JP2011042849A - 金型用鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金型用鋼を質量%で0.15 ≦ C ≦ 0.30,0.01 ≦ Si < 0.19,1.50 < Mn ≦ 1.78,1.01 < Cr < 3.05,0.48 < Mo < 0.88,0.01 ≦ V < 0.21,0.004 ≦ Nb < 0.03,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有するものとする。
【選択図】 なし
Description
ここで(I)の金型寿命の延長は金型コストを左右する大きな要因となる。
金型寿命が長ければ1つの金型にて製造できる製品の個数が多くなり、必然的に製品1個あたりに占める金型コストの比率は小となる。
逆に金型寿命が短ければ製品1個あたりに占める金型コストの比率は大となる。
ところがこのハイサイクル化は、金型寿命を短寿命化する要因となる。
この点をダイカストを例にとって以下説明する。
ダイカスト製品の製造を単純にハイサイクル化した場合、金型の冷却時間が十分に確保されないまま(型の温度が下がりきらないうちに)、次の鋳造サイクルを迎えることとなり、必然的に金型の表面温度が高くなる。
またより高温で金型から取り出された鋳造品は、その後の冷却による熱収縮が大きく、寸法精度に悪影響が及ぶ。更に高温で取り出された製品は、その後の冷却中に変形を生じ易い。
ところがこのようなハイサイクル化の下では、金型に負荷される引張りの熱応力が増大し、金型表面のヒートチェックを助長する結果となる。
このようなヒートチェックが生ずると、製品表面にこれが転写されてしまい、製品によっては品質が著しく損なわれるか又はゼロとなってしまう。
この意味において金型表面に生ずるヒートチェックは金型寿命を決する大きな要因となる。
例えば金型を構成する鋼組織に粗大な異物が存在すると、そこを起点として亀裂が発生し金型寿命を短くしてしまう。
更に金型の衝撃値が低かったり、或いは高温強度が低い場合においても金型の寿命は低下する。
従ってその対策として急速加熱・冷却の下で金型に負荷される熱応力を低減すること、金型の機械疲労強度の向上、衝撃値及び高温強度の向上を図ることが有効な対策となる。
金型の熱伝導率を高くしておけば加熱・冷却の際の金型表面温度と内部温度との差を小さくでき、金型表面に生ずる熱応力を低減することができる。また金型の冷却速度を速めることができる。
熱間加工性が悪いと熱間加工中に割れを生じ、このことが歩留りを悪化させて金型用鋼に要するコストを高めてしまう。
更に熱間加工性の悪いものは、熱間加工途中で何回か再加熱(リヒート)が必要となり、この場合熱間加工のプロセスが煩雑化して生産性を落としてしまう。このこともまた金型用鋼に要するコスト上昇の要因となる。
被削性が悪いと金型用鋼に機械加工を施して金型を製作する際の加工の手間と時間が増し、このことがコストの上昇をもたらす。
この製品自体の低廉化は生産サイクルの短縮化によって、更には不良率を低減することによって実現できる。
例えば鋳造品について言えば、キャビティへの溶湯の充填後における型温の急速低下及びこれに伴う溶湯の急速凝固によって、生産サイクルタイムの短縮化を実現することができる。
ここで金型の型温の急速低下のためには金型の熱伝導率を大きくすることが有効な手段となる。
尚、説明は省略したが上記の状況はプラスチック,ゴムの射出成形,低圧鋳造や鍛造の分野においても同様である。
但し実施例に開示のものは何れもNbの含有量が0.03%以上のものであり、かかる特許文献1に開示のものはNb含有量において本発明とは異なった別異のものである。
しかしながらこの特許文献3においても、実施例として開示されているものは何れもNbの含有量が0.04%以上の高含有量であり、これもまた本発明と異なった別異のものである。
またこれら特許文献1〜特許文献3に開示の何れのものも、本発明の技術的思想を開示していない。
尚本発明において、「金型」には金型本体はもとより、これに組み付けられて使用されるピン等の金型部品も含まれる。更に、本発明の鋼からなる金型で、表面処理が施されたものも含まれる。
即ち、従来では結晶粒微細化のために比較的多量のNbを添加しているが、本発明では所定量(下限値)以上のNbを添加して結晶粒微細化の効果を確保しつつ、Nbの添加量を少なく規制している。
50kgとか100kg程度の小さなインゴットの場合には凝固の速度が速いために、Nbは小さく晶出し粗大な異物となって晶出し難い。
晶出したNbの炭窒化物は極めて高融点で、一旦晶出した後はその後の加熱処理に際しても固溶することはなく、そのまま最終まで組織中に残存する。
この粗大なNbの炭窒化物は、金型の衝撃値も低下させる。
従って本発明によれば、粗大なNbの炭窒化物の晶出の抑制によって金型の衝撃値即ち靭性も高めることができる。
鋼の再結晶温度が上昇すれば熱間加工時に鋼が再結晶し難くなって変形抵抗が大きくなることで加工がし難くなり、変形能が小さくなることで熱間加工中に割れを生じ易くなる。
或いは熱間加工中での割れを防止すべく、熱間加工途中での再加熱を繰返し多く行うことが必要となる。
この場合熱間加工のプロセスが複雑化し、生産速度も低下して、同じく金型用鋼の材料コストを押し上げる要因となる。
而して金型の熱伝導率を高くすることで、金型の加熱・冷却に対する応答性を高めることができる。例えばダイカスト品鋳造時における冷却の際に金型を良く冷却することができ、これにより鋳造品の凝固速度を速め得て鋳造組織を微細化でき、また巣の発生を無くし若しくは抑制して鋳造品を高品位化できるとともに、生産のサイクルをハイサイクル化し得て、鋳造品の製造コストを低減することができる。
金型の熱伝導率が高くなることで、加熱・冷却の際の金型表面と内部との温度差を少なくでき、これにより金型表面における引張りの熱応力を低減し得て、金型表面の亀裂発生を抑制することができ、以て耐ヒートチェック性を高め得て金型寿命を延長することができる。
また加熱・冷却に対する金型の応答性を高くし得ることによって生産のサイクルタイムを短くでき、生産性を高めることができる。
このような焼付きが生じると製品の取出しが困難となり、またメンテナンスも必要となって、生産性を低下させる要因となる。
しかるに金型温度を下げることで焼付きの発生を抑制でき、生産性を高めることができるとともに、製品不良率の発生を低減することが可能となる。
そしてこれら全体によって、金型を用いて生産される製品のコストを効果的に低減することができる。
0.15 ≦ C ≦ 0.30
0.15%未満では必要な硬さ34HRC以上を得にくい。0.30%を越えると硬くなるため、焼入れ焼戻し状態の被削性が劣化する。
また炭化物量や炭窒化物量が過度となり、疲労強度や衝撃値を劣化させる。好適な範囲は、硬さと疲労強度と衝撃値のバランスに優れた0.18 ≦ C ≦ 0.27である。更に好ましくは0.20 ≦ C ≦ 0.24である。
0.01%未満では被削性の劣化が著しく、金型形状への加工が非常に難しくなる。0.19%以上になると熱伝導率の低下が大きい。好適な範囲は高い熱伝導率が得られ、かつ工業的な被削性が確保できるSi≦0.15である。特に高い熱伝導率が必要な場合は、Si<0.10がさらに好ましい範囲となる。
図1は、0.30C-1.52Mn-3.04Cr-0.80Mo-0.11V-0.01Nb-Si鋼を切削した場合に、切削工具が寿命となるまでに削った距離をSi量に対して示している。試験片は55mm×55mm×200mmの角材であり、長さ200mmの方向に切削を繰り返し、切削工具の横逃げ面最大磨耗量が300μmとなった時点(累積切削距離)を寿命と判定した。切削距離が大きいほど良く削れて好ましい。
Siが0.01%未満では、切削距離が極端に小さくなっている。Siの増加によって切削距離は大きくなる。しかしSiが0.19%を越えると、依然としてSiが多いほど良く削れる傾向はあるものの、低Si側に比べれば改善効果は顕著でない。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tonのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに、1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。ブロックが620℃になった時点でゆっくりとした冷却を中止し、ブロックを炉から出して室温まで放冷した。
このような一連の処理によって、硬さが90HRB程度と軟質で組織の均一な状態のブロックを製造した。このブロックを素材として,55mm×55mm×200mmの試験片を作成し、被削性を調査した結果を示したのが図1である。
熱伝導率が大きいほど、金型となった場合の冷却能に優れるため好ましい。
熱伝導率は、後に述べるようにMn,Cr等の他の元素によっても影響されるが、SKD61(熱伝導率24W/m/K)と比較して,冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上の熱伝導率を得るため、本発明ではSi量を0.19%未満とする。
1.50%以下では焼き入れ性が不足し、硬さや衝撃値の確保が困難である。1.78%を越えると、高い熱伝導率の維持が困難となる。好適な範囲は、硬さと衝撃値を確保でき、かつ高い熱伝導率が得られる1.50 < Mn ≦ 1.65である。
0.30C-0.15Si-3.04Cr-0.81Mo-0.12V-0.01Nb-Mn鋼から作成した100mm×100mm×60mmのブロックを920℃に加熱して急冷、焼戻して38HRCに調質した。更にこのブロックの中央部から10mm×10mm×55mmのJIS 3号衝撃試験片を作成し、衝撃値を室温で測定した。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。
SKD61(熱伝導率24W/m/K)と比較して、冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上の熱伝導率を得るため、本発明ではMn量を1.78%以下とする。
1.01%以下では焼き入れ性が不足し、硬さと衝撃値が充分に得られない。一方でCr量が3.05%以上では、高い熱伝導率の維持が困難となる。好適な範囲は、硬さと衝撃値と熱伝導率のバランスに優れた1.50 ≦ Cr ≦ 2.50である。更に好ましくは1.75 ≦ Cr ≦ 2.25である。
0.30C-0.15Si-1.78Mn-0.79Mo-0.10V-0.01Nb-Cr鋼から作成した100mm×100mm×60mmのブロックを920℃に加熱して急冷,焼戻して38HRCに調質した。更にこのブロックの中央部から10mm×10mm×55mmのJIS 3号衝撃試験片を作成し、衝撃値を室温で測定した。図5は,室温における衝撃値を、Cr量に対してプロットしている。
図5の試験に用いたと同じ素材の同じ部位から削りだしたφ11mm×50mmの丸棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。更にこの丸棒からφ10mm×2mmの熱伝導率測定用試験片を作成した。レーザーフラッシュ法によって室温で測定した熱伝導率を、Cr量に対して示せば図6の通りである。
SKD61(熱伝導率24W/m/K)と比較して、冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上の熱伝導率を得るため、本発明ではCr量を3.05%未満とする。
0.48%以下では、充分な高温強度が得られない。0.88%以上では,脆化して衝撃値が低下する。このような観点から好適な範囲は0.60 ≦ Mo ≦ 0.85である。
0.22C-0.08Si-1.73Mn-1.04Cr-0.11V-0.01Nb-Mo鋼から作成したφ15mm×50mmの丸棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。更にこの丸棒からφ14mm×21mmの変形抵抗測定用試験片を作成し、試験片を5℃/sで600℃に加熱して100sの保持後、ひずみ速度10s−1で軸方向に圧縮加工して変形抵抗(高温強度)を測定した。この時の変形抵抗をMo量に対して示せば図7の通りである。
高変形抵抗であるほど強度が高いため、磨耗しにくく好ましい。変形抵抗(高温強度)は、Mo量が0.48%以下では急減しており、この範囲を避けることが耐磨耗性の確保には必須と考えられる。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに、1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。
Mo量が0.4%程度までは、高Mo材の方が高衝撃値であるが、Mo量が0.88%以上では脆化が無視できない。また汎用鋼として考えると、Mo量が0.88%以上ではコスト増が工業的な問題となる。
0.01%未満では、軟化抵抗が充分ではない。0.21%以上では,粗大炭化物の量が過度となり、衝撃値を劣化させる。好適な範囲は軟化抵抗と疲労強度のバランスに優れた0.05 ≦ V ≦ 0.15である。
一般に汎用鋼の焼入れ温度は1000℃以下であるが、この温度域で固溶するV量は0.21%未満である。
よってV量は0.21%未満で十分である。また汎用鋼として考えると、V量が0.21%以上ではコスト増が工業的な問題となる。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに、1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。
更にこの角棒から10mm×10mm×30mmの試験片を作成し、軟化抵抗を調査した結果を示したのが図9である。
0.004%未満では、焼入れ時の結晶粒の成長を抑制する効果に乏しい。0.03%以上では粗大な炭窒化物が形成され、衝撃値と機械疲労強度が低下する。特に疲労強度の低下が著しい。
また0.03%以上では、再結晶温度が過度に上昇するため、金型用素材の熱間加工において、割れ,加工力の増大,加工工程時間の延長を招き、素材コストの上昇が問題となる。
好適な範囲は結晶粒成長の抑制効果に優れ、高い疲労強度が確保でき、熱間加工性も阻害しない0.007≦Nb≦0.027である。
0.22C-0.08Si-1.53Mn-1.91Cr-0.80Mo-0.11V-Nb鋼から作成した11mm×11mm×60mmの角棒を980℃に加熱し、30minの保持後に急冷した。更に575℃で焼戻して38HRCに調質した。
この角棒の表面を薬品で腐食して金属組織を現出させ、その観察によって評価したオーステナイト結晶粒度(JIS G 0551に準拠)をNb量に対して示せば、図10の通りである。粒度が大きいほど強靭性に優れるため好ましい。
先ず真空中で溶解・精錬した溶鋼を2tのインゴットに鋳込んだ。このインゴットに1250℃で18Hr加熱する均質化熱処理を施した。その後、横断面が250mm×250mmのブロックを、このインゴットの熱間鍛造によって製造した。鍛造後の高温状態にあるブロックは室温まで放冷し、670℃における6Hrの加熱後に820℃へ再加熱し、4Hrの保持後に10℃/Hrでゆっくりと冷却した。
衝撃値が高いほど、予期せぬ衝撃荷重に対して割れ難いため好ましい。衝撃値の変化は、結晶粒度の変化を示した図10とおおよそ対応している。
衝撃値は細粒化によって増加する。ただしNbが0.03%以上では衝撃値が減少する。この理由は,粗大なNbCNを起点とした亀裂が発生しやすくなるためである。それでも、0.2%Nb鋼は0.004%Nb鋼よりもやや高い衝撃値を確保している。
この理由は、衝撃値の場合と同じである。ただしNbが0.03%以上における特性の劣化は、衝撃値の場合よりも顕著である。即ちNb量の影響が大きい。Nbが0.004%以上で0.03%直近(未満)までは964MPaを越える高い疲労強度を示すのに対し、それ以上のNb量では強度の低下の度合が大きい。
低Nb材の疲労強度が低下した大きな要因は、結晶粒度が小さいため、亀裂の進展が容易であったことと考えられる。
先ず素材の中央付近からφ22mm×160mmの丸棒を作成し、この丸棒を920℃に加熱して急冷し、焼戻して38HRCに調質した。
更にこの丸棒から平行部がφ6mm×18mmで全長が150mmの回転曲げ疲労試験片を作成し、疲労強度を調査した結果を示したのが図12である。
尚Nbには軟化抵抗や耐磨耗性を高める効果もあるが、本発明で規定した少量添加では、そのような効果はほとんど期待できない。従って本発明のNb添加は、軟化抵抗や耐磨耗性の改善を目的としたものではない。
金型には応力が繰り返し付与されるため、周期的な応力が長いサイクルにわたって負荷された場合の破壊挙動、即ち疲労強度が非常に重要である。疲労強度は亀裂の起点になる粗大な異物が多いと低下する。本発明では粗大なNbCNが代表的な異物となる。
一方、凝固速度が小さくなる工業サイズ(数t〜数10t)のインゴットにおいては、NbCNは極めて粗大となる。従って金型になった場合の疲労強度の低下が問題となるのである。
鋼を金型用の素材に成形する熱間加工においては、工程中で再結晶が繰り返し起こる。再結晶は歪の開放を担う現象であり、歪を開放した素材は軟質で高延性である。従って再結晶した素材は、後続する熱間加工工程中で、変形抵抗が高いために加工し難いとか、変形能が低いために割れる、といった問題を起こしにくい。再結晶すれば、熱間加工性を確保できるのである。
熱間加工工程中の素材は、工具との接触や大気への放熱によって表面温度が低下してゆく。表面温度が再結晶温度以下になると、上記の問題(高変形抵抗で加工し難い、低変形能で割れ易い)が起き易くなる。
そこで温度が下がった素材は加熱炉に戻されて、再結晶温度を越える温度まで再加熱される。所定の温度になると炉から出されて、再び熱間加工が継続される。再加熱は熱間加工性を回復させる処置である。
また温度が低下してくると、Nb含有鋼はNb無添加鋼よりも変形能が低いため、割れが発生しやすい。即ち歩留まりが悪化して素材コストが上昇しやすい。
従って金型用鋼の低廉化を検討するうえで、Nb添加量の適正化は極めて重要な課題である。
そこでNbが変形抵抗と変形能に及ぼす影響を調査した。熱間加工の下限温度に近い1000℃、及び熱間加工の最大加工量に近い圧縮率50%を対象とした。
図10の試験に用いたと同じ素材の同じ部位からφ14mm×21mmの変形抵抗測定用試験片を作成し、この試験片を5℃/sで1000℃に加熱して100sの保持後、ひずみ速度10s−1で加工して変形抵抗を測定した。加工量は試験片の高さが初期状態の半分となる圧縮率50%としている。
これよりも低Nb側では割れ発生率が低く、加工性が良い(歩留まりが良い)と言える。半数以上が割れる状況では、工業的にも歩留まりの低下が顕著であるため、Nb量は0.03%未満が適正と考えられる。この値は図10〜図12とも矛盾しない。
W < 0.30%
Co < 0.30%
Ta < 0.004%
Ti < 0.004%
Zr < 0.004%
Al < 0.004%
N < 0.004%
Cu < 0.15%
Ni < 0.15%
B < 0.0010%
S < 0.010%
Ca < 0.0005%
Se < 0.03%
Te < 0.005%
Bi < 0.01%
Pb < 0.03%
Mg < 0.005%
O < 0.0080%
0.30 ≦ W ≦ 4.00
0.30%未満では高強度化の効果が小さく、4.00%を越えると効果の飽和と著しいコスト増を招く。
0.30 ≦ Co ≦ 3.00
0.30%未満では高強度化の効果が小さく、3.00%を越えると効果の飽和とコストの著しい増加を招く。
0.004 ≦ Ta ≦ 0.100
0.004 ≦ Ti ≦ 0.100
0.004 ≦ Zr ≦ 0.100
0.004 ≦ Al ≦ 0.050
0.004 ≦ N ≦ 0.050
何れの元素も所定量未満では強度と靭性の改善効果が小さい。また所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、却って靭性の低下を招く。この点Nbと同じである。
0.15 ≦ Cu ≦ 1.50
0.15 ≦ Ni ≦ 1.50
0.0010 ≦ B ≦ 0.0100
何れの元素も所定量未満では焼入れ性の改善効果が小さい。また所定量を越えると効果が飽和して実益に乏しい。更にCuとNiについては、過度の添加は熱伝導率を低下させる。
0.010 ≦ S ≦ 0.500
0.0005 ≦ Ca ≦ 0.2000
0.03 ≦ Se ≦ 0.50
0.005 ≦ Te ≦ 0.100
0.01 ≦ Bi ≦ 0.30
0.03 ≦ Pb ≦ 0.50
何れの元素も所定量未満では被削性の改善効果が小さい。また所定量を越えると熱間加工性が著しく劣化するため、塑性加工における割れが多発して生産性と歩留まりを低下させる。
表1及び表2に示す48鋼種を真空中で溶解し、それぞれ6tのインゴットに鋳込んだ。
これらのインゴットに対して1260℃×24Hrの均質化処理を施した後、熱間鍛造によって横断面が220mm×560mmのブロックを製造した。鍛造完了後の高温状態にあるブロックを室温まで放冷し、引き続き700℃で焼戻した後、更に900℃へ再加熱して4Hr保持し、そこから10℃/Hrで徐冷することによって90HRB程度に軟化させた。
尚、比較鋼A01は炭素量が少ないため約31HRCとなった。
調質されたブロックから、200kg程度のダイカスト型を機械加工によって製造した。同時に調質されたブロックの中央付近から、各種特性を評価するための試験片を切出した。
尚、比較鋼A15はJIS SKD61に相当する。
衝撃値に関しては63J/cm2以上を「○」と判断する。熱伝導率についてはJIS SKD61(比較鋼A15、熱伝導率24W/m/K)と比較して冷却能が劇的に改善する33W/m/K以上を「○」と判断する。高温強度は830MPa以上を「◎」、770MPa以下を「×」、それ以外を「○」とする。
機械疲労強度は964MPa以下を「×」それ以外を「○」とする。
熱間加工性については、割れの発生によって切り捨て量が必要以上に増えた場合又は複数回のリヒートが必要となって生産効率が低下した場合を「×」、割れが問題にならなかった場合又はリヒートが不要で生産効率も低下しなかった場合を「○」とする。
比較鋼においてはA03とA11の2鋼種以外は、何れかの特性に問題がある。0.59%Vの比較鋼A12は、亀裂発生の起点となる炭化物が多いため、衝撃値は低下している。但し機械疲労への顕著な悪影響は認められない。
0.94%Vの比較鋼A15は、比較鋼A12よりも炭化物が増えるため衝撃値の低下が著しく、また疲労強度にも大きな影響が現れている。
これは粗大なNbの炭窒化物が亀裂発生の起点となるためである。比較鋼A14は熱間加工性も悪く、これはNbが再結晶を著しく遅延させた結果である。
また焼入れ速度が小さくなる大きなブロックの中央付近から切出した試験片だったこともあり、CrやMnが少なく焼入れ性が低い比較鋼A05と比較鋼A07は低衝撃値である。
鋳造したアルミ合金はADC12、溶解保持炉の温度は680℃である。ダイカスト品の重量は約5kg,1サイクルは47sである。10000ショット鋳造後の金型表面を対象として、ヒートチェック・磨耗・軟化(硬さ)を評価した。
更にこの深い亀裂は型の大割れを助長する危険性が高い。そこで評価は「×」とする。亀裂の最大深さが0.3mmを越え1mm未満の場合は評価を「△」とする。
軟化はヒートチェックが最も顕著な部位の表面硬さを測定し、初期硬さ38HRCからの低下が2ポイント未満であれば「○」、それ以上であれば「×」とした。
また金型を貫通するような大割れの有無を評価した。そのような亀裂が発生した場合には「×」、未発生であれば「○」とした。大割れの亀裂は、機械疲労によって発生する場合と、ヒートチェックが内部へ進展した場合、両者が合体する場合がある。
従って機械疲労強度が低く、しかもヒートチェックが発生し易い鋼材において顕著となる。
発明鋼33種には大きな問題が無く、被削性を除いた全項目が「○」の評価である。
また被削性についても、実用上は問題にならないと判断された。即ち発明鋼33種が、型性能とコストの両面に優れた金型用鋼であることは明らかである。
また鋳造品の組織を調査した結果、従来よりも微細化していることが確認された。これは金型温度が低下したため、凝固速度が大きくなったことによる。更に凝固が早くなるため、鋳造のサイクルを2〜3sec短縮できることも明らかとなった。
比較鋼A09は熱伝導率こそ高いものの、高温強度が低いために磨耗とヒートチェックが顕著である。比較鋼A10は高温強度と熱伝導率が高く、軟化もし難いが衝撃値が低いためヒートチェックが顕著である。また素材コストや省資源の観点からも推奨できない。
比較鋼A11はV量が少ないために型表面の軟化が顕著で、この結果ヒートチェックが助長されている。
比較鋼A14は、衝撃値こそ確保しているものの機械疲労強度が低いため、それに対応した大割れが発生した。
Claims (7)
- 質量%で
0.15 ≦ C ≦ 0.30
0.01 ≦ Si < 0.19
1.50 < Mn ≦ 1.78
1.01 < Cr < 3.05
0.48 < Mo < 0.88
0.01 ≦ V < 0.21
0.004 ≦ Nb < 0.03
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有する金型用鋼。 - 請求項1において、質量%で
0.30 ≦ W ≦ 4.00
を更に含有して成る金型用鋼。 - 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
0.30 ≦ Co ≦ 3.00
を更に含有して成る金型用鋼。 - 請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で
0.004 ≦ Ta ≦ 0.100
0.004 ≦ Ti ≦ 0.100
0.004 ≦ Zr ≦ 0.100
0.004 ≦ Al ≦ 0.050
0.004 ≦ N ≦ 0.050
のうち少なくとも1種以上を更に含有して成る金型用鋼。 - 請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で
0.15 ≦ Cu ≦ 1.50
0.15 ≦ Ni ≦ 1.50
0.0010 ≦ B ≦ 0.0100
のうち少なくとも1種以上を更に含有して成る金型用鋼。 - 請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で
0.010 ≦ S ≦ 0.50
0.0005 ≦ Ca ≦ 0.2000
0.03 ≦ Se ≦ 0.50
0.005 ≦ Te ≦ 0.100
0.01 ≦ Bi ≦ 0.30
0.03 ≦ Pb ≦ 0.50
のうち少なくとも1種以上を更に含有して成る金型用鋼。 - 請求項1〜6の何れかに記載のダイカスト用の金型用鋼。
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