この発明は水力発電所等における水車またはポンプ水車用調速制御装置に関するものである。
図8は、例えば特許文献1に記載されるような、従来の水力発電所の調速制御装置を説明するブロック図である。図において、出力増減指令1は中央給電所、制御所、配電盤等からの自動調整機能または運転員操作、発電機電力変動等による指令である。調速制御装置2は水車またはポンプ水車の回転速度または出力トルクを制御する。その直接の制御対象は、固定翼のフランシス水車またはポンプ水車の場合、ガイドベーン(GV)9である。この調速制御装置2の諸機能は、マイクロプロセッサによるソフトウエアまたは演算増幅器によるアナログ回路により実現される。制御入力偏差演算器3は出力増減指令1により定まる設定値と、水車またはポンプ水車側からのフィードバック信号である回転速度19(n)およびガイドベーン9の開度(垂下率ゲイン21による通常0.06倍以下の垂下率ゲインを乗ずる)とを加算して求められる制御入力偏差ΔGOVを出力し、定常状態である安定時にはこの値はゼロである。
調速制御装置2内のPIDコントローラ4は、いずれも制御入力偏差ΔGOVを入力とする、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7により構成される。PIDコントローラ4の出力、即ち調速制御装置2の出力(GOV)は上記P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の総和である。調速装置機械系であるアクチュエータ8は、調速制御装置2の出力を受け、ガイドベーン9の開度(Y)を決定する。
水車またはポンプ水車10は、その流量およびトルク特性により、ガイドベーン9の開度とフィードバック量である水車、発電機系の回転速度19と水路系の有効落差16(He)により、水車の流量11(Q)および出力トルク17(TL)を決定する。水路系は水車を通過する流量11により、サージタンク12の水位14(Hs)が決まり、水位14より水車下流側圧力15と、損失水頭13(流量11の関数)の2項を引き去った差が有効落差16となる。発電機18と水車10には慣性モーメントGD2があり、与えられた水車トルク17と発生する電力20(W)との差、系統周波数条件等により、水車と発電機が結合された軸系は加減速され、回転速度19が決まる。
次に、動作を説明する。出力増減指令1が調速制御装置2に与えられると、外乱入力または制御指令による制御入力偏差ΔGOVが制御入力演算器3で計算される。ガイドベーン9の開度に垂下率ゲイン21を乗じている理由は、フィードバック量である回転速度19が変動した際、ガイドベーン9の開度を適切な値に制御することにより、速度、開度の乱調状態が発生することを防止する目的である。即ち、回転速度が僅かに上昇した際は、ガイドベーン9を閉操作して安定させ、一方、回転速度が僅かに下降した際には、ガイドベーン9を開操作して安定に導く。
この制御入力偏差ΔGOVは、同じく調速制御装置2内のPIDコントローラ4に導かれ、コントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能が実施される。このうち、P(比例)演算要素5は、制御入力偏差ΔGOVに比例する演算である。I(積分)演算要素6は、制御入力偏差ΔGOVを時々刻々積分する演算である。また、D(微分)演算要素7は、制御入力偏差ΔGOVに対し不完全微分演算を行う。このうちP(比例)演算要素5とD(微分)演算要素7の結果は安定時(定常状態時)ゼロとなるが、I(積分)演算要素6それ自体は、定常状態時も有限値を持ち、調速制御装置2の制御対象であり、マイナーフィードバック量であるガイドベーン9の開度とキャンセルすることにより、定常状態において、調速制御装置2からアクチュエータ8への制御出力がゼロとなる。
この制御系において、水車またはポンプ水車10と発電機18の軸系の回転速度19が安定時から変化した場合には、制御入力偏差ΔGOVがそれまでの定常状態であるゼロ値から変化する。それにより、調速制御装置2内のPIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能は演算処理を行い、出力処理を開始する。制御入力偏差ΔGOVに対するP(比例)演算要素5とD(微分)演算要素7の各機能の出力値は、回転速度19が定格値に戻り、制御入力偏差ΔGOVをゼロに戻す方向に、ガイドベーン開度9の値を制御する。
水車またはポンプ水車10は、ガイドベーン9の開度と有効落差16と、水車10および発電機18の回転速度19により、流量11と水車トルク17を生じる。流量11は、サージタンク12の水位14を変化させ、損失水頭13と水車下流側圧力15との差により、水車有効落差16を生じ、水車10にフィードバックされる。水車またはポンプ水車10の出力トルク17は、発電機18を介して回転速度19と実電力20を生じ、回転速度19は水車またはポンプ水車10に、実電力20は自動負荷調整(ALR)、自動周波数調整(AFC)等の自動調整機能に対して各々フィードバックされる。水車流量11は出力増減指令1に正の相関関係をもって変化するが、その際に水車またはポンプ水車10の出力トルクは遅れを生じ、これにより発電機18の電力20も遅れを生じる。
発電機18が電力系統101に接続されていない状態、換言すれば同期遮断器102が開状態となっている無負荷の状態では、ガイドベーン9の開度の僅かな変化により、水車またはポンプ水車10の発生する水車トルク17の変動分が回転速度19の変動に大きく影響するため、調速制御装置2内のPIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲイン設定値は小さくする必要がある。無負荷状態ではガイドベーン9の開度が小さく(一般的に5〜20%)、安定状態を得るために、この開度フィードバック値とキャンセルするI(積分)演算要素6の積分値は、PID制御の特質上、最終安定を確保する目的で設定されるため、その変動を抑制する必要があることから、I(積分)演算要素6のゲインは低い値に設定する必要がある。
その一方で、発電機18が電力系統101に接続された状態、換言すれば同期遮断器102が閉状態となっている負荷時の状態では、発電機18は系統からの同期化力を得て、系統周波数に対応した同期速度付近で回転しているため、ガイドベーン9の開度を増減(開閉)させたことによる水車またはポンプ水車10の発生する水車トルク17の変動分は、回転速度19ではなく、実電力20の増減に寄与する。この負荷時の状態では、調速制御装置2は、中央給電所、制御所、配電盤等からの自動調整機能または運転員操作、発電機電力変動等による出力増減指令1に対して速やかに応動する必要があり、ガイドベーン9の開閉速度を速くする必要があるため、調速制御装置2内のPIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲイン設定値は無負荷時に比較して、一般に大きくする必要がある。負荷状態では出力増減指令1による運転側からの要求による、ガイドベーン9の開度の変化が大きく(一般的に5〜20%の無負荷開度から当該発電所認可出力の80〜90%)、指令1に対する負荷増減の応答性を確保するため、ガイドベーン9の開度フィードバック値とキャンセルするI(積分)演算要素6のゲインは、無負荷状態とは異なり、高い値に設定する必要がある。
上述の無負荷時と負荷時の違いは、回路的には発電機18が電力系統101に接続されていない状態または接続された状態の違い、換言すれば同期遮断器102が開または閉となっている状態である。調速制御装置2内のPIDコントローラ4内の、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲインの大小の切換も、上記、同期遮断器102が開または閉となっている状態と一致して実施されている。
調速制御装置2内のPIDコントローラ4中の特にI(積分)演算要素6は、制御入力偏差ΔGOVの時々刻々の積分結果であり、制御上必ず遅れが発生する。また、PID制御の特質上、I(積分)演算要素6の積分値と、制御対象であるガイドベーン9の開度のフィードバック値をキャンセルすることにより、調速制御装置2の出力がゼロとなり、安定状態に到らしめる制御方法を採用している。この方法を採用することによる弊害として、外乱または制御指令が印加され、システムとしてその外乱または制御指令に即応して追随しなければならないときに、このI(積分)演算要素6の値が即変化せず、その結果、プラントの負荷増減の応答性能に限界が発生し、場合によっては目的とする制御性能が得られず、外乱または所望と逆方向の応答が発生するという問題点があった。上記外乱または逆応答の問題点が発生する顕著な例として、以下の2点が挙げられる。
第1点目は発電所内における負荷遮断状態である。発電機18が電力系統101に接続された状態、換言すれば同期遮断器102が閉となっている状態で、発電機18は系統からの同期化力を得て、系統周波数に対応した同期速度付近で回転し、ガイドベーン9の開度が比較的大きい値となり、水車またはポンプ水車10の出力トルク17が発電機18を介して実電力20を生じ、実電力20が系統101側に送出されている。この運転中の際、人為的(試験操作)または図示されない保護装置等、何らかの原因により、同期遮断器102が開となった際には、発電機18はもはや系統101からの同期化力は得られず、また、電力を系統101側に送出できないため、水車またはポンプ水車10のガイドベーン9の開度から定まる出力トルク17により、水車10と発電機18の軸系は慣性モーメントGD2の効果により急激に加速される方向となる。従って速やかにガイドベーン9を閉鎖する操作を行なわない限り、水車10と発電機18の軸系の回転速度19は、無拘束速度と称する最大にして定格の2倍以上の値に到達することもある。
このような負荷遮断時には、調速制御装置2内のPIDコントローラ4中の制御入力偏差ΔGOVは大きな絶対値を伴う負の値となる。この制御入力偏差ΔGOVは、同じく調速制御装置2内のPIDコントローラ4に導かれ、コントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能が実施される。このうち、P(比例)演算要素5は、負荷遮断前の同期遮断器102が閉の際は、安定時(定常状態時)であればゼロである。このP(比例)演算要素5は、制御入力偏差ΔGOVに比例する演算であるので、負荷遮断時に同期遮断器102が開となった際は、前述の通り回転速度19の急激な上昇に伴って、大きな絶対値を伴う負の値である制御入力偏差ΔGOVを受け、ガイドベーン9を閉とさせて、上昇した回転速度19を定格に戻す方向の閉側指令信号成分を発生させる。
また、I(積分)演算要素6は、負荷遮断前の同期遮断器102が閉の際は、安定時(定常状態時)であればガイドベーン9の開度とキャンセル状態にあり、発電機18が電力系統101に送出する電力値20が大きい場合は、ガイドベーン9の開度もI(積分)演算要素6の値も正側の大きな値となる。一方、負荷遮断時に同期遮断器102が開となった際は、前述の通り回転速度19の急激な上昇に伴って、大きな絶対値を伴う負の値である制御入力偏差ΔGOVを受け、I(積分)演算要素6は遮断前の正値から減衰する。
さらに、D(微分)演算要素7は、P(比例)演算要素5と同様、負荷遮断前の同期遮断器102が閉の際は、安定時(定常状態時)であればゼロである。一方、負荷遮断時に同期遮断器102が開となった際は、前述の通り回転速度19の急激な上昇に伴って、大きな絶対値を伴う負の値である制御入力偏差ΔGOVを受け、D(微分)演算要素7は不完全微分演算により、ガイドベーン9を閉とさせ、上昇した回転速度19を定格に戻す方向の閉側指令信号成分を発生させる。P(比例)演算要素5とD(微分)演算要素7の異なる点は、前者が大きな絶対値を伴う負の値である制御入力偏差ΔGOVを受け、比例演算にてガイドベーン9を閉とさせる信号成分を送出するが、後者は不完全微分演算のため、回転速度19の値そのものではなく、その変化率にガイドベーン9を閉とさせる信号成分が依存する点である。従って、回転速度19の値が定常値(定格回転速度)より大きい場合でも、その変化率が飽和している場合は、D(微分)演算要素7から発信されるガイドベーン9を閉とさせる信号成分の効果は弱くなる。これら、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各要素の様子を図9に示す。
さて、前述した通り、同期遮断器102開の無負荷状態では、ガイドベーン9の開度の僅かな変化により、水車またはポンプ水車10の発生する水車トルク17の変動分が回転速度19の変動に大きく影響するため、調速制御装置2内のPIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲイン設定値は小さくする必要がある。無負荷状態ではガイドベーン9の開度が小さく(一般的に5〜20%)、安定状態を得るために、この開度フィードバック値とキャンセルするI(積分)演算要素6の積分値の変動を抑制する必要があることから、特に、I(積分)演算要素6のゲインは低い値に設定する必要がある。これは換言すると、P(比例)演算要素5とD(微分)演算要素7の結果は安定時(定常状態時)ゼロとなるので、無負荷状態でも、それらのゲイン設定につき、制約条件は小さいが、一方で、I(積分)演算要素6のゲインはPID制御の特質上、最終安定を確保する目的で設定されるため、I(積分)演算要素6の演算値の変動を抑制する必要があることから、I(積分)演算要素6のゲインは制約が多く、低い値に設定する必要があることを意味している。
このため、負荷遮断直後には、回転速度19の急激な上昇に伴って、大きな絶対値を伴う負の値である制御入力偏差ΔGOVが発生し、それを受けたP(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能の効果により、ガイドベーン9は閉鎖し、回転速度19も一旦最大(この最大値と定格回転速度の比を速度変動率と呼称する)に達した後、徐々に下降し始める。一方、水車またはポンプ水車10のガイドベーン9を閉鎖したことにより、水車流量11は急激に閉塞され、水車上流側の鉄管111の水圧(水車上流側圧力121)は過渡的に上昇する。これら速度変動率と鉄管111の最大水圧はトレードオフの関係がある。即ち、ガイドベーン9の閉鎖を速くすれば、水車10と発電機18の軸系の速度変動率は抑制される一方で、当該最大水圧が上昇し、鉄管の肉厚等に考慮を払う必要がある。また、逆に、ガイドベーン9の閉鎖を遅くすれば、当該最大水圧の上昇は抑制される代わりに、水車10と発電機18の軸系の速度変動率は増加し、回転系、特に発電機18の強度設計に考慮を払う必要が生じる。
水力発電所基本設計の過程で、これらガイドベーン9の閉鎖速度と水車10と発電機18の軸系の速度変動率、および水車上流側サージタンクの鉄管水圧の関係は数値計算にて確認・チェックされ、最適なガイドベーン9の閉鎖特性が決定される。この閉鎖特性をガイドベーン閉鎖モードと称している。なお、実際のプラントでは、このガイドベーン閉鎖モード実現のため、換言すると、ガイドベーン9の閉鎖が高速過剰にて、鉄管水圧が異常上昇しない様に、アクチュエータ8側にて操作油圧流量を最適に規定するための絞りが設定されている。また、何らかの制御的異常にて、回転速度19上昇に見合ったガイドベーン9の閉鎖速度が得られず、水車10と発電機18の軸系の回転速度19が尚も上昇を継続する場合は、図示されない保護装置にて、水車を停止させる制御操作が実施される。
上記では、マクロ的にこれらガイドベーン9の閉鎖速度と水車10と発電機18の軸系の速度変動率、および水車上流側の鉄管水圧の関係を記したが、負荷遮断時において、プラントの運転状態によっては、規定のガイドベーン閉鎖モードが実現されず、ガイドベーン9の閉鎖速度が変則的に変化し、顕著な場合は階段状に閉鎖したり、開度が振動的になることがある。その変則的なガイドベーン9の開度変化は、水車流量11の変化に直接的に作用するため、水車上流側鉄管111の水圧の異常な変動を誘起する結果に結び付き、また、出力トルク17の変化にも直接的に作用するために、慣性モーメントGD2を含む水車10と発電機18の軸系の回転速度19を不安定にさせる結果に至る。
そして、PIDコントローラ4の比例、積分、微分、各要素機能のゲイン設定のうち、上記の不適切な現象に最も効果を及ぼし易い要素は、I(積分)演算要素6であって、PID制御の特質上、最終安定を確保する目的から、特に無負荷時は、そのゲインを低い値に抑制させる必要があることため、負荷遮断後、時間経過して、回転速度19が下降を開始し、P(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能のガイドベーン9の閉鎖への効果が減衰しつつある段階に達しても、I(積分)演算要素6の減衰が遅れ、その値の変化量が少ないため、ガイドベーン閉鎖モードが実現されず、十分なガイドベーン9の閉鎖への効果が持続できず、階段状閉鎖や、振動的開度変化の如くの、ガイドベーン9の変則的閉鎖に至るものである。この、主にI(積分)演算要素6が原因となるガイドベーン9の変則的閉鎖と水車上流側鉄管の水圧異常変動誘起の問題は、過去古くから調速制御装置2が解決すべき重要な問題の1点であった。
第2の問題は、系統遠方端での負荷遮断(遠方負荷遮断)である。水力発電所の立地条件は山間の急峻な地域に在ることが多く、中間変電所や電力需要地域まで、遠距離の送電線にて電力流通を行なっているケースが多い。特に大規模水力発電所やポンプ水車の設置されている揚水発電所については、超高圧・遠距離の送電線にて接続されるケースが大半である。このため、送電線への落雷等で、発電所から遠方の変電所・開閉所(図示せず)にて保護継電器動作等により、遮断器が開放される事象が度々発生する。この場合も、発電所内の負荷遮断状態と同様、発電機18はもはや系統101からの同期化力は得られず、また、電力を系統101側に送出できないため、水車またはポンプ水車10のガイドベーン9の開度から定まる出力トルク17により、水車10と発電機18の軸系は慣性モーメントGD2の効果により急激に加速される方向となることは、第1の問題点と同様である。ただし、この場合は自発電所の同期遮断器102の開放ではないため、調速制御装置2内のPIDコントローラ4中の制御入力偏差ΔGOVにより演算を施す、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲインは負荷状態の大きい設定値が継続することになる。
従って、自発電所の負荷遮断における、同期遮断器102の開放による第1の問題点の場合と比較して、このような負荷遮断時には、調速制御装置2内のPIDコントローラ4中の、制御入力偏差ΔGOV(同様に大きな絶対値を伴う負の値)に対する、同じく調速制御装置2内のPIDコントローラ4内の、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能が同様に演算を実施するものの、各ゲインが負荷状態の大きい設定値を継続しているため、ガイドベーン9を閉とさせる効果が大きくなる。
I(積分)演算要素6についても、負荷運転中の安定時(定常状態時)であればガイドベーン9の開度とキャンセル状態にあり、発電機18が電力系統101に送出する電力値20が大きい場合は、ガイドベーン9の開度も、I(積分)演算要素6の値も正側の大きな値となっているが、この遠方遮断の場合は、I(積分)演算要素6のゲインが大きいため、回転速度19の急激な上昇に伴う大きな絶対値を伴う負の値である制御入力偏差ΔGOVを受けることにより、I(積分)演算要素6は、第1の問題点である自発電所の負荷遮断における、同期遮断器102の開放による第1の問題点の場合と比較して、急速に減衰し、その値の変化量が大きくなる。これら各要素・機能の効果により、ガイドベーン9は閉鎖し、回転速度19も一旦最大(この最大値と定格回転速度の比を速度変動率と呼称する)に達した後、徐々に下降し始める。
この第2の問題点の遠方遮断の場合は、自発電所の同期遮断器102の開閉により、負荷時または無負荷時の状態変化の認識が行なえないため、上述の通り、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲインは負荷状態の大きい設定値が継続することになる。P(比例)演算要素5とD(微分)演算要素7の結果は安定時(定常状態時)ゼロとなるので、負荷状態の、比較的大きいゲイン設定のままでも弊害は少ないが、I(積分)演算要素6の場合は、負荷状態の比較的大きいゲイン設定のままでは、無負荷状態到達時の、ガイドベーン9の開度が小さく(一般的に5〜20%)、安定状態を得ることが不可能となる。これは、I(積分)演算要素6のゲインが大きいために、PID制御の特質の、最終安定の確保が困難となり、I(積分)演算要素6の積分値とキャンセルすべき、ガイドベーン9の開度フィードバック値も安定しないためである。この状態を図10に示す。
このように第2の問題点(遠方遮断)では、第1の問題点(自発電所の負荷遮断)の場合より、ガイドベーン9の開度がさらに不安定な状態となり、ガイドベーン閉鎖モードが実現できず、ガイドベーン9の開度が振動的になることが多い。その変則的なガイドベーン9の開度変化は、水車流量11の変化に直接的に作用するため、水車上流側鉄管111の水圧の異常な変動を誘起する結果に結び付き、また、出力トルク17の変化にも直接的に作用するために、慣性モーメントGD2を含む水車10と発電機18の軸系の回転速度19を不安定にさせる結果に至る。この場合は、調速制御装置2内のPIDコントローラ4中にて自発電所のように負荷遮断状態が認識できないためであって、I(積分)演算要素6のゲインが大きい状態を継続していることに原因があるものであり、これも過去古くから調速制御装置2が解決すべき重要な問題の1点であった。
上記に対処する調速制御装置に関する技術として、例えば以下の特許文献2〜7に示すものがあった。ただし、これらはいずれも下記に示す理由により、十分な改善をもたらす迄には至らなかった。
特許文献2:水車またはポンプ水車10用の調速制御装置2内のPIDコントローラ4中のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能をバイパスして増幅値を出力する発明であるが、効果としては、P(比例)演算要素5のゲインの増強であり、上記発明が解決しようとする課題にて示したようなI(積分)演算要素6の処理に関する問題点が解決できていない。
特許文献3:水車またはポンプ水車用10の調速制御装置2内のPIDコントローラ4中のI(積分)演算要素6を異なるゲインを設定した2ブロック有して条件によって切換える方法であるが、かかる条件判別によりゲインを切換える方法は公知の手法であって、上記従来技術の説明にて記述されている通り、今回提起した発明が解決しようとする課題に適用するには限界があり、根本的な解決には至らない。
特許文献4:水車またはポンプ水車10用の調速制御装置2を対象としたものではないが、目標値と制御量との間に偏差が生じた際に、別の操作量を加算する方式であって、基本的に上記特許文献1の効果と同様であり、上記発明が解決しようとする課題にて示したような、I(積分)演算要素6の処理に関する問題点が解決できていない。
特許文献5:水車またはポンプ水車10用の調速制御装置2を対象としたものではないが、目標値に対する制御量の変動が発生した際にその変動を最適に抑制する特性状態へと等価的・フィードバック的に修正する補償演算手段を備えている。本方法を水車またはポンプ水車10用の調速制御装置2に適用する場合は、最適制御ブロック・定数設定のための新たな解析手段を必要とする他、フィードバック的な手法であるため、上記発明が解決しようとする課題にて示したような、ガイドベーン9の開度変化が、水車流量11の変化や出力トルク17の変化に直接的に作用する系では、補償手段に起因する時間的遅れが無視できないため、適正な効果が期待できない。
特許文献6:水車またはポンプ水車10用の調速制御装置2を対象としているが、水車またはポンプ水車10の起動・同期・並列制御時の効果を意図したものであって、上記課題にて示したような、I(積分)演算要素6に関する問題点の解決とは別の手段である。また着目した制御要素がD(微分)演算要素7である。
特許文献7:水車またはポンプ水車10用の調速制御装置2を対象としており、上記課題と同様、I(積分)演算要素6の処理に関する問題点にも言及している。ただしこの技術による方式は、基本的に、I(積分)演算要素6とガイドベーン9の開度の間に偏差が発生した際に補正項を適用して作用させる方式であり、効果が現れるまでの時間遅れが発生することは否定できず、また具体的な関数の提示も不完全であった。
特開2000−161194号公報
特開平10−122119号公報
特開昭59−008008号公報
特開平10−124104号公報
特開昭62−009404号公報
特開2004−124862号公報
特開2000−161194号公報
以上説明したように従来の調速制御装置は、例えば自発電所内の同期遮断器開による発電機負荷遮断後の回転速度が下降開始し、PIDコントローラのP(比例)演算要素、D(微分)演算要素によるガイドベーン閉鎖効果が減衰しつつある段階に達しても、I(積分)演算要素の減衰が遅れ、その値の変化量が少ないためガイドベーン閉鎖モードが実現されず、ガイドベーンの変則的閉鎖と水車上流鉄管の水圧異常変動誘起等の第1の問題点があった。また電力系統遠方端での落雷等による負荷遮断が発生した場合には、前記発電機の負荷遮断の場合よりさらにガイドベーンの開度が不安定な状態となり、ガイドベーン閉鎖モードが実現できず、開度が振動的となるという第2の問題点があった。
この発明は上記のような第1、第2の課題を解決するためになされたものである。
この発明は、外部からの出力増減指令値を受け、水車またはポンプ水車と軸結合された発電機の軸回転速度とガイドベーン開度を制御する水車またはポンプ水車用の調速制御装置であって、
出力増減指令値と、軸回転速度及びガイドベーン開度の検出値との偏差を演算する制御入力偏差演算器と、制御入力偏差演算器の演算結果が入力されて、そのP(比例)演算要素、I(積分)演算要素、D(微分)演算要素の演算結果の総和を出力するPIDコントローラと、所定の条件が成立する場合に与えられたガイドベーンの閉鎖特性の関数にしたがってガイドベーン開度が変化するように制御されるような、I(積分)演算要素への信号を演算して、演算した信号をI(積分)演算要素に入力するフィードフォワード制御要素とを備えている。
この発明に係る水車またはポンプ水車用の調速制御装置は、外部からの出力増減指令値と、水車またはポンプ水車と軸結合された発電機の軸回転速度及びガイドベーン開度の検出値との偏差を演算する制御入力偏差演算器と、制御入力偏差演算器の演算結果が入力されて、そのP(比例)演算要素、I(積分)演算要素、D(微分)演算要素の演算結果の総和を出力するPIDコントローラと、所定の条件が成立する場合に与えられたガイドベーンの閉鎖特性の関数にしたがってガイドベーン開度が変化するように制御されるような、I(積分)演算要素への信号を演算して、演算した信号をI(積分)演算要素に入力するフィードフォワード制御要素とを備えたものなので、ガイドベーンが段階的に閉鎖したり開度が振動したりすることを防止でき、水車またはポンプ水車の上流鉄管の異常な水圧上昇を防止でき、さらに水車またはポンプ水車と発電機の軸系の回転速度を安定にさせるという効果がある。
この発明の実施の形態1に係る水車またはポンプ水車用調速制御装置を示すブロック図である。
この発明の各実施例が適用される水力発電所の概念を示す図である。
この発明の実施の形態1に係る調速制御装置の動作を示す説明図である。
この発明の実施の形態2に係る水車またはポンプ水車用調速制御装置を示すブロック図である。
この発明の実施の形態2に係る調速制御装置の動作を示す説明図である。
この発明の実施の形態3に係る水車またはポンプ水車用調速制御装置を示すブロック図である。
この発明の実施の形態4に係る水車またはポンプ水車用調速制御装置を示すブロック図である。
従来技術による水車またはポンプ水車用調速制御装置を示すブロック図である。
従来技術による調速制御装置の動作を示す説明図である。
従来技術による調速制御装置の動作を示す説明図である。
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。
図1は、この実施の形態1による水車またはポンプ水車用の調速制御に関する全体機器を示すブロック図であり、図2に水力発電所の概念図を示す。図1において、出力増減指令1は、図示省略した中央給電所、制御所、配電盤等からの自動調整機能または運転員の操作、発電機電力変動等による指令である。調速制御装置2は水車またはポンプ水車(以降、代表して水車と記載する)の回転速度または出力トルクを制御するものであり、その制御対象は、固定翼のフランシス水車またはポンプ水車の場合、ガイドベーン(GV)9である。この調速制御装置2の機能は、マイクロプロセッサによるソフトウエアまたは演算増幅器によるアナログ回路により実現される。制御入力偏差演算器3は出力増減指令1により定まる設定値と、水車10からのフィードバック信号である回転速度19(n)およびガイドベーン9の開度(垂下率ゲイン21による通常0.06倍以下の垂下率ゲインを乗ずる)とを加算して求められる制御入力偏差ΔGOVを出力するが、定常状態である安定時にはこの値はゼロである。
調速制御装置2内のPIDコントローラ4は、前記制御入力偏差ΔGOVをいずれも入力する、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7により構成される。PIDコントローラ4の出力、即ち調速制御装置2の出力(GOV)は上記のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の和である。調速装置機械系であるアクチュエータ8は、調速制御装置2の出力を受け、ガイドベーン9の開度(Y)を決定する。また、ガイドベーン9を予め設定された閉鎖特性の関数にてトラッキングさせるフィードフォワード制御要素22が前記PIDコントローラ4内に設けられている。
水車10の流量およびトルク特性により、ガイドベーン9の開度とフィードバック量である水車、発電機系の回転速度19と水路系の有効落差16(He)により、水車の流量11(Q)および出力トルク17(TL)を決定する。水路系は水車10を通過する流量11により、サージタンク12の水位14(Hs)が決まり、水位14より水車10の下流側圧力15と、損失水頭13(流量11の関数)の2項を引き去った差が有効落差16となる。発電機18と水車10には慣性モーメントGD2があり、与えられた水車トルク17と発生する電力20(W)との差、系統周波数条件等により、水車10と発電機18が結合された軸系は加減速され、回転速度19が決まる。
なお、ガイドベーン9を予め設定された閉鎖特性の関数にてトラッキングさせるとは、ガイドベーン9の開度が予め設定された閉鎖特性の関数にしたがってガイドベーン開度が変化するように制御されることを意味する。そのために、フィードフォワード制御要素22は、予め設定された閉鎖特性の関数にしたがってガイドベーン開度が変化するような制御信号をPIDコントローラ4が出力するような、I(積分)要素の入力信号を演算するものである。
次に、動作を説明する。ガイドベーン9の閉鎖特性の関数にてトラッキングさせるフィードフォワード制御要素22は、負荷遮断状態でない定常時あるいは外乱が小さい場合はロックされ、不動作状態のため、作用しない。以下、[0045]〜[0051]の記述は従来技術と同様であるが本実施の形態1を理解し易くするため再度記載する。
出力増減指令1が調速制御装置2に与えられると、外乱入力または制御指令による制御入力偏差演算器3により偏差ΔGOVが計算される。ここにおいて、ガイドベーン9の開度に垂下率ゲイン21を乗じている理由は、フィードバック量である回転速度19が変動した際、ガイドベーン9の開度を適切な値に制御することにより、速度、開度の乱調状態が発生することを防止するためである。即ち、回転速度が僅かに上昇した際は、ガイドベーン9を閉操作して安定させ、一方、回転速度が僅かに下降した際には、ガイドベーン9を開操作して安定に導く。
この制御入力偏差演算器3の出力するΔGOVは、同じく調速制御装置2内のPIDコントローラ4に導かれ、コントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能が実施される。このうち、P(比例)演算要素5は、前記制御入力偏差ΔGOVに比例する演算である。I(積分)演算要素6は、制御入力偏差ΔGOVを時々刻々積分する演算である。また、D(微分)演算要素7は、制御入力偏差ΔGOVに対し不完全微分演算を行う。このうちP(比例)演算要素5とD(微分)演算要素7の結果は安定時(定常状態時)ゼロとなるが、I(積分)演算要素6それ自体は、定常状態時も有限値を持ち、調速制御装置2の制御対象であり、マイナーフィードバック量であるガイドベーン9の開度とキャンセルすることにより、定常状態において、調速制御装置2からアクチュエータ8への制御出力がゼロとなる。
この制御系において、水車10と発電機18の軸系の回転速度19が安定時から変化した場合を考えると、制御入力偏差ΔGOVがそれまでの定常状態であるゼロ値から変化する。それにより、調速制御装置2内のPIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能は演算処理を行い、出力処理を開始する。制御入力偏差ΔGOVに対するP(比例)演算要素5とD(微分)演算要素7の各機能の出力値は、回転速度19が定格値に戻り、制御入力偏差ΔGOVをゼロに戻す方向に、ガイドベーン開度9の値を制御する。
水車10は、ガイドベーン9の開度と有効落差16と、水車10および発電機18の回転速度19により、流量11と水車トルク17を生じる。流量11は、サージタンク12の水位14を変化させ、損失水頭13と水車下流側圧力15との差により、水車有効落差16を生じ、水車10にフィードバックされる。水車10の出力トルク17は、発電機18を介して回転速度19と実電力20を生じ、回転速度19は水車10に、実電力20は自動負荷調整(ALR)、自動周波数調整(AFC)等の自動調整機能に対して各々フィードバックされる。水車流量11は出力増減指令1に正の相関関係をもって変化するが、その際に水車10の出力トルクは遅れを生じ、これにより発電機18の電力20も遅れを生じる。
発電機18が電力系統101に接続されていない状態、換言すれば自発電所の負荷遮断を行う同期遮断器102が開状態となっている無負荷の状態では、ガイドベーン9の開度の僅かな変化により、水車10の発生する出力トルク17の変動分が回転速度19の変動に大きく影響するため、調速制御装置2内のPIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲイン設定値は小さくする必要がある。無負荷状態ではガイドベーン9の開度が小さく(一般的に5〜20%)、安定状態を得るために、この開度フィードバック値とキャンセルするI(積分)演算要素6の積分値は、PID制御の特質上、最終安定を確保する目的で設定されるため、その変動を抑制する必要があることから、I(積分)演算要素6のゲインは低い値に設定する必要がある。
その一方で、発電機18が電力系統101に接続された状態、換言すれば同期遮断器102が閉状態となっている負荷時の状態では、発電機18は系統からの同期化力を得て、系統周波数に対応した同期速度付近で回転しているため、ガイドベーン9の開度を増減(開閉)させたことによる水車10の発生する水車トルク17の変動分は、回転速度19ではなく、実電力20の増減に寄与する。この負荷時の状態では、調速制御装置2は、図示省略した中央給電所、制御所、配電盤等からの自動調整機能または運転員操作、発電機電力変動等による出力増減指令1に対して速やかに応動する必要があり、ガイドベーン9の開閉速度を速くする必要があるため、調速制御装置2内のPIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲイン設定値は無負荷時に比較して、一般に大きくする必要がある。負荷状態では出力増減指令1による運転側からの要求による、ガイドベーン9の開度の変化が大きく(一般的に5〜20%の無負荷開度から当該発電所認可出力の80〜90%)、指令1に対する負荷増減の応答性を確保するため、ガイドベーン9の開度フィードバック値とキャンセルするI(積分)演算要素6のゲインは、無負荷状態とは異なり、高い値に設定する必要がある。
上述の無負荷時と負荷時の違いは、回路的には発電機18が電力系統101に接続されていない状態または接続された状態の違い、換言すれば同期遮断器102が開または閉となっている状態である。調速制御装置2内のPIDコントローラ4内の、P(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲインの大小の切換も、上記、同期遮断器102が開または閉となっている状態と一致して実施されている。
次にこの実施の形態1によるガイドベーン9の閉鎖特性の関数にてトラッキングさせるフィードフォワード制御要素22を設けたことによる、負荷遮断時の動作について説明する。まず、第一に、自発電所内における負荷遮断状態について説明する。
従来の装置では、負荷遮断時において、プラントの運転状態によっては、規定のガイドベーン閉鎖モードが実現されず、ガイドベーン9の閉鎖速度が変則的に変化し、顕著な場合は階段状に閉鎖したり、開度が振動的になることがある。その変則的なガイドベーン9の開度変化は、水車流量11の変化に直接的に作用するため、水車上流側鉄管111の水圧の異常な変動を誘起する結果に結び付き、また、出力トルク17の変化にも直接的に作用するために、慣性モーメントGD2を含む水車10と発電機18の軸系の回転速度19を不安定にさせる結果に至る。
そして、PIDコントローラ4内のP(比例)演算要素5、I(積分)演算要素6、D(微分)演算要素7の各機能のゲイン設定のうち、上記の不適切な現象に最も効果を及ぼし易い要素は、I(積分)演算要素6であって、PID制御の特質上、最終安定を確保する目的から、特に無負荷時は、そのゲインを低い値に抑制させる必要があるため、負荷遮断後、時間経過して、回転速度19が下降を開始し、P(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能のガイドベーン9の閉鎖への効果が減衰しつつある段階に達しても、I(積分)演算要素6の減衰が遅れ、その値の変化量が少ないため、ガイドベーン閉鎖モードが実現されず、十分なガイドベーン9の閉鎖への効果が持続できず、階段状閉鎖や、振動的開度変化の如くの、ガイドベーン9の変則的閉鎖に至るものである。
この実施の形態1では、ガイドベーン9の閉鎖特性の関数にてトラッキングさせるフィードフォワード制御要素22を設けているため、自発電所負荷遮断の条件(自発電所内設置の同期遮断器102が閉状態から開状態に変化したことにより、発電機18が電力系統101から隔離された信号を検出)を検出し、定常状態あるいは外乱の小さい状態(これらの場合は調速制御装置2内の制御入力偏差ΔGOVがゼロまたは正負いずれかの絶対値がある閾値より小さいと定義できる)ではロックされ不動作状態にあったフィードフォワード制御要素22をオンさせる。
このフィードフォワード制御要素22をオンさせた操作により、図3に示すとおり従来は負荷遮断直後には、回転速度19の急激な上昇に伴って、大きな絶対値を伴う負の値である制御入力偏差ΔGOVが発生し、それを受けたP(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能の効果により、ガイドベーン9は閉鎖し、回転速度19も一旦最大(この最大値と定格回転速度の比を速度変動率と呼称する)に達した後、徐々に下降し始め、P(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能のガイドベーン9の閉鎖への効果が減衰しつつある段階に達しても、I(積分)演算要素6の減衰が遅れ、その値の変化量が少ないという従来の課題は以下のようにして、解決される。
即ち、I(積分)演算要素6はPIDコントローラ4内でガイドベーン9の開度フィードバック値とキャンセルすることに着目し、I(積分)演算要素6の演算結果がガイドベーン9の規定の閉鎖モードと一致するように、フィードフォワード制御要素22では、ガイドベーン9の規定の閉鎖モードを微分した値を求め、この微分した値からΔGOVを引いたものをI(積分)演算要素6への追加の制御操作量とする。すると、I(積分)演算要素6の減衰が遅れ、その値の変化量が少ないという欠点は克服される。図3にフィードフォワード制御要素22を、負荷遮断時にオンさせたことによる、I(積分)演算要素6の値の変化を示す。なお、この実施の形態1によるフィードフォワード制御要素22は、I(積分)演算要素6にのみ作用するため、従来装置でも問題の無かった、P(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能の、負荷遮断時のガイドベーン9への閉鎖指令効果は、同様に確保される。
従って、フィードフォワード制御要素22により予め設定されたガイドベーン閉鎖モードでI(積分)演算要素が制御されるので従来現象である、規定のガイドベーン閉鎖モードが実現されず、ガイドベーン9の閉鎖速度が変則的に変化し、顕著な場合は階段状に閉鎖したり、開度が振動的になることにより、その9の開度変化が、水車流量11の変化に直接的に作用して、水車上流側鉄管111の水圧の異常な変動を誘起する結果に結び付き、また、出力トルク17の変化にも直接的に作用して、慣性モーメントGD2を含む水車10と発電機18の軸系の回転速度19を不安定にさせる結果に至る、との課題は解決することが出来る。
実施の形態2.
次に実施の形態2につき、図4により説明する。
調速制御装置2内の入力制御偏差演算器3の出力値ΔGOVが、安定時または外乱小の状態か否かを閾値にて判別する閾値判別要素23がフィードフォワード制御要素22の前段に設けられている以外は、図1と同様である。この閾値判別要素23もマイクロプロセッサによるソフトウエアまたは演算増幅器によるアナログ回路により実現される。
次に動作について説明する。
前記実施の形態1では、発電所内での負荷遮断状態に対応した場合についてを説明したが、この実施の形態2では遠方負荷遮断に対応した場合に関するものである。前述した通り、遠方負荷遮断の場合は、自発電所の同期遮断器102の開閉状態の変化を伴うわけではないが、発電機18が電力系統から隔離されることにより、水車10と発電機18を結合する軸系の回転速度19が上昇する。従って、調速制御装置2内の入力制御偏差演算器3がこの回転速度19の上昇を検出して、負の方向に定常時とみなされる閾値を超えて変動したことを、閾値判別要素23により検出し、その閾値外検出条件オンにて、フィードフォワード制御要素22をオンさせ、ガイドベーン9の規定の閉鎖モードと強制的にトラッキングにて、I(積分)演算要素6の値を一致させる制御操作を前記実施の形態1に追加したものである。この実施の形態2の効果を図5に示す。
このようにこの実施の形態2は、調速制御装置2内の入力制御偏差演算器3が回転速度19の上昇を検出して、負の方向に定常時とみなされる閾値を超えて変動したことを、閾値判別要素23により検出し、その閾値外検出条件オンにて、定常状態あるいは外乱の小さい状態ではロックされ不動作状態であった、フィードフォワード制御要素22をオンさせ活かす状態としたため、I(積分)演算要素6のみに作用してその減衰を速め、P(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能はフィードバック的な制御を保つため、規定のガイドベーン閉鎖モードが実現され、ガイドベーン9の閉鎖速度が規則的に変化し、そのガイドべーン9の開度変化が、水車流量11の変化に直接的に作用して、水車上流側鉄管111の水圧の異常な変動を誘起することなく、また、出力トルク17の変化にも直接的に作用して、慣性モーメントGD2を含む水車10と発電機18の軸系の回転速度19を安定にさせることができるという効果がある。
実施の形態3.
次に実施の形態3につき、図6により説明する。
この図6は、前述した実施の形態1の図1のフィードフォワード制御要素22の前段に最適ガイドベーン閉鎖モード計算要素24を設けたものである。一般に、ガイドベーン閉鎖モードは、水力発電所基本設計の過程で、これらガイドベーン9の閉鎖速度と水車10と発電機18の軸系の速度変動率、および水車上流側サージタンクの鉄管水圧の関係は数値計算にて確認・チェックされ、最適なガイドベーン9の閉鎖特性として決定されるが、この計算値は、水車全負荷時に対する1ケースのみである。なぜなら、このトレードオフの関係となる軸系の速度変動率、及び水車上流側サージタンクの鉄管水圧は、水車への効果として、全負荷遮断を行なった場合が最も過酷となるからであり、鉄管の肉厚および発電機18の強度設計に考慮を払うケースは全負荷遮断時にて必要かつ十分であるからである。
しかし、実プラント運転時の負荷遮断状態は、様々な初期運転状態にて発生する。この個々の初期運転状態に対応する負荷遮断の際の最適なガイドベーン閉鎖モードは、1通りでなく、初期運転時のガイドベーン開度9や有効落差16によって変化する。
実施の形態3は、フィードフォワード制御要素22に反映すべきガイドベーン閉鎖モードに対して、その時々刻々の運転状態、換言すると運転時のガイドベーン開度9や有効落差16を入力して運転状態を確認し、その運転状態にあったガイドベーン閉鎖モードを個別に計算する最適ガイドベーン閉鎖モード計算要素24を追加したものである。負荷遮断後の調速制御装置2内のPIDコントローラ4には、特に制御入力偏差演算器3の出力するΔGOVの確認と、それを受けるP(比例)演算要素5、D(微分)演算要素7の各機能の実現に高速性が要求されるため、個々の運転負荷条件に対応する、ガイドベーン閉鎖モードの個別計算は、負荷遮断前に事前に行なわれ、負荷遮断前にはフィードフォワード制御要素22に転送される。
実施の形態3の場合も実施の形態1と同様に、自発電所負荷遮断の条件(同期遮断器102の閉状態から開状態への変化)を認識して、ガイドベーン9の負荷状態をもとに計算された閉鎖モードと強制的にトラッキングにて、I(積分)演算要素6の値を一致させる制御操作を添加するので、従来の、I(積分)演算要素6の減衰が遅れ、その値の変化量が少ないという欠点は克服される。このトラッキング動作は実施例1の図3と同様に作用するので、以降の説明を省略する。
実施の形態3では、実施の形態1と同様に、自発電所負荷遮断の条件(同期遮断器102の閉状態から開状態への変化)を認識して、フィードフォワード制御要素22を活かし、それと強制的にトラッキングして、I(積分)演算要素6の値を一致させる制御操作を添加するに加えて、フィードフォワード制御要素22に反映すべきガイドベーン閉鎖モードに対して、その時々刻々の運転状態、換言すると運転時のガイドベーン開度9や有効落差16を入力して運転状態を確認し、その運転状態にあったガイドベーン閉鎖モードを個別に計算する最適ガイドベーン閉鎖モード計算要素24を追加したので、さらにきめの細かい制御が実現可能となる。
実施の形態4.
次に実施の形態4を、図7により説明する。
実施の形態4は、前述した実施の形態2の図4のフィードフォワード制御要素22の前段に最適ガイドベーン閉鎖モード計算要素24を設け、そして、それを遠方負荷遮断時に対応させるものである。
次に実施の形態4の動作について説明する。
上記実施の形態3は、ガイドベーン9の負荷状態をもとに計算された閉鎖モードと強制的にトラッキングにて、I(積分)演算要素6の値を一致させる制御操作を添加して、発電所内での負荷遮断状態に対応するものであったが、この実施の形態4は遠方負荷遮断時の対応に関するものである。前述した通り、遠方負荷遮断の場合は、自発電所の同期遮断器102の開閉状態の変化を伴うわけではないが、発電機18が電力系統から隔離されることにより、水車10と発電機18を結合する軸系の回転速度19が上昇する。従って、調速制御装置2内の入力制御偏差演算器3がこの回転速度19の上昇を検出して、負の方向に定常時とみなされる閾値を超えて変動したことを、閾値判別要素23により検出し、その閾値外検出条件オンにて、フィードフォワード制御要素22をオンさせ、ガイドベーン9の所期負荷状態をもとに最適ガイドベーン閉鎖モード計算ブロック24にて計算された閉鎖モードと強制的にトラッキングにて、I(積分)演算要素6の値を一致させる制御操作を添加すれば、実施の形態3と同様の改善効果を得ることができる。このトラッキング動作は実施の形態2の図5と同様に作用するので、以降の説明を省略する。
このようにこの実施の形態4では、実施の形態2の調速制御装置2内の入力制御偏差演算器3が回転速度19の上昇を検出して、負の方向に定常時とみなされるの閾値を超えて変動したことを、ブロック23により検出し、その閾値外検出条件オンにて、フィードフォワード制御要素22を活かし、それと強制的にトラッキングにて、I(積分)演算要素6の値を一致させる制御操作を添加するに加えて、フィードフォワード制御要素22に反映すべきガイドベーン閉鎖モードに対して、その時々刻々の運転状態、換言すると運転時のガイドベーン開度9や有効落差16を入力して運転状態を確認し、その運転状態にあったガイドベーン閉鎖モードを個別に計算する最適ガイドベーン閉鎖モード計算要素24を追加したので、さらにきめの細かい制御が実現可能となる。
この発明は、水力発電所における水車またはポンプ水車用の調速制御に利用できる。
1 出力増減指令、2 調速制御装置、3 制御入力偏差演算要素、
4 PIDコントローラ、5 P(比例)演算要素、6 I(積分)演算要素、
7 D(微分)演算要素、9 ガイドベーン、10 水車またはポンプ水車、
18 発電機、22 フィードフォワード制御要素、23 閾値判別要素、
24 最適ガイドベーン閉鎖モード計算要素。