JP2011147432A - 新規のテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質とそれをコードする遺伝子 - Google Patents

新規のテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質とそれをコードする遺伝子 Download PDF

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Abstract

【課題】ホップ(Humulus)のテルペン類合成酵素のDNAの提供。
【解決手段】ホップのテルペン類酵素活性を有するタンパク質、及び該タンパク質をコードする遺伝子を用いて新規の生物を作成・検定する方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、ホップのモノテルペノイドとセスキテルペノイドを合成する酵素、当該テルペン類合成酵素をコードするDNA、当該酵素を用いてテルペン類を合成する方法、および当該DNAを用いた育種や選抜方法に関する。
テルペンとはイソプレンを基本単位として構成される炭化水素であり、官能基を持つ誘導体はテルペノイドと呼ばれ多様性に富む。植物・昆虫・菌類等の生体内で合成され、特に植物中には精油の主成分として豊富に含まれている。植物で合成されるテルペノイドは、病原体、害虫、益虫、草食動物、および植物同士の相互作用において役割を担うと考えられている。その芳香性から飲料・食品や化粧品の香料原料として利用される他、抗菌性や抗腫瘍性等も有することから医薬品原料としても利用できる。
テルペン類生合成の基質となるのは、C10のゲラニル二リン酸、C15のファルネシル二リン酸、およびC20のゲラニルゲラニル二リン酸などであり、テルペン類合成酵素の触媒反応により、それぞれモノテルペン、セスキテルペン、およびジテルペンへと変換される。
アサ科のホップは雌雄異株の蔓性植物であり、その毬花はビール醸造の主要原料となっている。ビール原料としてのホップの役割は、苦味、香味、泡立ち、保存性の向上等である。ホップ毬花のルプリン腺毛では豊富な二次代謝産物が合成されており、その内の精油成分にモノテルペンやセスキテルペンが含まれている(非特許文献1)。これらテルペン類は、アロマ成分としてビールの香味を決定する重要な因子である。
ホップ毬花中の含有量が高いテルペン類として、モノテルペンであるミルセン、セスキテルペンであるα−フムレンやβ−カリオフィレン等が知られている(非特許文献2)。これらホップ中のテルペン類についてはその合成酵素について研究が進められ、近年、ミルセン、α−フムレン、β−カリオフィレンを合成する酵素の遺伝子が同定されている(非特許文献3)。モノテルペンアルコールであるリナロールは精油成分の1%を占めることもある。フローラル香の代表成分であり、ホップアロマ香の指標物質に提案されている重要な成分である(非特許文献4)。しかしながら、ホップにおけるリナロールの生成機構や酵素活性、ならびに酵素遺伝子は未だ同定されていない。一方、ネロリドールは、ホップ精油や製品であるビールにもまれに検出される成分であり(非特許文献2と4)、フローラル香とともにウッデイ香・柑橘香を示す。リナロールと同様にホップにおける生成機構や酵素活性ならびに酵素遺伝子は未だ同定されていない。
これまでに、リナロールの含有量に着目したランダムなcDNAによるRFLP法(PCR−RFLP法)を用いた育種マーカーが報告されている(特許文献1)。一般にDNAマーカーは、そのDNAマーカーを持っている特定の品種を用いた育種でのみ有効である。また、遺伝子そのものをマーカーにしない場合は、一定の確率、つまりDNAマーカーと当該遺伝子との連鎖が切れた場合では、期待される形質を示さないものがDNAマーカーで示されるため精度に課題が残る。この点からも遺伝子そのものが同定され、遺伝子そのものを育種マーカーとして利用することが育種マーカーとしても優れている。
WO2008/053834
小若雅弘、島津武、橋本直樹 (1976) 醸協 72 21-34 Katsiotis S T, Langezaal C R, Scheffer J J C, Verpoorte R (1989) Flavour Fragr J 4 187-191. Wang G, Tian L, Aziz N, Broun P, Dai X, He J, King A, Zhao PX, Dixon RA (2008) Plant physiology 148: 1254-1266 小野美代子 (1999) 「醸造物の成分」日本醸造協会 250-272
本発明は、ホップのモノテルペノイドとセスキテルペノイドを合成する酵素、当該テルペン類合成酵素をコードするDNA、当該酵素を用いてテルペン類を合成する方法、および当該DNAを用いたホップの特性評価および育種選抜方法の提供を課題とした。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ホップにおいてこれまでに見つかっていない、新規のテルペン類合成酵素遺伝子を同定した。当該遺伝子を大腸菌において発現させることにより、ゲラニル二リン酸からモノテルペンであるリナロールを、ファルネシル二リン酸からセスキテルペンであるネロリドールを合成できることを明らかにした。また、プラスチド移行シグナルを伴うおよび当該シグナルを伴わない2つのタイプのテルペン類合成酵素遺伝子を同定し、これらがそれぞれリナロールおよびネロリドールの合成に関与していることを見出した。これにより、当該酵素を用いたテルペン類の合成、当該遺伝子を用いたホップ品種の特性評価、育種選抜が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
[1] 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質:
(a) 配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b) 配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質;ならびに
(c) 配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質。
[2] 以下の(d)〜(g)のいずれかのDNAからなる遺伝子:
(d) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列からなるDNA;
(e) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(f) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
(g) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA。
[3] 以下の(h)〜(j)のタンパク質:
(h) 配列番号15に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;
(i) 配列番号15に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質;ならびに
(j) 配列番号15に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質。
[4] 以下の(k)〜(n)のいずれかのDNAからなる遺伝子:
(k) 配列番号16に示す塩基配列からなるDNA;
(l) 配列番号16に示す塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(m) 配列番号16に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
(n) 配列番号16に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA。
[5] [2]または[4]の遺伝子を含有する組換えベクター。
[6] [5]の組換えベクターを導入した形質転換体。
[7] 植物体である[6]の形質転換体。
[8] (i) ゲノムDNAまたはRNAである核酸を植物から単離する工程、
(ii) (i)の核酸がRNAである場合に、逆転写してcDNAを合成する工程、
(iii) (i)または(ii)の工程で得られたDNAから[2]もしくは[4]の遺伝子、または配列番号5に示す塩基配列を含有する遺伝子断片を増幅する工程、
(iv) (iii)で増幅したDNA中に突然変異および/または多型の存在を、それぞれ対応する配列番号2、配列番号4もしくは配列番号16または配列番号5に示す塩基配列と比較して決定する工程、
これらの工程を含む、植物におけるテルペン類合成酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または多型の存在を検出する方法。
[9] 植物がホップ属植物である[8]の方法。
[10] [8]または[9]の方法によってテルペン類合成酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または多型を検出し、突然変異および/または多型を有する植物体を選抜する方法。
[11] テルペン類合成酵素をコードする遺伝子の発現能またはコードするテルペン類合成酵素の活性が、既存品種に比較して改変されている植物を選抜することをさらに含む、[10]の植物体を選抜する方法。
[12] 選抜される植物体が既存品種に比較してリナロールおよび/またはネロリドールの合成能が改変されている、[11]の植物体を選抜する方法。
[13] [10]〜[12]のいずれかの方法によって選抜された、植物体。
[14] ホップ属植物である[13]の植物体。
本発明により、ホップ属植物においてモノテルペノイドとセスキテルペノイドを合成する酵素、当該テルペン類合成酵素をコードするDNA、当該酵素を用いてテルペン類を合成する方法、および当該DNAを用いた育種や選抜方法等が提供される。特に、ビール醸造において非常に重要視されている、モノテルペンアルコールの一つであるリナロールを合成する酵素、リナロール合成酵素をコードするDNAが本発明において提供されており、当該DNAを用いた育種や選抜方法を実用化できる。
(i)pET-HlLIS/NES-1およびpAC-Mevを共導入した大腸菌培養液のドデカン抽出物を、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析した結果を示した図である。(ii)pET-HlLIS/NES-2およびpAC-Mevを共導入した大腸菌培養液のドデカン抽出物を、ガスクロマトグラフィー(GC)で分析した結果を示した図である。 (i)図1A(i)におけるRT(保持時間:分)24.550のピークのドデカン抽出物について、質量スペクトル(MS)を示したグラフである。(ii)図1A(ii)におけるRT(保持時間:分)24.534のピークのドデカン抽出物について、質量スペクトル(MS)を示したグラフである。 (i)図1A(i)におけるRT36.216のピークのドデカン抽出物について、MSを示したグラフである。(ii)図1A(ii)におけるRT36.197のピークのドデカン抽出物について、MSを示したグラフである。 リナロール標品のMSを示したグラフである。 ネロリドール標品のMSを示したグラフである。 ゲラニル二リン酸からリナロールが合成される反応を簡易に示した図である。 ファルネシル二リン酸からネロリドールが合成される反応を簡易に示した図である。 HlLIS/NES-1のアミノ酸配列(配列番号1)とキンギョソウのテルペン類合成酵素AmNESLIS-1のアミノ酸配列を示した図である。GENETYX(ゼネティックス社)で解析を行った。 HlLIS/NES-1のアミノ酸配列(配列番号1)とキンギョソウのテルペン類合成酵素AmNESLIS-2のアミノ酸配列を示した図である。GENETYX(ゼネティックス社)で解析を行った。 HlLIS/NES-1のアミノ酸配列(配列番号1)とイチゴのテルペン類合成酵素FaNESのアミノ酸配列を示した図である。GENETYX(ゼネティックス社)で解析を行った。 HlLIS/NES-1の分子進化系統樹解析の結果を示す図である。解析において、キンギョソウのテルペン類合成酵素AmNESLIS-1および同2やイチゴのテルペン類合成酵素FaNESを始め、様々な植物のテルペン類合成関連酵素を比較対照に用いた。 HlLIS/NES-1のイントロン・エクソン構造を示した図である。 HlLIS/NES-1とHlLIS/NES-3の転写様式を示した図である。それぞれ、上段がイントロンを含むゲノム塩基配列、下段がスプライシング後のcDNA塩基配列を表す。黒矢印:エクソン;白矢印:イントロン;四角枠:プラスチド移行シグナルの部位。 「キリン2号」、「Hallertauer Mfr.」および「Hersbrucker」の3品種におけるHlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3のRT-PCRによる増幅を示した図である。対照にはGAPDHを用いた結果を示す。 「キリン2号(Kirin 2)」、「Hallertauer Mfr.」および「Hersbrucker」の3品種におけるHlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3のN末端側ゲノム塩基配列を比較した図である。GENETYX(ゼネティックス社)で解析を行った。HlLIS/NES-1のエクソン配列およびイントロン配列を、それぞれ実線および点線の矢印で示し、HlLIS/NES-3のエクソン配列を二重線の矢印で示した。また、HlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3の翻訳開始メチオニンにあたるATGを、それぞれ実線枠および二重線枠で示した。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.新規のテルペン類合成酵素
本発明のタンパク質は、プラスチド移行シグナルを有し、かつゲラニル二リン酸およびファルネシル二リン酸を基質とし、モノテルペノイドであるリナロール、およびセスキテルペノイドであるネロリドールを合成する活性を持つ酵素である。
また本発明のタンパク質は、プラスチド移行シグナルを有さず、かつゲラニル二リン酸およびファルネシル二リン酸を基質とし、モノテルペノイドであるリナロール、およびセスキテルペノイドであるネロリドールを合成する活性を持つ酵素である。
本発明の酵素は、ホップ(Humulus lupulus)等のホップ属(カラハナソウ属)植物由来のテルペン類合成酵素である。ホップ属植物には、ホップ(Humulus lupulus)、カラハナソウ(Humulus lupulus var. cordifolius)、カナムグラ(Humulus japonicus)等が含まれる。
本発明の酵素の全長アミノ酸配列は、配列番号1または3に示される。さらに、本発明のタンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列または配列番号3に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、プラスチド移行シグナルを有し、かつテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質を包含する。
また本発明の酵素の全長アミノ酸配列は、配列番号15に示される。さらに、本発明のタンパク質は、配列番号15に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、プラスチド移行シグナルを有さず、かつテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質を包含する。
ここで、実質的に同一のアミノ酸配列としては、当該アミノ酸配列に対して1または複数もしくは数個(1〜10個、好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個もしくは2個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、または当該アミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しているアミノ酸配列が挙げられる。
配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有する酵素と配列番号15に示されるアミノ酸配列を有する酵素とは、同一の遺伝子中にコードされるが、配列番号15に示されるアミノ酸配列を有する酵素は、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有する酵素をコードするゲノムDNAの第1イントロン中のメチオニンを翻訳開始点としており、それより下流の第1イントロンと第2エクソンを組み合わせて第1エクソンとして含んでおり、この点において、両者は異なる。配列番号15に示されるアミノ酸配列中16-538位のアミノ酸位置は、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列中68-590位のアミノ酸位置に対応する。テルペン類合成に寄与する酵素の活性部位は、当該対応するアミノ酸位置内に存在する。
配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有する酵素は、プラスチド移行シグナルを有するためにプラスチドにてモノテルペン類、例えばリナロールの合成に関与し、一方配列番号15に示されるアミノ酸配列を有する酵素はプラスチド移行シグナルを有さないためにサイトゾルにてセスキテルペン類、例えばネロリドールの合成に関与する。
本発明のテルペン類合成酵素は、植物体から単離された天然のテルペン類合成酵素および遺伝子工学の手法により製造されたリコンビナントのテルペン類合成酵素を含む。
2.テルペン類合成酵素をコードする遺伝子
本発明の遺伝子は、プラスチド移行シグナルを有し、ゲラニル二リン酸およびファルネシル二リン酸を基質とし、モノテルペノイドであるリナロールおよびセスキテルペノイドであるネロリドールを合成する活性を持つ酵素をコードする遺伝子であり、上記のプラスチド移行シグナルを有し、かつテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。
また本発明の遺伝子は、プラスチド移行シグナルを有さず、かつゲラニル二リン酸およびファルネシル二リン酸を基質とし、モノテルペノイドであるリナロールおよびセスキテルペノイドであるネロリドールを合成する活性を持つ酵素をコードする遺伝子であり、上記のプラスチド移行シグナルを有さず、かつテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である。
本発明の遺伝子のDNAの塩基配列は、配列番号2または4に示される。さらに、配列番号2または4に示される塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、配列番号2または4に示される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しているDNA、または前記DNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1または複数もしくは数個(1〜10個、好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個もしくは2個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAであって、プラスチド移行シグナルを有し、かつテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質を有するタンパクをコードするDNAを包含する。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「1XSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5XSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2XSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。さらに、本発明の遺伝子は、配列番号2または4に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNAを包含する。
本発明の遺伝子のDNAの塩基配列は、配列番号16に示される。さらに、配列番号16に示される塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、配列番号16に示される塩基配列と、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しているDNA、または前記DNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1または複数もしくは数個(1〜10個、好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個もしくは2個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAであって、プラスチド移行シグナルを有さず、かつテルペン類合成酵素活性を有するタンパク質を有するタンパクをコードするDNAを包含する。
配列番号2または4に示される塩基配列は上記配列番号1または3に示されるアミノ酸配列を有する酵素をそれぞれコードする。配列番号16に示される塩基配列は上記配列番号15に示されるアミノ酸配列を有する酵素をコードする。
したがって、上記の通りこれらの遺伝子にコードされる酵素は同一の遺伝子に由来するものであり、配列番号16に示される塩基配列において46-1614位の塩基位置は、配列番号2または4に示される塩基配列中202-1770位の塩基位置に対応する。テルペン類合成に寄与する酵素の活性部位は、当該対応する塩基位置内にコードされる。
3.組換えベクター
本発明のベクターは、上記配列番号2または配列番号4のDNAからなる遺伝子が挿入された組換えベクターである。また本発明のベクターは、上記配列番号16のDNAからなる遺伝子が挿入された組換えベクターである。ベクターとしては公知の大腸菌用、植物細胞用、昆虫細胞用等のものを広く使用できる。本発明において使用されるベクターには、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー等の遺伝子の発現や抑制に関する構成要素が組込まれ、必要に応じて、選択マーカー(例えば、薬物耐性遺伝子、抗生物質耐性遺伝子、レポーター遺伝子)を含有する。遺伝子の発現や抑制に関する構成要素は、その性質に応じて、それぞれが機能し得る形で組換えベクターに組み込まれることが好ましい。そのような操作は、当業者であれば適切に行うことができる。
4.形質転換体
本発明の形質転換体は、本発明の組換えベクターを保持する形質転換体である。形質転換体は、酵素をコードする遺伝子を挿入した組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。宿主は、ベクターに適したものを使用すればよい。例えば、大腸菌、植物細胞、昆虫細胞(Sf9など)、植物ウイルスなどが挙げられる。好ましくは、大腸菌、植物細胞または植物ウイルスなどが挙げられる。組換えベクターの導入方法は、微生物にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N.et al. 1972 Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110)、エレクトロポレーション法、トリペアレンタルメイティング(tri-parental mating)法等が挙げられる。また、形質転換植物体を作製する方法として、ウイルス、アグロバクテリウムのTiプラスミド、Riプラスミド等をベクターとして用いる方法が挙げられる。宿主植物としては、イネ、ムギ、トウモロコシ等の単子葉植物、ダイズ、ナタネ、トマト、バレイショ等の双子葉植物が挙げられる。形質転換植物体は、本発明の遺伝子で形質転換した植物細胞を再生させることにより得ることができる。
植物細胞からの植物体の再生は公知の方法により行うことができる。
5.テルペン類合成酵素の製造方法
本発明のテルペン類合成酵素は、本発明の核酸および核酸を組み込んだベクターを含む細胞を培養させ、あるいは本発明の核酸および核酸を組み込んだベクターを含む植物体より回収することができる。細胞の培養条件、および植物の成長条件は、細胞の種類等の条件に応じて適宜選択され、当業者に公知の方法により行うことができる。テルペン類合成酵素の抽出作業、精製方法も公知の方法により行うことが出来る。
さらに、本発明のテルペン類合成酵素は、例えば、本発明の遺伝子で形質転換した大腸菌等の微生物発現系を用いた大量生産により製造することができ、また、上記の形質転換植物体中で本発明の遺伝子を発現させることにより得ることができる。形質転換体の培養は公知の培地を用いて公知の方法で行えばよい。
6.形質転換体を用いたテルペン類の生産
本発明のテルペン類合成酵素は、大腸菌等の微生物発現系において高い活性を持ったタンパク質として発現できるため、形質転換した大腸菌等の微生物発現系の培養液に前記テルペン類合成酵素の基質を添加することにより、テルペン類を生産することができる。例えば、形質転換した大腸菌の培養液に、ゲラニル二リン酸およびファルネシル二リン酸を基質として投与することにより、リナロールおよびネロリドールを効率的に大量に生産することが可能である。
また、本発明のテルペン類合成酵素を、本発明の遺伝子で形質転換した植物細胞や植物体で発現させることにより、リナロールやネロリドールを植物で効率的に生産することができる。一部の例外を除いて、一般的にモノテルペン類合成の基質であるゲラニル二リン酸およびセスキテルペン類合成の基質であるファルネシル二リン酸は、植物細胞において、それぞれプラスチドの非メバロン酸経路およびサイトゾルのメバロン酸経路に由来し、各基質の合成の場もそれぞれプラスチドおよびサイトゾルと考えられている。したがって、例えば、モノテルペン類であるリナロールを合成するのであれば、本発明のプラスチド移行シグナルを有するテルペン類合成酵素をコードする遺伝子(例えば、配列番号2または4に示す塩基配列からなるDNA)を用いて形質転換を行うことにより、発現されたテルペン類合成酵素はそのプラスチド移行シグナルによりプラスチドへと移動し、当該プラスチドにて合成されたゲラニル二リン酸を基質としてリナロールを効率的に生産することができる。また、セスキテルペン類であるネロリドールを合成するのであれば、本発明のプラスチド移行シグナルを有さないテルペン類合成酵素をコードする遺伝子(例えば、配列番号16に示す塩基配列からなるDNA)を用いて形質転換を行うことにより、発現されたテルペン類合成酵素はプラスチド移行シグナルを有さないためにサイトゾル中に存在し、当該サイトゾルにて合成されたファルネシル二リン酸を基質としてネロリドールを効率的に生産することができる。
テルペン類を合成する際に使用する大腸菌や植物を始めとした各種細胞は、例えば、テルペン類合成の基質となるゲラニル二リン酸やファルネシル二リン酸の産生を促進するメバロン酸経路の酵素や、それらをコードする遺伝子等を含んでいても良く、そのことによりテルペン類の増産が可能となる。
上記のように、本発明のテルペン類合成酵素およびテルペン類合成酵素をコードする遺伝子を用いて、ゲラニル二リン酸やファルネシル二リン酸等から、リナロールやネロリドール等のテルペン類を生産することができる。得られたテルペン類は、その芳香性から食品や化粧品の香料原料として利用でき、また、抗菌性や抗腫瘍性等も有することから医薬品原料としても利用可能である。
7.形質転換植物
本発明のテルペン類合成酵素遺伝子を導入した植物体においては、通常の植物と比較してリナロールまたはネロリドールの産生量を増大させることが可能である。テルペン類は、微生物や害虫との相互作用に関与しており、本発明により病虫害耐性を増強した植物体を作出することが可能である。また、リナロールあるいはネロリドールを持たない植物においても、本発明の遺伝子を導入することによってこれらを合成させることもできる。
また、上記のとおり本発明のプラスチド移行シグナルを有するテルペン類合成酵素をコードする遺伝子またはプラスチド移行シグナルを有さないテルペン類合成酵素をコードする遺伝子を選択して導入することによって、発現されたテルペン類合成酵素の局在を制御することができ、通常の植物と比較して、例えばリナロールまたはネロリドールの産生量を選択的に増大させることが可能である。
8.遺伝子変異、多型個体、遺伝子発現変異の選抜
本発明は、植物におけるテルペン類合成酵素遺伝子突然変異、一塩基多型(SNP)等の多型、遺伝子発現変異の存在を検出するための方法を提供する。
変異個体は放射線によるもの、化学処理によるもの、UV照射によるもの、自然突然変異によるものであっても構わない。
この方法には、ゲノムDNAやRNAを変異個体や様々な品種や育成個体の植物から単離し、後者は逆転写しcDNAを合成する工程と、DNA増幅技術の使用によりDNAからテルペン類合成酵素遺伝子を含有する遺伝子断片を増幅する工程と、このDNA中に突然変異の存在を決定する工程が含まれる。DNAやRNAを抽出する方法には市販のキット(例えばDNeasyやRNeasy (キアゲン社)など)が使用できる。cDNAを合成する方法も市販キット(例えばスーパースクリプト ファーストストランド システム(インビトロジェン社)など)を使うことができる。DNA増幅技術の使用により遺伝子断片を増幅する方法としては、いわゆるPCR法やLAMP法などの技術を用いることができる。これらは継続的なポリメラーゼ反応により特異的なDNA配列の増幅(つまり、コピー数を増やすこと)を達成するためにポリメラーゼを使用することを基にした、一群の技術を意味する。この反応は、クローニングの代わりに使用することができるが、必要であるのは、核酸配列に関する情報のみである。DNAの増幅を行うために、増幅しようとするDNAの配列に相補的なプライマーを設計する。次にそのプライマーを自動DNA合成により作成する。DNA増幅方法は、当技術分野で周知であり、本明細書中で与えられる教示及び指示に基づき、当業者であれば容易に行うことができる。いくつかのPCR法(ならびに関連技術)は、例えば、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、同第4,800,159号、同第4,965,188号、およびInnisら編、PCR Protocols:A guide to method and applicationsで述べられている。
DNA中に突然変異や多型の存在を決定する工程では塩基配列の決定(アプライドバイオシステムズ社)やミスマッチペアの片側を切断する酵素を用いて突然変異体を検出するTILLING法(Till et al. 2003 Genome Res 13:524-530)など変異遺伝子と正常遺伝子の相同性を利用し検出する方法を用いればよい。これらは該技術から得られた配列データを遺伝子部分に関する配列番号2もしくは配列番号4または配列番号16で表される塩基配列と比較することで行うことができる。
mRNA量の違いによる変異を決定する工程では上記cDNAに対し、配列番号2もしくは配列番号4または配列番号16で表される塩基配列に基づいて作製したプライマーを利用してリアルタイムPCR法(ロシュ・ダイアグノスティックス社ライトサイクラーなど)等の定量的PCRを採用すればよい。その後、例えば、品種「キリン2号」から得られたcDNAの量と比較することでmRNA量の違いによる変異を決定することができる。
特に好ましい実施形態において、上記で定義したテルペン類合成酵素遺伝子の変異の存在の決定方法を、ホップ(Humulus lupulus)等のホップ属(カラハナソウ属)植物から得られた材料に適用する。
上記の突然変異および/または多型を決定する方法により、テルペン類合成酵素をコードする遺伝子の突然変異や多型を塩基レベルで同定することができ、さらにテルペン類合成酵素をコードする遺伝子に突然変異を有する植物体を選抜し、得ることができる。本発明はこのようにして得られたテルペン類合成酵素をコードする遺伝子に突然変異や多型を有する植物体を包含する。
また、突然変異や多型の決定やmRNA量の違いの決定により、テルペン類合成酵素をコードする遺伝子の発現能またはテルペン類合成酵素の活性が改変された植物を選抜することが可能になる。
ここで、テルペン類合成酵素をコードする遺伝子の発現能またはテルペン類合成酵素の活性が改変された植物とは、人為的突然変異等の突然変異による遺伝子の発現能またはテルペン類合成酵素の活性の改変および多型による遺伝子の発現能またはテルペン類合成酵素の活性が異なっている植物を指す。
ある植物の活性の突然変異による改変は、その植物の種に含まれる既存品種に対する改変をいい、既存品種には野生型も含まれる。既存の品種は、テルペン類合成酵素をコードする遺伝子が改変された植物が得られたときに存在するすべての品種をいい、交配、遺伝子操作等の人為的操作により作出された品種、および自然状態で出現した野生型とは酵素活性において区別できる個体群を含む。また、活性の改変において、すべての既存品種に対して活性が変化している必要はなく、特定の既存品種に対して改変されていれば、「テルペン類合成酵素の活性が改変された植物」に含まれる。「テルペン類合成酵素の活性が改変された植物」は、人為的操作を受けず自然状態で突然変異により活性が改変された植物も含み、本発明の方法により、自然状態で活性が変化した植物を選抜することができ、新たな品種として確立することもできる。また、ある既存品種に変異誘発処理を行い、テルペン類合成酵素の活性が改変された植物を作出した場合、比較対象は変異誘発処理を行った既存品種でもよいし、それ以外の他の既存品種でもよい。例えば、植物がホップ(Humulus lupulus)の場合、既存品種として、「キリン2号」、「とよみどり」、「Hallertauerer Mfr.」、「Hersbrucker」等がある。ここで、テルペン類合成酵素をコードする遺伝子の発現能またはテルペン類合成酵素の活性が既存品種に対して改変された植物とは、既存品種に対してテルペン類合成酵素をコードする遺伝子の発現能が増強した植物および低下した植物を含み、さらに、テルペン類合成酵素の活性が既存品種に対して上昇した植物および低下した植物を含む。本発明は、このようなテルペン類合成酵素をコードする遺伝子の発現能またはテルペン類合成酵素の活性が既存品種に対して改変された植物体も包含する。
本発明のテルペン類合成酵素遺伝子の発現能や発現量および当該遺伝子の突然変異や多型を指標にして、個体および品種間におけるテルペン類合成能の差異を明らかにすることができる。すなわち、上記手法により当該遺伝子の発現能や発現量および突然変異や多型を既存品種に対して比較、同定し、さらに既存品種とテルペン類の合成能および合成量を比較解析することによって、当該遺伝子の発現能や発現量および突然変異や多型とテルペン類合成能の関係を明らかにすることができる。
したがって、一態様において、本発明のプラスチド移行シグナルを有するテルペン類合成酵素をコードする遺伝子(例えば、配列番号2または配列番号4に示される塩基配列で表される遺伝子)の発現量や発現能ならびに当該遺伝子および当該遺伝子の発現調節領域における突然変異や多型を既存品種に対して比較、同定することによって、プラスチドにて合成されるモノテルペン類、例えばリナロールの合成能が改変されている品種を選抜、確立することができる。また、本発明のプラスチド移行シグナルを有さないテルペン類合成酵素をコードする遺伝子(例えば、配列番号16に示される塩基配列で表される遺伝子)の発現量や発現能ならびに当該遺伝子および当該遺伝子の発現調節領域における突然変異や多型を既存品種に対して比較、同定することによって、サイトゾルにて合成されるセスキテルペン類、例えばネロリドールの合成能が改変されている品種を選抜、確立することができる。「合成能が改変されている」とは、既存品種に対してモノテルペン類および/またはセスキテルペン類の合成量が、増大または低下していることを意味する。
また別の態様において、本発明のプラスチド移行シグナルを有するテルペン類合成酵素(例えば、配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列で表される酵素)における突然変異や多型に基づく活性の変化を既存品種に対して比較、同定することによって、プラスチドにて合成されるモノテルペン類、例えばリナロールの合成能が改変されている品種を選抜、確立することができる。また、本発明のプラスチド移行シグナルを有さないテルペン類合成酵素(例えば、配列番号15に示されるアミノ酸配列で表される酵素)における突然変異や多型に基づく活性の変化を既存品種に対して比較、同定することによって、サイトゾルにて合成されるセスキテルペン類、例えばネロリドールの合成能が改変されている品種を選抜、確立することができる。
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するもの
ではない。
(実施例1)ホップの遺伝子発現ライブラリーの構築
ホップ(Humulus lupulus)の品種「キリン2号」の毬花からルプリンを多く含む部分を切り取り、液体窒素を用いて破砕した。CTAB(Cetyltrimethylammonium bromide)法(Chang et al. 1993 Plan Mol Biol Rep 11: 113-116)を用いて全RNAを抽出した。得られた全RNA 620μgをタカラバイオ株式会社に提供しcDNAライブラリーの作成、12,288のEST解析およびクラスタリング解析を委託し、Oligotex-dT Super mRNA Purification Kit(タカラバイオ)を使用してpoly(A)+RNAを単離し、逆転写酵素でcDNAを作成した。cDNAプラスミドライブラリーは酵母発現用ベクターpDR196を用いて構築した。cDNAの第1鎖を、XhoI制限部位を含むoligo(dT)18アンカープライマーを使用して合成した。cDNAの第2鎖を合成した後、EcoRI制限サイトを含む平滑末端アダプターを二本鎖DNAへ結合させ、次いで当該フラグメントを、構成的プロモータPMA1を有するプラスミド、pDR196中に組み込んだ。Escherichia coli DH10Bに構築したライブラリーについて、プラスミドを抽出し12,288の5’端の塩基配列を決定した。クラスタリング解析の結果、1597のクラスター遺伝子配列を含んでいることがわかった。
(実施例2)候補cDNAのクローニング
上記クラスター遺伝子をアミノ酸配列データベース(Database: NCBI/blast/db/FASTA/2008_09_05_09_00_0/nr 6,937,173 sequences; 2,395,280,820 total letters)に対して塩基配列相同性検索BLASTX 2.2.10(Altschul et al. 1997 Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)を用いて解析を行ったところ、Citrus junos のterpene synthase(Genbank accretion AAG01339)やSantalum albumのmonoterpene synthase(Genbank accretion ACF24767)に対し相同性を示す遺伝子断片を見出した。
(実施例3)候補cDNAのクローニングおよびcDNA塩基配列の決定
上記の遺伝子ライブラリー中に見出した遺伝子断片は、N末端を含まない636bpの不完全長cDNAであった。そこで、「キリン2号」の葉から、Nucleon PhytoPure(GEヘルスケア バイオサイエンス)によりDNAを抽出し、既知の塩基配列にプライマーを設計し(04_L18GSPnest2; GGATCGAATCAATTAGCTTCAAGAGTG(配列番号6), 04_L18F2; GGTAATGAACTGATCTATGATGTTC(配列番号7))、Inverse PCR法により上流のゲノム塩基配列を明らかにした。Inverse PCR法の詳細は次の通りである。制限酵素はAccIとClaIを用い、3μgのDNAに対し各制限酵素を37℃にて3時間反応させ、70℃にて15分間処理して酵素を失活させた。T4 Ligase(BioLabs)を用いてligationを行い、これをテンプレートとしてPCR法による増幅を行った。PCR反応は、ExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて一般的な反応組成に従い、ディネイチャー94℃で2分間、続いて、ディネイチャー94℃で1分間、アニーリング50℃で1分間、エクステンション72℃で5分間を30サイクル、最後にエクステンション72℃で10分間反応させた。増幅された断片をTOPO TAクローニングキット(インビトロジェン)でクローニングし、シークエンスを解析し、未知の上流配列であることを確認した。
得られた上流配列の推定翻訳開始メチオニンより上流の5’UTR領域と、終止コドンより下流の3’UTR領域にプライマーを設計し(04_L185’UTR; GTGCTGTATCCGCCAGCTTCG(配列番号8), 04_L18R1; CTGAGGTTTAACTATTTCTCTGTCC(配列番号9))、「キリン2号」の毬花から、CTAB(Cetyltrimethylammonium bromide)法(Chang et al. 1993 Plan Mol Biol Rep 11: 113-116)を用いて抽出したRNAからSuperScript IIIファーストストランド合成システム(インビトロジェン)で合成した一本鎖cDNAをテンプレートに、PCR法による増幅を行った。PCR反応は、ExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて一般的な反応組成に従い、ディネイチャー94℃で2分間、続いて、ディネイチャー94℃で1分間、アニーリング50℃で1分間、エクステンション72℃で2分間を30サイクル、最後にエクステンション72℃で5分間反応させた。増幅された断片をTOPO TAクローニングキット(インビトロジェン)でクローニングし、シークエンスを解析した。その結果、2種類の全長遺伝子を取得することができた。ともに590アミノ酸からなる、それぞれの推定分子量68.035kDa、68.197kDa(DNADynamo; Blue Tractor Software Ltd.)のポリペプチド(配列番号1および3)をそれぞれコードする1770bp(終止コドンを含む)の推定ORFを含有する遺伝子であった(配列番号2および4)。これら遺伝子がコードするアミノ酸配列は、22、121、316、391、449、518および581位の7アミノ酸残基が互いに異なる。
当該アミノ酸配列中には、RR(P)X8W、RXR、DDXXDといった多くのテルペン類合成酵素に保存されているモチーフが存在していた(Keeling CI and Boulmann J 2006 New Phytol 170:657-675)。
以下、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、配列番号2で示される塩基配列にコードされるタンパク質を「HlLIS/NES-1」と表記し、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有し、配列番号4で示される塩基配列にコードされるタンパク質を「HlLIS/NES-2」と表記する。
(実施例4)大腸菌を用いた発現系とテルペン類の合成
HlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-2は、ChloroP 1.1(http://www.cbs.dtu.dk/services/ChloroP/)およびWoLF PSORT(http://wolfpsort.org/)のプログラムによるとプラスチド移行シグナル配列を持つと考えられ、このことは大腸菌でタンパク質を発現させるにあたって弊害となりうるため取り除く必要がある。そこで、配列番号2および4に示される塩基配列において、開始メチオニンから43アミノ酸を削るようにプライマーを設計し、これと対になるプライマーを終止コドン部位に設計した(Nde1-04_L18F; CATATGAGACGCTCAGCTAGTTACCATCC(配列番号10), Nde1-04_L18R; CATATGTCACTCCCCAACTCCATCGGTTTG(配列番号11))。なお、いずれのプライマーにも制限酵素NdeIの配列を付加しており、NdeI中のATGが開始コドンとなるように設計した。PCR反応は、ExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて一般的な反応組成に従い、ディネイチャー94℃で2分間、続いて、ディネイチャー94℃で1分間、アニーリング57℃で1分間、エクステンション72℃で2分間を30サイクル、最後にエクステンション72℃で5分間反応させた。増幅された断片をTOPO TAクローニングキット(インビトロジェン)でクローニングし、一般的な手法によって大腸菌へのトランスフォーメーション、プラスミド抽出を行った。このプラスミドにNdeI処理を37℃で2時間行い、両端にNdeIサイトの付いた断片を用意し、同様にNdeI処理およびアルカリフォスファターゼ処理を行ったベクターpETDuet-1(Novagen)へクローニングした。クローニングには、DNA Ligation Kit(TaKaRa)を用いた。一般的な手法によって大腸菌へのトランスフォーメーション、プラスミド抽出を行い、発現系に用いるプラスミドを得た(以下、pET-HlLIS/NES-1およびpET-HlLIS/NES-2と表記)。
続いて、pET-HlLIS/NES-1およびpET-HlLIS/NES-2を用いて大腸菌においてHlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-2を発現させることにより、どのようなテルペン類が合成されるのかを調べた。モノテルペンおよびセスキテルペンを合成するにあたって基質となるのはゲラニル二リン酸およびファルネシル二リン酸であり、これらの基質はHaradaら(2009 Appl Microbiol Biotechnol 81:915-925)が構築したpAC-Mevと大腸菌BL21(DE3)に共導入させることにより得られる。なお、pAC-Mevとは、streptmyces sp.CL190由来のメバロン酸経路の遺伝子群(MVA kinase, DPMVA decarboxylase, PMVA kinase, IPP isomerase, HMG CoA reductase, HMG CoA synthasse)とtacプロモーター、rrnBターミネーター、クロラムフェニコール耐性遺伝子を有したpACプラスミドである。pET-HlLIS/NES-1およびpET-HlLIS/NES-2とpAC-Mevを大腸菌BL21(DE3)に共導入させ、以下、Haradaら(2009 Appl Microbiol Biotechnol 81:915-925)の方法に従ってテルペン類の合成、ドデカンによる回収を行った。
(実施例5)合成されたテルペン類の解析
上記の方法により、HlLIS/NES-1およびHlLIS/NES2により合成されたテルペン類はドデカン層に回収されている。回収したドデカン層1μlをGC-MS分析に供試した。GC-MS分析は、Haradaら(2009 Appl Microbiol Biotechnol 81:915-925)の方法に従って行った。その結果、HlLIS/NES-1において保持時間24.550分の位置と36.216分の位置に、また、HlLIS/NES-2において保持時間24.534分の位置と36.197分の位置に、対照には見られないピークが検出された(図1A(i)(ii)、ピークを丸で指示)。これらのピークを分取し、MS分析を行った結果を図1B(i)(ii)および図1C(i)(ii)に示す。図1Dおよび図1Eは、それぞれリナロールおよびネロリドールの標品のMS分析結果であり、保持時間24.550/24.534分と36.216/36.197分の位置に検出されたピークのMS分析結果と一致している。これらの結果より、pET-HlLIS/NES-1およびpET-HlLIS/NES-2とpAC-Mevを共導入した大腸菌において、リナロールとネロリドールが産生されていることが確認できた。この結果、HlLIS/NES-1とHlLIS/NES-2はリナロールとネロリドールを生成する酵素であることが明らかとなった。すなわち、HlLIS/NES-1とHlLIS/NES-2は、ゲラニル二リン酸およびファルネシル二リン酸を基質としてリナロールおよびネロリドールを合成する(図2Aおよび2B)。
(実施例6)HlLIS/NES-1の配列比較と系統発生分析
これ以降の解析はHlLIS/NES-1とHlLIS/NES-2のアミノ酸配列が極めて似ていることから、HlLIS/NES-1で代表して用いて行った。HlLIS/NES-1はリナロールとネロリドールを生成する酵素である。このような活性を持つ酵素はキンギョソウ(Dinesh A. N. 2008 The Plant Journal 55 224-239 ; AmNESLIS-1(accession no. EF433761)およびAmNESLIS-2(EF433762))やイチゴ(Asaph A. et al. 2004 The Plant Cell 16 3110-3131; FaNES(CAD57106))から単離されたことが報告されている。これらとの関係を明らかにする目的で当該酵素間のアミノ酸配列の比較を行った(図3A−C)。
その結果、これらの酵素は同じような活性を持つにもかかわらず、アミノ酸の同一性は30%台と極めて低いものとなった。
さらに37種の様々な植物のテルペン類合成関連酵素(AmNESLIS-1; AmNESLIS-2; FaNES, Arabidopsis snapdragon myrcene synthase(AAO41726), (E)-β-ocimene synthase(AAO42614); Arabidopsis linalool synthase(AAO85533); Artemisia annua linalool synthase(AAF13356); Abies grandis (-)-4S-limonene synthase(AF006193), myrcene synthase(U87908), pinene synthase(U87909), terpinolene synthase(AF139206), βphellandrene synthase(AF139205), γ-humulene synthase(U92267) and δ-selinene synthase(U92266); Arabidopsis thaliana myrcene/ocimene synthase(AF178535); Clarkia breweri linalool synthase(U58314); Cichorium intybus germacrene A synthase(AF497999); Citrus limon (-)-β-pinene synthase(AF514288), (+)-limonene synthase(AF514287) and γ-terpinene synthase(AF514286); Cucurbita maxima copalyl diphosphate synthase(AF049905) and ent-kaurene synthase(U43904); Gossypium arboretum (+)-δ-cadinene synthase(U23205); Lycopersicon esculentum copalyl diphosphate synthase(AB015675) and germacrene C synthase(AF035630); Mentha piperita (E)-β-farnesene synthase(AF024615); Mentha spicata 4S-limonene synthase(L13459); Nicotiana tabacum 5-epi-aristolochene synthase(L04680); Picus abies linalool synthase(AAS47693); Perilla citridora limonene synthase(AF241790) and linalool synthase(AY917193); Perilla frutescens linalool synthase(AF444798); Salvia officinalis (+)-bornyl diphosphate synthase(AF051900), (+)-sabinene synthase(AF051901) and 1,8-cineole synthase(AF051899); Solanum tuberosum vetispiradiene synthase(AB022598); Zea mays TPS1(AAO18435))のアミノ酸配列を比較しCLUSTALW(Thompson JD, Higgins DG, Gibson TJ (1994) Nucleic Acids Res. 22(22):4673-80.)、分子進化系統樹を作成した(図4)。
その結果、HlLIS/NES-1は、同じくリナロールとネロリドールを合成する酵素活性を持つキンギョソウのテルペン類合成酵素AmNESLIS-1およびAmNESLIS-2やイチゴのテルペン類合成酵素FaNESとは、異なるクラスターに分類され、遺伝子進化の面からも類縁関係は遠いことがわかった。また、Picea abies, Clarkia breweri, Arabidopsis thaiana, Artemisisa annua, Perilla citriodora, Perilla frutescens等の植物のリナロール合成酵素とも、異なるクラスターに分類されている。このことからHlLIS/NES-1はきわめてユニークなアミノ酸配列を有することがわかった。
(実施例7)HlLIS/NES-1をコードするゲノム塩基配列の決定
キリン2号の葉より、Nucleon PhytoPure(GEヘルスケア バイオサイエンス)を用いてDNAを抽出した。このDNAをテンプレートに、以下のプライマー対を用いて(04_L185’UTR; GTGCTGTATCCGCCAGCTTCG(配列番号12)), 04_L18R1; CTGAGGTTTAACTATTTCTCTGTCC(配列番号13))、PCR法によりHlLIS/NES-1をコードするゲノム塩基配列断片の増幅を行った。PCR反応は、ExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて一般的な反応組成に従い、ディネイチャー94℃で2分間、続いて、ディネイチャー94℃で1分間、アニーリング50℃で1分間、エクステンション72℃で2分間を30サイクル、最後にエクステンション72℃で5分間反応させた。増幅された断片をTOPO TAクローニングキット(インビトロジェン)でクローニングし、シークエンスを解析して、HlLIS/NES-1をコードするゲノム塩基配列を明らかにした。また、遺伝子ライブラリーのシークエンスデータより、poly(A)付加部位までの配列がわかっており、これを加えた2,752bpを配列番号5に示した。HlLIS/NES-1をコードするcDNAの塩基配列との比較により、7個のエクソンと6個のイントロンにより構成されていることが明らかとなった(図5)。
(実施例8)RT-PCR法による2種の転写物の解析
HlLIS/NES-1をコードするゲノム塩基配列について、一層の解析を行った結果、図5に示した第1イントロン(75bp)中にATGが存在し、これを翻訳開始メチオニンとする転写物が存在する可能性が示唆された。
そこで、このATGを含むプライマーを設計し(2ndM-F; ATGCATATAACACAGAATAAAGCTAAGATTTTG(配列番号14))、これと3’UTRに設計したプライマー04_L18R(配列番号9)を用い、「キリン2号」を材料に、実施例3と同様の手法でcDNA塩基配列およびゲノム塩基配列の増幅を行った。PCR反応は、いずれもExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて一般的な反応組成に従い、ディネイチャー94℃で2分間、続いて、ディネイチャー94℃で1分間、アニーリング50℃で1分間、エクステンション72℃で1分30秒間を30サイクル、最後にエクステンション72℃で5分間反応させた。
電気泳動にてcDNA塩基配列およびゲノム塩基配列のいずれも増幅を確認し、増幅された断片をTOPO TAクローニングキット(インビトロジェン)でクローニングし、シークエンスを解析した。
その結果、このHlLIS/NES-1第1イントロン中のメチオニンを翻訳開始点として、それより下流のHlLIS/NES-1第1イントロンとHlLIS/NES-1第2エクソンが組み合わさって第1エクソンとして存在する、6個のエクソンから構成される転写物が存在することを明らかにした(図6)。これをHlLIS/NES-3とし、そのアミノ酸配列を配列番号15、ゲノム塩基配列を配列番号16に示す。
実施例4で述べ、図6に示した通り、HlLIS/NES-1の第1エクソン中にはプラスチド移行シグナルペプチドをコードする配列が存在する。従って、HlLIS/NES-1はプラスチド移行シグナルを有するが、HlLIS/NES-3はプラスチド移行シグナルを持たない。また、モノテルペン類はプラスチドにおいて合成され、セスキテルペン類はサイトゾルにおいて合成されることが明らかとなっている(Rodriguez-Concepcion and Boronat 2002 Plant Physiol 130:1079-1089)。したがって、HlLIS/NES-1はそのプラスチド移行シグナルによりプラスチドに移行してモノテルペン類であるリナロールの合成に機能し、HlLIS/NES-3はプラスチド移行シグナルを有さないことから、サイトゾルにおいてセスキテルペン類であるネロリドールの合成に機能していることが示唆された。
続いて、複数のホップ品種間において、HlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3の転写解析を行った。既述の「キリン2号」に加え、「Hallertauerer Mfr.」および「Hersbrucker」の3品種を用いた。「キリン2号」、「Hallertauerer Mfr.」および「Hersbrucker」の毬花から、CTAB(Cetyltrimethylammonium bromide)法(Chang et al. 1993 Plan Mol Biol Rep 11: 113-116)を用いて抽出したRNAを、それぞれ1μgずつ用いてSuperScript IIIファーストストランド合成システム(インビトロジェン)で一本鎖cDNAを合成した。これをテンプレートに、HlLIS/NES-1に特異的なプライマー対(04_L18 5’UTR-F3; AGCATTCGGCAATTTAAACGGTCAG(配列番号17),HlLIS/NES GSP 2.3ex; CTCTAAATCTGTCAAACACATCAGAGCC(配列番号18))とHlLIS/NES-3特異的なプライマー対(2ndM-F(配列番号14),HlLIS/NES GSP 2.3ex(配列番号18))を用いてPCR反応による増幅の有無を調べた。いずれのPCR反応も、ExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて一般的な反応組成に従い、ディネイチャー94℃で2分間、続いて、ディネイチャー94℃で30秒間、アニーリング52℃で30秒間、エクステンション72℃で30秒間を30サイクルおよび40サイクル、最後にエクステンション72℃で3分間反応させた。その結果、「キリン2号」、「Hallertauerer Mfr.」および「Hersbrucker」の3品種において、HlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3の増幅を確認することができた(図7)。これより、「キリン2号」、「Hallertauerer Mfr.」および「Hersbrucker」の3品種において、HlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3が発現していることが明らかとなり、リナロールとネロリドールの合成にそれぞれ機能していることが示唆された。なお、対照としてGAPDH遺伝子(プライマー対(GAPDH ori-F; GGTGTCAGGAACCCTGAAGAAATCC(配列番号19), GAPDH ori-R; GGAGCAAGGCAATTGGTAGTGCAAC(配列番号20))の増幅を確認した。
(実施例9)品種間におけるHlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3のゲノム塩基配列の比較
「キリン2号」、「Hallertauerer Mfr.」および「Hersbrucker」の3品種の葉から、Nucleon PhytoPure(GEヘルスケア バイオサイエンス)により抽出したDNAをそれぞれテンプレートに、5’UTR領域に設計したプライマー(04_L185’UTR(配列番号12))と、HlLIS/NES-1における終止コドン部位に設計したプライマー(Nde1-04_L18R(配列番号11))を用いてPCR反応を行った。
PCR反応は、いずれもExTaqポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて一般的な反応組成に従い、ディネイチャー94℃で2分間、続いて、ディネイチャー94℃で1分間、アニーリング54℃で1分間、エクステンション72℃で2分30秒間を30サイクル、最後にエクステンション72℃で5分間反応させた。増幅された断片をTOPO TAクローニングキット(インビトロジェン)でクローニングし、シークエンスを解析した。
「キリン2号」、「Hallertauer Mfr.」および「Hersbrucker」の3品種におけるHlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3のゲノム塩基配列の比較を行ったところ、HlLIS/NES-1およびHlLIS/NES-3それぞれの翻訳開始メチオニンの上流領域に著しい多型を見出すことができた(図8)。
ホップ品種間において、テルペン類の生成量には違いが認められる(非特許文献2)。本発明において明らかにしたゲノム塩基配列やcDNA塩基配列を利用することで、その突然変異および/または多型を検出し、リナロールやネロリドールの合成に関わる品種特性の検定や植物体の選抜を行うことが出来る。
本発明により、ホップのモノテルペノイドとセスキテルペノイドを合成する酵素、当該テルペノイド合成酵素をコードするDNA、当該酵素を用いてテルペノイドを合成する方法が提供され、医薬品や医薬部外品の成分、あるいは食品や化粧品の香料としての利用が可能となる。また、当該DNAを用いた系統選抜方法が提供され、有用なホップ品種の育種に有用である。

Claims (14)

  1. 以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質:
    (a) 配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (b) 配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質;ならびに
    (c) 配列番号1または配列番号3に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質。
  2. 以下の(d)〜(g)のいずれかのDNAからなる遺伝子:
    (d) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列からなるDNA;
    (e) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
    (f) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
    (g) 配列番号2または配列番号4に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA。
  3. 以下の(h)〜(j)のいずれかのタンパク質:
    (h) 配列番号15に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (i) 配列番号15に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質;ならびに
    (j) 配列番号15に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質。
  4. 以下の(k)〜(n)のいずれかのDNAからなる遺伝子:
    (k) 配列番号16に示す塩基配列からなるDNA;
    (l) 配列番号16に示す塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
    (m) 配列番号16に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ、テルペン類合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;および
    (n) 配列番号16に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA。
  5. 請求項2または請求項4に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  6. 請求項5に記載の組換えベクターを導入した形質転換体。
  7. 植物体である請求項6に記載の形質転換体。
  8. (i) ゲノムDNAまたはRNAである核酸を植物から単離する工程、
    (ii) (i)の核酸がRNAである場合に、逆転写してcDNAを合成する工程、
    (iii) (i)または(ii)の工程で得られたDNAから請求項2もしくは4に記載の遺伝子、または配列番号5に示す塩基配列を含有する遺伝子断片を増幅する工程、
    (iv) (iii)で増幅したDNA中に突然変異および/または多型の存在を、それぞれ対応する配列番号2、配列番号4もしくは配列番号16または配列番号5に示す塩基配列と比較して決定する工程、
    これらの工程を含む、植物におけるテルペン類合成酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または多型の存在を検出する方法。
  9. 植物がホップ属植物である請求項8に記載の方法。
  10. 請求項8または請求項9に記載の方法によってテルペン類合成酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または多型を検出し、突然変異および/または多型を有する植物体を選抜する方法。
  11. テルペン類合成酵素をコードする遺伝子の発現能またはコードするテルペン類合成酵素の活性が、既存品種に比較して改変されている植物を選抜することをさらに含む、請求項10に記載の植物体を選抜する方法。
  12. 選抜される植物体が既存品種に比較してリナロールおよび/またはネロリドールの合成能が改変されている、請求項11に記載の植物体を選抜する方法。
  13. 請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法によって選抜された、植物体。
  14. ホップ属植物である請求項13に記載の植物体。
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