JP2012012372A - 新規な非晶質ボセンタン及びその製造方法 - Google Patents

新規な非晶質ボセンタン及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
ボセンタンは、N−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチルベンゼンスルホンアミドであり、エンドセリン受容体拮抗薬を有し、肺動脈性高血圧症の治療剤として用いられている。ボセンタンは難溶性の薬物のため、水への溶解性を向上させることによるバイオアベイラビリティーの向上及びその工業的に簡便な向上方法が求められている。
【解決手段】
ボセンタンを溶媒法、溶融法、メカノケミカル法などによって非晶質ボセンタンとすることによって、従来の製造方法よりも簡便で短時間に製造でき、さらには溶解性を向上させることができる。
【選択図】図4

Description

本発明は、ボセンタンの水への溶出性及び長期安定性が高い新規な非晶質ボセンタン及びその製法、並びにその非晶質ボセンタンを含む医薬組成物に関する。
ボセンタンは、下式の構造でN−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−4−tert−ブチルベンゼンスルホンアミドであり、エンドセリン受容体拮抗薬として知られている。該ボセンタンは高血圧、虚血性、血管攣縮及び狭心症などの心血管疾患の治療に有用であり、肺動脈性肺高血圧症の治療薬として使用されている。ボセンタンの合成方法は、米国特許5,292,740号公報、米国特許6,136,971号公報において示されている。
ボセンタン及びその誘導体は、難水溶性であり、特にpH5以下では溶解濃度が0.03mg/mL未満であり、バイオアベイラビリティーを高めるためには、水への溶解性を高めること、さらにはこの溶解性が3年以上維持されることが求められている。
一般に、難溶性の薬物の水への溶解濃度を向上させるには、平均粒子径をナノサイズまで粉砕する方法、シクロデキストリンなどで包接化する方法、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどの多孔性担体に吸着させる方法、乳化などによりマイクロスフェアにする方法、及び非結晶化する方法などが知られている。
これまで、ボセンタンの水への溶解性を向上させる方法としては、ボセンタンを溶解性の高い結晶系に結晶構造を変えることや非結晶化する方法が知られている。特許文献1には、ボセンタンをt―ブチルメチルエーテルとジクロロメタンに熱時溶解後冷却し、析出した固体を濾取し、真空乾燥により非晶質ボセンタンを得る方法(溶媒析出法)が記載されている。特許文献2には、ボセンタンをメタノール、アセトニトリル、塩化メチレンに熱時溶解後に濾過し、溶媒を真空下に除去して非晶質ボセンタンを得る方法(溶媒留去法)が記載されている。特許文献3には、ボセンタンを有機溶媒に溶解後に溶媒を留去し、残渣にヘプタンなどの貧溶媒を加えて固体を析出させて濾取し、熱時乾燥により非晶質ボセンタンを製造する方法が記載されている。
薬物の非結晶体は、投与まで非晶質状態を維持することが必須である。非晶質状態から結晶状態に転移すると溶解濃度が極端に低下し、医薬品としての効用は極めて低下する。そのため、非晶質ボセンタンにおいてもボセンタンの非晶質状態を長期間に渡って維持することが必要とされる。また、溶解濃度は消化管から吸収されるまでの間の時間は持続する必要がある。これまでの先行技術では、ボセンタンの非晶質状態の安定性や水への溶解濃度の維持が充分ではなかった。
噴霧法によって製造された非晶質ボセンタンは、結晶ボセンタンよりも極めて溶解濃度が高く、さらには従来の非晶質ボセンタンに比べて溶解濃度が飛躍的に向上すること、並びに非晶質状態の維持に係わる長期安定性が飛躍的に高いことは知られてはいない。
国際公開2008/135795号パンフレット 国際公開2009/047637号パンフレット 国際公開2009/083739号パンフレット
水への高い溶出性及びその長期の安定性を兼ね備えたボセンタン、並びにそのボセンタンの簡便な製造方法が求められている。
ボセンタンを噴霧法により非晶質ボセンタンを簡便に製造することができ、その新規な非晶質ボセンタンは水への溶出性の向上と長期安定性を有する。
本発明の噴霧法によって新規な非晶質ボセンタンを簡便に工業的に製造し、さらには実質的に全てを非晶質状態とした非晶質ボセンタンを製造することができる。本発明の製法による非晶質ボセンタンは従来のボセンタンよりもバイオアベイラビリティーを向上させ、作用開始時間の短縮、薬剤投与量と副作用を減少させることができる。また、長期安定性が向上しているためより生産に適した製造方法や保存を簡便にすることができる。結晶ボセンタンに比べて溶出改善する事はバイオアベイラビリティーの向上のみならず、固体差変動・食事の影響などを減少させるため、患者への服薬コンプライアンス向上並びに難治性疾患に対する患者のアドヒアランス向上を行うことができる。
製造後の実施例1及び比較例1〜5の溶解濃度変化である。 製造後の実施例1及び比較例1〜5のX−RDチャートである。 製造後の実施例1及び比較例1〜5のDSCチャートである。 安定性試験後の実施例1及び比較例1、2、4、5の溶解濃度変化である。 安定性試験後の実施例1及び比較例1、2、4、5のX−RDチャートである。 安定性試験後の実施例1及び比較例1、2、4、5のDSCチャートである。
本発明において、溶出性が高いとは溶解濃度自体が大きくなっていることに加えて、経時的に高い溶解濃度が低下せずに実質的に維持されていることを指す。長期安定性が高いとは、非晶質状態を長期にわたって維持することに加えて、溶解性も長期にわたって維持していることを指す。本発明では、長期安定性としては、一般的な加速安定性試験である温度40℃相対湿度75%の条件で1週間保持することで代用される。
本発明の噴霧法による新規な非晶質ボセンタンについて以下に述べる。
本発明の非晶質ボセンタンは、実質的に結晶ボセンタンを含んでいない非晶質ボセンタンである。本発明の非晶質ボセンタンは、後述の粉末X線構造解析によって結晶が実質的に確認されない。本発明の非晶質ボセンタンは、熱分析によってボセンタン結晶特有の113℃付近の吸熱ピークが確認されず、85℃付近に小さな吸熱ピークが確認される。平均粒子径は、医薬組成物に配合可能で溶出性が適している範囲で有ればよく、平均粒子径は0.1〜500μm、好ましくは1〜300μm、最も好ましくは2〜150μmである。なお、平均粒子径はレーザー測定による積算径のD50の値である。
本発明の新規な非晶質ボセンタンは、化学組成としては、ボセンタン無水物、ボセンタン一水和物、ボセンタン多水和物、ボセンタンナトリウム、ボセンタンカリウム、ボセンタンカルシウム、ボセンタンバリウム及びその他医薬品に許容されるボセンタン塩である。これらを2種以上組み合わせることができる。好ましくは、ボセンタン無水物、ボセンタン一水和物である。
本発明の非晶質ボセンタンは、水溶液中で結晶ボセンタンよりも水への溶出性能が高い。日本薬局方で行われている溶出試験であるpH6.8の溶液で、本発明の非晶質ボセンタンは結晶ボセンタンよりも溶解濃度は1.5倍以上高く、好ましくは4倍以上高く、より好ましくは8倍以上高い。これらの溶解濃度は、水に添加60〜120分後の溶解濃度、好ましくは120分後の溶解濃度で比較する。ボセンタンは胃から小腸までの長い時間に渡って吸収されるため、溶解濃度の保持時間は長い方が好ましい。
本発明の非晶質ボセンタンは、長期間にわたって非晶質状態を維持することができる。このため溶出性も高い状態で維持している。実施例に述べる加速安定性試験(虐待試験)での温度40℃相対湿度75%の条件では、非晶質状態は少なくとも1週間保持している。
温度40℃相対湿度75%で1週間の加速安定性試験の後、pH6.8の溶液で120分後の溶解濃度において、本発明の非晶質ボセンタンは結晶ボセンタンよりも溶解濃度は1.5倍以上高く、好ましくは4倍以上高く、より好ましくは8倍以上高い。
本発明の非晶質ボセンタンは、噴霧法以外の製法−溶媒析出法、溶媒留去法、溶融法、メカノケミカル法、エクストルーダー法など一般に行われている非結晶化方法による非晶質ボセンタンよりも、ボセンタンの溶出性が高く、さらには非晶質状態の安定性が高いため長期間にわたって高い溶出性を維持している。本発明において、溶媒留去法とは、噴霧法以外の方法であって、ボセンタンを溶媒に溶解したのち、溶媒を除去する方法をさす。例えば、減圧下で容器内の溶液から溶媒を除去する方法、凍結乾燥法などがあげられる。
例えば、溶媒留去法による非晶質ボセンタンは、製造直後は非晶質状態であり溶出性が高い場合がある。しかし、長期間にわたっては非晶質状態を維持することができず、溶出性の低下を起こす。加速安定性試験の温度40℃相対湿度75%の条件下では、1週間後に結晶を形成し、溶解濃度の低下を生じる。この加速試験後、pH6.8水溶液に添加後120分で、本発明の非晶質ボセンタンの溶解濃度は、溶媒留去法による非晶質ボセンタンに対して、1.5倍以上、好ましくは2倍以上である。
溶媒析出法、溶融法、メカノケミカル法による非晶質ボセンタンは製造直後から、水への溶出性が低い。pH6.8水溶液に添加後120分で本発明の非晶質ボセンタンの溶解濃度は、これらの製法による非晶質ボセンタンに対して、2倍以上、好ましくは5倍以上である。また、加速試験後、結晶の析出を生じるため溶解性はさらに低下する。加速試験後、pH6.8水溶液に添加後120分で、本発明の非晶質ボセンタンの溶解濃度は、これらの製法による非晶質ボセンタンに対して、4倍以上、好ましくは8倍以上である。
本発明の噴霧法による非晶質ボセンタンの非晶質状態の安定性が高いのは、溶媒に溶解中のボセンタンを気流中に噴霧し、微少な液滴(1000μm以下)を形成させた後溶媒を除去するため、短時間で溶媒を取り除き粉末を得るからである。短時間で溶媒を取り除くため、ボセンタンが溶媒中で溶解しランダムに分散している分子状態でそのまま分子が集合し粉末として得られる。さらには、ボセンタン分子のランダムに並んだ非晶質状態の割合が実質的に100%である。対して、他の製法では、このような完全な非晶質状態を製造することは、困難のみならず、工業的には不可能である。
例えば、メカノケミカル法では、結晶ボセンタンを完全に非結晶化するには極めて長い時間が必要である。溶融法では、溶融時には完全な液体状態であるが、冷却過程に一部に微少な結晶を形成し、それらを一部に含む非晶質状態となっている。溶媒析出法では、溶液調製時には完全に分子で分散しているが、析出過程に一部に微少な結晶を形成し、それらを一部に含む非晶質状態となっている。溶媒留去法では、ボセンタンの固形物を得るために、溶媒を留去するのに時間がかかり、例えば10分以上の時間を要するため、X線では測定できない微小の結晶を一部に含む非晶質状態となっている。これらの微少結晶は長期間保持すると、結晶の種効果により結晶の成長を生じ、非晶質ボセンタンの安定性を阻害する要因となっている。この結晶成長はX線で観察され、溶出性低下の原因となっている。一般に、非晶体に一部微少な結晶体が含まれていると、それ自体の水への溶解度を低下するのみならず、溶液中に分散し又は粒子表面上の微細な結晶が種晶効果を起こし、溶液からの物質の析出を促進するため溶解濃度の低下を起こすことが知られている。
本発明の非晶質ボセンタンの製造に用いるボセンタンは、ボセンタン無水物、ボセンタン一水和物、ボセンタン多水和物、ボセンタン溶媒和物、医薬品に許容されるボセンタン塩を用いることができる。好ましくは、現在医薬品として用いられているボセンタン一水和物である。
原料として用いるボセンタンは、溶媒に溶解させるため、いずれの形態のものを用いてもよい。結晶ボセンタン、非結晶ボセンタンのいずれでも混合物でもよく、結晶としては公知の結晶多形のうち、いずれを用いてもよい。
本発明の新規な非晶質ボセンタンの製造方法を以下に述べる。
本発明の非晶質ボセンタンは、噴霧法で製造することによって、優れた溶出性と安定性を備えている。
噴霧法は、ボセンタンを溶解可能な溶媒に溶解させ、次いで溶媒を短時間で除去することによって製造する。噴霧法には、例えば、流動層法、噴霧乾燥法、転動層法、攪拌法、超臨界法などがある。連続生産が可能であることから、噴霧乾燥法が好ましい。固体状の非晶質を得る為の溶媒除去に掛かる時間は、2分以内、好ましくは1分以内、さらに好ましくは30秒以内である。ここでの乾燥時間は固形物を得るために必要な時間であり、溶媒の残留には関係がない。具体的には、溶媒残存率は重量5%以下であれば、固体状の非結晶質として得ることができる。非晶質を得た後、医薬品として用いるのに問題がある程度の溶媒が残存している場合、真空乾燥などで所望の溶媒量まで溶媒を減少させることができる。
溶媒を用いる方法で使用する溶媒は、ボセンタンが溶解し医薬的に許容される溶媒であればよく、例えばエタノール、メタノール、2−プロパノール、アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸、蟻酸、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水などがあげられ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶媒はボセンタンの溶解性から任意に用いることができる。超臨界状態を用いてもよい。ボセンタンを溶媒に溶解させる場合の条件は、常圧下、0〜100℃の条件で行う。ボセンタンの分解などから高温高圧の条件では好ましくない。
噴霧法による製造方法について詳細に記載する。ボセンタンを有機溶媒に溶解させる。この時の濃度は、ボセンタンが溶解し、噴霧できる濃度であればよく、固形分は0.1〜80重量%であり、好ましくは1〜70重量%である。ついで気流中に溶液を噴霧し、溶媒の除去と造粒を同時に行う。
噴霧乾燥の場合、噴霧装置としては円盤式又はノズル式(例えば、加圧ノズル、2流体ノズル、4流体ノズル)の噴霧乾燥機を用いる。噴霧乾燥の際の温度としては、入口温度が約20〜200℃であり、出口温度が約0〜100℃が好ましい。
流動層法、噴霧乾燥法、転動層法、攪拌法など担体に噴霧する場合は、前述と同様ノズル式を用いる。温度としては、入口温度が約20〜200℃であり、出口温度が約0〜100℃が好ましい。送風条件や担体の動的条件は、用いる装置に従って、用いる溶媒や担体の特性により任意に設定する。担体としては、通常、これらの製法で用いられる医薬品に使用可能な添加物を用いる。
このようにして得られた非晶質ボセンタンは、錠剤への混合性や溶出性、徐放性、苦味マスキングのために医薬品に使用可能な添加剤を用いて、乾式造粒や湿式造粒を行い非晶質ボセンタン含有粒子とすることができる。非晶質ボセンタンの粒子径や嵩密度の違いで医薬添加物との混合性が劣る場合は、ローラーコンパクターなどで厚密化を行い、粒子径や嵩密度を大きくすることができる。
非晶質ボセンタン及び/又は非晶質ボセンタン含有粒子に医薬添加物を混合し、錠剤、カプセル、散剤、液剤、乳剤もしくは懸濁剤などの経口型の医薬組成物を得る。また、非経口剤として、注射剤、坐剤、点眼剤、鼻腔剤、吸入剤などの医薬組成物も得る事ができる。これらの製造方法は公知の方法を用いることができる。
医薬添加物としては、結合剤(例えば、カルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、ゼラチン、部分α化澱粉、ポビドン、アラビアガム、プルラン、デキストリンなど)、賦形剤(例えば、スターチ、D−マンニトール、乳糖、トレハロース、結晶セルロース、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、ハイドロタルサイト、無水ケイ酸など)、崩壊剤(例えば、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなど)、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、脂肪酸グリセリンエステル、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、滑沢剤(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、タルク、フマル酸ステアリルナトリウムなど)、酸味料(例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸など)、発泡剤(例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)、甘味剤(例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなど)、香料(例えば、レモン油、オレンジ油、メントールなど)、着色剤(例えば、食用赤色2号、食用青色2号、食用黄色5号、食用レーキ色素、三二酸化鉄、アスタキサンチンなど)、安定化剤(例えば、エデト酸ナトリウム、トコフェロール、トコトリエノール、シクロデキストリンなど)、矯味剤、着香剤などがあげられる。
本発明の非晶質ボセンタンからなる医薬組成物は、ボセンタンの溶解濃度向上により、投与量を減らしても、従来の結晶ボセンタンと同等の血中濃度時間曲線下面積が期待できる。ボセンタンは、エンドセリン受容体拮抗作用をもち、現在は肺動脈性肺高血圧症(WHO機能分類クラスII、III、IV)の治療薬としてのみ用いられているが、肺動脈性肺高血圧症(WHO機能分類クラスI)、その他の肺高血圧症、急性及び/又は慢性腎不全、強皮症に伴う指先潰瘍、動脈硬化、慢性肺血栓塞栓症に伴う肺高血圧症、特発性肺繊維症、睡眠時無呼吸症候群、血管肥厚(再狭窄)、狭心症、心筋梗塞、慢性心不全、くも膜下出血後の脳血管攣縮などの治療薬、予防薬あるいは管理薬としても有望である。
また、本発明の非晶質ボセンタンは以下の薬物と組み合わせて肺動脈性肺高血圧症を含む肺高血圧症などを治療、予防又は管理するためにさらなる治療剤、例えば、限定ではないが、Rho−キナーゼ阻害剤、プロスタサイクリンアゴニスト、5−HT2Aアンタゴニスト、抗凝血剤、抗血小板薬、利尿剤、強心配糖体、カルシウムチャネル遮断剤、脂質低下剤、血管拡張剤、内皮アンタゴニスト、ホスホジエステラーゼ阻害剤、エンドペプチダーゼ阻害剤、選択的セロトニン再取込阻害剤、トロンボキサン阻害剤、血管再構築調節剤、エンドセリン受容体拮抗剤及び肺動脈圧を下げると知られている他の治療剤などと、組み合わせることができる。
Rho−キナーゼ阻害剤としては、例えば、ファスジル、Y−27632及びH−1152Pなどである。
プロスタサイクリンアゴニストとしては、例えば、イロプロスト、トレプロスチニル、エポプロステノール、ベラプロスト及びイロメジンなどである。
5−HT2Aアンタゴニストとしては、例えば、サルポグレラートなどである。
抗凝血剤としては、例えば、ワーファリンなどである。
抗血小板薬としては、例えば、アスピリンなどである。
利尿剤としては、例えば、フロセミド、トリクロロメチアジド、クロルタリドン、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、ベンチルヒドロクロロチアジド、ベンドロフルメチアジド、シクロペンチアジド、ポリチアジド、メフルシド、キシマピド、メトラゾン、スピロノラクトン及びトリアムテレンなどである。
強心配糖体としては、例えば、ジゴキシンなどである。
カルシウムチャネル遮断剤としては、例えば、ジルチアゼム、ニフェジピン、アムロジピン、ニソルジピン、アゼルニジピン、ニカルジピン、ニモジピン、イスラジピン、ニトレンジピン、フェロジピン及びベラパミルなどである。
脂質低下剤としては、例えば、アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン、イタバスタチン、セリバスタチン、ロスバスタチン、ZD−4522及びロバスタチンなどのHMG−CoA還元酵素阻害剤などである。
血管拡張剤としては、例えば、プロスタサイクリン及び一酸化窒素などである。
ホスホジエステラーゼ阻害剤としては、例えば、アムリノン、ミルリノン及びオルプリノンなどである。ホスホジエステラーゼIV阻害剤、例えば、シルデナフィル、タダラフィル及びバルデナフィルなどである。
選択的セロトニン再取込阻害剤としては、例えば、フルオキセチン、セルツルレイン、パロキセチン及びベンラファキシンなどである。
血管再構築調節剤としては、例えば、グリベッグなどである。
エンドセリン受容体拮抗剤としては、例えば、ボセンタンの他に、シタキセンタン、アンブリセンタン、クラゾセンタン及びマシテンタンなどである。
肺動脈圧を下げる他の治療剤としては、例えば、エナラプリル、ラミプリル、カプトプリル、シラザプリル、トランドラプリル、ホシノプリル、キナプリル、モエキシプリル、リシノプリル及びペリンドプリルなどのACE阻害剤、ロサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、エンブサルタン、バルサルタン、オルメサルタン及びテルミサルタンなどのAT−II阻害剤(ARB剤)、イロプロスト、ベタプロスト、L−アルギニン、アデノシン、オマパトリラト、酸素、ジゴキシンなどである。
以下に、本発明を実施例により説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
[実施例1] 噴霧乾燥法
結晶ボセンタン一水和物粉末1gを50mlの溶媒(塩化メチレン:エタノール=8:2)に溶解させた。ついで、入熱温度80℃、排熱温度50℃、噴霧速度6ml/分で噴霧乾燥を行い、得られた粉末を更に1晩、減圧下(5Torr以下)、40℃で乾燥して非晶質ボセンタンの粉末を得た。カールフィッシャー法による水分は2.7%であった。
[比較例1] 溶融法
結晶ボセンタン一水和物粉末1gをガラス容器に入れ、170℃で完全に溶融するまで保持した。ついでガラス容器を氷水で急冷し、非晶質ボセンタンを得た。
[比較例2] 衝撃法
結晶ボセンタン一水和物粉末1gを乳鉢で2.5時間すりつぶして、非晶質ボセンタンの粉末を得た。
[比較例3] 析出法
結晶ボセンタン一水和物粉末1gをナス型フラスコに入れ、塩化メチレン1mlを加えて40℃に加温して溶解させた。t−ブチルメチルエーテル20mlを加えて温度25℃で2時間攪拌したのち、4℃で5時間静置して固形物を析出させ、濾過を行い、得られた粉末を更に1晩、減圧下(5Torr以下)、40℃で乾燥してボセンタン粉末を得た。
[比較例4] 溶媒留去法
結晶ボセンタン一水和物粉末1gを50mlのナス型フラスコに入れ、塩化メチレン20mlを加えて40℃で溶解させた。アスピレーター減圧下、温度50℃で溶媒を留去した後、1晩、減圧下(5Torr以下)、40℃で乾燥し、非晶質ボセンタンを得た。
(溶出試験)
前述の実験で得た試料30mgを含むナス型フラスコを37℃の温浴に浸し、37℃の崩壊試験液第2液(pH6.8)30ml溶液を加えてフラスコ口をパラフィン紙で閉じ、100回/分で震盪させながら、経時的に水溶液を採取し、水溶液のボセンタン溶解濃度を測定した。採取した溶液を0.45μmのフィルターで篩過したのち、その溶液0.2mlをメタノールで10mlに希釈し、UV測定器(JASCO−MPD、日本分光(株)製)で270nmの波長の吸光度を測定し溶解濃度を求めた。
結果を表1、図1に示す。比較例5は結晶ボセンタン一水和物である。
[表1] 溶出試験結果
単位はmg/mlである。
X'Pert−MPD型(フィリップス社製)によりX線測定(X−RD)を、Thermo plus DSC8230(リガク社製)によりDSC(熱分析)測定を行った。実施例1、比較例1〜5のX−RDとDSCの結果をそれぞれ図2、図3に示す。
X−RDの結晶パターンでは、実施例1の本発明の製法による非晶質ボセンタン、比較例1、比較例4は結晶ピークが無く非晶質状態であることが分かる。比較例2、比較例3は比較例5(結晶ボセンタン一水和物)の結晶パターンと同様の低い結晶ピークがあり、結晶が残っていることが分かる。DSCの吸熱パターンでは、実施例1、比較例1〜5は特徴的な吸熱ピークは表れていない。
120分後の溶解濃度において、実施例1の非晶質ボセンタンの溶解濃度は、比較例1〜3の非晶質ボセンタン、比較例5の結晶ボセンタンに対して、8倍以上の溶解濃度を示し、溶解性の向上が極めて優れていることが分かる。
(加速安定性試験及び溶出試験)
比較例3を除く前述の実験で得た試料30mgを、開放下、温度40℃、相対湿度75%の条件下で7日間放置した。これらの試料を、前述の溶出試験と同じ操作で経時的に溶解濃度を測定した。溶出試験の結果を表2と図4に、X−RDとDSCの結果をそれぞれ図5、図6に示す。
[表2] 溶出試験結果
単位はmg/mlである。
120分後の溶解濃度において、実施例1の噴霧法による非晶質ボセンタンは、噴霧法以外で製造した比較例1、2、4の非晶質ボセンタン及び比較例5の結晶ボセンタンよりも2倍以上溶解濃度が高い。また、比較例4の非晶質ボセンタンは60分後から溶解濃度の低下を起こしているに対し、実施例1の噴霧法による非晶質ボセンタンは高い溶解濃度を維持している。
加速条件により、X−RDパターンでは、比較例1と4はわずかであるが結晶パターンが表れている。比較例2は結晶パターンが成長してきている。なお、DSCのパターンは、実施例1、比較例1と4とほとんど同じである。これらから、比較例1と4では、DSCで吸熱ピークが表れない程度であって、X−RDでわずかに結晶パターンが表れる程度の微少な結晶の析出が起きている状態であることを示す。これらの微少結晶が、溶出性において、溶解度の低下要因となっている。
本発明の噴霧法による非晶質ボセンタンは、他の製法による非晶質ボセンタンよりも、非晶質状態を長く保持でき安定性が高く、また水に溶解したとき溶解濃度を長期間にわたって維持することができる。

Claims (10)

  1. ボセンタンを溶媒に溶解して溶液を調製した後、その溶液を気流中に噴霧し溶媒を除去することによって得られることを特徴とする非晶質ボセンタン。
  2. 溶媒除去に係る温度が20〜200℃である請求項1に記載の非晶質ボセンタン。
  3. 平均粒子径が0.1〜500μmである請求項1〜2のいずれか1項に記載の非晶質ボセンタン。
  4. 気流中での溶媒の実質的な除去に係る時間が、2分以内である請求項1〜3のいずれか1項に記載の非晶質ボセンタン。
  5. 溶解濃度が結晶ボセンタンに対して1.5倍以上であり、
    温度40℃相対湿度75%で7日放置後の溶解濃度が、溶媒留去法によって得られる非晶質ボセンタンに対して1.5倍以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の非晶質ボセンタン。
  6. 溶解濃度が結晶ボセンタンに対して4倍以上であり、
    温度40℃相対湿度75%で7日放置後の溶解濃度が、溶媒留去法によって得られる非晶質ボセンタンに対して2倍以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の非晶質ボセンタン。
  7. 溶解濃度が結晶ボセンタンに対して8倍以上であり、
    温度40℃相対湿度75%で7日放置後の溶解濃度が、溶媒留去法によって得られる非晶質ボセンタンに対して2倍以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の非晶質ボセンタン。
  8. ボセンタンを溶解可能な溶媒に溶解し、その溶液を20〜200℃の気流中に噴霧することによって溶媒を除去する非晶質ボセンタンの製造方法。
  9. 気流中での溶媒の実質的な除去に係る時間が、2分以内である請求項8に記載の非晶質ボセンタンの製造方法。
  10. 請求項1〜7の非晶質ボセンタン100重量部に対して、医薬添加物20〜900重量部からなる医薬組成物であって、
    医薬添加物が、賦形剤、崩壊剤、界面活性剤、結合剤、滑沢剤、酸味料、発泡剤、甘味剤、香料、着色剤、安定化剤、矯味剤および着香剤からなる群より選択される医薬組成物。
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