JP2010025772A - ドメインパターン化サファイヤ基板、およびそれを用いた生体分子選別用チップまたは細胞培養基板 - Google Patents
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Abstract
【課題】 簡便な手法で、表面に自己組織化的に、化学的性質の異なる微細ドメインパターンを形成したサファイヤ基板を提供すること。
【解決手段】 熱処理によって、サファイヤ基板表面に交差状マルチステップを形成するとともに、ステップが排除された安定化領域1と、その周辺に化学的活性領域2とを形成する。さらに、表面終端基を含む溶液中で処理することによって所望の官能基で表面を終端すると、これら2つの領域における表面終端基密度に差が生じ、化学的性質の異なるドメインパターンが自己組織化的にパターン形成される。
【選択図】 図2
Description
本発明は、サファイヤ基板上に自己組織化的に化学的性質の異なるドメインパターンが形成されたドメインパターン化サファイヤ基板およびそれを用いた生体分子選別用チップまたは細胞培養基板に関する。
表面粗さRa0.1nm程度に精密研磨されたサファイヤ基板は、従来その表面は疎水性であることが知られていた。近年、サファイヤ基板を硫酸と過酸化水素水混合溶液で処理すると表面が親水化され、膜タンパクなどの生体分子を吸着し走査プローブ顕微鏡観察が可能であることが知られている(非特許文献1)。
また、サファイヤ基板表面に自己組織化的にステップ構造を形成する方法としては、大気中で熱処理を行う方法が知られている(特許文献1)。特許文献1では、特に高性能半導体デバイスの作成に好適な、原子ステップおよびテラス構造からなる超平坦面をサファイヤ基板表面に作成することを目的として、各結晶面における最適熱処理温度が開示されている。
物質表面の一部を選択的に改質する方法としては、特許文献2が知られている。特許文献2の発明は、中心波長172nmのエキシマUV光に対して透過性を有する基材に所定パターンのマスクを形成し、マスクの上面からエキシマUV光を照射することにより、μTAS等の化学分析用マイクロチップの物質表面の一部を選択的に改質及び/又は洗浄するものである。
「Immobilization of protein molecules on step-controlled sapphire surfaces」、R. Aoki, et. al., Surface Science 601 (2007) p.4915-4921
特開平8−83802号公報
特開2005−156279号公報
上述のように、サファイヤ基板を熱処理すると、表面に自己組織化的にステップ構造が形成されることは公知である。しかしながら、より高温で熱処理することによって形成されるマルチステップ構造において、各結晶面の熱処理温度の違いやマルチステップ形状の表面観察結果は開示されているものの、マルチステップ形状と表面の化学的性質の関連性は明らかにされていなかった。ここでいうマルチステップとは、一層以上の原子ステップが束をなしている状態を指す。
一方特許文献2の発明では、エキシマUV光を照射する際に、処理対象表面とエキシマUV光に対して透過性を有する基材との間に空気層を設けることによって、そこに生成されるオゾンや励起酸素原子が処理対象表面に作用し表面改質・洗浄処理が行われる。しかしながら、処理対象表面の形状に合わせたマスク作製やエキシマUV光の設置など、複雑な工程が必要であった。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、簡便な手法で、表面に自己組織化的に、化学的性質の異なる微細ドメインパターンを形成したサファイヤ基板を提供することを目的とする。
本発明者らは、公知の熱処理方法を用いてサファイヤ基板表面に自己組織化的に形成されたマルチステップ構造において、マルチステップ形状が連続的な直線状ではなく、ステップエッジが交差し島状のドメインを形成した交差状マルチステップを形成するときには、マルチステップ形成に伴って、ステップが排除された安定化領域と、その周辺には化学的活性領域とが形成されることを見出した。さらに、表面終端基を含む溶液中で処理すると、これら2つの領域における表面終端基密度に差が生じ、化学的性質の違いが顕在化することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、請求項1記載の発明は、表面に自己組織化的に、化学的性質の異なるドメインパターンが形成されていることを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板である。
また、請求項2記載の発明は、表面に自己組織化的に、表面終端基密度または表面終端元素密度の異なるドメインパターンが形成されていることを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板である。
また、請求項3記載の発明は、表面に自己組織化的に、親水性領域および疎水性領域からなるドメインパターンが形成されていることを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板である。
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3に記載のドメインパターン化サファイヤ基板を用いた生体分子選別用チップまたは細胞培養基板である。
また、請求項5記載の発明は、サファイヤ基板表面に自己組織化的に、安定化領域と化学的活性領域とを形成した後に、当該サファイヤ基板表面を官能基または所定の元素で終端し、当該サファイヤ基板表面に化学的性質の異なるドメインパターンを形成することを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板である。
本発明は、以下に記載されるような効果を有する。
請求項1に記載の発明によれば、サファイヤ基板表面上に自己組織化的に、化学的性質の異なる微細ドメインパターンを形成することができるため、複雑な加工等の手法を用いることなく、表面化学修飾のパターン化や、サファイヤ基板上へ膜形成のパターン化等に用いることができる。
請求項2に記載の発明によれば、表面終端基密度または表面終端元素密度の異なる領域を微細パターン化できるため、所望の官能基もしくは元素で表面を終端することによって、細胞や生体分子吸着のパターン化、有機系もしくは無機系薄膜のパターン化ができるという効果を有する。
請求項3に記載の発明によれば、水酸基などの親水基で表面を終端すると、親水基密度が異なることによって親水性領域および疎水性領域を微細パターン化できるため、親水性または疎水性表面への吸着選択性を示すタンパク質分子等の生体分子をパターン化したり、選別することができるという効果を有する。
請求項4に記載の発明によれば、親水性または疎水性表面への吸着選択性を示すタンパク質分子等の生体分子を簡便にパターン化もしくは選別することによって、各種の観察や分析に用いることができる生体分子選別用チップを得ることができる。また、細胞の吸着性を付与する官能基密度の異なる領域を微細パターン化することができるため、細胞のパターン培養に用いることができる細胞培養基板を得ることができるという効果を有する。
請求項5に記載の発明によれば、熱処理によってサファイヤ基板表面に交差状のマルチステップ構造を形成すると、マルチステップ形成に伴って、ステップが排除された安定化領域と化学的活性領域とが自己組織化的にドメインパターン化される。さらにこのサファイヤ基板を、所定の官能基または元素で終端すると、2つの領域の表面終端基密度または表面終端元素密度が異なることによって、化学的性質の違いが顕在化する。そのため、複雑な加工を施すことなく、サファイヤ基板表面に化学的性質の異なる微細ドメインパターンを形成することが可能である。
以下、本発明を実施するための最良の形態について以下に説明する。
本発明のドメインパターン化サファイヤ基板は、サファイヤ基板を熱処理することにより、基板表面にステップが排除された安定化領域と化学的活性領域とを自己組織化的に形成し、次に所定の官能基または元素で終端することにより、表面に化学的性質の異なるドメインパターンを形成することによって得られる。
本発明において、前記安定化領域は、熱処理によるマルチステップ形成にともなって形成される。このときマルチステップ形状は、ステップエッジが直線状(図1)ではなく、交差状(図2)であることが好ましい。その理由は、図2に示す交差状に形成されたマルチステップ上には、熱処理によって表面の原子が移動や蒸発・再吸着を繰り返すことによって、ステップが掃き出された安定化領域1がドメイン形成されるからである。一方、ステップが掃き出された安定化領域の周辺を囲むように形成される領域は、化学的活性領域2となる。
上述の交差状マルチステップを表面に形成する際に用いるサファイヤ基板には、c面をはじめ、a面、r面など各種の結晶面を用いることができる。たとえばc面を用いる場合、熱処理によって基板表面にマルチステップ構造を形成するには、結晶軸であるc軸を基板表面に対しわずかに傾斜させておく必要がある。この時、傾斜方向を、c軸と直交しかつ互いに直交するm軸方向もしくはa軸方向にすると、熱処理後に形成されるマルチステップは、図1に示すような、エッジが傾斜方向に直交した直線状のマルチステップ形状となる。
一方で図2に示すような交差状のマルチステップは、基板表面に対するc軸の傾斜方向が、互いに直交するm軸方向もしくはa軸方向から少なくとも5°以上45°以下の範囲でずれたサファイヤ基板を用いることによって得られる。その他、サファイヤ基板表面に、あらかじめ機械加工、レーザー加工、集束イオンビーム加工等を用いて、ドット形状などをパターン加工した後に熱処理を行う方法を用いることができる。このときパターンを、原子ステップバンチングが直線的に連続せずに、交差状のマルチステップを形成するように配置することが好ましい。
また、用いるサファイヤ基板の結晶面、結晶軸の傾斜方向、傾斜角度によって形成されるドメインの大きさを制御することが可能であるが、ドメインの大きさは数nm〜数μmであることが好ましい。
熱処理雰囲気は、大気中もしくは酸素雰囲気中が好ましい。その他、不活性ガス中や水素雰囲気中で処理後、酸素雰囲気中もしくは大気中で処理することも可能である。熱処理温度は、サファイヤ基板の結晶面や傾斜角度によって異なるが、マルチステップ化が可能な熱処理温度で行えばよい。例えば、サファイヤ基板の結晶面がc面、a面、r面の場合は1200〜1500℃の範囲が好ましい。
前述の熱処理を行うことで、基板表面に自己組織化的にステップが排除された安定化領域とともに、安定化領域の周辺には、化学的活性領域がドメイン形成される。
次に、このサファイヤ基板に所望の官能基または元素で、表面終端または化学修飾を行う。表面終端処理としては、溶液中もしくはガス雰囲気中で行うことができるが、特に、所望の官能基で表面を終端する場合は溶液中に浸漬して表面終端処理を行うことが好ましい。これによって、表面終端されたサファイヤ基板表面上の安定化領域と化学的活性領域の間には、表面終端基密度または表面終端元素密度に差が生じることとなる。そのため、サファイヤ基板表面上に自己組織化的に化学的性質の異なるドメインパターンを形成することができる。
例えば、生体分子を吸着するために、表面を水酸基などの親水基で終端する場合には、酸溶液もしくはアルカリ溶液を用いることができる。酸溶液もしくはアルカリ溶液として、好ましくは、硫酸と過酸化水素水混合溶液や硝酸溶液、過酸化水素水溶液、アンモニアと過酸化水素水混合溶液等を用いることができる。
前述の酸溶液処理を行うと、サファイヤ基板最表面に付着している有機物汚染層が取り除かれると同時に、表面が水酸基で終端される。このとき、安定化領域と化学的活性領域における水酸基密度には差が生じるため、2つの領域の化学的性質の違いが顕在化することとなる。すなわち、安定化領域の水酸基密度は化学的活性領域と比較して低く、より疎水性の領域が形成される。一方で、化学的活性領域にはより親水性の領域が形成されるため、これら疎水性領域および親水性領域がサファイヤ基板表面上に微細なドメインパターンを形成することとなる。
上述の方法で得られたドメインパターン化サファイヤ基板は、表面に疎水性領域および親水性領域からなる微細なドメインパターンが形成されるため、タンパク質分子等の生体分子のパターン化や選別が可能な生体分子選別用チップとして用いることができる。
例えば、タンパク質分子の構造は、αへリックス型、βシート型、αへリックスおよびβシート共存型等があり、これらは疎水性領域もしくは親水性領域に対しそれぞれ異なる吸着選択性を示す。そのため、生体分子選別用チップを用いて、タンパク質分子をパターン化したり選別することによって、走査プローブ顕微鏡による表面観察をはじめとする各種の観察や、特定のタンパク質分子の構造分析、異常変換の有無の検出可能などに用いることができる。
また、例えば細胞の吸着性を付与する官能基でサファイヤ基板表面を終端することによって、細胞の吸着する位置をパターン化することができるため、パターン化された表面上での細胞培養実験や、それを用いた観察および分析などに用いることができる。
本発明と同様に、ステップが排除されることによる安定化領域と化学的活性領域への相分離は、サファイヤ以外の酸化物結晶表面上やシリコン等の半導体結晶表面上でも形成され得る。
一方で、本発明のドメインパターン化サファイヤ基板は、材質が化学的に安定なサファイヤからなるため、大気中のみならず幅広いpH溶液中での使用が可能である。さらに、表面が一度汚染されたとしても、再度酸溶液等で処理を行うことでパターンを簡便に再生することができる。また、両面が研磨されたサファイヤ基板は可視〜赤外領域において高い透過性を示すため、生体分子や細胞等の観察に多く用いられる倒立顕微鏡等を用いた観察を行う場合には有用である。
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。
本実施例では、ドメインパターンを表面に形成するサファイヤ基板として、表面粗さRa0.1nm程度に精密研磨され十分に清浄化されたc面サファイヤ基板を用いた。c軸の傾斜角度はm軸方向に0.15°、a軸方向に0.05°であった。
この基板を大気中1400℃で3時間熱処理し、サファイヤ基板表面に交差状のマルチステップ構造を形成した。
この基板を大気中1400℃で3時間熱処理し、サファイヤ基板表面に交差状のマルチステップ構造を形成した。
次に、上記サファイヤ基板を硫酸および過酸化水素水混合溶液(混合比3:1)中に浸漬し、水酸基による表面終端化処理を行った。この基板表面を走査型プローブ顕微鏡を用いて観察した結果を、図3(形状像)および図4(摩擦像)に示す。図3および図4から、交差状のマルチステップ構造上に島状のドメインがパターン形成されていることが確認された。
また、形状像においては、島状のドメイン部分はその周辺部分と比較して1原子層以下のわずかな段差が認められた。一方で摩擦像においては、ねじれ変位の違いが認められたことから、熱処理によって安定化領域と化学的活性領域とに相分離した2つの領域において、その表面構造の違いが前述の酸溶液処理によって顕在化していることが認められた。
続いて、特定のタンパク質分子を含むpH7.0のHEPESバッファー溶液を4種類用意した。それぞれのHEPESバッファー溶液100mMに対し、フェリチン250μg/ml、血清アルブミン6.6μg/ml、フィブリノーゲン34μg/ml、アビジン6.8μg/mlに上記のサファイヤ基板を入れ、溶液中で走査プローブ顕微鏡観察を行った。
図5〜図6に、フェリチン(図5)、血清アルブミン(図6)、アビジン(図7)、フィブリノーゲン(図8)の吸着パターンを示す。図5および図6から分かるように、フェリチンおよび血清アルブミンは、交差状マルチステップの島状ドメインに選択的に吸着することが確認された。このような吸着パターンを示す理由は、フェリチンおよび血清アルブミンはαへリックス構造をもつため、水酸基密度が低くより疎水性の領域に吸着しやすいためである。
一方で、図7からわかるように、アビジンはフェリチンや血清アルブミンとは逆に、島状のドメイン以外の領域に選択的な吸着パターンを示すことが確認された。このような吸着パターンを示す理由は、アビジンはβシート構造をもつため、水酸基密度が高くより親水性の領域に吸着しやすいためである。
さらに、図8からわかるように、フィブリノーゲンは、他の3種のタンパク質分子とも異なり特定の吸着パターンを示さないことが確認された。フィブリノーゲンの構造は、αへリックス構造とβシート構造が共存した構造となっているため、選択的な吸着パターンを示さないためこのような表面状態が観察されている。
上述したように、本発明のドメインパターン化サファイヤ基板上で、タンパク質分子がそれぞれの構造に対応した吸着パターンを示すことが確認された。
本発明に係るドメインパターン化サファイヤ基板は、バイオ分野における各種観察や分析において、特に、生体分子吸着のパターン化や選別、タンパク質構造変化の検出、各種表面化学修飾のパターン化、細胞培養のパターン化基板として用いることができる。また、バイオ分野に限らず、化学的性質の違いを利用したサファイヤ基板上へのパターン化された膜形成等に用いることが可能となる。
1 安定化領域
2 化学的活性領域
2 化学的活性領域
Claims (5)
- 表面に自己組織化的に、化学的性質の異なるドメインパターンが形成されていることを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板。
- 表面に自己組織化的に、表面終端基密度または表面終端元素密度の異なるドメインパターンが形成されていることを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板。
- 表面に自己組織化的に、親水性領域および疎水性領域からなるドメインパターンが形成されていることを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板。
- 請求項1から請求項3のうち、いずれかに記載のドメインパターン化サファイヤ基板を用いた生体分子選別用チップまたは細胞培養基板。
- サファイヤ基板表面に自己組織化的に、安定化領域と化学的活性領域とを形成した後に、当該サファイヤ基板表面を官能基または所定の元素で終端し、当該サファイヤ基板表面に化学的性質の異なるドメインパターンを形成することを特徴とするドメインパターン化サファイヤ基板。
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