JP2010057364A - 蛍光共鳴エネルギー移動を用いたdnaとdna結合性タンパク質の相互作用の検出方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 蛍光標識DNAのブラウン運動の速さの変化の測定によるDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用の検出方法に於いて、1本鎖の蛍光標識DNAの残留物又は試料中の自家蛍光を発する物質の存在によらず、信頼性の高い蛍光測定結果が得られるようにすること。
【解決手段】 本発明の方法は、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAと被検試料を混合し、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて測定用試料溶液を励起し蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長の光を観測することにより測定用試料溶液の蛍光強度を測定し、その蛍光強度の時間変化に基づいて測定用試料溶液中の2本鎖DNAの運動の速さがその2本鎖DNAと同一の長さのDNAが単独で運動している場合に比して遅くなったか否かを判定する。
【選択図】 図1
【解決手段】 本発明の方法は、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAと被検試料を混合し、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて測定用試料溶液を励起し蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長の光を観測することにより測定用試料溶液の蛍光強度を測定し、その蛍光強度の時間変化に基づいて測定用試料溶液中の2本鎖DNAの運動の速さがその2本鎖DNAと同一の長さのDNAが単独で運動している場合に比して遅くなったか否かを判定する。
【選択図】 図1
Description
本発明は、蛍光分析を用いてDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用を検出する方法に係る。
2本鎖DNAに結合するDNA結合性タンパク質は、種々の生理現象に於いて、DNAと相互作用して、遺伝子の発現の制御する重要な役割を担っていると考えられている。例えば、出芽酵母のDNAの複製過程に於いては、ORC(複製オリジン認識複合体、タンパク質)がDNAの複製起点に結合し、これを足場として、別のタンパク質pre−RC(複製前複合体、タンパク質)がDNAに結合し、DNA鎖伸長反応による複製が進行していくことが知られている(非特許文献1)。また、マウスの個体発生における骨芽細胞分化及び骨形成の過程に於いては、転写因子Runx2(タンパク質)がDNAに結合し、別の転写因子Osx(タンパク質)によるDNAの転写を促進すると考えられている(非特許文献2)。更に、免疫応答に於いては、細胞外ドメインにロイシンリッチリピート構造を有するTLR9(膜受容体タンパク質)が細菌由来の非メチル化CpGモチーフを持つDNAと結合してインターフェロンを誘導することも知られている。近年、上記の如き遺伝子の発現制御に於けるDNA結合性タンパク質とDNAとの相互作用の役割が注目され、かかる相互作用をより詳細に研究する試みがなされ、更に、医学、薬学の分野に於いては、かかる相互作用を、新規な薬剤又は病気の治療方法に、或いは、病態や健康状態に関する臨床検査に応用しようとする試みも為されている。
そのようなDNA結合性タンパク質とDNAの相互作用に関する研究やかかる相互作用を薬剤・治療方法等に応用する現場に於いて、DNA結合性タンパク質とDNAの相互作用の有無の検出、相互作用の強さ又は特異性などを、任意の条件において特徴付けるための方法は、下記の如く、種々提案されている。例えば、特許文献1には、ビーズ上に固相化した2本鎖DNAとDNA結合性タンパク質の相互作用を検出する方法が提案されている。また、非特許文献4に於いては、放射性標識した2本鎖DNAとDNA結合性タンパク質の反応液を電気泳動することにより、相互作用の有無を検出する方法(「ヌクレアーゼプロテクションアッセイ」)が記載されている。更に、本願出願人による特許文献2及び非特許文献5に於いては、蛍光標識された短い(約50bp以下)DNA断片と任意のタンパク質と混合し、蛍光標識されたDNAの運動の速さの変化を検出することにより(これらの文献では特に蛍光相関分光法が採用されている。)、混合されたDNAとタンパク質とが結合するか否か、即ち、相互作用するか否かを検出するともに(DNAとタンパク質とが結合すると、DNA上の蛍光標識のブラウン運動の速さが遅くなる)、DNAとDNA結合性タンパク質の結合の強さ(解離定数)を決定することが示されている。
上記の特許文献2及び非特許文献5に記載の如き蛍光標識DNAのブラウン運動の速さの変化を測定することによるDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用の検出・測定方法は、比較的少ない手間で、簡便に相互作用の有無や強度、特異性などを特徴付けることが可能である。特許文献1や非特許文献4に記載のDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用を検出する手法が、DNAの固相化、電気泳動などの処理操作が煩雑で時間を要し、放射性物質や神経毒性を持つアクリルアミドの使用といった安全性に特に注意を要する処理過程を含むといった不具合があるのに対し、蛍光標識DNAのブラウン運動の速さの変化の測定では、相互作用の検出する段階に於ける処理が、「Mix&Measure」という言葉で紹介されるように、蛍光標識されたDNAと任意のタンパク質試料を混ぜて蛍光測定を行うだけなので(測定に要する時間は、数秒から十数秒間程度でよい。測定結果の解析は、コンピュータにより容易に実行できる。)、測定者に熟練した測定処理技術を要することはなく、検出・測定の操作手順を標準化しやすいという利点を有する。また、蛍光相関分光法の場合には、数十μl程度の微少量の試料だけで測定が実行できるので、検査・測定に要する試料量も従前の方法に比べて大幅に低減できる。これら蛍光標識DNAのブラウン運動の速さの変化の測定による方法の利点は、例えば、新規な薬剤の開発又は薬剤として使用できる物質の探索に於いて多数の被検物質についてDNAと被検物質(DNA結合性タンパク質)の相互作用をスクリーニングする場合や、臨床検査に於いて多数の患者から収集された検体を短時間で検査する場合など、相互作用の有無や強さについて検査されるべき試料が多い場合に特に有利である。
特開2001−321199公報
特開2005−006566公報
浴俊彦他、2004年、羊土社発行「キーワードで理解するシグナル伝達イラストマップ第2部[キーワード解説]生命現象からみたシグナル伝達因子 3.DNA複製・修復」、69-83頁
田中栄他、2004年、羊土社発行「キーワードで理解するシグナル伝達イラストマップ第2部[キーワード解説]生命現象からみたシグナル伝達因子 21.骨代謝」、251-259頁
改正恒康他、2005年、羊土社発行、実験医学増刊、「解明が進むウイルス・細菌感染と免疫応答 第3章 病原体感染に対する免疫応答メカニズム 2.核酸成分を認識するTLRによる感染防御機構および自己免疫疾患との関係」、134-140頁
マイケル等、1993年、ジーントランスクリプション:プラクティカルアプローチ、229−276頁
コバヤシ外3名、アナリティカル・バイオケミストリー、2004年 332巻 58−66頁
カルデュッロ外4名、1988年、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシィス・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、85巻、8790-8794頁
リーグラ及びエルソン、2000年 「蛍光相関分光法 理論と応用」204-224頁 (R. Riegler and E.S. Elson(2000) "Fluorescence Correlation Spectroscopy Theory and Application" p.204-224 10. Nanoparticle Immunoassays: A New Method for Use in Molecular Diagnosis and High Throughput Pharmaceutical Screening based on Fluorescence Correlation Spectroscopy)
ところで、蛍光相関分光法の如き蛍光標識DNAのブラウン運動の速さの変化の測定によるDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用の検出・測定方法に於いてプローブとして使用される蛍光標識されたDNAは、一般的には、人工的に1本鎖のDNAに蛍光色素が付加されたものを合成した後、1本鎖の蛍光標識DNAを2本鎖のDNAにするべくアニーリング処理することにより調製される。そして、2本鎖に成れなかった1本鎖のDNAは、もしそれらが試料に残存すると蛍光測定に於いて誤差の原因となるので、酵素処理によりモノヌクレオチドへ分解され、除去される。しかしながら、かかる1本鎖のDNAの除去は、通常3−4時間程度の時間を要するとともに、酵素処理には、熟練した技術を要する。又、1本鎖のDNAの除去処理中に或る程度の量の2本鎖DNAも損失してしまう。即ち、現在のところ、蛍光標識DNAのブラウン運動の速さの変化の測定による相互作用の検出・測定方法は、蛍光測定の過程そのものは、迅速に実行できるが、測定のためのプローブとして使用される蛍光標識されたDNAの調製のために、測定そのものよりも非常に長い時間を要し、1本鎖のDNAの除去処理により損失される2本鎖DNAの量を見越して1本鎖の蛍光標識DNAを準備する必要がある。
また、創薬や臨床検査に於いて用いられる生体試料や薬剤の候補物質は、自家蛍光を発する物質を含んでいることが多い。もしそのような自家蛍光を持つ物質の励起・蛍光波長特性が、DNAの蛍光標識の波長特性に近似していたとすると、かかる自家蛍光が蛍光測定に於いてノイズとなり、測定結果に誤差を生ずる原因と成り得る。
従って、もし測定試料中に1本鎖の蛍光標識DNAや自家蛍光を発する物質が残留していても、検出・測定結果がそれらの残留物の影響をより低くでき、これにより、測定結果の誤差を低減できる方法があれば、上記の如き1本鎖のDNAの除去処理を行う必要はなくなり、また、測定結果の信頼性を向上されることとなろう。
かくして、本発明の一つの課題は、上記の如き蛍光標識DNAのブラウン運動の速さの変化の測定によるDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用の検出・測定方法であって、1本鎖の蛍光標識DNAの残留物又は試料中の自家蛍光を発する物質の存在によらず、信頼性の高い蛍光測定結果が得られるよう改良された方法を提供することである。
また、本発明のもう一つの課題は、蛍光相関分光法によるDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用の検出・測定方法を改良して、検査に要する時間と試料量又は費用を節約することである。
上記の課題は、本発明によれば、DNAと結合する物質を検出する方法又はDNAとDNA結合性タンパク質の結合の強さを測定する方法に於いてプローブとして用いられる蛍光標識された2本鎖DNAとして、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識されたものを採用することにより達成される。
本発明の一つの態様によれば、本発明のDNAと結合する物質を検出する方法は、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAとその2本鎖DNAと結合するか否かが判定されるべき被検物質とを含む測定用試料溶液を調製する過程と、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて測定用試料溶液を励起し蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長の光を観測することにより測定用試料溶液の蛍光強度を測定する過程と、その蛍光強度の時間変化に基づいて測定用試料溶液中の2本鎖DNAの運動の速さがその2本鎖DNAと同一の長さのDNAが単独で運動している場合に比して遅くなったか否かを判定する過程とを含み、測定用試料溶液中の2本鎖DNAの運動の速さが遅くなったと判定された場合には、被検物質が2本鎖DNAに結合したと判定することを特徴とする。なお、蛍光強度の測定は、蛍光標識が担持されている分子の運動の速さの変化が分かる測定方法であれば、任意のものであってよく、特許文献2に記載されている如き蛍光相関分光法、或いは、蛍光偏光解消法であってもよい。蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素の組み合わせは、例えば、ドナーとしてTAMRA(カルボキシメチルローダミン)を用い、アクセプターとしてAlexa647等が用いられてよいが、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素の組み合わせとして、この分野に於いて知られている任意の組み合わせであってよい。
上記の本発明の方法は、基本的な処理操作は、特許文献2に記載されている如き方法と同様に、単に蛍光標識された2本鎖DNAと、それに結合するか否かが判定されるべきタンパク質等の被検物質とを混合し、蛍光測定を行うだけでよい。蛍光標識された2本鎖DNAと被検物質とが結合すれば、2本鎖DNAの運動が遅くなり、そのことが2本鎖DNAに担持された蛍光標識からの蛍光強度の時間変化に反映され、かくして、2本鎖DNAと被検物質との結合の有無が検出される。しかしながら、本発明に於いては、被検物質がDNAに結合するものであるか否かを判定するためのDNAプローブとして、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識されたものを用いることにより、励起光と、測定する蛍光との波長帯域が離れ、これにより、蛍光強度に於いてプローブの2本鎖DNA以外からの物質から発せられる蛍光の寄与が混在してくる可能性が低減され、かくして、蛍光強度に於けるノイズや誤差を低減することができることとなる。
上記の本発明の方法の構成に於いて、より好ましくは、プローブとして用いられる2本鎖DNAは、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して形成された2本鎖DNAである。かかる2本鎖DNAをプローブとして用いる場合、仮に、プローブの2本鎖DNA試料中に、蛍光標識された1本鎖DNAが残留していても、本発明の構成に於いては、蛍光測定の際、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて測定用試料溶液を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長に於ける測定用試料溶液の蛍光強度を測定することになるので、2本鎖を形成していないDNAからの蛍光強度は、測定値に殆ど寄与しないこととなる。即ち、プローブの2本鎖DNA試料中に於ける1本鎖DNAを除去しなくても、ノイズ又は誤差の少ない測定結果が得られることとなる。従って、本発明の方法の実施するに当たっては、例えば、測定用試料溶液を調製する過程に於いて、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAを形成する過程と、その2本鎖DNAを含む二種類の1本鎖DNAを混合してなる混合物と被検物質とを混合する過程とを行うようにするだけでよく、被検試料中に1本鎖DNAが残留していても気にする必要はないのである。
更に、上記の本発明の構成に於いては、蛍光強度の時間変化に基づいて2本鎖DNAの運動の速さの指標を算出する過程と、速さの指標と2本鎖DNAの濃度と前記被検物質の濃度とに基づいて前記2本鎖DNAと前記被検物質との解離定数を算出する過程とを含んでいてよい。その場合、特に、2本鎖DNAの濃度と被検物質の濃度の少なくとも二つの組み合わせにて蛍光強度の測定を行い、蛍光強度の時間変化に基づいて少なくとも二つの濃度の組み合わせの各々について2本鎖DNAの速さの指標を算出し、2本鎖DNAと前記被検物質との解離定数を算出するようにしてよい。2本鎖DNAの速さの指標としては、蛍光測定が蛍光相関分光法による場合には、後に説明される如き並進拡散時間であってよい。又、蛍光測定が蛍光偏光解消法による場合には、偏光度であってよい。かかる構成によれば、ノイズ又は誤差の少ない蛍光強度の測定結果に基づいて解離定数が得られ、従って、2本鎖DNAと被検物質との結合の強さを信頼性良く見積もることができることとなる。その際、溶液の条件を種々変更して蛍光測定を行ってもノイズ又は誤差の少ない蛍光強度の測定結果が得られることが期待され(例えば、試料中にpHやイオン強度で蛍光強度が変化する夾雑物があってもそれらの蛍光強度の測定への寄与は低減されているので)、2本鎖DNAと被検物質との結合の強さの変化も従前に比して信頼性よく観測できるであろう。
なお、上記の本発明の一つの態様は、或る被検物質が2本鎖DNAのプローブと結合するか否かを判定するものであるが、或る任意の被検試料が2本鎖DNAと結合するDNA結合性タンパク質を含むか否かが判定する場合にも用いることができる。その場合、測定用試料溶液は、2本鎖DNAのプローブとその2本鎖DNAと結合するDNA結合性タンパク質を含むか否かが判定されるべき被検試料とを混合することにより調製され、蛍光測定の結果の解析により、測定用試料溶液中の2本鎖DNAの運動の速さが遅くなったと判定された場合には、被検試料がDNA結合性タンパク質を含んでいると判定されることとなる。
更に、上記の本発明の方法の構成に於けるプローブとして用いられる蛍光標識された2本鎖DNAとして、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識されたものを採用するという特徴は、既にDNAと結合が分かっているDNA結合性タンパク質について、その結合の強さを見積もるべく、解離定数を決定する場合にも有利に用いられる。従って、本発明のもう一つの態様によれば、DNAとDNA結合性タンパク質の解離定数を決定する方法であって、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAとDNA結合性タンパク質とを含む測定用試料溶液を調製する過程と、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて測定用試料溶液を励起し蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長の光を観測することにより測定用試料溶液の蛍光強度を測定する過程と、蛍光強度の時間変化に基づいて2本鎖DNAの運動の速さの指標を算出する過程と、速さの指標と2本鎖DNAの濃度とDNA結合性タンパク質の濃度とに基づいて2本鎖DNAとDNA結合性タンパク質との解離定数を算出する過程とを含むことを特徴とする方法が提供される。
上記の如くDNAとDNA結合性タンパク質の解離定数を決定する場合も、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAは、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して形成された2本鎖DNAであってよく、測定用試料溶液を調製する過程に於いて、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAを形成する過程と、その2本鎖DNAを含む二種類の1本鎖DNAを混合してなる混合物と前記のDNA結合性タンパク質とを混合する過程とが含まれていてよい。蛍光強度の測定は、蛍光相関分光法により為されてよい。
本発明の方法は、上記の説明から理解されるように、プローブとして、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAを用い、試料をドナーの励起波長の光で励起してアクセプターの発光波長で試料の蛍光を検出することにより、検出される蛍光強度に於いて、蛍光共鳴エネルギー移動が起きた結果に生ずる蛍光、即ち、プローブからの蛍光、以外の夾雑物からの蛍光を排除しようとするものであると言える。かかる特徴によれば、生体由来の試料など、種々の自家蛍光を発する物質が含まれている試料であっても、従前の方法に比して信頼性良く、DNAと試料中の物質との結合若しくは相互作用の有無又は結合の強さを観測することが可能となり、DNAとDNA結合性タンパク質の相互作用の検出方法が、より広範囲の臨床検査や薬剤のスクリーニングに応用できることとなろう。
また、特に、2本鎖DNAのプローブを、蛍光共鳴エネルギー移動に於けるドナーを付加した1本鎖DNAとアクセプターを付加した1本鎖DNAとを混合して調製する場合には、上記の如く、2本鎖DNAに成らなかった1本鎖DNAを除去する必要がなくなるので、蛍光標識されたDNAプローブの調製が簡単化される。従って、本発明の方法によれば、従前に比して、熟練した技術を要せずにDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用の有無又はその強さを検出することが可能となり、臨床検査や薬剤のスクリーニングの用途に於いて、誰でも比較的簡単に測定が実施できるよう処理操作を標準化することが可能となるであろう。
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の方法の好ましい実施形態に於ける処理に於いて想定される分子の状態の変化を模式的に示したものである。
図1を参照して、本発明の方法の実施を開始する当たり、蛍光色素にて標識された2本鎖DNAであるプローブDNAが準備される(図1(A)〜(C))。後に説明される蛍光測定の際、試験試料中の物質又はDNA結合性タンパク質とプローブDNAが結合したか否かは、プローブDNAの運動の速さの変化から判定されることとなるので、プローブDNAの大きさ(即ち、塩基数)は、DNAと結合するか否かが検査される被検物質、又は、DNAと結合すると想定される試験試料中のDNA結合性タンパク質の大きさよりも小さい方が好ましい。典型的には、DNAの長さは、合成のコスト及び検出の容易さから、好ましくは、10〜100merであり、より好ましくは20から40merである。
プローブDNAには、本発明に於いては、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光標識として蛍光色素が付加されている(図1(C))。かかるDNAを蛍光共鳴エネルギー移動に於けるドナーの蛍光色素の吸収波長の光で励起すると、ドナーで吸収されたエネルギーは、アクセプターへ移動し、アクセプターの発光波長の蛍光が放出されることとなる。この点に関し、DNAに於いて異なる蛍光色素を付加して蛍光共鳴エネルギー移動を発生させるためには、非特許文献6の知見によれば、蛍光色素の種類にも依るが、典型的には、ドナーの発光波長スペクトルの波長帯域とアクセプターの吸収波長スペクトルの波長帯域が重複し、且、ドナーの蛍光分子とアクセプターの蛍光分子のDNA上の距離が10bp以内になっていればよいことが見出されている。また、蛍光共鳴エネルギー移動を高効率に発生させるには、蛍光色素は、高い蛍光量子収率を有し、光消光を起こしにくく、又、三重項状態を生成しにくいものであることが望ましく、また、ドナーの発光波長帯域とアクセプターの吸収波長帯域との重複が大きければ大きいほどよい。そのような蛍光色素のドナーとアクセプターの組み合わせとしては、例えば、TAMRAとAlexa Fluoro 647、Rhodamine GreenとTAMRA、Alexa Fluoro 546とEVOblue50などが挙げられるが、これらに限定されない。
上記の如きプローブDNAの調製に於いては、好ましくは、まず、当業者にとって任意の公知の方法により、ドナーとなる蛍光色素が付加された1本鎖オリゴヌクレオチド(DNA)(図1(A))と、アクセプターとなる蛍光色素が付加された1本鎖オリゴヌクレオチド(図1(B))とがそれぞれ合成される。その際、既に述べた如く、蛍光共鳴エネルギー移動を発生させるために、1本鎖DNAが会合した際に、ドナーとアクセプターとが10bp以内に位置するよう、各々の1本鎖の塩基配列と色素の付加する位置は、予め設計される。そして、かくして調製されたそれぞれの1本鎖オリゴヌクレオチドは、互いに等モル量になるよう混合され、当業者にとって公知の態様にて(温度を変化させるなどして)アニーリング処理され、2本鎖DNAの調製が完了する(図1(C))。なお、「発明の開示」の欄に於いて述べた如く、本発明の場合、蛍光測定に於いて、ドナーの吸収波長帯域の励起光で試料を励起し、アクセプターの蛍光波長帯域の光の強度を観測するので(ドナーの発光波長帯域の光は、フィルター等により遮断される。)、観測される蛍光は、実質的には、蛍光共鳴エネルギー移動を発生している蛍光標識からの蛍光だけとなる。従って、プローブ試料として用いられる2本鎖DNA試料中に、未会合の1本鎖DNAが残留していてもよく、従前では必要であった1本鎖DNAの除去処理、即ち、未会合の1本鎖DNAのモノヌクレオチドへの分解及びモノヌクレオチドの除去、を行わなくてよいということは理解されるべきである。これにより、測定者に要求される処理操作が低減され、また、1本鎖DNAの除去処理に要する時間(通常、3−4時間)が節約されることとなる。
上記のプローブDNA試料は、調製された後、プローブDNAと結合するか否かが検査される被検物質若しくはそのような物質(DNA結合性タンパク質)を含んでいるか否かが検査される被検試料、又は、プローブDNAとの結合の強さが検査されるDNA結合性タンパク質(以下、これらを総じて「被検物質」と称する。)と混合され、測定用試料溶液が調製される(図1(D))。プローブDNAの濃度は、典型的には、0.5nM〜10nM程度であってよい。プローブDNAと結合するか否かが検査される被検物質又はそのような物質を含む被検試料は、血清サンプル又はその他の生体から得られたら任意の液体であってよい。また、生体から得られた体液そのものではなく、或るタンパク質についてその純度又は濃度が高くなるよう精製された試料であってもよい。また、DNA結合性タンパク質の解離定数(結合の強さ)を測定する場合には、任意の方法にて精製されたタンパク質を任意の水溶液に溶解又は分散した溶液が用いられてよい。タンパク質は、無細胞タンパク質合成法などを用いて調製したものであってもよい。測定用試料溶液の組成、反応時間(試料の混合から蛍光測定を開始するまでの時間)、反応温度等の条件は、検出しようとするDNAとDNA結合性タンパク質の相互作用によって任意に設定される。後に説明する蛍光測定は、数十μlの溶液量にて実行できるので、試料は、従前の電気泳動等を用いる場合に比して極めて微量でよいことは理解されるべきである。
被検物質がプローブDNAと結合する性質を有している場合には、図2(D)に模式的に示されている如く、測定用試料溶液中で被検物質がプローブDNAと結合し、従って、プローブDNAのブラウン運動は、被検物質に拘束され遅くなる。
かくして、測定用試料溶液の蛍光測定が行われる。蛍光測定は、共焦点顕微鏡の光学系とフォトンカウンティング(1光子検出)により光強度の検出を行う光検出装置とを組み合わせて、蛍光一分子からの蛍光強度を測定し、その時間変化又は揺らぎを解析して蛍光一分子の状態又は運動を観測する一分子蛍光分析システム(例えば、オリンパス社 MF−20)を用いて、蛍光標識されたプローブDNAの運動の早さの変化を検出することのできる蛍光相関分光法、蛍光偏光解消法などにより実行されてよい。
蛍光相関分光法では、微小の蛍光観察領域(共焦点顕微鏡の対物レンズの焦点領域)をブラウン運動により通過する分子の移動(並進運動)の速さが観測される。分子の並進運動の速さは、測定された蛍光強度の時間を変数とした自己相関関数の形状に反映される(図2参照)。分子の並進運動の速さの指標としては、測定開始時から自己相関関数の値が半分になるまでの時間の長さ(並進拡散時間)が用いられる。分子の移動は、分子の大きさが小さいほど、速くなるので、並進拡散時間が短くなる。本発明の場合、プローブDNAに被検物質が結合すると、プローブDNAの運動が遅くなり、従って、並進拡散時間が長くなるので、並進拡散時間の変化からプロープDNAの運動の速さの変化、従って、プローブDNAと被検物質の結合の有無を検出することができる。
蛍光偏光解消法では、この分野に於いて知られている如く、分子の回転ブラウン運動(自転)の速さが観測される。分子の回転運動の速さは、測定された蛍光の縦偏光と横偏光の強度の割合又は偏光度に反映される。分子の回転は、分子の大きさが大きいほど、遅くなるので、偏光度が大きくなる。本発明の場合、プローブDNAに被検物質が結合すると、プローブDNAの運動が遅くなり、従って、偏光度が上がるので、偏光度の変化から、プロープDNAの運動の速さの変化、従って、プローブDNAと被検物質の結合の有無を検出することができる。なお、蛍光偏光解消法による測定は、蛍光相関分光法と同一の光学系を用いた二次元蛍光強度分散分析法により行われてよい。
上記の蛍光測定に於いて留意すべきことは、本発明では、プローブDNA上に於ける蛍光共鳴エネルギー移動の後に発せられる蛍光を検出するので、励起光の波長は、実質的にドナーの蛍光色素のみが励起され、アクセプターの蛍光色素が殆ど励起されないよう選択され、検出装置の受光の波長帯域は、ドナーの蛍光色素から直接発せられる蛍光が遮断され、アクセプターの蛍光色素からの発光波長のみが受光されるよう選択されるということである。具体的には、励起光の選択は、使用するレーザーの種類を選択することにより又は任意にバンドパス又はローパスフィルターを用いることにより為される。また、検出装置の受光の波長帯域は、バンドパス又はハイパスフィルター又は回折格子等を用いて選択されてよい。
蛍光強度の計測は、上記の如き一分子蛍光分析システムを用いる場合には、例えば、15秒の測定を5回行うなどして為されてよい。一分子蛍光分析システムは、時間の関数として得られた蛍光強度を自動的に解析して、並進拡散時間又は偏光度等を算出する。プローブDNAがフリーのときと比較して、並進拡散時間又は偏光度等がプローブDNAのブラウン運動の速さが低下した認められるときには、プローブDNAに被検物質が結合した判定することができる。
測定が、或る被検物質が2本鎖DNAと結合するか否かが判定するものである場合には、被検物質がプローブDNAに結合したと判定されたときには、被検物質がDNAに結合性を有するものであると判定される。また、測定が或る試料に於いて2本鎖DNAと結合する物質又はDNA結合性タンパク質を含んでいるか否かを判定するときには、プローブDNAに被検物質が結合したと判定されたときには、その試料中に2本鎖DNAと結合する物質又はDNA結合性タンパク質が含まれていたと判定される。
更に、プローブDNAと被検試料との相対的な量の比を種々変化させて上記の手順により、プローブDNAのブラウン運動の速さの指標を算出して、プローブDNAと被検試料との量比又は濃度比を関数とした指標の変化から解離定数(又は結合定数)を算出することができる(後述の実施例及び図3参照)。また、プローブDNAの濃度を種々変化させて蛍光測定を行い、プローブDNAのブラウン運動の速さの指標を算出し、プローブDNAの濃度の関数としてそのブラウン運動の速さの指標をプロットし、DNAとDNA結合性タンパク質の解離定数を用いてプロットに対して計量線をフィッティングすることにより、任意の被検試料中の被検物質又はDNA結合性タンパク質の濃度を推定することも可能である。
上記の蛍光測定に於いては、既に述べた如く、検出される蛍光強度は、ドナーから蛍光共鳴エネルギー移動により受け取ったエネルギーがアクセプターから放出されることにより発せられる蛍光であり、そのような光を発する分子は、測定用試料溶液中に於いて、よほど特別なことがない限り、プローブDNAに付加された蛍光色素であると考えられる。従って、上記の蛍光測定の検出結果に於いては、夾雑物から蛍光の寄与は、従前の方法(励起光により励起された蛍光色素からそのまま発せられる蛍光を検出する場合)に比して、通常、大幅に低減され、かくして得られた蛍光強度に基づいて解析されて得られた結果は、従前の方法よりもより信頼性のあるものであると考えられる。
なお、上記の方法に於いて、一つの一本鎖DNA上に二つの蛍光共鳴エネルギー移動を起す蛍光色素が付加されてもよいが、その場合には、会合しなかった蛍光標識された1本鎖DNAを、従前と同じ態様にて除去する必要がある。しかしながら、検出される蛍光強度は、蛍光共鳴エネルギー移動が生じた後に発せられる蛍光であるから、そのようにして得られた蛍光強度に基づいて解析されて得られた結果も、従前の方法よりもより信頼性のあるものであると考えられる。
上記に説明した本発明の有効性を検証するために、以下の実験を行った。なお、以下の実施例は、本発明の有効性を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
DNAプローブとDNA結合性タンパク質との結合の検出
本実施例では、蛍光相関分光法に従って、DNA結合性タンパク質の一種であるAP−1が結合する塩基配列を有するDNAをプローブとして、AP−1とプローブDNAとの相互作用の検出を行った。
本実施例では、蛍光相関分光法に従って、DNA結合性タンパク質の一種であるAP−1が結合する塩基配列を有するDNAをプローブとして、AP−1とプローブDNAとの相互作用の検出を行った。
プローブDNAは、蛍光共鳴エネルギー移動の際ドナーとなる蛍光色素TAMRAにて標識された塩基配列
5’-TAMRA-CGCTTGATGAGTCAGCCGGAA-3’
を有する1本鎖のオリゴヌクレオチドと、蛍光共鳴エネルギー移動の際アクセプターとなる蛍光色素AlexaFluoro647にて標識された塩基配列
5’-TTCCGGCTGACTCATCAAGCG-AlexaFluoro647-3’
を有する1本鎖のオリゴヌクレオチドを、それぞれ、最終濃度が5μMになるようにSTEバッファ(100mM NaCl+TEバッファ(10mM Tris-HCl(pH8.0)、1mM Na2EDTA))中で混合した。なお、上記二種類の1本鎖のオリゴヌクレオチドは、株式会社日本バイオサービス社が人工的に合成したものを用いた。次いで、オリゴヌクレオチドの混合液は、2本鎖DNAを形成するようアニーリング処理した。アニーリング処理に於いては、混合液を、MJ Research社のPeltier Thermal Cycler PTC-200で、95℃、5分間曝した後、温度を徐々に20℃まで下げた。
5’-TAMRA-CGCTTGATGAGTCAGCCGGAA-3’
を有する1本鎖のオリゴヌクレオチドと、蛍光共鳴エネルギー移動の際アクセプターとなる蛍光色素AlexaFluoro647にて標識された塩基配列
5’-TTCCGGCTGACTCATCAAGCG-AlexaFluoro647-3’
を有する1本鎖のオリゴヌクレオチドを、それぞれ、最終濃度が5μMになるようにSTEバッファ(100mM NaCl+TEバッファ(10mM Tris-HCl(pH8.0)、1mM Na2EDTA))中で混合した。なお、上記二種類の1本鎖のオリゴヌクレオチドは、株式会社日本バイオサービス社が人工的に合成したものを用いた。次いで、オリゴヌクレオチドの混合液は、2本鎖DNAを形成するようアニーリング処理した。アニーリング処理に於いては、混合液を、MJ Research社のPeltier Thermal Cycler PTC-200で、95℃、5分間曝した後、温度を徐々に20℃まで下げた。
アニーリング後の混合液は、DNAが2本鎖DNAであるとして、最終濃度が20nMになるようにSTEバッファで希釈し、2本鎖DNAの濃度を一定にして、種々の濃度のDNA結合性タンパク質AP−1(プロメガ社のrhAP-1(c-jun)を使用。)と混合し、下記の4つの測定用試料溶液を調製した。総量は、それぞれ30μlとした。
測定用試料溶液1
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 3μl
AP−1用溶媒バッファ 0μl
TEバッファ 24μl
測定用試料溶液2
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 1μl
AP−1用溶媒バッファ 2μl
TEバッファ 24μl
測定用試料溶液3
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 0.5μl
AP−1用溶媒バッファ 2.5μl
TEバッファ 24μl
測定用試料溶液4
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 0μl
AP−1用溶媒バッファ 3μl
TEバッファ 24μl
測定用試料溶液1
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 3μl
AP−1用溶媒バッファ 0μl
TEバッファ 24μl
測定用試料溶液2
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 1μl
AP−1用溶媒バッファ 2μl
TEバッファ 24μl
測定用試料溶液3
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 0.5μl
AP−1用溶媒バッファ 2.5μl
TEバッファ 24μl
測定用試料溶液4
アニーリング後DNA混合液 3μl
rhAP−1(0.3mg/ml) 0μl
AP−1用溶媒バッファ 3μl
TEバッファ 24μl
上記の測定用試料溶液は、混合後、室温にて、約10分静置した後、1分子蛍光分析システムMF−20を用いて、蛍光相関分光法により蛍光測定を行った。励起光は、波長543nmのレーザー光を用いた。また、受光器の前には、ドナーの蛍光を遮断するべく、ハイパスフィルター670DF40(670nm以上の波長の光を透過 OMEGA社)を配置した。MF−20に於ける蛍光強度の一回の測定時間を15秒とし、測定を5回繰り返した。しかる後、MF−20は、測定毎に時間の関数として蛍光強度の自己相関関数を計算し、並進拡散時間を算出し、次に5回の測定の平均値を算出した。その結果、それぞれの測定用試料溶液の並進拡散時間は、
測定用試料溶液1 423.9±1μ秒
測定用試料溶液2 321.7±35.8μ秒
測定用試料溶液3 325±16.5μ秒
測定用試料溶液4 279.3±21.5μ秒
であった。
測定用試料溶液1 423.9±1μ秒
測定用試料溶液2 321.7±35.8μ秒
測定用試料溶液3 325±16.5μ秒
測定用試料溶液4 279.3±21.5μ秒
であった。
上記の結果は、特許文献2及び非特許文献5の結果と同様に、AP−1の濃度が増大するほど、並進拡散時間が長くなることを示しており、DNAプローブに結合するAP−1の数が増えるとともに、DNAプローブの運動が遅くなることを示している。この結果は、蛍光共鳴エネルギー移動を起した後の蛍光を検出し解析することにより、DNA結合性タンパク質とDNAプローブとの結合、即ち、相互作用の有無を検出できることを示している。
DNA結合性タンパク質(AP−1)とDNAの解離定数の算出
実施例1と同様の手順にて、測定用試料溶液中のAP−1の濃度を更に細かく広範囲に変更して、蛍光強度の蛍光相関分光法による自己相関関数と並進拡散時間とを測定し、その結果に基づいてAP−1とDNAとの解離定数を算出した。
実施例1と同様の手順にて、測定用試料溶液中のAP−1の濃度を更に細かく広範囲に変更して、蛍光強度の蛍光相関分光法による自己相関関数と並進拡散時間とを測定し、その結果に基づいてAP−1とDNAとの解離定数を算出した。
図3は、DNA濃度を2nMとして、AP−1の濃度を変更して得た並進拡散時間の変化を示す。同図に示されている如く、AP−1の数が増えるともに急激に増大した後、約1050μ秒に達し飽和した。測定試料中に於いてDNAとAP−1との結合が、反応式
[AP−1濃度]・[DNA濃度]/[AP−1・DNA濃度]=Kd
(Kdは、解離定数)
に従うとすると、並進拡散時間が飽和に達したとき、全てのDNAプローブがAP−1に結合した状態であると考えられる。そこで、試料中で、DNAが、AP−1に結合していない状態と、AP−1と1対1に結合した複合体の状態との2状態のいずれかにて存在するとして、種々のAP−1濃度に於いて得られた自己相関関数が前記の2状態の各々の自己相関関数の重ね合わせとなるとのモデル(非特許文献7参照)に基づいて、Kd値を算出した。算出方法は、以下の通りである。
[AP−1濃度]・[DNA濃度]/[AP−1・DNA濃度]=Kd
(Kdは、解離定数)
に従うとすると、並進拡散時間が飽和に達したとき、全てのDNAプローブがAP−1に結合した状態であると考えられる。そこで、試料中で、DNAが、AP−1に結合していない状態と、AP−1と1対1に結合した複合体の状態との2状態のいずれかにて存在するとして、種々のAP−1濃度に於いて得られた自己相関関数が前記の2状態の各々の自己相関関数の重ね合わせとなるとのモデル(非特許文献7参照)に基づいて、Kd値を算出した。算出方法は、以下の通りである。
まず、測定試料中に於いて蛍光プローブの状態が2状態存在する場合、即ち、2成分の(規格化された)蛍光強度の自己相関関数は、
により与えられる。ここで、Nは蛍光分子の検出領域中の個数、YがAP−1に結合したDNA分子の割合、τfは、結合していないDNA分子の並進拡散時間、τbは、AP−1に結合しているDNA分子の並進拡散時間、wは装置定数であり、また、Tは三重項状態からの緩和時間τTを持つ蛍光色素の割合である。上記の式のうち、N、w、T、τTは、それぞれ、予め既知のパラメータとして与えられる。結合していないDNA分子の並進拡散時間τfは、AP−1濃度が0のときの測定値であり、AP−1に結合しているDNA分子の並進拡散時間τbは、上記の並進拡散状態が飽和したときのその値である。従って、並進拡散状態が飽和する前の任意のAP−1濃度に於いて得られる自己相関関数を上記の式にフィッティングすることにより、AP−1に結合したDNA分子の割合Yが得られ、これにより、前記のKd値が与えられる。
図4は、測定によって得られた結果に対して上記の2成分自己相関関数G(t)を(最小二乗法)フィッティングさせて得られたAP−1に結合したDNA分子の割合YをAP−1濃度に対してプロットしたものを示している。なお、演算に於いて、τf=485.3μ秒、τb=1050μ秒とした。図4のプロットに於いて前記の結合反応式に従って(最小二乗法)フィッティングしたところ、解離定数は、Kd=0.5×10−7となり、非特許文献5の場合(Kd=1.9×10−7)と概ね一致した。この結果は、蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素にて蛍光標識されたDNAプローブを用いて、AP−1とDNAとの相互作用の有無を決定するとともに結合の強さを算出することができることを示している。また、上記の結果は、2本鎖に成れなかった1本鎖DNAの除去処理を行うことなく、従って、夾雑物の存在下に於いても、相互作用の有無と結合の強さを決定できることを示している。
Claims (11)
- DNAと結合する物質を検出する方法であって、
蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAと前記2本鎖DNAと結合するか否かが判定されるべき被検物質とを含む測定用試料溶液を調製する過程と、
前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて前記測定用試料溶液を励起し前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長の光を観測することにより前記測定用試料溶液の蛍光強度を測定する過程と、
前記蛍光強度の時間変化に基づいて前記測定用試料溶液中の前記2本鎖DNAの運動の速さが前記2本鎖DNAと同一の長さのDNAが単独で運動している場合に比して遅くなったか否かを判定する過程とを含み、
前記測定用試料溶液中の前記2本鎖DNAの運動の速さが遅くなったと判定された場合には、前記被検物質が前記2本鎖DNAに結合したと判定することを特徴とする方法。 - DNAと結合する物質を検出する方法であって、
蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAと前記2本鎖DNAと結合するDNA結合性タンパク質を含むか否かが判定されるべき被検試料とを混合して測定用試料溶液を調製する過程と、
前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて前記測定用試料溶液を励起し前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長の光を観測することにより前記測定用試料溶液の蛍光強度を測定する過程と、
前記蛍光強度の時間変化に基づいて前記測定用試料溶液中の前記2本鎖DNAの運動の速さが前記2本鎖DNAと同一の長さのDNAが単独で運動している場合に比して遅くなったか否かを判定する過程とを含み、
前記測定用試料溶液中の前記2本鎖DNAの運動の速さが遅くなったと判定された場合には、前記被検試料が前記DNA結合性タンパク質を含んでいると判定することを特徴とする方法。 - 請求項1又は2の方法であって、前記測定用試料溶液を調製する過程が、前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAを形成する過程と、前記2本鎖DNAを含む前記二種類の1本鎖DNAを混合してなる混合物を用いて前記測定用試料溶液を調製する過程とを含むことを特徴とする方法。
- 請求項1又は2の方法であって、前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAが前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して形成された2本鎖DNAであることを特徴とする方法。
- 請求項1の方法であって、前記蛍光強度の時間変化に基づいて前記2本鎖DNAの運動の速さの指標を算出する過程と、前記速さの指標と前記2本鎖DNAの濃度と前記被検物質の濃度とに基づいて前記2本鎖DNAと前記被検物質との解離定数を算出する過程とを含むことを特徴とする方法
- 請求項5の方法であって、前記2本鎖DNAの濃度と前記被検物質の濃度の少なくとも二つの組み合わせにて前記蛍光強度の測定を行い、前記蛍光強度の時間変化に基づいて前記少なくとも二つの濃度の組み合わせの各々について前記2本鎖DNAの速さの指標を算出し、前記2本鎖DNAと前記被検物質との解離定数を算出する過程とを含むことを特徴とする方法。
- 請求項1又は2の方法であって、前記蛍光強度の測定が蛍光相関分光法により為されることを特徴とする方法。
- DNAとDNA結合性タンパク質の解離定数を決定する方法であって、
蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAと前記DNA結合性タンパク質とを含む測定用試料溶液を調製する過程と、
前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーの吸収波長の励起光を用いて前記測定用試料溶液を励起し前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターの発光波長の光を観測することにより前記測定用試料溶液の蛍光強度を測定する過程と、
前記蛍光強度の時間変化に基づいて前記2本鎖DNAの運動の速さの指標を算出する過程と、前記速さの指標と前記2本鎖DNAの濃度と前記DNA結合性タンパク質の濃度とに基づいて前記2本鎖DNAと前記被検物質との解離定数を算出する過程とを含むことを特徴とする方法。 - 請求項8の方法であって、前記測定用試料溶液を調製する過程に於いて、前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAを形成する過程と、前記2本鎖DNAを含む前記二種類の1本鎖DNAを混合してなる混合物と前記DNA結合性タンパク質とを混合する過程とを含むことを特徴とする方法。
- 請求項8の方法であって、前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる少なくとも2種類の蛍光色素にて標識された2本鎖DNAが前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のドナーが付加された1本鎖DNAと前記蛍光共鳴エネルギー移動を生ずる蛍光色素のアクセプターが付加された1本鎖DNAとを混合して形成された2本鎖DNAであることを特徴とする方法。
- 請求項8の方法であって、前記蛍光強度の測定が蛍光相関分光法により為されることを特徴とする方法。
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