以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
まず、本発明における第1の実施の形態としての3次元表示装置10(後述の第2の実施の形態との区別のため、これ以降、3次元表示装置10Aと表記する)について説明する。図1は、3次元表示装置10Aの一構成例を示している。図1は、水平面内における概略構成である。
3次元表示装置10Aは、複数の画素を有する2次元表示部1と、各画素から発散する表示画像光の波面を平行光束に変換するコリメート部2と、このコリメート部2において変換された平行光束の波面を、任意の観測点から仮想物点までの光路長と等しい光路長となる位置に焦点を結ぶような曲率を有する波面に変換するレンズアレイ3と、このレンズアレイ3からの光束を水平方向に偏向する水平方向偏向部4と、この水平方向偏向部4からの光束を垂直方向に偏向する垂直方向偏向部5とを備えている。
図2(A)に、2次元画像生成手段としての2次元表示部1と、光束平行化手段としてのコリメート部2の一構成例を示す。2次元表示部1は、表示デバイスとしてカラー液晶デバイス(以下、単に液晶デバイスという。)11を利用し、そのバックライトBLとして、平行光ではなく通常の蛍光灯を利用したものである。液晶デバイス11は、ガラス基板12と、画素電極13と、ガラス基板14とが順に積層された構造となっている。2枚のガラス基板12,14の間には、さらに液晶層など(図示せず)が設けられている。また、コリメート部2は、ガラス基板14の表面14S上に配置された、例えば凸形状をなすマイクロレンズ21によって構成されている。ここで、バックライトBLが照射されることにより液晶デバイス11が表示画像光を射出する。この表示画像光はあらゆる方向に伝播する光の集まりであるため、マイクロレンズ21によって画素毎に平行光束に変換するようにしている。
なお、図2(B)に示したように、コリメート部2として、マイクロレンズ21のかわりに隔壁22を設けるようにしてもよい。隔壁22は、隣り合う画素電極13の中間位置に設けられており、ガラス基板14の表面14Sに対して垂直に(Z方向に沿って)立設している。この場合、隔壁22は表示画像光を吸収する材料(例えば炭素が分散含有された樹脂材料)により構成されたもの、あるいは表面に金ブラック等の光吸収材料が塗布されたものであるので、不要な反射光がカットされる。したがって、2次元表示部1から射出された表示画像光は表面14Sと平行な面内方向への伝播を制限され、表面14Sと直交する方向(Z軸方向)へ伝播することとなる。隔壁22は、水平方向(X軸方向)だけでなく、垂直方向(Y軸方向)においても隣り合う画素電極13を仕切るように設けられている。さらに、図2(C)に示したように、マイクロレンズ21と隔壁22とを併設したものをコリメート部2としてもよい。この場合には、平行光束への変換効率を高めることができる。
さらに、図3(A)に示したように、コリメート部2としての隔壁23を、ガラス基板14の表面14Sではなく、ガラス基板12の表面12S(バックライトBLを照射する側の面)に立設するようにしてもよい。こうすることにより、バックライトBLが液晶デバイス11に入射する前に平行光束に変換されるので、液晶デバイス11から射出される表示画像光も平行光束となる。
さらに、隔壁23に加え、図3(B)に示したように隔壁22を表面14Sに設けることもできる。この場合、隔壁23によってバックライトBLが平行光束に変換されると共に、隔壁22によって、例えばガラス基板14において散乱した不要な光を十分に除去することができる。
さらに、図3(C)に示したように、図3(B)の構成に加え、マイクロレンズ21を設けるようにしてもよい。こうすることにより、より確実に平行化された表示画像光が得られる。
続いて、レンズアレイ3について図4を参照して説明する。図4は、波面変換手段としてのレンズアレイ3の概略断面構成を示している。
図4に示したように、レンズアレイ3は、複数の可変焦点レンズ31を有している。可変焦点レンズ31は、自らの一部が変形することにより、焦点距離を任意に変化させることの可能な光学デバイスである。各可変焦点レンズ31は、剛性層としての透明基板32と、この透明基板32と対向配置された弾性層としての透明変形部材33と、透明基板32および透明変形部材33の間に設けられた支柱34と、透明基板32、透明変形部材33および支柱34が取り囲む空間に充填された充填層35と、透明基板32の一表面および透明変形部材33の一表面にそれぞれ設けられて互いに対向する透明電極層36,37とを有している。透明電極層36は接地されており、透明電極層37は外部制御電源38に接続されている。さらに、支柱34の一部には連通孔39がそれぞれ設けられており、外部との通気が可能となっている。
図5(A),図5(B)に可変焦点レンズ31の拡大図を示す。図5(A)が平面構成を表し、図5(B)が断面構成を表している。図5(B)は、図5(A)のVB−VB切断線における矢視方向の断面に対応している。透明基板32は、例えば石英などの高い剛性を示す透明材料により構成されている。支柱34も透明基板32と同様に、高剛性材料によって形成されている。但し、透明でなくともよい。透明基板32の上に支柱34によって支えられるように設けられた透明変形部材33は、例えば透明で柔軟なポリエステル材料などのポリマーによって構成されており、高い弾性率を示すものである。ここで、透明変形部材33は、コリメート部2からの平行光束φが通過する領域において、例えば中央部から周辺部へ向かうほど徐々に薄くなっており、透明電極層37が設けられた表面33Sとは反対側の面33Tが凸面(曲面)をなしている。一方、表面33Sは平面である。したがって、透明変形部材33はレンズとしての機能を発揮することとなる。さらに、透明変形部材33を構成するポリマーの組成はほぼ均質であることから、透明変形部材33は面内方向(XY平面の広がる方向)に弾性定数分布を有することとなる。この弾性定数分布は透明変形部材33の厚さの分布によって生じるものである。なお、このような透明変形部材33を所望の形状に成型する方法としては、例えば、通常のプラスチックレンズや光ディスク基板を成型する手段として利用されるインジェクションモールドによる方法であってもよいし、エキシマレーザのようなUVレーザや炭酸ガスレーザなどの赤外光レーザを利用してポリマー基板表面の所望の場所を所望の量だけ部分的に蒸散する方法で加工してもよい。あるいは、通常の半導体プロセスにより通常の反応性イオンエッチング装置(RIE: Reactive Ion Etching)やイオンミリング装置を利用して基板表面の所望の場所を所望の量だけ部分的に気相エッチング(ドライエッチング)を施してもよい。さらには、ホットエンボスやスタンプモールドによる方法であってもよい。一方、支柱34については、例えばパウダービームエッチング装置やRIE装置を用いて石英などの母材から削り出すことにより、透明基板32と一体物として成型するようにしてもよい。あるいは、別途作製した支柱34を透明基板32に貼り付けるようにしてもよい。
透明電極層36,37は、ポリオレフィンなどの非導電性プラスチックに金や銀などの金属やカーボンなどを分散させシート状に加工した導電性ポリマーからなり、それぞれ、透明基板32の表面32Sおよび透明変形部材33の表面33Sに透明な接着剤により貼り付けられたものである。あるいは、表面32S,33SにカーボンやITO(インジウム酸化錫:Indium Tin Oxide)などの導電材料を、一般的な真空成膜装置である真空蒸着装置、スパッタリング装置、イオンプレーティング装置またはCVD(化学的気相成長:Chemical Vapor Deposition)装置などを利用して直接、堆積したものを透明電極層36,37としてもよい。また、超微粒子のカーボンまたは、金や銀などの導電材料を所定の有機溶剤や水溶液に分散させたものをスピンコート装置により塗布して作製したものであってもよい。なお、透明電極層36は接続線36Tを介して接地されており、透明電極層37は接続線37Tを介して外部制御電源38に接続されている。
充填層35は、例えばシリコーンなどの透明で極めて柔軟な流動性材料によって構成されている。充填層35は、透明基板32と透明変形部材33とにより挟まれた領域のうち、少なくとも平行光束φが通過する領域を含む一部領域にのみ充填されている。それ以外の領域は、外部空間に繋がる連通孔39を有するバッファ領域として確保されている。ただし、充填層35は透明電極層36,37を完全に覆うように設けられている。
このような構成の可変焦点レンズ31では、外部制御電源38により、透明電極層36と透明電極層37との間に所定の大きさの電圧を印加すると、透明電極層36と透明電極層37との間に静電気力(クーロン力)が発生して互いに引き付け合うこととなる。透明電極層36は透明基板32の表面32Sと固着しており、一方の透明電極層37は透明変形部材33の表面33Sと固着しているので、結果として、透明基板32と透明変形部材33とが互いに引き付け合うこととなる。このとき、透明基板32は比較的高い剛性を示す材料からなるので、ほとんど変形しない。これに対し透明変形部材33は高い弾性を示す材料からなるので、比較的大きな変形を生ずる。透明変形部材33は、その厚さ分布によって規定される弾性定数分布に応じて変形するので、変形後に所望の形状をなすように予め設計し加工しておくことにより所望のレンズ作用を得ることができる。この際、透明電極層36と透明電極層37との間の印加電圧の大きさに応じて静電気力が変化することを利用して、連続的に(あるいは段階的に)異なる透明変形部材33の形状を選択形成する。透明変形部材33の厚さ分布については、例えば有限要素法(FEM:Finite Element Method)によるシミュレーション結果に基づいて最適化することができる。これにより、所望の球面形状または非球面形状を保ちつつ焦点距離を変化することのできる可変焦点レンズ31を実現することができる。なお、充填層35も透明変形部材33の形状変化に伴って変形することとなるが、バッファ領域の空気が連通孔39を介して外部へ排出されるので、その変形はスムーズに行われる。
ここで、図6(A),図6(B)を参照して、可変焦点レンズ31の動作についてより詳細に説明する。ここでは、理解を容易にするため、透明基板32、透明変形部材33および充填層35の全ての屈折率が等しい場合について説明する。但し、本発明ではこれらの部材における屈折率を互いに異なるものとし、その屈折率の相異を積極的に利用した光学的作用を得るようにすることもできる。図6(A)は、透明電極層36,37間に電圧を印加しない初期状態を表している。このとき、透明変形部材33の入射側となる表面33Tの形状は、透明基板32の射出側となる表面32Tに対して平行ではなく、入射側に凸形状をなしている。このため、可変焦点レンズ31は凸レンズとして作用し、入射光束Φを集束する機能を発揮することとなる。一方、図6(B)は、透明電極層36,37間に所定の電圧を印加した状態を表している。電圧の印加により透明電極層36,37間に静電気力が働き、透明変形部材33と充填層35とが変形して表面33Tが凹面となっている。このとき、表面32Tは平面のままである。したがって、この場合には可変焦点レンズ31が凹レンズとして作用し、入射光束Φを発散する機能を発揮することとなる。ここで、透明変形部材33は所定の厚さ分布(弾性定数分布)を有しているので、印加電圧を調整することにより表面33Tの形状が適切に選択される。よって、焦点距離を変化させつつ波面収差の補正が良好に行われることとなる。
また、電圧を印加しないときには光学的作用を発揮せず、電圧を印加した場合に負の屈折力を得るようにするには以下のようにすればよい。図7(A)は、透明電極層36,37間に電圧を印加しない初期状態を表している。このとき、透明変形部材33の入射側となる表面33Tの形状は、透明基板32の射出側となる表面32Tとほぼ平行である。このため、入射光束Φは、なんらの光学的作用を受けることなく透過する。すなわち、可変焦点レンズ31は実質的に平板ガラスと同様の作用しか持たない。一方、図7(B)は、透明電極層36,37間に所定の電圧を印加した状態を表している。電圧の印加により透明電極層36,37間に静電気力が働き、透明変形部材33と充填層35とが変形して表面33Tが凹面となっている。このとき、表面32Tは平面のままである。したがって、この場合には可変焦点レンズ31が凹レンズとして作用し、入射光束φを発散する機能を発揮することとなる。ここで、透明変形部材33は所定の厚さ分布(弾性定数分布)を有しているので、印加電圧を調整することにより所望の凹面形状を選択することができる。よって、焦点距離が変化しつつ波面収差の補正も良好に行われる。
続いて、水平方向偏向部4および垂直方向偏向部5について図8(A),図8(B)を参照して説明する。図8(A)は、水平方向偏向部4の平面構成を示し、図8(B)は、水平方向偏向部4のVIIB−VIIB切断線における矢視方向の断面構成を示している。なお、垂直方向偏向部5の構成は、以下に述べる水平方向偏向部4と同様であるので、ここでは説明を省略する。
水平方向偏向部4は、互いに並列に配置された複数の光偏向素子41を備えている。なお、図8(A),図8(B)では6つの光偏向素子41を示しているが、必要に応じてその数を増減すればよい。光偏向素子41は透過型の偏向素子であり、透明基板42と、この透明基板42と対向して配置された、透明材料からなる可動層43と、透明基板42と可動層43との間に充填された透明材料からなる充填層45と、透明電極層パターン46と、透明電極層パターン47A,47Bとを含んでいる。ここで、透明基板42および透明電極層パターン46は、複数の光偏向素子41に対して共通に設けられている。
透明基板42は、例えば石英などの高い剛性を示す透明材料により構成されている。この透明基板42の中央領域には、可動層43と充填層45との短冊状をなす積層体が配置されており、それを取り囲む周辺領域には、充填層45と同程度の厚さを有する支柱44Aと、可動層43と同程度の厚さを有する支持枠44Bとの積層体としての支持体44が設けられている。可動部43は、石英などの高い剛性を示す平行平板であり、長手方向の両端部とそれぞれ接続された一対のヒンジ43Tを介して支持枠44Bに繋がった状態となっている。可動部43は、図9に示すように、例えば厚さ20μmの石英基板をエッチングによって周囲の支持枠44Bおよびヒンジ43Tと一体成型された構造となっている。図9は、可動部43、ヒンジ43Tおよび支持枠44Bの構造を表す平面図である。可動部43において、長さ43Lは例えば1mmであり、幅43Wは例えば0.1mmである。一対のヒンジ43Tは、各々の一端が可動部43の端部と接続されると共に他端が支持枠44Bと接続されており、互いに同一直線状に位置するように形成されている。ヒンジ43Tは可動部43の長手方向に沿って細長い形状をなしており、例えば0.2mmの長さ43TLと、例えば0.01mmの幅43TWとを有している。このため、何らかの外力を加えることにより、可動部43はヒンジ43Tの延在方向に沿った回転軸を中心として回転可能となっている。ここで、充填層45は例えばシリコーンなどの透明で極めて柔軟な流動性材料によって構成されているので、可動層43が回転するにあたり、その動作の妨げにはならない。
可動層43の回転動作は、透明電極層パターン46と、透明電極層パターン47A,47Bとの間に電圧を印加することによって発生する静電気力を利用しておこなう。透明電極層パターン46は、透明基板42の表面42Sにおける、少なくとも可動部43に対応する領域を覆うように設けられており、図示しない接続線によって接地されている。一方、透明電極層パターン47A,47Bは、透明電極層パターン46と対向するように可動部43の表面43Sに形成されると共に、ヒンジ43Tに沿って延在し、外部制御電源48A,48B(後出)とそれぞれ接続されている。したがって、透明電極層パターン47A,47Bは、個別に透明電極層パターン46と対をなし、電圧印加によって各々の間に静電気力を発生するようになっている。さらに、透明電極層パターン47A,47Bは、可動層43の長手方向(Y軸方向)に延びる端縁において互いに対向し、かつ互いに同一形状をなすように、可動層43における長手方向の中間位置から両端部へ向かって次第に幅が広がるように形成されている。これら透明電極層パターン46および透明電極層パターン47A,47Bは、例えばカーボンやITOなどの導電材料を、一般的な真空成膜装置である真空蒸着装置、スパッタリング装置、イオンプレーティング装置またはCVD装置などを利用して表面42S,43Sに直接堆積したものである。なお、図8(A)では、理解を容易にするため、透明電極層パターン47A,47Bが形成された部分に模様を付けて表すと共に、その輪郭を実線で示している。また、本実施の形態では、透明電極42の表面42S上に共通の透明電極層パターン46を設けるようにしたが、各可動層43の表面43S上に個別に透明電極層パターン46を設けるようにしてもよい。その場合には、透明電極層パターン47A,47Bを表面42S上に設けるようにすればよい。また本実施の形態では、透明電極層パターン47A,47Bの双方に共通の透明電極層パターン46を設けるようにしたが、透明電極層パターン46を複数に分割して配置し、透明電極層パターン47A,47Bの各々と個別に対応するようにしてもよい。
ここで、図10(A)〜図10(C)を参照して、光偏向素子41の動作について詳細に説明する。図10(A)〜図10(C)は、光偏向素子41の動作および光学的作用を説明するための模式図である。光偏向素子41では、外部制御電源48A,48Bを用いて透明電極層パターン46と透明電極層パターン47A,47Bとの間に各々所定の大きさの電圧を印加することにより、X軸に沿った方向に電界強度分布が形成される。例えば、透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Aとの間に電圧を印加して静電気力を生じさせ、一方の透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Bとの間には電圧を印加しなければ、一対のヒンジ43Tの中心軸ω43を回転軸としたトルクが発生し、透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Aとが引き合う方向に可動層43が回転する。このとき、ヒンジ43Tは捻れた状態となる。図10(A)の状態において透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Aとの間の電圧供給を停止すると、静電気力が失われ、ヒンジ43Tの復元力により可動層43が透明電極層パターン46(すなわち透明基板42)と平行な状態となる(図10(B))。さらに、透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Aとの間に電圧を印加せず、一方の透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Bとの間に電圧を印加して静電気力を生じさせれば、透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Bとが引き合う方向に可動層43が回転する(図10(C))。ここで、印加電圧の大きさを調整することにより、可動層43の回転角度を制御することができる。すなわち、図10(A)と図10(B)との間の回転角度や、図10(B)と図10(C)との間の回転角度を実現することができる。
次に、光偏向素子41の光学的作用について説明する。ここでは、可動層43の側から光束が入射する場合を考える。図10(A)では、入射光束に対して左下がりの傾斜をなしている。通常、光偏向素子41の各構成材料は大気よりも大きな屈折率を有するので、可動層43に入射した光束は右方向へ屈折する。そののち、充填層45、透明電極層パターン46および透明基板42を順次透過した光束は、外部へ射出する際にさらに右方向へ屈折する。その結果、入射光束は右方向へ偏向される。このときの偏向角は、可動層43の回転角度(傾斜角度)に依存する。すなわち、透明電極層パターン46と透明電極層パターン47Aとの間に印加する電圧の大きさに依存する。さらに、光偏向素子41の各構成材料における屈折率を適宜選択することにより、偏向角の調整がなされる。例えば可動層43の屈折率n43に対し、充填層45が2倍の屈折率n45(=2×n43)を有するようにした場合には、可動層43の回転角度に対して2倍の偏向角が得られることとなる。一方、図10(C)では、入射光束に対して右下がりの傾斜をなしているので、図10(A)の場合と逆に左方向へ偏向される。偏向角の調整については、図10(A)の場合と同様である。このように、光偏向素子41ではプリズムとしての作用が得られる。また、図10(B)の状態では、入射光束は何らの偏向作用を受けずに直進することとなる。なお、図10(A)〜図10(C)では、透明基板42の図示を省略しているため透明電極層パターン46の下面から光束が射出しているように描かれているが、実際には透明基板42の下面から光束が射出する。
このような光学的作用を発揮する光偏向素子41は、印加電圧を個別に制御することによって可動層43の回転角度を個別に選択することができる。したがって、図11に示したように、水平方向偏向部4を構成する各光偏向素子41は、入射光束を所望の角度に偏向することができる。
垂直方向偏向部5は、水平方向偏向部4における光偏向素子41と同様の構成を有する光偏向素子51を複数備えたものである。光偏向素子41,51は、図12に示したように、各々の可動部43,53が互いに直交するように重ね合わせて配置されている。このような構成により、従来の反射型の光偏向素子では実現が困難であった水平方向および垂直方向双方における偏向操作を簡便に行うことができる。
<3次元表示装置の作用>
次に、3次元表示装置10Aの作用について、図13および図14を参照して説明する。
一般に、観測者は、ある物体上の物点を観測するとき、その物点を点光源として発射される球面波を観測することにより、3次元空間の固有な場所に存在する「点」として認識している。通常、自然界においては物体から発射される波面は同時に進行し、かつ常に連続的に、ある波面形状を伴って観測者に到達する。ところが、現状ではホログラフィ技術を除いては、空間の各点における光波の波面を同時かつ連続的に再現することは困難である。しかしながら、ある仮想物体があって、その仮想の各点からの光波が発射され、それぞれの光波が観測者に到達する時刻が多少不正確であっても、また連続的に到達するのではなく間歇的な光信号として到達しても、人の眼にはこの積分作用があることによって、不自然な感覚を感じることなく仮想物体を観測することができる。本実施の形態における3次元表示装置10Aでは、この人の眼の積分作用を利用して空間各点の波面を時系列的に順序立てて高速に形成することにより、従来よりも自然な3次元画像を形成することができる。
図13は、3次元表示装置10Aを使用して観測者I,IIが立体映像としての仮想物体IMGを観測している状態を表す概念図である。以下、その動作原理を説明する。
例えば、仮想物体IMGにおける任意の仮想物点(例えば仮想物点B)の映像光波は次のように形成される。まず、左右それぞれの眼に対応した2種類の画像が2次元表示部1に表示される。当然、2つの画像を同時に表示することは不可能であるので、それぞれの画像は順次表示されて最終的にそれぞれ左右の眼に順次送られる。例えば、仮想物点Cに対応することとなる画像は2次元表示部1における点CL1(左眼用)および点CR1(右眼用)にそれぞれ表示され、コリメート部2、レンズアレイ3、水平方向偏向部4および垂直方向偏向部5を順次透過したのち観測者IIの左眼IILおよび右眼IIRに各々到達する。同様に、観測者Iに対する仮想物点Cの画像は2次元表示部1における点BL1(左眼用)および点BR1(右眼用)にそれぞれ表示され、コリメート部2、レンズアレイ3、水平方向偏向部4および垂直方向偏向部5を順次透過したのち観測者Iの左眼ILおよび右眼IRに各々到達する。この動作は人の眼の積分効果の時定数内に高速に行われるので、観測者I,IIは画像が順次送られてきていることを認識することはなく、仮想物点Cを認識することができる。
2次元表示部1から放射された表示画像光は、コリメート部2で概ね平行光束に変換されたのちレンズアレイ3へ向かう。コリメート部2では、表示画像光を平行光束に変換し焦点距離を無限大にすることで、光波が放射された点の位置情報のうち眼の焦点距離をあわせる際に生じる生理機能から得られる情報を一度消している。図13では、コリメート部2からレンズアレイ3へ向かう光束の波面を、進行方向と直交する平行な波面r0として示している。これによって従来発生していた両眼視差・輻輳角からの情報と焦点距離からの情報とが一致しないことから生じる脳の混乱は多少とも緩和される。こののち、レンズアレイ3において、各画素に応じた焦点距離情報を付加する。これについては、のちに詳述する。
2次元表示部1の点CL1,CR1から放射された表示画像光は、レンズアレイ3を経たのち、それぞれ水平方向偏向部4の点CL2,CR2に到達する。水平方向偏向部の点CL2,CR2に到達した光波は水平面内において所定方向へ偏向されたのち、垂直方向偏向部5の点CL3,CR3に到達する。さらに垂直方向偏向部5によって垂直面内において所定方向へ偏向され、それぞれ観測者IIの左眼IILおよび右眼IIRへ向かって放射される。ここで、例えば、偏向角が観測者IIの左眼IILに向いたときに表示画像光の波面が点CL3に到達し、偏向角が観測者IIの右眼IIRに向いたときに表示画像光の波面が点CR3に到達するように、水平方向偏向部4および垂直方向偏向部5による偏向角に同期して2次元表示部1が表示画像光を送り出すようにする。その際、水平方向偏向部4および垂直方向偏向部5による偏向角に同期してレンズアレイ3が波面の変換動作を行うようにする。垂直方向偏向部5から放射された表示画像光の波面が観測者IIの左眼IILおよび右眼IIRに到達することにより、観測者IIは仮想物体IMG上の仮想物点Cを3次元空間中の一点として認識することができる。仮想物点Bについても同様に、2次元表示部1の点BL1,BR1から放射された表示画像光は、レンズアレイ3を経たのち、それぞれ水平方向偏向部4の点BL2,BR2に到達する。点BL2,BR2に到達した光波は水平面内において所定方向へ偏向されたのち、垂直方向偏向部5によって垂直面内において所定方向へ偏向され、それぞれ観測者IIの左眼IILおよび右眼IIRへ向かって放射される。なお、図13では、2次元表示部1の点BL1,BR1において、観測者Iに対する仮想物点Cの画像を表示すると共に観測者IIに対する仮想物点Bの画像を表示する様子を表しているが、これらは同時に表示されるのではなく、互いに異なるタイミングで表示される。
ここで、レンズアレイ3の作用について図13に加えて図14を参照して説明する。レンズアレイ3では、2次元表示部1から射出された表示画像光の波面r0が、任意の観測点から仮想物点までの光路長と等しい光路長となる位置に焦点を結ぶような曲率を有する波面r1に変換される。例えば、図14に示したように、仮想物点Cを光源として発射された光の波面RCが光路長L1を経て左眼IILに到達するとした場合、左眼IILでの波面RCと波面r1との曲率が互いに一致するように波面形成がなされる。この場合、点CL2と点CL1とを結ぶ直線上において、点CL2から仮想物点Cまでの光路長L2と等しい距離に波面r1に対応する焦点CCが存在するものと考えることができる。そこで、波面r1を有する表示画像光が焦点CCを光源として発射されたものとみなすとすると、その表示画像光の波面r1が左眼IILに到達したときに、あたかも仮想物点Cを光源として発射された波面RCであるかのように認識される。また、図13に示したように、垂直方向偏向部5よりも観測者側に近い位置に仮想物点Aが存在する場合、レンズアレイ3で変換された波面r1は仮想物点Aにおいて焦点を結ぶこととなる。
この結果、従来発生していた両眼視差・輻輳角からの情報と焦点距離からの情報との不一致から生じる脳の混乱は完全に解消される。
また、コリメート部2で2次元表示部1から放射された表示画像光を平行光束に変換することにより、次のような作用が得られる。両眼視差を確保するためには、左右それぞれの眼に対応した2種類の画像を送る必要がある。すなわち、左右の眼に対応するそれぞれの表示画像光は、互いに反対側の眼に入射してはならない。仮に、コリメータ部2が存在せず、2次元表示部1を光源とした球面波が放射されているとすると、たとえ水平方向偏向部4や垂直方向偏向部5によって偏向させたとしても互いに反対側の眼にも不要な表示画像光が入射してしまう。その場合、両眼視差が発生せず、2重の画像として認識される。そこで、本実施の形態のようにコリメート部2において2次元表示部1からの表示画像光を平行光束に変換するようにすれば、表示画像光は扇方状に広がることなく、よって、他方の眼に入射することなく目的とする一方の眼だけに到達させることができる。
このように、本実施の形態の3次元表示装置10Aによれば、2次元表示部1によって映像信号に応じた2次元画像光を生成すると共に、レンズアレイ3によって、2次元表示部1から射出された表示画像光の波面r0を任意の観測点(左眼IIL)から仮想物点Cまでの光路長L1と等しい光路長となる焦点CCを結ぶような曲率を有する波面r1に変換するようにしたので、表示画像光が、両眼視差、輻輳角および運動視差に関する情報だけでなく、適切な焦点距離情報を含むものとなる。このため、観察者が、両眼視差、輻輳角および運動視差に関する情報と、適切な焦点距離情報との整合性を図ることができ、生理的な違和感を生ずることなく所望の立体映像を認識することができる。特に、水平方向偏向部4による水平面内での偏向操作に加え、垂直方向偏向部5による垂直面内での偏向操作をも行うようにしたので、観測者の両眼を結ぶ仮想線が水平方向から外れている場合(観測者が寝転んだ姿勢をとった場合)であっても、左右の眼に対して所定の画像が到達することとなるので立体視が可能となる。
レンズアレイ3としては複数の可変焦点レンズ31からなるレンズアレイ3Aを用いるようにしたので、以下のような効果が得られる。すなわち各可変焦点レンズ31が、互いに対向配置された透明基板32および透明変形部材33と、それらの間に充填された充填層35と、透明基板32の表面32Sおよび透明変形部材33の表面33Sにそれぞれ設けられた透明電極層36,37とを備え、透明変形部材33が、その層面に沿った方向に厚さ分布によって規定される弾性定数分布を有するようにしたので、透明電極層36,37間に電圧を印加し、弾性定数分布に応じて透明変形部材33を変形させることにより、所望の非球面形状を高精度に確保しつつ、焦点距離を変化させることができる。したがって、簡素かつコンパクトな構成でありながら、良好な収差性能を確保しつつ焦点距離を変化させることができる。
また、水平方向偏向部4および垂直方向偏向部5において、互いに対向配置された透明基板42および可動層43と、これらの間に充填された充填層45と、透明基板42の表面42Sおよび可動層43の表面43Sにそれぞれ設けられて層面に沿った方向に電界強度分布を形成する透明電極層パターン46および透明電極層パターン47A,47Bとを備えた透過型の光偏向素子41,51を用いるようにしたので、反射型の光偏向素子を用いた場合よりも全体として十分にコンパクトな構成を達成しつつ、水平方向および垂直方向双方の偏向操作を簡便に行うことができる。
また、レンズアレイ3、水平方向偏向部4および垂直方向偏向部5の全てにおいて透過型のデバイスを採用しているので、3次元表示装置10Aの全体構成におけるコンパクト化(薄型化)が極めて容易に実現可能である。
<可変焦点レンズの変形例>
次に、本実施の形態における変形例について説明する。本実施の形態では、可変焦点レンズ31における透明変形部材33が厚さ分布を有し、これによって規定される弾性定数分布を利用して所望のレンズ形状を形成するようにしている。これに対し、例えば図15〜図17に示した第1〜第3の変形例(変形例1〜3)としての可変焦点レンズ31B,31C,31Dのように、積層面に沿った方向に電界強度分布を持たせ、これを利用することにより所望のレンズ形状を形成することも可能である。
まず、変形例1としての可変焦点レンズ31Bについて説明する。図15(A)が可変焦点レンズ31Bの平面構成を表し、図15(B)が可変焦点レンズ31Bの断面構成を表している。ここで図15(B)は、図15(A)のXVB−XVB切断線における矢視方向の断面に対応している。可変焦点レンズ31Bは、表面32S上における中央位置に円形状をなす透明電極層パターン36Aと、これと同心を有する円環状の透明電極層パターン36Bとを有している。透明電極層パターン36A,36Bは互いに絶縁されており、それぞれ接地されている。可変焦点レンズ31Bは、上記の点を除いて図5(A),図5(B)に示した可変焦点レンズ31と全く同様の構成である。
可変焦点レンズ31Bでは、透明電極層パターン36Aおよび透明電極層パターン36Bのそれぞれに独立して電圧印加が可能であるので、それぞれの印加電圧を制御することにより、透明変形部材33の形状を制御することができる。例えば凸レンズとして機能する状態から凹レンズとして機能する状態に変形させる際には、中央位置に配置された透明電極層パターン36Aの電極のみに電圧を印加するようにする。また、透明電極層パターン36Aへの印加電圧と、それを取り囲むように配置された透明電極層パターン36Bへの印加電圧とのバランスを調整することによって、所望の非球面にスムーズに変形させることができる。なお、この例では、透明基板32側の透明電極層のみを分割し、透明変形部材33側の透明電極層37については分割していないが、透明電極層パターン36A,36Bの形状と一致するように透明電極層37を分割するようにしてもよい。あるいは、透明変形部材33側の透明電極層37のみを複数に分割して配置するようにしてもよい。
次に、変形例2としての可変焦点レンズ31Cについて説明する。図16(A)が可変焦点レンズ31Cの平面構成を表し、図16(B)が可変焦点レンズ31Cの断面構成を表している。ここで図16(B)は、図16(A)のXVIB−XVIB切断線における矢視方向の断面に対応している。可変焦点レンズ31Cは、表面32S上において、透明電極層パターン36Aを取り囲むように均等配置された透明電極層パターン36B〜36Eを有している。透明電極層パターン36B〜36Eは互いに絶縁されており、それぞれ接地されている。可変焦点レンズ31Cは、上記の点を除いて図5(A),図5(B)に示した可変焦点レンズ31と全く同様の構成である。このように配置された透明電極層パターン36B〜36Eを利用することにより、透明変形部材33における非対称な変形操作を行うことができる。したがって、例えばコマ収差などの補正をおこなうのに好適である。
次に、変形例3としての可変焦点レンズ31Dについて説明する。図17(A)が可変焦点レンズ31Dの平面構成を表し、図17(B)が可変焦点レンズ31Dの断面構成を表している。ここで図17(B)は、図17(A)のXVIIB−XVIIB切断線における矢視方向の断面に対応している。可変焦点レンズ31Dでは、透明基板32の表面32Sを平面ではなく曲面(ここでは凹面)としている。したがって、表面32S上に形成された透明電極層パターン36は曲面をなしているので、対向配置された透明電極層パターン36と透明電極層パターン37との相対距離が分布を有している。これにより、中心部分では静電気力による引力が弱まり、周辺部分での引力が相対的に強くなる。この強度分布を利用することにより、所望の非球面形状を形成することが可能となる。なお、この場合においても、透明電極層パターン36,37の少なくとも一方を分割配置するようにしてもよい。
[第2の実施の形態]
続いて、本発明における第2の実施の形態としての3次元表示装置10Bについて説明する。上記第1の実施の形態では、波面変換手段として可変焦点レンズを用いるようにしたが、本実施の形態では、可変焦点ミラーを用いるようにしたものである。
図18は、3次元表示装置10Bの全体構成を説明する概念図である。図18に示したように、3次元表示装置10Bは、2次元表示部1と、コリメート部2と、波面変換手段としてのミラーアレイ6と、偏向手段としての偏向ミラー4Bとを順に備えるようにしたものである。
ミラーアレイ6は、図19に示したように複数の可変焦点ミラー61を有している。図19は、ミラーアレイ6の概略断面構成を示すものである。可変焦点ミラー61は可変焦点レンズ31と同様、自らの一部が変形することにより、焦点距離を任意に変化させることの可能な光学デバイスである。各可変焦点ミラー61は、剛性層としての基板62と、この基板62と対向配置された弾性層としての反射型変形部材63と、基板62および反射型変形部材63の間に設けられた支柱64と、基板62の一表面および反射型変形部材63の一表面にそれぞれ設けられて互いに対向する電極層66,67と、それら電極層66,67の間に充填された充填層65を有している。電極層66は接地されており、電極層67は外部制御電源68に接続されている。さらに、支柱64の一部には連通孔69がそれぞれ設けられており、外部との通気が可能となっている。
基板62は、例えば石英などの高い剛性を示す材料により構成されている。支柱64も基板62と同様に、高剛性材料によって形成されている。基板62の上に支柱64によって支えられるように設けられた反射型変形部材63は、例えば柔軟なポリエステル材料などのポリマーによって構成されており、高い弾性率を示すものである。さらに、その基板62と反対側の表面63Sには、銀(Ag)などの薄膜からなる反射膜63Mと、この反射膜63Mを保護する保護膜(図示せず)とが順に積層されている。反射膜63Mは、例えばスパッタリング法により形成されるものであり、その表面である反射面63MSにおいて入射光束φが反射される。ここで、反射型変形部材63は、コリメート部2からの平行光束φが反射する領域において中央部から周辺部へ向かうほど徐々に薄くなっていることから、自らの延在する面内方向に弾性定数分布を有することとなる。さらに、表面63Sが曲面をなしている場合、レンズ作用も発揮する。なお、このような反射型変形部材63は、透明変形部材33と同様の方法により成型することができる。
電極層66,67については透明電極層36,37と同様の構成とすることが可能である。但し、透明材料に限定されるものではない。
充填層65は、上記第1の実施の形態における充填層35と同様の性質を有するもの(例えばシリコーン)である。なお、充填層65を設けることなく、電極層66,67間に働く静電気力を利用して反射型変形部材63の変形を行うようにしてもよい。但し、充填層65を設けるようにすれば電極層66,67間の誘電率が向上すると共に絶縁破壊特性が安定化するので、より効率的かつ信頼性の高い波面形成動作を行うことができる。
このような構成の可変焦点ミラー61では、入射光を反射しつつ、集光または発散を行う。あるいは、このようなレンズ作用を発揮させずに平行光束のまま反射のみを行うことも可能である。具体的には、外部制御電源68により電極層66と透明電極層67との間に所定の大きさの電圧を印加すると、それらの間に静電気力が発生して互いに引き付け合うこととなる。電極層66は基板62の表面62Sと固着しており、一方の電極層67は反射型変形部材63の表面63Sと固着しているので、結果として、基板62と反射型変形部材63とが互いに引き付け合うこととなる。このとき、基板62は比較的高い剛性を示す材料からなるので、ほとんど変形しない。これに対し反射型変形部材63は高い弾性を示す材料からなるので、比較的大きな変形を生ずる。反射型変形部材63は、その厚さ分布によって規定される弾性定数分布に応じて変形するので、変形後に所望の形状をなすように予め設計し加工しておくことにより所望のレンズ作用を得ることができる。この際、電極層66と電極層67との間の印加電圧の大きさに応じて静電気力が変化することを利用して、連続的に(あるいは段階的に)異なる反射型変形部材63の形状(すなわち、反射面63MSの形状)を選択形成することができる。図19では、反射面63MSが凹面をなし、集光作用を発揮している状態が可変焦点ミラー61Aであり、反射面63MSが凸面をなし、発散作用を発揮している状態が可変焦点ミラー61Bであり、反射面63MSが平面をなし、レンズ作用を発揮することなく反射のみを行っている状態が可変焦点ミラー61Cである。なお、反射型変形部材63の厚さ分布については、例えば有限要素法によるシミュレーション結果に基づいて最適化することができる。これにより、所望の球面形状または非球面形状を保ちつつ焦点距離を変化することのできる可変焦点ミラー61を実現することができる。
偏向ミラー4Bとしては、例えばガルバノミラーを用いることが可能である。図18では3台のガルバノミラーを配置するようにした例を示しているが、2台以下であってもよいし、必要に応じて4台以上としてもよい。また、DMD(デジタルマルチミラー)のように偏向可能なマイクロミラーが多数配置されたスキャニングマイクロミラーアレイ素子であっても良い。
次に、このようなミラーアレイ6および偏向ミラー4Bを備えた3次元表示装置10Bを使用して立体映像としての仮想物体IMGを観測する場合の動作原理について、図18および図19を参照して説明する。
2次元表示部1の特定の表示領域から、コリメート部2を介して、観測者Iの右眼IRで見たときの仮想物体の仮想物点Bに対応する表示画像光の波面が放射されたとする。表示画像光はミラーアレイ6の可変焦点ミラー61で反射されるが、このとき、表面63S(すなわち反射膜63Mの表面)の形状を制御することによって所望の曲率の波面に変換される。ここでは、仮想物点Bで発生する光波(つまり、仮想物点Bを発光源とする球面波)が観測者に到達したとき観測者が感じる曲率(焦点距離)になるような波面に変換する。すなわち、仮想物点Bから観測者Iの右眼IRまでの光路長と、ミラーアレイ6によって反射された表示画像光の焦点BBから観測者Iの右眼IRまでの光路長とが一致するように表面63Sの形状を制御すればよい。ミラーアレイ6で反射された表示画像光は、偏向ミラー4Bが観測者Iの右眼IRの方向に向いたとき偏向ミラー4B上の点dに到達して反射され、右眼IRに入射する。同様に、2次元表示部1における他の特定の表示領域から、観測者Iの左眼ILで見たときの仮想物点Bに対応する表示画像光の波面が放射されたとすると、その表示画像光はミラーアレイ6を経由したのち、偏向ミラー4Bが観測者Iの左眼ILの方向に向いたとき偏向ミラー4B上の点cに到達して反射され、左眼ILに入射する。
以上の過程によって観測者Iは仮想物体IMG上の仮想物点Bを両眼で観測することとなる。このとき観測者Iは、左眼ILおよび点cを結ぶ直線と、右眼IRおよび点dを結ぶ直線との交点に仮想物点Bを認識する。同様に、観測者Iは、仮想物体IMG上の他の仮想物点Aについても、左眼ILおよび点aを結ぶ直線と右眼IRおよび点bを結ぶ直線との交点における空間上の一点として認識する。さらに、図示しない他の仮想物点についても同様の過程を経ることによって全て認識することができる。
このように、本実施の形態の3次元表示装置10Bにおいても、観察者が、両眼視差、輻輳角および運動視差に関する情報と、適切な焦点距離情報との整合性を図ることができ、生理的な違和感を生ずることなく所望の立体映像を認識することができる。
次に、本発明の実施例について以下に説明する。
本実施例では、図20に示した構造を有する本発明の可変焦点レンズ31Eを作製し、その特性について評価した。
図20に示したように、本実施例としての可変焦点レンズ31Eでは、中央位置CLを中心として段階的に厚さが薄くなった透明変形部材33Eと支柱34Eとが一体成型されている。透明変形部材33Eの平面形状は中心位置CLを中心とした円形である。また、中央領域に設けた透明電極層36Eと透明電極層37Eとの厚み方向の間隔は0.01mmとした。透明電極層36E,37Eは、ITOからなり、0.8mmの直径を有する円形の薄膜である。充填層35Eはシリコーンである。充填層35Eについては、液体状のシリコーンを透明電極42E上の所望領域に塗布し、透明電極42Eと透明変形部材33Eとを貼付したのち130℃程度で熱硬化しゴム化するようにした。なお、当初のシリコーンが液体であるので、このような0.01mmという極めて薄い形状についても容易に作製することができる。
図21は、透明電極層36Eと透明電極層37Eとの間に印加する印加電圧および、その際に生じる引力の関係について示した特性図である。図21では、横軸を印加電圧(V)とし、縦軸を電極層間に発生する引力(mN)とした。図21から明らかなように、この引力は印加電圧の2乗に正比例した値となった。なお、この引力は、透明電極層36E,37Eの断面積に正比例し、透明電極層36E,37E間の距離の2乗に反比例するので、それらを選択することにより、その引力の調整が可能である。
一般的な静電アクチュエータでは、電極間が大気で満たされている。これに対し、本実施例では、透明電極層36Eと透明電極層37Eとの間にシリコーンなどからなる充填層35Eを満たすようにした。例えばシリコーンは3〜10の比誘電率を有するので、本実施例では、通常の静電アクチュエータと比較した場合、同じ電圧を印加しても3〜10倍の力を発生することができる。あるいは、より低い印加電圧であってもある一定の引力を発生させることができる。さらに、電極間を大気で満たすようにした場合には絶縁破壊電圧が1kv/mm程度と低いことからあまり高い電圧を印加することができないので、一般的には静電アクチュエータでは大きな引力が得られないと考えられている。しかしながら、本実施例のように充填層35Eとしてシリコーンを利用すれば、0.01mm程度の電極間距離であれば、約300kV/mmの絶縁破壊電圧を得られることが確認されている。したがって、本発明の可変焦点レンズでは通常の静電アクチュエータに比べ大きな電圧を印加することが可能であり、極めて大きな引力を発生することが可能となる。図21から明らかなように、本実施例では、絶縁破壊電圧以下の印加電圧(500V)であっても20mNにも及ぶ大きな引力が得られている。
図20に示した透明変形部材33Eは、図22に示した理想非球面形状I1〜I3を実現するための断面形状を有している。この断面形状については有限要素方等の方法を利用することによってコンピュータでシミュレーションを行い決定したが、実際に作って合わせ込んでもよい。図22では、横軸に中心位置CLからの距離(mm)を示し、縦軸に変形量(mm)を示している。理想非球面形状I1は透明電極層36E,37E間に10.9mNの引力が生じた場合に相当し、理想非球面形状I2は透明電極層36E,37E間に13.4mNの引力が生じた場合に相当し、理想非球面形状I3は、透明電極層36E,37E間に16.0mNの引力が生じた場合に相当するものである。これらの理想非球面形状I1〜I3は、有限要素法によるコンピュータシミュレーションでの算出値S1〜S3とほぼ一致する結果となった。
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば上記実施の形態では、表示デバイスとして液晶デバイスを利用した例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば有機EL素子、プラズマ発光素子、フィールドエミッション(FED)素子、あるいは発光ダイオード(LED)などの自発光素子をアレイ状に配設したものを表示デバイスとして適用することもできる。このような自発光型の表示デバイスを用いた場合には、バックライト用の光源を設ける必要がないので、より簡素な構成を実現することができる。また、上記実施の形態で説明した液晶デバイスは透過型のライトバルブとして機能するものであるが、GLV(グレーティングライトバルブ)やDMD(デジタルマルチミラー)などの反射型のライトバルブを表示デバイスとして用いることも可能である。また、上記実施の形態では、理解を容易とするため2次元画像生成手段、光束平行化手段、波面変換手段および偏向手段がそれぞれ明確に分離された例について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、上記の各手段が物理的に分離されているものに限定されず、概念上、上記の各手段を含んでいればよいものである。
さらに、光源からの光の波面形状を把握している場合(例えば平面波や球面波であることが明らかである場合)には、平面波に変換しなくともよい。例えば、図23〜図27に示した構成例(後に詳述)のように、平行度が高く極めて平面波に近いバックライトを用いるようにした場合には、光束平行化手段(コリメート部)を利用しなくともよい。また、自発光素子を用いた場合において1つ1つの発光画素における発光領域の面積が極めて小さい場合、その自発光素子からの光は概ね球面波であるとみなすことができるので、やはり光束平行化手段(コリメート部)を利用しなくともよい。このように光の波面形状を把握している場合には、その波面形状に合わせて波面変換手段(可変焦点レンズや可変焦点ミラー等)を制御することにより所望の波面を形成することができるので、光束平行化手段を用いることなく両眼視差、輻輳角、運動視差および焦点距離に関する情報を正確に把握することが可能である。以下、図23〜図27を参照して、2次元画像生成手段および光束平行化手段の他の構成例について説明する。
図23(A)は、2次元画像を形成する手段として液晶デバイス11を利用し、そのバックライトBLの光源として、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプまたはキセノンランプ等のランプ70を用いるようにした構成例(変形例4)を示している。ランプ70は、発光源71およびミラー72を含んでいる。これら発光源71およびミラー72の配置や形状を調整することによってランプ70から射出される光がほぼ平行光となっている。発光源71はできるだけ点光源に近いものが望ましく、ミラー72はパラボラ形状であることが望ましい。
図23(B)は、光源として上記のランプ70を利用すると共に、2次元画像を形成する手段としてDMDのような偏向可能なマイクロミラーを利用した構成例(変形例5)を示している。ランプ70からの平行光は、カラーホイール73を透過したのち、上記の偏向可能なマイクロミラーを多数配置したマイクロミラーアレイ74によって2次元画像として所定方向へ反射出力される。なお、カラーホイール73は、図23(C)に示したように、回転軸73Zを取り囲むように赤色領域73R、緑色領域73Gおよび青色領域73Bが配置され、回転軸73Zを中心として回転するものである。
図24に示した構成例(変形例6)は、指向性の高いレーザ光源65を利用した2次元表示部81を示している。すなわち、2次元表示部81は、2次元画像生成手段および光束平行化手段の機能を兼ね備えている。2次元表示部81には、レーザ光源75のほか、これに近い側から順にビームエキスパンダ76、マイクロミラーアレイ74、およびビームエキスパンダ77が配置されている。レーザ光源75からの射出光は指向性が極めて高いので、ほぼ平行光として扱うことができる。レーザ光源75からの射出光は、ビームエキスパンダ76を通過する際に、ほぼ均一な分布となるように光束径が拡大される。さらに、ビームエキスパンダ76を通過した光束がマイクロミラーアレイ74を経由することによって2次元画像が形成される。2次元画像光は必要に応じてビームエキスパンダ77においてさらに拡大されたのち、2次元表示部81から出力される。なお、レーザ光源75の代わりに、指向性の高い発光ダイオード(LED)を光源として用いることができる。
2次元表示部81から出力される2次元画像光は単色である。そこで、カラーの2次元画像光を得る場合には、図25に示したような構成(変形例7)とする必要がある。図25は、赤色の2次元画像光を形成する2次元表示部81Rと、緑色の2次元画像光を形成する2次元表示部81Gと、青色の2次元画像光を形成する2次元表示部81Bと、ダイクロイックミラープリズム78とを組み合わせた構成例である。これにより、各々からの2次元画像光をダイクロイックミラー78で混合することで自然なカラーの2次元画像光が得られる。
さらに、図24に示した2次元表示部81におけるマイクロミラーアレイ64の代わりに、液晶デバイスを用いて2次元画像を形成することもできる。具体的には、図26に示した2次元表示部82のように、液晶デバイス11およびミラー79を光路上に配置するようにすればよい(変形例8)。
さらに、図27に示した構成例(変形例9)のように、赤色の2次元画像光を形成する2次元表示部82Rと、緑色の2次元画像光を形成する2次元表示部82Gと、青色の2次元画像光を形成する2次元表示部82Bと、ダイクロイックミラープリズム78とを組み合わせることによって、カラーの2次元画像光が得られる。
また、偏向手段として、図28に示したようなDMDタイプの光偏向素子91を用いるようにしてもよい(変形例10)。光偏向素子91は、互いに対向するように配置された、石英などの剛性材料からなる透明基板92および可動層93と、それらの間に充填されたシリコーンなどの充填層95を有している。可動層93は支持体94の一部をなす保持部94Dによって保持されている。可動層93の表面は透明電極層97によって覆われており、透明基板92の表面に設けられた透明電極層96A,96Bとそれぞれ対向するようになっている。さらに、保持部94Dは、一対のヒンジ94Cを介して支持枠94Bと接続されている。一対のヒンジ94Cは、可動層93の中心位置を通る中心線CLに沿って延在する中心軸ω94を有している。支持枠94Bは、透明基板92の上に、支柱94Aを介して配置されている。
このような構成の光偏向素子91では、透明基板92の側から入射する光束を支持枠94Bと、一対のヒンジ94Cと、保持部94Dとによって形成される2つの開口94K1,94K2を通過するように射出させるようになっている。この際、透明電極層96Aと透明電極層97との間、または透明電極層96Bと透明電極層97との間に電圧を印加し、中心軸ω94を軸として可動層93を回転させることにより、入射光束を所定の方向へ偏向させることができる。
さらに、図29に示したように、偏向機能に加えてレンズ機能をも併せ持った光学素子92を偏向手段および波面変換手段として用いるようにしてもよい(変形例11)。可動層93は、例えば透明で柔軟なポリエステル材料などのポリマーによって構成され、高い弾性率を示すものである。したがって、透明電極層96Cと透明電極層97との間に電圧を印加することにより所望の形状が形成され、入射光束に対する集光または発散作用を発揮するようになっている。また、透明電極層96D,96Eと透明電極層97との間に電圧を印加することにより、一対のヒンジ94Cにおける中心軸ω94を軸として回転し、偏向操作を行うようになっている。
また、第2の実施の形態では充填層65を用いて反射型変形部材63を変形させるようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、図30に示した変形例(変形例12)としての可変焦点ミラー61Aのように、ピエゾ素子65Aを、充填層65の代わりに電極層66,67間に設けるようにしてもよい。ピエゾ素子65Aとしては、例えばゾル・ゲル法等で形成されたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる厚膜を用いることができる。
また、上記の各実施の形態では、各種波面変換手段および偏向手段において、電極間に働く静電気力のうちの引力を利用して変形動作を行うようにしたが、斥力を積極的に利用するようにしてもよい。例えば、可変焦点レンズ31において、透明電極36,37間に静電気力が生じていない状態で図6(B)に示したような凹形状をなすように透明変形部材33を形成しておき、透明電極36,37間に電圧を印加し、同符号の電荷をチャージして斥力を生じさせることにより図6(A)の状態を形成するようにしてもよい。