以下、本発明の一実施形態に係る車両のステアリング装置について図面を用いて説明する。図1は、実施形態として車両の電動パワーステアリング装置の概略構成を表している。
この電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドル11の操舵操作により転舵輪を操舵するステアリング機構10と、ステアリング機構10に組み付けられ操舵アシストトルクを発生する電動モータ20と、電動モータ20を駆動するためのモータ駆動回路30と、主電源100の出力電圧を昇圧してモータ駆動回路30に電源供給する昇圧回路40と、昇圧回路40とモータ駆動回路30との間の電源供給回路に並列接続される副電源50と、電動モータ20および昇圧回路40の作動を制御する電子制御装置60とを主要部として備えている。
ステアリング機構10は、操舵ハンドル11の回転操作により左右前輪FWL,FWRを転舵するための機構で、操舵ハンドル11を上端に一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備える。このステアリングシャフト12の下端には、ピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合って、ラックバー14とともにラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には、タイロッド15L,15Rを介して左右前輪FWL,FWRのナックル(図示略)が操舵可能に接続されている。左右前輪FWL,FWRは、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ20が組み付けられている。電動モータ20の回転軸は、ボールねじ機構16を介してラックバー14に動力伝達可能に接続されていて、その回転により左右前輪FWL,FWRに転舵力を付与して運転者の操舵操作をアシストする。ボールねじ機構16は、減速機および回転−直線変換器として機能するもので、電動モータ20の回転を減速するとともに直線運動に変換してラックバー14に伝達する。
ステアリングシャフト12には、操舵トルクセンサ21が設けられる。操舵トルクセンサ21は、操舵ハンドル11の回動操作によってステアリングシャフト12に作用する操舵トルクに応じた信号を出力する。この操舵トルクセンサ21から出力される信号により検出される操舵トルクの値を、以下、操舵トルクTxと呼ぶ。操舵トルクTxは、正負の値により操舵ハンドル11の操作方向が識別される。本実施形態においては、操舵ハンドル11の右方向への操舵時における操舵トルクTxを正の値で、操舵ハンドル11の左方向への操舵時における操舵トルクTxを負の値で示す。従って、以下、操舵トルクTxの大きさを論じる場合は、その絶対値の大きさを用いる。操舵トルクセンサ21は、本発明の操舵トルク検出手段に相当する。
電動モータ20には、回転角センサ22が設けられる。この回転角センサ22は、電動モータ20内に組み込まれ、電動モータ20の回転子の回転角度位置に応じた検出信号を出力する。この回転角センサ22の検出信号は、電動モータ20の回転角および回転角速度の計算に利用される。一方、この電動モータ20の回転角は、操舵ハンドル11の操舵角に比例するものであるので、操舵ハンドル11の操舵角としても共通に用いられる。また、電動モータ20の回転角を時間微分した回転角速度は、操舵ハンドル11の操舵角速度に比例するものであるため、操舵ハンドル11の操舵速度としても共通に用いられる。以下、回転角センサ22の出力信号により検出される操舵ハンドル11の操舵角の値を操舵角θxと呼び、その操舵角θxを時間微分して得られる操舵角速度の値を操舵速度ωxと呼ぶ。操舵角θxは、正負の値により操舵ハンドル11の中立位置に対する右方向および左方向の舵角をそれぞれ表す。本実施形態においては、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、中立位置に対する右方向への舵角を正の値で示し、中立位置に対する左方向への舵角を負の値で示す。
モータ駆動回路30は、MOSFETからなる6個のスイッチング素子31〜36により3相インバータ回路を構成したものである。具体的には、第1スイッチング素子31と第2スイッチング素子32とを直列接続した回路と、第3スイッチング素子33と第4スイッチング素子34とを直列接続した回路と、第5スイッチング素子35と第6スイッチング素子36とを直列接続した回路とを並列接続し、各直列回路における2つのスイッチング素子間(31−32,33−34,35−36)から電動モータ20への電源供給ライン37を引き出した構成を採用している。
モータ駆動回路30から電動モータ20への電源供給ライン37には、電流センサ38が設けられる。この電流センサ38は、各相ごとに流れる電流をそれぞれ検出(測定)し、その検出した電流値に対応した検出信号を電子制御装置60に出力する。以下、この測定された電流値を、モータ電流iuvwと呼ぶ。また、この電流センサ38をモータ電流センサ38と呼ぶ。
各スイッチング素子31〜36は、それぞれゲートが電子制御装置60のアシスト制御部61(後述する)に接続され、アシスト制御部61からのPWM制御信号によりデューティ比が制御される。これにより電動モータ20の駆動電圧が目標電圧に調整される。尚、図中に回路記号で示すように、スイッチング素子31〜36を構成するMOSFETには、構造上ダイオードが寄生している。
次に、電動パワーステアリング装置の電源供給系統について説明する。
電動パワーステアリング装置の電源装置は、主電源100と、主電源100の出力電圧を昇圧する昇圧回路40と、昇圧回路40とモータ駆動回路30とのあいだに並列に接続される副電源50と、電子制御装置60に設けられ昇圧回路40の昇圧電圧を制御する電源制御部62とを備える。
主電源100は、定格出力電圧12Vの一般的な車載バッテリである主バッテリ101と、エンジンの回転により発電する定格出力電圧14Vのオルタネータ102とを並列接続して構成される。従って、主電源100は、14V系の車載電源を構成している。
主電源100は、電動パワーステアリング装置だけでなく、ヘッドライト等の他の車載電気負荷への電源供給も共通して行う。主バッテリ101の電源端子(+端子)には、電源供給元ライン103が接続され、グランド端子には接地ライン111が接続される。
電源供給元ライン103は、制御系電源ライン104と駆動系電源ライン105とに分岐する。制御系電源ライン104は、電子制御装置60のみに電源供給するための電源ラインとして機能する。駆動系電源ライン105は、モータ駆動回路30と電子制御装置60との両方に電源供給する電源ラインとして機能する。
制御系電源ライン104には、イグニッションスイッチ106が接続される。駆動系電源ライン105には、電源リレー107が接続される。この電源リレー107は、電子制御装置60のアシスト制御部61からの制御信号によりオンして電動モータ20への電力供給回路を形成するものである。制御系電源ライン104は、電子制御装置60の電源+端子に接続されるが、その途中で、イグニッションスイッチ106よりも負荷側(電子制御装置60側)においてダイオード108を備えている。このダイオード108は、カソードを電子制御装置60側、アノードを主電源100側に向けて設けられ、電源供給方向にのみ通電可能とする逆流防止素子である。
駆動系電源ライン105には、電源リレー107よりも負荷側において制御系電源ライン104と接続する連結ライン109が分岐して設けられる。この連結ライン109は、制御系電源ライン104のダイオード108接続位置よりも電子制御装置60側に接続される。また、連結ライン109には、ダイオード110が接続される。このダイオード110は、カソードを制御系電源ライン104側に向け、アノードを駆動系電源ライン105側に向けて設けられる。従って、連結ライン109を介して駆動系電源ライン105から制御系電源ライン104には電源供給できるが、制御系電源ライン104から駆動系電源ライン105には電源供給できないような回路構成となっている。駆動系電源ライン105および接地ライン111は昇圧回路40に接続される。また、接地ライン111は、電子制御装置60の接地端子にも接続される。
駆動系電源ライン105には、昇圧回路40と電源リレー107との間に電圧センサ51が設けられる。この電圧センサ51は、主電源100から電動モータ20への電源供給異常状態を検出するもので、駆動系電源ライン105と接地ライン111との間の電圧を検出(測定)し、その検出信号を電源制御部62、および、電源制御部62を介してアシスト制御部61に出力する。以下、この電圧センサ51を第1電圧センサ51と呼び、その検出電圧値を主電源電圧v1と呼ぶ。
昇圧回路40は、駆動系電源ライン105と接地ライン111との間に設けられるコンデンサ41と、コンデンサ41の接続点より負荷側の駆動系電源ライン105に直列に設けられる昇圧用コイル42と、昇圧用コイル42の負荷側の駆動系電源ライン105と接地ライン111との間に設けられる第1昇圧用スイッチング素子43と、第1昇圧用スイッチング素子43の接続点より負荷側の駆動系電源ライン105に直列に設けられる第2昇圧用スイッチング素子44と、第2昇圧用スイッチング素子44の負荷側の駆動系電源ライン105と接地ライン111との間に設けられるコンデンサ45とから構成される。昇圧回路40の二次側には、昇圧電源ライン112が接続される。
本実施形態においては、この昇圧用スイッチング素子43,44としてMOSFETを用いるが,他のスイッチング素子を用いることも可能である。また、図中に回路記号で示すように、昇圧用スイッチング素子43,44を構成するMOSFETには、構造上ダイオードが寄生している。
昇圧回路40は、電子制御装置60の電源制御部62により昇圧制御される。電源制御部62は、第1,第2昇圧用スイッチング素子43,44のゲートに所定周期のパルス信号を出力して両スイッチング素子43,44をオン・オフし、主電源100から供給された電源を昇圧して昇圧電源ライン112に所定の出力電圧を発生させる。この場合、第1,第2昇圧用スイッチング素子43,44は、互いにオン・オフ動作が逆になるように制御される。昇圧回路40は、第1昇圧用スイッチング素子43をオン、第2昇圧用スイッチング素子44をオフにして昇圧用コイル42に短時間だけ電流を流して昇圧用コイル42に電力をため、その直後に、第1昇圧用スイッチング素子43をオフ、第2昇圧用スイッチング素子44をオンにして昇圧用コイル42にたまった電力を出力するように動作する。
第2昇圧用スイッチング素子44の出力電圧は、コンデンサ45により平滑される。従って、安定した昇圧電源が昇圧電源ライン112から出力される。この場合、周波数特性の異なる複数のコンデンサを並列に接続して平滑特性を向上させるようにしてもよい。また、昇圧回路40の入力側に設けたコンデンサ41により、主電源100側へのノイズが除去される。
昇圧回路40の昇圧電圧(出力電圧)は、第1、第2昇圧用スイッチング素子43,44のデューティ比の制御(PWM制御)により、例えば、20V〜50Vの範囲で昇圧電圧を調整できるように構成される。尚、昇圧回路40として、汎用のDC−DCコンバータを使用することもできる。
昇圧電源ライン112は、昇圧駆動ライン113と充放電ライン114とに分岐する。昇圧駆動ライン113は、モータ駆動回路30の電源入力部に接続される。充放電ライン114は、副電源50のプラス端子に接続される。
副電源50は、昇圧回路40から出力される電力を充電し、モータ駆動回路30で大電力を必要としたときに、主電源100を補助してモータ駆動回路30に電源供給する蓄電装置である。また、副電源50は、主電源100が失陥(電源供給能力の喪失)したときに、単独でモータ駆動回路30に電源供給するように使用される。従って、副電源50は、昇圧回路40の昇圧電圧相当の電圧を維持できるように複数の蓄電セルを直列に接続して構成される。副電源50の接地端子は、接地ライン111に接続される。この副電源50として、例えば、キャパシタ(電気二重層コンデンサ)を用いることができる。
副電源50は、電子制御装置60に対しても電源供給できるように構成されており、主電源100から電子制御装置60に電源供給を良好に行えなくなったときに、主電源100に代わって電子制御装置60に電源供給するように構成されている。尚、電子制御装置60は、副電源50から供給される電源の電圧を降圧する図示しない降圧回路(DC/DCコンバータ)を受電部に内蔵しており、この降圧回路により適正電圧に調整する。
昇圧回路40の出力側には、電圧センサ52が設けられる。電圧センサ52は、昇圧電源ライン112と接地ライン111との間の電圧を検出し、その検出値に応じた信号を電源制御部62に出力する。この回路構成においては、昇圧電源ライン112と充放電ライン114とが接続されるため、電圧センサ52により測定される測定値は、昇圧回路40の出力電圧(昇圧電圧)と副電源50の出力電圧(電源電圧)との高い方の電圧値となる。以下、この電圧センサ52を第2電圧センサ52と呼び、その検出電圧値を出力電圧v2と呼ぶ。
昇圧駆動ライン113には、モータ駆動回路30に流れる電流を検出する電流センサ54が設けられる。電流センサ54は、電子制御装置60の電源制御部62に接続され、電源制御部62に対して測定値を表す信号を出力する。以下、この電流センサ54を出力電流センサ54と呼び、その検出電流値を出力電流i2と呼ぶ。
また、充放電ライン114には、副電源50に流れる電流を検出する電流センサ53が設けられる。電流センサ53は、電子制御装置60の電源制御部62に接続され、電源制御部62に対して測定値を表す信号を出力する。電流センサ53は、電流の向き、つまり、昇圧回路40から副電源50に流れる充電電流と、副電源50からモータ駆動回路30に流れる放電電流とを区別して、それらの大きさを測定する。電流センサ53にて測定される電流値は、充電電流として流れるときには正の値により、放電電流として流れるときには負の値により表される。以下、この電流センサ53を副電源電流センサ53と呼び、その検出電流値を副電源電流isubと呼ぶ。
電子制御装置60は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータを主要部として構成され、その機能に着目すると、アシスト制御部61と電源制御部62とに大別される。アシスト制御部61と電源制御部62とは、互いに情報の授受が可能となっている。アシスト制御部61は、操舵トルクセンサ21、回転角センサ22、モータ電流センサ38、車速センサ23を接続し、操舵トルクTx、操舵角θx、モータ電流iuvw、車速Vxを表すセンサ信号を入力する。アシスト制御部61は、これらのセンサ信号および電源制御部62にて検出したセンサ信号に基づいて、モータ駆動回路30にPWM制御信号を出力して電動モータ20を駆動制御し、運転者の操舵操作をアシストする。
電源制御部62は、昇圧回路40の昇圧制御を行うことにより副電源50の充電と放電とを制御する。電源制御部62は、第1電圧センサ51,第2電圧センサ52,副電源電流センサ53,出力電流センサ54を接続し、主電源電圧v1,出力電圧v2,副電源電流isub,出力電流i2を表すセンサ信号を入力する。電源制御部62は、これらセンサ信号に基づいて、副電源50の充電容量(=蓄電容量)が目標充電容量(=目標蓄電容量)となるように昇圧回路40にPWM制御信号を出力する。昇圧回路40は、入力したPWM制御信号にしたがって第1,第2昇圧用スイッチング素子43,44のデューティ比を制御することにより、その出力電圧である昇圧電圧を変化させる。尚、電源制御部62は、主電源100の異常が検知されているときには、昇圧回路40の昇圧動作を停止する。
一般に、電動パワーステアリング装置は、後述する操舵アシスト制御からわかるように、据え切り操作時や、低速走行でのハンドル操作時において大きな電力が必要とされる。しかし、一時的な大電力消費に備えて主電源100の大容量化を図ることは好ましくない。そこで、本実施形態の電動パワーステアリング装置においては、主電源100の大容量化を図らずに、一時的な大電力消費時に電源供給を補助する副電源50を備えている。また、電動モータ20を効率的に駆動するために昇圧回路40を備え、昇圧した電力をモータ駆動回路30および副電源50に供給するシステムを構成している。
ところで、主電源100から電動モータ20への電源供給が不能になる可能性がある。例えば、電源リレー107の故障、駆動系電源ライン105の断線、電源ラインのコネクタ接続不良等がその原因として挙げられる。こうした場合、本実施形態の電動パワーステアリング装置においては、副電源50のみである程度の操舵アシスト制御を行うことができる。しかし、副電源50から供給できる電力量には限りがある。一般に、電源異常時においては、ウォーニングランプ等の報知器が作動するが、それだけでは運転者には気がつかない場合もある。そうした場合には、副電源50の充電容量が消耗していき制御システムが停止したときになって急に操舵アシストがなくなるため、運転者に大きな違和感を与えてしまう。
そこで、本実施形態においては、運転者に電動パワーステアリング装置が異常であることを確実に認識させるとともに、電動モータ20の電力消費量を抑えて副電源50の電源供給可能期間の延長を図り、できるだけ操舵アシスト可能な期間を長くするために、主電源100の正常時と異常とで操舵アシスト制御を切り替える。
また、電動モータ20の電力消費量を抑えた場合には、操舵ハンドル11の回動操作に対して得られるアシスト力が低下するが、車両の接触回避等のために緊急な操舵操作が必要となるケースにおいては、適切なアシスト力が得られるようにして安全性を維持する。
ここで、電子制御装置60のアシスト制御部61が行う操舵アシスト制御処理について説明する。図2は、アシスト制御部61により実施される操舵アシスト制御ルーチンを表す。操舵アシスト制御ルーチンは、電子制御装置60のROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションスイッチ106の投入(オン)により起動し、所定の短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動すると、アシスト制御部61は、ステップS11において、車速センサ23によって検出された車速Vxと、操舵トルクセンサ21によって検出された操舵トルクTxとを読み込む。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS12において、主電源100の電源供給異常が生じているか否かを診断する。本実施形態においては、電源制御部62を介して第1電圧センサ51により検出された主電源電圧v1を読み込み、主電源電圧v1が主電源異常判定電圧vrefを下回っているか否かを判断する。主電源100の電源供給異常とは、主電源100からモータ駆動回路30に電源を供給できない状態、あるいは、正常に電源供給を行えない状態になっていることをいう。例えば、電源リレー107の故障、駆動系電源ライン105の断線、電源ラインのコネクタ接続不良など挙げることができる。従って、予め主電源異常判定電圧vrefを正常時には検出されない低い値に設定しておくことで、主電源電圧v1が主電源異常判定電圧vrefを下回っている場合に、主電源100の電源供給異常が生じていると判定することができる。主電源100の電源供給異常が生じている場合には、主電源100と副電源50とからなる電源装置としては、電源供給能力が低下していることになる。従って、このステップS12の処理を行うアシスト制御部61の機能部が、本発明の電源能力低下検出手段に相当する。
また、主電源100の電源供給異常は、オルタネータ102の異常検出をOR条件として加えるようにしてもよい。つまり、主電源電圧v1の異常とオルタネータ102の異常の少なくとも一方が検出されたときに、主電源100の電源供給異常が発生していると判定する。オルタネータ102は、フィールドコイルに流す電流量を調整し発電電圧を調整する。従って、例えば、フィールドコイルの断線を検出することによりオルタネータ102の異常を検出することができる。また、例えば、特開平11−294181号公報に示されるように、エンジンのクランクプーリとオルタネータプーリとを連結するベルトの張力の低下に基づいてオルタネータ102の異常を検出してもよい。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS13において、主電源100の診断結果を参照し、電源供給異常が発生していない場合(S13:No)には、その処理をステップS14に進め、電源供給異常が発生している場合(S13:Yes)には、その処理をステップS18に進める。ここでは、まず、主電源100の電源供給異常が発生していない場合について説明する。
アシスト制御部61は、主電源100の電源供給異常が発生していないと判断した場合には、ステップS14において、アシストマップを用いて目標電流値ias*を計算する。アシストマップは、車速Vxと操舵トルクTxとに基づいて電動モータ20の目標電流値ias*を設定するための参照マップであり電子制御装置60のメモリ内に記憶されている。アシストマップは、図3に示すように、操舵トルクTxの増加にしたがってアシスト力が増加するように操舵トルクTxと目標電流値ias*との関係を設定したものである。この例では、操舵トルクTxと目標電流値ias*との関係を、車速Vxに応じても変化させ、車速Vxが低くなるほど目標電流値ias*を大きな値に設定する。このアシストマップでは、操舵トルクTxがゼロとなるときに目標電流値ias*をゼロに設定し、操舵トルクTxの増加にしたがって目標電流値ias*がゼロから増加するように設定する。尚、目標電流値ias*は、操舵トルクTxの増加にかかわらず上限電流値iasmax以下に制限される。
このアシストマップは、本発明における操舵トルクと目標電流値との関係を設定したアシスト特性に相当する。尚、図3のアシストマップは、右方向の操舵トルクTxに対する目標電流値ias*の特性を表すが、左方向の特性については方向が反対になるだけで絶対値でみれば同じである。以下、目標電流値ias*を目標電流ias*と呼び、上限電流値iasmaxを上限電流iasmaxと呼ぶ。
アシストマップは、後述するように主電源100の電源供給異常時(電源装置の電源供給能力の低下時)においては、その特性が切り替えられる。従って、以下、主電源100の正常時における特性(図3に示す特性)を、オリジナルアシスト特性と呼ぶ。
尚、目標電流ias*は、電動モータ20で発生させる目標トルクに相当する。従って、目標電流ias*の計算に当たっては、操舵角θxや操舵速度ωx等に基づく補償トルクを加味させるために、その分だけ目標電流ias*を補正するようにしてもよい。例えば、操舵角θxに比例して大きくなるステアリングシャフト12の基本位置への復帰力と、操舵速度ωxに比例して大きくなるステアリングシャフト12の回転に対向する抵抗力に対応した戻しトルクとの和を補償トルクとして、この補償トルク分を考慮した目標電流ias*に補正してもよい。この計算に当たっては、回転角センサ22にて検出した電動モータ20の回転角(操舵ハンドル11の操舵角θxに相当)を入力して行う。また、操舵速度ωxについては、操舵ハンドル11の操舵角θxを時間で微分して求める。
次に、アシスト制御部61は、ステップS15において、電動モータ20に流れるモータ電流iuvwをモータ電流センサ38から読み込む。続いて、ステップS16において、このモータ電流iuvwと先に計算した目標電流ias*との偏差Δiを計算し、この偏差Δiに基づくPI制御(比例積分制御)により指令電圧v*を計算する。
そして、アシスト制御部61は、ステップS17において、指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路30に出力して本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。従って、本制御ルーチンの実行により、モータ駆動回路30のスイッチング素子31〜36のデューティ比が調整されて電動モータ20が駆動制御され、運転者の操舵操作に応じた所望のアシスト力が得られる。このアシスト制御部61およびモータ駆動回路30が本発明のモータ制御手段に相当する。
尚、こうした電動モータ20のフィードバック制御は、電動モータ20の回転方向をq軸とするとともに回転方向と直交する方向をd軸とする2相のd−q軸座標系で表されるベクトル制御によって行われる。そのため、アシスト制御部61は、モータ電流センサ38で検出される3相のモータ電流iuvwをd−q軸座標系に変換する3相/2相座標変換部(図示略)を備え、この3相/2相座標変換部によりモータ電流iuvwをd軸電流idとq軸電流iqとに変換する。また、目標電流ias*の設定においても、d−q軸座標系における目標電流(Id*,Iq*)を算出する。この場合、電動モータ20にトルクを発生させるq軸電流がアシストマップから目標電流ias*として設定されることになる。また、アシスト制御部61は、偏差(Id*−Id,Iq*−Iq)に対応した3相の電圧指令値(指令電圧v*)を算出するために、2相/3相座標変換部(図示略)を備え、この2相/3相座標変換部により3相の指令電圧v*を演算する。
本願明細書においては、本発明がこうしたd−q軸座標系を使った制御に特徴を有するものではないため、目標電流を単にias*として表現し、モータ電流センサ38で検出されるモータ電流をiuvwと表現して説明する。
図2の操舵アシスト制御の説明に戻り、主電源100の電源供給異常が発生している場合の処理について説明する。アシスト制御部61は、主電源100の電源供給異常が発生していると判断した場合(S13:Yes)には、ステップS18において、副電源50の実充電容量Jxを検出する。副電源50の実充電容量Jxとは、副電源50に蓄電されている電気容量を表し、後述する実充電容量検出ルーチンにより逐次検出されるものである。従って、このステップS18の処理は、電源制御部62により実行される実充電容量検出ルーチンにより検出された実充電容量Jxを読み込む処理となる。副電源50の実充電容量Jxは、副電源50の電源供給能力を表す。従って、このステップS18を実行するアシスト制御部61の機能部、および、後述する実充電容量検出ルーチンを実行する電源制御部62の機能部が本発明の充電容量検出手段に相当する。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS19において、副電源50の実充電容量Jxに基づいて、特性シフト量ΔTxを計算する。特性シフト量ΔTxは、シフト量マップを用いて計算される。シフト量マップは、図4に示すように、副電源50の実充電容量Jxと特性シフト量ΔTxとの関係を設定したもので、電子制御装置60のメモリ内に記憶されている。特性シフト量ΔTxは、シフト量マップに示すように、実充電容量Jxが基準充電容量J1以上である場合には一定の基準シフト量ΔT1(>0)が設定され、実充電容量Jxが基準充電容量J1を下回る場合には、実充電容量Jxの低下にしたがって増加するように設定される。尚、基準充電容量J1は、後述する目標充電容量J*よりも小さな値に設定される。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS20において、特性シフト量ΔTxを使って、図3に示すアシストマップのアシスト特性(オリジナルアシスト特性)を異常時アシスト特性に切り替える。異常時アシスト特性は、図5のアシストマップに示すように、オリジナルアシスト特性に対して操舵トルクTxを増大側(矢印に示す方向)に特性シフト量ΔTxだけシフトさせた特性である。つまり、アシストマップにおける目標電流ias*に対する操舵トルクTxの値を増大側に特性シフト量ΔTxだけシフトさせた特性である。この場合、アシストマップの原点から操舵トルクTxをシフトさせた分だけ目標電流ias*がゼロに設定されるトルク領域も広がる。
尚、本実施形態のオリジナルアシスト特性は、車速Vxに応じて設定されるものであるため、この異常時アシスト特性も、車速Vxに応じて設定されるものである。従って、図5に示すアシストマップは、特定の車速Vxにおけるオリジナルアシスト特性と特性シフト量ΔTxに応じて変更される異常時アシスト特性とを重ねて表したものである。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS21において、異常時アシスト特性から操舵トルクTxに対する目標電流ias*を計算する。この場合、操舵トルクTxに対する目標電流ias*は、主電源100の正常時に比べて、アシスト特性が変更された分だけ減少する。
続いて、アシスト制御部61は、ステップS22において、制限特性から下限電流値iasmin(以下、下限電流iasminと呼ぶ)を計算する。下限電流iasminは、図6に示す制限特性マップを用いて計算される。制限特性マップは、操舵トルクTxが基準操舵トルクT1より大きな操舵トルク領域(高操舵トルク領域)において、操舵トルクTxに対して設定される目標電流ias*の下限値を設定したもので、電子制御装置60のメモリ内に記憶されている。本実施形態において制限特性は、操舵トルクTxの増加に対して目標電流ias*が一次関数的に増加するように設定される。一方、アシスト特性は、操舵トルクTxの増加に対する目標電流ias*の増加率が、操舵トルクTxが大きくなるほど大きくなる特性である。この制限特性における操舵トルクTxの増加に対する目標電流ias*の増加率α(Δias*/ΔTx)は、アシスト特性の増加率よりも大きく設定されている。以下、図6の制限特性マップに表される直線を制限特性ラインLlimと呼ぶ。
この制限特性における増加率αは、電動パワーステアリング装置の操舵アシスト制御システムが振動(自励振動)しない範囲で、できるだけ大きな値、つまり、図6における制限特性ラインLlimの傾きを最大に設定する。また、制限特性マップにおける制限特性ラインLlimの位置は、制限特性ラインLlimと上限電流iasmaxを表す上限ラインLmaxとの交差するポイントP1の操舵トルクTxが、一般的な運転者が操舵ハンドル11を操舵する力の最大値(例えば、6〜7Nm(ニュートンメートル))となるように設定する。
従って、ステップS22の処理は、図6の制限特性マップから、現在の操舵トルクTxに対する下限電流iasminを計算する処理である。続いて、アシスト制御部61は、ステップS23において、先のステップS21にて算出した目標電流ias*が、ステップS22にて算出した下限電流iasminより小さいか否かを判断する。目標電流ias*が下限電流iasminより小さい場合(S23:Yes)には、目標電流ias*を下限電流iasminとして設定する(ias*←iasmin)。一方、目標電流ias*が下限電流iasmin以上であれば(S23:No)、目標電流ias*を変更しない。つまり、ステップS21にて算出した目標電流ias*を最終的な目標電流とする。従って、図7に示すように、アシスト特性が操舵トルクTxの増加する方向にシフトしても、高操舵トルク領域においては、目標電流ias*が制限特性ラインLlimで下限制限される。
こうして、目標電流iasが算出されると、アシスト制御部61は、上述したステップS15〜S17の処理により、モータ電流iuvwと目標電流ias*との偏差Δiに基づくPI制御により指令電圧v*を計算し、指令電圧v*に応じたPWM制御信号をモータ駆動回路30に出力して本制御ルーチンを一旦終了する。
本制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返される。これにより、主電源100の電源供給異常が検出された直後においては、オリジナルアシスト特性が、そのときの副電源50の保有する実充電容量Jxに応じた異常時アシスト特性に切り替えられる。この場合、副電源50に充電されている実充電容量Jxが満充電(目標充電容量J*)に近い状態であっても、基準シフト量ΔT1だけアシスト特性が変更される(図5参照)。これにより、操舵トルクTxに対応する目標電流ias*が確実に低減される。従って、アシスト力が減少しハンドル操作が重くなる。同時に、副電源50からモータ駆動回路30に供給される電力も少なくなり、副電源50の電源供給可能期間の延長処理が開始される。
主電源100の電源供給異常が検出された直後におけるアシスト特性の切替は、短時間で行われる。従って、アシスト特性の切替時における特性シフト量ΔTxをあまり大きくしなくても、つまり、アシスト力の低減量をあまり大きくしなくても、運転者に対してアシスト特性の変化を効果的に感じさせることができる。これにより、運転者は、この時点で電動パワーステアリング装置の異常を認識することができる。また、この時点においては、アシスト力が弱くなるものの、後述する充放電制御により副電源50に充電されている実充電容量Jxが基準充電容量J1以上に維持されているため、操舵操作に大きな影響を与えるほどのアシスト力の低減とはならない。
この場合、図7に示すように、異常時アシスト特性は、制限特性ラインLlimにより目標電流ias*が下限制限される領域にまでシフトしていない。この状態においては、ハンドル操作が重くなるものの、通常時よりも強めの力でハンドル回動操作を行えば、最大アシスト力(上限電流iasmaxに相当)が得られる。
主電源100の電源供給異常が検出された場合には、電源制御部62による副電源50の充放電制御(後述する)が停止され昇圧回路40の昇圧作動が行われなくなる。従って、副電源50の保有する電力のみにて電動モータ20が駆動されることになる。このため、副電源50の保有する実充電容量Jxは次第に低下していく。異常時アシスト特性は、副電源50の実充電容量Jxの低下に合わせて目標電流ias*に対する操舵トルクTxの値を増大側にシフトする(図5参照)。これにより、操舵ハンドル11の回動操作に対して得られるアシスト力が低下していく。
特性シフト量ΔTxが小さいうちは、運転者がある程度の強さで操舵ハンドル11の回動操作を行えば、最大アシスト力(上限電流iasmaxに相当)を得ることができる。しかし、副電源50の実充電容量Jxの低下にともなって特性シフト量ΔTxがさらに増大していくと、最大アシスト力を得るために必要となる操舵トルクTxも増大し、運転者の操舵力の限界(図7のポイントP1)を超えてしまう。この場合、例えば、車両の接触回避等のための緊急操舵操作を行っても最大アシスト力が得られなくなる。
そこで、本実施形態においては、ステップS22〜24の処理により、操舵トルクTxが基準操舵トルクT1より大きくなる領域においては、制限特性を使って目標電流ias*に下限制限を加える。つまり、異常時アシスト特性から得られる目標電流ias*が制限特性から得られる下限電流iasminより小さな値となる場合(図7の破線であらわす部分)には、目標電流ias*を制限特性ラインLlim上の値に設定する。このため、副電源50の実充電容量Jxが少なくなっている場合であっても、運転者が操舵ハンドル11を強く回動操作すれば、目標電流ias*が操舵トルクTxの増加にしたがって制限特性ラインLlimにそって急激に増加し上限電流iasmaxに達する。この結果、運転者のハンドル操作可能な操舵力で最大アシスト力を得ることができる。このため、緊急操舵操作時等において適切なアシスト力が得られ安全性が向上する。
また、本実施形態では、主電源100の電源供給異常が検出された直後においては、瞬時にアシスト特性をオリジナルアシスト特性から異常時アシスト特性に切り替え、その後は、副電源50の実充電容量Jxに低下にあわせて操舵トルクTxに対するアシスト力がさらに低下するよう異常時アシスト特性を変更する。従って、運転者は、一旦弱くなったアシスト力が時間の経過とともにさらに弱くなっていくこと、つまり、ハンドル操作がさらに重くなっていくことを感じる。これにより、運転者は、電動パワーステアリング装置の異常が進行していることを予測することができる。従って、操舵アシストが完全に停止した場合でも運転者を驚かせることがなく安全性が高い。また、副電源50の電力消費が抑えられて電源供給可能期間の延長が図られるため、操舵アシスト可能な期間を長くすることができる。また、電動モータ20の駆動用に主電源100の電力を使用しないため、主電源100から他の車載電気負荷への電力供給を優先させることができる。
また、アシスト特性の切替および変更は、目標電流ias*に低減係数を乗じる構成ではなく、目標電流ias*に対する操舵トルクTxの値を増大側にシフトさせるものであるため、目標電流ias*がゼロになる操舵トルク領域が広がる。このため、運転者は、弱いハンドル操作時においてもアシスト特性が変化したことを良好に認識できる。
また、主電源100の電源供給異常が検出された直後において、副電源50に充電されている実充電容量Jxが基準充電容量J1を下回っている場合には、基準シフト量ΔT1より大きな特性シフト量ΔTxが設定される。このため、副電源50の電源供給可能期間の延長を適切に行うことができる。
尚、この実施形態において、主電源100の電源供給異常時にアシスト特性をシフトさせる処理(S20)を行うアシスト制御部61の機能部が本発明のアシスト特性シフト手段に相当する。また、制限特性を用いて目標電流ias*の下限制限を行う処置(S22〜S24)を行うアシスト制御部61の機能部が本発明の下限制限手段に相当する。また、副電源50の実充電容量Jxに基づいて特性シフト量ΔTxの計算処理(S19)を行うアシスト制御部61の機能部が本発明のシフト量調整手段に相当する。
次に、副電源50の充放電制御について説明する。本実施形態の電動パワーステアリング装置は、主電源100と副電源50とで電源装置を構成し、主電源100と副電源50との両方を使うことによりアシスト性能をフルに発揮できる。このため、本来のアシスト性能を確保するためには、副電源50の状態を良好に保つ必要がある。副電源50は、過剰に充電したり頻繁に充放電を繰り返したりすると、早く劣化してしまい寿命が短くなる。また、副電源50の充電容量が不足していている場合には、本来のアシスト性能を発揮できなくなる。そこで、本実施形態においては、以下に説明するように副電源50の充放電を制御する。尚、副電源50の充放電制御は、主電源100の異常が検出されていないときに行われるものである。
図8は、電源制御部62により実施される充放電制御ルーチンを表す。この充放電制御ルーチンは、電子制御装置60のROM内に制御プログラムとして記憶され、イグニッションスイッチ106の投入(オン)により起動し、所定の短い周期で繰り返し実行される。
本制御ルーチンが起動すると、電源制御部62は、まず、ステップS51において、副電源50に充電されている実充電容量Jxを表すデータを読み込む。この実充電容量Jxは、後述する実充電容量検出ルーチン(図9)により逐次算出されるものである。従って、このステップS51は、実充電容量検出ルーチンにより算出された最新の実充電容量Jxを表すデータの読み込み処理となる。
続いて、電源制御部62は、ステップS52において、第2電圧センサ52にて検出された出力電圧v2、出力電流センサ54にて検出された出力電流i2、副電源電流センサ53にて検出された副電源電流isubを読み込む。続いて、ステップS53において、充電フラグFcが「0」に設定されているか否かについて判断する。充電フラグFcは、後述する処理からわかるように、副電源50の充電の要否を表すもので、Fc=0で充電不要を表し、Fc=1で充電要を表す。尚、本充放電制御ルーチンの起動時においては「0」に設定されている。
電源制御部62は、充電フラグFcが「0」の場合には(S53:YES)、その処理をステップS54に進めて、実充電容量Jxが目標充電容量J*未満であるか否かについて判断する。このステップS54は、副電源50の充電容量が不足したか否かを判断するもので、Jx<J*の場合には(S54:YES)、充電容量が不足していると判断して、ステップS55において、充電フラグFcを「1」に設定する。一方、Jx≧J*の場合には(S54:NO)、充電容量が不足していないと判断して充電フラグFcの設定変更を行わない。従って、充電フラグFcが「0」に維持される。
また、ステップS53において、充電フラグFcが「1」の場合には(S53:NO)、その処理をステップS56に進めて、実充電容量Jxが、目標充電容量J*に不感帯値A(正の値)を加算した充電容量(J*+A)にまで達したか否かについて判断する。このステップS56は、副電源50の充電不足が解消したか否かを判断するもので、Jx≧J*+Aの場合には(S56:YES)、充電不足が解消したと判断して、ステップS57において、充電フラグFcを「0」に設定する。一方、Jx<J*+Aの場合には(S56:NO)、充電容量が不足していると判断して、充電フラグFcの設定変更を行わない。従って、充電フラグFcが「1」に維持される。この不感帯値Aは、実充電容量Jxと目標充電容量J*との比較判定結果(充電の要否)が頻繁に変動しないように設定したものである。
尚、目標充電容量J*は、予め設定した一定値でもよいが、例えば、車速Vxの増加にしたがって低下するように設定してもよい。車速Vxが高いほど操舵アシスト制御に必要な電力が少なくなるからである。
こうして充電フラグFcが設定されると、ステップS58において、その充電フラグFcの設定状況が確認される。充電フラグFcが「0」の場合(S58:NO)、つまり、副電源50の充電不要と判断される場合には、その処理をステップS59に進めて、目標充放電電流isub*をゼロ(isub*=0)に設定する。一方、充電フラグFcが「1」の場合(S58:YES)、つまり、副電源50の充電容量が不足していると判断される場合には、その処理をステップS60に進めて、目標充放電電流isub*を以下のように計算により求める。
isub*=(Wmax−Wx)/v2
ここで、Wmaxは昇圧回路40の出力許容電力、Wxはモータ駆動回路30の消費電力(電動モータ20の駆動により消費される電力)、v2は第2電圧センサ52により検出される出力電圧である。出力許容電力Wmaxは、昇圧回路40の規格に基づいて予め設定されている値である。また、モータ駆動回路30の消費電力Wxは、第2電圧センサ52にて検出される出力電圧v2と出力電流センサ54にて検出される出力電流i2との積により算出される。
続いて、電源制御部62は、ステップS61において、目標充放電電流isub*が正の値か否かを判断する。上述したように目標充放電電流isub*は、昇圧回路40の出力許容電力Wmaxからモータ駆動回路30の消費電力Wxを減算し、その減算値を出力電圧v2で除算したものである。従って、電動モータ20の消費電力Wxが昇圧回路40の出力許容電力Wmax範囲内であればisub*>0(S61:YES)となり、逆に、モータ駆動回路30の消費電力Wxが昇圧回路40の出力許容電力Wmax以上となっている場合にはisub*≦0(S61:NO)となる。
目標充放電電流isub*がゼロ以下(isub*≦0)の場合は、ステップS59において、目標充放電電流isub*を新たにゼロ(isub*=0)に設定する。一方、目標充放電電流isub*が正の値(isub*>0)の場合は、先のステップS60にて計算された目標充放電電流isub*を変更しない。
電源制御部62は、こうして目標充放電電流isub*を設定すると、その処理をステップS62に進める。ステップS62においては、目標充放電電流isub*と副電源電流isubとの偏差に基づいて昇圧回路40の昇圧電圧をフィードバック制御する。つまり、副電源電流センサ53により検出される副電源電流isubをフィードバックして、目標充放電電流isub*と副電源電流isubとの偏差(isub*−isub)が少なくなるように昇圧回路40の昇圧電圧を制御する。本実施形態においては、偏差(isub*−isub)に基づいたPID制御を行う。
電源制御部62は、昇圧回路40の第1,第2昇圧用スイッチング素子43,44のゲートに所定周期のパルス信号を出力して両スイッチング素子43,44をオン・オフし、主電源100から供給された電力を昇圧する。この場合、このパルス信号のデューティ比を変更することにより昇圧電圧を制御する。
電源制御部62は、ステップS62の処理を行うと、充放電制御ルーチンを一旦終了する。充放電制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。尚、電源制御部62は、上述した操舵アシスト制御において主電源100の電源供給異常が検出されている場合には、充放電制御ルーチンを実施しない。従って、昇圧回路40の作動が停止され副電源50の充電が行われないようになる。
この充放電制御ルーチンによれば、目標充放電電流isub*が正の値であれば(isub>0)、副電源50に充電方向に向かって電流が流れるように、また、その大きさが目標充放電電流isub*となるように昇圧制御される。従って、昇圧回路40から出力される昇圧電圧は、副電源50の電源電圧よりも高くなるように制御される。つまり、実充電容量Jxが目標充電容量J*に満たない状態で、かつ、モータ駆動回路30の消費電力(電動モータ20を駆動するために消費される電力)に対して昇圧回路40の出力に余裕が有る場合には、主電源100の電力が昇圧回路40を介して副電源50に充電される。しかも、モータ駆動回路30への電力供給分を確保した上で、昇圧回路40の電源供給能力をフルに使って充電するように目標充放電電流isub*が設定されるため、副電源50を迅速に充電することができる。
一方、目標充放電電流isub*がゼロに設定されている場合には(isub*=0)、副電源50に充電電流も放電電流も流れないように昇圧回路40の昇圧電圧が制御される。従って、昇圧回路40の昇圧電圧は、副電源50の電源電圧と同じ電圧に制御されることになる。このため、副電源50は充電されない。また、モータ駆動回路30の消費電力が昇圧回路40の出力能力を超えない範囲内では、副電源50から放電電流が流れないように昇圧電圧が維持され、モータ駆動回路30は昇圧回路40の出力電力のみで作動する。そして、モータ駆動回路30の消費電力が昇圧回路40の出力能力限界を超える状態に達すると、昇圧制御にかかわらず副電源50の放電電流をゼロに維持することができず昇圧電圧が低下する。これにより、副電源50から不足電力分がモータ駆動回路30に供給される。つまり、モータ駆動回路30の消費電力が昇圧回路40の出力能力範囲内では副電源50の電力が使われず、出力能力を超える大電力が必要となったときのみ主電源100に加えて副電源50からモータ駆動回路30に電源供給される。
次に、実充電容量検出処理について説明する。図9は、電源制御部62により実施される実充電容量検出ルーチンを表し、電子制御装置60のROM内に制御プログラムとして記憶される。実充電容量検出ルーチンは、イグニッションスイッチ106の投入(オン)により起動し、所定の短い周期で繰り返し実行される。この実充電容量検出ルーチンにより検出された実充電容量は、操舵アシスト制御ルーチンにおけるステップS18、および、充放電制御ルーチンにおけるステップS51にて読み込まれる実充電容量Jxとなる。
実充電容量検出ルーチンが起動すると、電源制御部62は、ステップS71において、副電源電流センサ53により検出される副電源電流isubを読み込む。続いて、ステップS72において、現時点の実充電容量Jxを以下のように計算により求める。
Jx=Jxn-1+isub
ここで、Jxn-1は前回実充電容量である。前回実充電容量とは、所定周期で繰り返される本実充電容量検出ルーチンにおける1周期前での実充電容量Jxを表す。
本実施形態においては、イグニッションスイッチ106のオフ操作時に副電源50に充電されている電荷を主バッテリ101に放電する。このため、本検出ルーチンの起動時においては、副電源50に充電されている実充電容量Jxは、ほぼ一定の低い値となっている。従って、前回実充電容量Jxn-1の初期値としては、予め設定した固定値(例えば、Jxn-1=0)が使われる。
続いて、電源制御部62は、ステップS73において、現時点の実充電容量Jxを前回実充電容量Jxn-1としてRAMに記憶し、実充電容量検出ルーチンを一旦終了する。実充電容量検出ルーチンは、所定の短い周期で繰り返し実行される。従って、今回算出した実充電容量Jxが、次回(1周期後)のステップS72における前回実充電容量Jxn-1として使用される。
電源制御部62は、イグニッションスイッチ106のオン期間中、こうした処理を繰り返すことにより、実充電容量Jxを副電源電流isubの積算値として求める。この場合、充電電流が流れている状態では副電源50の実充電容量Jxを増大させる側に、放電電流が流れている場合では副電源50の実充電容量Jxを減少させる側に積算する。従って、副電源50の保有する充電容量を適正に検出することができる。
次に、副電源50に充電された電荷の放電制御について説明する。副電源50としてキャパシタを用いたケースでは、長期間使用しない場合には電荷を放出した方が寿命が長くなる。また、上述したように副電源電流isubの積算値に基づいて副電源50の実充電容量Jxを検出する場合、車両起動時における充電容量初期値の推定が難しい。そこで本実施形態においては、イグニッションスイッチ106がオフしたときに、副電源50に充電されている電荷を昇圧回路40を経由して主バッテリ101に放電させる。以下、その制御処理について図10を用いて説明する。
図10は、電源制御部62により実施される終了時放電制御ルーチンを表し、電子制御装置60のROM内に制御プログラムとして記憶される。終了時放電制御ルーチンは、イグニッションスイッチ106のオフ操作を検出したときに起動する。本制御ルーチンが起動すると、電源制御部62は、ステップS81において、昇圧回路40の第2昇圧用スイッチング素子44のゲートに所定周期のパルス信号を出力して、第2昇圧用スイッチング素子44を所定のデューティ比でオンオフさせる。イグニッションスイッチ106がオフしている期間は操舵アシスト制御も終了しているため、モータ駆動回路30の各スイッチング素子31〜36はオフ状態に維持されている。従って、副電源50の電荷は、主バッテリ101に向かって放電される。この場合、第2昇圧用スイッチング素子44のデューティ比を適宜設定することで、副電源50から主バッテリ101に流れる放電電流の大きさを制限することができる。尚、第1昇圧用スイッチング素子43はオフ状態に維持される。
続いて、電源制御部62は、ステップS82において、副電源電流センサ53により測定された副電源電流isub(放電方向の電流値)を読み込み、ステップS83において、副電源電流isubが放電停止判定電流isubend以下にまで低下したか否かについて判断する。この放電停止判定電流isubendとしては、例えば、0アンペアが設定される。
副電源電流isubが放電停止判定電流isubend以下にまで低下しない間は、こうしたステップS81〜S83の処理が繰り返される。この間は、副電源50から主バッテリ101への放電が継続される。そして、副電源電流isubが放電停止判定電流isubend以下にまで低下すると(例えば、放電電流が流れなくなると)、ステップS84において第2昇圧用スイッチング素子44をオフして終了時放電制御ルーチンを終了する。
従って、終了時放電制御ルーチンによれば、副電源50の寿命を延ばすことができる。また、イグニッションスイッチ106がオンしてからの実充電容量の検出を精度良く行うことができる。つまり、実充電容量の検出にあたっては、副電源50に流れる充放電電流を積算して算出するが、スタート時における初期充電容量の推定が難しい。そこで、副電源50の電荷を放電させておいてから実充電容量検出処理を行うことにより、初期充電容量のばらつきによる検出誤差を抑えることができる。また、昇圧回路40を兼用して主バッテリ101への放電電流の大きさを制御することができるため、特別に放電用の回路を設ける必要がなくコストアップを招かない。
以上、本発明の実施形態としての電動パワーステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、操舵トルクTxと目標電流ias*との関係を設定したアシストマップをアシスト特性として記憶しているが、操舵トルクTxから目標電流ias*を導く関数などをアシスト特性として記憶するようにしてもよい。また、実充電容量Jxから特性シフト量ΔTxを算出するシフト量マップに関しても、関数など他の関係付け情報を用いるようにすることもできる。また、操舵トルクTxと下限電流iasminとの関係を設定した制限特性マップに関しても、関数など他の関係付け情報を用いるようにすることもできる。
また、電動モータ20は単相モータであってもよく、モータ駆動回路30もHブリッジ回路等を用いることもできる。また、本実施形態においては、昇圧回路40の昇圧電圧制御により副電源50の充放電を制御するが、例えば、スイッチング回路により副電源50の充電と放電とを切換制御するようにしてもよい。
10…ステアリング機構、11…操舵ハンドル、12…ステアリングシャフト、20…電動モータ、21…操舵トルクセンサ、23…車速センサ、30…モータ駆動回路、38…モータ電流センサ、40…昇圧回路、50…副電源、51…第1電圧センサ、52…第2電圧センサ、53…副電源電流センサ、54…出力電流センサ、60…電子制御装置、61…アシスト制御部、62…電源制御部、100…主電源、101…主バッテリ、102…オルタネータ。