JP2010105367A - 楽器用の木質部材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 木質部材の割れなどの損傷を防止することによって、楽器の円滑で安定した動作を確保するとともに、楽器の良好な外観を長期にわたって維持することができる楽器用の木質部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明による楽器用の木質部材は、あらかじめ加熱処理、冷却処理および調湿処理されることによって、少なくとも外表面付近に圧縮の内部応力が残留している。また、本発明による楽器用の木質部材の製造方法は、木質材11を、所定の温度で加熱する加熱工程(ステップ2)と、加熱された木質材11を、冷却する冷却工程(ステップ3)と、冷却された木質材11を、木質材11の少なくとも外表面付近に圧縮の内部応力が発生するように調湿する調湿工程(ステップ4)と、を備える。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ピアノなどに用いられる鍵や筬、ハンマーシャンクなどの楽器用の木質部材およびその製造方法に関する。
従来、楽器用の木質部材(以下、単に「木質部材」という)およびその製造方法として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この製造方法では、未加工や成形加工後の、木質部材の素材となる木質材(以下、単に「木質材」という)を、温度120〜200℃、圧力0.2〜1.6MPaの高圧水蒸気が満たされたオートクレーブ内に、1〜60分間、放置することによって、木質部材が製造される。そのような高圧水蒸気処理により、木質材が改質され、木質部材に深みのある色調が付与される。それにより、高圧水蒸気処理を施していない木質部材にはない独特の風合いや深み感を得るとともに、塗装工程の短縮化を図るようにしている。
しかし、一般に木質材は、外表面付近に存在する微細な傷が引張り応力により成長することによって、割れなどの損傷が発生しやすい。これに対し、上記の従来の木質部材は、高温水蒸気処理により木質材が改質されるにすぎないため、上記の原因による木質部材の損傷を防止することができない。その結果、発生した損傷が、楽器の動作や外観に悪影響を及ぼすおそれがある。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、木質部材の割れなどの損傷を防止することによって、楽器の円滑で安定した動作を確保するとともに、楽器の良好な外観を長期にわたって維持することができる楽器用の木質部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
特許第3562517号公報
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、楽器用の木質部材であって、木質部材は、あらかじめ加熱処理、冷却処理および調湿処理されることによって、少なくとも外表面付近に圧縮の内部応力が残留していることを特徴とする。
この楽器用の木質部材は、あらかじめ加熱処理、冷却処理および調湿処理されている。この加熱処理により、木質部材を構成するセルロースの結晶化度が増大することによって、ヤング率が増大するとともに、平衡含水率が低下し、吸湿性が低下する。これにより、木質部材の乾湿に対する膨張・収縮の度合い(以下「膨張収縮率」という)が減少し、その結果、木質部材の乾湿による寸法安定性を向上させることができる。
また、この木質部材は、あらかじめ加熱処理により全乾状態にされ、さらに木質材を、冷却処理した後、使用環境に応じた含水率になるように調湿処理されている。この調湿処理により、水分は、木質部材の表面から浸入するが、内部までは均一にならない。したがって、木質部材の内部に水分傾斜が生じ、その水分傾斜に応じて膨張率が異なるため、木質部材の少なくとも外表面付近に、圧縮の内部応力が残留している。このような圧縮の内部応力によって、木質部材の外表面付近に存在する微細な傷が引張り応力により成長することが防止され、木質部材が割れにくくなる。この結果、従来の木質部材と比較し、楽器の円滑で安定した動作を確保するとともに、楽器の良好な外観を長期にわたって維持することができる。その結果として、楽器のメンテナンスコストも削減することができる。
また、上記の目的を達成するために、請求項2に係る発明は、楽器用の木質部材の製造方法であって、木質部材の素材となる木質材を、所定の温度で加熱する加熱工程と、加熱された木質材を冷却する冷却工程と、冷却された木質材を、木質材の少なくとも外表面付近に圧縮の内部応力が発生するように調湿する調湿工程と、を備えることを特徴とする。
この製造方法によれば、まず木質部材の素材となる木質材を加熱する。これにより、前述したように、木質部材の乾湿による膨張収縮率が減少し、寸法変化が抑制される。その結果、木質部材の製造時の歩留まりが向上し、製造コストを削減することができる。
また、加熱処理により全乾状態にある木質材を冷却する。その後、全乾状態にある木質材を、使用環境に応じた含水率になるように調湿する。このときに、水分は、木質材の表面から浸入するが、内部までは均一にならない。したがって、木質材の内部に水分傾斜が生じ、この水分傾斜に応じて膨張率が異なるため、木質材の少なくとも外表面付近に、圧縮の内部応力が発生する。この圧縮の内部応力により、木質材の外表面付近に存在する微細な傷が引張り応力によって成長することが防止され、木質材が割れにくくなる。この結果、従来の製造方法によって製造された木質材と比較し、損傷による影響がなくなることによって、楽器の円滑で安定した動作を確保するとともに、楽器の良好な外観を維持することができる。
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の楽器用の木質部材の製造方法において、調湿工程は、冷却された木質材を、その含水率が平衡状態になるように乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とする。
この製造方法によれば、冷却された木質材を乾燥することで、木質材は、大気中の水分を吸収し、その含水率が平衡状態になる。それにより、木質材における吸放湿が行われにくくなるため、木質部材の乾湿による寸法変化および変形をさらに抑制することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態によるグランドピアノの鍵1を示している。鍵1は複数の白鍵1aおよび複数の黒鍵1bで構成されている(図1に各1つのみ図示)。図2(a)にも示すように、各白鍵1aは、木質部材としての鍵本体2aと、鍵本体2aの上面の前部に取り付けられた白鍵カバー3aなどを備えている。また、図2(b)にも示すように、各黒鍵1bは、鍵本体2bと、鍵本体2bの上面の前部に取り付けられた黒鍵カバー3bなどを備えている。
白鍵1aの鍵本体2aおよび黒鍵1bの鍵本体2b(以下、総称して「鍵本体2」という)は、スプルスなどから成る無垢の板目材で構成されており、矩形の断面を有し、前後方向に延びている。鍵本体2の上面の前後方向の中央には、バランスピン孔4aを形成した中座板4が、その後ろ側には、キャプスタンスクリュー(図示せず)が取り付けられるキャプスタン座板5が、後端部には、バックチェック(図示せず)が取り付けられるバックチェック座板6が、それぞれ接着されている。
白鍵カバー3aは、セルロースアセテート樹脂などで構成されており、L字状の側面形状を有している(図2(a)参照)。
黒鍵カバー3bは、フェノール樹脂などの合成樹脂で構成され、前後方向に延びるとともに、下方に開放する中空状に形成されている(図2(b)参照)。
次に、上述した構成の鍵1の製造方法について詳細に説明する。図3は、その製造工程の全体の流れを示している。
最初のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、鍵本体2の素材となる複数の木質材11を予備調湿する(予備調湿工程)。図4に示すように、各木質材11は、例えば長さL=500mm、幅W=50〜150mm、および厚さT=25mmを標準とする長尺状のものである。
この木質材11の予備調湿は、スプルスなどの原木を板状に切り出した後、予備調湿室(図示せず)に入れ、所定の温度(例えば50〜100℃)および湿度(例えば30〜90%)の条件で強制乾燥することによって行われる。その結果、木質材11は、所定の含水率(例えば8%)に調整される。
次に、ステップ2において、ステップ1で予備調湿処理された複数の木質材11を、図5および図6に示す加熱装置21によって加熱する(加熱工程)。
この加熱装置21は、平らなボックス状の加熱室22と、加熱室22内に水平に設けられ、木質材11が載せられるメッシュベルト23と、木質材11を加熱する複数の第1ヒータ24aおよび複数の第2ヒータ24bと、木質材の表面温度T1および裏面温度T2をそれぞれ検出する第1温度センサ25aおよび第2温度センサ25bと、第1および第2ヒータ24a、24bを制御する制御装置26を備えている。
複数の第1および第2ヒータ24a、24bはそれぞれ、メッシュベルト23の上下に、それと間隔を隔てるとともに、その長さ方向に沿って並ぶように、等間隔に配置されている。第1および第2ヒータ24a、24bは、例えばON/OFFによって作動する遠赤外線ヒータで構成されている。
第1および第2温度センサ25a、25bは、各木質材11の表面および裏面の中央に、直接取り付けられている。第1および第2温度センサ25a、25bはそれぞれ、例えば熱電対で構成されており、木質材11の表面温度T1および裏面温度T2を検出し、その検出信号を制御装置26に出力する。
制御装置26は、CPUやROM、RAM、入出力回路を備えたマイクロコンピュータで構成されている。図6に示すように、制御装置26は、第1および第2温度センサ25a、25bから出力された表面温度T1および裏面温度T2に応じて、第1および第2ヒータ24a、24bを、後述するように制御する。
この加熱工程では、複数の木質材11(図5には1つのみ図示)を、それらの長さ方向が複数の第1および第2ヒータ24a、24bの並び方向に合致するように、メッシュベルト23上に並べ、加熱室22を閉じた後、第1および第2ヒータ24a、24bで所定時間、加熱する。この所定時間は、例えば30分〜30時間であり、本実施形態では25時間に設定されている。
図7は、第1および第2ヒー24a、24bによる加熱を制御するために、制御装置26によって実行される加熱制御処理を示すフローチャートである。本処理は、所定時間(例えば0.1秒)ごとに繰り返し実行される。本処理では、まずステップ11〜14において第1ヒータ24aを制御する。
そのステップ11では、第1センサ25aで検出された表面温度T1が、第1所定温度TREF1(例えば105〜200℃)からヒステリシスに相当する所定値ΔT(例えば2°)を差し引いた温度(TREF1−ΔT)よりも低いか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、第1ヒータ24aを作動(ON)させた(ステップ12)後、後述するステップ15に進む。
一方、ステップ11の判別結果がNOのときには、ステップ13において、表面温度T1が、第1所定温度TREF1に所定値ΔTを加えた温度(TREF1+ΔT)よりも高いか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、第1ヒータ24aを停止(OFF)させた(ステップ14)後、ステップ15に進む。
ステップ13の判別結果がNOのときには、直接、ステップ15に進む。
以上のような第1ヒータ24aの制御により、第1温度センサ25aで検出された表面温度T1が、第1所定温度TREF1になるように制御される。
また、表面温度T1が(TREF1−ΔT)≦T1≦(TREF1+ΔT)の範囲にあるときには(ステップ13:NO)、第1ヒータ5aの直前のON/OFF状態が維持されることによって、第1ヒータ24aのON/OFFの頻繁な切替えが防止される。
次に、ステップ15〜18において、第2ヒータ5bを制御する。
そのステップ15では、第2センサ25bで検出された裏面温度T2が、第2所定温度TREF2(例えば105〜200℃)から所定値ΔTを差し引いた温度(TREF2−ΔT)よりも低いか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、第2ヒータ24bを作動させた(ステップ16)後、本処理を終了する。
一方、ステップ15の判別結果がNOのときには、ステップ17において、裏面温度T2が、第2所定温度TREF2に所定値ΔTを加えた温度(TREF2+ΔT)よりも高いか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、第2ヒータ24bを停止させた(ステップ18)後、本処理を終了する。
ステップ17の判別結果がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
以上のような第2ヒータ24bの制御により、第2温度センサ25bで検出された裏面温度T2が、第2所定温度TREF2になるように制御される。
また、裏面温度T2が(TREF2−ΔT)≦T2≦(TREF2+ΔT)の範囲にあるときには(ステップ17:NO)、第2ヒータ24bの直前のON/OFF状態が維持されることによって、第2ヒータ24bのON/OFFの頻繁な切替えが防止される。
図3に戻り、ステップ3において、加熱処理された複数の木質材11を冷却室(図示せず)に入れ、所定の温度(例えば20℃)および湿度(例えば50%)の条件で急速に冷却する(冷却工程)。複数の木質材11は、前述した加熱処理により、その含水率が0%であるいわゆる全乾状態になっている。
次に、ステップ4において、冷却処理された木質材11を乾燥室(図示せず)に入れ、所定の温度(例えば20℃)および湿度(例えば60%)の条件で乾燥する(乾燥工程)。このような乾燥処理により、木質材11は、乾燥室内の水分を吸収し、含水率が平衡状態になる。しかし、水分は、木質材11の表面から侵入するが、内部までは均一にならない。したがって、木質材11の内部に水分傾斜が生じ、各木質材11の外表面付近は吸湿によって膨張する一方、それ以外の内側の部分は、全乾状態にほぼ維持されるため、依然として収縮を維持しようとする。その結果、これらの膨張差によって、外表面付近の膨張が内側の部分によって拘束されるため、外表面付近に圧縮の内部応力が残留し、内側の部分には引張りの内部応力が残留する。
次に、ステップ5において、乾燥処理された複数の木質材11を組み立てる(組立工程)。具体的には、複数の木質材11を幅はぎ接合(図8参照)した後、ピアノ1台分の鍵本体2aの前部の所定位置に、白鍵カバー3a、および黒鍵カバー3bを接着するとともに、その後ろ側の所定位置に、ピアノ1台分の帯状の中座板4A、キャプスタン座板5A、およびバックチェック座板6Aを接着する(図9参照)。なお、白鍵カバー3aは、1オクターブ分の成形ユニットで構成されている。
最後に、ステップ6において、上記のように組み立てた複数の木質部材11を、挽き割り機(図示せず)を用いて、図10に示すように短冊状に切断する(切断工程)。これにより、図1に示す鍵1が完成する。
以上のように、本実施形態によれば、鍵1の素材となる木質部材11が、前述したように加熱処理されるので、木質材11を構成するセルロースの結晶化度が増大することによって、木質材11の乾湿による膨張収縮率を減少させることができ、鍵本体2の乾湿による寸法変化および変形を抑制できる。その結果、鍵1のタッチ感を安定して維持できるとともに、隣接する他の鍵が互いに触れることによって生じる雑音を防止することができる。
また、鍵本体2の寸法変化が抑制されることにより、鍵1の製造時の歩留まりが向上し、製造コストを削減することができる。
また、木質材11を加熱処理する際、検出された表面温度T1および裏面温度T2が、それぞれ第1所定温度TREF1および第2所定温度TREF2になるように、第1および第2ヒータ24a、24bを互いに独立して制御する。それにより、木質材11の表面温度T1および裏面温度T2をきめ細かく制御でき、したがって、加熱処理により改質された所望の物性を有する木質材11を、精度良く製造することができる。
また、加熱処理された木質材11が冷却・調湿処理されるので、木質材11の外表面付近に残留する圧縮の内部応力により、木質材11の外表面付近に存在する微細な傷が引張り応力によって成長することが防止され、鍵本体2が割れにくくなる。その結果、従来の鍵と比較し、円滑で安定した動作を確保するとともに、長期にわたって良好な外観を維持し、メンテナンスコストを削減することができる。
また、響板材11は、冷却処理後に乾燥処理されることで、含水率が平衡状態になる。それにより、木質材11における吸放湿が行われにくくなるため、鍵本体2の乾湿による寸法変化および変形をさらに抑制することができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、加熱処理後の急速な冷却・調湿処理によって、木質材11の外表面付近に圧縮の内部応力が残留し、内側の部分に引張りの内部応力が残留するようにしているが、木質材11の全体に圧縮の内部応力が残留するようにしてもよい。
また、実施形態は、楽器用の木質部材がグランドピアノの鍵の例であるが、本発明は、これに限定されることなく、任意の楽器用の木質部材、例えば、グランドピアノおよびアップライトピアノの筬やハンマーシャンクなどに適用することが可能である。その他、細部の構成を本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
本発明を適用したグランドピアノの鍵を示す斜視図である。 (a)白鍵の縦断面図、および(b)黒鍵の縦断面図である。 鍵の製造工程の流れを示す図である。 木質材の斜視図である。 加熱装置を模式的に示す図である。 加熱装置の制御関係の構成を示す図である。 図6の制御装置で実行される加熱制御処理を示すフローチャートである。 複数の木質材を幅はぎ接合した状態の斜視図である。 幅はぎ接合した複数の木質材に白鍵カバーなどを接着した状態の斜視図である。 白鍵カバーなどを接着した複数の木質材を挽き割った状態の斜視図である。
符号の説明
1 鍵
2 鍵本体(木質部材)
2a 白鍵の鍵本体(木質部材)
2b 黒鍵の鍵本体(木質部材)

Claims (3)

  1. 楽器用の木質部材であって、
    当該木質部材は、あらかじめ加熱処理、冷却処理および調湿処理されることによって、少なくとも外表面付近に圧縮の内部応力が残留していることを特徴とする楽器用の木質部材。
  2. 楽器用の木質部材の製造方法であって、
    当該木質部材の素材となる木質材を、所定の温度で加熱する加熱工程と、
    当該加熱された木質材を冷却する冷却工程と、
    当該冷却された木質材を、当該木質材の少なくとも外表面付近に圧縮の内部応力が発生するように調湿する調湿工程と、
    を備えることを特徴とする楽器用の木質部材の製造方法。
  3. 前記調湿工程は、前記冷却された木質材を、その含水率が平衡状態になるように乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載の楽器用の木質部材の製造方法。
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