本明細書に開示されている原理の理解を促す目的で、添付の図面に例示されている好ましい実施形態を参照してゆくが、実施形態を記載するのに特定の表現が使われている。とはいえ、それにより発明の範囲を制限することは意図されていないものと解釈するべきである。例示されている各種装置の代替例および各種修正例、ならびに、本明細書に開示および例示されている原理の更なる応用例は、本件開示が関与している技術分野の当業者ならば当たり前に思い浮かぶものと思われる。
或る種の物質は、少なくとも一時的にでも電磁エネルギーを第1プロファイルの波長または各種帯域の波長で受光または吸光した結果としてその電磁エネルギーを第1プロファイルとは異なる第2プロファイルの波長または各種帯域の波長で放射することができるという特性を有している。周知の有機合成物などのような蛍光特性を有している染料は、既に吸光された光の波長に近い波長またはほぼ同じ波長で発光する。光の発光プロファイルは吸光プロファイルの20 nmから30 nmの範囲内に留まる。例えば、或る蛍光染料は赤色光を吸光して赤色方向に幾分か移行した光を放射する。その結果として、光のどの色も顕著な増強を見ないが、これは吸光が発光に呼応しているせいである。
各種ナノ結晶はそれぞれの吸光プロファイルおよび発光プロファイルが蛍光染料のものとは大きく相違している。図4は3つの相互に異なる種類のナノ結晶ごとの吸光プロファイルと発光プロファイルの違いを示している。吸光はかなり低い波長から蓄積されて、非常に狭い帯域で放出されるが、赤色発光ナノ結晶は赤色光を吸収せず、その結果として、或る特定波長における光増強は起こり得る。
図4は、例えば図3に例示されている、所謂、量子点などのような、可視スペクトルの各種波長ごとに相互に異なる吸光プロファイルおよび発光プロファイルを有しているナノ結晶を含有した光ルミネセンス物質の3種類の考えられる例を示している。当該技術で周知のように、例えばインヴィトロゲン・コーポレーション(Invitrogen Corporation)の製造する図3に例示されているもののような量子点は、セレニウムまたはテルリウムを外殻2より内側に有しているカドミウムなどのような半導体物質の小核1から構成されていてもよいし、または、それ自体がポリエチレングリコール(PEG)などのような好適な重合体3で包囲されている硫化亜鉛などのような半導体物質の小核1から構成されていてもよい。量子点の発光色はその寸法の関数であるが、通例、寸法の範囲は直径にして約10 nmから20 nmである。同様に、所謂「コーネル点」を採用してもよい。次に挙げる特許文献はここに引例に挙げることによりそれぞれの全文が本件の一部を構成していることになるのであるが、斯かる米国特許出願公開第2004/0101822号(2004年5月27日公開)および第2006/0183246号(2006年8月17日公開)に記載されているように、コーネル点は量子点のものに類似する寸法的に等尺の核と殻の構成を有しているが、そのような核−殻構成では、核は蛍光染料の数個の分子がシリカ殻によって包囲されて、それ以上は外に重合体被膜も有していない構成になっている。
図4において、曲線10aおよび曲線10bはそれぞれに、インヴィトロゲン・コーポレーションから入手できる黒色のQドット(登録商標Qdot)ナノ結晶に対する光ルミネセンスの吸光プロファイルおよび発光プロファイルを例示しているが、黒色Qドットナノ結晶は約800 nmの波長で発光するせいで黒色を発現する。曲線11aおよび曲線11bはそれぞれに、インヴィトロゲン・コーポレーションから入手できる橙色のQドットナノ結晶に対する光ルミネセンスの吸光プロファイルおよび発光プロファイルを例示しており、橙色Qドットナノ結晶は約605 nmの波長で発光するせいで橙色を発現する。最後に、曲線12aおよび曲線12bはそれぞれに、インヴィトロゲン・コーポレーションから入手できる青色Qドットナノ結晶に対する光ルミネセンスの吸光プロファイルおよび発光プロファイルを例示しており、青色Qドットナノ結晶は約525 nmの波長で発光するせいで青色を発現する。本発明の好ましい実施例では、可視スペクトルの青色部分に向かう傾向を有する光を実質的に放射する光ルミネセンス物質(例えばナノ結晶など)が採用されている。
図4は、図中左側に描かれた短いほうの各波長が吸光された後、吸光時とは異なる長い波長で発光する態様を例示している。量子点技術を利用したナノ結晶の1類型モデルを図示および開示しているが、波長スペクトルの一部分で吸光することができるのに加えて、例えば、青色などのような選択された可視波長でエネルギーを放出することができるナノ結晶であれば、如何なる種類のナノ結晶の使用も考えられる。
上述のように、各特定波長の青色光は低強度露光で季節性情緒障害の治療に有効であることが分かっている。460 nmから485 nmの範囲の波長を有している光は、しばしば「青色光」と定量化されることもあるが、約479 nmのピーク感度で感光性顔料を処理するのに有効である。420 nmから485 nmの間の波長で光子を放射する好ましい実施例が開示されているが、それ以外の可視スペクトルの波長、近可視スペクトルの波長、または、不可視スペクトルの波長での発光も考えられる。
例えば、一実施例においては、不可視紫外線(UV)波長は可視青色波長または可視緑色波長に変換される。勿論、使用される特定の光ルミネセンス物質(すなわち、特定の変換物質)の種類、各種効能、または、その両方に基づいて、上記以外の波長変換も行える。より詳細に説明すると、製造時に量子点またはコーネル点がレンズなどのような光学装置に添加される。このようなレンズは眼鏡様装具に組込まれ、それが更に後段で説明するような治療システムに組込まれるようにしてもよい。
図5Aは、眼鏡の形態の網膜メラトニン抑制装置100に、少なくとも1枚のレンズ103、104と、ナノ結晶(例えば、図3に例示されているような)を含有した状態でレンズ103、104などの実質的に全部に供与される光ルミネセンス物質とが設けられていることで、入射光または光源からの光λAに応じて抑制装置100の装着者の網膜に向けて選択波長λBの光子を放射するように図っているのを例示している。従って、装着者の網膜に投与される光は発光λBに入射光λAのうちレンズ103によって遮断されなかった部分またはナノ結晶によって吸光されてしまわなかった部分を加えたものを含んでいる。ここでは、レンズ103、104の両方ともに本質的に光ルミネセンス物質が同じように供与されているかのように例示されているが、これは要件ではなく、光ルミネセンス物質は個々のレンズ103、104に相互に異なる態様で供与されることもある点に留意するべきである。レンズ103、104は各々が、装着者の目に光を透過させたり、装着者の目の中で光を合焦させたりするために使用されるのであればどのような光学装置であってもよく、例えば、矯正レンズ、サングラスレンズ、単眼鏡レンズまたは双眼鏡レンズなどが具体例として挙げられるが、これらに限定されない。図示された実施例においては、抑制装置100には、ハンドル101が旋回軸102により接続された装着可能なフレーム105と、装着可能なフレームによって支持された少なくとも1枚の光学レンズ103(または、104)とが設けられている。図5Bから図5Eに最もうまく例示されているように、図示されている実施例における少なくとも1枚のレンズ103、104は各々が、可視光スペクトルの少なくとも一部に対して実施的に透明である基板107と、基板107に付与されて、電磁エネルギーλAの光源スペクトルに曝された後で少なくとも選択波長λBの電磁エネルギーを放射する光ルミネセンス物質108、109、208とを備えている。
更に、図5Bから図5Eは、光ルミネセンス物質を基板107に付与することができるようにする複数の互いに異なる技術を例示している。図5Bにおいては、光ルミネセンス物質208は基板の全体に亘って概ね均一に分布しているが、これは、基板材料に光ルミネセンス物質を含浸させたり基板材料を光ルミネセンス物質で着色するのに好適な何らかのプロセスにより達成することができる。これに代わる例として、図5Cおよび図5Dに例示されているように、光ルミネセンス物質108は基板107の外表面(すなわち、入射光に直面している面)と内表面(すなわち、発光の方向にある面)のうちいずれか一方またはその両方に1枚の層として供与されるが、光ルミネセンス物質が内表面のみに供与された実施例は図示されていない。更にまた、図5Eに例示されているように、光ルミネセンス物質109は透明基板107の内部に不均一に分散させられているようにしてもよい。例えば、図5Eに例示されているように、光ルミネセンス物質109の1枚以上の層が基板107の内表面上にサンドイッチ状の構成で被膜されているようにしてもよい。図5Cから図5Eに例示されている各層は、誘電体被膜、噴霧被膜または回転被膜、スパッタリング、基板内への拡散、静電力により付着される重合体シートの使用、粘着層により付着される重合体シートの使用、複数の内側層が実質的に一緒に積層された基板層を複数含んでいる多数基板層の使用などのうち、いずれでも好適な堆積技術を利用して設けられるとよい。
図5Aに例示されている抑制装置100は眼鏡様装具の実施例で説明されているが(すなわち、フレーム105等を備えている)、抑制装置100はその一例として、コンタクトレンズすなわち非固定式レンズなどのような独立した光学装置を含んでいることもあるのが分かる。更に注目すべき点として、本明細書に記載されている光学装置のいずれもが(例えば、図5A,図6A、および、図7Aに例示されているレンズ103、104等)、斯かる光学装置の製造にあたって使用されることで光ルミネセンス物質108、109、208をそこに供与するものとして周知のどのような素材から作成されていてもよく、具体例として、ガラス、可塑材、ポリカーボネート、ポリウレタン、トリヴェックス(商標TRIVEX)レンズ素材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。使用される素材とは無関係に、基板材料の多様な特性が本件記載の各種実施例に従って活用される。例えば、基板材料がガラスであり、斯かるガラスの種類が紫外線(UV)遮断特性を有している場合は(またそうでなければ、そのような遮断特性を有するように処理または改造されている場合)、発光λBが紫外光(または、少なくとも実質的に減衰状態にある紫外光)を含んでいることは決してなく、というのも、斯かる紫外光は基板107を透過しなければならないからである。従って、基板材料によって遮断されることになる紫外光を青色光の光源として有効に利用することができるが、但しこれは、例えば図5Cに例示されているように、ナノ結晶を含有した光ルミネセンス物質の層が基板の外表面に配置されており、尚且つ、そのような層が紫外光を基板材料を透過することができる可視光に変性することができる場合に限られる。
ヒトの眼は瞳孔と呼称される天然シャッターを装備して眼に入ってくる光の量を制御しており、その結果として、網膜に入射する光の量を抑制している。網膜への入射光の強度が増大すると、瞳孔反射により瞳孔が収斂し、従って、有益な光を含む、網膜への入射光の全部の入射を減じてしまう。本件開示の文脈では、このような瞳孔反射は、光ルミネセンス物質によって放射される他の有益な光を減じてしまうこともある。従って、光学装置の一部のみに光ルミネセンス物質を供与することで、瞳孔反射が有益な効果を打ち消してしまう程度まで、すなわち、有益な効果が減衰してしまう程度まで、装置の全体で知覚される光放射が増大することが無いように図るのが望ましい場合もある。例えば、光ルミネセンス物質を含有させるためのレンズ103の特定部位を選択することにより瞳孔が収斂しないようにしたせいで、網膜に入射する有効な発光を向上させることができる。
更に、研究によって分かったことであるが、網膜上のメラトニン分布は均一ではなく、光受容体を増やした網膜の特定部位に投与されるのであれば、より多量の治療光を投与することが最も有益となる場合もある。当該技術で周知のように、脳が知覚する視野は、実際には、網膜の構造とは正逆になる。すなわち、具体例を挙げると、眼の上から入ってくる光は実際には網膜の下位部分に投射されるが、眼の側頭側から入ってくる光は実際には網膜の鼻側部位に投射される。従って、想定できる一実施例として、光ルミネセンス物質を含有している光学装置の一部により、そこから放射された光が瞳孔を通って網膜の鼻側部位、網膜の下位部分、または、その両方に到達するように図ることが思量される。また別な実施例として、光学装置から放射された光の一部を瞳孔を通るように方向づけて網膜の特定部位に当てる目的で、上記以外の各種技術を利用することもできる。例えば、レンズ103の一部が他の部位とは異なる180度のフラット角または180度よりも大きい凹角を成すような構成にされることで、入射光を特定方向に向かわせるようにしてもよい。このような実施例の具体例は、図6Aから図6Eおよび図7Aから図7Eに関して更に説明されている。特に、図6Aは、光ルミネセンス物質がレンズ103、104の第1部位にのみ付与された眼鏡様装具、例えば、レンズ103、104の上位半分にのみ付与された眼鏡様装具100を例示している。これに代わる例として、図7Aは、光ルミネセンス物質がレンズ103、104の第2のより狭い部位にのみ付与された、例えば、レンズ103、104の上位側頭四半分にのみ付与された眼鏡様装具100を例示している。ここでもまた、図6Aおよび図7Aに例示されている実施例におけるレンズ103、104は、光ルミネセンス物質の付与に関しては必ずしも同じである必要はない点に留意するべきである。
図6Bから図6Eおよび図7Bから図7Eは、図6Aおよび図7Aにそれぞれ例示されている破断線に沿って切り取られて、レンズ103がフレーム105に取り付けられているように例示されている。図6Bから図6Eおよび図7Bから図7Eに例示されている実施例は図5Bから図5Eに例示されている実施例と本質的に同じであるが、但し例外として、光ルミネセンス物質108、109、208を基板107に付与する範囲(すなわち、基板の面積または部位)が異なっている点に注目するべきである。図6Bおよび図7Bに例示されているように、ナノ結晶208を含有した光ルミネセンス物質は基板全体に亘って均一に分布しているが、図6Cおよび図7Cにおいては、ナノ結晶を含有した光ルミネセンス物質は、透明基板107の上位外表面の外側被膜層108として配置されている。もう1つ別な実施例においては(図示せず)、このような層は透明基板107の上位内表面の内側層としてのみ配置されている。図6Dおよび図7Dは、ナノ結晶を含有した2枚の上位層108が、基板107の外表面に載置された外側層および内表面に載置された内側層という、両表面上の2つの層として配置されているのを例示している。図6Eおよび図7Eに例示されているように、光ルミネセンス物質109を含有した1枚以上の層が、前述のように、透明基板107の内側に挟み込まれている。ここでもまた、図6Bから図6Eおよび図7Bから図7Eに例示されている実施例のいずれかに例示されているように、レンズ103、104に光ルミネセンス物質を付与する際には、上述の堆積技術を採用することができる。
多様な相互に異なる形態が図5Aから図5E、図6Aから図6E、および、図7Aから図7Eとして例示されているが、これら以外にも可能な構成が考えられる。無制限的な具体例として、クリップ取付け式レンズの使用、レンズの一部のみに入射光を露光することによる治療、および、ナノ結晶層(1枚または複数枚)に加えて更に光減衰被膜、光遮断被膜、または、光減衰・光遮断被膜の追加使用も思量される。
もう1つ別な実施例においては、灯火、発光ダイオード(単数または複数)、または、それ以外の光源(その放射光はλAと例示されている)などの線源を利用して所望のスペクトルを有している線源光を放射する光治療システムが想定されている。このシステムは上述のレンズ103のような光学装置を備えており、レンズ103(例えば、上述の各実施例のいずれかに記載されているもののような)はそこに光ルミネセンス物質が付与されて線源光スペクトルに応じた光子を放射するようにしている。好ましい実施例においては、線源光スペクトルの具体例として不可視紫外光および近可視紫外光が挙げられる。
さらにもう1つ別な実施例においては、上述の効果は、光学装置ごとに個別に供与された潜在的に暫定的な被膜を利用して得られる。例えば、斯かる被膜は固定基材(例えば、光学装置に被膜を供与することができるようにするのに好適な粘性を有しているか、または、表面に付与されるのに十分な可撓性を有している流体、ゲル、または、それ以外の形態)と、基材の内部で比較的均一に懸濁された所望濃度の量子点とを含んでいる。例えば、一実施例においては、固定基材は、静電力または好適な粘着剤により光学装置に粘着する可撓性の重合体基板を備えているようにするとよい。もう1つ別な実施例においては、固定基材は、光学装置上で安定化された後で光学装置上に粘着するようにした移動可能な液体またはゲルを含んでいるようにしてもよい。具体的には、固定基材は、光学装置上に霧散されると、乾燥することによりレンズ103上に被膜を形成する液状物を含んでいるようにするとよい。上述の各実施例に関しては、被膜への入射光により、不可視紫外光または近可視紫外光に応じて、例えば420 nmから485 nmの所望の波長範囲で光子を放射させる。
図8から図11を参照しながら後段で説明してゆくもう1つ別な代替の実施例においては、光ルミネセンス物質(上述のような)をレンズに付与するにあたり、光ルミネセンス物質による発光の選択波長の少なくとも一部を減衰するよう構成されたフィルター層を付随させている。このような代替の実施例においては、フィルター材を設けることで、レンズを透過させられる選択波長の量を場所ごとに変動させ、それにより、選択波長の供与をより良好に制御することができるようにしている。
ここで図8Aを参照すると、代替の実施例によるレンズの概略断面図が例示されている。特に、レンズは基板220(上述の素材のいずれかから構成されている)を備えており、基板には光ルミネセンス物質222はもとよりフィルター材224も付与されている。一般に、光ルミネセンス物質222およびフィルター材224が基板220に付与される態様は、光ルミネセンス物質222によって放射される選択波長λBの少なくとも一部がフィルター材224によって減衰されるようにしたものであれば、如何なる態様でもよい。このような態様で、使用者の眼230(結果的には、使用者の網膜)に達する選択波長の量と振幅をより精緻に制御することができる。例えば、当業者には周知のことであるが、フィルター材は基板220を着色する目的で使用されるのに好適な多数の染料のうち何種類でも含んでいてもよい。選択波長が概ね青色光波長に属している実施例においては、フィルター材224はチバガイギーのオラソル橙G(Ciba-Geigy Orasol Orange G)染料を含有しており、これを使ってレンズを着色しているが、これは米国特許第4,952,056号に記載されているとおりであり、斯かる特許の教示内容はここに引例に挙げることにより本件の一部を成しているものとする。図8Aに例示されている実施例では、光ルミネセンス物質222は基板220の前表面(すなわち、外表面)の実質的に全面を被覆している。この態様で、結果として生じる選択波長の光が、例示したとおり、実質的に均一な態様で放射される。しかしながら、既に注目したように、光ルミネセンス物質222は前表面の全面ではなく一部のみに付与されるようにしてもよいし、または、図5Dおよび図5E等に例示されているように、基板220に対して交互の配置で付与されてもよい。更に、基板220の前表面に付与される添加層として光ルミネセンス物質222が図8Aに例示されているが、すでに注目したように、基板220の内側に光ルミネセンス物質222を拡散させ、または、別な態様で浸透させることも可能であり、或いは、基板220のもう1つ別な表面に光ルミネセンス物質を配置させることもできる。更に尚、光ルミネセンス物質222は実質的に均一な厚み、均一な密度、または、均一な厚みと密度を有していると例示されているが、光ルミネセンス物質222は不均一な厚み、不均一な密度、または、不均一な厚みと密度で付与される場合があるため、均一性は要件ではない。
更に図8Aに例示されているように、フィルター材224を基板220付与することで、発光の選択波長の一部が減衰されるように図っている。具体的な実施例では、フィルター材224は基板220に浸透して基板の下位部分Hの全体に及んでいるが、基板220の残余の上位部分はフィルター材を含有していない。このような構成は、当該技術で周知のように、基板220を適切な染料に浸漬させて基板内に染料を拡散させる着色プロセスにより、容易に達成することができる。ここでもまた、フィルター材224はそれを埋設している基板220の該当部分全体に亘って実質的に均一な態様で分布しているものとして例示されているけれども、当業者には分かることであるが、これは要件ではなく、また、フィルター材224は所望の勾配プロファイルに従って不均一な態様で基板220の関連部分に分布しているようにしてもよい。このようにして、図8Aに例示されているように、発光の選択波長の不均一な減衰を達成することができる。すでに例示したように、基板220の上位部分に沿って発光の選択波長に基板220を透過させるのに実質的に減衰しない態様λBで行えるが(これを説明するために、基板220の前表面または後表面のいずれかとその周囲環境との界面に内部反射が生じていることは無視している)、基板220の下位部分とフィルター材224とを透過する発光の選択波長の該当部分は減衰された形態λ’Bで出現する。すでに注目したが、眼230が網膜上に視界を逆に投射するという態様の場合、結果的に、これに比例してレベルが上昇した選択波長が網膜の下位部分に衝突することになる。
図8Bおよび図8Cはこの代替の実施例の各種変形例を更に例示しているが、ここでは、フィルター材224’、224”は、(i)基板220の後表面(すなわち、内表面)に付与されており、尚且つ、(ii)勾配プロファイルに複数の形態例がある。このような各事例では、フィルター材224’、224”は被膜として付与されて、基板220の後表面に分離層を確立している。フィルター材の勾配プロファイルにより選択波長の減衰を空間分化させている。図8Bに例示されている実施例では、フィルター材224’は、上位から下位に向かう方向に実質的に勾配が連続して増大する態様で配置されている。その結果、選択波長の透過は基板220の上位部分から下位部分に向けて連続して減衰の規模が増大し、すなわち、|λ’B|>|λ”B|>|λ’”B|の態様となる。図8Cに例示されている実施例では、フィルター材224”は勾配が段階的に増大する態様で配置されており、ここでもまた、上位から下位に向かう方向に増大している。この場合、選択波長の減衰も同様に段階的な態様で発生することになる。当業者なら分かることであるが、フィルター材にこのような段階的勾配を設けることは、図8Aに例示されたフィルター材埋設の実施例と同様に達成することができるが、その手段として、基板220の内側に埋設されるフィルター材224の濃度を段階的に変動させる方法が採られている。
ここで図9から図11を参照しながら、図8の代替の実施例の多様な具体例をここに説明してゆく。特に、図9A、図10A、および、図11Aは各々が1対のレンズ250、260、270の後表面(すなわち、レンズ装着者から見た場合)の立面図である。各レンズに相対的な上位方向(S)、下位方向(I)、側頭方向(T)、および、鼻側方向(N)が図示のとおりに示されている。図9Aの実施例に関しては、フィルター材(網掛け領域)は図8Aに例示されている具体例に従って、実質的に均一な態様で付与されている。その結果として、例えば、レンズ250を垂直軸線A1−A2に沿って通り抜ける選択波長λBの透過は、図9Bに例示されているとおりである。図9Bに例示されているように、選択波長の透過はレンズ250の上位部分全体に亘って比較的高率であるが、選択波長の実質的に均一な減衰はレンズの下位部分で生じる結果となっている。
図10Aを参照すると、逓増する垂直配向の勾配プロファイルに従って、すなわち、レンズ260の上位部分から下位部分に向かう方向に逓増する態様でフィルター材(結果的には、フィルター材が原因で生じる選択波長の減衰)がレンズ260に付与されている実施例が例示されている。この実施例においては、垂直方向勾配は逓増しているが、フィルター材はレンズ260の水平な幅方向に沿って、例えば、側頭側から鼻側に向けて比較的均一に付与されている。その結果として生じる、図10Bに例示されている垂直軸線A1−A2に沿った透過プロファイルは、レンズ260の上位部分から下位部分に向けて選択波長に加えられる逓増減衰を反映している。図9Aおよび図10Aに例示されている実施例の結果として、網膜の下位にゆくほど比較的大量の選択波長、比較的大きい振幅の選択波長、または、比較的大量かつ大きい振幅の選択波長が投与されることになる。
最後に、図11Aを参照すると、逓増する垂直配向の勾配プロファイルと逓増する水平配向の勾配プロファイルに従って、すなわち、レンズ270の上位部分から下位部分に向かう方向と側頭側から鼻側に向かう方向に逓増する態様でフィルター材がレンズ270に付与されている実施例が例示されている。その結果として生じる、図11Bに例示されている垂直軸線A1−A2に沿った透過プロファイルは、レンズ270の上位部分から下位部分に向けて選択波長に加えられる逓増減衰を反映しているが、垂直軸線A1−A2の水平位置がレンズ270の鼻側端縁よりも側頭側端縁により近いせいで、レンズ270の下位部分のほうが選択波長の減衰が比較的小さくなる結果を生じるという事実をも反映している。同様に、図11Cに例示されているように、斜め軸線B1−B2に沿った透過は、レンズ270の上位側頭側部分で最高となるが、透過はレンズ270の下位鼻側部分で最低となるという事実を反映している。その結果として、網膜の下位鼻側部分ほど比較的大量の選択波長、比較的大きい振幅の選択波長、または、比較的大量で大きい振幅の選択波長が付与されることになる。
前段までの記載は幾つかの具体例および本発明の各実施例の詳細な説明にすぎず、本件では本発明の真髄および範囲から逸脱せずに、開示された実施例に対して無数の変更を施すことができるものと解釈するべきである。例えば、厳密に治療目的の実施というよりはむしろ、上述の各種技術および各種構成は一部が美容的応用例に適用されてもよいし、または、純粋に美容的応用例に適用されてもよい。このような応用例では、光ルミネセンス物質は、上述のように構成された眼鏡様装具などの装着者の外観をより良好にする態様で付与されてもよい。よって、前段までの説明は、発明の範囲を制限することを意図したのではなく、過剰な負担無しに本発明を実施することができるように当業者に十分な開示を行うことを企図したものである。