詳細な説明
本明細書で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「この(the)」は、文脈上特に明記しない場合は複数形を含む。すなわち、例えば「タンパク質(a protein)」は複数のそのようなタンパク質を含み、「この細胞(the cell)」との言及は、当業者に公知の1つ又はそれ以上の細胞への言及を含む、などである。
特に明記しない場合は、本明細書で使用するすべての技術及び科学用語は、本発明の属する当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様もしくは同等の方法及び材料は、開示された方法及び組成物の実施に使用できるが、方法、装置、及び材料の例は本明細書に記載される。
上記の及び本文を通して記載される刊行物は、本出願の出願日前の開示を示すためにのみ提供されるものである。決して、先行の開示により本発明者らがかかる開示に先行する権利が無いことを、認めるものではない。
本発明は一部には、種々のGタンパク質結合型受容体(GPCR)の相互作用、ならびにその下流のエフェクターであるプロテインキナーゼ活性及びカルシウムホメオスタシスに基づいている。GPCRはヒトゲノムの最も大きな遺伝子ファミリーの1つであり、神経伝達物質、ホルモン、ケモカイン、及び多くの他の分子により調節される多様な細胞機能を仲介する。GPCRシグナル伝達の適時の解放は、GPCR介在型の生理学的機能の適切性と完全性とを維持するのに重要である。この解放は主に、はるかに小さい遺伝子ファミリー(現在GPCRキナーゼ(GRK)の7つのメンバーが番号付けされている)により仲介される。多様なGPCRを調節するためのいくつかのGRKメンバーの特異性は、アゴニスト依存的な様式で制御される。すなわち、GRKはアゴニストに占有されたGPCRに優先的に結合してこれをリン酸化し、対応するGタンパク質から受容体を解放する(同種脱感作と称するプロセス)。構造的類似性に基づき、7つの公知のGRKメンバーは4つのサブファミリー(GRK1、GRK2/3、GRK4/5/6、及びGRK7)に分類され、GRK2/3及びGRK5/6は遍在的に分布している(脳を含む)。慢性心不全、心筋虚血、及び高血圧、並びに他の心血管障害(GRKが詳細に研究されている)の病理発生に、GRK2(おそらくはGRK5も)の異常調節が関係があるとされている。GRK1によるロドプシンシグナル伝達の脱感作の不良は光受容体細胞の死滅を引き起こすことができ、色素性網膜炎の原因になると考えられている。さらに、GRK2レベルの増加は、アヘン耽溺と関係がある。しかしこれらとは別に、GPCR解放と関係する可能性のある多くの他の病理状態(例えばAD)におけるGRKの役割は、実質的に研究されないままである。
GPCRの膜位置のために、原形質膜上又はサイトゾル中のGRKの保持は、GPCRへの接近及び結合に物理的に影響を与える。休止細胞では、GRK4サブファミリーメンバー(GRK4/5/6を含む)は原形質膜に堅く会合しており(文献10)、一方GRK2サブファミリーメンバー(GRK2/3)は主にサイトゾル性であり、GPCRアゴニストにより細胞が刺激されると膜に移行する。しかし活性細胞では、GRKの細胞内局在は、膜対サイトゾルにおけるGRK結合因子の含量及び能力により決定されるようである。リン脂質、特にホスファチジルイノシトール-4,5-ビホスフェートは膜へのGRK接着においてある役割を果たし、GPCRに結合するようであるが、ホスファチジルセリン(PS)もまた、膜上のGPCRへのGRK2結合を増強することがある。一方、カルシウム/カルモジュリン及び他のカルシウム結合性タンパク質、ならびにアクチン、アクチニンなどは、サイトゾル中でGRKを隔離するのに寄与し、GPCRへのGRKの結合を阻害することがある。
ADの脳では、大きな膜変化、異常なホスホイノシチド代謝、カルシウムホメオスタシスの破壊、及び細胞骨格タンパク質の崩壊のすべてが、GRKの細胞内分布に影響を与えている可能性がある。さらにβ−アミロイド(ADの病理発生に中心的な疎水性ペプチド)の増加は、膜ホスファチジルイノシトール-4,5-ビホスフェートを減少させ、[Ca2+]iを増加することが示されている。
PS-1とPS-2の7-TM構造(ロドプシンのものと同様)の証拠により、PS-1及びPS-2がGタンパク質結合型受容体スーパーファミリーのタンパク質(これらはすべて、本質的に同様の構造を有する)に属するかどうかが調べられるようになった。PSはこれまで調べられた約1,000種のGPCRのいずれとも実質的なアミノ酸の相同性を示していないが、これらのGPCRのすべてが7-TM内在性タンパク質であり、多くは他のものと配列相同性を示さないという事実は、PS分子もGPCRである可能性を示している。PSのGPCR活性は、N14II-PS-2を使用して同定された。ヴォルガ・ドイツ人家族のFADに関連する突然変異が、百日咳毒素(PTx)感受性の様式でPC-12細胞死を引き起こした。他の研究は、PS-1の39アミノ酸残基のカルボキシ末端ドメイン(膜中のPS-1のほとんどすべての局所モデルで細胞質内に位置する)内で、脳のGoタンパク質に対する特異的結合性及び制御性ドメインが存在することを示唆した。in vitroでGoに結合するPS-1のこのドメインはまた、他の2つのGPCRタンパク質(D2ドーパミン作動性及び5HT-1B受容体)、ならびにGタンパク質活性性オリゴペプチドであるマストパラン、のG-結合ドメインと、いくつかの局所的アミノ酸配列相同性を示す。PS-1が機能性GPCRである可能性はさらに本明細書に記載される。
本開示は、Gタンパク質Goが全長PS-1に結合し、百日咳毒素により阻害されること、さらにGoAのみがPS-1に結合し、GoBは結合しないことを示す。PS-1のテイルレス(tail less)の構築物によるESヌル細胞のトランスフェクションは、結合のほとんどがPS-1のカルボキシ末端テイルで起こることを示す。しかしこれらの結果はまた、テイルレスPS-1の存在下では非常に少量の結合しか起きないため、他の細胞質ループ領域も結合に関与し得ることを示す。本開示はまた、Gタンパク質がPS-1だけでなくPS-2にも結合し、PS-2については、GoAの結合以外にGoBもPS-2に結合相互作用(これはPS-1には見られない)することを示す。この結合は、全長PS-2の代わりにテイルレスPS-2が使用されたときでさえ存在する。これらの結果は、GoBがC-テイル以外の細胞質ドメインでPS-2に結合することを示唆する。35S-GTPγS-標識化GαoAのPS-1への結合は700%を超えて増加する。PS-2については同様に、35S-GTPγS標識化GαoA結合の基礎レベルに対して700%を超える増加、ならびに35S-GTPγS-標識化GαoBの約300%の増加がある。PTxによる処理は、GoA及びGoBの両者への35S-GTPγSの取り込みを阻害する。
すなわち、GoAは同様の率でPS-1とPS-2の両者に結合するようであるが、PS-2へのGoBの結合は、同じ実験条件下でGoAについて観察されるものの半分以下である。このデータは、PS-1及びPS-2へのGタンパク質結合の機能性結果を確認し、2種のプレセニリンタンパク質をGタンパク質結合型受容体(GPCR)としてさらに特徴付けている。
GPCRは、その配列相同性と構造的特徴に従って3つの主要なファミリーに分類されている。ファミリー1は最も大きく、すべてのGPCRの90%を構成する。このファミリーのメンバーは短いアミノ末端細胞外ドメインを有し、7-TMドメイン内に7つの保存アミノ酸モチーフを有する。ファミリー1 GPCRの「識別特性」は、TM-IIIの境界の保存されたトリペプチドであるDRY配列と、Gタンパク質結合に決定的に重要な役割を果たす第2の細胞内ループである。PS-1及びPS-2は保存されたファミリー1モチーフ(DRY配列を含む)を持たず、この群に属する可能性は低い。ファミリー2のメンバーはより長い細胞外ドメインを共有し、大きなペプチドリガンド(例えばグルカゴン及びセクレチンなど)により活性化される。ファミリー3のメンバーは、代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)、γアミノ酪酸B(GABAB)受容体、及び細胞外陽イオンセンシングCa2+受容体を含み、リガンド結合性ドメインとして機能する大きな細胞外ドメインを有する。このファミリーは、Gタンパク質シグナル伝達のための別個の細胞内ドメインと機構とを利用すると考えられる。ファミリー1 GPCR中に存在する保存されたアミノ酸モチーフ及びDRY配列は、ファミリー3で保存されておらず、従ってこのタンパク質中のコンフォメーション変化を引き起こす分子事象は、ファミリー1とファミリー3 GPCRのメンバー間で幾分異なっている。
PS-1とPS-2は、他の2つのファミリーのいずれよりもファミリー3 GPCRとより多くの共通の特徴を有するようであり(いずれも大きな細胞外ドメイン(N末端、及びTM VIとVIIとの間の親水性ループ)(ファミリー3のGPCRの特徴)を有する。ファミリー3 GPCRのリガンド結合は、もっぱら細胞外ドメイン(一般的にはアミノ末端ドメイン)を介して起きるようである。PS-1又はPS-2のN末端ドメインは、PS GPCR活性化の提唱されているリガンドでありアゴニスト候補であるβ-APPへの、それぞれPS-1又はPS-2のin vitro結合に充分である。いくつかのファミリー3のメンバーは、通常細胞外Cys残基を介するジスルフィド結合により、ホモダイマーを形成する。PS-1とPS-2がダイマーとして膜中に存在することは公知である。さらにこれらはその細胞外ドメイン(7-TM構造)にCys残基を有するが、これらがジスルフィド結合を形成し、タンパク質のダイマー化に参加するかどうかは不明である。ファミリー3のGPCRはすべて、最も短いループとして第3の細胞内ループを有し、これは各タイプ間で保存されている。同様に、PS-1及びPS-2中の第3の細胞内ループは最も短いループであり、配列KYLPEW(配列番号1)からなり、完全に保存されている。ファミリー3 GPCRのいくつかのメンバーは、そのカルボキシ末端PDZ結合ドメインを介して直接的に、Homerのような細胞内PDZドメインタンパク質と相互作用する。いくつかのPDZタンパク質と結合することが示されているPS-1のカルボキシ末端テイルにはPDZ結合ドメインがある。
Aβ産生の機構に対する研究は、ある細胞表面上のβ-APPと、別の細胞表面上のPS-1又はPS-2との細胞間相互作用を含んでいる。本発明は、β−アミロイド前駆体タンパク質β-APPとPS-1又は2とが、通常は細胞間シグナル伝達系の成分であり得ることを示唆する。β-APPの1つ又はそれ以上の形態は、それぞれの細胞膜から突き出た細胞外ドメインを介して、PS-1又はPS-2に特異的に結合することができる。このin vivoでの結合は、通常の神経の生理機能又は発生に重要な細胞間シグナル伝達事象を誘導する。この経細胞分子結合の副産物、小胞形成プロセス、細胞インターナリゼーション、及びタンパク質分解が動き出すと、Aβの形成及び細胞放出、並びに脳領域でのAβの緩やかな蓄積が起こる。
PSは細胞表面で発現可能であり、7-TM構造を有し、PS-1及びPS-2はβ-APPとの特異的細胞間相互作用に参加する。このβ-APP:PS介在性細胞間相互作用は、チロシンキナーゼ活性とタンパク質チロシンリン酸化の一過性の増加を引き起こす。さらにβ-APP:PS介在性細胞間相互作用は、少なくともAβ産生の主要な部分に必要である。β-APPとPSとの間の細胞間相互作用はまた、PSへのGタンパク質結合を活性化することがある。(現在では、タンパク質チロシンキナーゼとGタンパク質シグナル伝達経路との間でクロストークがあるという実質的な証拠がある)。
PSによるGo活性化が最終的にAβ産生に影響を与えるなら、これらの最近の試験の可能な結果は、適切に設計されたPS-Go特異的結合のインヒビターを使用する、ADの薬物療法であるかもしれない。
すなわち、PS-1、PS-2、及びAPPは細胞間シグナル伝達においてある役割を果たすようである。これらの3つのタンパク質の研究の主要な焦点は、PSタンパク質が直接又は間接に関与する、β-APPからAβへのタンパク質分解的断片化における各役割についてである。さらにある細胞表面上のβ-APPの1つ又はそれ以上の形態と、別の細胞表面上のPS-1(又はPS-2)とは、通常の生理機能においての役割を有する細胞間シグナル伝達系の特異的リガンド及び受容体成分かもしれない。本開示は、PSタンパク質へのβ-APPの細胞間表面結合が通常の生理機能で働くことで、一方又はおそらくは両方の接着細胞間でシグナル伝達プロセスを誘導し、最終的に生物に重要な発生的結果を導くという証拠を提供する。
この提唱は、キイロショウジョウバエ(Drosophila)の目の発生におけるプレR7とR8細胞の間の、類似した細胞間シグナル伝達に基づく。キイロショウジョウバエ(Drosophila)では、プレR7細胞表面上のI型の単一のTM貫通タンパク質Sevenless(SEV)(β-APPに類似)が、7-TMのBride of Sevenless(BOSS)タンパク質(PS-1又はPS-2に類似)に特異的に結合する。本明細書の別の箇所に記載のように、PSタンパク質は広く受け入れられているように7-TM構造を有し8ではない。この場合、シグナル伝達は、SEVタンパク質の細胞質ドメインのチロシンキナーゼ活性が活性化されることを必要とする。β-APPもPSタンパク質もタンパク質チロシンキナーゼではなく、タンパク質チロシンリン酸化が関与するなら、この場合には、細胞質ドメインの別の間接的活性が下流のシグナルを提供しなければならないであろう。実験はまず、かかる細胞内タンパク質チロシンのリン酸化シグナル伝達事象を検出するために開始した。β-APPで一過性トランスフェクトした培養DAMI(ヒト巨核芽)細胞を、PS-1又はPS-2でトランスフェクトしたDAMI細胞と混合すると、混合後数分以内に、細胞抽出物はタンパク質チロシンキナーゼ活性と、タンパク質基質のホスホチロシン(PTyr)修飾の顕著な一過性の増加を示した(これは、対照又は特異的β-APP:PS結合のインヒビターを含有する細胞混合物中には現れなかった)。β-APPへの細胞間結合にPS-1又はPS-2が関与したか否かにより、このシグナル伝達の下流結果は異なり(これは、増強されたチロシンリン酸化が、この2つの場合においてまったく異なるため)、これは、2つの密接な相同性を有するPSタンパク質の生化学的機能の重複というよりむしろ、これらの機能の間の差異を示唆している。
本開示は、対照実験でトランスフェクトしていないか又はβ-APPでトランスフェクトした、PS-1-/-、PS-2-/-ダブルヌルマウス(本明細書中ESダブルヌル細胞と呼ぶ)から得られる胚幹(ES)細胞を使用することによって、生物学的経路を示す。後者の場合、β-APPでトランスフェクトしたES細胞は、PS-1もしくはPS-2でトランスフェクトしたDAMI細胞と混合される。DAMI細胞はその表面に内因性β-APPを顕著な量で発現しないため、この混合細胞培養系では、β-APPでトランスフェクトしたESダブルヌル細胞は、細胞表面に発現されるβ-APPの唯一の供給源として機能し、PSでトランスフェクトしたDAMI細胞は細胞表面に発現されるPSの唯一の供給源である。β-APP:PS特異的シグナル伝達事象がこの系で起きる場合、これは2つの細胞種の細胞接触介在型(juxtacrine)相互作用の結果であり得る。本試験では、かかる相互作用が見つかっている。
β-APP:PS細胞間結合の結果であるPTyrタンパク質修飾の増加は、タンパク質チロシンキナーゼの測定を含む。シグナル伝達にはSrcファミリーのチロシンキナーゼ活性の一過性増加を伴うという証拠が提供されており、β-APPとPS-1(PS-2ではない)との間の細胞間シグナル伝達を仲介する個々のSrcファミリーメンバーがpp60c-srcであると同定された。これに対して、β-APP:PS-2シグナル伝達はSrcファミリーメンバーのLynを含む。これらのシグナル伝達事象は正常な生理機能に影響を与える。例えばこれらは、β-APPヌルマウスの発生中に遭遇する生理学的欠陥においてある役割を果たすことがある。
Srcファミリーのキナーゼは、癌、免疫系機能傷害、及び骨リモデリング疾患に関与するとされている。総説については、Thomas and Brugge, Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 1997, 13, 513; Lawrence and Niu, Pharmacol. Ther. 1998, 77, 81; Tatosyan and Mizenina, Biochemistry (Moscow) 2000, 65, 49-58; Boschelli et al., Drugs of the Future 2000, 25(7), 717 を参照されたい。
Srcファミリーのメンバーには、哺乳動物において以下の8つのキナーゼが含まれる:Src、Fyn、Yes、Fgr、Lyn、Hck、Lck、及びBlk。これらは分子量が52〜62kDの範囲の非受容体プロテインキナーゼである。すべてが、6つの別個の機能性ドメインからなる共通の構造的構成を特徴とする:Src相同性ドメイン4(SH4)、ユニークドメイン、SH3ドメイン、SH2ドメイン、触媒ドメイン(SH1)、及びC末端調節領域。Tatosyan et al. Biochemistry (Moscow) 2000, 65, 49-58。
公表された研究に基づくと、Srcキナーゼは種々のヒト疾患の治療標的候補と考えられている。Srcが欠損したマウスは、破骨細胞による骨吸収の低下のために、骨化石症、又は骨集積(bone build-up)を発症する。これは、異常に高い骨吸収により起きる骨粗鬆症がSrcを阻害することにより治療されることを示す。Soriano et al., Cell 1992, 69, 551及びSoriano et al., Cell 1991, 64, 693。
リウマチ滑膜細胞および破骨細胞中のCSKの過剰発現により、関節炎患者の骨破壊が抑制される。Takayanagi et al., J. Clin. Invest. 1999, 104, 137。CSK、又はC末端SrcキナーゼはSrcをリン酸化することにより、Src触媒活性を阻害する。これは、Srcの阻害が慢性関節リウマチに罹っている患者に特徴的な関節破壊を予防し得ることを示す。Boschelli et al., Drugs of the Future 2000, 25(7), 717。
Srcはまた、B型肝炎ウイルスの複製においてある役割を果たす。ウイルスにコードされる転写因子HBxは、ウイルスの増殖に必要な工程でSrcを活性化する。Klein et al., EMBO J. 1999, 18, 5019及びKlein et al., Mol. Cell. Biol. 1997, 17, 6427。
多くの研究により、Src発現が、結腸癌、乳癌、肝臓癌、及び膵臓癌などの癌、特定ののB細胞白血病、及びリンパ腫に関連付けられている。Talamonti et al., J. Clin. Invest. 1993, 91, 53; Lutz et al., Biochem. Biophys. Res. 1998 243, 503; Rosen et al., J. Biol. Chem. 1986, 261, 13754; Bolen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1987, 84, 2251; Masaki et al., Hepatology 1998, 27, 1257; Biscardi et al., Adv. Cancer Res. 1999, 76, 61; Lynch et al., Leukemia 1993, 7, 1416。さらに卵巣及び結腸腫瘍細胞で発現されるアンチセンスSrcが、腫瘍増殖を阻害することが示されている。Wiener et al., Clin. Cancer Res., 1999, 5, 2164; Staley et al., Cell Growth Diff. 1997, 8, 269。
他のSrcファミリーキナーゼもまた、治療標的候補である。LckはT細胞シグナル伝達においてある役割を果たす。Lck遺伝子が欠損したマウスは、胸腺細胞を発達させる能力が低い。T細胞シグナル伝達の陽性アクチベーターとしてのLckの機能は、慢性関節リウマチのような自己免疫疾患を治療するのにLckインヒビターが有用である可能性を示唆する。Molina et al., Nature, 1992, 357, 161。Hck、Fgr及びLynは骨髄性白血球におけるインテグリンシグナル伝達の重要なメディエーターとして同定されている。Lowell et al., J. Leukoc. Biol., 1999, 65, 313。従ってこれらのキナーゼメディエーターの阻害は、炎症を治療するのに有用であり得る。Boschelli et al., Drugs of the Future 2000, 25(7), 717。
GSK-3活性もまたアルツハイマー病に関連している。この疾患は、周知のβ−アミロイドペプチドの存在と細胞内神経原線維変化の形成を特徴とする。神経原線維変化は、高リン酸化Tauタンパク質を含有し、その際Tauは異常部位でリン酸化されている。GSK-3は、細胞及び動物モデルでこれらの異常部位をリン酸化することが示されている。さらに、GSK-3の阻害は、細胞中のTauの高リン酸化を妨害することが示されている[Lovestone et al., Curr. Biol., 4, 1077-86 (1994);及びBrownlees et al., Neuroreport 8, 3251-55 (1997); Kaytor and Orr, Curr. Opin. Neurobiol., 12, 275-8 (2000)]。GSK3を過剰発現しているトランスジェニックマウスでは、Tauの高リン酸化の顕著な増加とニューロンの形態異常のが観察された(Lucas et al., EMBO J, 20:27-39 (2001))。活性GSK3は変化前(pretangle)のニューロンを細胞質中に蓄積し、これがAD患者の脳中の神経原線維変化を導き得る(Pei et al., J Neuropathol Exp Neurol, 58, 1010-19 (1999))。従ってGSK-3の阻害は、神経原線維変化の生成を遅延させるか又は停止させ、従ってアルツハイマー病を治療するか又はその重症度を低下させる。
アルツハイマー病においてGSK-3が果たす役割の証拠がin vitroで示されている。Aplin et al. (1996), J Neurochem 67:699; Sun et al. (2002), Neurosci Lett 321:61(GSK3bはアミロイド前駆体タンパク質(APP)の細胞質ドメインをリン酸化し、GSK3bの阻害はAPPでトランスフェクトした細胞においてAb40及びAb42分泌を低減する);Takashima et al. (1998), PNAS 95:9637; Kirschenbaum et al. (2001), J Biol Chem 276:7366(GSK3bはプレセニリン-1と複合体を形成してこれをリン酸化し、これがAPPからのAbの合成においてγ-セクレターゼ活性に関与している);Takashima et al. (1998), Neurosci Res 31:317(Ab(25-35)によるGSK3bの活性化は海馬ニューロンにおいてtauのリン酸化を増強する。この観察結果は、Abと高リン酸化tauからなる神経原線維変化(ADの別の病理的特徴)との関連を提供する);Takashima et al. (1993), PNAS 90:7789(GSK3b発現又は活性の阻止は、皮質及び海馬初代培養物のAb誘導型神経変性を予防する);Suhara et al. (2003), Neurobiol Aging. 24:437(細胞内Ab42は、Akt/GSK-3bシグナル伝達依存性機構の活性化を干渉することにより内皮細胞に対して毒性である);De Ferrari et al. (2003) Mol Psychiatry 8:195(リチウムは、Ab原繊維誘導型細胞障害、及びβ-カテニンの低減した核転座/脱安定化からN2A細胞及び初代海馬ニューロンを防御する);及びPigino et al., J Neurosci, 23:4499, 2003(アルツハイマー病のプレセニリン1の突然変異は、GSK-3活性を脱調節してこれを増加させることができ、これは続いてニューロンにおける軸索輸送を損なう。影響を受けたニューロンの軸索輸送のその後の低下は、最終的に神経変性を引き起こし得る)を参照。
アルツハイマー病においてGSK-3が果たす役割の証拠はin vivoで示されている。Yamaguchi et al. (1996), Acta Neuropathol 92:232; Pei et al. (1999), J Neuropath Exp Neurol 58:1010(AD脳の感受性領域でGSK3bの免疫反応性が上昇する);Hernandez et al. (2002), J Neurochem 83:1529(条件的GSK3b過剰発現を有するトランスジェニックマウスは、ADのトランスジェニックAPPマウスモデルのものと似た認知障害を示す);De Ferrari et al. (2003) Mol Psychiatry 8:195(慢性リチウム治療は、Ab原繊維の海馬内注入により引き起こされる神経変性と行動傷害(Morris水迷路)をレスキューした);McLaurin et al., Nature Med, 8:1263, 2002(ADのトランスジェニックモデルにおけるAbによる免疫化は、AD様神経病理と空間記憶障害の両方を低下させる);及びPhiel et al. (2003) Nature 423:435(GSK3は、AD tgマウスにおけるγセクレターゼの直接阻害を介してアミロイドβペプチドの産生を調節する)。
Pigino, G., et al., Journal of Neuroscience (23:4499, 2003)により最近開示されたように、プレセニリン-1及びキネシン-1もまたGSK-3の基質であり、アルツハイマー病においてGSK-3が果たす役割の別の機構に関連する。GSK3βはキネシン-1軽鎖をリン酸化し、これが膜結合細胞小器官からのキネシン-1の放出を生じさせ、急速な順行性軸索輸送を低減させることがわかった。PS-1における突然変異はGSK-3活性を脱調節してこれを増加させ、これは次にニューロンの軸索輸送を障害する。影響を受けたニューロンにおける軸索輸送のその後の低下は、最終的に神経変性を引き起こす。
本発明は、β-APP提示細胞とPS提示細胞との間の特異的接着が異なる生理学的結果を有し得る[1つは、これらのタンパク質の正常機能に関連する細胞間(細胞接触介在型)シグナル伝達プロセス、他方は最終的にβ-APPをタンパク質分解してAβを形成させ、アルツハイマー病の病理に至る]ことを支持する。この系の細胞接触介在型相互作用の証拠は、β-APP、又はPS-1もしくはPS-2のいずれかで適切にトランスフェクトされた培養DAMI細胞を用いて得られた(特異的β-APP:PS介在型細胞間相互作用により、おそらくは1つの接着細胞、又は場合により両方の接着細胞内で、タンパク質チロシンキナーゼ活性及びタンパク質チロシンリン酸化の迅速かつ一過性の増加を生じさせた)。DAMI細胞は通常は細胞表面に顕著な量の内因性β-APP発現せず、かつ細胞下層から機械的に剥がすことが容易であるため、DAMI細胞が使用された。すなわち、ESダブルヌル細胞をβ-APPでトランスフェクトすることにより、PSを発現せずβ-APPのみを表面に発現する細胞が入手可能になり、DAMI細胞をPS-1又はPS-2のいずれかでトランスフェクトすることにより、表面にPSタンパク質を発現し、顕著にβ-APPを発現しない追加の細胞が作製された。
これらのトランスフェクトした細胞間の混合実験は、その結果が示すように、β-APPとPSとの間の特異的なシグナル伝達を明瞭に証明し(図5)、これは、細胞接触介在型相互作用(すなわち、1つの細胞表面上の膜結合型PSと別の細胞表面上のβ-APPとが関与する反応)により生じる。この相互作用は、可溶性β-APP(β-APPの原形質外ドメイン)、及びFLAGに融合したPS-1のN末端ドメイン、の両方により特異的に阻害され、これはβ-APPとPSとの相互作用の2重特異性を示している。
このシグナル伝達の下流の結果は、β-APPへの細胞間結合にPS-1が関与したか又はPS-2が関与したかにより異なる。チロシンリン酸化により修飾されるタンパク質のスペクトルは、β-APPへの特異的細胞間結合にPS-1が関与したか又はPS-2が関与したかにより異なった。ここで本発明はc-Srcを、β-APPとPS-1とが細胞間で相互作用するときに際立った一過性のリン酸化の増加を受けるが、β-APPがPS-2との細胞間相互作用を受けるときに観察されるSrcファミリーキナーゼ活性の増加には関与しないようであるタンパク質として識別する。後者については、SrcキナーゼファミリーメンバーであるLynが、関与する優勢の(又は少なくとも主要な)Srcキナーゼのようである。まとめるとこれらの結果は、2つの近接した相同性を有するプレセニリンタンパク質の重複した生理機能というよりむしろ、異なる生理機能を引き起こし得る別個のシグナル伝達機構を示唆する。
本発明は、β-APPとPS-1又はPS-2との細胞接触介在型シグナル伝達が、2つのPSタンパク質間で区別可能な迅速な一過性チロシンキナーゼ活性化を引き起こすことを証明する。しかしこれらのタンパク質のいずれもそれ自身はチロシンキナーゼではなく、Srcファミリーキナーゼ活性の間接的活性化の一部のタイプが関与しているようである。一般にチロシンキナーゼのSrcファミリーのメンバーは、種々の異なる分子機構を用いて受容体又は他のタンパク質に結合することにより間接的に活性化され得る。Srcチロシンキナーゼは特定の受容体に結合することにより調節することができ、これらは次に、該受容体の機能活性を調節することができる。c-Src又はLynは、それぞれβ-APPとPS-1又はPS-2との結合によりリクルートされる。リクルートは、細胞間接触の部位でシグナル伝達複合体がin vivoで一過性に形成され、リン酸化事象のカスケードを動かし、これが発生結果を引き起こし得ることを示唆する。β-APP:PS-1複合体との会合に必要なSrcの領域を同定することは、β-APP:PS-1シグナル伝達複合体の組み立てと活性化について貴重な情報を与え、β-APP:PS複合体とキナーゼとの相互作用が直接的であるか又は間接的であるかを示すはずである。β-APPは細胞質チロシン残基上でリン酸化されることについて公知ではなく、PS-1も同様であり、従ってc-SrcのSH2ドメインがリン酸化チロシン残基でのみ結合するため、このドメインを介する直接的結合は考えにくい。
しかしSrcのSH3ドメインを介して、別に直接的結合が起きる可能性がある。SH3ドメインはコアP-X-X-P(ここでXは任意のアミノ酸を示す)を含有するプロリンリッチな配列を認識する。リガンドは2つの反対の配向の1つでSH3結合表面を認識する。1型配向で結合するペプチドは、コンセンサス配列R-X-L-P-X-Z-P(ここでZは通常は疎水性残基又はArg残基である)に一致する(Kay et al., 2000)。興味深いことに、PS-1とPS-2はいずれも細胞質カルボキシ末端領域(PS-1の残基432〜436とPS-2の残基412〜416)に保存された1型のSH3結合部位(LPALP)を有するが、これらのSH3結合部位の同一性は、β-APPによるPS-1及びPS-2の経路の区別可能な活性化の説明とはならない。
種々の生物学的応答の調節にチロシンリン酸化が関与し、これらの応答の仲介に関与するチロシンキナーゼは多様なスペクトルのタンパク質からなる。Srcキナーゼはこれらが結合する受容体により調節される接着事象に関与し、細胞間相互作用及び細胞−マトリックス相互作用を調節する複数の受容体経路の関与(engagement)に従って活性化される。β-APP:PSシグナル伝達は通常の発生生理機能において重要な役割を果たし得るようである。かかるシグナル伝達が、さらにAβ産生経路の必要な初期工程かどうかは、Aβ産生に対する細胞接触介在型チロシンリン酸化の阻害効果を調べることにより実験的に調べることができる。
GPCR相互作用を阻害する多くの物質が当該分野で公知である。さらに、多くのキナーゼ(例えば、c-src、flnなど)インヒビターが当該分野で公知であり、本発明の方法で使用することができる。ADを治療するための、かかる物質を薬剤学的に許容される担体中に含む組成物が本発明で意図される。
GPCRは共通の構造モチーフを共有する。一般にこれらの受容体は、7つのαへリックスを形成する22〜24個の疎水性アミノ酸からなる7つの配列を有し、そのそれぞれが膜を貫通する(各貫通は数字で示され、すなわち膜貫通-1(TM-1)、膜貫通-2(TM-2)など)。膜貫通へリックスは、細胞膜の外部又は「細胞外」側の膜貫通-2と膜貫通-3、膜貫通-4と膜貫通-5、膜貫通-6と膜貫通-7(これらはそれぞれ、「細胞外」領域1、2、及び3(EC-1、EC-2、及びEC-3)と呼ばれる)の間でアミノ酸鎖により結合される。膜貫通へリックスはまた、細胞膜の内部又は「細胞内」側の膜貫通-1と膜貫通-2、膜貫通-3と膜貫通-4、及び膜貫通-5と膜貫通-6(これらはそれぞれ、「細胞内」領域1、2、及び3(IC-1、IC-2、及びIC-3)と呼ばれる)の間でアミノ酸鎖により結合される。受容体の「カルボキシ」(「C」)末端は細胞内の細胞内空間に存在し、受容体の「アミノ」(「N」)末端は細胞の外側の細胞外空間に存在する。
一般にリガンドが受容体に結合するとき(しばしば受容体の「活性化」と呼ばれる)、細胞内領域と細胞内「G-タンパク質」との間の結合を可能にする細胞内領域のコンフォメーションが変化する。GPCRはGタンパク質について「無差別」であり、すなわちGPCRは2つ以上のGタンパク質と相互作用することができる。Kenakin, T., 43 Life Sciences 1095 (1988)を参照。他のGタンパク質が存在するが、現在はGq、Gs、Gi、Gz、及びGoが同定されているGタンパク質である。Gタンパク質と結合する内因性リガンド活性化GPCRは、シグナル伝達カスケードプロセス(「シグナル伝達」と呼ばれる)を開始する。通常の条件下ではシグナル伝達は最終的に、細胞活性化又は細胞阻害に至る。受容体のIC-3ループならびにカルボキシ末端はGタンパク質と相互作用すると考えられている。
受容体活性化Gタンパク質は細胞膜の内部表面に結合する。これらはGαと、しっかりと会合したGβγサブユニットとからなる。リガンドがGタンパク質結合型受容体を活性化すると、これは受容体のコンフォメーション変化(形態の変化)を誘導し、これによりGタンパク質が受容体に結合することを可能にする。Gタンパク質は次に、Gαサブユニットからその結合したGDPを放出し、GTPの新しい分子に結合する。この交換は、Gαサブユニット、Gβγダイマー、及び受容体の解離を引き起こす。Gα-GTPとGβγはいずれも、次に異なるシグナル伝達カスケード(又は2次メッセンジャー経路)とエフェクタータンパク質とを活性化することができ、受容体は次のGタンパク質を活性化することができる。Gαサブユニットは最終的にその内在の酵素活性により結合GTPを加水分解してGDPにし、Gβγに再会合することを可能にして新しいサイクルを開始する。
グアニンヌクレオチド−結合タンパク質Go(その他については「o」)のαサブユニットは、種々の受容体とエフェクターとの間のシグナル伝達を仲介する。Goαサブユニットの2つの型が、脳組織ライブラリーから単離されている。これらの2つの型[GoAα及びGoBα(GoA及びGoBとも呼ばれる)]は、選択的スプライシングの産物である。GoAα転写産物は種々の組織に存在するが、脳に最も多く存在する。GoBα転写産物は脳及び精巣中で最も高レベルで発現される。
特異的GPCRスクリーニングアッセイ技術が当業者に公知である。例えば「一般的な」Gタンパク質結合型受容体アッセイ(すなわち、アゴニスト、部分アゴニスト、又は逆アゴニストである化合物を選別するアッセイ)を使用して候補化合物が同定された時点で、その化合物が受容体部位で相互作用することを確認するためにさらにスクリーニングすることが好ましい。例えば「一般的な」アッセイで同定される化合物は受容体に結合しないかもしれないし、又はその代わりにGタンパク質を細胞内ドメインから単に「切り離す」だけかもしれない。
Gsは酵素アデニリルシクラーゼを刺激する。一方、Gi(及びGz及びGo)はこの酵素を阻害する。アデニリルシクラーゼはATPのcAMPへの変換を触媒する、すなわちGsタンパク質に結合する構成的に活性化されたGPCRは、cAMPの細胞レベルの増加と関連している。一方、Gi(又はGz、Go)タンパク質に結合する構成的に活性化されたGPCRは、cAMPの細胞レベルの減少と関連している。一般的に、Neuron To Brain (3rd Ed.) Nichols, J. G. et al eds. Sinauer Associates, Inc. (1992)の第8章、"Indirect Mechanisms of Synaptic Transmission,"を参照されたい。すなわちcAMPを検出するアッセイは、候補化合物が、例えば受容体に対する逆アゴニスト(すなわちかかる化合物はcAMPのレベルを減少させる)かどうかを判定するのに使用することができる。cAMPを測定するための当該分野で公知の種々のアプローチを使用することができる。最も好適なアプローチは、ELISAベースの様式の抗cAMP抗体の使用による。使用可能な別のタイプのアッセイは、全細胞2次メッセンジャーレポーター系アッセイである。遺伝子上のプロモーターが、特定の遺伝子がコードするタンパク質の発現を駆動する。サイクリックAMPは、cAMP応答エレメントと呼ぶ特定の部位のプロモーターに結合して遺伝子の発現を駆動するcAMP応答性DNA結合タンパク質又は転写因子(CREB)の結合を促進することにより、遺伝子発現を駆動する。レポーター遺伝子(例えば、β−ガラクトシダーゼ又はルシフェラーゼ)の前に複数のcAMP応答エレメントを含有するプロモーターを有するレポーター系を構築することができる。すなわち構成的に活性化されるGs結合型レポーターはcAMPの蓄積を引き起こし、これが次に遺伝子とレポータータンパク質の発現とを活性化する。次にガラクトシダーゼ又はルシフェラーゼのようなレポータータンパク質は、標準的な生化学的アッセイを使用して検出することができる。
GqとGoは酵素ホスホリパーゼCの活性化に関連し、これは次にリン脂質PIP2を加水分解して、2つの細胞内メッセンジャー[ジアシクログリセロール(DAG)とイノシトール1,4,5-トリホスフェート(IP3)]を放出する。IP3蓄積の増加はGq-及びGo-関連受容体の活性化に関連する。一般的には、Neuron To Brain (3rd Ed.) Nichols, J. G. et al eds. Sinauer Associates, Inc. (1992)の第8章、"Indirect Mechanisms of Synaptic Transmission"を参照されたい。IP3蓄積を検出するアッセイを使用して、候補化合物が例えばGq-又はGo-関連受容体に対して逆アゴニスト(すなわち、かかる化合物はIP3のレベルを減少させる)であるかどうかを判定することができる。Gq-関連受容体はまた、Gq-依存性ホスホリパーゼCがAP1要素を含有する遺伝子の活性化を引き起こすAP1受容体アッセイを使用して調べることもできる。すなわち、活性化Gq-関連受容体はかかる遺伝子の発現の増加の証拠であり、したがって、これに対する逆アゴニストはかかる発現の減少の証拠であり、アゴニストはかかる発現の増加の証拠であり。このような検出のための市販のアッセイが利用できる。
本明細書において使用する用語「物質」又は「試験化合物」又は「薬剤候補」又は「モジュレーター」又はその文法的同等物は、天然の又は合成の任意の分子、例えばタンパク質、オリゴペプチド(例えば、約5〜約25アミノ酸の長さ、好ましくは約10〜20又は12〜18アミノ酸の長さ、好ましくは12、15、又は18アミノ酸の長さ)、小有機分子、多糖、脂質、脂肪酸、ポリヌクレオチド、RNAi又はsiRNA、asRNA、オリゴヌクレオチドなどをいう。物質は、プレセニリンの活性をモジュレートする物質の能力を同定するためのアッセイで試験することができる任意の分子である。物質は試験化合物のライブラリーの形態(例えば、充分な範囲の多様性を提供するコンビナトリアル又はランダム化ライブラリー)でもよい。物質は随時、融合パートナー(例えば、標的化化合物、レスキュー化合物、二量化化合物、安定化化合物、アドレス可能な(addressable)化合物、他の機能的部分)に結合される。従来、有用な性質を有する新しい化学物質は、いくつかの所望の性質又は活性を有する試験化合物(「リード化合物」と呼ぶ)を同定することによって、例えばリード化合物の活性を阻害する、その変異体を作製する、及びこれらの変異体化合物の性質と活性を評価することによって、作製される。かかる分析のために、しばしば高スループットスクリーニング(HTS)法が使用される。
発現の又は活性の「インヒビター」、「アクチベーター」、及び「モジュレーター」は、それぞれ阻害性、活性化、又はモジュレート分子を示すために使用され、例えばリガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、及びこれらのホモログや模倣物、の発現又は活性のin vitro及びin vivoアッセイを使用して同定される。用語「モジュレーター」にはインヒビターとアクチベーターとが含まれる。インヒビターは、プレセニリンに結合し、その酵素活性の刺激もしくは酵素活性を部分的にもしくは完全に阻止し、その活性を減少し、妨害し、活性化を遅延し、その活性を不活性化し、脱感作し、又はダウンレギュレートする物質、例えばアンタゴニストである。アクチベーターは、プレセニリンに結合し、その活性化又は酵素活性を刺激し、増加し、開始し、活性化し、促進し、増強し、又はその活性を感作もしくはアップレギュレートする物質、例えばアゴニストである。モジュレーターは、天然の及び合成のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、小化学分子などである。インヒビター及びアクチベーターを同定するためのアッセイには、例えばプレセニリンの存在下又は非存在下で、モジュレーターと推定される化合物を細胞に適用し、次にプレセニリン活性に対する機能的作用を測定することを含む。アクチベーター、インヒビター、又はモジュレーターの候補で処理されるプレセニリンを含むサンプル又はアッセイは、作用程度を調べるために、インヒビター、アクチベーター、又はモジュレーターの無い対照サンプルと比較される。対照サンプル(モジュレーターで処理されていない)は相対活性値100%が割り当てられる。対照と比較してプレセニリンの活性値が約80%、随時50%又は25〜1%であるとき、阻害が達成される。対照と比較してプレセニリンの活性値が110%、随時150%、随時200〜500%、又は1000〜3000%高いとき、活性化が達成される。
「アゴニスト」は本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドに結合するか、又は本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドの活性又は発現を刺激し、増加し、活性化し、促進し、活性化を増強し、感作し、又はアップレギュレートする物質をいう。
「アンタゴニスト」は本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドの発現を阻害するか、又は本発明のポリペプチド又はポリヌクレオチドに結合し、その刺激を部分的もしくは完全に阻止し、その活性を減少し、妨害し、活性化を遅延し、その活性を不活性化し、脱感作し、又はダウンレギュレートする物質をいう。
「小有機分子」は、約50ダルトン以上で約2500ダルトン未満、好ましくは約2000ダルトン未満、好ましくは約100〜約1000ダルトン、さらに好ましくは約200〜約500ダルトンの分子量を有する、天然の又は合成の有機分子をいう。
「機能的作用を測定する」は、プレセニリンの直接的又は間接的影響下にあるパラメータを増加又は減少する化合物についてアッセイすること、例えばGタンパク質又はβ-APPとのプレセニリン相互作用の、例えば物理的及び化学的又は表現型作用を測定することをいう。かかる機能的作用は、当該分野で公知の任意の手段により、例えばタンパク質について分光学的特性(例えば、蛍光、吸光度、屈折率)、流体力学的特性(例えば形状)、クロマトグラフ特性又は可溶性の変化により;タンパク質の誘導性マーカー又は転写活性化を測定することにより;結合活性又は結合アッセイを測定することにより、例えば抗体への結合を測定することにより;リガンド結合親和性の変化を測定することにより;カルシウム流入の測定により;本発明のポリペプチドの酵素産物の蓄積又は基質の枯渇の測定により;酵素活性の変化、本発明のポリペプチドのタンパク質レベルの変化の測定により;RNA安定性の測定により;Gタンパク質結合性により;GPCRリン酸化又は脱リン酸化により;tauリン酸化又は脱リン酸化、シグナル伝達、例えば受容体−リガンド相互作用、第2メッセンジャー濃度(例えば、cAMP、IP3、又は細胞内Ca2+)により;下流の又はレポーター遺伝子発現(CAT、ルシフェラーゼ、β-gal、GFPなど)の、例えば化学発光、蛍光、比色反応、抗体結合性、誘導性マーカー、及びリガンド結合アッセイを介した同定により、測定することができる。さらにプレセニリンへのβ-APP結合及びAβ産生も、プレセニリン活性に対する機能的作用の決定因子として使用することができる。用語「アミロイドβペプチド」は、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)からプロセシングされたアミロイドβペプチドをいう。最も一般的なペプチドには、アミロイドβペプチド1〜40、1〜42、11〜40、及び11〜42などがある。他のあまり一般的ではないアミロイドβペプチド種は、x-42(ここでxは2〜10及び12〜17の範囲)及び1-y(ここでyは24〜39及び41の範囲である)として記載される。説明目的及び技術的目的のために、「x」は2〜17の値を有し、「y」は24〜41の値を有する。
本明細書で提供される方法により同定される物質は、臨床設定にかかわらず、アミロイド原繊維の形成、凝集又は沈着に関連する疾患を治療するために、治療的または予防的に投与することができる。本発明の化合物は、以下の任意の機構を使用してアミロイド関連疾患の経過をモジュレートするように作用し得る:例えば、特に限定されないが、アミロイド原繊維形成もしくは沈着速度を遅くする;アミロイド沈着の程度を小さくする;アミロイド原繊維形成を阻害、低減、又は防止する;アミロイド誘導性炎症を阻害する;例えば脳からのアミロイドのクリアランスを増強する;又はアミロイド誘導性(オリゴマー又は繊維性)毒性から細胞を防御する。
アミロイド沈着の「モジュレーション」は、アミロイド沈着又は原繊維形成の阻害(上記で規定される)と増強の両者を含む。従って用語「モジュレートする」は、アミロイドーシスが進行している(例えばすでにアミロイド凝集物を有する)被験体におけるアミロイド形成又は蓄積を防止又は停止すること、さらなるアミロイド凝集の阻害又は減速、及びアミロイドーシスが進行している被験体におけるアミロイド凝集物の低減又は逆転;及びアミロイド沈着の増強、例えばin vivo及びin vitroでのアミロイド沈着の速度もしくは量の増加を包含する。アミロイド増強化合物は、例えば短時間で動物のアミロイド沈着の発達を可能にするために、又は選択された期間にわたってアミロイド沈着を増加させるために、アミロイドーシスの動物モデルにおいて有用であり得る。アミロイド増強化合物はin vivoで、例えば動物モデル、細胞アッセイで、及びアミロイドーシスについてのin vitroアッセイで、アミロイドーシスを阻害する化合物のためのスクリーニングアッセイにおいて有用であり得る。かかる化合物は、例えば化合物のためのより迅速で高感度のアッセイを提供するために使用することができる。一部の場合には、アミロイド増強化合物はまた、治療目的、例えばCAAを予防するために脳血管の壁よりもむしろ、管腔中のアミロイド沈着を増強するために投与することができる。アミロイド凝集のモジュレーションは、未処理被験体と相対的に又は治療前の処理被験体と相対的に測定される。
アミロイド沈着の「阻害」には、アミロイド形成(例えば、原繊維形成)の防止又は停止、脳からの可溶性Aβのクリアランス、アミロイドーシスの(例えばすでにアミロイド沈着を有する)被験体におけるさらなるアミロイド沈着の阻害又は減速、及びアミロイドーシスが進行している被験体におけるアミロイド原繊維形成又はアミロイド沈着の低減もしくは逆転などがある。アミロイド沈着の阻害は、未処理被験体に比較して、又は治療前の処理被験体に比較して、例えば臨床的に測定可能な改善により、又は脳アミロイドーシスの被験体[例えば、例えばアルツハイマー病又は脳アミロイド血管症の被験体]の場合は認知機能の安定化又は認知機能のさらなる低下の予防(すなわち、疾患の進行を防ぐ、遅らせる、又は止める)により、又はCSFにおけるtau又はAβ濃度のようなパラメータの改善により測定される。
本明細書で使用する被験体の「治療」は、アミロイド−β関連疾患もしくは状態を有するか、かかる疾患もしくは状態の症状を有するか、又はかかる疾患もしくは状態のリスク(罹患し易さ)がある被験体への、該疾患又は状態、該疾患又は状態の症状、又は該疾患又は状態のリスク(罹患し易さ)を治療し、治癒し、緩和し、除去し、改変し、軽減し、改善し、改良し、又は影響を与えることを目的とした、本発明の方法により同定される物質を含む組成物の適用もしくは投与、又はそのような被験体からの細胞もしくは組織への本発明の組成物の適用もしくは投与を含む。用語「治療する」は、任意の客観的又は主観的パラメータ(緩解など)を含む、損傷、病理、又は状態の治療又は改善;寛解;症状の縮小、又は損傷、病理、もしくは状態を被験体がより許容できるようにすること;変性又は減退の速度を遅延させること;変性の最終点の衰弱を小さくすること;被験体の身体的又は精神的健康を改善すること;又は一部の状況では、認知症の発症を予防すること、における成功の任意の兆候をいう。症状の治療又は改善は、客観的又は主観的パラメータ(身体検査又は精神的評価を含む)を基礎とすることができる。例えば本発明の方法は、認知の低下の速度又は程度を小さくすることにより、被験体の認知症をうまく治療する。
家族性又は散発性のアルツハイマー病は高齢者でみられる主要な認知症であるが、他のタイプの認知症もみられる。これらには特に限定されないが以下がある:ピック病に関連する前頭側頭骨変性、血管性認知症、レーヴィ小体型の老人性認知症、前頭葉萎縮、進行性核上麻痺及び大脳皮質基底核変性症を有するパーキンソン病の認知症、及びダウン症候群に関連するアルツハイマー病。プラーク形成はまた、海綿状脳症(例えば、CJD、スクレピー、及びBSEなど)でもみられる。本発明は、そのような神経変性疾患、特に神経毒性タンパク質プラーク(例えばアミロイドプラーク)を伴うものの治療に関する。
ダウン症候群は、生児出生800例中の1例に起きる深刻なヒト障害である。これは、罹患者の第21染色体の余分なコピー(21トリソミー)の存在に関連する。β−アミロイド前駆体タンパク質(β-APP)遺伝子は、第21染色体上で、ダウン症候群遺伝子座の非常に近位にコードされる。ダウン症候群を患うすべての患者は、40才を超えるとアルツハイマー病様認知症及び脳中のAβ沈着を発現させる。従って、Aβの過剰産生がADとダウン症候群のいずれの認知症の発生に直接関係すると提唱することは、充分理由がある。すなわちAD症状の改善のための治療薬の同定の本質は、ダウン症候群症状の改善にも有用であろう。
「認知症」は、器質的又は心理的要因による全般的な精神変調をいい、見当識障害、記憶障害、判断、及び知力、及び軽い感情易変性を特徴とする。本発明において認知症は、血管性認知症、虚血血管性認知症(IVD)、前頭側頭型認知症(FTD)、レーヴィ小体認知症、アルツハイマー型認知症などがある。高齢者の間で最も一般的な認知症の様態はアルツハイマー型認知症である。
本明細書で使用する「軽度−中度」又は「早期段階」のADという表現は、進行しておらず、疾患の兆候又は症状が重くはないADと同義に使用される。軽度−中度又は早期段階のADの被験体は、熟練した神経科医又は臨床医によって確認され得る。一実施形態において、軽度−中度のADの被験体は、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination)(MMSE)を使用して確認される。ここで、「中度−重度」又は「後期段階」のADという用語は、進行しており、疾患の兆候又は症状が顕著なADをいう。かかる被験体は、熟練した神経科医又は臨床医により確認され得る。この様態のADを患う被験体はコリンエステラーゼインヒビターを用いる治療にもはや応答せず、アセチルコリンレベルが顕著に低下していることがある。一実施形態において、中度−重度のADを患う被験体は、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination)(MMSE)を使用して同定される。「家族性AD」は、遺伝子欠陥により引き起こされる遺伝型のADである。AD又は認知症の「症状」は、任意の病的兆候、又は被験体が経験する構造、機能、又は間隔の正常との解離であり、AD又は認知症を示すものである。
アミロイド原繊維の形成、凝集、又は沈着に関連する疾患を治療するための物質を、治療的または予防的に投与することができる。本発明の物質は、原繊維形成の経過を改善し;アミロイド−βにより誘導される神経変性又は細胞毒性を阻害し;アミロイド−β誘導性炎症を阻害し;脳からのアミロイド−βのクリアランスを増強し;又はAβのより大きな異化を促進するように作用することができる。
物質は脳Aβに直接作用することにより、例えばこれを非繊維状で維持するか又は脳からのそのクリアランスを促進することにより、アミロイド−β沈着を制御する上で有効であり得る。前記化合物はAPPプロセシングを遅らせることができ;マクロファージ又は神経細胞によるAβ原繊維の分解を増加させることができ;又は活性化小神経膠細胞によるAβ産生を減少させることができる。これらの物質はまた、脳中のAβを細胞表面と相互作用することから防ぎ、従って神経毒性、神経変性、又は炎症を防ぐことができる。
本発明で提供される方法により同定される物質は、アルツハイマー病(例えば散発性又は家族性AD)を治療するのに使用することができる。物質はまた、例えばダウン症候群の個体、及び脳アミロイド血管症(「CAA」)、遺伝性脳出血、又は早期アルツハイマー病の患者の、アミロイド−β沈着の他の臨床的発生(clinical occurrence)を治療するために、予防的または治療的に使用することができる。
物質はまた、軽度の認知障害を治療するために使用することができる。軽度の認知障害(「MCI」)は、必ずしも認知症の存在に関連していない思考力の軽いが測定可能な障害の状態を特徴とする。MCIはしばしば(必ずではないが)アルツハイマー病に先行する。
さらに筋肉繊維中のAPP及びアミロイド−βタンパク質の異常蓄積は、散発性封入体筋炎(IBM)の病理に関与している(Askanas, V., et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 1314-1319; Askanas, V. et al. (1995) Current Opinion in Rheumatology 7: 486-496)。従って、本発明で提供される方法により同定される物質は、非神経学的位置にアミロイド−βタンパク質が異常に沈着している障害の治療(例えば筋繊維への化合物の送達によるEBMの治療など)において予防的または治療的に使用することができる。
さらにAβは、加齢性黄斑変性症(ARMD)の個体の網膜色素性上皮の基底表面に沿って蓄積する異常細胞外沈着物(ドルーゼンとして知られている)に関連していることが示されている。ARMDは、高齢者の不可逆的失明の原因である。Aβ沈着は、網膜色素性上皮の萎縮、ドルーゼン生物発生、及びARMDの病理発生に寄与する局所的炎症性事象の重要な成分であり得ると考えられている(Johnson, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99(18), 11830-5 (2002))。
従って本発明は、概して、アミロイド原繊維の形成もしくは沈着、神経変性、又は細胞毒性が低減するか又は阻害されるように、本発明で提供される方法により同定される物質又は化合物の治療量を被験体に投与することを含む、被験体(好ましくはヒト)のアミロイド関連疾患を治療または予防する方法に関する。別の実施態様において、本発明は、脳アミロイドーシスを患う患者、例えばアルツハイマー病、ダウン症候群、又は脳アミロイド血管症の患者で、認知機能が改善又は安定化されるか、又は認知機能のさらなる悪化が防止され、遅延され又は停止されるように、本発明で提供される方法により同定される化合物の治療量を被験体に投与することを含む、被験体(好ましくはヒト)のアミロイド関連疾患を治療または予防する方法に関する。これらの化合物はまた、これらの被験体の日常生活の質を改善することができる。
さらに本発明は、アミロイド関連疾患の治療のための物質を含む医薬組成物、ならびにかかる医薬組成物の製造する方法に関する。
一般に、本発明で提供される方法により同定される物質は、当業者に公知の方法のいずれかにより調製することができる。本発明の物質は、適切な溶媒とともに又は溶媒無含形態(例えば、凍結乾燥型)で提供することができる。本発明の別の態様において、本発明の方法を実施するのに必要な物質及び緩衝液は、キットとしてパッケージングすることができる。キットは、本明細書に記載の方法に従って商業的に使用することができ、本発明の方法において使用するための説明書を含んでよい。追加のキット成分として、酸、塩基、緩衝化剤、無機塩、溶媒、抗酸化剤、保存剤、又は金属キレート剤などを含んでもよい。追加のキット成分は、純粋な組成物として、又は1つ又はそれ以上の追加のキット成分を含む水溶液もしくは有機溶液として存在する。キット成分のいずれか又はすべては、場合により緩衝液をさらに含む。
治療薬はまた、非経口、腹腔内、髄腔内、又は脳内に投与することができる。分散剤は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物、及び油中で調製することができる。通常の保存及び使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存剤を含有してもよい。
非経口投与以外の経路で治療薬を投与するために、物質をその不活性化を防ぐ材料で被覆するか又は該材料と共に共投与することが必要であり得る。例えば治療薬は、適切な担体、例えばリポソーム又は希釈剤中で被験体に投与することができる。薬剤学的に許容される希釈剤には、食塩水及び液体バッファー溶液などがある。リポソームには、水中油中水型CGFエマルジョンならびに従来のリポソームなどがある(Strejan et al., J. Neuroimmunol. 7, 27 (1984))。
注射用途に適した医薬組成物は、無菌の水溶液(水溶性の場合)又は分散剤、及び無菌注射溶液もしくは分散剤の即時調製のための無菌粉末を含む。すべての場合に、組成物は無菌であり、容易に注射可能である程度に流動的でなければならない。組成物は製造と保存条件下で安定であり、細菌や真菌のような微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。
適切な薬剤学的に許容されるビヒクルには、特に限定されないが、経口、非経口、鼻内、粘膜内、経皮、血管内(IV)、動脈内(IA)、筋肉内(IM)、及び皮下(SC)投与経路に適した任意の非免疫原性医薬アジュバント、例えばリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)などがある。
ビヒクルは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適当な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体でもよい。適当な流動性は、例えば、リシチンのようなコーティングの使用により、分散剤の場合は必要な粒径の維持により、及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物作用は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどにより防止することができる。多くの場合に、等張剤、例えば糖、塩化ナトリウム、又はポリアルコール(例えばマンニトール及びソルビトール)が組成物中に含有される。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム又はゼラチンを組成物中に含めることにより行うことができる。
無菌注射用溶液は、治療薬を必要量だけ適切な溶媒中に、必要に応じて上記成分の1つ又は組合せと共に含有させ、次にろ過滅菌することにより調製することができる。一般に分散剤は、治療薬を、基礎分散媒体と上記からの必要な他の成分とを含有する無菌ビヒクル中に組み込むことにより調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合は、調製方法は真空乾燥と凍結乾燥であり、これは活性成分(すなわち治療薬)と、予め無菌ろ過したその溶液からの任意の追加の所望成分を生じる。
治療薬は、例えば不活性希釈剤又は吸収可能な食用担体とともに経口投与することができる。治療薬及び他の成分はまた、硬又は軟シェルゼラチンカプセル中に封入されるか、錠剤に圧縮されるか、又は直接被験体の食事中に組み込んでもよい。経口治療投与のために、治療薬は賦形剤とともに組み込まれ、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤などの形態で使用することができる。組成物及び調製物中の治療薬の割合は、もちろん変化してもよい。かかる治療上有用な組成物中の治療薬の量は、適切な用量が得られるようなものである。
投与の容易さと投与量の均一性のために、非経口組成物を単位投与剤型で調製することが特に有利である。本明細書において使用する単位投与剤型は、治療される被験体にとって1回の投与に適した物理的に別個の単位をいい、各単位は、必要な医薬ビヒクルとともに所望の治療効果を与えるように計算された規定量の治療薬を含有する。本発明の単位投与剤型の規格は、(a)治療薬の固有の特性と達成される特定の治療効果、及び(b)被験体のアミロイド沈着の治療のためにかかる治療薬を配合する技術における固有の制限、により影響を受ける、かつ直接的に左右される。
従って本発明は、エアゾル剤、経口及び非経口投与のための薬剤学的に許容されるビヒクル中に、本明細書に記載の方法により同定される物質(その薬剤学的に許容される塩を含む)を含む医薬製剤を含む。また本発明は、静脈内、筋肉内、又は皮下注射による場合にような、凍結乾燥されておりかつ投与のための薬剤学的に許容される製剤を形成するために再構成することができる、前記物質又はその塩を含む。投与はまた皮内又は経皮でもよい。
本発明に従って、物質及びその薬剤学的に許容される塩は、経口的もしくは吸入により固体として投与してもよいし、又は筋肉内もしくは静脈内に溶液、懸濁液、又はエマルジョンとして投与してもよい。あるいは前記物質又は塩は、吸入、静脈内、又は筋肉内にリポソーム懸濁液として投与してもよい。
エアゾル剤としての(例えば吸入による)投与に適した医薬製剤も提供される。これらの製剤は、所望の物質若しくはその塩の溶液若しくは懸濁液、又は該物質もしくは塩の複数の固体粒子を含む。所望の製剤は、小さいチャンバーに入れられ、噴霧化される。噴霧化は、圧縮空気又は超音波エネルギーにより行われ、前記物質又は塩を含む複数の液滴もしくは固体粒子を生じる。液滴もしくは固体粒子は、約0.5〜約5ミクロンの範囲の粒径を有するものとする。固体粒子は、固体物質又はその塩を、当該分野で公知の適切な様式(例えば微粉化)により加工することにより得ることができる。固体粒子又は液滴のサイズは、例えば約1〜約2ミクロンである。この点で、この目的を達成するために市販のネブライザーが利用できる。
エアゾル剤としての投与に適した医薬製剤は液体の形態でもよく、製剤は水を含む担体中に水溶性物質又はその塩を含む。噴霧化に供する際に、所望のサイズ範囲内の液滴が充分に生じるように、製剤の表面張力を下げる界面活性剤が存在してもよい。
経口組成物はまた、溶液、エマルジョン、懸濁液などを含む。かかる組成物の調製に適した薬剤学的に許容されるビヒクルは当該分野で周知である。シロップ剤、エリキシル剤、エマルジョン、及び懸濁剤用の担体の典型的成分には、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、液体ショ糖、ソルビトール、及び水などがある。懸濁剤用の典型的な懸濁化剤にはメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、トラガカント、及びアルギン酸ナトリウムなどがあり、典型的な湿潤剤には、レシチン及びポリソルベート80などがあり、そして典型的な保存剤には、メチルパラベン及び安息香酸ナトリウムなどがある。経口液体組成物はまた、例えば上記の甘味剤、香味剤、及び着色剤のような1つ又はそれ以上の成分をさらに含むことができる。
医薬組成物はまた従来法により、典型的には対象物質が所望の局所的適用の近位で消化管中に放出されるように、又は所望の活性を延長するために種々の時間に放出されるように、pHもしくは時間依存性コーティングによりコーティングすることができる。かかる剤形は典型的には、特に限定されないが、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ポリ酢酸ビニル、フタル酸ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、蝋、及びシェラックなどがある。
対象物質の全身性送達を達成するのに有用な他の組成物には、舌下、口腔、鼻内投与剤形などがある。かかる組成物は典型的には1つ又はそれ以上の可溶性充填剤物質、例えばショ糖、ソルビトール及びマンニトール;及び結合剤、例えばアカシアゴム、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどがある。上記の流動促進剤、滑沢剤、甘味剤、着色剤、抗酸化剤、及び香味剤も含まれ得る。
本発明の組成物はまた、被験体に局所的に、例えば被験体の表皮もしくは上皮組織上に該組成物を直接塗布するかもしくは広げることにより、又は経皮的に「パッチ」を介して投与することもできる。かかる組成物には、例えばローション、クリーム剤、液剤、ゲル剤、及び固形剤などがある。これらの局所的組成物は、有効量の、通常少なくとも約0.1%、又は約1%〜約5%の本発明の物質を含むことができる。局所投与に適した担体は皮膚上に連続薄膜として留まり、発汗又は水への浸漬によりはがれることに抵抗する。一般に、担体は本質的に有機性であり、その中に治療薬を分散又は溶解することができる。担体は、薬剤学的に許容されるエモリエント剤、乳化剤、増粘剤、溶媒などを含んでよい。
以下の実施例は、本開示を例示するものであって、限定するものではない。これらの実施例で使用される科学的方法の種々のパラメータは詳細に説明され、開示内容を一般に実施するための指針を提供する。
実施例1
pcDNA3中のGタンパク質GαoA及びGαoBのcDNAを、UMR cDNA Resource Center(Rolla, MO)から購入した。pcDNA3中の完全長ヒトPS-1とPS-2のcDNAを、既に記載されているようにPCRによりクローニングした。最後のTM-ドメインの直後のPS-1又はPS-2の細胞質ドメインのみが欠如したPS-1及びPS-2のテイルレス構築物をpcDNA3中に構築した(この構築物は、PS-1のアミノ酸1〜430及びPS-2の1〜410からなる)。
細胞培養:ES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞を、公表されたプロトコールに従って培養した。
トランスフェクション:ES(PS-1-/-/PS-2-/-)を、15μgの、全長ヒトPS-1又はPS-2のpcDNA構築物と、所望のGタンパク質のcDNAを用いてリポフェクタミン(Invitrogen)法を使用して一過的にトランスフェクトした。簡単に説明すると、リポフェクタミン−DNA溶液を室温に30分放置し、充分量の血清無含培地と混合し、細胞に加えた。細胞を37℃でCO2インキュベーター中で5時間インキュベートし、次に培地に血清を補充し、トランスフェクションの12〜24時間後に細胞を回収した。
免疫沈降:トランスフェクションの24時間後、培養培地を除去し、細胞を200μlの抽出バッファー中で剥がした。Smineらの可溶化条件(50mM HEPES/NaOH、pH 7.4、1mM EDTA、1mM DTT、1% Triton X-100、60 mMオクチルクリコシド、及びプロテアーゼインヒビター)を使用して超音波処理により、全細胞抽出物を作製した。PS-1(MAB5232)又はPS-2(MA1〜754)のラージループに対するモノクローナル抗体を使用して、100μgの各抽出物を免疫沈降した。次に免疫沈降タンパク質を12% SDS-PAGEで分離し、膜に転移した。次にGタンパク質Goに対する抗体(K-20、Santa Cruz Biotechnology製のsc-387、親和性精製した;このポリクローナル抗体はGoAとGoBの両方を認識する)によるウェスタンブロットハイブリダイゼーションを行った。
ウェスタンブロットハイブリダイゼーション:免疫沈降したタンパク質をローディングバッファー(50 mM Tris、pH 6.8、0.1 M DTT、2% SDS、0.1% ブロモフェノールブルー、10% グリセロール)中で5分間沸騰させ、SDS-PAGE(12%)ゲル上で電気泳動により分離し、タンパク質をニトロセルロースフィルターに移した。フィルターを1次ポリクローナルウサギGタンパク質抗体と共にインキュベートし、次に西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート型ヤギ抗ウサギIgGと共にインキュベートした。フィルター結合ペルオキシダーゼ活性を化学発光により検出した。
PS-1 ES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞へのGタンパク質Goの結合を、全長ヒトPS-1に対するcDNAとGタンパク質GoA又はGoBのcDNA(UMR cDNA Resource Center, Rolla, MO)を用いて一過的にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、Smineらの可溶化条件(50mM HEPES/NaOH、pH 7.4、1mM EDTA、1 mM DTT、1% Triton X-100、60 mMオクチルクリコシド、及びプロテアーゼインヒビター)を使用して超音波処理により、全細胞抽出物を作製した。ラージループ[7-TMモデルで細胞外である(Mab #5232、Chemicon、これはすでに公表された研究で使用された]に対するモノクローナル抗体を使用して、100μgの各抽出物を免疫沈降した。次に免疫沈降したタンパク質を12% SDS-PAGEで分離し、膜に転移した。次に、PS-1とGoの両方に対する抗体(K-20、Santa Cruz Biotechnology製のsc-387、親和性精製した;このポリクローナル抗体はGoAとGoBの両方を認識する)によりウェスタンブロットハイブリダイゼーションを行った。
PS-2に対するGタンパク質Goの結合:ES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞を、全長ヒトPS-2のcDNAとGタンパク質GoA又はGoBのcDNA(UMR cDNA Resource Center, Rolla, MO)を用いて一過的にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、Smineらの可溶化条件(50mM HEPES/NaOH、pH 7.4、1mM EDTA、1 mM DTT、1% Triton X-100、60 mMオクチルクリコシド、及びプロテアーゼインヒビター)を使用して超音波処理により、全細胞抽出物を作製した。PS-2のラージループ(Affinity BioReagentsからのMA1-754)に対するマウスモノクローナル抗体を使用して、100μgの各抽出物を免疫沈降した。次に免疫沈降したタンパク質を12% SDS-PAGEで分離し、膜に転移した。次にPS-2とGoの両方に対する抗体によるウェスタンブロットハイブリダイゼーションを行った。
百日咳毒素処理:PTxプロトマーを10mM DTTと共に37℃で10分間インキュベートして、これを酵素活性型に変換した。PS-1又はPS-2及びGタンパク質のcDNAでES細胞をトランスフェクトした5時間後、1 mM NAD、2 mM MgCl2、及び1 mM EDTAの存在下で培養培地中の細胞に500ng/mlの活性化PTxを加え、細胞を5% CO2の存在下で37℃、12時間インキュベートした。次に細胞を回収し、後述するように[35S]-GTPγS取り込みを調べた。
GTPγS結合:細胞を回収し、タンパク質を可溶化バッファー(50mM HEPES/NaOH、pH 7.4、1mM EDTA、1 mM DTT、1% Triton X-100、60 mMオクチルクリコシド、1Xプロテアーゼインヒビターミックス)を使用して超音波処理により可溶化した。100μgのタンパク質を等量のBuffer B(50mM HEPES/NaOH pH 7.4、40μM GDP、50mM MgCl2、100mM NaCl)と200μlの容量で混合した。50nMの[35S]-GTPγS(1250Ci/mmol)を用いて反応を開始し、室温で60分間インキュベートした後、20μlの10X停止バッファー(100 mM Tris-HCl、pH 8、25mM MgCl2、100 mM NaCl、20 mM GTP)を加えて反応を停止させた。次にサンプルを抗PS-1ループモノクローナル抗体(5μl)で免疫沈降させた。抗体−タンパク質複合体をプロテインA/Gアガロースに室温で90分間結合させ、洗浄バッファー1(50 mM HEPES、pH 7.4、1 mM EDTA、pH 8.0、1% Triton X-100、1Xプロテアーゼインヒビターミックス、150 mM NaCl、及び60 mM オクチル-β-D-グルコピラノシド)で2回洗浄し、洗浄バッファー2(50 mM HEPES、pH 7.4、1 mM EDTA、pH 8.0、0.5% Triton X-100、1Xプロテアーゼインヒビターミックス、及び50 mM NaCl)と3(50 mM HEPES、pH 7.4、1 mM EDTA、pH 8.0 及び1Xプロテアーゼインヒビターミックス)でそれぞれ1回洗浄した。次に洗浄したアガロースビーズをシンチレーション液(CytoScint, ICN)(5ml)中に懸濁し、Beckman Coulter LS 6000 SCシンチレーションカウンターで3分間計測した。
全長ヒトPS-1及びGタンパク質GαoA又はGαoBのcDNAで共トランスフェクトしたES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞の抽出物100μgをPS-1の親水性ラージループに対するMAbで免疫沈降させ、次にGoに対する親和性精製したポリクローナル抗体(これは両方のアイソフォームGoAとGoBを認識する)を用いてウェスタンブロットハイブリダイゼーションを行ったとき、PS-1/GoA共トランスフェクト細胞のみが約45kDaでGoの明確なシグナルを生じており(図1、レーン3)、これはGoBではなく、GoAがPS-1に結合することを示唆している。対照の非トランスフェクト細胞又はPS-1のみでトランスフェクトした細胞は、同様に処理したとき、ウェスタンブロット上でGoバンドを示さなかった(図1)。
PS-1の細胞質カルボキシル末端へのGタンパク質Goの結合の証明。最後のTM-ドメインの直後のPS-1の細胞質ドメインのみが欠如したPS-1のテイルレス構築物をpcDNA3中に構築した(この構築物は、アミノ酸1〜430を含む)。この構築物を使用してES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞をトランスフェクトした。テイルレスPS-1は、膜中に組み込まれ、細胞表面上に発現されることが示されている。全長PS-1について上記したものと同じ方策で、ES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞を、テイルレスPS-1とGタンパク質GαoA又はGαoBのcDNAでトランスフェクトした。次に細胞抽出物を、PS-1ループMAb #5232で免疫沈降させ、SDS-PAGEで分離し、Goに対する抗体でウェスタンブロットした。
テイルレスPS-1及びGタンパク質GαoA又はGαoBのcDNAで共トランスフェクトしたES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞の抽出物100μgをPS-1の親水性ラージループに対するMAbで免疫沈降させ、次にGoに対する親和性精製したポリクローナル抗体(これは両方のアイソフォームGoAとGoBを認識する)を用いてウェスタンブロットハイブリダイゼーションを行った。結合が検出され(図1、レーン6)、これは、結合ドメインであることが先に同定されたカルボキシル末端39アミノ酸は、GoAのPS-1の全結合ドメインを構成しないことを示している。GoBはテイルレスPS-1への結合を示さなかった(図1、レーン7)。
PS-1へのGoA結合の大部分を排除したテイルレス構築物を使用した結果は、PS-1テイル以外にPS-1の別の領域への一部のPS-1:GoA結合の特異性を示す。これらはまた、GoAがPS-1 β−セクレターゼ複合体の他の成分に結合し、PS-1抗体で共免疫沈降した可能性を排除する。
完全なPS-2へのGタンパク質Goの結合を解明するためにさらに試験を行った。結合ドメインであることが同定された39アミノ酸のPS-1 C末端領域は、PS-2のC末端テイルに完全に保存されている。従って、PS-2のC末端ドメインもGαoに結合されると考えられた。PS-1と同様に、GoはPS-2に結合するが顕著な差があることが示された。GoAとGoBの両方を認識するGo抗体は、PS-2及びGoAならびにPS-2及びGoBcDNAで共トランスフェクトした細胞の抽出物のPS-2免疫沈降物のウェスタンブロットで二重縞を示した。二重縞はおそらく、Goの両方のアイソフォームのPS-2への結合を示す(図3、レーン2と4)。これに対してPS-1はGoBに結合せず(図1、レーン4)、同じGo抗体とのウェスタンブロットで単一のバンドを示したのみであった(図1、レーン3)。
PS-2の細胞質カルボキシル末端へのGタンパク質Goの結合を調べた。PS-1のように、最後のTM-ドメインの直後のPS-2の細胞質ドメインのみが欠如したPS-2のテイルレス構築物をpcDNA3中に構築した(この構築物は、アミノ酸1〜410を含む)。この構築物をES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞をトランスフェクトするのに使用すると、膜中に組み込まれ、細胞表面上に発現されることが示された(図2)。全長PS-1とPS-2について上記したものと同じ方策で、ES(PS-1-/-/PS-2-/-)細胞を、テイルレスPS-2とGタンパク質GαoA又はGαoBのcDNAでトランスフェクトした。次に細胞抽出物を、PS-2ループMAb #MA1-754で免疫沈降させ、SDS-PAGEで分離し、Goに対する抗体でウェスタンブロットした。
GoAと共に共発現したテイルレスPS-2を、PS-1の結果のように、PS-2 MAbで免疫沈降し、抗Go抗体でウェスタンブロットすると、バンド強度が低下したが、バンドが全く存在しないことはなかった。一方、GoB/PS-2共トランスフェクションサンプル中のバンドの強度はテイルレスサンプルについては変化は無く、これはGoBがカルボキシル末端テイル以外の細胞内ドメインでPS-2に結合することを示唆する(図3、レーン3と5)。従ってPS-1とPS-2は、これらが結合するGoアイソフォームによってのみでなく、互いに相同的ではないPS-1とPS-2上の結合部位でも区別される。従って、PS-1とPS-2の機能的研究は全く異なる結果を与え、すなわちPS-1とPS-2は単に機能的に重複するタンパク質ではない、可能性がある。
GαoA及びGαoB PS-1とGタンパク質GoA及びGoBとのPS介在型の機能活性化をさらに試験した。以前の試験は、PS-1のカルボキシル末端へのGo結合を評価するためのいくつかの独立したアプローチの1つとして、GTP加水分解とGTPγS結合とを使用した。しかしこれらは、3つの対照ペプチドとともに、PS-1のC末端の残基429〜467の合成ペプチドを用いてこのアッセイを行っていた。一方、このアプローチは、細胞抽出物中の35S-GTPγS取り込みについてアッセイすることにより、共トランスフェクト細胞中の完全なPS-1及びPS-2へのGタンパク質GoA及びGoBの結合の機能的結果を評価するためであった。
PS-1とGタンパク質GoAのcDNAで共トランスフェクトしたES細胞の抽出物における35S-GTPγSの取り込みは、対照の非トランスフェクトES(PS-/-)細胞について得られた値の700%以上であることが示された(図4、レーン2)。この増加は、PS-1及びGoA cDNAでトランスフェクトした細胞を最初にPTxで処理したときはみられず(図4、レーン3)、これは毒素の存在下での機能の阻害を示している。一方、PS-1とGoBのcDNAでトランスフェクトした細胞は35S-GTPγSの取り込みを示さず(図4、レーン4)、これはPS-1へのGoBの結合が欠如した以前の結果に一致する。
PS-1と同様に、GoAと共に共発現させ、35S-GTPγS結合についてアッセイしたとき、PS-2は非トランスフェクトの対照ES(PS-/-)抽出物よりも35S-GTPγS結合について700%を超える増加を示した(図4、レーン2)。これはPTxの存在下で阻害された(図4、レーン3)。PS-1の場合と異なり、PS-2へのGoB結合は35S-GTPγS取り込みを増加した。この新規知見は、GoBはPS-2に結合するがPS-1には結合しないという本明細書に記載の他のデータと一致する。35S-GTPγS取り込みにおけるこの増加は、GoAで観察されたもの(約300%)より小さい(図4、レーン4)。この増加はPTxの存在下で阻害される。図4に示した結果は、少なくとも3つの独立した実験の代表例である。
実施例2
ES PSダブルヌル細胞を培養し、一晩プレーティングした。細胞を、全長ヒトβ-APP cDNAのpcDNA3構築物により、リポフェクタミン(Invitrogen)を製造業者のプロトコールに従って使用してトランスフェクトした。DAMI細胞を培養し、pcDNA3又は全長ヒトPS-1もしくはPS-2 cDNAのpcDNA3構築物のいずれかでトランスフェクトした。
親和性精製したポリクローナルウサギ抗PTyr抗体(Maher et al., 1985)をウェスタンブロットで使用したが、これはDr. Elena Pasqualeから寄贈されたものであった。マウスモノクローナル抗PTyr抗体(4G10;Upstate Biotechnology, Lake Placid, NY)をELISA分析で使用した。ヒトpp60c-srcに対するマウスモノクローナル抗体(抗Src、クローンGD11)と、Lynに対するウサギポリクローナル抗体(抗Lyn)はUpstate Biotechnologyから購入した。Fynに対するウサギポリクローナル抗体(抗Fyn、sc-16)はSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)から購入した。PS-1のN末端ドメインに対する1次ラット抗ヒトPS-1モノクローナル抗体MAb #1563は、Chemicon International(Temecula, CA)から購入した。これは、GSTと融合したヒトPS-1(残基21〜80)のN末端ドメインの融合タンパク質抗原含有部分に対して作製された。ヒトβ-APP細胞外ドメインに対する1次マウスモノクローナル抗体MAb #348はChemicon Internationalから購入した。
フルオレセインイソチオシアネート(FITC)-コンジュゲート型親和性精製ヤギ抗ラットIgGとテトラメチルローダミンBイソシアネート(TRITC)-コンジュゲート型親和性精製ロバ抗マウスIgG 2次抗体は、Jackson ImmunoResearch(West Grove, PA)から購入した。免疫蛍光標識用のトランスフェクトDAMI細胞と非トランスフェクトDAMI細胞とをPBS中4%パラホルムアルデヒドで10分間固定化し、浸透処理することなく使用した。細胞を、1% BSA含有PBS中でPS-1に対する抗血清(1:200希釈)及びβ-APPに対する抗血清(1:500希釈)で懸濁液中、室温で30分標識した。PBSを用いて遠心分離により3回洗浄した後、細胞を1% BSA/PBS中に再懸濁し、適切な蛍光2次抗体と共にインキュベートした。インキュベーションを室温で20分間行い、次に細胞をPBSで洗浄し、封入剤(Vector Laboratories, Burlingame, CA)の存在下でスライド上にのせた。
X60対物レンズにより、油浸を使用して免疫蛍光顕微鏡観察を行った。フルオレセインイソチオシアネートとテトラメチルローダミンBイソシアネートフィルターと、Zeiss Photoscope III装置とを用いるか、又はNomarski光学系を使用してスライドを調べた。
PS-1とPS-2のN末端ドメインはPCRにより取得し、FLAG発現ベクター(Scientific Imaging Systems, IBI 13100)のTth111I部位とXhoI部位にクローニングして、PS-1もしくは-2のN末端ドメインのいずれかのN末端で結合したFLAGとの融合タンパク質を製造した。2種のFLAG-融合タンパク質をDH5α細菌で別々に増殖させ、製造業者のプロトコールに従って親和性精製した。精製した組換えタンパク質を、両FLAGに対する抗体と、PS-1又はPS-2のN末端ドメインのいずれかに対する抗体とを使用してウェスタンブロットによりチェックした。
DAMI:ES細胞:同数(0.5x106/ml)のβ-APP695(Selkoe and Podlisny, 2002)トランスフェクトESダブルヌル細胞とPS-1トランスフェクトDAMI細胞とを、37℃で種々の時間(0〜20分)共培養した。
図7の実験以後のすべての実験(図9a、パネル4を除く)は、適切にトランスフェクトしたDAMI細胞のみを使用して行った。同数(0.5x106/ml)のβ-APP-トランスフェクトDAMI細胞と、PS-1もしくはPS-2トランスフェクトDAMI細胞のいずれかとを、記載されたように(Dewji and Singer, 1998)正確に室温で静かに混合した。対照実験では、β-APPトランスフェクト細胞の代わりにpcDNA3のみでトランスフェクトしたDAMI細胞を使用した。
混合後0〜20分のいくつかの時点で、各細胞混合物のアリコートを迅速に遠心分離し、培養培地を除去し、細胞ペレットを、プロテアーゼインヒビター(1mM 4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド塩酸塩(AEBSF)/1μg/mlアンチパイン/0.1μg/mlペプスタチンA/0.1μg/mlロイペプチン)とホスファターゼインヒビターであるオルトバナジウム酸ナトリウム(0.1mM)とを含有する200μlの抽出バッファー(50mM Tris, pH 8.0/150mM NaCl/0.5% Nonidet-P40)中に懸濁した。混合物を20秒間のバーストを3回行うことで超音波処理し、その後遠心分離した。次にこれらの抽出上清を、後述するようにウェスタンブロットとELISA分析に使用した。
細胞抽出物中のタンパク質チロシンキナーゼのSrcファミリーについてのアッセイを行った。基質ペプチドである{[Lys19]cdc2(6-20)-NH2}及び、対照ペプチドである{[Lys19Ser14Val12]cdc2(6-20)}と{[Lys19Phe15]cdc2(6-20)}とは、Upstate Biotechnology Inc.から購入した。PS-1トランスフェクト細胞と混合したトランスフェクトDAMI細胞(β-APP又はpcDNA3でトランスフェクトした);及びPS-2トランスフェクト細胞と混合したβ-APP-もしくはpcDNA3-トランスフェクト細胞、の抽出物において、3つ全てのペプチドを使用してSrcキナーゼ活性を測定した。対照は、反応混合物中で基質を使用せずに行った実験を含んだ。
基質ペプチド(10μl中1.5mM)、Srcキナーゼ反応バッファー(100mM Tris−HCl、pH7.2、125mM MgCl2、25mM MnCl2、2mM EGTA、0.25mM オルトバナジウム酸ナトリウム、2mM DTT)(10μl)、Srcキナーゼ(アッセイ当たり2〜20Uの精製酵素、又は10μl中10〜200μgのタンパク質溶解物)、及びMn2+/ATPカクテルで希釈した[γ-32P]ATP(NEN Dupont, Boston, MA)(10μl)を、30℃で15〜20分インキュベートした。
上記抽出物上清のアリコート(100μgタンパク質/レーン)をローディングバッファー(50 mM Tris, pH 6.8, 0.1 M DTT, 2% SDS, 0.1% ブロモフェノールブルー, 10% グリセロール)中で5分沸騰し、SDS-PAGE(10%)ゲル上で電気泳動により分離し、タンパク質をニトロセルロースフィルターに転移した。フィルターを1次ポリクローナルウサギ抗PTyr抗体と共にインキュベートし、次に西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート型ヤギ抗ウサギIgGと共にインキュベートした。フィルター結合ペルオキシダーゼ活性を化学発光により検出した。
抽出バッファー中で細胞溶解物を調製し、4℃で15分間マイクロ遠心分離によって清澄化した。
抽出物をc-Src、Lyn、又はFynのいずれかに特異的な4μgの抗体と共にインキュベートし、次にプロテインA又はGセファロース(40μlのスラリー)と共にインキュベートした。抗原抗体−プロテインA(又はG)セファロース複合体を、300mM NaClを含有するRIPA(50 mM Tris−HCl, pH 7.2, 150 mM NaCl, 1% Triton X-100, 1% デオキシコール酸ナトリウム, 0.1% SDS, 1% トラジロール, 25 μM ロイペプチン)で3回洗浄し、10mM NaClを含有するRIPAで1回洗浄し、40mM Tris−HCl(pH7.2)で2回洗浄し、25mM HEPES(pH6.9)、3mM MnCl2、及び200μMオルトバナジウム酸ナトリウムを含有するキナーゼバッファーで1回洗浄した。
反応は公表されたプロトコール(Zisch et al., 1998)に従って、5μCi[g32P]ATP(3000Ci/mmol)を含有する40μlのキナーゼバッファー(25 mM Hepes, pH 6.9, 3 mM MnCl2 及び 200μM オルトバナジウム酸ナトリウム)中37℃で30分行った。反応ビーズをキナーゼバッファーで3回洗浄し、75μlのSDSゲルローディングバッファー(250mM Tris−HCl, pH 6.8, 4% SDS, 10% 2-メルカプトエタノール, 0.02% ブロモフェノールブルー、及び75% グリセロール)中に再懸濁した。自己リン酸化反応物をSDS-PAGEにかけ、次にタンパク質をPVDF膜に移しオートラジオグラフィーを行った。
チロシンキナーゼアッセイキット(Upstate Biotechnology)を使用し、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により、ELISAタンパク質チロシンキナーゼ活性を測定した。ポリ(Glu4-Tyr)のタンデムリピートを含有するビオチン化基質ペプチドを、製造業者のプロトコールに従って、非放射性ATPとMn2+/Mg2+補助因子カクテルとの存在下で異なる時間混合したトランスフェクト細胞の抽出液の上清(20μgタンパク質/ウェル)と共にインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたホスホチロシン特異的マウスモノクローナル抗体(4G10)を使用して、ELISAによりリン酸化基質を検出した。
非トランスフェクトDAMI細胞及びPS-1トランスフェクトDAMI細胞中のβ-APPの細胞表面発現の欠如。最初の試験セットは、PS-1でトランスフェクション後にDAMI細胞がその表面に無視できる量のβ-APPのみを発現し続けるという仮定に依存するため、まず以下の実験を行った。固定化状態であるが非透過性状態の非トランスフェクト及びPS-1トランスフェクトDAMI細胞を、β-APP及びPS-1について2重に免疫蛍光標識した。既に記載されているように(Querfurth and Selkoe, 1994)、トランスフェクトしていない固定化非透過性DAMI細胞は、細胞表面上に多量のβ-APPを発現しない(図6a、パネル2)が、β-APPのpcDNA3構築物でトランスフェクトしたDAMI細胞は、固定化非透過性細胞中で顕著な細胞表面発現を示す(図5b、パネル2)。しかし図6aとbのパネル1は、非トランスフェクト固定化非透過性DAMI細胞が内因性細胞表面PS-1を発現することを示す。図5cのパネル1では、固定化非透過性PS-1トランスフェクト細胞中でPS-1のこの細胞表面発現が増加している。図5cのパネル2は、DAMI細胞をPS-1でトランスフェクトすることは、トランスフェクトしていない細胞でみられる無視できるレベルを超えてβ-APPの細胞表面発現を顕著には増加しないことを示す(図5a、パネル2)。図2dのパネル2は、β-APPでトランスフェクトしたESダブルヌル固定化非透過性細胞中でβ-APPの細胞表面発現を示すが、PS-1発現は示していない(図5d、パネル1)。
非トランスフェクト固定化非透過性ESダブルヌル細胞では、予想されたように、細胞表面PS-1の標識はない(図5e、パネル1)が、内因性β-APPの少量の表面発現がある(図5e、パネル2)。これらの結果は、β-APPトランスフェクトESダブルヌル細胞とPSトランスフェクトDAMI細胞の相互作用において、ES細胞のみが細胞表面β-APPを発現し、PSを発現しないが、PSトランスフェクトDAMI細胞のみが細胞表面でPSを発現し、β-APPを発現しないことを証明する。従って、細胞の混合後にβ-APP:PS相互作用が起きるなら、これは細胞間相互作用の結果のみであり得る。
また、特異的β-APP:PS細胞間シグナル伝達がチロシンキナーゼ活性の増加を引き起こすことを示すデータも提供される。β-APPでトランスフェクトしたESダブルヌル細胞をPS-1でトランスフェクトしたDAMI細胞と混合し、細胞間接触を保証する細胞密度を使用して、種々の時間(0〜20分間)共培養した。次に細胞抽出物についてELISAアッセイを行って、タンパク質チロシンキナーゼ活性を測定した。図6aは、これらの共培養物が、PS-1トランスフェクトDAMI細胞をβ-APPトランスフェクトDAMI細胞と混合したときに既に記載されているもの(Dewji and Singer, 1998)と同様のタンパク質チロシンキナーゼ活性の迅速かつ一過性の増加を生じることを示す。25μgの精製バキュロウイルス由来可溶性β-APP(β-APPの細胞外ドメイン)(図6b)又は25μgのPS-1のN末端ドメインに融合したFLAGレポーターの融合ペプチド(図6c)の存在下で、図6aと同じ相互作用を行ったとき、タンパク質チロシンキナーゼ活性の増加は起きなかった。一方、25μgのFLAG-PS-2 N末端ドメイン融合ペプチドの存在下での同じβ-APP:PS-1共培養物は、PTyr形成を阻害しなかった(図2d)。これらの結果は、いくつかの点を明瞭に確立する:1)可溶性β-APP自体は、PS-1トランスフェクトDAMI細胞を活性化してチロシンキナーゼ活性を示すことはない;トランスフェクトしたES細胞膜中に完全なβ-APPが必要である。これに対して、可溶性β-APPは、膜結合β-APPによって生じる活性を阻害し、これは膜結合β-APPが活性化に特異的に関与していることを証明する;2)PS-1のN末端ドメイン自体は、β-APPトランスフェクト細胞を活性化してチロシンキナーゼ活性を示すことはできない。そのDAMI細胞膜中に完全なPS-1分子が必要である。しかしPS-1(PS-2ではない)のN末端ドメインは共培養物の活性化を阻害し、これはPS-1トランスフェクトDAMI細胞上の膜結合PS-1も相互作用に特異的に関与していることを示す;3)インヒビターである可溶性β-APP及びPS-1のN末端ドメインのFLAG融合タンパク質のタンパク質としての性質は、生きたDAMI細胞及びES細胞の細胞膜のこれらの非透過性を保証に
し、従ってシグナル伝達事象を発生させるのに関与するのは細胞表面β-APPとPS-1の外部ドメインのみであることを立証する(すなわち、シグナル伝達は細胞接触介在型である)。これらの結果は、β-APPとPSとの間の細胞接触介在型相互作用が起こり得ることを確立する否定できない証拠を与える。
さらに、PS-1のN末端ドメインが細胞外表面に露出しているというこの証明は、PSタンパク質の7-TM形に一致するが、8-TMモデル(これは、PSのN末端ドメインを細胞内に置く)の予測には矛盾する。
本明細書に提供する追加のデータは、β-APP:PS-1とβ-APP:PS-2細胞間シグナル伝達が、Srcファミリーのチロシンキナーゼのメンバーに仲介され得ることを示す。β-APP:PS細胞間結合の結果であるPTyr修飾の増加は、同定する必要のある1つ又はそれ以上のタンパク質チロシンキナーゼが関与する。β-APPもPSタンパク質もかかるキナーゼ活性部位を含まないため、これらのタンパク質の細胞質ドメインの間接的活性(例えば、これらのドメインの1つへの細胞質チロシンキナーゼの直接的又は間接的結合)が下流のシグナルに関与しているかも知れない。Src遺伝子ファミリー内でいくつかの細胞質チロシンキナーゼが同定されているため、混合したトランスフェクト細胞の細胞抽出物において基質ペプチド[lys19]cdc2(6-20)-NH2(KVEKIGTYGVVKK)を使用してSrcファミリーのタンパク質チロシンキナーゼをアッセイした。cdc2(6-20)中のTyr19がlysで置換されたこのペプチドは、Srcファミリーキナーゼの有効な基質であることが示されている。試験したすべてのSrcファミリーキナーゼ(v-Src及びc-Src、c-Yes、Lck、Lyn、及びFlyを含む)は、この基質に対する強い活性を示す。2つの対照ペプチドも使用した:第1のペプチド[lys19ser14val12]cdc2(6-20)-NH2(KVEKIGVGSYGVVKK)において、glu12とthr14はそれぞれvalとserにより置換され、生じるペプチドがSrcファミリーチロシンキナーゼの基質として機能する効率を大きく低下させた。もう一方のペプチド[lys19phe15]cdc2(6-20)-NH2(KVEKIGEGTFGVVKK)はチロシンキナーゼによりリン酸化されないはずであるが、ser/thrキナーゼの標的候補を含有した(thr14)。
β-APP:PS-1相互作用を引き起こすβ-APPトランスフェクトDAMI細胞とPS-1トランスフェクトDAMI細胞との共培養物、及びβ-APPが欠如した対応の対照(pcDNA3:PS-1)、の抽出物中のSrcファミリーキナーゼ活性測定の結果を、図7aとbに示す。これらの3つのペプチドを使用した、β-APP:PS-2相互作用を引き起こすトランスフェクトDAMI細胞混合物、及び対照のpcDNA3:PS-2混合トランスフェクトDAMI細胞の抽出物についての同様の結果を図7cとdに示す。各β-APP:PS細胞混合物について、[lys19]cdc2(6-20)-NH2をSrcファミリーキナーゼ基質として使用した場合に、チロシンキナーゼ活性のELISAの結果に平行して、対照ペプチドと比較した活性増加の時間経過を得た。β-APP:PS-1相互作用(図7a)について、Srcファミリーキナーゼ活性は8分にピークに達し、12分までにベースラインレベルまで戻り、これは細胞混合後の時間の関数とするチロシンキナーゼ活性の以前のELISAの結果を確認している。同じ基質を対照pcDNA3:PS-1(図7b)混合細胞について使用したとき、顕著な増加は観察できなかった。β-APP:PS-2相互作用を引き起こす細胞混合物(図7c)については、チロシンキナーゼELISAの結果と同様に、基質ペプチド[lys19]cdc2(6-20)-NH2を用いて、混合後9分と16分に活性の2つの明瞭なピークが観察された。
β-APPが欠如した対応の対照pcDNA3:PS-2(図7d)について、バックグランドを上回るSrcキナーゼ活性の顕著な増加は観察されなかった。これらの結果は、β-APP-トランスフェクト細胞とPS-1-トランスフェクト細胞の混合物で、又はβ-APP-トランスフェクト細胞とPS-2-トランスフェクト細胞の混合物で以前に観察されたチロシンキナーゼ活性の増加に、Srcチロシンキナーゼファミリーの1つ又はそれ以上のメンバーが関与することを示唆する。
Srcファミリーキナーゼ及びチロシンキナーゼの特異的インヒビターの存在下でのチロシンキナーゼ活性の阻害。β-APP:PS細胞間シグナル伝達におけるSrcキナーゼファミリーの関与を、チロシンキナーゼ(ハービマイシンA)とSrcファミリーキナーゼ(PP2)の特異的インヒビターの存在下又は非存在下で行ったβ-APP:PS-1混合細胞相互作用の抽出物のELISAによりさらに確認した。図8aは、10μg/mlのハービマイシンAの存在下において、β-APPトランスフェクトDAMI細胞とPS-1トランスフェクトDAMI細胞との混合後8〜10分で、チロシンキナーゼ活性の増加が完全に阻害されることを示す。10nM PP2の存在下で行った同じ実験(図8b)は同様に、チロシンキナーゼ活性の阻害を示した。
β-APP:PS-1細胞間シグナル伝達におけるc-Srcの関与に関する追加のデータを以下に示す。β-APP:PS-1細胞間シグナル伝達に関与するSrcファミリーメンバーの正体を決定するために、本発明者らはpp60c-Srcを調べ始めた。見かけの分子量が58kDaと60kDaの2つの主要なタンパク質バンド(c-Srcとサイズが似た二重縞)は、この細胞接触介在型相互作用で一過性のPTyr修飾を受けた。PS-1トランスフェクトDAMI細胞とβ-APPトランスフェクトDAMI細胞との混合物の抽出物を、抗PTyrもしくは抗c-Src抗体のいずれかを用いたSDS16PAGEと免疫ブロッティングにかけると、両方の抗体が同じ2つのバンドと反応した(図9a、パネル1〜3)。抗PTyr抗体と免疫ブロットしたこの図のパネル1は、タンパク質バンドのチロシンリン酸化の一過性増加(細胞混合後8〜10分で最大)を示す。パネル2では、c-Src抗体で免疫ブロットした同じ抽出物は経時的に変化しておらず、これはそのPTyrレベルの増加中にc-Srcタンパク質濃度が変化しないままであることを示す。重要な観察結果は、β-APPでトランスフェクトしたESダブルヌル細胞(従ってβ-APPのみを発現し、PS-1もしくは2は発現しない)を、PS-1でトランスフェクトしたDAMI細胞(従ってPS-1のみを発現し、細胞表面β-APPを発現しない)と混合すると、p60 c-Srcタンパク質及び1又は2つの追加のタンパク質は、PS-1トランスフェクトDAMI細胞(図9a、パネル1)と混合したβ-APPトランスフェクトDAMI細胞でみられたものと同様の混合後の時間(図9a、パネル4)でPTyr修飾が一過的に増加したことであった。従ってPTyr修飾結果はPS-1に関連し、これが発現した細胞タイプには関連しない(PS-2については下記参照)。
c-Srcがβ-APP:PS-1相互作用において一過性のチロシンリン酸化を経たチロシンキナーゼファミリーのメンバーであるかどうかをさらに試験するために、混合後の異なる時点で採取した混合トランスフェクトDAMI細胞の抽出物を抗c-src抗体で処理し、次にプロテインGセファロースビーズで処理する実験(自己リン酸化)を行った。次にビーズにγ32PATPを加えた後、タンパク質をビーズから可溶化し、SDS17 PAGEとオートラジオグラフィーを行った。図9bの結果は、類似の抽出物中のPTyrの出現に対応する時間経過である細胞混合後8〜10分でリン酸化が最大であるいくつかの一過性バンドが現れることを証明する(図9a、パネル1)。これらのバンドで顕著なことはc-Srcに対応する1つの二重縞であり、これはβ-APP:PS-1細胞間相互作用でc-Srcが一過的に活性化されることを証明している。
図9b中の他のリン酸化バンドの正体は不明である。必ずしもこれらのすべてがチロシンリン酸化による必要はなく、一部のセリン又はスレオニンキナーゼが、特異的抗pc-Srcと免疫反応したc-Srcに結合したかもしれない。β-APP:PS-2細胞間シグナル伝達の下流のFynではなくLynの関与。β-APP:PS-2細胞間相互作用を適切にトランスフェクトしたDAMI細胞の混合物を用いて行うと、β-APP:PS-1系とは完全に異なるセットのタンパク質がPTyr修飾された。50〜66kDaに存在するバンドがPTyr抗体により検出されたが、これらはウェスタンブロット上のc-Srcに対応しなかった(図11a、パネル1)。さらにβ-APP:PS-2混合細胞の抽出物を最初にc-Src抗体で免疫沈降させ、次に免疫沈降物をin vitroで自己リン酸化させたとき、早期の時点(混合後8〜10分)でリン酸化の顕著な増加はみられなかった(図10b)。
しかし後の時点では、c-Srcは明らかにこれらのサンプルでリン酸化され、これは、c-Srcがβ-APP:PS-2シグナル伝達の第2の後のピークで同定される増加に寄与することを示している(図10b)。Srcキナーゼファミリーの他のメンバーの関与の可能性を、c-Src以外の53〜59kDa範囲の分子量で調べた。Lyn(分子量53/56kDa)とFyn(分子量59kDa)は、調べた2つのSrcキナーゼ候補であった。
図11a中の抗Lyn抗体を用いたウェスタンブロットハイブリダイゼーションの結果は、β-APP:PS-2細胞間相互作用を行ったとき、Lynタンパク質濃度は変化しないが、抗Lyn抗体による抽出物の免疫沈降と沈降物のin vitro自己リン酸化後に、他のリン酸化バンドとともに、8〜9分と17〜18分で活性のピークを有するLynの一過性リン酸化が観察される(図11c)。Lynは、β-APP:PS-2相互作用についてのウェスタンブロット及びELISAでみられるPTyr増加と類似したパターンで一過性リン酸化を減る(図11c)。一方Fynは、抗Fyn抗体による免疫沈降後に、同じ抽出物中でin vitroの自己リン酸化(図11d)も、濃度の経時変化(図11b)も示さない。
実施例3
以下のデータは、マウス前頭部皮質の抽出物中の内因性PS-1及びPS-2へのGタンパク質結合を示す。GTPγS可溶化/抽出バッファー[50 mM HEPES/NaOH pH 7.4, 1 mM EDTA, 1 mM DTT, 1% Triton X100, 60 mM オクチルグリコシド, 1X プロテアーゼインヒビターミックス (1μM フェニルメチルスルホニルフルオリド, 1 μg/ml アンチパイン, 0.1 μg/ml ペプスタチンA, 0.1 μg/ml ロイペプチン)]中で、WTマウス前頭部皮質の20%ホモジネートを作製した。未処理、PTX処理、及びPS-1及びPS-2免疫枯渇抽出物について[35S]-GTPγS結合の測定を行った。
未処理サンプルについて、100μgの抽出物をGTPγS可溶化/抽出バッファーで100μlにし、等量のGTPγSバッファーB(50 mM HEPES/NaOH pH 7.4, 40 μM GDP, 50 mM MgCl2, 100 mM NaCl)と混合して総量を200μlとした。50nMの[35S]-GTPγS(1250 Ci/mMol; Perkin Elmer)を用いて反応を開始し、室温で60分インキュベートした。20μlの10X停止バッファー(100 mM Tris−HCl, pH 8.0, 25 mM MgCl2, 100 mM NaCl, 20 mM GTP)を加えて反応を停止させた。
PTX処理サンプルについて、100μgの抽出物をGTPγS可溶化/抽出バッファーで100μlにし、PTXバッファー(20 mM HEPES pH 8.0, 1mM EDTA, 2 mM MgCl2, 1 mM NAD)の存在下で500ng/mlの活性化PTXを用いて処理した。サンプルを30℃で12時間インキュベートした。次にPTX処理サンプルを等量のGTPγSバッファーBと混合し、上記したように[35S]-GTPγSアッセイに供した。
マウス前頭部皮質の抽出物をPS-1及びPS-2に対するポリクローナル抗体の混合物(それぞれ10μl)で4℃で一晩免疫沈降させて、PS-1及びPS-2をサンプルから枯渇させた。プロテインAアガロース(20μl スラリー/100μg タンパク質)を加え、4℃で2時間サンプルを回転振盪した。PS−抗体−プロテインA複合体を高速で5分遠心分離した。上清を回収し、100μgのアリコートを上記したように[35S]-GTPγSアッセイに供した。
GTPγS反応後、5μlの抗PS-1又は抗PS-2モノクローナル抗体のいずれかを加え、サンプルを4℃で一晩置いた。抗体−タンパク質複合体を20μlのプロテインA/Gアガロース(Pharmacia)に結合させ、サンプルを4℃に置き、2時間回転振盪した。アガロースビーズを洗浄バッファー1(50 mM HEPES, pH 7.4, 1 mM EDTA, pH 8.0, 1% Triton X100, 1X プロテアーゼインヒビターミックス)で3回洗浄し、洗浄バッファー2(50 mM HEPES, pH 7.4, 1 mM EDTA, pH 8.0, 0.5% Triton X100, 1X プロテアーゼインヒビターミックス)と3(50 mM HEPES, pH 7.4, 1 mM EDTA, pH 8.0, 1X プロテアーゼインヒビターミックス)とでそれぞれ1回洗浄した。次に洗浄したアガロースビーズを5mlのシンチレーション液(CytoScint, ICN)中に懸濁し、Beckman Coulter LS 6000 SCシンチレーションカウンターで3分間計測した。
図12は、PS-1に対するモノクローナル抗体で免疫沈降させることができたマウス脳の抽出物中の35S-GTPγS取り込みを示し、これは内因性PS-1による35S-GTPγS結合Gタンパク質の共沈降を示唆する。この取り込みは、2種のPSタンパク質に対するポリクローナル抗体による処理でPS-1とPS-2とをあらかじめ枯渇させた抽出物についてみられたものの80%以上であり、これはGタンパク質:PS-1結合の特異性を示している。PTxによる処理は、35S-GTPγS取り込みを60%阻害した。
図13は、PS-2に対するモノクローナル抗体で免疫沈降させることができたマウス脳の抽出物中の35S-GTPγS取り込みを示し、これは内因性PS-2による35S-GTPγS結合Gタンパク質の共沈降を示唆する。この取り込みは、2種のPSタンパク質に対するポリクローナル抗体による処理でPS-1とPS-2とをあらかじめ枯渇させた抽出物についてみられたものの85%以上であり、これはGタンパク質:PS-2結合の特異性を示している。PTxによる処理は、35S-GTPγS取り込みを55%阻害した。これらの結果は、内因性マウス脳のPS-1とPS-2への特異的PTx感受性Gタンパク質結合を示す。
PS-1とPS-2の両方について、細胞内ループ1の最初の16アミノ酸に対応する配列[icl(1-16)]、細胞内ループ1の残りの16アミノ酸に対応する配列[icl(17-32)]、全細胞内ループ2に対応する配列(ic2)、全細胞内ループ3に対応する配列(ic3)、細胞質C末端テイルの最初の20アミノ酸に対応する配列(C1-20)、及び細胞質C末端テイルの残りの19アミノ酸に対応する配列(C21-39)は、合成されHPLCで>90%の純度まで精製される。図14は、PSの細胞内ドメインを示す。表1は、これらのドメインから合成できる配列を示す。さらにペプチドC1-20の配列をランダム化できる20アミノ酸の対照ペプチドが合成される。このペプチドは、G
oについてPS-1上の結合ドメインとして同定される39アミノ酸配列の一部である。
実施例4
本試験は、PS-1のGPCR機能がAβの産生をモジュレートすることを証明する。PS-GPCR機能の研究における大きな問題は、PSからGタンパク質活性を誘発することができるPS(ここにリガンドが細胞内で結合する)に特異的なリガンドを決定することである。本試験は、3部構成のリガンド−受容体−Gタンパク質系がAβの産生を開始するかどうかを調べた。かかる系では、リガンド(β-APP)結合によるPSの活性化は、細胞質ドメイン中のPSへのGタンパク質結合をもたらす。
PS-1又はPS-2へのGタンパク質結合がβ-APPからのAβ産生に影響を与えるかどうかを調べるために、百日咳毒素(PTx)の存在下及び非存在下でのβ-APPとPS-1との細胞間相互作用の実験を行った。PTxはGタンパク質Go活性化の特異的インヒビターである。PSのGPCR機能がβ-APP:PS細胞間結合からのAβの産生に関与するなら、その存在下でAβ産生が阻害されるはずである。
上記方法を使用して、35S-メチオニンの存在下でβ-APPトランスフェクトES(PS-/-)細胞(細胞はβ-APPを産生するがPSを発現しない)と相互作用したβ-APP-/-マウスからのPS-1トランスフェクト初代繊維芽細胞(細胞はPS-1を発現するがβ-APPを産生しない)を用いて、β-APP:PS-1介在細胞間相互作用を行った。トランスフェクトした細胞の共培養の24時間後、プロテアーゼインヒビターの存在下でサンプルを回収した。細胞を超音波処理し、全細胞抽出物100μgをAβに対する抗体(6E10)で免疫沈降させ、免疫沈降したサンプルをBicene-Trisゲルに流した。乾燥ゲルのオートラジオグラフィーによりAβバンドを視覚化した。同じ実験を500ng/mlのPTxの存在下で行った。培養細胞の処理は、下記のように12時間行った。PTx処理の対照として、培養細胞をATPとNADのみを含有するPTxバッファーと共にインキュベートした。これらの条件下で、Goの活性化とAβのレベルは影響を受けないはずである。
図15はこれらの試験の結果を示す。レーン1は、PS-1発現繊維芽細胞(β-APP-/-)と共培養したβ-APP発現ES(PS-/-)細胞の結果を示す。レーン2は、PTx及びPTxバッファー(NAD+ATP)の存在下におけるレーン1で使用した成分の結果を示す。レーン3は、PTxバッファーのみ(NAD+ATP)でPTxを含まない条件におけるレーン1で使用した成分の結果を示す。レーン4は、テイルレスPS-1発現繊維芽細胞(β-APP-/-)と共培養したテイルレスβ-APP発現ES(PS-/-)細胞の結果を示す。レーン5は、PTxの存在下におけるレーン4で使用した成分の結果を示す。レーン6は、テイルレスPS-1発現繊維芽細胞(β-APP-/-)と共培養した野生型β-APP発現ES(PS-/-)細胞の結果を示す。
結果は、PTx毒素がβ-APPとPS-1の細胞間相互作用からのAβの産生を阻害することを示す(上記レーン1と2)。レーン3は、PTxバッファーのみの存在下、PTxの非存在下で、Aβ産生が阻害されないことを示す。レーン4と6は、すでにGoに対するPS-1の結合ドメインであることが示されたPS-1の細胞質カルボキシル末端ドメインが存在しないとき、Aβ産生が排除されることを示す。
ここに示したデータは、β-APPがPS-1のリガンドであり、結合するとそのGPCR活性を活性化することを示す。データはまた、PS-1のGPCR機能が、PS-1との細胞間相互作用後のβ-APPからのAβ産生に関与することを示す。これらの結果はさらに、PS-1のGPCR活性をモジュレートすることはAβの産生もモジュレートすることを示す。従ってPS-1のGPCR活性をモジュレートする物質はAβの産生をモジュレートする。
共培養実験のために、ES(PS-/-)細胞とβ-APP(-/-)細胞とをフラスコ25cm2当たり1x107細胞でプレーティングし、適切なcDNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの5時間後、β-APPでトランスフェクトしたES(PS-1-/PS-2-/-)細胞を穏やかなトリプシン処理により剥がし、熱不活性化し透析したFCS(10%v/v)を含有するmet無含培養培地で2回洗浄し、この培地中に0.33x107細胞/mlで再懸濁した。同様に、β-APPノックアウトマウスからの初代繊維芽細胞をPS-1又はPS-2で共トランスフェクトし、1x107細胞でプレーティングした。トランスフェクトした細胞をmet無含培地で2回洗浄し、3mlのmet無含培地に置いた。
β-APPトランスフェクトES(PS-1-/PS-2-/-)細胞(1x107細胞/3ml met無含培地)を、PS-1トランスフェクトβ-APPノックアウト細胞に加えた。この細胞密度は、実質的にすべての細胞が互いに接触していることを保証した。35S-met(66μCi/ml;1175Ci/mmol、NEN)を加え、培養物を24時間インキュベートした。PTx処理を用いる実験では、この段階で適切な反応条件下で500ng/ml PTxを培養物に加え、24時間インキュベートした。次に培地を取り出し、細胞を剥がして回収した。プロテアーゼインヒビターミックスを培地に加えた後、ドライアイス上で凍結した。プロテアーゼインヒビター(1mM 4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド塩酸塩(AEBSF)/1μg/mlアンチパイン/0.1μg/mlペプスタチンA/0.1μg/mlロイペプチン)を含有する100μlの抽出バッファー(50mM Tris、pH8.0/150mM NaCl/0.5% Nonidet-P40)を細胞ペレットに加え、サンプルをドライアイス上で急速凍結した。
PTxプロトマー(Biomol Research Laboratories)を10mM DTTと共に37℃で10分インキュベートして、これを酵素活性型に変換した。ES細胞をPS-1又はPS-2及びGタンパク質のcDNAでトランスフェクトした5時間後、1mM NAD、1mM ATP、2mM MgCl2、及び1mM EDTAの存在下、培養培地中で500ng/mlの活性化PTxを細胞に加えた。5% CO2の存在下で細胞を37℃で18時間インキュベートした。
それぞれ氷上で20秒間のバーストを3回行うことで超音波処理した細胞ペレットを使用して、全細胞抽出物を調製した。タンパク質濃度はLowryの方法に従って測定した。
免疫沈降は、2μgのAβ特異的モノクローナル抗体6E10(Senetek)(これはAβの残基1〜17(Senetek)に対して生じた)を用いた免疫沈降(回転子中、4℃、一晩)に100μgの細胞抽出物を供することで行った。次にプロテインGセファロース(Pharmacia)の40μlのスラリーを加え、室温で1時間回転混合させた。抗原−抗体−プロテインGセファロース複合体を、以下のそれぞれで1回洗浄した:バッファー1(10mM Tris−HCl, pH 7.4, 1 mM EDTA, pH 8.0, 0.65M NaCL, 1% NP-40)、バッファー2(10mM Tris−HCl, pH 7.4, 1 mM EDTA, pH 8.0, 0.75% NP-40)、及びバッファー3(10mM Tris−HCl, pH 7.4, 1 mM EDTA, pH 8.0, 0.1% NP-40)。洗浄した複合体をbicene-トリスサンプルバッファー中で10分間沸騰し、bicene-トリスゲルでSDS-PAGEを行った。
8M尿素を含むbicene-トリスゲル(15%T/5%C)を型を取り、泳動した。次にゲルを0.4Mホウ酸ナトリウム/リン酸バッファー中の5%グルタルアルデヒドで30分間固定化し、メタノール−酢酸中の0.1%Coomassie Blue G250で1時間染色した。脱染後、オートラジオグラフィーのためにゲルを調製した。
脱染したゲルをエタノール(30%)とグリセロール(5%)で30分間処理し、Amplify(Amersham)を30分間染み込ませ、真空下80℃で乾燥し、X-Omatフィルムに-70℃で4〜5日間曝露した。
上記で多くの実施形態と特徴を説明したが、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の開示の教示又は範囲を逸脱することなく、記載の実施形態や特徴の修飾や変更が可能であることは当業者には理解されるであろう。本明細書に添付された付属書類は本発明をさらに例示するためであって、限定するためではない。