JP2011231397A - 合金化位置決定方法、合金化位置決定装置及びプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】近年導入が進んだ、合金化の前段で誘導加熱を使用し保熱帯内で鋼板が徐冷されながら合金化されるプロセスであっても合金化位置をより正確に決定すること。
【解決手段】本発明に係る合金化位置決定方法は、鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得するステップと、保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、放射温度計の設置位置に関する情報を利用して、放射温度計が設置された位置での鋼板温度を推定するステップと、放射温度計が設置された位置における推定鋼板温度と、放射輝度の測定結果に関する情報を利用して、放射温度計が設置された位置における放射率を算出するステップと、算出された放射率に基づいて合金化位置を決定するステップと、を含む。
【選択図】図12
【解決手段】本発明に係る合金化位置決定方法は、鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得するステップと、保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、放射温度計の設置位置に関する情報を利用して、放射温度計が設置された位置での鋼板温度を推定するステップと、放射温度計が設置された位置における推定鋼板温度と、放射輝度の測定結果に関する情報を利用して、放射温度計が設置された位置における放射率を算出するステップと、算出された放射率に基づいて合金化位置を決定するステップと、を含む。
【選択図】図12
Description
本発明は、合金化位置決定方法、合金化位置決定装置及びプログラムに関する。
鋼板に亜鉛めっきを施すためのラインである溶融亜鉛めっきラインでは、鋼板を溶融亜鉛浴に通した後に加熱して表層に亜鉛と鉄の合金化層を形成する。この時、亜鉛めっきが所定の状態に合金化するように操業を行うことが、品質管理上重要である。すなわち、合金化が不十分な未合金や、合金化が進行しすぎた過合金はいずれも品質不良となる。
そこで、例えば以下の特許文献1には、合金化炉の高さ方向の複数箇所で、放射温度計を利用して放射エネルギーを測定し、得られた放射エネルギーの測定結果を利用して、合金化位置を特定するとともに、合金化を行う合金化炉の炉温の制御を行う方法が開示されている。
また、以下の特許文献2には、合金化炉内に3個以上の放射温度計を設置し、隣接する温度指示値の差に着目することで、合金化位置を決定する方法が開示されている。
更に、以下の特許文献3には、合金化炉内の板温保持帯の複数位置の鋼板放射温度を測定し、測定結果を利用して算出した放射率に基づいて合金化位置を決定する方法が開示されている。
ところで、上述の特許文献1〜3に開示されている技術は、合金化炉内部で火炎を焚き、鋼板を加熱して合金化させるプロセスを対象としたものである。このような高温の熱源がある炉内では迷光雑音が問題となり、放射率を正確に測定することが困難になると考えられる。ここで、迷光雑音は、測定対象の周囲に熱源が存在する場合に、熱源からの放射が外乱として放射温度計の測定値に混入する現象であり、かかる迷光雑音が混入することで、測定対象からの真の熱放射が不明になるという問題がある。
また、近年導入が進んだ、合金化の前段で誘導加熱を使用する合金化プロセスでは、従来のプロセスとは異なり、保熱帯の内部では燃焼を行わず、保熱帯内で鋼板が徐冷されながら合金化される。かかる合金化プロセスについて本発明者らが検討を行ったところ、以下で説明するように、従来のプロセスとは異なり、保熱帯内で鋼板の温度低下が生じていることが明らかとなった。
上述の特許文献1〜3に開示されている技術は、合金化炉内部に熱源が存在し、鋼板の温度がほぼ一定に維持されている状況下で用いられる技術であり、鋼板の温度低下は考慮されていない。従って、かかる方法を近年導入が進んだプロセスに適用した場合には、合金化位置を正確に決定することができないという問題があった。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、近年導入が進んだ、合金化の前段で誘導加熱を使用し保熱帯内で鋼板が徐冷されながら合金化されるプロセスであっても合金化位置をより正確に決定することが可能な、合金化位置決定方法、合金化位置決定装置及びプログラムを提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に当該保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得する放射輝度情報取得ステップと、保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、を利用して、前記放射温度計が設置された位置での前記鋼板温度を推定する鋼板温度推定ステップと、前記放射温度計が設置された位置における推定された推定鋼板温度と、前記放射輝度の測定結果に関する情報とを利用して、前記放射温度計が設置された位置における放射率を算出する放射率算出ステップと、算出された放射率に基づいて合金化位置を決定する合金化位置決定ステップと、を含む合金化位置決定方法が提供される。
前記鋼板温度推定ステップでは、前記鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、に基づいて、前記鋼板の温度低下量を算出し、前記保熱帯入側における前記鋼板の温度から、算出した前記温度低下量を差し引くことで、前記推定鋼板温度を算出することが好ましい。
前記鋼板温度推定ステップでは、単色温度計による前記保熱帯に装入される前の前記鋼板の測定温度と、多色温度計による前記保熱帯内での前記鋼板の測定温度とに基づいて前記温度低下パターンを算出し、当該算出した温度低下パターンと、前記放射温度計の設置位置に関する情報とを利用して、前記鋼板温度を推定してもよい。
前記合金化位置決定ステップでは、前記放射率算出ステップにおいて算出された、保熱帯の入側から(n−1)(n≧2)番目の放射温度計の位置に対応する放射率が予め指定した閾値未満であり、n番目の放射温度計の位置に対応する放射率が予め指定した閾値以上となった場合、(n−1)番目の放射温度計の設置位置とn番目の放射温度計の設置位置との間に対応する前記保熱帯内での区間を、合金化が生じた位置に決定してもよい。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に当該保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得する放射輝度情報取得部と、保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、を利用して、前記放射温度計が設置された位置での前記鋼板温度を推定する鋼板温度推定部と、前記鋼板温度推定部により推定された前記放射温度計が設置された位置における推定された推定鋼板温度と、前記放射輝度の測定結果に関する情報とを利用して、前記放射温度計が設置された位置における放射率を算出する放射率算出部と、前記放射率算出部により算出された放射率に基づいて合金化位置を決定する合金化位置決定部と、を備える合金化位置決定装置が提供される。
また、上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、コンピュータに、鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に当該保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得する放射輝度情報取得機能と、保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、を利用して、前記放射温度計が設置された位置での前記鋼板温度を推定する鋼板温度推定機能と、前記鋼板温度推定機能により推定された前記放射温度計が設置された位置における推定された推定鋼板温度と、前記放射輝度の測定結果に関する情報とを利用して、前記放射温度計が設置された位置における放射率を算出する放射率算出機能と、前記放射率算出機能により算出された放射率に基づいて合金化位置を決定する合金化位置決定機能と、を実現させるためのプログラムが提供される。
以上説明したように本発明によれば、保熱帯の内部における鋼板の温度低下を考慮して放射率を算出することで、鋼板温度を精度良く推定することが可能となり、合金化位置をより正確に決定することができる。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1の実施形態)
<溶融亜鉛めっきラインについて>
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る溶融亜鉛めっきラインの概略について説明する。図1は、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきラインの概略を示した説明図であり、図2は、溶融亜鉛めっきラインにおける鋼板温度の推移の一例を示したグラフ図である。
<溶融亜鉛めっきラインについて>
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る溶融亜鉛めっきラインの概略について説明する。図1は、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきラインの概略を示した説明図であり、図2は、溶融亜鉛めっきラインにおける鋼板温度の推移の一例を示したグラフ図である。
まず、図1を参照しながら、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきライン1について説明する。
図1に示したように、焼鈍炉から搬送されてきた鋼板Sは、溶融亜鉛及び各種の添加物を含む亜鉛浴10に浸漬される。鋼板Sは、亜鉛浴10内に設置されたシンクロール11によって方向転換し、略鉛直方向へと搬送される。
亜鉛浴10から出た鋼板Sは、その表面に、溶融亜鉛めっき層が形成されている。表面にめっき層が形成された鋼板Sは、インダクションヒーター等の合金化炉20へと搬送され、所定の鋼板温度まで加熱される。合金化炉20を出た鋼板S(表面にめっき層の形成された鋼板S)は、続いて、保熱帯30へと搬送される。
表面にめっき層に形成された鋼板Sは、保熱帯30内のいずれかの位置でめっき層の合金化が起こる。保熱帯30を出た鋼板Sは冷却帯40で冷却され、常温近くまで冷却されることとなる。
ここで、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきライン1では、めっき層の形成された鋼板Sの合金化位置を決定するために、保熱帯30の入側を含む保熱帯30の各所に、放射温度計50が設置されている。
また、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきライン1では、放射温度計50による測定結果を用いて合金化位置を決定する、合金化位置決定装置100が設けられている。
ここで、図2を参照しながら、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきライン1における温度推移の様子を説明する。ここで、図2に示したグラフ図の縦軸は、鋼板温度を表しており、グラフ図の横軸は、亜鉛浴10に浴入した後の経過時間である。図2は、ある通板速度で搬送されている鋼板Sの温度推移の一例を示している。
図2に示したように、亜鉛浴10は、ほぼ一定の温度(図2では、約450℃)に制御されており、亜鉛浴10中では、鋼板Sの温度は、ほぼ亜鉛浴10の温度となる。亜鉛浴10を出た鋼板Sは、合金化炉10に入るまでの間に温度の低下が起きるものの、インダクションヒーター等が用いられた合金化炉20に搬入されることで、鋼板温度が上昇していく。その結果、図2に示したように、合金化炉20を出て保熱帯30に入る時点では、鋼板温度は、約520℃程度まで上昇している。
ここで、近年導入が進んでいる溶融亜鉛めっきプロセスでは、保熱帯30内では鋼板温度が一定ではなく、図2に示したように、鋼板温度が徐々に低下していることが、本発明者らの調査によって明らかとなった。表面にめっき層の形成された鋼板は、保熱帯30中で徐々に温度が低下しながら、保熱帯30内のある場所で合金化が起こる。合金化の起こっためっき鋼板は、保熱帯30を出ると冷却帯40に搬入され、常温近くまで更に冷却される。
<合金化の進行に伴う放射率の変化について>
続いて、図3を参照しながら、合金化の進行に伴う分光放射率(以下、単に、放射率ともいう。)の変化について説明する。図3は、合金化の進行に伴う分光放射率の変化の一例を示したグラフ図である。
続いて、図3を参照しながら、合金化の進行に伴う分光放射率(以下、単に、放射率ともいう。)の変化について説明する。図3は、合金化の進行に伴う分光放射率の変化の一例を示したグラフ図である。
めっき表面の亜鉛が地鉄と合金化すると、急激な放射率(又は反射率)変化が起こることが知られている。めっき直後の鋼板表面は鏡面的であり、放射率が低い。だが、合金化により亜鉛層に鉄が拡散する過程で、鋼板の表面粗度が急激に増大し、その結果、放射率が上昇する。例えば、めっき直後の放射率は0.2程度であるが、鋼種によって異なるものの、合金化によって放射率が0.6〜0.8まで上昇することが知られている。
本発明者らは、かかる合金化の進行に伴う放射率の変化を、実験室における試験で確認した。この試験では、鋼材サンプルに対してレーザを照射し、鋼材サンプルで反射したレーザ強度を、積分球を使用して高精度に測定した。すなわち、この試験では、冷間での反射率を高精度に測定するものである。その後、「放射率=1−反射率」という光学法則に基づき、放射率を算出した。ここで、レーザ光源として、波長680nmの半導体レーザを使用した。このレーザ波長が、放射率観測波長に相当する。
本試験では、2鋼種のサンプルを準備し、各鋼種について、加熱時間によって合金化進行状態を変えたサンプルを複数作製した。得られた測定結果を、図3に示した。図中の□、◆がそれぞれのサンプルに対応する。図3に示すように、めっき直後は約0.17であった放射率が、合金化の完了したサンプルでは、0.6程度になることが確認された。始点の放射率0.17は、亜鉛固有の値であって常に一定値であると推察される。従って、図3からも明らかなように、測定した放射率が所定の閾値を超えた場合に、めっき層の合金化が完了したものと判断することができる。なお、合金化によって放射率が高まる現象は、合金化時に表面粗度が増大するために引き起こされる。従って、今回試験した680nm以外の波長であっても、可視光から近赤外の波長領域では、類似の放射率変化が起こると考えられる。
<合金化位置決定装置の構成について>
続いて、図4を参照しながら、本実施形態に係る合金化位置決定装置100の構成について、詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る合金化位置決定装置の構成を示したブロック図である。
続いて、図4を参照しながら、本実施形態に係る合金化位置決定装置100の構成について、詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る合金化位置決定装置の構成を示したブロック図である。
本実施形態に係る合金化位置決定装置100は、図4に例示したように、放射輝度情報取得部101と、鋼板温度推定部103と、放射率算出部105と、合金化位置決定部107と、表示制御部109と、記憶部111と、を主に備える。
放射輝度情報取得部101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。放射輝度情報取得部101は、溶融亜鉛めっきライン1の保熱帯30の近傍に設置され、搬送される鋼板Sの放射輝度を測定する複数の放射温度計50それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報(以下、放射輝度情報と称する。)を取得する。
ここで、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきライン1では、図5に示したように、保熱帯30に沿って、複数の放射温度計50が設置されている。図5は、放射温度計の設置位置の一例を示した説明図である。以下では、保熱体30の入側の放射温度計0に加えて、保熱帯30の近傍に、図5に示したように、放射温度計1から放射温度計nまでのn台の放射温度計50が設置されているものとする。なお、放射温度計1から放射温度計nは「放射輝度を測定する装置」として使用する。このため、通常は放射温度計内部で実行される放射輝度観測値を見かけの温度(黒体温度)に変換する処理を行わずに、放射輝度観測値を直接出力するようにするか、あるいは、一旦見かけの温度で出力された温度情報をプランクの黒体放射式に代入して放射輝度情報に変換する処理を実施する。
なお、保熱帯30の近傍とは、溶融亜鉛めっきラインの保熱帯30、合金化炉20と保熱帯30との間、及び、保熱帯30と冷却帯40との間からなるエリア(以下、これらのエリアを総称して、放射輝度測定エリアともいう。)を指すものである。
また、以下の説明では、鋼板Sの搬送方向に沿ってz軸を定義し、保熱帯30の入側に設けられた放射温度計0の設置位置を、z=0とする。また、放射温度計0によって測定された、保熱帯30に搬入される直前の鋼板温度をT0と表記し、保熱帯30内の鋼板温度を、T(z)と表すこととする。先に説明したように、保熱帯30内では、鋼板温度は徐々に低下していることが明らかとなったため、保熱帯30内の鋼板温度T(z)は、鋼板位置を表す変数zの関数としている。
また、保熱帯30の各所には、窓31が設けられており、各放射温度計50は、放射温度計50の設置箇所に対応する窓31を介して、鋼板Sの熱放射(すなわち、放射輝度)を測定する。今、図5に示したように、保熱帯30の入り側からn番目の放射温度計が測定した放射輝度を、Lnと表すこととする。
本実施形態に係る放射輝度情報取得部101は、図5のように設置された各放射温度計50から、各放射温度計の測定した放射輝度Lnに関する情報(放射輝度情報)を取得して、後述する鋼板温度推定部103及び放射率算出部105に出力する。
また、放射輝度情報取得部101は、各放射温度計50から取得した放射輝度情報を、当該放射輝度情報を取得した日時に関する時刻情報等と関連づけて、履歴情報として後述する記憶部111に記録してもよい。
鋼板温度推定部103は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。鋼板温度推定部103は、保熱帯30の内部における鋼板の搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、放射温度計50の設置位置に関する情報を利用して、保熱帯30の所定位置での鋼板の温度を推定する。ここで、上記鋼板温度低下パターンに関する情報(以下、単に「鋼板温度低下パターン」ともいう。)は、過去の操業実績データから、製造条件、すなわち、鋼板の鋼種、厚み、搬送速度などの条件毎に、予め記憶部111に格納しておく。あるいは、鋼板温度低下パターンは、炉内雰囲気と内壁による鋼板の抜熱の伝熱モデルシミュレーション結果等から算出することができる。この場合、伝熱モデルによるシミュレーションは、保熱帯30の内部における鋼板の搬送の時間経過に対する温度低下の形で計算されるので、その場合には、搬送速度の情報と組み合わせることで、鋼板の搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンを算出する。このような鋼板温度低下パターンは、例えば、記憶部111に格納されている。鋼板温度低下パターンは、鋼板の種別毎にデータベースの形式で記憶部111に格納されていてもよく、鋼板の種別毎にルックアップテーブルの形式で記憶部111に格納されていてもよい。
鋼板温度推定部103において実施される鋼板温度の推定処理の一例を、図6を参照しながら具体的に説明する。図6は、鋼板温度の推定方法を示した説明図である。図6に示した例では、鋼板温度低下パターンとして、保熱帯30内部における鋼板温度の低下の度合いを示した直線の傾きが利用されている。また、この直線は、横軸として保熱帯入側からの距離(z座標)をとり、縦軸として鋼板温度(℃)をとった座標系における直線として表されている。すなわち、図6に示した例では、保熱帯入側からの距離が、放射温度計の設置位置に対応している。
鋼板温度推定部103は、記憶部111に格納されている鋼板温度低下パターンと、放射温度計の設置位置(z座標)とに基づいて、鋼板の温度低下量を算出する。例えば、鋼板温度低下パターンが、図6に示したように、鋼板温度の低下の度合いを表す傾きとしてわかっているのであれば、鋼板温度推定部103は、まず、保熱帯入側からの距離を用いて、図中においてΔTで表される温度低下量を算出する。次に、鋼板温度推定部103は、図5における放射温度計0の放射輝度L0を利用して算出した保熱帯30に搬入される直前の鋼板温度T0から、算出した温度低下量ΔTを差し引く。これにより、保熱帯内の位置zにおける推定鋼板温度T(z)を算出することができる。すなわち、推定鋼板温度は、T(z)=T0−ΔTで表される量である。なお、温度T0は、この位置では合金化が始まる前であるため放射率が0.2(より正確に0.17としても良い。)であるものとして、観測される放射輝度L0を温度に変換して求める。
鋼板温度推定部103は、以上説明したような方法で、放射輝度情報取得部101から通知された放射輝度情報に対応する放射温度計の設置位置それぞれについて、推定鋼板温度を算出する。すなわち、図5に示したようにn個の放射温度計50が設置されている場合、鋼板温度推定部103は、放射温度計1の設置位置z1に対応する推定鋼板温度T(z1)〜放射温度計nの設置位置znに対応する推定鋼板温度T(zn)を算出する。
鋼板温度推定部103は、このようにして算出した各推定鋼板温度T(zn)を、放射率算出部105に出力する。また、鋼板温度推定部103は、算出した推定鋼板温度を、当該推定鋼板温度を算出した日時に関する時刻情報等と関連づけて、履歴情報として後述する記憶部111に記録してもよい。
放射率算出部105は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。放射率算出部105は、鋼板温度推定部103により推定された保熱帯の所定位置における推定鋼板温度T(z)と、放射輝度情報取得部101が取得した推定鋼板温度T(z)に対応する位置での放射輝度情報Ln(すなわち、位置zにおける放射輝度Lz)を利用して、放射率εzを算出する。
具体的には、放射率算出部105は、放射輝度情報Lnと、算出された推定鋼板温度T(z)とを利用して、以下の式101により放射率εzを算出する。
ここで、上記式101において、Lb(T)は、温度T[K]の黒体放射輝度を表している。また、定数c1は、真空中の光の速度cと、プランク定数hとを利用して表される値であり、定数c2は、真空中の光の速度cと、プランク定数hと、ボルツマン定数kとを用いて表される値である。これらの値の詳細を、以下の式102及び式103に示す。また、λは、放射温度計50の観察波長であり、赤外領域(より詳細には近赤外領域、例えば、1.5μmなど)に設定する。
以下では、放射率算出部105が実施する放射率の算出処理を詳細に説明するに先立ち、まず、放射率の算出に影響を与える各種の問題について、検討を行う。
近年導入が進んでいるプロセスでは、従来のプロセスとは異なり、合金化が進行する保熱帯にはバーナー火炎等の顕著な熱源が存在しない。しかしながら、かかる状況であっても、熱を持った保熱帯30の内壁が、迷光雑音源となり得る。そこで、まず、放射率の算出が、保熱帯の内壁からの迷光雑音でどのように影響を受けるかを簡単に説明する。
図7は、迷光雑音について説明するための説明図であり、保熱帯30の内部の様子を模式的に示したものである。保熱帯30の内部では、鋼板温度がT[℃]であり、放射率がεである鋼板Sが搬送されている。また、保熱帯30の内壁33は、高温で搬送される鋼板Sの熱放射等により加熱されて、その内壁温度は、TW[℃]に達しているものとする。保熱帯30の近傍に設置された放射温度計50は、鋼板Sが発する熱放射すなわち自発光35を測定する。また、保熱帯の内壁33も熱を持っているため、保熱帯の内壁33も熱放射を放出する。この熱放射が鋼板Sによって反射し、迷光37として同時に放射温度計50に観測されることとなる。このように、放射温度計50が観測する放射輝度Lzは、以下の式104に示したように、鋼板の自発光による放射輝度と、内壁の熱放射による放射輝度の和となる。この内壁の熱放射による放射輝度が迷光雑音と呼ばれ、誤差要因となる。
ここで、上記式104において、εは、鋼板の真の放射率を表しており、右辺第1項が、鋼板の自発光による放射輝度を表している。また、右辺第2項が、保熱帯の内壁からの熱放射が鋼板に反射して混入する放射輝度(迷光雑音)を表している。
ここで、上記式104から明らかなように、迷光雑音は、対象鋼板と内壁との温度差が小さい場合や真の放射率εが小さな値である場合に相対的に大きくなり、観測される放射輝度Lzが、真の鋼板熱放射から乖離することとなる。
更に、鋼板の推定温度が真の値から外れている場合にも、算出される放射率が不正確になる。このような外乱が存在する中で、放射率に基づく合金化判定が可能であるかを検討した。図8は、本実施形態に係る溶融亜鉛めっきライン1の保熱帯通過時における鋼板温度と内壁温度との関係を示したグラフ図である。なお、図8では、横軸として、z軸座標ではなく、亜鉛浴10から出た後の経過時間を採用している。
図8からも明らかなように、520℃程度で保熱帯30に搬入された鋼板Sは、保熱帯30内で徐々に冷却していることがわかる。また、内壁温度は、徐々に上昇しており、保熱帯の出側付近では、鋼板温度から100℃程度低い温度まで上昇していることがわかる。
本発明者らは、図8に示した温度推移条件(すなわち、実機での温度推移)で、経過時間が12秒、21秒、31秒及び40秒(鋼板温度では、520℃、500℃、480℃及び460℃)の位置に放射温度計が設置してあると仮定して、式104で計算される放射輝度Lzと、図8に示される鋼板温度推定鋼板温度T(z)とを用いて、式101から見かけの放射率を算出する計算を行った。
保熱帯の中央で合金化が起こったものとして、内壁温度の高低による迷光雑音の影響を計算した結果を、図9に示す。図9は、真の放射率と見かけ放射率との関係を示したグラフ図である。ここで、鋼板温度は、図8に示す値を用いた。
図9(a)は、インダクションヒーター加熱が導入される以前の、従来の火炎燃焼加熱方式の合金化炉を想定して、鋼板温度と内壁温度とが等しい(すなわち、T=TWが成立する)とした場合の計算結果である。鋼板温度と内壁温度とが等しいという条件は、図8に示した温度推移において、内壁温度が鋼板温度の温度推移と同じであると設定することである。
式104から明らかなように、鋼板の真の放射率が低いと、その分迷光雑音の寄与が大きくなる。そのため、真の放射率が図9(a)に示したように推移したとしても、見かけの放射率は1になる。また、別の表現をすれば、T=TWという条件が成立しているため、式104において放射率εに関する項がキャンセルされ、得られる放射輝度LZは、常に1となる。
これに対して、図9(b)に示したケースは、図8に示した温度推移パターンに則して見かけの放射率をシミュレートした場合の結果である。図9(b)から明らかなように、鋼板の真の放射率は見かけの放射率とほぼ一致していることがわかる。また、経過時間40secの観測位置において、見かけの放射率が真の放射率よりも僅かに上がっていることがわかる。これが、迷光雑音による影響である。近年導入が進んでいるプロセスでは、保熱帯30の内部において、鋼板温度は保熱帯の内壁温度よりも高い状態にあり、図8に示した温度推移パターンからも明らかなように迷光雑音による影響はわずかなものであって、合金化による放射率変化を十分に検知可能であることがわかる。
以上、放射率を算出する際の迷光雑音の影響について説明した。
続いて、放射率を算出する際の鋼板温度の推定精度の影響について、簡単に説明する。
続いて、放射率を算出する際の鋼板温度の推定精度の影響について、簡単に説明する。
放射率算出部105が放射率を算出するためには、推定鋼板温度Tを式101に代入する必要がある。そこで、この推定鋼板温度の推定精度が、算出された放射率に与える影響について検討するために、鋼板温度の推定値が真の値からずれている場合における見かけの放射率を算出した。ここで、見かけの放射率の算出に際して、保熱内の内壁温度は、図8に示した温度推移をするものとして設定した。
得られた結果を、図10に示した。図10は、真の鋼板温度が図8で示される値であるにもかかわらず、鋼板温度が一定であると推定してしまった場合の分光放射率と真の放射率との関係を示したグラフ図である。図10に示した計算結果は、保熱帯内で鋼板温度が低下せず、鋼板温度は一定値であるという条件(すなわち、従来の火炎燃焼加熱方式の合金化炉を想定した条件)でのものであり、経過時間が小さい範囲では、算出された放射率は真の値よりも大きく見積もられ、経過時間が大きな範囲では、算出された放射率は真の値よりも小さく見積もられている。
図10に示した結果からも明らかなように、保熱帯30の内部における鋼板温度が一定であるという条件(すなわち、鋼板温度の低下を考慮しない条件)では、見かけの放射率の変化が真に放射率によるものなのか、又は、温度変化によるものなのかが不明確になり、放射率に所定の閾値を設定して合金化位置を判定することは困難となる。
そこで、本実施形態に係る放射率算出部105では、上述のような知見を踏まえて、鋼板温度推定部103により推定された保熱帯の所定位置における推定鋼板温度T(z)と、放射輝度情報取得部101が取得した推定鋼板温度T(z)に対応する位置での放射輝度情報Ln(すなわち、位置zにおける放射輝度Lz)とを利用して、式101に基づき放射率εzを算出する。
放射率算出部105による放射率の算出処理は、鋼板温度推定部103による推定鋼板温度を利用することで、保熱帯30の内部における鋼板温度の低下を考慮に入れた処理を行っている。そのため、先に説明したような、推定鋼板温度の推定精度に起因した放射率算出誤差を抑制することができる。また、保熱帯の内壁温度は、鋼板温度よりも低い状態にあるため、算出された放射率に含まれる迷光雑音による影響も少ないものとなっている。
本実施形態に係る放射率算出部105は、放射温度計50の設置位置それぞれにおける放射率εzを算出し、算出した放射率εzを、後述する合金化位置決定部107に出力する。また、放射率算出部105は、算出した放射率を、当該放射率を算出した日時に関する時刻情報等と関連づけて、履歴情報として後述する記憶部111に記録してもよい。
なお、図8に示した鋼板温度と内壁温度との差(少なくとも100℃程度)はあくまでも一例であって、鋼板温度と内壁温度との温度差は、かかる温度差に限定されるわけではなく、内壁温度は、放射率の算出に際して外乱となるような温度でなければよい。
図11は、鋼板温度が460℃であると仮定し、鋼板と内壁との温度差を変化させた場合に、見かけ放射率がどのように変化するかを計算した結果である。この際、実線は、合金化前の放射率の変化を示したものであり、真の放射率が0.2であるとした場合の結果である。また、破線は、合金化後の放射率の変化を示したものであり、真の放射率が0.6であるとした場合の結果である。
図11の実線で示した放射率に着目すると、グラフから明らかなように、鋼板と内壁の温度差が200℃以上あれば、迷光雑音の影響は無視できるレベルに収まっていることがわかる。また、後述する合金化位置決定部107による合金化有無の判定の閾値が放射率0.4に設定されている場合、鋼板と内壁の温度差が70℃以下になると、合金化前の見かけの放射率が、あたかも合金化後のように観察されることとなる。従って、かかる温度差が、許容できる内壁温度の限界値となる。同様にして破線で示したグラフに着目すると、合金化後の放射率(正しくは0.6)も、温度差低下によって、見かけ上上昇することがわかる。
合金化位置決定部107は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。合金化位置決定部107は、放射率算出部105により算出された放射率εzに基づいて、保熱帯の内部で、めっき層が合金化した位置を決定する。合金化したか否かの判断には、所定の閾値が利用される。図3に示したように、合金化していない鋼板の放射率は低い値であり、合金化することで、鋼板の放射率は大きな値へと推移する。従って、合金化位置決定部107は、鋼板やめっきの種類等に応じて予め設定された閾値を利用して、合金化したか否かを判断することができる。すなわち、合金化位置決定部107は、算出された放射率が所定の閾値未満である場合には、合金化は起こっていないと判断し、算出された放射率が所定の閾値以上である場合には、合金化したと判断する。かかる閾値は、鋼板やめっきの種類等に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば、0.3又は0.4程度の値に設定することが可能である。
より詳細には、合金化位置決定部107は、放射率算出部105から通知された全ての放射率εzについて、その値が所定の閾値以上となっているか否かを判断する。例えば、保熱帯の入側からn(n≧2)番目の放射温度計の位置に対応する放射率εzが所定の閾値以上となった場合、合金化位置決定部107は、(n−1)番目の放射温度計の設置位置とn番目の放射温度計の設置位置との間に対応する保熱帯内での区間を、合金化が生じた位置に決定する。
例えば、図5に示したようにn個の放射温度計が設置されており、放射温度計3の位置に対応する放射率εz3が所定の閾値以上となった場合、合金化位置決定部107は、放射温度計2の設置位置と放射温度計3の設置位置との間の区間(すなわち、図5におけるz2〜z3の区間)を、合金化位置として決定する。
なお、合金化位置決定部107は、どの放射温度計がどの位置に設置されているか(すなわち、複数の放射温度計の設置順序及び設置位置に関する情報)を把握しているものとする。
合金化位置決定部107は、合金化が起こった位置を決定すると、得られた結果を、後述する表示制御部109に出力する。また、合金化位置決定部107は、合金化位置に関する判定結果を、当該判定を行った日時に関する時刻情報等と関連づけて、履歴情報として後述する記憶部111に記録してもよい。
表示制御部109は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。表示制御部109は、合金化位置決定部107から伝送された合金化位置に関する情報を、合金化位置決定装置100の備えるディスプレイ等の表示部に表示する際の表示制御を行う。また、表示制御部109は、合金化位置に関する情報以外にも、算出した推定鋼板温度や放射率の値、これらの値の推移を示したグラフ図など、各種の情報を表示部に表示させることができる。表示制御部109が表示部に合金化位置に関する結果を表示させることで、合金化位置決定装置100の利用者は、搬送されている鋼板Sの合金化位置に関する情報を、その場で把握することが可能となる。
記憶部111は、合金化位置決定装置100が備える記憶装置の一例である。記憶部111には、鋼板温度推定部103が推定鋼板温度を推定する際に利用する鋼板温度低下パターンに関する情報が格納されている。また、記憶部111には、複数の放射温度計の設置順序及び設置位置に関する情報が格納されていてもよい。また、記憶部111には、本実施形態に係る合金化位置決定装置100が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜格納されている。この記憶部111は、放射輝度情報取得部101、鋼板温度推定部103、放射率算出部105、合金化位置決定部107及び表示制御部109等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
以上、本実施形態に係る合金化位置決定装置100の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る合金化位置決定装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
<合金化位置決定方法の流れ>
続いて、図12を参照しながら、本実施形態に係る合金化位置決定方法の流れを説明する、図12は、本実施形態に係る合金化位置決定方法の流れを示した流れ図である。
続いて、図12を参照しながら、本実施形態に係る合金化位置決定方法の流れを説明する、図12は、本実施形態に係る合金化位置決定方法の流れを示した流れ図である。
本実施形態に係る合金化位置決定方法では、まず、放射輝度情報取得部101が、溶融亜鉛めっきライン1の近傍に設置されている複数の放射温度計50から、当該放射温度計の測定した放射輝度に関する情報(放射輝度情報)を取得する(ステップS101)。放射輝度情報取得部101は、取得した放射輝度情報を、鋼板温度推定部103及び放射率算出部105に出力する。
次に、鋼板温度推定部103は、記憶部111等に予め格納されている鋼板温度低下パターンと、放射温度計50の設置位置又は当該設置位置に換算可能な情報とを利用して、保熱帯30の所定位置での鋼板温度T(z)を推定する(ステップS103)。この鋼板温度の推定処理は、先に説明したように、保熱帯内部において鋼板温度が低下することを考慮した上での温度推定処理である。鋼板温度推定部103は、保熱帯30の各位置に設けられた放射温度計50の測定した放射輝度情報それぞれから推定鋼板温度T(z)を算出すると、算出した複数の推定鋼板温度を、放射率算出部105に出力する。
続いて、放射率算出部105は、放射輝度情報取得部101から伝送された放射輝度情報と、鋼板温度推定部103から通知された推定鋼板温度とを用いて、保熱帯30の所定位置での放射率を算出する(ステップS105)。放射率の算出が終了すると、算出した放射率に関する情報を、合金化位置決定部107に出力する。
次に、合金化位置決定部107は、予め設定されている閾値と、放射率算出部105から伝送された放射率に関する情報とを利用して、保熱帯の内部でめっき層が合金化した位置を決定する。このような流れで処理を行うことにより、本実施形態に係る合金化位置決定方法では、めっき層が合金化した位置を、精度良く判定することが可能となる。
(ハードウェア構成について)
次に、図13を参照しながら、本発明の実施形態に係る合金化位置決定装置100のハードウェア構成について、詳細に説明する。図13は、本発明の実施形態に係る合金化位置決定装置100のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
次に、図13を参照しながら、本発明の実施形態に係る合金化位置決定装置100のハードウェア構成について、詳細に説明する。図13は、本発明の実施形態に係る合金化位置決定装置100のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
合金化位置決定装置100は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、合金化位置決定装置100は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、合金化位置決定装置100内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、合金化位置決定装置100の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。合金化位置決定装置100のユーザは、この入力装置909を操作することにより、合金化位置決定装置100に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、合金化位置決定装置100が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、合金化位置決定装置100が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
ストレージ装置913は、合金化位置決定装置100の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、合金化位置決定装置100に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を合金化位置決定装置100に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、合金化位置決定装置100は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
以上、本発明の実施形態に係る合金化位置決定装置100の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
以下では、実施の溶融亜鉛めっきラインにおける放射輝度測定エリアに対して放射温度計を設置し、本発明の実施形態に係る合金化位置決定方法を適用した場合の結果について、具体的に説明する。なお、以下に示す具体例は、本発明の実施形態に係る合金化位置決定方法のあくまでも一例であって、本発明に係る合金化位置決定方法が以下の例に限定されるわけではない。
以下に示す実施例では、合金化位置を決定するために放射輝度測定手段として用いる放射温度計に加えて、鋼板の温度低下パターンを算出するために、図14に示したように、溶融亜鉛めっきラインの近傍(すなわち、放射輝度測定エリア)に、単色温度計A1と多色温度計A2とを設置した。
単色温度計とは、放射輝度を測定する波長域が1つである放射温度計のことであり、測定中に対象の放射率が変化しない場合に用いられる。また、多色温度計とは、複数の波長域で放射輝度を測定する放射温度計のことであり、放射率が変化する場合にも表面温度を測定することが可能である。
単色温度計とは、放射輝度を測定する波長域が1つである放射温度計のことであり、測定中に対象の放射率が変化しない場合に用いられる。また、多色温度計とは、複数の波長域で放射輝度を測定する放射温度計のことであり、放射率が変化する場合にも表面温度を測定することが可能である。
合金化炉20の直後では、溶融亜鉛めっきラインを搬送される鋼板の表面には亜鉛のみが存在するため、放射率ε=0.17程度とした放射温度計(単色温度計)により鋼板温度を測定することが可能である。また、保熱帯30の上部では、合金化の進行に伴って放射率が変動するため、多色温度計(例えば、二色温度計等)を用いて鋼板温度を測定することが可能である。
ここで、図14に示したように、合金化炉20の直後(位置zA)に単色温度計A1を設置し、保熱帯30の上部(位置zB)に多色温度計A2を設置して、鋼板温度を測定するものとする。単色温度計A1によって測定された鋼板温度をTAとし、多色温度計A2によって測定された鋼板温度をTBとすると、保熱帯30の内部における鋼板温度は、設置した放射温度計の高さに従って一次補間を行うことにより、以下の式151のように表すことができる。
ここで、先に説明したように、保熱帯30の上部になるほど鋼板温度は低下することから、上記式151において、(TB−TA)<0となる。従って、上記式151で表される式は、保熱帯30の入側でTAであった鋼板温度が、保熱帯の位置zにおいて何℃まで低下したかを推定するための、温度低下パターンとして利用可能であることがわかる。
<実施例1>
以下に示す実施例で測定に利用した各温度計の設置状況について、図15を参照しながら詳細に説明する。
図15に示したように、実験を行った溶融亜鉛めっきラインにおいて、合金化炉の出側(z=0)に単色温度計A1を設置し、保熱帯の上部(z=34m)に二色温度計A2を設置した。また、z=21m及びz=29mの位置に、それぞれ放射温度計を設置した。
以下に示す実施例で測定に利用した各温度計の設置状況について、図15を参照しながら詳細に説明する。
図15に示したように、実験を行った溶融亜鉛めっきラインにおいて、合金化炉の出側(z=0)に単色温度計A1を設置し、保熱帯の上部(z=34m)に二色温度計A2を設置した。また、z=21m及びz=29mの位置に、それぞれ放射温度計を設置した。
以下では、単色温度計A1及び二色温度計A2から得られた測定温度を用いて鋼板の温度低下パターンを算出し、保熱帯の内部における鋼板温度の推定に利用した。
また、z=21m及びz=29mに設置した放射温度計は、放射率ε=1と設定されており、これらの放射温度計を利用して、保熱帯内部を搬送される鋼板を測定した。すなわち、本実施例では、これら2つの放射温度計は放射輝度観測値を見かけの温度(ε=1における黒体温度)に変換して出力するように設定されており、出力される値は、上記式104に示したLzの値に相当するものである。
そのため、放射輝度情報取得部101は、放射温度計から出力された見かけの温度情報から、以下の式152により放射輝度情報へと変換する処理を実行する。
ここで、上記式152において、Lnは、z=21m又はz=29mにおける放射輝度であり、T’(z)は、z=21m又はz=29mに設置された放射温度計から出力された温度情報である。また、上記式152において、c1及びc2は、上記式102及び式103に示した定数であり、λは測定波長であって、その値は、1.55μmである。
また、測定対象とした鋼板は、板厚1.4mm、板幅9350mmの軟鋼である。かかる鋼板は、上述のように各温度計の設置された溶融亜鉛めっきラインを、90mpmのラインスピードで搬送された。
2つの温度計(単色温度計A1及び二色温度計A2)により測定した鋼板温度と、得られた鋼板温度に基づいて算出した21m及び29mの位置での推定鋼板温度とを、図16にあわせて示した。
図16に示したように、合金化炉出側の鋼板温度は、567℃であり、保熱帯34mの位置での鋼板温度は、527℃であった。また、これらの測定結果を利用して式151に基づき算出した21mの位置での鋼板温度は542℃であり、29mの位置での鋼板温度は533℃であった。
また、保熱帯の21mの位置、及び、保熱帯の29mの位置で測定された放射温度計測定値(この値は、式104におけるLzの値に相当する。)を図17に示した。本実施例では、上記位置に設置された放射温度計の放射率設定が放射率ε=1と設定されており、測定値は、ε=1における見かけの温度となっている。
図17に示した放射温度計測定値を利用して、上記式152により放射輝度情報を算出するとともに、算出した放射輝度情報Ln及び図16に示した推定鋼板温度T(z)を利用して、式101に基づいて放射率を算出した。得られた放射率の値を、図18に示した。
図18を参照すると、21mの位置では、放射率が0.28〜0.38であり、合金化閾値を0.4とすると未合金であることを表している。他方、28mの位置では、放射率が0.6とほぼ一定の値を示しており、この位置では合金化が完了していることがわかる。この結果から、合金化位置は、21mと28mとの間であると決定することができる。
以上説明したように、本発明の実施形態に係る合金化位置決定方法及び合金化位置決定装置によれば、保熱帯の内部における鋼板温度の低下を考慮した鋼板温度の推定を行い、推定の結果えられた鋼板温度を放射率の算出に利用するため、放射率をより正確に算出することが可能となる。これにより、近年導入が進んだ、インダクションヒーター等の合金化炉を利用したプロセスであっても、合金化位置をより正確に決定することが可能となる。その結果、かかる合金化位置に関する情報を利用して、インダクションヒーター等の合金化炉における誘導加熱入熱量や通板速度を制御し、合金化が安定するように操業を行うことが可能となり、未合金や過合金と呼ばれる品質不良の発生を回避することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 溶融亜鉛めっきライン
10 亜鉛浴
20 合金化炉
30 保熱帯
40 冷却帯
50 放射温度計
100 合金化位置決定装置
101 放射輝度情報取得部
103 鋼板温度推定部
105 放射率算出部
107 合金化位置決定部
109 表示制御部
111 記憶部
10 亜鉛浴
20 合金化炉
30 保熱帯
40 冷却帯
50 放射温度計
100 合金化位置決定装置
101 放射輝度情報取得部
103 鋼板温度推定部
105 放射率算出部
107 合金化位置決定部
109 表示制御部
111 記憶部
Claims (6)
- 鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に当該保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得する放射輝度情報取得ステップと、
保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、を利用して、前記放射温度計が設置された位置での前記鋼板温度を推定する鋼板温度推定ステップと、
前記放射温度計が設置された位置における推定された推定鋼板温度と、前記放射輝度の測定結果に関する情報とを利用して、前記放射温度計が設置された位置における放射率を算出する放射率算出ステップと、
算出された放射率に基づいて合金化位置を決定する合金化位置決定ステップと、
を含むことを特徴とする、合金化位置決定方法。 - 前記鋼板温度推定ステップでは、
前記鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、に基づいて、前記鋼板の温度低下量を算出し、
前記保熱帯入側における前記鋼板の温度から、算出した前記温度低下量を差し引くことで、前記推定鋼板温度を算出することを特徴とする、請求項1に記載の合金化位置決定方法。 - 前記鋼板温度推定ステップでは、
単色温度計による前記保熱帯に装入される前の前記鋼板の測定温度と、多色温度計による前記保熱帯内での前記鋼板の測定温度とに基づいて前記温度低下パターンを算出し、
当該算出した温度低下パターンと、前記放射温度計の設置位置に関する情報とを利用して、前記鋼板温度を推定することを特徴とする、請求項1に記載の合金化位置決定方法。 - 前記合金化位置決定ステップでは、前記放射率算出ステップにおいて算出された、保熱帯の入側から(n−1)(n≧2)番目の放射温度計の位置に対応する放射率が予め指定した閾値未満であり、n番目の放射温度計の位置に対応する放射率が予め指定した閾値以上となった場合、(n−1)番目の放射温度計の設置位置とn番目の放射温度計の設置位置との間に対応する前記保熱帯内での区間を、合金化が生じた位置に決定することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の合金化位置決定方法。
- 鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に当該保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得する放射輝度情報取得部と、
保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、を利用して、前記放射温度計が設置された位置での前記鋼板温度を推定する鋼板温度推定部と、
前記鋼板温度推定部により推定された前記放射温度計が設置された位置における推定された推定鋼板温度と、前記放射輝度の測定結果に関する情報とを利用して、前記放射温度計が設置された位置における放射率を算出する放射率算出部と、
前記放射率算出部により算出された放射率に基づいて合金化位置を決定する合金化位置決定部と、
を備えることを特徴とする、合金化位置決定装置。 - コンピュータに、
鋼板の溶融亜鉛めっきラインの保熱帯近傍に当該保熱帯の鋼板搬送方向に沿って設置され、搬送される鋼板の放射輝度を測定する複数の放射温度計それぞれから、放射輝度の測定結果に関する情報を取得する放射輝度情報取得機能と、
保熱帯内部における搬送方向位置の変化に伴う鋼板の温度低下パターンに関する情報と、前記放射温度計の設置位置に関する情報と、を利用して、前記放射温度計が設置された位置での前記鋼板温度を推定する鋼板温度推定機能と、
前記鋼板温度推定機能により推定された前記放射温度計が設置された位置における推定された推定鋼板温度と、前記放射輝度の測定結果に関する情報とを利用して、前記放射温度計が設置された位置における放射率を算出する放射率算出機能と、
前記放射率算出機能により算出された放射率に基づいて合金化位置を決定する合金化位置決定機能と、
を実現させるためのプログラム。
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