従来のロータリーベーン式舵取機は、例えば図11〜図13に示すようなもので、ハウジング1の内部に、軸心廻りに回転するローター2を収納しており、ハウジング1の底部に設けたボス部1aがラジアル軸受4aを介してローター2の下部軸部2aを半径方向で支持し、ハウジング1の上部開口を塞ぐように配置した環状のトップカバー3がラジアル軸受4bを介して上部軸部2bを半径方向で支持しており、ハウジング1の内底面がスラスト軸受4cを介してローター2の下端面を軸心方向で支持している。
ローター2は、舵軸7の軸頭7aを装入して緊張状態に嵌合させる内部貫通孔2cを有し、外周面の周方向に沿った等間隔の位置に突設した複数(ここでは1〜n、n=2の場合について説明する。以下同じ)のベーン2dを有している。ハウジング1にはベーン2dと同数のセグメント1bを内周面の周方向に沿った等間隔の位置に突設している。
ローター2の各ベーン2dは、上端面に形成した上部横スリット2e内に、トップカバー3の下面に摺接する上部横シール2fを保持し、下端面に形成した下部横スリット2g内に、ハウジング1の内底面に摺接する下部横シール2hを保持し、半径方向の先端の縁面に形成した縦スリット2i内に、ハウジング1の内周面に摺接する縦シール2jを保持している。
ハウジング1のセグメント1bは、半径方向の先端の縁面に形成した縦スリット1c内に、ローター2の外周面に摺接する縦シール1dを保持している。なお、上記各シール2f、2h、2j、1dはそれぞれポリマー等の弾性材料によって形成されている。
ハウジング1内においてローター2は、ベーン2dの上部横シール2fおよび下部横シール2hがそれぞれトップカバー3の裏面およびハウジング1の内底面に摺接し、同縦シール2jがハウジング1の内周面に摺接し、ローター2の外周面がハウジング1のセグメント1bの縦シール1dに摺接する状態で回転する。これにより、ローター2の外側周囲に形成された油室用空間5がベーン2dとセグメント1bとによって作動油室5a、5b、5c、5dに区画される。
トップカバー3は、ローター2の上部端面の外周円環面に対向する裏面部位に上部リングスリット3aがトップカバー全周にわたって形成してあり、上部リングスリット3a内に環状の上部リングシール3bを保持している。
また、ハウジング1は、ローター2の下部端面の外周円環面に対向する内底面部位にハウジング全周にわたって形成した下部リングスリット1eを有し、下部リングスリット1eの内部に環状の下部リングシール1fを保持している。上部リングシール3bおよび下部リングシール1fはそれぞれポリマー等の弾性材料によって形成されている。
なお、上部リングシール3bおよび下部リングシール1fの製造公差は、上部リングシール3bおよび下部リングシール1fの内径寸法が上部リングスリット3aおよび下部リングスリット1eの内径寸法よりも小さいか、あるいは等しくなるように規定されている。このため、上部リングシール3bおよび下部リングシール1fを上部リングスリット3aおよび下部リングスリット1eの内部に装着すると、上部リングシール3bおよび下部リングシール1fは、その内周側面で上部リングスリット3aおよび下部リングスリット1eの内周側面に当接して拡張された状態で初期装着される。
図12、図15に示すように、上部リングシール3bは、リングシール面3cがローター2の上部端面の半径方向端縁部と全周にわたって接触するとともに、リングシール面3cの外周縁部3dがベーン2dの上部横シール2fの内周側上端縁2k(図12参照)とセグメント1bの縦シール1dの内周側上端縁1h(図12参照)とにそれぞれ接触している。
また、下部リングシール1fは、上部リングシール3bと同様に、リングシール面1gがローター2の下部端面の半径方向端縁部と全周にわたって接触するとともに、リングシール面1gの外周縁部1iがベーン2dの下部横シール2hの内周側下端縁2m(図10参照)とセグメント1bの縦シール1dの内周側下端縁1j(図10参照)とにそれぞれ接触している。
これらにより、各作動油室5a、5b、5c、5dの圧油が、ローター2の上部端面とトップカバー3との間の微小な間隙を通って、また、上部リングスリット3aおよび下部リングスリット1eのそれぞれ外周側面を通って、あるいは、ベーン2の上部横シール2fおよび下部横シール2hの上下の各内周端縁部2k、2m、およびセグメント1bの縦シール1dの上下の各内周端縁部1h、1jを通って、高圧側となる作動油室から低圧側となる隣接する作動油室に漏洩することを防ぐとともに、大気に通ずるローター軸部2a、2bへ漏出することを防いでいる。
ローター2の回転軸心に対して対極の位置にある作動油室5a、5c同士、および作動油室5b、5d同士はそれぞれ連通している。例えば作動油室5aに油圧ポンプから圧油が供給されると、対極の位置にある作動油室5cにも同時に圧油が供給されるとともに、残りの作動油室5b、5dからは油が排出されて油圧ポンプ側に戻される。これにより、圧油によるローター2の回転が成立する。
なお、ローター2には上部リングシール3bの位置よりも内側の上部端面と下部リングシール1fの位置よりも内側の下部端面とを連通するバランス孔2xが設けられており、バランス孔2xを介して上部端面への漏洩油圧と下部端面への漏洩油圧とを均圧化することにより、差圧による不均等な力がローター2に軸心方向へ作用することを防いでいる。
上記の各シールの断面形状については、ローター2のベーン2dの上部横シール2f、下部横シール2h、縦シール2j、およびハウジング1のセグメント1bの縦シール1dは図14に示すようなものであり、ハウジング1の下部リングシール1fおよびトップカバー3の上部リングシール3bは図15に示すようなものである。いずれも、接触摺動する相手面との間のシーリング効果を高めるために、各シール2f、2h、2j、1d、1f、3bのそれぞれの背面2n、2o、2p、1k、1m、3eに、高圧側となる作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)から圧油を導いて、この油圧によりそれぞれのシール面2q、2r、2s、1n、1g、3cをそれぞれ相手面に押し付けるようにしている。
そして、これら各シール2f、2h、2j、1d、1f、3bの背面2n、2o、2p、1k、1m、3eに導いた圧油が各スリット2e、2g、2i、1c、1e、3aの側面を通って低圧側に漏洩しないようにするために、各シール2f、2h、2j、1d、1f、3bのそれぞれの背面2n、2o、2p、1k、1m、3eの側に、リップ部2t、2u、2v、1p、1q、3fを有している。
高圧側となる作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)から圧油を各シール2f、2h、2j、1d、1f、3bの背面2n、2o、2p、1k、1m、3eに導く手段として以下の構成を有している。
各ベーン2dの縦シール2j、および上部横シール2fおよび下部横シール2hに対しては以下のものを有している。図12に示すように、各ベーン2dを貫通する各油室連通孔2wにそれぞれ圧力バルブ6が装着してあり、いずれか高圧側となった作動油室の圧油が圧力バルブ6を通って各ベーン2dの各縦シール2jの背面2pに通じる。そして、縦シール2jの背面2pの両リップ部2vの間の空間が上部横シール2fおよび下部横シール2hの各背面2n、2oにおける各両リップ部2t、2uの間の空間と連通していることにより、上記圧油が縦シール2jの背面2pを通って、上部横シール2fおよび下部横シール2hの各背面2n、2oにも作用する。
各セグメント1bの縦シール1dに対しては、以下のものを有している。図12に示すように、ベーン2dと同様に、各セグメント1bを貫通する各油室連通孔1rにそれぞれ圧力バルブ6が装着されており、いずれか高圧側となった作動油室の圧油が圧力バルブ6を通って各セグメント1bの縦シール1dの背面1kに導かれている。
上部および下部リングシール3b、1fに対しては、以下のものを有している。図12に示すように、セグメント1bの縦シール1dの背面1kの上端部から上部リングシール3bの背面3e(図15参照)に通じる油路3gがトップカバー3に穿孔されている。また、上記セグメント縦シール1dの背面1kの下端部から下部リングシール1fの背面1m(図15参照)に通じる油路1sがハウジング1の底部に穿孔されている。これによって、高圧側となる作動油室5a〜5dからの圧油を、セグメント1bの縦シール1dの背面1kを通して、上部および下部リングシール3b、ifの各背面3e、1mに作用させている。
なお、作動油室5a、5b、5c、5dから各シール2f、2h、2j、1d、1f、3bの背面2n、2o、2p、1k、1m、3eに導かれる圧油の圧力が低いときにも、各シール2f、2h、2j、1d、1f、3bのシール面2q、2r、2s、1n、1g、3cにおけるシーリング面圧を確保する手段として以下の構成を有している。
ベーン2dの縦シール2jおよびセグメント1bの縦シール1dに対しては、以下のものを有している。縦シール2jの背面2pとベーン2dの縦スリット2iの底面との間に波板ばね(図示省略)を装着し、縦シール1dの背面1kとセグメント1bの縦スリット1cの底面との間に波板ばね(図示省略)を装着することによって、ベーン2dの縦シール2jおよびセグメント1bの縦シール1dの各シール面2s、1nに必要なシーリング面圧を与えるようにしている。
各ベーン2dの上部横シール2fおよび下部横シール2hに対しては、以下のものを有している。ベーン2dの縦シール2jを長手方向に若干圧縮して装着することにより、その弾性反発力を、ベーン2dの縦シール2jの上下端における上部横シール2fおよび下部横シール2hとの接合部を通して、上部横シール2fおよび下部横シール2hに与え、これにより、上部および下部横シール2f、2hの各シール面2q、2rに必要なシーリング面圧を与えるようにしている。
上部および下部リングシール3b、1fに対しては、以下のものを有している。各リングシール3b、1fの自由高さを、各リングスリット3a、1eの深さよりも若干大きいものにしておき、組み立てた状態で、上部リングシール3bおよび下部リングシール1fの各リップ部3f,1qが若干圧縮されることにより、その弾性反発力で上部リングシール3bおよび下部リングシール1fの各シール面3c、1gに必要なシーリング面圧を与えるようにしている。
上記した従来の構成において、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bは、従来、概して支障を来すことなく作動しているものである。しかしながら、若干数においては、破損あるいは破断して舵取機が作動不能に陥るという事故が発生していた。一旦かかる事故が発生すれば操船が不能となって安全上の問題があるばかりでなく、もしその事故が下部リングシール1fに発生するならば、その補修あるいは取替えのために船の稼働を中止して船を入渠させねばならず、甚大な損害が発生し得るという問題があった。
かかる破損あるいは破断したリングシールを点検すると以下のことが認められる。下部リングシール1fおよび上部リングシール3bは、本来、それぞれ下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3a内に不動に着装された状態で、それぞれシール面1g、3cにおいてローター2の下部端面および上部端面と摺接しているべきである。
しかしながら、下部リングシール1fあるいは上部リングシール3bが下部リングスリット1eあるいは上部リングスリット3a内で周方向に摺動して回った痕跡が共通して認められる。
舵取機の運転中、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bをそれぞれ下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3a内で周方向に摺動移動させる力が発生する要因としては以下のことが考えられる。
下部リングシール1fのシール面1gとローター2の下部端面との間の摺動摩擦力や上部リングシール3bのシール面3cとローター2の上部端面との間の摺動摩擦力が、何らかの原因によって、下部リングシール1fと下部リングスリット1eとの間の静止摩擦力や上部リングシール3bと上部リングスリット3aとの間の静止摩擦力よりも大きくなったからであると考えられる。
しかも、この現象は、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの全周において一様に発生するものでなく、先に背景技術の項において説明した下部リングシール1fおよび上部リングシール3bに作用する外力の性質に鑑みて、局所的に発生すると考えられる。
下部リングシール1fおよび上部リングシール3bに作用する作用力には以下のものがある。一つの作用力は、作動油室5a〜5dのうち高圧側となった作動油室(5aと5c、あるいは5bと5d)に面する下部リングシール1fおよび上部リングシール3bのそれぞれのシール面1g、3cの外周縁部1i、3dに作用する油圧力である。
他の一つの作用力は、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bのそれぞれの背面1m、3eと両側のリップ部1q、3fとの間の全周にわたる空間に、高圧側となる作動油室(5aと5c、あるいは5bと5d)から導入された高圧作動油が及ぼす力である。
すなわち、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの各シール面1g、3cをそれぞれローター2の下部端面および上部端面に全周にわたって押し付ける力と、それぞれの両側のリップ部1q、3fを下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3aの内周側および外周側の両側面に全周にわたって押し付ける力である。
他の一つの作用力は、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bを下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3a内へ装着するのに際して、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bが、その内周側面で下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3aの内周側面と接触して拡張された状態で初期装着されることに起因して、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの内周側面に作用する均等でない引張力である。
他の一つの作用力は、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bをそれぞれ下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3a内に上下方向に圧縮して装着することによる全周にわたる弾性反発力である。
これらの作用力は下部リングシール1fおよび上部リングシール3bに対して周方向に均等な内部応力が生じることを阻害する。そのために下部リングシール1fおよび上部リングシール3bは、その周方向において変化する応力分布を伴って下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3a内に収まり、不安定な状態で作動するという事態を避けられなかった。
そして、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bは、上記のそれぞれの作用力が作用する部位において、それぞれ接触する相手部位との間に静的摩擦力あるいは動的摩擦力を発生している。
しかも、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bは高分子材料であることから、金属材料に比べて製造公差が大きく、また作動温度の上昇による熱膨張が大きいものであり、これらの因子も下部リングシール1fと上部リングシール3bの内部応力およびその分布に大きい影響を与え、また下部リングシール1fと下部リングスリット1eの間の周方向の摩擦力、および上部リングシール3bと上部リングスリット3aの間の周方向の摩擦力に大きい影響を与える。
このため、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bを、一様な摩擦力および内部応力をもって下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3a内に収めて作動させるということは極めて困難である。
上記したような諸要因によって、下部リングシール1fと下部リングスリット1eの間、および上部リングシール3bと上部リングスリット3aの間には、局所的に大きな摩擦力が発生する部位と小さな摩擦力が発生する部位とが混在して現出すると考えられる。
そして、ローター2が作動するのに際して、下部リングシール1fもしくは上部リングシール3bに作用するこれらの摩擦力の総計よりも、下部リングシール1fのシール面1gとローター2の下部端面との間の摺動摩擦力もしくは上部リングシール3bの各シール面3cとローター2の上部端面との間の摺動摩擦力のほうが大きくなるような条件が発生したときは、下部リングシール1fがそのシール面1gでローター2の下部端面にくっ付いた状態で下部リングスリット1e内で相対的に摺動移動し、あるいは上部リングシール3bがそのシール面3cでローター2の上部端面にくっ付いた状態で上部リングスリット3a内で相対的に摺動移動することになる。
このような下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの摺動移動は、摩擦力の大きい部位において局所的に摩擦熱を発生して、高分子材料である下部リングシール1fおよび上部リングシール3bに熱性劣化をもたらす。さらに、上記の摺動移動は、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bにおいて、強く抵抗する部位と抵抗の弱い部位との間に局所的に引張あるいは圧縮を生み出す。そして、局所的な引張あるいは圧縮を繰り返すことにより、熱性劣化とも相俟って、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bが破損あるいは破断に至るものと考えられる。
下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの設計に当っては、上記したような様々な因子が考慮される。しかしながら、金属材料の場合とは違って、高分子材料である場合にはいずれの因子も非常に複雑な内容を含んでおり、特に、これらの因子が複合的に作用するときの影響については解明が非常に困難である。そのため、偶発的に悪条件が重なったときに限り、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの破損あるいは破断が発生すると考えられる。
さらに、ローター2のベーン2dの縦シール2j、上部横シール2f、下部横シール2hおよびハウジング1のセグメント1bの縦シール1d等のような直線シールの場合は、それぞれのシール面2s、2f、2h、1nが縁部で作動油に接触した状態で作動油の中に突入するように絶対運動あるいは相対運動するので、各シール面2s、2f、2h、1nには作動油が進入して潤滑作用が行なわれる。
これに対して、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bのそれぞれのシール面1g、3cにおいては、その縁部が作動油の中に突入するような運動がないので、シール面1g、3cに作動油が進入しにくく、潤滑油膜を形成し難く、結果として摺動摩擦力が大きくなり易い。
このことが、下部リングシール1fが下部リングスリット1e内で相対的に摺動移動すること、および上部リングシール3bが上部リングスリット3a内で相対的に摺動移動することを促進するという問題があった。また、それぞれのシール面1g、3cにおける摺動摩擦熱の発生を大きくさせて、シール面1g、3cにおける材料劣化と摩擦を引き起こし易くなるという問題があった。
さらに、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bは、上下方向に若干圧縮変形させた状態で舵取機に組み入れることで、弾性反発力をシール面1g、3cに与えるようにしており、作動油室5a、5b、5c、5dから下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの背面1m、3eに導入された作動油の圧力が低い時にも、各シール面1g、3cに必要なシーリング面圧を与えることができる。
しかし、下部リングシール1fおよび上部リングシール3bの上下方向の圧縮は、その最も変形しやすい各リップ部1q、3fで変形に因るしわを生ぜしめることになるので、リップ部1q、3fのシーリング機能が若干犠牲になる恐れがあるという問題があった。
また、セグメント1bの縦シール1dは、背面1kと縦スリット1cの底面との問に波板ばねを装着することで、背面1kに作用する作動油の油圧が低い時でも、シール面1nに必要なシーリング面圧を与えることができる。
しかし、縦シール1dの背面1kと縦スリット1cの底面との間のギャップが小さいために、必然的にばね常数の大きい波板ばねを使用しなければならず、従って、シール面1nの摩耗に対するばね力の低下の影響が大きいという問題があった。
本発明は上記した課題を解決するものであり、材料劣化を促進する摩擦熱を発生することがなく、破断あるいは破損の原因となる引張応力は生じず、シール面の摩耗によるシーリング面圧の低下の影響が小さくなるロータリーベーン式舵取機のシール装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置は、舵軸に嵌合装着するローターと、ローターを収納してローターの周囲に油室用空間を形成するハウジングと、ハウジングの上部開口に配置するトップカバーとを有するロータリーベーン式舵取機において、ローターの下部端面に対向するハウジングの内底面に円環状の下部リングスリットを有し、ローターの上部端面に対向するトップカバーの裏面に円環状の上部リングスリットを有し、下部リングスリットおよび上部リングスリット内の複数箇所のそれぞれに油密に固装した円弧状の隔溝金具を有し、各隔溝金具は頂面がハウジングの内底面またはトップカバーの裏面と同一レベルにあり、下部リングスリット内および上部リングスリット内の各隔溝金具で隔てられた複数のシール収納空間のそれぞれに挿入した複数の下部リングシール片および上部リングシール片を有し、下部リングシール片および上部リングシール片は、シール収納空間と同じ水平面輪郭をなし、その製造公差において、円弧方向の両端面のそれぞれが隔溝金具と密着し、下部リングシール片の外周側の側面が下部リングスリットの外周側の側面と密着し、上部リングシール片の外周側の側面が上部リングスリットの外周側の側面と密着する状態を保障し、下部リングシール片がローターの下部端面の外周円環面に摺接するとともに、上部リングシール片がローターの上部端面の外周円環面に摺接することを特徴とする。
上記した構成により、下部リングシール片および上部リングシール片に、その如何なる部位に如何なる外力が作用しようとも、その強さが変化しようとも、下部リングシール片および上部リングシール片が下部リングスリット内もしくは上部リングスリット内で周方向に揺動して移動させられることがない。
すなわち、ローターの下部端面および上部端面の回転によってシール面に生じる摺動摩擦力、高圧側となった作動油室から下部リングシール片および上部リングシール片にそれぞれ導かれた圧油が下部リングシール片および上部リングシール片の各シール面および各リップ部に及ぼす力、下部リングシール片および上部リングシール片の各外周側縁部において高圧側となった作動油室に対向する縁部に作用する作動油室の油圧力、下部リングシール片および上部リングシール片のそれぞれを下部リングスリットもしくは上部リングスリットへ初期弾性圧縮装着する際の反発力などが作用しても、下部リングシール片および上部リングシール片が下部リングスリット内もしくは上部リングスリット内で周方向に揺動して移動させられることがない。
さらに、下部リングシール片および上部リングシール片が高分子材料であることで製造寸法公差が大きくなることにより、下部リングシール片および上部リングシール片を下部リングスリット内もしくは上部リングスリット内へ装着するのに伴って発生する諸力のばらつき、また、熱膨張係数が大きいことで作動中の温度上昇に起因して下部リングシール片と下部リングスリットの間、および上部リングシール片と下部リングスリットの間に発生する諸力の大きさの変化、などの要因が発生しても、下部リングシール片および上部リングシール片が下部リングスリット内もしくは上部リングスリット内で周方向に揺動して移動させられることがない。
従って、摺動移動摩擦力とその摩擦力の局所的存在によって発生する下部リングシール片および上部リングシール片の過度の温度上昇、および引張と圧縮に因る内部応力の繰返し発生がなくなり、これらに起因する下部リングシール片および上部リングシール片の破損あるいは破断が皆無になる。
さらに、下部リングシール片および上部リングシール片のそれぞれ内周側の側面には、高圧側となった作動油室から導かれた圧油が作用するので、下部リングシール片および上部リングシール片はそれぞれの外周側の側面が下部リングスリットもしくは上部リングスリットの外周側の側面に押し付けられる。
従って、高圧側の作動油室の圧油が下部リングスリットと下部リングシール片との間、および上部リングスリットと上部リングシール片との間を通って低圧側の作動油室に漏洩することを確実に防ぐことができる。
本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置において、隔溝金具は、円弧方向の両端面が舵軸の軸心と隔溝金具の周方向中心とを通る鉛直面に対して所定角度に傾斜する鉛直面をなし、かつ頂面がハウジングの内底面またはトップカバーの裏面と同一レベルにあることを特徴とする。
上記した構成により、下部リングシール片の内周側の側面に作用する高圧作動油室からの圧油による力、および上部リングシール片の内周側の側面に作用する高圧作動油室からの圧油による力は、下部リングシール片および上部リングシール片の両端部が傾斜した端面で隔溝金具と接触することで、下部リングシール片および上部リングシール片の各端面を隔溝金具の面に向けて押し付ける方向に分力を発生させる。
従って、下部リングシール片および上部リングシール片の両端部と各隔溝金具との間の接触が密となって、この部分を通って高圧作動油が低圧作動油室へ漏洩することを十分に防止できる。
本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置において、下部リングシール片および上部リングシール片は、下部リングシール片を下部リングスリット内に装着し、上部リングシール片を上部リングスリット内に装着した自由状態において下部リングスリットおよび上部リングスリットから所定量だけ高さ方向へ突出し、かつローターおよびトップカバーを組み付けたときに所定量だけ圧縮される全高を有し、下部リングシール片および上部リングシール片は、シール面と反対側の背面における外周端と内周端とに、それぞれ外周側リップと内周側リップとを有し、外周側リップと内周側リップは、下部リングスリットおよび上部リングスリットの底面に対向して突出し、かつ自由状態において先端部が下部リングスリットおよび上部リングスリットの幅よりも少なくとも外周側へ所定量張り出したことを特徴とする。
上記した構成により、下部リングシール片および上部リングシール片には、各リップの圧縮変形からの反発力により、下部リングシール片および上部リングシール片の各背面に作用する作動油の油圧が低いときでも、各シール面とそれぞれローターの下部端面および上部端面との間の必要最低限のシーリング面圧を与えることができる。
また、下部リングシール片および上部リングシール片の各背面に導かれた作動油が下部リングシール片の外周側面と下部リングスリットの外周側面との間の間隙を通って、また、上部リングシール片の外周側面と上部リングスリットの外周側面との間の間隙を通って低圧側の作動油室に漏洩することが防がれる。
本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置において、下部リングシール片および上部リングシール片は各シール面の裏側となる背面に接着した圧縮受容体を円弧方向の全長に亘って有し、圧縮受容体は、その軸心と直角をなす横断面が山形をなして所定の弾性常数を有する弾性材よりなり、かつ内周側と外周側との間を貫通する油連通孔を有し、下部リングシール片および上部リングシール片が装着された状態において、圧縮受容体が上下方向に圧縮変形して、その反発力により下部リングシール片および上部リングシール片の各シール面に所定の初期シーリング面圧を与えることを特徴とする。
上記した構成により、舵取機の組立において、下部リングシール片および上部リングシール片をそれぞれ下部リングスリットおよび上部リングスリットに挿入し、下部リングシール片および上部リングシール片のそれぞれの圧縮受容体が先端で下部リングスリットおよび上部リングスリットの各底面に接触した状態で、下部リングシール片および上部リングシール片の各シール面をローターの下部端面および上部端面により押し付ける。このように、下部リングシール片および上部リングシール片は、それぞれの圧縮受容体を圧縮変形させた状態で、下部リングスリット内もしくは上部リングスリット内に装着される。
この圧縮受容体の圧縮変形による反発力が、下部リングシール片および上部リングシール片の背面に作用する作動油の油圧が低いときでも、下部リングシール片および上部リングシール片の各シール面とそれぞれローターの下部端面および上部端面との問の必要最低限のシーリング面圧を与える。
而して、圧縮受容体の圧縮歪み対反発力特性を、歪み変化に対して反発力変化が小さいものにすることによって、下部リングシール片および上部リングシール片の各シール面の摩耗によっても、下部リングシール片および上部リングシール片の各シール面とそれぞれローターの下部端面および上部端面との間のシーリング面圧の低下の割合を小さくすることができる。
下部リングシール片および上部リングシール片の各リップは先端が下部リングスリットおよび上部リングスリットの各底面に達せず、従って、各リップは圧縮変形を受けないので、変形によるリップのシーリング性能の低下を防ぐことができる。
本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置において、ローターは外周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のベーンを有し、ハウジングは内周面の周方向に沿った等間隔の位置に複数のセグメントを有し、ベーンとセグメントとによって前記油室用空間を複数の作動油室に区画し、各ベーンはトップカバーの裏面に対向する上端面に形成した上部横スリットと、ハウジングの内底面に対向する下端面に形成した下部横スリットと、半径方向先端面に形成した縦スリットを有し、上部横スリットに挿入した上部横シールがトップカバーの裏面に摺接し、下部横スリットに挿入した下部横シールがハウジングの内底面に摺接し、縦スリットに挿入した縦シールがハウジングの内周面に摺接し、セグメントの半径方向先端面に設けた縦シールがローターの外周面に摺接し、下部リングシール片が外周縁部においてベーンの下部横シールとセグメントの縦シールの双方の内周側下端縁に接触し、上部リングシール片が外周縁部においてベーンの上部横シールとセグメントの縦シールの双方の内周側上端縁に接触し、ハウジングの各セグメントは、その半径方向先端面に、ローターの外周面に対向するように左縦スリットおよび右縦スリットを有し、左縦スリットおよび右縦スリットのそれぞれにローターの外周面に摺接する左縦シールおよび右縦シールを挿入してなり、左縦シールは、シール面の上端縁が隔溝金具との接触側の端部で上部リングシール片のシール面における外周側端縁の一方の端部と所定弦長にわたって弾性圧縮接触するとともに、シール面の下端縁が隔溝金具との接触側の端部で下部リングシール片のシール面における外周側端縁の一方の端部と所定弦長にわたって弾性圧縮接触し、右縦シールは、シール面の上端縁が隔溝金具と上部リングシール片の他方の端部とにわたって弾性圧縮接触するとともに、シール面の下端縁が隔溝金具との接触側の端部において下部リングシール片の他方の端部と所定弦長にわたって弾性圧縮接触し、各左右縦シールは、それぞれシール面と反対側の背面において、高圧側となる作動油室から導いた圧油を左右縦スリットの側面に対して油密に保持し得るリップを両側端部に有することを特徴とする。
上記した構成により、一方のロータリーベーンと一方のセグメントとによって区画される作動油室において、一方のロータリーベーンの上部横シール、下部横シールおよび縦シールと、一方のセグメントの左縦シールと、一方の下部リングシール片と、一方の上部リングシール片とによって、その作動油室は油密が確保される。
また、一方のセグメントと他方のロータリーベーンとによって区画される作動油室において、他方のロータリーベーンの上部横シール、下部横シールおよび縦シールと、一方のセグメントの右縦シールと、他方の下部リングシール片と、他方の上部リングシール片とによって、その作動油室は油密が確保される。他の二つの作動油室においても同様に油密が確保される。
本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置において、セグメントの左縦スリットは、セグメントの周方向中心側の側面に半径方向へ穿った左第一油溝を有し、底面に穿った左第二油溝を有し、セグメントの右縦スリットは、セグメントの周方向中心側の側面に半径方向に穿った右第一油溝を有し、底面に周方向へ穿った右第二油溝を有し、左第一油溝および右第一油溝は、それぞれ左第二油溝もしくは右第二油溝に連通し、左第二油溝および右第二油溝は、それぞれ左縦シールもしくは右縦シールの両リップ間の空間に連通することを特徴とする。
上記した構成により、セグメントの左縦スリットの内側側面の左第一油溝に入った圧油は左縦シールの外側側面を左縦スリットの外側側面に押し付ける力として作用し、また、セグメントの右縦スリットの内側側面の右第一油溝に入った圧油は右縦シールの外側側面を右縦スリットの外側側面に押し付ける力として作用する。よって、高圧側の作動油室の圧油、および、高圧側の作動油室から左縦シールおよび右縦シールの各背面に導かれた圧油が、左縦スリットおよび右縦スリットの各外側面を通って隣接する低圧側の作動油室に漏洩することを防ぐことができる。
この場合、下部リングシール片および上部リングシール片の内周側の側面に高圧側となる作動油室から導かれた圧油は、下部リングシール片に対しては隔溝金具の上面の隙間を通って、あるいは上部リングシール片に対しては隔溝金具の下面の隙間を通って、それぞれ油溝を経由して、セグメントの左縦シールおよび右縦シールの背面に入る。
そして、この圧油は、左縦シールおよび右縦シールをそれぞれローターの外周面に摺接させる力を増強させるとともに、各シール面の下端縁においては下部リングシール片の外周側上端縁との接触の力、および各シール面の上端縁においては上部リングシール片の外周側下端縁とのそれぞれの接触の力を増強させる。
本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置において、左縦シールおよび右縦シールは、各シール面の裏側となる背面に接着した圧縮受容体を全長に亘って有し、圧縮受容体は、その軸心と直角をなす横断面が山形をなして所定の弾性常数を有する弾性材よりなり、左縦シールおよび右縦シールが装着された状態において、圧縮受容体が圧縮変形して、その反発力により左縦シールおよび右縦シールの各シール面に所定の初期シーリング面圧を与えることを特徴とする。
上記した構成により、圧縮受容体の弾性反発力が、左および右縦シールの各シール面とローターの周面との間の必要最低限のシーリング面圧を与えることになる。
而して、従来は、セグメントの縦シールのシール面に必要最低限のシーリング面圧を与えるために縦シールの背面に挿入する板ばねを必要とし、縦シール背面と縦スリット底面との間のギャップが小さいことにより、板ばねにばね常数の大きいものを使用せざるを得ず、縦シールのシール面の摩耗に対するばね力の低下の度合が大きいものであるが、本発明では、圧縮受容体の圧縮歪み対反発力特性を、歪み変化に対して反発力変化が小さいものにすることによって、セグメント縦シールのシール面の摩耗によっても、縦シールのシール面とローター周面との間のシーリング面圧の低下を緩やかなものにすることができる。
本発明のロータリーベーン式舵取機のシール装置において、ローターは、ローターの下部端面に所定数の下部潤滑油溝をローター回転範囲に応じて穿つとともに、下部潤滑油溝のそれぞれを連通する半径方向の下部連通油溝を穿ち、下部潤滑油溝が下部リングシール片のシール面中心線に対向し、かつ周方向に所定の長さを有し、下部連通油溝がローター下部端面とハウジング内底面との間の間隙と連通し、ローターの上部端面に所定数の上部潤滑油溝をローター回転範囲に応じて穿つとともに、上部潤滑油溝のそれぞれを連通する半径方向の上部連通油溝を穿ち、上部潤滑油溝が上部リングシール片のシール面中心線に対向し、かつ周方向に所定の長さを有し、上部連通油溝がローター上部端面とトップカバー裏面との間の間隙と連通することを特徴とする。
上記した構成により、下部リングシール片のシール面には下部潤滑油溝を通じて、上部リングシール片のシール面には上部潤滑油溝を通じてそれぞれ作動油が導入されることによって、下部リングシール片のシール面および上部リングシール片のシール面の潤滑を確保することができる。
以上のように本発明によると、下部リングシール片および上部リングシール片が各隔溝金具で仕切られた下部リングスリットもしくは上部リングスリットの空間内に挿着され、各隔溝金具はその周方向両端面において下部リングシール片および上部リングシール片を受け止めることで、下部リングシール片および上部リングシール片がそれぞれ下部リングスリットもしくは上部リングスリットに対して周方向へ相対運動することを抑制する。
さらに、隔溝金具は内周側の弧が外周側の弧よりも小さくて、かつ円弧方向の両端面が傾斜した鉛直面をなし、その両端面において下部リングシール片および上部リングシール片に当接すること、下部リングシール片および上部リングシール片は、製造公差を含む外径寸法として下部リングスリットもしくは上部リングスリットの外径に対して正となる寸法を有すること、下部リングシール片および上部リングシール片の内側周面には作動油室からの油圧が掛かるようにしたことにより、下部リングシール片および上部リングシール片に如何なる外力が作用しても、あるいは熱膨張に起因する力が下部リングシール片および上部リングシール片に作用しても、下部リングシール片および上部リングシール片がそれぞれ下部リングスリットもしくは上部リングスリットに対して周方向へ相対運動することがない。
従って、摩擦熱を発生することがないので材料劣化の進行を避けることができ、その結果、下部リングシール片の外側周面と下部リングスリットの外側壁面との間の油密、上部リングシール片の外側周面と上部リングスリットの外側壁面との間の油密が保たれ、下部リングシール片および上部リングシール片の内周側面を押す作動油の油圧力が下部リングシール片および上部リングシール片の端面を各隔溝金具の端面に押し付ける分力を発生することによりリングシール片の両端面と隔溝金具との間の油密が常に保たれる。さらに、下部リングシール片および上部リングシール片は、如何なる作動状態においても、引張応力が生じず、常に、許容限度内の圧縮応力のみが作用するので、破断あるいは破損することがない。
また、下部リングシール片、上部リングシール片、および縦シールは、それぞれのシール面に必要な初期シーリング面圧を与える手段として、それぞれの背面に所定の弾性常数を有する圧縮受容体を接着するようにしたことにより、シーリング機能を犠牲にするかも知れないような圧縮変形をリップに与える必要がなくなり、また、シール面の摩耗により初期シーリング面圧が急激に低下する波板ばねの構成に比べて初期シーリング面圧が急激に低下することがない。
また、下部リングシール片および上部リングシール片のそれぞれのシール面は、作動油による潤滑が行なわれるようにして摺動摩擦力を減少させたことにより、摺動摩擦熱による材料劣化を生じることがなく、摩擦が減少することで摺動摩擦力による下部リングシール片および上部リングシール片の不均等な内部応力の発生を抑制することができる。
以下、本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。なお、先に図11〜図15において説明した従来のものと基本的に同様の作用を行う部材については、同一番号を付してその説明を省略する。
図5に示すように、ハウジング1はローター2の下部端面の外周円環面に対向する部位に下部リングスリット1eが形成されており、トップカバー3はローター2の上部端面の外周円環面に対向する部位に上部リングスリット3aが形成されている。
図1に示すように、下部リングスリット1e内には、複数(1〜n、nはベーン2dの数であり、本実施の形態においてはn=2の場合について説明する。以下同じ)の円弧状の隔溝金具11、12が取り付けてある。
図3〜図4に示すように、各隔溝金具11、12は、それぞれの円弧方向中心がセグメント1bの周方向中心と一致する位置に、かつ下部リングスリット1eと接触する底面および内外周面において油密に配置し、リーマーボルト11a、12aなどを用いて固装している。また、上部リングスリット3a内には、複数(ここでは2個)の隔溝金具13、14が取り付けてあり、各隔溝金具13、14は下部リングスリット1eの隔溝金具11、12と同様にして油密に固装しており、下部リングスリット1eの隔溝金具11、12と上部リングスリット3aの隔溝金具13、14とを上下対称位置に設けている。
かくて、図1に示すように、下部リングスリット1eは隔溝金具11、12によって2個の下部リングスリット隔空間15a、15bに区分されており、上部リングスリット3aは隔溝金具13、14によって2個の上部リングスリット隔空間18a、18bに区分されている。
隔溝金具11、12、13、14の構成は全く同じであり、以下においては代表的に隔溝金具11のみについて説明するが、他の隔溝金具12、13、14においても同様の構成である。
図3〜図4に示すように、下部リングスリット1eの隔溝金具11は、その円弧方向の両端面11b、11cがそれぞれ鉛直面をなし、かつ舵軸7の軸心と隔溝金具11の周方向中心を通る鉛直面に対して所定角度傾斜している。
図1に示すように、隔溝金具11、12で隔てられた下部リングスリット1eの2個の下部リングスリット隔空間15a、15bには、下部リングスリット隔空間15a、15bと同じ水平面輪郭を有する下部リングシール片16、17(図2参照)をそれぞれ挿入している。同様に、上部リングスリット3aにおいても、二つの隔溝金具13、14で隔てられた二つの上部リングスリット隔空間18a、18bに、上部リングスリット隔空間18a、18bと同じ水平面輪郭を有する上部リングシール片19、20をそれぞれ挿入している。
図5に示すように、上部リングスリット3aはその各上部リングスリット隔空間18a、18bに対応する内周側の側面3hの所定位置に適当数の垂直油溝3iを設けており、垂直油溝3iにそれぞれ連通する水平油溝3jを各上部リングスリット隔空間18a、18bの底面に、その半径方向ほぼ中央に至るまで設けている。下部リングスリット1eにおいても同様に、下部リングスリット隔空間15a、15bの各部位には、その内周側の側面1tに適当数の垂直油溝1uを設けており、垂直油溝1uにそれぞれ連通する水平油溝1vを各下部リングスリット隔空間15a、15bの底面に、その半径方向ほぼ中央に至るまで設けている。
各下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20は、半円弧状をなして同一の形状、寸法であり、以下においては代表的に下部リングシール片16の横断面の形状について説明するが、他のものにおいても同様の構成である。
図5に示すように、下部リングシール片16はシール面16aと反対側の背面16bにおいてその外周端16cと内周端16dとに、それぞれ外周側リップ16eと内周側リップ16fを設けており、外周側リップ16eと内周側リップ16fはそれぞれ下部リングスリット1eの底面に対向して突出している。
外周側リップ16eはその自由状態において外周側先端部16gが半径方向外周側に下部リングスリット1eの幅よりも所定量張り出しており、内周側リップ16fはその自由状態において内周側先端部16hが半径方向内周側に下部リングスリット1eの幅よりも所定量張り出している。
そして、下部リングシール片16は下部リングスリット1e内に装着した状態で外周側リップ16eの先端部16gと内周側リップ16fの先端部16hがそれぞれ下部リングスリット1eの両側面に自身の弾性力によって押し付けられる。
下部リングシール片16の自由状態における全高は、ローター2およびトップカバー3を組み付けたときに、下部リングシール片16が高さ方向に所定量だけ圧縮されるようなものとする。下部リングシール片16は、下部リングスリット1eの下部リングスリット隔空間15aに挿入した状態で、外周側の側面16jが下部リングスリット1eの外周側の側面と密着し、図3および図4に示すように、円弧方向の両端面16k、16mが隔溝金具11の円弧方向の両端面11b、11cとそれぞれ密着するものであり、この密着を保障する正の製造公差を有している。
図5に示すように、外周側リップ16eと内周側リップ16fとの間の空間16o、および、下部リングシール片16の内周側の側面16iには、高圧側となった作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)からの作動油を垂直油溝3iおよび水平油溝3jを通して導く。そのための一実施例を次に説明する。
図6に示すように、防衝弁8は、いずれか高圧側となった作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)の油圧が衝撃などにより異常に高くなったときに、高圧側の作動油室の作動油を低圧側の作動油室に逃がすために設けられており、この防衝弁8のラインに圧力バルブ25を付加する。この圧力バルブ25によって、いずれか高圧側となった作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)の油圧(作動油)を取り出す。
図6に示すように、その取出口25aはトップカバー3に穿孔した油路3kに接続しており、図5に示すように、この油路3kはローター2の上部端面の、バランス孔2xの上部開口に連通する上部リング溝2yに開口する。上部リング溝2yは、ローター2の上部端面とトップカバー3の裏面との間の間隙S1を通って、上部リングスリット3aの垂直油溝3i、ひいては水平油溝3jに連通する。ローター2の下部端面にはバランス孔2xに連通する下部リング溝2zを設けており、下部リング溝2zは下部リングスリット1eの垂直油溝1u、ひいては水平油溝1vに連通する。
図3〜図5に示すように、ハウジング1の各セグメント1bは、その半径方向の先端面に左縦スリット21および右縦スリット22を有しており、左縦スリット21および右縦スリット22はローター2の外周面に対向し、かつセグメント1bの縦中心に対して対称の位置に形成している。
左縦スリット21にはローター2の外周面に摺接する左縦シール23を挿入し、右縦スリット22にはローター2の外周面に摺接する右縦シール24を挿入している。この構成は、二つのセグメント1bに対して全く同様に設ける。
図5に示すように、左縦シール23は、そのシール面23aの下端縁23bが、隔溝金具11の一方の周方向端面11bとの接触側であるところの、一方の下部リングシール片16のシール面16aの外周側端縁16nと所定の弦長をもって弾性圧縮接触している。
また、左縦シール23は、そのシール面23aの上端縁23cが、隔溝金具13の一方の周方向端面13bとの接触側であるところの、一方の上部リングシール片19のシール面19aの外周側端縁19nと所定の弦長をもって弾性圧縮接触している。
図3に示すように、左縦スリット21は、セグメント1bの長手中心側の側面に半径方向に穿孔した半径方向油溝21bを有し、底面22aに周方向油溝21cを有している。 図3、図5に示すように、半径方向油溝21bは上端部において上部リングスリット3aの隔溝金具13(14)の頂面を通じて間隙S1に連通し、下端部において下部リングスリット1eの隔溝金具11(12)の頂面を通じて間隙S2に連通している。周方向油溝21cは半径方向油溝21bに連通し、左縦スリット21の幅方向中心にまで至る形状をなす。また、右縦スリット22および右縦シール24は、セグメント1bの周方向中心線に対して左縦スリット21および左縦シール23と対称をなして全く同じ構成を有し、左縦スリット21および左縦シール23の場合と同様に、半径方向油溝22bおよび周方向油溝22cを設けており、その詳しい説明を省略する。以下においては、左縦シール23についてのみ説明する。
図3〜図5に示すように、左縦シール23はシール面23aと反対側の背面23dの両側に長手方向に沿ってリップ23e、23fを設けており、リップ23e、23fはそれぞれ左縦スリット21の底面21aに対向して突出している。リップ23e、23fは、その自由状態において先端部23g、23hがそれぞれ外側へ左縦スリット21の幅よりも所定量張り出しており、左縦シール23を左縦スリット21内に装着した状態で、リップ先端部23g、23hがそれぞれ左縦スリット21の両側面に自身の弾性力によって押し付けられる。
左縦シール23は、その自由状態における長手方向の長さが左縦スリット21の長さよりも所定量だけ長いように製作されており、左縦シール23を左縦スリット21内に装着してトップカバー3をハウジング1に組み付けた状態で、左縦シール23の自由状態における前記所定量分が弾性圧縮されて、左縦シール23の下端面23iがハウジング1の内底面に油密に密着し、上端面23jがトップカバー3の裏面に油密に密着する。
なお、図示は省略するが、左シール23および右縦シール24の各背面23d、24dと、左縦スリット21および右縦スリット22の各底面21a、22aとの間にはそれぞれ波板ばねを装着しており、波板ばねは作動油室5a、5cあるいは5b、5dに油圧が存在しない時にも各シール面23a、24aとローター2の周面との間に必要なシーリング面圧を与え得るものである。
以下、上記した構成における作用を説明する。図3〜図5に示すように、下部リングスリット1eにおいて、各隔溝金具11、12をそれぞれ所定の位置にリーマーボルト11a、12a等の手段により固着せしめ、かつ各隔溝金具11、12と下部リングスリットおよび上部リングスリット1e、3aとの間の接触部を接着剤などにより油密の状態にする。また、上部リングスリット3aにおいては、各隔溝金具13、14を同じようにして固着する。
下部リングシール片16、17をそれぞれ下部リングスリット隔空間15a、15b内に挿入し、各上部リングシール片19、20をそれぞれ上部リングスリット隔空間18a、18b内に挿入する。各下部リングシール片16、17および各上部リングシール片19、20は同じ態様で装着されるので、以下においては下部リングシール片16についてのみ説明を行う。
下部リングスリット隔空間15a内へ装着する下部リングシール片16の設計上の数値および製造公差は、下部リングシール片16の外周側の側面16jが下部リングスリット1eの外周側の側面と少なくとも接触するか、あるいは、リングシール片16の円弧方向の弾性圧縮に起因する半径方向の反発力によりリングシール片16の外周側の側面16jが下部リングスリット1eの外周側の側面と密着することを保障するものである。
また、図1〜図4に示すように、下部リングシール片16は、一方の円弧方向端面16kと隔溝金具11の一方の円弧方向端面11bとが、また他方の円弧方向端面16mと隔溝金具12の一方の円弧方向端面12bとが少なくとも接触するか、あるいは下部リングシール片16の円弧方向の弾性圧縮による半径方向の反発力により密着するように形成する。
同様にして、他方の下部リングシール片17も他方の下部リングスリット隔空間15b内に装着し、上部リングスリット隔空間18a、18b内にも、それぞれ上部リングシール片19、20を装着する。
次に、図3〜図5に示すように、ハウジング1にローター2を組み付けた状態で、下部リングシール片16、17は、ローター2の下部端面がスラスト軸受4cに接するまで、ローター2の下部端面によって弾性圧縮されて押し下げられる。この弾性圧縮による反発力により、下部リングシール片16、17の各シール面16a、17aとローター2の下部端面との間に初期シーリング面圧が与えられる。
次に、ハウジング1の各セグメント1bの左縦スリット21に左縦シール23を挿入し、右縦スリット22に右縦シール24を挿入し、かつそれぞれの波板ばねを挿入する。これにより、左縦シール23および右縦シール24の各シール面23a、24aとローター2の外周面との間に初期シーリング面圧が与えられる。
しかる後に、各上部リングシール片19、20をトップカバー3の上部リングスリット3a内に装着し、このトップカバー3をハウジング1に組み付ける。この状態で、図5に示すように、上部リングシール片19、20は、トップカバー3の裏面がセグメント1b(ハウジング1)の頂面に接するまで、ローター2の上部端面によって押し下げられて弾性圧縮される。この弾性圧縮による反発力により、上部リングシール片19、20の各シール面19a、20aとローター2の上部端面との間に初期シーリング面圧が与えられる。
さらに、ハウジング1の各セグメント1bの左縦シール23および右縦シール24の上端部が各セグメント1bの頂面より突出している分量、すなわち自由状態において左縦スリット21および右縦スリット22の長さよりも所定量長く製作されていることから生じている分量が、トップカバー3のハウジング1への組み付けにより、トップカバー3の裏面によって押し下げられて、弾性圧縮される。この弾性圧縮による反発力により、左縦シール23および右縦シール24の下端面23i、24iとハウジング1の内底面との間の油密が確保される。同様にして、左縦シール23および右縦シール24の上端面においても、弾性圧縮によりトップカバー3の裏面との間の油密が確保される。
さらに、左縦シール23および右縦シール24の弾性圧縮による反発力は、図3および図5に示すように、左縦シール23および右縦シール24の各シール面23a、24aの下端縁23b、24bと、下部リングシール片16、17のそれぞれシール面16a、17aの外周側端縁16n、17nとの間の接触を初期的に密にする。また、上記反発力は左縦シール23および右縦シール24の上端部においても、左縦シール23および右縦シール24の各シール面23a、24aの上端縁と、上部リングシール片19、20のそれぞれシール面19a、20aの外周側端縁との間の接触を初期的に密にする。その結果、これら接触部を通って作動油室5a、5cと作動油室5b、5dとの間で作動油が連通することを防ぐ。
舵取機の作動において、一方の作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)の作動油が高圧になると、図6および図5に示すように、この高圧側となった作動油圧が圧力バルブ25によって取り出され、取出口25aからトップカバー3の油路3kを通じて、ローター2の上部端面の上部リング溝2yに入り、ローター2の上部端面とトップカバー3の裏面との間の間隙S1を経て上部リングスリット3aの垂直油溝3iに通じる。
これにより、上部リングシール片19、20には、内周側の側面19i、20iを半径方向で外周側に押す力が生じ、外周側の側面19j、20jと上部リングスリット3aの外周側の側面3mとの間の密着を増強する。作動油の油圧が高くなれば漏洩しやすくなるが、上記構成では油圧の上昇と共に前記密着性が高まる。この結果、高圧側となる作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)から低圧側となる作動油室(5b、5dあるいは5a、5c)への作動油の漏洩を確実に防ぐことができる。
なお、下部リングシール片16、17および上部リングシール片19、20の各円弧方向両端部において、各円弧方向端面と隔溝金具11、12、13、14の各円弧方向端面とのそれぞれの接触が傾斜面となっていることの作用は、各接触部において同様であるので、これを下部リングシール片16の一方の円弧方向端面16kについてのみ説明する。
図3および図5に示すように、下部リングシール片16の内周側の側面16iを半径方向の外周側に押す油圧力は、下部リングシール片16の円弧方向端面16kを隔溝金具11の円弧方向端面11bに押し付ける分力を発生する。
従って、この円弧方向端面部位の接触の密着性がより高くなり、作動油が高圧になっても、下部リングシール片16の背面16bに導かれた高圧の作動油がこの接触面を通って低圧側に漏洩することを十分に防止できる。
さらに、高圧の作動油は、図5に示すように、上部リングスリット3aの垂直油溝3iから水平油溝3jを通って、上部リングシール片19、20の背面19b、20bに作用する。この油圧力によって上部リングシール片19、20のシール面19a、20aとローター2の上部端面との間のシーリング面圧が高められると同時に、上部リングシール片19、20の外周側リップ19e、20eと上部リングスリット3aの外周側の側面3mとの接触が増強される。このため、上部リングシール片19、20の背面19b、20bに導かれた高圧の作動油がこの部分を通って低圧側に漏洩することを十分に防止できる。
さらに、上述した上部リングシール片19、20の内周側の側面19i、20iを半径方向の外周側に押す油圧力、および上部リングシール片19、20の背面19b、20bをシール面19a、20aに向かって押す油圧力は、上部リングシール片19、20のシール面19a、20aの外周側端縁19n、20nをセグメント1bの左および右縦シール23、24の各シール面23a、24aの上端縁23c、24cに押し付けて接触力を増強し、また、同外周側端縁19n、20nをベーン2dの上部横シール2fの内周側端縁2kに押し付けて接触力を増強する。
従って、これらの部位を通って高圧側の作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)の作動油が低圧側の作動油室(5b、5dあるいは5a、5c)に漏洩することが十分に防止できる。いずれの場合も、作動油室の油圧が高くなれば漏洩しやすくなるにもかかわらず、上記構成では、反面において、油圧の上昇と共にこれらの部位の接触の密着性が高まることにより、作動油室の油圧が高くなっても上述した部位における作動油の漏洩は防がれる。
図5および図6に示すように、高圧側となった作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)から取り出してローター2の上部端面の上部リング溝2yに入った作動油は、ローター2のバランス孔2xを通って、ローター2の下部端面の下部リング溝2zに入り、ローター2の下部端面とハウジング1の内底面との間の間隙S2を経て、下部リングスリット1eの垂直油溝1uに通じる。
これにより、下部リングシール片16、17には、内周側の側面16i、17iを半径方向の外側に押す力が生じ、外周側の側面16j、17jと下部リングスリット1eの外周側の側面1wとの間の密着を増強し、この部分を通して高圧側の作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)から低圧側の作動油室(5b、5dあるいは5a、5c)へ作動油が漏洩することを十分に防止できる。
さらに、上記高圧の作動油は、図5に示すように、下部リングスリット1eの垂直油溝1uから水平油溝1vを通って、下部リングシール片16、17の背面16b、17bに作用する。この油圧力によって、下部リングシール片16、17のシール面16a、17aとローター2の下部端面との間のシーリング面圧が強められると同時に、下部リングシール片16、17の外周側リップ16e、17eと下部リングスリット1eの外周側の側面1wとの接触が増強されるので、下部リングシール片16、17の背面16b、17bに導かれた高圧の作動油が低圧側に漏洩することを十分に防止できる。
さらに、上述した下部リングシール片16、17の内周側の側面16i、17iを半径方向の外周側に押す油圧力、および下部リングシール片16、17の背面16b、17bをシール面16a、17aに向かって押す油圧力は、下部リングシール片16、17のシール面16a、17aの外周側端縁16n、17nをセグメント1bの左および右縦シール23、24の各シール面23a、24aの下端縁23b、24bに押し付けて接触力を増強し、また、同外周側端縁16n、17nをベーン2dの下部横シール2hの内周側端縁2mに押し付けて接触力を増強する。従って、これらの部位を通って高圧側の作動油室(5a、5cあるいは5b、5d)の作動油が低圧側の作動油室(5b、5dあるいは5a、5c)に漏洩することを十分に防止できる。
上部リングシール片19、20におけるものと同様にして、下部リングシール片16、17においても、下部リングシール片16、17に導かれる作動油の油圧が高くなれば、油圧の上昇と共に各部位の接触の密着性が高まることにより、油圧が高くなっても各部位における作動油の漏洩は防がれる。
図3〜図5に示すように、高圧側となった作動油室からトップカバー3の油路3kを通じてローター2の上部端面の上部リング溝2yに導かれ、更にローター2のバランス孔2xを経てローター2の下部端面の下部リング溝2zに導かれた作動油は、トップカバー3の裏面とローター2の上部端面との間の間隙S1、およびハウジング1の底面とローター2の下部端面との間の間隙S2から、上部リングスリット3aおよび下部リングスリット1eの隔溝金具11(12)、13(14)のそれぞれ頂面を通って、更に上部リングスリット3aおよび下部リングスリット1eの半径方向油溝21b、22bおよび周方向油溝21c、22cを通って、セグメント1bの左縦シール23および右縦シール24のそれぞれの背面23d、24dに作用する。
そして、この油圧により、左縦シール23および右縦シール24のシール面23a、24aとローター2の周面との間のシーリング面圧が強められる。同時に、左縦シール23においては、背面23dのリップ23e、23fと左縦スリット21の両側面との接触が増強されて、左縦シール23の背面23dに導かれた高圧の作動油がこの部分を通って低圧側に漏洩することが十分に防止できる。この作用は、右縦シール24においても同じである。
更に、上記の左縦シール23の背面23dに作用する油圧力は、図3および図5に示すように、左縦シール23のシール面23aの下端と下部リングシール片16の外周側端縁16nとの接触、および左縦シール23のシール面23aの上端と上部リングシール片19の外周側端縁19nとの接触を増強させる。
従って、高圧側となった作動油室から下部リングシール片および上部リングシール片16、19のそれぞれ内周側に導かれた作動油が、隔溝金具11(12)、13(14)のそれぞれ頂面を通り、下部リングシール片および上部リングシール片16、19のそれぞれ外周側端縁16n、19nとセグメント1bの左縦シール23のシール面23aの下端および上端との接触面を通って、低圧側となった作動油室に漏洩することが十分に防止できる。この作用は、右縦シール24についても同様である。
舵取機の作動において、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20には、上記したような各作用に由来する力がかかるとともに、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20のシール面16a、17a、19a、20aには、ローター2の回転により生じるローター2の下部端面と下部リングシール片16、17のシール面16a、17aとの間の摺動、およびローター2の上部端面と上部リングシール片19、20のシール面19a、20aとの間の摺動により摺動摩擦力が発生する。
今仮に、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20に対する各作用力に由来する摩擦力よりも、各シール面16a、17a、19a、20aにおける上記摺動摩擦力が大きくなると、その結果、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20がローター2の回転に伴って回転しようとする状態になる。
しかしながら、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20は、例えば図3に示す下部リングシール片16の場合で説明すると、下部リングシール片16の一方の円弧方向端面(例えば16k)が隔溝金具11の一方の円弧方向端面(11b)と接触していることにより、円弧方向の弾性圧縮は生じるものの、下部リングシール片16がローター2の回転に伴って回転することはない。従って、回転に起因する摩擦熱の発生もなく、高分子材料である下部リングシール片16の温度上昇による物性劣化も避けられる。また、下部リングシール片16は、圧縮力を受けるのみで、引張力は受けることがないので、破損あるいは破断することがない。
また、高分子材料である下部リングシール片16が物性的に経年変化により収縮する場合は、円弧方向端面16kと隔溝金具11の円弧方向端面11bとの間にギャップを生じる懸念がある。しかしながら、例えギャップを生じたとしても、図3に示すように、下部リングシール片16の背面16bと隔溝金具11の頂面とが、同じ高圧側の作動油室からの作動油で連通するに過ぎないので問題は無い。また、下部リングシール片16のシール面16aの外周側端縁16nとセグメント1bの左縦シール23のシール面23aの下端縁23bとの接触の位置が、上記ギャップの発生により多少ずれるだけであり、密なる接触は保たれたままであるので、この部分を通って高圧の作動油が低圧側作動油室に漏洩することは防がれる。以上のことは、他方の下部リングシール片17、および上部リングシール片19、20においても同様である。
図7は本発明の他の実施例を示すものである。図7に示すように、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20の各シール面16a、17a、19a、20aの背面16b、17b、19b、20bにおいて、半径方向中心線の円弧の全長に亘って圧縮受容体26を接着する。圧縮受容体26はその円弧長さ方向中心線と直角をなす横断面が山形をなし、所定の弾性常数を有する弾性材よりなる。
圧縮受容体26と下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20との複合体は、その自由状態における横断面寸法を次のように定める。即ち、該複合体を下部リングスリットおよび上部リングスリット15a、15b、18a、18b内に挿入し、ローター2およびトップカバー3をハウジング1に装着した状態において、圧縮受容体26が上下方向に量Aだけ圧縮されて弾性反発力を生じ、この弾性反発力によって各シール面16a、17a、19a、20aと相手面との間に、作動油室5a、5b、5c、5dから各背面16b、17b、19b、20bに導かれた作動油の油圧が低い時でも、必要な最低限のシーリング面圧を与える。
而して、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20は少なくとも各外周側リップ16e、17e、19e、20eが下部リングスリット1eおよび上部リングスリット3aの底面に達せず、上下方向に圧縮変形を受けない。従って、少なくとも各外周側リップ16e、17e、19e、20eは圧縮変形によるしわを生じることがなく、リップのシーリング性能を損なうことがない。
なお、圧縮受容体26には、半径方向に所定数の油連通孔27を設け、下部リングシール片および上部リングシール片16、17、19、20の背面16b、17b、19b、20bに導かれた作動油室からの作動油が、圧縮受容体26によって内周側と外周側との間で遮断されないようにする。
図8は本発明の更に他の実施例を示すものである。図8に示すように、セグメント1bの左縦シール23および右縦シール24の各背面23d、24dにおいて、長手方向中心線の上下の全長に亘って圧縮受容体28を接着する。圧縮受容体28は、長手方向中心線と直角の横断面が山形をなし、所定の弾性常数を有する弾性材よりなる。
圧縮受容体28と左縦シール23および右縦シール24との複合体は、その自由状態における横断面寸法を次のように定める。即ち、該複合体をセグメント1bの左および右縦スリット21、22内に装着した状態において、圧縮受容体28が半径方向に量Bだけ圧縮されて弾性反発力を生じ、この弾性反発力によって各シール面23a、24aとローター2の周面との間に、作動油室5a、5b、5c、5dから各背面23d、24dに導かれた作動油の油圧が低い時でも、必要な最低限のシーリング面圧を与える。
而して、圧縮受容体28の圧縮歪み対反発力特性を、歪み変化に対して反発力変化が小さいものにする。これによって、セグメント1bの左縦シール23および右縦シール24のシール面23a、24aの摩耗が生じても、各シール面23a、24aとローター2の周面との間のシーリング面圧の低下を緩やかなものにすることができる。
なお、圧縮受容体28には、周方向に所定数の油連通孔29を設け、左縦シール23および右縦シール24の背面23d、24dに導かれた作動油室からの作動油が圧縮受容体28によって左右に遮断されないようにする。
図9、図10は本発明の更に他の実施例を示すものである。これは、下部リングシール片16、17の各シール面16a、17aおよび上部リングシール片19、20の各シール面19a、20aに対して潤滑の作動油を供給するためにローター2およびハウジング1に設ける構成である。
このローター2に係る構成は、下部リングシール片16に対する構成と下部リングシール片17に対する構成とが図上の左右で対極的に対称であり、上部リングシール片19に対する構成と上部リングシール片20に対する構成とが図上の左右で対極的に対称である。また、下部リングシール片16、17に対する構成と上部リングシール片19、20に対する構成とが図上の上下で対極的に対称である。従って、以下においては下部リングシール片16に対する構成についてのみ説明を行う。
図9、図10に示すように、ローター2の下部端面には所定数の下部潤滑油溝30をローター2の回転範囲に応じて穿つとともに、各下部潤滑油溝30とを連通する半径方向の下部連通油溝31を穿っている。下部潤滑油溝30はローター2の回転範囲に応じて下部リングシール片16のシール面16aの円弧方向中心線に対向し、周方向に所定の長さを有し、下部連通油溝31はローター2の下部端面とハウジング1の内底面との間の間隙S2に連通している。
なお、下部潤滑油溝30の円弧方向長さは以下のものである。すなわち、下部潤滑油溝30に高圧の作動油が導入されたとき、その作動油がシール面16aの下部潤滑油溝30の部位において低圧側となった作動油室5b、5dあるいは5a、5cに多量に漏洩しないような小寸法のものである。
図6、図5に示すように、高圧側となった作動油室5a、5cあるいは5b、5dから、トップカバー3の油路3k、ローター2のバランス孔2x、ローター2の下部リング溝2zを通ってローター2の下部端面とハウジング1の内底面との間の間隙S2に入った作動油は、下部連通油溝31を通って下部潤滑油溝30に入り、下部リングシール片16のシール面16aの摺動に対して潤滑作用を行なう。