JP2011234645A - グルタチオンを高含有する酵母菌体の製造法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高効率のグルタチオンの製法の提供。
【解決手段】グルタチオン生産性酵母を培養することによりグルタチオンを製造する方法であって、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を含有する培地において該酵母を培養する工程を含んでなる方法。
【選択図】なし

Description

発明の背景
発明の分野
本発明は、酵母を用いたグルタチオンの製造法に関する。
背景技術
グルタチオン(γ−グルタミル−L−システイニルグリシン)は、グリシン、L−グルタミン酸およびL−システインの3つのアミノ酸から構成されるトリペプチドであり、酵母や動物の肝臓などに広く存在している。グルタチオンは、医薬品の解毒剤及び眼科用剤として、各種の中毒、慢性肝臓疾患、皮膚疾患、白内障および角膜損傷の治療、ならびに抗癌剤の副作用や放射線療法による障害の防止などに利用されている(非特許文献1:錦織ら、「蛋白質核酸酵素」、VOL. 33, pp. 1625〜1631, 1988)。この用途に関して、グルタチオンは、カドミウム等の有害な化合物、活性酸素等の反応性酸素誘導体、および放射線による酸化損傷に対する細胞の保護剤として、さらには細胞内における酸化還元バランスの保持、および一般に細胞に損害を与える物質の不活性化において、重要な役割を果たしている。
近年では健康志向の観点から健康機能性食品が注目されているが、食品分野においても、上記のグルタチオンの生理活性に基づき、グルタチオン高含有食品が注目されている。
さらに、システインなどの含硫アミノ酸、およびγ−グルタミル−L−システインなどのペプチドは、食品の風味改善などを目的として用いられている。システインの製法としては種々の方法が知られているが、現在主に使用されているのはタンパク質分解法および半合成法である。
システインを食品の風味改善に用いることを目的として、システイン含量の高い天然食品素材が求められている。しかし、システインは細胞毒性を示すため、システインそのものの細胞内高含有化は困難である。よって、システインに代えてγ−グルタミル−L−システインを細胞内に高含有化する方法が報告されている。γ−グルタミル−L−システインを含む酵母エキスを加熱または酵素処理することにより、システインを高含有する食品素材を得ることが可能である(特許文献1:国際公開第00/30474号パンフレット)。
同様に、グルタチオンは食品の風味改善などの目的にも使用することができると考えられる。食品用途としては、グルタチオンはコク味を付与することが報告されている(非特許文献1:錦織ら、「蛋白質核酸酵素」、VOL. 33, pp. 1625〜1631, 1988)。グルタチオンは天然に広く存在するが、グルタチオンの工業的製造方法としては、パン酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)やトルラ酵母キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)などの酵母菌体からの抽出方法が一般的であり、そのためにはグルタチオン高含有酵母菌体の取得が望まれる。ここで、サッカロマイセス・セレビシエおよびキャンディダ・ユティリスはともに、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)より食品添加物としての使用が認められている安全性の高い酵母である。
グルタチオン高含有酵母菌体の製造方法としては、幾つかの方法が知られている。例えば、特開昭53−94089号公報(特許文献2)には、サッカロマイセス・セレビシエおよびサッカロマイセス・シスチノボレンスの培養において培地にシステイン等のアミノ酸を添加する方法が開示されている。特開昭48−92579号公報(特許文献3)には、様々なサッカロマイセス属酵母およびキャンディダ属酵母の培養において培地にシステイン等のアミノ酸を添加する方法が開示されている。G. Liang et al.(Bio. Eng. J., Vol. 41, pp. 234-240, 2008:非特許文献2)には、キャンディダ・ユティリスの培養において培地にシステイン等のアミノ酸を添加する方法が開示されている。特開2000−279164号公報(特許文献4)には、キャンディダ属(Candida)、デバリオママイセス属(Debaryomyces)、ロードトルラ属(Rhodotorula)、トルロプシス属(Torulopsis)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、ピシア属(Pichia)、クルベロマイセス属(Kluyveromyces)およびファフィア属(Phaffia)に属するそれぞれの酵母の培養において、培地に微量の金属イオン(亜鉛等)を添加する方法が開示されている。特開昭52−156994号公報(特許文献5)には、サッカロマイセス属、キャンディダ属等に属する様々な酵母の培養において、メタノール、ギ酸などのC1化合物を添加する方法が開示されている。特開昭60−244284号公報(特許文献6)には、サッカロマイセス属、キャンディダ属等に属する様々な酵母の培養において、培地に乳酸を添加する方法が開示されている。特開昭60−156379号公報(特許文献7)には、キャンディダ・ユティリスの培養において、通常よりも低い培養温度で培養する方法が開示されている。特開昭59−151894号公報(特許文献8)には、突然変異処理により取得されるエチオニン・亜硫酸塩耐性株を用いる方法が開示されている。特開2003−284547号公報(特許文献9)には、突然変異処理により取得されるポリエン系抗生物質耐性株を用いる方法が開示されている。
現在では、酵母のグルタチオン合成経路および代謝経路に関与する酵素をコードする遺伝子が数多く明らかにされているため、グルタチオン合成に関与する遺伝子の操作によってグルタチオン含有率の高い酵母菌株を育種する試みも行われている(特許文献10:特開2005−73638号公報;特許文献11:特開昭64−51098号公報;特許文献12:特開平10−33161号公報)。
上記のアミノ酸を添加する方法では、グルタチオン構成アミノ酸であるシステイン、グルタミン酸およびグリシンや、システイン合成と関連のあるメチオニン(その硫黄原子がセリンのヒドロキシ基酸素原子と置き換わることによりシスタチオニンを生成し、最終的にシステインを生成)のように、グルタチオン生合成経路と関連性の高いアミノ酸を添加すると、グルタチオン蓄積量が上昇すると記載されている(非特許文献2:G. Liang et al., Bio. Eng. J., Vol. 41, pp. 234-240, 2008;特許文献3:特開昭48−92579号公報)。しかしながら、例えば、グルタチオン蓄積量の上昇を達成するためには高濃度のシステインを必要とするため(約50mM)、増殖阻害を引き起こすことも知られている。なお、従来の報告では、培地に添加することによって酵母菌体内のグルタチオン蓄積量を上昇させる技術としては、前述したグルタチオンの構成因子あるいはその合成に必要なアミノ酸、あるいは無機塩を培地に添加するものが多い。グルタチオン高含有酵母の調製法には未だ改善の余地が大きい。
国際公開第00/30474号パンフレット 特開昭53−94089号公報 特開昭48−92579号公報 特開2000−279164号公報 特開昭52−156994号公報 特開昭60−244284号公報 特開昭60−156379号公報 特開昭59−151894号公報 特開2003−284547号公報 特開2005−73638号公報 特開昭64−51098号公報 特開平10−33161号公報
錦織ら、「蛋白質核酸酵素」、 VOL. 33, pp. 1625-1631, 1988 G. Liang et al., Bio. Eng. J., Vol. 41, pp. 234-240, 2008
本発明者らは、グルタチオン生産能を有する酵母の培養において、培地中に芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を添加することにより、菌体内のグルタチオン含有量が増加し、あるいは菌体の増殖率が向上し、これにより培養物中のグルタチオン総生産量が増加することを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
従って、本発明の目的は、高効率のグルタチオンの製法を提供することにある。
そして、本発明によるグルタチオンの製法は、グルタチオン生産性酵母を培養することによりグルタチオンを製造する方法であって、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を含有する培地において該酵母を培養する工程を含んでなる方法である。
本発明の他の態様によれば、グルタチオン生産性酵母の菌体を培養により製造する方法が提供され、該方法は、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を含有する培地において該酵母を培養する工程を含んでなる。
本発明の他の態様によれば、グルタチオン生産性酵母の菌体内におけるグルタチオン含有量を増加させる方法が提供され、該方法は、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を含有する培地において該酵母を培養する工程を含んでなる。
本発明によれば、遺伝子組換え手法を用いることなく、酵母培養物におけるグルタチオン生産量を増加させることが可能となる。このような酵母培養物からは、グルタチオン含有量の多い酵母エキスを得ることが可能であり、このような酵母エキスは食品添加物等として有用である。
図1は、芳香族アミノ酸代謝経路を示す図である。 図2は、芳香族アルコールの種類および濃度とグルタチオン含有率および総量との関連を示すグラフ(値は独立試行3回の平均値)である。 図3は、トリプトフォール500μMおよびフェニルエタノール1mMとグルタチオン含有率および総量との関連を示すグラフ[独立な5回の試行より算出した平均値と標準偏差(エラーバー)を示す)である。 図4は、トリプトフォール500μM、トリプトファン500μM・5mM、システイン500μMとグルタチオン含有率および総量との関連を示すグラフ[独立な3回の試行より算出した平均値と標準偏差(エラーバー)を示す)である。
発明の具体的説明
本発明では、グルタチオン生産性酵母の培養において、使用される培地に、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物が添加される。
本発明に用いられる酵母は、グルタチオン生産能を有するものであればいかなる酵母であってもよい。このような酵母としては、サッカロマイセス属(Saccharomyces)酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・シスチノボレンス等)、キャンディダ属(Candida)酵母(例えば、キャンディダ・ユティリス等)、デバリオママイセス属(Debaryomyces)酵母、ロードトルラ属(Rhodotorula)酵母、トルロプシス属(Torulopsis)酵母、ハンゼヌラ属(Hansenula)酵母、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)酵母、ピシア属(Pichia)酵母、クルベロマイセス属(Kluyveromyces)酵母、ファフィア属(Phaffia)酵母などが挙げられ、好ましくはキャンディダ属酵母、より好ましくはキャンディダ・ユティリス(Candida utilis)が用いられる。キャンディダ・ユティリスの株としては、例えば、NBRC0988株、NBRC0626株、NBRC0639株、NBRC1086株等、様々な株が知られており、いずれの株を用いてもよい。
芳香族アミノ酸とは、芳香族性または芳香族基を有するアミノ酸を意味し、前記酵母によって代謝されるものであればいかなるものであってもよい。このようなアミノ酸としては、好ましくは芳香族基を有する必須アミノ酸、例えば、フェニルアラニン、トリプトファンまたはチロシンとされる。
芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物とは、その酵母における上記の芳香族アミノ酸の代謝経路において生成する化合物を意味する。このような代謝経路としては、図1にも例示されるように、芳香族アミノ酸のアミノ基がケトンに変換され、次いでそのケトンに隣接するカルボン酸基(−COOH)が脱離してアルデヒドが形成され、次いでアルデヒドがアルコールに還元されて芳香族アルコールが生成する経路が挙げられる。本発明に用いられる化合物としては、そのような代謝経路において生成するどの段階の中間体であってもよく、例えば、フェニルアラニン(Phe)から得られるフェニルピルビン酸、フェニルアセトアルデヒドおよびフェニルエタノール(PheOH)、トリプトファン(Trp)から得られるインドールピルビン酸、インドールアセトアルデヒドおよびトリプトフォール(TrpOH)、ならびにチロシン(Tyr)から得られるp−ヒドロキシフェニルピルビン酸、p−ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドおよびチロソール(TyrOH)が挙げられる。本発明に用いられる好適な化合物は、上述の芳香族アルコールであり、より好ましくはフェニルエタノール(PheOH)、トリプトフォール(TrpOH)またはチロソール(TyrOH)とされる。
上記の代謝によって生産される化合物は、当業者であれば化学的に合成することができる。あるいは、該化合物は、当業者に公知の生物学的な方法によって得ることもできる。このような生物学的方法としては、微生物の上記代謝経路を利用して、安全かつ簡便な操作により効率よく上記の代謝産物を製造する方法が知られている。例えば、微生物を利用した芳香族アルコールの製造方法としては、大豆煮汁、米麹および酵母の混合物においてアルコール発酵を行い、そして酢酸菌を用いて酢酸発酵を行い、得られた醸造酢からからトリプトフォール(TrpOH)を精製する方法、あるいは、焼酎粕からトリプトフォール(TrpOH)を精製する方法が知られている(特開2008−290957号公報)。他の方法としては、大豆ペプチドの存在下でビール酵母を培養することにより、フェニルエタノール(PheOH)を高収率に製造する方法が知られている(S. Kitagawa et al., J. Biosci. Bioeng., Vol. 105, pp. 360-366, 2008)。他の方法としては、フェニルアセトアルデヒドを含有する培地でプロトテカ属微生物を培養し、フェニルエタノール(PheOH)を効率よく製造する方法が知られている(特開2009−112245号公報)。
芳香族アミノ酸から代謝によって生産される化合物の培地への添加量は、用いられる酵母の性質や培養の規模などの諸条件によって異なり、その最適な添加量は、グルタチオンの生成量を指標として決定することができる。例えば、様々な濃度の前記化合物を含む数種類の培地を用意し、それらの培地を用いて酵母を培養し、市販のキットを用いて各培養物中のグルタチオン生成量を測定し、最もグルタチオン生成量の多かった条件を選択すればよい。本発明の好ましい実施態様では、前記化合物の培地への添加量は、100μM〜1mM、より好ましくは500μM〜1mMとされる。
他の培地成分や培養条件は特に制限されるものではなく、酵母の培養に用いられる一般的な条件であってよい。
例えば、基礎となる培地は、炭素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地であれば、合成培地または天然培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、グリセロール、マンニトール、エタノール、n-パラフィン等が用いられる。また、乳酸やクエン酸等の有機酸も単独あるいは他の炭素源と併用して用いることができる。窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等が用いられる。有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆蛋白分解物等が用いられる。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、カルシウム塩等が用いられる。
培養は、例えば、20〜37℃の温度で、pHを3〜8に制御して行うことができ、必要に応じて通気培養を行なうことができる。培養中、炭酸カルシウム、アンモニア水、アンモニアガス、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリでpHを調整してもよい。
さらに、培養によって得られた培養物から、グルタチオンを高濃度で含有する酵母エキスを製造してもよい。固体培地を用いて培養した場合は、固体培地に生育した菌体を固体培地とともにそのまま培養物として用いてもよいし、固体培地から掻き取るなどの方法で集菌して得られる菌体を培養物として用いてもよい。液体培地を用いて培養した場合は、培養液をそのまま培養物として用いてもよいし、培養液から遠心分離またはろ過等の固液分離操作を行なって菌体を分離し、これを培養物として用いてもよい。
酵母エキスは、例えば、酵母培養物を自己消化処理することによって製造することができ、このような方法としては、酵母の培養物を35〜50℃で6〜72時間加熱する方法が挙げられる。自己消化処理後、得られる処理物をそのまま酵母エキスとして用いてもよいし、遠心分離、ろ過等の固液分離操作を行ない、不溶性の固形分を除去したものを酵母エキスとしてもよい。
また、酵母エキスは、酵母培養物を酵素分解処理することによって製造することもできる。このような方法としては、酵母の培養物にプロテアーゼ、アミラーゼ、細胞壁溶解酵素、デアミナーゼ、ヌクレアーゼ等を添加し、酵素反応させる方法が挙げられる。酵素は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。酵素反応の温度、pH、反応時間は各酵素により異なるが、各酵素の至適温度、至適pHで反応させることが好ましい。酵素分解処理後、得られる処理物をそのまま酵母エキス組成物としてもよいし、遠心分離、ろ過等の固液分離操作を行ない、不溶性の固形分を除去したものを酵母エキスとしてもよい。
また、酵母エキスは、酵母培養物を熱水抽出により製造することもできる。このような方法としては、培養液を遠心分離して回収した酵母湿菌体に、その質量と等量の蒸留水を加え、よく混合した後、90℃で30分間のオートクレーブ処理に供し、3,000rpmで5分間遠心分離して上清を回収する方法が挙げられる。
このようにして得られる酵母エキスはグルタチオンを高濃度で含有しており、食品添加物等として有用である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
実施例1:トルラ酵母キャンディダ・ユティリスにおけるグルタチオン生合成に対する芳香族アルコール添加の効果
酵母としては、キャンディダ・ユティリスNBRC0988株を使用した。
培地としては、SD+カザミノ培地(Yeast Nitrogen Base without amino acids 0.67%、グルコース2%、カザミノ酸2%)に、3種の芳香族アルコール[トリプトフォール(TrpOH)、チロソール(TyrOH)、およびフェニルエタノール(PheOH)]をそれぞれ単独で添加した培地を用いた。これらの芳香族アルコールは、それぞれ、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)およびフェニルアラニン(Phe)から酵母の代謝によって得られる代謝物質である(図1)[KEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)(http://www.kegg.com/)においてそれぞれmap00380、map00350、map00360]。
まず、YPD寒天培地において1日間30℃で培養した菌体を、3mLのSD+カザミノ培地において18〜30時間30℃にて好気的な条件で振とう培養した(130rpm)。この菌体の一部を、500mL容坂口フラスコ中の、芳香族アルコールを含むSD+カザミノ培地(200mL)に、600nmにおける吸光度(OD600)が0.1〜0.3となるように懸濁した後、48時間25℃で好気的に振とう培養した(150rpm)。芳香族アルコールの添加濃度として、0、10、100、500μM、および1mMを検討した。
次いで、生成したグルタチオン量を測定した。具体的には、まず、培養液1mLを遠心分離(15,000rpm、5分)し、上清を捨てて菌体画分を回収し、この菌体画分を滅菌水1mLに懸濁した。次に、これらの懸濁液を75℃にて10分間加熱し、懸濁液を遠心分離(15,000rpm、5分)し、上清を回収することにより、細胞内のグルタチオンを抽出した。得られた抽出液を100倍に希釈し、グルタチオン測定キット(OxisResearch社製BIOXYTECH GSH/GSSH-412)のマニュアルに従い、反応を行い、マイクロプレートリーダーにて1分間ごとに412nmにおける吸光度を測定し、1分間当たりの変化量を算出し、酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンの総量としてのグルタチオン含量を算出した。評価項目としては、細胞内のグルタチオン含有率(%)およびグルタチオン総生産量(mg/mL)を用いた。細胞内のグルタチオン含有率(%)は、グルタチオン1モルあたり307.33gとして、グルタチオン含量を乾燥菌体重量(g)で除することにより算出した。乾燥菌体重量(g)は、培養液40mLを遠心分離(3,000rpm、5分)し、上清を捨て、滅菌水20mLで洗浄した後にもう一度遠心分離(3,000rpm、5分)し、上清を捨て、115℃で17時間の乾燥を行い、残渣の重量を測定することにより得た。グルタチオン総生産量(mg/mL)は、グルタチオン含量を、採取した培養液1mLあたりに含まれるグルタチオン濃度に換算したものである。結果を図2に示す。
図2には、用いた芳香族アルコールおよびその濃度の全ての組み合わせについて、3つの棒グラフが示されている。3つの棒グラフは、左から順に細胞内グルタチオン含有率(%)、グルタチオン総生産量(mg/mL)および乾燥菌体重量(g)を示す。縦軸は、芳香族アルコールを添加しないで得られたコントロールデータに対する比である。これらの結果は、少なくとも3回の独立試行により求めたものである。
グルタチオン含有率(%)のコントロール比は、トリプトフォールでは、10μM:0.94、100μM:1.14、500μM:1.38、1mM:1.14であり、チロソールでは、10μM:0.86、100μM:0.92、500μM:1.14、1mM:0.97であり、フェニルエタノールでは、10μM:0.91、100μM:0.92、500μM:1.05、1mM:0.92であった。グルタチオン含有率(%)は、500μMのトリプトフォールを含有する培地において最も高い値を示した。
グルタチオン総生産量(mg/mL)のコントロール比は、トリプトフォールでは、10μM:0.95、100μM:1.13、500μM:0.98、1mM:0.83であり、チロソールでは、10μM:0.84、100μM:0.84、500μM:0.87、1mM:1.03であり、フェニルエタノールでは、10μM:0.88、100μM:0.86、500μM:0.84、1mM:1.58であった。グルタチオン総生産量(mg/mL)は、1mMのフェニルエタノールを含有する培地において最も高い値を示した。
フェニルエタノールによる総生産量の上昇は、乾燥菌体重量の上昇、つまり、菌体の高い生産率に起因すると考えられる(コントロール比:1.73)。
含有率と総生産量の上昇が見られた2つの条件(SD+カザミノ酸培地をベースとして、500μMのトリプトフォールを添加した培地、あるいは1mMのフェニルエタノールを添加した培地)でさらに5回の独立の試行により再現性の確認を行った。その結果を図3に示す。
図3には、芳香族アルコールを添加しないで得られたコントロールデータと、トリプトフォール(500μM)(上パネル)またはフェニルエタノール(1mM)(下パネル)のデータとを並べて示している。各サンプルのデータにおいて、左側の棒グラフは細胞内グルタチオン含有率(%)を示し、右側の棒グラフは乾燥菌体重量(g)を示す。黒三角のプロットはグルタチオン総生産量(mg/mL)を示す。図3からわかるように、これらの結果は、図2に示した結果と同様であり(それぞれ、コントロール比:1.27、1.66、P=7.2×10−5、P=1.0×10−4)、フェニルエタノールでも含有率の有意な上昇が得られた(コントロール比:1.44、P=6.2×10−5)。
以上のように、キャンディダ・ユティリスの培養において、アミノ酸の代謝産物である芳香族アルコール、特にトリプトフォールまたはフェニルエタノールを培地に添加することにより、細胞内のグルタチオン含有率(%)が有意に上昇し、また、菌体の高い生産率に起因してグルタチオン総生産量(mg/mL)が有意に上昇することが示された。
実施例2:トルラ酵母キャンディダ・ユティリスにおけるグルタチオン生合成に対する芳香族アルコールの添加効果と、システインまたはトリプトファンの添加効果との比較
実施例1において示されたトリプトフォールの添加効果と、これまで添加効果が報告されているシステインの効果、およびトリプトフォールの前駆体であるトリプトファンの効果を比較した。具体的な実験手順は、トリプトフォールの代わりにシステインまたはトリプトファンを使用する以外は実施例1と同じである。トリプトファンについては、トリプトフォールで効果を示した濃度の10倍の濃度(5mM)も試みた。結果は3回の独立試行により求めた。結果を図4に示す。
図4には、芳香族アルコールを添加しないで得られたコントロールデータと、トリプトフォール(500μM)、トリプトファン(500μM)、トリプトファン(5mM)、またはシステイン(500μM)のデータとを並べて示している。各サンプルのデータにおいて、左側の棒グラフは細胞内グルタチオン含有率(%)を示し、右側の棒グラフは乾燥菌体重量(g)を示す。黒三角のプロットはグルタチオン総生産量(mg/mL)を示す。
図4からわかるように、コントロール比は、それぞれトリプトフォール500μMで1.32、トリプトファン500μMで0.95、トリプトファン5mMで0.97、システイン500μMで0.99であった。トリプトフォールを添加したときにのみ、含有率の有意な上昇が得られた(P=0.031)。
トリプトファンを添加した際には含有率の有意な変化は見られなかったのに対し、その誘導体であるトリプトフォールを添加した際には含有率は有意に高まった。トリプトファン誘導体やフェニルアラニン誘導体、さらには他のアミノ酸の誘導体には、それが数段階の代謝変換産物であっても、前駆体であるアミノ酸とは異なり、グルタチオン含有量の変化に関わる性質が備わっている可能性が示された。

Claims (3)

  1. グルタチオン生産性酵母を培養することによりグルタチオンを製造する方法であって、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を含有する培地において該酵母を培養する工程を含んでなる、方法。
  2. グルタチオン生産性酵母の菌体を培養により製造する方法であって、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を含有する培地において該酵母を培養する工程を含んでなる、方法。
  3. グルタチオン生産性酵母の菌体内におけるグルタチオン含有量を増加させる方法であって、芳香族アミノ酸から前記酵母による代謝によって生産される化合物を含有する培地において該酵母を培養する工程を含んでなる、方法。
JP2010107299A 2010-05-07 2010-05-07 グルタチオンを高含有する酵母菌体の製造法 Withdrawn JP2011234645A (ja)

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN111557410A (zh) * 2020-05-29 2020-08-21 龙鼎(内蒙古)农业股份有限公司 一种辣木叶糙米酵素及其制备方法

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