JP2012031988A - 鋼管用ねじ継手 - Google Patents

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Abstract

【課題】シール性と耐圧縮性、さらには、耐ゴーリング性を向上させた、鋼管用ねじ継手を提供する。
【解決手段】ピンノーズ外周面に雄ねじ7側から順に第1、第2の複合R曲線22、32をそれぞれ母線とする面形状の第1、第2のシール部形成箇所を設け、ボックス部材1のノーズ部8内周面に、これを前記第1、第2のシール部形成箇所と干渉させるための、第1、第2のテーパ面21,31形状をもたせることで、ピン部材3とのねじ結合時に、ノーズ部8に第1、第2のシール部20,30が形成されるようにした。
【選択図】図1

Description

本発明は、鋼管用ねじ継手に関し、詳しくは一般に油井やガス井の探査や生産に使用されるチュービングおよびケーシングを包含する油井管、すなわちOCTG(oil country tubular goods)、ライザー管、ならびにラインパイプなどの鋼管の接続に用いるのに好適な、シール性と耐圧縮性に優れた鋼管用ねじ継手に関する。
ねじ継手は、油井管など産油産業設備に使用される鋼管の接続に広く使用されている。オイルやガスの探索や生産に使用される鋼管の接続には、従来API(米国石油協会)規格に規定された標準的なねじ継手が使用されてきた。しかし、近年、原油や天然ガスの井戸は深井戸化が進み、垂直井から水平井や傾斜井が増加していることから、掘削・生産環境は苛酷化している。また、海洋や極地など劣悪な環境での井戸の開発が増加していることなどから、耐圧縮性能、耐曲げ性能、外圧シール性能(耐外圧性能)など、ねじ継手への要求性能は多様化している。そのため、プレミアムジョイントと呼ばれる高性能の特殊ねじ継手を使用することが増加している。
プレミアムジョイントは、通常、テーパねじ、シール部(詳しくはメタルタッチシール部)、ショルダ部(詳しくはトルクショルダ部)をそれぞれ備えるピン部材とボックス部材とを結合した継手である。テーパねじは管継手を強固に固定するために重要であり、シール部はボックス部材とピン部材とがこの部分でメタル接触することでシール性を確保する役目を担い、ショルダ部は継手の締付け中にストッパの役目を担うショルダ面となる。
図2〜図4は、油井管用プレミアムジョイントの模式的説明図であり、これらは、円管のねじ継手の縦断面図である。ねじ継手は、ピン部材3とこれに対応するボックス部材1とを備えており、ピン部材3(ピン3)は、その外面に雄ねじ7と、ピン3の先端側に雄ねじ7に隣接して設けられたノーズ部8(ピンノーズ8)と呼ばれるねじ無し部とを有する。ノーズ部8は、その外周面にシール部11を、その端面にはトルクショルダ部12を有する。相対するボックス部材1は、その内面に、それぞれピン3の雄ねじ7、シール部11、およびショルダ部12と螺合するか、または接触することができる部分である、雌ねじ5、シール部13、および、ショルダ部14を有している。
前記プレミアムジョイントに関する従来技術として、特許文献1〜6が挙げられる。
特許第4535064号公報 特許第4208192号公報 実公昭61−44068号公報 特許第4300187号公報 特開2001−124253号公報 特許第2705506号公報
図2〜図4の例では、メタルタッチシール部はピンノーズ8の先端部にあるが、特許文献1には、耐外圧性能を増すために、ピンノーズ8のねじ部近くにメタルタッチシール部を設け、ノーズ部をシール部からショルダ部まで長く伸ばすものも提案されている。この特許文献1に開示されるねじ継手においては、ボックス部材と非接触なピンノーズを、シール部とは不連続な形状となるように長く伸ばしてピンノーズの厚みが薄くならないように構成されており、前述の耐外圧性能の他に、耐軸圧縮性能の向上も実現している。
また、特許文献2には、同様にシール部からピンノーズ先端にアペンディックスなる、これもシール部と不連続な形状を有する部位を設けて、半径方向の剛性を確保し軸方向の剛性を下げて、締付け時にこのアペンディックスを変形させ、引張力の負荷時にその回復により、耐引張性能を向上させることが記載されている。
これら、特許文献1,2に記載されるように、シール部位置をピンのねじ部位置近くに置き、ピンノーズ先端から離すことは、耐外圧性能、耐引張性能の向上とともに、ねじに対して安定的な性能を持たせる上で有効であり、それはFEMシミュレーション等からも確認できる。またシール部と不連続な形状となるピンノーズは、強い軸圧縮力が負荷された場合に、それ自体が変形し、ボックス部材のトルクショルダ部の塑性変形を軽減させる効果もある。しかし、一方で、不連続部に不正な変形が入ることもあり、これは締付けトルクに依存すると考えられる。
締付けトルクは潤滑条件、表面性状等に影響されるので、これに大きくは依存しない設計として、半径方向のシール接触圧力を強くした半径方向シール方式がある。例えば、特許文献3には、大きなピンシールR形状を持ち、シールテーパ角を小さくした半径方向シール方式の例が開示されている。しかし、このようにシールテーパ角を小さくした、半径方向シール方式の問題点は、締付け時にゴーリングが発生し易い点にある。また、半径方向シール方式では、シール性能の確保およびシールの安定性のために、シール干渉量を大きくとる必要があり、ゴーリングの発生のし易さは更に大きくなる。
特許文献4には、これらの問題を解決するために、トロイド状(円錐曲線回転面形状)ピンシール面の半径を大きく規定することで、シール接触領域を大きくし、接触圧力を低下させている。この対策は有効であり、メタルタッチシール部のゴーリングリスクを大きく軽減できる。しかし、大きなRをとり接触圧力を低下させることで、何らかの僅かなトラブルで接触圧力の低下が生じ、メタルタッチシール部に微小なリークパスが出来た場合、リークが容易には止まらないという問題がある。また、大きなRであるが故に、メタルタッチシール部をノーズ先端から離すことが物理的に困難であり、メタルタッチシール部とピンノーズ先端の長さをある程度以上に確保する場合、ピンノーズ先端の厚みが小さくなりすぎることにも繋がる。
耐軸圧縮性能に関しては、特許文献5や特許文献6に記載されるように、ねじ部におけるスタブフランク側の隙間を小さくすることが有効である。但し、この隙間が小さすぎる場合には、ねじ部にゴーリングが発生し易くなるため、適切な隙間をとる必要がある。
以上説明したように、従来提案されているねじ継手においては、未だ何らかの問題を有しており、上述した耐圧縮性能、耐曲げ性能、外圧シール性能など、ねじ継手への要求性能の多様化に十分応えるためには、更なる改良の余地がある。本発明は、このような事情に鑑みて、シール性と耐圧縮性、さらには、耐ゴーリング性を向上させた、鋼管用ねじ継手を提供することを目的とする。
前述した課題を解決するための手段を見出すべく、発明者らは鋭意検討を重ね、以下の要旨構成になる本発明をなすに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 雄ねじ部と、該雄ねじ部より管端側に延在するノーズ部と、該ノーズ部の先端に設けられたショルダ部とを有するピン部材と、
前記雄ねじ部とねじ結合される雌ねじ部と、前記ピン部材のノーズ部外周面に相対するノーズ部内周面と、前記ピン部材のショルダ部に当接するショルダ部とを有するボックス部材とを有し、
前記ねじ結合により前記ピン部材とボックス部材とが結合されてピン部材のノーズ部外周面とボックス部材のノーズ部内周面とが継手軸方向の2箇所でメタル‐メタル接触しその2つの接触箇所がそれぞれ、前記ノーズ部の先端から遠くて比較的長い第1のシール部と、ショルダ部に近くて比較的短い第2のシール部とをなす鋼管用ねじ継手であって、
前記ピン部材の第1のシール部形成箇所ではノーズ部外周面の母線が、雄ねじ部に隣接する円筒形状部の母線に相異なる曲率半径Rを有する複数の円弧をピン軸方向断面視で外側に凸状となるように順次滑らかに接続してなる第1の複合R曲線であり、該第1の複合R曲線は、雄ねじ部から遠ざかるにつれて曲率半径Rが大きくなるものとし、
前記ボックス部材のノーズ部内周面は、前記ねじ結合時にピン部材の前記第1、第2のシール部形成箇所とそれぞれ干渉する第1、第2のテーパ面を含むものとした
ことを特徴とする、鋼管用ねじ継手。
(2) 前記第1の複合R曲線内の各円弧がなす角度は、前記雄ねじ部に近い円弧のものほど大きいことを特徴とする前記(1)に記載の鋼管用ねじ継手。
(3) 前記第1の複合R曲線内の円弧の接続点のいずれかが前記ボックス部材の第1のテーパ面のタンジェントポイントになることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の鋼管用ねじ継手。
(4) 前記第1のテーパ面は、ボックス軸方向となす角度が10度以内であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(5) 前記ピン部材のノーズ部の長さが20mm以上であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(6) 前記ピン部材の第2のシール部形成箇所ではノーズ部外周面の母線が、前記第1の複合R曲線に滑らかに接続される曲線であって、相異なる曲率半径Rを有する複数の円弧をピン軸方向断面視で外側に凸状となるように順次滑らかに接続してなる第2の複合R曲線であり、該第2の複合R曲線は、雄ねじ部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものとしたことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(7) 前記第2のテーパ面は、ボックス軸方向となす角度が45度以内であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(8) 前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、スタブフランク角度が0度〜30度の範囲内であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(9) 前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、ロードフランク角度が−5度〜4度の範囲内であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(10) 前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、ねじ結合時のねじ隙間が0.01〜0.1mmの範囲内であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(11) 前記ショルダ部のショルダ角度が0度〜20度の範囲内であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(12) 前記雄ねじ部及び雌ねじ部のねじテーパ量が1/32〜1/12の範囲内であることを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(13) 前記第2のシール部のシール干渉量を前記第1のシール部のそれと同じか、それよりも小さくしたことを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
(14) 前記(1)〜(13)のいずれかにおいて、順次滑らかに接続してなる曲線に代えて、順次滑らかに直接もしくは線分を介して接続してなる曲線としたことを特徴とする鋼管用ねじ継手。
なお、前記(1)〜(14)において、滑らかに接続するとは、相互に接続する二円弧が相互の接続点上に共通接線を有することを意味する。
本発明によれば、シール性と耐圧縮性、さらには、耐ゴーリング性を向上させた、鋼管用ねじ継手を得ることが可能となる。
本発明の実施形態に係る鋼管用ねじ継手のノーズ部付近を示す断面図 従来の鋼管用ねじ継手を示す断面図 図2におけるピンノーズ付近を示す拡大断面図 図2におけるねじ部分を示す拡大断面図 ねじ隙間、ロードフランク角度、スタブフランク角度の定義を示す断面図 リークテストシミュレーションにおける負荷履歴を示すチャート図 本発明の実施形態(図1のそれとは異なる)に係る鋼管用ねじ継手のノーズ部付近を示す断面図
上述のとおり、ノーズ先端から離れた位置にシール部を設け、ノーズ部をシール部からショルダ部まで長く伸ばすことは、耐外圧性能、耐引張性能の向上とともに、ねじに対して安定的な性能を持たせる上で有効である。そこでさらに、発明者らは、シール部をねじ部により近づけることができ、かつ、ピンノーズ先端の厚みが小さくなり過ぎないようにするための、シール部周辺の形状について検討した。
その結果、
(i)ねじ結合時に、ピン部材のノーズ部外周面とボックス部材のノーズ部内周面とが継手軸方向の2箇所でメタル‐メタル接触しその2つの接触箇所がそれぞれ、ノーズ先端から離れて比較的長い第1のシール部と、ショルダ部に近くて比較的短い第2のシール部とをなすようにすること、
(ii) ピン部材の第1のシール部形成箇所ではノーズ部外周面の母線が、雄ねじ部に隣接する円筒形状部の母線に相異なる曲率半径Rを有する複数の円弧をピン軸方向断面視で外側に凸状となるように順次(直接もしくは線分を介して)滑らかに接続してなる曲線すなわち第1の複合R曲線であり、該第1の複合R曲線は、雄ねじ部から遠ざかるにつれて曲率半径Rが大きくなるものとすること、及び
(iii) ボックス部材のノーズ部内周面は、前記ねじ結合時にピン部材の前記第1、第2のシール部形成箇所とそれぞれ干渉する第1、第2のテーパ面を含むものとすること、
という条件を満たすことで、ピンノーズ先端の厚みを小さくせずに、シール部をねじ部に近づけることが可能であるとの発想に至った。
図1は、本発明の実施形態に係る鋼管用ねじ継手のノーズ部を示す断面図であり、(a)はピン部材3を、(b)はボックス部材1を、(c)はピン部材3とボックス部材1とを結合した状態を示す。ピン部材3は、鋼管の端部に設けられるものであり、雄ねじ部7と、該雄ねじ部7より管端側に連なるノーズ部8と、該ノーズ部8の先端に設けたショルダ部12とを有する。一方、ボックス部材1は、ピン部材3の雄ねじ部7とねじ結合される雌ねじ部5と、前記ねじ結合によるピン部材3とボックス部材1との結合状態下でノーズ部8の外周面(ノーズ部外周面)に対向するボックス部材1の内周面(ノーズ部内周面)と、ショルダ部12に当接されるショルダ部14とを有している。
ピン部材3とボックス部材とは、それらの結合状態において、図1(c)に示すとおりピン部材3のノーズ部外周面とボックス部材1のノーズ部内周面とが継手軸方向の2箇所でメタル‐メタル接触しその2つの接触箇所がそれぞれ、ノーズ先端から離れて比較的長い第1のシール部20と、ショルダ部12に近くて比較的短い第2のシール部30とをなすように設計されている。
設計条件として、例えば図1(a)のように、ピン部材3の第1のシール部形成箇所ではノーズ部外周面の母線が、雄ねじ部に隣接する円筒形状部の母線Nに相異なる曲率半径R、R,Rを有する複数(例えば3つ)の円弧をピン軸方向断面視で外側に凸状となるように順次滑らかに接続してなる曲線すなわち第1の複合R曲線22であり、該第1の複合R曲線22は、雄ねじ部7から遠ざかるにつれて曲率半径Rが大きくなる、すなわちR<R<Rであるものとする。
なお、ピン部材の第2のシール部形成箇所ではノーズ部外周面の母線が、前記第1の複合R曲線22に滑らかに接続される曲線であって、相異なる曲率半径Rを有する複数の円弧をピン軸方向断面視で外側に凸状となるように順次(直接もしくは線分を介して)滑らかに接続してなる曲線すなわち第2の複合R曲線32であり、該第2の複合R曲線32は、雄ねじ部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものとするのが好ましい。
一方、ボックス部材1のノーズ部内周面は、図1(b)のように、前記ねじ結合時にピン部材3の前記第1、第2のシール部形成箇所(前記第1、第2の複合R曲線22,32がそれぞれ母線となるノーズ部内周面箇所)とそれぞれ干渉する第1、第2のテーパ面21,31を含むものとする。第1、第2のテーパ面21,31のテーパ角α、αは、それぞれのテーパ面がボックス軸方向となす角度でもって定義される。
ピン部材3とボックス部材1とを結合させると、第1のテーパ面21が第1の複合R曲線22を母線とするノーズ部外周面箇所と干渉して第1のシール部20が形成され、かつ、第2のテーパ面31が第2の複合R曲線32を母線とするノーズ部外周面箇所と干渉して第2のシール部30が形成される。前記テーパ角α、αは、ピン部材3とボックス部材1との仮想的無干渉結合状態における継手軸方向断面視で、第1のテーパ面21の母線が第1の複合R曲線22と2点で交わり、かつ第2のテーパ面31の母線が第2の複合R曲線32と2点で交わるように設定され、実際にはそれぞれの2交点の間の範囲内に第1、第2のシール部20,30は形成される。第1、第2のシール部20,30の各シール干渉量S,Sは、前記仮想的無干渉結合状態においてピンノーズ外周面には第1、第2のテーパ面のそれぞれから外側への仮想的張り出し部分が生じるが、該仮想的張り出し部分の、第1、第2テーパ面からの最大張り出し量でもって定義される。
なお、例えば図7に示すように、ボックス部材の内周面は、第1のテーパ面21と第2のテーパ面31とを円筒面部40を介して接続してなる面形状としてもよい。
第1の複合R曲線内の円弧の曲率半径Rを雄ねじ部7から遠ざかるほど大きくなるように(R1<R2<R3)したことにより、ピンノーズ8先端のショルダ部12の厚み(ショルダ厚み)tを大きくとることが可能となる。
比較として第1の複合R曲線22に代えて単一R曲線M(曲率半径Rの単一円弧)とし、第1のシール部20の継手軸方向長さは同等とした場合を図1中に破線で示したが、かかる単一R曲線Mでは第1の複合R曲線22の場合に比較してショルダ厚みが小さくなってしまうことがわかる。ショルダ厚みが小さくなると、ピンノーズ8の剛性が不足し、第1のシール部20の接触面圧を適正に確保できなくなる。逆に、単一R曲線でショルダ厚みを確保しようとすると、第1のシール部20の位置がショルダ部に近づくこととなり、耐外圧性能、耐引張性能の確保の観点から好ましくない。
また、第1、第2の複合R曲線は、Rの相異なる複数の円弧を滑らかに接続したものであるから、当該曲線上に屈曲点が存在しない連続的な曲線形状となり、ノーズ部の不正な変形が抑制される。尚、前記接続される両円弧同士は、直接接続してもよく、又、前記円弧同士の共通接線と重なる線分を介して接続してもよい。
ここで、第1の複合R曲線内の各円弧N1,N2,N3のなす角度θ123は、雄ねじ部7に近い円弧のものほど大きい(すなわち、θ1>θ2>θ3である)ことが好ましい。さもないと、限られたピン部材3のノーズ部8の長さ(図1(a)中のピンノーズ長さL)あるいは限られた第1のシール部の長さ(第1のシール接触長さという)の中で第1の複合R曲線を設計するのが困難となる。
さらに、第1の複合R曲線における円弧の接続点、例えば、円弧N1とN2との接続点、及び、円弧N2とN3との接続点、のいずれかが、第1のテーパ面21と最初に接触する点を意味するタンジェントポイントと一致していることが好ましい。第1の複合R曲線内の円弧の接続点のいずれかをタンジェントポイントにすることで、第1のシール部20の接触面圧分布には、Rが大きくて面圧が低く接触長が長い部位と、Rが小さくて面圧が高く接触長が短い部位とができ、リークパスができにくく極限シール性能が向上する。
なお、タンジェントポイントは、第1のシール部をノーズ先端から離す観点から、雄ねじ部先端からの距離が0.7L(上述のとおりLはピンノーズ長さである)以下になる位置に置くのがよい。更には、タンジェントポイントの雄ねじ部先端からの距離が0.2L未満となると、締め付けの際、シール部とねじ部の干渉が生じ易くなるため、0.2L以上が良い。更に、安全のためには0.3L以上が良い。
ボックス部材1の第1のテーパ面21のテーパ角αは10度以内であることが好ましい。テーパ角αを10度以内、更に好ましくは5度以内とすることで、半径方向シール方式が好適に実現でき、シール性能の締付けトルク依存性が比較的低くなる。
ピンノーズ長さLは、20mm以上であることが好ましい。これによれば、シール部がピンノーズ先端から十分離間し、その結果、この離間距離範囲内の弾性変形により、シール部へのダメージをより大きく軽減できるため、シール性能の安定化に効果的である。シール性能が安定化するため、第1のシール干渉量S(図1(c)参照)は、半径方向シール方式としては比較的小さくとることが可能であり、ゴーリングリスクが小さい。
なお、第1の複合R曲線内の2種類以上のRは、比較的小さいRについては1インチ以下、比較的大きいRについては2インチ以上、さらに大きいRについては3インチ以上にとるのが好ましい。詳しくは、第1の複合R曲線の複数のRのうち少なくとも1つを2インチ以上(より好ましくは3インチ以上)、残りのRを少なくとも1つを2インチ未満(より好ましくは1インチ以下)とすることが好ましい。複合R曲線の複数のRのうち少なくとも1つを2インチ以上(より好ましくは3インチ以上)とすることで、シール部の接触長さを確保し易くなり、残りのRを少なくとも1つを2インチ未満(好ましくは1インチ以下)とすることで、高い面圧を達成し易くなる。
また、第1の複合R曲線内の円弧の個数(相異なるRを持つ円弧の個数)は、2個でもよく、図1に例示した3個でもよく、あるいは4個以上でもよい。円弧の個数が増えるとシール接触長さがより大きくなり、よりシール性能を向上させやすいが、実際の製造における負荷や寸法確認などの手間が増えたりもするから、円弧の個数は実際にねじ継手に要求される性能に応じて設計するのがよい。
また、第2のシール部を設けたことによる効果は、軸圧縮状態からやや引張気味の外圧シール性が向上する点にあることを発明者らは見出した。但し、この効果は、第2のシール部の形成に関与する第2のテーパ面のテーパ角αが45度を超えた場合、目立たなくなるため、αは45度以内とするのが好ましい。更に、この効果が、一旦軸圧縮を経た後の軸引張り+内圧(最も厳しいテスト条件)付与時のシール性向上に良い効果を与える。
また、発明者らは第2のシール部のシール干渉量Sを前記第1のシール部のシール干渉量Sと同じか、これよりも小さくすることで、シール性能全体が向上することを見出した。なお、好ましくは、S/2≦Sかつ、S≦Sである。
上記のノーズ部の形状限定に加えて、雄ねじ部と雌ねじ部とについて、ロードフランク角度、スタブフランク角度、ねじ隙間、ねじデーパ量のいずれか1種又は2種以上を好適範囲に規定することで、それらの組み合わせ効果によって、よりシール性能が全体的に向上することが確認された。ここで、ロードフランク角度は、図5に示すロードフランク角度β、すなわち、ロードフランク面18が継手軸直交面(ねじ継手の軸方向と直交する面の意。以下同じ)に対してなす角度βである。また、スタブフランク角度は、図5に示すスタブフランク角度γ、すなわち、スタブフランク面19が継手軸直交面に対してなす角度γである。また、ねじ隙間は、図5に示すねじ隙間G、すなわち、雄ねじのねじ山7aとこれに噛み合う雌ねじのねじ溝5aとの隙間Gである。また、ねじテーパ量は、雄ねじ(又は雌ねじ)のねじ山頂部(又はねじ溝底部)を通るテーパ面が継手軸方向となす角度のタンジェント値である。
ロードフランク角度βの好適範囲は−5度〜4度であり、該好適範囲の下限はねじ部の耐ゴーリング性と工具寿命の観点から、上限は耐曲げ性の観点から、それぞれ定められた。
スタブフランク角度γの好適範囲は0度〜30度であり、該好適範囲の下限はねじ部の耐ゴーリング性と工具寿命の観点から、上限は耐軸圧縮性の観点から、それぞれ定められた。
ねじ隙間Gの好適範囲は0.01〜0.1mmであり、該好適範囲の下限はゴーリングリスクを軽減する観点から、上限は軸圧縮負荷時にピン先端の負担を軽減させる観点から、それぞれ定められた。なお、ねじ切り時のリードの誤差を考慮すると、ねじ隙間Gは小さくとも0.03mm程度が好ましい。また、ねじ隙間Gは0.045mm程度で十分な性能を効果的に発揮できることを見出したので、状況に応じて0.045mm程度としてもよい。
ねじテーパ量の好適範囲は1/32〜1/12である。
ロードフランク角度、スタブフランク角度、ねじ隙間、ねじテーパ量の1種又は2種以上を上記のとおりに規定することによるシール性能の全体的向上効果は、特に、一旦軸圧縮を負荷した後の軸引張+内圧もしくは外圧を負荷する条件下で顕著である。
また、ショルダ部のショルダ角度(ショルダ部の継手軸方向の端面が継手軸直交面に対してなす角度であり、当該界面のピン外周側がピン内周側からみて継手軸方向外側に張り出す場合を正の角度とする)は、0度〜20度であることが好ましい。ショルダ角度が0度未満ではシール性能や締め付け特性の点で不利となり、一方、20度超ではボックスショルダ部の塑性変形や、シール部の局所変形が発生し易いという点で不利となる。好ましくは15度以下がよい。更に状況に応じては、7度以下が好ましい。
発明例として、図1または図7に示した、あるいは図1において第1の複合R曲線の円弧のいずれか2つを線分を介して接続した形態とした、本発明に係る鋼管用ねじ継手について、ISO13679に準拠したリークテストをシミュレートし、この際のシール部での接触面積圧(ksi・inch)をFEM解析により求めた。なお、接触面積圧=接触面圧×シール接触長さ、であり、積分計算で求める。このリークテストは、鋼管用ねじ継手に対し、素材の降伏条件の95%に対応した2軸応力、および、内圧、外圧を、図6に示す履歴で負荷させるものである。
また、ねじ締付け時のゴーリングリスクを表す指標として、締付け開始から完了までのシール部の軸方向各位置における摺動距離(inch)と接触面圧(psi)との積で定義した、ゴーリング指標(psi・inch)=接触面圧×摺動距離、の値をFEM解析により求めた。これも積分計算で求める。ゴーリング指標が小さいほどゴーリングリスクは小さいといえる。
また、比較として、
・比較例1:ピンノーズ8の外周面の母線を単一のRを有する凸状の曲線(図1に破線で示した単一R曲線M)形状とし、かつ第2のシール部は設けないとした場合、
・比較例2:ピン部材の第1のシール部形成箇所のノーズ部外周面の母線を第1の複合R曲線としたが、円弧のRが雄ねじ部7から遠ざかるほど大きくなるという要件を満たさないとした場合、
について、同様に接触面積圧およびゴーリング指標を求めた。
発明例および比較例について、ねじ継手の各部寸法と併せて、FEM計算で求めた接触面積圧およびゴーリング指標を表1に示す。なお、接触面積圧は、いずれの例も図6の履歴中のロードステップL18近傍(2軸引張応力+内圧)において極小値(最もリークが起こり易い状態に相当)を示した。このロードポイントは、ISO13679では規定が無いものであるが、内圧+引張り条件では、最も厳しい条件であり、必要とされることもあるため、ここでの比較とした。また、一度、圧縮履歴を受けた後であるロードステップL18は、圧縮履歴を受ける前の同じロードポイントL3より、シール性能が低下するため、L18での比較がよい。表1には各例の接触面積圧の極小値を相対極小値(全例の中で最小の極小値を100とし、他はこれに対する比で表したもの)で表示した。また、ゴーリング指標は、極大値(最もゴーリングリスクが高い状態に相当)を示す継手軸方向位置が例ごとに異なった。表1には各例のゴーリング指標の極大値を相対極大値(全例の中で最大の極大値を100とし、他はこれに対する比で表したもの)で表示した。尚、いくつかのサンプルを作り、物理テストを実施して、本実施例における干渉量水準では、外圧の条件ではリークが無いことを確認した。問題となるのはQ1のみであり、干渉量を小さくすると、一旦軸圧縮を経た後のL18でリークが発生する。
表1より、発明例ではいずれも、比較例に比べ、接触面積圧が高いにもかかわらずゴーリング指標が同程度であり、シール性および耐ゴーリング性に優れたねじ継手が実現したことがわかる。
Figure 2012031988
1 ボックス部材
3 ピン(ピン部材)
5 雌ねじ(雌ねじ部)
5a 雌ねじのねじ溝
7 雄ねじ(雄ねじ部)
7a 雄ねじのねじ山
8 ノーズ部(ピンノーズ)
11、13 シール部(詳しくはメタルタッチシール部)
12、14 ショルダ部(詳しくはトルクショルダ部)
18 ロードフランク面
19 スタブフランク面
20 第1のシール部
21 第1のテーパ面
22 第1の複合R曲線
30 第2のシール部
31 第2のテーパ面
32 第2の複合R曲線
40 円筒面部

Claims (14)

  1. 雄ねじ部と、該雄ねじ部より管端側に延在するノーズ部と、該ノーズ部の先端に設けられたショルダ部とを有するピン部材と、
    前記雄ねじ部とねじ結合される雌ねじ部と、前記ピン部材のノーズ部外周面に相対するノーズ部内周面と、前記ピン部材のショルダ部に当接するショルダ部とを有するボックス部材とを有し、
    前記ねじ結合により前記ピン部材とボックス部材とが結合されてピン部材のノーズ部外周面とボックス部材のノーズ部内周面とが継手軸方向の2箇所でメタル‐メタル接触しその2つの接触箇所がそれぞれ、前記ノーズ部の先端から遠くて比較的長い第1のシール部と、ショルダ部に近くて比較的短い第2のシール部とをなす鋼管用ねじ継手であって、
    前記ピン部材の第1のシール部形成箇所ではノーズ部外周面の母線が、雄ねじ部に隣接する円筒形状部の母線に相異なる曲率半径Rを有する複数の円弧をピン軸方向断面視で外側に凸状となるように順次滑らかに接続してなる第1の複合R曲線であり、該第1の複合R曲線は、雄ねじ部から遠ざかるにつれて曲率半径Rが大きくなるものとし、
    前記ボックス部材のノーズ部内周面は、前記ねじ結合時にピン部材の前記第1、第2のシール部形成箇所とそれぞれ干渉する第1、第2のテーパ面を含むものとした
    ことを特徴とする、鋼管用ねじ継手。
  2. 前記第1の複合R曲線内の各円弧がなす角度は、前記雄ねじ部に近い円弧のものほど大きいことを特徴とする請求項1に記載の鋼管用ねじ継手。
  3. 前記第1の複合R曲線内の円弧の接続点のいずれかが前記ボックス部材の第1のテーパ面のタンジェントポイントになることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管用ねじ継手。
  4. 前記第1のテーパ面は、ボックス軸方向となす角度が10度以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  5. 前記ピン部材のノーズ部の長さが20mm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  6. 前記ピン部材の第2のシール部形成箇所ではノーズ部外周面の母線が、前記第1の複合R曲線に滑らかに接続される曲線であって、相異なる曲率半径Rを有する複数の円弧をピン軸方向断面視で外側に凸状となるように順次滑らかに接続してなる第2の複合R曲線であり、該第2の複合R曲線は、雄ねじ部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものとしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  7. 前記第2のテーパ面は、ボックス軸方向となす角度が45度以内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  8. 前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、スタブフランク角度が0度〜30度の範囲内であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  9. 前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、ロードフランク角度が−5度〜4度の範囲内であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  10. 前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とは、ねじ結合時のねじ隙間が0.01〜0.1mmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  11. 前記ショルダ部のショルダ角度が0度〜20度の範囲内であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  12. 前記雄ねじ部及び雌ねじ部のねじテーパ量が1/32〜1/12の範囲内であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  13. 前記第2のシール部のシール干渉量を前記第1のシール部のそれと同じか、それよりも小さくしたことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の鋼管用ねじ継手。
  14. 請求項1〜13のいずれかにおいて、順次滑らかに接続してなる曲線に代えて、順次滑らかに直接もしくは線分を介して接続してなる曲線としたことを特徴とする鋼管用ねじ継手。
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