JP2010256085A - イオン交換膜分析装置及びこれを用いた分析方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】電気分解反応によってガスが発生する場合であっても電解質水溶液の液量の変化を十分に高い精度で測定できるとともに、イオン交換膜の伝導キャリアの種類を判定できるイオン交換膜分析装置及びこれを用いた分析方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るイオン交換膜分析装置100は、電解質水溶液を収容する容器10,20と、イオン交換膜3によって容器の内部がアノード側領域A及びカソード側領域Cに仕切られるように、イオン交換膜3を装着する試料装着機構と、アノード1と、カソード2と、アノード側領域Aに連通する2本のキャピラリー11,13と、カソード側領域Cに連通する2本のキャピラリー12,14とを備える。
【選択図】図2

Description

本発明は、イオン交換膜によって仕切られた容器内の電解質水溶液を電気分解する機構を備えたイオン交換膜分析装置及びこれを用いてイオン交換膜を分析する方法に関する。
燃料電池は、従来の発電技術と比較して高いエネルギー効率を達成し得ることから、環境負荷の少ない電力発生源としてその実用化が期待されている。燃料電池の実用化に必要な要素技術の一つとして、高い性能を有するイオン交換膜が挙げられる。例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)はプロトンが伝導する膜が利用されており、固体アルカリ形燃料電池(SAFC)はアニオンが伝導する膜が利用されている。これらの伝導キャリアがイオン交換膜中を移動する際、これに伴って水分子も移動することが知られている。伝導キャリアとともに移動する水分子の数を分析することは燃料電池の開発に重要な事項である。イオン交換膜の種類にもよるが、高い起電力を維持するにはイオン交換膜が適度に湿った状態を維持する必要があるからである。
従来、イオン交換膜を評価する手法の一つとして、電解質水溶液をイオン交換膜で仕切った状態で電気分解を行い、イオン交換膜の両側の電解質水溶液の体積変化を測定してイオン伝導に伴う水の移動量を計測する方法が知られている。例えば、非特許文献1には、イオン交換膜の両側にそれぞれ設けられたキャピラリーによって電解質水溶液の体積変化を測定する装置が記載されている。この装置は、AgCl/Ag電極を備えたものであり、電解質水溶液としてHCl水溶液が使用され、Nafion膜(イオン交換膜)を分析対象とするものである。
F.Meier and G.Eigenberger,Electrochimica Acta,49,1731(2004)
ところで、非特許文献1に記載の装置は、カチオン交換膜中のプロトン伝導に伴う水の移動を測定することを対象としており、伝導キャリアが未知のイオン交換膜については分析を行うことができなかった。すなわち、従来の分析装置では、イオン交換膜の伝導キャリアが不明である場合、それがアニオンであるのか、又はカチオンであるのかを分析することもできなかった。
また、非特許文献1に記載の測定は、HCl水溶液及びAgCl/Ag電極を用いることによってガスが発生しない環境下で行われる。電解質水溶液及び電極の種類によっては電気分解反応に伴ってガスが発生することから、多種のイオン交換膜の分析を行うには、電気分解反応によってガスが発生する場合であっても測定を実施できることが望ましい。しかし、従来の分析装置ではキャピラリー内の水溶液が発生したガスとともに噴きこぼれ、電気分解反応の前後における電解質水溶液の体積変化を正確に測定することができないという事情があった。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電気分解反応によってガスが発生する場合であっても電解質水溶液の液量の変化を十分に高い精度で測定できるとともに、イオン交換膜の伝導キャリアの種類を判定できるイオン交換膜分析装置及びこれを用いた分析方法を提供することを目的とする。
本発明は、イオン交換膜によって仕切られた容器内の電解質水溶液を電気分解する機構を備えたイオン交換膜分析装置であって、イオン交換膜によって容器の内部が第1領域及び第2領域に仕切られるように、当該装置にイオン交換膜を装着する試料装着機構と、容器内の第1領域に設けられたアノードと、容器内の第2領域に設けられたカソードと、第1領域に連通する第1の開口から上方に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第1のキャピラリーと、第2領域に連通する第2の開口から上方に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第2のキャピラリーと、第1領域に連通する第3の開口から第1のキャピラリーと異なる方向に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第3のキャピラリーと、第2領域に連通する第4の開口から第2のキャピラリーと異なる方向に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第4のキャピラリーとを備えるイオン交換膜分析装置を提供する。
上記イオン交換膜分析装置によれば、以下の項目についてイオン交換膜を分析することができる。すなわち、上記イオン交換膜分析装置は、(1)伝導キャリアがカチオン又はアニオンのいずれであるか;(2)伝導キャリアとともに移動する水分子の数;及び、(3)イオン交換膜の経時的な特性について分析できる。なお、同一のイオン交換膜に対し、複数の電解質水溶液を用いて上記分析を実施することで、当該イオン交換膜に適した電解質水溶液を選択できる。また、後述の通り、本発明のイオン交換膜分析装置は、電解質水溶液の電気分解によってガスが発生する場合であっても上記項目について分析できるので、実際の燃料電池における伝導キャリア(H、OH、その他のイオン)を含む電解質水溶液や電極材質を用いてイオン交換膜を評価できる。
本発明は、上記イオン交換膜分析装置を用いてイオン交換膜の分析を行う方法を提供する。すなわち、本発明のイオン交換膜分析方法は、イオン交換膜によって容器の内部が第1領域及び第2領域に仕切られるように、当該装置にイオン交換膜を装着する工程と、第1及び第2の開口よりも液面の位置が低くなるように容器内に電解質水溶液を入れるとともに、第3及び第4のキャピラリーの流路を電解質水溶液で満たす工程と、アノードとカソードとの間に直流電圧を印加して容器内の電解質水溶液の電気分解を行う工程と、電気分解を行った後、第3のキャピラリーの流路内の電解質水溶液を第1領域内に流入させて第1領域を電解質水溶液で満たす工程と、第1領域が電解質水溶液で満たされた状態において第1及び第3のキャピラリー内の液面の位置を測定する工程と、電気分解を行った後、第4のキャピラリーの流路内の電解質水溶液を第2領域内に流入させて第2領域を電解質水溶液で満たす工程と、第2領域が電解質水溶液で満たされた状態において第2及び第4のキャピラリー内の液面の位置を測定する工程とを備える。
本発明に係るイオン交換膜分析装置は、イオン交換膜の両側の第1領域及び第2領域にそれぞれ電極を有し、容器内で電気分解反応を生じさせることができる。第1領域において電気分解反応によりガス(酸素)が発生した場合であっても、液面の位置が第1の開口よりも低いため、電解質水溶液を噴きこぼすことなく第1のキャピラリーを通じてガスを大気放散させることができる。同様に、第2領域において電気分解反応によりガス(水素)が発生した場合であっても、液面の位置が第2の開口よりも低いため、電解質水溶液を噴きこぼすことなく第2のキャピラリーを通じてガスを大気放散させることができる。このように、本発明によれば、電解質水溶液の噴きこぼれによる測定誤差を十分に小さくできる。
なお、本発明でいう「第1及び第2の開口よりも液面の位置が低くなるように」とは、第1及び第2の開口の全体が気相部にそれぞれ存在するようにする場合に限られず、第1及び第2の開口の一部が気相部にそれぞれ存在するようにする場合も含む意味である。すなわち、第1及び第2の開口の少なくとも一部が気相に存在していれば、ここを通じて第1及び第2のキャピラリーの流路へとガスをそれぞれ流入させることができ、水溶液の噴きこぼれを十分に防止できる。
上記イオン交換膜分析装置の第3及び第4のキャピラリーは、電気分解を行った後に第1領域及び第2領域内の電解質水溶液の液量を測定する際に使用される。すなわち、電気分解反応が停止した状態において第3のキャピラリー内の水溶液を第1領域内に流入させ、第1領域内に気相が存在しない状態とし、この状態で第1及び第3のキャピラリー内の液面の位置を測定することにより、第1領域側の液量を正確に計測することができる。同様に、電気分解反応が停止した状態において第4のキャピラリー内の水溶液を第2領域内に流入させ、第2領域内に気相が存在しない状態とし、この状態で第2及び第4のキャピラリー内の液面の位置を測定することにより、第2領域側の液量を正確に計測することができる。このように、本発明によれば、電気分解を行った後、第1領域側及び第2領域側の液量を十分に高い精度で測定できる。なお、ここでいう「電気分解を行った後」とは、一定時間にわたって電気分解を行った後を意味するものであり、液量の計測後、再度、電気分解を開始してもよい。
本発明によれば、電気分解反応によってガスが発生する場合であっても電解質水溶液の液量の変化を十分に高い精度で測定できるとともに、イオン交換膜の伝導キャリアの種類を判定できる。
電気分解反応によって第1領域及び第2領域の水溶液が増減することを示す模式図である。 本発明に係るイオン交換膜分析装置の好適な実施形態を示す斜視図である。 図2に示す装置の構造を示す断面図である。 図2に示す装置において電気分解を行っている状態を示す断面図である。 電気分解を行った後、水溶液の液量を測定している状態を示す断面図である。 電気分解を行った後、水溶液の液量を図5に示す方法と異なる方法で測定している状態を示す断面図である。 実施例1の結果を示すグラフである。 実施例2の結果を示すグラフである。 実施例3の結果を示すグラフである。 実施例4の結果を示すグラフである。 実施例5の結果を示すグラフである。 実施例6の結果を示すグラフである。 実施例7の結果を示すグラフである。 実施例8の結果を示すグラフである。 実施例9の結果を示すグラフである。 実施例10の結果を示すグラフである。 実施例11の結果を示すグラフである。 実施例12の結果を示すグラフである。 実施例13の結果を示すグラフである。 実施例14の結果を示すグラフである。 実施例15の結果を示すグラフである。 実施例16の結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
まず、本実施形態に係るイオン交換膜分析装置の説明に先立ち、図1を参照しながら、イオン交換膜分析装置において、電気分解反応によりアノード側領域(第1領域)及びカソード側領域(第2領域)の水溶液が増減することを説明する。
図1(a)は、イオン交換膜3をプロトン(水素イオン)が伝導する場合の電気分解反応を示すものである。イオン交換膜3の両側に電位を印加すると、アノード1及びカソード2において以下の反応が起こり、プロトンはn個の水分子を伴って、アノード側領域Aからイオン交換膜3中を通り、カソード側領域Cへ移動する。
アノード:(1/2+n)HO → 1/4O(g)+e+H+nH
カソード:H+nHO+e → 1/2H(g)+nH
その結果、アノード側領域Aにおける水溶液の水位は低下し、カソード側領域Cにおける水溶液の水位は上昇する。電気分解を行った後、アノード側領域A及びカソード側領域Cの水溶液の体積変化量をそれぞれ測定することで、イオン交換膜3中を1つのプロトンが伝導するに伴っていくつの水分子が移動するのかを特定することができる。なお、伝導キャリアがプロトンの場合、アノード側領域Aにおける水分子の減少量(1/2+n)とカソード側領域Cにおける水分子の増加量(n)との比は、およそ1であり、水溶液がアノード側領域Aで減少する量とカソード側領域Cで増加する量とはほぼ同じになる。
図1(b)は、イオン交換膜3をOHが伝導する場合の電気分解反応を示すものである。イオン交換膜3の両側に電位を印加すると、アノード1及びカソード2において以下の反応が起こり、OHはn個の水分子を伴って、カソード側領域Cからイオン交換膜3中を通り、アノード側領域Aへ移動する。
カソード:(1+n)HO+e → 1/2H(g)+OH+nH
アノード:OH+nHO → (1/2+n)HO+1/4O(g)+e
その結果、アノード側領域Aにおける水溶液の水位は上昇し、カソード側領域Cにおける水溶液の水位は低下する。電気分解を行った後、プロトン伝導のケースと同じように、アノード側領域A及びカソード側領域Cの水溶液の体積変化量を測定することで、イオン交換膜3中を1つのOHが伝導するに伴っていくつの水分子が移動するのかを特定することができる。なお、伝導キャリアがOHの場合、アノード側領域Aにおける水分子の増加量(1/2+n)と、カソード側領域Cにおける水分子の減少量(1+n)の比は、およそ1であり、水溶液がアノード側領域Aで増加する量とカソード側領域Cで減少する量はほぼ同じになる。
イオン交換膜3の伝導キャリアがカチオンであるか、あるいはアニオンであるか不明の場合、アノード側領域A及びカソード側領域Cの水溶液の増減から、伝導キャリアの種類を判定できる。つまり、アノード側領域Aからカソード側領域Cへ水分子が移動する場合(カソード側領域Cの水溶液が増加する場合)には、伝導キャリアがカチオンであると判定できる。一方、カソード側領域Cからアノード側領域Aへ水分子が移動する場合(アノード側領域Aの水溶液が増加する場合)には、伝導キャリアがアニオンであると判定できる。
<イオン交換膜分析装置>
図2,3を参照しながら、電気分解後の水溶液の体積変化量を高い精度で測定可能なイオン交換膜分析装置100について説明する。イオン交換膜分析装置100は、一対の電極(アノード1及びカソード2)を備え、ガラスなどの透明の材料からなる容器やキャピラリー内に電解質水溶液を収容できるようになっている。
図2に示すように、イオン交換膜分析装置100は、アノード側領域Aを形成するアノード側容器10と、カソード側領域Cを形成するカソード側容器20とを備える。分析すべきイオン交換膜3は、アノード側容器10とカソード側容器20とによって挟持される。本実施形態においては、試料装着機構はアノード側容器10及びカソード側容器20のフランジ部10a,20a並びにこれらを固定する固定具8等によって構成される。なお、フィルム状のイオン交換膜などの強度が低い膜を分析する場合には、イオン交換膜3の両側に多孔体4を配置してもよい。
アノード側容器10は、当該容器の上部から鉛直方向に伸びるガス放出用キャピラリー(第1のキャピラリー)11、及び、当該容器の側面から水平方向に伸びる液量測定用キャピラリー(第3のキャピラリー)13が接続されている。ガス放出用キャピラリー11の上端にはステンレス管21が接続されている。ステンレス管21及び白金ワイヤ31を通じて白金製のアノード1と電源とが電気的に接続される。
カソード側容器20は、当該容器の上部から鉛直方向に伸びるガス放出用キャピラリー(第2のキャピラリー)12、及び、当該容器の側面から水平方向に伸びる液量測定用キャピラリー(第4のキャピラリー)14が接続されている。ガス放出用キャピラリー12の上端にはステンレス管22が接続されている。ステンレス管22及び白金ワイヤ32を通じて白金製のカソード2と電源とが電気的に接続される。
液量測定用キャピラリー13,14の先端には液溜部16,18がそれぞれ設けられている。液溜部16,18の上部は管状に形成されており、ステンレス管9を接続できるようになっている。
電解質水溶液の増減を高い精度で測定するには、温度変化による水溶液の体積変化の影響をなるべく小さくすることが望ましい。その手段の一つとして、一定の温度条件下で測定を行うことが挙げられる。イオン交換膜分析装置100は、氷水に浸した状態で測定できるように、防水構造となっている。すなわち、イオン交換膜分析装置100は、図3に示すOリング5、樹脂製キャップ6、樹脂製チューブ7及び固定具8などによって防止性が保たれている。なお、氷水に浸して水溶液の温度を低くすることで、水溶液の蒸発量を低く抑えることができるため、蒸発による測定誤差も小さくできるという利点もある。
他の手段として、装置全体を小型化し、収容する電解質水溶液の液量を少なくすることが挙げられる。例えば、アノード側容器10及びカソード側容器20にそれぞれ入れる水溶液の液量を2.5ml程度とすることによって、より一層高い精度で測定を行うことができる。
<イオン交換膜分析方法>
イオン交換膜分析装置100を用いた分析方法について説明する。まず、分析すべきイオン交換膜3をイオン交換膜分析装置100に装着するとともにアノード側領域A及びカソード側領域C内に電解質水溶液を入れる。この際、ガス放出用キャピラリー11に連通するアノード側容器10の開口10bが水溶液で塞がれないように、液面Laを開口10bよりも低くする。同様に、ガス放出用キャピラリー12に連通するカソード側容器20の開口20bが水溶液で塞がれないように、液面Lcを開口20bよりも低くする。また、液量測定用キャピラリー13,14内及び液溜部16,18内も電解質水溶液で満たす。
上記準備工程後、イオン交換膜分析装置100を氷水に浸し、温度の安定化を図る。その後、イオン交換膜分析装置100を氷水から一旦取り出し、電気分解反応を開始する前にアノード側及びカソード側の液量を測定する。液量の測定方法は、電気分解反応後と同様の手法によって実施することができ、詳細については後述する。
イオン交換膜分析装置100を氷水に再度浸した後、アノード1とカソード2との間に直流電圧を印加して電解質水溶液の電気分解を行う(電気分解工程)。電気分解を行っている間は、ガス放出用キャピラリー11,12が上方に向くようにイオン交換膜分析装置100を保持することによって、キャピラリー11,12及びステンレス管21,22を通じてガス(酸素及び水素)を放出する(図4参照)。アノード側領域A及びカソード側領域Cの上部に気相部を設けることで、水溶液の噴きこぼれを十分に防止できる。また、発生したガスに含まれる水蒸気はキャピラリー11,12及びステンレス管21,22の壁面で冷やされて凝縮し、アノード側領域A及びカソード側領域Cにそれぞれ返送される。
一定の期間にわたって電気分解反応を生じさせた後、イオン交換膜分析装置100を氷水から取り出し、液量の変化量を測定する(液量測定工程)。アノード側領域A内の液量を測定するには、図5に示すように、装置100を傾け、液溜部16及び液量測定用キャピラリー13内の水溶液をアノード側領域Aに流入させる。これにより、アノード側領域A内に気相部が存在しない状態にしてガス放出用キャピラリー11及び液量測定用キャピラリー13の液面La1,La2を測定する。カソード側領域Cについてもアノード側領域Aと同様にして液量を測定する。液量の変化量を容易に把握できるように、ガス放出用キャピラリー11,12及び液量測定用キャピラリー13,14の所定の位置に目盛りを付しておいてもよい。
アノード側領域A内の気相を速やかになくすため、図6に示すように、液溜部16に連通するステンレス管9の上端にゴムチューブ25を介して注射器等を接続し、これを用いてアノード側領域Aに水溶液を強制的に流入させてもよい。カソード側領域Cについてもこれと同様にしてカソード側領域Cに水溶液を強制的に流入させてもよい。なお、液溜部16,18に空気などのガスを注入できるものであれば、注射器に限定されるものではなく、例えば、スポイトなどの空気注入手段を採用してもよい。
上記の電気分解工程及び液量測定工程を経ることによって、水溶液が増加した側の領域がアノード側又はカソード側のどちらであるかを把握することができ、イオン交換膜3の伝導キャリアがカチオンであるかアニオンであるかを判定することができる。また、イオン交換膜分析装置100によれば、液量の変化量を高い精度で測定することが可能であるため、キャリアの伝導に伴って移動する水分子の量(n)を高い精度で計測できる。既知のイオン交換膜のnの値と比較することによって、伝導キャリアの種類も判定することができる。電気分解工程及び液量測定工程からなる一連の工程を繰り返して行うことによって、イオン交換膜3の経時的な特性も分析できる。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、防水構造の装置を例示したが、恒温槽内などで測定を行うのならば、必ずしも防水構造としなくてもよい。また、ガス放出用キャピラリー及び液量測定用キャピラリーは、上記測定方法を実施できる限り、鉛直方向及び水平方向に延在するものではなくてもよい。更に、ステンレス管9,21,22は必ずしも使用しなくてもよく、あるいは、これらの代わりにガラス管などを使用してもよい。
上記実施形態においては、白金からなるアノード、カソード及びワイヤを例示したが、白金以外の材質からなるものを採用してもよい。なお、本発明に係るイオン交換膜分析装置及びこれを用いた分析方法は、電気分解反応によってガスが発生する場合に特に有用であるが、ガスが発生しない場合でも利用できる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例においては、以下の溶液を電解質水溶液として使用した。
HNO(pH2.1)
SO(pH2.1)
KOH(pH8.9、11.9)
NaOH(pH11.9)
また、本実施例においては、以下のイオン交換膜を使用した。
ナフィオン膜(商品名:ナフィオンNRE−212、デュポン社製)
アニオン膜(商品名:AHA(Cl型)、(株)トクヤマ社製)
NaCo(コバルト酸ナトリウム)
γAl(ガンマ酸化アルミニウム)
上述のNaCoについては、以下の(1)〜(5)の手順に従って調製した。なお、本実施例においては、NaCoペレットは、後述の通り、温度900℃程度の焼成過程を経て作製されるものであり、このような高温条件にあっては、Naが蒸発する。したがって、理論量のモル比(Na:Co=1:2)で原料を調製すると、生成物中に不純物(Co)が生じてしまうため、原料中のNaとCoのモル比をNa:Co=1.6:2とした。
(1)酢酸ナトリウム5.00g(60.95mmol)と酢酸コバルト四水和物19.00g(76.28mmol)を内容積200mLのテフロン(登録商標)製のビーカーに秤取し、蒸留水40mLを用いて溶解した。
(2)上記(1)で得た溶液を80℃で撹拌しながら水分を蒸発させ、乾燥機(温度条件:80℃)に入れて、一晩乾燥させた。
(3)乾燥させた試料をメノウ乳鉢でよく粉砕し、これをアルミナるつぼに入れた。このるつぼをMuffle炉に入れ、試料を空気中にて温度750℃、保持時間5時間の条件で仮焼きした。
(4)仮焼きした試料をメノウ乳鉢で粉砕し、錠剤成型器を用いてペレット(直径:20mm、厚さ:〜3mm)に成型した(圧力:30MPa、保持時間:5分)。得られた成型体をMuffle炉内に入れ、空気中にて温度790℃、保持時間3時間の条件で本焼きした。
(5)本焼きした試料を遊星型ボールミル(FRITSCH pulverisette)に収容し、回転速度300rpm、処理時間20分の条件で粉砕した。得られた粉体を錠剤成型器に入れて、圧力60MPa、保持時間2分で、ペレット(直径:10mm、厚さ:1mm)に成型した。得られた成型体をMuffle炉内に入れ、空気中にて温度900℃、保持時間32時間の条件で焼結させ、NaCoの焼結体を得た。
また、アニオン膜はCl末端タイプをOH末端タイプにするため、1mol/lのNaOH溶液に24時間漬けた。そして、ナフィオン膜とアニオン膜は、イオン交換膜分析装置に取り付けるために、直径20mmの丸い形に切られるが、両側から直径15mmのOリングがはめ込まれるため、イオン交換膜のそれぞれの面の有効面積は約176mmだった。また、形状を保つために2枚の多孔質ガラスのディスクにナフィオン膜又はアニオン膜を挟んだ。
第1キャピラリー及び第2キャピラリーにPtワイヤ(直径0.1mm)を通し、陽極(アノード)と陰極(カソード)をワイヤの端につなぎ、最大電位70Vの電力装置から定電流モードで2つの電極の間に電流を流して、水溶液の変化量を測定した。
(実施例1〜5)
ナフィオン膜又はアニオン膜をイオン交換膜として、HNO(pH2.1)、KOH(pH8.9又はpH11.9)のいずれかを電解質水溶液とし、電流を一定又は変動させて、水位の変化量から、クーロンあたりの水溶液の体積変化量を算出した。
実施例1として、HNO溶液(pH2.1)にナフィオン膜を用い、電流を1.2mAに固定して流した場合の水溶液の体積変化を図7に示した。図7のとおり、カソード側の水溶液の体積が増加し、アノード側の水溶液の体積が減少した。この結果から、イオン伝導の伝導体はカチオンだということがわかった。また、図7のグラフの傾きから水の移動数nは6と算出できたが、この値はHCl溶液に挿入されたナフィオン膜のn数が1.5〜6.5というこれまで知られていた結果と一致するものであった。
実施例2として、KOH溶液(pH11.9)を使用し、ナフィオン膜を用いた場合の水溶液の体積変化を図8に示した。水の移動は0.4mA程度の低い電流でも測定することができたが、測定中は抵抗が増加しつづけたため、電流は0.4mAよりもさらに低くしなければならず、測定が終わったときには50μAだった。図8のグラフの傾きから水の移動数nは、27と算出できた。
実施例3として、HNO溶液(pH2.1)を使用し、アニオン膜を用いた場合の水溶液の体積変化を図9に示した。最初の電流は1mAに設定されたが、電流がアニオン膜を通ると抵抗は急速の増加したため、測定は低い電流と電力供給の上限(70V)に近い高い電圧で行われなければならなかった。アノード側で水溶液の体積が増加し、カソード側では減少したが、この傾向はナフィオンの場合とは逆であり、イオン伝導体がNO あるいはOHであることを示した。水移動のn値は、2クーロン以下の初期の結果では5と算出され、その後、抵抗は急速に増加し、n値も17程度まで大幅に増加したが、2クーロンあたりでの傾きの変化は、アニオン膜がOH末端タイプからNO 末端タイプに変化することによって、NO 伝導が始まり、抵抗が高くなり、n値も高くなったためと考えられる。
実施例4として、KOH溶液(pH11.9)にアニオン膜を用い、電流を1.2mAに固定して流した場合の水溶液の体積変化を図10に示した。アノード側の溶液体積は増加し、カソード側では減少し、この傾向はナフィオンの場合とは逆であり、イオン伝導体がアニオンであることを示した。水移動のn値は4と算出され、この値は図9に見られる2クーロン以下のHNOの結果から算出された5という値に近かった。
実施例5として、KOH溶液(pH8.9)にアニオン膜を用い、電流を70μAに固定して流した場合の水溶液の体積変化を図11に示した。アノード側の溶液体積は増加し、カソード側では減少し、この傾向はナフィオンの場合とは逆であり、イオン伝導体がアニオンであることを示した。水移動のn値は4と算出され、この値は図10の値と同じであった。
(実施例6〜16)
ナフィオン膜、アニオン膜、NaCo又はγAlのいずれかをイオン交換膜とし、NaOH、水、HSOのいずれかを電解質水溶液として、電流、電圧を一定又は変動させて、時間当たりの水位の変化量を測定した。
実施例6として、NaOH溶液(pH11.9)にナフィオン膜を用い、電圧を70.9Vで一定にし、電流を0.35mAから0.25mAに変動させて流した場合の水溶液の水位変化を図12に示した。図12のとおり、電気分解開始から時間が経つにつれて、カソード側の水位が上昇し、アノード側の水位が低下した。この結果から、イオン伝導の伝導体はカチオンだということがわかった。
実施例7として、水にナフィオン膜を用い、電圧を70.9Vで一定にし、電流を0.02mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図13に示した。一方の電極での水位の上昇及びもう一方の電極での水位の低下という結果が得られず、イオン伝導が円滑に行われていないと考えられた。
実施例8として、HSO溶液(pH2.1)にナフィオン膜を用い、電圧を48Vで一定にし、電流を1mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図14に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、カソード側の水位が上昇し、アノード側の水位が低下した。この結果から、イオン伝導の伝導体はカチオンだということがわかった。
実施例9として、NaOH溶液(pH11.9)にアニオン膜を用い、電圧を54Vで一定にし、電流を5mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図15に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、アノード側の水位が上昇し、カソード側の水位が低下した。この結果から、イオン伝導の伝導体はアニオンだということがわかった。
実施例10として、HSO溶液(pH2.1)にアニオン膜を用い、電圧を20Vで一定にし、電流を1mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図16に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、アノード側の水位が上昇し、カソード側の水位が低下した。この結果から、イオン伝導の伝導体はアニオンだということがわかった。
実施例11として、NaOH溶液(pH11.9)にイオン交換膜としてNaCoのペレットを用い、電圧を4.6V、電流を3mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図17に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、アノード側の水位が上昇し、カソード側の低下が減少した。この結果から、イオン伝導の伝導体はアニオンだということがわかった。
実施例12として、水にイオン交換膜としてNaCoのペレットを用い、電圧を4.5V、電流を3mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図18に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、アノード側の水位が上昇し、カソード側の水位が低下した。この結果から、イオン伝導の伝導体はアニオンだということがわかった。
実施例13として、HSO溶液(pH2.1)にイオン交換膜としてNaCoのペレットを用い、電圧を4.6V、電流を3mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図19に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、アノード側の水位が上昇し、カソード側の水位が低下した。この結果から、イオン伝導の伝導体はアニオンだということがわかった。
実施例14として、NaOH溶液(pH11.9)にイオン交換膜としてγAlを用い、電圧を46V、電流を0.9mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図20に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、カソード側の水位が上昇し、アノード側の水位が低下した。
実施例15として、水にイオン交換膜としてγAlを用い、電圧を70.9V、電流を0.04から0.09mAで変動させて流した場合の水溶液の水位変化を図21に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、アノード側の水位が上昇し、カソード側の水位が低下した。
実施例16として、HSO溶液(pH2.1)にイオン交換膜としてγAlを用い、電圧を10V、電流を1.05mAで一定にして流した場合の水溶液の水位変化を図22に示した。電気分解開始から時間が経つにつれて、アノード側の水位が上昇し、カソード側の水位が低下した。
1…アノード、2…カソード、3…イオン交換膜、10…アノード側容器、10b,20b…キャピラリーの下端開口、11…ガス放出用キャピラリー(第1のキャピラリー)、12…ガス放出用キャピラリー(第2のキャピラリー)、13…液量測定用キャピラリー(第3のキャピラリー)、14…液量測定用キャピラリー(第4のキャピラリー)、16,18…液溜部、20…カソード側容器、100…イオン交換膜分析装置、A…アノード側領域(第1領域)、C…カソード側領域(第2領域)、La,Lc…電解質水溶液の液面、La1,La2…電解質水溶液の液面。

Claims (2)

  1. イオン交換膜によって仕切られた容器内の電解質水溶液を電気分解する機構を備えたイオン交換膜分析装置であって、
    前記イオン交換膜によって前記容器の内部が第1領域及び第2領域に仕切られるように、当該装置に前記イオン交換膜を装着する試料装着機構と、
    前記容器内の前記第1領域に設けられたアノードと、
    前記容器内の前記第2領域に設けられたカソードと、
    前記第1領域に連通する第1の開口から上方に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第1のキャピラリーと、
    前記第2領域に連通する第2の開口から上方に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第2のキャピラリーと、
    前記第1領域に連通する第3の開口から前記第1のキャピラリーと異なる方向に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第3のキャピラリーと、
    前記第2領域に連通する第4の開口から前記第2のキャピラリーと異なる方向に伸びる管路を有するとともに、先端が開放された第4のキャピラリーと、
    を備えるイオン交換膜分析装置。
  2. 請求項1に記載のイオン交換膜分析装置を用いたイオン交換膜分析方法であって、
    前記イオン交換膜によって前記容器の内部が第1領域及び第2領域に仕切られるように、当該装置に前記イオン交換膜を装着する工程と、
    前記第1及び第2の開口よりも液面の位置が低くなるように前記容器内に電解質水溶液を入れるとともに、前記第3及び第4のキャピラリーの流路を電解質水溶液で満たす工程と、
    前記アノードと前記カソードとの間に直流電圧を印加して前記容器内の電解質水溶液の電気分解を行う工程と、
    前記電気分解を行った後、前記第3のキャピラリーの流路内の電解質水溶液を前記第1領域内に流入させて前記第1領域を電解質水溶液で満たす工程と、
    前記第1領域が電解質水溶液で満たされた状態において前記第1及び第3のキャピラリー内の液面の位置を測定する工程と、
    前記電気分解を行った後、前記第4のキャピラリーの流路内の電解質水溶液を前記第2領域内に流入させて前記第2領域を電解質水溶液で満たす工程と、
    前記第2領域が電解質水溶液で満たされた状態において前記第2及び第4のキャピラリー内の液面の位置を測定する工程と、
    を備えるイオン交換膜分析方法。
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