JP2010059883A - 内燃機関の燃焼トルク推定装置および燃焼エネルギー推定装置 - Google Patents

内燃機関の燃焼トルク推定装置および燃焼エネルギー推定装置 Download PDF

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Abstract

【課題】筒内圧センサなどを用いることなく、内燃機関のクランク軸の回転に基づいて、容易に燃焼トルクの瞬時値を推定することができる内燃機関のトルク推定装置を提供する。
【解決手段】内燃機関のトルク推定装置が、回転速度の波形を、フィルタリングにより、内燃機関の燃焼に同期した周波数成分の波形と、周波数の自然数倍の周波数成分の波形と、に分解する波形分解手段111と、内燃機関の回転数に基づいて、各周波数成分の波形に対する燃焼トルクの前記燃焼トルクの波形の位相遅れを補正する位相遅れ補正手段121と、内燃機関の回転数に基づいて、位相遅れが補正された各周波数成分の波形の振幅を補正する振幅補正手段131と、振幅が補正された各周波数成分の波形を重ね合わせて燃焼トルクの波形を算出する燃焼トルク波形算出手段141と、を備える。
【選択図】図5

Description

内燃機関のクランク軸の回転速度から内燃機関の燃焼トルクを推定する装置と、推定された燃焼トルクから気筒毎の燃焼エネルギーを推定する装置に関する。
内燃機関では所定の回転速度の周期で燃焼が行われ、その燃焼に伴いクランク軸にトルクが動力として付与される。このトルクの推定は、例えば、内燃機関に筒内圧センサを配置し、筒内圧センサの検出値である筒内圧から、燃焼により発生した熱量を推定することにより行われること場合がある。このような場合、このトルクの推定値に基づいて、内燃機関の燃焼に関するフィードバック制御が行われている。
たとえば、内燃機関の燃焼トルクを推定する方法として以下の推定方法が提案されている。この推定方法は、クランク軸の回転角速度を検出し、該角速度の変化からトルク変動を推定するようにした内燃機関のトルク変動推定方法である。
具体的には、内燃機関の運転状態が、クランク軸の固有振動による角速度の変化波形に比べて爆発1次の角速度の変化波形の方がトルクの変動を再現性よく顕著に表している第1の運転状態であるか、或いは爆発1次の角速度の変化波形に比べてクランク軸の固有振動による角速度の変化波形の方がトルクの変動を再現性よく顕著に表している第2の運転状態であるかを判断し、第1の運転状態であると判断されたときには、爆発行程開始時における角速度の最小値と爆発行程中における角速度の最大値との差からトルク変動を推定するものである(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載のトルク推定方法では、各速度の最小値と最大値の差からトルク変動を推定するものあり、このトルク変動から、失火検出のような気筒で急激にトルクが落ち込んだことを、前後の気筒と比較することで検出を可能とするものである。
特開2007−32433号公報
しかしながら、各速度の最小値と最大値を利用してトルクを推定する場合には、上述したように失火のような急激なトルク変動を検出するアプリケーションに対しては有効であるが、例えば、安定した燃焼状態においては、急激なトルク変動はないので、この方法ではトルクの瞬時値を知ることは容易ではない。そして、燃焼により発生した熱量を筒内圧から推定して燃焼の制御にフィードバックするような、従来筒内圧センサが使われてきた分野では、トルクの絶対値が瞬時値で知ることが望ましいが、この方法で推定されたトルクでは、燃焼制御を行うには充分であるとは言えない。
そこで、本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筒内圧センサなどを用いることなく、内燃機関のクランク軸の回転に基づいて、容易に燃焼トルクの瞬時値を推定することができる内燃機関のトルク推定装置を提供することにある。
前記課題を解決すべく、本発明に係る内燃機関のトルク推定装置は、内燃機関のクランク軸の回転速度から、前記内燃機関の燃焼トルクを推定する内燃機関のトルク推定装置であって、該トルク推定装置は、前記回転速度の波形をフィルタリングすることにより、前記回転速度の波形を前記内燃機関の燃焼に同期した周波数成分の波形と、該周波数の自然数倍の周波数成分の波形と、に周波数分解する波形分解手段と、前記内燃機関の回転数に基づいて、前記各周波数成分の波形に対する前記燃焼トルクの波形の位相遅れを算出し、該位相遅れに基づいて前記各周波数成分の波形を補正する位相遅れ補正手段と、前記内燃機関の回転数に基づいて、前記位相遅れが補正された前記各周波数成分の波形の振幅を補正する振幅補正手段と、前記振幅が補正された前記各周波数成分の波形を重ね合わせて前記燃焼トルクの波形を算出する燃焼トルク波形算出手段と、を備えることを特徴とする。
第一の発明によれば、リアルタイムに変動するクランク軸の回転速度の変動する波形に基づいて、燃焼トルクを算出するので、その燃焼トルクの瞬時値を推定することができる。
また別の態様として、本発明に係る内燃機関のトルク推定装置は、内燃機関のクランク軸の回転速度から、前記内燃機関の燃焼トルクを推定する内燃機関のトルク推定装置であって、該トルク推定装置は、前記回転速度の波形をフィルタリングすることにより、前記回転速度の波形を前記内燃機関の燃焼に同期した周波数成分の波形と、該周波数の自然数倍の周波数成分の波形と、に周波数分解する波形分解手段と、前記内燃機関の回転数に基づいて、前記燃焼トルクの波形に対する前記各周波数成分の波形の位相遅れを算出し、該位相遅れに基づいて前記各周波数成分の波形を補正する位相遅れ補正手段と、前記各周波数成分に対応した一定の補正係数で、前記位相遅れが補正された前記各周波数成分の波形の振幅を補正する振幅補正手段と、前記振幅が補正された前記各周波数成分の波形を重ね合わせて前記燃焼トルクの波形を算出する燃焼トルク波形算出手段と、前記内燃機関の回転数に基づいて、前記燃焼トルクの波形の振幅を補正するトルク波形補正手段と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、リアルタイムに変動するクランク軸の回転速度の変動する波形に基づいて、燃焼トルクを算出するので、その燃焼トルクの瞬時値を推定することができるばかりでなく、トルク波形補正手段で、各周波数成分の波形を重ね合わせた燃焼トルクの波形に基づいて、燃焼トルクの振幅を補正するので、第一の発明の発明に比べ、さらに演算処理時間の短縮化を図ることができる。
本発明に係る前記トルク推定装置は、前記クランク軸に取付けられたクランク角センサの出力信号から、前記回転速度を算出する回転速度算出手段を備えることがより好ましい。
本発明によれば、内燃機関の制御に用いるクランク角センサを利用することにより、より低コストで、燃焼トルクの推定を行うことができる。
本発明に係る前記トルク推定装置は、前記波形分解手段が、前記クランク軸に取付けられた回転速度センサで検出された回転速度の波形を、周波数分解することがより好ましく、回転速度を検出することができるのであれば、回転速度センサは、特に限定されるものではないが、より好ましい回転速度センサは、直流発電機である。
本発明によれば、回転速度センサにより、直接的にクランク軸の回転速度を検出し、この回転速度を利用しているので、より精度の良いトルク推定をすることができる。
本発明に係る燃焼エネルギー推定装置は、前記燃焼トルク推定装置を備え、前記燃焼トルクから各気筒の燃焼エネルギーを推定する燃焼エネルギー推定装置であって、該燃焼エネルギー推定装置は、前記内燃機関の吸気弁または排気弁のカム軸の角度を検出するカム角センサと前記クランク角センサとの出力信号からクランク軸の角度を算出するクランク角度算出手段と、前記クランク角度に応じて変化する前記燃焼トルクを積分する積分手段と、該積分した値に基づいて各気筒の燃焼エネルギーを算出する燃焼エネルギー算出手段と、を備える。
本発明によれば、クランク角(位置)の変化にともない、前記クランク軸の回転から燃焼トルクを推定し、その推定した燃焼トルクから燃焼エネルギーを算出(推定)することができるので、気筒内に筒内圧センサを設置する必要がなく、既存のセンサ(クランク角センサとカム角センサ)から安価に燃焼エネルギーを算出することができる。
本発明に係る燃焼エネルギー推定装置は、前記積分手段が、気筒ごとに設定された前記クランク角度の積分区間に基づいて、前記燃焼トルクを積分し、各気筒の燃焼エネルギーを算出することがより好ましい。
本発明によれば、1サイクルにおける、各気筒の筒内圧力の最高圧力は気筒ごとにそのタイミングが異なるので、この点に基づいてクランク角度により定められる積分区間に基づいて、燃焼エネルギーを算出すれば、各気筒の燃焼エネルギーを容易に推定することができる。
本発明に係る燃焼エネルギー推定装置は、前記気筒において設定されたクランク角度の積分区間は、前記気筒の筒内圧が他のすべての気筒の筒内圧に比べて高い筒内圧となる区間であることがより好ましく、別の態様として本発明に係る燃焼エネルギー推定装置は、前記クランク角度の積分区間は、圧縮行程の時点から爆発行程の時点までの区間に設定されることがより好ましい。
本発明によれば、本方式を使うことでクランク軸の回転速度から、連続して変化する燃焼トルクの瞬時値と、各爆発の燃焼エネルギーと、を算出することができ、低いコストで燃焼エネルギーを算出することができる。
〔第一実施形態〕
以下に、図面を参照して、本発明に係る内燃機関のトルク推定装置のいくつかの実施形態に基づいて説明する。
図1は、第一実施形態に係るトルク推定装置により燃焼トルクを推定する対象となる内燃機関の模式図であり、図2は、クランク角センサの配置および検出方法を説明するための図である。内燃機関1は通常複数の気筒(本実施形態では4気筒)を含むが、図1はそのうちの1つの気筒に着目した図である。内燃機関1は、ピストン12が2往復する間に、吸気、圧縮、爆発、排気の4つのサイクルを実行するためのものである。
具体的には、ピストン12の上死点23から下死点22に向かってピストン12が下降するのに同期して吸気弁13が開くと、スロットル14で絞られた吸入空気と、インジェクタ15から噴射された燃料の混合気が気筒20の燃焼室内に流入する。ピストン12が下死点22に達すると、吸気弁13は閉じ、ピストン12は上昇する。気筒20内に閉じ込められた空気はピストン12によって圧縮される。
ピストン12が上死点23に達すると、点火プラグ16により気筒20内の混合気が着火され、爆発が始まる。爆発により発生したエネルギーはピストン12を押し下げ、ピストン12への圧力はクランク軸17に伝達され、クランク軸17を回転させるトルクとなる。
内燃機関1のクランク軸17には、図2に示すような金属でできた円盤のリングギア51が取り付けられており、リングギア51の外周には等間隔Δθで金属製の歯52が取り付けられている。クランク軸17の回転は、クランク角センサ33によって計測される。具体的には、クランク角センサ33は、リングギア51の歯の接近に同期して脈動する信号を出力する。
図3は、吸気・圧縮・爆発・排気の4つのサイクルにおける筒内圧Pi、燃焼トルクτ、クランク軸17の回転速度ωの関係を示した図である。図3(a)は、第1気筒の筒内圧を示す図であり、(b)は、第3気筒、第4気筒、第1気筒、第2気筒の順番で爆発しているときの筒内圧を波形で示した図であり、(c)は、(b)から近似される燃焼トルクの波形を示した図であり、(d)は、時間変化するクランク軸回転速度ωを波形で示した図である。
この図に示すように、第1気筒の吸気行程では筒内圧は吸気管圧(大気圧力)とほぼ同じか、若干低い。その後、ピストン12の下死点22から上死点23までの区間である圧縮行程では、ピストン12が上死点23に近づくにつれて、燃焼室内の圧力は大きくなる。
さらに、爆発行程では、工程の開始時点である上死点23付近で点火されると、圧力はさらに増大し、この筒内圧力がピストン12を押し下げ体積が膨張し、圧力は徐々に低下し、工程の終了時点である下死点22で大気圧に近づく。ピストン12が下死点22に達すると排気行程が開始され、排気弁18が開き、気筒20内の排気ガスは排出される。このときの筒内圧は、大気圧とほぼ同じか、若干高い程度である。
ここで、図4は、内燃機関1の燃焼エネルギーを説明するための図である。4つのサイクルの内燃機関1における燃焼室の体積vと圧力pの関係は図示のようになり、IMEPとも呼ばれる燃焼エネルギーは図中の斜線で示される部分の面積で定義される。
気筒内の圧力がピストン12を押す力は、リンク機構を通じてクランク軸17を回転させるトルクτに変換される。通常、内燃機関は複数の気筒20をもつので、クランク軸を回転させるトルクは、次式で計算され、図3の上から3番目のグラフで、近似的に示される。
Figure 2010059883
ここで、Aはシリンダーの断面積、P‥Pは各気筒の筒内圧、2rはストロークの長さ、θはクランク角(第1,第4気筒上死点からの角度)を示している。
一方、時間変化に伴うクランク軸の回転速度ωと燃焼トルクτの間には、次式で示す関係があり、クランク軸の回転速度ωは図3(d)で示される。
Figure 2010059883
ただし、Jはエンジンの慣性モーメント、Cは減衰係数を示している。
例えば4気筒のエンジンであれば、爆発は4つの気筒で発生しており、爆発の大きさは気筒内の圧力で評価できるため、爆発毎の燃焼エネルギーを求めるには4つの圧力センサが原理的に必要である。ところが、ここでは、クランク軸の回転速度という一つの物理量から4つの気筒での燃焼エネルギーを求めようとしたものである。これは、クランク軸の回転速度をクランクの角度によって、所定の区間に分割することにより可能となる。
4気筒エンジンの4気筒分の筒内圧の波形を重ねた波形が図2(b)であるが、これをみると、燃焼エネルギーに密接に関係する圧縮行程の後半から爆発行程の前半にかけての各々の気筒内の圧力は、全気筒の圧力の合計にほぼ等しい。
従って、対象とする気筒の筒内圧が他のすべての気筒の筒内圧より大きい区間を切り出し(1サイクル分の回転速度の信号を気筒数に分割し)、その区間を最も高い圧力を、その気筒の筒内圧に対応付ければ、センサ情報から、各気筒の爆発の燃焼エネルギーとして算出することができる。
本実施形態の装置は、このような考えに基づいて、内燃機関の爆発毎の燃焼エネルギーを求める装置である。
図5は、本実施形態に係る内燃機関1のトルク推定装置100Aの模式概念図である。トルク推定装置10は、内燃機関を制御するコントロールユニットに含まれるものであり、CPU、EP−ROM、RAM、及びA/D変換器を含むI/OLSI等で構成されている。そして、トルク推定装置100Aは、先に示した各種センサからの信号をI/OLSIで入力として取り込み、この取り込まれた信号に基づいて以下に示す演算処理を実行し、この演算結果として算定された演算結果を出力するように構成されている。
内燃機関1のトルク推定装置100Aは、内燃機関のクランク軸17の回転速度に基づいて、内燃機関1の燃焼トルクを推定するものである。具体的には、図5に示すように、クランク角センサ33が、クランク軸に取付けられたリングギア51の回転に同期して脈動する出力信号し、この出力信号から以下に示すように燃焼トルクを推定している。
尚、図6は、クランク角センサ33の出力信号を示している。図示のように、クランク角センサ33の出力信号の一周期分は、リングギアの一つの歯に対応する。クランク角センサ信号が、所定の閾値を上から下へ横切る時間の間隔が、Δθの回転所要時間として認識される。
本実施形態に係るトルク推定装置は、回転速度算出手段101、フィルタリング手段(波形分解手段)111,112、遅延手段(位相遅れ補正手段)121,122、増幅手段(振幅補正手段)131,132、及び加算手段(燃焼トルク波形算出手段)141を備えている。
回転速度算出手段101は、アナログ信号が所定の閾値を上から下へ横切る度に、今回の横切った時刻と前回の横切った時刻との時間間隔Δtを計測し、歯の間隔ΔθをΔtで割ることで回転速度(角速度)ω=Δθ/Δtを算出し、時間経過に伴う波形として出力するものである。
フィルタリング手段(波形分解手段)111,112は、算出された回転速度の波形をフィルタリングすることにより、回転速度の波形を内燃機関の燃焼に同期した回転速度の周波数成分の波形と、該周波数の自然数倍の複数の回転速度の周波数成分の波形と、に周波数分解する。
具体的には、クランク軸の回転速度(回転角速度)ωを用い、数1のように燃焼トルクτは、正弦波(余弦波)の波形の重ね合わせで近似できることから、この波形に着眼し、数3、数4のようにクランク角速度ωと燃焼トルクτを周波数分解すると、以下に示すような成分に分解することができる。
Figure 2010059883
Figure 2010059883
ここで、数3に示すωsin(ft+α)は、燃焼に同期した周波数成分(基本成分)、すなわち内燃機関の燃焼に同期した回転速度の周波数成分の波形を示すものであり、燃焼成分に同期した周波数(いわゆる燃焼周波数)とは、燃焼に同期した周波数は単位角度ごとの燃焼頻度を表した角度周波数であり、例えば4気筒の場合には燃焼周期(燃焼角度周期)が180°CAであり、内燃機関の気筒数に対応する燃焼角度周期の逆数により決定される周波数である。また、ωsin(ft+α)は、n倍成分の波形で、nは自然数であり、燃焼周波数のn倍の回転速度の周波数成分の波形である。
遅延手段121,122は、各成分ごとに運転状態によって決まる遅延量だけフィルタリング手段の出力信号を遅延させるものである。具体的には、内燃機関1の回転数fに基づいて、各周波数成分の波形に対する燃焼トルクの波形の遅延量(位相遅れ)βを次式数5に基づいて算出し、この位相遅れに基づいて各周波数成分の波形を補正する。
ここで、あらかじめエンジンの慣性J、減衰係数Cを同定しておいて、クランク角センサ33の出力から求めたエンジン回転数fを用いれば、クランク角速度ωの各成分の振幅、位相を数5に従って調節することで燃焼トルクτを求める。
Figure 2010059883
増幅手段131,132は、各成分ごとに運転状態によって決まるゲインでフィルタリング手段の出力信号(具体的には位相遅れが補正された前記各周波数成分の波形)の振幅を増幅して補正するものである。具体的には、数5に基づいて、各周波数成分の波形に応じた燃焼トルクの増幅率を算出し、増幅率に基づいて、前記各周波数成分の波形に対応した燃焼トルクの波形を算出している。
さらに、加算手段(燃焼トルク波形算出手段)141は、遅延、増幅された各信号を足し合わせて、燃焼トルクを算出するものであり、具体的には、前記各周波数成分のトルクの波形を重ね合わせて燃焼トルクの波形を算出している。本実施形態では、この算出された燃焼トルクの波形から、そのタイミングにおける燃焼トルクを推定することができる。
以下、図7は、図5に示すトルク推定装置100Aにより燃焼トルクを推定する処理を説明するフローチャートであり、以下に、燃焼トルクを用いて説明する。また、図8は、図7に示すフローチャートに基づいて推定される燃焼トルクを説明するための図であり、(a)はクランク軸の回転速度の波形を表す図、(b)各周波数成分の波形を表す図、(c)燃焼トルクの各周波数成分の波形を表す図、(d)燃焼トルクの波形を表す図である。図9は、本実施形態のフィルター係数をの一例を示した図である。
まず、ステップ601において、回転速度算出手段101では、アナログ信号が敷値を上から下へ横切る度に、今回の横切った時刻と前回の横切った時刻との時間間隔Δtを計測し、歯の間隔ΔθをΔtで割ることで回転速度ω=Δθ/Δtを算出する。このようして、図8(a)に示すクランク軸の回転速度ωの変動(波形)を得ることができる。
次に、ステップ602に進む。各成分ごとに用意されたフィルタリング手段(波形分解手段)111,112‥‥には(180゜/Δθ)個のメモリが設けられており、回転速度ωを上述したように周波数成分に分解し、メモリに記憶する。このメモリはキューメモリになっていて、クランク角センサ33から立ち下がり信号がくるたびに、一番古いデータが捨てられる。各フィルタの係数を図9に示す。立下り信号がくるたびに、メモリに記憶されているωとフィルタ係数の積和が計算され、出力される。このようにして、図8(b)に示すように、内燃機関の燃焼に同期した回転速度の周波数成分の波形ω(1次の成分)と周波数の自然数倍(2〜4倍)の回転速度の周波数成分(2次〜4次の成分)の波形に分解される。
次に、ステップ603では、フィルタごとに用意された遅延手段121、122、‥‥にフィルタリング手段111、112、‥‥の出力が入力されると、一定時間遅延手段にとどまった後、位相遅れ分の補正された各周波数成分の信号(波形)が出力される。遅延手段にとどまるイベント数(クランク角センサが信号を出力する回数)は、
Figure 2010059883
であり、回転数のマップとして記憶されている。
次に、ステップ604では、フィルタごとに用意された遅延手段から出力された信号は増幅手段131、132、‥‥で増幅される。増幅される倍率は、
Figure 2010059883
であり、回転数の関数として記憶されている。このようにして、図8(c)に示すように、燃焼トルクの各周波数成分(2次〜4次の成分)の波形が算出される。
次に、位相遅れが補正され、振幅が補正された信号である、燃焼トルクの各周波数成分の波形は、加算手段141で足し合わされて(全ての波形が合成されて)、図8(d)に示す燃焼トルクτが算出される。
以上のような燃焼トルク推定装置によって、クランク角センサの信号から、数4に示す関係式に従い燃焼トルクの瞬時値が推定される。
〔第二実施形態〕
図10は、本発明に係る第二実施形態に係るトルク推定装置の全体構成図である。
第一実施形態では、フィルタリング手段111,112ごとに数6、数7に基づいて遅延量(位相遅れ)と倍率(増幅率)を求めたが、慣性項に比べて減衰項はかなり小さいと考えてよい場合が多い。つまり、
Figure 2010059883
と表せる場合が多い。この場合は、数6で示される位相遅れは、
Figure 2010059883
と近似でき、数7で示される倍率は、
Figure 2010059883
と近似できる。
したがって、第二実施形態では、図10に示すように、遅延手段121、122、‥の遅延量は回転数に依存せず一定で、第一の増幅手段(振幅補正手段)131、132、‥の増幅率を各フィルタ毎にnJ(各周波数成分に対応した一定の補正係数)をかけて(nJ倍して)補正を行い、加算手段(燃焼トルク波形算出手段)141で、これらの周波数成分を加算してから第二の増幅手段(トルク波形補正手段)201で回転数fをかけること、すなわち、加算手段(トルク波形合成手段)141により算出された燃焼トルクを、前記内燃機関の回転数fに基づいて補正することにより、計算量が大幅に削減できる。
〔第三実施形態〕
図11は、本発明に係る第三実施形態に係るトルク推定装置の全体構成図である。
第一実施形態では、クランク角センサ33の信号を回転速度算出手段101にて処理してΔθの回転所要時間Δtを算出し、Δθ/Δtによりクランク軸17の回転速度を算出していた。このかわりに、第三実施形態では、直接クランク軸17の回転速度を計測している。
具体的には、図11に示すように、図4に示す第一実施形態のトルク推定装置100Aに係る内燃機関1に、回転速度センサ34を加えたものである。回転速度センサ34として、例えば直流発電機を用いれば、回転速度に比例した電圧が発生する。この場合、従来のクランク角センサ33からの信号は、フィルタ内に記憶されるデータを更新するタイミングをとるために利用される。つまり、クランク角センサの信号が閾値を上から下に横切るとき、フィルタ内のデータは更新される。
このような実施形態をとるのは、第一実施形態のように、Δθ/Δtを算出すると、Δtの精度をかなり良くしないとエンジン回転速度ωは正確にもとまらない場合がある。直接エンジン回転速度を求めるのなら、それほどの精度はいらない。そこで、ここでは回転速度センサ34を用いることで、Δtへの要求精度を緩和することができ、トルク推定にかかる演算処理を軽減することができる。
〔第四実施形態〕
本発明に係る第四実施形態に係るトルク推定装置を含む燃焼エネルギー推定装置の全体構成図である。第一実施形態〜第三実施形態は、燃焼トルクの瞬時値を求めるものであった。気筒ごとの燃焼トルクがわかっていれば、これを1エンジンサイクル分積分することでエンジンの燃焼エネルギーが求められる。本実施形態では、図12のような構成で、エンジンの燃焼エネルギーを求める。
図12は、第四実施形態の燃焼エネルギー推定装置100Dを示した図であり、この燃焼エネルギー推定手段100Dは、図4に示す第一実施形態のトルク推定装置100Aに、クランク角度算出手段171、積分手段151、及び、燃焼エネルギー算出手段161をさらに備えたものである。
クランク角度算出手段171は、内燃機関1の吸気弁15または排気弁18のカム軸の角度を検出するカム角センサ35とクランク角センサ33の出力信号からクランク軸17の角度を算出している。具体的には、クランク角度算出手段171は、内燃機関1の吸気弁15又は排気弁18に配置されたカム軸24に対して、その回転角度を検出するカム角センサ35の信号を検出する。そして、各気筒20のカム軸のカム角が示す、ピストン12の上死点23の位置と、クランク角センサ33による回転角度の情報から、クランクの角度を算出している。このクランク角度を算出する目的は、各気筒を判別し、推定された燃焼トルクから、各気筒ごとにおける燃焼エネルギーを算出するための時間的なパラメータとして用いるためである。
積分手段151は、クランク角度算出手段171で算出されたクランク角度に応じて変化する前記燃焼トルクを積分している。具体的には、所与のクランク角からクランク角まで、燃焼トルクの瞬時値を積分している。
燃焼エネルギー算出手段161は、あらかじめ与えた積分値と燃焼エネルギーの対応関係から燃焼エネルギーを算出している。積分する積分区間の考え方を、図2に戻り説明する。前述したように、図2は、第3気筒、第4気筒、第1気筒、第2気筒の順番で爆発しているときの筒内圧(図2(b))、燃焼トルク(図2(c))、クランク軸回転速度(図2(d))を表している。
例えば、第4気筒の燃焼エネルギーを求めるには、積分手段151は、この気筒の筒内圧が、他のすべての気筒(第1気筒から第3気筒)の筒内圧に比べて高い(最も大きい)θ4sからθ4eまで区間を積分するように設定されており、この積分区間における燃焼トルクを積分する。筒内圧を測定できる場合にはその測定値に基づいて、この区間を前記条件により設定してもよい。
別の言い方をすれば、積分区間の開始点は圧縮行程の所定の時点に設定され、終了点は爆発行程の所定の時点に設定される。この区間の燃焼トルクは、第4気筒の寄与が大きく、燃焼トルクの合計≒第4気筒の燃焼トルク、と近似できる。
燃焼エネルギーを求めるには1エンジンサイクル分の燃焼トルクを積分する必要があるが、[θ4s、θ4e]のみの積分値Wseをもとめておいて、積分値と燃焼エネルギーWの関係から第4気筒の燃焼エネルギーを求める。多くの場合、WseとWは、直線の関係で近似できるので、燃焼エネルギー算出手段には、直線の傾きと切片を記憶しておけばよい。
このように、第一〜第三実施形態のいずれかで算出された燃焼トルクを、筒ごとに設定された前記クランク角度の積分区間に基づいて積分し、この積分された値を、所定の対応関係を示す直線関係等の関係式で変換することで、各気筒の燃焼の燃焼エネルギーが算出できる。
以上、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
第一実施形態に係るトルク推定装置により燃焼トルクを推定する対象となる内燃機関の模式図。 図1に示すクランク角センサの配置および検出方法を説明するための図。 図1に示す吸気・圧縮・爆発・排気の4つのサイクルにおける筒内圧Pi、燃焼トルクτ、クランク軸の回転速度ωの関係を示した図であり、(a)は、第1気筒の筒内圧を示す図であり、(b)は、第3気筒、第4気筒、第1気筒、第2気筒の順番で爆発しているときの筒内圧を波形で示した図であり、(c)は、(b)から近似される燃焼トルクの波形を示した図であり、(d)は、時間変化するクランク軸回転速度ωを波形で示した図。 図1に示す内燃機関1の燃焼エネルギーを説明するための図。 図1に示す内燃機関のトルク推定装置の全体構成図。 クランク角センサの出力信号を示した図。 図5に示すトルク推定装置により燃焼トルクを推定する方法を説明するフローチャート。 図7に示すフローチャートに基づいて推定される燃焼トルクを説明するための図であり、(a)はクランク軸の回転速度の波形を表す図、(b)各周波数成分の波形を表す図、(c)燃焼トルクの各周波数成分の波形を表す図、(d)燃焼トルクの波形を表す図。 本実施形態のフィルター係数をの一例を説明するための図。 本発明に係る第二実施形態に係るトルク推定装置の全体構成図。 本発明に係る第三実施形態に係るトルク推定装置の全体構成図。 本発明に係る第四実施形態に係るトルク推定装置を含む燃焼エネルギー推定装置の全体構成図。
符号の説明
1:内燃機関、12:ピストン、13:吸気弁、14:スロットル、15:インジェクタ、16:点火プラグ、17:クランク軸、18:排気弁、20:気筒、22:下死点、23:上死点、33:クランク角センサ、34:回転角センサ、100A〜100C:トルク推定装置、100D:燃焼エネルギー推定装置、111,112:フィルタリング手段(波形分解手段)、121,122:遅延手段(位相遅れ補正手段)、131,132:増幅手段(振幅補正手段)、141:加算手段(燃焼トルク波形算出手段)、171:クランク角度算出手段、151:積分手段、161:燃焼エネルギー算出手段、201:第二の増幅手段(トルク波形補正手段)

Claims (9)

  1. 内燃機関のクランク軸の回転速度から、前記内燃機関の燃焼トルクを推定する内燃機関のトルク推定装置であって、
    該トルク推定装置は、前記回転速度の波形をフィルタリングすることにより、前記回転速度の波形を前記内燃機関の燃焼に同期した周波数成分の波形と、該周波数の自然数倍の周波数成分の波形と、に周波数分解する波形分解手段と、
    前記内燃機関の回転数に基づいて、前記各周波数成分の波形に対する前記燃焼トルクの波形の位相遅れを算出し、該位相遅れに基づいて前記各周波数成分の波形を補正する位相遅れ補正手段と、
    前記内燃機関の回転数に基づいて、前記位相遅れが補正された前記各周波数成分の波形の振幅を補正する振幅補正手段と、
    前記振幅が補正された前記各周波数成分の波形を重ね合わせて前記燃焼トルクの波形を算出する燃焼トルク波形算出手段と、
    を備えることを特徴とする内燃機関のトルク推定装置。
  2. 内燃機関のクランク軸の回転速度から、前記内燃機関の燃焼トルクを推定する内燃機関のトルク推定装置であって、
    該トルク推定装置は、前記回転速度の波形をフィルタリングすることにより、前記回転速度の波形を前記内燃機関の燃焼に同期した周波数成分の波形と、該周波数の自然数倍の周波数成分の波形と、に周波数分解する波形分解手段と、
    前記内燃機関の回転数に基づいて、前記燃焼トルクの波形に対する前記各周波数成分の波形の位相遅れを算出し、該位相遅れに基づいて前記各周波数成分の波形を補正する位相遅れ補正手段と、
    前記各周波数成分に対応した一定の補正係数で、前記位相遅れが補正された前記各周波数成分の波形の振幅を補正する振幅補正手段と、
    前記振幅が補正された前記各周波数成分の波形を重ね合わせて前記燃焼トルクの波形を算出する燃焼トルク波形算出手段と、
    前記内燃機関の回転数に基づいて、前記燃焼トルクの波形の振幅を補正するトルク波形補正手段と、を備えることを特徴とする内燃機関のトルク推定装置。
  3. 前記トルク推定装置は、前記クランク軸に取付けられたクランク角センサの出力信号から、前記回転速度を算出する回転速度算出手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関のトルク推定装置。
  4. 前記波形分解手段は、前記クランク軸に取付けられた回転速度センサで検出された回転速度の波形を、周波数分解することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の内燃機関のトルク推定装置。
  5. 前記回転速度センサは、直流発電機であることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関のトルク推定装置。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載の燃焼トルク推定装置を備え、前記燃焼トルクから各気筒の燃焼エネルギーを推定する燃焼エネルギー推定装置であって、
    該燃焼エネルギー推定装置は、前記内燃機関の吸気弁または排気弁のカム軸の角度を検出するカム角センサと前記クランク角センサとの出力信号からクランク軸の角度を算出するクランク角度算出手段と、
    前記クランク角度に応じて変化する前記燃焼トルクを積分する積分手段と、
    該積分した値に基づいて各気筒の燃焼エネルギーを算出する燃焼エネルギー算出手段と、を備えることを特徴とする燃焼エネルギー推定装置。
  7. 前記積分手段は、前記気筒ごとに前記クランク角度の積分区間を設定し、該積分区間に基づいて、前記燃焼トルクを積分し、前記各気筒の燃焼エネルギーを算出することを特徴とする請求項6に記載の燃焼エネルギー推定装置。
  8. 前記気筒において設定されたクランク角度の積分区間は、前記気筒の筒内圧が他のすべての気筒の筒内圧に比べて高い筒内圧となる区間であることを特徴とする請求項7に記載の燃焼エネルギー推定装置。
  9. 前記クランク角度の積分区間は、圧縮行程の時点から爆発行程の時点までの区間であることを特徴とする請求項7に記載の燃焼エネルギー推定装置。
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