JP2010254609A - D−アスパラギン酸オキシダーゼおよびd−アミノ酸オキシダーゼに対する新規阻害剤 - Google Patents

D−アスパラギン酸オキシダーゼおよびd−アミノ酸オキシダーゼに対する新規阻害剤 Download PDF

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Abstract

【課題】D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼの新規阻害剤で、安全性が高く医薬品として利用できる物質を見出し、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA型L-グルタミン酸受容体)の機能不全による精神神経疾患を改善するための新たな抗精神病薬、特に、統合失調症やうつ病の改善薬を開発する。
【解決手段】本発明は、チオラクトマイシンまたはその薬学的に許容しうる塩を有効成分とする、D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼの阻害剤を提供する。また、本発明は、この阻害剤を含む、D-アスパラギン酸及び/又はD-セリン量の減少に起因する精神神経疾患の改善薬、あるいはN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA型L-グルタミン酸受容体)を介する神経伝達の異常に起因する精神神経疾患の改善薬、特に統合失調症やうつ病の改善薬も提供する。
【選択図】なし

Description

本発明は、D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼに対する阻害剤、およびこの阻害剤を含有する精神神経疾患の改善薬に関する。
従来、水棲動物や昆虫などの下等な生物に遊離のD-アミノ酸(D-アラニンやD-グルタミン酸など)が存在することは知られていたが、これらは極めて例外的なものと考えられていた。ところが、近年の光学分割法をはじめとする分析技術の進展に伴い、D-アミノ酸が遊離型、あるいはペプチドまたはタンパク質に結合した形で広く生物界に存在することが分かってきた。とりわけ遊離型のD-セリンとD-アスパラギン酸に関しては、哺乳類を含む高等生物の体内に比較的高濃度で存在することが判明し、重要な機能を担っていることが明らかになってきた。
D-セリンは、神経細胞においてL-グルタミン酸受容体の一種であるN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA型L-グルタミン酸受容体、NMDA受容体)のグリシン結合部位に結合し、この受容体のL-グルタミン酸作動性の神経伝達を増強することが報告されている。従って、D-セリンはNMDA受容体にコアゴニストとして結合し、L-グルタミン酸のNMDA受容体への結合を介した興奮を調節する神経調節因子であると考えられている。
一方、D-アスパラギン酸はNMDA受容体にアゴニストとして結合する因子であり、D-セリンと同様に脳に比較的高濃度で存在する。
生体内においてD-アミノ酸を立体特異的に分解する酸化酵素としては、D-アスパラギン酸オキシダーゼ(DDO)およびD-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)が知られている。D-アスパラギン酸オキシダーゼは、D-アスパラギン酸などの酸性のD-アミノ酸を分解する酵素である。また、D-アミノ酸オキシダーゼは、D-セリンなどの中性および塩基性のD-アミノ酸を分解する酵素である。DAOおよびDDOは、以下の反応式に示すように酸素を電子受容体としたD-アミノ酸の酸化的脱アミノ化反応を触媒する。この反応により、基質であるD-アミノ酸に対応する2-オキソ酸、過酸化水素およびアンモニアが生成する。
D-アミノ酸 + O2 + H2O → 2-オキソ酸 + H2O2 + NH3
D-アミノ酸オキシダーゼ活性を欠失している変異体マウスにおいては中枢神経系および血清中におけるD-セリンレベルが野生型マウスと比較して高いことが報告されている(非特許文献1)。また、D-アスパラギン酸オキシダーゼ遺伝子を破壊したノックアウトマウスにおいては体内のD-アスパラギン酸の量が増加していることが示されている(非特許文献2および3)。すなわち、D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼは、D-アスパラギン酸およびD-セリンをそれぞれの生理的基質として分解し、その体内濃度の調節を担う酵素である。
NMDA受容体の機能低下を含む、L-グルタミン酸系神経伝達の異常は、統合失調症やうつ病などの様々な精神神経疾患の発症に関わっていると考えられており、この受容体を賦活する物質は新規抗精神病薬として期待される。
統合失調症患者を対象とした連鎖解析により、統合失調症の感受性候補因子の1つとしてD-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)が同定されている(非特許文献4)。この知見を受け、DAOの機能亢進による脳内D-セリン濃度の減少がNMDA受容体の機能不全を引き起こし、ひいては統合失調症が発症するという説が提唱され、この説を支持する幾つかの研究が報告されている(非特許文献5、6、7、8)。従って、DAO活性を阻害することにより脳内D-セリン濃度を高めることは、統合失調症の病態を改善する方法の1つになり得ると考えられる。実際、統合失調症改善薬としての利用を念頭に置いたDAO阻害剤の研究が報告されている(非特許文献9)。
このように、DAOの阻害剤は、体内D-セリン濃度を上昇させると考えられるため、統合失調症の改善薬としての有用性が期待できる。このことは、DAO活性を欠失しているマウスでは、フェンサイクリジン(NMDA受容体遮断薬)により引き起こされる統合失調症様症状の1つである自発的運動量亢進現象が抑制されるとの報告によっても裏付けられる(非特許文献10)。
また、D-アスパラギン酸オキシダーゼ(DDO)ノックアウトマウスでは、統合失調症の行動規範として用いられるプレパルス抑制において、アンフェタミン(ドーパミン作動薬)やMK801(NMDA受容体のアンタゴニスト)の投与により引き起こされるプレパルス抑制の遮断作用が弱まっていると報告されている(非特許文献11)。すなわち、アンフェタミンやMK801で惹起された統合失調症の症状であるプレパルス抑制の低下が、DDO遺伝子の欠失で改善されている。また、抗うつ薬の前臨床評価法として広く利用されているPorsoltの強制水泳試験において、DDOノックアウトマウスは野生型マウスと比較して無動状態で浮いている時間が短縮しており、DDO遺伝子の欠失が抗うつ作用を持つことが示唆されている(非特許文献12)。したがって、DDOの阻害剤は、体内D-アスパラギン酸濃度を上昇させると考えられるため、統合失調症やうつ病の改善薬としての有用性が期待できる。
これまでにD-アミノ酸オキシダーゼ阻害剤またはD-アスパラギン酸オキシダーゼの阻害剤自体は幾つか知られているが、統合失調症を含む精神神経疾患に対する医薬品としての使用についての検討はほとんど進んでいない。
また、特許文献1には、統合失調症を含む中枢神経系障害の処置のための候補分子を同定する方法が記載され、候補化合物としてD-アミノ酸オキシダーゼおよびD-アスパラギン酸オキシダーゼの各種アンタゴニストを使用することが示唆されているが、具体的にアンタゴニストであるとして記載されているのは、ベンゾアート、アミノエチルシステイン-ケチミン、アミノエチルシステイン(チアリシン)、システアミン、パンテテイン、シスタチオニンおよびS-アデノシルメチオニンのみである。また、これらの化合物が医薬品として使用できることについては確認されていない(特許文献1)。
現在使用されている統合失調症の治療薬としては、脳内ドーパミン作動性神経機能の異常亢進に起因する症状を抑制するために、ドーパミン受容体拮抗作用を有する向精神薬が使用されている。例えば、フェノチアジン骨格、チオキサンテン骨格、ブチロフェノン骨格、ベンズアミド骨格を有する化合物、5-HT受容体拮抗作用も有する三環性化合物などがある。しかしながら、これらの化合物は妄想や幻覚といった統合失調症の陽性症状は緩和するが、NMDA受容体の機能低下に起因すると考えられている感情鈍麻や意欲減衰といった陰性症状は改善できない。このため、NMDA受容体を賦活する薬物は統合失調症の陽性症状と陰性症状の両方を改善する新規抗精神病薬として期待される。
特表2004-537275号公報
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上記の知見から、D-アスパラギン酸オキシダーゼまたはD-アミノ酸オキシダーゼの阻害剤は、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA型L-グルタミン酸受容体)を介する神経活動の調節薬、特に統合失調症やうつ病の改善薬としての可能性を有することが期待される。したがって、これらの酵素の阻害剤であって、安全性が高く医薬品として利用できる物質を見出すことは、新たな抗精神病薬の開発の点で有用である。
本発明者らは、上記現状に鑑み、D-アスパラギン酸オキシダーゼまたはD-アミノ酸オキシダーゼの阻害剤を同定するための検討を行った。その結果、チオラクトマイシンがD-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼに阻害作用を示すことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明はチオラクトマイシンまたはその薬学的に許容しうる塩を有効成分とする、D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼの阻害剤を提供するものである。また、本発明は、この阻害剤を含む、D-アスパラギン酸及び/又はD-セリン量の減少に起因する精神神経疾患、あるいはN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA型L-グルタミン酸受容体)を介する神経伝達の異常に起因する精神神経疾患、特に統合失調症やうつ病の改善薬を提供するものである。
チオラクトマイシンは、D-アスパラギン酸を分解するD-アスパラギン酸オキシダーゼ、およびD-セリンを分解するD-アミノ酸オキシダーゼの阻害剤として有効であることが本発明において実証された。また、チオラクトマイシンはマウスを用いた動物実験において毒性が少なく安全性が高いことが確認されているので、D-アスパラギン酸およびD-セリンが関与するN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA型L-グルタミン酸受容体)を介する神経伝達の調節薬、特に統合失調症やうつ病の改善薬としての効果が期待される。
マロン酸(図1A)およびチオラクトマイシン(図1B)のマウスDDOに対する阻害活性を示す図である。 チオラクトマイシンのヒトDDOに対する阻害活性を示す図である。 チオラクトマイシンのブタDAO(図3A)、マウスDAO(図3B)、ヒトDAO(図3C)に対する阻害活性を示す図である。
本研究で用いるチオラクトマイシンは、下記の化学構造を有する、化学名、(5R)-4-ヒドロキシ-3,5-ジメチル-5-[(1E)-2-メチル-1,3-ブタジエニル]-2(5H)-チオフェノンの化合物であり、白色〜淡黄色の結晶性の粉末として得られ、酸性水溶液に難溶で、アルカリ性水溶液、メタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルムなどによく溶ける。チオラクトマイシンは多種多様な病原菌に対して抗菌作用を示すことが知られており、その作用機序は、細菌のII型脂肪酸合成系を構成する酵素であるFabB、FabFおよびFabHを阻害するというものである。ヒトを含めた哺乳類が持つI型脂肪酸合成系を構成する酵素は阻害しない。
Figure 2010254609
以下の実施例において実証しているように、チオラクトマイシンはD-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼに対して阻害効果を有する。したがって、チオラクトマイシンの投与により神経細胞におけるD-アスパラギン酸およびD-セリンの分解が抑制され、神経細胞におけるD-アスパラギン酸およびD-セリンの不足によって生じる精神神経疾患を改善することが期待できる。特に、統合失調症とうつ病は、D-アスパラギン酸およびD-セリンがそれぞれアゴニストおよびコアゴニストとして結合するN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA受容体)を介する神経伝達の異常が原因の1つと考えられている。
DDOとDAOの両方を阻害するというチオラクトマイシンの生化学的性質は、NMDA受容体の賦活剤の開発を目指す上で臨床上および治療上の利点となりうるものである。D-セリンはNMDA受容体のグリシン結合部位にコアゴニストとして結合し、この受容体のL-グルタミン酸作動性の神経伝達を増強することが報告されている。また、D-アスパラギン酸はNMDA受容体のL-グルタミン酸結合部位にアゴニストして結合することが報告されている。即ち、NMDA受容体におけるD-セリンおよびD-アスパラギン酸の結合部位は異なっており、この受容体を介した十分な神経伝達が生じるためには両結合部位に対する各々のリガンドの結合が不可欠であると考えられている。従って、NMDA受容体の活性化に関して言えば、DAOあるいはDDOのみを阻害する化合物と比較して、DAOとDDOの両方を阻害する化合物の方がより効果的であると考えられる。
D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼは、ヒトを含む哺乳動物の組織、特に脳、腎臓および肝臓において発現している。D-アスパラギン酸オキシダーゼは、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、NMDAなどの酸性のD-アミノ酸を分解するが、D-セリン、D-アラニン、D-アルギニンなどの中性および塩基性のD-アミノ酸やL-アミノ酸は分解しない。一方、D-アミノ酸オキシダーゼは、中性および塩基性のD-アミノ酸を分解するが、酸性のD-アミノ酸やL-アミノ酸は分解しない。
チオラクトマイシンの毒性については、Oishiらの報告では(Oishiら、J Antibiot、1982、35、391)、チオラクトマイシンのナトリウム塩を雄のマウスに投与した場合に観察される毒性は非常に弱く、静脈注射、腹腔内投与および経口投与における50 % 致死量(LD50)はそれぞれ445、520および1689 mg/kg体重である。また、チオラクトマイシンのナトリウム塩を筋肉注射あるいは経口投与した場合には、チオラクトマイシンはD-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼが発現する組織を含む様々な組織にすみやかに達することが報告されている(Miyakawaら、J Antibiot、1982、35、411)。したがって、D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼの阻害剤としてのチオラクトマイシンを、統合失調症を含む精神神経疾患の治療のための医薬品として使用する場合、投与量は対象となる患者の年齢、体重、性別、病状、投与方法などに応じて変動するが、上記の知見に基づく量をナトリウム塩として投与することが好ましい。
チオラクトマイシンを有効成分とする医薬組成物を製造するには、必要により慣用の医薬品添加物を加えて、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤などの経口用製剤、溶液剤や懸濁液などの注射用製剤、スプレーやエアロゾルなどの経粘膜投与用製剤とすることができる。添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、安定剤、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、粘度調整剤、ゲル化剤、分散剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤などが使用できる。
本発明の改善剤を適用し得る疾患には、NMDA受容体の機能低下との関係が示唆されている統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病、小脳失調、ハンチントン病などが挙げられる。中でも統合失調症は、人口の約1%に発生し、比較的若い時期に発症するため、社会的な損失となり、また医療経済の面でも問題である。病状としては、幻覚、妄想、精神運動興奮などの陽性症状と精神運動抑制、意欲減衰、自発性の欠如、感情の平板化、抑うつ状態などの陰性症状があり、多くの患者で各種認知機能障害を伴い、特にある種の記憶障害が重篤であることが報告されている。したがって、本発明によりこれらの病状の改善が期待できる薬剤を提供できることは非常に有用である。
(試験例1)チオラクトマイシンのD-アスパラギン酸オキシダーゼ(DDO)に対する阻害活性
マウスDDOおよびヒトDDOを用いて、D-アスパラギン酸を基質とした場合の試験物質の阻害活性を、ヒドラジンを用いる2-オキソ酸の比色定量法により測定した。
材料
酵素:組換えタンパク質として大腸菌で発現させたマウスDDOおよびヒトDDOを以下のように調製して用いた。なお、これらの酵素は大腸菌発現用プラスミドpRSET-B(Invitrogen社)を用いて、N末にHisタグが付加された融合タンパク質として大腸菌BL21(DE3)pLysS株で発現させた。
各酵素を発現する大腸菌の培養液から、10,000 × g、4 ℃、10分間の遠心により菌体を回収し、BugBuster Protein Extraction Reagent(Novagen社)を用いた溶解により可溶性画分を得た。可溶性画分をニッケルカラム(His GraviTrap column:GE Healthcare社)に添加した後、0.5 M NaClおよび400 mM イミダゾールを含む20 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4)を添加してカラムに結合した組換えDDOを溶出した。溶出液を透析膜に移し、2 mM EDTA、5 mM 2-メルカプトエタノールおよび10 % グリセロールを含む1 Lの10 mM ピロリン酸ナトリウムバッファー(pH 8.3)に対する4 ℃、3時間の透析を2回行った。透析後の溶液を2 mLマイクロチューブに回収し、10,000 × g、4 ℃、10分間の遠心後に上清を分取した。補酵素として結合しているFADを除くために、MasseyとCurtiの方法(MasseyとCurti、J Biol Chem、1966、241、3417)に従い、3 M KBr、2 mM EDTA、5 mM 2-メルカプトエタノールおよび10 % グリセロールを含む1 Lの10 mM ピロリン酸ナトリウムバッファー(pH 8.3)に対する4 ℃での透析を途中で計3回バッファーを交換しながら3 〜 4日間行った。引き続き、KBrを除くために、2 mM EDTA、5 mM 2-メルカプトエタノールおよび10 % グリセロールを含む1 Lの10 mM ピロリン酸ナトリウムバッファー(pH 8.3)に対する4 ℃、2.5時間の透析を4回行った。透析後の溶液を2 mLマイクロチューブに回収し、10,000 ×g、4 ℃、10分間の遠心を行った。遠心後に上清を分取し、これを精製酵素として以降の実験に用いた。
基質:Sigma社から購入したD-Aspを滅菌水に溶解後、HClまたはNaOH溶液でpH 8.0にして使用した。
化合物:チオラクトマイシンはSigma社から購入し、100 %(v/v)ジメチルスルホキシドに溶解して使用した。マロン酸はWako社から購入し、滅菌水に溶解して使用した。
試験方法
適当量のDDOを含む120 μLの反応液(0.2 〜 0.4μgのDDO、0.2 〜 3 μM FAD、22 unitsのAspergillus nigerカタラーゼ、50 mMピロリン酸ナトリウムバッファー:pH 8.3)を1.5 mLマイクロチューブに調製した。この際、FADの濃度は各酵素のFADに対する解離定数の約3倍に設定した。なお、Dixonの方法(Dixon、Biochem J、1965、94、760)により求めたマウスDDOおよびヒトDDOのFADに対する解離定数は、それぞれ1.0および0.064μMであった。調製した反応液を氷上に10分間静置した後、30 μLの100 mM基質(D-Asp)を添加し、37 ℃で15分間の酵素反応を行った。10μLの100 %(w/v)トリクロロ酢酸を添加して反応を止め、20,000 ×g、4 ℃、10分間の遠心後に150 μLの上清を分取した。100 μLの0.1 %(w/v)2,4-ジニトロフェニルヒドラジン / 2 M HClを添加し、37 ℃で15分間の反応を行った。750 μLの3.75 M NaOHを添加し、20,000 × g、4 ℃で10分間遠心した。200 μLの上清を96 wellプレートに移し、プレートリーダー(PowerWaveTMXS:Bio-Tek社)を用いて、基質の代わりに滅菌水を添加したサンプルをブランクとして445 nmの吸光度を測定した。
上記試験法におけるヒドラジンを用いた2-オキソ酸の比色定量は以下に示す原理による。すなわち、無色のジニトロフェニルヒドラジンが、D-アミノ酸の分解により生じた2-オキソ酸と反応して、赤褐色のジニトロフェニルヒドラゾンを生成し、これは445 nmの光に吸収を示す。
Figure 2010254609
結果
チオラクトマイシンを試験化合物とし、マウスDDOに対する阻害活性の濃度依存性を調べた結果を図1に示す。対照化合物として既知のDDO阻害剤であるマロン酸を用いた結果をAに、チオラクトマイシンを用いた結果をBに示す。相対活性は化合物非存在下で得られた酵素活性を100とした % 活性を意味する。これらの結果より、チオラクトマイシンはマウスDDOを濃度依存的に阻害し、その阻害活性はマロン酸よりも強いことが明らかになった。
さらに、チオラクトマイシンを用いてヒトDDOに対する阻害活性の濃度依存性を検討した。その結果を図2に示す。この結果より、チオラクトマイシンはヒトDDOも濃度依存的に阻害することが明らかになった。
(試験例2)チオラクトマイシンのD-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)に対する阻害活性
ブタDAO、マウスDAOおよびヒトDAOを用いて、D-アラニンを基質とした場合の試験物質の阻害活性を、ヒドラジンを用いる2-オキソ酸の比色定量法により測定した。
材料
酵素:ブタDAO(ブタの腎臓より精製されたDAO)はSigma社から購入し、滅菌水に溶解して使用した。また、マウスDAOおよびヒトDAOは組換えタンパク質として大腸菌で発現させ、上記の試験例1で述べたマウスDDOおよびヒトDDOの調製法と同様の方法により調製して用いた。
基質:Sigma社から購入したD-Alaを滅菌水に溶解後、HClまたはNaOH溶液でpH 8.0にして使用した。
化合物:チオラクトマイシンはSigma社から購入し、100 %(v/v)ジメチルスルホキシドに溶解して使用した。
試験方法
適当量のDAOを含む120 μLの反応液(1.03 〜 3.2 μgのDAO、0.6 〜 10 μM FAD、22 unitsのAspergillus nigerカタラーゼ、50 mMピロリン酸ナトリウムバッファー:pH 8.3)を1.5 mLマイクロチューブに調製した。この際、FADの濃度は各酵素のFADに対する解離定数の約3倍に設定した。なお、Dixonの方法(Dixon、Biochem J、1965、94、760)により求めたブタDAO、マウスDAOおよびヒトDAOのFADに対する解離定数は、それぞれ0.21、3.3および0.40 μMであった。調製した反応液を氷上に10分間静置した後、30 μLの100 mM基質(D-Ala)を添加し、37 ℃で15分間の酵素反応を行った。10 μLの100 %(w/v)トリクロロ酢酸を添加して反応を止め、20,000 × g、4 ℃、10分間の遠心後に150 μLの上清を分取した。100 μLの0.1 %(w/v)2,4-ジニトロフェニルヒドラジン / 2 M HClを添加し、37 ℃で15分間の反応を行った。750 μLの3.75 M NaOHを添加し、20,000 ×g、4 ℃で10分間遠心した。200 μLの上清を96 wellプレートに移し、プレートリーダー(PowerWaveTMXS:Bio-Tek社)を用いて、基質の代わりに滅菌水を添加したサンプルをブランクとして445 nmの吸光度を測定した。
結果
チオラクトマイシンを試験化合物とし、ブタDAO、マウスDAOおよびヒトDAOに対する阻害活性の濃度依存性を調べた結果を図3に示す。ブタDAOを用いた結果をAに、マウスDAOを用いた結果をBに、ヒトDAOを用いた結果をCに示す。相対活性は化合物非存在下で得られた酵素活性を100とした % 活性を意味する。これらの結果より、チオラクトマイシンはブタDAO、マウスDAOおよびヒトDAOを濃度依存的に阻害し、DDOのみならずDAOも阻害することが明らかになった。

Claims (4)

  1. チオラクトマイシンまたはその薬学的に許容しうる塩を有効成分とする、D-アスパラギン酸オキシダーゼおよびD-アミノ酸オキシダーゼの阻害剤。
  2. 請求項1に記載の阻害剤を含む、D-アスパラギン酸及び/又はD-セリンの量の減少に起因する精神神経疾患の改善薬。
  3. 請求項1に記載の阻害剤を含む、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA型L-グルタミン酸受容体)を介する神経伝達の異常に起因する精神神経疾患の改善薬。
  4. 精神神経疾患が統合失調症またはうつ病である請求項2または3に記載の改善薬。
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