JP2010025345A - 滑り直動案内要素の摩擦低減方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 低廉な超音波振動子の採用と、最小限の滑り案内要素の設計変更によって、従来の工作機械等へ容易に導入が行え、滑り摩擦力をさらに減じてミクロンオーダからサブミクロンオーダでの精密な位置決めの精度が向上する直動案内の摩擦低減方法を提供することを目的とする。
【解決手段】摺動面を有する滑り直動案内要素の摩擦低減方法において、レール側摺動面あるいはガイドブロック側摺動面もしくはそれらの両方に高周波振動を付加することにより、摺動面の摩擦力を低減させることによって、ガイドブロックやレール取付部での振動を最小に抑制して機械本体や工作物にまで振動を及ぼすことなく、滑り直動案内要素の摺動面のみを加振できて、その面の摩擦を低減させることができるので、位置決め精度が向上する。
【選択図】図1

Description

本発明は、直動案内や送りねじ軸を有する精密工作機械や精密測定機における運動精度向上を目的とする。位置決め誤差の要因となっている転がり摩擦力や滑り摩擦力を低下させ、その結果、位置決め精度を向上させるための技術に関するものである。特に、サブミクロンから数マイクロメートルオ一ダの位置決め精度が必要な超精密加工機等に有用であると考えられる。超音波振動子を用いて直動案内の軌道面やねじ要素の軌道面や摺動面を加振し、転動体と軌道面間の転がり摩擦、軌道面間・摺動面間の滑り摩擦を低減させ、その結果、直動案内要素やねじ要素を用いた機構の位置決め精度を向上させる。
<直動ころがり案内の有用性について> 工作機械や測定機における重要な構成要素の1つとして、ツールと工作物の相対的な運動を行う際に必要な直動案内要素がある。近年では、この直動案内要素として転がり案内が多く採用されている。これは球やころ等の転動体が軌道面の間で転がり運動をするもので、図26に示すようなさまざまな形式がある。図26(a)は一般的に多く用いられているリニアガイドと呼ばれているもので、転動体である複数の球あるいはころがレール側軌道面とガイドブロック側軌適面の間を転がり運動をする。転がり運動を終えた転動体はガイドブロック内のリターンパイプ内を戻って、再び軌道面間に戻るように構成される。
図26(b)はボールスプラインと呼ばれるもので、軸方向に溝加工された円筒外面を持つ軸、すなわちスプライン軸上を外筒(スライドユニット)が直線運動を行う直動案内要素である。軸に溝加工を施していないものは、スライドユニットの並進運動のほかに軸周りに回転をすることが可能であり、リニアボールベアリングと呼ばれている。図26(c)はクロスローラガイドと呼ばれる、V字形状の2平面を軌道溝とした軌道台の間に保持器付きの円筒ころを組み込んだ直動案内要素である。円筒ころを交互に直交させて配列してあるので、あらゆる方向の荷重を受け持つことができる。
図27は図26(a)のリニアガイドを用いて直線運動をする直動テーブルの例であり、実際の機械には図のような実施形態が多く用いられている。以上のように転がり直動案内は様々な種類があり、以下のような特長を持っている。(1)多数の転動体により多点にて支持されるため、転動体や軌道面の形状精度が平均化され、運動精度が向上する。(2)摩擦力が小さいため、位置決め精度がよく、モータも小型でよい。(3)摩耗が少なく、寿命が長い。また予圧が長期間保たれ、メンテナンス性に優れる。(4)速度による摩擦力の変動が少なく、制御性がよい。(5)潤滑が容易である。(6)標準ユニット化により、廉価で納期が早い。(7)レール取付け面のキサゲ仕上げ作業等が省略できる。また組立調整が簡単である。
<直動ころがり案内の問題点> 以上のような多くの特長により、転がり直動案内は工作機械等の精密な機械に多く用いられている。しかし近年では機械の性能向上の要求が著しく高まっているため、特にサブミクロンオーダの位置決め精度が要求される場合には、転がり摩擦力の低滅の必要性が生じている。例えば、図28はxy方向に駆動できるxyテーブルを円弧運動した際に、それぞれのテーブルが移動方向を反転するときに摩擦力の働く方向が切り替わるために、その反転直後に目標座標指令値と実際の座標値の間に位置偏差が生じた結果を測定した例である。このような誤差は「象限切替え突起誤差」と呼ばれる。図ではxy軸上において6μm前後の突起状の誤差が観察されている。
この誤差は運動伝達要素として用いられるボールねじ等のバックラッシュや摩擦が原因であると従来考えられてきたが、リニアモータ駆動によるxyステージにおいても観察されるため、用いられている転がり直動案内の摩擦も原因の一つであることが近年わかってきた。さらに、空気静圧案内(エアガイド)のような超低摩擦の案内要素を用いた場合は観察されないので、転がり案内要素の摩擦特性も原因の一つであると断定できる。したがって、以上に述べたような「象限切替え突起誤差」を減ずるには、案内要素の摩擦力をできるだけ減らすことが必要となるが、超低摩擦である空気静圧案内は高価であると同時に原理的に剛性および減衰性に劣るため、工作機械等の剛性や減衰が必要な機械への応用は実用上困難である。転がり直動案内の転がり摩擦力は、転動体の数や大きさ、あるいは予圧等に依存するが、一般的に多く用いられているレール幅25mm程度の大きさのリニアボールガイドでは軽与圧のもので1ユニット当たり約8N、重与圧のもので約20N程度が観察されている。以上のころがり摩擦力は、案内要素に積載荷重を掛けずに単体で測定した値であり、荷重が増加すればころがり摩擦力もより大きくなる。
<超音波による滑り摩擦低減方法について> 従来より2個体間の摩擦力を減ずるための方法として、接触面を高い周波数で機械的に加振し、微小な相対運動を生じさせることが行われてきた。例えば、図29(a)はバイト等の工具で金属材料等を切削する際に、超音波振動子により工具に高周波振動を与えて工作物と工具の間の摩擦を減ずることによって切削抵抗や摩擦熱の問題を解決し、切削面あらさや工具寿命を改善することができる。また図29(b)は線材の引抜き加工等の塑性加工時に、工具(ダイス)に高周波振動を与え、金属材料との間の摩擦を減ずることによって、引抜き力の低減や線材表面性状等の改善を達成できる。このほか、部品同士の嵌合において隙間が僅少である場合に、部品に高周波振動を付加することにより、数マイクロメートルの隙間しか無いような高精度な嵌合においても円滑に部品の挿入・組立を行うことができる。
摩擦低減効果を得るための加振周波数は加振する部品の慣性質量等にも依存するが、一般的には数百Hz以上の加振周波数で効果が認められる。しかしこのような可聴域の周波数帯では耐え難い騒音が発生することが多いため、実用的には20kHz以上の超音波領域での加振を行う。以上のように2面間に相対的な超音波振動を付加することにより摩擦を減ずることは広く知られており、研究および実用化が行われている。しかし以上の実例は2個体間の滑り接触における摩擦を減じるためのものが大多数であり、転がり摩擦を減ずるための実例は殆どない。転がり軸受の転動体(ころ)の滑りに伴うトルクを減少させて軸受駆動時のトルク低減を図るものとしては下記特許文献1に開示されたものがある。
特開平8−74869号公報 前記特許文献1に開示されたものは、軸受外輪に圧電素子を取付け、軸受駆動時に外輪に対して超音波振動を付加した装置で、回転型の案内要素に関するものであり、直線運動用の案内要素のものではない。
<ころがり直動案内を加振する際の問題点> 転がり直動案内における転がり摩擦のおもな発生箇所は、大きく分けると、転がり直動案内を構成している転動体とガイドブロック軌道面の間、そして転動体とレール軌道面の2箇所である(図30)。したがって、これらに発生する摩擦を減ずるには、高周波振動を転動体に付加するか、あるいはガイドブロックおよびレールの両方の軌道面に振動を付加する必要がある(無論、片方の軌道面のみでもある程度の摩擦低減効果は得られる)。しかし、前者では転がり運動を行っている多数の転動体を直接加振することは非常に困難である。
さらに後者では、図31のように、テーブルを搭載しているガイドブロックの軌道面を加振する場合は、テーブルに超音波振動が伝搬してテーブル上の工作物等が振動してしまう可能性がある。また、レール側軌道面を加振する場合は、長いレール側軌道面の全長にわたって超音波振動を付加することが必要であるが、これも容易ではない。レールの長さは案内要素のストローク十アルファが必要であって実際には数十cmから2、3m程度の長さとなり、レールは機械のフレーム等にボルト締めされているため、振動はフレーム等に吸収されてしまい、機械振動は長い距離では滅衰し易いからである。また、図32のように長いスパンを持つ片持ち梁構造からなる構造部材の中央部に超音波振動子を設置し、梁の曲げ振動(横振動)を発生させることは容易であるが、一般にリニアガイドのレールは機械ベース面に接しており、等ピッチ間隔でボルト締結されているためにこのような方式での加振は困難である。
そこで、本発明では、リニアガイドのレールが機械ベース面に対して等ピッチ間隔でボルト締結されている点に着目し、低廉な超音波振動子の採用と、最小限の転がり案内要素の設計変更によっても、従来の工作機械等へ容易に導入が行え、転がり摩擦力をさらに減じてミクロンオーダからサブミクロンオーダでの精密な位置決めの精度が向上する直動案内および送りねじ摩擦低減方法を提供することを目的とする。
そのため本発明は、
摺動面を有する滑り直動案内要素の摩擦低減方法において、レール側摺動面あるいはガイドブロック側摺動面もしくはそれらの両方に高周波振動を付加するに際し、前記摺動面に高周波振動を効率良く伝搬させるために、軌道台(レールまたはガイドブロック)の固定部分が振動の節となるように配設することにより、摺動面の摩擦力を低減させることを特徴とする滑り直動案内要素の摩擦低減方法である。
また、前記摺動面に高周波振動を効率良く伝搬させるために、軌道台(レールまたはガイドブロック)の固定部分が振動の節となるように、固定部分の間隔を加振周波数の波長の半分またはそれの整数倍の距離としたことを特徴とする滑り直動案内要素の摩擦低減方法である。
また、レール端面に高周波振動を付加することを特徴とする滑り直動案内要素の摩擦低減方法である。
また、前記高周波振動が縦波であることを特徴とする滑り直動案内要素の摩擦低減方法である。
また、前記滑り直動案内要素に付加する高周波振動を、機械の稼働中にわたりあるいは特定の時間のみに付加することを特徴とする滑り直動案内要素の摩擦低減方法である。
本発明では、転動体と軌道面を有するころがり直動案内要素の摩擦低減方法において、レール側軌道面あるいはガイドブロック側軌道面もしくはそれらの両方に高周波振動を付加することにより、転動体と軌道面との間の摩擦力を低減させることによって、ガイドブロックやレール取付部での振動を最小に抑制して機械本体や工作物にまで振動を及ぼすことなく、ころ等を介したころがり直動案内要素の転動体と軌道面との間のみを加振できて、位置決め精度を向上させるために、その面の摩擦を低減させることができる。
また、摺動面を有する滑り直動案内要素の摩擦低減方法において、レール側摺動面あるいはガイドブロック側摺動面もしくはそれらの両方に高周波振動を付加することにより、摺動面の摩擦力を低減させる場合は、レール取付部での振動を最小に抑制して機械本体や工作物にまで振動を及ぼすことなく、滑り摺動面を有する直動案内要素の摺動面のみを加振できて、位置決め精度を低下させることなく、その面の摩擦を低減させることができる。さらに、前記軌道面あるいは摺動面に高周波振動を効率良く伝搬させるために、軌道台(レールまたはガイドブロック)の固定部分が振動の節となるように配設した場合は、さらにレールやガイドブロック取付部での振動を最小に抑制して機械本体や工作物にまで振動を及ぼすことなく、軌道面あるいは摺動面に高周波振動を加えることができる。
さらにまた、前記軌道面あるいは摺動面に高周波振動を効率良く伝搬させるために、軌道台(レールまたはガイドブロック)の固定部分が振動の節となるように、固定部分の間隔を加振周波数の波長の半分またはそれの整数倍の距離とした場合は、軌道台の固定部分の間隔の設計の自由度の幅を大きくできる上に、加える振動数の選択の幅を大幅に向上させることができる。また、前記直動案内要素に付加する高周波振動を、機械の稼働中にわたりあるいは特定の時間のみに付加する場合は、摩擦低減効果を必要とする時間にのみ加振すればよいので、消費電力等を削減できる他、各部の耐久性も向上する。
さらに、ナットに螺合するねじ軸のいずれか一方を固定部とした送りねじの摩擦低減方法において、ナットあるいはネジ軸もしくはそれらの両方に高周波振動を付加することにより、ナットとねじ軸との間の摩擦力あるいはナットとねじ軸および転動体間の摩擦力を低減させる場合は、ナットあるいはネジ軸の固定部での振動を最小に抑制して機械本体や工作物にまで振動を及ぼすことなく、直動案内要素であるナットとねじとの間のみを加振できて、位置決め精度を低下させることなく、その面の摩擦を低減させることができる。
また、前記ナットあるいはねじ軸に高周波振動を効率良く伝搬させるために、ねじ軸の固定部分が振動の節となるように、あるいは固定部分の間隔を加振周波数の波長の半分またはそれの整数倍の距離とした場合は、ねじ軸の固定部分の間隔の設計の自由度の幅を大きくできる上に、加える振動数の選択の幅を大幅に向上させることができる。さらに、前記付加する高周波振動を、機械の稼働中にわたりあるいは特定の時間のみに付加する場合は、摩擦低減効果を必要とする時間にのみ加振すればよいので、消費電力等を削減できる他、各部の耐久性も向上する。
本発明の直動案内要素の摩擦低減のための原理を示す超音波振動子により振動付加がなされた状態図である。 レールへの超音波振動の伝搬状態図である。 レールと取付面の形状および接触圧分布図である。 ガイドブロックの形態図である。 ガイドブロック図である。 ガイドブロックの加振状態を示す図である。 振動方向が90°変換される様子を示す図である。 リニアボールベアリングまたはボールスプラインの実施例を示す図である。 クロスローラガイドの実施例を示す図である。 超音波パワー合成器の説明図である。 超音波パワー合成器をレールの加振に用いた実施例を示す図である。 プレス成形された軌道台例図である。 表面弾性波発生の様子を示す図である。 摺動面間に発生する摩擦力図である。 滑り直動案内要素の種類を示す図である。 ダブテール形レール用ガイドブロックへの適用例図である。 V形レール用ガイドブロックへの適用例図である。 平形レール用ガイドブロックへの適用例図である。 角形レール用ガイドブロックへの適用例図である。 一般的なボールねじの構造図である。 一般的な滑りねじの構造図である。 ねじ軸に振動を付加するための実施例を示す図である。 ナットに振動を付加する実施例その1の図である。 ナットに振動を付加する実施例その2の図である。 ナットに振動を付加する実施例その3の図である。 各種ころがり案内図である。 リニアガイドを用いた直動テーブル図である。 象眼切替え突起誤差例図である。 超音波振動利用例図である。 ころがり摩擦力の発生箇所を示す図である。 リニアガイドのガイドブロックを加振した状態図である。 梁のたわみ振動(横振動)によるレールの加振方法図である。 加工用超音波振動装置の構造と振動変位図である。
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。固体を媒体として伝搬する波動の種類としては、前述の横波のほかに、縦波と表面波の2種類が考えられるが、ここではまず縦波を用いた方式について説明する。図33は切削加工等に用いられている超音波振動装置の構成と振動変位を表している。超音波振動子の軸方向振動変位は振動子の端面で発生し、超音波伝達子に伝わり、ホーンにて拡大されて先端部で最大となる。図33の下部の正弦波状の図は伝達子とホーン内部の軸方向の振幅と応力の分布を示しているが、伝達子の端面両側で振幅は大となり、伝達子の中央部では振幅は最小となる。つまり振動子・伝達子・ホーンの各接合面では振幅は最大であって、その中間部分では最小となる。変位とは逆に応力は接合面で最小、中間部分では最大となる。
最大となる箇所は一般に振動の「腹」、最小となる箇所は振動の「節」と呼ばれるが、節と節の間隔は固体内を伝搬する超音波(ここでは縦波)の波長の半分となる。伝達子の中間部分の節の部分は振動振幅(変位)が小さいので、ここにフランジを設置して装置の支持部として用いられる。また接合面には振動による応力集中を防止するために、応力が小さい腹の部分に設置されている。以上のように、超音波振動は、波長の1/2毎に振幅を増滅させて固体内を伝搬する。したがって、図1のように伝達子を複数連結すれば、比較的遠距離まで振動を伝搬させることが可能となる。またフランジを用いて接地すれば、振動の伝搬を妨げたり振動を固定した側に伝えることなく、装置を固定することが可能となる。ここでフランジの間隔は、波長の1/2に設定する必要がある。
超音波の波長λ〔m〕は、固体内を伝搬する縦波の音速をC〔m/s〕、超音波の振動数をf〔Hz〕とすると、
λ=C/f (1)
となるので、フランジの間隔pは
p=λ/2=C/2f (2)
で求められる。一般に鉄等の音速Cは約5200m/sであるので、例えば、共振周波数f=32kHzの振動子を用いるとすると、フランジの間隔pは約80mmとなる。
<リニアガイド(図26(a)での実施例> 上述したように、固体内を伝搬する縦波を用いて比較的長距離にわたって超音波振動を伝えることができるので、前記図26(a)に示したような構造のリニアガイドにおいては図2に示すように、リニアガイドのレール端面に超音波振動子を取り付けて振動を長いレール全長にわたって伝搬させることが可能である。このとき超音波振動子が配設されているレール端部とレール取付ボルトの距離およびレール取付ボルトの間隔をそれぞれ上述の式(2)で計算できるp/2(=λ/4)およびp(=λ/2)とすれば、振動が機械フレーム等に吸収されることを最小に抑え、また振動の伝搬を妨げることなく、取付け面ヘレールを固定することができる。
上記の方法によれば、リニアガイドのレール端面にボルト締結等の方法で超音波振動子を取り付けられるので、レールの断面形状等に無関係に本技術を実施できる。またレール取付穴ピッチに合わせて超音波振動子とその加振周波数を選択すれば、いままでのサイズのリニアガイドが使用可能であり、既存の工作機械等への設計変更や追加工等を行うことなく実施が可能となる。取付穴ピッチをpとすると、周波数fは、
f=C/2p (3)
により求められる。無論、振動子を取り付けたレールの反対側の端面にも振動子を取り付けられることは言うまでもないが、その場合には振動子とレールの伸縮方向が一致するよう、印加する信号の位相差を0°あるいは180°に合わせる必要がある。
また、レール下面とレール取付面は面で接しているため、ここから振動が著しく減衰すると予想されるが、実際には、レール下面と取付け面間の接触圧力は図3(a)に示すように、締付けボルト近傍が強く、ボルトとボルトの中央部分では接触圧が低いので、レールの振動が妨げられることは少ない。よって、レールとその取付け面の形状を変更しなくても、レールの振動は長いレールを伝搬することが可能である。さらに、レールのみで剛性が保たれる場合は、図3(b)のように、締付けボルト近傍のみでレール取付け面と接するようにすれば、より減衰は小さくなる。
次に図26(a)に示したような構造のリニアガイドにおいて、ガイドブロック側の軌道面に振動を加える方法について説明する。まず図4は一般的なリニアガイドのガイドブロックの2形態を示している。左図はフランジ取付け型であり、右図はブロック型であるが、両者とも、レールに馬乗りになるような断面形状を持っている。
図5は、本技術において、超音波振動子により加振されるガイドブロックの斜視図であり、図6はその断面を示している。前出のレールの場合と同様に、ガイドブロックのある端部Aに取り付けられた超音波振動子はガイドブロック内に縦振動を伝搬させる。図のように振動子取付面からガイドブロック取付ねじまでの間隔を加振周波数λの1/4、取付けねじ間隔をλ/2とすることにより、取付けねじ部を振動の「節」すなわち振動振幅を小さくして、ガイドブロックを取り付けるための機械構造物への振動の伝搬を最小とすることができる。また、軌道面の位置を取付けねじ部からλ/4の位置に配することにより、軌道面付近を振動の「腹」すなわち振動振幅を大とすることが可能であり、その結果、転動体との転がり摩擦を減ずることができる。
ここで超音波振動からの振動が転動面へ直角方向に変換されて伝達されているが、これは図7にて説明できる。図7の左図において、図のような部材に右方向から圧縮荷重がかかると部材の水平方向の長さは短くなるが、材料は体積を一定に保とうとするため(ポアソン効果)、上下方向には長くなる。逆に右図のように、引っ張り荷重が働くと、水平方向の長さは大となるが、上下方向に縮まることになる。したがって、振動を90°変換することができる(これは振動方向変換体として知られているものである)。
図5では超音波振動子をガイドブロックの端部Aに取り付けていたが、B〜Hの位置に取り付けた場合にも実施が可能である。無論AからHのうちの複数の箇所に振動子を取り付けても実施が可能であることは言うまでもない。以上のように、超音波振動子の取付面からガイドブロックの取付けボルトまでの距離がλ/4、ガイドブロックの取付けボルト同士の間隔がλ/2であるように配慮すれば、ガイドブロックの形状や超音波振動子の取付け部の配置等についてはさまざまな形体について本技術を実施できる。さらに、超音波振動子の取付け面から軌道面部材の取付け位置までをλ/4として説明してきたが、これに半波長λ/2を加えたものとしても効果は同じである。また軌道面部材の取付け位置間隔をλ/2としてきたが、これの整数倍の間隔を用いても実施は可能である。すなわち超音波振動子の取付け面から軌道面部材の取付け位置までをLa、軌動面部材の取付け位置間隔をpbとすると、
La=λ(1/4+i/2) ただし、iは0以上の整数 (4)
pb=nλ/2 ただし、nは1以上の整数・・・・(5)
またガイドブロックを加振する周波数はレール用のものと同一である必要はなく、それぞれの固定位置間隔その他の寸法に応じて先の式(3)より求められる周波数を用いることができる。
<リニアガイドでの実験例> 以上に説明した方法を用いた実験の一例を紹介する。市販のリニアボールガイド(日本トムソン(株)、LWH30B型、レール幅28mm、レール高さ25mm、レール長さ640mm、スライドユニット長さ約80mm、中予圧、精度等級上級)を用いた。レール端部にはタップ加工を施し、共振周波数28kHzのボルト締めランジュバン型超音波振動子(本多電子製)をボルト締結した。さらに、ガイドブロック端部にもタップ加工を施し、共振周波数43kHzのボルト締めランジュバン型超音波振動子(本多電子製)をボルト締結した。レールはレール取付け穴を利用してベースにボルト締結した。取付けボルトピッチは80mm、超音波振動子から最も近いボルトまでの距離は40mmである。まず、レールに対してのみ超音波振動を付加した場合に、発振周波数28.3kHzのときに、レールの反対側の端面にて0.3μm程度の振幅を確認した(渦電流式変位計にて)。これにより、超音波振動が640mmのレール全長にわたって伝搬していることが確認できた。
次にガイドブロックの転がり摩擦力を測定するため、力センサ((株)イマダ、デジタルフォースゲージDPZ−200N、使用最大荷重200N、最小分解能0.1N)を介してガイドブロックを直動させた。レールおよびガイドブロックに振動を付加しない場合の転がり摩擦力は約20〜30N(ピーク値)なのに対して超音波振動を付加した場合は15N前後(ピーク値)であり、25%から50%の摩擦力低減効果が得られた。
<リニアボールベアリング(図26(b))での実施例> 図26(b)に示したような構造のリニアボールベアリングまたはボールスプラインについての実施例について図8(a)を用いて説明する。スライドユニットは馬乗り形状ではなく、閉じた円環状となっており、スプライン軸または円筒軸は両端を固定された場合について説明する。この場合においても、超音波振動子取付け面から軸固定位置まで、また固定位置間隔を波長λの1/4および1/2の整数倍にすることで本技術が実施できる。ガイドブロック側についても前出リニアガイドと同様に実施が可能である。図8(b)は、スライドユニットがフランジ状の取付け部を持つようにした実施例である。この場合も振動子取付け面からフランジまでの距離を波長λの1/4とすることで実施が可能となる。
<クロスローラスライド(図26(c))での実施例> 図26(c)に示したような構造のクロスローラスライドについての案施例を図9に示す。この直動案内要素についても、固定側軌道台および移動側軌道台ともに、超音波振動子取付け面から軌道台取付けボルト位置までの距離、およびボルト位置同士の間隔を前出のλ/4およびλ/2とすることで本技術が実施できる。
<超音波振動を付加する時間について> 前述したように、軌道面に超音波振動を与えることにより、ころがり直動案内のころがり摩擦を減ずることができる本技術について説明してきたが、超音波振動は機械の稼働中の全時間にわたって付加する他に、案内を稼働させている時間だけ付加することもできる。さらに、前出の「象限切替え突起誤差」等、微小な摩擦特性が問題となるような超精密位置決め等の場合では、案内要素が静止した状態から運動を開始した直後までの極めて短時間(例えば1秒以下)のみに振動を付加させることも可能である。またある設定した速度以下の場合にのみに振動を付加させることも可能である。超音波振動を付加することにより、転がり摩擦を減ずることができるが、反面、転動体や軌道面の摩耗・潤滑膜切れ等が危惧される場合は、低摩擦が必要な極めて短い時間のみ振動を付加すればよい。
<超音波パワー合成器を使用した実施例> 図5のガイドブロックに超音波振動子を取り付ける場合、例えばAからHまでの1箇所あるいは複数の場所に取り付けることができるが、取り付けた超音波振動子の数が増えれば軌道面に発生する振動の強さは大きくなる。また、レール側には基本的には両端部に振動子を取り付けるが、図10のような複数の振動子のパワーを一箇所に集中することができるパワー合成器を用いることにより、複数の振動子を用いることが可能になる。したがって、長いレールの全長にわたって振動を伝搬させる際に、1 個あるいは両端の2個の振動子では振動の強さが足りない場合等には、複数の振動子が使用可能となる。この場合の実施例を図11に示す。無論、このパワー合成器はガイドブロック側に対しても利用可能であることは言うまでもない。
<表面弾性波を利用した実施例> これまで、軌道台すなわち固体内を伝搬する縦波である音波を用いた実施例を挙げてきたが、固体表面を伝播する表面波を用いても実施が可能である。すなわち、表面波とは、固体のごく表面を伝搬する縦波と横波が複合された波動であるが、対象となる直動ころがり案内の大きさが小さい場合、あるいは図12に示す直動案内要素のように軌道台自体が板材からプレス成形されている場合等では有効である。表面弾性波の発生にはいろいろな方法があるが、図13の実施例では、圧電素子に櫛歯状の2組の電極を配し、交流電圧を印加することにより、表面弾性波を発生させる。この圧電素子を軌道台に貼り付けることにより、軌道面を振動させることができる。その際、軌道台を固定する箇所の間隔等は前出の音波の波長λの1/2あるいはその整数倍にすべきであることはいうまでもない。ただし、縦波と表面波では伝搬する速度が異なるため、表面波の音速を用いる必要がある。
<滑り直動案内への実施例> これまで、ころがり直動案内要素についての実施例について説明してきたが、本技術は、滑り直動案内要素に対しても実施可能である。この場合、滑り直動案内要素はころがり直動案内要素のように、機械本体に対してレールとガイドブロックを取り付けるタイプのものに実施可能である。また、ころがり直動案内ではレールとガイドブロック側の両方の転動面に振動を付加する必要があったが、滑り直動案内要素では図14のように、滑り摩擦力はレールとガイドブロックの摺動面間に発生するので、レールあるいはガイドブロックのどちらかの摺動面に振動を付加すればよい。もちろん両方に付加すれば、より高い効果が得られることは言うまでもない。
ユニット化された滑り直動案内は図15のようにさまざまな形態があるが、レ一ルには前述のころがり直動案内のレールと同様に、一般に等間隔に取付け穴あるいはねじ穴が加工されている。したがって、図2のようにレール端部に超音波振動子を配設することにより、ころがり直動案内のレールと全く同様に長いレール全長にわたって超音波振動を伝搬させることが可能となる。このような方法にて、レール側のみに超音波振動を付加すれば、図15に示す滑り案内要素の摺動面に発生する摩擦力を低減させることが可能となる。
次に、レール全長にわたって振動を付加させることが困難な場合や、より高い摩擦力低減効果を得たい場合は、ガイドブロック側の摺動面にも振動を付加させることが有効である。これも前述のころがり直動案内のガイドブロック(図5および図6)と同様に、ガイドブロックの取付け部同士の間隔を振動の波長λの半分すなわちλ/2あるいはその整数倍とし、また振動子の取付け部からガイドブロックの取付け部の距離をλ/4あるいはそれにλ/2の整数倍の距離を加えた距離とし、さらに最大振幅を得たい摺動部を振動の節となるガイドブロック取付け位置からλ/4の距離近くに配設すれば、超音波振動子の振動を機械本体側に伝搬させることなく、効率良く摺動部に伝えることが可能になる。
図16にダブテール形のレールのためのガイドブロックについての実施例を、図17にV形レール用ガイドブロックのための実施例を、図18に平形レール用ガイドブロックのための実施例を、図19に角形レール用ガイドブロックのための実施例をそれぞれ示す。図16から図18では、超音波振動子をレールと直角方向に取り付けている。図19では超音波振動子をレールと平行に取り付けている。
<送りねじ要素への案施例> これまで、直動案内要素の摩擦を減ずるための実施例を記してきたが、本技術は回転運動を直線運動に変換する運動伝達要素である送りねじについても実施が可能である。現在多く用いられている送りねじには、雄ねじと雌ねじの間に多数個の転動体を配設しそれぞれが転がり接触をするボールねじ(図20)と、雄ねじと雌ねじが滑り接触をする滑りねじ(図21)がある。ねじ要素はねじ軸とナットから構成されている(ボールねじはこれらに転動体が加わる)が、ここではまずねじ軸に振動を付加するための実施例について説明する。比較的長い全長を持つねじ軸に振動を付加する方法は、前出のボールスプラインのレールにおける方法(図8)とほぼ同一である。
すなわち、図22に示すように、ねじ軸端面に振動子を配設し、振動子取付け面からねじ軸固定部までの距離を伝搬する縦波の波長λの1/4、ねじ軸固定部の間隔をλ/2の整数倍とすれば、固定部を通じて機械側に伝搬させることなく、ねじ軸に超音波振動を効率良く伝搬させることができる。ねじ要素の使用形態としては、ねじ軸を原動機にて回転させる場合(図22(a))と、ねじ軸を回転させずにナット側を回転させる場合(図22(b))がある。ねじ軸を回転させる場合は、振動子自体も回転してしまうため、振動子への配線はスリップリング等を介して行う必要がある。
次に、ナット側に振動を付加するための実施例について説明する。図23は図8(a)に示したボールスプラインのスライドユニットでの実施例と同様な形態による実施例である。ナットの端面に振動子を取り付け、振動子の取付け部からナット固定部までの距離をλ/4、固定部間距離をλ/2の整数倍としている。図24は図8(b)に示した方法と同様に、ナットにフランジを持たせた実施例である。ナット端面の振動子取付け位置からフランジまでの距離をλ/4としている。図25は市販のフランジ付きナットを用いた実施例である。フランジの付いたパイプ状のホーンの端に超音波振動子が取り付けられ、その取付け部からホーンのフランジまでの距離をλ/4としている。
以上のような方法にて、ねじ軸およびナットの各々に超音波振動を付加させることができる。滑りねじの場合は、ねじ軸あるいはナットの片方に付加すればよい。ボールねじの場合は、ねじ軸あるいはナットの片方のみでも摩擦力低減効果は得られるが、ねじ軸およびナットの両方に振動を付加した方が効果的であることは言うまでもない。
<従来技術との比較> 滑り案内面の案内面間に圧縮空気を吹き込む、あるいは静圧空気パッドを併設して、滑り案内面の接触荷重を減じて滑り摩擦抵抗を減らす方法がある。しかし、このような方法を実施したとしても、滑り案内面の摩擦抵抗はころがり案内のころがり摩擦と比較して著しく大きい。また圧縮空気を発生するコンプレッサ等の補機が必要である。
従来超精密機械に用いられてきた空気静圧案内では、空気の非圧縮性により、剛性および減衰性能が低いという欠点を持っている。空気静圧案内の剛性は案内面の大きさにもよるが、50〜100N/μm程度であり、ころがり案内を用いた工作機械テーブルの剛性は7kN/μmを越えるとのことであるから、2桁程度の差がある。また空気静圧軸受の空気圧・流量等を制御して無限剛性化を達成しようとするアクティブ空気軸受等もあるが、高価なセンサや複雑な制御装置が必要であり、コスト的、技術的に問題が多い。空圧源にはコンプレッサ等が必要であることは言うまでもないが、一般には空気を圧縮する際に発生する水を排除するための冷凍式ドライヤが必要であり、高額になる。
本技術は、従来の転がり案内要素の設計変更を最小に留めて実施が可能であるため、従来の工作機械等へ容易に導入が行え、製造上および実施上の困難は少ない。実施により、元々僅少であった転がり摩擦力をさらに減ずることが可能になるため、ミクロンオーダからサブミクロンオーダでの精密な位置決めの精度が向上する。また本技術は、安価なボルト締めランジュバン型超音波振動子を用いている。この振動子は元来安価な超音波洗浄器用あるいは超音波加工機のものであり、駆動用回路等もこれらが流用できると考えられる。したがって、実施に要するコストは低廉である。
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内にて、ころがり直動案内要素の形状、形式(転動体と軌道面との関連構成)およびレール側軌道面あるいはガイドブロック側軌道面もしくはそれらの両方への高周波振動付加形態、摺動面を有する滑り直動案内要素の形状、形式およびレール側摺動面あるいはガイドブロック側摺動面もしくはそれらの両方への高周波振動付加形態、軌道台(レール)の固定部分が振動の節となるような高周波振動付加形態、加振周波数の波長の半分またはそれの整数倍の距離となる固定部分の間隔、高周波振動の付加時期および時間、ナットに螺合するねじ軸のいずれか一方を固定部とした送りねじに対する高周波振動の付加形態、ねじ軸の固定部分が振動の節となるような高周波振動付加形態、加振周波数の波長の半分またはそれの整数倍の距離となる固定部分の間隔、高周波振動の付加時期および時間等については適宜選定できる。また、実施例にて説明した諸元が例示的なもので限定的に解釈してはならない。

Claims (5)

  1. 摺動面を有する滑り直動案内要素の摩擦低減方法において、レール側摺動面あるいはガイドブロック側摺動面もしくはそれらの両方に高周波振動を付加するに際し、前記摺動面に高周波振動を効率良く伝搬させるために、軌道台(レールまたはガイドブロック)の固定部分が振動の節となるように配設することにより、摺動面の摩擦力を低減させることを特徴とする滑り直動案内要素の摩擦低減方法。
  2. 前記摺動面に高周波振動を効率良く伝搬させるために、軌道台(レールまたはガイドブロック)の固定部分が振動の節となるように、固定部分の間隔を加振周波数の波長の半分またはそれの整数倍の距離としたことを特徴とする請求項1に記載の滑り直動案内要素の摩擦低減方法。
  3. レール端面に高周波振動を付加することを特徴とする請求項1又は2に記載の滑り直動案内要素の摩擦低減方法。
  4. 前記高周波振動が縦波であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の滑り直動案内要素の摩擦低減方法。
  5. 前記滑り直動案内要素に付加する高周波振動を、機械の稼働中にわたりあるいは特定の時間のみに付加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の滑り直動案内要素の摩擦低減方法。
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