≪電子雪崩法≫
本発明は、電子雪崩法と呼ばれるDNAを細胞に導入する新規の方法に基づくエクスビボの遺伝子治療法を提供する。図1に示されているように、電極に十分に高い電圧が加えられると、電流のパルスと同期する機械的ストレスの波が発生し、細胞又は組織に加えられる。図1のA〜Cでは、絶縁体120に被覆された電極110に高電圧が加わる際に起きる3つの段階が示されている。電極110は、導電性液体培地132と細胞134と核酸136とを含む組織培養ウエル130に設置されている(図では細胞が描かれているが、組織を使用することもできる)。最初に電極110に電圧が加えられると(図1A)、電極110の非絶縁部分の周囲に電場140が生じる。培地における電場が十分に高い場合は、発生したジュール熱によって電極110に隣接する領域の液体培地132がすばやく蒸発し、その結果、蒸気泡150が発生する(図1B)。蒸気泡150は、形成されるとすぐに電極表面と導電培地132との接続を切断し、その結果、電流が止まり、標的細胞上の電場は終了する。この問題を克服するために、図1Cに示されているように、泡の蒸気をイオン化させ、イオン化した蒸気160を形成することで電気伝導率を回復することができる。プラズマとしても知られるイオン化した蒸気160は、電場170を有する一種のバーチャルな電極を形成する。このプロセスの間、蒸気泡の形成及びその後の崩壊により、培地中に衝撃波が伝搬し、細胞又は組織を機械的ストレス180に晒す。衝撃波及び電場の組み合わせにより、細胞は透過性を有するようになり、核酸136は細胞132に入る(図1D)。発明者らは、プラズマを介した放電を強調するため、この技術を、電子雪崩を介したトランスフェクション、又は簡潔に雪崩法(avalanche method)と名づけた。
図1に示されているプロセスは、電極が比較的に均一な電場を形成する際に作用する。或いは、非常に不均一な電場を引き起こす電極が使用される場合もあり、それによって、電極の頂点で形成される蒸気の空洞が低電場の電極表面の全体を覆わないようにすることができる。このようにすると、培地への電流が完全に絶たれることはない。不均一な電場を引き起こす電極形状の一例として、鋭い先端を有する円筒プローブ(ワイヤなど)がある。図2Aでは、プラズマ放電220を発生させているワイヤ電極210の映像が示されている。図2Aで見られるように、プラズマ放電は明白に見える。プラズマ放電は、可聴でもある。図2Bでは、ワイヤプローブに電圧が加えられる際の電流230及び電圧240が示されている。この例では、ワイヤプローブの直径は50μmであり、ワイヤの先端に約30kV/cmの電場を形成するために600Vまでの電気パルスが加えられている。しかしながら、これらのパラメータは変わる場合がある。図2Bの波形から、このようなプローブに電圧が加わる場合に最初の20μs間に電流が低下することがわかる。これは、液体が蒸発するために起きる。その後に、蒸気の空洞がイオン化し、伝導率が安定化する。図2Aに示されているように、イオン化した蒸気は一時的な電極として作用し、その大きさはプローブの大きさを越える場合がある。その結果、電場は、この小さなワイヤ電極の先端に最初に発生したものよりもより均一に拡散し、それによって、標的細胞又は組織がより均一にエレクトロポレーションされる。
図2Cでは、異なる直径を有し、絶縁体240に被覆された電極230の長さに対する電場の強度(kV/mm)が示されている。実線250が示す電極の直径は20μmであり、点線260は25μmであり、破線270は50μmである。この実験では、電極に600Vが加えられた。図2Cは、鋭い先端を有する円筒状の電極において電極の先端から離れるにしたがって電場が著しく低下することを示す。このグラフから、電極の直径を変えることによって、電極の先端における電場の強度を変えることができることがわかる。
本発明においては、様々な種類のプローブを使用することができる。図3では、基材320の上に活性電極が配置しているプローブの1つの形態が示されている。図3Aはプローブの上面図であり、図3Bはプローブの側面図である。このプローブでは、基材320は、対極板330に囲まれている。基材320上の活性電極310の配置パターンは、電場340とプラズマ放電による機械的ストレス波350との間に必要な均衡を形成する。図3のプローブでは、活性電極310の端312に単一の電場340が形成されている。単一の電場は、プラズマ放電352及び機械的ストレス波350の発生点として機能する。図1では、プラズマは、蒸気の空洞の全容量を占める。対照的に図3では、細い電極の端における電場が平らな部分における電場よりもかなり高いので、蒸発及びイオン化は主に電極の端で発生(又は開始)する。この方法を単純に、且つ安価で実施することができるが、機械的及び電気パルスのパラメータを個別に制御することはできない。
図4(図4Aは上面図であり、図4Bは側面図である)では、機械的ストレス波450及び電場440を個別に制御できる他のプローブの実施が示されている。この実施では、基材420の上に2種類の電極410及び412がパターン化した状態で配置しており、対極板430が基材420を囲んでいる。電極412が電場440を発生させるのに使用されるのに対して、電極410はプラズマ452及び機械的ストレス450を発生させるのに使用される(プラズマ452もまた、電場を発生させるが、図には示されていない)。ストレス波の規模及び電場を個別に制御することは、細胞の透過性を最適化させるのに望ましい場合がある。ストレス波及び電場を同じ電極で発生させると、それらの値が互いに依存するようになるのに対して、ストレス波及び電場のそれぞれを異なる電極で発生させると、個別にそれぞれを制御することができるようになる。
図5では、本発明にしたがった、核酸の付着細胞又は組織への分子送達に適切なトランスフェクション装置の例が示されている。そこでは、細胞510が無孔基材530(例えば、組織培養プレートなど)内に設置された付着表面520上に生育する。付着表面520は、例えば、ポリカーボネートなどの多孔性材料で作成された組織培養インサートであってもよい。また、細胞を直接無孔基材530の上に生育させることもできる。ゼラチン質のマトリックス及び/又は支持細胞層を使用してもよい(不図示)。円柱状の電極542と対極板544と電源(不図示)へ連結する連結部546とを有するプローブ540は、核酸560を含有する溶液550に設けられる。円柱状の電極542は、細胞510から有限距離(例えば、約1mm)離れている。この有限距離は、好ましくは、約0.5mm〜2cmの範囲内にある。この実施形態では、対極板544は、所定の長さで円柱状の電極542を越えて伸びている。この長さは前記極限距離と等しいので、対極板544が付着表面520に接触するとき、前記有限距離が定まる。しかしながら、この距離は、任意の物質によって定まる。また、円柱状の電極542は、好ましくは、約0.5mm〜2cm互いに離れている。
図6では、水溶液中の細胞又は組織へ核酸を分子送達するのに適した、本発明にしたがったトランスフェクション装置が示されている。そこでは、キュベット640で細胞又は組織610が核酸630を含有する水溶液620に懸濁される。キュベット640は、対極板642と、円柱電極644と、電源(不図示)に連結する連結部646とを含む。この設計では、円柱電極644が水溶液の容量を適切にカバーするようにするために、円柱電極644は、好ましくは、約0.5mm〜2cm互いに離れている。この形態では、円柱電極は、同時又は交互に作動する。
プローブの設計に関わらず、強度のストレス波を発生させるためには、電極表面上の電場は、液体培地をすばやく蒸発させるほど十分に高い必要がある。また、電気的接続を維持するために、電場は蒸気のイオン化を引き起こすほど強い必要がある。この方法では、機械的ストレス波及び電場は、電極表面上で最大の強度を有する状態で同期するようになる。これに加え、トランスフェクションの効率を最大限にし、細胞死を最小にするために、プラズマ放電を制御する必要がある。
上記の必要条件を満たすために、幾つかのパラメータ(電場の強度、加えられる電圧、パルス幅、パルス数、周波数など)は多様であり得る。これらのパラメータの実際の値は、電極の形状に依存する。しかしながら、一般的には、加えられる電圧は、好ましくは、約1V〜10kVの範囲内にある。より好ましくは、約100V〜1kVの範囲内にある。加えられる電圧は、好ましくは、約1〜100kV/cmの電場を発生させ、より好ましくは、約10〜50kV/cmの電場を発生させ、最も好ましくは、約30kV/cmの電場を発生させる。 パルス幅は、好ましくは、約1ns〜100msの範囲内にあり、より好ましくは、約100ns〜1msの範囲内にある。単相又は二相のパルスのどちらも、本発明の目的に適切である。しかしながら、二相パルスは、ガスの形成、神経及び筋肉の応答、並びに電極の侵食が低いので、より好ましい。本発明では、如何なるパルス数をも使用することができる。パルス数は、好ましくは、約1〜100であり、より好ましくは、約1〜50である。多重パルスを使用する際は、パルスの周波数は、約0.1〜1kHzの範囲内にある。蓄熱を防ぐために、前記周波数は、好ましくは、約1kHzよりも低い。
≪細胞及び組織≫
あらゆる種類の細胞又は組織が本発明の実施に適切である。本発明に使用することができる細胞の例として、初代細胞、一次組織(primary tissue)、及び細胞株がある。好ましい細胞として、結膜線維芽細胞、上皮細胞、及び強膜細胞がある。好ましい細胞株として、線維芽細胞株及び筋肉細胞株がある。細胞及び組織は、好ましくは、自己細胞及び組織、又は同種異系細胞及び組織である。
ある実施形態では、本発明に係る方法は、望ましくない眼疾患を有する、又は望ましくない眼疾患が発達する危険性のある対象から組織を得るステップを含む。前記疾患は、ドライアイなどの不愉快又は軽症のものから加齢性横斑変性症などの失明の可能性を有する重症の疾患までと様々である。組織は、医療関係者により、侵襲的方法、低侵襲的方法、又は非侵襲的手法で患者から摘出される。尚、侵襲性の程度は、部分的には、摘出される組織によって決まる。候補組織は、好ましくは、トランスフェクション及びタンパク質の合成が可能であり、移植環境で生育できる組織である。
この実施形態のある態様では、眼から組織が摘出されるが、眼のあらゆる組織を実行可能なあらゆる方法で摘出することができると考えられる。例えば、結膜線維芽細胞は、例えばプロパラカインなどの局所薬で結膜に麻酔をかけ、ベタジン(betadine)又は他の殺菌剤でその領域を消毒及び処理し、歯付鉗子及びWescott鋏で切り取ることで摘出することができる。結膜下麻酔を好む外科医又は患者もいるであろう。切り出した結膜又は他の組織を摘出し、手術室又は隣接区域でトランスフェクションし、同じセッションで適切な部位に再移植する。或いは、組織を無菌状態で保持し、トランスフェクション、継代培養、及び検査を実施できる無菌室に移動してそれらの処置を施し、その1〜3週間後に再移植することもある。強膜に対しても同様な手法を用いることができる。しかし、この場合、局所麻酔よりも、結膜下麻酔を行うほうが好ましい可能性がある。幾つかの場合において、結膜又は強膜の代わりに虹彩色素上皮などの他の組織基質を使用することができる。あらゆる大きさ又は寸法の組織試料を摘出することができるが、一般的には、1立方ミリメートル以下の組織試料が摘出される。組織を摘出した後は、その部位を必要に応じて縫合又は処理することができる。
別の実施形態では、患者ではなく、ドナーから組織を摘出する。この場合、ドナーの組織を、上記の方法で単離及びトランスフェクションして移植する。この組織を、トランスフェクション後に同じセッションで移植する場合がある。或いは、組織を無菌状態で保持し、トランスフェクション、継代培養、及び検査を実施できる無菌室に移動してそれらの処置を施し、その1〜3週間後に再移植することもある。この場合、例えばウイルス若しくは他の病原体、又は組織被提供者との免疫適合性に関して検査され、移植に対する適性が評価される。
≪核酸≫
上記のように、摘出された細胞若しくは組織、これらの細胞若しくは組織から作成された細胞株、又は標準細胞株は、本発明にしたがって所定の核酸で遺伝子改変される。前記核酸は、例えば治療タンパク質又はRNAiカセット(shRNAなど)をコードしている場合がある。或いは、内在性遺伝子を修復又は置換するために、前記核酸を使用することができる(例えば、DNAで相同的組み換えを行う、又はオリゴヌクレオチドで遺伝子修復を行う)。前記改変には、例えば、遺伝子の発現レベルの改変及び/又は野生型遺伝子による変異遺伝子の置換が含まれる。前記核酸は、DNA又はRNAであってもよいが、好ましくは、DNAである。また好ましくは、前記核酸は、DNA構築物、とりわけcDNA又は合成DNAであり、宿主細胞での転写及び/若しくは翻訳を向上するため又は遺伝子抑制を低下若しくは最小にするためにさらに改変することができる。前記核酸の構築物は、作動可能に連結した(operably linked)プロモーター領域と、ヌクレオチドと、随意的に終止コドンとを含み得る。好ましくは、この構築物はプラスミドの一部分である。細胞又は組織が移植後に長期に渡って治療タンパク質を合成する例えばバイオ工場(bio-factory)として機能するようにするために、この細胞又は組織は安定にトランスフェクションされる。
複数の核酸配列(同じ核酸配列の複数のコピー、及び/又は異なる治療タンパク質若しくはマーカータンパク質をコードする、異なる核酸配列の複数のコピーなど)を細胞又は組織に導入することができる。ある実施形態では、各核酸配列が個別のポリヌクレオチド構築物、プラスミド、又はベクターに存在する。他の実施形態では、2つの核酸配列が1つのポリヌクレオチド構築物、プラスミド、又はベクターに存在し、それぞれの配列は異なるプロモーターの制御下に存在する。或いは、及びさらに他の実施形態では、2つの核酸配列が1つのポリヌクレオチド構築物、プラスミド、又はベクターに存在し、前記ポリヌクレオチドは2シストロン性であり、且つ前記2つの核酸配列は1つのプロモーターの制御下に存在するように構築されている。下記にこれらの様々な実施形態をさらに説明する。
1つのポリヌクレオチド構築物、プラスミド、又はベクターに2つの異なる核酸が存在する実施形態に関しては、各配列は、異なるプロモーターの制御下にあってもよく、1つのプロモーターの制御下にあってもよい。この実施形態では、特定の治療タンパク質をコードする第1の核酸配列に加えて、例えば第2の治療タンパク質又はマーカーをコードする第2の核酸配列が構築物に含まれている。この遺伝子の発現は構成的であり得る(選択マーカーの場合、トランスフェクト細胞又は高レベル若しくは最適な治療レベルのタンパク質を合成するトランスフェクト細胞若しくは細胞集団をうまく選択するために、構成的発現の方が好都合であり得る)。選択マーカーによって、細胞を再導入する(下記に説明)前にトランスフェクト細胞を濃縮する、又はトランスフェクト細胞を選択することが可能となる。
マーカーには、薬剤耐性選択遺伝子、代謝酵素遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、生物発光タンパク質遺伝子、又は当該技術分野で公知の任意のマーカーが使用され得る。蛍光タンパク質として、それらに限定されるものではないが、例えば、緑色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、DsRed蛍光タンパク質、AsRed蛍光タンパク質、HcRed蛍光タンパク質、及びmaxFP緑色タンパク質がある。ベクター構築物にマーカー遺伝子が含まれている場合は、トランスフェクションの後及び/又は移植の前及び/又は移植の後にマーカーの蛍光色を定量化することができることを理解されたい。組織のトランスフェクションの後に、且つ移植の前に、例えば蛍光顕微鏡検査法、フローサイトメトリー、又は蛍光活性化細胞分類(fluorescence-activated cell sorting:FACS)を使用して蛍光の定量を行うことによってエクスビボで蛍光マーカーの発現を定量することができる。組織を移植した後に、インビボでの蛍光のモニタリング(治療タンパク質の合成を評価する方法として)は、蛍光検眼鏡又は蛍光観察のための構成要素を装備した外科用顕微鏡で患者を検査することによって行うことができ、CCDカメラで記録することができる。マーカー遺伝子は、トランス遺伝子の発現レベルを示すために使用することができ、且つ非侵襲性又は低侵襲性手法でモニターすることができる。マーカー遺伝子の発現が低下する場合、治療タンパク質のレベルを増大させるために他の組織移植片をさらに患者に導入することができる。マーカー遺伝子を使用することによって、治療タンパク質レベルが低下して疾患の進行を引き起こす以前に早期に治療タンパク質の発現の低下を認識することができる。
多くの遺伝子治療において、マーカー遺伝子による選択が不可能又は不必要な場合がある。また、インビボでの利用おいては、内部プロモーターを欠くベクターが好ましい可能性がある。1つ以上の治療遺伝子をコードし、単一の転写産物が転写されるベクター(2シストロン性又はポリシストロン性)が設計される場合がある。
2つ以上の遺伝子が1つのプロモーターの転写制御下に存在する場合、1つの転写物から各遺伝子が個別に翻訳されるようにするために、内部リボソーム侵入部位(internal ribosome entry site:IRES)(例えば、ピコルナウイルスRNA由来のもの)が存在する場合がある。IRES配列を有するレトロウイルスは、当該技術分野で公知であり、例えば米国特許第5,665,567号に記載されている。簡潔に言うと、2シストロン性又は多シストロン性のベクターでは、タンパク質をコードする遺伝子断片の個々のリーディングフレームは、転写ユニット(発現ユニット)上にある。各シストロンの発現は、特定の遺伝子配列(一般的には、ピコルナウイルス(例えば、ポリオウイルス又は脳心筋炎ウイルス)の非翻訳領域)又は細胞タンパク質(例えば、BiP)と共に単一のプロモーターを使用することによって起きる。ピコルナウイルスでは、IRES(内部リボソーム侵入部位)と呼ばれる5´非翻訳領域の短い断片は、リーディングフレームの翻訳の開始因子として機能する。
図7を参照しつつ具体的な例を説明する。第1の治療タンパク質(色素上皮由来因子(pigment epithelium-derived factor:PEDF)など)と蛍光タンパク質(強化緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein:eGFP)など)などの選択マーカーとをサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)のプロモーターの制御下に有するプラスミドで細胞又は組織をトランスフェクションすることができる。CMVプロモーターは、この構築物の5´末端に位置する。CMVプロモーターの3´末端の下流には、PEDFタンパク質をコードするPEDFヌクレオチド配列がある。PEDFの3´方向には、mRNA転写物上にある複数の遺伝子の翻訳を可能にするように構成されたIRES部位がある。IRES部位から3´方向には、eGFPコード配列がある。IRESは、eGFPの翻訳並びにPEDFの翻訳を可能にする。
この構築物のプロモーター領域は、哺乳動物の細胞、特にヒトの細胞において機能する全てのプロモーター領域から選択される。プロモーターは、強いプロモーター又は弱いのプロモーター、構成的プロモーター又は調節性/誘導性プロモーター、ユビキタスプロモーター又は選択的プロモーターであってもよい。プロモーターは、細胞由来のプロモーター、ウイルス由来のプロモーター、及び人工プロモーターであってもよい。具体的なプロモーターとして、ハウスキーピングプロモーター(即ち、哺乳動物の組織又は細胞で発現する細胞遺伝子由来のプロモーター)又はウイルスプロモーター(CMV,LTR、SV40など)などがある。さらに、エンハンサー要素及び誘導性の要素を含ませるためにプロモーター領域を人工的に改変することができる。当業者は、ポリペプチド、病状、及び使用するベクターなどに基づいて、プロモーター、分泌配列、終止配列を選択し、用途に適合させることができる。この場合、核酸構築物は、プラスミド、エピソーム、人工染色体などの様々な種類のベクターに挿入することができる。
核酸構築物は、所望に応じて、プロモーターとコード領域との間に分泌シグナル(ポリペプチドの細胞外への分泌を可能又は促進する)を含んでもよい。分泌シグナルは、ポリペプチドに対して同種のもの(即ち、同じ遺伝子由来)であってもよく、異種のもの(即ち、分泌ポリペプチドをコードする他の任意の遺伝子(とりわけ、哺乳動物の遺伝子、又は人工遺伝子)由来)であってもよい。分泌シグナルの例として、血管内皮増殖遺伝子(vascular endothelial growth factor:VEGF)及び神経成長配列(nerve growth sequence:NGS)などがある。
細胞又は組織で核酸を長期的に発現させるために様々な手法が使用され得る。1つの手法では、組み換え部位と、治療タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列と、shRNAとを含むベクターが使用され、ベクターの組み換え部位とトランスフェクションされる細胞のゲノムにおける第2の組み換え部位との間の組み換えを促進するリコンビナーゼを導入することでトランスフェクションが行われる。例えば、米国特許第6,632,672号(参照により、本明細書に組み込まれるものとする)に、phiC31のattBなどの組み換え部位を有する構築物が記載されている。しかしながら、セリンリコンビナーゼファミリーの他のメンバー、トランスポザーゼ(例えば、「Sleeping Beauty」)、DNAミニサークル、遺伝子サイレンシングを最低限に抑えるのに最適化されたプラスミド、EBVなどの安定な染色体外ベクターなどを使用する、遺伝子の長期発現のための他の方法も考えられる。phiC31のattBを使用する場合、関心のある標的ゲノムへの部位特異的組み込みを達成するために、核酸構築物は、phi31のインテグラーゼシステムを含む(米国特許第6,632,672号及び第6,808,925号(参照により、本明細書に組み込まれるものとする)に記載されている)。
バクテリオファージphiC31のインテグラーゼは、真核細胞に存在する疑似組み換え部位(pseudo-recombination site)を認識する。真核細胞を遺伝子操作するために、細胞にphiC31のインテグラーゼ及びphiC31の野生型の組み換え部位を有するベクターが導入される。野生型の組み換え配列は真核細胞のゲノムにおける所定の配列の横に並び、phiC31のインテグラーゼは組み換えを促進する。その結果、異種遺伝子が真核細胞のゲノムに融合する。摘出又は培養された細胞のゲノムに遺伝子物質を導入するのに使用されるあらゆるヌクレオチド配列において、任意のattB部位、任意のattP部位、又は任意の疑似att部位が存在する。
したがって、ある実施形態では、細胞のゲノムにポリヌクレオチドの配列を融合する方法は、(i)第1の組み換え部位と関心のあるポリヌクレオチド配列とを有する環状の標的化構築物、及び(ii)phiC31の天然の又は改変されたインテグラーゼを前記細胞に導入するステップを含み、前記細胞の前記ゲノムはヒトゲノムの天然の第2の組み換え部位(即ち、疑似att部位)を含む。前記第1の組み換え部位と前記第2の組み換え部位との間の組み換えは、部位特異的インテグラーゼによって促進される。
治療遺伝子及びattB配列は、好ましくは、環状のプラスミドDNAとして標的細胞に導入される。インテグラーゼは、(i)第2のプラスミド上でインテグラーゼをコードするDNAとして、(ii)インテグラーゼをコードするmRNAとして、又は(iii)ポリペプチドの形態で標的細胞に導入される。phiC31が細胞に導入されると、細胞は第1及び第2の組み換え部位の間の組み換えを可能にする条件下に保たれ、phiC31のインテグラーゼによって組み換えが促進される。この組み換えによって、関心のあるポリヌクレオチド配列は、細胞のゲノムに部位特異的に融合する。
再び図7を参照しつつ具体的な例を説明する。そこでは、治療タンパク質である色素上皮由来因子(PEDF)及びマーカーとして強化緑色蛍光タンパク質(eGFP)を発現するサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを有するプラスミドが構築されている。PEDFの3´方向にはIRES部位があり、その後の3´方向にeGFPコード配列が続く。IRESは、eGFPの翻訳、並びにPEDFの翻訳を可能にする。attBをも含むこのプラスミドを実施例1で詳細に説明する。尚、本明細書でこのプラスミドを配列認識番号:1と指定する。
本発明では、治療タンパク質をコードする様々な遺伝子のトランスフェクションが考えられる。好ましい候補の遺伝子として、細胞外で作用することで治療効果を発揮する拡散性タンパク質をコードする遺伝子がある。好ましい実施形態では、抗血管新生活性又は神経栄養活性を有するタンパク質をコードする核酸配列がヒトの細胞にトランスフェクションされる。タンパク質の例として、それらに限定されるわけではないが、例えば、色素上皮由来因子(PEDF)、短縮可溶性VEGF受容体(truncated soluble VEGF recptor)sFlt−1、短縮可溶性VEGF受容体sFlk−1、VEGFR−1、VEGFR−2、アンギオスタチン、エンドスタチン、メタロプロテアーゼ組織インヒビター-3(tissue inhibitor of metalloprotease 3:TIMP−3)、ExTek、毛様体神経栄養因子(ciliary neurotrophic factor:CNTF)、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)、骨形成タンパク質4(bone morphogenetic protein 4:BMP4)、アルファ線維芽細胞増殖因子(alpha fibroblast growth factor:αFGF)、ベータ線維芽細胞増殖因子(beta fibroblast growth factor:βFGF)、及び補体H因子の経路(complement factor H pathway)において活性を有する任意のタンパク質がある。生物活性を有する好ましいポリペプチドは、神経栄養活性及び/又は抗血管新生活性を示す。生物活性を有する最も好ましいポリペプチドは、自己ポリペプチド(したがって、対象において免疫応答を引き起こさない)、又は当該技術分野において免疫応答を引き起こさないと知られているポリペプチドである。
好ましい実施形態では、ヒトの細胞は、組み換え核酸構築物を含むように遺伝子的に改変される。それによって、細胞は、その組み換え核酸構築物がコードしている治療タンパク質を合成するようになる。その後、細胞を直ちに対象に移植することができ、又は所定の期間にインビトロで培養することもできる。好ましい実施形態では、治療タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸配列とマーカー遺伝子をコードする他の核酸配列とを有するベクターで改変された哺乳動物細胞が移植される。移植前に細胞がインビトロで培養されている場合は、確実に組み換え核酸を有し、そのポリペプチドを発現する細胞を単離する選択ステップが行われる場合がある。選択ステップは、マーカー遺伝子に部分的に依存し、蛍光の測定、又は抗生物質に関するスクリーニングなどを伴う。マーカー遺伝子を発現する細胞は、移植のために選択される。一般的に、細胞がトランスフェクション後に所定の期間で培養される場合、患者は2回以上医療機関を訪問して治療を受けることになる。最初の訪問では、組織が摘出される。組織細胞はインビトロでトランスフェクションされ、培養される。培養の間に発現レベルがモニターされ、移植のために、例えばマーカー又は所望のタンパク質の発現量を定量する(マーカー発現を測定するための上記の方法を使用して)ことで安定にトランスフェクションされた組織細胞が選択される。対象は、再びその医療機関を訪問し、トランスフェクト組織の移植を受ける。
或いは、患者の1回の訪問で組織を摘出し、トランスフェクションし、移植することができる。このシナリオでは、上記の方法(検眼鏡、外科用顕微鏡)でマーカー又は目的の治療タンパク質の発現レベルをインビボでモニターすることができる。
好ましい実施形態では、治療タンパク質をコードする1つ以上のヌクレオチド核酸及びマーカー遺伝子をコードする1つのヌクレオチド核酸は、同じポリヌクレオチドのベクター構築物に存在する。マーカー遺伝子は、IRES配列で治療タンパク質の遺伝子と連結している。細胞又はクローン細胞から発する蛍光の程度は治療タンパク質の発現量と関連しているので、安定にトランスフェクションされた細胞の選択及び移植後のタンパク質のモニタリングが可能となる。
≪移植≫
医療関係者は、トランスフェクト組織又は細胞を眼内又は眼の付近の任意の数の異なる移植部位に移植することができる。図8は、眼800を示す断面図であり、遺伝子的に改変された細胞又は組織を移植するための幾つかの好ましい部位を示す。解剖学的特徴として、網膜830、強膜840、視神経850、角膜860、瞳孔870、及び虹彩880が示されている。トランスフェクト細胞又は組織を移植する眼800における好ましい部位として、ガラス体液810、扁平部820、網膜後部付近832、又は強膜下部位842がある。図8に特に示されていない組織移植の部位として、脈絡膜、網膜色素上皮(RPE)、及び横斑付近の網膜上、網膜下、又は網膜内の領域がある。
好ましい実施形態では、トランスフェクト細胞又は組織は、ポリマーカプセル又はいわゆる「ケージ(cage)」などの封入要素無しで対象に移植される。特に、自己組織又は細胞が使用される方法では、免疫抑制のために組織又は細胞をケージ内に封入する必要はない。しかしながら、移植片の生着率を高める、及び/又は細胞が移植片から眼の他の部位に移動する可能性を低下させるために、移植組織又は細胞を封入する場合がある。米国特許第6,500,449号及び第6,663,894号に記載されているように、様々な目的の眼科使用のために多くのケージ設計が提案されている。このケージは、組織及び細胞を保持することができるとともに、タンパク質が外に拡散する程十分に大きく、且つ細胞が通過できない程十分に小さな細孔を有する。細胞生育を支持し、且つ細胞が他の部位へ移動しないように細胞を固定するために、ケージはマトリックス又は他の物質を含み得る。
下記の実施例は、説明するものであって、決して、本発明を制限するもではない。
≪実施例1:形質転換のためのプラスミドの構築≫
図7に示されているプラスミドは、配列認識番号が1の配列を含む。配列認識番号1の配列は、サイトメガロウイルス(CMV)のプロモーター(1〜589bp)と、色素上皮由来因子(PEDF)をコードするヌクレオチド配列(PEDF)(590〜2131bp)と、内部リボソーム侵入部位(IRES)をコードする配列(2151〜2735bp)と、強化緑色タンパク質(eGFP)をコードするヌクレオチド配列(2739〜3455bp)と、sv40のポリA配列(3612〜3662bp)と、phiC31のattB部位(3952〜4245bp)と、バクテリアのkanプロモーター(4541〜4576bp)と、SV40の複製起点及びプロモーターエンハンサー(4653〜4955bp)と、G418選択のためのneo(5004〜5798bp)と、pUC複製起点(6383〜7026bp)とを含む。
このプラスミドは、Clontech社市販のpIRES−EGFPベクターから作成する。ベクターを制限酵素BsaI(New England Biolabs)で切断し、線状にする。末端を平滑末端にし(例えば、DNAポリメラーゼI、ラージ(Klenow)を使用して)、ホスファターゼで処理してリン酸基を除去する(例えば、子牛の腸のホスファターゼ(New England Biolabs)を使用して)。このベクターを、attBを含む断片に連結させ(pTA−attB+をEcoRIで切断し、末端を平滑末端にしたとき)、プラスミドpIRES−EGFP−attBを作成する。
第2のクローニングのステップでは、ヒトのcDNAからPEDF遺伝子を増幅するために設計されたプライマーを使用してPCR増幅を行う。pIERES−EGFP−attBを制限酵素SmaI(IRES配列の上流でプラスミドを切断して線状にする)で切断し、ホスファターゼを使用してリン酸基を除去する。PCR増幅した断片をベクターに連結して図7に示されているpPEDF−IRES−GFP−attBを作成する。
≪実施例2:ルシフェラーゼ遺伝子による結膜組織のトランスフェクション≫
本明細書に記載した方法を確かめる研究を行った。そこでは、結膜組織にルシフェラーゼ・マーカー遺伝子をトランスフェクションした。成体のニュージーランド白ウサギから結膜組織を摘出し、組織培養皿に設置した。CMVプロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子をコードする100μgのプラスミドDNAを含有する1mLのリン酸緩衝生理食塩水に全てのサンプルを入れた。トランスフェクションの後に、10%の血清と抗生物質/抗真菌剤とを含むダルベッコ変法培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium:DMEM)に全てのサンプルを培養した。次に、サンプルをルシフェリン基質で処理し(1ml培地当たり150μgのルシフェリン)、IVIS-200システム(Xenogen社)で撮像した。
電子雪崩法を介したトランスフェクションで結膜組織(結膜線維芽細胞を含んでいた)をルシフェラーゼ・マーカー遺伝子でトランスフェクションした。対照として、電子雪崩法を使用せずにこの組織の他のルシフェナーゼ遺伝子と接触させた。トランスフェクションの24時間後に生物発光を測定した。図9に示されているように、電子雪崩法でトランスフェクションした組織は、2.2×105光子/秒を発した。この値は、電子雪崩法無しでトランスフェクションした細胞の値(4.6×103光子/秒)よりも2桁大きかった。背景を測定したところ、3.7×103光子/秒であった。
≪実施例3:DNA送達における電子雪崩法及び従来のエレクトロポレーションの比較≫
組織の種類によってエレクトロポレーションのプロトコールが異なるため、従来のエレクトロポレーションを使用して発生中のニワトリの卵のCAMをトランスフェクションする上で最適なプロトコールを決定するための実験を最初に行った。CAMは、生きた状態で容易に入手できる安価な組織である。CAMの上皮層は均質であり、高耐性を示すので、網膜色素上皮などの上皮細胞層の優れたモデルとなる。このモデルのシステムでは、ルシフェラーゼ遺伝子をコードする100μgのpNBL2プラスミドDNAをピペットでCAM上に加え、パルスを加えた。具体的には、250μsの150Vの相の後に同じ極性で5msの5Vの相が続くパルスを加えた。1Hzでこのサイクルを50回行うことによって最適な結果が得られた。次に、組織を培養し、ルシフェラーゼの生発光に関して分析した。この方法を使用した際のルシフェラーゼの発現量は、約1光子/秒であった。
電子雪崩法に関しては、長さが1mmの50μm微小電極を使用して一連の対称の2相パルスを加えた、各相の持続時間は250μsであり、振幅は600Vであった。図10に示されているように、ルシフェラーゼの発現量は、約109光子/秒であり、従来のエレクトロポレーションで観察されたレベルよりも10000倍高かった。
当業者ならば、本発明の原理から逸脱することなく、様々な変化、置換、及び変更を加える、又は他の方法で実施することができることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって規定される。