JP2010276567A - 有害金属測定試薬及び測定方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】水溶性ポルフィリン誘導体及び亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体を含有することを特徴とする有害金属測定用試薬及び当該試薬を用いた有害金属濃度測定方法。
【選択図】なし
Description
[1]水溶性ポルフィリン誘導体及び亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体を含有することを特徴とする有害金属測定用試薬。
具体的な有害金属としては、銅、鉛、亜鉛、ビスマス、カドミウム、水銀、コバルト、銀、パラジウム、セレン及びニッケル等から選ばれる1種以上の金属またはそのイオンが挙げられる。このうち、銅、鉛、亜鉛、ビスマス、カドミウム、水銀、コバルト、パラジウム及び銀が、更に、銅、鉛、亜鉛、ビスマス、カドミウム、水銀、コバルト及びパラジウムが、チオール基(SH基)との高い親和性を有する金属であり、本発明の測定法による測定値と毒性との相関性が高い点から、好ましい。
具体的な対象の生物としては、ウナギ、ヒラメ、コイ、タイ、アオガイ、アマグリ、エビ、ハマグリ等の魚介類:ニワトリ、ウズラ、ダチョウ、ハト等の鳥類;ヒト、サル、ヒツジ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ネズミ、イヌ、ネコ、シカ、アザラシ等の哺乳類等が挙げられ、このうち、鳥類及び哺乳類、更に哺乳類を対象とするのが好ましく、特にヒトを対象とするのが、上記重金属によって急性又は慢性疾患になり易い点から、好ましい。
上記の条件を満たすものであれば、ポルフィリン骨格の周囲に置換基を有する水溶性ポルフィリン化合物、若しくはその塩、またはそれらの溶媒和物でもポリマー鎖に1個以上のポルフィリン骨格を有するポルフィリン導入ポリマーでもよい。このような水溶性ポルフィリン誘導体は、微量金属の比色試薬として公知の化合物を包含する。
例えば「第22版総合カタログ」株式会社同仁化学研究所、平成12年1月、p268〜271に記載されている水溶性ポルフィリン化合物、若しくはその塩、またはそれらの溶媒和物やWO2004/055072号パンフレットに記載されているポルフィリン導入ポリマーが挙げられる。
式(1)で示される化合物の好ましい塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸付加塩、又はトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
また、好ましい溶媒和物としては水和物等が挙げられる。
本発明で使用できる亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体を構成するメタロチオネイン様タンパクとしては、銅、鉛、亜鉛、ビスマス、カドミウム、水銀、コバルト、銀、パラジウム、セレン及びニッケルとの結合能を有する限りは任意のものを使用することができ、天然由来のメタロチオネイン様タンパクの他、化学合成又は遺伝子組み換え技術により作製したメタロチオネイン様タンパクの何れでもよい。
天然由来のメタロチオネイン様タンパクを入手する場合は、メタロチオネイン様タンパクを発現している魚介類〜哺乳類等の各種動物(例えば、ヒト、サル、ウマ、ヒツジ、ウサギ、ハムスター、マウス、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、アザラシ等の哺乳類;ニワトリ、ウズラ等の鳥類;ウナギ、ヒラメ、コイ、タイ、アオガイ、アマグリ、エビ、ハマグリ、ウニ等の魚介類等)、酵母又は植物(例えば、マメ、トウモロコシ)の細胞又は組織からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせて単離することができる。
化学合成によりメタロチオネイン様タンパクを合成する場合は、Boc法やFmoc法といったペプチド固相合成法等の化学合成法に従ってメタロチオネイン様タンパクを合成することができる。
遺伝子組み換え技術によりメタロチオネイン様タンパクを産生する場合は、メタロチオネイン様タンパクをコードする塩基配列を有するDNAを適切な発現系に導入することによりメタロチオネイン様タンパクを製造することができる。
また、市販品として、例えばALEXIS BIOCHEMICALS社、AnaSpec社、シグマ−アルドリッチ社、コスモバイオ株式会社、又はフナコシ株式会社等から入手することも可能である。
有害金属測定用試薬と試料溶液を混合した状態における亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体が上記の濃度で含まれていれば、亜鉛が結合していないメタロチオネイン様タンパクが共存してもよいが、全メタロチオネイン様タンパクのモル濃度に占める亜鉛−メタロチオネイン様タンパクのモル濃度の割合は、1%以上、さらには10%以上であることが好ましい。
pH調整剤としては、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、2−4−2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジニルエタンスルホン酸(HEPES)、N−トリスヒドロキシメチル−メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、酢酸、リン酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられ、3−モルホリノプロパンスルホン酸が好ましい。
そして、試料溶液中に含まれる単数又は複数の有害金属によって亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体から亜鉛が遊離し、この遊離した亜鉛が水溶性ポルフィリン誘導体と錯体を形成し、この形成によって水溶性ポルフィリン誘導体の吸収波長に変化が生じて特定の範囲の吸光波長となり、この吸光度変化を測定することによって、試料溶液中の有害金属の総濃度を測定することができる。
有害金属測定用試薬と試料溶液との混合液のpHがこの範囲外である場合は、この範囲になるように当該混合液のpHをpH調整剤で調整するのが好ましい。
その際、添加されるpH調整剤の濃度は、有害金属測定用試薬と試料溶液との混合液に対して、1〜1000mM、特に5〜500mMであることが好ましい。
本発明の有害金属測定用試薬を使用して有害金属を測定する際、有害金属測定用試薬と試料溶液の混合液を加熱処理することが、迅速で高感度な測定となる点から好ましい。
このときの加熱温度は、20〜90℃、特に60〜80℃であるのが好ましい。また、加熱時間は、1〜120分、更に5〜90分、特に30〜70分であるのが好ましい。
また、吸光度計による測定における吸光波長は、使用する水溶性ポルフィリンが亜鉛と結合することによって起こる吸光度変化を検出できる波長であれば特に制限はないが、350〜700nmが好ましく、より好ましくは400〜500nm、更に好ましくは400〜450nm、最も好ましくは415〜435nmである。
有害金属の総濃度(μM)=(吸光度)/(0.2±0.05) 式(1)
対象とする試料は、そのまま試料溶液としてもよいし、適宜濃縮したり純水等で希釈したりして試料溶液としてもよい。試料溶液中の有害金属濃度が、本発明の有害金属測定用試薬を用いた測定方法で測定できる範囲よりも高い場合は、該試料溶液を純水等で希釈し、その希釈液を試料溶液として同様な測定を行えばよい。その場合は、得られた吸光度を希釈倍率によって割り返すことにより、希釈前の試料溶液を用いたときの吸光度に換算することができる。
従って、本発明の測定用試薬及びこれを用いた測定方法は、重金属毒性評価試薬及びこれを用いた重金属毒性評価方法として使用することができる。
そして、本発明の重金属毒性評価方法は、本発明の測定用試薬により測定された値(吸光度)を指標として簡易に生物に対する重金属の毒性の評価を行うことができ、しかも、溶液中に金属キレート等が存在し、重金属の毒性が低減した場合でもこれに対応した毒性の評価を行うこともできる。また、大掛かりな測定装置や設備を必要とせず、供試生物を用いなくともよい。
具体的には、本発明の測定方法で測定された値(有害金属濃度)が、一般的に急性又は慢性毒性とされるような基準値よりも高ければ、毒性が強いと評価でき、一方低ければ毒性が弱い又はないと評価できる。
亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体として、市販品のウサギ肝臓由来の亜鉛−メタロチオネイン複合体(ALEXIS BioChemicals社製)(以下、MTと略する場合がある)を使用した。この亜鉛−メタロチオネイン複合体は、メタロチオネイン1分子あたり亜鉛が平均約6.1個結合したものであった。
水溶性ポルフィリン誘導体であるTPPS、及びpH調整剤であるMOPSは、株式会社同仁化学研究所から入手した。
亜鉛(Zn)溶液は、1000mg/Lの原子吸光用亜鉛標準液(関東化学株式会社製)を超純水で希釈して調製した。
また、ブランクとして、TPPSを2.5μM、及びMOPSを50mM含む溶液(pH7.2)を調製した。
それぞれの溶液を75℃で5分加熱後、ブランクに対する吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルを図1に示す。TPPSとZnの錯形成によって、423nmに吸収ピークが生じた。
しかしながら、この溶液の加熱処理後に得られた吸収スペクトルは、423nmにピークを示さなかった(図1)。これは、MTがZnと強く結合しているため、MTからZnが遊離せずTPPSと錯体を形成しなかったことを示している。このように、TPPSはMTに結合していない遊離なZnとのみ錯形成し、423nmの吸光度変化を生じることが示された。
原子吸光用ビスマス(Bi)標準液(関東化学株式会社製)を超純水で希釈してBi溶液を調製した。
TPPSを2.5μM、MTを0.21μM、Biを0〜1μM、及びMOPSを50mM含む溶液(pH7.2)(MTあり)を75℃で5分加熱後、実施例1と同じブランクに対する吸収スペクトルを測定した(図2a)。Bi濃度に応じて423nmの吸光度が増加した。また、そのスペクトルの形状は実施例1で示したZnとTPPSの錯形成によって生じたスペクトル形状と一致した。
ところが、同様な測定をMT未添加の溶液(MTなし)で行った場合は、吸収スペクトルの変化は観察されなかった(図2b)。
このことから、BiはMTのSH基との親和性が強く、BiがMTに結合することによってMTからZnが遊離し、その遊離したZnとTPPSが錯体を形成し吸収スペクトルの変化が生じたことが示された。
反応温度:TPPSを2.5μM、MTを0.21μM、Biを1μM、及びMOPSを50mM含む溶液(pH7.2)を調製した。Biを含まない同じ組成の溶液をブランクとして調製した。
これら溶液を、様々な温度(30,45,60,75,90℃)で加熱したときのブランクに対する423nmの吸光度(A423)の時間変化(5,15,30,60,120分)を測定した(図3)。加熱温度が30℃のとき、A423は緩やかに上昇し、120分後で0.1となった。加熱温度の上昇に伴いA423の増加率も上昇し、加熱温度75℃では60分で0.3に達し、その後はほぼ一定の値を保った。加熱温度が90℃のときは、30分で最大値に達した後、急速に減少した。これらの結果から、加熱処理によって迅速で高感度な測定が可能になることが示された。また、90℃以上の高温で長時間加熱するとA423は減少し、感度が低下することがわかった。以下の実施例では、加熱温度及び時間は、75℃及び60分とした。
測定pH:TPPSを2.5μM、MTを0.21μM、Biを1μM、及び各pH調整剤を50mM含む様々なpH(3.9〜10.1)の溶液を調製した。pH調整剤として、pH3.9には酢酸、pH5.5及び6.1にはMES、pH7.2にはMOPS、7.9及び9.1にはTAPS、10.1にはCAPSを用いた。
各pHでの加熱処理後のA423の値を図4に示す。A423はpH4付近から上昇し、8付近で最大となり、それ以上では単調に減少した。このことから、pHは5〜11の間が望ましいことが示された。以下の実施例では、溶液のpHはMOPSを用いて7.2とした。
MT濃度:TPPSを2.5μM、MTを0.07〜0.35μM(0.07,0.14,0.21,0.28,0.35μM)、Biを0〜2.5μM(0,0.5,1,1.5,2,2.5μM)、及び50mM MOPS(pH7.2)を含む溶液を調製し、加熱処理後のA423を測定した(図5)。A423は、Bi濃度に応じてほぼ直線的に増加し、やがて飽和して一定値を保った。MT濃度が増すにつれて、飽和に達するのに要するBi濃度も増加した。これは、MTに結合していたZnがBi濃度に応じて解離し、すべてのZnが解離するとA423が変化しなくなることを示している。
また、A423の増加率はMT濃度に依存しなかった。すなわちMT濃度は、遊離Znの検出感度には影響せず、測定可能な範囲の上限を規定していた。
これらの結果より、以後の実施例では、特に断りがない限り5μMのTPPS、0.42μMのMT、100mMのMOPS(pH7.2)を含む溶液を本発明の有害金属測定用試薬として使用することとした。そして、この有害金属測定用試薬と試料溶液を体積比1:1で混合し、75℃で60分加熱した後、試料溶液に水を用いた場合をブランクとしてA423を測定することで、試料溶液中の有害金属濃度を求めた。なお、混合後の溶液中のTPPS、MT、及びMOPSの濃度は、2.5μM、0.21μM、及び50mMとなる。
鉛(Pb)、銅(Cu)、及びカドミウム(Cd)の原子吸光用標準液(いずれも1000mg/L、関東化学株式会社製)を超純水で希釈して1μMのPb、Cu、及びCd溶液を調製して試料溶液とした。有害金属測定用試薬0.2mLと試料溶液0.2mLを混合し、加熱後、吸収スペクトルを測定した。比較として、MT以外の成分は同じでMTを含まない測定用試薬を用意し、同様に吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルを図6に示す。
試料溶液がPbを含む場合(図6a)、MTを含まない測定用試薬(TPPS)においては、465nm付近に吸収ピークが観察された。これはTPPSとPbが錯体を形成したことを示しており、このことは公知である。一方、本発明の有害金属測定用試薬(TPPS/MT)を用いたときは、465nm付近に吸収ピークは観察されず、423nmに吸収ピークが観察された。すなわちPbは、TPPSに結合せずMTと結合し、それによってMTから解離したZnとTPPSが錯体を形成することが示された。
試料溶液がCuの場合(図6b)、MTを含まない測定用試薬(TPPS)においては、409nm付近に吸収ピークが観察された。これはTPPSとCuが錯体を形成したことを示しており、TPPSがCuと強固に結合することは公知である。一方、本発明の有害金属測定用試薬(TPPS/MT)を用いたときは、423nmに吸収ピークが観察された。すなわちCuは、TPPSに結合せずMTと結合し、それによってMTから解離したZnとTPPSが錯体を形成することが示された。
試料溶液がCdの場合(図6c)、MTを含まない測定用試薬(TPPS)においては、434nm付近に吸収ピークが観察された。これはTPPSとCdが錯体を形成したことを示しており、このことは公知である。一方、本発明の有害金属測定用試薬(TPPS/MT)を用いたときは、434nm付近に吸収ピークは観察されず、423nmに吸収ピークが観察された。すなわちCdは、TPPSと結合せず、MTに結合し、それによってMTから解離したZnとTPPSが錯体を形成することが示された。
本発明の有害金属測定用試薬において、上述のとおり、Bi、Pb、Cu及びCdともに、同じ波長でそれらの濃度を測定できることが示された。
銀(Ag)、ヒ素(As)、ホウ素(B)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、銅(Cu)、水銀(Hg)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)、セレン(Se)、スズ(Sn)、タリウム(Tl)、タングステン(W)、及び亜鉛(Zn)の原子吸光用標準液(いずれも1000mg/L、関東化学株式会社製)を超純水で希釈して1μMの各金属類溶液を調製した。塩化クロム、二クロム酸カリウム、塩化アルミニウム(いずれも和光純薬工業(株)製)、及び塩化鉄(シグマ−アルドリッチ社製)の水溶液を超純水で希釈して1μMのCr(III)、Cr(VI)、Al、Fe溶液を調製した。
有害金属測定用試薬0.2mLとこれらの1μMの金属類溶液0.2mLを混合し、加熱処理した後、A423を測定した。比較として、MT以外の成分は同じで、MTを含まない測定用試薬を調製し、同様にA423を測定した。
図7に、各金属類溶液を測定したときのA423を示す。MTを含まない測定用試薬を用いた場合、A423に有意な変化が認められたのはZnのみであった(図7a)。これは、A423の変化は、ZnとTPPSの錯形成のみによって生じることを示している。一方、本発明の有害金属測定用試薬を用いた場合、Cu、Pb,Zn,Bi,Cd,Hg,Pd,Co,Ag、Se,又はNi溶液、特にCu、Pb,Zn,Bi,Cd,Hg,Pd,Co,又はAg溶液を用いたときにA423の有意な増加が認められた(図7b)。これらの金属はMTに結合し、それによってMTから解離したZnとTPPSが錯体を形成することが示された。このような金属は、SH基との親和性が強く、生体内において酵素等のSH基に結合してその機能を失活させる作用機序で毒性を発揮する能力を有していることを示している。本発明の有害金属測定用試薬を用いたA423の測定によって、このような金属が試料溶液中に含まれていることを簡易に知ることができた。
16種類の金属が様々な濃度で混合する試料溶液を表1に示すようにNo.1〜15として調製した(表1)。これらの試料溶液と有害金属測定用試薬を反応させてA423を測定した。
No.1〜15の各試料溶液中に実際に含まれる16種の金属の総濃度を算出し、これを横軸とし、またA423(吸光度)を縦軸とし、その関係を図8に示す。一方、同じ各試料溶液中に実際に含まれるCu、Pb,Zn,Bi,Cd,Hg,Ni,Co及びAgの9種の金属の総濃度を算出し、これを横軸とし、A423(吸光度)を縦軸とし、その関係を図9に示す。この9種は、実施例5でSH基との親和性が強いとされたものである。
図8に示すように、16種の金属の総濃度とA423の間にはおおよその相関は見られるものの、その相関は弱く、相関係数は0.707であった。これに対し、図9に示すように、特定の9種の金属の総濃度で算出した場合、A423は、9種の金属の総濃度にほぼ比例して増加し、相関係数は0.933と良好な相関を示した。
このことから、試料溶液に含まれる金属をSH基との親和性が強い有害な金属と想定すれば、SH基との親和性が強い有害な金属の総濃度とA423の測定値との間に高い相関関係が認められ、その比例係数が0.22であった。
よって、未知の試料溶液を、本発明の有害金属測定用試薬を用いて反応させて、波長423nmで測定すれば、得られたA423(測定値)を0.22で除することで、有害金属の総濃度を算出することができることが明らかになった。
重金属毒性を評価する方法として発光バクテリア(Vibrio fischeri)を用いたバイオアッセイ法が知られている。これは、発光バクテリアの呼吸等の代謝レベルと発光強度が密接に関係しているため、試料溶液を暴露したときの発光強度の減少率(発光阻害率)を指標にすることを特徴とする試料溶液の毒性評価方法である。各金属混合溶液を発光バクテリアに曝露したときの発光阻害率を以下の方法で調べた。
発光バクテリアの凍結乾燥粉末は、日立化成工業(株)製のMetalキットとして購入した。発光バクテリア凍結乾燥粉末を2%のNaCl溶液に懸濁し、毒性評価用発光バクテリア懸濁液を調製した。試料溶液として、0〜50μMのAg、Al,Bi,Ca,Cd,Co,Cr(III),Cr(VI),Cu,Fe,Hg,Mg,Mn,Ni,Pb,及びZn溶液(いずれも2%NaClを含む、購入先は上記実施例と同じ)を用意した。発光バクテリア懸濁液50μLと試料溶液50μLを混合して25℃で15分間静置した後、蛍光分光光度計を用いて490nmの発光強度(BL)を測定した。このとき、蛍光分光光度計の測定モードは発光測定用に設定した。試料溶液に2%NaCl溶液を用いた場合をコントロールとして同様に発光強度(BLc)を測定した。発光阻害率を(BLc−BL)/BLcとして算出した。試料溶液中の金属濃度に対する発光阻害率を図10に示す。試料溶液としてAg,Bi,Cd,Co,Cu,Fe,Hg,Mn,Ni,Pb,及びZnを用いたとき、濃度依存的な発光阻害が観察された。毒性が認められたこれらの金属は、図7に示したように、本発明の有害金属測定用試薬のA423を増加させる9種の金属と重複していた。
LB寒天培地に播種して培養した発光バクテリアのコロニーを回収し、2%NaCl溶液に懸濁させ、遠心と2%NaCl溶液による洗浄を2回繰り返し、発光バクテリア懸濁液を得た。このバクテリア懸濁液0.2mLを、50mMのMOPSと2%のNaClの混合溶液(pH7.2)4.8mLに添加して毒性評価用発光バクテリア懸濁液とした。試料溶液として、表2に示したように、4種類の金属を様々な濃度で混合した金属混合溶液(No.1〜18)を用意した。また、これらの金属混合溶液に40μMのEDTAを添加した試料溶液(No.19〜36)も用意した。毒性評価用発光バクテリア懸濁液を0.1mL、4%NaClを0.05mL、及び試料溶液を0.05mL混合して25℃で15分間静置した後、実施例7と同様に発光阻害率を測定した。一方で、同じ試料溶液を超純水で50倍希釈した溶液と本発明の有害金属測定用試薬を混合し、加熱処理後、A423を測定した。各試料溶液について得られたA423に対する発光阻害率を表2及び図11に示す。
EDTAを含まない試料溶液(No.1〜18)を用いたとき、発光阻害率は32〜79%の間であった。対応するA423は0.13〜0.74であり正の相関を示した。EDTAを含む試料溶液(No.19〜36)を用いた場合は、全体的に発光阻害率は低下し4〜52%であった。金属組成(絶対量)は同じであってもEDTAの添加により毒性が軽減されることを示している。これらの試料溶液に対応するA423も全体的に低い値となり、−0.09〜0.53であった。このように、溶液中の毒性が軽減されると、溶液中の重金属の絶対量が同じであっても、吸光度も低下した。
その結果、全体として、発光阻害率とA423の間には相関係数0.810の正の相関が認められ、発光阻害率の大きさ、すなわち毒性の強さに応じてA423が変化することが見出された。全体のプロットにフィットさせた回帰直線から、例えば、A423が0.47以上であれば発光阻害率50%以上に相当する強い毒性である、といった評価を行うなど、本発明の有害金属測定用試薬を用いて得たA423を毒性の指標として用いられることが見出された。
WO2004/055072号パンフレットの実施例1記載の方法に従い、プロトポルフィリンIX二ナトリウム塩とアクリルアミドをラジカル共重合したポルフィリン導入ポリマー(PPNa2−AAm)を合成した。PPNa2−AAmを1.3wt%(プロトポルフィリンIX二ナトリウム塩として57μMに相当)、MTを0.21μM、Biを0〜1μM、及びMOPSを25mM含む溶液(pH7.2)を用意した。ブランクとして、PPNa2−AAmを1.3wt%と25mMのMOPSを含む溶液(pH7.2)を用意した。各々、75℃で60分加熱後、ブランクに対する吸収スペクトルを測定した(図12a)。Bi濃度に応じて吸収スペクトルが変化し、吸収極大ピークの位置は415nmであった。同様な測定をMT未添加で行った場合は、吸収スペクトルの変化は観察されなかった(図12b)。TPPSの代わりにPPNa2−AAmを用いても、BiのMTへの結合によって解離したZnを吸光度の変化によって検出できることが示された。
メタロチオネイン様タンパクとして、市販のフィトケラチン(AnaSpec社製)を使用した。このフィトケラチン(以下、PCと略する場合がある)のアミノ酸配列は、γグルタミン酸−システイン−γグルタミン酸−システイン−グリシンである。TPPSを5μM、PCを6μM、Znを3μM、及びMOPSを100mM含む溶液(pH7.2)を調製し、TPPS及びZn−PC複合体を含む本発明の有害金属測定用試薬とした。この試薬中のPCは、PC1分子あたり亜鉛が1個結合したものを含み、その濃度は2.1μMであった。全PCのモル濃度に占める亜鉛が結合したPCの割合は35%であった。Ca、Cd、Mg、及びPbの原子吸光用標準液(いずれも1000mg/L、関東化学株式会社製)を超純水で希釈して1μMの各金属溶液を調製した。有害金属測定用試薬0.2mLとこれらの1μMの金属溶液0.2mLを混合し、加熱処理した後、A423を測定した。図13に、各金属溶液を用いたときのA423を示す。Cd及びPb溶液を用いたときA423の有意な増加が認められた。これらの金属はPCに結合し、それによってPCから解離したZnとTPPSが錯体を形成することが示された。一方、Ca及びMg溶液を用いたときはA423の明確な増加は観察されなかった。本発明の有害金属測定用試薬としてPCに亜鉛を結合させたものを用いた場合でも、SH基との親和性が強い有害金属を検出できることが示された。
Claims (10)
- 水溶性ポルフィリン誘導体及び亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体を含有することを特徴とする有害金属測定用試薬。
- 亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体が、亜鉛−メタロチオネイン複合体又は亜鉛−フィトケラチン複合体である請求項1又は2記載の有害金属測定用試薬。
- 有害金属が、銅、鉛、亜鉛、ビスマス、カドミウム、水銀、コバルト、銀、パラジウム、セレン及びニッケルからなる群から選ばれる1種以上の金属またはそのイオンである請求項1〜3のいずれか1項記載の有害金属測定用試薬。
- 有害金属測定用試薬が、重金属毒性評価試薬である、請求項1〜4のいずれか1項記載の有害金属測定用試薬。
- (1)水溶性ポルフィルン誘導体、亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体、及び試料溶液を混合する工程、及び(2)工程(1)で得られた混合溶液の吸光度を測定する工程を有することを特徴とする試料溶液中の有害金属濃度の測定方法。
- 亜鉛−メタロチオネイン様タンパク複合体が、亜鉛−メタロチオネイン複合体又は亜鉛−フィトケラチン複合体である請求項6又は7記載の測定方法。
- 有害金属が、銅、鉛、亜鉛、ビスマス、カドミウム、水銀、コバルト、銀、パラジウム、セレン及びニッケルからなる群から選ばれる1種以上の金属またはそのイオンである請求項6〜8のいずれか1項記載の測定方法。
- 請求項6〜9のいずれか1項記載の方法により測定された値を指標にすることを特徴とする、試料溶液の重金属毒性評価方法。
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