癌は、米国において、男性および女性の両方において死因の第一位である。治療選択肢が実行不可能になる前に、異常な前癌性の組織または癌性の組織を検出することの困難性は、死亡率が高い理由の1つである。異常な組織または癌性の組織の存在の検出は、部分的には困難である。そのような組織は、大部分は体内の深い位置に位置し、高価で複雑かつ侵襲性および/または不快な手法を必要とするためである。このため、検出手法の使用は、患者が異常な組織に関連する症状が現れるまで、制限されることが多い。しかし、癌または腫瘍の多くの形態は、検出可能なサイズに到達するためには(従って、患者に深刻な症状または兆候が発生するためには)長期間必要である。現在利用可能な診断モダリティで検出が行われるまでには、有効な治療にとって遅すぎることが多い。
乳癌は、西洋において、女性が冒される最も一般的な悪性疾患である。この一般的な病気の死亡率の削減は、早期発見に左右される。早期発見の主力は、X線マンモグラフィおよび臨床的な乳房の検査である。いずれも、不正確さという問題を伴う。例えば、マンモグラフィは、高濃度乳房を有する女性において感度が低く、形態学的には類似の良性病変または悪性の乳房病変を識別することができない。
1cm未満の病変が通常検出不能であり、より大きな病変は、広汎な結節像、線維嚢胞性の変化によって不明瞭になる可能性があり、または乳房において深すぎるために臨床的な検出を可能にすることができないために、臨床的な乳房の検査には制限がある。マンモグラフィで陽性または疑わしい臨床的な所見を有する患者は、確定診断を行うために、生検を必要とすることが多い。さらに、生検では、患者の80%までが悪性疾患に関して陰性となる場合がある。
従って、マンモグラフィおよび臨床的乳房検査は、特に乳癌を診断する際に、比較的正確さに欠ける。従って、多くの陽性のマンモグラフィ所見または臨床的乳房検査で検出された病変は、最終的には、偽陽性と判明し、患者に肉体的外傷および精神的外傷を結果として生じる。生検を受ける必要がある患者を識別するための改善された方法および技術は、医療費を削減し、不必要な診断のための生検を回避することになる。
マンモグラフィおよび臨床的乳房検査のみで達成可能な診断精度を向上させようとする他の技術が、導入されている。乳房の超音波検査は、嚢胞性乳房病変または硬質乳房病変を識別する際に役に立ち、針生検または直視下生検を誘導するのに有用である場合がある。しかし、そのような技術は、固塊または石灰化が良性であるか悪性であるかを決定することはできない。磁気共鳴画像化法が、マンモグラフィの精度を向上させようと導入されている。その高いコストおよび低い特定性は、乳癌の診断および選別のための一般的な適応性を制限する。陽電子放射断層撮影法(PET)を用いた核画像化法は、小さな病変に関してはより低い感度を有するが、コストによって制限される。
また、他の組織タイプおよび体の他の場所における前癌性の組織および癌を診断するのに適した改善した技術、特に、体の管構造、例えば、前立腺、膵臓などの他、乳房の状態を確認するために適した方法および装置を開発することが望ましい。
癌性の組織および前癌性の組織の早期発見に関する1つの提案された方法は、生物学的組織の電気インピーダンスを測定することを含む。例えば、米国特許第3,949,736号は、組織全体のインピーダンスの間接的な表示を提供する、組織にわたる電圧降下の測定によって、組織を通過する低レベルの電流を開示している。本方法は、組織のインピーダンスにおける変化が、組織を構成する細胞の異常な状態に関連し、この異常な状態が、腫瘍、癌種または他の異常な生物学的状態を表すことを教示している。しかし、本開示は、異常な細胞に関連するインピーダンスにおける増大または減少のいずれであるかを記載しておらず、具体的に、腫瘍細胞に対応しているわけでもない。
このシステムおよび類似のシステムの欠点は、上皮直流電気特性が考慮されていないことである。最も一般的な悪性疾患は、経上皮電位を維持する上皮(腸などの中空の臓器または乳房または前立腺などの管構造の輪郭を描く細胞層)で成長する。特に、成長中の悪性疾患からある程度の距離の上皮と比較すると、悪性経過の初期には、上皮は、その経上皮電位を失う。インピーダンスと経上皮電位測定の組み合わせは、前癌性の状態および癌性の状態を診断する際により正確である。
上記システムの別の欠点は、周波数範囲が定義されていないことである。選択された周波数の範囲に基づき、細胞について一定の情報が得られる。異なる周波数帯は、組織の異なる構造的な態様または機能的な態様に関連してもよい。例えば、F.A.Duck,Physical Properties of Tissues,London:Academic Press,2001;K.R.Foster,H.P.Schwan,Dielectric properties of tissues and biological materials:a critical review,Crit.Rev.Biomed.Eng.,1989,17(1):25−104参照。例えば、約1GHz超などの高周波数で、分子構造は、インピーダンス分布の緩和特性に著しい影響がある。緩和特性としては、印加された電界における、変化に対する組織の応答における遅延が挙げられる。例えば、組織のインピーダンス特性のために、印加された交流電流は、遅延または位相シフトなどの組織にわたる電圧変化を生じる。組織の緩和特性および分散特性は、印加された信号の周波数に基づいて変化する。
約100Hzまたはいわゆるα分散範囲などのより低い周波数で、大きな細胞膜境界におけるイオン輸送および電荷蓄積における変化は、インピーダンス分布の緩和特性を決定付ける。数kHzと約1MHzまたはいわゆるβ分散範囲との間の周波数範囲において、細胞構造が、上皮インピーダンス分布の緩和特性を決定付ける。低いkHz周波数におけるこの範囲内で、印加される電流の大部分は、傍細胞経路を通過する細胞と密着結合との間を通過する。β分散範囲におけるより高い周波数で、電流は、細胞膜を透過することができ、従って、細胞間および細胞の両方を通過し、電流密度は、細胞質および細胞核の組成および容積に左右される。特性的な変化は、α分散範囲における周波数で測定された上皮インピーダンス特性に影響を及ぼす悪性転換の過程中に、上皮イオン輸送において生じる。悪性化過程の後期には、密着結合の開放および減少する抵抗を有する構造的な変化の他、細胞の細胞質および原子核の組成および容積における変化は、β分散範囲において測定されたインピーダンスに影響を及ぼす。
上記で参照されたシステムの別の欠点は、変化したインピーダンスのトポグラフィが詳細に調べられないことである。測定電極を異なるように間隔をあけることによって、上皮を異なる深さまで探ることができる。2つの表面電極によって測定される深さは、電極間の距離の約2分の1である。従って、1mm離隔された電極は、約500ミクロンの深さまで下にある上皮インピーダンスを測定することになる。例えば、腸上皮厚さが、正常な腸の716±112μに比べて成長中の腫瘍の縁において1356±208μにまで増大することが知られている。D.Kristt et al.,Patterns of proliferative changes in crypts bordering colonic tumors:zonal histology and cell cycle marker expression.Pathol.Oncol.Res 1999;5(4):297−303参照。乳管癌がインサイチュー成長すると、乳房の管上皮を厚くすることもまた、観察される。約2.8mm離隔された電極で測定されたインピーダンスと約1.4mm離隔された電極のインピーダンスとを比較することによって、より深くて、かつより厚い上皮に関する情報が、得られる可能性がある。例えば、L.Emtestam & S.Ollmar.Electrical impedance index in human skin:measurements after occlusion,in 5 anatomical regions and in mild irritant contact dermatitis.Contact Dermatitis 1993;28(2):104−108L参照。
上記方法の別の欠点は、悪性化過程中に変化される特定の導電通路を探らないことである。例えば、カリウムの伝導度は、悪性化過程の早期には、大腸の表面上皮では、低下する。塩化カリウムの種々の濃度に関して1mm未満で離隔された電極を用いることによって、カリウムの伝導度および透過率は、500μから表面までの深さの表面上皮において推定されてもよい。
複数の非侵襲的インピーダンス画像化技術は、乳癌を診断する目的で開発された。電気インピーダンストモグラフィ(EIT)は、体表面に配置された多数の電極を利用するインピーダンス画像化技術である。各電極で得られたインピーダンス測定値は次に、コンピュータによって処理され、インピーダンスの2次元または3次元の再構成トモグラフィ画像および2次元または3次元におけるその分布を生成する。この手法は、異なる組織体タイプ間の伝導度の差およびインピーダンス率(impedivity)の差に依存し、臨床的に適用することが困難なデータ取得および画像再構成アルゴリズムに依存している。
EITシステムの大半は、「電流駆動モード」を利用し、2つ以上の電流通過電極間に一定の交流電流を印加し、体表面における他の電圧検知電極間の電圧降下を測定する。別の手法は、「電圧駆動手法」を用いることであり、2つ以上の電流通過電極間に一定の交流電流を印加し、他の電流検知電極で電流を測定する。異なるシステムは、利用される電極構造、電流または電圧の励起モード、励起信号パターンおよび交流周波数範囲においてさまざまである。
乳癌を診断するために、EITを用いることに伴う別の欠点は、乳房組織の不均一性である。画像再構成は、電流が乳房組織を均一に通過すると仮定し、乳房を含む組織の異なるタイプの種々の電気特性を仮定すると、見込みがない。さらに、画像再構成は、既知のインピーダンス分布から乳房の表面における電圧分布の計算(いわゆる順問題)と、次に、表電極で測定された測定電圧分布から乳房内のインピーダンス分布の推定(逆問題)とに左右される。再構成アルゴリズムは、大部分のEITシステムにおいて用いられる低い周波数のために、ポアソンの式を用い、準静的状態に関連する仮定を伴う有限要素モデル化に基づくことが多い。
他の特許、例えば、米国特許第4,955,383号および米国特許第5,099,844号などは、表面電位測定値が癌を診断するために用いられてもよいことを開示している。しかし、経験的な測定値は、解釈し、診断の際に用いることが困難である。例えば、上記で参照された本発明は、乳房のある領域と別の領域との間の電圧差(differential)を測定し、次に、それらの電圧差と対向する乳房における測定値とを比較することによって、癌を診断する。測定された表面電位における変化は、重なっている皮膚のインピーダンス特性における差に関連し得る。この事実は、上記で参照された発明および類似の発明においては無視され、診断精度が72%以下という結果に終わっている。J.Cuzick et al.,Electropotential measurements as a new diagnostic modality for breast cancer.Lancet 1998;352(9125):359−363;M.Faupel et al.,Electropotential evaluation as a new technique for diagnosing breast lesions.Eur.J.Radiol.1997;24(1):33−38参照。交流インピーダンス手法または表面直流測定手法はいずれも、経上皮乳房の直流電位または乳房上皮交流インピーダンス特性を測定しない。
交流測定を用いる他の発明、例えば米国特許第6,308,097号はまた、乳房の上皮経上皮電気特性も測定する直流電位測定値および交流インピーダンス測定値の組み合わせによって可能であると思われる精度より低い精度を有する。電気インピーダンス走査(EIS)はまた、電気インピーダンスマッピング(EIM)としても既知であり、EITが直面する複雑な画像再構成の制限を回避する。上記で参照されたシステムは、減少したインピーダンス(増大した伝導度)および癌全体にわたる静電容量における変化を測定することによってのみ、癌を診断する。本システムは、乳房の乳房経上皮インピーダンス特性を測定しない。この手法には他の制限が複数ある。気泡のために、不正確さを生じる可能性がある。下にある骨、肋軟骨、筋肉および皮膚は、高い伝導度領域を結果として生じる可能性があり、偽陽性を生じる。測定の深さは、3〜3.5cmに制限され、胸壁の病変に関して偽陰性という結果を招く。また、この手法を用いて、病変の位置を特定することは可能ではない。
異常な組織の検出に関する情報に関して、可能性のある別の源は、上皮における輸送変化の測定である。上皮細胞は、体の表面に一列に並び、体を外界から隔てるためのバリアとして機能する。上皮細胞は体を隔離するためだけでなく、かなり狭い制限の中でそれ自体の細胞質の環境を維持すると同時に、細胞バリア全体にわたって塩、栄養素および水を輸送することによって、体の環境を修正するためにも機能している。上皮層が一定の殴打(battering)に耐える1つの仕組みは、バリアの連続的な増殖および置換による。この連続する細胞増殖は、80%を上回る癌が上皮細胞に発生する理由を部分的に説明し得る。さらに、血液から外側におよび外側から血液に溶質をベクトル的に輸送する特殊な能力を仮定すると、変化された成長調整を含む病気の過程は、上皮輸送特性における変化に関連付けられることができるように見える。
鎮静期の線維芽細胞に血清を付加することにより、急速な細胞膜の脱分極を結果として生じることは既知である。細胞膜の脱分極は、細胞分裂に関連する初期現象である。成長因子によって誘発された脱分極は、ある場合には二相性に見えるが、細胞分裂は脱分極することなく刺激される場合がある。細胞膜の脱分極は、一時的には、Na+の流入に関連付けられ、その流入は、再分極が生じた後まで持続する。初期のNa+の流入は、脱分極を結果として生じる可能性があるが、一旦、細胞膜が再分極されると、場合によっては、Na/K ATPアーゼポンプ活性化に起因して、ナトリウム輸送の増大は止まらない。場合によっては、他の研究はまた、Na+輸送が細胞活性化中に変えられるという概念を支持している。Na+輸送が変えられることに加えて、K+輸送およびCl−輸送が、細胞増殖中に変えられる。
多数の研究が、鎮静期または非分裂である細胞と比べたとき、増殖中の細胞は相対的に脱分極されることを示している。違いは、特定のイオンチャネルの表現に関連付けられる。さらなる研究は、細胞増殖に関連付けられるイオン流動における変化、細胞内イオン組成および輸送の仕組みのために細胞膜の脱分極が生じることを示している。
細胞内のCa2+(Ca2+ i)およびpH(pHi)は、有糸分裂促進因子の活性化によって増大される。細胞増殖は、2つの第2メッセンジャー、すなわち1,2−ジアシルグリセロールおよびイノシトール−1,4,5−トリホスフェートを放出するホスファチジルイノシトールの活性化の後に開始されてもよい。これは、内部蓄積からCa2+ i放出を誘発する。Ca2+ iおよびpHiは、次に、細胞膜の電圧を維持する要因である細胞膜における種々のイオンチャネルのゲート開閉を変更させ得る。従って、他の細胞内のメッセンジャーの間の相互作用に関する電位、イオン輸送の仕組み、細胞膜電位がある。大部分の研究は、輸送および培養される細胞で行われ、癌の成長中の無傷の上皮において行われているわけではない。
非輸送細胞に比べて、癌細胞が相対的に脱分極されることは、かねてから既知であった。持続性の細胞膜の脱分極が、連続的な細胞増殖を結果として生じ、悪性転換が、持続性の脱分極および細胞分裂後に再分極される細胞の不全の結果として生じることが示唆されている。C.D.Cone Jr.,Unified theory on the basic mechanism of normal mitotic control and oncogenesis. J.Theor.Biol.1971;30(1):151−181;C.D.Cone Jr.,C.M.Cone.,Induction of mitosis in mature neurons in central nervous system by sustained depolarization. Science 1976;192(4235):155−158;C.D.Cone,Jr.,The role of the surface electrical transmembrane potential in normal and malignant mitogenesis.Ann.N.Y.Acad.Sci.1974;238:420−435参照。細胞膜の脱分極が転換および発癌中に生じることを多数の研究が示している。他の研究は、1つのラス変異が、変更されるイオン輸送および細胞膜の脱分極を結果として生じ得ることを示している。Y.Huang,S.G.Rane,Single channel study of a Ca(2+)−activated K+ current associated with ras induced cell transformation.J.Physiol.1993;461:601−618参照。例えば、CF1マウスにおける1,2ジメチルヒドラジン(DMH)を誘発する大腸癌の期間中に、大腸細胞の細胞膜の進行性の脱分極がある。組織学的に「正常な」大腸上皮において細胞内の微小電極で測定されたVA(頂端膜電圧)は、6週間のDMH治療後、−74.9mV〜−61.4mVまで脱分極され、20週間の治療までに−34mV脱分極される。良性のヒトの乳房上皮細胞株における細胞膜電位(MCF−10A)は、−50±4mV(平均±SEM)で観察され、ラス転換後の同じ細胞株(MCF−10AT細胞株)における−35±1mV(p<0.002)で著しく脱分極された。
上皮細胞は、細胞内のナトリウム濃度を通常は狭い範囲内で維持しているのに対して、電子顕微探針分析は、癌細胞がそれらの形質転換されていない対応する部分に見出される細胞ナトリウム/カリウム比率よりも3〜5倍大きい細胞ナトリウム/カリウム比率を示すことを示唆している。これらの観察は、細胞膜にわたるK+またはNa+勾配の損失のために、電気脱分極が悪性組織または前癌性組織に観察されることを部分的に説明している。
他の研究は、細胞膜の脱分極および変化した細胞内のイオン活量に加えて、上皮悪性疾患の成長中の起電性ナトリウム輸送の減少および非起電性輸送体の活性化が起こり得ることを示している。これらの変化は、変化した細胞内イオン組成の結果として、影響を及ぼすか、または生じ得る。
他の研究は、細胞膜の脱分極および変化した細胞内のイオン活量に加えて、上皮悪性疾患の成長中の起電性ナトリウム輸送の減少および非起電性輸送体の活性化が起こり得ることを示している。これらの変化は、変化した細胞内イオン組成の結果として生じ得る。他の特定のイオン輸送変化は、増殖、分化、アポトーシス、発癌の最中に、大腸、前立腺、乳房、子宮頚部、黒色腫、尿路上皮および膵臓において記載されている。
アポトーシスまたは生理学的な細胞死は、悪性疾患の成長中に抑制される。アポトーシスによって影響されるイオン輸送の仕組みとしては、Ca2+、非選択的Ca2+透過性陽イオンチャネル、カルシウム活性塩化物チャネルおよびK+−Cl−共輸送が挙げられる。J.A.Kim et al.,Involvement of Ca2+ influx in the mechanism of tamoxifen−induced apoptosis in Hep2G human hepatoblastoma cells.Cancer Lett.1999;147(1−2):115−123;A.A.Gutierrez et al.,Activation of a Ca2+−permeable cation channel by two differnt inducers of apoptosis in a human prostatic cancer cell line.J.Physiol.1999;517(Pt.1):95−107;J.V.Tapia−Vieyra,J.Mas−Oliva,Apoptosis and cell death channels in prostate cancer.Arch.Med.Res.2001;32(3):175−185;R.C.Elble,B.U.Pauli.Tumor Suprression by a Proapoptotic Calcium−Activated Chloride Channel in Mammary Epithelium. J.Biol.Chem.2001;276(44):40510−40517参照。
細胞間伝達の消失が、発癌中に生じる。これにより、イオンおよび上皮の電気的特性に影響を与える小分子スルーギャップ結合(small molecules through gap junctions)により仲介される細胞間の電気的結合に障害が生じる。
上皮細胞は、細胞間接着分子からなる密着結合によって相互に結合される。これらの接着蛋白質は、細胞間のイオンおよび分子の傍細胞輸送を調節し、上皮を締め付けることができる動的構造をなし、それにより、物質の移動を防止し、または解放して物質が細胞間を通ることを許容する。密着結合は、内在性膜蛋白質、クラウディン、オクルディンおよびJAM(接合接着分子)からなる。密着結合は、細胞内および細胞外の刺激に応答して開閉する。
多くの物質が、密着結合を開閉する。炎症誘発性の作用因子TGF−α、サイトカイン、IGFおよびVEGFは、密着結合を開く。閉鎖帯トキシン、酸化窒素ドナーおよびホルボールエステルもまた、密着結合を可逆的に開く。カルシウム、H2アンタゴニストおよびレチノイドを含む他の物質は、密着結合を閉じる。プロラクチンおよびグルココルチコイドなどの種々のホルモンもまた、密着結合を調整する。キトサンおよび小麦胚芽レクチンを含む薬物の配合に添加される他の物質は、非特異性の密着結合修飾物質として作用する。
上記で参照された物質および他の物質は、発癌中に変化する密着結合蛋白質に直接的または間接的に作用し得る。例えば、クラウディン−7は、乳癌の成長中に乳房管上皮で失われる。密着結合の応答は、上皮およびそれらを構成する蛋白質の悪性状態に応じて変化する。その結果、密着結合の開放または閉鎖は、上皮悪性状態に影響される。
ポリープまたは明白な悪性病変は、異常な増殖および変更される経上皮イオン輸送を背景にして成長し得る。大腸癌の実験動物研究は、経上皮脱分極が前癌性状態の早期特徴であることを示している。鼻ポリープの研究において、病変は、より高い経上皮電位を有するが、これらの病変は、通常、脱分極される腺腫性または前癌性大腸ポリープと同じ意味において前癌状態ではなかった。電気脱分極は、悪性乳房組織の生検で見出された。近年、インピーダンスにおける変化は、乳房および腸における前癌性状態または癌性状態に関連付けられることが分かっている。
経上皮脱分極は、CF1マウスにおける大腸の発癌に関連付けられる特定の減少であったことが分かっている。より罹患しやすい部位、遠位大腸は、わずか4週間の発癌治療後に経上皮電位(VT)のおける約30%の減少を被った。これは、組織学的な変化の発現前であった。同一期間にわたって投与された非特定の細胞毒性の作用因子(5−フルオロウラシル)は、同モデルにおいてVTの減少を生じなかった。約60%の減少が発癌治療後に観察された場合には、次の研究で、VTの減少が確認された。また、インビボで測定された場合には、VTは常に高いが、「前癌性」大腸上皮は、正常な大腸と比べた場合には、常に脱分極されることが発見されている。
直流電位変化は、嚢胞性線維症などの非悪性状態、動物モデル、ヒト細胞または人間の組織における癌を診断するために用いられている。正常な組織と癌との間のインピーダンスの差は、インビトロの動物モデル、インビトロのヒト組織について記載され、インビボの癌診断に適用されている。
直流電位測定は、癌の成長に伴う電気生理学的変化が十分に理解されていないか、または完全に特徴付けられていないために、癌を診断するためには、インピーダンス測定値と組み合わせていない。電位またはインピーダンスの表面測定値は、乳房上皮にわたって行われる測定値と同一ではなく、以下に記載されるように、電気的接触が管の管腔表面と下にある皮膚との間で行われる場合である。経上皮脱分極は、発癌中の初期現象であり、上皮に著しい領域に影響を及ぼし得る(「領域欠損」)。この脱分極は、イオン輸送変化およびインピーダンス変化を含む上皮における機能的な変化によって実現される。その過程の初期には、特定の起電性イオン輸送過程の減少のために、これらは、増大するインピーダンスの形態をとる。腫瘍が前癌性上皮において成長し始めると、形質転換細胞において、密着結合の損傷および核異型などの構造的な変化を生じる。構造的な変化は、腫瘍のインピーダンスの際立った減少という結果として生じる。上皮における電気的な変化のパターンおよび勾配は、直流電位測定値およびインピーダンス測定値の組み合わせからの癌の診断を可能にする。
直流電位測定値およびインピーダンス測定値が、癌の診断にうまく適用されていない別の理由は、経上皮電位およびインピーダンスが、きわめて可変であり、消化状態、食事の塩分摂取、ホルモンレベルにおける日周または周期的な変動または非特定の炎症性の変化および他の要因によって影響される。経上皮電位およびインピーダンスに影響する生理学的な変数に関する知識がない場合には、この種の測定値は、前癌性疾患または癌を診断するのにあまり確実ではない可能性がある。
さらに、発癌中に生じる機能的な変化および形態学的な変化に関する詳細な理解は、癌成長中に変化する特に識別されるイオン輸送変化に関する適切な電気的探索を可能にする。例えば、起電性ナトリウム吸収が乳房上皮における癌成長中に変化するという知識は、ナトリウム伝導度の阻害可能成分があるかどうかを調べるために、ナトリウムチャネルブロッカー(アミロライド)またはECM(導電性培養液)における可変ナトリウム濃度の使用を可能にする。測定の深さを変えることによって(異なる空間の電極にわたる電圧降下を測定することによって)、上皮における癌性の変換に関するトポグラフィ情報および深さ情報を得ることが可能である。異なる深さで探る低い周波数正弦波および高い周波数正弦波の組み合わせを用いて、組織のインピーダンス分布と異なる深さにおける機能的な変化および形態学的な(構造的な)変化を相関させることが可能である。
直流電位またはインピーダンスのみを用いた現在の技術の診断精度には、著しい制限がある。乳房における直流電位測定値の場合には感度および特定性はそれぞれ、90%および55%であり、インピーダンス測定値の場合に93%および65%と報告されている。これは、72〜79%の全体的な診断精度という結果に終わることになり、おそらく低すぎて広範囲に採用することができない結果となる。管経上皮直流電位、管経上皮交流インピーダンス分光法のみの測定または直流電位およびインピーダンス分光法の組み合わせは、90%を超える診断精度という結果になり、改善した臨床有用性をもたらす。
乳癌は、乳房組織の終端管小葉器官(TDLU)における上皮細胞から発生すると考えられている。これらの細胞が増殖し、鎮静期には種々の物質の吸収および分泌において機能的な役割を果たし、泌乳時には乳を生成し得る。乳房上皮における機能的な変化は、乳癌の診断に対して可能な手法としては、大部分は無視されてきた。乳房上皮は、授乳期中には乳の生成を担っている。毎月、更年期前の乳房上皮は、月経後に退縮を伴う妊娠のための「リハーサル」を行う。上皮が卵胞期から黄体期に入ると、平らになった上皮は、さらに円柱状になる。さらに、黄体期の後半中、管分岐および腺房の数は、最大に達する。月経直前に、上皮アポトーシスが生じ、この過程は、女性が妊娠しない限り、初めからやり直す。
妊娠初期および授乳期は、エストロゲンまたは他の環境要因のいずれにせよ、発癌物質の影響を受けにくい、さらに分化された乳房上皮を結果として生じるため、乳癌に対して保護され得る。従って、分化された乳房上皮は、悪性変化を受ける確率が低いと思われる。分化された乳房上皮は、ベクトル的輸送機能(乳の生成)を維持することを可能にするために、別個の頂側膜領域および側底膜領域を有する。さらに、管腔の内外に種々のイオン、ラクツロースおよび他の物質を輸送するために、分化される細胞は、より高い細胞膜電位を維持する。対照的に、より増殖性の上皮細胞は、脱分極された細胞膜を有し、ベクトル的イオン輸送を維持する可能性を低下させる。近年、上皮Na+チャネル(ENaC)および嚢胞性線維症の膜貫通調節因子(CFTR)は、乳房の上皮において同定され、いずれも上皮頂側または管腔側に局在化される。これらの2つの輸送体は、アミロライド、ENaCのブロッカーを用いることによって、またはcAMPを用いてCFTRによって調整されるCl−チャネルを開くことによって、探索されうる。
例えば、20μMの管腔のアミロライドは、経上皮電位を−5.9±0.5mV(平均±SEM)から+3.1±0.5mVまで脱分極した。cAMPを上昇させ、CFTRによりCl−チャネルを開放するホルスコリン(Forskolin)(10μM)は、乳房上皮を、−2.2±0.1mVまで過分極化させる。これらの変化は、それぞれ、経上皮の抵抗における増大(17%)および次の減少(19%)によって達成される。形質転換された乳房上皮において、ENaCは抑制されるのに対して、Cl−分泌は、増大される場合があり、これは、頸部の癌種の場合に報告された観察と類似である。非泌乳期の乳房上皮は、比較的濡れやすい密着結合を有する。これは、傍細胞分流電流を結果として生じ、上皮細胞の頂端膜を過分極化させる。分流電流が大きければ大きいほど、頂端膜はさらに過分極化され、従って、
TEP=VBL−VAおよびi=TEP/RS
(式中、TEP=経上皮電位、
VBL=側底膜の電圧、
VA=頂端膜の電圧、
i=分流電流、および
RS=傍細胞(短絡性)抵抗である。)
となるため、上皮が脱分極される。
乳房の発癌が乳房上皮機能不全症に関連付けられる可能性がある証拠はまた、複数の他の源によってもたらされる。マウスのいくつかの形質転換系は、欠陥のある乳分泌を有する。あるいは、増殖性肺胞小節を発現する形質転換のsrcマウスは、正常な乳房ツリーを発現するが、欠陥のある乳分泌を有する。notch4およびTGFβ形質転換マウスも欠陥のある乳分泌を示す。サイクリンD1雌は、離乳後6〜9ヶ月で持続的な乳分泌を有し、また、アポトーシスに欠陥を有し且つ上皮の退縮を受けないTGFαマウスは、分泌過多を発現する。これらのデータは、上皮機能と増殖および腫瘍発現に影響を与える遺伝子発現との間に関係があることを示唆している。
乳房嚢胞は、女性の人口の7%に発生し、TDLUにおいて成長すると考えられる。アポクリン嚢胞は、単純嚢胞より高いカリウム含有率を有する。アポクリン嚢胞は、乳癌の次の成長に関連付けられる可能性がある。従って、変化した嚢胞電解質含有率および細胞膜の脱分極を生じる細胞膜にわたる電解質含有率の再分配に関して、乳癌成長の危険がある上皮における基本的な変化があり得る。授乳期中に、乳房が管上皮および小葉上皮にわたって、ラクツロース、蛋白質、脂肪酸、免疫コレステロール、ホルモン、イオンおよび水を輸送し、活発に乳を分泌することは既知であるが、非妊娠状態かつ非泌乳状態において、乳房は、一生を通じて、排出および吸収機能を呈することは、それほど広く認識されていない。泌乳時の乳房と非泌乳時の乳房との間の差は、乳頭導管流体の化学的な構成および度合いである。管分泌物を分析して、乳房の生物学的状態を診断する。
導管流体を得るために、多くの手法が使用されてきており、これらには、得られた、たまった分泌物に対する吸引カップ、乳頭吸引流体(NAF)、さらに最近では、乳頭表面に対して開放する6〜12個の管のうちの1つのカニューレ挿入が含まれる。従って、導管流体中の細胞および物質を入手して、乳房の病的状態に関連付けられてもよい異常性を同定することができる。前述した手法の1つの欠点は、適切なNAFまたは洗浄液を得て分析を行うことが難しいという点である。他の欠点は、流体または細胞中の異常性が同定される場合がある管を識別し、あるいは当該管にカニューレを挿入することができないという点である。
Hung(米国特許第6,314,315号)は、乳頭表面における管オリフィスを同定するための電気的手法を示唆している。その開示において、直流電位測定またはインピーダンス測定は、乳頭の表面における開口またはオリフィスの同定を容易にし得ることを教示している。しかし、直流電気信号またはインピーダンスの特性が、乳房の状態を特徴付けることができることは教示されていない。さらに、乳房経上皮直流測定のみ、経上皮交流インピーダンス分光法のみまたはそれらの組み合わせが、乳癌を診断するために用いられうることは教示されていない。
乳房管内の流体分泌物と血漿との間にはイオン勾配が存在する。例えば、約150mEq/lの血清[Na+]に比べて、乳頭吸引液は、123.6±33.8mEq/l(平均±SEM)のナトリウム濃度[Na+]を有することが既知である(Petrakis1)。未経産女性は、経産女性より約10mEq/l高いNAF[Na+]を有するが、依然として血清レベルよりはるかに低い。同様に、カリウム濃度[K+]は、約5.0mEq/lの[K+]の血清に比べて、経産女性では13.5±7.7mEq/l、未経産女性では、12.9±6.0mEq/lで著しく高い。他の研究者は、著しいイオン勾配が血漿と非泌乳期の乳房の管腔との間で確率されることができることを示唆する、53.2mEq/lのより低いNAF[Na+]を報告している。妊娠において、これらの勾配は、血漿の約20倍薄い乳において報告された、8.5±0.9mEq/lの[Na+]を有するナトリウムの場合にはさらに高い。乳における塩化物の濃度[Cl−]は、報告された、11.9±0.5mMの値の血漿で見られる濃度の約10分の1である。授乳期の休止後には、管の分泌物における[Na+]および[Cl−]レベルは上昇し、[K+]は、減少するが、著しいイオン勾配は、管腔と血漿との間で維持される。
さらに、授乳期中の排卵サイクルを経験する女性において、明確な変化が、乳房の乳のイオン濃度およびラクツロース濃度で観察されている。第1の変化は、排卵前5〜6日に生じ、第2の変化は、排卵後6〜7日で生じる。これらの期間中、[Na+]および[Cl−]は、2倍以上増大し、[K+]は、約1.5倍減少した。排卵前後のエストロゲンまたは黄体ホルモンレベルにおける変化が、乳のイオン組成に影響しているかどうかは明白ではない。しかし、哺乳類において測定されたように、乳のイオン組成における変化は、経上皮電位に影響することは既知である。
さらに、種々のホルモンが、乳房上皮イオン輸送に影響を及ぼすことは既知である。例えば、プロラクチンは、乳房上皮細胞間の密着結合の透過率を減少させ、粘膜を刺激して漿膜のNa+フラックスにし、Na+:K+:2Cl−共輸送を促進し、乳における[K+]を増大し、[Na+]を減少させる。グルココルチコイドは、経上皮の抵抗を増大し、上皮透過率を減少する密着結合の形成を制御する。妊娠後期における乳房管へのコルチゾールの投与は、管分泌物の[K+]を増大し、[Na+]を減少させることを示している。黄体ホルモンは、妊娠中、密着結合の閉鎖を抑制し、非妊娠女性における月経サイクル中に観察される管の流体電解質における変動の原因となり得る。これについては上述した。エストロゲンは、細胞膜および経上皮電位を増大することが観察され、乳房上皮細胞におけるK+チャネルの開口を刺激し得る。上述したホルモンは、毎日および月経サイクル中、変化する。これらの変動が、管腔内のイオン濃度、経上皮電位特性およびインピーダンス特性を変化させる乳房上皮機能的特性に影響する可能性が高く、これらは、上皮細胞および経細胞および傍細胞の導電経路のイオン輸送特性に左右される。
従って、これらの変動は、今日まで未だ活用されていない乳房組織に対する変化の診断兆候として用いられうる。従って、異常な乳房組織の他、他の上皮組織および/または管組織を検出するために、効果的かつ実用的な方法に対する需要が依然としてある。
本発明者であるRichard J.Daviesにそれぞれ付与される以下の特許出願の開示、すなわち「Method and System for Detecting Electrophysiological Changes in Pre−Cancerous and Cancerous Tissue」という名称の2002年5月20日出願の米国特許出願第10/151,233号、「Method And System For Detecting Electrophysiological Changes In Pre−Cancerous And Cancerous Breast Tissue And Epithelium」という名称の2003年11月19日出願の米国特許出願第10/717,074号および「Electrophysiological Approaches To Assess Resection and Tumor Ablation Margins and Responces To Drug Therapy」という名称の2003年11月19日出願の米国特許出願第10/716,789号は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
ここで、本発明の実施形態を詳細に参照し、その実施例は、添付図面において示されている。可能な限り、図面を通じて同一の参照符号は、同一の部分または類似の部分を指すために用いられる。
本発明は、異常なまたは癌性の上皮組織を特徴付けるために用いられる先行技術の方法に関連する問題および不適切さを克服する。要約すれば、本発明の種々の実施形態は、特に構成された電極を用いて、乳房上皮および腫瘍にわたる電流または信号を通過させる周囲および/または可変の吸入下で直流測定値および/またはインピーダンス測定値を用いる。例えば、乳頭電極は、乳房組織を包囲する管上皮、皮膚と表面または他の電極との間の電圧および/またはインピーダンスを測定するために用いられてもよい。乳頭電極はまた、乳房の管系に沿って電流を通過させるために用いられてもよい。別のタイプの電極が、電圧信号および/またはインピーダンス信号を測定するため、および/または電流を通過させて、乳頭表面の個別の管オリフィスにおける信号を測定するために用いられてもよい。別のタイプの電極が、電圧信号および/またはインピーダンス信号を測定するため、および/または電流を通過させて、改変した管プローブまたはそれに取り付けられた1つまたは複数の電極を有し得る管内鏡を用いて個別の管内の信号を測定するために用いられてもよい。これらの電極のすべては、個別に、互いにまたは表面プローブまたは電極と組み合わせて用いてもよい。その上、直流およびインピーダンス測定値は、異常な組織または癌性の組織をさらに適切に特徴付けるために組み合わせて用いられる。直流測定値は、上皮機能状態に関する情報を提供し、前癌性の変化および隣接する悪性疾患を早期に検出することができる。特に、異なる間隔の電極を用いて特に定義された範囲における複数の周波数でのインピーダンス測定値は、深さおよびトポグラフィ情報を提供し、調べる組織に関する構造的情報(高い周波数範囲)および機能的情報(低い周波数範囲)の両方を与える。異常な組織または癌性の組織は、イオン置換および/または薬理学的操作およびホルモンの操作を用いて上皮組織における輸送変化を検出し測定することによって、検出されて特徴付けられることができ、異常な前癌性の細胞または癌性の細胞の存在を決定する。経上皮直流電位、インピーダンスまたは上皮における輸送の変化に敏感な他の電気生理学的特性の基準線レベルが、評価される組織において測定される。輸送を強化し、輸送変化を検出することを可能にする作用因子が、導入されてもよい。組織の経上皮直流電位および/またはインピーダンス(または、輸送における変化を反映するか、または輸送における変化を検出可能にする他の電気生理学的特性)が次に、測定される。導入される作用因子および測定される電気生理学的パラメータに基づき、組織の状態が決定される。
乳房上皮組織の選択された領域の状態を決定するための方法およびシステムが、提供される。少なくとも2つの電流通過電極が、組織の選択された領域の第1の表面と接触する位置に置かれる。あるいは、電流通過電極は、例えば、乳頭管、管腔、上皮、乳房柔組織および乳房の表面などの間の組織または上皮にわたって電流を通過させてもよい。あるいは、管は、中央管カテーテルまたは管内鏡によってアクセスされてもよい。複数の測定電極が、同様に、乳房の第1の表面と接触する位置に置かれる。最初に、測定電極のうちの1つまたは複数の電極は、別の電極または基準点に関係付けられる直流電位を測定するために用いられる。信号は、電流通過電極間で確立される。確立された信号に関連付けられるインピーダンスは、測定電極のうちの1つまたは複数の電極によって測定される。あるいは、測定のために、3電極系を用いてもよく、1つの電極が電流注入および電圧記録の両方のために用いられる。作用因子が、組織の領域内に導入される。組織の状態は、測定された直流経上皮電位、インピーダンスまたは他の電気生理学的特性における作用因子の影響に基づいて決定される。記載した方法および装置における電極は、検査される組織に接触して、検査される組織の付近で、検査される組織の上方で、または検査される組織に挿入して用いられることができる。本方法が、これらの構成の1つを包含するような実施形態において記載されている場合には、他の方法と交換可能に用いられうることが考えられることを理解すべきである。例えば、本方法が、組織と接触する電極を有するものと記載されている場合には、本方法は、組織に挿入される電極または組織の付近にある電極と共に用いられうる。同様に、本方法が組織の付近にある電極を有するものと記載されている場合には、電極は、組織に接触することもでき、または組織に挿入されることもできることと考えられる。
異常な前癌性の上皮組織または癌性の上皮組織における輸送変化をより正確に検出するために、組織を操作するために、薬理学的作用因子が、導入されてもよい。薬理学的作用因子は、特定のイオン輸送および電気活性度のアゴニスト、特定のイオン輸送および電気活性度のアンタゴニスト、イオン置換および/またはホルモン因子刺激または成長因子刺激または電気活性度の抑制を含んでもよい。
調査される組織の位置に応じて、薬理学的作用因子またはホルモン作用因子を投与するために、複数の方法が用いられてもよい。他の例示の方法としては、管注入、潅流、直接の接触または注入を介して、調査される組織に対して直接的に作用因子を導入することが挙げられる。別の例示の方法としては、皮膚表面に作用因子を塗布することが挙げられ、作用因子が経皮的に、または皮膚を通して作用する。さらに別の例示の方法としては、電気穿孔法が挙げられ、管上皮または表面が、対象の臓器または上皮に接触する電極または対象の臓器または上皮を貫通する電極を介した交流の通過によって透過される。作用因子は次に、臓器およびその構成細胞の中で受動的に拡散する。作用因子は、改変された乳頭吸引カップおよび電極を用いて乳房管系の中に直接的に導入されてもよく、または管カテーテルまたはプローブを用いて、特定の管の中で洗浄されてもよい。さらなる例示の方法としては、吸入、経口投与、洗浄、経管栄養、浣腸、静脈または動脈への腸管外注入、舌下または頬粘膜、または腹腔内投与によるものが挙げられる。当業者は、他の方法が可能であり、選ばれる方法が、調査される組織によって決定されることは認識される。
従って、本発明と一致するシステムおよび方法は、前癌性疾患または癌を診断するために、経上皮電位測定値または/およびインピーダンス測定値を用いる。さらに、本発明と一致するシステムおよび方法は、前癌性疾患および癌における機能的変化および構造的変化を特徴付けるために、組み合わせた所定の集合の周波数を用いる。離隔された電極を用いることによって、本発明は、前癌性疾患または癌を診断するために、検査中の上皮に関するトポグラフィ情報および幾何的な情報(深さ)を提供し得る。一実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、前癌性疾患または癌を診断するために、特に処方されたECMを有する電極を用いて、上皮に関する機能的な情報を提供する。
経上皮乳房の直流電位を測定するために、管の管腔は、乳頭カップ内で凹部を形成したAg/AgCl(または類似の低オフセットの白金/水素、チタン、スズ鉛合金、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、炭素または他の導電金属または導電ポリマー電極)ペレットの間の電気接続を成形するために構成された乳頭電極によって、電気的にアクセスされる必要があるカップは、ECM(導電性媒体)で充填され、ECMは、受動的にまたはシリンジまたはポンプによる吸引後に管系に入り、管腔と接触する。乳房の表面に配置された表面電極が、電気回路を完成し、その結果、管上皮または腫瘍の中心と皮膚表面との間で経上皮電位の測定が行われてもよい。類似の考慮事項が、経上皮交流インピーダンスを測定するために与えられなければならず、測定電極は、皮膚表面電極と組み合わせた乳頭電極を利用することによって、管上皮または腫瘍にわたる電圧降下および位相シフトを測定する。この手法の他の構造は、さらに侵襲的であり、測定は、管内鏡または乳頭管プローブを介して挿入される電極と皮膚またはIV(静脈内)に関係付けられる電極、皮内または皮下の電極との間で行われることができる。他の実施形態において、管はまた、皮膚を通して挿入される針電極によってアクセスされてもよい。
直流経上皮測定をインピーダンス測定と組み合わせるために、低接触インピーダンスを有する表面電極に関係付けられる電圧検知電極またはIVを介した血流または針電極または上に重なっている表皮または他の上皮を透過する電極を介した間質性の体液または他の体基準点を用いて、直流電位の基準線測定値を得ることが必要である。電極は、ECM中に、異なるイオン濃度薬理学的作用因子またはホルモンを含み得る。この説明において用いられるとき、ECMは、測定されている表面と電極との間で電気信号の透過を可能にする媒体である。作用因子としては、組織の状態に関するさらなる情報を提供するように選択される任意のイオン濃度、薬理学的作用因子、ホルモンまたはECMに添加または調査中の組織に他の方法で導入される他の化合物が挙げられる。他の実施形態において、作用因子の濃度は、貫流系を用いて変更されてもよい。
導電性媒体としては、電極表面と皮膚または上皮表面との間の接点のインピーダンス(交流に対する抵抗)を低減するために、外部電極または内部電極と共に用いられる導電流体、クリームまたはゲルを挙げることができる。直流電極の場合には、ECMは電極表面に最も低い直流オフセットまたは測定されうるオフセットを結果として生じることがまた望ましい。ECMは、表面電極との電気接点を確立するために、皮膚のより深い層から流体および電解質を引き出すヒドロゲルを含有することが多い。電流を通過させるために用いられる電極は、高い伝導度を有するECMを必要とする。通常、これは、高い電解質含有量を有するECMを用いることによって達成される。頻繁に用いられる電解質は、KCl(塩化カリウム)である。自由溶液におけるこれらの2つのイオンは類似のイオン移動度であるために、電極分極は、異なる移動度のイオンが用いられる場合にはほとんど問題がない。ナトリウムなどの他のイオンが、ECM製剤において用いられてもよく、より高い電解質濃度はより迅速な電極の平衡を結果として生じる。
特定のイオンに対する上皮透過率が推定される状況において、ECMにおけるKの濃度は、可変であることから、カリウムに対する上皮伝導度は、電気生理学的に測定されてもよい。ECM中の電解質に対する下にある皮膚の伝導度を増大するために、エンハンサーまたは浸透剤が、ECMに添加されてもよい。他の手法としては、表面皮膚の抵抗を低減するための穏やかな表面研磨または皮膚表面抵抗を低減するために、角質層に浸透するだけであるケイ素電極が挙げられる。
インピーダンス変化の深さを測定するために、電圧降下は、異なる感覚を有する表面電極間で形成される。間隔は、調べられる深さの知識によって決定される。同様に、2つの異なる周波数範囲が、異なる深さの機能的な変化および構造的な変化を測定するために用いられる。
異常な前癌性の上皮組織または癌性の上皮組織における異なる深さで機能的な輸送変化をより正確に検出するために、薬理学的作用因子が、組織を操作するために導入され、異なる周波数で組織を電気的に探索し、異なる間隔の電極間で電圧降下を監視する。薬理学的作用因子としては、特定のイオン輸送および電気活性度のアゴニスト、特定のイオン輸送および電気活性度のアンタゴニスト、イオン置換および/またはホルモン因子刺激または成長因子刺激または電気活性度の抑制が挙げられる。
調査される組織の位置に応じて、薬理学的作用因子またはホルモン作用因子を投与するために、複数の方法が用いられる。1つの例示の方法としては、管潅流、注入、直接の接触または注入を介して、調査される組織に対して直接的に作用因子を導入することが挙げられる。別の例示の方法としては、皮膚表面に作用因子を塗布することが挙げられ、作用因子が経皮的にまたは皮膚を通して作用する。さらに別の例示の方法としては、電気穿孔法が挙げられ、上皮または表面が、対象の乳房または管上皮表面に接触する電極または対象の乳房または管上皮表面を貫通する電極を介した交流の通過によって透過される。作用因子は次に、臓器およびその構成細胞の中で受動的に拡散する。さらなる例示の方法としては、吸入、経口投与、洗浄、経管栄養、浣腸、静脈または動脈への腸管外注入、舌下または頬粘膜、または腹腔内投与によるものが挙げられる。当業者は、他の方法が可能であり、選ばれる方法が、調査される組織によって決定されることは認識される。
導入される作用因子および調査される組織に基づき、インピーダンスなどの電気生理学的特性の測定が行われる。測定されうる他の特性としては、経上皮電位、悪性状態に関連する経上皮電位またはインピーダンスにおける自発的振動の変化、細隙結合機能の損失を表す電極間の伝搬信号における時間遅延が挙げられる。隣接する細胞が電気的に結合される場合には、電気信号を薬理学的に導出し、表面上皮細胞を介した上流および下流への信号伝搬を測定することによって、結合の損失を調べることができる。これは、細隙結合の機能的測定であるのに対して、単純な電気刺激は、細胞間の電流の分路(少なくとも高い周波数範囲における構造的な測定)を測定する。
これらの測定の結果が次に用いられ、調査される組織の状態を決定する。例えば、特定のイオン輸送過程が、癌の成長中に変更されることを研究は示している。例えば、起電性Na+輸送の損失、Na/H交換における促進、K+伝導度における抑制、基礎的なCl−吸収における減少およびc−AMP(環状アデノシン−3’,5’−環状一リン酸)が刺激するCl−分泌の抑制が、観察されている。
従って、特定の上皮組織に適した作用因子を投与し、関連する電気生理学的特性を測定することによって、異常な前癌性の組織または癌性の組織が早期段階にある間にそのような組織を検出することが可能である。本発明の方法およびシステムが、前立腺癌、大腸癌、乳房癌、食道癌、鼻咽腔癌などの任意の上皮に由来する癌の他、肺、胃、子宮頚部、子宮内膜、皮膚および膀胱などの他の上皮悪性疾患に適用可能であるがこれらに限定されるわけではないことを理解すべきである。
特に、粘膜の組織または上皮組織に悪影響を及ぼす癌において、輸送変化は、多数の細胞に悪影響を及ぼす早期変異(すなわち、領域欠損)の結果であることを示唆するほど十分に大きい可能性がある。この場合には、輸送変化は、患者がさらに頻繁に監視されるべきかまたはその逆であるかを決定するための、潜在的な生物マーカとして利用されてもよく、生検を必要とする上皮特定の領域を同定するために用いられてもよい。後者は、異型乳管過形成または非浸潤性乳管癌(DCIS)の場合には特に有用である。これらは、侵襲的な生検手段をとらなければ、マンモグラフィまたは臨床的乳房検査によって検出することがより困難である。
本発明の方法を適用し、いくつかの観察が行われている。
(1)悪性乳房を、良性乳房または正常な乳房と比較すると、総インピーダンスにおける差が観察される。悪性乳房を良性乳房と比較すると、総インピーダンスは、悪性乳房の場合にはより高く、50,000オーム以上の総インピーダンスである。
(2)悪性乳房を良性乳房または正常な乳房と比較すると、総静電容量は、概して低かった。
(3)正常な乳房および悪性乳房に関するインピーダンス曲線は、より低い周波数で分離する。
(4)曲線の形状は、乳房の病理学的な状態に応じて異なる。
(5)腫瘍の電気抵抗は、より低い周波数で、例えば、約1〜約0.1ヘルツの範囲でより低い可能性がある。これもまた、腫瘍のタイプおよびサイズに左右される。
(6)腫瘍の静電容量は、より低い周波数で、より高い可能性がある。これもまた、腫瘍の病理学的なタイプおよびサイズに左右される。
(7)乳房の病理学的な進行状況に応じて、位相角、特性静電容量およびインピーダンス円弧の中心の抑制に差がある。
(8)電流が、乳頭から乳房の表面ではなく、乳房または体の別の部位から悪性腫瘍にわたって通過するときに、乳頭と腫瘍との間、すなわち、管上皮にわたってではなく、腫瘍にわたって電圧降下が測定される場合には、インピーダンスは、より低い可能性がある。測定が管上皮にわたってではなく、悪性腫瘍にわたって行われる場合には、静電容量は通常、より高い。従って、測定の組み合わせ、すなわち、乳頭対乳房表面(経上皮インピーダンス分光法)、体表面対乳房表面(腫瘍にわたるインピーダンス)および経上皮電位(皮膚と直列の管上皮)が、最適な診断情報を提供する。
本発明の方法は、約60,000ヘルツ〜約0.1ヘルツの全体的な周波数範囲で利用される場合に特に有用であるが、特徴的な情報の大部分は、約200Hz未満の周波数で観察される。好ましいプロトコルは、約60,000Hz〜約200Hzの間で5〜10個の電気測定(インピーダンス、リアクタンス、位相角、抵抗など)を行い、次に、約200Hz〜約0.1Hの間で、好ましくは約150Hz〜約0.1Hの間で、さらに好ましくは約100Hz〜約0.1Hの間で、例えば、約50Hz〜約0.1Hの間で、(例えば、患者の快適性、機器の応答時間などを考慮して)可能な限り多くの測定を行うことである。これは、より低い周波数範囲の1つまたは複数において約20〜約40個の測定を行うことを意味することができる。
吸引および解放の交互の適用は、乳頭管を開き、その結果、このプロトコルが次に続く場合には、インピーダンスは一般により低いこともまた、観察されている。これは通常、高い周波数範囲でインピーダンスを下げることになる。これは、測定雑音を低減し、乳頭管に沿って、腫瘍部位までの電流通過を強化する。さらに、アルコールまたは脱角質化(dekeratinizing)作用因子、例えばNuprep(登録商標)などを用いることによって、乳頭表面の表面管開口で角質プラグを除去するために、乳頭およびより大きな集合管のインピーダンスを下げる点で改善されうる。管系を開くための方法は、乳管内視鏡法(例えば、Acueity)に関して周知であり、乳頭吸引分泌物採取法(NAF)または管洗浄(例えば、CYTYC)を行うが、この技術は、本発明の分野に既に適用されていたわけではない。特に改善されたデバイスは、律動的に吸引するために圧力計に接続される自動吸引ポンプを用い、これは乳房ポンプに類似している。次に、所定のレベルにおける保持吸引圧力を用い、次に、保持圧力を別のレベルに変更して、インピーダンススペクトルにおける変更された吸引の影響を診断試験として用いることができるようになっている。理論によって束縛されるものではないが、電気応答における差、例えば、異なるインピーダンス曲線は、正常な乳房における吸引の適用によって、当然管の潰れを生じるのに対して、管における悪性疾患の存在は、そのような潰れを抑制すると考えられる。
本発明と共に用いられるデバイスに関して、複数の変形が可能である。さらに、デバイス設計の中で、変更可能な多数の態様がある。これらの変形および他の変形は、以下に記載される。
1つのプローブまたは他のデバイスは、凹んだウェルに複数の小型電極を含む。フィルタリングなどの使い捨て可能な市販のシリコンチップ処理機能は、表面記録および初期の電子処理を行ってもよい。各ECM溶液または作用因子は、チップ上で個別の電極および容器に特有であってもよい。従って、1回の測定では、特定の電極のセットが用いられる。別の測定では、例えば、異なるイオン濃度で、異なる電極のセットが用いられる。1回の測定用の電極は別の測定の場合には同じ点に位置しないことから、これは、いくつかの変形を生成するが、このシステムは一般に、信頼性の高い結果を生じる。
代替の手法は、少数の電極を用い、溶液および作用因子を変化させるために貫流または微小流体系を用いることである。特に、溶液または作用因子は、チャネルを通り、プローブの表面の微細孔から溶液または作用因子を移動させるために、少量の電流を通過させることによって変化させる。この実施形態において、電極は、皮膚または管上皮の同一の領域と依然として接触し、従って、測定における領域間の変動を削減する。この手法は、異なる溶液間の平衡のために時間を必要とする。
異常な前癌性の乳房組織または癌性の乳房組織の存在を検出するために、ハンドヘルド式プローブが、皮膚における表面測定を行うために提供される。プローブは、電流を通過させるための他、測定のための電極を含み得る。インピーダンス測定は、乳頭カップ電極とハンドヘルド式プローブとの間で行われてもよく、またはハンドヘルド式プローブ上の電極間で行われてもよい。あるいは、管内鏡または非光学式管プローブが、1つまたは複数の小型電極と接続されてもよい。初期の直流測定を行った後、湿潤/浸透作用因子が、皮膚インピーダンスを削減するために導入されてもよい。作用因子は、上述したように、微小流体手法を用いて、電極の表面に流体を移動させるために導入されてもよい。あるいは、角質層をちょうど透通する表面電極が、インピーダンスを減少させるために用いられてもよい。
デバイスの構造に関係なく、図1は、本発明と一致する癌の診断の際に用いられる直流および交流インピーダンス測定システム100の概略図である。システム100は、複数の電極を含むプローブデバイス105に接続し、プローブデバイス105の実際の実装は、試験中の臓器および状態に左右される。プローブデバイス105は、針、体腔、管内鏡、非光学式管プローブまたは表面プローブに取り付けられる電極を組み込んでもよい。基準プローブ110は、調査中の乳房の試験状況および領域に応じて、静脈内プローブ、皮膚表面プローブ乳頭カップまたは管上皮表面の基準プローブの形態をとってもよい。
浮遊容量を回避するために、電極は、遮蔽された配線を介して、ディジタル信号プロセッサ(DSP)130からのコマンドを受けて特定のプローブ105を選択し得る選択スイッチ120に接続されてもよい。選択スイッチ120はまた、プローブ105に接続される適切なフィルタを選択し、低域通過フィルタが直流測定中に用いられ、および/または中間フィルタまたは高域通過フィルタが交流インピーダンス測定中に用いられるようになっている。選択スイッチ120は、電流を複数の増幅器からなってもよい増幅器アレイ140に供給するか、または複数の電極が用いられる場合には、同一の増幅器を介して異なる電極からの信号を切り換える。好ましい実施形態において、雑音に埋もれた微細な信号を検出するために、ディジタルまたはアナログのロックイン増幅器が用いられる。これは、基準周波数における振幅変調として対象の信号の測定を可能にする。切換え要素は、測定の内容に応じて、対象の信号の平均化、サンプリングまたは選択を行ってもよい。信号のこの処理は、CPUからのコマンドを受けてDSPによって制御される。信号は次に、マルチプレクサ150を通過し、ADCによってアナログ信号からディジタル信号に変換される前に直列化される。プログラム可能なゲイン増幅器160は、入力信号をADC170の範囲に整合させる。ADC170の出力は、DSP130を通過する。DSP130は、情報を処理して、管上皮または皮膚表面の他、疑わしい領域全体において、直流電位およびそのパターンを計算する。さらに、種々の深さにおけるインピーダンスと、イオン、薬物、ホルモンまたは他の作用因子の異なるECM濃度に対する直流電位およびインピーダンスの応答が用いられ、癌の可能性を推定する。結果は次に、CPU180に送信され、試験結果185を与える。
あるいは、信号解釈は、CPU180で部分的にまたは完全に行われてもよい。合成波形信号をプローブ電極および試験中の組織に送信するために、任意の波形生成器190または正弦波周波数生成器が用いられる。(合成波形刺激の場合には)測定された信号応答は、DSP130またはCPU180においてFFT(高速フーリエ転換)を用いてデコンボリューションを行ってもよく、この信号応答から異なる試験状態下でインピーダンス分布が測定される。インピーダンス測定に関する系の内部較正のために、内部較正基準195が用いられる。直流較正は、外部で行われてもよく、利用されているプローブを外部基準電解質溶液に対して較正する。
図2は、本発明と一致するハンドヘルド式プローブ400を含み、このプローブ400は、乳房の表面に適用され得る。プローブは、取っ手410を含んでもよい。プローブ400は、例えばワイヤレス技術を用いて、測定デバイス420に直接的または間接的に取り付けられてもよい。プローブ400は、静脈内電極、皮膚表面電極、他の接地、管内または乳頭オリフィスにおける乳頭電極または管プローブ電極に関係付けてもよい。図2に示される一実施形態において、基準は、乳頭電極または管プローブ430にあり、拡大図440でさらに詳細に示される。この構造の1つの利点は、乳頭電極430とプローブ400との間で、直流電位およびインピーダンスを測定することができることである。従って測定は、乳房管上皮、非管乳房、すなわち柔組織および皮膚の直流電位または/およびインピーダンスの組み合わせである。
拡大図440を参照すると、管プローブは、乳頭の表面上に開く複数の管オリフィスの1つに挿入される。管プローブ443は、より大きな集合管445を排出する管洞444の中に示されている。
乳頭電極を用いる別の利点は、管系を潅注するための溶液が、プローブを通じて交換されてもよく、薬理学的作用因子および/またはホルモンの作用因子の導入を可能にすることである。拡大した乳頭プローブ443、443’で示されているように、流体は、サイドポートを通じて交換されうる。流体は、管内に注入され、乳頭プローブの近位端(乳頭から遠い端)で吸引されてもよい。異なる電解質溶液が、管内に注入され、特定のイオンに対する管上皮変更した透過率を測定してもよく、または上皮が異なる薬物を用いて調べられ、異常性を示す領域を同定してもよい。エストラジオールまたは他のホルモンの作用因子が、乳房管内に注入され、上皮における前癌性変化または悪性変化に関連付けられる異常な電気応答を測定してもよい。
乳頭に対して吸引を施す改変したザルトリウス(Sartorius)カップなどの異なる構造もまた、用いてもよいことを理解すべきである。この構造を用いて、穏やかな吸引が、乳頭の上に配置されたカップに対して施される。大きな管および管洞の中の少量の流体が、ザルトリウスカップ内の電解質溶液と接触し、乳房管を充填している流体との電気接点を確立する。直流または交流測定が次に、カップと表面乳房プローブとの間で行われてもよい。
図3は、図2のプローブ400をさらに詳細に示している。表面450の皮膚接点は、乳房と接触するように配置される。表面電極451は、直流電圧または交流電圧を測定する。電流通過電極452は、インピーダンス測定用に用いられる。プローブ400はまた、1つまたは複数のECMを含有する1つまたは複数の凹んだウェルを含んでもよい。複数のセンサ電極アレイは、電流通過電極と共に表面プローブに取り付けられてもよい。個別の電極は、凹んでいてもよく、異なる組成を有するECMが、薬理学的に、電気生理学的にまたはホルモンプローブによって、試験中のより深い組織または上皮を探るために用いられてもよい。電極の間隔は、他の臓器系の場合より、乳房構造の場合の方が広く、その結果、より深い組織を電気的に探り、より深い組織のインピーダンスを評価することができる。このプローブは、乳房の表面に接触するように受動的に配置されてもよく、または対象の領域にわたる空気吸引によって所定の場所に保持されてもよい。ポートが、溶液の交換または流体の交換および吸引のために配置されてもよい(図示せず)。電極間のクロストークを防止するため、接点表面から乳房に電流を通すために、ガードリング(図示せず)が組み込まれてもよい。この構造において、4つの電流通過電極[453]があり、それぞれ、半径方向に90°で離隔して位置決めされる。これは、電流を通過させ、電圧応答を直交場において測定することを可能にする。電極は、電線またはワイヤレス技術を介して、上記の図1において記載したデバイスを用いて接続される。
この技術のさらなる実施形態は、乳房の異なる深さを探るために離隔された電極を用いることと、皮膚表面で測定される良性乳房組織および悪性乳房組織によるインピーダンスおよび経上皮電位を区別して変更するために、ホルモン、薬物および他の作用因子を用いることを伴ってもよい。これは、診断精度におけるさらなる改善を可能にする。
図4は、基準電極、電流通過電極、電圧測定電極または結合電極[502]として用いられてもよい乳頭カップ電極[500]を示している。この構造において、吸引および流体交換は、サイドポート[510]を通じてフレキシブルホース[515]によって、吸引デバイス、吸引器またはシリンジ(図示せず)に接続される電極ハウジング[501]に適用される。カップの基部にあるフランジ[503]は、乳房[520]の乳輪に適用される。乳房[520]と乳頭電極[501]との間の封止を行うために、空気吸引は、サイドポートを通じて行われ、通路[512]によってハウジングに連通される。電解質溶液がカップを充填し、下にある管系との電気接点を形成するために用いられる。交互吸引を行い、サイドポートを通じて流体または薬物をカップに注入することによって、流体は、交換されてもよく、薬理学的作用因子およびホルモンの作用因子が導入されてもよい。空気吸引は、それ自体によって、またはアルコールまたは脱角質化剤を用いた準備後に管開口[505]を開いて、乳頭の表面における管開口で角質プラグを除去する。乳頭カップ電極[502]は、直流電位測定、交流インピーダンス測定または組み合わせた測定を行うために、図1〜図3に示されたデバイスを用いて、電気接続[530]またはワイヤレス接続(図示せず)によって接続されてもよい。
図5は、代替の手法を示し、この方法では、個別の管は、シリンジ[555]に取り付けられた可撓性カテーテル電極[550]を用いて調べる。これは、特定の管が流体を生成し、診断が流体を生成する特定の管系で行われる場合に用いられてもよい。この構造において、食塩水を充填したシリンジが、可撓性電極[550]に接続され、可撓性電極[550]は、管[551]に接続される。カテーテルを通じて流体が交換されてもよく、または薬物およびホルモンが、管内に注入されてもよい。シリンジ内の電極またはシリンジに取り付けられた電極は、個別の管系との電気接点を形成し、表面プローブ電極[552]が、回路を完成し、その結果、直流電位、交流インピーダンスまたは両方の組み合わせが、図1〜図3に示されたシステムと組み合わせて、管上皮、皮膚および介在する乳房柔組織にわたって測定されてもよい。別の手法は、管内鏡に接続された電極を有する表面プローブと組み合わせて管内鏡を用いることである。
組織の電気生理学的特性および正常な組織と異常な組織との間の差を測定するためのデバイスとしては、当分野では周知のデバイス、例えば、電気計測器、ディジタル信号処理器、電圧計、発振器、信号処理器、電位差計または電圧、伝導度、抵抗またはインピーダンスを測定するために用いられる任意の他のデバイスなどが挙げられる。
直流電位は通常、高い抵抗および2つの電極(1つは作動電極であり、1つは基準電極である)と直列の検流計からなる電圧計を用いて測定される。電圧計は、アナログまたはディジタルのいずれであってもよい。理想的には、これらは電流引き込みを回避するために、きわめて高い入力抵抗を有するべきである。直流電位はまた、オシロスコープを用いて測定されてもよい。
インピーダンスは、複数の手法を用いて測定される。例としては、位相ロック増幅器を含み、位相ロック増幅器は、ディジタルロックイン増幅器またはアナログロックイン増幅器のいずれであってもよいが、これらには限定されない。前置増幅器は、迷走電流を最小限に抑えて接地し、精度を改善するために、ロックイン増幅器とつないで用いられてもよい。ディジタルロックイン増幅器は、2つの正弦波の乗算に基づき、一方の正弦波は、対象の振幅変調情報を搬送する信号であり、他方の正弦波は、特定の周波数および位相を有する参照信号である。信号生成器は、正弦波または合成信号を生成して組織を刺激するために、用いられることができる。アナログロックイン増幅器は、位相検知検出器(PSD)および低帯域通過フィルタを含む同期整流器を含む。他の手法は、交流正弦波を生成するために、発振器を有するインピーダンスブリッジの使用を含む。これらのデバイスは、自動化時に、LCRメータと呼ばれ、自動平衡ブリッジ技術を用いる。定電流または定電圧の電流源が用いられてもよい。好ましい一実施形態において、定電流源が、用いられる。固定周波数信号を用いる発振器ではなく、重ねた正弦波を生成する信号生成器が用いられてもよい。
組織の応答は、高速フーリエ転換または他の技術を用いてデコンボリューションされる。測定を行うために、2極性、3極性または4極性の電流および電圧電極が、用いられてもよい。好ましい一実施形態において、電極の分極および電極と組織のインピーダンスエラーに起因して持ち込まれる不正確さを回避するために、4極性の電極構造が、採用される。インピーダンスではなく、電流密度が、上皮または皮膚表面における電極のアレイを用いて測定されてもよい。インピーダンスはまた、皮膚または上皮と電極接触する必要がなく、電磁誘導を用いて測定されてもよい。
大量のデータを処理するために、本発明の方法は、コンピュータ読み出し可能媒体上のソフトウェアによって実行され、コンピュータ化された機器または中央演算処理装置によって実行されることが可能である。
[実施例1.乳癌]
上述したように、インピーダンスおよび直流電位は、乳癌を診断するために、皮膚の表面で個別に用いられている。これらの方法はいずれも、乳房管の経上皮直流または交流の電気特性を測定しない。これは、乳癌の発生が管上皮内部であり、周囲の乳房間質ではないことから、手法の精度を著しく低下させる。インピーダンスおよび直流電位の経上皮測定が組み合わされる場合には、精度はさらに改善される。インピーダンス測定または直流電位測定と組み合わせた薬理学的作用因子および/またはホルモンの作用因子の使用は、異常な前癌性乳房組織のまたは癌性の乳房組織を検出するためのさらに効率的な方法を提供する。
乳癌は、主に終端管小葉器官(TDLU)に悪影響を及ぼす病の増殖の背景の中で成長する。TDLUは、上皮細胞によって整列され、TEP(Trans epithelial potential:経上皮電位)を維持する。促進された増殖の領域において、管は、脱分極される。皮膚表面下の管の脱分極は、皮膚の脱分極を結果として生じる。脱分極は、米国特許第6,351,666号、米国特許第5,678,547号、米国特許第4,955,383号に開示されるような非経上皮皮膚表面手法とは対照的に、経上皮管手法を用いて観察される脱分極に比べて、著しく減衰される。腫瘍が、増殖が促進される領域において成長する場合には、上に重なる乳房の皮膚は、乳房の他の領域に比べて、さらに脱分極され、癌性の乳房組織のインピーダンスが減少する。管上皮インピーダンスにおける変化は、精度の減少を結果として生じる既存の技術を用いて測定されるわけではない。TEPおよびインピーダンスにおける変化は、ホルモンおよび月経サイクルの影響下で生じる。
例えば、17−β−エストラジオールに対する乳房組織の電気生理学的応答は、正常な乳房上皮においてではなく、前癌性の上皮または癌性の上皮において異なっていることが観察されている。本発明の1つの方法において、エストラジオールは、管内に直接的に導入されるか、または17−β−エストラジオール(4mg)の舌下投与後に全身投与により導入される。この作用因子は、迅速な応答を生成し、約20分でピークに達する。電気生理学的応答は、部分的には、患者の月経サイクルのステージの他、乳房組織の状態に左右される。特に、正常な乳房組織において、TEPの上昇は、濾胞期(または早期)中に生じる。前癌性の組織または癌性の組織において、この応答は、排除される。乳癌の危険がある閉経後の女性は、上皮細胞表面上の促進されたエストロゲン受容体のために、エストラジオールに対する過度のTEP応答を有する場合がある。
さらに、エストロゲン、黄体ホルモン、プロラクチン、コルチコステロイド、タモキシフェンまたは代謝産物(そのすべてが前癌性状態、悪性状態および機能的状態に応じて、管上皮のイオン輸送特性を変更する)は、経口的に、静脈内で、経皮的または管内設備のいずれかによって、導入されてもよい。
本発明の一実施形態において、乳癌または他の癌は、上皮の傍細胞経路の基本的な導電状態を検査することによって、診断されてもよい。例えば、乳房において、密着結合の伝導度に悪影響を及ぼすことが知られている物質が、管内に注入されてもよく、他の手段によって投与されてもよく、表面、乳頭、管または他の電極の組み合わせを用いて、作用因子の投与前後で、乳房の経上皮インピーダンスおよび/または直流電位が、測定される。前癌性乳房上皮または悪性乳房上皮に比べて、正常な乳房上皮では、作用因子に対する密着結合の経上皮電気応答における差が次に用いられ、悪性疾患の有無を診断する。
他の実施形態において、電極は、疑わしい領域の上に配置され、受動的直流電位が測定される。次に、交流インピーダンス測定が、以下で説明するように行われる。覆っている皮膚の可変インピーダンス特性は、測定した直流表面電位を減衰してもよく、または増大してもよい。あるいは、異なる周波数におけるインピーダンス測定は、印加される直流電圧のトップに重畳された連続正弦波を含んでもよい。位相、直流電圧および交流電圧が、測定される。交流における皮膚または他の上皮の抵抗および直流における異なる抵抗が、測定される。位相シフトがないために、直流条件下で、表面における経上皮電位を測定することが可能である。皮膚の容量特性により、下にある乳房上皮および腫瘍の電位を皮膚表面で測定することを可能にし得る。
一旦、ECMが皮膚表面の「湿潤」を結果として生じると、上記で参照された手法を用いて皮膚表面電位における擬似指数的減少が生じる。ECMにおけるイオンは、皮膚を通じて拡散し、特に皮膚の並列抵抗における変化のために、さらに導電性が増す。この減少に関する時間定数は、ゲルの濃度およびイオン強度に反比例する。一旦、皮膚がECMによってさらに導電性が増すと、腫瘍または周囲の上皮の基礎をなす電位に対する表面の容量結合が失われる。その結果、測定された電位が、今度は電極とECMと皮膚との境界におけるオフセットおよび拡散電位を反映する。
図6は、経上皮伝導度における浸しているリンゲル液のイオン含有量を変化させる影響を示している。ヒト乳房上皮細胞は、ミリポアフィルタ上で単層として成長し、7〜10日でコンフルエントになった。上皮は次に、改変されたユッシング(Ussing)チャンバに装着され、直流伝導度が、電圧クランプを用いて測定された。伝導度は、200ミリ秒間、2μAの電流パルスを通過させ、直流電圧応答を測定し、経上皮伝導度(y軸)を計算し、時間(x軸)に対して経上皮伝導度をプロットすることによって測定された。伝導度は、第一に、標準的なリンゲル液で測定され、次にナトリウムの入っていないリンゲル液で測定され、次に標準的なリンゲル液に戻り、続いて、カリウムの入っていないリンゲル液で測定され、最後に標準的なリンゲル液に戻ると同時に、研究中、正常な重量オスモル濃度を維持して測定された。
上のプロット(塗りつぶした四角および実線)は、単層として成長した良性のヒト乳房上皮の伝導度を示している。伝導度は、良性の上皮細胞においてより高い。伝導度のNa+成分およびK+成分は、それぞれ約10mS.cm−2および約5mS.cm−2である。
下のプロット(塗りつぶした円および破線)は、単層として成長した悪性のヒト乳房上皮の伝導度を示している。伝導度は、悪性の上皮細胞において著しく低い。伝導度のNa+成分およびK+成分は、それぞれ約4mS.cm−2および約1mS.cm−2である。
悪性の上皮細胞の単層とは対照的な悪性腫瘍において、細胞間の密着結合が破壊され、腫瘍は良性または悪性の上皮単層のいずれよりも導電性が増すようになる。この観察は、乳癌の診断において利用されてもよい。成長中の腫瘍の周囲の上皮のより低い伝導度は、悪性疾患の部位における高い伝導度の領域と共に、乳癌をより正確に診断するために用いられてもよい。異なるイオン組成を有するECMを有する電極を用いることは、癌の診断において特定のイオンの伝導度を用いることを可能にする。例えば、低いK伝導度の周囲の領域を有する高い伝導度の領域は、乳癌を表している。正常な伝導度の周囲の領域を有する高い伝導度の領域は、線維嚢胞症(良性過程)を表すことが多い。
図7は、ヒト乳房上皮細胞における細胞膜電位(Ψ)の測定を示している。測定は、電位差蛍光プローブおよびレシオ測定を用いて行われ、これは、バリノマイシンおよび[K+]勾配を用いて較正される。Ψは、エストラジオール(エストロゲンの活性代謝産物)の有(黒塗りの円)および無(白抜きの円)において測定された。各記号は、平均測定値である。上部のエラーバーは、平均の標準誤差であり、下部のエラーバーは、観察に関する95%の信頼レベルである。培養された乳房上皮細胞へのエストロゲンの添加は、Ψにおける瞬時の増大の他、図8参照の経上皮電位を結果として生じる(データは図示せず)。上皮の経上皮電位(VT)は、頂端側の(管腔の)細胞膜電位(VA)および側底側の(管腔外の)細胞膜電位(VBL)の和である。その結果、VT=VA+VBL(従って、VAおよび/またはVBLにおける変化は、VTまたは経上皮電位を変更する)である。
図7は、良性の乳房上皮細胞が、エストラジオールがない場合には約−50mVのΨを有し、エストラジオールが培養媒体に添加されると、−70mVのΨを有することを示している。悪性細胞および形質転換された細胞は、エストラジオールがない場合には−31〜−35mVのΨを有し、エストラジオールが培養媒体に添加されると、約50mVのΨを有する。
電気特性における差は、インビボで乳癌を診断するために利用されてもよい。表面電位測定は、経上皮電位、腫瘍電位および表面を覆っている皮膚の電位の組み合わせである。エストラジオールの生理学的な投与量は、Ψを増大するために患者に投与されてもよく、エストラジオールの持続効果は、表面電位における増大として測定された経上皮電位および腫瘍電位における増大を結果として生じる。持続的な曝露後の増大(瞬時の応答とは対照的に)は、良性乳房組織より悪性乳房組織の方が小さい。
図8に示された瞬時の応答は、悪性の上皮の方が大きいのに対して、エストラジオールに対する慢性的な曝露または持続的な曝露は、悪性細胞ではTEP(経上皮電位)の増大がより小さい結果として生じることを留意すべきである。表面電位およびインピーダンスの同時測定は、癌のより正確な診断を可能にする。図8は、良性のヒト乳房上皮細胞および悪性のヒト乳房上皮細胞の経上皮電位(TEP)で、エストラジオールの増大する投与量の瞬時の影響を示している。細胞は、ミリポアフィルタ上で単層として成長され、7〜10日でコンフルエントになった。上皮は次に、改変されたユッシングチャンバに装着され、TEPが、電圧クランプを用いて測定された。0〜0.8μMのエストラジオールの増大する投与量が、添加された(x軸)。経上皮電位は、各添加後に測定され、TEPが測定された(y軸)。
異なる投与量応答は、良性の上皮および悪性の上皮の場合には明白である。悪性の上皮は、より低いTEPを有するが、わずが0.1μMのエストラジオールに対する曝露後には、約9mVのTEPにおいて瞬時の増大を受け(さらに強い陰性となり、<−6mVのレベルに達する)、約0.5μMまでのエストラジオールの増大する投与量では、約−2mVに脱分極される。良性の上皮は、エストラジオールの増大する投与量に対してより小さい応答を有し、悪性の上皮とは異なり、エストラジオールの増大する投与量では、約0.3μMまでにピークに達さず、次に依然として持続的に高い状態である(より高い陰性)。
投与量応答におけるこの差は、乳癌を診断するために、利用されてもよい。エストラジオールまたは他のエストロゲンは、より少ない投与量で、全身的に、経皮的に、管内でまたは他のルートによって投与される。表面電位および/またはインピーダンスの瞬時応答は次に、乳癌を診断するために用いられてもよく、インピーダンス測定または直流測定のみを用いる既存の診断様相に関して改善された精度を有する。
図9は、乳房の表面において2000Hzで行われた伝導度測定を示している。この周波数で、表面を覆っている皮膚インピーダンスの影響は小さい。しかし、皮膚インピーダンスのいくつかの可変成分が依然としてあり、エラーバーを重ねることによって明らかであるように、測定の著しい変動性を結果として生じる。各記号は、エラーバーを有する中央測定値、平均の標準誤差を表す。
白抜きの記号は、生検で悪性疾患と判明した患者で行われた測定を表し、黒塗りの記号は、次の生検で線維嚢胞症などの良性過程であると判明した患者で行われた測定を表す。悪性病変は、増殖の促進を示す、周囲の乳房上皮に関連付けられることが多い。これらの領域(「隣接する領域」)は、脱分極され、悪性疾患の領域のいずれよりも低い伝導度を有してもよい。この減少した伝導度は、ヒト大腸において観察されているように、隣接する上皮および前癌性上皮の減少K+伝導度のためであり得る。
記号の3つのグループのそれぞれは、乳房の単純な四分円における疑わしい病変または領域、次に隣接する領域、次に正常な乳房からの測定値を表す。3つのグループのそれぞれにおける最初の2つの記号(円)は、中央値がmS.cm−2単位の伝導度として左のy軸に対してプロットされる場合のインピーダンス測定値である。2つ目の2つの記号(四角)は、mV単位で測定され、右のy軸に対してプロットされた表面電位である。各区分は、5mVに等しい。3つ目の2つの記号(三角)は、良性病変および悪性病変に関する電気インデックスであり、任意単位であり、伝導度および表面電位測定から導出する。エラーバーにおける重なりが少ない(平均値の標準誤差)ことが直ちに明白である。従って、乳癌は、表面電位測定および交流インピーダンス測定の組み合わせを用いて、より正確に診断されうる。この技術のさらなる強化は、乳房の異なる深さを探るための離隔された電極の使用と、皮膚または管表面で測定された良性乳房組織および悪性乳房組織からのインピーダンスおよび経上皮電位を異なるように変更するためのホルモン、薬物および他の作用因子の使用とを伴う。これは、診断精度におけるさらなる向上を可能にする。
乳房組織の表面電位測定が、月経サイクルにおける女性の状態に基づいて変化することを理解すべきである。図10は、この変動を示している。この図は、上腹部の皮膚における電極に関係付けられる各乳房の8個の電極からなるアレイを用いて、8個の異なる位置で各乳房の表面にわたって行われた電位測定を示している。測定は、平均の標準誤差に等しいエラーバーを用いて行われる。黒塗りの円および黒塗りの四角はそれぞれ、左および右の乳房からの中央値を表す。垂直な破線は、各月経サイクルの第1日目である。
各乳房に関する中央値は、月経サイクルの前半(卵胞期)において、より低い値を有し、サイクルの後半(黄体期)ではより高い値を有して、互いに後を追う傾向があることが分かる。乳房の電位に影響を及ぼす他の因子のために、測定された電気的値は、完全に重なってはいないが、電位の最も低いレベルは、月経前8〜10日で観察され、月経時付近で最も高いレベルまで上昇することが分かる。これは、エストラジオールレベルが、月経サイクルの第2の部分でより高く、乳房表面電位に直接的に影響を及ぼすために起こり得る。
乳癌または増殖性の病変が存在する場合には、電位活性度の周期的なパターンはかなり異なる。同様に、測定が朝と比較して午後に行われた場合には、表面電位のより高いレベルが観察される。この情報は、複数の異なる方法で利用されうる。表面電位における異なる周期的変化(すなわち、電位におけるピークからピークまでの変化は、乳房の正常な領域に対して、悪性領域ではより低い)のために、サイクル中の異なる時点の表面電位およびインピーダンスの測定は、より正確な診断を可能にする。第二に、乳房の電位を変化させるエストラジオールまたは別の作用因子は、体系的に、局所的に(経皮的)、管内または他の手段によって投与されてもよく、表面電位において薬物またはホルモンによって誘発される変化が、乳癌を診断するために、誘発試験として用いられてもよい。
図11は、乳癌の成長中に生じる組織学的変化および電気生理学的変化を示す図である。正常な管上皮から過形成、異型過形成、非浸潤性乳管癌(DCIS)を経て浸潤性乳癌までの連続は、10〜15年かかると考えられる。通常、乳癌は病気の管の増殖の背景の中で成長するが、ステップのいくつかは省略されてもよい。正常な管は、脱分極される(負に荷電された管の内側で)経上皮電位と、癌の成長中に増大するインピーダンスを維持する。一旦、浸潤性乳癌が密着結合完全性の損失によってインピーダンス減少を展開すると、腫瘍による伝導度が高められる。増殖した管は、電気生理学的特性およびイオン輸送特性を変更してしまう。これらの特性は、図11の下の態様に示されている。これらの電気生理学的変化および輸送変化は、乳房における癌および前癌性を診断するために利用される。
これらの方法において、乳癌は、電位またはインピーダンスの経上皮測定、または経上皮表面電位測定、交流インピーダンス測定および薬理学的操作の組み合わせを用いてより正確に診断されうる。
[実施例2.化学予防用途および治療用途]
上述したイオン作用因子、薬理学的作用因子およびホルモンの作用因子に加えて、本発明のシステムおよび方法は、癌の化学予防用および治療用の作用因子および処置と共に用いられてもよい。特に、変化した構造および機能の電気測定は、生検を必要とすることなく、癌のさらなる成長を待たずに、薬物に対する患者の応答を評価するための方法を提供する。所与の化学予防用作用因子および治療用作用因子に応答する患者は、より正常な状態への上皮の機能の回復を示す傾向がある。応答しない患者は、最小の変化を示すか、または病のさらなる進んだ段階への進行を示している可能性もある。従って、このシステムおよび方法は、薬物応答を評価する際に臨床医または製薬会社のいずれかによって用いられてもよく、または患者の病および治療の経過の監視または明確な悪性疾患が完全に成長する前に、発癌(癌の成長)の経過の監視のために臨床医によって用いられてもよい。
[実施例3.他の上皮における電気生理学的変化]
図12および図13に示された実施例は、手術時に除去されたヒト大腸試料で行われた。乳房上皮組織におけるインビトロの研究に基づき、インビボで測定されうるヒト管上皮における類似の変化が予想される。
図12は、インビトロでヒト大腸上皮の短絡回路電流(ISC)を示している。図は、組織にわたるカリウム勾配を変化させる間、x軸に沿った時間経過を示している。ヒト大腸の粘膜の頂端膜のカリウム透過率(PK a)は、対照の外科的試料および大腸腺癌の近傍10〜30cmで得られた肉眼で見て正常に見える粘膜において、決定された。粘膜は、ユッシングチャンバに装着され、側底膜の抵抗および電圧が、漿膜液槽溶液においてK+を上昇させることによって無効にされた。頂端のナトリウム(Na+)伝導度は、0.1mMのアミロライドで阻害された。このプロトコルは、微小電極研究によって確認されているように、頂端膜対上皮の伝導度および傍細胞経路と並列な起電力の等価な回路モデルを減少させる。増大する漿膜のK+は、Iscを生じ、正常な大腸において陰性(−140μA/cm2)となった後に、30mm粘膜TEAはIscにおける急激な増大となり、頂端のK+チャンネルの阻害に対応する。癌発生中の大腸において、Iscの減少は、−65μA/cm2となる。漿膜槽は、125mm[K]で依然として一定であった。
図13は、125mmの粘膜KにおけるIscに対して決定されたΔIscが、濃度勾配Δ[K]の一次関数であることを示している。これらの状態下で頂端膜にわたる電圧はゼロであり、傍細胞経路は非選択性であるために、PK a(頂端のカリウム透過率)は、フィック式、すなわちIsc=F・PK a・Δ[K]を用いて計算されうる。尚、Fは、ファラデー定数であり、Δ[K]は、上皮にわたるK+に関する濃度差である。図13は、正常なヒト遠位大腸および前癌性のヒト遠位大腸の両方において、平均値±SEMを示している。対照の頂端のK+透過率は、9.34×10−6cm/秒であり、これは、前癌性ヒト粘膜において50%も著しく減少させ、4.45×10−6cm/秒とした。PK aはまた、K+チャンネルがTEAによって阻害された場合、完全な阻害であると仮定すると、Iscにおける変化に関して計算することも可能である。これは、PK aにおける40%減少に対応する6.4×10−6cm/秒および3.8×10−6cm/秒のある程度低い値を結果として生じた。
これらの観察は、癌の成長中に、ヒト大腸のK+透過率および伝導度における電界変化であることを示している。類似の結果が、乳房管上皮において予想される。起電性Na+輸送の寄与を阻害するためのアミロライドなどの特定の薬物と共に、異なるカリウム勾配を有する電極を用いた乳房の電気特性に対するインピーダンス測定および/または直流測定は、乳癌を診断するために、有用である場合がある。(異型乳管過形成または早期のDCISに関して)周囲の乳房管上皮で観察された減少したカリウム透過率または成長中の浸潤性乳癌の領域における増大した透過率を測定するために、アミロライドは、乳房管を通じて導入され、次に、乳頭電極において用いられるECMで変化するか、または管内に潅注されるK+濃度が導入されてもよい。
図14は、ヒト乳房による多数のナイキストインピーダンスプロットを示している、電流は、乳頭の表面における乳房管を開くために吸引下で生理食塩水溶液を含む乳頭カップ電極と、乳房の表面に配置された電極との間で通過させる。電圧が次に、別個の電圧測定電極のセットを用いて乳頭と対象の領域との間で測定された。すべての測定は、60,000ヘルツ〜0.1ヘルツの59個の周波数で行われた異型を有する線維嚢胞症(黒塗りの四角)を除き、60,000ヘルツ〜1ヘルツで対数的に離隔された59個の周波数で行われた。インピーダンス曲線は、最高の周波数で最小のインピーダンスを示している。適用される正弦波の周波数が減少するにつれて、曲線は、x軸に沿って左から右にシフトする。
図15は、出血性嚢胞を有する患者の場合のインピーダンス分布を示している。これらの研究は、60,000ヘルツ〜0.1ヘルツの周波数で行われた。測定は、乳房の4時の位置における塊(病変)に関して行われ、対照測定は、同じ乳房の10時の位置で行われた。高い周波数測定は、曲線が重ね合わせ可能であることを示している。5Hz未満の周波数で分離し始める。塊の抵抗は、低い周波数で乳房の対照四分円より高かった。表面開回路電位測定は、塊に関してわずか2mVの脱分極を示し、従って、高いインピーダンスにもかかわらず癌との区別が可能であった。
図16は、線維嚢胞症の患者(0465)と乳癌の患者((0099)とを比較するインピーダンスプロットのボーデプロットを示している。インピーダンス[Z]およびシータ(位相角)は、最も低い周波数で分離することが分かっている(白抜きの記号および黒塗りの記号)。病理学で線維嚢胞症として識別された疑わしい塊、対照領域、乳癌からの対照領域に関するデータは、ほぼ重ね合わせることができる。スペクトルの低い周波数の端で、癌(0099D 黒塗りの円)は、約20Hzで対照四分円測定(0099C 白抜きの円)から分離する。
図17は、ナイキストプロットとしてプロットされた図16の場合の同一のデータを示している。塊(線維嚢胞症0465Aの領域 白抜きの四角)は、対照領域(0465B 黒塗りの四角)と比較すると、x軸の右側に対して曲線の低い周波数端で5000オーム低いインピーダンスを有する。プロット0099C(白抜きの円)は、線維嚢胞性の変化を有する乳房に対して類似の総インピーダンスを有するが、曲線は、「2こぶ」を示し、悪性乳房においてインピーダンススペクトルの低い周波数端および高い周波数端に関して2つの異なる時間定数(τ)を示す。この特性の外観もまた、診断ツールとして利用されることができる。
図18は、曲線(0099D 黒塗りの円)が図17に乳癌に関して追加される場合のインピーダンススペクトルを示している。総インピーダンスは、対照四分円に関する45447Ωに比べて、76397Ωで著しく高く、より低い(高い周波数)曲線は、約200Hz未満で分離し始める。対照四分円と比較すると、癌は、26mV脱分極され、線維嚢胞症は、5.5mV脱分極される。線維嚢胞性の患者は、50,000Ωに近いインピーダンスを有し、高い値は通常癌の存在を示唆する(必ずしもではないが)が、より高いインピーダンスおよびより大きな脱分極の組み合わせは、一方の患者の乳癌および他方の患者の線維嚢胞症の診断を可能にする。
図19は、乳頭カップ電極に適用される吸引のレベルを変更する影響を示している。3mlの食塩水が乳頭カップから吸引される場合には、保持吸引が確立され、白抜きの四角によるインピーダンス曲線として示されている。インピーダンスは、約26,000Ωである。さらに2〜3mlの食塩水が乳頭カップ電極から吸引されると、インピーダンス曲線は、約3000Ωのインピーダンスに落ちる(黒塗りの四角)。1〜2mlの食塩水の添加は、インピーダンスにおける増大を結果として生じる(白抜きの円)。5分後、約15000Ωまで増大した(黒塗りの円)。
図20は、悪性乳房における類似の吸引圧力を示している。保持吸引が行われた後、乳頭電極からの3mlの生理食塩水の吸引は、対照四分円において、45,447Ωから29,029Ωへの総インピーダンスにおける減少を結果として生じるのに対し、インピーダンスは、癌に関して76,937Ωから62,568Ωまで減少する。インピーダンスにおける最大の減少は、インピーダンススペクトルの高い周波数端で見られる(X軸の左側における曲線)。例えば、インピーダンスは、対照四分円において、29216から1550Ωに減少し、癌の場合には35824から10106Ωに減少する。他方、インピーダンスにおける変化は、より低い周波数スペクトルでははるかに小さい(X軸の右側における曲線)。より高い吸引は、対照四分円において、19985から16593Ωのインピーダンスにおける減少を結果として生じるのに対し、癌の場合には72674から71229Ωまでの減少と変化ははるかに小さい。吸引が1.50E−5から1.76E−5F(ファラッド)まで増大するとき、癌に関して1.17E−5から9.32E−6Fまで減少するとき、静電容量は、対照四分円において低い周波数範囲で増大する。手動または自動吸引ポンプを用いた乳頭カップ電極における吸引の変更は、この操作に対するインピーダンススペクトルの異なる応答を観察することによって、良性乳房上皮から悪性乳房上皮を区別するために用いられうることが分かる。
図21は、図20における癌の高い吸引曲線に関するインピーダンスを推定するために用いられる方法を示している。円弧は、インピーダンスデータに適合され、曲線の各端でx軸まで外挿される。低い交点と高い交点との間の差は、72674Ωの推定された抵抗である。静電容量(C)は、円弧の最大高さにおけるリアクタンスから推定され、1.1652E−5である、俯角(15.932)は、x軸と、x軸の原点からプロットされた円弧の中心まで引いた線との間の角度である。
本発明の方法は、測定されたインピーダンス情報から多数の曲線、通常は2つ以上の曲線、例えば、2つ、3つまたは4つの曲線を含む約2〜約4のそのような曲線を得ることが可能である。各曲線は、乳房に関連付けられる組織および構造の状態に関する異なる情報を提供することができ、
高い周波数曲線(約60,000Hz〜約100Hz)は、乳頭および上に重なっている皮膚に関する情報を提供し、
中間の曲線(約100Hz〜約10Hz)は、より大きな管および乳房間質に関する情報を提供し、
低い周波数曲線(約6Hz未満、例えば、約1Hz未満)は、終端管小葉器官(TDLU)に関する情報を提供する。
本願に記載し、請求したような方法を含む本発明の種々の実施形態は、種々の異なる周波数および周波数範囲の使用を可能にし、前掲の周波数および周波数範囲を重ねてもよく、各周波数または2つ以上の周波数の組み合わせは、侵襲的な手法を必要とすることなく、より正確な診断を展開するのに役立ち得るさらなる情報を提供することができる場合がある。例えば、上述した周波数範囲に加えて、約100Hz〜約6Hzの周波数範囲に基づいて生成された曲線の他、前述の全範囲中の選択された範囲、例えば、約60,000Hz〜約1Hzまたはそれ未満の曲線を利用することができる。
乳癌は、乳房に対する複数の構造的な変化および機能的な変化の原因となるため、本発明の方法および装置の他、当業者に知られている別の方法から決定された追加の情報を用いて、癌を診断するために、包括的な情報を作り出すことが可能である。例えば、低い周波数範囲における曲線から測定および計算されたような抵抗における増大は、管の過形成を示唆し、増殖性の変化または癌に関連付けられることが分かっている。その上、測定および計算された曲線から決定されたような減少した俯角は、悪性疾患の存在を表すことが観察される。
上述のように、複数の際立った特徴は、本発明の方法および装置の種々の実施形態に基づいて生成されたデータおよび曲線から展開されうる。そのような特徴としては、
RSUB、上皮下抵抗−R∞における抵抗値、高い周波数(例えば、60,000Hz)におけるX軸とインピーダンス曲線の交点、
REPI、上皮抵抗−R∞とR0との間の差(X軸と曲線の高い交点および低い交点または低い周波数および高い周波数における抵抗の差)、
静電容量(C)−式Z(Y軸におけるインピーダンス)=1/2πfCCを用いて曲線から導出される、
特性周波数(fC)−インピーダンス曲線において最高点における周波数、
俯角−インピーダンス円の軌跡(中心)とx軸におけるR0またはR∞の交点、
開回路電位または経上皮電位(TEP)−乳頭と表面電極との間で測定された電圧
が挙げられる。
[本発明と共に用いるためのデバイス]
本発明と共に用いられるデバイスに関して、複数の変形が可能である。さらに、上述したように、デバイス設計の中で、変更可能な複数の態様がある。これらの変形および他の変形は、以下に記載される。
本発明において用いるためのプローブまたは他のデバイスの一実施形態は、凹んだウェルに複数の小型電極を含む。フィルタリングなどの表面記録および初期の電子処理は、使い捨て可能な市販のシリコンチップによって行われてもよい。各ECM溶液または作用因子は、チップ上で個別の電極および容器に特有であってもよい。従って、1回の測定では、特定の電極のセットが、用いられる。別の測定では、例えば、異なるイオン濃度で、異なる電極のセットが、用いられる。1回の測定用の電極は別の測定の場合には同じ点に位置しないことから、これは、いくつかの変形を生成するが、このシステムは一般に、信頼性の高い結果を生じる。
代替的な手法としては、少数の電極を用い、溶液および薬物を変化させるために貫流またはマイクロ流体システムを用いることが挙げられる。特に、溶液または作用因子は、チャネルを通り、プローブの表面の微細孔から溶液または作用因子を移動させるために、少量の電流を通過させることによって変化させる。この実施形態において、電極は、乳房の表面と同一の領域と接触したままであり、従って、測定における領域間の変動をなくす。この手法は、異なる溶液間の平衡のために時間を必要とする。異常な前癌性の乳房組織または癌性の乳房組織の存在を検出するために、ハンドヘルド式プローブが、皮膚における表面測定を行うために提供される。プローブは、電流を通過させるための他、測定のための電極を含み得る。インピーダンス測定は、乳頭カップ電極とハンドヘルド式プローブとの間、乳頭カップ電極と接着性の皮膚電極との間、小型管内鏡における電極間、管内鏡における電極と皮膚表面電極との間で行われてもよく、ハンドヘルド式プローブ上の電極間で行われてもよい。初期の直流測定を行った後、湿潤/浸透作用因子が、皮膚インピーダンスを削減するために導入されてもよい。作用因子は、上述したように、微小流体手法を用いて、電極の表面に流体を移動させるために導入されてもよい。あるいは、角質層をちょうど透通する表面電極が、インピーダンスを減少させるために用いられてもよい。
本発明と共に用いるための流体としては、薬理学的作用因子を含む生理食塩水(例えば、リンゲル液)または薬理学的作用因子を含まない生理食塩水(例えば、リンゲル液)などの種々の電解質溶液が挙げられる。管内に注入するための1つの好ましい電解質溶液は、生理学的なリンゲル液を代表する。通常、これは、6gのNaCl、0.075gのKCl、0.1gのCaCl2、0.1gのNaHCO3および生理学的なpHが7.4のより薄い濃度の超リン酸ナトリウム(hyperphosphate)、次リン酸ナトリウム(hypophosphate)からなる。他の電解質溶液が、用いられてもよく、電解質は、約1%の容積の溶質を含む。1%より大きい高浸透圧性の溶液または1%未満の低浸透圧性の溶液が、上皮および/または腫瘍の誘発試験に用いられてもよい。上皮の伝導度および透過率を評価するために、Na、KおよびClの濃度は、異なる状態下で調整される。アミロライド(起電性ナトリウム吸収を阻害するため)、ホルスコリン(または環状AMPを上昇させるための類似の薬物)などの異なる薬理学的作用因子、プロラクチンまたはエストラジオールなどのホルモンもまた、リンゲル液と共に注入することができ、これらの作用因子に対する上皮および腫瘍の電気生理学的応答を調べることができる。同様に、注入剤のカルシウム濃度は、密着結合透過率を変化させ、この操作に対する上皮の電気生理学的応答を測定するために、さまざまである。密着結合の透過率を減少させるために、デキサメタゾンが注入されてもよく、電気生理学的応答が測定される。
特定の実施例は、上皮および腫瘍の「抗原投与」試験に用いられてもよい薬物およびホルモンを与えているが、特に、上皮または腫瘍の電気生理学的特性に影響を及ぼすことが知られているとき、発癌に影響を及ぼすことが知られている特定のイオン輸送または密着結合の完全性の任意のアゴニストまたはアンタゴニストが用いられてもよい。
デバイスの構造に関係なく、信号は、それ自体によって管経上皮電位または経上皮インピーダンスいずれかを測定するために用いられる。これらの2つの測定値は次に、乳房の成長中の異常性に関連付けられる上皮の電気特性を特徴付けるために組み合わせられてもよく、同一の乳房または反対側の乳房の無関係な領域と比較される。表面電位測定およびインピーダンス測定は次に、乳房の非経上皮電気特性を特徴付けるために行われる。これらの測定は、直流電位測定を伴い、表面電位は管腔と直接的にまたはECMを介して間接的に接触しない電極に関係付けられる。インピーダンス測定は、同様に、表面電極間または表面電極と管腔と直接的にまたは(ECMを介して)間接的に接触しない基準電極との間で行われる。これらの測定は次に、乳房組織をさらに特徴付けるために、経上皮電気測定と比較されて組み合わせられる。
さらに、変化したインピーダンスまたは直流電位の電気生理学的根拠の理解により、より正確な診断を可能にする。例えば、インピーダンスまたは直流電位は、複数の因子のために増大または減少し得る。乳房の増大した間質密度は、そのインピーダンスを変化させ得る。これは、非特異的な変化であり、悪性疾患の可能性に関係がない場合がある。他方、成長中の悪性疾患の周囲の上皮のカリウム透過率の減少は、インピーダンスを増大させ、非特異的なインピーダンス変化ではなく、成長中の癌に関連する確率がさらに高い。離隔された電圧検知電極を用いて組織を異なる深さで探ることによって、本方法から、さらなる情報が得られる。癌傾向組織、前癌性組織または悪性組織に比べて正常組織において、直流電位および/または直流電位を異なるように変化させるために、電気生理学的操作、薬理学的操作およびホルモンの操作を用いることは、別の著しい差があり、上記で参照された方法に比べて、本方法の診断精度を向上させる。
乳癌の診断において用いるための、乳頭カップ電極の使用が本明細書に記載されているが、上皮が内視鏡的にアクセスすることが困難である場合または内視鏡的手法が所望でない場合に、カップ電極は、他の器官に用いられてもよい。例としては、膵管および胆管が挙げられ、十二指腸下行部の中でファーター膨大部に接合して開く。胆管腫瘍は、胆管の内皮管壁(すなわち、胆管癌または膵管の上皮管壁、すなわち膵癌)から成長する。膨大部は、内視鏡的にアクセスされてもよく、膨大部への吸引によって適用されるカップ電極によってアクセスされてもよい。生理食塩水は、管内に注入されることができ、次に、経上皮電位およびインピーダンスは、膵管または胆管の腹膜に配置された第2の電極を用いて膵管または胆管における腫瘍の領域を識別するために手術中に測定されることが可能である。あるいは、低侵襲的態様または非侵襲的態様において用いられる場合には、腹膜表面電極は、皮膚表面電極または静脈内電極に置き換えられてもよい。
薬物は、誘発試験としてカップ電極を通じて注入され、乳房に関して記載されてもよい。例えば、セクレチンは、膵管によって重炭酸塩分泌を刺激する。この応答は、膵癌に関連付けられる上皮における変化によって取り消される可能性がある。ムスカリン受容体の分布、特にM1およびM3は、膵癌発癌中に、上皮において変化し得る。従って、特定のムスカリンアゴニスト(コリン様作用のコリンエステル類および天然アルカロイド)およびアンタゴニスト(アトロピン、ピレンゼピン(M1)、ダリフェナシン(M3))が、膵癌に関連付けられる管上皮における塩化物分泌に起因する特定の電気生理学的応答を引き出すために、用いられてもよい。類似の手法が、肝臓癌を診断するために、肝内胆管および肝外胆管において用いられてもよい。
前立腺癌は、外部尿道に適用される尿道カップ電極を用いて診断されてもよい。生理食塩水が、尿道内に注入される。直接的な電気接続が、前立腺尿道に通じる前立腺管を介して前立腺管および腺房上皮によって確立される。表面電極が次に、前立腺の表面上に経直腸的に配置されてもよく、電気生理学的測定が、乳房において記載したような経上皮態様において行われてもよい。同様に、誘発試験は、正常な前立腺組織と比べたときに、異常な前立腺上皮の電気生理学的特性に異なるように作用する薬物およびホルモンによって行われてもよい。
子宮体癌は、子宮頚部に配置された電極カップによって診断されてもよい。生理食塩水は、子宮内膜との電気接点を形成するために子宮頚管を介して注入されてもよい。電気生理学的測定は、皮膚、静脈内または適切な基準点に配置された基準電極によって行ってもよい。あるいは、この手法は、手術中に用いられてもよく、頚部カップ電極が、子宮の腹膜または外側表面に用いられる基準電極と合わせて用いられる。
唾液腺腫瘍は、口腔内の小さな管を介して広がる。例えば、耳下腺において、ステンセン管は、第二上顎臼歯に対向する口の内側に通じている。カップ電極は、口の内側の管の開口に関して用いられてもよい。生理食塩水は、管内に注入され、電気接点が唾液腺の管上皮によって確立される。表面電極が次に、唾液腺の皮膚表面の上に用いられ、電気測定が癌の診断を確立するために用いられる。
特定の実施例が上記で与えられているが、上皮に対する内視鏡によるアクセスが可能でないか、または所望でない場合に、この技術は、任意の腫瘍を診断するために用いられてもよい。カップまたは短いカテーテルを介した生理食塩水の適用は、上皮との電気接点は、内視鏡の電極配置に頼ることなく、経上皮電気生理学的測定を可能にする場合に、例えば、腸または他の臓器系において用いられてもよい。第2の電極が次に、腫瘍または異常な上皮の存在に関して臓器を外部から走査するために用いられる。生理食塩水が、上皮との直接的に接触する電極として作用するため、この手法は、電気生理学的測定に対する手法を簡単にする。上皮の脱分極特性およびインピーダンス特性は、表面走査型電極が下にある異常な上皮または腫瘍の近傍にある場合に、より正確である。
[実施例]
[実施例1.管上皮インピーダンス分光法を用いた乳癌の診断]
イオン伝導度および輸送における変化[1](カッコつきの番号は、この実施例の末尾の参考文献を識別する)は、細胞増殖および悪性転換における初期現象を表す。乳癌は、乳房の管上皮または小葉上皮の中で成長する。さらに、機能的な変化が、乳癌の遺伝子導入モデルで生じ[2、3]、特定のイオン伝導度の抑制が乳癌成長中にヒト乳房上皮で生じることが実証されている[4、5]。電気インピーダンス走査[6]またはトモグラフィは、乳房内の塊の病変を画像化するためおよび危険度評価のために用いられているが、上皮インピーダンス分光法は、乳癌が発生する場合に、上皮において癌を診断するために利用されていない。この実施例に示された本発明の一実施形態は、上皮における乳癌を非侵襲的に識別するための「電子生検」である。
方法:治験審査委員会(IRB)および患者の同意によって、管上皮との電気接点が乳房生検予定の70人の女性に特別に設計された乳頭センサを用いて、非侵襲的に確立された。経上皮インピーダンス測定は、0.1〜60KHzの周波数範囲にわたって行われ、周波数応答分析器および正弦波相関技術を用いて処理された。インピーダンス測定の終了後に、開回路電位(乳房上皮および皮膚にわたる電位)が、測定された。データは、必要に応じて、t検定、マン・ホイットニイ検定または分散分析(ANOVA)を用いて分析された。実施例の詳細は、図22−1A〜図22−3Bに明白に示されているように、図22における複数の特徴を参照することによって理解されうる。
図22−1A。異なるイオン輸送経路を有する乳房上皮の表示。図22−1B。回路の静電素子および抵抗素子を実証する乳房上皮電気モデル化。図22−1C。上皮を調べるために、異なる回路変数が、可変周波数の正弦波を用いて得られるかを実証するナイキストプロット。図22−1D。管上皮との電気接点を構成する特別に設計された乳頭センサカップを用いた乳房における測定装置。
図22−2A。測定装置の概略図。電流は、この実施例では4つの電極系およびFRA(周波数応答分析器)を用いて、乳頭センサと表面電極との間で供給される。図22−2B〜図22−2D。正常な対照患者(B)および生検前の患者(C、D)において得られたナイキストプロットの実施例。ナイキストプロット図22−2Bは、図22−2Cおよび図22−2Dと比べて、逆転している。
[結果]
図22−3A:開回路電位。開回路電位が良性であった病変(n=38)と乳癌であった病変(n=32)との間を比べた場合に、観察された著しい差はなく、中央値電位差(pd)は、それぞれ−75mVおよび−73mVであった。しかし、良性群の17人の過形成を伴う病変が、癌群と共に含まれる場合には、増殖性の病変は良性の病変と比べたとき、著しい脱分極が観察された。
図22−3B:上皮インピーダンス分光法。良性乳房病変が悪性病変と比べられた場合に、上皮インピーダンス分布は、著しく異なっていた。良性病変(p<0.02)における124.3±24.9KWと比べた場合、乳癌における上皮抵抗は、393.2±24.9KW(平均値±標準分散)であった。過形成または異型乳管過形成(ADH)の患者(n=17)において、上皮抵抗は、良性病変と悪性病変との間の中間であった(図22−3B)。超低周波数で電子シグネチャにおける他の差が、観察された。上皮インピーダンスおよびナイキストプロットの俯角は、悪性の上皮において大きかった(図22−1Cおよび図22−3B)。バーの第1の組は、良性病変に関するインピーダンス値および俯角値であり、バーの第2の組は、増殖性の病変に関し、第3の組は、悪性病変に関する。各場合において、各組の右のバーは、俯角の値を示している。
図22−3Bの右側のY軸上に示されている「低い周波数における俯角」に関する値は、上記の説明に基づいて行われた測定から計算された。この実施例において、低い周波数とは、10Hz〜0.1Hzの周波数を指す。俯角の単位は、度である。良性病変の場合の値は、16.4+/−6.7度であり(平均+/−SEMとして表現され、SEMは平均の標準誤差または試料サイズの平方根によって除算された標準偏差である)、増殖性の病変の場合の値は、13.7+/−5.0度であり、悪性病変の場合には、−0.7+/−5.0度である。正の値は、ナイキストプロットにおける半円の円弧の中心がポスタの図1CのX軸未満に凹まされることを示している(慣例により、ナイキストプロットは、下の正から上の負までであり、それによって逆の半円を結果として生じる)。この図は、低い周波数で電気シグネチャにおける差が観察されることができることを示している。特に、上皮インピーダンスおよびナイキストプロットの俯角は、悪性の上皮においてより大きかった。
[考察]
70人の患者における研究に基づく分析は、経上皮直流電気測定およびインピーダンス分光法(「電子生検」)の組み合わせが、増殖性の疾患または悪性乳房疾患の患者を識別することを示している。悪性腫瘍は、良性腫瘍より低いインピーダンスを有することが報告されているが、管上皮要素は、より高いインピーダンスを有し、発癌中に上皮の分泌機能または吸収機能における変化に関連し得る。本発明の方法は、副作用または不快感のない状態で許容される。
承認および参考文献:この研究は、部分的にはDuCac Technologies.によって資金が提供されている。
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実施例2.実施例1の観察および方法の拡張およびさらなる発展
上述した診断電気特性は、以下に述べるように、110〜150人の患者の変化するサンプルサイズに基づいて、観察に適用された。特性としては、RSUB、上皮下抵抗−R∞における抵抗値と、高い周波数(例えば、60,000Hz)におけるX軸とインピーダンス曲線の交点と、REPI、上皮抵抗−R∞とR0との間の差(X軸と曲線の高い交点および低い交点または低い周波数および高い周波数における抵抗の差)と、静電容量(C)−式Z(Y軸におけるインピーダンス)=1/2πfCCを用いて曲線から導出されるものと、特性周波数(fC)−インピーダンス曲線において最高点における周波数と、俯角−インピーダンス円の軌跡(中心)とx軸におけるR0またはR∞の交点と、開回路電位または経上皮電位(TEP)−乳頭と表面電極との間で測定された電圧と、が挙げられる。
以下の分析では、
1群は、良性(BN)病変を指し、
2群は、より大きな癌(CA)、>1cmを指し、
3群は、AH(異型過形成)または過形成および増殖性の病変を指し、
4群は、DCIS(非浸潤性乳管癌)および小さい癌、<1cmを指す。
[上皮下の抵抗]
R
SUB、すなわち上皮下の抵抗が、この分析の目的のために、R∞における抵抗値として定義され、ここで、R∞は、例えば、図22−1Cにおいて、示された曲線の左で、インピーダンス曲線が高い周波数(例えば、60,000Hz)におけるX軸と交差する値である。診断目的のために、R
SUBは、増殖性の病変および癌において増大することが測定されている。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
上皮下の抵抗、R
SUB、すべての値は、オーム単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイルにおける値であり、SD=標準偏差、SEM=平均の標準誤差である)
H=48.243(3自由度を有する)。(P=<0.001)。処置群の中の中央値における差は、偶然に期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=<0.001)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。例えば、すべての多重対比較法を用いたダンの方法。
[上皮抵抗]
R
EPIまたは上皮抵抗は、R∞とR
0との間の差(X軸と曲線の高い交点および低い交点または低い周波数および高い周波数における抵抗の差)である。実際の抵抗は、プロットの形状に左右され、成分曲線が分離される場合には、その結果、回路成分を導出することができることを留意されたい。この値は、増殖性の疾患(AH病変)およびDCISまたは小さな癌(DCIS、小さなCA)において増大するが、密着結合が細胞間で破壊される場合には、より大きな癌(より大きなCA)において減少する傾向がある。得られた代表値は、以下の実施例に示されているように得られ、識別されたすべての周波数、60,000Hz〜10Hzおよび6Hz〜0.1Hzの範囲の周波数における測定の結果に基づくデータを含む。
以下の実施例は、総抵抗、すなわち、プロット中に複数の曲線がある場合であってもX軸におけるインピーダンス曲線の高い交点と低い交点との間の差を比較する。
クラスカル・ワリス一元配置分散分析
総抵抗(オーム)(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイルにおける値)
H=36.551(3自由度を有する)。(P=<0.001)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=<0.001)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。例えば、すべての多重対比較手法を用いたダンの方法。
以下の実施例は、60,000Hzの周波数の曲線と10Hzの周波数に関する曲線の抵抗を比較する。すなわち、周波数60,000Hz〜10Hzに関して描かれたX軸におけるインピーダンス曲線の高い交点と低い交点との差を調べる。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
抵抗60,000Hz−10Hz;値はオーム単位で表現される(25%および75%は25番目および75番目のパーセンタイル値)
H=40.762(3自由度を有する)。(P=<0.001)。処置群の中の中央値における差は、偶然に期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=<0.001)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。例えば、すべての多重対比較手法を用いたダンの方法。
さらに、以下の分析は、6Hzの周波数に関する曲線と0.1Hzの周波数に関する曲線の抵抗を比較する。すなわち、周波数6Hz〜0.1Hzに関して描かれたX軸におけるインピーダンス曲線の高い交点と低い交点との差を調べる。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
抵抗6Hz〜0.1Hz。すべての値は、オーム単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)
H=26.623(3自由度を有する)。(P=<0.001)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=<0.001)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。例えば、すべての多重対比較手法を用いたダンの方法。
静電容量
静電容量(C)は、式Z(Y軸におけるインピーダンス)=1/2πfCCを用いて曲線から導出される。細胞の塊が増大すると、静電容量は増大し、細胞の画像が増大すると、より大きな癌の場合には高くなる。fCは、以下で定義される特性周波数である。
以下の実施例は、60,000Hzの周波数の曲線と10Hzの周波数の曲線の静電容量を比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
静電容量60,000Hz〜10Hz。すべての値は、ファラッド単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)。
H=11.012(3自由度を有する)(P=0.012)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=0.012)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。例えば、すべての多重対比較手法を用いたダンの方法。
以下の分析は、6Hzの周波数の曲線と0.1Hzの周波数の曲線の静電容量を比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
静電容量6Hz〜0.1Hz。すべての値は、ファラッド×10
6単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)
H=14.688(3自由度を有する)(P=0.002)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=0.002)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。すべての多重対比較手法(ダンの方法)。
[特性周波数]
特性周波数(fC)は、インピーダンス曲線の最高点における周波数である。高い周波数曲線において、これは、より大きな癌では増大する傾向があり、より小さい癌またはDCISでは低くなる傾向がある。より低い周波数曲線において、より大きな癌の場合にはあまり区別がない傾向があるが、より小さな癌および増殖性の疾患ではfCは、より低くなる傾向がある。
以下の分析は、60,000Hzの周波数に関する曲線と10Hzの周波数に関する曲線のfCを比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
特性周波数60,000Hz〜10Hz。すべての値は、ラジアン単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)。
H=28.913(3自由度を有する)。(P=<0.001)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=<0.001)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。すべての多重対比較手法(ダンの方法)。
以下の分析は、6Hzの周波数に関する曲線と0.1Hzの周波数に関する曲線のfCを比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
特性周波数6Hz〜0.1Hz。すべての値は、ラジアン単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)。
H=4.131(3自由度を有する)(P=0.248)。処置群の中の中央値における差は、差がランダムサンプリングの変動性に起因する確率を排除するほど十分に大きくなく、統計的に著しい差はない(P=0.248)。
[俯角]
俯角は、インピーダンス円の軌跡(中心)と、X軸におけるR0またはR∞の交点との間に引かれる線によって形成される角度として定義される。これは、増殖性の変化および小さな癌に関しては段階的に減少し、曲線の低い周波数(<6Hz)の部分では、より大きな癌に関して負になる可能性がある。
以下の分析は、60,000Hzの周波数に関する曲線と10Hzの周波数に関する曲線の俯角を比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
俯角60,000Hz〜10Hz. すべての値は、度単位で表現される(25%および75%=25番目および75番目のパーセンタイル値)
H=8.648(3自由度を有する)(P=0.034)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=<0.034)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。すべての多重対比較手法(ダンの方法)。
以下の分析は、6Hzの周波数に関する曲線と0.1Hzの周波数に関する曲線の俯角を比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
特性周波数6Hz〜0.1Hz。すべての値は、ラジアン単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)。
H=13.851(3自由度を有する)(P=0.003)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=0.003)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。例えば、すべての多重対比較手法(ダンの方法)。
[開回路電位または経上皮電位(TEP)]
開回路電位または経上皮電位(TEP)は、乳頭と表面電極との間で測定される。癌群と良性病変群(BN)との間に差はない。しかし、増殖性の良性および癌が組み合わせられ(CAまたは増殖性病変)、非増殖性の良性病変と比較されるとき、著しい脱分極が観察された。
2つの群の平均値における差は、偶然期待される値より大きく、スチューデントのt検定によって入力群の間で統計的に著しい差がある(P=0.007)。αに関して行われた検定のパワー=0.050:0.733。
[時間定数]
時間定数(TC)は、値R×C(抵抗と静電容量の積)として定義される。その値は、秒単位である。インピーダンス曲線の高い周波数成分および低い周波数成分が著しく異なる時間定数を有する場合には、ナイキストプロットは、2つ以上の曲線に分割する(2「こぶ」または3「こぶ」)。分析の便宜上、「ノッチ周波数」、すなわち2つの曲線が分割する周波数も参照することができる。ノッチ周波数値は、癌と良性病変との間のさらなる区別情報を提供し、本発明の実施形態によって得られたデータの値をさらに強化する可能性がある。増殖性の疾患および癌では高い周波数範囲においてTCは増大し、増殖性の疾患、小さな癌およびDCISの場合には、低い周波数範囲でより高いことが観察される。
以下の分析は、60,000Hzの周波数に関する曲線と10Hzの周波数に関する曲線の時間定数(TC)を比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
時間定数(T
C):60,000Hz〜10Hz。すべての値は秒単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)。
H=31.343(3自由度を有する)。(P=<0.001)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=<0.001)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。すべての多重対比較手法(ダンの方法)。
以下の分析は、6Hzの周波数に関する曲線と0.1Hzの周波数に関する曲線の時間定数(TC)を比較する。
一元配置分散分析
正規性検定:失敗(P<0.050)
順位によるクラスカル・ワリス一元配置分散分析
時間定数(T
C):6Hz〜0.1Hz。すべての値は秒単位で表現される(25%および75%は、25番目および75番目のパーセンタイル値)。
H=10.684(3自由度を有する)(P=0.014)。処置群の中の中央値における差は、偶然期待される値より大きく、統計的に著しい差がある(P=0.014)。
他の群とは異なる1つまたは複数の群を分離するために、複数の比較手順を用いることができる。すべての多重対比較手法(ダンの方法)。
上記のデータおよび分析は、本発明の方法および装置の結果として診断において実現することができる改善を示している。
本明細書に記載される実施形態は一般に、ヒトに関して記載される。しかし、ヒト以外の癌もまた、この手法によって診断することができ、本発明はまた、獣医科において適用することも意図している。
測定単位、状態、物理的状態または百分率などの特定の集合の特性を表すような以上の本明細書、以下の段落および請求項に記載された数の任意の範囲は、本発明の種々の態様を参照すると、参照によりまたは他の方法で、記載された任意の範囲内に包含される任意の部分集合の数または範囲を明確に本明細書の一部をなすことを意図している。さらに、「約」なる語は、変数、特性または状態に関して変更するものとして用いられる場合には、本明細書に開示される数、範囲、特性および状態が、適応性があることと、範囲外または1つの値とは異なるような温度、周波数、時間、濃度、量、成分、サイズ、表面積などの特性などを用いて、当業者による実施が、明細書に記載したような所望の結果を達成し、前癌性の組織および上皮および癌性の組織および上皮、例えば、乳房組織における電気生理学的変化を検出することを伝えることを意図している。
本明細書に記載されるすべての文献は、任意の特許出願および/または試験手法を含め、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。本発明の原理、好ましい実施形態およびモードは、前述の明細書に記載された。
本明細書における本発明は、特定の実施形態を参照して記載してきたが、これらの実施形態は、本発明の原理および適用の単なる例示に過ぎないことは理解すべきである。従って、例示の実施形態に対して種々の改変を行うことができ、他の構成が、以下に列挙した段落および添付の特許請求の範囲に記載の本発明の種々の態様または実施形態によって定義されるような本発明の精神および範囲を逸脱することなくなされ得ることを理解すべきである。