JP2010101379A - 流体軸受装置、並びに給油具およびこれを用いた給油方法 - Google Patents

流体軸受装置、並びに給油具およびこれを用いた給油方法 Download PDF

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康裕 山本
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Abstract

【課題】ワークに対し、微量の潤滑油を精度良くかつ簡便に供給可能とする。
【解決手段】ワークに対して供給する潤滑油を保持する保持部を有する給油具である。給油具21は、中実軸状に形成され、その先端表面で保持部22が構成されると共に、保持部22の基端側に隣接して保持部22よりも外径寸法が小径の小径部23を有するものである。
【選択図】図3

Description

本発明は、流体軸受装置、並びに給油具およびこれを用いた給油方法に関する。
小型機械部品等の製造工程においては、微量の潤滑油をワークに対して供給する工程が設けられる場合がある。その一例として、HDD等のディスク駆動装置用スピンドルモータやPC用マイクロファンモータなどに組み込まれ、モータの主軸を支持するための流体軸受装置の製造工程において、流体軸受装置を構成する軸受部材の内部空間に潤滑油を供給する工程(給油工程)が挙げられる。
潤滑油を軸受部材等のワークに対して精度良く供給するために、例えば、特許文献1に記載のように、マイクロピペットと、ゴム管を介してマイクロピペットに連結された加減圧手段(シリンジおよびプランジャ)とを備えるマイクロピペット装置を用いることが考えられる。このマイクロピペット装置を用いての給油は、マイクロピペットの先端開口部(吐出口)を潤滑油に接触させた状態でプランジャを所定量後退させ、マイクロピペットの先端部内周に設けられた保持部に所定量の潤滑油を吸引した後、プランジャを前進させて保持部内に保持された潤滑油を加圧・吐出することにより行われる。
特開平10−314654号公報
ところで、上述の流体軸受装置に対して供給すべき潤滑油量は、これが少なすぎると潤滑不良を招くおそれがあり、多すぎると潤滑油の漏れ出しによって周辺環境を汚染するおそれがある。そのため、この種の流体軸受装置に対する給油量は、所期の軸受性能、ひいてはモータ性能を発揮および維持可能とするためにも厳密に管理する必要がある。軸受部材は、その一部が焼結金属等の多孔質体で構成される場合と、全体が樹脂や金属等の非多孔質体(ソリッド体)で構成される場合とがある。前者の構成では、多孔質組織が油量調整部として機能するが、後者の構成はかかる機能を有さないために特に給油量を厳密に管理する必要がある。
また、上記のようなマイクロピペット装置では、保持部で保持すべき潤滑油量、さらに言えばワークに対する給油量が、シリンジに対するプランジャの相対移動量で決定付けられる。しかしながら、例えば給油量の基準値が1ml以下程度の至極微量な値とされる場合、シリンジとプランジャの相対移動量で上記範囲の潤滑油を精度良く供給するのは容易ではなく、生産性の点で難がある。具体的には、本願発明者らが上記のようなマイクロピペット装置を用いて給油作業を行ったところ、給油量の基準値を1mlとした場合、給油量が±30%以上の範囲でばらついたため、給油量を基準値に近づけるために給油および吸引を繰り返し行う必要が生じた。
さらに、潤滑油は一般に高粘度であるために吐出口が目詰まりし易く、定量の潤滑油を安定供給するのが困難である。また、そもそも、マイクロピペット装置は、数多くの部材で構成されることから装置自体が高価であるという問題がある。
本発明の第1の課題は、保持すべき潤滑油量を高精度に管理し、もって所期の軸受性能を安定的に維持可能な流体軸受装置を提供することにある。
また、本発明の第2の課題は、簡単な構成でありながらワークに対して微量の潤滑油を精度良くかつ効率的に供給可能とすることにある。
上記第1の課題を解決するため、本発明では、軸部材と、内周に軸部材が挿入され、軸部材との間に軸受隙間を形成する軸受面を有する軸受部材と、軸受隙間を満たす潤滑油とを備え、軸受部材が非多孔質体で形成された流体軸受装置において、潤滑油量が、基準値±10%以内に管理されていることを特徴とする流体軸受装置を提供する。なお、ここで言う「軸受面」は、軸部材の外周面との間にラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面、および軸部材の端面との間にスラスト軸受隙間を形成するスラスト軸受面の何れか一方又は双方を含む概念である。また、この「軸受面」は、軸部材との間に軸受隙間を形成する面を意味しており、この面に動圧溝等の動圧発生部が形成されているか否かは問わない。
本願発明者らが検証した結果、潤滑油量が基準値±10%以内に管理されていれば、換言すると、基準値±10%の範囲内で軸受内部に給油されていれば、軸受部材が非多孔質体で形成されたものであっても、所期の軸受性能を安定的に維持することができることを見出した。
非多孔質体で形成される軸受部材は、軸受面を有する電鋳部と、電鋳部をインサートして型成形された型成形部とを備えるものとすることができる。電鋳部は、成形母体となるマスター表面に目的の金属(金属イオン)を析出させることによって形成することができ、その加工特性上、電鋳部の内面は、マスター表面に倣った緻密面とすることができる。そのため、マスターの表面精度を十分に高めておけば、高精度な軸受面を有する軸受部材が特段の後加工等を施すことなく、低コストに得られる。
潤滑油量の基準値が、1ml以下の値に設定されるような小型の流体軸受装置においては、潤滑油量を±10%以内に管理するのが所期の軸受性能を安定維持する上で特に重要となる。
以上のような流体軸受装置(軸受部材)、特に供給すべき潤滑油量の基準値が1ml以下とされる軸受部材に対する給油に際して使用する治具としては、以下示すものが好適である。すなわち、上記第2の課題を解決するため、本発明では、ワークに対して供給する所定量の潤滑油を保持する保持部を有する給油具であって、少なくとも先端が閉塞した軸状をなし、その先端表面で保持部が構成されると共に、保持部の基端側に保持部よりも外径寸法が小径の小径部を有することを特徴とする給油具を提供する。
上記構成の給油具では、その表面(保持部および小径部)に付着した潤滑油は、その自重によって保持部の側(先端側)に向かって流動し、流動した潤滑油は表面張力によって保持部で所定量保持される。そのため、保持部の表面積を保持すべき(ワークに対して供給すべき)潤滑油量に応じたものに形成すると共に温度条件を一定に管理しておけば、保持部で常時一定量の潤滑油を保持することができる。従い、上記のように潤滑油量の基準値が1ml以下とされ、かつ潤滑油量を基準値±10%の範囲内に管理する必要がある流体軸受装置(軸受部材)に対しても、所定量の潤滑油の供給(給油)を一度の給油作業で完了することが可能となる。
また、本発明に係る給油具は、少なくとも先端が閉塞した軸状をなすことから、ワークに対して繰り返し給油する場合であってもマイクロピペットのような目詰まりが生じることなく、ワークに対する給油量を安定的に管理することができる。また、仮に、保持した潤滑油の粘度が増大等したとしても、これを除去等(メンテナンス)するのはマイクロピペットに比べて容易である。さらに、本発明に係る給油具は、給油量管理のためのその他の手段(例えば、シリンジやプランジャ)が不要であるから、装置構成を簡略化することができ、低コストであるというメリットもある。
上記構成の給油具を用いてのワークに対する給油は、保持部に潤滑油を付着(保持)させる工程と、保持部に付着した潤滑油をワークに供給する工程とを経て行うことができる。このように、本発明に係る給油具を用いた場合、保持部に潤滑油を付着させるだけで保持部における潤滑油の保持作業を完了させることができるから、当該工程の簡略化が図られる。
上記方法では、例えば、給油具を貯油槽中に浸漬させた後これを引き上げることにより(ディッピング)、またあるいは給油具に潤滑油を吹き付けることにより、保持部に潤滑油を付着させることが可能であるが、全体的な装置構成を簡略化し得るディッピングが好適である。また、保持部に付着した潤滑油は、これをワークに接触させ、表面張力によって保持部に付着した潤滑油の表面張力を破壊することにより、ワークの所定箇所に供給することができる。
上記給油具の構成において、保持部と小径部とを、先端側に向かって漸次拡径した拡径面で接続するようにすれば、潤滑油を保持部側に滑らかに流動させることができるので、保持部における潤滑油の保持量管理を精度良く行い得る。なお、拡径の態様は、直線的であっても曲線的であっても良い。すなわち、保持部と小径部とを接続する面は、テーパ面であっても良いし、円弧面であっても良い。
小径部の基端側には、外径寸法が小径部よりも大径の大径部をさらに設けることができる。このとき、小径部と大径部とを、先端側に向かって漸次縮径した縮径面で接続するようにすれば、大径部に潤滑油を付着させた場合であっても、潤滑油の表面張力によって、当該潤滑油が小径部の側へ流動するような事態は効果的に防止することができる。すなわち、このような構成とすれば、給油具に対する潤滑油の付着領域を厳密に管理しなくても、保持部で保持する潤滑油量を一定量に維持することができる。
保持部における潤滑油の保持能力を十分なものとすべく、少なくとも保持部の輪郭線は曲面で構成するのが望ましい。具体的に延べると、保持部は、例えば略球状(半球状)、円柱状、しずく形状等とすることができる。
小径部には、表面張力低減処理を施すことができる。このようにすれば、小径部に潤滑油が残存するような事態を効果的に防止することができるので、保持部で保持する潤滑油量管理を一層精度良く行い得る。なお、表面張力低減処理として、小径部に、シリコーン被膜やフッ素被膜等の撥油被膜を形成することが挙げられる。
以上に示すように、本発明によれば、この種の流体軸受装置において、所期の軸受性能を安定的に維持することが可能となる。
また、簡単な構成でありながらワークに対して微量の潤滑油を精度良くかつ効率的に供給可能とすることにある。これにより、ワークに対する給油作業の効率化を図ることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明における「上下」方向は説明の便宜上用いるものであり、使用態様等を限定するものではない。
図1は、本発明に係る給油具を用いて内部空間に潤滑油9を供給した軸受装置(流体軸受装置)1の一例を概念的に示す含軸断面図である。同図に示す流体軸受装置1は、例えばPC用のマイクロファンモータに組み込まれて使用されるものであり、上端を開口させた有底筒状をなす軸受部材3と、軸受部材3の内周に挿入され、上端部に図示しない羽根(ファン)が取り付けられる軸部材2と、軸受部材3の上端開口部をシールするシール部材6とを主要な構成として備え、内部空間は所定量の潤滑油が充満されている。本実施形態に係る流体軸受装置において、潤滑油量は、基準値が1mlであり、±10%の誤差範囲も許容される。すなわち、潤滑油量は0.9ml〜1.1mlの範囲内に管理されている。
軸部材2は、例えばステンレス鋼等の金属材料で中実軸に形成される。軸部材2の外周面2aはストレートな円筒面に形成され、軸部材2の下端面2bは下方に向かって円弧状に突出した凸曲面に形成される。
軸受部材3は、電鋳部5と、電鋳部5をインサートして電鋳部5と一体に型成形された型成形部4とを備える。図示例の軸受部材3の内周面は、下側から順に、第1内周面3a、第2内周面3bおよび第3内周面3cに区画される。第1内周面3aの一部又は全部円筒状領域はラジアル軸受面として機能し、軸部材2と軸受部材3の相対回転時、軸部材2の外周面2aとの間に軸受隙間(ラジアル軸受隙間)8を形成する。また、第2内周面3bは軸部材2の外周面2aとの間に油溜り7を形成する。なお、実際の電鋳部5の厚みは、型成形部4の厚みに比して十分に小さいものであるが、理解の容易化のため、図示例では電鋳部5の厚みを誇張して描いている。
詳細は後述するが、電鋳部5は、成形母体となるマスター表面に目的の金属を析出させることによって形成することができ、その加工特性上、電鋳部5の内面は、マスター表面に倣った緻密面とすることができる。そのため、マスターの表面精度を十分に高めておけば、高精度な軸受面を有する軸受部材3が特段の後加工等を施すことなく、低コストに得られる。
シール部材6はリング状を呈し、軸受部材3の第3内周面3cに圧入、接着等の適宜の手段で固定される。シール部材6の内周面6aは、軸部材2の外周面2aとの間にシール空間Sを形成し、潤滑油9の油面(気液界面)は常にシール空間S内に保持される。本実施形態において、シール部材6の内周面6aは軸受内部側に向かって漸次縮径したテーパ面状に形成され、従ってシール空間Sは、軸受内部側に向かって漸次縮径したテーパ形状を呈する。
以上の構成からなる流体軸受装置1において、軸部材2と軸受部材3とが相対回転すると、軸部材2の外周面2aと軸受部材3の第1内周面3aとの間のラジアル軸受隙間8に潤滑油9の油膜が形成され、この油膜を介して軸部材2がラジアル方向に回転自在に支持される。同時に、軸部材2の下端面2bが軸受部材3の内底面(電鋳部5の内底面)3dで接触支持され、これにより軸部材2がスラスト方向に回転自在に支持される。本実施形態において、ラジアル軸受隙間8の上端は油溜り7に通じていることから、ラジアル軸受隙間8には潤滑油9が安定供給される。従って、ラジアル軸受隙間8内の潤滑油不足に起因した油膜切れを防止して、高い回転性能が維持される。
また、軸部材2と軸受部材3の相対回転時には、シール空間Sが、軸受内部側に向かって漸次縮径したテーパ形状を呈していることから、シール空間S内の潤滑油9は毛細管力による引き込み作用により、シール空間Sが狭くなる方向、すなわち軸受部材3の内部側に向けて引き込まれる。これにより、軸受部材3の内部からの潤滑油9の漏れ出しが効果的に防止される。
以上で説明した流体軸受装置1は、電鋳部5と、これをインサートして型成形された型成形部4とで構成された軸受部材3を用いたものであるが、軸受部材3は、樹脂あるいは金属の非多孔質(ソリッド)材で形成することも可能である。
また、上述した流体軸受装置1は、軸部材2の下端を軸受部材3の内底面3dで接触支持するものであるが、軸部材2の下端と、これに対向する軸受部材3の内底面との間に軸受隙間(スラスト軸受隙間)を形成し、このスラスト軸受隙間に生じる潤滑油9の動圧作用で軸部材2をスラスト方向に非接触支持するものとしても良い。また、ラジアル軸受隙間8を介して対向する軸受部材3の第1内周面3aあるいは軸部材2の外周面2aに動圧溝等の動圧発生部を設け、ラジアル軸受隙間8を満たす潤滑油9に動圧作用を発生させることで軸部材2をラジアル方向に非接触支持するものとしても良い。
次に、上記構成からなる流体軸受装置1の製造方法を図面に基づいて説明する。この流体軸受装置1は、個別に製作された各構成部材のうち、軸受部材3の内部空間に所定量、具体的には、1ml±10%(0.9ml〜1.1ml)の範囲内で潤滑油を供給した後、軸受部材3にシール部材6および軸部材2を組み付けることによって完成する。なお、以下では、軸受部材3の製造工程と、本発明の要旨である軸受部材3に対する給油工程とについて詳述する。
軸受部材3は、主に、(A)電鋳部5の成形母体となるマスターに電鋳部5を析出形成する電鋳加工工程、(B)電鋳部5を設けたマスターをインサートして型成形部4を電鋳部5と一体に型成形するインサート成形工程、および(C)マスターから電鋳部8を有する軸受部材7を分離する分離工程を順に経て製造される。
(A)電鋳加工工程
この工程では、まず、導電性材料、例えば焼入処理を施したステンレス鋼で中実軸状に形成されたマスター11のうち、電鋳部5の析出形成領域11aを除く表面領域にマスキング部12が形成される(図2(a)を参照)。なお、マスター11表面のうち、電鋳部5の析出形成領域11a(本実施形態では外周面の軸方向一部領域および一端面)の表面精度は、軸受面として機能する電鋳部5の内周面および内底面精度を直接左右するため、当該領域の表面精度は、軸受面に求められる精度に応じて高精度に仕上げられる。
次いで、マスキング部12が形成されたマスター11をNiやCu等の金属イオンを含んだ電解質溶液に浸漬させた後、マスター11に通電する。マスター11に通電すると、マスター11の析出形成領域11aに目的の金属が析出し、これにより所定形状の電鋳部5が析出形成領域11aに被着した電鋳部材13が形成される(図2(b)を参照)。なお、電着金属の種類は、求められる硬度、疲れ強さ等の物理的性質や、化学的性質に応じて適宜選択される。また、電鋳部5の厚みは、マスター11からの剥離性や耐久性等を考慮して、適当な厚み(例えば、10μm〜200μm程度)とされる。電鋳部5は、以上に述べた電解めっき(電気めっき)に準じた方法の他、無電解めっき(化学めっき)に準じた方法で形成することもできる。
(B)インサート成形工程
以上のようにして製作された電鋳部材13はインサート成形工程に移送され、型成形部4をインサート成形する成形型内にインサート部品として供給配置される。そして、詳細な図示は省略するが、インサート部品として成形型内に供給配置された電鋳部材13と一体に型成形部4を型成形し、電鋳部材13と型成形部4とが一体となった成形品を得る。型成形部4の形成材料としては、成形型内に供給配置される電鋳部5の形状精度を悪化させない材料、具体的には電鋳部5(電鋳金属)よりも低融点の材料であれば樹脂、金属の別を問わず使用可能である。なお、型成形部4の成形に使用可能な材料としては、液晶ポリマー(LCP)やポリフェニレンサルファイド(PPS)に代表される結晶性樹脂、あるいはポリフェニルサルフォン(PPSU)やポリエーテルサルフォン(PES)に代表される非晶性樹脂をベース樹脂とした溶融樹脂の他、マグネシウムやアルミニウム等の低融点金属が挙げられる。
(C)分離工程
上記のようにして成形された成形品は分離工程に移送され、電鋳部5および型成形部4が一体化した軸受部材3と、マスター11とに分離される。両者の分離は、例えば、マスター11あるいは軸受部材3(電鋳部5および型成形部4の何れか一方又は双方)に衝撃を加えて電鋳部5の内周面を若干量拡径させてマスター11の表面から電鋳部5を剥離させた後、軸受部材3(電鋳部5)の内周からマスター11を引き抜くことにより行われる。なお、電鋳部5の剥離は、上記手段以外にも、例えば電鋳部5とマスター11とを加熱又は冷却し、両者間に熱膨張量差を生じさせることによって、またあるいは両手段(衝撃と加熱)を併用することによって行うこともできる。
上述の如く形成された軸受部材3は給油工程に移送され、内部空間に対して上記範囲内で給油される。一方、分離されたマスター11は、繰り返し電鋳加工に用いることができる。
図3は、本発明に係る給油具21を示すもので、以上のようにして製造された軸受部材3に対する給油工程で使用するものである。同図に示す給油具21は、例えばステンレス鋼等の金属材料で中実軸(針)状に形成されたものであり、先端側から順に、表面で潤滑油9を保持する保持部22と、小径部23と、大径部24とを有する。保持部22と小径部23とは、先端側に向かって漸次拡径した拡径面(図示例は、先端側に向かって直線的に漸次拡径したテーパ面)25で接続され、小径部23と大径部24とは、先端側に向かって漸次縮径した縮径面(テーパ面)26で接続される。なお、保持部22と小径部23とを接続する拡径面25、および小径部23と大径部24とを接続する縮径面26の何れか一方又は双方は、曲線的に外径寸法を漸次変化させた円弧面で構成しても良い。
保持部22における潤滑油9の保持量を必要十分なものとすべく、この給油具21のうち、少なくとも保持部22の輪郭線は曲面で構成される。本実施形態では、図3にも示すように、保持部22を略半球形状に形成することでこれを満足している。もちろん保持部22の形状はこれに限定されるわけではなく、例えば図4(a)に示すような円柱状としても良いし、図4(b)に示すようなしずく形状としても良い。これらは、保持すべき潤滑油量やワーク(被給油部)の形状等に応じて任意に変更可能である。なお、保持部22を図4(b)に示すようなしずく形状とした場合、保持部22と小径部23とを繋ぐ面は、保持部22で一体的に構成される。
本実施形態において、保持部22は、当該部分で潤滑油9を保持したとき(当該部分に潤滑油9を付着させたとき)に、付着した潤滑油9の膜厚も含めて最大外径となる部分の外径寸法が、軸受部材3の第1内周面3aの内径寸法よりも小径となるように形成される(図5(c)を参照)。これは、給油具21を軸受部材3の内周に挿入する際に、保持部22で保持した所定量の潤滑油9が他の部位に接触等するのを防止するためである。
以上の構成からなる給油具21を用いての軸受部材3に対する給油作業は以下のようにして行われる。
まず、図5(a)に示すように、潤滑油9が充満された貯油槽内に大径部24が浸かる程度まで給油具21を浸漬させた後、給油具21を引き上げる(ディッピング)。給油具21を引き上げると、小径部23と、小径部23に繋がった拡径面25および縮径面26とに付着した潤滑油9は、その自重によって給油具21の表面に沿って下方に流動し、保持部22に付着した潤滑油9と重なり合う。保持部22で重なり合った潤滑油9のうち、保持部22における潤滑油9の表面張力を超える分の潤滑油9は落下する結果、保持部22には一定量の潤滑油9が保持される。一方、大径部24に付着した潤滑油9のうち、その表面張力を超える分の潤滑油9は落下し、その結果大径部24にも所定量の潤滑油9が保持されるが、大径部24に保持された潤滑油9の下方への流動は、その表面張力によって阻止される(以上、図5(b)を参照)。
そして、給油具21の保持部22で保持した潤滑油9を軸受部材3の内部空間に供給する。軸受部材3に対する潤滑油9の供給は、図5(c)に示すように、給油具21の先端部分を軸受部材3の内周に挿入し、保持部22に付着した(保持部22で保持された)潤滑油9を軸受部材3の第1内周面3aに接触させ、保持部22に付着した潤滑油9の表面張力を破壊することにより行う。このようにして軸受部材3の内部空間に潤滑油9を供給した後、給油具21を軸受部材3の内周から引き抜く。
以上のようにして潤滑油9が内部空間に供給された軸受部材3は組立工程に移送される。この工程では、軸受部材3の第3内周面3a3に別途製作したシール部材6が固定されると共に、第1内周面3a1の内周に別途製作した軸部材2が挿入される。これにより、図1に示す流体軸受装置1が完成する(以上、図5(d)を参照)。なお、軸受部材3の内周に挿入する軸部材2は、上記のように別途製作したものとする他、電鋳加工で用いたマスター11としても良い。この場合、図2に示すマスター11のように、両端面を平坦面としたものではなく、一端を凸球状としたマスター11を製作し、この側にマスキング部12を形成すれば、当該マスター11を用いて図1に示す流体軸受装置1を構築することができる。
一方、潤滑油9供給後、軸受部材3の内周から引き抜かれた給油具21の保持部22には、図5(e)に示すように、若干量の潤滑油9が残存する。作業環境下における温度条件等を一定に保っている限りにおいて、保持部22で保持し得る潤滑油9の量、さらに言えば軸受部材3に供給される潤滑油9の量は常に一定となる。そのため、この給油具21を繰り返し給油作業に供しても特段の問題はないが、必要に応じて保持部22に残存した潤滑油9を完全に除去するようにしても良い。保持部22に残存した潤滑油9の除去は、例えば、給油具21に振動を付加することにより、またあるいは保持部22に残存した潤滑油9にエアーを吹き付けることにより行うことができる。
以上に示すように、流体軸受装置の内部空間に充満される潤滑油量が基準値(ここでは1ml)±10%以内に管理されていれば、軸受部材3が、油量調整機能を具備しない非多孔質体である電鋳部5と、これをインサートして型成形された同じく非多孔質体である型成形部4とで構成されたものであっても、所期の軸受性能を安定的に維持することができる。
また、以上に示す構成の給油具21では、その表面に付着させた潤滑油9は、その自重によって先端側に位置する保持部22に向かって流動し、流動した潤滑油9は表面張力によって保持部22で所定量保持される。特に、保持部22とこれに隣接した小径部23とを、先端側に向かって漸次拡径したテーパ面25で接続したので、小径部23に付着した潤滑油9を先端側に滑らかに流動させることができ、保持油量をより精度良く管理することができる。そのため、保持部22の表面積を保持すべき潤滑油量に応じたもの(ここでは1ml)とし、かつ作業環境下における温度条件等を一定に管理しておけば、保持部22で常時一定量の潤滑油9を保持することができ、軸受部材3に対して常時一定量の潤滑油を供給することができる。従い、上記のように供給すべき潤滑油量の基準値が1mlとされ、かつ潤滑油量を基準値±10%の範囲内に管理する必要がある軸受部材3に対しても、所定量の潤滑油9の給油を一度の給油作業で完了することができる。
また本発明に係る給油具21は、少なくとも先端が閉塞した軸状(本実施形態では中実軸状)に形成されることから、マイクロピペットのように目詰まりが生じることはなく、所定量の潤滑油9を軸受部材3に対して安定供給することができる。また、保持部22に残存した潤滑油9の除去作業もマイクロピペットに比して簡便に行い得る。さらに、本発明に係る給油具21は、油量管理のためのその他の手段(シリンジやプランジャ)が不要であるから、装置の全体構成を簡素化することができる。
以上では、軸受部材3に給油した後、シール部材6および軸部材2を軸受部材3に組み付けるようにしたが、軸受部材3にシール部材6を組み付けた後に上記給油具21を用いて給油し、その後軸部材2を軸受部材3に挿入するようにしても良い。この場合には、図6に示すように、給油具21のうち、表面に潤滑油9が付着していない領域、すなわち小径部23の近傍領域がシール部材6の内周面6aと対向する位置に配設されるように、給油具21の各部の軸方向寸法を調整するのが望ましい。
以上、本発明に係る給油具21、およびこれを用いた軸受部材3に対する給油方法について説明を行ったが、給油具21には更なる工夫を施すことが可能である。
図7は、本発明の他の実施形態に係る給油具21を概念的に示すものである。同図に示す給油具21が図3に示すものと異なる主な点は、小径部23およびその軸方向周辺領域に表面張力低減処理として、全周に亘って撥油被膜27を形成した点にある。このような構成とすれば、給油具21の保持部22表面に潤滑油9を付着させる工程を経た後、小径部23およびその近傍に潤滑油9が残存するような事態を一層効果的に防止することができる。そのため、保持部22における潤滑油9の保持量を一層高精度に管理することが可能となる。
なお、撥油被膜27は、例えばフッ素系の撥油剤、あるいはシリコーン系の撥油剤を用いて形成することができ、以下使用可能なフッ素系の撥油剤を例示する。
(1)ポリフルオロアルキル基含有の単量体(以下、フッ素系単量体)と、他の共重合可能な炭化水素系単量体(以下、炭化水素系単量体)とをランダム共重合した組成物からなる撥水撥油剤であって、フッ素系単量体とステアリル(メタ)アクリレートのような長鎖アルキル基含有(メタ)アクリレートとの共重合体からなる撥油剤。
(2)炭化水素系重合体を幹成分とし、これにフッ素系重合体を枝成分としてグラフト結合させたグラフト共重合体からなる撥油剤。
(3)フッ素系単量体と、これと共重合可能な特定の単量体とをランダム共重合した撥油剤。
(4)ポリフルオロアルキル基含有化合物と特定の転移温度を有する水不溶性付加重合体との混合物からなる撥油剤。
(5)フッ素系単量体と、これと共重合可能であり、且つフッ素を含有しないマクロモノマーを共重合させて得られるフッ素系グラフト共重合体を有効成分とする撥油剤。
(6)沸点が0°〜150°で炭素原子数が2〜3のハイドロクロロフルオロカーボン、及び炭素原子数が4〜6でフッ素原子数が4以上のハイドロフルオロカーボンよりなる群から少なくとも1種ずつ選ばれた化合物を5mass%以上含む重合溶媒中で、少なくともポリフルオロアルキル基を有するモノマーを含む重合可能なモノマー成分を溶液重合された撥油剤組成物。
以上では、流体軸受装置1の軸受部材3に給油する際に用いる給油具21に本発明の構成を適用した場合について説明を行ったが、これはあくまでも一例であり、本発明に係る給油具21およびこれを用いた給油方法は、他の高精度な油量管理が求められる機械部品(ワーク)に対して給油する際に用いることも可能である。
本発明に係る流体軸受装置の一例を概念的に示す断面図である。 (a)図は軸受部材を構成する電鋳部の成形母体となるマスターにマスキング部を形成した状態を示す斜視図、(b)図は電鋳部が析出形成されたマスターを概念的に示す斜視図である。 本発明の一実施形態に係る給油具を概念的に示す図である。 (a)図および(b)図共に、給油具の他の構成例の要部を概念的に示すものである。 (a)図は給油具を貯油槽に浸漬した段階を示す図、(b)図は給油具を貯油槽から引き上げた段階を示す図、(c)図は(b)図に示す給油具を用いて軸受部材に給油を行う直前段階を示す図、(d)図は給油後の軸受部材に他部材を組み付ける段階を示す図、(e)図は給油完了後の給油具を概念的に示す図である。 軸受部材に対する給油工程の他の手順を概念的に示す断面図である。 本発明の他の実施形態に係る給油具を概念的に示す図である。
符号の説明
1 軸受装置(流体軸受装置)
2 軸部材
3 軸受部材
4 型成形部
5 電鋳部
6 シール部材
9 潤滑油
21 給油具
22 保持部
23 小径部
24 大径部
25 拡径面
26 縮径面
27 撥油被膜

Claims (12)

  1. 軸部材と、内周に軸部材が挿入され、軸部材との間に軸受隙間を形成する軸受面を有する軸受部材と、軸受隙間を満たす潤滑油とを備え、軸受部材が非多孔質体で形成された流体軸受装置において、
    潤滑油量が、基準値±10%以内に管理されていることを特徴とする流体軸受装置。
  2. 軸受部材が、軸受面を有する電鋳部と、電鋳部をインサートして型成形された型成形部とを有する請求項1記載の流体軸受装置。
  3. 潤滑油量の基準値が1ml以下の値に設定された請求項1記載の流体軸受装置。
  4. ワークに対して供給する所定量の潤滑油を保持する保持部を有する給油具であって、
    少なくとも先端が閉塞した軸状をなし、その先端表面で保持部が構成されると共に、保持部の基端側に隣接して保持部よりも外径寸法が小径の小径部を有することを特徴とする給油具。
  5. 保持部と小径部とが、先端側に向かって漸次拡径した拡径面で接続された請求項4記載の給油具。
  6. さらに、小径部の基端側に外径寸法が小径部よりも大径の大径部が設けられ、小径部と大径部とが、先端側に向かって漸次縮径した縮径面で接続された請求項4又は5に記載の給油具。
  7. 少なくとも保持部の輪郭線が曲面で構成された請求項4記載の給油具。
  8. 小径部に、表面張力低減処理が施された請求項4記載の給油具。
  9. 小径部に撥油被膜が形成された請求項8記載の給油具。
  10. 給油具を用いてワークに対して所定量の潤滑油を供給するための方法において、
    給油具は、少なくとも先端が閉塞した軸状をなし、その先端表面で供給すべき潤滑油を保持する保持部が構成されると共に、保持部の基端側に隣接して保持部よりも外径寸法が小径の小径部を有するものであって、
    保持部に潤滑油を付着させる工程と、保持部に付着した潤滑油をワークに供給する工程とを含む給油方法。
  11. ディッピングにより、保持部に潤滑油を付着させる請求項10記載の給油方法。
  12. 保持部に付着した潤滑油をワークに接触させることにより、ワークに潤滑油を供給する請求項10記載の給油方法。
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