温度センサが設けられている。この導入バルブ212は、第1の可塑化シリンダ210と連結された基端部に流体供給口218を有するとともに、内部に導入ピストン217を有しており、導入ピストン217で流体供給口218を開放することによって、加圧流体供給部100から第1の可塑化シリンダ210に加圧流体が供給される。また、ベントポート213はバッファ容器219を介して真空ポンプ220と排気管で接続されており、ベントポート213を開放し、真空ポンプ220を作動させることより、第1の可塑化シリンダ210の内部が減圧される。従って、この第1の可塑化シリンダ210内では、導入バルブ212近傍からベントポート213近傍までの間で高圧の加圧流体により加圧状態で加圧流体と第1の溶融樹脂とが接触混練される。加圧流体と第1の溶融樹脂との混練が終了すると、ベントポート213を開放し、加圧二酸化炭素を排気する。これにより、成形時に樹脂成形体の表面性を劣化させる二酸化炭素を排気できる一方、金属錯体などの触媒成分は熱分解により金属化されるため、昇華による樹脂成形体からの触媒成分の脱離を抑制できる。なお、第2の可塑化シリンダ240の上部側面には、第2の樹脂を第2の可塑化シリンダ240に供給するための第2の樹脂供給用ホッパ241が設けられている。本実施例では、乾燥機によって乾燥脱水された第1の樹脂であるポリアミド6のペレットと第2の樹脂であるポリフタルアミドのペレットを各樹脂供給用ホッパ211,241に供給した。
第1及び第2のスクリュS1,S2の駆動側端部はそれぞれ、図示しないモータと連結されている。各樹脂供給用ホッパ211,241から供給された樹脂は、可塑化シリンダ210,240の外壁面に設けられたバンドヒータ(図示せず)で可塑化シリンダ210,240が加熱されることにより、スクリュS1,S2で混練され、溶融される。また、第1及び第2の可塑化シリンダ210,240の射出側端部は金型部250内のキャビティ253と連通するノズル部230と接続されている。また、ノズル部230には、各可塑化シリンダ210,240からキャビティ253へ触媒成分を付与した第1の溶融樹脂及び第2の溶融樹脂をそれぞれ射出させるために、切り替えバルブ231が設けられている。そして、混練の間はノズル部230の先端は切替えバルブ231により閉じられているので、第1及び第2の溶融樹脂が第1及び第2のスクリュS1,S2の前方にそれぞれ押し出されることにより、第1及び第2のスクリュS1,S2が後退する。これにより計量が開始される。そして、可塑化計量後に、各可塑化シリンダ210,240内のスクリュS1,S2を背圧力で前進させることにより、ノズル部230からキャビティ253内に触媒成分を付与した第1の溶融樹脂及び触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂がそれぞれ射出される。本実施例では、各可塑化シリンダ210,240の温度センサで検出される温度が275℃となるように、バンドヒータで各可塑化シリンダ210,240を加熱した。
図1に示すように、金型部250は、固定金型251及び可動金型252を備えており、固定金型251と可動金型252とが当接することにより、金型部250内に所定形状のキャビティ253が形成される。上記したようにキャビティ253はノズル部230と連通しており、該ノズル部230からキャビティ253に触媒成分を付与した第1の溶融樹脂及び触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂が射出される。固定金型251及び可動金型252はそれぞれ、固定プラテン254及び可動プラテン255に固定されており、型締め機構により可動プラテン255を駆動することにより、金型部250が開閉される。本実施例では、矩形状の成形体が2個同時に成形される金型部250を使用した。スキン層を形成する場合、第1の可塑化シリンダ210から可塑化計量された触媒成分を付与した第1の溶融樹脂がキャビティ253に射出される。このとき、射出量は、キャビティ253内全体が第1の溶融樹脂で充填されない程度に調整される。なお、第1の溶融樹脂は、触媒成分を表面偏析させるため及び薄いスキン層を形成するために高速(150〜1,000mm/s)で射出することが好ましい。本実施例では、300mm/sの射出速度で触媒成分を付与した第1の溶融樹脂をキャビティ253内に射出した。
一方、上記の第1の可塑化シリンダ210による射出中、第2の樹脂供給用ホッパ241から第2の樹脂を第2の可塑化シリンダ240に供給して、第2のスクリュS2により可塑化計量が行われる。この際、第2の可塑化シリンダ240では、触媒成分が付与されていない第2の樹脂が溶融される。そして、触媒成分を付与した第1の溶融樹脂の射出が完了する直前に、第2の溶融樹脂の可塑化計量を完了させる。
次に、触媒成分を付与した第1の溶融樹脂の射出が完了した後、切替えバルブ231の位置を切替え、第2のスクリュS2を前進させることにより、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂がキャビティ253内に射出される。本実施例では、150mm/sの射出速度で第2の溶融樹脂をキャビティ253内に射出した。このとき、先にキャビティ253に射出されていた触媒成分を付与した第1の溶融樹脂は第2の溶融樹脂の圧力により、キャビティ253を画成する金型表面に押しやられる。その結果、第2の溶融樹脂の射出完了後には、触媒成分を含有する第1の樹脂からなるスキン層と、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂からなるコア部とが形成される。第2の溶融樹脂の射出が完了した後、金型部250を冷却して、内部の樹脂を冷却固化し、金型部250を開くことにより、触媒成分を含有する樹脂成形体を得ることができる。本実施例では、得られる樹脂成形体のスキン層の重量が、約10g、コア部の重量が、約40gとなるように、射出成形を行った。
以上のようにして作製した触媒成分を含有する樹脂成形体の表面から1μmの深さまでの表層領域5gを12Mの塩酸50mlに溶解させた溶液試料を作製し、この溶液試料中のPd濃度をICP発光分光分析装置(日本ジャーレル・アッシュ社製,IRIS1000)を用いて測定したところ、Pd濃度は2.2mg/Lであり、表層領域1cmあたりの触媒成分の含有量は、Pd金属換算で0.025mgであった。
(アルコール処理工程)
次に、上記のようにして作製した触媒成分を含有する樹脂成形体を、アルコール含有処理液に浸漬処理した。本実施例では、1,3−ブタンジオールを開放容器内に投入し、これに触媒成分を含有する樹脂成形体を、常圧下、80℃で30分間浸漬させた。
(めっき処理工程)
次に、上記のようにしてアルコール処理を行った未乾燥状態の樹脂成形体を、常圧下でアルコールを含有するめっき液に浸漬する無電解めっき処理を行った。本実施例では、1,3−ブタンジオールと、フッ素系界面活性剤(AGCセイミケミカル社製,サーフロンS243)と、硫酸ニッケルの金属塩、還元剤及び錯化剤を含有するニッケル−リンめっき液(ディップソール社製,NP−1900)とを混合しためっき液を用いた(めっき液中のアルコールの含有量:50vol%,フッ素系界面活性剤の含有量:1vol%)。上記のめっき液を開放容器内に投入し、これに樹脂成形体を、常圧下、70〜85℃で3分間浸漬し、無電解めっき処理を行なって、めっき膜が形成された樹脂製品を作製した。
得られた樹脂製品のめっき膜を目視により観察したところ、光輝性の金属光沢を有するめっき膜が形成されていることが確認された。また、めっき膜が形成された面を、23℃、50%RHの環境下、表面抵抗測定器(三菱化学社製,ロレスタGP)により測定したところ、表面抵抗値は2.4E×12Ω/□であった。
図2は、上記で製造された樹脂製品のめっき膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。図2に示すように、金属粒子の粒界が観察され、不連続構造のめっき膜が形成されていることが確認された。
また、めっき膜の密着性を、−40℃と100℃との間で温度を50サイクル切替えるヒートサイクル試験により評価したところ、めっき膜に膨れや剥れは発生せず、優れた密着性を有するめっき膜が形成されていることが確認された。
[実施例2]
実施例1の触媒成分付与工程において、加圧流体を1ショットあたり0.01ml供給した以外は、実施例1と同様にして触媒成分を含有する樹脂成形体を作製した。得られた樹脂成形体の触媒成分の含有量を、実施例1と同様にして測定したところ、溶液試料中のPd濃度は0.2mg/Lであり、表層領域1cmあたりの触媒成分の含有量は、Pd金属換算で0.003mgであった。そして、上記で作製した樹脂成形体を用いた以外は、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された樹脂製品を作製した。
得られた樹脂製品のめっき膜を目視により観察したところ、黒色がかった金属光沢を有するめっき膜が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された面の表面抵抗値を測定したところ、8.7E×12Ω/□であった。さらに、実施例1と同様にして、めっき膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、金属粒子の粒界が観察され、不連続構造のめっき膜が形成されていることが確認された。
また、実施例1と同様にして、めっき膜の密着性を、ヒートサイクル試験により評価したところ、めっき膜に膨れや剥れは発生せず、優れた密着性を有するめっき膜が形成されていることが確認された。
[実施例3]
実施例1の触媒成分付与工程において、加圧流体を1ショットあたり0.24ml供給した以外は、実施例1と同様にして触媒成分を含有する樹脂成形体を作製した。得られた樹脂成形体の触媒成分の含有量を、実施例1と同様にして測定したところ、溶液試料中のPd濃度は4.4mg/Lであり、表層領域1cmあたりの触媒成分の含有量は、Pd金属換算で0.05mgであった。そして、上記で作製した樹脂成形体を用い、めっき処理工程において、めっき時間を1.5分とした以外は、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された樹脂製品を作製した。
得られた樹脂製品のめっき膜を目視により観察したところ、光輝性の金属光沢を有するめっき膜が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された面の表面抵抗値を測定したところ、5.1×E11Ω/□であった。さらに、実施例1と同様にして、めっき膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、金属粒子の粒界が観察され、不連続構造のめっき膜が形成されていることが確認された。
また、実施例1と同様にして、めっき膜の密着性を、ヒートサイクル試験により評価したところ、めっき膜に膨れや剥れは発生せず、優れた密着性を有するめっき膜が形成されていることが確認された。
[比較例1]
実施例1の触媒成分付与工程において、加圧流体を1ショットあたり0.005ml供給した以外は、実施例1と同様にして触媒成分を含有する樹脂成形体を作製した。得られた樹脂成形体の触媒成分の含有量を、実施例1と同様にして測定したところ、溶液試料中のPd濃度は0.1mg/Lであり、表層領域1cmあたりの触媒成分の含有量は、Pd金属換算で0.001mgであった。そして、上記で作製した樹脂成形体を用いた以外は、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された樹脂製品を作製した。
得られた樹脂製品のめっき膜を目視により観察したところ、めっき膜は金属光沢を有していないことが確認された。また、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された面の表面抵抗値を測定したところ、3.6E×15Ω/□であった。
図3は、上記で製造された樹脂製品のめっき膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。図3に示すように、金属粒子の粒界の間隙が非常に大きな不連続構造のめっき膜が形成されていることが確認された。
また、実施例1と同様にして、めっき膜の密着性を、ヒートサイクル試験により評価したところ、めっき膜に剥れが発生し、密着力の低いめっき膜が形成されていることが確認された。
[比較例2]
実施例1の触媒成分付与工程において、加圧流体を1ショットあたり0.36ml供給した以外は、実施例1と同様にして触媒成分を含有する樹脂成形体を作製した。得られた樹脂成形体の触媒成分の含有量を、実施例1と同様にして測定したところ、溶液試料中のPd濃度は6.6mg/Lであり、表層領域1cmあたりの触媒成分の含有量は、Pd金属換算で0.075mgであった。そして、上記で作製した樹脂成形体を用いた以外は、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された樹脂製品を作製した。
得られた樹脂製品のめっき膜を目視により観察したところ、光輝性の金属光沢を有するめっき膜が形成されていることが確認された。また、実施例1と同様にして、めっき膜が形成された面の表面抵抗値を測定したところ、0.2E×01Ω/□であった。
図4は、上記で製造された樹脂製品のめっき膜の表面を走査型電子顕微鏡により観察した写真である。図4に示すように、金属粒子の粒界が殆ど観察されず、金属粒子が連続して形成され、連続構造のめっき膜が形成されていることが確認された。
また、実施例1と同様にして、めっき膜の密着性を、ヒートサイクル試験により評価したところ、めっき膜に膨れや剥れは発生せず、優れた密着性を有するめっき膜が形成されていることが確認された。
次に、実施例及び比較例で作製しためっき膜を形成した樹脂製品について以下の評価を行った。
〔電界及び磁界シールド性〕
めっき膜を形成した樹脂製品の電界及び磁界シールド性は(財)関西電子工業振興センターが定めるKEC法を用いて以下の測定条件で評価した。
めっき膜を形成した樹脂製品を、信号発生器(アンリツ社製,MG3601A)と、スペクトラムアナライザ(アドバンテスト社製,R3261B)との間に配置し、信号発生器から周波数10〜1,000MHzの電磁波を出力して、スペクトラムアナライザでシールドレベルを測定した。電界シールドレベル及び磁界シールドレベルは、下記の一般式(1)を用いて算出した。
シールドレベル(dB)=V−V (1)
上記式中、Vは試料がない場合の伝送レベルを、Vは試料がある場合の伝送レベルである。
図5及び図6に測定結果を示す。なお、実施例1〜3及び比較例1と、比較例2とではシールド効果が顕著に異なるため、図5(a)及び図6(a)に実施例1〜3及び比較例1の測定結果を、図5(b)及び図6(b)に比較2の測定結果を示す。
図5及び図6に示すように、表層領域1cmあたり、触媒成分を、触媒成分の金属換算で0.003〜0.05mg含有する樹脂成形体を無電解めっき処理することにより得られた実施例の樹脂製品には、電界シールド効果及び磁界シールド効果の低いめっき膜が形成されていることが分かる。
100 加圧流体供給部
200 射出成形部
250 金型部

Claims (5)

  1. めっき触媒核となる金属を含む触媒成分を加圧二酸化炭素に分散させた加圧流体を用いて、表面から深さ1μmまでの表層領域1cmあたり、前記触媒成分を、前記触媒成分の金属換算で0.003〜0.05mg含有する樹脂成形体を作製する触媒成分付与工程と、
    前記触媒成分を含有する樹脂成形体を無電解めっき処理するめっき処理工程とを有する非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法。
  2. 前記触媒成分付与工程後、前記めっき処理工程前に、
    前記触媒成分を含有する樹脂成形体を、常圧下で、アルコール含有処理液に浸漬処理するアルコール処理工程をさらに有する請求項1に記載の非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法。
  3. 前記触媒成分付与工程は、
    前記加圧流体と、第1の溶融樹脂とを接触させ、前記触媒成分を付与した第1の溶融樹脂を金型内に射出し、さらに前記触媒成分を付与した第1の溶融樹脂が射出された金型内に、触媒成分を含有しない第2の溶融樹脂を射出することにより、前記触媒成分を含有する樹脂成形体を作製することを含む、請求項1または2に記載の非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法。
  4. 前記加圧流体は、さらにフッ素系有機溶媒を含む請求項3に記載の非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法によって製造される非導通性金属光沢めっき膜を有する樹脂製品。
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CN111441040A (zh) * 2018-12-26 2020-07-24 株式会社杰希优 树脂膜的湿式处理装置
CN111441040B (zh) * 2018-12-26 2024-06-11 株式会社杰希优 树脂膜的湿式处理装置

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