従来のいずれの上記錠剤も、分割するために形成された溝の深さは一定であり且つ錠剤の端縁まで溝が到達しているため、錠剤の端縁部に、角部(角張った部分)が形成されて、錠剤同士が擦れ合った場合などにおいて欠けてしまうという問題がある。この種の錠剤は、溝に沿ってきれいに分割できない場合もある。また、上記特許文献1の錠剤は、分割しやすい構造であるため、勝手に分割されてしまう恐れがある。また、製造中のコーティングする前の素錠の状態は、摩損率が大きくなる傾向にある。
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、溝によって生じる錠剤の端縁部の欠け及び摩損率を低減すると共に、きれいに且つ容易に分割できる錠剤を提供することを目的とする。
第一の本発明によれば、分割するための溝5を形成し、該溝5を、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって浅くなるように形成する錠剤が提供される。
錠剤の形状としては、例えば直方体状、円板状、角板状のいずれであってもよい。溝5としては、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって浅くなるように形成されることを必須条件とし、できる限り錠剤の端縁部に、角部が形成されないように溝5の端部5c,5cを浅くすることが好ましい。これによって、角部による欠けの発生を防止できる。即ち、摩損率が大きくなることもない。溝5としては、直方体状の錠剤であれば、等分割でなくても単に分割できるように、錠剤の側面に沿って形成してもよい。円板状の錠剤であれば、溝5は、中心から径方向に沿って等間隔(放射状)に、又は中心線上に沿って形成してもよい。角板状の錠剤であれば、溝5は、対角線上又は中心線上に沿って形成してもよい。また、円板状又は角板状の錠剤においては、平行する一対の面にそれぞれ溝を形成するようにしてもよい。
第二の本発明によれば、分割するための溝5が一方の面2に形成される胴部1と、該溝5を囲むようにして胴部1の一面2から隆起する第一隆起部10と、胴部1の他面3から中央側が高く隆起する第二隆起部20とを備える錠剤が提供され、該第二隆起部20の中心と第一隆起部10の2つの頂点B,Cとにより力点が生じて分割が可能になる錠剤において、前記溝5を、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって浅くなるように形成する。
上記の形状を有する錠剤によれば、第二隆起部20の中心Aと、第一隆起部10の2つの頂点B,Cとにより力点が生じることに加えて、一定の深さに形成された溝を有する従来の錠剤に比して、溝5の最深部と第二隆起部20の中心Aとの距離が小さくなると共に、溝5の最深部と第一隆起部10の2つの頂点B,Cとの距離が大きくなるため、溝5に対する力が大きく作用するようになり、溝5の最深部を起点として分割しやすくなる。
また、第一及び第二の本発明によれば、前記溝5は、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって幅が狭くなってもよい。
この場合、溝5の深さに加えて、溝5の中央部5bと端部5c,5cの幅の大きさを変更することで、錠剤の端縁部の欠けをより一層低減できると共に、錠剤を分割しやすくなる。また、溝5の中央部5bと端部5c,5cの幅の大きさを変更するとは、溝5の中央部5bの幅が大きく、端部5c,5cに向かうにしたがって狭くなっていることを意味している。また、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって幅が狭くなるとは、全体として楕円状や菱形状に形成される場合、徐々に先細りになるように階段状に形成される場合などを含む。
第三の本発明によれば、分割するための溝5を形成し、該溝5を、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって幅が狭くなるように形成する錠剤が提供される。
第四の本発明によれば、分割するための溝5が一方の面2に形成される胴部1と、該溝5を囲むようにして胴部1の一面2から隆起する第一隆起部10と、胴部1の他面3から中央側が高く隆起する第二隆起部20とを備える錠剤が提供され、該第二隆起部20の中心と第一隆起部10,10の2つの頂点B,Cとにより力点が生じて分割が可能になる錠剤において、前記溝5を、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって幅を狭くなるように形成する。
上記の形状を有する錠剤によれば、溝5において、大きく開口している部位、即ち溝5の開口端縁部5a、溝5の側壁部、溝5の底部の少なくとも一つの部位にそれぞれ相反する力が作用することで、分割しやすくなる。一方、溝5の端部5c,5cの幅は狭くなっているので、錠剤の端縁部に、角部が形成されにくくなり、該端縁部の欠けを低減できる。
また、第三及び第四の本発明によれば、前記溝5を、溝5の端部5c,5cに向かうにしたがって浅くなるように形成されてもよい。
この場合、溝5の幅の形状に加えて、溝5の中央部5bと端部5c,5cとの深さを変更することで、錠剤の端縁部の欠けをより一層低減できると共に、錠剤を分割しやすくなる。
第一乃至第四の本発明によれば、第一隆起部10を胴部1の端縁よりも内側に形成し、溝5を、溝5の端部5c,5cが第一隆起部10の端縁に位置するように形成するような構成を選択することもできる。
この場合、溝5の端部5c,5cを胴部1の端縁に到達しないように形成することで、錠剤の端縁部における欠けの発生を防止できる。このため、製造の際に使用される打錠機では、歩留まりよく製造できる。また、本発明の錠剤は、既存の錠剤の厚みと大きく変動することがないので、PTP包装や病院などで調剤の際に、既存の包装機を用いても、支障なく包装できる。
また、第一乃至第四の本発明によれば、溝5の端部5c,5cを、中央部5bの曲面の曲率よりも大きい曲率の曲面によって形成されてもよい。
この場合、溝5の中央部5bが曲率の小さい最深部となるので、該中央部5bに対する力が伝達しやすくなる。結果として、分割する際に溝5の中央部5bが分割の起点となる一方、該中央部5bから端縁部側に亀裂が進行しやすくなる。つまり、錠剤を分割しやすくなる。
本発明の錠剤は、分割するための溝を形成し、溝を、溝の端部に向かうにしたがって浅くなるように形成するようにしたので、錠剤を分割しやすくなることに加えて、錠剤の端縁部に、角部が形成されるのを低減できると共に、欠けを防止できる。
本発明の錠剤の摩損率は、日本薬局方、米国薬局方、欧州薬局方の摩損度試験の基準を満たす。また、本発明の錠剤は、深い割線(二分又は折り線)を入れているが、日本薬局方、米国薬局方、欧州薬局方の摩損度試験の基準を満たす。
前記溝を、溝の端部に向かうにしたがって幅が狭くなるように形成したので、錠剤の端縁部に、角部が形成されるのをより低減できて、錠剤の端縁部の欠けを効果的に防止できる。また、溝の開口端縁部に相反する力が作用するようになり、より一層分割しやすくなる。
しかも、1錠毎の分割重量偏差、即ち錠剤を分割した際の各小片の重量のばらつきが、日本薬局方、米国薬局方、欧州薬局方の規定よりも小さい値になっている。
以下に、本発明の実施の形態に係る錠剤について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明に係る錠剤は、図1〜図3に示すように、上面2の中心線に沿って形成される割線としての溝5を有する胴部1と、該胴部1の上面2において溝5を囲むように隆起する第一隆起部10と、胴部1の下面3に形成される第二隆起部20とを備えている。
胴部1は、円板状を呈しており、直径としては、例えば5〜15mmの大きさを有している。
溝5は、図1(A)、(C)示すように、その端部5c,5cは、胴部1の両端縁に到達しておらず、後述する第一隆起部10の外側傾斜曲面13の端縁に位置している。即ち端部5c,5cは、胴部1の端縁に到達せずに該端縁よりも内側に位置している。また、溝5の開口端縁部5aは平面視略楕円状を呈しており、中央部5bの幅が広く、端部5cに向かうにしたがって幅が狭くなるように形成されている。さらに、図2(A),(B)に示すように、溝5の深さは、その中央部5bが深く、端部5cに向かうにしたがって浅くなるように形成される。溝5は、最深部の深さが、例えば0.6mm程度に形成されると共に、溝5の両側壁が直角をなすようにV字形状に形成されている。そして、溝5の端部5cの曲面の曲率を、例えばR18〜R10とし、溝5の中央部5bの曲面の曲率を例えばR2〜R15とし、端部5cよりも中央部5bの曲面の曲率が大きくなるようにしている。つまり、溝5の形状は、V字形状でありつつ幅方向及び深さ方向に膨らみを備えた形状、換言すれば船底のような形状を呈しており、適度な圧力によって錠剤をきれいに分割できる形状になっている。また、溝5の開口端縁部5aと側壁部とのなす角度は90度よりも大きくなっており、尖った形状にはなっていない。
第一隆起部10は、図1(A)、図1(B)に示すように、溝5によって二分割された、胴部1の直径よりもやや小径の領域L1,L2にそれぞれ隆起して形成され、溝5の両端部5c,5cを結ぶ円弧状の一対の稜線11,11が、溝5の両側に該溝5を囲むように且つ胴部1の端縁よりも内側に位置するように形成されている。この稜線11,11によって囲まれた領域は平面視略楕円状を呈している。
したがって、第一隆起部10が、胴部1の直径よりもやや小径の領域L1,L2に形成され、また、溝5の端部5cが、第一隆起部10の端縁に位置していることから、胴部1においては、例えば0.1mm程度の環状の突縁部(ランド)4が形成される。つまり、この突縁部4によって、錠剤の端縁部が保護されるようになり、錠剤の端縁部の欠けを防止できるようになっている。
そして、第一隆起部10は、各稜線11,11から溝5の開口端縁部5aに向かって下降傾斜する略半月状の内側傾斜面12が形成されると共に、胴部1の上面の内縁部に向かって膨らみつつ下降傾斜する三日月状の外側傾斜曲面13が形成されている。つまり、各稜線11,11においては、内側傾斜面12及び外側傾斜曲面13が連続し且つ外側傾斜曲面13が膨らみつつ下降傾斜しているので、角部が形成されることはなく、分割する際に、各稜線11,11に、例えば指先を当接して、あるいは槌の平坦面で軽く叩くなどして、力を加えても欠けることがない。
第二隆起部20は、図1(B)、図1(C)及び図3に示すように、その中央部が軸方向に沿って隆起するように形成された内側隆起曲面21と、該内側隆起曲面21の周縁部から膨らみつつ胴部1の下面の内縁部に向かって下降傾斜するように形成された環状の外側傾斜曲面22とを有している。そして、内側隆起曲面21の曲率を、例えばR10〜18とし、外側傾斜曲面22の曲率を、第一隆起部10の外側傾斜曲面13と同じ曲率にしている。これによって、錠剤は、従来の錠剤の厚みと大きく変動することなく略同一に形成されるようになり、既存の製造ラインを変更する必要もない。
つぎに錠剤を分割する場合の態様について説明する。前記錠剤は、図4(A)、図4(B)に示すように、第二隆起部20の内側隆起曲面21と中心Aと、該中心Aから最も遠い距離に位置する第一隆起部10の各稜線11,11上の2つの点B,Cとにより力点が生じる。これに加えて、一定の深さに形成された溝を有する従来の錠剤に比して、溝5の最深部と第二隆起部20の中心Aとの距離H1が小さくなると共に、溝5の最深部と各稜線11,11上の2つの点B,Cとの距離H2が大きくなる。このため、溝5に対する力が大きく作用するようになり、溝5の最深部を起点として、溝5の一方の側壁及び開口端縁部5aと、他方の側壁及び開口端縁部5aとに相反する力が作用し、溝5の中央部5bに亀裂が生じて端部5c,5cに進行するようになり、錠剤が分割される。例えば図4(A)に示すように、溝5を上側にして、第二隆起部20の中心が当接するように錠剤を平坦面30に載置し、第一隆起部10の稜線11,11に、例えば指先を当接させて、あるいは槌の平坦面で軽く叩く(図示せず)などして、上側から力を加えると、上記3つの点A,B,Cが力点となって溝5に沿って分割される。また、図4(B)に示すように、溝5を下側にして、第一隆起部10が平坦面30に当接するように錠剤を載置すると共に、第二隆起部20の中心に、前記と同様に、指先や槌の平坦面を当接させて上側から力を加えても同様に分割できる。
そして、第一隆起部10は、図1(A)に示すように、溝5によって分割された複数の領域L1,L2にそれぞれ形成されることになるが、第二隆起部20の中心Aと、該中心Aから最も遠い距離に位置する各稜線11,11上の2つの点B,Cとが力点となって錠剤が分割されることになる。
なお、本発明は、前記実施形態に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜、必要に応じて、設計変更や改良等を行うのは自由である。
例えば、前記実施形態においては、溝5の開口端縁部5aを略楕円状に形成するようにしたが、図5(A)に示すように、菱形状の開口端縁部50aにしてもよく、図5(B)に示すように、端部500c,500cに向かうにしたがって徐々に幅が狭くなるように階段状の開口端縁部500aに形成してもよい。
また、前記実施形態の場合、前記溝5を、胴部1の上面の中心線に沿って形成するようにしたが、該中心から放射状に形成してもよく、中心から径方向に等間隔に3つ又は4つ形成するようにしてもよい。
また、前記実施形態の場合、溝5の底部を湾曲面に形成するようにしたが、互いが中央部5bに向かって下降傾斜する一対の傾斜面であってもよく、中央部5bに向かうにしたがって徐々に深くなるように階段状に形成してもよい。
また、前記実施形態の場合、溝5の両側壁のなす角度を直角とするV字形状に形成したが、U字形状であってもよい。但し分割することを考慮すると、V字形状であることが好ましい。
また、前記実施形態の場合、胴部1の形状として円板状にしたが、角板状、円柱状、角柱状、平面視長楕円形状などであってもよい。錠剤が溝5によって等分割できる形状であることが好ましい。
溝5の深さ(d)(図1参照)の値は、好ましくは0.1〜0.8mmであり、より好ましくは0.3〜0.7mmであり、更に好ましくは0.4〜0.6mmである。このような値であると、分割されやすさの点で好ましい。
また、本発明の割線を有する錠剤は、用いられる薬理活性物質としては特に限定されず、種々のものを用いることができる。用いることができる薬理活性物質として、例えば、プロカテロール、カルテオロール、シロスタゾール、レバミピド、トルバプタン、テトミラスト、モザバプタン、アリピプラゾールなどが挙げられる。また、これらのうちの2種類以上を組み合わせてもよい。