JP2011078750A - 腫瘍細胞の選択的な殺傷方法およびそのための装置 - Google Patents

腫瘍細胞の選択的な殺傷方法およびそのための装置 Download PDF

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Abstract

【課題】腫瘍細胞を選択的に殺傷することのできる方法および装置を提供する。
【解決手段】腫瘍細胞に、少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光(UVパルスフラッシュ)を腫瘍細胞に照射するステップを含むことを特徴とする、腫瘍細胞の選択的な殺傷方法を提供する。上記UVパルスフラッシュは、たとえば積算出力90または180〜7100または14200Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量を有するもの、換言すれば、UVCの波長に由来するエネルギーとして、6または12〜480または960J/cm2の積算単位面積照射量を有するものが好ましい。上記UVパルスフラッシュを照射するステップは、たとえば1分以内が好ましい。上記UVパルスフラッシュはキセノンフラッシュランプから発せられるものであることが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明は特定のUVパルスフラッシュを用いて腫瘍細胞を選択的に殺傷する方法および装置に関する。
従来、癌細胞を破壊する方法として、放射線、ガンマ線または重粒子線放射法が知られている。しかしながら、これらの方法では体深部に存在する腫瘍がん組織でのピンポイント治療が困難であり、腫瘍細胞以外の正常組織にも損傷を与えてしまうという弊害があった。
ところで、紫外線が殺菌効果を有することはよく知られており、従来、低圧水銀ランプ(UVランプ)が殺菌灯として長い間使用されてきたが、近年ではキセノンフラッシュランプを用いた「光パルス殺菌」が利用されるようになってきている(たとえば特許文献1参照)。キセノンフラッシュランプは、殺菌効果が強いとされる200〜300nmにわたる波長スペクトルを有する光をマイクロ秒オーダーの間隔で(1秒間あたり数回〜数十回)瞬間的に発することができ、1回あたりのエネルギー量はUVランプ(65W相当)の数万倍にも達する。このようなキセノンフラッシュランプを用いた光パルス殺菌は、極めて短時間(1秒以下ないし数秒程度)で、一般細菌、カビ、芽胞菌等に対する高い殺菌力を発揮することのできる方法であり、食品分野等において実用化が始まっている。
しかしながら、このようなキセノンフラッシュランプ等によるパルス光を腫瘍細胞を選択的に殺傷するために利用することができることは、これまで報告されていない。
特開2000−107262号公報
本発明は、腫瘍細胞を選択的に殺傷することのできる方法および装置を提供することを目的とする。
本発明者は、キセノンフラッシュランプ等から発せられるパルス光を腫瘍細胞および非腫瘍細胞に照射した場合、腫瘍細胞のみを選択的に殺傷し細胞死に至らしめる一方、非腫瘍細胞は生存させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は一側面において、ヒトもしくはヒト以外の動物の生体外またはヒト以外の動物の生体内において、腫瘍細胞に、少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光(以下「UVパルスフラッシュ」とよぶ。)を照射するステップを含むことを特徴とする、腫瘍細胞の選択的な殺傷方法を提供する。以下、このような腫瘍細胞の選択的な殺傷方法を単に「本発明の方法」と呼ぶこともある。
上記UVパルスフラッシュは、対象とする腫瘍細胞に応じて、たとえば積算出力90〜7100J、90〜14200Jまたは180〜14200Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量を有するものが好ましい。換言すれば、上記UVパルスフラッシュは、UVCの波長に由来するエネルギーとして、たとえば6〜480J/cm2、6〜960J/cm2または12〜960J/cm2の積算単位面積照射量を有するものであることが好ましい。上記UVパルスフラッシュを照射するステップは、たとえば1分以内が好ましい。このようなUVパルスフラッシュは、キセノンフラッシュランプから発せられるものであることが好ましい。
また、本発明は一側面において、上記のような腫瘍細胞の選択的な殺傷方法を実施することのできる医療用装置、すなわち、少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光(UVパルスフラッシュ)の光源を備えることを特徴とする、腫瘍組織治療用の装置を提供する。以下、このような装置を単に「本発明の装置」と呼ぶこともある。
上記腫瘍組織治療用の装置としては、たとえば、内視鏡、レーザ顕微鏡または体表腫瘍組織照射装置が挙げられる。このような装置に備えられる光源としてはキセノンフラッシュランプが好ましい。
本発明の方法および装置によれば、簡便にかつ短時間のうちに、非腫瘍細胞に細胞死をもたらすことなく腫瘍細胞のみを死滅させることが可能である。このような本発明は、生体内に存在する腫瘍ガン組織に対するピンポイント治療などへの応用が期待される。
キセノンフラッシュランプ(BHX-200, コメット株式会社)から発せられるUVパルスフラッシュの、光源、通常の(石英ガラスでない)ガラス(厚さ0.17mm)透過後、およびプラスチック製ディッシュ(FluoroDish FD-35,厚さ1.25mm)透過後における、(a)UV領域(200〜400nm)のスペクトルと、(b)UV領域、可視領域、赤外領域(200〜950nm)のスペクトル。 実施例1における、MCF-7(腫瘍細胞)のSEMによる観察像。[a]照射回数0(コントロール)。細胞膜表面はスムース。[b]照射回数56(1 sec, 179.2 J)。細胞質が萎縮。[c]照射回数280(5 sec, 896 J)。細胞質萎縮と膜変性を認める。[d]照射回数560(10 sec, 1792 J)。個々の細胞形態を認めない。膜変性により細胞表面が突起状を呈している。[e]照射回数1120(20 sec, 3584 J)。細胞破壊が進み一部形態をなしていない。[f]照射回数2240(40 sec, 7168 J)。核構造を認めるのみで細胞破壊が進行している。[g]照射回数2240(40 sec, 7168 J)UV-C cut。UV-Cを除外すると、コントロール同様、スムースな細胞膜表面が観察出来る。 実施例1の細胞生存率の測定におけるCos7(非腫瘍細胞)およびMCF-7(腫瘍細胞)のレーザ顕微鏡(LSM510-META)よる観察像。細胞の生死をPI(propidium iodide)で判定:生細胞は膜構造が堅牢なためPIが細胞内に浸透できず赤く染まらない、死細胞:膜構造が破壊されPIが細胞内に浸透しDNAと反応、赤色を呈する。[a]Cos7/無照射(コントロール)から24時間後。大きく扁平な細胞質が観察できる。死細胞を認めない。[b]Cos7/560回照射(10 sec, 1792 J)から24時間後。細胞萎縮は認めるものの、死細胞は認めない。[c]MCF-7/無照射(コントロール)から24時間後。MCF-7特有の丸い細胞形態を呈する。[d]MCF-7/560回照射(10 sec, 1792 J)から24時間後。細胞質の萎縮を認め、全ての細胞が死滅している。 実施例1における、UVパルスフラッシュ照射(照射回数:0, 14, 28, 56, 560)から24時間後の細胞生存率(各細胞につき照射回数0のときを1.00とする)を表すグラフ。 実施例1における、UV−Cを除去したUVパルスフラッシュ照射(照射回数:0, 14, 28, 56, 560)から24時間後の細胞生存率(各細胞につき照射回数0のときを100%とする)を表すグラフ。 実施例2における、ヒト白血病細胞株の、UVパルスフラッシュ照射(照射回数:0, 14, 56, 560, 2240)から24時間後の細胞生存率(各細胞につき照射回数0のときを100%とする)を表すグラフ。 実施例2における、DNA障害による早期アポトーシスを起こした細胞の割合を表すグラフ。 実施例3における、ヒト腫瘍細胞株(線維肉腫、前立腺癌、悪性絨毛上皮腫)の、UVパルスフラッシュ照射(照射回数:0, 14, 56, 560, 2240)から24時間後の細胞生存率(各細胞につき照射回数0のときを100%とする)を表すグラフ。 実施例4における、マウスリンパ腫細胞株の、UVパルスフラッシュ照射(照射回数:0, 14, 56, 560, 2240)から24時間後の細胞生存率(各細胞につき照射回数0のときを100%とする)を表すグラフ。 実施例5で用いた体表腫瘍組織照射装置10を表す図。(a)全体の概略図、(b)プローブ4部分の拡大図、(c)プローブ4先端の拡大図、(d)プローブ4先端の断面図、着色部が照射角75度の範囲。 実施例5における、担癌マウスの癌部にプローブの先端を当接させてUVパルスフラッシュを照射する様子を示した写真。 実施例5における、ACHN担癌マウスの腫瘍容積の推移を表すグラフ(矢印は照射日)。 参考例における照射量測定方法の概略図(図中の各部材の詳細は参考例の記載を参照)。
−方法−
本発明は一側面において、以下に述べるような態様により腫瘍細胞にUVパルスフラッシュを照射するステップを含む、腫瘍細胞の選択的な殺傷方法を提供する。
本発明の方法が適用対象とする腫瘍細胞は特に限定されるものではなく、癌腫(上皮組織由来の悪性腫瘍)、肉腫(非上皮組織由来の悪性腫瘍)、白血病、悪性リンパ腫、および良性腫瘍の細胞ならびにそれらの細胞に由来する細胞株が含まれる。一方、非腫瘍細胞は上記のような腫瘍細胞以外の正常細胞をいう。本発明の方法は、このような腫瘍細胞および非腫瘍細胞が混在している部位に適用することができる。
本発明の方法は、ヒトならびにヒト以外の哺乳類およびその他の動物(実験動物、ペット等)の腫瘍細胞について、生体外において(採取、培養されたものに対して)のみならず、生体内において適用することも可能である。すなわち、本発明は一側面において、ヒトおよびヒト以外の哺乳類の生体内において腫瘍細胞を選択的に殺傷する、治療方法ないし補助手術手段をも提供しうる。
本発明の方法で用いられるUVパルスフラッシュは、UV−Cに該当する紫外線波長領域のうち、DNAの吸収波長である約265nmを含む、少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有し、さらに広範な範囲にわたる連続的な発光スペクトルを有していてもよい。
UVパルスフラッシュの1回あたりの単位面積照射量[(J/cm2)/回]および照射回数[回]、すなわちそれらの積算値である積算単位面積照射量[J/cm2]は、腫瘍細胞および非腫瘍細胞の種類などに応じて、腫瘍細胞を選択的に殺傷できるような範囲で調節される。すなわち、積算単位面積照射量を所定の範囲内で調節することにより、実質的に腫瘍細胞のみを殺傷して非腫瘍細胞を殺傷しない(非腫瘍細胞に傷害を与えたとしても修復可能な範囲にとどめ細胞死に至らせない)ことが可能である。積算単位面積照射量が不足であると腫瘍細胞を十分に死滅させることができず、逆に積算単位面積照射量が過剰であると腫瘍細胞のみならず非腫瘍細胞までも多量に殺傷ないし死滅してしまうことになるので、腫瘍細胞の生存率や腫瘍容積などに関する目標とする効果が達成できるように適宜調整すればよい。
上記積算単位面積照射量[J/cm2]は、UVパルスフラッシュの光源の照射1回あたりの出力[J/回]および照射回数[回]、すなわちそれらの積算値である積算出力[J]、ならびに当該UVパルスフラッシュの照射面積[cm2]の関数であり、さらにUVパルスフラッシュの積算単位面積照射量は[J/cm2]は、光源を点光源とみなせば、光源からの距離の2乗に反比例する。
たとえば、後記実施例1に示すように、UVパルスフラッシュの光源としてキセノンフラッシュランプ(BHX-200, コメット株式会社)を使用し、当該キセノンフラッシュランプから照射部位までの距離が8cmである場合、積算出力が45J以上であればある腫瘍細胞(ヒト乳癌培養細胞株およびヒト子宮頚癌細胞株)の半数以上を殺傷することができ(44.8J(14回)照射24時間後の腫瘍細胞の生存率が50%以下)、90J以上であれば当該腫瘍細胞の大部分を殺傷することができ(89.6J(28回)照射24時間後の腫瘍細胞の生存率が20〜40%程度)、900J以上であれば当該腫瘍細胞をほぼ完全に死滅させることができる。また、上記条件において積算出力が20000J以下であれば非腫瘍細胞の殺傷の程度は低く、7100J以下であれば非腫瘍細胞はほぼ完全に生存する(7168J(2240回)照射24時間後の非腫瘍細胞の生存率がほぼ100%)。したがって、たとえば、ヒト乳癌細胞やヒト子宮頚癌細胞などの腫瘍細胞を対照とする場合は、非腫瘍細胞をほぼ完全に生存させつつそれらの腫瘍細胞の大部分を殺傷することができる90〜7100Jの範囲は、上記条件におけるUVパルスフラッシュの積算出力の好ましい範囲として挙げられる。
また、ヒト乳癌細胞やヒト子宮頚癌細胞以外の腫瘍細胞を適用対象とする場合、効果を考慮しながら必要であれば、上記範囲内の高い範囲の積算出力を適用するようにしてもよいし、上記範囲の上限および/または下限を変更した異なる範囲をその腫瘍細胞にとっての好ましい範囲としてもよい。たとえば、ヒト乳癌細胞やヒト子宮頚癌細胞よりも殺傷しにくい腫瘍細胞を対象とする場合は、上限を14200Jにまで引き上げたり、下限を180Jにまで引き上げたりして、UVパルスフラッシュの積算出力を90〜14200Jの範囲ないし180〜14200Jの範囲で調整することが好ましい。
また、本発明の方法における上述したようなキセノンフラッシュランプを用いた場合の積算出力および距離に関する条件は、積算単位面積照射量がそれに相当する値となる限り、異なる光源、積算出力および距離の条件に改変して適用しうるものである。すなわち、たとえば「積算出力90〜7100Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量」は、これに相当する値である限り、異なる積算出力および光源からの距離によってもたらされるものであってもよい。
なお、上述したキセノンフラッシュランプ(BHX-200)の積算出力の値は、実施例1に記載しているようにコンデンサー容量や電圧から算出される理論値であり、当該キセノンフラッシュランプが発する光の波長全域(たとえば200〜1000nm)にわたるエネルギーを表している。後記参考例に示したように、UV−C(200〜300nm)ないし230〜270nmの波長に由来するエネルギー自体は、上記波長全域にわたるエネルギーである上記積算出力の一部である。また、キセノンフラッシュランプ(BHX-200)の発光管の発光エネルギーである上記積算出力は、後記参考例に示したような対比により、当該キセノンフラッシュランプから8cm離れた部位の積算単位面積照射量に換算することが可能である。したがって、たとえば上記「積算出力90〜7100Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量」は、波長全域(200〜1000nm)にわたるエネルギーについて(全積算単位面積照射量)であればおよそ70〜5700J/cm2に、UV−C(200〜300nm)の波長に由来するエネルギーについて(UVC積算単位面積照射量)であればおよそ6〜480J/cm2に換算することができる(表2参照)。また、積算出力180および14200Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量は、それぞれ、およそ140および11400J/cm2の全積算単位面積照射量、ならびにおよそ12および960J/cm2のUVC積算単位面積照射量に換算することができる。
UVパルスフラッシュの単位時間当たりの照射回数および処理時間(これらの積算値が上記照射回数となる)は、上述したような積算単位面積照射量ないし積算出力の条件や光源の性能などを考慮しながら適切な範囲で調節すればよい。たとえば、1J/回以上のUVパルスフラッシュを1秒間あたり数回〜数十回照射することができる光源を用いることにより、照射ステップの時間を数分以内、好ましくは1分、より好ましくは30秒以内に納めることができる。
なお、UVパルスフラッシュのエネルギーはガラス(スライドガラス、カバーガラス、集光レンズ等)やプラスチック(ディッシュ等)を透過すると著しく減衰することがある。そのため、UVパルスフラッシュは腫瘍細胞に直接照射することが望ましいが、集光レンズ等を利用する場合は、UV−Cの透過が期待できる石英ガラス素材の使用が不可欠であり、エネルギーが減衰することを考慮して出力を調節すべきである。たとえば、後記参考例に示したように、キセノンフラッシュランプ(BHX-200)の照射光を石英レンズで集光し、石英ファイバーを介してサファイアボールが埋め込まれたプローブの先端部から照射した場合は、非照射部の積算単位面積照射量がいくらか減衰することとなる。
UVパルスフラッシュは、上記のような条件を満たすことができる限り、どのような光源から発せられるものかを問わないが、たとえばキセノンフラッシュランプから発せられるパルス光が好適である。キセノンフラッシュランプは、キセノンガスによる紫外域(図1参照)から赤外域にわたって高く連続したスペクトルを有する閃光を、瞬間的に高いピーク出力をもって、1秒間に数回から数十回連続的に発することができる。食品分野等で用いられている、キセノンフラッシュランプを備えた光パルス殺菌用の照射装置(たとえばBHX-200, コメット株式会社)またはその改良品を本発明の方法のために使用することも可能である。
なお、従来の低圧水銀灯は、254nmなど特定の波長のみに強いピークを有する発光スペクトルを有するものであって、230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルは有するものではなく、UVのエネルギーが不十分である。仮に低圧水銀灯を用いて上記のような積算単位面積照射量でUV光を照射しようとすると、長時間の照射が必要となるため腫瘍細胞のみならず非腫瘍細胞に対しても著しい傷害を与え、腫瘍細胞を選択的に殺傷することができない。
−装置−
本発明は一側面において、本発明の方法を実施することのできる医療用装置、より具体的には腫瘍組織治療用の装置を提供する。
このような本発明の装置は、少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光(UVパルスフラッシュ)の光源を備え、当該光源としては、本発明の方法について前述したように、キセノンフラッシュランプが好ましい。
本発明の装置としては、たとえば、内視鏡、レーザ顕微鏡、体表腫瘍組織照射装置などが挙げられる。これらの装置は、光源からUVパルスフラッシュを照射するための構造を備える(望ましくは、光源の出力を調整できる設定カウンターが電源部等に装着される)が、その他の構造については、必要であれば適宜改変した上で、従来の内視鏡、レーザ顕微鏡、体表腫瘍組織照射装置などの構造を適用することができる。
内視鏡であれば、たとえば、照明用の光とは別に、体外の制御装置側に備えられた光源が発したUVパルスフラッシュが光ファイバーで導かれ、先端部から治療部位に向けて照射される。この場合、UV光を減衰することなく体内に導くために、ファイバーの素材は、石英ガラスか、内部に鏡面構造を持つものが好ましい。また、内視鏡先端に小型のUVパルス光発振部を内蔵した装置も開発されることが望まれる。
レーザ顕微鏡であれば、たとえば、光源としてのレーザとは別に、UVパルスフラッシュが観察部位および治療部位に向けて細胞個々のレベルで照射される。この際、レンズ光学系を観察用と共用させようとすると、レンズは石英ガラス素材となり、かなり高価となることが予想されるので、観察光路とは別のUV専用光路を設定し、切り替えて使用することが好ましい。
体表腫瘍組織照射装置であれば、たとえば、光源を備えた可動式のユニットまたは石英ファイバ−照射装置(石英レンズにより集光、石英ファイバ−を経由、先端に積分球機能を持った石英やサファイアボ−ルを装着したプロ−ブ)より導かれたUVパルスフラッシュが治療部位に向けて照射される。あるいは、開頭・開腹手術に際し、外科的腫瘍摘出術施行後、摘出部位に照射し、残存腫瘍を死滅させることもできる。プローブの先端に刃の機能を持たせ(注射針の先端同様)、体内挿入可能な装置にすることもできる。
[実施例1]
材料・方法
UVパルスフラッシュ光源(キセノンフラッシュランプ使用):BHX-200(コメット株式会社)
共焦点レーザースキャン顕微鏡:LSM510-META (Carl Zeiss MicroImaging, Jena Germany)
腫瘍細胞:
1. MCF-7(ヒト乳がん由来細胞株)
2. BT474(ヒト乳がん由来細胞株)
3. Hella(ヒト子宮頸がん由来細胞株)
非腫瘍細胞:
1. Cos7(アフリカミドリザル腎由来細胞株)
2. MDCK(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来細胞株)
最初に細胞の自家蛍光を活用して形態情報を取得、次に、各細胞にLipfectamine2000(Invitrogen)を用いて、MBL Azami-Green(phmAG1-MC1)DNAをtransfectし、その蛍光を観察した。5%CO2, 37 ℃環境下、LSM510-METAで3次元画像を取得したのち、BHX-200 を細胞直上8cmの位置に設置、UVパルスフラッシュ(UV-Pulse Flash)の1, 5, 10, 14, 28, 56, 560, 1120, 2240, 3360, 6720 回の照射を行ったのち、再度3次元画像を取得した。なお、1回の発光エネルギー(出力)は3.2J(1/2×コンデンサー容量(C)×電圧(V)2=1/2×(7.5×10-6)×9202≒3.2)であり、1秒当たりの発光回数は56回である。同時に細胞にはPropidium Iodide を添加し、細胞の生死を確認した。また、UVパルスフラッシュ照射後24時間継続培養し、再度観察、生死の比率を求めた。
結果
LSM510-META のFinger Printing 法による自家蛍光観察及び、Azami-Green 蛍光観察(図3参照)の結果、実験を行ったすべての細胞で細胞萎縮は1 回照射から観察された。56 回照射では、細胞表面の膜構造の変化とみられる形態を呈し、細胞萎縮は顕著であった。走査電顕観察(図2参照)でも同様に細胞萎縮、細胞膜構造の変化を認めた。
細胞の照射24時間後の生存率は、非腫瘍細胞は560 回照射まで100%であるが、腫瘍細胞は、14 回照射で約40%に低下し、28 回照射でHella細胞(40%)を除き20%まで低化、560 回ではほぼ0%となった(図4参照)。すなわち、光源から8cmの距離に1.792 kJ(=(3.2 J)/回×560回)のUVパルスフラッシュを照射した場合、非腫瘍細胞は100%生存するのに対し、腫瘍細胞は死滅した。核の形状から判断して、アポトーシスも誘発されていた。120秒(6720回)照射では、非腫瘍細胞も膜構造の変化、細胞死も一部観察された。
一方、ディシュのプラスチックカバー(1.25m厚)とレーザ顕微鏡のCO2インキュベータプラスチックカバー(1.2mm厚)を観察光路に挿入してUV−C(290nm以下)を除去した(図1参照)実験群では、腫瘍細胞および非腫瘍細胞の生存率に顕著な差は認められなかった(図4参照)。
考察
今回のUV−Cを除去したパルス光照射の結果から、可視光、近赤外光は本現象には関与せず、UV−Cの関与が強く示唆された。UVパルスフラッシュ照射により、腫瘍細胞は短時間のうちに明らかな細胞形態の変化(萎縮)、細胞膜の破壊をきたし、細胞質内物質が細胞外へ放出され、細胞死を迎え、即死を免れた腫瘍細胞もDNA ピリミジン二量体の形成によりアポトーシスを誘発し細胞死に至ったと推測される。
また、形態観察より、細胞死の状態を考えると、腫瘍細胞は非腫瘍細胞に比してUV−C領域の紫外線感受性が明らかに高いために細胞破壊がなされた。すなわち、低紫外線被暴量で腫瘍細胞のみが細胞死を迎え、非腫瘍細胞は細胞死に至らなかった。この理由としては、腫瘍細胞特異的な紫外線受容体(吸収体)の存在が推測され、紫外線感受性を高めている可能性が示唆される。その受容体は、腫瘍細胞により異なるが、細胞の癌化、悪性化に伴い糖脂質、糖タンパク質糖鎖の組成変化に関係していると推測される。
[実施例2]
腫瘍細胞株
4. ヒト白血病細胞株 MOLT/S
5. ヒト白血病細胞株 MOLT/TMQ 200(トリメトレキサートTrimetrexate (TMQ)抗がん剤200倍耐性株)
6. ヒト白血病細胞株 K562/S1
7. ヒト白血病細胞株 K562/S2
8. ヒト白血病細胞株 K562/ARA-C(Cytarabine抗がん剤耐性株)
方法
上記各細胞についてpropidium iodaide(PI)を添加し、実施例1と同様に最初に細胞の自家蛍光を活用して形態情報を取得、5%CO2, 37 ℃環境下、LSM510-METAで3次元画像を取得したのち、BHX-200 を細胞直上8cmの位置に設置、UVパルスフラッシュ(UV-Pulse Flash)の0, 14, 56, 560, 2240 回の照射を行ったのち、再度3次元画像を取得した。PI反応にて細胞の生死を確認した。また、UVパルスフラッシュ照射後24時間継続培養し、再度観察、生死の比率を求めた。その後、フローサイトメトリーにより解析(FACS Aria, 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社。細胞数=5x105個、n=3)より細胞の生死の比率を求めた。結果を図6に示す。
この様に、固形癌のみならず血液癌にも適応可能なことが示され、臨床応用を考えるとき、その応用は極めて広いと考えられる。例えば、腎臓透析の原理で、ヒトの血液を外部UVパルスフラッシュ装置に導き、UV照射後体内に戻す方法で血液癌の治療器と為り得る。
加うるに、MOLT/TMQ 200およびK562/ARA-Cはともに抗がん剤耐性で、抗がん剤治療効果が期待できない癌であるが、本発明の作用機序は薬理的損傷ではなく物理的損傷であるため、それらの癌に対しても他の癌に対してと同様に絶大なる効果を発揮することが分かる。すなわち、治療困難な癌に対しても新たな作用機序による本法はその効果は期待でき、患者にとり福音となりうるとの期待が持てる。
また、各細胞について、上記と同様にUVパルスフラッシュを所定の回数照射した場合の早期アポトーシス(DNA障害)の影響も検証した。早期アポトーシスは、Annexin Vをマーカーとして用い、上述の細胞の生死についてと同様にフローサイトメトリーにより解析した。アポトーシスの初期段階で、細胞膜内側にあるあるホスファチジルセリン(PS: phosphatidylserine)が細胞膜外側に表出し、PSに親和性の高いAnnexin Vが結合する。AnnexinVは35-36kDaのCa++依存性にリン脂質と結合するタンパク質である。PSの細胞膜外側への表出に続き、正常な細胞膜構造を失い、DNAの断片化やクロマチンの凝集が始まる。この原理を使用し、Annexin Vとの結合を検出することで早期アポトーシス細胞を認識する。また、被検体を別途用意し、無処置コントロール(non treat cultured control)として、実験24時間前にフローサイトメトリー解析を実施した。結果を図7に示す。アポトーシスの誘導率はほぼ10%以下であることから、本発明の作用機序におけるアポトーシスの関与は低いと考えられる。
[実施例3]
腫瘍細胞株
9.ヒト線維肉腫細胞株 HT-1080
10.ヒト前立腺癌細胞株 DU145
11.ヒト前立腺癌細胞株 PC3
12.ヒト悪性絨毛上皮腫細胞株 BeWo
方法
上記各細胞についてpropidium iodaideを添加し、実施例1と同様に最初に細胞の自家蛍光を活用して形態情報を取得、5%CO2, 37 ℃環境下、LSM510-METAで3次元画像を取得したのち、BHX-200 を細胞直上8cmの位置に設置、UVパルスフラッシュ(UV-Pulse Flash)の0, 14, 56, 560, 2240 回の照射を行ったのち、再度3次元画像を取得した。PI反応にて細胞の生死を確認した。また、UVパルスフラッシュ照射後24時間継続培養し、再度観察、生死の比率を求めた。その後、フローサイトメトリーにより解析(FACS Aria, 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社。細胞数=5x105個、n=3)より細胞の生死の比率を求めた。結果を図8に示す。
これらは、いわゆる悪性に分類される肉腫・癌で、通常の癌細胞よりも多量のUVC被曝量(965J/cm2)を与えることにより、殺滅可能と考えられる。これは、正常細胞に障害を与えるであろうUVC被曝量(1447J/cm2)よりも低値である。
[実施例4]
腫瘍細胞株
13.マウスリンパ腫 EL-4
14.マウスリンパ腫 A20
15.マウスリンパ腫 RL male 1
方法
上記各細胞についてpropidium iodaideを添加し、実施例1と同様に最初に細胞の自家蛍光を活用して形態情報を取得、5%CO2, 37 ℃環境下、LSM510-METAで3次元画像を取得したのち、BHX-200 を細胞直上8cmの位置に設置、UVパルスフラッシュ(UV-Pulse Flash)の0, 14, 56, 560, 2240 回の照射を行ったのち、再度3次元画像を取得した。PI反応にて細胞の生死を確認した。また、UVパルスフラッシュ照射後24時間継続培養し、再度観察、生死の比率を求めた。その後、フローサイトメトリーにより解析(FACS Aria, 日本ベクトン・ディッキンソン株式会社。細胞数=5x105個、n=3)より細胞の生死の比率を求めた。結果を図9に示す。
ヒト白血病細胞同様、マウスリンパ腫細胞にについても同様な結果が得られたことは、ヒトのみならず他の動物における液性癌についても適応の可能性が示唆された。
[実施例5]
体表腫瘍組織照射装置
図10に示す体表腫瘍組織照射装置10を作製した。UVパルス光源1(QSO-7016UVSP、BHX-200に使用されているUVC発振管)からのUVパルスフラッシュ光を石英レンズ2(前側焦点距離26mm、後側焦点距離25mm)にて採光・集光し、その焦点面に直径1.0mm φ石英ファイバー3の採光口を設置、長さ1200mmの石英ファイバー3でプローブ4の先端まで導き照射できる。プローブ4の先端には1.5 mmのサファイアボール5を埋め込み、照射角75度を確保した。
担癌マウス
BALB/cA-nu/nu ♀。生後6週間よりACHN(ヒト腎癌細胞株)を皮下移植して担癌を開始した。
方法
上記担癌マウスの腫瘍径が20から30mmに腫大後、上記体表腫瘍組織照射装置による照射実験を開始した。0, 6, 18, 29および33日目に、それぞれ120秒間、癌部にプローブの先端を当接させてUVパルスフラッシュを照射した(図11参照)。併せて対象として、非腫瘍部皮膚に同被曝量の照射を行った。担癌マウスの腫瘍容積の推移を図12に示す。矢印は照射日を指す。図11に示すごとく、担癌の腫瘍サイズは942mm3,1308.33mm3とかなり大きな腫瘍塊で、体重は25.8gであった。容積は照射後1日から減少し、4日後に最初の低値を記録、翌日から増加傾向移行したため、第6日に第2回照射を実施した。容積の推移を確認しながら第5回照射まで行い、手術により腫瘍塊(残骸)を摘出した。併せてホルマリンパラフィン標本、電子顕微鏡標本を作製し、形態学的考察を加えた。その結果、腫瘍細胞は、壊死・融解・消失しており、その周りを取り囲むように、線維組織が取り巻いていた。容積比で約80%減で横ばいとなった原因は、腫瘍細胞が消滅し、その代わりに、修復過程で現れる線維組織に置き換わったためと想定される。線維組織は、正常細胞であるため、UVパルスフラシュ照射を受けても影響は受けない。加うるに、体重の変化は殆どなく当初の体重を維持したことは、腫瘍細胞が死滅したために、腫瘍に搾取される養分が本来の、生体維持に回されたと解釈でき、体重を維持したと考えられる。対象としての正常皮膚照射群では、形態へ変化は確認できなかった。
[参考例]
照射量測定条件
[1] パルス光源 QSO−70106UVSP (BHX-200)
ストロボ電源部 HD-200相当機
[2] 集光レンズ
[3] 1200mm長、1mmφ石英ファイバー
[4] サファイアボール
[20] 測定器 受光部 浜松ホトニクス製 UVモジュールH8496-11 φ8mm
計測部 京立電機製 DEF-2100
光学ベンチ X型 1000mm長
(1)実施例1〜5で用いたUVパルスフラッシュ光源「QSO−70106UVSP」(BHX-200、コメット株式会社。56Hz/s発光)の発光管の発光エネルギーを算出した。結果を表1に示す。なお、以下の全ての表中、1回=1パルスを意味する。1回あたりの「All energy」は式:1/2×コンデンサー容量(C)×電圧(V)2から求められる値であり、1回あたりの「UVC energy」は、波長の成分分析から当該「All energy」に基づいて求められる値である。
(2)図13(a)に示すようにして、発光管から80mmでの被照射量(実施例1〜4における細胞被曝線量に相当)を測定した。結果を表2に示す。
(3)図13(b)に示すようにして、1200mm長、1mmφ石英ファイバー照射口部の照射エネルギーを測定した。照射口とセンサー間の距離は4mmである。結果を表3に示す。
(4)図13(c)に示すようにして、1200mm長、1mmφ石英ファイバー+サファイアボールプローブの照射エネルギー(実施例5における腫瘍被曝線量に相当)を測定した。照射口とセンサー間の距離は4mmである。結果を表4に示す。
1:UVパルス光源
2:石英レンズ
3:石英ファイバー
4:プローブ
5:サファイアボール
6:フィルターガイド
10:体表腫瘍組織照射装置
20:照射量測定器

Claims (12)

  1. ヒトもしくはヒト以外の動物の生体外またはヒト以外の動物の生体内において、腫瘍細胞に、少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光(以下「UVパルスフラッシュ」という。)を照射するステップを含むことを特徴とする、腫瘍細胞を選択的に殺傷する方法。
  2. 前記UVパルスフラッシュが、積算出力90〜7100Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量を有するものである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記UVパルスフラッシュが、積算出力90〜14200Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量を有するものである、請求項1に記載の方法。
  4. 前記UVパルスフラッシュが、積算出力180〜14200Jの光源から8cmの距離における積算単位面積照射量を有するものである、請求項1に記載の方法。
  5. 前記UVパルスフラッシュが、UVCの波長に由来するエネルギーとして、6〜480J/cm2の積算単位面積照射量を有するものである、請求項1に記載の方法。
  6. 前記UVパルスフラッシュが、UVCの波長に由来するエネルギーとして、6〜960J/cm2の積算単位面積照射量を有するものである、請求項1に記載の方法。
  7. 前記UVパルスフラッシュが、UVCの波長に由来するエネルギーとして、12〜960J/cm2の積算単位面積照射量を有するものである、請求項1に記載の方法。
  8. 前記UVパルスフラッシュを照射するステップが1分以内である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 前記UVパルスフラッシュがキセノンフラッシュランプから発せられるものである、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 少なくとも230〜270nmにわたる連続的な発光スペクトルを有するパルス光(UVパルスフラッシュ)の光源を備えることを特徴とする、腫瘍組織治療用の装置。
  11. 前記装置が内視鏡、レーザ顕微鏡または体表腫瘍組織照射装置である、請求項10に記載の装置。
  12. 前記光源がキセノンフラッシュランプである、請求項10または11に記載の装置。
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