JP2010083808A - 新規ペプチド誘導体を含む造血系細胞増殖促進剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】血小板減少症治療などに有用な、トロンボポエチン様生理活性を有する新規の造血系細胞増殖促進剤を提供する。
【解決手段】下記のアミノ酸配列からなるペプチド、及び前記ペプチドを含む造血系細胞増殖促進剤。並びに、金属及び該金属粒子に結合した前記ペプチドを含む造血系細胞増殖促進剤、並びにこれらを含む医薬。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1)
【効果】本発明の造血系細胞増殖促進剤は、安全で副作用がなく、かつトロンボポエチンに匹敵する造血系細胞増殖促進活性を持つ。
【選択図】図2
【解決手段】下記のアミノ酸配列からなるペプチド、及び前記ペプチドを含む造血系細胞増殖促進剤。並びに、金属及び該金属粒子に結合した前記ペプチドを含む造血系細胞増殖促進剤、並びにこれらを含む医薬。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1)
【効果】本発明の造血系細胞増殖促進剤は、安全で副作用がなく、かつトロンボポエチンに匹敵する造血系細胞増殖促進活性を持つ。
【選択図】図2
Description
本発明はトロンボポエチン様の生理活性を有する新規ペプチド誘導体を含む造血系細胞増殖促進剤、及びそれを有効成分とする医薬に関する。本発明はまた、金属及び該金属に結合した新規ペプチド誘導体を含む造血系細胞増殖促進剤、並びにこれらを含む医薬に関する。
トロンボポエチン(TPO)は、血小板産生における主要な生理的調節因子である。TPOは、造血幹細胞に作用するサイトカインの一種で、巨核球系前駆細胞から成熟巨核球に至る広範囲な巨核球産生に作用し、巨核球の成長及び巨核球からの血小板の産生を刺激する(非特許文献1)。したがって、TPOは血小板減少症の治療薬として期待され、これまで種々の開発が進められている。
ヒトTPOは、肝臓にて353アミノ酸残基の前駆タンパク質として合成された後、21アミノ酸のシグナルペプチドが切断されて成熟タンパク質となる。その成熟分子は、赤血球の産出を調節する液性因子であるエリスロポエチンと類似しており、エリスロポエチンと相同性の高い2つのドメインと、タンパク質の安定性に重要な高度にグリコシル化されたカルボキシ末端より構成される332アミノ酸の糖タンパクである(非特許文献2)。
ヒトTPOは、肝臓にて353アミノ酸残基の前駆タンパク質として合成された後、21アミノ酸のシグナルペプチドが切断されて成熟タンパク質となる。その成熟分子は、赤血球の産出を調節する液性因子であるエリスロポエチンと類似しており、エリスロポエチンと相同性の高い2つのドメインと、タンパク質の安定性に重要な高度にグリコシル化されたカルボキシ末端より構成される332アミノ酸の糖タンパクである(非特許文献2)。
ヒトTPOの標的である、ヒトトロンボポエチン受容体(c−mpl又はTPO受容体、以下、TPO受容体という)は、クラスIサイトカインレセプターファミリーの一員で、膜貫通領域付近にWSxWSモチーフ(Trp-Ser-X-Trp-Ser配列)を持つこと、及びN末端サブドメインに4つの保存されたシステイン残基を含むことを特徴とする。またエリスロポエチン受容体との類似性から、TPO受容体はホモ二量体を形成していることが示唆される。TPO受容体は、ヒトでは巨核球、血小板、及びCD34+細胞でのみ発現する。
TPO受容体を持つ造血系細胞内では、TPO受容体にTPO若しくはTPO受容体親和性のリガンドが結合すると、細胞内シグナルカスケードであるJAK/STAT系へと情報伝達される。一般に、TPO受容体を含むクラスIサイトカイン受容体では、受容体にリガンドが結合すると、受容体の二量体化が誘導され、受容体に構造的に結合しているJanus Kinase(JAK)と呼ばれるチロシンキナーゼが活性化される。それにより受容体の特定の部位のチロシン残基のリン酸化が起こり、転写因子STATが結合できるようになる。次に、この転写因子STATがJAKによりリン酸化されて活性型となり、受容体から離れてSTAT二量体を形成し、核へと移行して、細胞の発生・分化・成長に関わる多数の遺伝子の転写を促す。TPO受容体をもつ造血系細胞においては、JAK2、並びにSTAT5a/5bが関与しており、これらの細胞内情報伝達因子が、巨核球の分化に必要な遺伝子の発現を誘導し、巨核球の成長及び巨核球からの血小板の産生を刺激する(免疫学イラストマップ、羊土社、2004年、p.124〜130)。
血小板は、生体の止血、血栓形成において主要な役割を果たす血液有形成分であり、骨髄幹細胞から巨核球前駆細胞を経て骨髄で分化、成熟して生じる巨核球から血中に放出される。ヒト成人血液中では、15万〜35万(個/μL)、平均25万(個/μL)存在する。血小板の血中での寿命は約8〜10日程であり、その数は常におよそ一定の値に保たれている。
何らかの原因で血小板が減少し、出血傾向をきたした症状のうち、血小板数が10万(個/μL)以下になったものを血小板減少症として扱う。血小板数が4万(個/μL)以下になると出血傾向が出現し、2〜3万(個/μL)以下に減少すると比較的小さな傷からも出血を起こしやすくなる。更に2万(個/μL)以下になると血小板輸血が必要となり、1万(個/μL)以下では非常に危険な状態になり、傷がなくても出血し、脳内出血や臓器出血を起こすので、すぐに血小板輸血を行う必要がある(医学大辞典、第18版、南山堂、1998年、p.588−591)。
このような血小板減少症の治療方法としては、現在のところ、血小板の大量輸血による治療が効果的であり、血小板製剤などが使用されている。これに対し、仮に、造血系細胞増殖促進剤を患者血液中に直接投与することにより、患者自身の血小板数を有意に快復できれば、血小板減少症のより効果的な治療法となりうる。そのため、これまでに2種類の組換えTPOが大規模な臨床試験に用いられたが、副作用などの理由から実用化には至らなかった(後述)。
このような経緯から、TPO受容体を介した造血系細胞増殖促進活性を有する、TPOに替わるTPO受容体親和性リガンドの研究が急務となっている。
何らかの原因で血小板が減少し、出血傾向をきたした症状のうち、血小板数が10万(個/μL)以下になったものを血小板減少症として扱う。血小板数が4万(個/μL)以下になると出血傾向が出現し、2〜3万(個/μL)以下に減少すると比較的小さな傷からも出血を起こしやすくなる。更に2万(個/μL)以下になると血小板輸血が必要となり、1万(個/μL)以下では非常に危険な状態になり、傷がなくても出血し、脳内出血や臓器出血を起こすので、すぐに血小板輸血を行う必要がある(医学大辞典、第18版、南山堂、1998年、p.588−591)。
このような血小板減少症の治療方法としては、現在のところ、血小板の大量輸血による治療が効果的であり、血小板製剤などが使用されている。これに対し、仮に、造血系細胞増殖促進剤を患者血液中に直接投与することにより、患者自身の血小板数を有意に快復できれば、血小板減少症のより効果的な治療法となりうる。そのため、これまでに2種類の組換えTPOが大規模な臨床試験に用いられたが、副作用などの理由から実用化には至らなかった(後述)。
このような経緯から、TPO受容体を介した造血系細胞増殖促進活性を有する、TPOに替わるTPO受容体親和性リガンドの研究が急務となっている。
TPO受容体に親和性を示すリガンドは、本来のTPO以外にも多数存在し、ペプチド性TPO受容体リガンドの例に加え、非タンパク性リガンドの例として、ベンゾジアゼピン誘導体や、他の低分子系TPO受容体リガンドなどが含まれている。いずれも造血系細胞に対し、TPO受容体を介して造血系細胞増殖促進活性をもたらすことが期待される。
このうち、非ペプチド性TPO受容体親和性リガンドについては、TPO活性をもつ経口薬としての開発が期待されている。とりわけ、Sakai達によって発見されたキサントシリンは、もともと抗菌作用を持つ生理活性物質として知られていたが、抗菌作用を示す濃度の1000分の1の濃度でTPO様作用を示すことがわかり、今後、造血系細胞増殖促進剤の候補分子となりうる(非特許文献5)。
このうち、非ペプチド性TPO受容体親和性リガンドについては、TPO活性をもつ経口薬としての開発が期待されている。とりわけ、Sakai達によって発見されたキサントシリンは、もともと抗菌作用を持つ生理活性物質として知られていたが、抗菌作用を示す濃度の1000分の1の濃度でTPO様作用を示すことがわかり、今後、造血系細胞増殖促進剤の候補分子となりうる(非特許文献5)。
一方TPO若しくはTPOに類似する作用を持つペプチド性のTPO受容体親和性リガンドは、仮に経口投与すれば、胃腸消化器官系にて加水分解されるため、皮内投与、皮下投与、静脈注射などの方法による投与になる。しかしながら、TPO活性を持つペプチド性医薬は、以下に詳しく述べるように、これまでの先行研究から、重篤な副作用が生じることが報告され、実用化にはいたっていない。
これまでに、2種類の組換えTPOが大規模な臨床試験に用いられた。1つは、天然のTPOと同じアミノ酸配列を有するグリコシル化分子である組換えヒトTPO(rHuTPO)であり、もう1つは、天然のTPOの生物活性ドメインに相当する1−163アミノ酸を含む非グリコシル化分子であるポリエチレングリコール(PEG)結合組換えヒト巨核球成長及び発達因子(PEG−rHuMGDF)である(非特許文献1−3)。
ところが臨床研究から、PEG−rHuMGDFは、ヒトに投与すると、逆に血小板減少症を引き起こす例があることが報告された(特許文献1)。すなわちPEG−rHuMGDF導入により、ヒト体内にて内生のTPOと交差反応する中和抗体が誘導され、その結果、健常人の4%、集中的な化学療法を受けた癌患者の0.6%にて、血小板減少症を誘発することが判明した(非特許文献3)。
この問題を回避するため、液性免疫応答及び細胞性免疫応答を引き起こすエピトープを特定する研究が行われている(特許文献1)。すでに数種のエピトープが特定されており、当該エピトープ部位を認識する抗体の有無を患者血漿において調べる方法により、TPO投与の危険性の判断が行われている(特許文献1)。しかしこの方法でも、液性及び細胞性免疫応答による血小板減少症誘発の危険性はおそらく100%回避できるものではない。
ところが臨床研究から、PEG−rHuMGDFは、ヒトに投与すると、逆に血小板減少症を引き起こす例があることが報告された(特許文献1)。すなわちPEG−rHuMGDF導入により、ヒト体内にて内生のTPOと交差反応する中和抗体が誘導され、その結果、健常人の4%、集中的な化学療法を受けた癌患者の0.6%にて、血小板減少症を誘発することが判明した(非特許文献3)。
この問題を回避するため、液性免疫応答及び細胞性免疫応答を引き起こすエピトープを特定する研究が行われている(特許文献1)。すでに数種のエピトープが特定されており、当該エピトープ部位を認識する抗体の有無を患者血漿において調べる方法により、TPO投与の危険性の判断が行われている(特許文献1)。しかしこの方法でも、液性及び細胞性免疫応答による血小板減少症誘発の危険性はおそらく100%回避できるものではない。
このような経緯から、上記の免疫応答による血小板減少症の誘発という副作用がなく、なおも高いTPO活性を有するペプチド性医薬が切望されており、関連研究が多数行われている。
Cwrirla達は、ランダムペプチドライブラリーからのスクリーニングにより、高いTPO受容体感受性を示す14残基のポリペプチド配列を得たと報告した。AF12505配列と名づけられたこのポリペプチド配列は、本来のTPO一次構造には存在しない人工配列であり、単量体ではTPOの約10000分の1の活性であるが、化学合成により、二つのAF12505ペプチドのC末端を、βアラニンで修飾したリシンのαアミノ基とεアミノ基で繋ぎ、リシンのα炭素に対して偽対称な共有結合性二量体ペプチド(AF13948)を作成すると、rhTPOにかなり近い活性を持つに至った。
しかし残念ながら、この二量体ペプチド(AF13948)の合成は容易とはいえず、簡便に合成可能なTPOミミックペプチドの更なる探索が続けられている(非特許文献4、特許文献2)。
特開2006-232697号公報
特許第3059218号公報
Kaushansky K. Thrombopoietin. N Engl J Med 1998; 339:746−754.
Kuter DJ, and Begley−CG. Recombinant human thrombopoietin: basic biology and evaluation of−Clinical studies. Blood 2002; 100:3457−3469.
Kuter DJ. Future directions with platelet growth factors. Semin Hematol 2,000; 37:41−49.
S.E.−Cwrirla, et al., Science, 276, 1696−1699, 1997.
Sakai, R., Nakamura, T., Nishino, T., Yamamoto, M., Miyamura, A., Miyamoto, H., Ishiwata, N., Komatsu, N., Kamiya, H., and Tsuruzoe, N.: Xanthocillins as thrombopoietin mimic small molecules. Bioorg. Med. Chem., 13, 6388-6393 (2005).
Cwrirla達は、ランダムペプチドライブラリーからのスクリーニングにより、高いTPO受容体感受性を示す14残基のポリペプチド配列を得たと報告した。AF12505配列と名づけられたこのポリペプチド配列は、本来のTPO一次構造には存在しない人工配列であり、単量体ではTPOの約10000分の1の活性であるが、化学合成により、二つのAF12505ペプチドのC末端を、βアラニンで修飾したリシンのαアミノ基とεアミノ基で繋ぎ、リシンのα炭素に対して偽対称な共有結合性二量体ペプチド(AF13948)を作成すると、rhTPOにかなり近い活性を持つに至った。
しかし残念ながら、この二量体ペプチド(AF13948)の合成は容易とはいえず、簡便に合成可能なTPOミミックペプチドの更なる探索が続けられている(非特許文献4、特許文献2)。
本発明が解決しようとする課題は、組換えトロンボポエチンと同等の造血系細胞増殖促進活性を有し、血小板減少症などの治療や輸血製剤として有用であり、簡単に合成可能な新規なペプチド、及びこれを含む医薬を提供することにある。
このような課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、非特許文献4に開示されているTPO誘導体人工ペプチド(AF12505、本文献ではTPO−P)のC末端にシステイン残基を付加した配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下「TPO−P−Cys」又は「本発明のペプチド」)、及び、該ペプチドと金属原子の結合物が、造血系細胞に対して顕著な増殖促進効果を有することを見出し、これが血小板減少症などの治療のための医薬等として使用しうることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は:
(1)下記のアミノ酸配列、又は下記のアミノ酸配列において、末端Cysを除く1又は2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなるペプチドを含む、造血系細胞増殖促進剤。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1);
(2)ペプチドが金属粒子と結合したペプチドである、上記(1)に記載の造血系細胞増殖促進剤;
(3)金属粒子が金粒子である、上記(2)に記載の造血系細胞増殖促進剤;
(4)造血系細胞増殖促進活性が、トロンボポエチン受容体、若しくはc−Mplを介し、トロンボポエチン受容体、若しくはc−Mplに親和性であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の造血系細胞増殖促進剤;
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の造血系細胞増殖促進剤を有効成分として含む医薬;
(6)血小板減少症の治療用である、上記(5)に記載の医薬;
(7)血小板減少症が化学療法、放射線照射、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植に伴って生じる疾患である、上記(6)に記載の医薬;
(8)化学療法、放射線療法、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植による治療処置に伴い血小板減少症の危険がある患者、又は、血小板ドナー、骨髄移植ドナー若しくは末梢血幹細胞移植ドナー等の造血幹細胞移植ドナーとなる者に対して、当該処置を受ける前に、血小板減少症の予防処置として使用される、上記(5)に記載の医薬;
(9)生体のトロンボポエチン応答性細胞、又は、生体から採取した若しくは培養により作成されたトロンボポエチン応答性細胞に対して、インビボ又はインビトロにて使用される、上記(5)に記載の医薬;
(10)トロンボポエチン受容体発現細胞、若しくはc−Mpl発現細胞、又はCD34+細胞に対して、インビボ又はインビトロにて使用される、上記(5)に記載の医薬;並びに
(11)下記のアミノ酸配列、又は下記のアミノ酸配列において、末端Cysを除く1又は2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなるペプチド。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1);
を提供する。
(1)下記のアミノ酸配列、又は下記のアミノ酸配列において、末端Cysを除く1又は2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなるペプチドを含む、造血系細胞増殖促進剤。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1);
(2)ペプチドが金属粒子と結合したペプチドである、上記(1)に記載の造血系細胞増殖促進剤;
(3)金属粒子が金粒子である、上記(2)に記載の造血系細胞増殖促進剤;
(4)造血系細胞増殖促進活性が、トロンボポエチン受容体、若しくはc−Mplを介し、トロンボポエチン受容体、若しくはc−Mplに親和性であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の造血系細胞増殖促進剤;
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の造血系細胞増殖促進剤を有効成分として含む医薬;
(6)血小板減少症の治療用である、上記(5)に記載の医薬;
(7)血小板減少症が化学療法、放射線照射、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植に伴って生じる疾患である、上記(6)に記載の医薬;
(8)化学療法、放射線療法、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植による治療処置に伴い血小板減少症の危険がある患者、又は、血小板ドナー、骨髄移植ドナー若しくは末梢血幹細胞移植ドナー等の造血幹細胞移植ドナーとなる者に対して、当該処置を受ける前に、血小板減少症の予防処置として使用される、上記(5)に記載の医薬;
(9)生体のトロンボポエチン応答性細胞、又は、生体から採取した若しくは培養により作成されたトロンボポエチン応答性細胞に対して、インビボ又はインビトロにて使用される、上記(5)に記載の医薬;
(10)トロンボポエチン受容体発現細胞、若しくはc−Mpl発現細胞、又はCD34+細胞に対して、インビボ又はインビトロにて使用される、上記(5)に記載の医薬;並びに
(11)下記のアミノ酸配列、又は下記のアミノ酸配列において、末端Cysを除く1又は2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなるペプチド。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1);
を提供する。
本発明の新規なペプチドは、これまで報告されている既知のペプチドよりも造血系細胞増殖促進活性がはるかに高く、組換えトロンボポエチンと同等の水準を示し、なおかつ、免疫応答を引き起こす危険性が実質的にないため、造血系細胞増殖促進剤や血小板減少症治療の為の臨床医薬、若しくは予防医薬、又は輸血製剤に加えて使用することができる。またアミノ酸15残基程度の短いペプチドであるため、複雑な手法は要さず、化学的手法により容易に製造することができる。
本発明の効果について、更に詳述する。
本発明の効果について、更に詳述する。
従来、ペプチド活性すなわち造血系細胞増殖促進活性をいかに高めるかが課題であったが、本発明による方法では、公知ペプチドのC末端にシステイン残基を付加することにより、ペプチド活性を増強させ、更に金属粒子上への固定による当該ペプチドのマルチバレント化により、ペプチド活性のさらなる増強を実現させた。これまでにも、二量体ペプチドが単量体ペプチドよりも高いペプチド活性を示すという結果報告があり(非特許文献4、特許文献2)、当該結果はTPO受容体の構造からも裏づけられることであるが、本発明では、更に、当該ペプチドの金属粒子上への固定によるマルチバレント化の結果、当該ペプチドの容易な多量体化と、それに伴うペプチド活性の増強を、同時に実現させた。
本発明のペプチド、及び金属粒子に固定された本発明のペプチドは、上記の利点に加えて、いかなる免疫応答も引き起こさないことを特徴とする。前述の通り、健常人にTPOを投与すると、かえって血小板減少症が生じ、重症な場合には血小板輸血が必要となる場合があることが、これまでに報告されていたが(特許文献1)、本発明のペプチドは、化学合成され、造血系細胞増殖促進剤として患者に投与された際には、いかなる液性免疫応答若しくは細胞性免疫応答も引き起こすことがなく、したがって中和抗体の生成により逆に血小板減少症が起こる心配はないと予想される。なぜなら、本発明のペプチドはそもそも本来のTPOの一次構造には含まれない人工配列であり、免疫応答を引き起こす可能性のあるエピトープ部位も一切含まれていないからである。
このように、本発明のペプチドを有効成分とする造血系細胞増殖促進剤は、これまでとくらべ格段に容易な方法で合成することができ、かつ、患者に投与された際には、安全で副作用がなく、それでいて組み替え法によるrhTPOにほぼ匹敵する造血系細胞増殖促進剤となりうる。
このように、本発明のペプチドを有効成分とする造血系細胞増殖促進剤は、これまでとくらべ格段に容易な方法で合成することができ、かつ、患者に投与された際には、安全で副作用がなく、それでいて組み替え法によるrhTPOにほぼ匹敵する造血系細胞増殖促進剤となりうる。
本発明のペプチドは、以下の15残基からなるアミノ酸配列、又は末端Cysを除く1〜2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなる。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1)
上記配列で、左側末端はアミノ末端(N末端)、右側末端はカルボキシル末端(C末端)を表す。アミノ酸残基は、L−アミノ酸残基又はD−アミノ酸残基を示すが、L−アミノ酸残基であることが好ましい。本発明のペプチドは、C末端にシステイン残基を持つことを特徴とする。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1)
上記配列で、左側末端はアミノ末端(N末端)、右側末端はカルボキシル末端(C末端)を表す。アミノ酸残基は、L−アミノ酸残基又はD−アミノ酸残基を示すが、L−アミノ酸残基であることが好ましい。本発明のペプチドは、C末端にシステイン残基を持つことを特徴とする。
本発明のペプチドは、通常のペプチド合成により調製することができる。具体的方法として、例えば、Peptide Synthesis, Interscience、ニューヨーク、1966年; The Proteins, 第12巻、Academic Press Inc、New York、1976年;ペプチド合成、丸善(株)、1975年;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)、1985年;医薬品の開発続、第十四巻、ペプチド合成、広川書店、1991年、などに記載されている方法が挙げられる。
造血系細胞増殖促進活性を更に高めるため、本発明のペプチドは金属粒子上に固定化されてもよい。ここで、金属粒子としては、細胞増殖に有害でないものであれば如何なるものでもよいが、チオール基がそのまま固定化に使える上では、金粒子、銀粒子、白金粒子などの貴金属粒子、若しくは金被覆粒子、他に、無機粒子としてハイドロキシアパタイト、有機粒子としてポリスチレン粒子、ポリメタクリレート粒子などが好ましく、この中で、金粒子がより好ましい。金属粒子の粒径は細胞と同程度あるいは、それ以下の範囲が好ましく、具体的には平均粒径として0.05〜20μm程度、好ましくは0.1〜10μm程度である。
本発明のペプチドを金属粒子上に固定化する方法は特に制限されないが、簡易的には金属粒子コロイド溶液に本発明のペプチドを溶解して懸濁する方法が挙げられる。末端のシステインのチオール基を介して金属に固定化される。
本発明のペプチドを金属粒子上に固定化する方法は特に制限されないが、簡易的には金属粒子コロイド溶液に本発明のペプチドを溶解して懸濁する方法が挙げられる。末端のシステインのチオール基を介して金属に固定化される。
本発明のペプチドの金属粒子上への固定の工程では、C末端のシステイン残基が側鎖のチオール基を介して金属粒子と結合することを、極めて大きな特徴としている。そのため、C末端のシステイン残基の側鎖のチオール基によって金属粒子に結合しているポリペプチドであって、本発明のペプチドのアミノ酸配列、又はC末端システインを除く1〜2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなるペプチドも、本発明のペプチドに含まれる。同様に、C末端のシステイン残基の側鎖のチオール基によって金属粒子に結合しているポリペプチドであって、本発明のペプチドのアミノ酸配列を、C末端側の部分配列として含むペプチドも、本発明のペプチドに含まれる。
本発明のペプチドは、二つのペプチド間でC末端システイン残基の側鎖のチオール基を介してジスルフィド結合することにより、二量体が形成されることがあると推定される。本発明のペプチドの、公知ペプチドに対する有意なペプチド活性上昇を、当該ポリペプチドの二量体形成を推定することにより、説明することが可能である。
本発明のペプチドは造血系細胞増殖促進活性を有するため、骨髄細胞などの造血系細胞に対する増殖促進剤として使用することができる。骨髄細胞などの造血系細胞はTPO受容体を発現しており、該受容体を介して本発明のペプチドが細胞増殖作用を発揮する。ここで、本発明の実施例中での、TPO様活性を持つポリペプチドの「ペプチド活性」とは、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて、TPO受容体を介して、造血系細胞に対し、造血系細胞増殖促進活性、すなわち巨核球前駆細胞の増殖及び分化を促進する活性のことを指す。本発明の実施例の当該ペプチド活性は、後述するMTTアッセイにより測定することができる。
本発明のペプチド又は金属粒子に固定化されたペプチドは単独で使用してもよいが、希釈剤、安定剤、保存剤、緩衝剤等の薬学的に許容され得るキャリアと組合わせて配合してもよい。
本発明のペプチド又は金属粒子に固定化されたペプチドは、骨髄細胞において血小板を産生する巨核球の増殖及び巨核球からの血小板の産生を刺激するため、血小板減少症などの治療のための医薬の有効成分とすることができる。
また、本発明のペプチド又は金属粒子に固定化されたペプチドは、輸血製剤に加えて使用することができる。
また、本発明のペプチド又は金属粒子に固定化されたペプチドは、輸血製剤に加えて使用することができる。
また本発明のペプチド又は金属粒子に固定化されたペプチドは、移植用に骨髄細胞などの造血系細胞を調製する目的で使用することができる。例えば、生体から単離された骨髄細胞などの造血系細胞に対し、生体外において、本発明のペプチド又は金属粒子に固定化された本発明のペプチドを添加して、造血系細胞を増殖させ、移植医療用の造血系細胞を調製するような目的に使用することができる。
本発明の方法による造血系細胞増殖促進剤の投与方法としては、皮内投与、皮下投与又は静脈注射等が挙げられる。投与量は、処置対象の疾患の状態、個々の患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、医薬中の本発明のペプチドの量として通常0.0001mg〜1000mg、好ましくは0.0001mg〜100mg、より好ましくは0.001mg〜10mgの範囲内で投与量を変化させ、毎日、数日、数週又は数ヶ月に1回の投与を継続することが好ましい。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されることはない。
TPO様活性ポリペプチドによるTPO依存性細胞増殖活性の検討
材料:
細胞:FDCP−hMpl5(麒麟麦酒株式会社、日本)
組換えTPO:(COSMOBIO、東京、日本)
TPO様活性ポリペプチド:(化学合成により得た)
1. TPO−P (IEGPTLRQWLAARA:配列番号2)
2. TPO−P−Lys (IEGPTLRQWLAARAK:配列番号3)
3. TPO−P−Cys (IEGPTLRQWLAARAC:配列番号1)
FDCP−hM15の細胞系列は、マウス骨髄系細胞FDC/P2にヒトトロンボポエチンレセプターを過剰発現した細胞株であり、麒麟麦酒株式会社(東京)から譲り受けた(Morita, H., Tahara, T., Matsumoto, A., Kato, T., and Miyazaki, H.: Functional analysis of the cytoplasmic domain of the human Mpl receptor for tyrosine-phosphorylation of the signaling molecules, proliferation and differentiation. FEBS Lett., 395, 228-234 1996)。TPO様活性ポリペプチドは、理研(和光、日本)にて、通常のペプチド合成の方法により化学合成した。
材料:
細胞:FDCP−hMpl5(麒麟麦酒株式会社、日本)
組換えTPO:(COSMOBIO、東京、日本)
TPO様活性ポリペプチド:(化学合成により得た)
1. TPO−P (IEGPTLRQWLAARA:配列番号2)
2. TPO−P−Lys (IEGPTLRQWLAARAK:配列番号3)
3. TPO−P−Cys (IEGPTLRQWLAARAC:配列番号1)
FDCP−hM15の細胞系列は、マウス骨髄系細胞FDC/P2にヒトトロンボポエチンレセプターを過剰発現した細胞株であり、麒麟麦酒株式会社(東京)から譲り受けた(Morita, H., Tahara, T., Matsumoto, A., Kato, T., and Miyazaki, H.: Functional analysis of the cytoplasmic domain of the human Mpl receptor for tyrosine-phosphorylation of the signaling molecules, proliferation and differentiation. FEBS Lett., 395, 228-234 1996)。TPO様活性ポリペプチドは、理研(和光、日本)にて、通常のペプチド合成の方法により化学合成した。
ペプチド活性測定(MTTアッセイ):セルカウントキット(同人化学)
Gold powder, spherical (平均粒径1.5-3.0μm) (Aldrich Lot # 03212BC)
Gold powder, spherical (平均粒径1.5-3.0μm) (Aldrich Lot # 03212BC)
1.金粒子上への固定化
金粒子上への固定化は、以下の工程を含む:金粒子(平均粒径1.5-3.0μm)はピランハ溶液(30%過酸化水素:硫酸=3:1)で浸した。金粒子溶液を30分間ソニケーションしてから、遠心分離で上澄みを取り除いた。沈殿を蒸留水で洗い、凍結乾燥し、洗浄した金粒子で金粒子水溶液(濃度20mg/mL)を作って実験に用いた。システインが末端に導入されたTPO様活性ポリペプチド(TPO−P−Cys)を金粒子溶液に溶かし(濃度100μg/mL)、この溶液を10分間ボルテックスした。
金粒子上への固定化は、以下の工程を含む:金粒子(平均粒径1.5-3.0μm)はピランハ溶液(30%過酸化水素:硫酸=3:1)で浸した。金粒子溶液を30分間ソニケーションしてから、遠心分離で上澄みを取り除いた。沈殿を蒸留水で洗い、凍結乾燥し、洗浄した金粒子で金粒子水溶液(濃度20mg/mL)を作って実験に用いた。システインが末端に導入されたTPO様活性ポリペプチド(TPO−P−Cys)を金粒子溶液に溶かし(濃度100μg/mL)、この溶液を10分間ボルテックスした。
2.金粒子上に固定したペプチド量の測定
金粒子上に固定したペプチド量の測定は、Coomassie(Bradford)プロテインアッセイキット法により行った。TPO−P−Cys水溶液(100μg/mL)を、金粒子(20mg/mL)と混ぜた。100μLのTPO−P−Cys・金粒子溶液を取り(TPO−P−Cys濃度:100μg/mL、金粒子濃度:20mg/mL)、10000rpmで5分間、室温にて遠心分離し、上澄みを別チューブに移した。
沈殿に100μLの水を入れ、よく混ぜた。上澄みと沈殿の懸濁液を各々30μl取り、Coomassie(Bradford) プロテインアッセイキット(Pierce Biotechnology Inc)で測定した。以上の方法により、金粒子にペプチドが固定化されたことが確かめられ、固定化ペプチド量を定量した。固定化効率は70%であった。
粒子表面上にペプチド全量をほぼ定量的に固定するには、ペプチド濃度1mg/mLに対し、金粒子の濃度はその10倍の10mg/mLで十分であった。また固定したペプチドがその後再び遊離していないか調べるため、上記の上澄液30μLをアッセイキット(Bradford method, Pierce, Rockford, IL, U.S.A.)により調べた。このアッセイで染色が観察されなかったことから、ポリペプチドが細胞培養液中で解放されず、固定されていることを確認した。
金粒子上に固定したペプチド量の測定は、Coomassie(Bradford)プロテインアッセイキット法により行った。TPO−P−Cys水溶液(100μg/mL)を、金粒子(20mg/mL)と混ぜた。100μLのTPO−P−Cys・金粒子溶液を取り(TPO−P−Cys濃度:100μg/mL、金粒子濃度:20mg/mL)、10000rpmで5分間、室温にて遠心分離し、上澄みを別チューブに移した。
沈殿に100μLの水を入れ、よく混ぜた。上澄みと沈殿の懸濁液を各々30μl取り、Coomassie(Bradford) プロテインアッセイキット(Pierce Biotechnology Inc)で測定した。以上の方法により、金粒子にペプチドが固定化されたことが確かめられ、固定化ペプチド量を定量した。固定化効率は70%であった。
粒子表面上にペプチド全量をほぼ定量的に固定するには、ペプチド濃度1mg/mLに対し、金粒子の濃度はその10倍の10mg/mLで十分であった。また固定したペプチドがその後再び遊離していないか調べるため、上記の上澄液30μLをアッセイキット(Bradford method, Pierce, Rockford, IL, U.S.A.)により調べた。このアッセイで染色が観察されなかったことから、ポリペプチドが細胞培養液中で解放されず、固定されていることを確認した。
3.ペプチド活性測定法
TPOペプチド溶液は、2mg/mLに調製して0.22μmのフィルタを用いて滅菌する。TPOペプチド溶液を滅菌水で希釈してサンプル濃度を調整する。FDCP−hMpl5細胞は、予め、96穴の培養プレートに細胞数1x104/100μL/wellで播いて、10%牛胎児血清、1%ペニシリン、及びストレプトマイシンを含む、ダルベッコ変法イーグル培地にて、3時間プレインキュベートしておく。その後、調製したTPOペプチド溶液又はTPOペプチドを固定した金粒子溶液を細胞に入れ(1μL/well)、5%CO2、37℃で、48時間培養した。
インキュベーション後、セル・カウントキットによって、細胞数を数え、標準偏差(SD)とともに与えられた結果を、スチューデントのt検定(Student’s two-tailed t test)により、統計的な差異を決定し、シェッフェの方法(Scheffe’s method)95%の有意水準にて多重比較を行った。
また、当該細胞の増殖活性をMTTアッセイによる吸光度測定で決定した。
TPOペプチド溶液は、2mg/mLに調製して0.22μmのフィルタを用いて滅菌する。TPOペプチド溶液を滅菌水で希釈してサンプル濃度を調整する。FDCP−hMpl5細胞は、予め、96穴の培養プレートに細胞数1x104/100μL/wellで播いて、10%牛胎児血清、1%ペニシリン、及びストレプトマイシンを含む、ダルベッコ変法イーグル培地にて、3時間プレインキュベートしておく。その後、調製したTPOペプチド溶液又はTPOペプチドを固定した金粒子溶液を細胞に入れ(1μL/well)、5%CO2、37℃で、48時間培養した。
インキュベーション後、セル・カウントキットによって、細胞数を数え、標準偏差(SD)とともに与えられた結果を、スチューデントのt検定(Student’s two-tailed t test)により、統計的な差異を決定し、シェッフェの方法(Scheffe’s method)95%の有意水準にて多重比較を行った。
また、当該細胞の増殖活性をMTTアッセイによる吸光度測定で決定した。
結果を図1、図2に示す。
図1はrhTPO及びそのペプチド誘導体のペプチド活性すなわち造血系細胞増殖促進活性を示している。TPO−Pは、Cwirla達によって報告された高いTPO受容体親和性を示す人工ペプチドAF12505(非特許文献4)と同一配列のアミノ酸14残基のポリペプチドである。TPO−P−Cysとは、TPO−PのC末端にシステイン残基を付け加え15残基としたポリペプチド、TPO−P−Lysとは、TPO−PのC末端にリシン残基を付け加え同じく15残基としたポリペプチドである。
図1に示されるように、TPO−P−Cysは、造血系細胞に対して組換えTPOと同程度のペプチド活性を示した。一方TPO−P及びTPO−P−Lysのペプチド活性は十分ではなかった。本発明のペプチドTPO−P−Cysは、TPO−Pの約100倍の活性を持ち、TPO−P−Lysは、TPO−Pと同程度であった。この結果から、TPO−P−Cysがチオール基により二量体を形成したことで、活性が増強したと推定される。当該結果は又、Cwirla達が、TPO−P(AF12505)の二量体すなわちAF13948が、AF12505よりも強い活性を持つと報告した(非特許文献4)ことと整合する。
図1に示されるように、TPO−P−Cysは、造血系細胞に対して組換えTPOと同程度のペプチド活性を示した。一方TPO−P及びTPO−P−Lysのペプチド活性は十分ではなかった。本発明のペプチドTPO−P−Cysは、TPO−Pの約100倍の活性を持ち、TPO−P−Lysは、TPO−Pと同程度であった。この結果から、TPO−P−Cysがチオール基により二量体を形成したことで、活性が増強したと推定される。当該結果は又、Cwirla達が、TPO−P(AF12505)の二量体すなわちAF13948が、AF12505よりも強い活性を持つと報告した(非特許文献4)ことと整合する。
TPO活性、すなわちトロンボポエチン誘導体ペプチドのペプチド活性の測定について、本発明では、トロンボポエチン応答性細胞である、FDCP−hM15細胞を用いて検査を行った。FDCP−hM15細胞は、マウス骨髄系細胞FDC/P2Ba/F3h細胞に、ヒトTPO受容体(TPO受容体)を過剰発現させた細胞株であり、麒麟麦酒株式会社(東京、日本)から譲り受けた(Morita, H., Tahara, T., Matsumoto, A., Kato, T., and Miyazaki, H.: Functional analysis of the cytoplasmic domain of the human Mpl receptor for tyrosine-phosphorylation of the signaling molecules, proliferation and differentiation. FEBS Lett., 395, 228-234 1996)。
先行研究では、TPO活性の測定に、Ba/F3hTPOR細胞を用いることが多かった。本研究では、FDCP−hM15細胞を用いたが、Ba/F3hTPOR細胞と同様の増殖作用検査ができることが明らかとなった。
すなわち、従来のBa/F3hTPOR細胞による増殖応答の測定では、TPO−Pの活性が、rhTPOの活性の約10000分の1であったと報告されているが、今回のFDCP−hM15細胞を用いた増殖応答測定においても、やはりTPO−Pの活性が、rhTPOの活性の約10000分の1であったと判明した。この結果から、今回のFDCP−hM15細胞を使った活性測定は、他のBa/F3hTPOR細胞を使用した活性測定と比較可能であることが示されている。
先行研究では、TPO活性の測定に、Ba/F3hTPOR細胞を用いることが多かった。本研究では、FDCP−hM15細胞を用いたが、Ba/F3hTPOR細胞と同様の増殖作用検査ができることが明らかとなった。
すなわち、従来のBa/F3hTPOR細胞による増殖応答の測定では、TPO−Pの活性が、rhTPOの活性の約10000分の1であったと報告されているが、今回のFDCP−hM15細胞を用いた増殖応答測定においても、やはりTPO−Pの活性が、rhTPOの活性の約10000分の1であったと判明した。この結果から、今回のFDCP−hM15細胞を使った活性測定は、他のBa/F3hTPOR細胞を使用した活性測定と比較可能であることが示されている。
次に、本発明のペプチドを金粒子上へ固定し、同様に、MTTアッセイにてペプチド活性を測定した。結果を図2に示す。
図2の結果から、金粒子上に固定化された本発明のペプチド(TPO−P−Cys−Gold)のペプチド活性は、固定されていない遊離の本発明のペプチド(TPO−P−Cys)よりも高く、組み替えTPO(rhTPO)に匹敵するペプチド活性を持つことが示された。すなわち、本発明のペプチド(TPO−P−Cys)の造血系細胞に対する増殖活性は、当該ペプチドを金粒子に固定化することで(TPO−P−Cys−Gold)、当該ペプチドが単量体や二量体である時よりも、更に向上することがわかった。
つまり本発明のペプチドは、金粒子導入によりマルチバレント化が促されると、溶液中での分布を変え、遊離状態から金粒子付近に局所的に濃縮されると推測される。この分布の変化が、図2にて、同一のモル濃度において、金粒子上へ固定されマルチバレント化した本発明のペプチド(TPO−P−Cys−Gold)の溶液と、金粒子が存在せず本発明のペプチドが遊離状態(TPO−P−Cys)の単量体若しくは二量体である当該ペプチド溶液を比較した時に、前者のほうがより高いペプチド活性を示す理由であると予想される。
つまり本発明のペプチドは、金粒子導入によりマルチバレント化が促されると、溶液中での分布を変え、遊離状態から金粒子付近に局所的に濃縮されると推測される。この分布の変化が、図2にて、同一のモル濃度において、金粒子上へ固定されマルチバレント化した本発明のペプチド(TPO−P−Cys−Gold)の溶液と、金粒子が存在せず本発明のペプチドが遊離状態(TPO−P−Cys)の単量体若しくは二量体である当該ペプチド溶液を比較した時に、前者のほうがより高いペプチド活性を示す理由であると予想される。
TPO受容体は、前記の通りクラスIサイトカイン受容体であり、受容体へのリガンド結合によりホモ二量体が形成されると推測される。したがって本発明のペプチドの二量体、若しくは金粒子上に固定されマルチバレント化した本発明のペプチドは、TPO受容体ホモ二量体に、当該ペプチドの単量体よりも効率よく結合することで、下流カスケードへの迅速な情報伝達を可能とし、その結果として高い造血系細胞増殖促進活性を示すと考えられる。
本発明の方法による造血系細胞増殖促進剤は、化学療法、放射線照射、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植に伴って生じる血小板減少症、及びその他多数の理由により引き起こされる血小板減少症に対し、造血系細胞増殖促進効果をねらい処置するのに有用である。
また化学療法、放射線療法、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植による治療処置に伴い血小板減少症の危険がある患者、又は、血小板ドナー、骨髄移植ドナー若しくは末梢血幹細胞移植ドナー等の造血幹細胞移植ドナーとなる者に対して、当該処置を受ける前に、血小板減少症の予防処置として使用することも可能である。
また本発明の造血系細胞増殖促進剤は、生体外において造血系細胞を増殖させて生体に移植する造血幹細胞移植医療にも有用である。すなわち、本発明のペプチド又は金属粒子に固定化された本発明のペプチドは、移植用に骨髄細胞若しくは末梢血幹細胞などの造血系細胞を調製する目的で使用することができる。例えば、生体から単離された骨髄細胞若しくは末梢血幹細胞等の造血系細胞に対し、生体外において、本発明のペプチド又は金属粒子に固定化された本発明のペプチドを添加して種々の造血系細胞を増殖させ、移植医療用の造血幹細胞、若しくは血小板輸血用の血小板製剤等を調製する目的に使用することができる。
また化学療法、放射線療法、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植による治療処置に伴い血小板減少症の危険がある患者、又は、血小板ドナー、骨髄移植ドナー若しくは末梢血幹細胞移植ドナー等の造血幹細胞移植ドナーとなる者に対して、当該処置を受ける前に、血小板減少症の予防処置として使用することも可能である。
また本発明の造血系細胞増殖促進剤は、生体外において造血系細胞を増殖させて生体に移植する造血幹細胞移植医療にも有用である。すなわち、本発明のペプチド又は金属粒子に固定化された本発明のペプチドは、移植用に骨髄細胞若しくは末梢血幹細胞などの造血系細胞を調製する目的で使用することができる。例えば、生体から単離された骨髄細胞若しくは末梢血幹細胞等の造血系細胞に対し、生体外において、本発明のペプチド又は金属粒子に固定化された本発明のペプチドを添加して種々の造血系細胞を増殖させ、移植医療用の造血幹細胞、若しくは血小板輸血用の血小板製剤等を調製する目的に使用することができる。
本発明による方法の造血系細胞増殖促進剤は、更には、TPO受容体への親和性の高さから、生体細胞、培養組織、若しくは組織ホモジェネート中などにおけるTPO受容体の可視化のためのツールとして使用できる可能性がある。すなわち金属上に固定された本発明のペプチドに対し、金属染色などの方法により当該金属粒子を標識することによって、TPO受容体を有する細胞を同定するという利用方法も考えうる。
Claims (11)
- 下記のアミノ酸配列、又は下記のアミノ酸配列において、末端cysを除く1又は2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなるペプチドを含む、造血系細胞増殖促進剤。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1) - ペプチドが金属粒子と結合したペプチドである、請求項1に記載の造血系細胞増殖促進剤。
- 金属粒子が金粒子である、請求項2に記載の造血系細胞増殖促進剤。
- 造血系細胞増殖促進活性が、トロンボポエチン受容体、若しくはc−Mplを介し、トロンボポエチン受容体、若しくはc−Mplに親和性であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の造血系細胞増殖促進剤。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の造血系細胞増殖促進剤を有効成分として含む医薬。
- 血小板減少症の治療用である、請求項5に記載の医薬。
- 血小板減少症が化学療法、放射線照射、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植に伴って生じる疾患である、請求項6に記載の医薬。
- 化学療法、放射線療法、又は骨髄移植若しくは末梢血幹細胞移植等の造血幹細胞移植による治療処置に伴い血小板減少症の危険がある患者、又は、血小板ドナー、骨髄移植ドナー若しくは末梢血幹細胞移植ドナー等の造血幹細胞移植ドナーとなる者に対して、当該処置を受ける前に、血小板減少症の予防処置として使用される、請求項5に記載の医薬。
- 生体のトロンボポエチン応答性細胞、又は、生体から採取した若しくは培養により作成されたトロンボポエチン応答性細胞に対して、インビボ又はインビトロにて使用される、請求項5に記載の医薬。
- トロンボポエチン受容体発現細胞、若しくはc−Mpl発現細胞、又はCD34+細胞に対して、インビボ又はインビトロにて使用される、請求項5に記載の医薬。
- 下記の配列、又は末端cysを除く1又は2個のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは修飾された配列からなるペプチド。
Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala-Cys(配列番号1)
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2021112249A1 (ja) * | 2019-12-06 | 2021-06-10 | 味の素株式会社 | 生理活性を有するペプチドの製造方法及び短鎖リンカーを含むペプチド |
-
2008
- 2008-09-30 JP JP2008255159A patent/JP2010083808A/ja active Pending
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2021112249A1 (ja) * | 2019-12-06 | 2021-06-10 | 味の素株式会社 | 生理活性を有するペプチドの製造方法及び短鎖リンカーを含むペプチド |
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