JP2011208245A - 加工性に優れた高強度鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】強度−延性バランスに優れた高強度鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、所定の化学成分を有する鋼を、Ac3点以上の温度で10秒以上保持した後、10℃/秒以上の冷却速度でMs点以下まで冷却し、150℃以上250℃未満で30秒以上700秒以下保持した後、室温まで冷却する一次焼鈍工程と、次いで、Ac1点以上Ac3点以下で10秒以上200秒以下保持した後、10℃/秒以上の冷却速度で300℃以上500℃以下の温度まで冷却し、300℃以上500℃以下で10秒以上500秒以下保持した後、室温まで冷却する二次焼鈍工程とを含むことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法である。
【選択図】なし

Description

本発明は、980〜1470MPa級の高強度鋼板の製造方法に関するものであり、特に強度−延性バランスに優れた高強度鋼板の製造方法に関するものである。
近年、自動車には、地球環境の保全という観点から燃費改善が要求されるとともに、衝突時に乗員を保護するため、車体の安全性向上も要求されている。そのため、自動車車体の軽量化および強化が積極的に進められている。自動車車体の軽量化および強化を同時に満足させるためには、素材を高強度化させることが効果的であり、最近では高張力鋼板が自動車部品素材として積極的に使用されるようになっており、その適用箇所の増加ならびに鋼板の高強度化が加速している。
また、自動車部品の多くはプレス加工によって成形されるため、自動車部品用鋼板には高強度であることに加えて優れたプレス成形性が要求される。優れたプレス成形性を実現するためには、高い延性を確保することが肝要である。
以上の通り、自動車部品用鋼板には高強度かつ高い延性が強く要求されている。このような市場ニーズから、自動車部品用鋼板には更に高いレベルの強度かつ延性が要求されることが予想される。
従来、延性と強度を兼ね備えた鋼板としては、フェライトと低温変態生成相との複合組織からなる組織強化型鋼板が提案されている。このような組織強化型鋼板では、フェライトとマルテンサイトの複合組織からなる二相(Dual Phase)組織鋼板(以下、DP鋼板と呼ぶ。)が代表的である。DP鋼板は延性と強度のバランスに優れた鋼板であるものの、延性に関してはより優れた延性が要求されており、DP鋼板よりも高延性を確保できる組織として、組織中に残留オーステナイトを取り入れたTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼板が提案されている。TRIP鋼板では、残留オーステナイトが加工変形中に歪み誘起変態することによって延性を向上させるものである。
TRIP鋼板は通常、熱間圧延および冷間圧延を行った後に、所定の熱処理を施すことによって製造されるものであるが、例えば特許文献1〜3には、TRIP鋼板の延性や伸びフランジ性を向上させることを目的として冷間圧延の後に2回焼鈍する方法が提案されている。
特許文献1および2では、1回目の焼鈍後に急冷してラス状のマルテンサイト組織を生成させることによって、2回目の焼鈍の際、すなわち連続溶融亜鉛めっきラインにおいて行う熱処理やめっき処理の際に生成するオーステナイト相を微細に分散させることができ、その結果オーステナイト中へのCの濃化を容易にし、残留オーステナイトの分率を増加させ、より高い延性を実現できることが記載されている。
特許文献3では、1回目の連続焼鈍後の急冷により生成したマルテンサイトを250〜550℃の温度で焼戻すことにより、マルテンサイトのラス間に微細な炭化物が析出し、これをもう一度720℃以上850℃以下の温度に加熱することにより炭化物が再固溶して微細なオーステナイトが分散して生成する結果、残留オーステナイト相や他の低温変態相が微細に分散した組織となり、より高い延性を実現できると開示されている。
特許第3840864号公報 特許第4225082号公報 特許第4333352号公報
本発明は、強度−延性バランスに優れた980〜1470MPa級の高強度鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは強度−延性バランスに優れた高強度鋼板を得るべく検討を重ねた結果、冷間圧延後の1回目の焼鈍で得られるマルテンサイトを150℃以上250℃未満という比較的低温域で焼戻しすることによって、強度−延性バランスの優れた鋼板が実現できることを見出した。すなわち、本発明に係る加工性に優れた高強度鋼板の製造方法とは、質量%で、C:0.15%以上0.25%以下、Si:1.0%以上2.5%以下、Mn:1.5%以上3.0%以下、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.01%以上0.1%以下、N:0.01%以下(0%を含まない)を含有し、残部は鉄および不可避的不純物である鋼を、冷間圧延した後に、Ac3点以上の温度で10秒以上保持した後、10℃/秒以上の冷却速度でMs点以下まで冷却し、150℃以上250℃未満で30秒以上700秒以下保持した後、室温まで冷却する一次焼鈍工程と、次いで、Ac1点以上Ac3点以下で10秒以上200秒以下保持した後、10℃/秒以上の冷却速度で300℃以上500℃以下の温度まで冷却し、300℃以上500℃以下で10秒以上500秒以下保持した後、室温まで冷却する二次焼鈍工程とを含むことを特徴とする。
本発明の製造方法に用いる鋼は、さらに質量%で(a)Cr:0.5%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5%以下(0%を含まない)、(b)Nb:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)、およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。
また本発明の上記二次焼鈍工程には、溶融亜鉛めっき工程が含むことも好ましく、このような場合に本発明が上記二次焼鈍工程の後に、更に合金化する工程を含むことも好ましい実施形態である。
本発明の製造方法によれば、特に一次焼鈍工程における焼戻し温度が150℃以上250℃未満という適切な温度で行われているため、マルテンサイト相のラス境界あるいはラス内に微細な炭化物を析出させることができ、この微細な炭化物が核生成サイトとなって二次焼鈍工程でオーステナイトが微細に分散するため、強度−延性バランスに優れた鋼板を実現することができる。
図1(a)は本発明の一次焼鈍工程のヒートパターンを示す図であり、図1(b)は本発明の二次焼鈍工程のヒートパターンを示す図である。 図2は、一次焼鈍工程における焼戻し温度と、強度−延性バランスの関係を示したグラフである。
本発明者らは、冷間圧延後の1回目の焼鈍で得られるマルテンサイトを150℃以上250℃未満という比較的低温域で焼戻しすれば、マルテンサイト相のラス境界あるいはラス内に微細な炭化物を析出させることができ、その結果、オーステナイトを微細に分散させることができ、強度−延性バランスに優れた鋼板を実現できることを見出した。
TRIP鋼板の製造方法は、通常、鋼を溶製して鋳造した後、熱間圧延および冷間圧延し、その後焼鈍することによって得られるが、本発明の製造方法は上述の通り特に冷間圧延後の一次焼鈍工程に特徴を有している。まず、本発明の製造方法における焼鈍工程(一次焼鈍工程および二次焼鈍工程)について、図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る製造方法のヒートパターンを示した図である。
(1)一次焼鈍工程
一次焼鈍工程では、まずAc3点以上の温度T1(℃)での保持時間t1(秒)を10秒以上として保持した後、冷却速度CR1(℃/秒)を10℃/秒以上としてMs点以下の温度T2(℃)まで冷却する。
二次焼鈍工程の後に、本発明が目標とする高レベルの強度−延性バランスを確保するためには、一次焼鈍工程においてマルテンサイトを主相とする組織を生成させることが必要である。そこでT1はオーステナイトが出現するAc3点以上と定め、t1は10秒以上と定めた。T1がAc3点未満であるか、またはt1が10秒未満であると、一次焼鈍後の組織に加工組織が残り、後述する二次焼鈍工程によってもこの加工組織は解消されないため、二次焼鈍後に得られる鋼板の強度−延性バランスが低下する。T1はAc3点+20℃以上が好ましく、より好ましくはAc3点+40℃以上である。t1は30秒以上が好ましく、より好ましくは60秒以上であり、さらに好ましくは80秒以上である。T1およびt1の上限は特に限定されないが、高温で長時間保持することは製造コストの上昇を招くため、T1は1000℃以下とすることが好ましく、t1は700秒以下とすることが好ましい。なお、T1はAc3点以上の温度である限り一定であってもよいし、昇降温を繰り返すものであってもよい。
また前記T1での保持後の冷却速度CR1が10℃/秒未満であるか、または冷却停止温度T2がMs点を超えていると、十分な量のマルテンサイト相が生成しない。CR1は好ましくは20℃/秒以上であり、より好ましくは30℃/秒以上である。T2は好ましくはMs点−100℃以下であり、より好ましくはMs点−200℃以下であり、最も好ましくは50℃以下である。冷却速度の上限は、生産性を阻害しない限り特に限定されないが、通常200℃/秒程度である。
また、前記T1に到達するまでの加熱速度HR1は特に限定されないが、生産性を考慮した上で前記保持温度T1および保持時間t1を確保するためには、通常2〜50℃/秒である。
次に、Ms点以下の温度T2(℃)までの冷却の後、150℃以上250℃未満の温度T3(℃)での保持時間t3(秒)を30秒以上700秒以下として保持した後、室温まで冷却する。150℃以上250℃未満の温度T3で焼戻すことにより、一次焼鈍工程後の急冷によって生成したマルテンサイト相のラス境界あるいはラス内に微細な炭化物を析出させることができる。引き続き行われる二次焼鈍工程でのAc1点以上Ac3点以下への加熱工程で組織がオーステナイトに逆変態する際に、前記微細な炭化物がオーステナイトの核生成サイトとなることによってオーステナイトが微細に分散する結果、二次焼鈍工程後に得られる鋼板の強度−延性バランスが飛躍的に向上するものと考えられる。焼戻し温度T3が250℃以上となるか、または保持時間t3が700秒を超えると、析出する炭化物が粗大化するため、二次焼鈍工程において炭化物が溶け残るとともに、微細なオーステナイト相を得ることができない。また、焼戻し温度T3が150℃未満であるか、または保持時間t3が30秒未満である場合は、微細炭化物が十分に確保できないため、二次焼鈍工程において微細なオーステナイト相を得ることができない。T3は150℃以上250℃未満の要件を満たす限り、一定であってもよいし、昇降温を繰り返すものであってもよい。
なお、焼戻し温度T3は、前記冷却停止温度T2よりも高温、すなわちT3>T2とすることが好ましい。冷却停止温度T2から焼戻し温度T3に至るまでの加熱速度HR2、および焼戻し温度T3から室温までの冷却速度CR’は、生産性を考慮した上でT3およびt3が十分確保できる限り限定されないが、HR2は通常1〜50℃/秒であり、CR’は通常3〜50℃/秒である。
(2)二次焼鈍工程
一次焼鈍工程に次いで、二次焼鈍工程ではAc1点以上Ac3点以下の温度T4(℃)での保持時間t4(秒)が10秒以上200秒以下となるように保持した後、冷却速度CR2(℃/秒)が10℃/秒以上となるように300℃以上500℃以下の温度T5(℃)まで冷却し、T5(℃)での保持時間t5(秒)が10秒以上500秒以下となるように保持した後、室温まで冷却する。
一次焼鈍工程に引き続いて、T4(℃)でt4(秒)保持することによって一次焼鈍工程で生成させた組織をオーステナイト組織に逆変態させる。T4がAc1点未満であるか、またはt4が10秒未満であると、オーステナイトへの逆変態が不十分となり、残留オーステナイトの分率を確保することができず、その結果、得られる鋼板の強度−延性バランスが低下する。またT4がAc3点を超えるか、またはt4が200秒を超えると、生成するオーステナイト相が粗大となり、得られる鋼板の強度−延性バランスが低下する。T4の下限は好ましくはAc1点+10℃以上であり、より好ましくはAc1点+20℃以上である。T4の上限は好ましくはAc3点−5℃以下であり、より好ましくはAc3点−10℃以下である。t4の下限は好ましくは30秒以上であり、より好ましくは50秒以上である。t4の上限は好ましくは180秒以下であり、より好ましくは150秒以下である。なお、T4はAc1点以上Ac3点以下の要件を満たす限り、一定であってもよいし、昇降温を繰り返すものであってもよい。
T4での保持後は、冷却速度CR2が10℃/秒以上となるように300℃以上500℃以下の温度T5(℃)まで冷却する。CR2が10℃/秒未満であると、冷却時にパーライト変態が起こるため、残留オーステナイトが十分に確保できなくなり、得られる鋼板の強度−延性バランスが低下する。CR2は13℃/秒以上が好ましく、より好ましくは15℃/秒以上である。CR2の上限は生産性を阻害しない限り特に限定されないが、概ね100℃/秒である。
300℃以上500℃以下の温度T5(℃)まで冷却し、T5(℃)での保持時間t5(秒)が10秒以上500秒以下となるように保持するのは、オーステナイト相の一部がベイナイト相に変態し、未変態のオーステナイト相へのC濃化が促進され、残留オーステナイトの生成が容易になるためである。T5が300℃未満であるか、またはt5が10秒未満では、ベイナイト変態によるオーステナイト相へのC濃化が不十分となり、得られる残留オーステナイトが減少する。一方、T5が500℃を超えるか、またはt5が500秒を超えると、パーライト変態が起きたり、過度にベイナイト変態が進行したりすることによって、得られる残留オーステナイトが減少する。T5の上限は好ましくは490℃以下であり、より好ましくは480℃以下である。t5の下限は好ましくは30秒以上であり、より好ましくは50秒以上であり、t5の上限は好ましくは300秒以下であり、より好ましくは150秒以下である。なお、T5は300℃以上500℃以下の要件を満たす限り、一定であっても良いし昇降温を繰り返すものであっても良く、またT4から冷却した際の冷却終了温度T5と、保持時間t5で保持する温度T5は同一であっても良いし、異なっていても良い。T5から室温までの冷却速度CR3は生産性を考慮した上でT5およびt5が十分確保できる限り限定されないが、通常3〜50℃/秒である。
本発明の製造方法において、二次焼鈍工程が溶融亜鉛めっき工程を含むことも好ましい態様であるが、溶融亜鉛めっきを行う場合、めっき浴の温度は450〜500℃にすることが好ましい。めっき浴の温度が450℃未満であるとめっき表面にη相(純亜鉛)が残存し、不めっきとなるため好ましくなく、一方めっき浴の温度が500℃を超えるとパーライト変態が起こったり、過度にベイナイト変態が進行したりして、得られる残留オーステナイトが不足するため好ましくない。前記めっき浴の好ましい温度範囲は前記T5の温度範囲に含まれることから、溶融亜鉛めっき処理を行う時間はt5に含めて調整すればよく、溶融亜鉛めっき処理時間も含めてt5が上記した通り10秒以上500秒以下となるようにすればよい。
さらに本発明の製造方法において、前記溶融亜鉛めっきの合金化を行うことも好ましい態様であるが、この場合は、溶融亜鉛めっき工程の後、すなわち二次焼鈍工程の後に、450〜600℃の温度T6(℃)で合金化処理することが好ましい。合金化処理温度が600℃を超えると粗大な炭化物が析出し、得られる鋼板の強度−延性バランスが低下するためである。T6の上限はより好ましくは550℃以下である。また合金化時間t6(秒)は、10秒以上25秒以下とすることが好ましい。
本発明の製造方法において、上記した焼鈍工程およびめっき工程(合金化工程を含む)以外の条件は特に限定されず、後述する成分組成を有する鋼を転炉等の通常の方法によって溶製した後、連続鋳造法や造塊法等で鋼片を得て、得られた鋼片を熱間圧延および冷間圧延すれば良い。熱間圧延は、例えばAr3点以上の温度で圧延終了後、平均冷却速度を概ね30℃/秒以上として冷却し、約500〜650℃の温度で巻取ればよい。また冷間圧延は、約30〜70%の冷延率で行えばよい。
なお、上記したAc1点、Ac3点、Ms点、およびAr3点は、それぞれ下記(1)〜(4)式によって求めることができる。
Ac1点=723−10.7[Mn]−16.9[Ni]+29.1[Si] +16.9[Cr]+290[As]+6.38 ・・・(1)
Ac3点=910−203[C]0.5−15.2[Ni]+44.7[Si]+104[V]+31.5[Mo]+13.1[W]−30[Mn]−11[Cr]−20[Cu]+700[P]+400[Al]+120[As]+400[Ti] ・・・(2)
Ms点=561−474[C]−33[Mn]−17[Ni]−17[Cr]−21[Mo] ・・・(3)
Ar3点=868−369[C]+24.6[Si]−68.1[Mn]−36.1[Ni]−20.7[Cu]−24.8[Cr]+190[V] ・・・(4)
(上記(1)〜(4)式において、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。(1)〜(3)式:幸田成康訳「レスリー鉄鋼材料学」、(4)式:特開2008−08848号公報から引用)
次に、本発明の製造方法に用いる鋼の化学成分について説明する。
C:0.15%以上0.25%以下
Cは、高強度を確保し、かつ残留オーステナイトを確保するために必須の元素である。より詳細には、オーステナイト相中に十分なCを固溶させることで、室温でも所望のオーステナイト相を残留させることができ、強度−延性バランスを向上させるのに有用である。そこでC量は0.15%以上と定めた。C量は0.16%以上が好ましく、より好ましくは0.17%以上である。一方、C量が過剰になると良好な強度−延性バランスを阻害するのみならず、溶接性にも悪影響を及ぼす。そこでC量は0.25%以下と定めた。C量は好ましくは0.24%以下であり、より好ましくは0.23%以下である。
Si:1.0%以上2.5%以下
Siは、残留オーステナイトの分解を抑制するとともに、固溶強化元素として有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Si量は1.0%以上と定めた。Si量は好ましくは1.3%以上であり、より好ましくは1.5%以上である。一方、Si量が過剰になると良好な強度−延性バランスを阻害するだけでなく、熱間脆性を起こす可能性がある。そこでSi量は2.5%以下と定めた。Si量は、好ましくは2.3%以下であり、より好ましくは2.2%以下である。
Mn:1.5%以上3.0%以下
Mnは、オーステナイトを安定化し、所定量以上の残留オーステナイトを確保することによって強度−延性バランスを向上させるのに有用な元素である。そこでMn量は1.5%以上と定めた。Mn量は、好ましくは1.7%以上であり、より好ましくは2.0%以上である。一方、Mn量が過剰になりすぎると却って強度−延性バランスが低下するだけでなく、鋳片割れの原因となる。従ってMn量は3.0%以下と定めた。Mn量は好ましくは2.7%以下であり、より好ましくは2.6%以下である。
P:0.03%以下(0%を含まない)
Pは、所望の残留オーステナイトを確保するのに有用な元素である。従ってPは必須添加元素とし、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上とする。一方、P量が過剰になると二次加工性が劣化する。そこでP量は0.03%以下と定めた。P量は好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.018%以下である。
S:0.01%以下(0%を含まない)
Sは、MnSなどの硫化物系介在物を形成し、割れの起点となって加工性を劣化させる元素であるため、極力低減することが好ましい。そこでS量は0.01%以下と定めた。S量は、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。
Al:0.01%以上0.1%以下
Alは脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であるとともに、残留オーステナイトの形成にも有効な元素である。そこでAl量を0.01%以上と定めた。Al量は、好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。一方、Al量を0.1%を超えて含有させても効果が飽和し、含有量に見合う効果が得られない。そこでAl量は0.1%以下とする。Al量は好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.07%以下である。なお、本発明ではAl脱酸以外の脱酸方法による溶製方法を排除するものではなく、例えばTi脱酸やSi脱酸を行ってもよく、これらの脱酸法による鋼板も本発明の範囲に含まれる。
N:0.01%以下(0%を含まない)
Nは、0.01%を超えて含有すると、鋼板中に窒化物が増加し、それによって鋼板の特性(伸びフランジ性など)が顕著に劣化する。そこでN量は0.01%以下と定めた。N量は好ましくは0.007%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。
本発明の製造方法に用いる鋼の基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が含まれることは当然に許容される。さらに本発明に用いる鋼は必要に応じて以下の任意元素を含有していてもよい。
Cr:0.5%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5%以下(0%を含まない)
Cr及びMoはいずれも、鋼の強化元素として有用であると共に、残留オーステナイトを安定化させて所定量以上確保するのに有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Cr量は0.02%以上とすることが好ましく、Mo量は0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは、Cr量およびMo量はいずれも0.05%以上である。但し、CrおよびMoは過剰に添加しても効果が飽和して経済性が低下するため、上限はいずれも0.5%以下とするのが好ましい。Cr量およびMo量はいずれも0.4%以下とするのがより好ましく、さらに好ましくは0.3%以下である。
Nb:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)、およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種
Nb、Ti、およびVは、いずれも析出強化および組織微細化効果を有する元素である。このような効果を有効に発揮させるため、いずれも0.004%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.01%以上である。但し、過剰に含有させても効果が飽和して経済性が低下するため、いずれの含有量も0.1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.07%以下である。
本発明に用いる鋼の化学成分は上記の通りであるが、本発明の作用を阻害しない範囲でCa、REM等の元素をそれぞれ0.003%程度まで含有することも許容される。
本発明の製造方法によって得られる鋼板の組織は、残留オーステナイトを含有するとともに、残留オーステナイト組織以外にはマルテンサイト、焼戻しマルテンサイト、ベイナイトなどを含有する。本発明の製造方法によれば、所望の残留オーステナイトを確保することができ、その他の組織も適切に制御される結果、強度−延性バランスに優れた980〜1470MPa級(概ね980〜1600MPa)の高強度鋼板を得ることができる。具体的には、引張強度(TS)が980MPa≦TS<1180MPaでは強度(TS)×伸び(EL)が26000MPa・%以上であり、1180MPa≦TS<1380MPaではTS×ELが23000MPa・%以上であり、1380MPa≦TS<1600MPaではTS×ELが18000MPa・%以上である。
また、本発明の製造方法によれば、一次焼鈍後の過度の強度上昇を抑制することができ、平坦度も良好であるため、二次焼鈍時の安定生産性(通板性など)を確保することができる。
本発明の製造方法は、上述した通り、溶融亜鉛めっき工程や合金化工程を含むことも好ましい態様であり、本発明によって得られる高強度鋼板には、冷延鋼板の他、溶融亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)、および合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)も当然に含まれる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1に示す化学成分組成を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によって鋳片を得、得られた鋳片を仕上げ温度900℃、熱延後の平均冷却速度30℃/秒、巻取り温度520℃の条件で熱間圧延した後、板厚3.0mmの熱延鋼板を得た。ついで、得られた熱延鋼板を酸洗し、冷間圧延することによって、板厚1.6mmの冷延鋼板とした(冷延率:約47%)。
Figure 2011208245
得られた冷延鋼板を連続焼鈍ラインにて、表2〜4に示す条件で一次焼鈍および二次焼鈍を行った。表2〜4中、GIで表したものは溶融亜鉛めっきを行ったものであり、GAで表したものはさらに合金化を行ったものである。得られた鋼板(冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、または合金化溶融亜鉛めっき鋼板)について、下記の要領で引張試験および穴拡げ試験を行った。
(i)引張試験
得られた鋼板の圧延方向と垂直な方向に採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z2241に従って引張試験を行い、耐力(YS)、引張強さ(TS)、破断伸び(EL)を測定し、降伏比(YR)とTS×ELの値を算出した。
(ii)穴拡げ試験
日本鉄鋼連盟規格(JFS T1001)に準拠して、鋼板に直径10mmの円形の初期穴を打抜き、この穴に60°円錐ポンチを押し当てて穴拡げ加工を行い、穴縁の亀裂が板厚を貫通した時の穴径dbを求め、下記式(5)によって穴拡げ率λを求めた。
λ(%)={(db−di)/di}×100 ・・・(5)
(但し、diは初期穴径(mm)を表し、dbは亀裂が板厚を貫通したときの穴径(mm)を表す。)
結果を表2〜4に示す。
Figure 2011208245
表2の試料No.1〜12は、用いた鋼の化学成分組成および製造条件が本発明の要件を満たすため、優れた強度−延性バランスを有する鋼板を得ることができた。
一方、試料No.13〜18は、製造条件は本発明の要件を満たしていたものの、鋼の化学成分組成が本発明の範囲外であったために、得られた鋼板の強度−延性バランスが低下した例である。
No.13はC量が不足していた例であり、残留オーステナイトを確保できなかったため強度−延性バランスが低下したものと考えられる。No.14はC量が過剰であった例であり、強度−延性バランスが低下した。
No.15はSi量が不足していた例であり、残留オーステナイトを確保できなかったため強度−延性バランスが低下したものと考えられる。No.16はSi量が過剰であった例であり、強度−延性バランスが低下した。
No.17はMn量が少なかった例であり、残留オーステナイトを確保できなかったため強度−延性バランスが低下したものと考えられる。No.18はMn量が過剰であった例であり、強度−延性バランスが低下した。
Figure 2011208245
表3は鋼No.1、3、6、8、15を用いて、製造条件を様々に変化させた例である。表3の試料No.43〜47は、用いた鋼の化学成分組成および製造条件が本発明の要件を満たすため、優れた強度−延性バランスを実現することができた。一方、試料No.19〜42は、製造条件が本発明の要件を満たしていないために、得られた鋼板の強度−延性バランスが低下した例である。
No.19は一次焼鈍工程での保持温度T1が低かった例であり、No.20はT1での保持時間t1が短かった例であり、一次焼鈍後の組織に加工組織が残り、二次焼鈍工程によってもこの加工組織は解消されないため、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.21はAc3点以上の温度からの冷却速度CR1が遅かった例であり、No.22はAc3点以上の温度からの冷却の際の冷却停止温度T2が高かった例であり、いずれもマルテンサイト組織を十分に得られなかったことによって、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.23、26、30は、一次焼鈍工程における焼戻し温度が低かった例であり、微細炭化物の析出が不十分であったために、微細なオーステナイト相を十分に得ることができず、その結果、所望の残留オーステナイトを得ることができず、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.24、25、27〜29は、一次焼鈍工程における焼戻し温度が高かった例であり、析出する炭化物が粗大化するため、微細なオーステナイト相を十分に得ることができず、その結果、所望の残留オーステナイトを得ることができず、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.31は、一次焼鈍工程において、Ms点以下まで冷却した後に焼戻しを行わなかったため、オーステナイトの核生成サイトとなる炭化物を確保することができず、微細なオーステナイト相を十分に得ることができなかったものと考えられる。
No.32は、焼戻し時間t3が短かった例であり、炭化物を十分に得ることができなかったことにより、またNo.33は焼戻し時間t3が長かった例であり、析出した炭化物が粗大化したことにより、いずれも微細なオーステナイト相を十分に得ることができず、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.34は、二次焼鈍工程における保持温度T4が低かったためにオーステナイトへの逆変態が不十分となり、No.35はT4が高かったために逆変態したオーステナイトが粗大化し、いずれも所望の残留オーステナイトを得ることができず、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.36は、二次焼鈍工程における保持温度T4での保持時間t4が短かったためオーステナイトへの逆変態が不十分となり、No.37はt4が長かったため逆変態したオーステナイトが粗大化し、いずれも所望の残留オーステナイトを得ることができず、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.38はAc1点以上Ac3点以下の温度からの冷却速度CR2が遅かったため、パーライト変態が起こって残留オーステナイトが十分に確保できなくなり、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.39は、Ac1点以上Ac3点以下の温度からの冷却後の保持温度T5が低かったためオーステナイト相へのC濃化が不十分となり、No.40はT5が高かったためパーライト変態が起きたり、過度にベイナイト変態が進行したりしたため、いずれも残留オーステナイトを確保することができず、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
No.41は、T5での保持時間t5が短かったためオーステナイト相へのC濃化が不十分となり、No.42はt5が長かったためパーライト変態が起きたり、過度にベイナイト変態が進行したりしたため、いずれも残留オーステナイトを確保することができず、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。
図2は一次焼鈍工程における焼戻し温度と、強度−延性バランスの関係を示したグラフである。図2より、焼戻し温度が150℃以上250℃未満の場合に優れた強度−延性バランスを達成でき、それ以外の焼戻し温度では強度−延性バランスが低下することが分かる。
Figure 2011208245
表4は、合金化処理温度を様々に変化させた例である。合金化時間はいずれも15秒であった。
表4の試料No.48〜51は、好ましい合金化処理条件で合金化を行ったため、強度−延性バランスに優れたGA鋼板を得ることができた。
一方、試料No.52は合金化温度が高かったために粗大な炭化物が析出し、強度−延性バランスが低下したものと考えられる。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C :0.15%以上0.25%以下、
    Si:1.0%以上2.5%以下、
    Mn:1.5%以上3.0%以下、
    P :0.03%以下(0%を含まない)、
    S :0.01%以下(0%を含まない)、
    Al:0.01%以上0.1%以下、
    N :0.01%以下(0%を含まない)
    を含有し、残部は鉄および不可避的不純物である鋼を、冷間圧延した後に、
    Ac3点以上の温度で10秒以上保持した後、10℃/秒以上の冷却速度でMs点以下まで冷却し、150℃以上250℃未満で30秒以上700秒以下保持した後、室温まで冷却する一次焼鈍工程と、
    次いで、Ac1点以上Ac3点以下で10秒以上200秒以下保持した後、10℃/秒以上の冷却速度で300℃以上500℃以下の温度まで冷却し、300℃以上500℃以下で10秒以上500秒以下保持した後、室温まで冷却する二次焼鈍工程とを含むことを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
  2. 更に、鋼が質量%でCr:0.5%以下(0%を含まない)および/またはMo:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の製造方法。
  3. 更に、鋼が質量%でNb:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)、およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 前記二次焼鈍工程は、溶融亜鉛めっき工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記二次焼鈍工程の後、更に合金化する工程を含む請求項4に記載の製造方法。
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