JP2011042849A - 金型用鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】製品自体の低廉化はもとより、金型寿命の延長,金型用鋼の低廉化とによって金型に要するコストを低減し、それら全体によって製品コストを有効に低廉化することのできる金型用鋼を提供する。
【解決手段】金型用鋼を質量%で0.15 ≦ C ≦ 0.30,0.01 ≦ Si < 0.19,1.50 < Mn ≦ 1.78,1.01 < Cr < 3.05,0.48 < Mo < 0.88,0.01 ≦ V < 0.21,0.004 ≦ Nb < 0.03,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有するものとする。
【選択図】 なし

Description

この発明はプラスチックやゴムの射出成形,ダイカスト,低圧鋳造,鍛造等の金型に適用して好適な金型用鋼に関する。
近年、プラスチックやゴムの射出成形品,ダイカスト品,低圧鋳造品,鍛造品等の製品コストの低廉化のニーズが高まっており、そのための手段として、金型寿命の延長(I),金型用鋼の低廉化(II)が、鋳造品等の製品自体の低廉化(III)等と併せて有用な手段である。
ここで(I)の金型寿命の延長は金型コストを左右する大きな要因となる。
金型寿命が長ければ1つの金型にて製造できる製品の個数が多くなり、必然的に製品1個あたりに占める金型コストの比率は小となる。
逆に金型寿命が短ければ製品1個あたりに占める金型コストの比率は大となる。
ところで、近年生産性向上と短納期化の観点から、製品成形のハイサイクル化が進んできており、ダイカストを例にとると、ハイサイクル対応の鋳造機も開発されるようになってきた。
ところがこのハイサイクル化は、金型寿命を短寿命化する要因となる。
この点をダイカストを例にとって以下説明する。
ダイカストとは、金型に形成されたキャビティ(成形空間)内に金属溶湯を充填し、凝固させて取り出す鋳造方法であり、キャビティの形状によって鋳造品の形状を自由に制御でき、生産性が高い特長を有する。特にAl合金のダイカストは自動車産業の発展に呼応して大きく成長してきた。
このダイカストの製造工程は、給湯→射出→凝固→型開き→製品取出し→離型剤塗布→型締め→給湯の順で行われ、この場合において離型剤塗布は、高温の金属との接触によって上昇した金型表面温度を低下させると同時に鋳造製品の取出しを容易にするための皮膜処理の意味を持つ重要な工程である。
このようなダイカストにおいて、製品製造のハイサイクル化のためには金型の冷却速度を高めることが重要である。
ダイカスト製品の製造を単純にハイサイクル化した場合、金型の冷却時間が十分に確保されないまま(型の温度が下がりきらないうちに)、次の鋳造サイクルを迎えることとなり、必然的に金型の表面温度が高くなる。
金型表面の高温度化は、鋳造品の凝固速度の低下を招くため、鋳造品質の劣化に直結する重大な問題である。
またより高温で金型から取り出された鋳造品は、その後の冷却による熱収縮が大きく、寸法精度に悪影響が及ぶ。更に高温で取り出された製品は、その後の冷却中に変形を生じ易い。
そこでこのような不具合を是正するため、ハイサイクル化においては金型の冷却速度を速めることが非常に重要となってくる。
ところがこのようなハイサイクル化の下では、金型に負荷される引張りの熱応力が増大し、金型表面のヒートチェックを助長する結果となる。
ここでヒートチェックは摩耗,溶損,腐食等によって発生した表面の微小な切欠部に熱応力(特に溶湯充填により高温度化した金型表面に対するその後の強制冷却による引張応力)が作用して亀裂が発生及び進展する現象で、加熱・冷却に伴う熱疲労現象である。
このようなヒートチェックが生ずると、製品表面にこれが転写されてしまい、製品によっては品質が著しく損なわれるか又はゼロとなってしまう。
この意味において金型表面に生ずるヒートチェックは金型寿命を決する大きな要因となる。
金型の寿命を決定するその他の重要な要因として、金型の機械疲労強度の問題がある。
例えば金型を構成する鋼組織に粗大な異物が存在すると、そこを起点として亀裂が発生し金型寿命を短くしてしまう。
更に金型の衝撃値が低かったり、或いは高温強度が低い場合においても金型の寿命は低下する。
従ってその対策として急速加熱・冷却の下で金型に負荷される熱応力を低減すること、金型の機械疲労強度の向上、衝撃値及び高温強度の向上を図ることが有効な対策となる。
ここで金型に負荷される熱応力を低減する上で、金型の熱伝導率を高くしておくことが有用である。
金型の熱伝導率を高くしておけば加熱・冷却の際の金型表面温度と内部温度との差を小さくでき、金型表面に生ずる熱応力を低減することができる。また金型の冷却速度を速めることができる。
一方、金型用鋼の低廉化については、熱間加工時の熱間加工性を改善し、加工中の割れを回避して歩留りを高めることが有用な手段となる。
熱間加工性が悪いと熱間加工中に割れを生じ、このことが歩留りを悪化させて金型用鋼に要するコストを高めてしまう。
更に熱間加工性の悪いものは、熱間加工途中で何回か再加熱(リヒート)が必要となり、この場合熱間加工のプロセスが煩雑化して生産性を落としてしまう。このこともまた金型用鋼に要するコスト上昇の要因となる。
金型用鋼の低廉化の上で、添加する高価な希少元素の低減及び被削性を確保することも重要である。
被削性が悪いと金型用鋼に機械加工を施して金型を製作する際の加工の手間と時間が増し、このことがコストの上昇をもたらす。
次に、当然のことながら(III)の製品自体の低廉化も重要である。
この製品自体の低廉化は生産サイクルの短縮化によって、更には不良率を低減することによって実現できる。
例えば鋳造品について言えば、キャビティへの溶湯の充填後における型温の急速低下及びこれに伴う溶湯の急速凝固によって、生産サイクルタイムの短縮化を実現することができる。
ここで金型の型温の急速低下のためには金型の熱伝導率を大きくすることが有効な手段となる。
尚、説明は省略したが上記の状況はプラスチック,ゴムの射出成形,低圧鋳造や鍛造の分野においても同様である。
本発明の先行技術として、下記特許文献1には「ダイカスト金型用プリハードン鋼」についての発明が示され、そこにおいて30HRC以上40HRC以下のロックウェル硬さを有するダイカスト金型用プリハードン鋼の組成を「質量含有率で、0.15%以上0.35%以下のCと、0.05%以上0.20%未満のSiと、0.05%以上1.50%以下のMnと、0.020%以下のPと、0.013%以下のSと、0.10%以下のCuと、0.20%以下のNiと、0.20%以上2.50%以下のCrと、0.50%以上3.00%以下のMoと、合わせて0.05%以上0.30%以下のV及びNbと、0.020%以上0.040%以下のAlと、0.003%以下のOと、0.010%以上0.020%以下のNとを含有して残部が実質的にFe」から成る組成となした点が開示されている。
この特許文献1に開示のものはSi,Cr,Mnの含有量の上限をSi:0.20%未満,Cr:2.5%以下,Mn:1.50%以下とすることで、粒界酸化による粒界の脆化を防止し、耐ヒートチェック性を向上させるようになしたものであり、この特許文献1においてV+Nb=0.05〜0.30%となした点が開示されている。
但し実施例に開示のものは何れもNbの含有量が0.03%以上のものであり、かかる特許文献1に開示のものはNb含有量において本発明とは異なった別異のものである。
また下記特許文献2には「ダイカスト金型用プリハードン鋼」についての発明が示され、そこにおいてプリハードン鋼の組成を「重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.20〜0.35%、Mn:0.50〜2.00%、P:0.02%以下、S:0.013%以下、Cu:0.10%以下、Ni:0.20%以下、Cr:1.00〜3.00%、Mo:0.20〜1.00%、V及びNbのうちの1種または2種:0.05〜0.30%、s−Al:0.03%以下、O:0.003%以下、N:0.020%以下ならびに介在物:0.10%以下を含有し、残部が実質的にFe」から成る組成となした点が開示されている。
この特許文献2に開示のものは、Cr−Mo鋼のプリハードン鋼のS含有量を0.013%以下に下げるとともに、介在物含有量を0.10%以下に下げることで、被削性を大幅に低下することなく耐ヒートチェック性を改善するようになしたものであるが、この特許文献2に開示のものはSi含有量が本発明と異なり、またNbの含有量が実施例として開示されているものにおいて何れも0.07%以上の高含有量であり、この点において本発明とは異なった別異のものである。
更に下記特許文献3には「熱間工具鋼」についての発明が示され、請求項1の記載としてNbを0.01〜0.15%含有した点が開示されている。
しかしながらこの特許文献3においても、実施例として開示されているものは何れもNbの含有量が0.04%以上の高含有量であり、これもまた本発明と異なった別異のものである。
またこれら特許文献1〜特許文献3に開示の何れのものも、本発明の技術的思想を開示していない。
特開2005−307242号公報 特開2003−138342号公報 特開平6−88163号公報
本発明は以上のような事情を背景とし、製品自体の低廉化はもとより、ヒートチェックの低減、焼付きの軽減,機械疲労強度と衝撃値の確保による金型寿命の延長と、稀少元素の低減、被削性の確保による金型用鋼の低廉化とによって金型に要するコストを低減し、それら全体によって製品コストを総合的且つ有効に低廉化することのできる金型用鋼を提供することを目的としてなされたものである。
而して請求項1は金型用鋼に関するもので、質量%で0.15 ≦ C ≦ 0.30,0.01 ≦ Si < 0.19,1.50 < Mn ≦ 1.78,1.01 < Cr < 3.05,0.48 < Mo < 0.88,0.01 ≦ V < 0.21,0.004 ≦ Nb < 0.03,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする。
請求項2のものは、請求項1において、質量%で0.30 ≦ W ≦ 4.00を更に含有して成ることを特徴とする。
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%で0.30 ≦ Co ≦ 3.00を更に含有して成ることを特徴とする。
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で0.004 ≦ Ta ≦ 0.100,0.004 ≦ Ti ≦ 0.100,0.004 ≦ Zr ≦ 0.100,0.004 ≦ Al ≦ 0.050,0.004 ≦ N ≦ 0.050のうち少なくとも1種以上を更に含有して成ることを特徴とする。
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で0.15 ≦ Cu ≦ 1.50,0.15 ≦ Ni ≦ 1.50,0.0010 ≦ B ≦ 0.0100のうち少なくとも1種以上を更に含有して成ることを特徴とする。
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で0.010 ≦ S ≦ 0.50,0.0005 ≦ Ca ≦ 0.2000,0.03 ≦ Se ≦ 0.50,0.005 ≦ Te ≦ 0.100,0.01 ≦ Bi ≦ 0.30,0.03 ≦ Pb ≦ 0.50のうち少なくとも1種以上を更に含有して成ることを特徴とする。
請求項7のものは、請求項1〜6の何れかに記載のダイカスト用の金型用鋼であることを特徴とする。
尚本発明において、「金型」には金型本体はもとより、これに組み付けられて使用されるピン等の金型部品も含まれる。更に、本発明の鋼からなる金型で、表面処理が施されたものも含まれる。
発明の作用・効果
本発明では、結晶粒微細化のためにNbを含有させるが、本発明ではその含有量範囲を0.004%以上,0.03%未満に規制することを1つの特徴としている。
即ち、従来では結晶粒微細化のために比較的多量のNbを添加しているが、本発明では所定量(下限値)以上のNbを添加して結晶粒微細化の効果を確保しつつ、Nbの添加量を少なく規制している。
従来のようにNbの添加量を多くすると、溶鋼を凝固させてインゴットとするとき、工業的に大きなインゴット例えば5t(ton)とか10tとかの大きなインゴットであると、凝固の過程でNbの炭窒化物(NbCN)が粗大に晶出する。
50kgとか100kg程度の小さなインゴットの場合には凝固の速度が速いために、Nbは小さく晶出し粗大な異物となって晶出し難い。
しかるに工業的に大きなインゴットの場合には凝固の速度が遅く、そのためにNbが粗大な炭窒化物即ち異物となって鋼組織中に晶出する。
晶出したNbの炭窒化物は極めて高融点で、一旦晶出した後はその後の加熱処理に際しても固溶することはなく、そのまま最終まで組織中に残存する。
而してNbの単窒化物が微細であればピン止め効果(ピンニング効果)を発揮するものの、粗大なNbの炭窒化物はピンニングの働きをせず、却って異物となってこれが亀裂発生の起点となり、金型の機械疲労寿命を低下させる。
本発明者は、Nbの添加量を0.03%未満とすることで、溶鋼を凝固させて工業サイズのインゴットとする際にNbの粗大炭窒化物の晶出を抑制でき、これにより金型の機械疲労寿命を効果的に高寿命化できる知見を得た。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
この粗大なNbの炭窒化物は、金型の衝撃値も低下させる。
従って本発明によれば、粗大なNbの炭窒化物の晶出の抑制によって金型の衝撃値即ち靭性も高めることができる。
Nbはまた、鋼に添加されることによって鋼の再結晶温度を上昇させる作用もなす。
鋼の再結晶温度が上昇すれば熱間加工時に鋼が再結晶し難くなって変形抵抗が大きくなることで加工がし難くなり、変形能が小さくなることで熱間加工中に割れを生じ易くなる。
そしてそのことが金型用鋼の歩留りを悪化させ、ひいては金型用鋼の材料コストを押し上げる要因となる。
或いは熱間加工中での割れを防止すべく、熱間加工途中での再加熱を繰返し多く行うことが必要となる。
この場合熱間加工のプロセスが複雑化し、生産速度も低下して、同じく金型用鋼の材料コストを押し上げる要因となる。
本発明では、Nbの添加量を0.03%未満と抑制しているため、鋼の再結晶温度の上昇を有効に抑制でき、そのことによって熱間加工中の割れを回避し、或いは熱間加工中の再加熱(リヒート)の回数を少なくし得て生産性を高め得、金型用鋼の材料コストを低減することができる。
本発明ではまた、Siの添加量を0.01%以上とすることで鋼の被削性を確保しつつ、その添加量を0.19%未満に規制することで金型の熱伝導率を高くする。
而して金型の熱伝導率を高くすることで、金型の加熱・冷却に対する応答性を高めることができる。例えばダイカスト品鋳造時における冷却の際に金型を良く冷却することができ、これにより鋳造品の凝固速度を速め得て鋳造組織を微細化でき、また巣の発生を無くし若しくは抑制して鋳造品を高品位化できるとともに、生産のサイクルをハイサイクル化し得て、鋳造品の製造コストを低減することができる。
加えて熱伝導率を高めることによって金型寿命も高寿命化することができる。
金型の熱伝導率が高くなることで、加熱・冷却の際の金型表面と内部との温度差を少なくでき、これにより金型表面における引張りの熱応力を低減し得て、金型表面の亀裂発生を抑制することができ、以て耐ヒートチェック性を高め得て金型寿命を延長することができる。
即ち本発明によれば、粗大なNbの炭窒化物の生成の抑制と、金型の高熱伝導率化とによって、金型寿命を高寿命化することが可能となる。
また加熱・冷却に対する金型の応答性を高くし得ることによって生産のサイクルタイムを短くでき、生産性を高めることができる。
また鋳造の際の金型温度を低くできるので、溶融Alと金型の「濡れ」が悪くなり、鋳造の際に金型への鋳造品の焼付きが起り難くなる。
このような焼付きが生じると製品の取出しが困難となり、またメンテナンスも必要となって、生産性を低下させる要因となる。
しかるに金型温度を下げることで焼付きの発生を抑制でき、生産性を高めることができるとともに、製品不良率の発生を低減することが可能となる。
本発明ではまた、高価な希少元素であるMo,Vの添加量を少なく規制しており、このことによって金型用鋼の材料コストそのものを低減することができる。
そしてこれら全体によって、金型を用いて生産される製品のコストを効果的に低減することができる。
次に本発明における各化学成分及びその限定理由等について以下に詳述する。
0.15 ≦ C ≦ 0.30
0.15%未満では必要な硬さ34HRC以上を得にくい。0.30%を越えると硬くなるため、焼入れ焼戻し状態の被削性が劣化する。
また炭化物量や炭窒化物量が過度となり、疲労強度や衝撃値を劣化させる。好適な範囲は、硬さと疲労強度と衝撃値のバランスに優れた0.18 ≦ C ≦ 0.27である。更に好ましくは0.20 ≦ C ≦ 0.24である。
0.01 ≦ Si < 0.19
0.01%未満では被削性の劣化が著しく、金型形状への加工が非常に難しくなる。0.19%以上になると熱伝導率の低下が大きい。好適な範囲は高い熱伝導率が得られ、かつ工業的な被削性が確保できるSi≦0.15である。特に高い熱伝導率が必要な場合は、Si<0.10がさらに好ましい範囲となる。
これらの様子を示したものが図1と図2である。
図1は、0.30C-1.52Mn-3.04Cr-0.80Mo-0.11V-0.01Nb-Si鋼を切削した場合に、切削工具が寿命となるまでに削った距離をSi量に対して示している。試験片は55mm×55mm×200mmの角材であり、長さ200mmの方向に切削を繰り返し、切削工具の横逃げ面最大磨耗量が300μmとなった時点(累積切削距離)を寿命と判定した。切削距離が大きいほど良く削れて好ましい。
Siが0.01%未満では、切削距離が極端に小さくなっている。Siの増加によって切削距離は大きくなる。しかしSiが0.19%を越えると、依然としてSiが多いほど良く削れる傾向はあるものの、低Si側に比べれば改善効果は顕著でない。
尚、被削性評価用の素材は以下の手順で作成した。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tonのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに、1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。ブロックが620℃になった時点でゆっくりとした冷却を中止し、ブロックを炉から出して室温まで放冷した。
このような一連の処理によって、硬さが90HRB程度と軟質で組織の均一な状態のブロックを製造した。このブロックを素材として,55mm×55mm×200mmの試験片を作成し、被削性を調査した結果を示したのが図1である。
図1の試験に用いたのと同じ素材の同じ部位から削りだしたφ11mm×50mmの丸棒を920℃に加熱して急冷し,焼戻して38HRCに調質した。更にこの丸棒からφ10mm×2mmの熱伝導率測定用試験片を作成した。レーザーフラッシュ法によって室温で測定した熱伝導率を、Si量に対して示せば図2の通りである。
熱伝導率が大きいほど、金型となった場合の冷却能に優れるため好ましい。
熱伝導率は、後に述べるようにMn,Cr等の他の元素によっても影響されるが、SKD61(熱伝導率24W/m/K)と比較して,冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上の熱伝導率を得るため、本発明ではSi量を0.19%未満とする。
1.50 < Mn ≦ 1.78
1.50%以下では焼き入れ性が不足し、硬さや衝撃値の確保が困難である。1.78%を越えると、高い熱伝導率の維持が困難となる。好適な範囲は、硬さと衝撃値を確保でき、かつ高い熱伝導率が得られる1.50 < Mn ≦ 1.65である。
これらの様子を示したものが図3と図4である。
0.30C-0.15Si-3.04Cr-0.81Mo-0.12V-0.01Nb-Mn鋼から作成した100mm×100mm×60mmのブロックを920℃に加熱して急冷、焼戻して38HRCに調質した。更にこのブロックの中央部から10mm×10mm×55mmのJIS 3号衝撃試験片を作成し、衝撃値を室温で測定した。
図3は,衝撃値をMn量に対してプロットしている。衝撃値が大きいほど、金型となった場合に割れにくいため好ましい。Mn含有量が少ない鋼は、ブロック中央部まで焼きが入り難い(焼入れ性が悪い)ため、粗大な組織となりやすく、低衝撃値である。Mn量の増加によって焼入れ性が改善されるため、衝撃値は上昇する。そしてMn量が1.50%を越えると衝撃値は高位安定となっている。
尚、衝撃値評価用の素材は以下の手順で作成した。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。
鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。ブロックが620℃になった時点でゆっくりとした冷却を中止し、ブロックを炉から出して室温まで放冷した。このような一連の処理によって、硬さが90HRB程度と軟質で組織の均一な状態のブロックを製造した。
このブロックを素材として、その横断面中央付近から11mm×11mm×60mmの角棒を作成し、この角棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。更にこの角棒から10mm×10mm×55mmのJIS 3号衝撃試験片を作成し、JIS Z 2242に準拠してシャルピー衝撃値を調査した結果を示したのが図3である。
図3の試験に用いたと同じ素材の同じ部位から削りだしたφ11mm×50mmの丸棒を1030℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。更にこの丸棒からφ10mm×2mmの熱伝導率測定用試験片を作成した。レーザーフラッシュ法によって室温で測定した熱伝導率を、Mn量に対して示せば図4の通りである。
SKD61(熱伝導率24W/m/K)と比較して、冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上の熱伝導率を得るため、本発明ではMn量を1.78%以下とする。
1.01 < Cr < 3.05
1.01%以下では焼き入れ性が不足し、硬さと衝撃値が充分に得られない。一方でCr量が3.05%以上では、高い熱伝導率の維持が困難となる。好適な範囲は、硬さと衝撃値と熱伝導率のバランスに優れた1.50 ≦ Cr ≦ 2.50である。更に好ましくは1.75 ≦ Cr ≦ 2.25である。
これらの様子を示したものが図5と図6である。
0.30C-0.15Si-1.78Mn-0.79Mo-0.10V-0.01Nb-Cr鋼から作成した100mm×100mm×60mmのブロックを920℃に加熱して急冷,焼戻して38HRCに調質した。更にこのブロックの中央部から10mm×10mm×55mmのJIS 3号衝撃試験片を作成し、衝撃値を室温で測定した。図5は,室温における衝撃値を、Cr量に対してプロットしている。
Cr含有量が少ない鋼は、ブロック中央部まで焼きが入り難い(焼入れ性が悪い)ため、粗大な組織となりやすく、低衝撃値である。特にCrが1.01%以下では衝撃値の低下が顕著である。一方、Cr量の増加によって焼入れ性が改善されるため、衝撃値は上昇する。Crが1.01〜3.05%においては、衝撃値は高位安定である。
尚、衝撃値評価用の素材は上述したMnの影響を調べた場合と同様の手順で作成した。
図5の試験に用いたと同じ素材の同じ部位から削りだしたφ11mm×50mmの丸棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。更にこの丸棒からφ10mm×2mmの熱伝導率測定用試験片を作成した。レーザーフラッシュ法によって室温で測定した熱伝導率を、Cr量に対して示せば図6の通りである。
SKD61(熱伝導率24W/m/K)と比較して、冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上の熱伝導率を得るため、本発明ではCr量を3.05%未満とする。
0.48 < Mo < 0.88
0.48%以下では、充分な高温強度が得られない。0.88%以上では,脆化して衝撃値が低下する。このような観点から好適な範囲は0.60 ≦ Mo ≦ 0.85である。
この様子を示したものが図7と図8である。
0.22C-0.08Si-1.73Mn-1.04Cr-0.11V-0.01Nb-Mo鋼から作成したφ15mm×50mmの丸棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。更にこの丸棒からφ14mm×21mmの変形抵抗測定用試験片を作成し、試験片を5℃/sで600℃に加熱して100sの保持後、ひずみ速度10s−1で軸方向に圧縮加工して変形抵抗(高温強度)を測定した。この時の変形抵抗をMo量に対して示せば図7の通りである。
高変形抵抗であるほど強度が高いため、磨耗しにくく好ましい。変形抵抗(高温強度)は、Mo量が0.48%以下では急減しており、この範囲を避けることが耐磨耗性の確保には必須と考えられる。
尚、変形抵抗評価用の素材は以下の手順で作成した。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに、1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。
鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。ブロックが620℃になった時点でゆっくりとした冷却を中止し、ブロックを炉から出して室温まで放冷した。このような一連の処理によって、硬さが90HRB程度と軟質で組織の均一な状態のブロックを製造した。
このブロックを素材として、その横断面中央付近からφ15mm×50mmの丸棒を削りだし、この丸棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。更にこの丸棒からφ14mm×21mmの試験片を作成し、変形抵抗を調査した結果を示したのが図7である。
図7の試験に用いたと同じ素材の同じ部位から11mm×11mm×60mmの角棒を作成し、この角棒を920℃に加熱して急冷し、戻して38HRCに調質した。更にこの角棒から10mm×10mm×55mmのJIS 3号衝撃試験片を作成してシャルピー衝撃値を調査した。図8は衝撃値をMo量に対してプロットしている。
Mo量が0.4%程度までは、高Mo材の方が高衝撃値であるが、Mo量が0.88%以上では脆化が無視できない。また汎用鋼として考えると、Mo量が0.88%以上ではコスト増が工業的な問題となる。
0.01 ≦ V < 0.21
0.01%未満では、軟化抵抗が充分ではない。0.21%以上では,粗大炭化物の量が過度となり、衝撃値を劣化させる。好適な範囲は軟化抵抗と疲労強度のバランスに優れた0.05 ≦ V ≦ 0.15である。
この様子を示したものが図9である。図9は,38HRCに調質した0.22C-0.09Si-1.52Mn-1.95Cr-0.80Mo-0.01Nb-V鋼の600℃における軟化抵抗を示す。試験片は10mm×10mm×30mmの角棒であり、600℃で30Hr保持した後に室温まで冷却して硬さを測定し、初期硬さ38HRCからの低下量ΔHRCを評価した。図9では,V量に対してΔHRCをプロットしている。ΔHRCの小さい方が、耐熱性に優れて好ましい。V量が0.01%未満では、軟化抵抗の改善効果はほとんど認められない。
Vが軟化抵抗を改善するのは、Vが焼入れ時にオーステナイト中に固溶した場合に限られる。焼戻しによって析出した微細なV炭化物が,粗大化しにくいために硬さの低下を遅らせるのである。従って軟化抵抗の改善に対しては、焼入れ時に固溶するだけのV量を添加すれば良い。
一般に汎用鋼の焼入れ温度は1000℃以下であるが、この温度域で固溶するV量は0.21%未満である。
よってV量は0.21%未満で十分である。また汎用鋼として考えると、V量が0.21%以上ではコスト増が工業的な問題となる。
尚、軟化抵抗評価用の素材は以下の手順で作成した。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに、1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。
ブロックが620℃になった時点でゆっくりとした冷却を中止し、ブロックを炉から出して室温まで放冷した。このような一連の処理によって、硬さが90HRB程度と軟質で組織の均一な状態のブロックを製造した。このブロックを素材として、その横断面中央付近から11mm×11mm×62mmの角棒を削りだし、この角棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。
更にこの角棒から10mm×10mm×30mmの試験片を作成し、軟化抵抗を調査した結果を示したのが図9である。
0.004≦Nb<0.03
0.004%未満では、焼入れ時の結晶粒の成長を抑制する効果に乏しい。0.03%以上では粗大な炭窒化物が形成され、衝撃値と機械疲労強度が低下する。特に疲労強度の低下が著しい。
また0.03%以上では、再結晶温度が過度に上昇するため、金型用素材の熱間加工において、割れ,加工力の増大,加工工程時間の延長を招き、素材コストの上昇が問題となる。
好適な範囲は結晶粒成長の抑制効果に優れ、高い疲労強度が確保でき、熱間加工性も阻害しない0.007≦Nb≦0.027である。
これらの様子を示したものが図10と図11と図12である。
0.22C-0.08Si-1.53Mn-1.91Cr-0.80Mo-0.11V-Nb鋼から作成した11mm×11mm×60mmの角棒を980℃に加熱し、30minの保持後に急冷した。更に575℃で焼戻して38HRCに調質した。
この角棒の表面を薬品で腐食して金属組織を現出させ、その観察によって評価したオーステナイト結晶粒度(JIS G 0551に準拠)をNb量に対して示せば、図10の通りである。粒度が大きいほど強靭性に優れるため好ましい。
一般に焼入れ時の粒度は4を越えることが望ましいとされるが、Nb量が0.004%未満では結晶粒度が4以下と小さく、経験的な推奨値を満たすことができない。Nb量が0.03%では結晶粒度が7.6と大きく、結晶粒は相当に微細である。更にNb量が増えると粒度も増加するが、増加の程度はそれほど顕著ではない。
尚、組織観察用の素材は以下の手順で作成した。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。
ブロックが620℃になった時点でゆっくりとした冷却を中止し、ブロックを炉から出して室温まで放冷した。このような一連の処理によって、硬さが90HRB程度と軟質で組織の均一な状態のブロックを製造した。このブロックを素材として、その横断面中央付近から11mm×11mm×60mmの角棒を作成し、この角棒を920℃に加熱して急冷し、戻して38HRCに調質した。更にこの角棒表面の金属組織を現出して、オーステナイト結晶粒度を調査した結果を示したのが図10である。
図11は、図10の調査に用いた角棒から10mm×10mm×55mmの衝撃試験片(JIS 3号)を作成し、室温で測定したシャルピー衝撃値をNb量に対してプロットしている。
衝撃値が高いほど、予期せぬ衝撃荷重に対して割れ難いため好ましい。衝撃値の変化は、結晶粒度の変化を示した図10とおおよそ対応している。
衝撃値は細粒化によって増加する。ただしNbが0.03%以上では衝撃値が減少する。この理由は,粗大なNbCNを起点とした亀裂が発生しやすくなるためである。それでも、0.2%Nb鋼は0.004%Nb鋼よりもやや高い衝撃値を確保している。
図12は、図10の試験に用いたと同じ素材の同じ部位から平行部がφ6mm×18mmで全長が150mmの回転曲げ疲労試験片を作成し、室温で評価した10サイクルの疲労強度(時間強度)をNb量に対してプロットしている。ここで回転曲げ疲労試験は、試験片の一方の端部を支持して他方の端部に錘をぶら下げて荷重付加し、試験片の支持部を試験片の軸を中心として回転させて回転数10で試験片が破壊に到ったときの応力値をもって疲労強度を評価した。疲労強度が高いほど、繰り返し負荷に対して割れ難いため好ましい。
疲労試験の負荷様式は実用に供された金型に近いため、疲労強度の優劣は実際の金型寿命の長短と良く対応する。衝撃値の変化を示した図11と同様に、疲労強度はNb量に対して極大値を示す。
この理由は、衝撃値の場合と同じである。ただしNbが0.03%以上における特性の劣化は、衝撃値の場合よりも顕著である。即ちNb量の影響が大きい。Nbが0.004%以上で0.03%直近(未満)までは964MPaを越える高い疲労強度を示すのに対し、それ以上のNb量では強度の低下の度合が大きい。
疲労試験後の破断面を観察したところ、疲労強度が低い高Nb材の亀裂の起点には粗大な異物が観察され、X線による分析の結果、この異物を構成する元素としてNb,C,Nが検出された。即ちこの異物はNbCNであることが分った。粗大なNbCNは、機械疲労強度に対して極めて有害である。
一方、疲労強度が低い低Nb材には粗大なNbCNが認められなかった。亀裂の起点に存在した異物も小さく、X線による元素分析の結果、これは酸化物や硫化物であった。
低Nb材の疲労強度が低下した大きな要因は、結晶粒度が小さいため、亀裂の進展が容易であったことと考えられる。
尚、疲労強度試験片の作成手順を補足すると以下の通りである。
先ず素材の中央付近からφ22mm×160mmの丸棒を作成し、この丸棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。
更にこの丸棒から平行部がφ6mm×18mmで全長が150mmの回転曲げ疲労試験片を作成し、疲労強度を調査した結果を示したのが図12である。
図10〜図12から,0.004≦Nb<0.03が望ましいことは明らかである。特に工業サイズのインゴットから製造された鋼製品(この場合は金型)の機械疲労強度を考慮した場合、通常(先行特許文献に開示の発明例)よりも少な目のNb量を選定することが重要と言える。
尚Nbには軟化抵抗や耐磨耗性を高める効果もあるが、本発明で規定した少量添加では、そのような効果はほとんど期待できない。従って本発明のNb添加は、軟化抵抗や耐磨耗性の改善を目的としたものではない。
[機械疲労とNb]
金型には応力が繰り返し付与されるため、周期的な応力が長いサイクルにわたって負荷された場合の破壊挙動、即ち疲労強度が非常に重要である。疲労強度は亀裂の起点になる粗大な異物が多いと低下する。本発明では粗大なNbCNが代表的な異物となる。
NbCNは凝固の際に形成され、以降の熱処理では固溶しにくい。従って疲労強度の確保には、粗大なNbCNを凝固の際に形成させないことが必須となる。NbCNのサイズは凝固速度が小さいほど大きくなるため、粗大なNbCNの形成を避けるには、インゴットに射込んだ溶鋼を急速に凝固させなければならない。
実験用の小さなインゴット(数kg〜数100kg)では、凝固速度が大きいためNbCNはそれほど大きくならない。
一方、凝固速度が小さくなる工業サイズ(数t〜数10t)のインゴットにおいては、NbCNは極めて粗大となる。従って金型になった場合の疲労強度の低下が問題となるのである。
Nbには、結晶粒の成長を抑制して衝撃値などの機械的性質を改善する効果がある反面、適正なNb添加量を選定しないと疲労強度の低下を招き、適正な金型寿命は得られないのである。従って金型寿命の延長を検討するうえで、Nb添加量の適正化は極めて重要な課題である。工業サイズの大きなインゴットを前提とした場合は、通常(先行発明例)よりも少な目のNb量を選定することが肝要である。
[熱間加工性とNb]
鋼を金型用の素材に成形する熱間加工においては、工程中で再結晶が繰り返し起こる。再結晶は歪の開放を担う現象であり、歪を開放した素材は軟質で高延性である。従って再結晶した素材は、後続する熱間加工工程中で、変形抵抗が高いために加工し難いとか、変形能が低いために割れる、といった問題を起こしにくい。再結晶すれば、熱間加工性を確保できるのである。
ところでNbは再結晶を著しく抑制する元素である。Nbを添加すると、鋼の再結晶温度は上昇する。即ちNb含有鋼はNb無添加鋼よりも高温でないと再結晶しない。
熱間加工工程中の素材は、工具との接触や大気への放熱によって表面温度が低下してゆく。表面温度が再結晶温度以下になると、上記の問題(高変形抵抗で加工し難い、低変形能で割れ易い)が起き易くなる。
そこで温度が下がった素材は加熱炉に戻されて、再結晶温度を越える温度まで再加熱される。所定の温度になると炉から出されて、再び熱間加工が継続される。再加熱は熱間加工性を回復させる処置である。
ここでNb含有鋼はNb無添加鋼よりも高温でないと再結晶しないため、必然的に炉に戻して再加熱する回数が増える。即ち工程時間が延長して生産性が低下し、素材コストが上昇しやすい。
また温度が低下してくると、Nb含有鋼はNb無添加鋼よりも変形能が低いため、割れが発生しやすい。即ち歩留まりが悪化して素材コストが上昇しやすい。
即ち、Nbには、結晶粒の成長を抑制して衝撃値などの機械的性質を改善する効果がある反面、適正なNb添加量を選定しないと再結晶温度の過度な上昇を招き、熱間加工性の確保(低変形抵抗・高変形能)が困難になる。
従って金型用鋼の低廉化を検討するうえで、Nb添加量の適正化は極めて重要な課題である。
通常、Nb無添加の鋼の再結晶は、780℃以上の温度域で起こる。この鋼にNbを0.03%以上添加すると、再結晶は、1000℃以上の温度域でないと起こらなくなる。つまり、通常の鋼は約800℃まで温度が下がっても、熱間加工性を何とか確保できる。しかし0.03%Nb鋼の場合は、1000℃以上でないと熱間加工性が確保できない。また、Nb量が0.05%を超える鋼では、1050℃以上の温度域でないと再結晶が起こらなくなる。
一般に熱間加工は1000℃以上でおこなわれるため、この温度域で再結晶することが熱間加工性の確保、即ち低変形抵抗・高変形能の維持、には必須となる。
そこでNbが変形抵抗と変形能に及ぼす影響を調査した。熱間加工の下限温度に近い1000℃、及び熱間加工の最大加工量に近い圧縮率50%を対象とした。
この様子を示したものが図13と図14である。
図10の試験に用いたと同じ素材の同じ部位からφ14mm×21mmの変形抵抗測定用試験片を作成し、この試験片を5℃/sで1000℃に加熱して100sの保持後、ひずみ速度10s−1で加工して変形抵抗を測定した。加工量は試験片の高さが初期状態の半分となる圧縮率50%としている。
この時の変形抵抗をNb量に対して示せば図13の通りである。低変形抵抗であるほど熱間加工に対する抵抗が低いため、加工しやすく好ましい。変形抵抗は、Nb量が0.03%付近を境に急変しており、これよりも低Nb側では変形抵抗が低く、加工性が良いと言える。なお、Nb量が異なる各鋼種とも、それぞれ10個の試験片を加工し,変形抵抗としては10個の平均値をプロットした。
また50%の加工を受けた試験片を室温まで放冷し、冷却後に表面を観察したところ、割れが観察される場合もあった。各鋼種とも加工した10個の試験片のうち何個が割れたかを割れ発生率とし、これをNb量に対して示せば、図14の通りである。割れ発生率が低いほど,歩留まりが高く好ましい。割れ発生率は0.03%Nb材で50%となり、ちょうど半数が割れた事になる。
これよりも低Nb側では割れ発生率が低く、加工性が良い(歩留まりが良い)と言える。半数以上が割れる状況では、工業的にも歩留まりの低下が顕著であるため、Nb量は0.03%未満が適正と考えられる。この値は図10〜図12とも矛盾しない。
本発明では、不純物成分について以下のように規制することができる。
W < 0.30%
Co < 0.30%
Ta < 0.004%
Ti < 0.004%
Zr < 0.004%
Al < 0.004%
N < 0.004%
Cu < 0.15%
Ni < 0.15%
B < 0.0010%
S < 0.010%
Ca < 0.0005%
Se < 0.03%
Te < 0.005%
Bi < 0.01%
Pb < 0.03%
Mg < 0.005%
O < 0.0080%
本発明では、炭化物の析出によって強度を上げるため、必要に応じて下記範囲でWを添加することができる。
0.30 ≦ W ≦ 4.00
0.30%未満では高強度化の効果が小さく、4.00%を越えると効果の飽和と著しいコスト増を招く。
本発明ではまた、母材への固溶によって強度を上げるため、必要に応じて下記範囲でCoを添加することができる。
0.30 ≦ Co ≦ 3.00
0.30%未満では高強度化の効果が小さく、3.00%を越えると効果の飽和とコストの著しい増加を招く。
本発明では更にNb添加による結晶粒微細化の効果が充分でない場合、更なる細粒化を目的として必要に応じ以下のうち少なくとも1種を添加することができる。
0.004 ≦ Ta ≦ 0.100
0.004 ≦ Ti ≦ 0.100
0.004 ≦ Zr ≦ 0.100
0.004 ≦ Al ≦ 0.050
0.004 ≦ N ≦ 0.050
何れの元素も所定量未満では強度と靭性の改善効果が小さい。また所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、却って靭性の低下を招く。この点Nbと同じである。
本発明では、焼入れ性を向上させるため、必要に応じ以下のうち少なくとも1種を添加することができる。
0.15 ≦ Cu ≦ 1.50
0.15 ≦ Ni ≦ 1.50
0.0010 ≦ B ≦ 0.0100
何れの元素も所定量未満では焼入れ性の改善効果が小さい。また所定量を越えると効果が飽和して実益に乏しい。更にCuとNiについては、過度の添加は熱伝導率を低下させる。
本発明では、被削性を向上するため、必要に応じ以下のうち少なくとも1種を添加することができる。
0.010 ≦ S ≦ 0.500
0.0005 ≦ Ca ≦ 0.2000
0.03 ≦ Se ≦ 0.50
0.005 ≦ Te ≦ 0.100
0.01 ≦ Bi ≦ 0.30
0.03 ≦ Pb ≦ 0.50
何れの元素も所定量未満では被削性の改善効果が小さい。また所定量を越えると熱間加工性が著しく劣化するため、塑性加工における割れが多発して生産性と歩留まりを低下させる。
また、本発明鋼は、熱負荷が厳しいダイカスト金型に用いると特に効果を奏する。つまり、ダイカスト金型は、金型表面の温度振幅が大きく、熱疲労が蓄積しやすい。また、金型表面の温度が高くなるので、焼付き易いという問題が生じやすい。このため、本発明鋼は、ダイカスト金型に用いると効果が大である。
Si含有量と切削性との関係を示した図である。 Si含有量と熱伝導率との関係を示した図である。 Mn含有量と衝撃値との関係を示した図である。 Mn含有量と熱伝導率との関係を示した図である。 Cr含有量と衝撃値との関係を示した図である。 Cr含有量と熱伝導率との関係を示した図である。 Mo含有量と600℃での強度との関係を示した図である。 Mo含有量と衝撃値との関係を示した図である。 V含有量と軟化抵抗との関係を示した図である。 Nb含有量と焼入れ時の結晶粒度との関係示した図である。 Nb含有量と衝撃値との関係示した図である。 Nb含有量と機械疲労強度との関係示した図である。 Nb含有量と変形抵抗との関係示した図である。 Nb含有量と割れ発生率との関係示した図である。
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
表1及び表2に示す48鋼種を真空中で溶解し、それぞれ6tのインゴットに鋳込んだ。
これらのインゴットに対して1260℃×24Hrの均質化処理を施した後、熱間鍛造によって横断面が220mm×560mmのブロックを製造した。鍛造完了後の高温状態にあるブロックを室温まで放冷し、引き続き700℃で焼戻した後、更に900℃へ再加熱して4Hr保持し、そこから10℃/Hrで徐冷することによって90HRB程度に軟化させた。
Figure 2011042849
Figure 2011042849
このブロックを920℃に加熱し、2Hrの保持後に水中へ投入した(焼入れ)。更にこのブロックを560℃〜580℃×1Hr〜8Hrの焼戻しによって38HRC程度に調質した。焼戻しの温度と時間は成分によって適正な条件を選択し、38HRCが得られるようにした。
尚、比較鋼A01は炭素量が少ないため約31HRCとなった。
調質されたブロックから、200kg程度のダイカスト型を機械加工によって製造した。同時に調質されたブロックの中央付近から、各種特性を評価するための試験片を切出した。
ブロックの中央付近から切出した試験片の調査結果を表3及び表4に示す。衝撃値・熱伝導率・高温強度・機械疲労強度の評価方法は先述した通りである。
尚、比較鋼A15はJIS SKD61に相当する。
衝撃値に関しては63J/cm以上を「○」と判断する。熱伝導率についてはJIS SKD61(比較鋼A15、熱伝導率24W/m/K)と比較して冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上を「○」と判断する。高温強度は830MPa以上を「◎」、770MPa以下を「×」、それ以外を「○」とする。
機械疲労強度は964MPa以下を「×」それ以外を「○」とする。
熱間加工性については、割れの発生によって切り捨て量が必要以上に増えた場合又は複数回のリヒートが必要となって生産効率が低下した場合を「×」、割れが問題にならなかった場合又はリヒートが不要で生産効率も低下しなかった場合を「○」とする。
Figure 2011042849
Figure 2011042849
発明鋼33種は全項目において良好な特性を示し、評価は「○」である。これは,化学成分のバランスが適正であることの証明である。
比較鋼においてはA03とA11の2鋼種以外は、何れかの特性に問題がある。0.59%Vの比較鋼A12は、亀裂発生の起点となる炭化物が多いため、衝撃値は低下している。但し機械疲労への顕著な悪影響は認められない。
0.94%Vの比較鋼A15は、比較鋼A12よりも炭化物が増えるため衝撃値の低下が著しく、また疲労強度にも大きな影響が現れている。
0.080%Nbの比較鋼A14は衝撃値を確保しているものの、疲労強度の低下が顕著である。
これは粗大なNbの炭窒化物が亀裂発生の起点となるためである。比較鋼A14は熱間加工性も悪く、これはNbが再結晶を著しく遅延させた結果である。
また焼入れ速度が小さくなる大きなブロックの中央付近から切出した試験片だったこともあり、CrやMnが少なく焼入れ性が低い比較鋼A05と比較鋼A07は低衝撃値である。
比較鋼A09と比較鋼A10は、Mo量が適正でないために衝撃値は低くなっている。熱伝導率は,SiとCrが共に多い鋼種で低くなる結果となった。また高温強度は、所定の硬さが得られなかった比較鋼A01と、所定硬さには到達したがMo含有量の少ない比較鋼A09で低くなっている。
ダイカスト型をマシンに組み付けて鋳造した時の損傷状況を表5及び表6に示す。
鋳造したアルミ合金はADC12、溶解保持炉の温度は680℃である。ダイカスト品の重量は約5kg,1サイクルは47sである。10000ショット鋳造後の金型表面を対象として、ヒートチェック・磨耗・軟化(硬さ)を評価した。
ヒートチェックは目視観察と亀裂の最大深さによって評価する。まず目視観察によってヒートチェックが最も顕著な部位を選定する。次にその部位を、型表面から内部にかけての領域が観察できるように切出す。そして切断面に観察された亀裂(型内部へ進展したヒートチェック)のうちで最も深いものに着目し、開口部(型表面)から先亀裂端までの距離を測定する。これを亀裂の最大深さとする。
亀裂の最大深さが0.3mm以下であれば、亀裂の開口部も狭く、従ってアルミが差し込みにくいため、この製品であれば表面品質が問題になることは無い。そこで評価は「○」とする。最大の亀裂深さが1mm以上になると亀裂の開口部が広く、従ってアルミが差し込み易いため、製品の表面品質が問題となって不良品になる。
更にこの深い亀裂は型の大割れを助長する危険性が高い。そこで評価は「×」とする。亀裂の最大深さが0.3mmを越え1mm未満の場合は評価を「△」とする。
射出されたAlによる磨耗は製品の寸法規格への影響度で判定する。磨耗が顕著でなく製品が寸法規格を外れなければ「○」、型の形状が局部的に変わるほど磨耗して製品が寸法規格を外れていれば「×」とした。
軟化はヒートチェックが最も顕著な部位の表面硬さを測定し、初期硬さ38HRCからの低下が2ポイント未満であれば「○」、それ以上であれば「×」とした。
また金型を貫通するような大割れの有無を評価した。そのような亀裂が発生した場合には「×」、未発生であれば「○」とした。大割れの亀裂は、機械疲労によって発生する場合と、ヒートチェックが内部へ進展した場合、両者が合体する場合がある。
従って機械疲労強度が低く、しかもヒートチェックが発生し易い鋼材において顕著となる。
更に10000ショットの鋳造が完了するまでの間、顕著な焼付きが発生したかどうかも評価した。焼付きが軽度で金型のメンテナンスも数回以下と散発的であれば「○」、鋳造を中断して焼付きを除去しなければならない状態が200〜2000ショットごとにと頻繁であれば「×」とした。
被削性の評価は、実際にダイカスト金型を切削した時の作業効率と切削工具の損耗状態から判断した。被削性が悪い鋼を切削すると、切削工具には局部的な異常磨耗や欠けを生じ易いため、切削工具の頻繁な交換による作業効率の低下と、多量の切削工具を使うことによるコストの増加を余儀なくされる。
今回はダイカスト金型として最も良く使われるJIS SKD61を削った場合との比較によって被削性を評価する。切削工具の損耗状態や加工効率がJIS SKD61と同等であれば「○」、切削工具の交換が頻繁で加工効率がJIS SKD61の半分以下となった場合は「×」、JIS SKD61よりは被削性(切削効率)は下がるが実用上の問題がほとんどなければ「△」とした。
発明鋼33種には大きな問題が無く、被削性を除いた全項目が「○」の評価である。
また被削性についても、実用上は問題にならないと判断された。即ち発明鋼33種が、型性能とコストの両面に優れた金型用鋼であることは明らかである。
Figure 2011042849
Figure 2011042849
発明鋼を用いた金型は熱伝導率が高いため、過熱が抑制されてアルミの焼付は激減した。またヒートチェックが発生しにくい理由は、熱伝導率が高いことから熱応力が小さくなるためである。高速で射出されたアルミによる磨耗も極めて僅かであり、高温強度の高さに対応している。亀裂発生の起点となる粗大な異物が極めて少ないため、大割れも未発生である。ヒートチェックを助長する型表面の軟化も極めて軽微で、軟化抵抗の高さに対応している。CrやMoやVなどの希少元素量は少ないが、発明鋼は優れた型性能を発揮した。
また鋳造品の組織を調査した結果、従来よりも微細化していることが確認された。これは金型温度が低下したため、凝固速度が大きくなったことによる。更に凝固が早くなるため、鋳造のサイクルを2〜3sec短縮できることも明らかとなった。
一方、比較鋼15種は何らかの問題を抱えている。全体的な傾向としては、熱伝導率の低い鋼種は焼付とヒートチェックが顕著である。また衝撃値や軟化抵抗が低い鋼種は、ヒートチェックが助長される傾向にある。大割れは、衝撃値が非常に低い鋼種、或いは衝撃値は比較的に高いが疲労強度が低い鋼種に発生し易い。
比較鋼A01は、高温強度が低いためヒートチェックと磨耗が顕著である。比較鋼A02・比較鋼A04・比較鋼A06・比較鋼A08・比較鋼A15は熱伝導率が低いため、ヒートチェックと焼付が顕著である。特に比較鋼A15では、機械疲労強度の低さに対応した大割れも発生した。
比較鋼A03は極低Siのため被削性が悪く、金型製造コストの増大を招いた。比較鋼A05・比較鋼A07・比較鋼A12・比較鋼A13は衝撃値が低いため、ヒートチェックが顕著である。
比較鋼A09は熱伝導率こそ高いものの、高温強度が低いために磨耗とヒートチェックが顕著である。比較鋼A10は高温強度と熱伝導率が高く、軟化もし難いが衝撃値が低いためヒートチェックが顕著である。また素材コストや省資源の観点からも推奨できない。
比較鋼A11はV量が少ないために型表面の軟化が顕著で、この結果ヒートチェックが助長されている。
比較鋼A14は、衝撃値こそ確保しているものの機械疲労強度が低いため、それに対応した大割れが発生した。
以上本発明の実施形態をダイカスト金型を例にして詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。即ち、低圧鋳造、プラスチックやゴムの射出成形、鍛造の金型に関しても、金型表面の加熱・冷却が繰り返し行われ、金型表面が熱負荷に晒されるという技術的な背景があるため同様に適用できるものである。

Claims (7)

  1. 質量%で
    0.15 ≦ C ≦ 0.30
    0.01 ≦ Si < 0.19
    1.50 < Mn ≦ 1.78
    1.01 < Cr < 3.05
    0.48 < Mo < 0.88
    0.01 ≦ V < 0.21
    0.004 ≦ Nb < 0.03
    残部Fe及び不可避的不純物の組成を有する金型用鋼。
  2. 請求項1において、質量%で
    0.30 ≦ W ≦ 4.00
    を更に含有して成る金型用鋼。
  3. 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
    0.30 ≦ Co ≦ 3.00
    を更に含有して成る金型用鋼。
  4. 請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で
    0.004 ≦ Ta ≦ 0.100
    0.004 ≦ Ti ≦ 0.100
    0.004 ≦ Zr ≦ 0.100
    0.004 ≦ Al ≦ 0.050
    0.004 ≦ N ≦ 0.050
    のうち少なくとも1種以上を更に含有して成る金型用鋼。
  5. 請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で
    0.15 ≦ Cu ≦ 1.50
    0.15 ≦ Ni ≦ 1.50
    0.0010 ≦ B ≦ 0.0100
    のうち少なくとも1種以上を更に含有して成る金型用鋼。
  6. 請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で
    0.010 ≦ S ≦ 0.50
    0.0005 ≦ Ca ≦ 0.2000
    0.03 ≦ Se ≦ 0.50
    0.005 ≦ Te ≦ 0.100
    0.01 ≦ Bi ≦ 0.30
    0.03 ≦ Pb ≦ 0.50
    のうち少なくとも1種以上を更に含有して成る金型用鋼。
  7. 請求項1〜6の何れかに記載のダイカスト用の金型用鋼。
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