JP2009529659A5 - - Google Patents

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栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転に関連する状態の診断用組成物および治療方法
(発明の分野)
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転に関連する状態の診断用組成物および治療方法に関する。
(発明の背景)
多数の証拠は、局所的酸素利用可能性がヒト栄養膜細胞の分化、したがって適切な胎盤の発育および機能において中心的役割を果たすことを支持している(非特許文献1)。妊娠早期中には、胎盤の絨毛間腔への母体血の進入は血管内栄養膜細胞によって制限されるので、このため間質性および絨毛性栄養膜の周囲の酸素レベルは比較的低い(約15mmHg、2〜3% Oと同等)(非特許文献2)。この低酸素環境は、正常な胚発育のために不可欠である(Hempstock, 2003)。妊娠10〜12週以後には、絨毛間腔への母体血流量は増加し、胎盤絨毛を取り囲んでいる酸素レベルは約55mmHg(およそ8% O)に達する(Jaunieux,2000)。子宮胎盤血流量は妊娠第2トリメスターには指数関数的に上昇し、近位子宮動脈ドプラー波形の変化と関連している(Thaler, 1990)。このプロセスが起きないと、子宮胎盤血管不全および慢性低酸素症を生じさせ、妊娠を子癇前症からの早期産(Lunell, 1982)および/または子宮内胎児発育遅延(IUGR)(Vierro, 2004)の高リスク状態にさせる。それにより酸素が遺伝子発現を調節する主要な細胞経路は、低酸素誘導因子(HIF)として知られるヘテロメリックタンパク質複合体の形成である。HIFは、2つの明確に異なるサブユニット:αおよびβから構成される。酸素圧が低い場合は、不安定なαサブユニットは、構成的に発現したβサブユニットとともにヘテロダイマーを形成する。このヘテロダイマーは、その後核内に転位し、そこで様々な遺伝子のプロモーター領域内の短鎖DNAモチーフ(HRE:低酸素応答性エレメント)に結合し、それによりそれらの転写を活性化する。酸素正常状態下では、HIF−1αは迅速にヒドロキシル化されるので、したがってプロテオソーム分解の標的とされる(Metzen, 2004)。
Kingdomら,Adv Exp Med Biol(1999)474:259−275 Jaunieuxら,Am J Pathol(2000)157:2111−2122
そこでこれらの状態を予防もしくは治療するための適切な臨床アプローチを設計するために、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転を含む様々な状態を識別できれば有用であろう。
(発明の要旨)
大まかに述べると、本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態を診断するための方法であって、HIF−1αを調節する、またはHIF−1αによって調節される因子を検出する工程を含む方法を提供する。本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む特定状態を診断または識別するための方法であって、HIF−1αを調節する、またはHIF−1αによって調節される因子を検出する工程を含む方法もまた提供する。
本明細書で言及する「状態」には、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態、疾患もしくは障害が含まれる。そのような状態の例は、早発性重症子癇前症(EPE)および後発性子癇前症(LPE)を含む子癇前症、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、絨毛癌、胞状奇胎、および奇胎妊娠である。
本発明の態様では、因子は、以下のクラス:
i)赤血球生成へのそれらの全身性関与により組織酸素送達を増加させるポリペプチド(トランスフェリン)および/または前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
ii)血管弛緩および血管発生の修飾により組織への局所的酸素送達を増加させるポリペプチドおよび/または前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
iii)組織酸素送達を変化させないが、低酸素条件下では細胞代謝の適応のために必要なポリペプチドおよび/または前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、のうちの2つまたは3つから選択される。
ポリペプチド因子は、本明細書では「ポリペプチドマーカー」と呼び、ポリヌクレオチド因子(すなわち、ポリペプチド因子をコードするポリヌクレオチド)は、本明細書では「ポリヌクレオチドマーカー」と呼ぶ。ポリペプチドマーカーおよびポリヌクレオチドマーカーは、本明細書では集合的に「マーカー」と呼ぶ。
本発明の態様では、マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、および任意で1つ以上のMtdポリペプチド(例、Mtd−L、Mtd−Sおよび/またはMtd−P)(Soleymanlou N.ら、Cell Death Differ 12:441−452,2005);骨髄性細胞白血病因子−1(Mcl−1)アイソフォームもしくはカスパーゼ切断型Mcl−1アイソフォーム、トランスフォーミング成長因子β3(TGFβ3)(Caniggia Iら、J Clin Invest.1999 Jun;103(12):1641−50)、エンドグリン(ENG)、低酸素誘導転写因子1αおよび2α(HIF−1α、HIF−2α)(Caniggia I.ら、Placenta.2000 Mar−Apr;21 Suppl A:S25−30 Wang,GL,ら、Proc Natl Acad Sci USA 1995:92:5510−4;Biol Reprod 2001;64:499−506;Biol Reprod 2001;64:1019−1020)、プロリルヒドロキシル化ドメイン含有1(PHD1)、プロリルヒドロキシル化ドメイン含有2(PHD2)、プロリルヒドロキシル化ドメイン含有3(PHD3)(Epstein,AC,ら、Cell 2001;107:43−54)、E3リガーゼであるSiah1/2(Nakayama,K.and Z.Ronai,Cell Cycle 3:11,1345−1347)、sFlt(米国公表特許第20040126828号)、VHL、cullin2、発現した神経前駆細胞、発生的にダウンレギュレートされた8(NEDD8)、syncytin、Fas、VEGF、FIH、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、および/またはp53、ならびにこれらのポリペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドである。
本発明の特定の態様では、マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−S、Mtd−P、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、エンドグリン、HIF−1α、HIF−2α、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、Fas、および/またはp53、ならびに/またはこれらのポリペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含んでいる、またはそれらからなる群から選択される。
本発明の実施形態では、マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、エンドグリン、HIF−1α、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、およびVEGF、ならびに/またはこれらのポリペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含んでいる、またはそれらからなる群から選択される。
本発明の実施形態では、マーカーは、表2に同定したバイオマーカーである。
本発明の1つの態様では、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態を診断するための方法であって、前記対象由来のサンプル中のSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミン、および/またはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンの1つ以上をコードするポリヌクレオチドの1つ以上を検出する工程を含む方法が提供される。本発明の診断方法の1つの実施形態では、対象において子癇前症のリスク増加を診断するための方法であって、前記対象由来のサンプル中のSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミン、またはこれらをコードするポリヌクレオチドの1つ以上を検出する工程を含む方法が提供される。
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態、特には早発性重症子癇前症、後発性子癇前症およびIUGRを識別できるマーカーのセットを提供する。患者群間を識別するため、および治の全般的な経過を決定するためにこれらのマーカーを使用するための方法が提供される。
1つの態様では、本発明は、生物学的サンプル中で栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)に特徴的であるサンプルから抽出された1つ以上のポリヌクレオチドマーカーを検出もしくは定量する工程によって前記サンプルを特徴付ける方法であって、前記サンプル中でのポリヌクレオチドマーカーの差次的発現についてアッセイする工程を含む方法に関する。ポリヌクレオチドマーカーの差次的発現は、マイクロアレイ、ハイブリダイゼーション、または抽出したポリヌクレオチドの増幅によって決定することができる。
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)に特徴的であるサンプルから抽出された1つ以上のポリペプチドマーカーを前記サンプル中で検出もしくは定量する工程によってサンプルを特徴付ける、もしくは分類するための方法であって、前記サンプル中のポリペプチドマーカーの差次的発現についてアッセイする工程を含む方法にさらに関する。ポリペプチドマーカーの差的発現は、当技術分野において知られている分離方法、抗体マイクロアレイ、またはサンプルから抽出されたポリペプチドの質量分析法を含むがそれらに限定されない、当技術分野において知られている方法を用いてアッセイできる。
本発明の1つの態様は、様々な細胞タイプからさらに別のマーカーを同定するために核酸マイクロアレイ実験から生成された遺伝子発現データを解析するためのバイオインフォーマティクス法に向けられる。本発明のまた別の実施形態は、正常な状態および/または異常な状態にある哺乳動物(例、ヒト、霊長類)末梢血細胞から同定されたマーカー遺伝子に向けられる。バイオマーカー遺伝子は、哺乳動物における障害もしくは疾患の治療薬のための分子標的として有用である。
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)と関連する遺伝子発現「特性サイン(signature)」を企図している。この特性サインは、前記状態の診断および予測を許容する高い陽性および陰性両方の予測値を備える高度に選択的および特異的試験を提供する。
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む様々な状態(例、早発性および後発性の子癇前症およびIUGR)を識別する遺伝子マーカーセットおよびそれらについての使用を提供する。遺伝子マーカーセットは、表2に列挙したバイオマーカーに対応する少なくとも2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、もしくは50個の遺伝子を含む、もしくはそれらからなる複数の遺伝子を含むことができる。1つの態様では、遺伝子マーカーセットは、系統樹によって表すことのできる遺伝子クラスターを含んでいる、または本発明によって同定されたアップレギュレートおよび/またはダウンレギュレートされた遺伝子の経路内に遺伝子を含んでいる。
本発明は、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、またはこれらをコードするポリヌクレオチドを調節することによる栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を検出する、予防する、および/または治療するための方法にさらに関する。1つの実施形態では、癌を治療するための方法であって、それを必要とする患者に、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドまたはそれらのアゴニストもしくはアンタゴニストを投与する工程を含む方法が提供される。また別の実施形態では、子癇前症を治療するための方法であって、それを必要とする患者に、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、および/またはSMAD7、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドの阻害剤(例、アンチセンス、micRNA分子、または本発明の組成物)を投与する工程を含む方法が提供される。
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転を調節するための方法であって、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを阻害または刺激する工程を含む方法もまた企図している。
本発明の1つの実施形態では、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転を減少させるための方法であって、前記対象に、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドの調節因子(例、阻害剤)の有効量を投与する工程を含む方法が提供される。本発明の好ましい実施形態では、子癇前症に罹患している、もしくは子癇前症に易罹患性の可能性がある女性を治療するための方法であって、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドの阻害剤の治療有効量を投与する工程を含む方法が提供される。治療有効量は、女性においてSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドをダウンレギュレートもしくは阻害するために有効な阻害剤の量である。
本発明のまた別の実施形態では、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転を減少させるための方法であって、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチド、またはこれらの刺激因子の有効量を投与する工程を含む方法が提供される。1つの好ましい実施形態では、対象において絨毛もしくは胞状奇胎を監視もしくは治療するための方法であって、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチド、またはこれらの刺激因子の治療有効量を投与する工程を含む方法が提供される。前記対象においてSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドをアップレギュレートまたは刺激するために有効である量が投与される。
本発明の方法は、代りに、もしくは追加して、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転を調節することに関連する他のポリペプチド[例、sFlt、Mtdポリペプチド(例、Mtd−L、Mtd−Sおよび/またはMtd−P);Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1S、Mcl−1c、もしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、エンドグリン、HIF−1α、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、Fas、および/またはp53]を阻害もしくは刺激する工程を含んでいる。
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態に関連するポリペプチドマーカーに結合する、またはそのようなポリペプチドマーカーをコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズする因子を含む診断用組成物であって、このとき前記マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含む診断用組成物を提供する。
本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を予防する、阻害する、または減少させるための試験因子の潜在的有効性を評価するための方法であって:(a)対象から入手し、前記試験因子に曝露させた第1サンプル中の前記状態に関連する1つ以上のマーカーのレベルであって、このとき前記マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含むレベルと、(b)前記対象から入手した第2サンプル中のマーカーのレベルとを比較する工程であって、このとき前記サンプルは前記試験因子に曝露されておらず、前記第2サンプルと比較した前記第1サンプル中の前記マーカーの発現レベルにおける有意差は、前記試験因子が、前記対象における前記状態を予防する、阻害する、もしくは減少させるために潜在的に有効であることの指標である方法をさらに提供する。
さらに本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を予防する、阻害する、または減少させるための療法の有効性を評価するための方法であって:(a)前記対象から入手した第1サンプル中の前記状態に関連する1つ以上のマーカーのレベルであって、このとき前記マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含むレベルと、(b)療法後に前記対象から入手した第2サンプル中のマーカーのレベルと、を比較する工程を含み、このとき前記第1サンプルと比較して前記第2サンプル中のマーカーの発現レベルにおける有意差は、前記療法が前記対象における前記状態の症状を予防する、阻害する、または減少させるために有効であることの指標である方法を提供する。
1つの態様では、本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を予防する、阻害する、または減少させるための因子を選択するための方法であって:(a)前記対象から1つ以上のポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドを含有するサンプルを入手する工程と;(b)複数の試験因子の存在下で前記サンプルのアリコートを個別に曝露させる工程と;(c)前記アリコートの各々において、前記状態に関連する1つ以上のマーカーのレベルを比較する工程であって、このとき前記マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含む工程と;および(d)他の試験因子と比較して、その試験因子を含有する前記アリコート内のマーカーのレベルを変化させる前記試験因子の1つを選択する工程とを含む方法をさらに提供する。
また別の態様では、本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を予防する、阻害する、または減少させる方法であって:(a)前記対象から1つ以上のポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドを含有するサンプルを入手する工程であって、このとき前記マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含む工程と;(b)複数の試験因子の存在下で前記サンプルのアリコートを個別に維持する工程と;(c)前記アリコートの各々において1つ以上のマーカーのレベルを比較する工程と;および(d)他の試験因子と比較して、その試験因子を含有する前記アリコート内のマーカーのレベルを変化させる前記試験因子の少なくとも1つを前記対象に投与する工程とを含む方法をさらに提供する。
また別の態様では、本発明は、試験化合物が栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を惹起する可能性を評価するための方法であって:(a)前記試験化合物の存在下および不在下で1つ以上のポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドを含有するサンプルの個別アリコートを維持する工程と;および(b)前記アリコートの各々において前記状態に関連する1つ以上のマーカーの発現を比較する工程であって、このとき前記マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含む工程を含み、このとき前記試験化合物の不在下で維持された前記アリコートと比較して、前記試験因子の存在下で維持された前記アリコート内のマーカーのレベルにおける有意差は、前記試験化合物が栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を潜在的に誘発するという指標である方法をさらに提供する。
本発明の実施形態では、以下の:SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−S、Mtd−P、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、エンドグリン、HIF−1α、HIF−2α、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、Fas、および/またはp53、ならびに/またはこれらのポリペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドのうちの1、2、3、またはそれ以上が検出される。特定の実施形態では、以下:SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、エンドグリン、HIF−1α、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、およびVEGF、ならびに/またはこれらのポリペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドのうちの1、2、3、またはそれ以上が検出される。より特定の実施形態では、表2に同定したバイオマーカーの1、2、3、またはそれ以上が検出される。
本発明は、本発明の方法を実施するためのキットにさらに関する。
本発明のこれらやその他の態様、特徴、および長所は、添付の図面および下記の詳細な説明から当業者には明白となるはずである。
(発明の詳細な説明)
本発明によると、当技術分野の範囲内に含まれる従来型分子生物学、微生物学および組換えDNA技術を採用することができる。そのような技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY);DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(D.N. Glover ed.1985),Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.1984);Nucleic Acid Hybridization B.D.Hames & S.J.Higgins eds.(1985);Transcription and Translation B.D.Hames & S.J.Higgins eds.(1984);Animal Cell Culture RI Freshney,ed.(1986),Immobilized Cells and enzymes IRL Press,(1986)、およびB.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)を参照されたい。
他に特に規定しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同一の意味を有する。
端点によって本明細書で言及する数値範囲は、その範囲内に包含されるすべての数および端数を含んでいる(例、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4、および5を含んでいる)。さらにそれらのすべての数および端数は用語「約」によって修飾されると仮定されていることもまた理解されたい。用語「約」は、言及した数の±0.1〜50%、5〜50%、もしくは10〜40%、好ましくは10〜20%、より好ましくは10%もしくは15%を意味する。
診断方法
栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態、またはそのような状態の状況を検出する、診断する、監視するため、およびその予後ため、ならびにそのような状態に対する素因を備える対象を同定するためには様々な方法を使用できる。そのような方法は、例えば、1、2、3、4、5つ、もしくは多数のポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、またはセルロプラスミンもしくはそれらのフラグメントのうちの1つ以上をコードするポリヌクレオチド、ならびに1、2、3、4、5つ、もしくは多数のポリペプチドマーカー、特にはペプチドフラグメントを含むSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、またはセルロプラスミンのうちの1つ以上に対する結合剤(例、抗体)を利用できる。特には、ポリヌクレオチドおよび抗体は、例えば、(1)1、2、3、4、5つ、もしくは多数のポリヌクレオチドマーカー、特には、SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドにおける突然変異の存在を検出するため、または正常な状態と比較したそのようなポリヌクレオチドmRNAの過剰もしくは過小発現のいずれかを検出するため、または所定の状態もしくは1つの状態に向けての易罹患性と相関する可能性があるそのようなポリヌクレオチド転写産物の選択的にスプライシングされたを定性的もしくは定量的に検出するため;および(2)正常な状態もしくは1つの状態の異なる段階と比較して、1つ以上のポリペプチドマーカー、特には1つ以上のSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンの過剰もしくは過小存在度のいずれかを検出するため、または1つの状態もしくは状況と、または1つの状態に向かう進行、または1つの状態の特定のタイプもしくは段階と相関する修飾されたポリペプチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンの存在を検出するために使用できる。
本明細書に記載した方法は、対象由来の生物学的サンプル中で栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転を含む状態を診断および監視するために適応させることができる。これらの用途は、試験下の対象由来のサンプル中で定量されたポリペプチドマーカー、特には、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドの量を規定の標準値もしくはカットオフ値と比較することを必要とする。標準値は、また別のサンプルについて定量したレベル、もしくは前記対象由来の早期のサンプル、またはコントロールサンプルについて定量したレベルに対応してよい。健常対象(状態の異なる段階もしくはタイプ)由来のコントロールサンプルについてのレベルは、プロスペクティブおよび/またはレトロスペクティブ統計的試験によって確定できる。1つの状態もしくは異常の臨床上の証拠を有していない健常対象を統計的試験のために選択できる。診断は、コントロールサンプルもしくは同一対象について定量された以前のレベルと比較して1つの状態(例、子癇前症)に関連する、変化したレベル、特には検出されたマーカーの統計的に異なるレベルの所見によって下すことができる。コントロールもしくは標準と比較して患者サンプル中のマーカーのレベルにおける「統計的に異なるレベル」、もしくは「有意差」は、検出アッセイの標準誤差より高い、または低いレベルを表す場合がある。特定の実施形態では、レベルは、コントロールもしくは標準より1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、もしくは6倍高い、または低い場合がある。
本発明の1つの態様では、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)を診断もしくは監視するための方法であって、前記対象由来のサンプル中のポリペプチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミン、および/またはポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを検出する工程を含む方法が提供される。本発明の診断方法の実施形態では、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、もしくはそれらを含む状態(例、子癇前症)の高リスクを診断するための方法であって、前記対象由来のサンプル中で、ポリヌクレオチドマーカー、特には、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを検出する工程を含む方法が提供される。
また別の態様では、本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症、絨毛、胞状奇胎、もしくは奇胎妊娠)を検出するための組成物の製造におけるポリペプチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンと、またはポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドと相互作用する結合剤および/またはポリヌクレオチドの使用を提供する。
本明細書に記載した方法は、例えば、宿主から新しく取り出したサンプル中で、本明細書に開示した状態(例、子癇前症)の可能性を予測もしくは評価するために使用できる。そのような方法は、前記状態(例、子癇前症)を検出するために使用でき、前記状態の診断および予後に役立つことができる。前記方法を使用すると、前記状態となる可能性を検出し、患者もしくは療法を監視することができる。
本発明は、本明細書に開示した状態(例、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態)、またはそのような状態に対する素因を検出するための方法であって、1つ以上のポリペプチドマーカーのレベルのプロファイルを生成する工程および前記状態の指標となる前記患者のためのプロファイルを同定するために前記プロファイルを参照値と比較する工程とを含む方法をさらに企図している。ある態様では、ポリペプチドマーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−S、Mtd−P、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、HIF−1α、HIF−2α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、Fas、および/またはp53を含んでいる、またはそれらからなる群から選択される。1つの実施形態では、ポリペプチドマーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンを含んでいる。
本発明は、1つ以上のポリペプチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドを含むポリペプチドマーカーのセットの存在について生物学的サンプルを分析するための方法をさらに企図している。
子癇前症を診断するための本発明の方法は、Mtd−S、Mtd−PもしくはMtd−L(Soleymanlou N.ら、Cell Death Differ 12:441−452,2005;Gene ID番号:51800;アクセッション番号:NM_032515;NP_115904)、sFlt(アクセッション番号:U01134);SMAD2(Gene ID番号:4087;NM_001003652;NP_001003652)、SMAD3(Gene ID番号:4088;NP_005893;NM_005902);SMAD7(Gene ID番号:4092;NM_005904;NP_005895)、セルロプラスミン(Gene ID番号:1356;NM_000096;NP_000087)、トランスフォーミング成長因子β3(TGFβ3)(例、アクセッション番号:NP_003230);トランスフォーミング成長因子β1(TGFβ1)(例、アクセッション番号:NP_000651);低酸素誘導因子1、αサブユニット(HIF−1α)(例、アクセッション番号:NP_001521);低酸素誘導因子1、βサブユニット(HIF−1β)(例、アクセッション番号:NP_001659;NP_848513;NP_848514);低酸素誘導因子2、αサブユニット(HIF−2α)(例、アクセッション番号:Q99814);エンドグリン(Gene ID番号:2022;NP_000109;NM_000118;UniProt番号:P17813);von Hippel−Lindau腫瘍抑制因子(VHL)(例、アクセッション番号:NP_000542およびNP_937799);骨髄細胞白血球配列1(Mcl−1)(例、アクセッション番号:NP_068779−アイソフォーム1;NP_877495−アイソフォーム2;配列番号:5、6、もしくは9);プロリル−4−ヒドロキシラーゼ1(PHD1)(例、アクセッション番号NP_071334);プロリル−4−ヒドロキシラーゼ2(PHD2)(例、アクセッション番号:NP_0600251;NP_542770;およびNP_444274);プロリル−4−ヒドロキシラーゼ3(PHD3)(例、アクセッション番号:NP_071356);seven in absentiaホモログ1(Siah1)(例、アクセッション番号:NP_001006611およびNP_003022);seven in absentiaホモログ2(Siah2)(例、アクセッション番号:NP_005058);血管内皮成長因子(VEGF)(例、アクセッション番号:NP_001020537〜NP_001020541、NP_003367);syncytin(例、アクセッション番号:NP_055405);cullin2(例、アクセッション番号:NP_003582);発現した神経前駆細胞、発達的にダウンレギュレートされた8(NEDD)(例、アクセッション番号:P_006147);HIF阻害因子(FIH)(例、アクセッション番号:Q9NWT6);Fas(TNF受容体スーパーファミリー、メンバー6)(例、アクセッション番号:NP_000034;NP_690610〜NP_690616);切断カスパーゼ−3(例、カスパーゼ−3:アクセッション番号:NP_004337;NP_116786;AAO25654);および腫瘍タンパク質p53(例、アクセッション番号:NM_000546);またはこれらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのレベルのプロファイルを検出もしくは生成する工程を含むことができる。前記ポリペプチドをコードする代表的な核酸配列は、次のとおりである:Mtd−P(NM_016778)、Mtd−L(NM_016778)、TGFβ3(例、アクセッション番号:NM_003239、NM_181054);TGFβ1(例、アクセッション番号:NM_000660);エンドグリン(Gene ID番号:2022、NM_000118);HIF−1α(例、アクセッション番号:NM_001530、NP_851397);SMAD2(Gene ID番号:4087;アクセッション番号:NM_001003652およびNM_005901);SMAD3(Gene ID番号:4058;アクセッション番号:NM_005902);SMAD7(Gene ID番号:4092;アクセッション番号:NM_005904);セルロプラスミン(Gene ID番号:1356;アクセッション番号:NM_000096);VHL(例、アクセッション番号:NM_000551、NM_198156);Mcl−1(例、アクセッション番号:NM_021960−変異体1;NM_182763−変異体2;配列番号:7、8、および10);PHD1(例、アクセッション番号:NM_022051);PHD2(例、アクセッション番号:NM_053046、NM_017555、NM_080732);PHD3(例、アクセッション番号:NM_022073);HIF−1β(例、アクセッション番号:NM_001668;NM_178426;NM_178427);seven in Absentiaホモログ1(Siah1)(例、アクセッション番号:NM_001006610;NM_0030311およびNM_001006611);Siah2(例、アクセッション番号:NM_005067);VEGF(例、アクセッション番号:NM_001025366〜NM_001025370、NM_003376)、FIH−1(例、アクセッション番号:AF395830)、syncytin(例、アクセッション番号:NG_004112)、CUL2(例、アクセッション番号:NM_003591);NEDD8(例、アクセッション番号:NM_006156)、Fas(例、アクセッション番号:NM_000043;NM_152871;NM_152872;NM_152873、152877);切断カスパーゼ−3(例、カスパーゼ−3:アクセッション番号:NM_004346;NM_032991;AY219866);およびp53(例、アクセッション番号:NP_000537)。
本明細書に開示したポリペプチドマーカーには、天然型配列ポリペプチド、アイソフォーム、キメラポリペプチド、ならびに前記ポリペプチドの修飾形および誘導体を含む前記マーカーの全ホモログ、フラグメント、および前駆体が含まれるがそれらに限定されないことを理解されたい。
「天然型配列ポリペプチド」は、自然に由来するポリペプチドの同一アミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでいる。そのような天然型配列ポリペプチドは、自然から単離でき、または組換えもしくは合成手段によって生成できる。この用語は、特には、ポリペプチドの天然に生じる切断型もしくは分泌型、天然に生じる変異型(例、選択的にスプライシングされたもしくはスプライス変異体)を含むポリペプチド変異体、および天然に生じる対立遺伝子変異体を含んでいる。
用語「ポリペプチド変異体」は、天然型配列ポリペプチドと少なくとも約45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、もしくは99%のアミノ酸配列同一性、特には少なくとも約70〜80%、より特には少なくとも約85%、さらに特には、少なくとも約90%、最も特には少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドを意味する。そのような変異体には、例えば、他の種由来の変異体を含む、1つ以上のアミノ酸残基が加えられている、もしくはそれから前記ポリペプチドの全長もしくは成熟配列のNもしくはC末端が欠失しているポリペプチドが含まれるが、天然型配列ポリペプチドは除外される。本発明の態様では、変異体は、対応する天然型配列ポリペプチドの免疫原性活性を保持している。対立遺伝子変異体は、さらにまた、1つ以上のアミノ酸の置換、付加、もしくは欠失が前記コードされたタンパク質内に導入されるように、天然ポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチド内に置換、付加、もしくは欠失を導入することによって作製することもできる。突然変異は、例えば特定部位突然変異誘発およびPCR媒介性突然変異誘発などの標準方法によって導入できる。
「キメラタンパク質」もしくは「融合タンパク質」は、異種ポリペプチド(すなわち、前記マーカー以外のポリペプチド)に機能的に連結したマーカーの全部もしくは一部(好ましくは生物学的に活性)を含んでいる。融合タンパク質内では、用語「機能的に連結した」は、マーカーおよび異種ポリペプチドが相互にインフレームで融合されることを意味することが意図されている。異種ポリペプチドは、マーカーのN末端もしくはC末端に融合させることができる。有用な融合タンパク質は、マーカーがGST配列のC末端に融合しているGST融合タンパク質である。キメラタンパク質および融合タンパク質は、標準組換えDNA技術によって作製することができる。
本明細書で言及するポリペプチドマーカーの修飾形には、ポリペプチドのグリコシル化、リン酸化、アセチル化、メチル化もしくはlapidated形などの翻訳後修飾形を含むポリペプチドの修飾形および前記ポリペプチドの誘導体が含まれる。
本明細書に開示したポリペプチドマーカーは、組換えもしくは合成方法によって、または様々な起源から単離して、またはこれらや類似の技術の任意の組み合わせによって調製できる。
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転、特には早発性重症子癇前症、後発性子癇前症、もしくはIUGRと相関するポリペプチドマーカーのセットを提供する。本明細書に開示した状態を検出する、診断する、予防する、および治療するために使用できるこれらのマーカーのセットには、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ1、TGFβ3、HIF−1α、HIF−1β、HIF−2α、VHL、cullin2、NEDD8、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、syncytin、Fas、VEGF、FIH、および/またはp53が含まれる。
そこで、本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合または代謝回転の調節を必要とする状態を識別するマーカーセットならびにそのための使用を提供する。1つの態様では、本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を分類するための方法であって、患者由来のサンプル中でのコントロールと比較した複数のマーカーの発現における差を検出する工程を含む方法であって、前記複数のマーカーおよび/またはポリヌクレオチドマーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、HIF−1α、HIF−1β、HIF−2α、VHL、cullin2、NEDD8、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、syncytin、Fas、VEGF、FIH、および/またはp53、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9つ、または10以上を含む方法を提供する。
1つの態様では、マーカーセットは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−Pおよび/またはMtd−L、ならびに1つ以上のMcl−1アイソフォーム(特にはMcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ1、TGFβ3、HIF−1α、HIF−1β、HIF−2α、VHL、cullin2、NEDD8、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、syncytin、Fas、VEGF、FIH、および/またはp53、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドを含んでいる。
また別の態様では、マーカーセットは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1L、Mcl−1c、TGFβ3、HIF−1α、VHL、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、およびVEGF、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドを含んでいる。
コントロールは、疾患を有していない個々の患者、または知られている状態を有する個人由来のサンプルのプールに由来するマーカーを含むことができる。
本発明の方法を用いて分析できるサンプルには、本明細書に開示した状態に関連するマーカーを含有もしくは発現することが知られている、もしくは疑われるサンプルを含んでいる。サンプルは、患者もしくは細胞培養に由来してよく、生体液、組織抽出物、新しく採取した細胞、および細胞培養内でインキュベートされている細胞溶解が含まれるがそれらに限定されない。サンプルの例には、細胞、細胞溶解物、母体細胞由来の馴化培地を含む組織(例、胎盤)、抽出物、または細胞培養、ならびに例えば、全血、血漿、血清、唾液、接眼レンズ液、脳脊髄液、汗、尿、乳汁、腹水、羊水、膣液、滑液、腹腔液などの生理液が含まれる。
サンプルは、起源から入手して直接的に、またはサンプルの特性を修飾するための前処理後に使用できる。このために、サンプルは、使用前に血液から血漿を調製する、粘液を希釈するなどの処理を受けることができる。処理方法は、濾過、蒸溜、抽出、濃縮、干渉成分の不活性化、試薬の添加などを含むことができる。ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、サンプルから単離して、本発明の方法において利用できる。
本発明の実施形態では、サンプルは、哺乳動物サンプル、好ましくはヒトサンプルである。また別の実施形態では、サンプルは、例えば血清などの生理液または組織(例、胎盤)である。
本発明によって分析できるサンプルには、臨床的に関連のある起源由来のポリヌクレオチド、好ましくは発現したRNAもしくはそれらに由来する核酸(cDNAもしくはRNAポリメラーゼプロモーターを組み込むcDNA由来の増幅RNA)が含まれる。標的ポリヌクレオチドは、制限なく全細胞RNA、ポリ(A)メッセンジャーRNA(mRNA)もしくはその画分、細胞形質mRNA、またはcDNAから転写されたRNA(すなわちcRNA;例えば、Linsley & Schelter、米国特許出願第09/411,074号、または米国特許第5,545,522号、第5,891,636号、もしくは第5,716,785号)を含むRNAを含むことができる。全およびポリ(A)RNAを調製する方法は当技術分野においてよく知られており、一般には、例えばSambrookら、(1989,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(2nd Ed.),Vols.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー)およびAusubelら、eds.(1994,Current Protocols in Moelcular Biology,vol.2,Current Protocols Publishing、ニューヨーク)に記載されている。RNAは、細胞の溶解および細胞内に含有されるタンパク質の変性を含む方法によって真核細胞から単離できる。追加の工程を利用すると、DNAを取り出すことができる。細胞溶解は、非イオン性界面活性剤を用い、その後に核、したがって細胞DNAの塊を除去するために微量高速遠心を行うことによって達成できる(Chirgwinら、1979,Biochemistry 18:5294−5299を参照されたい)。ポリ(A)+RNAは、オリゴ−dTセルロースを用いて選択できる(Sambrookら、1989,Molecular Cloning-A Laboratory Manual(2nd Ed),Vols.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバーを参照されたい)。または、RNAは、例えば高温フェノールもしくはフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを用いる有機抽出によってDNAから分離できる。
例えば転移RNA(tRNA)およびリボソームRNA(rRNA)などの他の細胞RNAに関してmRNAを濃縮することが望ましい場合がある。大多数のmRNAは、それらの3’末端でポリ(A)尾部を含有しており、例えば、セルロースもしくはSephadex(商標)などの固体支持体へ結合したオリゴ(dT)もしくはポリ(U)を用いて、アフィニティークロマトグラフィーによって濃縮することを可能にする(Ausubelら編集、1994,Current Protocols in Molecular Biology,vol.2,Current Protocols Publishing、ニューヨークを参照されたい)。結合ポリ(A)mRNAは、2mM EDTA/0.1% SDSを用いてアフィニティーカラムから溶出される。
RNAのサンプルは、各々が異なるヌクレオチド配列を備える複数の異なるmRNA分子を含む可能性がある。本発明の1つの態様では、RNAサンプル中のmRNA分子は、少なくとも100の異なるヌクレオチド配列を含んでいる。
ポリヌクレオチド方法
栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態(例、子癇前症)またはその状態の段階もしくはタイプは、ポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドのサンプル中のレベルに基づいて検出できる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびハイブリダイゼーションアッセイなどのポリヌクレオチドを検出するための技術は、当技術分野においてよく知られている。
プローブは、本明細書に開示したポリペプチドマーカーをコードする遺伝子を検出するためのハイブリダイゼーション技術において使用できる。この技術は、一般には、患者もしくは他の細胞起源由来のサンプルから入手したポリヌクレオチド(例、組換えDNA分子、クローン化遺伝子)をプローブと、前記ポリヌクレオチド中の相補的配列へのプローブの特異的アニーリングのために好都合な条件下で、接触させてインキュベートする工程を含んでいる。インキュベーション後、アニーリングされていない核酸を除去し、もしあればプローブにハイブリダイズしているポリヌクレオチドの存在が検出される。
サンプル中の核酸配列を検出する際に使用するためのヌクレオチドプローブは、当技術分野において知られている従来方法を用いて構築できる。適切なプローブは、ポリヌクレオチドマーカーの領域から少なくとも5連続するアミノ酸をコードする核酸配列に基づいてよく、好ましくはそれらは10〜30、10〜40、15〜40、20〜50、40〜80、50〜150、もしくは80〜120ヌクレオチドを含んでいる。
ヌクレオチドプローブは、32P、H、14Cなどの適正なシグナルを提供し、十分な半減期を有する放射性標識などの検出可能な物質で標識できる。その他の使用できる検出可能な物質には、特異的に標識された抗体、蛍光化合物、酵素、標識抗原に対して特異的な抗体、および発光化合物によって認識される抗原が含まれる。ハイブリダイゼーションおよび検出対象のヌクレオチドへのプローブの結合の速度、およびハイブリダイゼーションのために利用できるヌクレオチドの量に関して適切な標識を選択できる。標識プローブは、一般にSambrookら、1989,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(2nd ed.)に記載されているようにニトロセルロースフィルターもしくはナイロン膜などの固体支持体上の核酸にハイブリダイズさせることができる。
核酸プローブは、好ましくはヒト細胞中で、ポリヌクレオチドマーカーをコードする遺伝子を検出するために使用できる。ヌクレオチドプローブは、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態(例、子癇前症)を診断する際に;そのような障害もしくは状態の進行を監視する際に;または治療的処置を監視する際にも有用な可能性がある。本発明の態様では、ヌクレオチドプローブは、本明細書に開示した1つ以上のポリヌクレオチドマーカーを含む子癇前症の診断、予測、管理および制御において;子癇前症の進行の監視において;または治療的処置の監視において有用である。
mRNAもしくはそれに由来するポリヌクレオチドのレベルは、当技術分野において知られているハイブリダイゼーション法を用いて決定できる。例えば、RNAは、サンプルから単離して、ゲル上で分離できる。分離したRNAは、次に固体支持体へ移すことができ、1つ以上のマーカーを表す核酸プローブをその固体支持体にハイブリダイズさせ、マーカー由来RNAの量を決定できる。そのような決定は、視覚的または機械補助(例、デンシトメーターの使用)であってよい。RNAを決定するためには、ドットブロットもしくはスロットブロットもまた使用できる。サンプル由来のRNAもしくはそれに由来する核酸が標識され、次に別個の、容易に同定できる場所で固体支持体上に配置されている1つ以上のマーカー遺伝子由来のオリゴヌクレオチドを含有する固体支持体にハイブリダイズさせられる。固体支持体オリゴヌクレオチドへの標識RNAのハイブリダイゼーションまたはその欠如は、視覚的またはデンシトメーターによって決定される。
ポリヌクレオチドマーカーの検出は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの増幅方法を用いた特定遺伝子配列の増幅を含むことができ、その後、当業者に知られている技術を用いた増幅分子の分析が行われる。適切なプライマーは、当業者であれば日常的に設計できる。例えば、PCRに基づくアッセイではサンプルに由来するポリヌクレオチドの一部分を増幅させるために少なくとも2つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用できるが、このとき前記オリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1つはポリヌクレオチドマーカーにとって特異的である(すなわち、それにハイブリダイズする)。増幅させたcDNAは次に、ゲル電気泳動法などの当技術分野においてよく知られている技術を用いて分離および検出される。
アッセイ条件下でハイブリダイゼーションを最大化するためには、本発明の方法において使用されるプライマーおよびプローブは、一般にはポリヌクレオチドマーカーの一部分に対して少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約75%、およびより好ましくは少なくとも約90%の同一性を有する;すなわち、それらは長さが少なくとも10ヌクレオチド、および好ましくは少なくとも20ヌクレオチドである。1つの実施形態では、プライマーおよびプローブは、長さが少なくとも約10〜40ヌクレオチドである。
本明細書に記載したハイブリダイゼーションおよび増幅技術を使用すると、ポリヌクレオチド発現の定性的および定量的態様をアッセイすることができる。例えば、RNAはポリヌクレオチドマーカーを発現することが知られている細胞型もしくは組織から単離し、本明細書で言及するハイブリダイゼーション(例、標準ノーザン分析)もしくはPCR技術を利用して試験できる。これらの技術を使用すると、正常もしくは異常な選択的スプライシングに起因する可能性がある転写産物のサイズにおける差を検出できる。これらの技術を使用すると、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態(例、子癇前症)の症状を示す個人と比較した正常個人において検出される全長および/または選択的スプライス転写産物のレベルの定量的差を検出することができる。
本発明の態様では、PCRが逆転写と組み合わせて適用される、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を使用するための方法が提供される。一般に、RNAは、標準技術(例えば、Chomcynski and Sacchi,Anal.Biochem.162:156−159,1987によって記載されたグアニジンイソチオシアネート抽出)を用いてサンプルから抽出され、cDNAを生成するために逆転写される。cDNAは、ポリメラーゼ連鎖反応のための鋳型として使用される。cDNAは、プライマーのセットにハイブリダイズさせられるが、そのうちの少なくとも1つは、本明細書に開示したマーカーのポリヌクレオチド配列に対して特異的に設計されている。プライマーおよび鋳型がアニーリングすると、その鋳型のコピーを合成するために、DNAポリメラーゼを使用してプライマーから伸長させられる。DNAストランドは変性させられ、臭化エチジウム染色およびアガロースゲル電気泳動法によって可視化できるように十分なDNAが生成するまで、この方法が複数回繰り返される。
1つの実施形態では、本発明は、mRNAであるポリヌクレオチドが:(a)サンプルからmRNAを単離して、そのmRNAをcDNAに変換させるための試薬と合わせる工程と;(b)前記変換したcDNAを増幅反応試薬およびポリヌクレオチドマーカーにハイブリダイズする核酸プライマーによって処理して増幅産物を生成する工程と;(d)mRNAの量を検出するために前記増幅産物を分析する工程と;および(e)mRNAの量と、類似核酸プライマーを用いて引き出された正常対象についての1パネルの予測値に対して検出された量とを比較する工程とによって検出される方法を提供する。
コントロール(例、正常サンプル)と比較した患者サンプル中の特に高いレベルにあるポリヌクレオチドマーカーを含有する陽性サンプルは、状態(例、子癇前症)、および/または患者が療法に非応答性もしくは耐性であることの指標となることがある。または、陰性サンプル、またはコントロール(例、正常サンプルもしくは陰性サンプル)と比較した低レベルもまた、状態、および/または患者が治療に非応答性もしくは耐性であることの指標となる場合がある。
増幅は、本明細書に記載した疑わしい状態(例、疑わしい子癇前症)を有する対象およびそのような状態に対する素因がない個人から入手されたサンプルに実施することができる。この反応は、少なくとも2桁の範囲に及ぶ倍率のcDNAのいくつかの希釈液に実施できる。正常サンプルの同一希釈液と比較した対象サンプルのいくつかの希釈液中での発現の有意差は、その状態(例、子癇前症)の存在に対して陽性と見なすことができる。
当業者には知られている遺伝子型決定技術を使用すると、ポリペプチドマーカーをコードする遺伝子内の突然変異に極めて近接している多形の遺伝子型を決定することができる。多形を使用すると、突然変異を有する可能性の高い家族内の個人を同定することができる。多形がポリヌクレオチドマーカー内の突然変異との連鎖不均衡を示す場合は、それを使用すると一般集団内で突然変異を有する可能性が高い個人についてスクリーニングすることもできる。使用できる多形には、制限断片長多形(RFLP)、一塩基多形、および単純配列反復多形(SSLP)が含まれる。本発明のプローブを使用すると、RFLPを直接的に同定できる。本発明のプローブもしくはプライマーは、YAC、BAC、PAC、コスミド、ファージもしくはプラスミドなどのゲノムクローンを単離するために追加して使用できる。クローン内のDNAは、ハイブリダイゼーションもしくはシーケンシング法を用いてSSLPについてスクリーニングできる。
プライマーおよびプローブは、上述した方法において現場で、すなわち生検もしくは切除術から入手した患者組織の(固定および/または冷凍)組織切片上で直接に使用できる。
ポリヌクレオチドマーカーに由来するオリゴヌクレオチドもしくはより長いフラグメントは、マイクロアレイ内の標的として使用できる。マイクロアレイを使用すると、ポリヌクレオチドマーカーの発現レベルを同時に監視することができる。マイクロアレイは、さらにまた遺伝的変異体、突然変異、および多形を同定するためにも使用できる。マイクロアレイからの情報は、遺伝子機能を決定するため、状態(例、子癇前症)の遺伝的基礎を理解するため、状態(例、子癇前症)を診断するため、および治療薬を開発してその活性を監視するために使用できる。そこで、本発明は、本明細書に記載した1つ以上のポリヌクレオチドマーカーまたはマーカーセットを含むアレイも含んでいる。アレイは、アレイ内のポリヌクレオチドの発現をアッセイするために使用できる。本発明は、1つ以上のポリヌクレオチドの発現の定量を可能にする。アレイは、正常および異常サンプル中で、本明細書に記載したポリヌクレオチド、および任意で他のマーカーの差次的発現パターンを解明するためにも有用である。これは、診断または治療的インターベンションの分子標的として役立つであろう一連の核酸を提供することができる。
マイクロアレイの調製、使用、および分析は、当業者にはよく知られている(例えば、Brennan,T.M.ら、(1995)、米国特許第5,474,796号;Schenaら、(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.93:10614−10619;Baldeschweilerら、(1995)、国際特許出願WO95/251116;Shalon,D.ら、(1995)国際特許出願WO95/35505;Heller,R.A.ら、(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.94:2150−2155;およびHeller,M.J.ら、(1997)米国特許第5,605,662号を参照されたい)。世界中の研究および製造施設において様々なアレイが作製されているが、それらの一部は市販で入手できる。例えば、スポットアレイおよびインサイチュー合成アレイは、核酸材料がアレイ基板上に配置される方法が異なる2種類の核酸アレイである。インサイチュー合成オリゴヌクレオチドアレイに広く使用されているのは、Affymetrix社によって作製されたGeneChip(商標)である。スポットcDNAアレイの例には、Incyte Genomicsによって作製されたLifeArrayおよびIntegriDerm(またはInvitrogen)社によって作製されたDermArrayが含まれる。前合成して増幅させたcDNA配列は、スポットアレイの基板へ付着させられる。タンパク質およびペプチドアレイもまた知られている[(例えば、Zhuら、Science 293:2101(2001)を参照されたい]。
そこで、本発明は、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、HIF−1α、HIF−2α、HIF−1β、VHL、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、cullin2、NEDD8、Fas、および/またはp53を制限なく含む栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転に関連する1つ以上のポリヌクレオチドマーカーを含むアレイもまた含んでいる。アレイは、アレイ内のマーカーの発現をアッセイするために使用できる。本発明は、1つ以上のマーカーの発現の定量を可能にする。
本発明は、本明細書に開示したマーカーセットを含むマイクロアレイを提供する。1つの実施形態では、本発明は、支持体へ結合したポリヌクレオチドプローブの位置をアドレス可能なアレイを含む栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態を識別するためのマイクロアレイであって、前記ポリヌクレオチドプローブは異なるヌクレオチド配列を有する複数のポリヌクレオチドプローブを含み、異なるヌクレオチド配列の各々は複数の遺伝子に相補的であり、かつハイブリダイズ可能な配列を含み、前記複数は少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、もしくは25個のポリヌクレオチドマーカー、特にはマーカーSMAD2、SMAD−3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特にはMcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、TGFβ1、HIF−1α、HIF−1β、HIF−2α、VHL、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、syncytin、VEGF、FIH、cullin2、NEDD8、Fas、および/またはp53に対応する遺伝子を含む、もしくは本質的にそれらかなるマイクロアレイを提供する。本発明の1つの態様は、少なくとも5、10、15、20、もしくは25個のポリヌクレオチドマーカー、またはマーカーのセットを含むマイクロアレイを提供する。
本発明は、本明細書に開示した状態を識別する遺伝子マーカーセットおよびそのための使用を含んでいる。1つの態様では、本発明は、本明細書に開示した状態を分類するための方法であって、コントロールと比較した対象由来のサンプル中で複数の遺伝子の発現における差を検出する工程を含み、複数の遺伝子は少なくとも2、5、6、7、8、9、10、15、20、もしくは25個のポリヌクレオチドマーカー、特にはマーカーSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、TGFβ1、HIF−1α、HIF−2α、HIF−1β、エンドグリン、VHL、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、syncytin、VEGF、FIH、cullin2、NEDD8、Fas、および/またはp53をコードする遺伝子のうちの少なくとも3、4、5、10、15、もしくは20個からなる方法を提供する。特定の態様では、複数の遺伝子は、マーカーSMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、もしくはsFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1S、Mcl−1cもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、TGFβ1、HIF−1α、HIF−2α、HIF−1β、エンドグリン、VHL、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、syncytin、VEGF、cullin2、NEDD8、Fas、および/またはp53をコードする遺伝子のうちの少なくとも10もしくは15個からなる。また別の特定の態様では、コントロールは、個々のコントロール患者由来のサンプルのプールに由来する核酸を含んでいる。
本発明は、コントロールプール中の同一マーカーの発現に対するサンプル中の少なくとも5、10、15、20、もしくは25個のポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1S、Mcl−1cもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、TGFβ1、HIF−1α、HIF−2α、HIF−1β、エンドグリン、VHL、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、syncytin、VEGF、FIH、cullin2、NEDD8、Fas、および/またはp53を含む、もしくはそれらからなる群から選択されるマーカーをコードするポリヌクレオチドの発現間の類似性を計算する工程によって、本明細書に開示した状態を分類するための方法を提供する。
1つの態様では、本発明は、コントロールプール中の同一マーカーの発現に対するサンプル中の少なくとも5、10、15、20、もしくは25個のポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mtd−S、Mcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1S、Mcl−1cもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L)、TGFβ3、TGFβ1、HIF−1α、HIF−2α、HIF−1β、エンドグリン、VHL、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、PHD1、PHD2、PHD3、Siah1/2、syncytin、VEGF、FIH、cullin2、NEDD8、Fas、および/またはp53を含む、もしくはそれらからなる群から選択されるマーカーをコードするポリヌクレオチドの発現間の類似性を計算する工程によって本明細書に開示した状態を分類するための方法であって:
(a)第1プールの蛍光体標識核酸を入手するために、蛍光体を用いてサンプル由来の核酸を標識する工程と;
(b)第2蛍光体を用いて、2つ以上の疾患サンプル由来の前記第1プールの核酸、および2つ以上のコントロールサンプル由来の第2プールの核酸を標識する工程と;
(c)ハイブリダイゼーションが発生できる条件下で、前記第1蛍光体標識核酸および前記第1プールの第2蛍光体標識核酸を前記第1マイクロアレイと接触させる工程と、ハイブリダイゼーションが発生できる条件下で、前記第1蛍光体標識核酸および前記第2プールの第2蛍光体標識核酸を前記第2マイクロアレイと接触させ、前記第1マイクロアレイ上の複数の個別遺伝子座の各々で、前記第1蛍光体標識核酸からの第1蛍光発光シグナルおよび前記第1プールの第1マイクロアレイに結合している前記第2蛍光体標識遺伝物質から第2蛍光発光シグナルを検出し、そして前記第2マイクロアレイ上のマーカー遺伝子座の各々で、前記第1蛍光体標識核酸からの第1蛍光発光シグナルおよび前記第2プールの第2蛍光体標識核酸からの第3蛍光発光シグナルを検出する工程と;
(d)前記第1蛍光発光シグナルおよび前記第2蛍光発光シグナルを、ならびに前記第1発光シグナルおよび前記第3蛍光発光シグナルを比較することによってサンプルと患者プールおよびコントロールプールとの類似性を決定する工程と;および
(e)前記サンプルを、1つの状態を有する個人由来であると分類するための工程であって、前記第1蛍光発光シグナルは前記第3蛍光発光シグナルよりも前記第2蛍光発光シグナルに類似している工程と、および前記サンプルを、前記状態を有さない個人由来であると分類するための工程であって、前記第1蛍光発光シグナルは前記第2蛍光発光シグナルよりも前記第3蛍光発光シグナルに類似している工程とを含み、このとき前記第1マイクロアレイおよび前記第2マイクロアレイは相互に類似している、相互の正確な複製物である、もしくは同一である、そして前記類似性は、類似性のp値が0.01未満である場合に細胞サンプルおよびコントロールが類似であるよう統計的方法によって規定される方法を提供する。
1つの実施形態では、アレイを使用すると、前記アレイ内での1つ以上のマーカーの発現の時間経過を監視することができる。これは疾患の進行などの様々な生物学的状況において発生する可能性がある。アレイは、正常細胞および異常細胞中でのマーカー、および任意に他のマーカーの差次的発現パターンを解明するためにも有用である。これは、診断または治療的インターベンションの分子標的として役立つであろう一連の核酸を提供することができる。
マイクロアレイは、典型的には、基板(例、ニトロセルロースもしくはシリコンプレート、またはフォトリソグラフィー法によって調製したガラス基板)上の個別部位でナノモル量の個別遺伝子、cDNA、またはESTを含有している。アレイは、遺伝子特異的プライマーミックスを用いて従来型技術を使用してcDNAプローブにハイブリダイズさせられる。分析対象の標的ポリヌクレオチドは、単離され、増幅され、そして典型的には蛍光標識、放射標識もしくはリン標識プローブを用いて標識される。ハイブリダイゼーションが完了した後に、アレイはスキャナーに挿入され、そこでハイブリダイゼーションのパターンが検出される。データは、プローブアレイに結合される、標的内に組み込まれた標識から発光された光線として収集される。標的に完全に適合するプローブは、一般にミスマッチを有するシグナルより強力なシグナルを生成する。アレイ上の各プローブの配列および位置は知られているので、このため相補性によって、プローブアレイに適用された標的核酸の同一性を決定できる。
マイクロアレイは、ポリヌクレオチドプローブを選択し、それらを固体支持体もしくは固体表面へ固定化することによって調製できる。プローブは、DNA配列、RNA配列、DNAおよびRNAのコポリマー配列、DNAおよび/またはRNAアナログ、またはそれらの組み合わせを含むことができる。プローブ配列は、ゲノムDNAの完全もしくは部分フラグメントであってよい、またはプローブ配列はインビボ(in vivo)で酵素的に、インビトロ(in vitro)で酵素的に(例、PCRによって)、またはインビトロで非酵素的に、のいずれかで合成される合成オリゴヌクレオチド配列であってよい。
本発明の方法において使用されるプローブは、多孔性もしくは非多孔性のいずれであってよい固体支持体もしくは固体表面に固定化できる。例えば、プローブは、ポリヌクレオチドプローブの3’もしくは5’末端のいずれかでニトロセルロースもしくはナイロン膜もしくはフィルターへ共有的に結合させることができる。固体支持体は、ガラスもしくはプラスチックの表面であってよい。本発明の1つの態様では、ハイブリダイゼーションのレベルは、その表面上に例えばDNAもしくはDNA模擬体の集団、または、RNAもしくはRNA模擬体の集団などのポリヌクレオチドの集団が固定化されている固体支持体からなるプローブのマイクロアレイについて測定される。固体支持体は、非多孔性材料、または任意で、ゲルなどの多孔性材料であってよい。
本発明の実施形態によると、各々が本明細書に記載したマーカーの1つを表すハイブリダイゼーション部位もしくは「プローブ」の規則的配列を備える支持体もしくは表面を含むマイクロアレイが提供される。マイクロアレイは、アドレス可能なアレイ、および特には位置に関してアドレス可能なアレイであってよい。アレイの各プローブは、各プローブの同一性をアレイ内のその位置から決定できるように、典型的には固体支持体上の知られている規定位置上に所在している。特定の実施形態では、各プローブは、単一部位で固体支持体に共有結合させられている。
本発明において使用されるマイクロアレイは、好ましくは、(a)所定のアレイの複数コピーを生成して、相互に容易に比較することを可能にする再性である;(b)ハイブリダイゼーション条件下で安定性である材料から製造される;(c)小さい(例、1cm〜25cm、12cm〜13cm、もしくは3cmである;および(d)細胞内の単一遺伝子の産物へ(例えば、特異的mRNAへ、またはそれに由来する特異的cDNAへ)特異的にハイブリダイズするであろう固有の結合部位セットを含んでいる。しかし、特にスクリーニングアレイにおいてはより大きなアレイを使用できること、そしてその他の関連する、もしくは類似の配列は所定の結合部位へクロスハイブリダイズするであろうことは理解されるであろう。
本発明の態様によると、マイクロアレイは、各位置が本明細書に記載したマーカーの1つを表すアレイである。アレイの各位置は、それに遺伝マーカーから転写された特定のRNAもしくはcDNAを特異的にハイブリダイズさせることのできるゲノムDNAに基づくDNAもしくはDNAアナログを含むことができる。DNAもしくはDNAアナログは、合成オリゴマーもしくは遺伝子フラグメントであってよい。1つの実施形態では、マーカーの各々を表すプローブは、アレイ上に存在する。好ましい実施形態では、アレイは、少なくとも5、10、15、20、もしくは25個のマーカーを含んでいる。
マイクロアレイのためのプローブは、N−ホスホン酸塩もしくはホスホルアミダイト化学(Froehlerら、1986,Nucleic Acid Res.14:5399−5407;McBrideら、1983,Tetrahedron Lett.24:246−248)を用いて合成できる。合成配列は、典型的には、長さが約10〜約500塩基、20〜100塩基、または40〜70塩基である。合成核酸プローブは、例えば制限なくイノシンなどの非天然塩基を含むことができる。ペプチド核酸などの核酸アナログは、ハイブリダイゼーションのための結合部位として使用できる(例えば、Egholmら、1993,Nature 363:566−568;米国特許第5,539,083号を参照されたい)。
プローブは、結合エネルギー、塩基組成、配列複雑性、クロスハイブリダイゼーション結合エネルギー、および二次構造を考慮に入れたアルゴリズムを用いて選択できる(例えば、Friendらによる2001年1月25日に公表されたWO01/05935を参照されたい)。
アレイ上には、典型的には、陽性コントロールプローブ(例、標的ポリヌクレオチド内の配列に相補的でハイブリダイズすることが知られているプローブ)、および陰性コントロールプローブ(例、標的ポリヌクレオチド内の配列に相補的ではなく、ハイブリダイズしないことが知られているプローブ)が含まれている。陽性コントロールは、アレイの周囲に沿って合成でき、またはアレイを越える斜めの縞模様で合成できる。各プローブについての逆補体は、陰性コントロールとして機能するためにプローブの位置に隣接していてよい。
プローブは、ガラス、プラスチック(例、ポリプロピレン、ナイロン)、ポリアクリルアミド、ニトロセルロース、ゲル、またはその他の多孔性もしくは非多孔性材料から製造されてよい固体支持体もしくは固体表面に結合させることができる。プローブは、ガラス板などの表面上にプリンティングできる(例えば、Schenaら、1995,Science 270:467−470を参照されたい)。この方法は、cDNAのマイクロアレイを調製するために特に有用な可能性がある(例えば、DeRisiら、1996,Nature Genetics 14:457−460;Shalonら、1996,Genome Res.6:639−645;およびSchenaら、1995,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:10539−11286も参照されたい)。
表面上の規定位置で、規定配列に相補的な数千個のオリゴヌクレオチドを含有する高密度オリゴヌクレオチドアレイは、インサイチュー合成のためのフォトリソグラフィー技術(例えば、Fodorら、1991,Science 251:767−773;Peaseら、1994,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:5022−5026;Lockhartら、1996,Nature Biotechnology 14:1675;米国特許第5,578,832号;第5,556,752号;および第5,510,270号を参照されたい)または規定オリゴヌクレオチドを迅速に合成および沈着させるための他の方法(Blanchardら、Biosensors & Bioelectronics 11:687−690)を用いて生成できる。これらの方法を用いて、知られている配列のオリゴヌクレオチド(例、60マー)は、誘導体化ガラススライドなどの表面上に直接的に合成される。生成されたアレイは、1RNAに付き数個のオリゴヌクレオチド分子を備えて冗長性であってよい。
マイクロアレイは、マスキングを含む他の方法によって作製できる(Maskos and Southern,1992,Nuc.Acids.Res.20:1679−1684)。1つの実施形態では、本発明のマイクロアレイは、支持体上でポリヌクレオチドプローブを合成することによって生成されるが、このときヌクレオチドプローブはポリヌクレオチドの3’もしくは5’末端のいずれかで支持体へ共有結合させられる。
ポリペプチドの方法
ポリペプチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンは、結合剤を用いて検出できる。「結合剤」は、1つ以上のポリペプチドマーカーへ特異的に結合するポリペプチドもしくは抗体などの物質を意味する。存在する場合は1つ以上のポリペプチドマーカーへ「特異的に結合する」物質は、検出可能なレベルで1つ以上のポリペプチドと反応するが、未関連もしくは異なる配列を含有するペプチドとは検出可能に反応しない。結合特性は、当業者であれば容易に実施できるELISAを用いて評価できる(例えば、Newtonら、Develop.Dynamics 197:1−13,1993を参照されたい)。結合剤は、ペプチド成分を含む、または含まないリボソーム、アプタマー、RNA分子、またはポリペプチドであってよい。結合剤は、1つ以上のポリペプチド配列を含むポリペプチド、そのペプチド変異体、またはそのような配列の非ペプチド模擬体であってよい。アプタマーは、核酸およびタンパク質に結合するDNAもしくはRNA分子を含んでいる。タンパク質(もしくは結合ドメイン)またはポリヌクレオチドへ結合するアプタマーは、過度の実験を行わずに、従来型技術を用いて生成できる[例えば、アプタマーのインビトロ選択について記載している以下の刊行物を参照されたい:Klugら、Mol.Biol.Reports 20:97−107(1994);Wallisら、Chem.Biol.2:543−552(1995);Ellington,Curr.Biol.4:427−429(1994);Latoら、Chem.Biol.2:291−303(1995);Conradら、Mol.Div.1:69−78(1995);およびUphoffら、Curr.Opin.Struct.Biol.6:281−287(1996)]。
結合剤は、様々な診断用途およびアッセイ用途のために使用できる。サンプル中の標的分子を検出するためには、結合剤を使用するための当業者には知られている様々なアッセイフォーマットが存在する(例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照されたい)。一般に、対象におけるポリペプチドマーカーの存在もしくは不在は:(a)前記対象由来のサンプルを、ポリペプチドマーカーと相互作用する結合剤と接触させる工程と;(b)前記サンプル中で、前記結合剤に結合するポリペプチドマーカーもしくは複合体のレベルを検出する工程と;および(c)ポリペプチドマーカーのレベルを規定標準値もしくはカットオフ値と比較する工程とによって決定できる。
本発明の所定の方法の状況では、サンプル、結合剤(例、1つ以上のポリペプチドマーカーに対して特異的な抗体)は、担体もしくは支持体上に固定化できる。例えば、抗体もしくはサンプルは、細胞、抗体などを固定化できる担体もしくは固体支持体上に固定化することができる。適切な担体もしくは支持体は、ニトロセルロース、またはガラス、ポリアクリルアミド、斑れい岩、およびマグネタイトを含んでいてよい。支持体材料は、球状(例、ビーズ)、円筒形(例、試験管もしくはウエルの内面、またはロッドの外面)、または平面(例、シート、試験ストリップ)を含む任意の可能性のある構造を有していてよい。固定化は、典型的には、反応混合物中で任意の遊離分析物(例、遊離ポリペプチドマーカーもしくはその遊離複合体)から結合剤を分離する工程を含んでいる。
結合剤は、検出可能な物質を用いて従来型方法により標識できる。検出可能な物質の例には、以下が含まれるが、それらに限定されない:放射性同位体(例、H、14C、35S、125I、131I)、蛍光標識(例、FITC、ローダミン、ランタニドリン光体)、ルミノールなどの発光標識、酵素標識(例、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリンホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ)、ビオチニル基(マーキングされたアビジン、例えば光学的もしくは比色方法によって検出できる蛍光マーカーもしくは酵素活性を含有するストレプトアビジンによって検出できる)、二次レポーター(例えば、ロイシンジッパー対配列、二次抗体のための結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)によって認識された規定ポリペプチドエピトープ。一部の実施形態では、標識は、潜在的な立体障害を減少させるために様々な長さのスペーサーアームを介して結合させられる。抗体は、電子顕微鏡によって容易に可視化される、フェリチンもしくはコロイド状金などの電子密度の高い物質に結合させることもできる。放射性標識が検出可能な物質として使用される場合は、ポリペプチドはラジオオートグラフィーによって局在決定することができる。ラジオオートグラフィーの結果は、様々な光学方法によりラジオオートグラフ中の粒子の密度を決定することによって、または粒子を計数することによって定量できる。
ポリペプチドマーカーに対する抗体もしくはポリペプチドマーカーを含むタンパク質複合体、またはポリペプチドマーカーもしくはその複合体と相互作用するペプチドを含む結合剤は、リガンド結合パートナーを用いて間接的に標識することもできる。例えば、抗体、またはペプチドは、リガンド結合対の1つのパートナーに結合させることができ、そしてポリペプチドはリガンド結合対の他方のパートナーに結合させることができる。代表的な例には、アビジン−ビオチン、およびリボフラビン−リボフラビン結合タンパク質が含まれる。1つの実施形態では、結合剤(例、抗体)は、ビオチン化される。抗体などの結合剤をリガンド結合パートナーと共有結合させるための方法は、当業者であれば容易に遂行できる(例えば、Wilchek and Bayer,“The Avidin−Biotin Complex in Bioanalytical Applications,”Anal.Biochem.171:1−32,1988を参照されたい)。
結合剤は、ポリペプチドマーカーと直接的または間接的に相互作用することができる。一次結合剤−結合パートナー相互作用が、第2因子を導入することによって増幅させられる間接的方法を使用できる。例えば、一次ポリペプチド−抗体反応は、前記第1ポリペプチドに対して反応性である抗体に対する特異性を有する、第2抗体の導入によって増幅させることができる。例えば、ポリペプチドマーカーに対する特異性を有する抗体がウサギIgG抗体である場合は、二次抗体は、本明細書に記載した検出可能な物質を用いて標識されたヤギ抗ウサギγグロブリンであってよい。
ポリペプチドマーカーの存在は、ポリペプチドと相互作用することが知られている分子(またはその部分)へのポリペプチドマーカーの結合を測定することによって決定できる。本発明の態様では、ポリペプチドに結合するポリペプチド上の部位に由来するペプチドを使用できる。結合ポリペプチド上の特異的部位由来のペプチドは、自然に発生する結合部位のアミノ酸配列、その結合部位の任意部分、または関連分子に結合するように機能する他の分子実体を含んでいてよい。そのような部位由来のペプチドは、天然結合部位を模倣するような方法で、関連分子と直接的または間接的に相互作用するであろう。そのようなペプチドは、本明細書で考察するような競合的阻害剤、エンハンサー、ペプチド模擬体などを含むことができる。
本発明の態様では、結合剤は抗体である。ポリペプチドマーカー、または酵素コンジュゲートもしくは標識誘導体などの誘導体と特異的に反応する抗体を使用すると、様々なサンプル(例、生物学的材料)中でポリペプチドを検出することができる。それらは診断もしくは予後診断試薬として使用することができ、それらを使用するとポリペプチド発現のレベルにおける異常、またはポリペプチドの構造、および/または時間的、組織、細胞、もしくは細胞内局在性における異常を検出することができる。抗体は、本明細書に開示した状態(例、子癇前症)にそれらが及ぼす作用を決定するためにインビトロで潜在的治療用化合物をスクリーニングするためにも使用できる。インビトロイムノアッセイは、特定療法の有効性を評価もしくは監視するためにも使用できる。本発明の抗体は、ポリペプチドを生成するために遺伝子組み換えされた細胞中のポリヌクレオチド発現のレベルを決定するためにインビトロで使用することもできる。
特別には、本発明は、対象において本明細書に開示した状態を監視もしくは診断するための、前記対象由来の生物学的サンプル中のポリペプチドマーカーもしくはその複合体を定量する工程による診断方法であって、前記サンプルを、検出可能な物質で直接的もしくは間接的に標識されているポリペプチドマーカーもしくはその複合体に対して特異的な抗体と反応させる工程と、および前記検出可能な物質を検出する工程とを含む方法を提供する。本発明の特定の実施形態では、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンが定量もしくは測定される。
本発明の1つの態様では、本明細書に開示した状態を検出するための方法であって:
(a)ポリペプチドマーカーもしくはその複合体を含有することが疑われるサンプルを入手する工程と;
(b)前記サンプルをポリペプチドマーカーもしくはその複合体へ特異的に結合する抗体と、前記抗体を結合させるため、および複合体を形成するために有効な条件下で接触させる工程と;
(c)前記抗体−ポリペプチド複合体の量を定量することによって、前記サンプル中に存在するポリペプチドマーカーもしくはその複合体の量を測定する工程と;および
(d)前記サンプル中に存在するポリペプチドマーカーもしくはその複合体の量をコントロール中のポリペプチドマーカーもしくはその複合体の量と比較する工程であって、前記コントロール中の量と比較した前記サンプル中のポリペプチドマーカーもしくはその複合体の量における変化もしくは有意差が、前記状態の指標である工程とを含む方法が提供される。
抗体複合体の量は、状態のリスクにはなく、また罹ていない個人、または異なる段階の状態を有する個人由来の抗体複合体の量を表す数値と比較することができる。抗体複合体形成における有意差は、進行した状態、または不都合な予後の指標である可能性がある。
本発明の方法の実施形態では、ポリペプチドマーカーもしくはその複合体はサンプル中で検出され、高レベル、特にはコントロール(例、正常)と比較した有意に高いレベルは、状態(例、子癇前症)の指標である。
1つの実施形態では、本発明は、個人における本明細書に開示した状態の進行を監視するための方法であって:
(a)前記サンプル中で抗体およびポリペプチドマーカーもしくはその複合体を含む複合体を形成できるように、ポリペプチドマーカーもしくはその複合体へ結合する抗体を前記個人由来のサンプルと接触させる工程と;
(b)前記サンプル中の複合体形成の存在もしくは量を決定もしくは検出する工程と;
(c)後の時点に工程(a)および(b)を繰り返す工程と;および
(d)工程(b)の結果を工程(c)の結果と比較する工程であって、前記複合体形成の量における差は、前記個人における状態、前記状態の段階、および/または前記状態の進行の指標である工程とを含む方法を企図している。
本発明の方法では、サンプルを結合剤(例、抗体)と接触させる工程は、検出を行うことができるように任意の適切な技術によって遂行できる。特には、抗体は、1つ以上のポリペプチドマーカーもしくはその複合体の抗原性決定因子と抗体との結合相互作用に依存する任意の知られているイムノアッセイにおいて使用できる。体サンプル中の抗原のインビトロ検出のためのイムノアッセイ法は当技術分野においてよく知られており、ならびに広く確立されており、商業的診断工業において使用される[イムノアッセイ法についての一般的説明については、例えば、Patersonら、Int.J.Can.37:659(1986)およびBurchellら、Int.J.Can.34:763(1984)を参照されたい]。サンプル中のポリペプチドマーカーもしくはその複合体の定性的および/または定量的決定は、直接的もしくは間接的いずれかのフォーマットで競合的もしくは非競合的イムノアッセイ法によって遂行できる。抗体を用いたポリペプチドマーカーもしくはその複合体の検出は、フォワード、リバースもしくは同時モードのいずれかで実行されるイムノアッセイを利用して実施できる。イムノアッセイの例は、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素イムノアッセイ(例、ELISA)、免疫蛍光法、免疫沈降法、ラテックス凝集法、血球凝集法、組織化学検査、およびサンドイッチ(免疫測定)アッセイである。これらの用語は、当業者にはよく理解されている。当業者であれば、過度の実験を行わずに他のイムノアッセイフォーマットを知っているであろう、または容易に認識できるであろう。
そこで、本発明は、イムノアッセイによって1つ以上のポリペプチドマーカーを測定することによって、サンプル中の1つ以上のポリペプチドマーカーを決定するための手段を提供する。本発明の1つの実施形態によると、生物学的サンプル中のポリペプチドマーカーを検出するためイムノアッセイは、抗体を含む第1複合体の形成を許容する条件下で前記サンプル中のポリペプチドマーカーもしくはその複合体へ特異的に結合する抗体と、ポリペプチドマーカーもしくはその複合体を接触させる工程と、前記サンプル中に含有されるポリペプチドマーカーもしくはその複合体の量の尺度として、第1複合体の存在もしくは量を決定する工程とを含んでいる。
当業者には、1つ以上のポリペプチドマーカーを測定するために様々なイムノアッセイ法を使用できることは明白であろう。一般に、イムノアッセイ法は、競合的または非競合的であってよい。
本発明の1つの態様では、ポリペプチドマーカーに固定化された、もしくは固定化可能な抗体およびポリペプチドマーカーの標識形を使用する競合的方法が提供される。サンプルポリペプチドマーカーおよび標識ポリペプチドマーカーは、ポリペプチドマーカーへの抗体の結合について競合する。結果として生じた、抗体に結合している標識ポリペプチドマーカー(結合画分)を未結合のままであるポリペプチドマーカー(未結合画分)から分離した後、結合もしくは未結合いずれかの画分における標識の量が測定され、例えば標準曲線との比較によって、任意の従来方法において試験サンプル中のポリペプチドマーカーの量と相関させることができる。
また別の態様では、非競合的方法がポリペプチドマーカーの決定のために使用されるが、最も一般的な方法は「サンドイッチ」法である。このアッセイでは、ポリペプチドマーカーに対する2つの抗体が使用される。ポリペプチドマーカーに対する抗体の1つは、直接的もしくは間接的に標識され(「検出抗体」と呼ばれることもある)、もう1つは固定化される、もしくは固定化可能である(「捕捉抗体」と呼ばれることもある)。捕捉および検出抗体は、同時または連続的に試験サンプルと接触させることができる。連続的方法は、捕捉抗体をサンプルとともにインキュベートする工程と、およびその後の規定時点に検出抗体を加える工程とによって遂行できる(「フォワード」法と呼ばれることもある);または検出抗体は、サンプルと最初にインキュベートし、次に捕捉抗体を加えることができる(「リバース」法と呼ばれることもある)。必要なインキュベーションを行った後、アッセイを完了するためには、捕捉抗体が試験混合液から分離され、標識は分離された捕捉抗体相の少なくとも一部分または試験混合液の残余中で測定される。一般に、それは捕捉抗体相が捕捉および検出抗体によって(間に「サンドイッチされ」)結合されたポリペプチドマーカーを含んでいるので、捕捉抗体相内で測定される。1つの実施形態では、標識は、捕捉抗体および試験混合液を分離せずに測定できる。
上述したイムノアッセイ法およびフォーマットは、例示することを意図しており、限定することは意図していない。ポリペプチドマーカーもしくはその複合体を決定するために現在開発されている、または今後開発される他の方法は、本発明の範囲内に含まれている。
結合剤(例、抗体)を使用すると、病理的状態を診断および治療する目的で、サンプル中のポリペプチドマーカーもしくはその複合体を検出および定量することができる。特別には、抗体は、免疫組織化学的分析において、ポリペプチドマーカーを検出するため、それらを特定の細胞および組織ならびに特異的な細胞内の場所に局在するため、および発現のレベルを定量するために、例えば細胞および細胞内レベルで使用できる。
1つ以上のポリペプチドマーカーもしくはその複合体に対して特異的な抗体は、本明細書に記載した検出可能な物質を用いて標識し、前記検出可能な物質の存在に基づいて組織中および細胞中で局在決定することができる。光線および電子顕微鏡を用いて抗原の局在決定するために当技術分野において知られている細胞化学技術を使用すると、ポリペプチドマーカーもしくはその複合体を検出することができる。
組織サンプル中の抗原を検出するための免疫組織化学的方法は、当技術分野においてよく知られている。例えば、免疫組織化学的方法は、Taylor,Arch.Pathol.Lab.Med.102:112(1978)に記載されている。手短には、本発明の状況において、本明細書に記載された状態を有することが疑われる対象から入手した組織サンプルが抗体と、好ましくはポリペプチドマーカーを認識するモノクローナル抗体と接触させられる。抗体が結合している部位は、標準免疫組織化学的方法によってサンプルの選択的染色によって決定される。組織サンプルは、正常組織もしくは異常/疾患組織であってよい。
栄養膜細胞の浸潤を含む状態についての診断方法
本発明は、特には栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転に関連する状態の診断方法を企図している。
1つの態様では、本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転に関連する状態の存在もしくは不在を決定するための方法であって:(a)前記対象から入手したサンプルをポリヌクレオチドマーカーにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドと接触させる工程と、および(b)前記サンプル中で前記ポリヌクレオチドマーカーにハイブリダイズするポリヌクレオチドのレベルを規定のカットオフ値もしくは標準値と比較して検出し、それから前記対象における前記状態の存在もしくは不在を決定する工程とを含む方法を提供する。特定の態様では、ポリヌクレオチドマーカーは、SMAD2、SMAD−3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、およびVEGFをコードするポリヌクレオチドである、またはそれらからなる群から選択される。
本発明は、対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転に関連する、および/または栄養膜細胞の浸潤の調節を必要とする状態を診断するための方法であって、前記対象由来のサンプル中で1つ以上のポリペプチドマーカーを検出する工程を含む方法をさらに提供する。1つの態様では、ポリペプチドマーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、sFlt、セルロプラスミン、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、エンドグリン、HIF−1α、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、およびVEGFである、またはそれらからなる群から選択される。
本発明の診断方法の実施形態では、対象において子癇前症のリスク増加を診断するための方法であって、前記対象由来のサンプル中でSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、およびVEGFを検出する工程を含む方法が提供される。
1つの態様では、マーカーは核酸上またはタンパク質マイクロアレイ内に含有させることができる。
本明細書に開示した診断方法は、子癇前症の存在もしくは不在を決定するため、もしくは対象において子癇前症が発生する可能性を決定するため、または例えば早発性重症子癇前症(EPE)を含む下位病理を、後発性子癇前症、もしくは子宮内胎児発育遅延(IUGR)から識別するために使用できる。図12および13ならびに表2は、早発性重症子癇前症およびIUGRにおける所定のバイオマーカーの発現および活性の調節を示している。
重症子癇前症(ePE)を併発している妊娠は、一般にACOGガイドラインによると高血圧(収縮期血圧≧140mmHg;拡張期血圧≧90mmHg)、タンパク尿(≧300mg/24時間)および早期産を特徴とする。重症子宮内胎児発育遅延(sIUGR)を併発している妊娠は、一般に在胎齢および性別によって<5パーセンタイル値の胎児成長、病理的臍帯血ドプラーフロー速度測定波形(拡張終期血流不在)、および病理的両側性子宮ドプラーを特徴とする。
1つの態様では、本発明は、妊娠哺乳動物における子癇前症が発生する可能性を決定するための方法であって、前記対象由来のサンプル中でポリペプチドマーカーもしくはポリヌクレオチドマーカーを検出する工程を含む方法を企図している。
本発明の1つの実施形態では、対象において子癇前症のリスク増加を診断するための方法であって、特には前記ポリペプチドマーカーに対して特異的な抗体を使用して、サンプル中で、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、および/またはVEGF、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドを含む、またはそれらからなる群から選択されるポリペプチドマーカーを検出する工程を含む、方法が提供される。ポリペプチドマーカーおよび/またはこれらをコードするポリヌクレオチドは、妊娠の第1トリメスター(およそ1〜15週、1〜14週、1〜12週、5〜12週、5〜8週、9〜12週、または10〜15週)中に測定できる。この期間中には少なくとも2回の測定を行うことができ、引き続いて約12〜16週もしくは14〜16週での測定を含む。子癇前症に罹患していない女性に典型的なレベルと比較してレベルが有意に異なる場合は、その患者は子癇前症に罹患するリスク増加を有すると診断される。子癇前症に罹患していない女性に典型的なレベルと有意に異なる(例、高い)レベルは疑わしい可能性があり、ポリペプチドマーカーの詳細な監視および測定が適切な可能性がある。診断方法からの情報を使用すると、1つ以上のポリペプチドマーカーの阻害剤の投与による治療などの、一連の治療から利益の得られる対象を同定することができる。
本発明は、対象において早発性重症子癇前症、後発性子癇前症、および子宮内胎児発育遅延(IUGR)を診断もしくは同定するための方法であって、表2、図12もしくは図13に同定したポリペプチドマーカーおよび/またはこれらをコードするポリヌクレオチドを検出する工程と、表2、図12もしくは図13に指示されたマーカーの増加もしくは減少に基づいて早発性重症子癇前症、後発性子癇前症、および子宮内胎児発育遅延(IUGR)を診断もしくは同定する工程とを含む方法を提供する。
早発性重症子癇前症を診断もしくは同定するための方法では、コントロール(例、正常値)と比較して患者における高レベルのマーカー、特には1つ以上のポリヌクレオチドマーカーもしくはポリペプチドマーカーの有意に高いレベルは、早発性重症子癇前症、または早発性重症子癇前症が発生する可能性の指標である。1つの実施形態では、本発明は、対象における早発性重症子癇前症を診断するための方法であって、前記対象由来のサンプル中でSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、sFlt、セルロプラスミン、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、および/またはVEGFならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドを検出する工程を含む方法に関する。
本診断方法は、ポリヌクレオチドマーカーもしくはポリペプチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd(特には、Mtd−PおよびMtd−L)、およびMcl−1アイソフォーム(特には、Mcl−1SもしくはMcl−1L、またはカスパーゼ切断型Mcl−1SもしくはMcl−1L、特にはカスパーゼ切断型Mcl−1L、すなわちMcl−1c)、TGFβ3、TGFβ1、HIF−1α、HIF−1β、HIF−2α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、syncytin、cullin2、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、VEGF、FIH、NEDD8、Fas、および/またはp53、またはこれらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいる、またはそれらからなる群から選択されるパネルのマーカーを用いて早発性子癇前症を診断する工程を含むことができる。
早発性子癇前症を診断もしくは同定するためのまた別の方法では、コントロール(例、正常値)と比較して患者における高レベルのHIF−1α、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、TGFβ3、エンドグリンおよび/またはVEGFは、早発性重症子癇前症、または早発性重症子癇前症が発生する可能性の指標である。1つの態様では、本発明は、対象において早発性子癇前症を診断するための方法であって、前記対象由来のサンプル中でHIF−1α、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、TGFβ3、エンドグリン、および/またはVEGFを検出する工程を含む方法に関する。
本診断方法は、HIF−1α、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−L、Mtd−P、Mcl−1c、TGFβ3、エンドグリン、PHD1、PHD2、VHL、Siah1およびSiah2、cullin2および/またはVEGFを含む、またはそれらからなる群から選択されるパネルのマーカーを用いて早発性子癇前症を診断する工程を含むことができる。
子癇前症についての診断方法の1つの態様では、コントロールと比較して、Mtd−P、Mtd−L、およびMcl−1cおよびその切断部、SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、TGFβ3、NEDD8、セルロプラスミン、sFlt、エンドグリンおよびcullin2のレベルの1つ以上は増加しており、Mcl−1L、PHD1、PHD2、VHL、Siah1、およびSiah2のレベルの1つ以上は減少している。
本発明は早発性重症子癇前症を診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1S、Mcl−1L、Mcl−1L切断部、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、NEDD8、cullin2、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、Siah1/2、およびVHL、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9つ、もしくは10のレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法を提供する。特定の実施形態では、本発明は、早発性重症子癇前症を診断するための方法であって、妊娠の第1トリメスター中、特には14週より前、12週より前、10週より前、8週より前、もしくは5週より前の対象から採取されたサンプル中でSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、Mcl−1L、Mcl−1L切断部、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、NEDD8、cullin2、切断カスパーゼ(例、カスパーゼ−3)、Siah1/2、およびVHL、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9つ、もしくは10のレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法を提供する。特定の実施形態では、本発明は、早発性重症子癇前症を診断するための方法であって、妊娠の第1トリメスター中、特には14週より前、12週より前、10週より前、8週より前、もしくは5週より前に対象から採取されたサンプル中でSMAD2、SMAD7、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、およびVEGF、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法を提供する。コントロールは、早期産もしくは正常血圧性年齢適合コントロール、または妊娠の異なる段階に採取されたサンプルであってよい。
特定の実施形態では、Mtd−P、Mtd−L、sFlt、SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、VEGF、Mcl−1c、TGFβ3、セルロプラスミン、およびHIF−1α、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドにおける有意な増加は、早発性子癇前症の指標である。また別の特定の実施形態では、Mtd−P、Mtd−L、sFlt、SMAD2/7、VEGF、Mcl−1c、TGFβ3、エンドグリンおよびHIF−1α、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドにおける有意な増加、および/またはPHD1、PHD2、Siah1/2、Mcl−1l、NEDD8、cullin2、および/またはVHL、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドにおける有意な減少は、早発性子癇前症の指標である。また別の特定の実施形態では、コントロールと比較したMtd−P、Mtd−L、sFlt、SMAD2、SMAD3、SMAD7、セルロプラスミン、VEGF、Mcl−1c、TGFβ3およびHIF−1α、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドにおける2〜10倍、2〜8倍、2〜5倍、2〜4倍、または3〜3.5倍の増加は、早発性子癇前症の指標である。
本発明は、後発性子癇前症を診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のMtd−P、Mtd−L、セルロプラスミン、sFlt、SMAD2、SMAD3、SMAD7、VEGF、Mcl−1c、TGFβ3、VHL、Siah1/2、PHD1、PHD2、PHD3、およびHIF−1α、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法をさらに提供する。1つの態様では、本発明は、後発性子癇前症を診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のMtd−P、Mtd−L、sFlt、SMAD2、SMAD7、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、VEGF、VHL、Siah1/2、PHD1、PHD2、PHD3、およびHIF−1α、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法を提供する。サンプルは、一般に妊娠第3トリメスター、特には20週より後もしくは25週より後の対象から採取される。
本発明は、子宮内胎児発育遅延(IUGR)を診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のポリペプチドマーカーおよびポリヌクレオチドマーカー、特にはMtd−L、Mtd−P、sFLt、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、VEGF、Mcl−1L、Mcl−1c、HIF−1α、VHL、TGFβ3、PHD1、PHD2、PHD3、エンドグリンおよびSiah1/2、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法をさらに提供する。1つの実施形態では、マーカーは、sFLt、SMAD2、SMAD7、VEGF、HIF−1α、VHL、TGFβ3、PHD1、PHD2、PHD3、およびSiah1/2、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドである。サンプルは、一般に妊娠第3トリメスター、特には約20週より後もしくは25週より後の対象から採取される。HIF−1α、TGFβ3、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD3、sFlt、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、および/またはSiah1/2、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドにおける増加、および任意でVEGF、SMAD7、および/またはセルロプラスミンにおける減少は、IUGRの指標となることがある。
本発明は重症IUGRを診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のPHD1、PHD2、および/またはPHD3、Siah1、Siah2、SMAD2、SMAD3、HIF−1α、TGFβ3、エンドグリン、およびsFlt、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法をさらに提供する。1つの態様では、サンプルは、約20、25、30、もしくは35週以後の対象から採取される。
本発明は重症IUGRを診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のPHD1、PHD2、および/またはPHD3、および任意でSiah1、Siah2、VEGF、FIH、および/またはHIF−1α、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法をさらに提供する。増加、特にはPHD1、PHD2、PHD3、Siah1、Siah2、sFlt、TGFβ3、HIFα、およびFIH、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドの一方もしくは両方のレベルにおける有意な増加、および/またはVEGFもしくはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベル減少は、IUGRの指標となることがある。1つの態様では、サンプルは、約20、25、30、もしくは35週以後の対象から採取される。
本発明は重症IUGRを診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および任意でPHD1、PHD2、PHD3、Siah1、Siah2、VEGF、FIH、エンドグリン、および/またはHIF−1α、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法をさらに提供する。増加、特にはホスホ−SMAD2およびホスホ−SMAD3、および任意でPHD1、PHD2、PHD3、Siah1、Siah2、sFlt、TGFβ3、HIFα、エンドグリンおよびFIH、ならびに/またはこれらをコードするポリヌクレオチドの一方もしくは両方のレベルにおける有意な増加および/または、SMAD7および/またはVEGFもしくはこれらをコードするポリヌクレオチドのレベル減少は、IUGRの指標となることがある。1つの態様では、サンプルは、約20、25、30、もしくは35週以後の対象から採取される。
本発明は、個人における子癇前症の進行もしくはその下位病理を監視するための方法であって:
(a)前記サンプル中の前記結合剤およびポリペプチドマーカーを含む二元複合体を形成できるように、ポリペプチドマーカーに結合するある量の結合剤(例、抗体)を前記個人由来のサンプルと接触させる工程と;
(b)前記サンプル中で複合体形成の存在もしくは量を決定もしくは検出する工程と;
(c)後の時点に工程(a)および(b)を繰り返す工程と;および
(d)工程(b)の結果を工程(c)の結果と比較する工程であって、前記複合体形成の量における差は、前記個人における子癇前症の進行の指標である工程とを含む方法もまた企図している。
複合体の量は、前記複合体の量を表す数値と比較することもできる。1つの実施形態では、工程(c)における複合体の増加は、子癇前症の指標である。
本明細書に開示した診断方法は、制御されない栄養膜細胞の浸潤を含む絨毛もしくは胞状奇胎の診断もしくは監視においても有用な可能性があることもまた理解されるであろう。さらに上記の方法は、奇胎妊娠、早期分娩、早期産、胎児奇形、および胎盤早期剥離を含む他の妊娠合併症を診断もしくは監視するために使用できる。
1つの態様では、本発明は、奇胎妊娠を診断するための方法であって、対象由来のサンプル中のマーカーのレベルをコントロール中の対応するレベルと比較する工程を含む方法を提供する。
ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、本明細書に開示した方法を用いて患者サンプル中で検出できる。特には、本発明の方法における分析対象のポリペプチドは、前記ポリペプチドと直接的もしくは間接的に相互作用する結合剤もしくは物質を用いて検出できる。例えば、ポリペプチドマーカーに対して特異的な抗体を使用すると、異常な栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転に関連する、または栄養膜細胞の浸潤の調節を必要とする状態を診断および監視することができる。抗体を用いる本発明の方法は、本明細書に記載されていて当技術分野において知られている免疫電気向流法(CIEP)、放射性免疫検定法、放射性免疫沈降法、および酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ドットブロットアッセイ、阻害もしくは競合アッセイおよびサンドイッチアッセイを利用できる。
サンプル中のポリペプチドマーカーの存在は、さらにまたポリペプチドマーカーと、同一物に結合することが知られている物質との結合を測定する工程によって決定することもできる。結合剤は、本明細書に記載されていて当業者には知られている例えば酵素、蛍光材料、発光材料および放射性材料などの様々な検出可能な物質を用いる従来型方法を用いて標識できる。結合剤は、さらにまたリガンド結合パートナーを用いて間接的に標識できる。例えば、抗体、または結合剤は、リガンド結合対の1つのパートナーに結合させることができ、ポリペプチドは、リガンド結合対のもう1つのパートナーに結合させることができる。結合パートナーの代表的な例は、本明細書に記載されている。
本発明の方法において使用される抗体もしくは結合剤は、本明細書に記載したように不溶化することができる。一次抗原−抗体反応が、サイトカインに対して反応性である抗体に対して特異性を有する二次抗体の導入によって増幅させられる間接的方法もまた使用できる。
ポリヌクレオチドマーカーは、ヌクレオチドプローブを用いて本発明の診断方法において検出できる。適切なプローブには、ポリペプチドマーカーをコードする核酸配列に基づくポリヌクレオチドが含まれる。ヌクレオチドプローブは、本明細書に記載した検出可能な物質を用いて標識できる。
ポリヌクレオチドマーカーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いてポリヌクレオチドの選択的増幅によって検出することもできる。合成オリゴヌクレオチドプライマーは、従来方法を用いてポリヌクレオチドマーカーの配列から構築することができる。核酸は、これらのオリゴヌクレオチドプライマーおよび標準PCR増幅技術を用いてサンプル中で増幅させることができる。
キット
本発明は、本発明の方法を実施するためのキットにさらに関する。1つの態様では、本発明は、ポリヌクレオチドマーカーと相互作用する結合剤、またはポリヌクレオチドマーカーと相互作用するポリヌクレオチドを含む、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態、特には子癇前症、IUGR、絨毛、胞状奇胎、もしくは奇胎妊娠を診断するための試験キットを提供する。
キットは、取扱説明書、陰性および陽性コントロール、およびマーカーの直接的もしくは間接的測定のための手段を含んでいてよい。キットは、典型的には診断アッセイを実施するために必要とされる2つ以上の成分を含んでいてよい。成分には、化合物、試薬、容器、および/または装置が含まれるがそれらに限定されない。
本明細書に記載した方法は、例えば臨床状況において患者をスクリーニングおよび診断するため、そして本明細書に開示した状態、特には子癇前症に対する素因を示す個人をスクリーニングおよび同定するために便宜的に使用できる、本明細書に開示した1つ以上の特異的ポリペプチドマーカーもしくは本明細書に開示した結合剤(例、抗体)を含む、あらかじめ包装された診断キットを利用することによって実施できる。
1つの実施形態では、キットを含む容器は、本明細書に記載した1つ以上の結合剤を含んでいる。例えば、本キットは、ポリペプチドマーカーのエピトープへ特異的に結合する抗体もしくは抗体フラグメント;酵素を用いて標識された抗体に対する抗体;および酵素に対する基質を含有していてよい。本キットは、マイクロタイタープレートウエル、標準物質、アッセイ希釈液、洗浄バッファー、接着性プレートカバー、および/または本キットを用いて本発明の方法を実施するための取扱説明書をさらに含有していてよい。
本発明の1つの態様では、本キットは、使用前にさらに希釈されてよい濃縮物(凍結乾燥組成物を含む)として、または使用濃度の濃縮液のいずれかとして、1つ以上のポリペプチドマーカーのエピトープへ特異的に結合する抗体もしくは抗体フラグメント、および本明細書に開示した状態と関連するそれらのエピトープへの抗体の結合を検出するための手段を含んでいるが、このときバイアルは1回以上の用量を含んでいてよい。
キットは、サンプル中で本明細書に開示した1つ以上のポリヌクレオチドマーカーをコードするポリヌクレオチドのレベルを検出するように設計できる。そのようなキットは、一般に、ポリヌクレオチドマーカーにハイブリダイズする、本明細書に記載したオリゴヌクレオチドプローブもしくはプライマーを含んでいる。そのようなオリゴヌクレオチドは、例えば、PCRもしくはハイブリダイゼーション法内で使用できる。
本発明は、標的ポリヌクレオチドマーカーへハイブリダイズするための準備が整っている本明細書に記載したマイクロアレイに加えて結果をデータ分析するためのソフトウエアを含有するキットを提供する。キット内に含めるべきソフトウエアは、データ分析方法、特には臨床カテゴリーとマーカー発現との間の相関係数の計算を含む、マーカーを発見するための数学的ルーチンを含んでいる。このソフトウエアは、サンプルの臨床的分類を決定するために、アレイ生成蛍光データを用いて、サンプルマーカー発現とコントロールマーカー発現との相関を計算するための数学的ルーチンをさらに含むことができる。
1つの態様では、本発明は、ポリペプチドマーカーもしくはポリヌクレオチドマーカーを検出する試薬、および妊娠している哺乳動物が早発性子癇前症のリスク状態にあるかどうかをアッセイするための取扱説明書もしくは添付文書もしくはラベル表示を含むキットを提供する。本キットは、検出手段および/またはマイクロタイタープレート、標準物質もしくはトレーサー、ならびにポリペプチドマーカーもしくはポリヌクレオチドマーカーを検出する固定化試薬をさらに含んでおり、ポリペプチドマーカーもしくはポリヌクレオチドマーカーを捕捉するために使用される。
本発明は、本明細書に開示した状態に関連する細胞および組織の存在を評価するためのキットを企図しているが、このときキットは1つ以上のポリペプチドマーカーもしくはその複合体に対して特異的な抗体、またはポリヌクレオチドマーカーに対するプライマーもしくはプローブ、および任意で前記状態に関連する他のマーカーに対して特異的なプローブ、プライマーもしくは抗体を含んでいる。
化合物を評価する目的で、本発明のスクリーニング法を適用するために適切な試薬は、適切な容器内に包装された必要な材料を提供する、本明細書に記載した便宜的キット内に包装することができる。
本発明は、本明細書に開示した状態を阻害するための複数の試験化合物各々の適合性を評価するためのキットに関する。1つの態様では、本キットは、1つ以上のポリペプチドマーカーもしくはポリヌクレオチドマーカーを評価するための試薬、および任意で複数の試験薬もしくは化合物を含んでいる。
さらに、本発明は、本明細書に開示した状態に寄与するために試験化合物の潜在性を評価するためのキットを提供する。1つの態様では、本キットは、前記状態に関連する細胞および組織、ならびに1つ以上のポリペプチドマーカーもしくはポリヌクレオチドマーカーを評価するための試薬を含んでいる。
コンピューターシステム
本明細書で企図された分析方法は、以下で記載する、そして当技術分野において知られているコンピューターシステムおよび方法の使用によって実行できる。そこで、本発明は、1つ以上のポリペプチドマーカーもしくはポリヌクレオチドマーカーを含むコンピューター可読媒体を提供する。「コンピューター可読媒体」は、例えばフロッピー(登録商標)ディスクなどの磁気記憶媒体、ハードディスク記憶媒体、および磁気テープ;例えばCD−ROMなどの光学記憶媒体;RAMおよびROMなどの電気記憶媒体;および磁気/光学記憶媒体などのこれらのカテゴリーの混成物を含むがそれらに限定されない、コンピューターによって直接読み取ってアクセスできる任意の媒体を意味する。そこで、本発明は、患者およびコントロールについて同定された、その上に記録されたマーカーを有するコンピューター可読媒体を企図している。
「記録された」は、コンピューター可読媒体上に情報を保存するためのプロセスを意味する。当業者であれば、本明細書に開示した1つ以上のマーカーについての情報を含む製造物を生成するために、コンピューター可読媒体上に情報を記録するために現在知られている方法のいずれかを容易に採用できる。
1つ以上のマーカー、および/または1つ以上のマーカーをコードするポリヌクレオチドについての情報を保存するために、様々なデータ処理プログラムおよびフォーマットを使用できる。例えば、情報は、例えばWordPerfectおよびMicroSoft Wordなどの市販のソフトウエアにおいて書式設定された、文書処理テキストファイルで表すことができ、または例えばDB2、Sybase、Oracleなどのデータベースアプリケーションに保存された、ASCIIファイルの形式で表すことができる。その上にマーカー情報が記録されているコンピューター可読媒体を入手するためには、任意の数のデータ処理装置構造化フォーマット(例、テキストファイルもしくはデータベース)を適合させることができる。
マーカー情報をコンピューター可読形で提供することによって、様々な目的のためにその情報へ日常的にアクセスすることができる。例えば、当業者であれば、コンピューター可読形にある情報を使用して療法中もしくは療法後に入手されたマーカー情報をデータ記憶手段内に保存された情報と比較することができる。
本発明は、患者が本明細書に開示した状態もしくは本明細書に開示した状態に対する素因を有するかどうかを決定するための方法であって、1つ以上のマーカーの存在もしくは不在を決定する工程と、および前記マーカーの存在もしくは不在に基づいて、前記状態もしくは前記状態の素因を決定する工程と、および任意で手技もしくは治療を推奨する工程とを含む方法を実施するための取扱説明書を保持するための媒体を提供する。
本発明は、電子システム内および/またはネットワーク内で、患者が本明細書に開示した状態もしくは本明細書に開示した状態に対する素因を有するかどうかを決定するための方法であって、1つ以上のマーカーの存在もしくは不在を決定する工程と、および前記マーカーの存在もしくは不在に基づいて、前記対象が前記状態もしくは前記状態の素因を有するかどうかを決定する工程と、および任意で手技もしくは治療を推奨する工程とを含む方法をさらに提供する。
本発明は、ネットワーク内で、対象が本明細書に開示した状態もしくは本明細書に開示した状態に対する素因を有するかどうかを決定するための方法であって:(a)前記対象に関する表現型情報および前記対象由来のサンプルに関連する1つ以上のマーカーに関する情報を受信する工程と;(b)前記マーカーに対応するネットワークから情報を獲得する工程と;および(c)前記表現型情報および前記マーカーに関する情報に基づいて、前記対象が前記状態もしくは前記状態に対する素因を有するかどうかを決定する工程と;および(d)任意で手技もしくは治療を推奨する工程とを含む方法をさらに提供する。
本発明は、疾患細胞もしくは組織を同定する選択された記録を同定するためのシステムをさらになお提供する。本発明のシステムは、一般にデジタルコンピューター;前記コンピューターに接続されたデータベースサーバー;その中に保存されたデータを有するデータベースサーバーに接続されたデータベース、1つ以上のマーカーを含むデータの記録を含むデータ、および所望の選択基準に適合する記録の報告書を生成するためにデータベース内のデータファイルに所望の選択基準に基づくクエリーを適用するためのコード機構を含んでいる。
本発明は、対象が本明細書に開示した状態もしくは本明細書に開示した状態に対する素因を有するかどうかを決定するためのビジネス方法であって:(a)前記対象に関する表現型情報および前記対象由来のサンプルに関連する1つ以上のマーカーに関する情報を受信する工程と;(b)前記マーカーに対応するネットワークから情報を獲得する工程と;および(c)表現型情報、マーカーに関する情報および獲得した情報に基づいて、前記対象が前記状態もしくは前記状態に対する素因を有するかどうかを決定する工程と、および任意で手技もしくは治療を推奨する工程と、を含む方法を企図している。
本発明の1つの態様では、本明細書に記載したコンピューターシステム、成分、および方法は、状態を監視するため、または状態の段階を決定するために使用される。
治療適用
本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態、疾患もしくは障害(本明細書では「状態」とも呼ぶ)を含む、本明細書に開示したマーカーと関連する治療適用を企図している。そのような状態の例は、早発性重症子癇前症(EPE)および後発性子癇前症(LPE)を含む子癇前症、子宮内胎児発育遅延(IUGR)、絨毛癌、胞状奇胎、および奇胎妊娠である。
1つ以上のポリペプチドマーカーおよび/またはポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンは、免疫療法にとっての標的となることがある。免疫治療法には、抗体療法の使用が含まれる。1つの態様では、本発明は、前記マーカーに関連する栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)を予防するために使用できる1つ以上の抗体を提供する。また別の態様では、本発明は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)を予防する、阻害する、もしくは減少させるための方法であって、前記状態または前記状態の発生を予防する、阻害する、または減少させるための有効量で、1つ以上のポリペプチドマーカーおよび/またはポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンに特異的に結合する抗体を患者に投与する工程を含む方法を提供する。
本発明の方法は、単一抗体の投与ならびに組み合わせ、または例えば他のマーカーの異なるエピトープを認識する抗体などの様々な個別抗体の「カクテル」の投与を企図している。そのようなカクテルは、それらがポリペプチドマーカーの異なるエピトープに結合する、および/または異なるエフェクター機序を利用する抗体を含有するために所定の長所を有する可能性がある。組み合わせたそのような抗体は、相乗的治療作用を示すことができる。さらに、1つ以上のマーカー特異的抗体の投与は、他の治療薬と組み合わせることができる。特異的抗体は、それらの「裸(naked)」もしくは非結合形で投与されてよく、またはそれらに結合した治療薬を有していてよい。
本発明の方法において使用されるマーカー特異的抗体は、所望の送達方法のために適合する担体を含む医薬組成物に調製できる。適切な担体には、前記抗体と結合した場合に前記抗体の機能を保持しており、対象の免疫系と非反応性である任意の材料が含まれる。例には、例えば無菌リン酸緩衝食塩液、静菌水などの多数の標準医薬担体のいずれかが含まれる(例えば、一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th Edition,A.Osal.,Ed.,1980を参照されたい)。
1つ以上のマーカー特異的抗体製剤は、部位もしくは損傷部へ抗体を送達できる任意の経路によって投与することができる。投与経路には、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮内などが含まれるがそれらに限定されない。抗体製剤は凍結乾燥して無菌粉末として、好ましくは真空下で保存することができ、そしてその後例えばベンジルアルコール保存料を含有する静菌水中、または無菌水中で注射前に再構成することができる。
治療は、一般には、有効量で許容される投与経路による抗体製剤の反復投与を含むであろう。用量は、状態の病因、状態の段階、使用される抗体の結合親和性および半減期、患者におけるマーカー発現の程度、所望の定常状態抗体濃度レベル、治療頻度、および本発明の治療方法と組み合わせて使用される任意の治療薬の影響を含む、当業者には一般に理解される様々な因子に依存するであろう。適切な用量を決定する際の決定因子は、特定の状況において治療的に有効であるために必要とされる特定の抗体の量である。所望の作用を達成するためには、反復投与が必要とされることがある。1つ以上のマーカー抗体の直接投与もまた可能であり、所定の状況において長所を有することがある。
最も有効な投与レジメンおよび関連因子の決定に役立たせるために、患者をマーカーについて評価できる。本明細書に記載したアッセイ法、または類似のアッセイを使用すると、治療前の患者におけるマーカーレベルを定量することができる。そのようなアッセイは、治療の始めから終わりまでを監視するために使用することもでき、そして例えばマーカーレベルなどの他のパラメーターを評価する工程と組み合わせて治療の成功を評価するためにも有用である。
本明細書に開示した状態と関連するポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドは、高レベルのポリヌクレオチドマーカーを発現するベクターによって細胞もしくは組織にトランスフェクトすることによって無効にすることができる。そのような構築体は、翻訳不能なセンスもしくはアンチセンス配列で細胞を充満させることができる。DNA内への組み込みの不在下でさえ、そのようなベクターは、内因性ヌクレアーゼによって全コピーが無効にされるまでRNA分子を転写し続けることができる。レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスもしくはワクシニアウイルス由来の、または様々な細菌プラスミド由来のベクターを使用すると、ポリヌクレオチドマーカーを標的器官、組織、もしくは細胞集団へ送達することができる。当業者によく知られている方法を使用すると、アンチセンスなどのポリヌクレオチドマーカーを発現するであろう組換えベクターを構築することができる(例えば、Sambrookら(上記)およびAusubelら(上記)に記載された技術を参照されたい)。
ベクターを細胞もしくは組織内に導入するための方法には、本明細書で考察した、そしてインビボ、インビトロおよびエックスビボ療法のために適合する方法が含まれる。例えば、トランスフェクションまたはリポソームによる送達は、当技術分野においてよく知られている。
遺伝子発現の修飾は、ポリヌクレオチドマーカーの調節領域、すなわちプロモーター、エンハンサー、およびイントロンへのアンチセンス分子、DNA、RNAもしくはPNAを設計することによって入手できる。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、転写開始部位、例えばリーダー配列の−10から+10領域に由来する。アンチセンス分子は、転写産物がリボソームへ結合することを防止することによって、それらがmRNAの翻訳をブロックするように設計することもできる。阻害は、「三重鎖(triple helix)」塩基対合法を用いて達成することもできる。三重鎖対合は、ポリメラーゼ、転写因子、または調節分子が結合するために二重鎖が十分に開く能力を傷つける。三重鎖DNAを用いた治療上の進歩は、Gee J.E.らによって精査されている(In Huber B.E.and B.I.Carr(1994)Molecular and Immunologic Approaches,Futura Publishing Co,Mt Kisco NY)。
リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒する酵素的RNA分子である。リボザイムは、相補的標的RNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーション、その後のエンドヌクレアーゼ的切断によって作用する。このため本発明は、ポリヌクレオチドマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD2、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドのエンドヌクレアーゼ的切断を特異的かつ効率的に触媒できる遺伝子組み換えされたハンマーヘッドモチーフ型リボザイム分子を企図している。
任意の潜在的RNA標的内の特異的リボザイム切断部位は、最初は、以下の配列であるGUA、GUUおよびGUCを含むリボザイム切断部位について標的分子をスキャンする工程によって同定できる。これらの部位が同定されると、切断部位を含有する標的遺伝子の領域に対応する15〜20リボヌクレオチドの短鎖RNA配列を、オリゴヌクレオチドを機能不能にさせる可能性がある二次構造特徴について評価できる。候補標的の適合性は、リボヌクレアーゼ保護アッセイを使用して相補的オリゴヌクレオチドを用いたハイブリダイゼーションへの接近可能性を試験することによって決定することもできる。
1つ以上のマーカー(例、ダウンレギュレートされたマーカー)、およびそれらのフラグメントを使用すると、対象における栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)を予防する、治療する、または減少させることができる。マーカーは、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)に対する素因がある、または罹患している対象に投与するための組成物に調製することができる。このため、本発明は、1つ以上のマーカーもしくはそれらのフラグメント、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに医薬上許容される担体、賦形剤もしくは希釈剤を含む組成物にさらに関する。対象において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)を治療または予防するための方法であって、それを必要とする患者に1つ以上のマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンを投与する工程を含む方法もまた提供される。
本発明は、患者において栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)を予防する、阻害する、または減少させる方法であって:
(a)前記患者から前記状態に関連する組織もしくは細胞を含むサンプルを入手する工程と;
(b)複数の試験因子の存在下で前記サンプルのアリコートを個別に維持する工程と;
(c)各アリコート中で、1つ以上のマーカー、特にはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンのレベルを比較する工程と;
(d)他の試験因子と比較して、その試験因子を含有する前記アリコート中の前記マーカーのレベルを変化させる、少なくとも1つの試験因子を前記患者に投与する工程と、を含む方法をさらに提供する。
本明細書に記載した活性治療物質は、注射(皮下、静脈内など)、経口投与、吸入、経皮適用、もしくは直腸投与によるなどの便宜的方法で投与することができる。投与経路に依存して、活性物質は、その物質を不活性化し得る酵素、酸および他の天然条件の作用からその物質を保護するために材料中に被覆することができる。遊離塩基もしくは医薬上許容される塩としての活性化合物の溶液は、適切な界面活性剤を備える適切な溶媒中で調製することができる。分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合液中、または油中で調製できる。
本明細書に記載した組成物は、有効量の活性物質が医薬上許容されるビヒクルとの混合物中で結合されるように、対象に投与できる医薬上許容される組成物を調製するためのそれ自体は知られている方法によって調製できる。適切なビヒクルは、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(21st Edition 2005,University of the Sciences in Philadelphia(Editor),Mack Publishing Company)、および1999年に刊行された米国薬局方であるThe National Formulary(USP24 NF19)に記載されている。これらに基づくと、組成物には、排他的ではないが、1つ以上の医薬上許容されるビヒクルもしくは希釈剤と関連している、そして適切なpHおよび生理的液体と等張性である緩衝溶液中に含有された活性物質の溶液が含まれる。
組成物は、単独または他の治療薬もしくはまたは他の治療形態と結び付けられている治療薬であると指示されている。本発明の組成物は、他の治療薬もしくは療法と同時に、個別に、または連続的に投与することができる。
組成物および物質/化合物の治療活性は、本発明の方法を用いて同定して、適切な動物モデルを用いてインビボで評価できる。
対象に使用するための本発明の方法は、予防的ならびに治療的もしくは治癒的使用を企図している。本発明の実施形態では、本明細書に記載した方法および組成物は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症もしくはIUGR)の発生を予防的に予防するために使用される。
治療のための典型的な対象には、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)に罹患しやすい、罹患している、または罹患してきたヒトが含まれる。対象もしくは患者には、哺乳動物などの温血動物が含まれる。特には、これらの用語はヒトを意味する。対象、または患者は、栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする、またはそれらを含む状態(例、子癇前症)に罹患している、またはそれらを有する、もしくはそれに対する素因があることが疑われる可能性がある。本発明は、特別にはリスク状態にある患者を決定するために有用な可能性がある。
以下の非限定的な実施例は、本発明の例示である:
(実施例1)
本試験の目的は、妊娠の第1トリメスターを越える様々な週数(インビボ発育期低酸素症)、高高度(インビボ生理的慢性低酸素症)および子癇前症性妊娠(インビボ病理的低酸素症)から入手した胎盤組織を含む胎盤低酸素症のモデルにおける胎盤sFlt−1の発現を試験することであった。さらに、明確に確立された絨毛器官培養系を用いて、酸素化の低下(インビトロ低酸素症)および低酸素症−再酸素化がsFlt−1の発現を調節する機序について調査した。最後に、本試験は、HIF、特にはHIF−1αがヒト胎盤におけるsFlt−1の発現を調節することに直接的役割を果たすかどうかを決定することを目的とした。
実施例に記載した試験では下記の材料および方法を使用した。
材料および方法
組織および血液採取
本試験については試験参加機関から施設内倫理委員会の承認を得て、全女性は文書によるインフォームドコンセントを提出した。組織収集は、ヘルシンキ宣言に規定されたガイドラインを厳密に遵守して実施した。高高度胎盤および血液サンプルは、米国コロラド州レッドヴィル(HA、海抜3,179m)で採取した。HA胎盤は、出産時に健常であった正常血圧性患者から入手した。10mLの血液を妊娠36週以降および分娩3カ月後に母体の肘正中静脈から採取した。血液を凝固させ、血清を分離し、後の分析のために−80℃で保存した。海抜0メートル胎盤サンプル(SL、出産コントロール:TCとも呼ぶ)は、カナダ国オンタリオ州トロント(約40m)における正規産から採取した。コントロール血液サンプルは、米国コロラド州デンバー(1600m)において採取した。早発性重症子癇前症は、米国産婦人科学会(ACOG)基準(1)に基づいて診断された。子癇前症性胎盤(PE、n=16)および早期産正常血圧性年齢適合コントロール胎盤(PTC、n=12)はトロントに所在するMount Sinai病院での分娩から採取した。早発性子癇前症は、患者が子癇前症に起因して妊娠34週より前に出産した場合と規定した。すべての第3トリメスター試料は、無作為に収集された正常に見える胎盤葉から出産直後に入手した。石灰化、壊死性もしくは視覚的に虚血性組織を備える領域は、サンプリングから除外した。糖尿病、本態性高血圧または腎疾患を罹患している対象は除外した。IUGRに罹患した妊娠もまた除外した。早期産は、多胎妊娠(16%)、不全頸管に起因する早期分娩(35%)、早期前期破水(33%)および特定可能な原因のない自発的な早期産(16%)に起因した。全早期産および出産コントロール群は、子癇前症、感染または他の母体もしくは胎盤疾患の臨床的もしくは病理的徴候を示さなかった。出生時体重、在胎齢および母親の健康状態に関連する検査値もしくは臨床観察所見は、病歴から取り出した。患者の臨床的特性は表1に示した。妊娠の第1トリメスター胎盤サンプル(妊娠5〜12週、n=33)は、拡張および爬によって実施した選択的妊娠の第1トリメスター妊娠中絶から採取した。在胎齢は、最終月経期間の日付および妊娠の第1トリメスターの頭殿長(CRL)の超音波測定値によって決定した。
妊娠の第1トリメスターのヒト絨毛膜絨毛外植片の培養
絨毛膜絨毛外植片培養は、以前に記載されたように実施した(Caniggia,2000)。手短には、胎盤組織(妊娠5〜8週、個別の15セット)は、採取2時間以内に氷PBS中に入れて加工処理した。組織を無菌的に解剖して、脱落膜組織および膜を除去した。胎盤絨毛の小片(25〜45mgの湿重量)を細かく切り裂き、0.15mLの未希釈Matrigel(Collaborative Biomedical Products社、米国マサチューセッツ州ベッドフォード)がプレコートされたMillicell−CM培養皿インサート(Millipore社、米国マサチューセッツ州ベッドフォード)上に配置し、24ウエル培養皿に移した。外植片は、100μg/mLのストレプトマイシン、100U/mLのペニシリンが補給された血清無含有DMEM/F12(Gibco BRL社、米国ニューヨーク州グランドアイランド)中で培養し、付着させるために37℃の5% COを含む大気中で一晩インキュベートした。外植片は、標準条件(95%大気中に5% COを含む)または3%もしくは8% Oの大気(各々、92%もしくは87% Nおよび5% COを含む)中で72時間にわたり37℃で維持した。絨毛外植片の形態学的完全性および生育性ならびにそれらのEVTの増殖および移動は、以前に報告されたように5日間まで1日1回監視した(Caniggia,2000)。15回を超える別個の実験において10個より多い胎盤由来の外植片を使用した。平行実験において、低酸素症/再酸素化(HR)は、以前に記載された(15)ように、2時間にわたり8% O(10〜12週の妊娠での生理的酸素圧)から2〜3% Oへ減少させ、その後に1時間にわたり20% O標準条件へ曝露させることによって実施した。各状態について3のサンプルを用いて少なくとも3回の独立した実験を実施した。
HIF−1の薬理学的安定化およびノックダウン
20% O中で維持した外植片は、HIF−1αの安定化によって低酸素症を模擬するために、濃度1.0mMのプロリル−ヒドロキシラーゼ活性の阻害剤であるジメチルオキサリル−グリシン(DMOG)によって処理した(16)。標準20% O条件で維持されたコントロール培養は、培地単独の存在下で平行して実行した。HIF−1αノックダウン試験は、以前に妥当性が確認されたアンチセンスアプローチ(Caniggia,2000)を用いて実施した。手短には、10μMのHIF−1αアンチセンスおよびコントロールセンスオリゴを3%酸素条件において外植片の培地へ加えた。実験の完了後、馴化培地を採取し、sFlt−1のELISA分析のために−80℃で維持した。外植片を収集し、遺伝子分析のために液体窒素中で瞬間冷凍した。各実験における外植片はさらに免疫組織化学的分析のために4%パラホルムアルデヒド中で固定した。
TUNELアッセイ
インサイチュー細胞死検出キットは、Amersham Biosciences社(米国ニュージャージー州)から購入した。末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ−dUTP−ニックエンド標識化(TUNEL)アッセイは、製造業者によって提供される取扱説明書にしたがって実施した。組織のパラフィン切片からキシレン中でパラフィン除去し、勾配下降させエタノールに再水和させ、そして最終的にPBS中で浸漬させた。組織切片は10分間にわたりPBS中でプロテイナーゼK(10μg/mL)を用いて前処理し、洗浄し、次に45分間にわたりメタノール中の3%過酸化水素中でインキュベートした。PBS中で洗浄した後、スライドは30分間にわたり0.1% Triton X−100水溶液中の1×のOne Phor Allバッファーを用いてプレインキュベートし、次に37℃で1.5時間にわたりTdT溶液中でインキュベートした。サンプルはPBS中で洗浄し、アビジンビオチン複合体(Vector Laboratories社、カリフォルニア州バーリンゲーム)を1時間にわたり添加した。染色は、10分後にジアミノ−ベンジジン色原体を用いて検出した。スライドは、ヘマトキシリンを用いて対比染色し、エタノールの濃度を上昇させながら脱水し、そしてキシレンを用いて固定した。
リアルタイムRT−PCR(qPCR)を用いたRNAの単離および定量
全RNAは、製造業者のプロトコール(Invitrogen社、カリフォルニア州)によってTrizolをベースとするアプローチを用いて胎盤サンプルから単離した。全RNAは、製造業者のプロトコールにしたがってRNeasy Miniキット(Qiagen社、オンタリオ州)を用いて全外植片から単離した。DNAの汚染は、DNase−I消化によって酵素的に除去し、その後にRNA逆転写を実施した。qPCR(sFlt−1)は、以前に記載された(36)ようにMJ社のOpticon II(登録商標)Light Cyclerシステム上で実施した。TaqMan Universal
MasterMixおよびsVEGFR−1(sFlt−1、アクセッション番号:U01134)のための特異的Taqman(登録商標)プライマーおよびプローブならびに18S(Applied Biosystems、カリフォルニア州)は製造業者のプロトコール(Applied Biosystems、カリフォルニア州)に基づいて使用した。データの相対的定量は、対数曲線を用いて実施した。sFlt−1の発現レベルは、以前に記載された(25、36)ように2ΔΔCt公式を用いて18S発現に基づいて標準化した。sFlt−1プライマーおよびプローブのための配列:フォワード:5’−GGGAAGAAATCCTCCAGAAGAAAGA−3’[配列番号1];リバース:5’−GAGATCCGAGAGAAAACAGCCTTT−3’[配列番号2];プローブ:5’−CAGTGCTCACCTCTGATTG−S’[配列番号3]。全アンプリコンのサイズは、79塩基対である。
ウエスタンブロット分析
Flt−1についてのウエスタンブロット分析は、6%(重量/容量)のSDS−PAGEゲルに供した50μgの全胎盤タンパク質溶解を用いて実施した。電気泳動後、タンパク質をPVDF膜へ移した。非特異的結合は、60分間にわたり0.1%(容量/容量)のTween−20(TBST)を含有するTris緩衝食塩液中の5%(重量/容量)ウシ血清アルブミン(BSA)中でのインキュベーションによってブロックした。次に膜は、4℃でTBST中の5%(重量/容量)BSA中の1:200に希釈した特異的抗可溶性VEGFR−1抗体(Zymed Laboratories社、カリフォルニア州サンフランシスコ)とともにインキュベートした。一晩インキュベーションした後、膜をTBSTで洗浄し、60分間にわたり室温でTBST中の5%(重量/容量)のBSA中で1:10,000に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG(カリフォルニア州サンタクルーズ)とともにインキュベートした。TBSTを用いた洗浄後、ブロットは化学発光試薬(ECL;Amersham Pharmacia Biotech社、カナダ国オンタリオ州オークビル)へ曝露させた。全ウエスタンブロットは、ポンソー染色を用いてあらゆる時点に等量タンパク質負荷についてチェックした。
免疫組織化学的分析(IHC)
パラフィン切片をスライドガラス上にマウントし、キシレン中で除去し、下降させたエタノール勾配で再水和させた。抗原回は、クエン酸ナトリウム溶液(10mmol)中で加熱することによって実施した。内因性ペルオキシダーゼは、30分間にわたりPBS中の3%(容量/容量)の過酸化水素を用いてクエンチした。ブロッキング(1時間にわたり5%の正常ヤギ血清)後、スライドは一次抗体(抗ヒト可溶性VEGFR−1、1:150の希釈率)とともに一晩インキュベートした。スライドは1×PBS中で洗浄し、室温で45分間にわたりペルオキシダーゼ結合二次抗体(1:300、ヤギ抗ウサギ、Vector Laboratories社、カリフォルニア州バーリンゲーム)に曝露させた。最後に、アビジンビオチン複合体(Vector Laboratories社、カリフォルニア州バーリンゲーム)は1時間添加し、5分後にジアミノ−ベンジジン色原体を用いて染色を検出した。スライドは、ヘマトキシリンを用いて対比染色した。陰性コントロール条件下で溶液をブロッキングすることによって、一次抗体を除き、置換した。
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
胎盤を供与した同一女性由来の血清サンプルならびに妊娠の第1トリメスター絨毛外植片由来の馴化培地を採取した。これらを使用して、製造業者(R&D Systems社、ミネソタ州ミネアポリス)の取扱説明書にしたがって2連で実施したELISAを用いてsFlt−1の発現を決定した。sFlt−1の最小検出可能濃度は、5pg/mLであった。馴化培地中のタンパク質含量は、Bradfordタンパク質アッセイによって測定した全タンパク質濃度に対して標準化した。血清サンプルのアッセイ内変動係数は、9%以下であった。馴化培地サンプルのアッセイ内変動係数は、5.7%であった。各実験のためにELISAのプレート1枚を使用した。
統計学検定
統計学的分析は、SPSS統計学パッケージ(SPSS社、イリノイ州シカゴ)を用いて実施した。データは、Mann−Whitney検定、ならびに適用できる場合は、対応のある、もしくは対応のないt検定を用いて平均値間の比較について分析した。2群より多くを分析する場合には、ANOVAを使用してデータを分析した。有意性は、P<0.05であると規定した。結果は、平均値±平均値の標準誤差(SE)として表示した。
結果
胎盤発育中のsFlt−1の発現の変化
妊娠の第1トリメスターの終了時(妊娠第10〜12週)に、絨毛間腔が母体血へ開いている場合は、胎盤は酸化のサージを経験する(Jauniaux E,2000)。そこで、sFlt−1の発現がインビボでの胎盤酸化におけるこの生理的変化によって影響を受けるかどうかを最初に試験した。sFlt−1転写産物発現は、後期第1トリメスター(妊娠10〜12週)と比較して早期第1トリメスター胎盤サンプル(妊娠5〜9週)中において有意に増加した(5.3±1.4倍)(p<0.05)(図1A)。10〜12週と比較して13〜18週のサンプル中でのsFlt−1転写産物における増加(2倍)が認められたが、この増加は統計的有意ではなかった(図1A)。
正常胎盤発育中のsFlt−1のタンパク質発現について試験した。同一在胎齢範囲からの胎盤溶解物のウエスタンブロット分析は、妊娠10〜12週でsFlt−1タンパク質レベル減少を示した(図1B)。sFlt−1転写産物レベルに類似して、妊娠13〜18週ではsFlt−1タンパク質における増加もまた認められた。妊娠の第1トリメスターサンプル中のsFlt−1の空間的局在は、免疫組織化学的分析を用いて評価した。妊娠6週時には、sFlt−1についての強陽性免疫反応性が合胞体栄養細胞層(ST)において認められた(図1C、左のパネル)。妊娠10週以後には、STにおける免疫反応性の低下が観察されたが、主として頂刷子縁に限定された(図1C、右のパネル)。強陽性sFlt−1免疫染色は、妊娠の第1トリメスター胎盤組織の切片中での合胞体性結節においても観察された(図1C、左のパネル)。間質領域内ではsFlt−1染色は観察されなかった。
sFlt−1の発現は、高高度および子癇前症性胎盤中では増加する
次に慢性胎盤性低酸素症のインビボ条件がsFlt−1の発現に及ぼす作用を試験した。HA胎盤組織は、海抜0メートルサンプルと比較してsFlt−1転写産物発現の増加を示した(HA:4.3±0.7、L:1.0±0.2、P<0.05)(図2A)。内部陽性コントロールとして含まれた早発性重症子癇前症性胎盤サンプルは、正常血圧性早期産年齢適合コントロールサンプルおよび出産コントロールと比較して有意なsFlt−1の発現の増加を示した(PE:9.7.0±2.4、対、コントロール:PTC 1.0±0.19、P<0.05;TC 1.0±0.08、P<0.05)。sFlt−1転写産物レベルは、早期産年齢適合(PTC)コントロールと出産コントロール(TC)において類似であった(図2B)。次にTC胎盤におけるsFlt−1の発現に出産様式が及ぼす作用をqPCRによって試験した。経膣分娩と比較して帝王切開後に採取した胎盤組織中では、sFlt−1 mRNAの発現における変化は観察されなかった(各々、1±0.15および1.05±0.14)。高高度由来の胎盤溶解物について実施されたウエスタンブロットは、転写産物レベルを裏付ける海抜0メートルサンプルと比較してより高いsFlt−1タンパク質発現を示した(図2C、上のパネル)。デンシトメトリー分析は、海抜0メートルコントロール組織と比較して高高度サンプル中のsFlt−1の発現の増加を示した(図2C、下のパネル)(各々、1.9±0.2対1.0±0.1、P<0.05)。HA胎盤組織中でのsFlt−1タンパク質発現に類似して、低高度(コントロール)と比較したHA患者の血清中の循環中sFlt−1の測定値は、45%高い濃度を示した(HA:2,018±225、対、コントロール:1,392±159pg/mL;P=0.01)(図2D)。sFlt−1の濃度(Y)は、出産後経過時間(X)が増加するにつれて減少した(最良適合回帰=y=0.0033x−4.25x+1,906R=−0.92、P=0.009、データは示していない)。本明細書に報告したsFlt−1の胎盤発現と連動して、高高度妊娠における増加した循環中濃度は、概して胎盤起源であると思われる。同一女性において出産3〜6カ月後に入手した数値は、低高度(272±85pg/mL)および高高度(305±138pg/mL)間で相違しなかった(P=0.42)。sFlt−1濃度は、いずれの高度でも胎盤重量とは関連していなかったので、胎盤質量における相違は高高度において増加した数値の原因とはならない。
HA、PEおよびコントロール胎盤組織中のsFlt−1の空間的局在を試験した(図3)。IHC分析は、HAサンプル由来の切片のST層ならびに血管および血管周囲領域内にsFlt−1に対する強陽性免疫反応性を示した(図3d、e、f)。sFlt−1についての低染色/染なしは、海抜0メートルサンプル中で認められた(図3a、b、c)。ST染色ならびに血管染色の増加は、子癇前症サンプル中でも観察された(図3g、h、i)。sFlt−1に対する強陽性免疫反応性は、主としてPEサンプル中の合胞体結節中でもまた一貫して観察された(図3jおよびk)。一次抗体が除外されると、コントロールPE切片中では免疫反応性は観察されなかった(図3l)。
sFlt−1の発現を低酸素症は増加させるが、低酸素症−再酸素化は増加させない
様々な酸素化がインビトロでのsFlt−1の発現に及ぼす作用は、外植片培養を用いて試験した。絨毛外植片を3%酸素に曝露させると、20%で培養した外植片と比較してsFlt−1 mRNAレベルの増加を生じさせた(6.3±2.3対1.0±0.02、P<0.05)(図4A)。8% Oへの曝露は、sFlt−1の発現における有意な増加もまた生じさせた(2.2±0.5対1.0±0.02)。次に、外植片組織切片中でのsFlt−1タンパク質発現および局在決定は、IHCを用いて試験した。3%酸素へ曝露させた外植片の切片は、20%酸素へ曝露させた外植片由来の切片と比較して、ST層におけるsFlt−1染色および増殖している絨毛膜外栄養膜細胞の増加を示した(図5B、左および中央パネル)。
酸素化における間欠的変化がsFlt−1の発現に影響を及ぼすかどうかを決定するために、次に外植片を低酸素症−酸素化(HR)条件へ曝露させた。sFlt−1転写産物レベルは、HRにより処理された外植片より8%に曝露させたコントロール外植片における方が有意に高かった(2.6±0.6対0.9±0.2、P<0.05)(図4B)。さらに、sFlt−1転写産物レベルは、標準20%酸素条件と比較してHR処理後に変化しなかった(各々、0.9±0.2対1±0.03)。ELISAを用いると、3%および程度は少ないが8%酸素へ曝露させた外植片の馴化培地中での分泌したsFlt−1の発現は、20% O中で維持された外植片と比較して増加することが確証された。これとは対照的に、HP曝露は、20% Oコントロールと比較してsFlt−1レベルを変化させなかった(図4C)。
低酸素中におけるsFlt−1の発現は、HIF−1によって媒介される
sFlt−1の発現増加は、インビボおよびインビトロモデルのどちらにおいても酸素圧が低い場合に発生するが、sFlt−1の発現を低酸素症のどのような機序が調節するのかは未だ不明である。そこでHIF−1の安定化およびノックダウンがsFlt−1の発現に及ぼす影響について調査した。HIF−1の酸素不安定成分の間接的安定因子であるDMOG(Jaakkola P,2001)を20%酸素下で培養した外植片の培地へ加えた。DMOG処理外植片のsFlt−1 mRNAの発現は、20% Oで維持した外植片のsFlt−1 mRNAの発現より有意に高く、3% Oに曝露させたコントロール外植片と同等であった(各々、2.4±0.2対1.0±0.03、P<0.05)(図5A)。同様に、20% O処理外植片へのDMOGの添加は、DMOGの不在下で20% Oへ曝露させた外植片と比較してEVTを含む全栄養膜細胞層内でのsFlt−1タンパク質発現の増加を生じさせた(図5B、右および左のパネル)。DMOG処理外植片は、20% Oで維持したコントロール外植片と比較して典型的な低酸素誘導性増殖も示し、TUNELアッセイは、3% O曝露もしくはDMOG処理のいずれかに起因する観察された表現型は、アポトーシスの発生率増加に起因しない可能性が高いことを示した(図5C)。
最後に、以前に確立されたHIF−1αについてのアンチセンスノックダウン技術(5)を用いて、酸素化低下(3% O)の条件下でアンチセンス処理外植片はコントロールセンスもしくは培地単独の存在下で同一酸素化環境に曝露させたコントロール培養と比較してsFlt−1転写産物の有意に低い発現を有することが証明された(1.19±0.22対1.86±0.1、各々、P<0.05)(図5D)。
考察
本試験は、1)インビボおよびインビトロ胎盤性低酸素症における酸素化低下がsFlt−1の発現増加を誘発する、2)低酸素化は、低酸素症−再酸素化とは対照的に、ヒト胎盤組織中でのsFlt−1産生増加に対する駆動力である、および3)酸素化低下の条件下でのsFlt−1の発現はHIF−1によって媒介される。
以前の試験は、低酸素条件は一次栄養膜細胞中ならびに出産時胎盤絨毛外植片中の両方でsFlt−1の発現を増加させ得ることを報告している(Ahmad S,2004;Nagamatsu T,2004)。妊娠の第1トリメスター中のsFlt−1の発現プロファイルは、この可溶性受容体と妊娠第10週以後に発生する生理的胎盤酸素化の増加との逆相関を示している。そこで、酸素圧が比較的低い早期には、sFlt−1転写産物およびタンパク質は増加する。この重要な発育期間中のsFlt−1の発現の微調整は、この可溶性受容体が、この時点で高度に発現することが知られているそのリガンドVEGFが及ぼす作用を制御する際に極めて重要であることを強調している(Kaufmann P,2004)。早期妊娠中には、この可溶性受容体は、VEGFおよびPIGF機能を拮抗することによって胎盤の微小構造の早期発達を一時的に制限し、それによって自然流産と関連することが知られている早期酸素化(<10週)の有害な影響を減少させることは妥当と思われる(Hempstock J,2003;Jauniaux,2000)。低酸素症および胚形成の重要な早期を過ぎると、胎盤血流の増加に続いて、sFlt−1の発現減少は血管成長因子が発育している胎児の必要にしたがって胎盤血管分布を増加させ得る(Kaufmann, 2004)。
高高度妊娠由来の胎盤は、成熟中間期および末期絨毛の血管分布の増加を含む慢性低酸素症への有意な形態学的適合を示し、拡散障壁(血管合胞体膜)の減少および末期絨毛の密度の増加を生じさせる(Zamudio,2003)。これらの観察所見は、高高度胎盤における海抜0メートルと比較した約20%減少と推定された中等度の酸素圧低下(Zamudio, 2003)さえsFlt−1の発現増加と相関することを示唆している。高高度胎盤においては胆管腫のより大きな発生率が顕著であるので、過剰なsFlt−1は不完全な適合である高高度条件下での過剰な末梢管発達を制限するように機能することは極めてあり得る(Benirschke,1999)。sFlt−1に慢性低酸素症が及ぼす全身的作用もまた、臨床的に有意である。高高度在住者は、子癇前症の発生について2〜4倍高いリスク状態にある(Palmer,1999)。酸素化減少下では、栄養膜細胞はそのリガンドより多くのsFlt−1を分泌する可能性がある(Nagamatsu,2004)。そこで、正常血圧性高高度患者におけるsFlt−1の発現増加は、この集団内の子癇前症および子宮内胎児発育遅延の両方に対する易罹患性の増加を説明できる。
最後に、高高度胎盤中でのsFlt−1の発現増加の主要起源は、血管および血管周囲組織であることが見いだされた。sFlt−1の内皮発現については他の系において記載されてきたが(Hornig,2000)、データは、正常(高高度血管周囲発現)と病理的(子癇前症の合胞体栄養膜細胞発現)ヒト胎盤間での差次的空間的血管発現を証明する最初の証拠を提供する。このため、栄養膜細胞層中でのsFlt−1の発現増加は子癇前症および高高度において見いだされる血清レベル上昇の原因となる可能性が高いことは妥当であり、sFlt−1血管発現増加は子癇前症性妊娠の胎児循環中の高いsFlt−1レベルの原因となる可能性がある(Tsao, 2005)。
出産様式および早期産は、胎盤組織中の遺伝子発現に影響を及ぼす可能性がある2つの因子であり、交絡因子となることがある。出生児仮死が付随する経膣出産中には、胎盤組織中のVEGF、Flt−1およびVEGFR−2の発現増加が生じることは証明されている(Trollman,2003)。これらの結果は、sFlt−1の発現において正常経膣出産と帝王切開との間に相違がないことを証明しており、これは正常分娩のプロセスがsFlt−1の発現を引き起こさないことを示している。sFlt−1の発現増加を潜在的にもたらす可能性がある、胎盤低酸素症に関連する可能性がある出生児仮死を併発した出産は含めなかった。ここで観察所見は、sFlt発現が妊娠第3トリメスター中は安定性であり、この期間中の安定性酸素レベルによって説明できることを支持している。結果として、出産時の出産様式および在胎齢はどちらも結果を複雑化させなかった。
妊娠の第1トリメスター外植片を用いた胎盤低酸素症のインビトロモデルは、一次単離妊娠の第1トリメスター栄養膜細胞ならびに出産時外植片の両方におけるインビトロでの低酸素条件におけるsFlt−1の発現増加を証明している以前の報告書を支持している(Ahmad,2004、Nagamatsu,2004)。sFlt−1の発現に酸素圧低下が及ぼす刺激作用は、HIF−1によって媒介されると主張されてきた(Li,2005)。sFlt−1の前駆体であるFlt−1遺伝子のインシリコ(in silico)分析は、プロモーター領域内の低酸素症応答性エレメント(HRE)を解明し(Gerber,1997)、sFlt−1はHIF−1によって調節できることを支持している。DMOG媒介性HIF−1安定化下ではsFlt−1の発現が増加する、または酸素化減少下ではHIF−1αノックダウンを用いると発現が減少するという実験観察所見は、HIF−1αがsFlt−1転写産物発現を調節するという直接的証拠を提供する。以前の試験は、HIF−1αの発現が子癇前症性胎盤(Caniggia,2002、Nagamatsu,2004)および高高度胎盤(Caniggia,2002)において増加することを示しており、このためこれらの条件において見られるsFlt−1の発現増加を説明できる。
インビトロ試験は、sFlt−1の発現が低酸素症−再酸素化後に変化しないことを証明している。再酸素化が後に続く低酸素症の周期は、酸化ストレスを誘導し、したがって胎盤損傷を惹起する子癇前症における基礎条件として提案されてきた(Hung,2002)。ラット心筋におけるVEGF(Sasaki,2000)および胎盤外植片中のTNFα(Hung,2004)はどちらもHR損傷後に増加し、sFlt−1の分泌増加と関連しているので、HRを特別に試験した。HRはヒト胎盤において酸化ストレスを誘導する可能性があるが(Hung,2001)、本明細書に記載したデータ、疫学的データ(Zamudio,2003)、および本明細書で試験したインビトロおよびインビボモデルにおけるそれらの異常な包括的胎盤遺伝子発現に関する近年のデータ(Soleymanlou,2005)は、慢性的な酸素減少が主要誘因となる可能性があることを示唆している。早発性重症子癇前症における低酸素圧は異常な包括的胎盤遺伝子発現の原因となることは証明されているが(Soleymanlou,2005)、子癇前症性胎盤中では、sFlt−1の発現は、コントロールと比較した場合に高高度胎盤より有意に高く増加したので、これは子癇前症におけるsFlt−1の発現を調節することに他の経路が潜在的に含まれることを示唆している。
子癇前症はまた、母体末梢血循環中への栄養膜細胞微小断片および合胞体結節の過剰な脱落/代謝回転(全身性内皮機能不全に寄与するとの仮説が立てられてきた事象である)を特徴とする(Sargent,2003)。sFlt−1タンパク質発現の増加は、胎盤合胞体結節中、特には子癇前症性胎盤中で見いだされており、これは脱落した合胞体断片が母体循環中へ過剰なsFlt−1を運ぶためのビヒクルとして機能することができるので、そこで母体末梢血管構造へのsFlt−1の有害な抗血管形成機能を強化する。
結論として、インビボおよびインビトロでの低酸素条件下でのヒト胎盤中でのsFlt−1の発現増加は、HIF−1αによって媒介される。低酸素症−再酸素化とは対照的に、慢性的な低酸素圧は、ヒト胎盤中でのこの抗血管形成性アンタゴニストの発現を調節することに重要な役割を果たす。高高度胎盤中でのsFlt−1の発現の増加は、この環境における子癇前症の発生へのより大きな集団的易罹患性を説明できよう。
(実施例2)
sFlt−1の発現はIUGR妊娠由来の胎盤中では増加する
子癇前症における可溶性VEGF受容体−1(sFlt−1)の発現増加は、この妊娠の重篤な障害の病因において極めて重要な役割を果たす。低酸素は、ヒト胎盤中でのsFlt−1の発現の増加の原因となる重要な因子であることは証明されている。子宮内胎児発育遅延(IUGR)は、胎盤灌流低下および子癇前症が発生するリスク増加を特徴とする。本試験の目的は、IUGRを併発した妊娠の様々なモデルにおけるsFlt−1の発現を試験することであった。
方法:4つのサブグループ由来の胎盤を収集した:異常な臍帯および子宮動脈ドプラーを備える早期重症IUGR(IUGR、n=16)、正常ドプラーを備える在胎齢にしては小さい(SGA;n=8)、異常な臍帯動脈ドプラーを備える重度に遺伝子が不一致の二絨毛膜性および単一絨毛膜性双生児(n=6)および年齢適合正常単生児および双生児コントロール(C;各々n=13)。sFlt−1 mRNAの発現は、特異的TaqManプライマーおよびプローブを用いてリアルタイムPCR分析によって測定した。タンパク質発現は、sFlt−1に対するポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットおよび免疫組織化学的分析によって測定した。
結果:sFlt−1転写産物レベルは、正常コントロールと比較してIUGR胎盤中で有意に増加した(2.66倍)。sFlt−1 mRNAの発現増加は、同一IUGRおよびコントロール胎盤からの無作為複数回サンプリングから入手したサンプル中でも見いだされた。sFlt−1転写産物は、SGA胎盤中における差を全く示さなかった。これとは対照的に、sFlt−1 mRNAの発現は、正常な双生児の相手と比較して遺伝子が不一致の双生児妊娠(2.96倍)からの小さなIUGR双胎胎盤中において有意に高かった。ウエスタンブロット分析は、正常コントロールと比較して重症IUGR胎盤中におけるsFlt−1タンパク質発現の増加を証明した。免疫組織化学的分析は、主として栄養膜細胞層に局在する、単生児および双生児由来の両方のIUGR胎盤中においてsFlt−1に対する強力な陽性免疫反応性を明らかにした。
結論:sFlt−1の発現は、単生児の異常な臍帯動脈ドプラーを備えるIUGR胎盤、および遺伝子が不一致のIUGR双生児においても増加する。胎盤性低酸素症を導く胎盤灌流の減少は、IUGR妊娠におけるsFlt−1の発現増加の原因となることがある。sFlt−1の発現増加は、重症IUGR妊娠において見出される子癇前症の発生率増大を説明することができる。
(実施例3)
正常胎盤および子癇前症性胎盤中でのSmadのシグナリング
トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーは、細胞の増殖、分化、移動およびアポトーシスを含む様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。胎盤発育中には、TGFβは栄養膜細胞の分化/浸潤と関連する細胞的事象を調節することが知られている。TGFβの発現は、子癇前症を併発する妊娠由来の胎盤中では増加し、循環中TGFβ のレベル上昇は、子癇前症のリスク増加と関連している。Smadタンパク質は、TGFβ経路の細胞内シグナリングメディエーターである。リガンド誘導が行われると、TGFβのII型受容体はI型受容体を動員して活性化し、I型受容体は順にTGFβシグナリングの伝播を導く受容体調節Smad(R−Smad)をリン酸化および活性化する。反対に、阻害性Smad(I−Smad)は、TGFβ経路のシグナル伝導を防止するように作用する。ヒト胎盤中ではTGFβは重要であるが、Smadsによる細胞内シグナリングは捕捉しにくいままである。本試験の目的は、正常胎盤発育中および子癇前症性妊娠由来の胎盤中においてSmad2(R−Smad)およびSmad7(I−Smad)の発現/活性化を試験することであった。
方法:全妊娠期間のヒト胎盤組織(6〜40週)ならびに早発性(25〜30週)および後発性(37〜40週)子癇前症由来のタンパク質溶解物について、ヒトSmad2、Smad7およびホスホ−Smad2を特異的に認識するウサギポリクローナル抗体を用いてSDS/PAGEおよびウエスタンブロット分析にかけた。
結果:正常胎盤形成中には、全妊娠期間を通して全Smad2タンパク質発現が検出されたが、その発現プロファイルは妊娠のほぼ11〜18週でピークを示し、その後顕著に減少した。Smad2は、出産時には活性はほとんど認められなかったが、早期妊娠(6〜8週)中にはホスホ−Smad2によって指示されたように活性であった。これとは対照的に、Smad7の発現は、妊娠の早期段階には極めて低く、出産近くには増加した。臨床的に重要にも、Smad2のリン酸化は、早発性および後発性両方の子癇前症において顕著に増加した。Smad7含量の顕著な増加は早発性子癇前症由来の胎盤中で観察されたが、Smad7レベルの変化は後発性子癇前症組織中では見いだされなかった。
結論:胎盤発育中には、Smad2およびSmad7の発現は一時に調節される。ホスホ−Smad2およびSmad7のレベルの逆相関は、早期妊娠中のTGFβシグナリング経路の活性化および後期妊娠中のこの経路の阻害を示唆している。早発性子癇前症では、ホスホ−Smad2およびSmad7両方の増加はTGFβによる自己分泌調節を意味しており、このときTGFβシグナリングの活性化はSmad7の発現増加を導く。しかし、後発性子癇前症では、Smad2の活性化にはSmad7の増加が付随しないが、これはTGFβシグナリングの調節機序が様々であることを示している。
(実施例4)
子宮内胎児発育遅延胎盤における酸素検知の機序
ヒト胎盤を含む実質的にすべての哺乳動物系では、様々な酸素圧への細胞応答は、大部分は低酸素誘導因子(HIF)と呼ばれる転写因子によって媒介される。明確に保存されたプロリルヒドロキシラーゼ酵素ファミリー(PHD1、PHD2、PHD3)は、ユビキチン−プロテアソーム経路を介してのHIF−1βの分解のために必要とされる、HIF−1αの翻訳後修飾において重要である。出現している証拠は、Seven In Absentiaホモログ1および2(SIAH1/2)分子が酸素センサーおよびPHD発現の調節因子であることを示した。SIAHは、これらのタンパク質のユビキチン−プロテアソーム分解を調節することによってPHD発現の上流酸素感受性調節因子として機能できる。酸素がHIF−1を介して正常胎盤発育および胎盤病理において重要な役割を果たすことは明確に確立されているが、栄養膜細胞が酸素を検知する経路は捕捉しにくいままである。本試験の目的は、正常妊娠および重症子宮内胎児発育遅延(IUGR)を併発した妊娠由来の胎盤中において、酸素検知機序、特にはSIAHおよびPHDの発現を試験することであった。
方法:拡張終期血流の不在(AEDF)を備える早期重症IUGR妊娠由来のヒト胎盤組織(>第3パーセンタイル、n=13、31.5+1.2週、出生時体重:1,025±228g)、および年齢適合コントロール胎盤(C、n=13、31+2.5週、出生時体重:1,494±552g)は、出産直後に瞬間冷凍した。サンプルは、SIAH1/2、PHD1、PHD2およびPHD3に対する特異的TaqManプローブを用いるリアルタイムPCR分析のために処理した。免疫ブロット分析は、PHD1、2および3ならびにSIAH1/2特異的抗血清を用いて実施した。PHDのユビキチン化は、PHDの免疫沈降法によって調査し、その後に抗ユビキチンMabを用いる免疫ブロット法を実施した。
結果:リアルタイムPCR分析は、コントロール組織と比較してIUGR胎盤中の有意なPHD転写産物の増加を証明した。驚くべきことに、免疫ブロット分析は、コントロール組織と比較してPHDタンパク質発現における相違を示さなかった。これらのタンパク質所見と一致して、PHDのユビキチン化は、コントロールと比較してIUGR胎盤中で有意に増加した。PHD分解の調節機序をさらに解明するために、SIAH1およびSIAH2の発現について試験した。SIAH1およびSIAH2両方の転写産物レベルはIUGR胎盤中では有意に増加し、これはこれらの分子がIUGRにおいて見いだされるPHDの分解増加に関係する可能性があることを示唆していた。
結論:これらのデータは、重症IUGR胎盤中での強化された低酸素検知についての分子的証拠を提供する。
(実施例5)
高高度妊娠由来の胎盤中での酸素検知の機序
低酸素誘導因子1(HIF−1)は、低酸素症への生理的応答に含まれる様々な遺伝子の発現を刺激する。正常酸素条件下では、HIF−1αサブユニットはvon Hippel−Lindauタンパク質(VHL)によって認識され、プロテアソーム媒介性タンパク質分解の標的である。VHLへ結合する前提条件は、PHD1、2および3と呼ばれるプロリルヒドロキシラーゼ酵素によるHIF−1αのヒドロキシル化である。PHDは、分子Oがそれらの反応のための基質であるので、Oセンサーでもある。近年の証拠は、E3リガーゼであるSeven In Absentiaホモログ1および2(SIAH1−2)が、ユビキチン化およびプロテアソーム分解のためにPHDを標的とし、それによりそれらの活性を調節することを示している。さらに、SIAHは、様々な酸素レベルがそれらの発現を調節するので、酸素センサーとしても機能する。HIF−1αの発現は、慢性低酸素症への生理的順応の固有のモデルである高高度(HA)胎盤においては増加する。本試験の目的は、HA妊娠におけるSIAHの発現およびPHDの調節にそれらが果たす潜在的役割を試験することであった。
材料および方法:高高度妊娠(リードビル、3100m;n=24)およびコントロールの海抜0メートル妊娠(トロント、n=14)由来の胎盤組織を採取し、分娩直後に瞬間冷凍した。PHD1、2、3およびSIAH1、2タンパク質レベルは、特異的ポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットによって決定した。SIAH mRNAレベルは、リアルタイムPCRによって評価した。PHDのユビキチン化は、PHDの免疫沈降法によって調査し、その後に抗ユビキチンMabを用いる免疫ブロット法を実施した。
結果:SIAH1転写産物における減少は、海抜0メートル(SL)と比較してHA由来の胎盤中で観察された。この結果に一致して、HA胎盤中のSIAH1タンパク質含量は、SL胎盤と比較して有意に低かった(p<0.05)。SIAH2 mRNAおよびタンパク質レベルにおける変化は、HA対SL胎盤において検出されなかった。PHD mRNAの発現は、HA胎盤中では増加しており、これはこれらの酵素が酸素センサーとして果たす役割を示している。PHD2および3タンパク質レベルはSLと比較した場合にHA胎盤中では有意に減少することが見いだされたが、PHD1タンパク質レベルにおける変化は観察されなかった。これらのタンパク質所見に一致して、PHD1ユビキチン化は有意に減少したが、PHD2およびこれより少ない程度にPHD3のユビキチン化は、SLサンプルと比較してHAにおいては増加した。
結論:SIAHおよびPHDはどちらも、HA妊娠における酸素検知において重要な役割を果たす。PHDは差次的に発現してHA胎盤中では調節されるが、これは慢性低酸素症に応答してHIF−1αの発現を調節することにこれらの酵素が異なる役割を果たすことを示している。
(実施例6)
栄養膜細胞の運命におけるMtdの新規な役割
近年、多数のアポトーシス分子は、細胞周期の調節を含む他の細胞の生物学的機能に関係することが見いだされてきた。本明細書では、ヒト栄養膜細胞の細胞死および増殖の調節においてBcl−2ファミリーのプロアポトーシス性メンバーであるMtd/Bokが果たす可能性がある二重の役割を調査した。本試験の目的は、妊娠の第1トリメスター中のヒト胎盤内でのMtdの発現の時間的および空間的パターンを試験すること、そしてアポトーシス以外の細胞事象にMtd発現における変化が関連するかどうかを試験することであった。
方法:Mtdの空間的および時間的局在化は蛍光免疫組織化学的検査によって決定した。妊娠の第1トリメスター胎盤切片は、増殖(Ki67およびPCNA)、または細胞死(活性カスパーゼ−3、TUNEL)いずれかのマーカーと協力してMtdの全アイソフォームを認識するポリクローナル抗体を用いて二重染色した。妊娠5〜12週の胎盤切片由来の付着絨毛内の絨毛外栄養膜細胞(EVT)を単離するためにはレーザー捕捉顕微解剖術を使用した。レーザー捕捉サンプルは、Mtdアイソフォーム特異的発現の特性解析を可能にするためにリアルタイムPCR分析にかけた。
結果:Mtdの発現は、妊娠の第1トリメスター中に空間的および時間的の両方で変化する第1トリメスター早期の組織(5〜8週)の浮遊絨毛中では、Mtdは栄養膜細胞に局在するが、第1トリメスター後期(12〜15週)には、Mtdの発現は合胞体栄養細胞層の頂境界に切り替わる。さらに、初期には、Mtd発現は付着絨毛を形成するEVT細胞内で見いだされるが、後期にはEVTカラムの遠位部分へ優先的に局在する。Mtd−LおよびMtd−P転写産物は付着絨毛および浮遊絨毛の両方の栄養膜細胞中で発現するが、しかし、Mtd−Lの相対存在度はMtd−Pの相対存在度より高い。予備試験データは、Mtd mRNAのレベルがMtdタンパク質発現のパターンと相関することを示した。Mtd−LおよびMtd−P両方の転写産物は栄養膜細胞層において5〜8週間で高度に発現したが、それらの発現は妊娠の進行に伴って減少した。同様に、第トリメスター早期には、両方のアイソフォームはカラム全体に分布しており、在胎齢が進行するにつれてMtd−LおよびMtd−P両方の発現の大部分は遠位カラムに限定されるようになった。免疫組織化学的分析は、慢性絨毛栄養膜「幹」細胞ならびに付着絨毛の近位カラムを形成するEVT細胞の両方において増殖のマーカー(Ki67およびPCNA)を用いてMtdの強力な共局在化を解明した。さらに、アポトーシスを経験していた細胞はさらにまたMtdに対して陽性であったが、しかしEVT細胞内でほぼ排他的に見いだされ、アポトーシスは散性でのみ発生した。興味深いことに、増殖細胞中のMtdのパターン(点状)はアポトーシスを経験している細胞中で見いだされたパターン(塊状)とは特徴的に相違しており、これはMtdが細胞の運命の様々な段階を調節するために様々な機序を使用することを示唆している。
結論:Mtdは以前に決定されたように細胞死を調節するだけではなく、Mtd−Lおよびこれより少ない程度にMtd−Pは早期胎盤発育中に栄養膜細胞の細胞周期を調節することにも関係する可能性がある。
(実施例7)
概要:Bcl−2ファミリーメンバーであるMcl−1の発現および機能的調節を生理的および病理的胎盤酸素化のヒトモデルにおいて試験した。死抑制性Mcl−1Lの切断および細胞死誘導因子Mcl−1Sに向かうMcl−1アイソフォーム発現の転換に関連するのは、早発性子癇前症性胎盤(PE)だけであった。ヒト絨毛外植片における低酸素症−再酸素化によって誘導されるMcl−1L切断は、薬理学的カスパーゼ阻害(z−VAD−fmkまたはz−DEVD−fmk処理)がこの切断を防止したので、カスパーゼ−3によって媒介された。高度誘導性慢性低酸素症は、死抑制性Mcl−1Lアイソフォームに向けてMcl−1の発現を傾斜させ、これにはアポトーシスマーカーの減少が付随した(切断カスパーゼ−3および−8)。Mcl−1アイソフォーム発現におけるこれらの変化には、合胞体発現によって決定されたように生理的および病理的両方の胎盤性低酸素症における栄養膜細胞融合の減少が付随した。そこで、病理的および慢性両方の胎盤性低酸素症には緩徐な栄養膜細胞の分化が関連しているが、栄養膜細胞のアポトーシスは、おそらくはプロアポトーシス性Mcl−1分子の生成における酸素誘導性転換に起因して、PEにおいてのみアップレギュレートされる。本試験は、ヒトの疾患に関連する異常なの酸素媒介性Mcl−1アイソフォーム/切断の変化の最初の観察所見を提供する。
子癇前症を併発する妊娠におけるMcl−1の発現について、特にはインビトロおよびインビボ胎盤性低酸素症の状態がMcl−1/Mtdアポトーシス性レオスタットにどのような影響を及ぼすのかについて調査した。さらに、栄養膜細胞の細胞死および分化のマーカーの発現を生理的高度誘導性慢性低酸素症および子癇前症などの病理的低酸素症状態において試験した。データは、酸素によるMcl−1L発現の調節および子癇前症におけるヒト栄養膜細胞の細胞死の新規な調節因子としてのMcl−1Lの重要性に関する新規な識見を提供する。
材料および方法
組織サンプリング
採取は、試験参加機関の倫理委員会のガイドラインを順守して実施した。早発性重症子癇前症は、米国産婦人科学会(ACOG)基準に基づいて診断された。子癇前症性胎盤(PE、n=30)および早期産正常血圧性年齢適合コントロール胎盤(AMC、n=30)は、Mount Sinai病院での分娩から採取した。石灰化、壊死性もしくは視覚的に虚血性組織を備える領域は、サンプリングから除外した。糖尿病、本態性高血圧または腎疾患もしくは感染症を罹患している対象は除外した。子癇前症を伴っていない、本態性高血圧を有する妊娠患者(EH;n=4、出産時)およびIUGRに罹患している妊娠(n=6、胎児体重が第5パーセンタイル未満である在胎齢32〜36週)をコントロールとして包含した。早期産は、多胎妊娠(30%)、不全頸管に起因する早期分娩(40%)、早期前期破水(20%)および自発的な破水(10%)に起因した。全早期産および出産コントロール群は、子癇前症、感染または他の母体もしくは胎盤疾患の臨床的もしくは病理的徴候を示さなかった。ヒトの第1トリメスター胎盤組織(妊娠6〜12週、n=10)は、拡張および爬によって実施した選択的妊娠中絶から採取した。高高度(HA)および中高度(MA、コントロールとして使用)胎盤サンプル(各々、n=16)は、米国コロラド州のリードビル(3,100m)およびデンバー(1,700m)における妊娠から採取した。HAおよびMA胎盤は、出産時正常血圧性患者からの健常な正常経膣分娩から入手した。海抜0メートル(SL、トロント)での正規産から入手した15例の正常血圧性胎盤もまた、正常生理的範囲内の臨床的母体および胎児パラメーターを備える追加のコントロールとして含めた。器官の不均質性および灌流のレベルが胎盤内の場所に依存して異なるという事実のために、病理的、高高度およびコントロール胎盤の母体側および胎児側の両方の中央および末梢領域から複数の試料をサンプリングした。SL、MAおよびHA群は、子癇前症、感染または他の胎盤疾患の臨床的もしくは病理的徴候を示さなかった。
トの第1トリメスター絨毛膜絨毛外植片培養ならびにzVAD−fmkおよびzDEVD−fmk処理
外植片培養は、以前に記載されたように実施した(Caniggia,2000)。手短には、胎盤組織(妊娠5〜8週、15セット)は、採取2時間以内に氷PBS中に入れて加工処理した。組織を無菌的に解剖して、脱落膜組織および膜を除去した。胎盤絨毛の小片(25〜45mgの湿重量)を細かく切り裂き、0.15mLの未希釈Matrigel(Collaborative Biomedical Products社、米国マサチューセッツ州ベッドフォード)がプレコートされたMillicell−CM培養皿インサート(Millipore社、米国マサチューセッツ州ベッドフォード)上に配置し、24ウエル培養皿に移した。外植片は、100μg/mLのストレプトマイシン、100U/mLのペニシリンが補給された血清無含有DMEM/F12(Gibco BRL社、米国ニューヨーク州グランドアイランド)中で培養し、付着させるために37℃の5% COを含む大気中で一晩インキュベートした。外植片は、標準条件(95%大気中に5% COを含む)または3% O/92% N/5% COの雰囲気下で48時間にわたり37℃で維持した。15回を超える別個の実験において10個より多い胎盤由来の外植片を使用した。1種の実験条件に当たり少なくとも3片の外植片を全時点に使用した。外植片は、どちらもDMSO中に溶解させた100μMの汎カスパーゼ阻害剤z−VAD−fmk(BioMol社、ペンシルベニア州Plymouth Meeting)もしくはカスパーゼ−3−特異的阻害剤z−DEVD−fk(R&D Systems社、ミネソタ州ミネアポリス)の存在下(コントロール条件では阻害剤の不在下で等量のDMSO中)で以前に記載したように(Hung,2002;Soleymanlou,2005)低酸素症−再酸素化(H/R)へ曝露させた。
RNA分析
RNA抽出は、Rneasy Mini Kit(Qiagen社)を用いて実施し、無作為ヘキサマーアプローチを用いて逆転写させ、40サイクルの定量的PCR(95℃で15分間、サイクル:95℃で30秒間;60℃で30秒間および72℃で30秒間)によって増幅させた。サザンブロット分析は、32P標識全長Mcl−1Lプローブを用いて、以前に記載されたように(Soleymanlou,2005)実施した。RT−PCR/サザンブロット分析において使用したプライマー配列は、次のとおりであった:Mcl−1(NM_021960):フォワード5’−ATGTTTGGCCTCAAAAGAAACGCG−3’[配列番号4]およびリバース5’−GGCTATCTTATTAGATATGCCAA−3’[配列番号5](Mcl−1L:予測サイズ=1,054bpおよびMcl−1S:予測サイズ=806bp)およびβ−アクチン(NM_001101):フォワード5’−CTTCTACAATGAGCTGCGTG−3’[配列番号6]、リバース5’−TCATGAGGTAGTCAGTCAGG−3’[配列番号7](予測サイズ=304bp)。すべての増幅およびクローン化した産物は、シーケンシングによって確証した。定量的PCRは、Mtd−LおよびMtd−Pに対するアイソフォーム特異的プライマー(Mtd−L:フォワード5’−GCCTGGCTGAGGTGTGC−3’[配列番号8]、Mtd−P:フォワード5’−GCGGGAGAGGCGATGA−3’[配列番号9]、リバース(LおよびPの両方)5’−TGCAGAGAAGATGTGGCCA−3’[配列番号10]、Mcl−1L:フォワード5’−ATGCTTCGGAAACTGGACAT−3’[配列番号11]、Mcl−1S:フォワード5’−CCTTCCAAGGATGGGTTTG−3’[配列番号12]、Mcl−1リバース(LおよびSの両方)5’−CTAGGTTGCTAGGGTGCAA−3’[配列番号13])を用いる製造業者のプロトコールに基づいて、SYBR Green I色素DyNamo(商標)HSキット(MJ Research社)を使用して実施した。Syncytinおよびサイトケラチン7の分析のためには、Assay−on−Demand(商標)Taqmanプライマーおよびプローブ(Applied Biosystems社、カリフォルニア州フォスターシティ)を用いてqRT−PCRを実施した。分析は、DNA Engine Opticon(登録商標)2 System(MJ Research社)を用いて実施した。全qPCR分析についてのデータは、以前に記載されたように18SリボソームRNAの発現に対して標準化した(Livak,2001)。
ウエスタンブロット分析
ウエスタンブロット分析は、以前に記載されたように実施した(MacPhee,2001)。胎盤組織もしくは細胞系由来の50μgの全タンパク質を12%(重量/容量)SDS−PAGEにかけた。膜は、1:1,000の希釈率の一次抗体:以前に報告されたように(Soleymanlou,2005)全アイソフォームを認識できるウサギポリクローナルMtd抗体;Mcl−1−特異的ウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社(カリフォルニア州サンタクルーズからのSC−819クローンS−19);特異的に切断されたカスパーゼ−3(Asp175)(5A1)および切断カスパーゼ−8(Asp374)ウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling社、マサチューセッツ州ベバリー)と一緒に4℃で一晩プローブした。抗MtdおよびMcl−1抗体については、免疫前血清および競合ペプチドをコントロールとして使用した。ウサギポリクローナル抗体はSyncytin(NM_014590)のN末端アミノ酸(28〜41)に対して生成し、免疫前血清をコントロールとして使用した。一晩インキュベーションした後、膜をTBS/Tで洗浄し、60分間にわたり室温で1:5,000に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギ(Santa Cruz Biotechnology社)とともにインキュベートした。ブロットは、化学発光ECL−プラス試薬(Amersham社、ニュージャージー州ピスカタウェイ)へ曝露させた。全ブロットは、ポンソー染色を用いてあらゆる時点に等量タンパク質負荷について確認した。
免疫組織化学
免疫組織化学的分析は、以前に記載されたように、アビジン−ビオチンをベースとする免疫ペルオキシダーゼアプローチを用いて実施した(Caniggia,1999)。非特異的結合部位は、Trisバッファー中の5%(容量/容量)正常ヤギ血清(NGS)および1%(重量/容量)BSAを用いてブロックした。スライドは4℃で一晩、1:200の希釈率のウサギポリクローナル抗Mtdもしくは抗Mcl−1抗体と一緒にインキュベートした。洗浄した後、スライドは300倍の希釈率のビオチン化ヤギ抗ウサギもしくはヤギ抗マウスIgG(Vector Laboratories社、カリフォルニア州バーリンゲーム)を用いて4℃で1時間にわたりプローブした。アビジン−ビオチン複合体を1時間にわたり添加した。スライドは、0.002%(容量/容量)Hを含有するPBS(pH7.6)中の0.075%(重量/容量)の3,3−ジアミノベンジジン中で展開させると、褐色がかった生成物が生じた。スライドは、ヘマトキシリンを用いて対比染色し、エタノールの濃度を上昇させながら脱水し、キシレン中で浄化し、そしてマウントした。コントロール実験では、一次抗体をブロッキング溶液(5%[容量/容量]NGSおよび1%[重量/容量]BSA)と取り替えた。
統計的分析
データは、3で実施された少なくとも3回の個別実験についての平均値±SEMとして表示した。統計的有意差は、対応のある群についてStudent t検定によって検定し、有意性はP<0.05であると規定した。
結果
子癇前症におけるMcl−1転写産物およびタンパク質発現
Mcl−1の胎盤転写産物およびタンパク質発現は、最初に年齢適合コントロール(AMC)と比較して早発性重症子癇前症患者(PE)の胎盤中で評価した。抗アポトーシス性Mcl−1Lおよびプロアポトーシス性Mcl−1Sに対するアイソフォーム特異的プライマーを用いる定量的リアルタイムPCR(qRT−PCR)は、Mcl−1Lの発現がPEとAMC間で変化しないが、Mcl−1Sの発現はAMC(図6a)と比較してPE(4倍、p=0.001)中では有意に増加することを証明した。RT−PCR、およびその後の32P標識Mcl−1特異的プローブを用いたハイブリダイゼーションは、AMCと比較してPE中でのMcl−1SのmRNAの発現増加を確証した(データは示していない)。PCR産物の配列分析は、Mcl−1LおよびMcl−1Sの同一性を確証した(データは示していない)。
ウエスタンブロット分析は、AMCと早発性PE間でのMcl−1タンパク質発現における顕著な変化を示した。Mcl−1Lタンパク質(M約37kDa)はAMC組織中で優勢であったが、その含量はPEサンプル中では顕著に減少した(代表的ブロット、図6b)。さらに、2つのより短いMcl−1免疫反応性バンドが観察されたが、これらはどちらもPE組織中の方が強力であると思われた(図6b)。これらの短いMcl−1免疫陽性バンドは各々29kDaおよび26kDaに対応する相対分子量で移動した。様々な免疫反応性Mcl−1タンパク質の含量における変化を定量するために、デンシトメトリー分析を実施した。Mcl−1L、Mcl−1p29およびMcl−1S(以前に26kDaバンド(Ref)であると報告された)のタンパク質発現は、正常血圧性年齢適合コントロール(図6c)と比較して、早発性PE患者の胎盤中では、各々25%低下した(p=0.01)、2倍増加した(p=0.003)、そして3.6倍増加した(p=0.01)。
Mcl−1タンパク質発現プロファイルについても、正規産および選択的帝王切開(C/S)出産と比較して後発性子癇前症性胎盤中でも試験した。正規産および非分娩性C/S分娩と比較して、後発性子癇前症との間でMcl−1L発現における有意差は観察されなかった(図6d)。p29およびMcl−1Sなどのその他のMcl−1免疫反応性アイソフォームは、これらの出産胎盤中ではほとんど顕著ではなかった。Mcl−1タンパク質発現を早発性PE胎盤とその他の胎盤性病理的コントロール(IUGR妊娠、IUGRと関連する後発性子癇前症、本態性高血圧に罹患している患者および正規産組織)との間で比較すると、p29 Mcl−1およびMcl−1Sアイソフォームは、この疾患の早期重症形を備える患者の胎盤において排他的に存在した(図6e)。
ヒト絨毛外植片中でのMcl−1切断はカスパーゼ活性化によって調節される
p29 Mcl−1免疫反応性バンドがカスパーゼ媒介性切断に起因するかどうかを調査するために、妊娠の第1トリメスター胎盤外植片を低酸素症−再酸素化(H/R)の条件に曝露させた。H/Rを選択したのは、H/Rがインビトロでのカスパーゼ活性化および栄養膜細胞のアポトーシスの知られている誘導因子であるためである(Hung,2002;Soleymanlou,2005)。外植片は、カスパーゼ活性の包括的阻害因子かつカスパーゼ媒介性Mcl−1L切断の阻害因子であるzVAD−fmkの存在下もしくは不在下でH/Rへ曝露させた(Weng,2005;Snowden,2003;Herrant,2004;Han,2004)。未処理コントロールと比較して、H/Rへ曝露させた組織は顕著なMcl−1アイソフォーム転換を示した、すなわちMcl−1Lタンパク質はp29免疫反応性Mcl−1タンパク質の付随的増加を伴って減少した(図7a)。H/R処理外植片のzVAD−fmkへの曝露は免疫反応性p29 Mcl−1バンドの出現を無効にし、Mcl−1L含量を回復させ、そしてH/Rおよび未処理組織と比較してMcl−1S量を増加させた。後者は、Mcl−1Sがカスパーゼ切断によっても調節できることを示唆している。H/R下でのMcl−1切断がカスパーゼ−3/7によって媒介されたかどうかについて検証するために、H/R下での外植片をカスパーゼ−3/7特異的阻害因子zDEVD−fmkの存在下および不在下でインキュベートした。zVAD−fmkを用いて得られた観察所見に類似して、zDEVD−fmk処理はH/R条件下でMcl−1Lからのカスパーゼ媒介性Mcl−1c形成を防止した(図7b)。さらに、Mcl−1Sは、zDEVD−fmk処理によって増加した。そこで、Mcl−1LおよびMcl−1SはどちらもH/Rストレス下でカスパーゼ切断によって調節できると思われ、p29 Mcl−1は、以下ではMcl−1Lcと称する、以前に記載されたプロアポトーシス性Mcl−1切断産物である可能性が極めて高い(Weng,2005;Snowden,2003;Han,2004;Han,2005;Michels,2004)。
1トリメスターのヒト胎盤組織中でのMcl−1の酸素調節
子癇前症は結果として胎盤性低酸素症/酸化ストレスを生じさせる異常な子宮胎盤酸化に関連するので、Mcl−1の発現に様々な酸素化が及ぼす作用について、20%酸素、3%酸素およびH/Rに曝露させた絨毛外植片を用いてインビトロで評価した。標準20% O条件と比較して3%酸素中では、Mcl−1LのmRNAの発現は増加したが(2.5倍、p=0.0095)、Mcl−1SのmRNAの発現は減少した(0.2倍、p=0.01)(図8a)。反対の発現プロファイルは、20%コントロールと比較してMcl−1Lが減少し(1/2、p=0.01)、そしてMcl−1Sが増加した(2.5倍、p=0.01)H/R条件下で観察された(図8a)。3%酸素下でのMcl−1のタンパク質プロファイルは、20% Oコントロールと比較してMcl−1L発現の増加を示した(代表的なブロット、図8b)。重要なことに、H/Rは20% Oと比較して顕著に減少したMcl−1Lのレベルおよび付随して増加したMcl−1c(p29 Mcl−1)の形成を生じさせた(図8b)。転写産物レベルでのMcl−1Sの発現は20% Oと比較してH/R中では顕著に増加したが、このパターンはタンパク質レベルでは明白ではなかった。これは低存在量アイソフォーム(Lアイソフォームと比較して)であるMcl−1SがH/R条件下ではカスパーゼ活性化に起因してタンパク質レベルで迅速に分解/切断されるという事実によって説明できよう。
妊娠の第1トリメスター中には、ヒト胎盤は、血管内プラグの転位後に母体循環中に絨毛腔が開いた場合に、妊娠約10〜12週には酸素化のサージを経験する。そこで再灌流傷害に類似する迅速な胎盤酸素化(8週より前の15〜20mmHgから早期の絨毛間灌流での55〜60mmHgへ)は、酸化ストレスの一過性状態を生じさせることがある。このために、Mcl−1の発現を妊娠の第1トリメスターおよび第2トリメスター由来の胎盤サンプル中で試験すると、Mcl−1Lc(p29 Mcl−1)の形成増加が10〜13週で観察されたが(酸化ストレスの胎盤サージと一致する)、これはこの早期の灌流障害への胎盤順応のために後期妊娠では低下する(図8c)。
インビボ慢性胎盤性低酸素症におけるMtdおよびMcl−1の発現
子癇前症性胎盤は、高高度妊娠から入手した胎盤組織との広範囲の遺伝子発現類似性を有するが、それはどちらの状態も異常な胎盤酸素化による影響を受ける可能性があるためである(Soleymanlou,2005)。そこで、高高度胎盤(HA)を用いて生理的に減少した胎盤酸素化下でMcl−1およびその細胞死誘導性相互作用性パートナーMtdの発現について試験した。
胎盤Mcl−1アイソフォームmRNAの発現は、HAおよびコントロール[中高度(MA)および正常海抜0メートル胎盤(SL)]間で相違した。Mcl−1L転写産物はSLと比較してHAおよびMAにおいて有意に増加したが(約2倍、p<0.05)、Mcl−1S転写産物レベルは、SLサンプルと比較してHAおよびMAにおいて有意に減少した(約0.5倍、p<0.05)(図9aおよびb)。
Mtd−LおよびMtd−Pの発現は子癇前症性胎盤中ならびに酸化ストレス条件下では増加することが証明されているので(Soleymanlou,2005)、本明細書では慢性低酸素症の条件下でそれらの発現について試験した。Mcl−1Lとは対照的に、Mtd−L mRNAの発現は様々な群間で統計的には相違していなかった。Mtd−P転写産物の数は、MA(1/4、p<0.0001)およびSL組織(0.5倍、p=0.04)と比較してHAサンプル中で有意に減少した(図9d)。
次に、MtdおよびMcl−1のタンパク質アイソフォームのプロファイルをHAおよびコントロール(MAおよびSL)胎盤中で調査した。Mcl−1 mRNAの発現に類似して、Mcl−1Lタンパク質の発現はHAおよびこれより少ない程度にMA中において、SLサンプルと比較して増加した(図9e)。Mcl−1Lc分子およびMcl−1S分子のどちらもSL、MAおよびHAサンプル中のタンパク質レベルではほとんど検出できず、SL、MAおよびHA胎盤組織間で発現における明白な変化は見られなかった(図9e)。すべての知られているMtdタンパク質の発現(L:約28kDa、S:約18kDaおよびP:約15kDa)を観察できたが、試験した条件間でMtd発現における明白な相違は認められなかった(図9f)。
SL、MAおよびHAサンプル由来の胎盤切片中のMcl−1免疫反応性は、主として栄養膜細胞層中で観察された(図9g、上のパネル)。Mcl−1染色強度はMAおよびSLサンプルと比較してHA切片中で顕著に増加したが、これはMcl−1免疫ブロット分析の結果を裏付けている。間質領域はMcl−1陰性であった。Mcl−1に類似して、Mtdは、栄養膜細胞層中で主として発現したが、その発現は概して低かった。Mtd栄養膜細胞免疫反応性におけるわずかな減少は、SLもしくはMAと比較してHA切片中で認められた(図9g、下のパネル)。
インビボ慢性および病理的胎盤低酸素症におけるカスパーゼ活性化
死受容体による過剰な細胞死は、子癇前症性胎盤の栄養膜細胞において頻回に発生するよく知られた現象である(Conrad,1997;Hsu,2001)。この死の経路は以前に記載されたが、カスパーゼ8の活性化に関連する下流事象はPE組織中では詳細な調査は実施されていなかった。そこで早発性PE中での切断カスパーゼ−8の発現を分析し、年齢適合コントロール組織と比較してそれがカスパーゼ−3の発現/活性化の増加と調和して増加する(図10a)ことが見いだされた(Aban,2004)。
HAにおいては生存促進性(pro−survival)アイソフォームのの増加および死誘導性アイソフォームの低下に向かうMtd/Mcl−1アポトーシス性レオスタットにおけるシフトが観察されたので、HAおよびコントロール胎盤中での栄養膜細胞の細胞死のマーカーについても測定した。栄養膜細胞のアポトーシスの知られているマーカー(Soleymanlou,2005;Hung,2002)である切断カスパーゼ−3の発現は、コントロール(MAおよびSL)と比較してHA中では50%(p=0.0297)減少した(図10b)。切断カスパーゼ−8の発現を慢性的に低酸素症の胎盤組織中でも評価した。切断カスパーゼ−3に類似して、HA中での活性化カスパーゼ−8の発現はコントロール(MAおよびSL)と比較して40%減少した(MAおよびSL)(p=0.0335)(図10c)。
病理的およびインビボ慢性胎盤性低酸素症における栄養膜細胞融合
高高度妊娠由来の胎盤は、おそらく栄養膜細胞の細胞死/代謝回転の減少に起因して栄養膜細胞膜の菲薄化を示すので、合胞体への栄養膜細胞の融合についての典型的なマーカーである「syncytin」と呼ばれる栄養膜細胞の分化マーカーの発現を次に調査した(Frendo,2003;Mi,2000)。qRT−PCRを用いて、syncytinの相対転写産物発現をSL、MAおよびHA妊娠由来の胎盤組織中で測定した。MAもしくはSL組織と比較したHAサンプルは、syncytinの発現を有意に減少させた(図11a)。HA中でのsyncytinの発現減少が栄養膜細胞集団におけるシフトに起因しないことを確認するために、栄養膜細胞特異的サイトケラチン7の発現を測定し、HAおよびコントロール組織間で変化しないことが見いだされた(図11b)。
融合性syncytinタンパク質の発現を詳細に特性分析するために、抗syncytinポリクローナル抗体を生成した。抗体特異性は、ウエスタンブロット分析において同一第3トリメスターのサンプル由来の胎盤タンパク質溶解物を、免疫前および免疫後血清に曝露させることによって試験した。約59kDa(syncytinの理論分子量)での特異的バンドは、ウサギの免疫後血清を使用した場合にのみ認識された(図11c)。このバンドは、免疫に使用したペプチドと競合すると消失した(図示していない)。そのメッセンジャー発現に類似して、syncytinタンパク質発現は、低高度コントロールサンプルと比較してHA胎盤中での発現によって測定した慢性胎盤性低酸素症の条件下では減少した(図11d)。3% Oへ妊娠の第1トリメスター外植片を曝露させると、syncytinの発現減少が生じた(図11e)。最後に、syncytinの発現を胎盤性低酸素症の病理的条件下で試験したが、syncytin mRNAの発現は、以前の報告(Knerr,2002;Keith,2002;Lee,2001)に一致して、コントロールと比較して子癇前症性胎盤中では減少することが見いだされた(図11f)。PEおよびAMC間のsyncytin mRNAの発現減少に加えて、子癇前症におけるsyncytinタンパク質発現もまた年齢適合コントロール組織と比較して減少した(図11gおよびh)。
考察
正常胎盤形成中には、適正な胎盤機能の細胞ホメオスタシスおよび維持を調節するために増殖、分化およびアポトーシス間の平衡が必要とされる。現在ではアポトーシスは胎盤組織形態形成における重要な生理学的事象であることは確証されているが、正常および異常胎盤形成において細胞死を調整する基礎にある機序は未解明のままである。本明細書に提示したデータは、おそらく調節不全な細胞死に寄与して胎盤病理を導く、病理的酸素化対生理的低pOが、栄養膜細胞Mcl−1/Mtdアポトーシス性レオスタットにおける有害な転換を誘導することを証明している。特には、1)Mcl−1アイソフォーム発現ならびにそのカスパーゼ−3−媒介性切断はヒト胎盤中での酸素依存性事象である、2)Mcl−1アイソフォーム発現は、早発性重症子癇前症においては細胞死促進アイソフォームの発現に向かっておよび高度誘導性慢性胎盤性低酸素症においては保護アイソフォームに向かって傾く、および3)栄養膜細胞の融合は生理的および病理的の両方の胎盤性低酸素症において減少するが、栄養膜細胞の細胞死は高高度妊娠では減少し、子癇前症では増加することが証明された。
Mcl−1は、転写産物レベルおよびタンパク質レベルの両方で高度に調節された分子である。Mcl−1LおよびMcl−1SにおけるPESTドメインは、カスパーゼ−3媒介性切断の基質であるアスパラギン酸残基を含有している(Han,2005)。この切断は、差次的Mcl−1タンパク質機能を付与する固有の調節機序である。Mcl−1Lはプロアポトーシス性チャネル形成Bcl−2サブファミリーの他のメンバーを隔離すると考えられる強力な抗アポトーシス性分子である。近年、Bakは、Mcl−1Lによって特異的に隔離され、そのアポトーシス機能を防止および無効にされることが証明された(Willis,2005)。Mcl−1Lは、Mcl−1LがMtdのプロアポトーシス性機能を阻害することが知られているために、同一方法でMtdの機能を防止できる(Hsu,1997)。Mcl−1Lタンパク質は、その保護機能の喪失および細胞死誘導性フラグメントであるMcl−1Lc(p29)積を生じさせるカスパーゼ媒介性切断もたらす傾向があるために、Mcl−1タンパク質の安定性はその相互作用能力および最終的にはその抗アポトーシス機能のためにもほとんど重要ではない(Herrant,2004;Michels,2004;Weng,2005;Snowden,2003;Han,2005;Han,2004)。
酸素は、アポトーシス性細胞死の強力な調節因子である。BH3−単独プロアポトーシス性分子のNixおよびNipを含む数種のBcl−2ファミリーメンバーは、HIF−1を介して酸素によって直接的に調節されることが証明されている(Bruick,2000;Sowter,2001)。この二量体転写因子は、酸素不安定分子(HIF−1αサブユニット)および構成的に発現した成分(HIF−1α)から構成される。HIF−1は、Mcl−1を含む酸素化減少の条件下で多数の遺伝子(それらのプロモーターは低酸素症反応性エレメント(HRE)を含有する)の発現を調節する(Piret,2004)。インビトロもしくはインビボの酸素化減少下でのMcl−1L発現増加の観察所見は、HIF−1媒介性Mcl−1L調節と一致している(Piret,2004)。そこで、Mcl−1の転写調節およびそのアイソフォームの差次的発現は、胎盤組織が経験した特異的酸素条件に帰することができる。本明細書で報告したデータは、ヒト器官における酸素によるMcl−1の発現および切断の調節、ならびに重要にもヒト障害におけるこれらの事象の調節不全についての最初の証拠である。
早発性重症子癇前症では、おそらく低酸素症(≡10mmHgもしくは<1〜2% O)(Levy,2000;Kilani,2003)または間欠的酸素化(Hung,2002)によって誘導された過剰な栄養膜細胞の細胞死は、Th1型母体炎症性反応および全身性母体内皮細胞傷害を引き起こす(Saito,2003;Sargent,2003)と考えられる栄養膜細胞の脱落を増加させる。この疾患においてキラーMtd−Pアイソフォームの発現増加と合わされた重症子癇前症性胎盤中の死誘導性分子の生成に向かうMcl−1の発現の傾向(Soleymanlou,2005)は、脱落増加を付随する栄養膜細胞消滅に向かう有害な病理的転換を開始させる。子癇前症性胎盤とは対照的に、慢性の酸素化減少を経験するHP胎盤組織は、アポトーシスマーカーの減少およびMcl−1L発現の増加を示す。分子的所見を支持して、以前の試験は、低高度に比して高高度胎盤中での合胞体結節の形成減少を報告している(Mayhew,2002)が、これは再び慢性胎盤性低酸素症におけるアポトーシス媒介性栄養膜細胞の代謝回転の緩徐化を示唆している。ここで慢性低酸素症の条件は、これらの妊娠におけるアポトーシス媒介性栄養膜細胞の脱落の負担を最小限に抑えることによって適合反応を提供できる。これは、コントロールと比較してHA組織中での抗アポトーシス分子の胎盤発現の増加によって達成できる。
早発性重症子癇前症におけるMtd−LおよびMtd−Pの発現の増加(Soleymanlou,2005)に類似して、Mcl−1Lの切断は、コントロールの年齢適合患者、後発性子癇前症またはIUGRおよび本態性高血圧を含む他の胎盤性病理においては発生しない、この疾患の早期重症形のまた別の固有の胎盤性特徴である可能性がある。この観察所見は再び、おそらくこの多面的でしばしば間違って解釈される障害の病因に関係する様々な基礎的病因に起因して、子癇前症の適正な病理的分の必要性および重要性を改めて表明している。
栄養膜細胞の細胞融合の正常な生理的調節は、多核合胞体栄養細胞層を維持するために単核栄養細胞が融合するアポトーシス媒介性機序によって進行する(Huppertz,1999)。妊娠が正常に進行するに伴って、細胞栄養層細胞から合胞体栄養細胞層への分化の速度は、妊娠末期に向かって細胞栄養層細胞が希薄になるにつれて減速する。正常海抜0メートル出産時胎盤では明確な合胞体栄養細胞層を有し、残留している細胞栄養層細胞はほとんど見られないが、これは異常な合胞体栄養細胞層の菲薄化および過剰増殖性の栄養細胞層の表現型を示すHA胎盤とは対照的である。合胞体栄養細胞層の菲薄化は、胎児への酸素の最高送達を保証するための高高度胎盤における生理的機序である可能性がある(Zamudio,2003)。この菲薄化についての機序は、現在は完全には理解されていないが、おそらく以前に提案されたように酸素化減少の条件下での異常な合胞体再生に起因すると思われる(Mayhew,2002;Jackson,1987;Alsat,1996)。
栄養膜細胞の細胞融合のプロモーター(Black,2004)である活性カスパーゼ−8の発現減少は、高高度胎盤における減少した栄養膜細胞の細胞死と結び付けると、慢性胎盤性低酸素症中の合胞体形成の緩徐化および結果としての栄養膜細胞の脱落を示唆している。興味深いことに、病理的胎盤性低酸素症(子癇前症)では、カスパーゼ−3の活性化の増加(Aban,2004;Hung,2002)および本明細書で報告したカスパーゼ−8の活性化の増加はアポトーシスの増加を示している。PEにおけるカスパーゼ−8の活性化は、以前に報告されたFasLおよびTNFβによる死受容体の活性化などの、この疾患におけるその上流活性化因子の異常な発現に帰せることができよう(Conrad,1997;Hsu,2001;Leung,2001;Allaire,2000;Crocker,2003;Ishihara,2002;Soleymanlou,2005)。そこで、PEにおける活性カスパーゼ−8はおそらく栄養膜細胞の代謝回転の加速を媒介し、その結果として栄養膜細胞の脱落を増加させる。
HAにおける栄養膜細胞の細胞融合の重要な調節因子(Mi,2000;Frendo,2003)であるsyncytinの発現減少もまた、正常な栄養膜細胞の分化にマイナスの影響を及ぼし、結果として胎盤合胞体の菲薄化を生じさせる可能性がある。試験は、減少した酸化の条件では、syncytinならびにその結合受容体(ASCT2)が標準酸化条件に比してダウンレギュレートされることを示している(Kudo,2003)。子癇前症を併発している妊娠におけるsyncytinの発現減少についてもまた報告されている(Knerr,2002;Lee,2001)。これらの所見は、コントロールのシナリオに比して高度誘導性胎盤性低酸素症もしくは病理的低酸素症(PE)の条件におけるsyncytinの発現減少という観察所見を支持している。したがってHA胎盤における損傷した栄養膜細胞の融合は、合胞体破片の正常脱落/移送を犠牲にして新規合胞体合成および維持を制限することがある。したがって、合胞体再生および脱落の力学的速度におけるこの不均衡は、高高度胎盤において観察された菲薄化した合胞体表現型に関して分子的説明を提供できる。
結論として、本試験は、Mcl−1/Mtdレオスタットが胎盤性低酸素症の生理的および病理的条件下において異なる方法で栄養膜細胞アポトーシスを調節するという証拠を提供している。同様に、子癇前症および高高度胎盤形成はどちらも、おそらくはsyncytinの発現のダウンレギュレーションに起因して異常な絨毛栄養膜細胞の分化を特徴とするが、加速された栄養膜細胞の代謝回転の原因であると考えられるアポトーシス傷害を経験するのは子癇前症性胎盤だけであることが証明された。高高度妊娠では、栄養膜細胞の代謝回転/分化の減少と結び付いた栄養膜細胞の細胞死の減少は、慢性胎盤性低酸素症に対する重要な適応反応を表す可能性があり、したがって慢性的に減少した酸素化下での妊娠の転帰は改善される。子癇前症性胎盤組織中での異常な酸素化がMcl−1Lアイソフォーム発現および安定性に及ぼす影響は、この疾患の臨床的発現をもたらす事象に影響を及ぼす可能性がある。子癇前症におけるヒト栄養膜細胞の細胞死の調節因子。
(実施例8)
セルロプラスミン
セルロプラスミン(Cp)は、血清中にな132kDaの銅タンパク質である。多数の証拠が、Cpは鉄代謝において重要な役割を有することを示唆している。第1に、CpはFe2+からFe3+への転換を触媒する、血漿中での重要なフェロキシダーゼである。この機能は、鉄をアポ−トランスフェリン内へ負荷するために極めて重要であると思われる。第2に、Cpは、鉄の輸送およびホメオスタシスにおいて重要である可能性が高い。Cpが鉄の代謝に関係するという最終的な証拠は、血清中鉄状態における変化には血清中Cp(および銅)の変化が付随することが多いという観察から来ている(1)。Cpは、赤血球生成のエンハンサーである。
3種の異なるタイプの病理的妊娠から採取した胎盤組織サンプルについて試験した:
1. ACOGガイドラインによる高血圧(収縮期血圧≧140mmHg;拡張期血圧≧90mmHg)、タンパク尿(≧300mg/24h)および早期産を特徴とする母体症候群である、重症子癇前症(ePE)を併発している妊娠。
2. 在胎齢および性別によって<5パーセンタイル値の胎児成長、病理的臍帯血ドプラーフロー速度測定波形(拡張終期血流不在)、および病理的両側性子宮ドプラーを特徴とする、重症子宮内胎児発育遅延(sIUGR)を併発している妊娠。
3. IUGRを併発した子癇前症性妊娠。
これらの病理はすべてが、一般的特徴として胎盤性低酸素症環境を有している。
胎盤中セルロプラスミン(pCp)は、これらの3群間で差次的に発現する:pCpレベルは、それらの年齢適合コントロール群と比較してsIUGRおよびPE−IUGR妊娠群由来の胎盤中では劇的に減少する。興味深いことに、PE妊娠においてはpCpレベルの増加が見いだされた。
さらに、Cpの発現を、慢性低酸素症への生理的順応の固有のモデルである高高度妊娠(HA)由来の胎盤において試験した。pCpレベルは、HA胎盤においては海抜0メートルコントロールと比較して増加した。
これらのデータは、Cpが、子癇前症性妊娠を、IUGRを併発した妊娠と識別するための有用なマーカーとなることを示している。さらに、その生化学的特徴およびHA妊娠に関するデータによると、Cpは、低酸素症に対する保護因子としての役割を有しているであろう。
(実施例9)
活性化TGFβシグナリングはIUGR妊娠におけるsFlt−1の発現を調節する
子癇前症性妊娠およびIUGR妊娠において見いだされたsFlt−1の発現の上昇は、これらの妊娠の障害に典型的な母体皮機能不全の発に関係してきた。しかし、sFlt−1の発現を制御する機序についてはほとんど知られていない。正常胎盤形成中には、酸素はsFlt−1の発現にとって重要な調節因子であることが証明された。さらに、子癇前症には胎盤性低酸素症が関連している。子癇前症は多因子疾患であるので、例えばトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)分子などの酸素以外の追加の因子が高レベルのsFlt−1に寄与する可能性があることは妥当と思われる。sFlt−1の発現は重症IUGR性胎盤中では上昇するので、本試験の目的は以下のとおりであった:1)正常およびIUGR妊娠においてSmad2および3(R−Smad)ならびに阻害性Smad7(I−Smad)の発現/活性化を試験すること;および2)Smadを介して、TGFβ1/3シグナリングがsFlt−1の発現を調節する可能性を調査すること。
異常な臍帯動脈および子宮動脈ドプラーを備える早発性(25〜33週)重症IUGRおよび年齢適合正常コントロール組織を採取した。妊娠の第1トリメスター絨毛外植片ならびにBeWoおよびJEG−3絨毛細胞系を、TGFβ1もしくはTGFβ3(5ng/mL)の存在下もしくは不在下の標準条件で24時間にわたり培養した。sFlt−1のメッセージレベルは、特異的TaqManプライマーおよびプローブを用いて定量的リアルタイムPCRによって測定した。sFlt−1のタンパク質発現は、sFlt−1に対するポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロットによって測定した。さらに、胎盤組織、外植片および細胞系由来のタンパク質溶解物を、ヒトSmad2、Smad3、Smad7およびホスホ−Smad2/3を認識する抗体を用いて分析した。
Smad2およびSmad3両方のリン酸化はコントロール組織と比較して重症IUGR胎盤において顕著に増加したが、他方Smad7含量の減少はIUGR胎盤中で観察された。絨毛外植片およびBeWo細胞両方のTGFβ1およびTGFβ3への曝露はホスホ−Smad2および3のタンパク質発現の増加を生じさせたが、これはsFlt−1 mRNAおよびタンパク質レベルにおける有意な増加と関連していた。これとは対照的に、JEG−3細胞はホスホーSmad2を増加させることでのみTGFβ処理に反応したが、ホスホ−Smad3およびsFlt−1 mRNAおよびタンパク質の増加には反応しなかった。
結論:これらのデータは、重症IUGR妊娠においては、TGFβシグナリング経路の活性化は、一部にはsFlt−1の発現増加の原因となることを示唆している。
(実施例10)
低酸素症およびTGFβは、ヒト胎盤中でのエンドグリンの発現を調節する
トランスフォーミング成長因子(TGF)β1およびβ3の共受容体であるエンドグリンは、ヒト胎盤中で発現し、そこで栄養膜細胞の分化の初期事象を調節することに重要な役割を果たす。近年の証拠は、子癇前症性胎盤においてエンドグリンの発現が増加すること、そしてこれにはその可溶形の高循環中レベルが関連していることを示した。子癇前症は酸素化の障害の結果である可能性があるので、胎盤性低酸素症の生理的および病理的モデルを用いて酸素がエンドグリンの発現に及ぼす作用を試験した。胎盤中でのTGFβ3の発現は酸素によって調節されるので、TGFβ1およびTGFβ3がエンドグリンの発現に及ぼす作用についても試験した。
妊娠の第1トリメスターおよび遺伝子の一致しない二絨毛性および単絨毛性双生児(n=10)ならびに年齢適合正常双生児(n=5)由来のヒト胎盤組織を、胎盤性低酸素症の生理的および病理的モデルとして使用した。全双生児において、遺伝子の不一致は25%を超えており、成長が制限された双生児においては拡張末期血流速度の不在が証明された。エンドグリンmRNAの発現は、定量的PCR分析によって測定した。タンパク質の発現は、エンドグリン抗体を用いるウエスタンブロット分析によって測定した。絨毛膜絨毛外植片(5〜8週)を使用して、エンドグリンの発現に酸素ならびにTGFβ1およびTGFβ3の両方が及ぼす作用を試験した。
免疫ブロット分析は、エンドグリンの発現は酸素圧が低い妊娠5〜7週において高く、酸素圧が上昇する妊娠10週以後には減少することを示した。リアルタイムPCRは、それらの正常な双生児、およびコントロールの遺伝子の一致している双生児と比較して、IUGR性の遺伝子の一致しない双生児においてはエンドグリン転写産物が有意に増加することを証明した。これらのmRNA所見に一致して、膜および可溶性エンドグリン両方のタンパク質レベルはコントロールの双生児および正常双生児の両方と比較してIUGR性双生児の胎盤中では高かった。低酸素条件(3% O)への絨毛外植片の曝露は、標準条件(20% O)と比較してエンドグリンの発現の増加を生じさせた。さらに、絨毛外植片へのTGFβ1およびTGFβ3の添加もまた、非処理外植片と比較して膜および可溶性エンドグリン両方の発現を増加させた。
これらの結果は、酸素がおそらくTGFβを含む機序を介してエンドグリンの発現を調節することを証明している。胎盤性低酸素症を導く胎盤灌流の減少は、IUGR性の遺伝子の一致しない双生児におけるエンドグリンの発現増加の原因となる可能性がある。
本発明は、本明細書に記載した特定の実施形態は単に本発明の1つの態様の単一の例示であることが意図されているために、そのような実施形態によって範囲が限定されるべきではなく、任意の機能的に等価の実施形態は本発明の範囲内に含まれる。実際に当業者には、本発明の様々な変形は、本明細書に示して記載した実施形態に加えて前述の説明および添付の図面から明白になるであろう。そのような変形は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが企図されている。
本明細書で言及したすべての刊行物、特許および特許出願は、あたかも各個別の刊行物、特許もしくは特許出願が特別かつ個別に全体として参照して本明細書に組み込まれると指示されているかのように同程度まで全体として参照して本明細書に組み込まれる。本明細書で言及したすべての刊行物、特許および特許出願は、本発明と結び付けて使用できるその中に報告されている方法などを記載および開示する目的で、参照して本明細書に組み込まれる。本明細書に記載したものは、本発明が先行発明によってそのような開示を予期するという権利が与えられているとの許可であると見なすべきではない。
本明細書および添付の特許請求項において使用する単数形「1つの」および「その」はその状況が明白に他のことを指示しない限り複数の指示を含むことに留意されたい。そこで、例えば、「1つの宿主細胞」は複数のそのような宿主細胞を含んでおり、「抗体」についての言及は当業者には知られている1つ以上の抗体およびその等価物についての言及である。
データは、平均値±SDとして表示した。早期産コントロール群は、年齢適合コントロール(AMC)としても登場する。p<0.05、高高度対出産コントロール。出産コントロール(TC)は海抜0メートル(SL)としても登場する。
・HIFは病理的(PE、IUGR)および生理的(HA)低酸素症性胎盤中で高度に増加するが、その調節/分解および活性の基礎にある機序は、試験した様々なモデルにおいて顕著に異なる。
・これは、これらの様々な条件に固有に関連したHA、IUGRおよびPEマーカーにおける差についての最初の分子的証拠である。
刊行物に対する引用
以下では、本発明を図面に関連付けて説明する。
胎盤発育中のsFlt−1の発現。(A)リアルタイムPCR分析によって評価した、早第1トリメスター胎盤サンプル中対後期妊娠サンプル中のsFlt−1転写産物の発現(試験した各在胎齢について、n=11);P<0.05、5〜9週対10〜12週。(B)妊娠の第1トリメスターおよび早期第2トリメスターサンプルの代表的なsFlt−1の免疫ブロット。5〜9週、n=5、10〜12週、n=5、13〜18週、n=7。(C)妊娠の第1トリメスター組織中でのsFlt−1の免疫学的局在決定。陽性染色は、褐色染色によって表される。(CT:栄養膜細胞層;ST:合胞体栄養細胞層;SK:合胞体性結節;S:間質)。全数値は、3回の独立した実験の平均値(±SE)として表されている。 高高度および子癇前症性胎盤サンプル中でのsFlt−1の発現。リアルタイムPCR分析によって評価した、高高度(HA)対海抜0メートル(SL)サンプル中でのsFlt−1 mRNAの発現。HA、n=15、SL、n=12。P<0.05、HA対SL。(B)リアルタイムPCR分析によって評価した、年齢適合コントロール(AMC;n=12)と比較した早発性重症子癇前症(PE;n=16)におけるsFlt−1の転写産物レベル中の倍率変化。P<0.05、PE対TCおよび対PTC。(C)上方パネル、海抜0メートルコントロール(n=11)と比較した、高高度(HA;n=14)および子癇前症性妊娠(PE;n=5)由来の胎盤組織中の代表的なsFlt−1のウエスタンブロット。下方パネル、HA、PE、およびコントロールSLにおけるsFlt−1タンパク質のデンシトメトリー分析。データは、海抜0メートルサンプルに対して標準化されている。P<0.05、PEおよびHA対SL。(D)出産間近の高高度および低高度(コントロール)(n=16)からの妊娠患者の血清中での循環中sFlt−1タンパク質の相対レベル。数値は平均値(±SE)である。P<0.05、HA対コントロール。 代表的な高高度(HA)、子癇前症(PE)および海抜0メートル(SL)胎盤組織中のsFlt−1の免疫学的局在決定。パネルa〜c:海抜0メートルコントロール、n=10。パネルd〜f:高高度サンプル、n=8。パネルg〜k:早発性子癇前症サンプル、n=6。パネルl:陰性コントロール(一次抗体非含有)。褐色染色は、陽性sFlt−1免疫染色を表す(SK:合胞体性結節、ET:内皮、PV:血管周囲)。 妊娠の第1トリメスター絨毛外植片中でのsFlt−1の発現に低酸素および低酸素症−再酸素化(HR)が及ぼす作用。(A)qRT−PCR分析によって測定した、3%および8%対20% Oで培養した外植片中のsFlt−1 mRNAの発現、n=7。P<0.05、3および8%対20%。(B)HR条件と比較した20%および8% O中で培養した外植片中のsFlt−1 mRNAのリアルタイムPCR分析、n=5。P<0.05、8%対HR。(C)HRと比較した、20%、8%および3% O中で培養された妊娠の第1トリメスター胎盤外植片由来の馴化培地中でELISAによって測定したsFlt−1タンパク質の濃度、n=8。P<0.05、3%対HRおよび20%。数値は、3連で実施された少なくとも5回の個別実験についての平均値(±SE)である。 妊娠の第1トリメスター胎盤外植片中でのsFlt−1の発現にDMOGおよびHIF−1αに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが及ぼす作用。(A)qRT−PCRによって評価された絨毛外植片中でのsFlt−1転写産物にDMOG処理が及ぼす作用、n=3。P<0.05、3%および20%DMOG対20%。(B)絨毛外植片中でのsFlt−1タンパク質の空間的局在にDMOG処理が及ぼす作用、n=3。褐色染色は、陽性免疫反応性を表している。(C)早発性PEの絨毛外植片および胎盤サンプルのTUNEL染色。陽性染色は、濃褐色核染色として出現する。(D)外植片中でのsFlt−1 mRNAの発現にHIF−1α(AS)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドが及ぼす作用、n=6。P<0.05、3% AS対3%。(DMOG:ジメチルオキサリル−グリシン)。数値は、3連で実施された少なくとも3回の個別実験についての平均値(±SE)である。 子癇前症性妊娠におけるMcl−1の発現。パネルa:早発性重症子癇前症(PE:黒色棒)および正常血圧性年齢適合コントロール組織(AMC:白色棒)由来の胎盤組織中のMcl−1LおよびMcl−1S転写産物についての定量的リアルタイムRT−PCR分析。パネルb:AMCおよびPE全タンパク質溶解上で実施された代表的なMcl−1免疫ブロット。Mcl−1の古典的な長いアイソフォームが描出されている。約29kDa(p29と呼ばれる)および26kDa(Mcl−1S)のMcl−1特異的バンドもまた明白である。パネルc:AMC(白色棒、n=22)およびPE(黒色棒、n=25)の間のMcl−1特異的タンパク質アイソフォームバンドのデンシトメトリー分析。パネルd:正常出産時胎盤(出産)、出産時子癇前症性胎盤(出産時PE)および分娩の不在下での正常出産時選択的帝王切開胎盤(C/S)由来の全タンパク質溶解について実施された代表的なMcl−1免疫ブロット。パネルe:早発性重症子癇前症、IUGR妊娠、35〜37週のIUGR+PE妊娠、本態性高血圧(EH)を有する妊娠患者および正常出産時胎盤(出産)からの胎盤由来の全タンパク質溶解について実施された代表的なMcl−1免疫ブロット。全免疫ブロットは、ポンソー染色を用いる等量タンパク質負荷について確証された。データは、3回以上の個別実験の平均値±SEとして表されている。P<0.05、スチューデントのt検定。 カスパーゼ活性の阻害およびそれがMcl−1切断に及ぼす作用。パネルa:コントロール処理(DMSO単独)と比較して、DMSO中に溶解された100μMの濃度の汎カスパーゼ阻害剤であるz−VAD−fmkの存在下で、コントロール(未処理外植片)およびH/Rに曝露させた外植片中のMcl−1アイソフォームの代表的な免疫ブロット。パネルb:未処理コントロール組織(コントロール)と比較した、z−DEVD−fmkの存在下(DMSO中)、およびカスパーゼ−3阻害剤の不在下(DMSO単独)でH/Rに曝露させた外植片由来のタンパク質溶解上で実施された代表的なMcl−1免疫ブロット。パネルc:H/R(白色棒)およびH/R+z−VAD−fmk(黒色棒)処理外植片間のMcl−1特異的タンパク質アイソフォームバンドについてのデンシトメトリー分析。 様々な酸素化がMcl−1の発現に及ぼす作用。パネルa:20% O、3% Oおよび低酸素症/再酸素化(H/R)条件に曝露させた妊娠の第1トリメスター絨毛外植片中でのMcl−1アイソフォームL(黒色の四角)およびS(白色の四角)についての定量的RT−PCR分析。パネルb:20% O、3% OおよびH/Rに曝露させた妊娠の第1トリメスター絨毛外植片中のMcl−1アイソフォームの代表的な免疫ブロット。パネルc:正常妊娠の第1トリメスターおよび第2トリメスター胎盤組織から入手した全タンパク質溶解について実施された代表的なMcl−1免疫ブロット。全免疫ブロットは、ポンソー染色を用いる等量タンパク質負荷について確証された。データは、3回以上の個別実験の平均値±SEとして表されている。P<0.05。スチューデントのt検定。 SL、MAおよびHA妊娠由来の胎盤組織中でのMcl−1およびMtdアイソフォームの転写産物の発現。パネルa、b、cおよびd:各々、海抜0メートル(SL、n=10)、中高度(MA、n=10)および高高度(HA、n=16)胎盤中でのMcl−1L(抗アポトーシス性)、Mcl−1S(プロアポトーシス性)、Mtd−L(プロアポトーシス性)およびMtd−P(プロアポトーシス性)転写産物の発現についての定量的RT−PCR分析。データは、平均値±SEとして表されている。P<0.05、スチューデントのt検定。パネルeおよびf:各々、海抜0メートル(SL)、中高度(MA)および高高度(HA)胎盤から入手したタンパク質溶解のMcl−1およびMtd免疫ブロット。全免疫ブロットは、ポンソー染色を用いる等量タンパク質負荷について確証された(図示していない)。パネルg:SL、MAおよびHA胎盤(S:間質、ST:合胞体)中のMcl−1(上方パネル)およびMtd(下方パネル)の免疫組織化学的局在決定。3連で実施された4回の個別実験を代表する染色。 慢性および病理的胎盤低酸素症の状態における細胞死のマーカー。パネルa:AMCおよびPE組織中での代表的な切断カスパーゼ−8の免疫ブロット。パネルb:上:HAおよびコントロール組織から入手した全胎盤タンパク質溶解に対して実施された切断カスパーゼ−3の代表的な免疫ブロット(SLおよびMA)。下:コントロール組織と比較したHA(n=12)中での切断カスパーゼ−3タンパク質のデンシトメトリー分析(SLおよびMA、n=18)。パネルc:上:HAおよびコントロール組織から入手した全胎盤タンパク質溶解に対して実施された切断カスパーゼ−8の代表的な免疫ブロット(SLおよびMA)。下:コントロール組織と比較したHA(n=12)中での切断カスパーゼ−8タンパク質のデンシトメトリー分析(SLおよびMA、n=18)。全免疫ブロットは、ポンソー染色を用いる等量タンパク質負荷について確証された。データは、3回の個別実験の平均値±SEとして表されている。P<0.05、スチューデントのt検定。 慢性胎盤低酸素症(高高度胎盤)の状態におけるsyncytinタンパク質および転写産物の発現。パネルa:SL(n=8)、MA(n=10)およびHA(n=10)胎盤組織中のsyncytinについての定量的RT−PCR分析。パネルb:HA(n=9)およびコントロール組織(MA、n=9)中でのサイトケラチン7についての定量的RT−PCR分析。パネルc:免疫前血清(コントロール)およびsyncytinペプチド(抗syncytinポリクローナル抗体を含む)により免疫したウサギの血清使用して、第3トリメスター正常組織由来の全タンパク質溶解について実施された代表的な免疫ブロット。パネルd:HAおよびコントロール(SL)胎盤組織由来の全タンパク質溶解について実施された代表的なsyncytin免疫ブロット。パネルe:20%および3%酸素下で維持された外植片由来の全タンパク質溶解について実施された代表的なsyncytin免疫ブロット。パネルf:妊娠の第1トリメスターおよび出産時胎盤由来の全タンパク質溶解について実施された代表的なsyncytin免疫ブロット。パネルg:AMC(n=10)およびPE(n=8)胎盤組織中でのsyncytinについての定量的RT−PCR分析。パネルh:AMCおよびPE組織由来の全胎盤タンパク質溶解について実施された代表的なsyncytin免疫ブロット。パネルi:AMC(n=13)と早発性子癇前症性(PE、n=13)組織との間のsyncytinタンパク質についてのデンシトメトリー分析。全免疫ブロットは、ポンソー染色を用いる等量タンパク質負荷について確証された。データは、3回の個別実験の平均値±SEとして表されている。P<0.05、スチューデントのt検定。 早発性子癇前症における所定のバイオマーカーの発現および活性の調節を示す略図である。 早発性重症子癇前症および子宮内胎児発育遅延における所定のバイオマーカーの発現および活性の調節を示す略図である。

Claims (28)

  1. 養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合もしくは代謝回転の調節を必要とする状態の診断、進行の監視、予測または分類のために対象から抽出されたサンプルを処理する方法であって、該方法は、該サンプルにおけるマーカーのレベルを検出する工程、および該レベルと標準について検出されたレベルとを比較する工程を包含し、該マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含む、方法。
  2. 養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合もしくは代謝回転の調節を必要とする状態の診、進行の監視、予測または分類の補助方法であって、該方法は、対象由来のサンプルにおけるマーカーのレベルを検出する工程、および該レベルと標準について検出されたレベルとを比較する工程を包含し、該マーカーは、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミン、ならびに/またはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、および/またはセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドを含む方法。
  3. 前記マーカーは、sFlt、Mtd−L、Mtd−S、Mtd−P、Mcl−1アイソフォーム、TGFβ3、HIF−1α、HIF−2α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ、Fas、p53、ならびにsFlt、Mtd−L、Mtd−S、Mtd−P、Mcl−1アイソフォーム、TGFβ3、HIF−1α、HIF−2α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ、Fas、およびp53をコードするポリヌクレオチドからなる群よりさらに選択される、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記状態は子癇前症である、請求項1、2または3に記載の方法。
  5. 前記マーカーは、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、Siah1/2、切断カスパーゼ、VHL、ならびにsFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、Siah1/2、切断カスパーゼおよびVHLをコードするポリヌクレオチドからなる群よりさらに選択される、請求項1に記載の方法。
  6. 標準と比較した、Mtd−PもしくはMtd−L、またはMtd−PもしくはMtd−Lをコードするポリヌクレオチドにおける有意な増加、あるいはPHD1、PHD2もしくはVHL、またはPHD1、PHD2もしくはVHLをコードするポリヌクレオチドにおける有意な減少は、早発性重症子癇前症を示す、請求項5に記載の方法。
  7. 早発性子癇前症の診断、進行の監視、または予測のために対象から抽出されたサンプルを処理する方法であって、該方法は、該サンプルにおけるSMAD2、SMAD7、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、TGFβ3、HIF−1α、およびVEGF、またはSMAD2、SMAD7、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、TGFβ3、HIF−1α、およびVEGFをコードするポリヌクレオチドのレベルを検出する工程、ならびに標準について検出されたレベルと比較する工程を包含する、方法。
  8. 標準と比較した、Mtd−P、Mtd−L、TGFβ3もしくはHIF−1α、またはMtd−P、Mtd−L、TGFβ3もしくはHIF−1αをコードするポリヌクレオチドにおける有意な増加は、早発性重症子癇前症を示す、請求項5または7に記載の方法。
  9. 前記状態は子宮内胎児発育遅延(IUGR)である、請求項1、2または3に記載の方法。
  10. 前記マーカーは、sFlt、TGFβ3、HIF−1α、PHD1、PHD2、エンドグリン、Siah1/2、ならびにsFlt、TGFβ3、HIF−1α、PHD1、PHD2、エンドグリンおよびSiah1/2をコードするポリヌクレオチドからさらに選択される、請求項9に記載の方法。
  11. 前記マーカーは、VEGFもしくはFIHポリペプチド、またはVEGFもしくはFIHをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項10に記載の方法。
  12. 前記マーカーは、HIF−1α、TGFβ3、sFlt、MtdP/L、Siah1、Siah2、PHD1、PHD2、PHD3、VEGF、エンドグリン、VHL、ならびにHIF−1α、TGFβ3、sFlt、MtdP/L、Siah1、Siah2、PHD1、PHD2、PHD3、VEGF、エンドグリンおよびVHLをコードするポリヌクレオチドからなる群よりさらに選択される、請求項9に記載の方法。
  13. 子宮内胎児発育遅延(IUGR)の診断、進行の監視、または予測のために対象から抽出されたサンプルを処理する方法であって、該サンプル中のPHD1およびPHD3ポリペプチド、ならびに該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのレベルを検出する工程、および標準における対応するレベルと比較する工程を含む方法。
  14. 前記標準は、健常な対象由来のサンプル、状態の異なる段階またはタイプの対象由来のサンプル、または同じ対象由来のサンプルを含む、請求項1−13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記マーカーは、特異的な抗体への結合によって検出されるポリペプチドである、請求項1−14のいずれか1項に記載の方法。
  16. 前記マーカーは、ハイブリダイゼーションまたは増幅によって検出されるポリヌクレオチドである、請求項1−14のいずれか1項に記載の方法。
  17. 栄養膜細胞の細胞死、分化、浸潤、および/または細胞融合および代謝回転の調節を必要とする状態の診断、進行の監視、予測または分類のための試験キットであって、SMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンと相互作用する結合剤、またはSMAD2、ホスホ−SMAD2、SMAD−3、ホスホ−SMAD3、SMAD7、およびセルロプラスミンをコードするポリヌクレオチドに対して特異的なプライマーもしくはプローブを含む、試験キット。
  18. sFlt、Mtd−L、Mtd−S、Mtd−P、Mcl−1アイソフォーム、TGFβ3、HIF−1α、HIF−2α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ、Fasおよびp53からなる群より選択されるポリペプチドと相互作用する結合剤、あるいはsFlt、Mtd−L、Mtd−S、Mtd−P、Mcl−1アイソフォーム、TGFβ3、HIF−1α、HIF−2α、エンドグリン、PHD1、PHD2、PHD3、VHL、Siah1/2、cullin2、NEDD8、VEGF、FIH、syncytin、切断カスパーゼ、Fas、およびp53からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して特異的なプライマーまたはプローブをさらに含む、請求項17に記載の試験キット。
  19. 前記状態は子癇前症である、請求項17または18に記載の試験キット。
  20. sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、Siah1/2、切断カスパーゼおよびVHLからなる群より選択されるポリペプチドと相互作用する結合剤、あるいはsFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、Mcl−1L、TGFβ3、HIF−1α、エンドグリン、PHD1、PHD2、Siah1/2、切断カスパーゼおよびVHLからなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して特異的なプライマーもしくはプローブをさらに含む、請求項17に記載のキット。
  21. 子癇前症の診断、進行の監視、予測または分類のための試験キットであって、SMAD2、SMAD7、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、TGFβ3、HIF−1α、およびVEGFと相互作用する結合剤、またはSMAD2、SMAD7、sFlt、Mtd−P、Mtd−L、Mcl−1c、TGFβ3、HIF−1α、およびVEGFをコードするポリヌクレオチドに特異的なプライマーもしくはプローブを含む、試験キット。
  22. 前記状態は子宮内胎児発育遅延(IUGR)である、請求項17または18に記載の試験キット。
  23. sFlt、TGFβ3、HIF−1α、PHD1、PHD2、エンドグリン、Siah1/2からなる群より選択されるポリペプチドと相互作用する結合剤、またはsFlt、TGFβ3、HIF−1α、PHD1、PHD2、エンドグリンおよびSiah1/2からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに特異的なプライマーもしくはプローブをさらに含む、請求項22に記載の試験キット。
  24. VEGFもしくはFIHポリペプチドと相互作用する結合剤、またはVEGFもしくはFIHをコードするポリヌクレオチドに特異的なプライマーもしくはプローブをさらに含む、請求項23に記載の試験キット。
  25. HIF−1α、TGFβ3、sFlt、MtdP/L、Siah1、Siah2、PHD1、PHD2、PHD3、VEGF、エンドグリンもしくはVHLと相互作用する結合剤、またはHIF−1α、TGFβ3、sFlt、MtdP/L、Siah1、Siah2、PHD1、PHD2、PHD3、VEGF、エンドグリンもしくはVHLをコードするポリヌクレオチドに特異的なプライマーもしくはプローブをさらに含む、請求項22に記載の試験キット。
  26. 子宮内胎児発育遅延(IUGR)の診断、進行の監視、または予測のための試験キットであって、PHD1およびPHD3ポリペプチドと相互作用する結合剤、またはPHD1およびPHD3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに特異的なプライマーもしくはプローブを含む、試験キット。
  27. 前記結合剤は、前記ポリペプチドに特異的な抗体である、請求項17−26のいずれか1項に記載の試験キット。
  28. ハイブリダイゼーションまたは増幅によって前記ポリヌクレオチドを検出し得るプライマーまたはプローブを含む、請求項17−26のいずれか1項に記載の試験キット。
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