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Abstract

【課題】LiHとMgBとからより低い水素圧且つより低い温度で水素化して水素放出が可能な水素貯蔵材料を得る水素化方法を提供する。
【解決手段】MgBに回転による加速度が90G以上の高エネルギー密度のボールミルによる前処理を施す工程、および得られた前処理MgBとLiHとを含む混合材料を水素化する工程を含む水素貯蔵材料の水素化方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、水素貯蔵材料の水素化方法に関し、さらに詳しくはLiHとMgBとを含む混合材料を水素化する際にMgBに特定の前処理を施すことによって水素化するときの水素圧および温度を低減し得る水素貯蔵材料の水素化方法に関するものである。
従来から、化石燃料の枯渇問題および排出された二酸化炭素による地球温暖化問題があり、化石燃料に替わる次世代のエネルギーとして、水素の利用が世界的に研究され一部では実証試験が始まっている。水素を燃料とする燃料電池は排出物が水だけであり、大気を汚染しないという利点がある。しかし、水素は爆発性が高く、取り扱いが困難な気体であり、水素貯蔵合金等を使用して高圧タンク等に貯蔵する方法が検討されている。
また、近年、錯体水素化物によって従来の水素貯蔵合金の2〜3倍の水素を貯蔵し得ることが見出されている。
これらの水素貯蔵合金や錯体水素化物による水素の貯蔵においては、これら水素貯蔵材料の単位容量および/又は単位質量当たりの水素貯蔵量、水素放出量の大きい材料の開発および水素放出後の混合物を再度水素化して水素放出が可能な水素貯蔵材料を得ることができる材料の開発が重要であり、多くの研究がなされている。
例えば、非特許文献1には、LiBHを例えば水素圧1MPa、873K(600℃)の条件で加熱して分解し水素を放出させる脱水素化反応、およびBとLiHとを例えば水素圧35MPa、873Kの条件で加熱してLiBHを生成させる水素化反応について記載されている。そして、前記の脱水素化反応とその逆反応である水素化反応として以下の反応式が示されそして脱水素化前と脱水素化後の粉末のX線回折パーターンが図示されている。
LiBH→LiH+B+(3/2)H
LiH+B+(3/2)H→LiBH
また、非特許文献2には、LiBHにMgHを加えた水素化複合物は可逆的に反応することが知られていること、およびMgBを用いた300℃、200バール(20MPa)で48時間、引き続いて400℃、350バール(35MPa)で24時間の水素化条件での水素化物の製造実験例および以下の反応式が示され、そして水素化生成物のX線回折パーターンが図示されている。
2LiH+MgB+4H→2LiBH+MgH
2NaH+MgB+4H→2NaBH+MgH
CaH+MgB+4H→Ca(BH+MgH
さらに、特許文献1には、貯蔵状態及び非貯蔵状態の間をほぼ可逆に移行可能であり貯蔵状態で、第1水素化物成分と1つの水素を含まない成分及び/又は別の水素化成分であり得る第2成分とを含む水素貯蔵複合材料に関する発明が記載されている。そして、具体例としてLiHとMgBを2:1のモル比にてアルゴン中で混合し、粉砕機内で粉砕した粉末を300バール(30MPa)の水素圧下で400℃の温度で24時間水素化する(2LiH+MgB+3H→2LiBH+MgH)と、12%の質量増加が確認され、約360℃の温度で非貯蔵状態へ移行すること、そして適切な触媒を使用することによって低い温度でも脱水素化が十分に速い速度となり、水素貯蔵容量が10重量%となることが示されている。しかし、水素化する際の水素圧および温度を数MPa以下、400℃未満に低減化し得るか不明である。
特表2008−522933号公報
ジャーナル・オブ・アロイズ・アンド・コンパウンド(Journal of Alloys and Compounds)404−406(2005)427−430頁 ジャーナル・オブ・アロイズ・アンド・コンパウンド(Journal of Alloys and Compounds)440(2005)L18−L21
このように、従来公知文献に記載の方法によれば、水素放出後の混合物を再度水素化して水素放出が可能な水素貯蔵材料となし得る出発原材料のLiHとMgBとから水素化して水素貯蔵材料を得るためには、30〜35MPaの高い水素圧、400℃の温度での加熱を必要としており、LiHとMgBとからより低い水素圧、より低い温度で水素化して水素を放出可能な水素貯蔵材料を得る水素化方法が求められている。
従って、本発明の目的は、LiHとMgBとからより低い水素圧且つより低い温度で水素化して水素を放出可能な水素貯蔵材料を得る水素化方法を提供することである。
本発明は、MgBに回転による加速度が90G以上の高エネルギー密度のボールミルによる前処理を施す工程、および得られた前処理MgBとLiHとを含む混合材料を水素化する工程を含む水素貯蔵材料の水素化方法に関する。
本発明において、水素化工程における水素圧は加熱前の室温(25℃)における圧力を意味する。
本発明によれば、LiHとMgBとから前記の従来技術に比べてより低い水素圧且つより低い温度で水素化して水素放出可能な水素貯蔵材料を得ることができる。
図1は、実施例および比較例で得られた水素貯蔵材料のXRD分析結果を示すグラフである。 図2は、実施例および比較例における処理条件による水素化率への影響を示すグラフである。 図3は、実施例および比較例で得られた水素貯蔵材料の水素放出試験結果を示すグラフである。 図4は、実施例および比較例における水素化前のMgBの結晶子サイズと水素貯蔵材料の水素放出量との関係を示すグラフである。 図5は、実施例および比較例における水素化前のMgBの歪(%)と水素貯蔵材料の水素放出量との関係を示すグラフである。
本発明の1つの実施態様によれば、LiHとMgBとを出発原材料として用いて水素化により、LiBHおよびMgHを含む水素貯蔵材料を生成させる方法において、MgBに回転による加速度が90G以上の高エネルギー密度のボールミルによる前処理を施す工程、および得られた前処理MgBとLiHとを含む混合材料を水素化する工程を含む水素貯蔵材料の水素化方法によって、前記の従来技術に比べてより低い水素圧且つより低い温度で水素化して水素貯蔵材料を得ることが可能となる。
本発明においては、出発原材料におけるMgBに対して、回転による加速度が90G以上の高エネルギー密度のボールミルによる前処理を施す工程を含むことが必要である。
前記の前処理においては、例えば窒素、Ar、He、Neおよびそれらの組み合わせから選ばれる1つのガス雰囲気下に、通常大気圧にて0.1時間以上、例えば0.1〜24時間の範囲、例えば1〜12時間の範囲の時間ボールミルによる回転加速度が90G以上の高エネルギー密度のボールミルによる粉砕を施し得る。また、前記の前処理は、外部から加熱することなく、ボールミル、例えば遊星型ボールミルを用いて、ボールミル内にMgBとステンレスボール又はセラミックボールなどの高剛性ボールを入れて回転による加速度が90G以上、例えば90〜200Gの高エネルギー密度のボールミルによる粉砕前処理を好適に施し得る。
本発明においては、前記の前処理を施したMgBとLiHとを含む混合材料を水素化する工程を含む。
前記の水素化は、例えば前記の前処理を施したMgBとLiHとを1:2のモル比で任意の混合処理、例えばボールミル中で例えば窒素、Ar、He、Neおよびそれらの組み合わせから選ばれる1つのガス雰囲気下に、通常大気圧にて0.1時間以上、例えば0.1〜24時間の範囲の時間混合処理を行った後、混合物を任意の容器中、例えば耐圧容器中で0.1〜5MPaの範囲、例えば1〜3MPa、特に1〜1.5MPaの範囲の水素圧、400℃未満の温度、例えば300〜375℃の範囲の温度で好適に行い得る。
前記の水素化する工程において、MgBとLiHとは少なくともその一部が反応して次の反応によりLiBHとMgHとを生成すると考えられる。
2LiH+MgB+4H→2LiBH+MgH
この水素化による工程でMgHおよびLiBHが生成していることは、後述の実施例の欄に詳述される水素化による生成物についてのXRD分析結果を示すグラフにおいて、MgHに基く2θ=28(deg)に明確なピークおよびLiBHに基くピークが見られることによって確認され得る。
本発明の方法において、MgBに前記の前処理を施すことによって従来技術による水素化に比べてより低水素圧およびより低温で水素化が可能となる理論的な根拠は解明されていないが、前記のMgBの前処理によって、後述の実施例の欄に詳述する測定法により求められるMgBの結晶子サイズの低減および/又はMgBの結晶子に歪が生じ、前処理MgBとLiHとを水素の存在下に加熱することによって、反応:2LiH+MgB→2LiBH+MgHが進みやすくなることによると考えられる。
そして、本発明においてLiHとともに混合して水素化に用いるMgBの結晶子は、サイズが20nm以下、例えば1〜20nmであり、歪が0.25%以上、例えば0.25〜1.5%であり得る。
前記の水素化工程において、前記の前処理を施したMgBおよびLiHに触媒を加えてもよい。
前記の触媒としては、Mn、Fe、Co、Ni、Pt、Pd、Rh、Li、Na、Mg、K、Ir、Nd、La、Ca、V、Ti、Cr、Cu、Zn、Al、Si、Ru、Mo、W、Ta、Zr、Hf、Agから選ばれた1種もしくは2種以上の金属またはその化合物、例えばハロゲン化物、特に塩化物であることが好ましい。触媒は単独で用いてもよく又は担体に担持させて用いてもよい。前記触媒をMgBおよびLiHに加えることによって水素化反応および/又は脱水素反応を促進させ得る。前記触媒の量は水素貯蔵材料中のLiおよびMgの合計および/又は両成分のいずれかに対して0.01〜10モル%、特に0.1〜10モル%であることが好ましい。
このように、従来公知の材料であるMgBおよびLiHを用いて、MgBについて特定の前処理を加えることによって若しくはMgBを特定の状態にすることによって、LiHとの混合物の水素化時の水素圧および温度の低減化が可能となり、MgBおよびLiHを出発材料とする水素貯蔵材料から、容易に多くの水素を放出させることが可能となり得る。
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は単に説明のためのものであり、本発明を限定するものではない。
以下の各例において、材料としてLiBH(Fluka社製、95%)、MgH(ALDRICH社製、98%)、LiH(Alfa Aesar社製、98%)、MgB(ALDRICH社製、96%)、TiCl(ALDRICH社製、99.999%)を用いた。
また、以下の各例において、生成物の分析はXRD(X線回折分析)によって行い、MgBおよび水素貯蔵材料の測定および評価は、以下に示す方法および装置によって行った。なお、以下に示す測定方法乃至は評価方法は例示であって、これに限定されず同等の方法によって行い得る。
1.水素放出量(%)
測定法:マス分析により真空中で加熱することにより水素を脱離させ、その発生量を測定した。
水素放出量は、水素貯蔵材料に対する放出された水素発生量の割合(質量%)を示す。
2.水素化率(%)
LiBH、MgHおよびTiCl(2:1:0.03、モル比)からなる水素貯蔵材料の水素放出量に対する割合(%)を示す。
3.反応容器
試験に使用した反応容器は、ステンレス製円筒型耐圧容器(21mL)である。
4.MgB結晶子サイズの測定
結晶子サイズ測定法:シェラーの式により算出
シェラーの式 ε=Kλ/βcosθに代入することで算出
ε:結晶子サイズ、K:シェラー定数、λ:波長、β:XRDピークの半値 幅、θ:回折角
測定装置:粉末X線回折(XRD)RIGAKU社製RINT−TTR3
5.MgB結晶子の歪(%)の測定
歪測定法:ホールの式により算出
ホールの式 βcosθ=2ηsinθ+λ/εに代入することで算出
η:歪、ε:結晶子サイズ、β:XRDピークの半値幅
θ:回折角、λ:波長
測定装置:粉末X線回折(XRD)RIGAKU社製RINT−TTR3
参考例1
LiBHおよびMgHと触媒TiClとを組成比2:1:0.03(モル比)で混合して水素貯蔵材料を調製し、水素放出量を測定した。
その結果、水素放出量は4.24wt%であった。
以下の各例において、水素化の割合とは、この4.24wt%に対する割合(%)を意味する。
実施例1
Ar雰囲気のグローブボックス中(O濃度:1ppm以下)にてMgBを0.5g秤量した。ボールミル容器へ秤量したMgBと直径3.96mmステンレスボールを20個充填した。遊星型ボールミル粉砕機(フリッチュ社製:premium line P−7型)を使用し、Ar雰囲気中、回転数1000rpm(90G)にて1時間MgBの前処理を行った。
前処理したMgBとLiHとTiCl(触媒)とを、2:1:0.03の割合(モル比)で合計0.5gとなるように秤量した。ボールミル容器へ秤量した試料と直径3.96mmステンレスボール20個を充填した。Ar雰囲気中、回転数400rpm(40G)にて1時間ボールミル混合処理を行った。
混合後の試料をステンレス製円筒型耐圧容器に0.2g充填し、1MPa水素中、363℃にて100時間水素化処理を行った。
得られた水素貯蔵材料について、XRD分析にて水素化確認のための生成物同定およびTPD−MS分析により水素放出量を求めた。
その結果、水素放出量は2.53wt%であり、水素化率は59%であった。
得られた結果を他の結果とまとめて図1〜図5に示す。
実施例2
前処理の時間を1時間から3時間に変えた他は実施例1と同様にして、MgBの前処理を行った。
この前処理MgBを用いた他は実施例1と同様にして、水素化処理を行った。
得られた水素貯蔵材料について測定を行ったところ、水素放出量は3.24wt%であり、水素化率は76%であった。
XRD分析結果、水素化率および水素放出量を他の結果とまとめて図1〜図5に示す。
実施例3
前処理の時間を1時間から6時間に変えた他は実施例1と同様にして、MgBの前処理を行った。
この前処理MgBを用いた他は実施例1と同様にして、水素化処理を行った。
得られた水素貯蔵材料について測定を行ったところ、水素放出量は3.42wt%であり、水素化の割合は80%であった。
XRD分析結果、水素化率および水素放出量を他の結果とまとめて図1〜図5に示す。
比較例1
前処理を行わないでMgBとLiHとTiClとを同じ回転数(400rpm、40G)でボールミル混合処理を1時間行った後、水素化処理を行った他は実施例1と同様にして、水素貯蔵材料を得た。
得られた水素貯蔵材料について測定を行ったところ、水素放出量は1.25wt%であり、水素化の割合は29%であった。
得られた結果を他の結果とまとめて図1〜図5に示す。
比較例2
前処理を行わないでMgBとLiHとTiClとを同じ回転数(400rpm、40G)でボールミル混合処理を24時間行った後、水素化処理を行った他は実施例1と同様にして、水素貯蔵材料を得た。
得られた水素貯蔵材料について測定を行ったところ、水素放出量は0.92wt%であり、水素化率は21%であった。
得られた結果を他の結果とまとめて図2〜図5に示す。
比較例3
前処理を行わないでMgBおよびLiHのみを同じ回転数(400rpm、40G)でボールミル混合処理を1時間行った後、水素化処理を行った他は実施例1と同様にして、水素貯蔵材料を得た。
得られた水素貯蔵材料について測定を行ったところ、水素放出量は1.10wt%であり、水素化率は26%であった。
得られた結果を他の結果とまとめて図2、図4および図5に示す。
比較例4
LiBHの水素放出(条件:2℃/分にて室温から450℃まで昇温)した後の反応:LiBH→LiH+B+3/2Hの生成物(LiH+B)を1時間同じ回転数(400rpm、40G)でボールミル混合処理を行った後、水素化処理を行った他は実施例1と同様にして水素貯蔵材料を得た。得られた水素貯蔵材料について測定を行ったところ、水素放出量は0wt%であり、水素化率は0%であった。
比較例5
LiBHとMgHとの2:1の混合物(触媒なし)から水素放出(条件:2℃/分にて室温から450℃まで昇温)した後の反応:2LiBH+MgH+→2LiH+Mg+B+4Hの生成物(2LiH+Mg+2B)を1時間同じ回転数(400rpm、40G)でボールミル混合処理を行った後、水素化処理を行った他は実施例1と同様にして水素貯蔵材料を得た。得られた水素貯蔵材料について測定を行ったところ、水素放出量は0wt%であり、水素化率は0%であった。
図1および図3から、比較例1のようにMgBの前処理なしではLiHとの混合物を水素化処理しても、2LiH+MgB→2LiBH+MgHに基く水素化反応は進行せず、水素化反応前の原料のまま残存しているが、実施例1〜3のように特定の条件で前処理したMgBを用いてLiHとの混合物を水素化処理すると低い水素圧および低い温度でも水素化反応が進行していることがわかる。そして、ボールミルによる処理の程度が進む(処理時間:1時間⇒3時間⇒6時間)ほど、水素化反応が進行していることがわかる。
また、図2から、ボールミルによる処理の程度に関して、ボールミル加速度が40Gではボールミル処理による効果が得られていないが、90Gでは効果が得られていることがわかる。
また、図4から、MgBを前処理することによってMgBの結晶子サイズが20mm以下に到達すると水素放出量が大幅に増加するが、MgBの結晶子サイズが20mmより大であると水素化処理しても水素放出量は増加しないことが理解される。
さらに、図5から、各比較例において水素化に用いたMgBの結晶子には歪がみ入っていないことがわかる。つまり、MgBの結晶子に歪が入ることによりLiHとの混合物を水素化後の水素貯蔵材料の水素放出量が増加していることがわかる。
本発明の方法によれば、水素化時の水素圧および温度の低減が可能となり、MgBおよびLiHを出発原材料とする水素貯蔵材料から、容易に多くの水素を放出させることが可能となる。

Claims (3)

  1. MgBに回転による加速度が90G以上の高エネルギー密度のボールミルによる前処理を施す工程、および得られた前処理MgBとLiHとを含む混合材料を水素化する工程を含む水素貯蔵材料の水素化方法。
  2. 前記処理を窒素、Ar、He、Neおよびそれらの組み合わせから選ばれる1つのガス雰囲気下に0.1時間以上施す請求項1に記載の方法。
  3. 前記前処理を外部から加熱することなく施す請求項1又は2に記載の方法。
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