本発明は、有機物質中の腐敗菌の数を減少させる段階を含む、有機物質を前処理する第1の工程;並びに、前記前処理された有機物質から、微生物を用いてエタノール及び/またはメタンを得る第2の工程;を含む有機物質の処理方法である。
本発明は、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または(産業)廃棄物質などの「有機物質」を有用な物質に変換するに当たり、有機物質に損傷をほとんど与えることなく、有機物質に存在する有害な腐敗菌の数を効果的に減少させること(腐敗を防止すること)を第1の特徴とする。そして、有機物質に損傷を与えることなく、腐敗菌の数を効果的に減少させた有機物質を原料として、所望により微生物学的処理サイクルに導入することで、有機物質から連続的にエタノールやメタン、並びにこれらの生成過程で発生する副産物より得られる堆肥・肥料等(以下、「肥料等」ともいう)といった有用物質を効率良く簡易に、かつ低コストで生産することを第2の特徴とする。このように、本発明に係る処理方法は、全体として極めて地球環境に負荷のかからない方法であるといえる。
以下、各工程について、添付した図面、特に図1及び後述の図11を参照しつつ、本発明を適用した最良の実施形態を説明する。図1は、本発明に係る有機物質の処理方法における各工程及び前記工程を構成する各段階を示した概略的なフローチャートである。本発明は主に、上記第1工程及び第2工程に大別される。そして、後述のように、所望により第3の工程をさらに設けてもよい。かかる第3の工程によって、微生物を用いて段階(a)を経た後の残余の高分子有機化合物(以下、「肥料前駆物質」ともいう)から肥料等を生成することが可能となる。なお、本明細書で挙げられる微生物の分類(門、目、属、種など)については、本願の出願時における分類に従って記載している。将来において、かかる微生物の分類が変更になった場合には、変更後の分類もまた、本発明の範囲に含まれる。
[第1工程]
本工程は、有機物質の前処理工程ということができ、有機物質中の腐敗菌の数を減少させる段階を含む。
出発物質である有機物質については、以下に限定されることはないが、例えば、植物及び動物の排泄物、生ゴミ、鉱物並びに食品(製品を含む)などが挙げられる。前記植物の例として枯葉、木材及び紙などが挙げられる。前記動物排泄物の例として鶏糞や馬糞などが挙げられる。なかでも、腐敗菌の数が特に多く、本発明の効果が一層顕著に発揮されうる観点より、好ましくは植物及び動物の排泄物並びに生ゴミ、より好ましくは動物排泄物(特に鶏糞由来のもの)が挙げられる。
本明細書における「腐敗」とは、タンパク質、炭水化物または脂質成分が特定の微生物の作用で分解され、次第に外観、においや味などが変化する現象であって、前記現象の中でも、腐敗菌が、地球環境や人体にとって有害な成分、または意図された成分以外の成分を生成しうることを意味する。前記「意図された成分以外の成分」として、例えば食品分野においては、消費期限後の食品等に繁殖しうる腐敗菌が生成する成分が挙げられる。また、醸造の過程で酢酸生成菌が繁殖し酢酸を生成することがあるが、酒類にとっては好ましいものとはいえず、かかる酢酸もまた一例として挙げられる。このように、「意図された成分以外の成分」とは、有機物質に本来的に存在することが期待されないような、いわば人類にとって目的外の意図していない成分を指す。
また、本明細書における「腐敗菌」とは、腐敗を発生させうる古細菌、真正細菌、真菌、または原生生物(微生物に限定されない)などによる、有機物の分解反応(異化とは限らない)であって、一般に人類に有益とならないものをいう。コンタミネーションが介在して有機物質に存在するような微生物は、「腐敗菌」の典型的な例といえる。ただし、腐敗菌の数によらず、腐敗菌が存在する有機物質であれば本発明所望の効果が発揮されるため、かような有機物質は全て、本発明に好適に用いられることはいうまでもない。かかる腐敗菌について、有害な物質を産生するものであれば特に制限されないが、具体例を挙げるならば、例えば大腸菌、鉄細菌や硫酸還元細菌(後述)などがありうる。一方、有機物質は、タンパク質、炭水化物(多糖類)や脂質を含んでいるため、廃棄されると(場合によっては廃棄されないものでも)、上記の腐敗菌により経時的・相乗的に腐敗が進行し、有害な物質(比較的低分子なものが多い)が大量に産生される。上記のタンパク質、炭水化物(多糖類)や脂質は、腐敗菌の異化作用により、低分子糖(単糖類など)、グリセリン、脂肪酸、アミノ酸などを経て、アルコール類や以下の有害な物質に変換されうる。かかる有害な物質として、例えば、アンモニア(特に排泄物や生ゴミに多く存在)、蟻酸等の有機酸(特に排泄物に多く存在)、メチルメルカプタンメチルメルカプタン(特に排泄物や生ゴミに多く存在)、硫化水素(特に排泄物や生ゴミに多く存在)、インドール(特に排泄物に多く存在)、トリメチルアミン(特に生ゴミに多く存在)、メチルメルカプタン(野菜の腐敗臭)、その他、アルデヒド類(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)やフェノール類等が挙げられる。
上記した有害な物質は、後述する第2の工程における微生物に起因する反応を阻害しうる。これは、第2の工程におけるエタノール発酵やメタン発酵により得られるはずの有用物質(エタノール、メタン及び/または肥料前駆物質)が生成阻害を受けるため、好ましくない。さらに、該有害物質が現に、人体への悪影響のみならず、地球環境の汚染や破壊に繋がっていることは周知の事実である。そのため、第1の工程で腐敗菌数を減少させておくことは非常に有益であるといえる。なお、後述の「有機ガス」とは、上記有害な物質のうち、蟻酸等の有機酸、メチルメルカプタン、インドール、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、その他、アルデヒド類(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)やフェノール類等を総称する。
本発明によれば、処理過程で有用資源の濫費を極力避けつつ、腐敗過程にある有機物質を微生物による発酵、有気(好気)呼吸または無気(嫌気)呼吸(以下、「発酵等」または「異化作用」ともいう)、あるいは微生物による光合成または化学合成(以下、「同化作用」ともいう)を主体とし、人類に有用な資源であるエタノール、メタンや肥料等などを抽出・生産することが可能となる。また、かような抽出・生産過程において、有機物質から有用物質を得る際に省エネルギー、省力化や省時間などの低コスト化も実現できる。さらに、最終産物である肥料等の品質を劣化させ得るような物理的処理、化学的処理や生物学的処理を行うことなく、微生物を利用した抽出過程を(所望により循環させて)実行することによって、抽出物質の抽出量を増加させ、かつ、最終産物である肥料等の品質を維持・向上させることができる。このようにして、セルロース、へミセルロースやリグニン等の副産物を肥料前駆物質として、微生物の作用を用いて肥料等などに変換するとともに、該肥料等の性状、含有成分や肥料化の際の微生物叢などの各種条件を適当に調整することにより、市販されている肥料等と同等以上の品質とすることも可能である。
特に、本発明は、家畜排泄物、生ゴミや汚泥などの中でも、細菌、真菌や原生生物などの微生物(以下、「細菌等」ともいう)が高度に感染してなる、腐敗が相当程度進行した有機物質に対して格別の効果を発揮する。具体的には、(産業)廃棄物扱いであった腐敗の進行した有機物質を従来のように廃棄することなく、該有機物質を出発物質として有用な物質が得られる。なお、本発明に係る処理方法は、腐敗化のそれほど進行していない有機物質や、未だ廃棄されていない有機物質に関しても有効な発明となりうる。
上記のような有機物質に存在する腐敗菌の数の減少は、続く第2の工程で有用物質を微生物に生成させる上で、有機物質に損傷を極力与えないという観点から、高温高圧滅菌、間欠滅菌、煮沸、低温殺菌、(超)高温殺菌、電磁波殺菌、槽内の収容物に電圧を印加することによる殺菌、及び高圧殺菌、並びに酸、アルカリ、塩及び酸化剤による処理からなる群より選択される1種以上により行われることが好ましい。高温高圧滅菌、間欠滅菌、煮沸、低温殺菌、(超)高温殺菌、電磁波殺菌、槽内の収容物に電圧を印加することによる殺菌、及び高圧殺菌は、物理的な殺菌(滅菌)法に分類される。一方、酸、アルカリ、塩及び酸化剤による処理は、化学的な殺菌(滅菌)法に分類される。なお、かかる化学的な殺菌(滅菌)法による場合、有機物質に損傷を与えうるリスクを一層低減させる上で、好適には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸、リン酸または二酸化炭素を用いる。上記処理手段のうち、より好ましくは電磁波殺菌、槽内の収容物に電圧を印加することによる殺菌、並びに酸、アルカリ、塩及び酸化剤による処理からなる群より選択される1種以上により行われる。このうち、電磁波殺菌に用いる電磁波として、10−17〜105m程度の範囲の波長(真空波長条件下)が含まれ、より具体的にはγ線、X線、紫外線、可視光線や赤外線などが含まれる。また、上記のうち、高温高圧滅菌、間欠滅菌、煮沸、低温殺菌、(超)高温殺菌や高圧殺菌についての具体的な処理条件(温度、圧力、時間など)は、当業者であれば好適な条件を設定可能であるため、ここでは特に限定しない。さらに好ましくは、槽内の収容物に電圧を印加することによる殺菌により行われる。これらを用いた場合、後述する第3の工程において、得られる肥料の品質を向上させうるため好適といえる。上記した各処理手段のうち、特に好ましい手段を以下で詳細に説明する(下記1〜4)。
1.腐敗菌の数を減少させる段階
腐敗菌の数の減少させるための処理段階は、本発明における第1の段階に必須に含まれるものである。
(1)槽内の収容物に電圧を印加することによる殺菌
表記の殺菌法を利用することによって、非常に効果的に腐敗菌数を減少させることができる。かかる殺菌法は2つに大別されるため、以下、順を追って説明する。
第1に、電圧の印加に伴い、電流が収容物に流れ、電流を腐敗菌に通電させることにより、腐敗菌が感電を起こして死滅させることが可能となる。また、電流が収容物に流れるに従って、付随的に熱エネルギーが発生し、かかる熱エネルギーを利用して、腐敗菌を熱殺菌することもできる。このような電気エネルギーに起因した電気化学的殺菌(滅菌)及び/またはこれに付随して生じる熱エネルギーに起因した熱殺菌(滅菌)によって、収容物中に存在する腐敗菌が殺菌(滅菌)される。
また、電流の通流に伴って放電現象が発生する。なかでも、気体放電が典型的な例である。気体放電を行うための装置については後述するが、一般には、アノードの電極及びカソードの電極のうち一以上を前記収容物中ではなく空中(収容物外)に存在させることとなりうる。気体放電(電子の発生)の種類としては、従来公知のものであれば特に制限されることはないが、例えば、火花放電、アーク放電、コロナ放電(高電圧直流電流を利用)やグロー放電などが挙げられる。また、高電圧直流電流を利用するコロナ放電の他に、高電圧交流電流を利用した放電もありうる。特に、高度に電離した気体(プラズマ)の発生に伴うプラズマの照射が、腐敗菌の効率的な殺菌(滅菌)の観点より好ましい。前記槽については、電圧を印加できる装置であれば、構成・設備などの点で特に制限されることはない。前記収容物は、有機物質を含む限り、固体状、半固体状、液体状のいずれであってもよい。有機物質に存在する腐敗菌を、電圧の印加によって効率的に死滅させる観点からいえば、前記収容物は液体状であることが好ましい。また、放電による殺菌(滅菌)処理(以下、単に「放電処理」ともいう)は、大気中で行われても水中で行われてもよい。このうち、放電処理が水中で行われる場合には、水中に存在するイオン量によって条件が異なってくる。放電処理が大気中、水中のいずれであっても好適に実行される観点からいえば、放電処理の処理条件として、印加電圧は1kV〜100億Vであることが好ましく、100kV〜10億Vであることがより好ましく、1万kV〜10億Vであることがより好ましい。また、処理時間は特に制限されることはないが、好ましくは1回の放電当たり10−4〜1秒程度である。このような放電処理を必要に応じて複数回繰り返してもよい。なお、処理温度は特に制限されることはない。
前記槽内の収容物に電圧を印加することによる電気化学的殺菌は、電圧を印加する際に用いられるアノードの電極及びカソードの電極が共に前記収容物外に存在するか、もしくは前記収容物中に存在するか、または電圧を印加する際に用いられるアノードの電極及びカソードの電極のうち一以上が前記収容物中に存在すればよい。かような場合、所望の殺菌を行うことが可能となる。このうち、アノードの電極及びカソードの電極が共に前記収容物外に存在するか、一以上の電極のみが前記収容物中に存在する場合、通電処理(気体放電処理)は「断続的」に行われうる。なお、「アノードの電極及びカソードの電極のうち一以上」とは、アノードの電極及びカソードの電極が、それぞれ1本ずつ存在している形態、いずれか一方が1本存在し、他方が2本以上存在する形態、あるいは、共に2本以上存在する形態における、1本以上の電極を意味する。そして、アノードの電極及び/またはカソードの電極が2本以上存在する場合には、電極ごと(アノード、カソードの別を問わない)に独立して、収容物中に存在していても空中(収容物外)に存在していてもよい。
気体放電処理に関するいくつかの実施形態のうち、アノードの電極及びカソードの電極のうち一以上の電極を収容物中に存在させる場合であって、特に前記収容物が液体状の場合には、かかる電極が溶液に直接浸されることとなって電極に物質が付着しうる。そこで、好ましくは、一方の電極のみが前記収容物中に存在することによる殺菌を行うとよい。例えば、アノードの電極のみを収容物中に存在させる実施形態においては、アノードの電極から流れる電流に起因して発生する熱による収容物の攪拌が期待される。すなわち、収容物を攪拌しつつ電流を収容物に通流させることは、腐敗菌の効率的な殺菌(滅菌)に繋がりうる。さらに、上記の実施形態においては、空中(収容物外)に存在するカソードから放出された電子が、収容物中に存在するアノードへと移動する際、収容物表面(界面)において非常に大きな衝撃波(後述)の発生が期待できる。かような大きな衝撃波の取扱いに対し、安全上適した装置などを使用することによって、腐敗菌を非常に効果的に殺菌(滅菌)させることが可能となりうる。安全面等を重視するならば、アノードの電極のみが、前記収容物中に存在することによる殺菌を行うことがより好ましい。アノードの電極に付着しうるイオンは、水酸基、硫酸イオンや硝酸イオンなどであるため、これらが電極に付着しても導電性に及ぼす影響は、カソードの電極のみの場合と比較して、一般に小さいためである。電圧を印加する際に用いられるアノードの電極及びカソードの電極のうち、アノードの電極のみが前記収容物中に存在し、カソードの電極は大気中(空中)に存在するような殺菌装置について、以下で説明する(図2A)。
図2Aは、気体放電現象を用いて腐敗菌数を減少させるために用いられる装置の概略図である。槽1は、安全性の観点より、少なくともその最内層がコンクリート等からなる絶縁性材料で構成されていることが好ましい。天蓋2も上記と同様、安全性の観点より、少なくともその最内層がコンクリート等からなる絶縁性材料で構成されていることが好ましい。そして、放電環境を作り出すために、コンデンサー3に充電された電荷は、スイッチ4をオンにすることにより電源5が入り、カソード6より電子がアノード7の方向へ向かって放電される。このようにして作り出された放電環境によって、槽1内に投入された有機物質に存在する腐敗菌は死滅する一方、有機物質自体への損傷を抑制できる。なお、安全のため、槽1にアース8を設置する。なお、放電処理を「持続的」に行う場合には、コンデンサー3は特に必要でないため、なくてもよい。
一方、槽内の収容物に電圧を印加することによる電気化学的殺菌のうち、前記アノードの電極及び前記カソードの電極が共に前記収容物中に存在する場合には、通電処理は「断続的」のみならず「持続的」に行うことも可能となる。かような殺菌に使用可能な装置の一例について、以下で説明する(図2B)。
図2Bは、電流の通流に起因した、電気エネルギー及び/または付随して生じる熱エネルギーによる腐敗菌数を減少させるために用いられる装置の概略図である。付号(1〜8)はそれぞれ、図2Aで説明したものと同様である。なお、図2Bに示された装置は、アノードの電極及びカソードの電極が共に収容物中に存在する(溶液に直接浸っている)点で、図2Aに示された装置と異なる。
さらに、図2A及び図2Bに示された装置のいずれにも該当しうることとして、有機物質が容積の大きな固形物(一般に、高分子有機化合物を主成分とする塊)を含む場合には、処理速度を大きくするために破砕(粉砕)または細断することが好ましいが、かかる槽1により前記固形物を破砕できる。具体的には、前記槽内の収容物に電圧を印加することによる電気化学的殺菌において、印加された電圧により発生する衝撃波が前記有機物質に存在する固形物を破砕するため、該有機物質の処理速度を大きくすることができる。これにより、有機物質の均一化処理を腐敗菌数の減少処理と併せて行うことができる。
このような、有機物質中の固形物の破砕による均一化は、上記した有機物質が容積の大きな固形物を含む場合に行うことが好ましい。一方で、前記固形物が大量に含まれる場合であって、かつ、前記固形物が主に低分子物質からなる場合には、原料の均一化をあえて行わなくても、例えば上記(1)の処理により腐敗菌の作用を効果的に抑制することができる。前記均一化の方法は特に制限されることはないが、例えば、ホモジナイザー等が一般に使用可能である。好ましくは、腐敗菌の数の減少と固形物の破砕による均一化とを同時に達成できるという観点より、上記した放電現象に伴って発生する衝撃波を用いる方法である。なお、上記の図2A及び図2Bで示した装置はいずれも、かかる衝撃波が相当大きなものであっても安全上問題のないといえるものである。
第2に、電圧の印加に伴って放出された電子の運動エネルギーを直接的または間接的に用いた殺菌が挙げられる。「直接的」に用いる場合とは、電子自体がその運動エネルギーにより腐敗菌と衝突し、腐敗菌が死滅する場合を意味する。なお、「電子自体」とは、前記放出された電子そのものと、かかる電子が後述するように収容物中のイオンや分子等と衝突することにより該イオンや分子等から2次的(3次的以降も含む)に放出される電子とを両方含む。一方、「間接的」に用いる場合とは、電子がその運動エネルギーにより、イオン(錯イオンや金属イオン等)及び/または分子(水分子等)に衝突し、衝突されたイオン及び/または分子が腐敗菌と衝突する結果、腐敗菌が死滅する場合を意味する。なかでも、水分子など、水素結合や分子間力などによっていわゆる「重合」形態をとるものに対し、放出された電子が衝突した場合、かかる「重合」形態の崩壊とともに、大きな衝撃波が生じうる。上述したように、かような大きな衝撃波を利用することによって、腐敗菌を非常に効果的に殺菌(滅菌)させることが可能となりうる。なお、本「第2の」殺菌は、上記した「第1の」殺菌とともに生じることもありうる。また、本「第2の」殺菌は、上記の図2A及び図2Bに示された装置のいずれにおいても実施可能である。
(2)酸、アルカリまたは塩による処理
酸、アルカリまたは塩の使用による殺菌・静菌処理によっても、腐敗菌の増殖に不適なpHへのシフトを行い、腐敗菌数を減少させることができる。前記腐敗菌が好気性菌を主とする場合には、嫌気性条件下で、腐敗菌の増殖に不適なpHとなるようにpHをシフトさせることが好ましい。この場合には、上記した化学的な殺菌(滅菌)法のうち、酸、アルカリまたは塩による処理が好ましい。具体的には、酸または酸性塩(以下、これらをまとめて単に「酸」ともいう)を用いるか、あるいはアルカリまたはアルカリ性塩(以下、これらをまとめて単に「アルカリ」ともいう)を用いることによる、pHのシフトが挙げられる。使用可能な酸の例としては、以下に限定されることはないが、炭酸、リン酸、塩酸、硝酸、硫酸、有機酸、亜硫酸や亜硝酸などが挙げられる。使用可能なアルカリの例としては、以下に限定されることはないが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが挙げられる。使用可能な塩(酸性塩またはアルカリ性塩)の例としては、酸性及びアルカリ性アミノ酸、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カリウムやリン酸カリウムなどが挙げられる。
図3は、嫌気性条件下で、かかるpHへのシフトやこれに伴う腐敗菌のタンパク変性等により腐敗菌の数を減少させるために用いられる装置を示す概略図である。前記装置は、ジュラルミン等製の本体9、天蓋10及びパッキング11を基本構成とする。そして、装置内部を嫌気性条件下にするため、逆流防止弁付きの内部気体置換用気体注入管12より、逆流防止弁付きの脱気口13、逆流防止弁付きの内部気体置換用気体排出管14を通って、気体を抜くことができる。さらに、逆流防止弁付きの酸・アルカリ注入口15より、酸またはアルカリを投入し、攪拌装置16で槽内を攪拌することにより、装置内の液を腐敗菌の増殖に不適なpHへとシフトさせることができる。
上記とは反対に、前記腐敗菌が嫌気性菌を主とする場合には、好気性条件下で、酸又はアルカリを用いて腐敗菌の増殖に不適なpHとなるようにpHをシフトさせることが好ましい。この場合にも、上記した化学的な殺菌(滅菌)法のうち、酸、アルカリまたは塩による処理が好ましい。図4は、好気性条件下で、かかるpHへのシフトにより腐敗菌の数を減少させるために用いられる装置を示す概略図である。前記装置は、ジュラルミン等製の本体17及び開口18を基本構成とする。そして、装置内部を好気性条件下にするため、ダクト19を通じて気体排出口20からO2含有気体を装置内に供給する。また、図示していないが、逆流防止弁付きの酸・アルカリ注入口を適宜設けて、ここから酸・アルカリを投入し、攪拌装置で槽内を攪拌することにより、装置内の液を腐敗菌の増殖に不適なpHへとシフトさせてもよい。
なお、腐敗菌の増殖に不適なpHの範囲については、腐敗菌の種類によってその生育可能なpHが異なるため、特に制限されることはなく、腐敗菌ごとに適宜設定すればよい。例えば、動物の排泄物などに多く存在する腐敗菌である大腸菌の場合について説明すると、大腸菌の生育pHは一般に4〜9程度であるため、約4以下または約9以上が大腸菌の増殖に不適なpHの範囲であるといえる。
(3)酸化剤による処理
酸化剤の使用による殺菌・静菌処理によっても、腐敗菌数を減少させることができる。上記した化学的な殺菌(滅菌)法のうち、酸化剤による処理を行う場合、殺菌消毒後の一連の処理過程で無害化するものが使用可能であり、活性酸素及び/またはオゾンを含むことが好ましい。活性酸素の例として、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素及び一重項酸素などが挙げられる。これらを単独で、または併用して、前記有機物質に供給することにより腐敗菌数を減少させることができる。本手段は、特に嫌気性菌に対して有効であるが、供給濃度を挙げることや供給時間を延長すること等によって、好気性菌に対しても殺菌・静菌的に作用しうる。そのため、本処理は、嫌気性菌及び好気性菌のいずれにも適用可能である。
さらに、上記した処理手段については、複数種の処理手段を併用して同一容器中で処理してもよいし、または連続的に有機物質を別容器に移動させて処理してもよい。ここで、表記の処理についても、上記図4に示した装置を用いることが可能であるが、過酸化水素水を使用する場合には、装置の本体17の内部が溶解することを防止するため、内部の材質に金(Au)など耐酸化性のものを使用する必要がある。
2.有機物質中の低分子物質含量を増加させる段階
また、本工程は、低分子物質含量を増加させる段階をさらに含んでもよい。腐敗が進むと、腐敗菌の作用に起因して前記有機物質中の糖質などの低分子物質の含量が顕著に減少してしまうため、該含量を増加させることが好ましい。かかる段階を実行するため、光合成独立栄養生物もしくは化学合成独立栄養生物、または酵母などの真菌を用いて有機物質中の低分子有機成分の含有率を増大させることが好ましい。より好ましくは、光合成独立栄養生物、化学合成独立栄養生物または酵母である。光合成独立栄養生物の例として、光合成細菌及び光合成能を有する真核生物が挙げられ、化学合成独立栄養生物の例として、化学合成細菌が挙げられる。なお、光合成独立栄養生物もしくは化学合成独立栄養生物、または真菌については、好気性菌及び嫌気性菌のいずれであってもよく、具体的な菌(種、属など)については後述する。前記化学合成独立栄養生物としては、無機化合物(硫化水素、アンモニアなど)を酸化してエネルギーを得る、公知の真菌または細菌(独立栄養細菌)が挙げられる。なかでも、光合成細菌、化学合成細菌、光合成能を有する真核生物、及び窒素固定細菌のうちのいずれか1種を含むことが好ましい。
3.アンモニウムイオンの有機物質中への固定化段階、及び腐敗菌の不活性化段階
また、本工程は、微生物学的方法及び/または化学的方法を用いてアンモニウムイオンを前記高分子有機化合物中に固定させることをさらに含んでもよい。場合によっては、前記アンモニウムイオンを固定しpHを調節した後、麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いて前記高分子有機化合物を分解することをさらに含んでもよい。また、有機物質が腐敗菌の作用によって相当汚染されているような場合であっても、上記微生物学的方法及び/または化学的方法を用いることにより、更なる腐敗を防止した上で、エタノール生成(及びメタン生成)に必要となる水素、酸素及び炭素が大気中へ放出することを防ぐこと、並びに、反応に必要な自由エネルギーを反応系中に保存することができる。なお、上記の「更なる腐敗を防止」とは、アンモニアや有機ガス等の更なる発生を防止することと換言することもできる。このようにして、本工程は、第2の工程に必要な物質(元素やイオン等)の生成、並びに自由エネルギーの確保及び第2工程に必要な環境条件を整えることを達成できる。
一般に、有機物質は微生物の作用によって汚染されていることが多いため、腐敗によりアンモニアガスや有機ガス等が発生し易い環境にある。本段階は、アンモニウムイオンを有機物質中に固定すると共に、腐敗菌を不活性化させることによって腐敗菌による有機ガスの発生を防止することを可能とする。なお、以下の(1)化学的方法及び(2)微生物学的方法は、いずれか一方のみを用いた処理を施してもよいし、両方を用いた処理を施してもよい。
(1)化学的方法
酸性やアルカリ性の溶液などを用いてアンモニウムイオンを上記の高分子有機化合物中に固定できる。ここで、使用に好適な酸性またはアルカリ性の溶液としては、有機物質(特に、後述の第3の工程を経て得られる肥料等)の品質に影響を極力与えないものが挙げられる。前記肥料等への品質の影響の観点からいえば、酸性溶液を用いることがより好ましい。しかし、アルカリ性溶液であっても、アンモニアよりも強アルカリな成分と酸成分とからなる塩の溶液であれば、有機物質中でアンモニアをイオンの形で確保・保持が可能なため、使用に好適となりうる。
前記有機物質中での「アンモニア」は、アンモニア、アンモニウムイオンまたは錯イオン、あるいはこれらの塩または化合物の形態で存在している。これらの「アンモニア」に対して、二酸化炭素、酸もしくは酸性塩、アルカリ性もしくはアルカリ性塩、またはそれらのイオン化合物を前記有機物質に投入することによって、「アンモニア」の気化・蒸発を防止することができる。このような観点より、アンモニウム塩とアンモニウムイオンとの間で化学平衡状態を作り出すことのできる化合物またはそのイオン化合物を使用することが好ましい。具体的には、炭酸、リン酸、塩酸、硝酸、硫酸、有機酸、亜硫酸、亜硝酸、酸性及びアルカリ性アミノ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カリウムまたはリン酸カリウムなどが挙げられる。なかでも、上記した、有機物質中でアンモニアをイオンとして確保・維持が可能であるという観点より、炭酸、リン酸、リン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたは炭酸水素カルシウムが好ましい。さらに、これらの好ましい物質(成分)を用いた場合、本発明における出発物質である有機物質に対して炭素やリン酸を補給できる点で、有利となりうる。なかでもより好ましくは、炭酸カルシウムまたは炭酸水素カルシウムを用いることである。これらのより好ましい物質(成分)を用いた場合、現在、有効な廃棄処理の術がなく、廃棄され続けているホタテの貝殻などを出発物質としても、有用物質を得ることができる点で画期的である。
さらに、なかでも固体状の炭酸水素カルシウムを用いることが最も好ましい。炭酸水素カルシウムなどの固体状成分を用いた場合の容器(構造物)の例を図5に示し、塩酸などの液体状成分を用いた場合の容器(構造物)の例を図6に示す。また、二酸化炭素などの気体状成分を用いた容器(構造物)の例を図7に示す。前記酸性塩化合物またはそのイオンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、投入後の有機物質(前処理後の有機物質)は複雑な緩衝溶液系に含まれることとなる。前記緩衝溶液系を概説すると、内部に存在する陽イオン及び/または陰イオンが主体となり、さらにそれらがイオン結合した塩もしくは錯イオン、または、錯イオンとイオンもしくは錯イオンとが結合した塩よりなる。
前記陽イオンとして、以下に限定されることはないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンもしくはカルシウムイオン等が挙げられる。一方、前記陰イオンとして、以下に限定されることはないが、例えば塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンもしくは炭酸イオン等が挙げられる。
以下、図5〜図7に示された一例としての装置について説明する。まず、図5に示された一例としての装置は、コンクリート等製の外壁21、攪拌用シャフト22、及び開放式の投入口23を備える。かかる装置の投入口23から有機物質、炭酸水素カルシウム等の固体状成分及び水などを投入し、有機物質及び固体状成分の混合溶液24とする。混合溶液24の調製手段としては、特に制限されることはないが、酸溶液の生成過程で発熱しうるため、0℃を超えて14℃程度まで(好ましくは0℃を超えて10℃程度まで)の水などをあらかじめ投入しておき、攪拌用シャフト22で攪拌しながら固体状成分を少しずつ投入することが好ましい。また、温度を確認しながら、固体状成分と水とを同時に投入することも好ましい。固体状成分の配合率(添加割合)は、腐敗を効果的に防止する観点より、混合溶液24の全質量に対して、20〜30質量%であることが好ましい。また、水分含有率は、特に限定されることはないが、混合溶液24の全質量に対して、50〜80質量%であることが好ましく、55〜65質量%であることがより好ましい。なお、次段階(過程)への移送経路(配管)については、図5に示された一例としての装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。
次に、図6に示された一例としての装置は、ジュラルミン等製の外壁25、脱気弁26、酸溶液が通過する配管27、酸(液体状成分)溶液の液体注入口28、支柱29、及び残渣排出口30を備える。天蓋(図中に付号なし)を開けて上部から投入された有機物質、及び液体注入口28から投入された酸溶液からなる混合溶液31を静置させることにより、アンモニウムイオンが有機物質中に固定される。その際に発生するガス、及び不要な残渣についてはそれぞれ、脱気弁26、及び残渣排出口30を通じて排出され、次段階(過程)へ移送される。そのため、アンモニア固定を効率良く行わせることができるとともに、残渣(残余物質)が効果的に排除して、有機物質及び新鮮な酸溶液を逐次的に供給できるという利点がある。前記酸溶液中の液体状成分の配合率は、特に限定されない。
次に、図7に示された一例としての装置は、ジュラルミン等製の外壁32、有機物質の投入口33、残渣の排出口34、逆流防止弁35、及び二酸化炭素などの気体状成分36の気体注入用ダクト37を備える。投入された有機物質及び二酸化炭素酸溶液からなる混合溶液38により、炭酸イオンが有機物質中に固定される。その際、二酸化炭素を逐次的に混合溶液38へ供給することにより、1種の攪拌効果が生じうる。また、不要となった残渣(残余物質)については、排出口34を通じて排出され、次段階(過程)へ移送される。そのため、炭素固定を効率良く行わせることができるとともに、残渣が効果的に排除して、有機物質及び新鮮な酸溶液を逐次的に供給できるという利点がある。前記気体状成分の配合率は、特に限定されない。
(2)微生物学的方法
微生物等を用いてアンモニウムイオンを前記高分子有機化合物中に固定することができる。前記微生物は、窒素同化作用を有する光合成細菌、光合成真核生物(微生物以外も含む)、または酵母などの真菌であることが好ましい。なかでも、アンモニア及び尿酸を同化可能な菌株であることがより好ましい。このような光合成細菌としては、特に限定されることはないが、例えば、藍色細菌等及びプロテオバクテリア門好気性光合成細菌等の酸素発生型光合成細菌;紅色光合成細菌、紅色硫黄細菌、緑色硫黄細菌、糸状光合成細菌(緑色非硫黄細菌)及びヘリオバクテリア等の非酸素発生型光合成細菌;に大別して挙げられる。また、このような光合成真核生物とは藻類などが挙げられる。その際、有機物質における水分含有率などの条件に応じて、1種単独の上記微生物を用いてもよいし、または2種以上の上記微生物を併用してもよい。上記した菌の培養条件については、藍色細菌など好気性細菌の場合には好気性条件、及びその他の嫌気性細菌の場合には嫌気性条件とする必要がある。具体的な好気性条件または嫌気性条件、すなわち温度やpHなどについては、使用する菌の種類によって様々であると共に、当業者であれば適宜、適切な条件の設定が可能であるため、ここでは特に制限されることはない。以下、上記の大別した微生物群ごとに詳細に説明する。
まず、酸素発生型光合成細菌を用いる場合について説明する。酸素を含む気体を、出発物質たる有機物質を内容物とする非遮光培養槽に還流しつつ、酸素発生型光合成細菌を増殖させる。これにより、他の腐敗菌の増殖を抑制しつつ、アンモニアを酸素発生型光合成細菌が資化に利用しアンモニアの発生を防ぐことができる。ここで、高酸素濃度に耐性のある酸素発生型光合成細菌を使用すれば、より容易に優占種を得ることができる。なお、腸内細菌は、その大部分が偏性嫌気性菌であるため、酸素を含む気体の供給は、特に腐敗菌の繁殖を抑制する上で有効となりうる。
次に、非酸素発生型光合成細菌を用いる場合について説明する。無酸素下の密閉型非遮光培養槽内に投入した出発物質たる有機物質に、非酸素発生型光合成細菌を接種し培養する。アンモニアを非酸素発生型光合成細菌が資化に利用することにより、アンモニアの発生を防ぐことができる。特に、紅色硫黄細菌などは、電子供与体に硫化水素を用いるため、後述する硫化水素の発生を抑制する意味でも非常に効果的である。さらに、生成された硫黄が、硫黄酸化細菌などの作用によって硫酸イオン等に変化し、メタン生成菌によるメタンの生成や、良質な肥料等の製造に寄与しうるため、好ましい。
光合成細菌に光合成を好適に行わせるため、非遮光容器または建造物中に有機物質を収納し、前記光合成細菌を前記有機物質中に投入してもよい。藍色細菌など好気性の光合成細菌を用いる場合には、有機物質中に必要量の酸素(空気を含む酸素含有気体または純酸素)が供給可能となるように非遮光容器または建造物を利用し、必要により攪拌装置を併設してもよい。このような装置の例を図8に示す。
図8に示された一例としての装置は、好気性の光合成細菌を用いて非遮光下で空気などを供給しつつ、有機物質中に酸素を供給し、アンモニア固定を行わせることができる構成となっている。図8に示された一例としての装置は、ガラス等製の透明固形体39、逆流防止弁40、ダクト41、空気をダクト41に供給するためのコンプレッサー42、及び開放式の投入口43を備える。装置の壁面を透明(透明固形体39)としたのは、好気性の光合成細菌などが効率良く光合成を行うことができるようにするためである。投入口43から有機物質、好気性の光合成細菌、及び必要な栄養培地などを投入することができる。これらが投入されてなる培養液44へ、コンプレッサー42により、ダクト41を通じて空気を供給することができ、好気性条件を所定の範囲内で調整しながらアンモニア固定を行わせることができる。また、このように空気を液中に供給することにより、装置中の培養液44が攪拌されるという利点も有する。なお、次段階(過程)への移送経路(配管)については、図8に示された一例としての装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。
一方、藍色細菌以外の光合成細菌を主に用いる場合には、これらの菌は一般に嫌気性であることが多いため、内部に有機物質を収納可能な非遮光容器または建造物を利用し、必要により攪拌装置を併設してもよい。このような装置の例(概略図)を図9に示す。
図9に示された一例としての装置は、嫌気性の光合成細菌を用いて非遮光下でアンモニウムイオンを有機物質中に固定させることができる構成となっている。図9に示された一例としての装置は、ガラス等製の透明固形体45、逆流防止弁付きの注入口46、逆流防止弁付きのガス排出口47、攪拌用シャフト48、及び残渣排出口49を備える。装置の壁面を透明(透明固形体45)としたのは、光合成細菌などが効率良く光合成を行うことができるようにするためである。注入口46から有機物質、微生物(嫌気性細菌)、及び必要な栄養培地などを投入することができる。これらが投入されてなる培養液50を攪拌用シャフト48で攪拌しつつ、アンモニア固定を行わせるが、その際に発生するガス、及び微生物に利用(資化)されない残渣(残余物質)についてはそれぞれ、逆流防止弁付きのガス排出口47、及び残渣排出口49を通じて排出され、次段階(過程)へ移送される。そのため、アンモニア固定を効率良く行わせることができるとともに、残渣が効果的に排除して、有機物質、微生物(嫌気性細菌)、及び必要な栄養培地を逐次的に供給できるという利点がある。このようにして、好気性条件を所定の範囲内で調整しながらアンモニア固定を行わせることができる。なお、攪拌速度については、装置の容量などによって異なり、当業者であれば適宜調節することができるため、ここでは特に制限されることはない。なお、図には示していないが、残渣排出口49の入口(装置側)には開閉バルブ(シャッター)が設けられうる。
さらに、アンモニア固定(アンモニウムイオンの有機物質中への固定)後、腐敗菌の不活性化、及び後述の「2.」を実行する前に、あらかじめ酸溶液または酸性塩溶液を投入しておき、有機物質(前処理後の有機物質)を弱酸性に調整しておくことが好ましい。前記酸溶液または酸性塩溶液に用いられる酸または酸性塩の具体例については、前述の「(1)」で挙げるものと同様である。
次に、真菌である酵母を用いる場合について説明する。上記した光合成細菌の代わりに、例えば、特開2002−335952号公報に開示されている酵母が参照により本願に引用されうる。すなわち、かような酵母を使用することによっても、酵母のアンモニア資化によってアンモニアガスの発生を防止できる。また、一般に、光合成細菌は、酸性環境を好む菌が多いため、酸溶液を投入するか、または水中で酸性塩を投入し、前処理後の有機物質を弱酸性に保った後、光合成細菌を投入することもできる。ただし、例えば、特開2005−168508号公報に開示されているような、アルカリ性下で機能を発揮する光合成細菌を使用することもありうる。かかる場合に、原料として投入する細菌を弱酸性下に晒すことは不利となりうるので、あらかじめアルカリ性溶液またはアルカリ性塩溶液を投入しておき、有機物質(前処理後の有機物質)を弱アルカリ性に調整しておくとよい。
一方、これまで説明してきたアンモニア固定とは反対に、アンモニアを分解する方が好ましい場合もありうる。例えば、大量のアンモニアが有機物質中に存在し、または腐敗菌の作用により発生する場合には、このような有機物質を酸化することによってアンモニア量を減少させてもよい。アンモニアの酸化に関しては、微生物的方法と化学的方法とがある。しかし、本発明に係る有機物質の処理方法においては、最終的な産物の一つ(残余物質)にセルロース等の肥料前駆物質があり、これを肥料等に転化させることもありうる。そのため、かかる場合には特に、微生物学的方法を採用することがより好ましい。具体的には、アンモニア酸化菌(例えば、Nitrosomonas europaea等のNitrosomonas属、Nitorosococcus属、Nitrosospira属、Nitrosolobus属、Nitrosovibrio属)による有機物質中のアンモニアの酸化が挙げられる。また、亜硝酸酸化細菌(例えば、Nitrobacter属、Nitrospira属)を用いて有機物質を硝化させ、該硝化された物質に対して、硝酸還元菌(なかでも特に脱窒菌;例えば、Paracoccus denitrificans、Paracoccus denitrificansもしくはThiobacillus denitrificans)の作用により、最終産物を窒素として、外界に放出することが可能である。また、窒素代謝能(脱窒能など)を有する真菌を、有機物質の酸化還元経路の一部または全部で使用(細菌及び/もしくは古細菌との併用も含む)することも可能である。上記した微生物を使用した場合、アンモニア中の窒素は最終的に窒素ガス(N2)となり、大気中へと放出可能となる。
なお、化学的方法としては、例えば工業上一般に用いられているオストワルト法によるアンモニアからの硝酸化が挙げられ、得られた硝酸は工業上使用可能である。
4.硫化水素、アンモニア及び/または有機ガスを除去する段階
本工程は、前記腐敗菌に起因して発生する有害な硫化水素、アンモニア及び/または有機ガスを除去することをさらに含んでもよい。
まず、表記の段階のうち、硫化水素を除去する方法としては、(1)アルカリの供給による除去、(2)化学合成細菌(特に硫黄酸化細菌)による酸化、及び(3)非酸素発生型光合成細菌による酸化に大別することができる。但し、本発明においてエタノールよりもメタンの生成を主とする場合、後述するように、発生した硫化水素を別途回収することもありうる。以下、上記大別した各方法について詳細に説明する。
(1)アルカリの供給による除去
硫化水素は酸性のため、アルカリを投入して中和することが処理方法として好ましい。使用可能なアルカリとしては特に制限されることはないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたは炭酸水素カルシウム等が挙げられる。このうち、水酸化カリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたは炭酸水素カルシウムが好ましい。上記物質(成分)は、良質の肥料等を生産する上で、有益な成分となりうるためである。また、アンモニアの発生を防ぐ観点より、リン酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたは炭酸水素カルシウムを使用することがより好ましい。さらに好ましくは炭酸カルシウムまたは炭酸水素カルシウムであり、これらを用いることにより、有効な処理ができずに大量に廃棄され続けているホタテの貝殻等からも、有用物質を工業上獲得することができる。
(2)化学合成細菌(特に硫黄酸化細菌)による酸化
硫黄酸化細菌は、好気性条件下で硫化水素を硫黄や硫酸などの硫化化合物へ酸化するため、原料である有機物質から硫化水素を容易に除去可能である。さらに、一般に硫黄酸化細菌は硫黄を硫酸イオンにまで酸化可能であるため、良質な肥料等の生産に寄与しうる。
(3)非酸素発生型光合成細菌による酸化
紅色光合成細菌、紅色硫黄細菌、緑色硫黄細菌、糸状光合成細菌(緑色非硫黄細菌)またはヘリオバクテリア等の非酸素発生型光合成細菌は、嫌気性条件下で、上述したように硫化水素を酸化させるため、原料である有機物質から硫化水素を容易に除去可能である。
一方、表記の処理方法のうち、有機ガスの更なる発生を防止する方法、さらには有機ガスを除去する方法を用いることが好ましい場合がある。すなわち、腐敗により発生する有機ガスには有毒なものが多く、結果的に、本発明により得られるはずの有用物質(エタノール、メタン及び/または肥料等)の生成が阻害される可能性がある。したがって、原料である有機物質に存在し、腐敗菌に起因して発生する硫化水素、アンモニア及び/または有機ガスを発生防止ないし除去する必要がある。具体的な方法としては、上述したように、腐敗菌の数の減少及び/または化学合成細菌による酸化といった有機ガスの更なる発生を防止する方法、並びに非酸素発生型光合成細菌による有機ガスの酸化といった有機ガスを除去する方法が挙げられる。具体的に使用可能な菌については上述の通りであるため、ここでは説明を省略する。
家畜排泄物や生ゴミ等、大量の細菌等が感染し、腐敗化しつつある(産業)廃棄物である有機物質の腐敗を停止し、後述する有用物質を得るための発酵段階へと有効に移行させるためには、上記した段階の全部または一部が必要となりうる。家畜排泄物や生ゴミ等、様々な有機物質を出発物質(原料)とする場合に、具体的にどの段階が必要となるかについては、主に、原料の形状、原料中の水分含有率及び原料に存在する感染微生物(例えば腐敗菌などの感染細菌)の種類などによって決せられうる。例えば、有機物質からのアンモニアの発生が認められない場合、アンモニア固定は不要な可能性が高い。また、有機物質からの硫化水素の発生が認められない場合、硫化水素の発生を防止するための段階は不要な可能性が高いといえる。
本発明において、上記した段階の組み合わせとして最も有効かつ好ましい処理方法は、放電現象を用いた有機物質の均一化及び腐敗菌の減少、続いて炭酸水素カルシウムの供給によるアンモニア及び硫化水素の発生の抑制、続いて酸素発生型光合成細菌による有機物質の低分子物質含量の増大及び嫌気性菌数の減少、並びに/または非酸素発生型光合成細菌による有機物質の低分子物質含量の増大及び好気性菌数の減少という各段階を組み合わせた方法である。
5.麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いて、前記高分子有機化合物を分解する段階
本工程は、麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いて前記高分子有機化合物を分解することをさらに含んでもよい。本段階は、前記高分子有機化合物を、第2の工程における微生物が栄養分として資化可能な低分子有機化合物(単糖、二糖など)まで分解しうるため、第1の工程(本工程)の最終段階として実行することが好ましい。
本明細書における「麹菌」とは、アスペルギウス属、モナスカス属(紅麹菌など)、リゾープス属(テンペ等)及びノイロスポア属(オンジョム等)、並びに麦芽(Mucorales)を意味する。上述の処理方法(好ましくは、上記1〜4の段階の全部または一部(ただし、上記1の段階は必須に含まれる))による処理後の有機物質に麹菌を直接加えてもよい。または、麹菌を繁殖させた、主に有機物からなる物質を上述の処理方法(好ましくは、上記1〜4の全部または一部(ただし、上記1の段階は必須に含まれる))による処理後の有機物質に加えてもよい。後者の場合、麹菌は生存していても生存していなくてもよい。さらに、麹菌自体ではなく、麹菌より抽出した麹菌由来の酵素を使用してもよい。
場合によっては、麹菌に必要な環境を整えてもよい。特に、腐敗の進行している有機物質に対して上述の処理(好ましくは、上記1〜4の段階の全部または一部(ただし、上記1の段階は必須に含まれる))を施し、得られた産物を、後述する第2の工程における発酵段階に移行させた(場合によっては、戻した)場合、該有機物質中の水分含有量は一般に多いことが想定される。ここで、細菌(腐敗菌)は一般に、水分の比較的高い環境で繁殖しやすいという性質を有している。ところが、麹菌等の保有する酵素は、菌自体が死滅してもなお、活性を有するため、原料(出発物質)である有機物質の一部にあらかじめ麹菌等を繁殖させておき、これを前記原料系に加えるか、または麹菌等より抽出した酵素を使用することがより好ましい。なかでも最も好ましくは、原料(出発物質)である有機物質の一部にあらかじめ麹菌等を繁殖させておき、これを、前記有機物質を含む原料系に加える。この場合、上記した理由より、麹菌等の一部が死滅していても問題ない。
また、その際に、水分含有量の調節を目的として、上述の処理(好ましくは、上記1〜4の段階の全部または一部(ただし、上記1の段階は必須に含まれる))後の有機物質に水分含有率の低い有機物質、例えばバーク材や落葉などを任意に加えてもよい。このように、麹菌を用いて、セルロース、へミセルロース、リグニン、デンプン及びタンパク質などの高分子有機化合物を低分子の糖類などに分解させた後、後述の第2工程に進むことができる。
このように、麹菌等によりセルロース、へミセルロース、リグニン、デンプンやタンパク質などの高分子成分を低分子糖などに分解させてから、後述する第2の工程に進むことが好ましい。なお、原料系に含まれる有機物質中の高分子成分量が比較的少なく、麹菌等による作用に十分な効果が期待できないと推測される場合には、本段階を省略してもよい。かかる場合、上述の処理(好ましくは、上記1〜4の段階の全部または一部(ただし、上記1の段階は必須に含まれる))より、直接、第2の工程へ移行してもよい。
図10Aは、麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いた、上記高分子有機化合物の分解を行うための一の例示的な装置を示す概略図である。前記装置は、ジュラルミン等製の麹菌培養槽本体51、好気性菌である麹菌のための空気孔52、攪拌装置53、バルブ54及び台55を備える。麹菌培養槽本体51は、酒母などの麹菌が培養された物質を含む。前記麹菌が培養された物質は、ダクト56を通して培養槽本体57へと投入される。そして、培養槽本体57中で原料たる有機物質が麹菌及び/または麹菌由来の酵素によって分解を受ける。なお、空気孔52には必要に応じて除菌フィルターを設けてもよく、培養槽本体57の材質は特に制限されないが、例えばコンクリート等が挙げられ、台55の材質についても特に制限されることはないが、例えば鉄骨等が挙げられる。
図10Bは、麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いた、上記高分子有機化合物の分解を行うための他の例示的な装置を示す概略図である。図10Aと同じ番号の付号が付された箇所は、上記図10Aにおいて説明したものと同様の機能を果たすため、説明を省略する。なお、図10Bで示されている装置は、図10Aで示されている「槽型」ではなく、「タンク」型であり、開閉バルブ付きの排出口58が備え付けられている。排出口58を通して、麹菌及び/または麹菌由来の酵素による処理を受けた有機物質が排出されて次工程へと移送される。図10Aで示されている「槽型」の装置の場合であっても、このような排出口を設けてもよいが、例えば、ポンプなどを培養槽本体57内に落として、麹菌及び/または麹菌由来の酵素による処理を受けた有機物質をポンプ輸送することもありうる。
[第2の工程]
第2の工程は、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される1種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆物質を得る段階(a)、並びに、嫌気性微生物を用いたメタン発酵を行うことにより、有機物質からメタンを抽出し、肥料前駆物質を得る段階(d)からなる群より選択される1種以上の段階を有することが好ましい。段階(a)及び段階(d)のいずれか一方を有する第2の工程であれば、出発物質としての有機物質から有用物質であるエタノール及び/またはメタンが得られるため好適である。
また、第2の工程において、段階(a)及び段階(d)が1回以上反復して行われることがより好ましい。かかる場合、効率的にエタノール及びメタンを得られるため好適である。段階(a)及び段階(d)の反復系の詳細については後述する。
また、第2の工程において、段階(a)及び段階(d)が同一槽内で同時に行われることも好ましい。段階(a)及び段階(d)で用いられる微生物の最適条件(pHや温度など)がほぼ一致するような微生物をそれぞれ用いることにより、上記2種類の段階を同一槽内で同時に行うことも可能となる。かような場合、省エネルギー、省力化、コスト削減などの観点より非常に好ましいといえる。なお、かかる場合、段階(a)の反応及び段階(d)の反応がそれぞれ単独に繰り返し行われるだけでなく、段階(a)と段階(d)とが反復して行われることもありうる。
上記段階(a)及び/または段階(d)に加えて、さらに、前記第2の工程は、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆物質を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノール及び/またはメタンを抽出しうる段階(b)、及び、微生物の同化作用によって無機物質から有機物質を得るとともに、場合によりエタノール及び/またはメタン抽出しうる段階(c)からなる群より選択される1種以上の段階を有することがより好ましい。なお、後述のように、「場合により」とは、各段階において、その直前の段階から、エタノール抽出可能な原料(栄養成分及び微生物)、並びに/またはメタン抽出可能な原料(栄養成分及び微生物)がそのまま移行してきた場合を意味する。その際、微生物は、生きた微生物のみならず、死滅した微生物であっても、該微生物由来の酵素活性があれば、結果としてエタノール及び/またはメタンが抽出可能となりうる。
また、第2の工程において、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)のうち、任意の2種以上の段階が1回以上反復して行われることがより好ましい。かかる場合、効率的にエタノール及び/またはメタンを得られるため好適である。
また、第2の工程において、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)のうち、任意の2種以上の段階が同一槽内で同時に行われることも好ましい。前記2種以上の段階で用いられる微生物の最適条件(pHや温度など)がほぼ一致するような微生物をそれぞれ用いることにより、上記した複数の段階を同一槽内で同時に行うことも可能となる。かような場合、省エネルギー、省力化、コスト削減などの観点より非常に好ましいといえる。なお、かかる場合、各段階の反応がそれぞれ単独に繰り返し行われるだけでなく、任意の2種以上の段階(2種、3種及び/または4種)が反復して行われることもありうる。
上述のように、一般に、(産業)廃棄物とせざるをえないような排泄物等の有機物質には腐敗菌が大量に存在し、その数は経時的に増殖し続ける。これにより、経時的な腐敗が進行していき、有害な成分が大量に産生される。該有害な成分が、本第2の工程の各段階((a)〜(d))における微生物に起因する反応を阻害しうる。特に、段階(d)で働くメタン生成菌は、一般に腐敗菌のうちの鉄細菌や硫酸還元菌と増殖に関して拮抗するため、特に硫酸の存在がメタン生成菌の増殖の妨げ(段階(d)におけるメタン発酵の阻害)となりうる。そのため、第1の工程で腐敗菌数を減少させておくことは非常に有益であるといえる。
そして、上記第1の工程を通じて、発酵(エタノール発酵及び/またはメタン発酵)用の原料として好適な状態となるように処理された有機物質を、第2の工程を通じて、エタノール、メタン及び/または後述の第3の工程で生成されうる肥料等の前駆物質といった有用物質が生成されうる。本発明の理解の一助として、かつ、特に好ましい代表的な実施態様として、エタノール発酵とメタン発酵とを共に行う第2の工程について、以下説明する。
有機物質の構成成分であるタンパク質、炭水化物(多糖類)及び脂質は、加水分解能を有する菌(腐敗菌)の異化作用によって、それぞれ低分子糖(単糖など)、グリセリン及び脂肪酸、並びにアミノ酸などに変換される。さらに、これらの物質は、酸生成能を有する菌(腐敗菌)の異化作用によって、上述のように、エタノール等のアルコール類、アンモニア、有機酸(蟻酸、酢酸等)、メチルメルカプタンメチルメルカプタン、硫化水素、インドール、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、アルデヒド類(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)やフェノール類等に変換される。このうち、有害な物質については、上記した第1の工程により効果的に除去される。エタノールは、エタノール発酵(主に好気性発酵)によって、前記低分子糖を出発物質として、数段階の化学反応を経て二酸化炭素と共に生成される。
一方、メタンは、メタン生成菌によるメタン発酵(嫌気性発酵)によって、上記の有機酸(蟻酸、酢酸等)、アルコール類及びアルデヒド類を経て、二酸化炭素及び水素より生成される。メタン発酵は、嫌気性条件下での有機物分解における最終段階の反応系といえる。したがって、エタノールの抽出・生成から肥料等の生成までを主経路とし、メタンの抽出・生成をその副経路とするような系を構築することにより、エタノール、メタン及び肥料等の有用物質を極めて効率的に生産できる。なお、メタン発酵は、エタノール発酵を行うことなく行うこともできる。
このようなエタノール生成とメタン生成との関係について、より具体的に説明する。上述のような主経路及び副経路を有する有機物質の処理システムを構築する上で、メタン生成がエタノール生成経路の途中より分岐し、エタノール生成の過程上の副産物として得られることは、本発明に係る処理方法の好ましい一実施形態である。一方で、原料である有機物質の組成によっては、エタノール発酵とメタン発酵とが共に反応系の主体となることが好ましい場合もある。かかる場合には、エタノール発酵とメタン発酵とを1つの処理過程(反応系)中に設けることが好ましい。後述の図11は、後者の場合の一例を示している。さらに、メタン生成を主体とし(メタン生成が主経路に含まれる)、エタノール生成を副産物として生成することも可能である。また、エタノールを生成することなく(エタノール発酵を行うことなく)メタンのみを生成し、残余物質(主に高分子有機化合物)を肥料前駆物質として肥料等に変換することも可能である。一方、メタンを生成することなく(メタン発酵を行うことなく)エタノールのみを生成することも可能である。上記したいずれの系を採ることが好適であるかは、主に有機物質の組成、イオンの組成、水素の存在、温度、圧力、pHやコスト等に依存するといえる。
本発明者らは、家畜の排泄物などのような、特に腐敗が進行し、従来、廃棄せざるを得なかったような有機物質から、人体ないし地球環境にとって有害な物質(固体、液体、気体のいずれも含む)をほとんど外界に廃棄・放出することなく、有用物質のみを得るための方法として、上述の第1の工程に、下記で説明する第2の工程(好気性発酵及び嫌気性発酵の併用)を組み合わせた処理方法が極めて有効であることを見出したのである。すなわち、本発明に係る有機物質の処理方法は、出発物質から最終産物を通じて、前記有害な物質が外界にほとんど廃棄・放出されない、「閉鎖型」となりうるのである。
好気性発酵は、酸素のある状態で活動する微生物の働きで有機物を分解し、発酵させるものである。腐敗の進行した有機物質を分解すると共に、悪臭などの有害な成分量を低減し、廃棄物処理(有用物質への変換)を容易にするという観点より、肥料等の生産まで考慮すれば、好気性発酵によることが好ましい。好気性発酵によれば、効率的に肥料等を生成できる。本発明における肥料前駆物質はセルロース等の難分解性物質を多く含みうる。このような観点から、好気性発酵を行い、かつ前記難分解性物質の肥料化が可能な微生物として、枯草菌や納豆菌などが好ましい。一方、嫌気性発酵は、酸素に触れない状態で活動する微生物の働きによるもので、発酵によりメタンガスが発生する反応を特にメタン発酵という。前記難分解性物質を多く含みうる肥料前駆物質を肥料化するには、一般に嫌気性発酵の方が好気性発酵と比較して有利である。そして、エタノールは、工業用、燃料用及び飲用に使用可能な点で、メタンは、燃料用ガスなどに使用可能な点で、共に有用物質といえる。また、本発明に係る処理方法により得られるエタノールやメタンは、それぞれ、バイオエタノール及びバイオガスに相当し、地球上の限られた資源を保護するという観点から近年、非常に注目されているところである。本発明によれば、このように、従来では有用物質の獲得が工業上の観点から現実には不可能といわれてきた、(産業)廃棄物となる有機物質よりバイオエタノールやバイオガス、そして肥料等を効率的に得ることができるのである。
なお、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)のうち、いずれか1種の段階を含むような「第2の工程」であれば、エタノール、メタンまたは肥料等を得ることができ、本発明の目的を達成可能である。しかし、腐敗がかなり進行した有機物質であって、処理できずに廃棄され続けている結果、地球環境汚染を加速させているような現状を顕著に改善するという観点からいえば、前記有機物質を出発物質として、該有機物質中の成分をほぼ全て有効活用できる処理方法を採用することが極めて好ましいといえる。このような観点から、上述したように、本発明を構成する第2の工程は、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)よりなる群から選択される2種以上の段階を含むことが好ましいといえる。さらに、エタノール及び/またはメタンといった有用物質を有機物質から得るという観点からいえば、第2の工程が段階(a)及び段階(d)のいずれか一方を含むことがより好ましいことは上述した通りである。
さらにいえば、第2の工程において、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)のうち、任意の2種以上の段階が1回以上反復して行われることが特に好ましい。このような任意の2種以上(すなわち、2種、3種または4種)の段階を1回以上反復して行う過程を、本明細書において「サイクル」と称することもある。本発明の第2の工程において、このようなサイクルのパターンは非常に多数存在しうるため、以下、特に言及する場合を除き、各段階、及び任意の2種の段階からなるサイクルについてのみ説明する。しかし、任意の3種の段階及び任意の4種の段階からなるサイクルが存在しうることは上述の通りである。そして、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)から選択される全ての任意の3種の段階及び4種の段階も、本発明の範囲に含まれる。なお、上記第1の工程に続く第2の工程のうち最初の段階は、上記4種類の段階のうちいずれでもよい。また、任意の3種の段階及び任意の4種の段階からなるサイクルの場合、各段階は通常、いずれか一方向に従って進行するが、場合によっては、いわゆる「可逆的に」両方向に進行してもよい。あるサイクルが両方向に進行する場合、「同時に」両方向の反応を進行させてもよいし、または所定の時間ごとに交互に方向を切り替えて反応を進行させてもよい。
図11は、本発明に係る有機物質の処理方法における各工程(特に第2の工程)、及び前記工程を構成する各段階を示した概略的なフローチャートである。すなわち、図11は主に、第2の工程におけるサイクルと前記サイクルを構成する各段階との関係について示している。なお、図11において、第1の工程に続く第2の工程のうちの最初の段階は、段階(a)となっているが、その他の段階((b)、(c)または(d))から始まってもよいことは前述の通りである。
任意の2種の段階からなるサイクルとしては、計6種類が挙げられる。すなわち、段階(a)及び段階(b)からなるサイクル経路(以下、「第1のサイクル」ともいう)、段階(a)及び段階(c)からなるサイクル経路(以下、「第2のサイクル」ともいう)、段階(b)及び段階(c)からなるサイクル経路(以下、「第3のサイクル」ともいう)、段階(a)及び段階(d)からなるサイクル経路(以下、「第4のサイクル」ともいう)、段階(b)及び段階(d)からなるサイクル経路(以下、「第5のサイクル」ともいう)、並びに段階(c)及び段階(d)からなるサイクル経路(以下、「第6のサイクル」ともいう)である。なお、2種の段階からなるサイクルについてのみ、番号を付しているが、任意の3種ないし4種の段階についても本発明の範囲に含まれることは上述の通りである。図11に示したフローチャートを用いて、前記任意の3種の段階からなるサイクルについて例示すると、段階(a)→段階(b)→段階(c)を1単位とするサイクルが挙げられる。また、前記任意の4種の段階からなるサイクルについて例示すると、段階(a)→段階(b)→段階(d)→段階(c)を1単位とするサイクルが挙げられる。
上記した6種類のサイクルのなかでも、特に、段階(a)及び段階(b)を1回以上反復して行うこと(第1のサイクル)が好ましい。なぜなら、後述するように、段階(a)は、エタノール抽出についての中心的な段階であるためである。併せて、段階(b)は、段階(a)で資化されなかった高分子有機化合物(セルロース等)を分解して、得られた低分子有機化合物を、段階(a)におけるエタノール抽出用原料となりうるからである。したがって、第2の工程中に第1のサイクルが存在するということは、有用物質であるエタノールを効率的に得られるとともに、その際に発生する主たる副産物である二酸化炭素及び高分子有機化合物をも別途の段階において有用物質に変換できるのである。具体的にいえば、二酸化炭素は、段階(c)における同化作用によって段階(a)の原料となりうる低分子有機化合物(グルコース等)に変換され、また、段階(d)におけるメタン生成菌によるメタン発酵によって、有用物質たるメタンが抽出される。一方、セルロース、ヘミセルロースやリグニン等の高分子有機化合物は肥料前駆物質として、任意工程である第3の工程を経て、有用物質たる肥料等に変換されうる。そして、段階(c)や段階(d)も、第2の工程中のいずれかのサイクル経路に組み込まれていれば、出発物質である有機物質を供給し続ける限り、エタノール、メタン及び肥料等といった有用物質を連続的・長期的に、いわば「閉鎖系」で生産することが可能となる。
なお、図11に示されたいかなる経路も本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。本明細書では、かかる経路のうち一部の経路について以下で説明を行う。しかし、本明細書を見た当業者であれば、かかる説明に基づき、図11に示されたその他の経路についても適当な条件を設定した上で好適に実行可能である。また、図11に示した各段階のうち、任意の1種以上を利用する限り、かかる実施形態は本発明の範囲に含まれる。このうち、複数の段階を利用する場合には、各段階について別途の装置を用いて別々に実行してもよいし、複数の段階を同一の槽(装置)内で同時に行ってもよい。
これらのサイクルは、互いに独立的に機能してもよいし、複数のサイクルが従属的に(同時に)機能してもよい。特に、上記サイクルが2種以上存在するような第2工程の場合には、効率化の観点より、これらのサイクルが従属的に機能することが好ましい。なお、サイクル経路に属さない段階については、1回終了型の「直線状」経路でありうる。
また、本発明の他の実施形態は、段階(a)と段階(b)と段階(c)と段階(d)とからなる群より選択される1種以上の段階を有し、該段階を1回以上、好ましくは2回以上行うことを特徴とする。本実施形態においては、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)はサイクル経路を有していてもよいし、全く有していなくてもよい。すなわち、上記第1の工程を経た有機物質からエタノールやメタン等の生成段階を経て、肥料等の生成に到る一連の過程のうち、いずれか一つ以上の工程でサイクルを有していれば、当該処理方法は本発明の範囲に属する。一方、サイクル経路を全く有していなくてもよい場合には、1回終了型の「直線状」経路のみからなり得、これもまた、本発明の範囲に属する。1回終了型の「直線状」経路は、上記したいずれか1種以上の段階からなり、かつ、前記段階(いずれか一の段階または複数の段階のどちらもありうる)が1回以上、好ましくは2回以上実行されればよい。第2工程中、他に存在しうる段階については何ら制限されることはない。所望により、本明細書で説明した段階以外の任意の段階を付加してもよい。
なお、上記の各段階に用いられる微生物は、サイクルの初発にのみ投入されてもよく、サイクルの継続中、すなわち中途の過程でさらに投入されてもよい。以下、上記した6種類のサイクルについて、各サイクルを構成する各段階((a)〜(d))と共により詳細に説明する。
<第1のサイクル>
本サイクルは、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される1種以上を用いてエタノール発酵を行うことにより、前記有機物質からエタノールを抽出し、肥料前駆物質を得る段階(a)と、好気性条件もしくは嫌気性条件下で、前記肥料前駆物質を微生物に分解させることにより、有機物質を得るとともに、場合によりエタノール及び/またはメタンを抽出しうる段階(b)と、を反復して行う段階である。本サイクルは、本発明に係る生成方法においてエタノール生成を主目的とする場合に、中心的な部分を構成しうる。
概略としては、段階(a)と段階(b)とを交互に第1の工程を経た有機物質を循環させながら、その間にエタノールが抽出される。ただし、該有機物質の細菌などによる循環過程を設けず、段階(a)のみで終了させるか、または段階(a)と段階(b)からなる過程を一回のみで終了させることもありうる。かかる場合、当該過程を経た産物は、後述する段階(c)及び/または段階(d)へと移行する。なお、抽出されるエタノールは、主に段階(a)中で得られ、エタノールの抽出・生成が進むにつれて、微生物による異化反応は、段階(a)から段階(b)側へとよりシフトすることとなりうる。しかし、段階(b)中でエタノール生成が行われることもありうる。段階(b)中で得られる場合として、例えば、段階(a)で用いたエタノール発酵用の微生物が、段階(b)を行う装置へとそのまま移送されて、段階(b)でエタノール発酵が引き続き行われることが挙げられる。また、第1のサイクルは通常、段階(a)より開始されるが、原料である有機物質中の糖質含量が極めて低い場合などは、段階(b)より開始する方が好ましいといえる。
さらに、エタノール抽出は、段階(b)終了後で段階(a)開始前もありうる。また、本サイクルは通常、段階(a)から開始されるが、場合によっては段階(b)から開始されてもよい。さらに、後述のように、段階(a)及び段階(b)は共に、好気性条件及び嫌気性条件のいずれのパターンも採りうるため、計4パターンが存在しうる。そして、段階(a)及び段階(b)のうち一方が好気性条件、もう一方が嫌気性条件を採用する場合には、段階間の移送中に条件・環境の「切り替え」が必要となりうる。以下、段階(a)及び段階(b)について詳細に説明する。
1.段階(a)
段階(a)を実行するための装置の例を図12A及び図12Bに示す。当該装置中で、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される1種以上を投入し、適宜必要により攪拌を加えながら、エタノール発酵を行わせることにより、有機物質(未処理及び/または前処理後)からエタノールを抽出する。段階(a)において用いられる真菌は、エタノール発酵を行うことのできる菌であれば特に制限されることはないが、酵母及びRhizopus oryzaeよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。酵母の属としては、エタノール発酵を効率的に行えるという点より、Saccharomyces属、Candida属、Zygosaccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Kluyveromyces属、Pastoris属、Saccharomycopsi属、Pastoris属、Pachysolen属などが挙げられる。より具体的には、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、Saccharomyces exiguous、Kluyveromyces lactis、Kluyveromyces fragilis、Zygosaccharomyces rouxii、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyces optosporus、Schizosaccharomyces pombe、Pastoris Pichia、Candida albicansが好ましい。なお、アルコール生成能を有する酵母は、一般には嫌気性菌(通性嫌気性菌、偏性嫌気性菌)である。また、へテロ型乳酸菌としては、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus.reuteri)(好気性菌)、及びラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus.fermentum)(通性嫌気性菌)等が挙げられ、なかでもラクトバチルス・ロイテリが好ましい。また、糸状菌であるRhizopus oryzaeは、好気性菌である。具体的な好気性条件または嫌気性条件については、菌ごとに様々であり、当業者であれば適宜最適条件(温度やpHなど)を設定可能であるため、ここでは説明を省略する。
図12Aに示された一例としての装置は、特に、嫌気性条件下でのエタノール発酵に適している。ジュラルミン等製の嫌気培養装置59、鉄骨構造の台60、逆流防止弁付きの有機物質(未処理及び/または前処理後)の注入口(ダクト付)61、逆流防止弁付きの気体排出口(ダクト付)62、残渣(残余物質)が移送される、逆流防止弁付きのダクト63、ジュラルミン等製の分留槽64、逆流防止弁付きの気体排出口(ダクト付)65、炉66、及び逆流防止弁付きの内圧調節用の気体流入口67を備える。有機物質(未処理及び/または前処理後)、並びにアルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される1種以上を投入して、混合溶液68とし、エタノール発酵を行わせる。
図12Bに示された一例としての装置もまた、特に、嫌気性条件下でのエタノール発酵に適している。概略的には、ジュラルミン等製の本体69、鉄製の支柱70、原料及び微生物等の投入口71、攪拌装置72、及び原料の排出口73を備える。
なお、好気性条件下でのエタノール発酵を行う場合には、上記装置に別途、酸素などの気体を供給するための気体流入口を設けることが好ましい。また、後述する図13Aまたは図13Bに示すような装置を使用することも好ましい。
以下、図12Aに示した装置を例として説明すると、本段階中で混合溶液68に含まれる有機化合物のうち、低分子化合物は、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される1種以上の微生物の栄養要求に起因してエタノールに変換される結果、減少する。かかる低分子化合物として、単糖類、二糖類、ペプチド、アミノ酸などが挙げられる。
その結果、アルコール生成能を有する真菌、ザイモモナス菌及びへテロ型乳酸菌からなる群より選択される1種以上に利用(資化)されずに残る残渣(前記有機物質の一部)については、段階(b)において微生物により分解されることとなる。生成されたエタノールは、段階(a)における蒸発物を回収するか、段階(a)の一回終了後に分留するか、または段階(b)中に蒸発した物を回収する。前記分留については、図12Aに示すように、気体状のエタノールを気体排出口(ダクト付)62を通じてエタノール分留を行う経路と、嫌気培養装置59中の残渣(残余物質)を、ダクト63を通して分留槽64に一旦貯蔵し、空気、水蒸気、または窒素もしくはアルゴン等の不活性ガス、あるいは二酸化炭素などの気体を内圧調節用の気体流入口67から投入した後にエタノール分留を行う経路とがありうる。かかる気体は、エタノールと反応せず、エタノールと親和性がよいため好適であり、さらに二酸化炭素の場合には原料としての菌にとって有利であるため好ましい。
なお、段階(b)に移行する前段階として、必要な場合には、例えば、納豆菌を用いる場合、塩基性化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等)または塩基性塩(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム等)を投与し有機物質(未処理及び/または前処理後)のpHを塩基性としておくことが好ましい。工程上、段階(a)を行った装置から段階(b)を行う装置へ移送する場合に、段階(b)における好ましいpHの範囲内にあらかじめ調節しておくためである。一方、酸性下で活性を有する枯草菌を用いる場合には、上記のような前処理は不要となりうる。pHとしては、用いる菌によって異なるため、特に限定されない。なお、移送方法については、単に配管やポンプを介した移送であってもよいし、一旦別の装置に移しておいてから段階(b)を行う装置へと移送してもよい。このうち、一旦別の装置に移しておく手段は、かかる装置においてpHや温度などの調節を行えるという点で好ましい。特に、段階(a)と段階(b)との間で、好気性条件及び嫌気性条件の「切り替え」を行うことを必須とするような場合に、上記の一旦別の装置に移しておく手段は好適なものとなりうる。後述するその他のサイクル間での移送手段についても基本的には同様である。一方で、移送をせずに段階(a)及び段階(b)を同一の装置内で実施することも可能である。その際、場合によっては上記の「切り替え」操作などを行うことにより条件を適宜変えてもよい。
また、段階(a)により、エタノール以外に、無機物質、及び異化されなかった(異化反応により分解されなかった)有機物質も得られる。前記無機物質は、アンモニア、窒素化合物、炭素化合物(二酸化炭素など)、リン酸、硫化物、硫化水素、無機酸、無機アルカリ及び無機塩(硫酸塩、亜硫酸塩など)よりなる群から選択される1種以上でありうる。上記した無機物質のほとんどは、外界に排出されると地球環境破壊が進行することが一般に知られており、深刻な問題となっている。しかし、本発明では、このような無機物質を後述する段階(c)において微生物に同化させることにより、外界に放出することなく、かつ、エタノールや後述の肥料を一層大量に得ることができる。かかる点において、本発明は、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または(産業)廃棄物質などを出発物質として、二酸化炭素や硫化水素などの大気中への排出を防ぎつつ、エタノールを高い収率で生成することができる点で、地球環境の保護などに大いに貢献できるのである。
一方、本発明では、従来残渣として廃棄されていたような残余の有機物質を、微生物を用いて肥料にすることもできる。すなわち、上記した異化されなかった(異化反応により分解されなかった)有機物質は、炭水化物(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等)、脂質、グリセリン、高級アルコール、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質等が挙げられるが、これらの有機物質は肥料前駆物質となりうる。肥料の生成については、以下の段階(b)において詳述する。なお、次段階への移送経路(配管)については、図12A及び図12Bに示された例示的な装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。
なお、段階(a)と段階(b)とがサイクルとして反復する場合、本段階(a)中に段階(b)で投入された微生物が生きて存在する場合がある。かかる場合には、本段階(a)において、後述の段階(b)で本来行われうる分解反応(異化)が起こりうる。
2.段階(b)
段階(b)を実行するための装置の例を図13A及び図13Bに示す。好気性条件もしくは嫌気性条件の装置中で、前記段階(a)で用いられた微生物によって資化されなかった残渣(残余物質)をもとに、段階(a)から段階(b)へと移送されてきた生きた酵母によって、「場合により」エタノールが抽出されうる。一方、段階(a)から移動してきた抽出液中の酵母がほぼ死滅しているような場合には、段階(b)でのエタノール抽出はほとんど行われない。なお、本発明における前記残渣は、図1及び図11に示したように、段階(b)によって分解される場合と、肥料前駆物質として前記成分から肥料が生成される場合とがある。ここで、前記残渣とは、前記有機物質(前処理後の有機物質)の構成成分の一部に相当する。前記有機物質としては、使用する菌種や環境条件によっても様々であるが、上述の通り、炭水化物(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等)、脂質、グリセリン、高級アルコール、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質等が挙げられ、主にセルロース、へミセルロース及びリグニンが挙げられる。また、段階(b)に使用可能な微生物は、好気性菌の中では、偏性好気性菌もしくはラクトバチルス属が好ましい。より具体的には、好気性菌の中で、特にセルロースを分解する微生物として、枯草菌(Bacillus subtilis)、納豆菌(枯草菌の亜種)、ペニシリウム属、グオクラディウム属または木材腐朽菌(褐色腐朽菌、白色腐朽菌や軟腐菌)が好ましい。また、好気性菌の中で、特にリグニンを分解する微生物として、ケトミウム属が好ましい。さらに好ましくはバチルス属であり、特に好ましくは、枯草菌または納豆菌であり、最も好ましくは納豆菌である。一方、嫌気性菌の中で、特にセルロースを分解する微生物として、Clostridium thermocellum、Clostridium cellulovorans、Clostridium josui、Clostridium cellulolyticum、Acetivibrio cellulolyticus、Bacteroices cellulosolvens、Rumonococcus flavefaciensまたはClostridium acetobutylicum、あるいはセルロース分解能を有するツボカビ門(Chitridiomycota)またはTrichoderma reeseiが好ましい。より好ましくは、Clostridium thermocellum、Clostridium cellulovorans、Clostridium josui、Clostridium cellulolyticum、Acetivibrio cellulolyticus、Bacteroices cellulosolvensまたはRumonococcus flavefaciens、あるいはセルロース分解能を有するツボカビ門(Chitridiomycota)である。また、嫌気性菌の中でリグニン分解能を有する微生物(細菌、真菌)もまた、好適に使用できうる。
なお、具体的な好気性条件もしくは嫌気性条件については、使用する微生物によって様々であり、当業者であれば適宜最適条件(温度やpHなど)を設定可能であるため、ここでは説明を省略する。
図13Aに示された一例としての装置は、特に、好気性条件下での異化反応に適している。ジュラルミン等製の好気培養槽74、逆流防止弁付きの気体排出口(ダクト付)75、逆流防止弁付きの気体注入口(ダクト付)76、有機物質(段階(a)で得られた残渣)を含む混合溶液77の注入口(ダクト付)78、気体注入ダクト79、逆流防止弁付きの酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体注入口80、酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体81を備える。なお、次段階への移送経路(配管)については、図8に示された一例としての装置中では表示を省略しているが、任意の場所に設置させることができる。なお、嫌気性条件下で異化反応を行う場合には、気体注入ダクト79、気体注入口80及び気体81は不要であり、はじめからこれらのパーツを設けていなくてもよい。また、前述した図12Aまたは図12Bに示すような装置を使用することも好ましい。
図13Bに示された一例としての装置もまた、特に、好気性条件下での異化反応に適している。概略的には、コンクリート等製の本体82、空気口兼原料の投入口83、酸素含有気体84を供給するダクト85、逆流防止弁付きの酸素含有気体84の排出孔86、原料排出口87、及び開閉バルブ88を備える。
以下、図13Aに示した装置を例として説明すると、酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体81を注入しながら混合溶液77を攪拌させるか、または別途の攪拌用シャフトなどを取り付けることによって適宜攪拌しながら、必要な場合には、空気を含む酸素含有気体または純酸素を前記残渣(残余物質)に投入してもよい。かような環境下で、上記した段階(b)で投入される微生物が、段階(a)において異化(分解)されなかったセルロース、へミセルロースやリグニン等を栄養分として異化を進める。ここで、前記微生物が異化により無機物質を大量に作り出す前に、段階(b)に使用される装置をあらかじめ嫌気化(無気化)しておくことで、前記微生物の活動を一時的に不活性化にさせること、換言すれば休止状態とすることができる。なお、段階(b)を実行する前に再度活性化することができうる。次いで、段階(a)用の装置におけるpHを調整しつつ、有機物質(未処理及び/または前処理後)及び段階(b)で得られた低分子有機物を段階(a)に移行させて、段階(a)においてエタノール抽出を再度行う。なお、段階(b)でもエタノール抽出が行われうることは上述した通りである。このように、段階(a)と段階(b)とを反復して行う「サイクル」段階によって、経時的にエタノールを抽出することができる。
一般に、段階(b)に使用される微生物が前記残渣を分解する過程において、前記残渣が高温となるため、段階(b)においてエタノールを分留して回収してもよい。
有機物質(前処理後の有機物質)のうち、微生物が栄養要求する物質が枯渇した時点で本サイクルは停止する。しかし、かかる場合に、栄養要求する物質が異なる微生物を投入することによって、本サイクルを維持継続することができる。また、微生物に栄養要求されている物質を補給することによっても本サイクルの維持継続が可能となる。
また、これまで説明してきた第1のサイクルを効率的に維持継続させる手段として、別途、第2のサイクルを設けることもできる。この第2のサイクルは、第1のサイクルの継続維持が不能となった時点、またはエタノールの抽出量が第1のサイクルを維持させるのに十分な量でなくなった時点で初めて使用してもよい。また、第1のサイクルと第2のサイクルとを同時に機能させてもよい。地球環境の保護の観点などからいえば、第1のサイクルと第2のサイクルとを同時に機能させることが好ましい。以下、第2のサイクルについて詳細に説明する。
<第2のサイクル>
本段階は、前記段階(a)と、無機物質を微生物に同化させることにより前記有機物質を得るとともに、場合によりエタノール及び/またはメタンを抽出しうる段階(c)と、を反復して行う段階である。なお、前記無機物質として、後述するように、例えば、前記段階(a)で得られる無機物質や、自然界に存在する無機物質などが挙げられる。
1.段階(a)
段階(a)については上記第1のサイクルにおいて既に詳説したため、ここでは説明を省略する。すなわち、段階(a)は、第1のサイクルと本第2のサイクルの双方に含まれるという特徴を有する。
2.段階(c)
段階(c)では、エタノールの抽出に伴って生成された無機物質、すなわち第1のサイクルのうちの段階(a)で用いられる微生物による異化作用によって生じた無機物質を再度同化させ、有機物質を生成する。これにより、得られた有機物質を段階(a)に供給し、上記第1のサイクルの系内に投入することを特徴とする。本段階が存在することにより、二酸化炭素や硫化水素などの大気中への排出を防ぎつつ、エタノールを高い収率で生成することができる点で、地球環境の保護などに大いに貢献できるのである。段階(c)を実行するための装置の例を図14に示す。
前記微生物は、好気性菌及び嫌気性菌のいずれであってもよい。別の観点からいえば、独立栄養生物であっても従属栄養生物であってもよい。前記独立栄養生物は、光合成独立栄養生物及び化学合成独立栄養生物に大別され、前者の例として光合成細菌及び光合成能を有する真核生物が挙げられ、後者の例として化学合成細菌が挙げられる。また、前記従属栄養生物は、光合成従属栄養生物及び化学合成従属栄養生物に大別され、例えば、窒素固定能を有する好気性もしくは嫌気性細菌(以下、「窒素固定細菌」という)、放線菌、藍藻、またはメタン生成菌などの古細菌、あるいは硝酸還元菌もしくは亜硝酸還元菌または酵母が挙げられる。なお、前記化学合成独立栄養生物としては、無機化合物(硫化水素、アンモニアなど)を酸化してエネルギーを得る、公知の真菌または細菌(独立栄養細菌)が挙げられる。なかでも、光合成細菌、化学合成細菌、光合成能を有する真核生物、及び窒素固定細菌のうちのいずれか1種を含むことが好ましい。
上記した微生物のうち、好気性菌としては、特に限定されることはないが、Cyanophita門 Chroococcales目、Pleurocapsales目、scillatoriales目、ostocales目、Stigonematales目、Prochlorales目などが挙げられる。これらの属・種については特に限定されることはないが、例えば、Acetobacteraceae Acidiphilium、Rhodobacteraceae Roseobacter、Sphingomonadaceae Erythrobacterなどが挙げられる。
一方、上記した微生物のうち、嫌気性菌としては、特に限定されることはないが、Rhodospirillum Rhodocista、Acetobacteraceae Rhodopila、Rhodobacter Rhodovulum、Bradyrhizobiaceae hodopseudomonas、Hyphomicrobiaeceae Rshodomicrobiuum、Blastochloris Rhodoplanes、Rhodobiaceae Rhodobium、Comamonasdaceae Rhodoferax、Rhodocyclaceae Rhodocyclus、Chromatium okenii、Lamprocystis denticulata、Lamprocystis fastigata、Lamprocystis hahajimana、Lamprocystis hornbosteli、Lamprocystis misella、Chlorobaculum tepidum、Chloronema giganteum、Heliothrix oregonensis、Roseiflexus castenholzii、Oscillochloris chrysea、Oscillochloris trichoides、Heliobacterium chlorum、Heliobacterium gestii、Heliobacterium modesticaldum、Heliobacterium sulfidophilum、Heliobacterium undosumなどが挙げられる。
前記好気性菌として、窒素固定能を有するという観点より、好ましくはシアノバクテリアであるCyanophita門 Chroococcales目、Pleurocapsales目、scillatoriales目、ostocales目、Stigonematales目、Prochlorales目である。より好ましくは、硫黄粒を生じないという観点より、Rhodospirillaceae Rhodospirillum、Rhodospirillaceae Rhodocistaである。一方、嫌気性菌として、好ましくはHeliobacterium chlorum、Heliobacterium gestii、Heliobacterium modesticaldum、Heliobacterium sulfidophilum、Heliobacterium undosumである。一般に、通性嫌気性菌は、有酸素下で光合成をせずに呼吸してしまい、消費してしまうものが多い。その中で、上記の菌は、酸素下では光合成をせず異化もせず不活性化しているため、光合成の効率が有意に優れているからである。
図14に示された一例としての装置は、嫌気性条件、好気性条件のいずれの培養にも適した構成となっている。具体的には、ジュラルミン等製の培養槽89、開閉口90、逆流防止弁付きの微生物投入口91、逆流防止弁付きの有機化合物の投入口(ダクト付)92、酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体注入ダクト93、逆流防止弁付きの酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体注入口94を備える。ここで、開閉口90は、好気性条件下での使用の場合には開放し、嫌気性条件下の場合には閉鎖することを特徴とする。また、好気性条件下で本装置を使用する場合には、気体注入ダクト93を通じて、有機化合物を含む混合溶液95へ酸素、二酸化炭素及び窒素のいずれか1種以上を含む気体を送り込むことができる。なお、次段階への移送経路(配管)については、図14に示された一例としての装置中では付号での表示を省略しているが、例えば下部(右側)に設置させることができる。
出発物質である有機物質が、第1の工程、及び第2の工程のうち少なくとも第1のサイクルを経ると、前記第1のサイクルによって、主に窒素及び炭素といった無機物並びに有機物が反応系中で欠乏してくる場合がある。この時、窒素固定菌(ジアゾ栄養生物等)が大気中の窒素ガスから窒素を固定し、光合成細菌などが大気中の二酸化炭素等から炭素を固定でき、このような独立栄養生物の同化作用によって、窒素及び炭素並びに有機物を反応系(特に第1のサイクル)中に取り入れることが可能になる。さらに、場合によっては、第1のサイクルで用いられる微生物がその他の微量元素などを欠乏して要求することがあり、かかる場合に、本段階(c)により当該元素などを補うこともできる。嫌気性、好気性条件は使用する菌株に依存する。
かかる同化作用により、再度、糖質(単糖等)の低分子有機物質を得ることが可能になり、段階(a)で用いられる微生物が得られた低分子有機物質等を原料としてエタノール発酵を行う結果、さらにエタノールが抽出される。その際生成される無機物質より、再度、段階(c)において有機物質を生成(同化)することができる。このように、段階(a)と段階(c)とを反復して行う第2の「サイクル」段階によって、連続的・経時的(長期的)に、段階(a)で発生する無機物質の外界への放出を抑制するとともにエタノールを一層大量に抽出することができる。
段階(c)に用いられる微生物が窒素や炭素以外の微量元素を要求する場合には、かかる元素を種々の形態で補給してもよい。なお、段階(c)に用いられる微生物の培養条件については、上述の通り、好気性菌、嫌気性菌のいずれもあり得、また、使用する菌の種類によって様々であるため、特に限定されることはない。さらに、嫌気性条件や好気性条件については、使用する菌の種類によって、当業者であれば適宜最適条件(温度やpHなど)を設定可能であるため、ここでは説明を省略する。
段階(c)の原料である無機物質については、上記した段階(a)で得られる無機物質と、自然界に存在する無機物質とを共に用いてもよいし、いずれか一方のみを用いてもよい。
なお、段階(a)と段階(c)とがサイクルとして反復する場合、例えば、段階(a)中に段階(c)で投入された微生物が生きて存在する場合がある。かかる場合には、段階(a)において、段階(c)で本来行われうる同化が起こりうる。逆の場合、すなわち段階(c)において、段階(a)で本来行われうるエタノール発酵が「場合によっては」起こりうる。
図15は、上記した窒素及び炭素並びに有機物の反応系中への取り込みを行うための装置の概略図である。ジュラルミン等製の本体96の上部には、開閉式の天蓋97及びパッキング98が備え付けられている。開閉バルブ付きの原料及び微生物用投入口99より、前記第1のサイクルを経た原料、及び上記した同化作用を有する微生物を、逆流防止弁付きの本体内部気体置換用大気注入口100を通じて投入する。投入された液を攪拌用シャフト101で攪拌しつつ、投入した微生物が好気性の場合には、酸素含有気体の注入用ダクト102と通って、逆流防止弁付きの酸素含有気体の注入口103より酸素含有気体を液中に供給する。このようにして、逆流防止弁付きの本体内部気体置換用大気排出口104から、適宜気体を排出しつつ、装置内の気体を好気環境に置換することができる。そして、しばらく攪拌することにより、窒素及び炭素並びに有機物が十分量生産された混合溶液を得ることができる。ここで、攪拌用シャフト101の回転の動力は、一般に電力を用いるが、本装置の場合には、攪拌用シャフト101の近傍より気体を槽内へと注入するため、該気体が動力の一部となり得、電力の使用量を低減させることができるという利点がある。なお、本段階(c)によっても十分な有機合成(上記の有機物への同化作用)が図れない場合には、後述する第3の工程へ進み、肥料等を生成すればよい。
本段階(c)の存在意義としては、主に2つある。まず、第1のサイクルが働いている間に、エタノールの抽出に伴って生成された無機物質、すなわち第1のサイクルのうちの段階(a)で用いられる微生物による異化作用によって生じた無機物質を再度同化させ、有機物質を生成することができる。これにより、第1のサイクルの働きをより活発化することができうる。また、エタノールを抽出し尽くした後に残ったセルロース等の残渣(主に高分子有機化合物)を廃棄することなく、後述の第3の工程に供給することにより、肥料等へと変換させて更なる有用物質を得ることができる。このように、本段階では、化石燃料エネルギーの使用量をできるだけ抑えて、代わりに太陽エネルギーを主に利用するため、地球環境資源の浪費を効果的に抑制できる。
<第3のサイクル>
上記した段階(b)と段階(c)とを反復することを特徴とする。これにより、段階(b)において段階(a)の酵母が残存するか残存させたような場合に、段階(c)において生成されたグルコースなどを原料として、該酵母がエタノール抽出することが可能となる。
好ましくは、第1のサイクルと同時に、より好ましくは第1及び第2のサイクルと同時に機能させることにより、地球環境の保護の観点で非常に優れたエタノールの生産システムを構築することができる。
なお、段階(b)と段階(c)とがサイクルとして反復する場合、例えば、段階(b)中に段階(c)で投入された微生物が生きて存在する場合がある。かかる場合には、段階(b)において、段階(c)で本来行われうる同化が起こりうる。逆の場合、すなわち段階(c)において、段階(b)で本来行われうる異化が起こる場合もありうる。
<段階(d)を含むサイクル群>
上記した段階(a)、段階(b)または段階(c)と段階(d)とを反復することを特徴とする。なお、このような反復する経路(サイクル)のうち、段階(d)と段階((a)〜(c))のいずれかとからなるサイクルは、図11において第4〜第6のサイクルとして示している。
段階(d)としてメタン発酵を第2の工程に設ける意義としては、主に2点ある。第1の点として、腐敗菌(加水分解能を有する菌や酸生成を有する菌)が有機物質の構成成分であるタンパク質、炭水化物(多糖類)及び脂質を分解して生成された有機酸(蟻酸、酢酸等)、アルコール類やアルデヒド類などをメタンにまで還元することができる。上述のように、腐敗菌により生成された物質の多くは有害な物質であるため、かような有害物質を有用な物質であるメタンに変換することによって、地球環境を有効に守ることができる。第2の点として、タンパク質、炭水化物(多糖類)及び脂質などの分解過程、すなわち第1の工程及び第2の工程(段階(a)〜(c))で生成される二酸化炭素も、地球環境破壊の要因の1つ(地球温暖化の促進)であることは周知の事実であるが、各段階(反応)で発生した二酸化炭素をメタンに変換することにより、かような問題も解決できうる。
メタン発酵及びメタン生成菌について、さらに詳細に説明する。メタン発酵は、嫌気的に行われる反応であるため、省エネルギー化に寄与するとともに、非燃焼タイプの反応であるため、有害物質が発生しないという利点がある。メタン発酵は、発酵温度の観点より、55℃程度の高温型メタン発酵と37℃程度の中温型メタン発酵に大別される。なかでも好ましくは高温型である。なぜなら、高温型は、中温型よりもメタン生成能力が2倍程度高く、発酵の効率に優れているためであり、さらに、上記の残余物質のうち、セルロースなどの繊維質を分解する能力も非常に高い。そのため、生ゴミや排泄物などの有機物質を原料とする場合の高温型メタン発酵は、本発明の目的に鑑みて、まさに好適であるといえる。メタン生成菌については、従来公知のものであれば特に制限されることはないが、例えば、Methanobacterium属、Methanosarcina属やMethanosaeta属などが挙げられる。
1.段階(a)、段階(b)または段階(c)
表記の段階については既に詳説したため、ここでは説明を省略する。
2.段階(d)
段階(d)、及び段階(d)を含むサイクル(第4〜第6のサイクルを含む)は、メタン発酵を用いて、本発明により得られる有用物質の1つであるメタンを抽出・生成する段階及びサイクルである。段階(d)、及び段階(d)を含むサイクルは、エタノール発酵を主体とする段階(a)、及び段階(a)が含まれる上述の第1〜第2のサイクルと同様、本発明の特徴の一つである。
第1の工程中の上記「5.麹菌及び/または麹菌由来の酵素を用いた、前記高分子有機化合物の分解」終了後(前記「5」が省略される場合には、好ましくは、第1の工程中の上記「1」〜「4」の段階のいずれか終了後)に段階(d)を行う場合がありうる。換言すると、第1の工程に続く第2の工程の最初の段階が段階(d)である場合である。かかる場合、段階(d)で働くメタン生成菌は、一般に腐敗菌のうちの鉄細菌や硫酸還元菌と増殖に関して拮抗するため、特に硫酸の存在がメタン生成菌の増殖の妨げ(段階(d)におけるメタン発酵の阻害)となりうる。かかる場合には、硫酸還元細菌または硫酸還元古細菌によって硫酸イオンをあらかじめ除去しておくことが好ましい。このように、あらかじめ硫酸を除去しようとすると、硫化水素が発生するため、これを安全に回収する。
図16は、硫酸の除去過程により発生する硫化水素を回収するための装置の概略図である。ジュラルミン等製の本体105と天蓋106を基本的な構成とする。そして、本体105には、第1の工程を経た、硫酸を含有する有機物質が入っている。逆流防止弁付きの気圧調節孔107で気圧を調節することにより、硫酸が硫化水素通過用ダクト108を通って容器109へと移動する。容器109には水酸化ナトリウムなどのアルカリ性水溶液110があらかじめ入っており、ここへ硫酸が到達すると、中和され、結果的に該有機物質から硫酸を除去できる。
なお、一般にメタン生成菌の要求する栄養成分は、水素及び二酸化炭素、水素並びに乳酸、酢酸及び蟻酸などの有機酸、あるいは水素及びエタノール等であるため、各菌種に合わせて発酵の環境を設定することが好ましい。以下、かかる栄養成分ごとに詳細に説明する。
(1)メタン生成菌の要求する栄養成分が水素及び二酸化炭素の場合
第2の工程が上述のような、エタノール発酵を含む経路とメタン発酵及びエタノール発酵を含む経路とからなる場合(いずれか一方のみが主経路の場合、及び両方とも主経路の場合のどちらもありうる)、かかる2種類の経路の分岐点は、理論上、特に制限されることはない。ここで、メタン生成菌の要求する栄養成分を考慮するならば、前記分岐点は、第1の工程中の「5」終了後(前記「5」が省略可能な場合には、好ましくは、第1の工程中の上記「1」〜「4」の段階のいずれか終了後)、段階(a)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、または段階(b)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、第1のサイクル終了後、または段階(c)の直後が好ましい。より好ましくは、段階(a)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、または段階(c)の直後である。
第2の工程がかような分岐点を有する場合、メタン生成菌が栄養要求する水素源としては、水素ガスの供給、嫌気性菌による水素生成及びハイドロジェノソームによる水素生成のうちいずれか一以上が好適に挙げられる。水素ガス(気体状の水素分子)を供給することは、安全性に細心の注意を払うことによって、工程上の簡便性という観点より好ましいといえる。一方、水素ガスの酸化や水素ガスによる爆発の危険性を考えると、嫌気性菌による水素生成も好ましい。原料中に嫌気性菌が存在する場合、有機酸を電子供与体とした嫌気呼吸により水素が発生しうる。この水素を用いることにより、別途、原料等を供給することなく、反応系中で水素を自動的に得ることができうる。他方、水素ガスの酸化や水素ガスによる爆発の危険性に加えて、上記のような原料中に存在する嫌気性菌の多くはメタン生成菌と拮抗しうることを考慮すると、ハイドロジェノソームによる水素生成がさらに好ましいといえる。すなわち、ハイドロジェノソームを有する微生物をメタン生成菌に投入するのである。ハイドロジェノソームとは、嫌気的条件下でリンゴ酸またはピルビン酸からカルボキシル基を酸化的に除去し、酢酸、水素及び二酸化炭素を生成するとともにATPを合成する細胞小器官である。換言すれば、ハイドロジェノソームを有する微生物は水素生成能を有する。ハイドロジェノソームを有する微生物の例として、人畜に無害なトリコモナス属の一部、ルーメン真菌(例えばネオカイマティックス等)、無機呼吸性繊毛虫(N.ovalis)等が好ましく挙げられる。より好ましくは、ネオカイマティックス及び/または無機呼吸性繊毛虫とメタン生成菌とは共棲(共生)することから、ネオカイマティックス及び/または無機呼吸性繊毛虫である。
一方、二酸化炭素の補給は、原料(メタン生成菌、並びに第1の工程、及び第2の工程の一部を経た有機物質等)が炭酸の形で二酸化炭素を有している場合には特に必要ない。一方、炭酸の形で二酸化炭素を有していない場合には、ハイドロジェノソームを有する微生物を投入することが好ましい。かかる微生物は二酸化炭素生成能も有するからである。それでもなお二酸化炭素が足りない場合には、気体状の二酸化炭素を原料に供給しうる。なお、かかる場合には、例えば、上記した第1の工程中の「5」、段階(a)または段階(b)における微生物学的反応より生じた二酸化炭素を回収したものを再利用することも可能であり、生成された二酸化炭素をできるだけ大気中に放出しないという観点から見れば、好ましい手段といえる。また、炭酸の形で液体として供給することも可能である。なお、かかる場合も、例えば、第1の工程中の「5」、段階(a)または段階(b)の微生物学的反応より生じた二酸化炭素を回収したものを再利用することが可能である。
(2)メタン生成菌の要求する栄養成分が水素並びに乳酸、酢酸及び蟻酸などの有機酸の場合
第2の工程が上述のような、エタノール発酵を含む経路とメタン発酵及びエタノール発酵を含む経路とからなる場合(いずれか一方のみが主経路の場合、及び両方とも主経路の場合のどちらもありうる)、当該2種類の経路の分岐点は、理論上、特に制限されることはない。このことは、上記(1)と同様である。ここで、メタン生成菌の要求する栄養成分を考慮するならば、前記分岐点は、第1の工程中の「5」終了後(前記「5」が省略可能な場合には、好ましくは、第1の工程中の上記「1」〜「4」の段階のいずれか終了後)、段階(a)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、または段階(b)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、第1のサイクル終了後、または段階(c)の直後が好ましい。より好ましくは、段階(a)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、または段階(c)の直後である。
また、原料(メタン生成菌、並びに第1の工程、及び第2の工程の一部を経た有機物質等)に、酢酸や蟻酸などを生成する菌(例えばヘテロ乳酸菌など)を投入し、かかる菌にとっての至適環境を整えることが好ましい。例えば、ヘテロ乳酸菌であれば、メタン発酵の開始時に、原料に対して酸を加えて中性から酸性にした上で菌を接種し、嫌気状態とすることが好ましい。このように、ヘテロ乳酸菌に酢酸や蟻酸を生成させることにより、メタン生成菌によるメタン生成を促進することができる。なお、ヘテロ乳酸菌は、自らが生成した酢酸や蟻酸に起因して生じるpHの低下によって、働きが鈍る傾向にあるため、ヘテロ乳酸菌による酢酸や蟻酸の生成の前半及び/または後半に、アルカリ側へのpH調整、熱処理によるヘテロ乳酸菌由来の物質の機能維持が好ましく、また、場合により酢酸菌を投入することによる発酵液の中性化を行ってもよい。前記pH調整を行う場合、至適pHは菌種や菌株によって様々であるため以下に限定されることはないが、pH2〜8であることが好ましく、pH4.5〜8であることがより好ましく、pH6.8〜7.6であることがさらに好ましい。また、pH調整はアルカリ剤のみならず、水などで行ってもよい。なお、前記熱処理は、メタン生成菌の菌種によって至適温度が多様であるため、特に限定されることはないが、0〜100℃であることが好ましく、15〜80℃であることがより好ましく、20〜60であることがさらに好ましい。なぜなら、中温度域に生物学的活性を有する菌が多く、一般にヘテロ型乳酸菌は中温度域に生物学的活性を有する場合が多く、ラクトバチルス属は15〜20℃程度を超えると生物学的活動を行える場合が多いためである。
一方、メタン生成菌が栄養要求する水素源としては、水素ガスの供給、嫌気性菌による水素生成及びハイドロジェノソームによる水素生成のうちいずれか一以上が好適に挙げられる。詳細については上記(1)で説明したことと同様であるため、ここでは説明を省略する。
(3)メタン生成菌の要求する栄養成分が水素及びエタノールである場合
本発明における第2の工程の一態様は、上述のように、エタノール生成を含む主経路とメタン生成及びエタノール生成を含む副経路とからなる。前記主経路と前記副経路との分岐点は、理論上、特に制限されることはない。ここで、メタン生成菌の要求する栄養成分を考慮するならば、前記分岐点は、第1の工程中の「5」終了後(前記「5」が省略される場合には、好ましくは、第1の工程中の上記「1」〜「4」の段階のいずれか終了後)、段階(a)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、または段階(b)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、第1のサイクル終了後、または段階(c)の直後が好ましい。より好ましくは、段階(a)の直後(エタノール抽出を含むサイクル開始前、該サイクル中もしくは該サイクル終了後のいずれであってもよい)、または段階(c)の直後である。
ここで、一般的に酵母やザイモモナス菌により生成されたエタノールをメタン生成に資するのは、有用物質の1つであるエタノールを消費することとなり必ずしも好ましいものとはいえない。しかし、以下の場合には、生成されたエタノールをメタン生成に資することが却って好ましいものとなりうる。
メタン生成菌の要求する栄養成分を考慮すると、原料(メタン生成菌、並びに第1の工程、及び第2の工程の一部を経た有機物質等)に、乳酸やエタノール等を生成する菌(例えばヘテロ乳酸菌など)を投入し、かかる菌にとっての至適環境を整えることが好ましい。例えば、ヘテロ乳酸菌であれば、メタン発酵の開始時に、原料に対して酸などを加えるか、水を添加する等の処理により、pHを中性から酸性域に調節することが好ましい。至適pHは、メタン生成菌の菌種・菌株によって多様であるため、特に限定されることはないが、一般的には、pH2〜8が好ましく、pH4.5〜8がより好ましく、pH5.8〜7.8がさらに好ましく、pH6.8〜7.6が特に好ましい。発酵温度、発酵時間については、メタン生成菌の菌種・菌株によって多様であるため、特に限定されることはない。このようにして、ヘテロ乳酸菌に乳酸やエタノールを生成させてメタン生成菌によるメタン生成を促進することができる。得られたエタノールの消費が不利益とならずにむしろ、好ましいものとなりうる理由は、一般にヘテロ乳酸菌が生産するエタノール量は、酵母等が生産するエタノール量と比較して有意に少量であるためである。
なお、メタン生成菌が栄養要求する水素源としては、水素ガスの供給、嫌気性菌による水素生成及びハイドロジェノソームによる水素生成のうちいずれか一以上が好適に挙げられる。詳細については、上記(1)で説明したことと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
上記した段階(d)(または段階(d)を含む一以上のサイクル)におけるメタン抽出が効率的な面から終了したと判断した後は、段階(b)、段階(c)または第3の工程へと進行することが好ましい。なお、第3の工程については後述する。
段階(b)に移行する場合として、原料中にセルロースやヘミセルロース等の残余の高分子有機化合物(肥料前駆物質)が極めて多い場合が挙げられる。かかる場合、必要に応じてアルカリを加え原料を弱酸性からアルカリ性としてもよい。特に、アルカリ物質として炭酸水素カルシウムを使用すると、上述したホタテの貝殻等より得られる廃棄物を有効利用できるので非常に好適である。段階(b)の終了後は、段階(a)へと進んでエタノール抽出を行うか、または段階(d)へと進んでメタン抽出を行うことが可能である。
段階(c)に移行する場合として、原料中の有機成分が枯渇した場合が挙げられる。段階(c)の終了後は段階(a)へと進んでエタノール抽出を行うか、または段階(d)へと進んでメタン抽出を行うことが可能である。それでもなお、有機成分量が十分に得られないような場合には、段階(c)へと移行することにより、有機成分量を増大させることができる。
第3の工程に移行する場合として、原料がエタノール抽出やメタン抽出を行うにあたって、化学的または経済的に適さない状態に到った場合が挙げられる。すなわち、原料である有機物質(肥料前駆物質)を肥料等とし、有用物質を獲得することができる。
ここで、上記(1)〜(3)のいずれにも該当しうる点として、段階(a)と段階(d)とを有するサイクル、すなわち、第4のサイクル、または段階(a)と段階(d)とその他の段階とからなるサイクルは、第2の工程においてエタノール及びメタンを最も効率良く得ることができうるという点で、理想的でありうる。例えば、段階(a)でヘテロ乳酸菌などによりエタノールを抽出し、段階(d)でメタン生成菌によりメタンを抽出する。その際、段階(a)から段階(d)への直接移行は円滑に行われうる。反対に、段階(d)から段階(a)への直接移行については、段階(a)への移行の際に必要な原料が存在している限り、円滑に行うことができる。一方、必要な原料が十分に存在していない場合には、段階(d)でメタン抽出後、真菌による無機物(二酸化炭素など)の同化段階を経由させて、段階(a)でエタノール抽出を行うことが考えられる。前記同化段階として、例えば、段階(c)を利用することが挙げられ、さらに、段階(a)で用いられる微生物が真菌である場合には、該真菌の同化作用を利用可能である。したがって、段階(a)がかような場合には、段階(a)のみで連続的・長期的なエタノール生成が行いうるため、第2の工程が段階(a)のみからなってもよい。
さらに、段階(a)と段階(d)との間の移行に際し、両段階間のpH(生育pH)が有意に異なる場合があり、中間段階としてpH調整を別途行う必要もありうる。例えば、ヘテロ乳酸菌を用いた段階(a)から段階(d)へと移行する場合には、段階(a)においてpHが顕著に低下する結果、段階(d)において適当なpHとはいえない可能性がある。しかし、本発明者らは、ヘテロ乳酸菌を用いた段階(a)と段階(d)とを同時に(例えば同一の装置内で)行わせることによって、ヘテロ乳酸菌が生成した有機酸をメタン生成菌(例えばメタン古細菌など)が直ちに資化することができ、これにより、pHの低下を生じさせることなくエタノール及びメタンを非常に効率良く生成できることを見出した。これは、段階(a)において用いられる微生物(ヘテロ乳酸菌など)と段階(d)においてにおいて用いられる微生物(メタン古細菌など)との一種の「共棲(共生)」環境を作り出しているともいえる。
[第3工程]
本発明に係る有機物質の処理方法は、微生物を用いて、段階(a)、段階(b)、段階(c)及び段階(d)のうち1種以上の段階で得られる前記肥料前駆物質から肥料を生成する第3工程をさらに含んでもよい。本発明は、上述した通り、段階(a)等により、エタノール以外に、異化されなかった(異化反応により分解されなかった)有機物質(未処理及び/または前処理後)も得られる。従来から、かかる有機物質(未処理及び/または前処理後)は大量に廃棄されているが、本発明では、このような有機物質を原料として微生物を用いて肥料を生成する。本工程が存在することによって、生ゴミ、動物排泄物、廃棄木材や落葉などからなる家庭廃棄物質または(産業)廃棄物質などを有効利用するのみならず、これらの物質をほとんど余すところなく利用して、最終的にエタノールに加えて肥料をも効率良く生成することができるのである。
段階(a)等で得られる残渣(肥料前駆物質)中に、窒素分及び/または炭素分が肥料の生成に適さない程しか存在しない場合、本工程において用いられる微生物は、大気中など自然界に存在する窒素ガス等に由来の窒素及び/または二酸化炭素などに由来の炭素を同化することができる。これは、上記段階(c)と同様の同化作用(反応)が使用可能であることを意味する。特に、ジアゾ栄養生物のうち硝化細菌を用いると、硝酸塩を反応系内に取り込ませることができ、肥料の品質上好ましいものとなりうる。得られる肥料の炭素分と窒素分との比率を考慮し、場合によっては光合成細菌及び窒素固定細菌のいずれか一方のみを使用してもよい。なお、肥料を生成することは、他のサイクルなしに、第1のサイクルのみ存在している系でも可能であり、さらにいえば、段階(a)のみからなるエタノール生成系でも可能である。このような場合、簡易なプロセスであることに起因して、肥料を迅速に生産することができる点で有利である。
前記肥料前駆物質中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が、肥料の生成に適する程度に存在する場合には、肥料前駆物質から肥料への生成にそのまま移行することができる。なお、前記肥料前駆物質として、特に限定されることはないが、炭水化物(多糖類)、脂質、グリセリン、高級アルコール、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質よりなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらは、有機態窒素分源ないし有機態炭素分源となる。
したがって、本工程は、前記肥料前駆物質中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分に応じて、用いる微生物の種類が変化しうる。なお、前記肥料前駆物質の水分含有率が高い場合、本工程の最初に、加熱などによって水分含有率を減少させてもよい。
前記肥料前駆物質中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分に応じた好適に用いられる微生物の種類を、有機態窒素分及び/または有機態炭素分の多い順から挙げる。
前記肥料前駆物質中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が余分な場合、枯草菌、乳酸菌、光合成細菌、酵母、放線菌及び腐朽菌よりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましく、枯草菌、放線菌を用いることがより好ましい。なお、腐朽菌(木材腐朽菌)としては、セルロース、へミセルロースやリグニン等の多糖類を分解できることを特徴としており、褐色腐朽菌、白色腐朽菌や軟腐菌が挙げられる。腐朽菌は、リグニン等が非常に大量に残存しているような場合に特に好適に用いられうる。次に、前記肥料前駆物質中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が適度な場合、放線菌を必須に用いると共に、光合成細菌及び/または放線菌を併用することが好ましく、放線菌のみを用いることがより好ましい。そして、前記肥料前駆物質中の有機態窒素分及び/または有機態炭素分が欠乏している場合、光合成細菌、酵母及び放線菌を必須に用いると共に、窒素固定細菌を併用することが好ましく、光合成細菌、酵母及び放線菌を用いることがより好ましい。上記の場合、用いられる微生物は主に太陽光線をエネルギーとして使用し、化石燃料からのエネルギーをほとんど必要としないため、地球上の貴重な天然資源の消費を抑えつつ、肥料を生産することが可能となる。
以上の微生物を1種ずつまたは複数種を同時に本工程に投入することにより、所望の肥料等を生成することができる。
[実施例]
有機物質として、未処理の鶏糞を準備した。
準備した鶏糞30gと、水30gとを300mL容ビーカーに入れ、均一に撹拌した。
均一に撹拌した溶液を9gサンプリングし、ゴム製の絶縁ケースに移し、スタンガンを用いて放電処理(コロナ放電)を行なった。これにより、鶏糞中に存在する腐敗菌の数を減少させた。なお、放電処理は、印加電圧80kV、約0.1秒間×5回の条件で行なった。この手法により、合計3つの実施例サンプルを調製した。
[比較例]
上述した実施例に記載の手法と同様の手法により調製した溶液(放電処理していないもの)を、比較例サンプルとして用いた。このようにして、合計3つの比較例サンプルを調製した。
[測定例]
上述した実施例サンプル(3サンプル)および比較例サンプル(3サンプル)について、飼料分析基準(農林水産省消費・安全局長通知)に記載の手法に準じて、代表的な腐敗菌である大腸菌の群数(cfu/g)を測定した。すなわち、サンプル約3gを秤量し、これを水で10倍希釈した。希釈液0.5gをEMB寒天培地上に塗布し、37℃にて40時間インキュベーションを行なった。インキュベーション後の寒天培地上のコロニー数から、サンプル中の大腸菌群数(cfu/g)を算出した。実施例および比較例の各3サンプルにおける大腸菌群数の測定結果(平均値)を下記の表1に示す。
表1に示す結果から、有機物質である鶏糞に対して放電処理を施すことにより、当該有機物質中の腐敗菌の数を減少させることが可能であることが示される。したがって、本発明によれば、かような前処理によって有機物質中の腐敗菌の数を減少させた後、微生物による当該有機物質の同化作用及び異化作用を主体とした処理をさらに行なうことで、エタノール、メタンや肥料等の有用な物質を簡易に生成でき、(産業)廃棄物に起因する地球環境破壊の要因をほぼ全て排除することが可能となるのである。
なお、本実施例では、第1の工程の特に放電処理による腐敗菌数の減少を実証したが、他の手段を用いて腐敗菌数を減少させることや、第2の工程として微生物を用いてエタノールやメタンを得ることについては、本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識を参酌することで、実施が可能である。これにより、エタノールやメタンの生成段階において従来大量に使用されている化石資源などの有効資源の濫用を極力避けつつ、人類に有用な資源であるエタノール、メタンや肥料等などをコスト的に効率良く生産できる。さらに、エタノールやメタンの抽出(生成)に伴って得られる副産物を肥料等に加工しうるとともに、二酸化炭素などを微生物に同化させることによって、環境問題の解決、特に(産業)廃棄物及び二酸化炭素などの有効活用による、これらの廃棄量・排出量の減少を工業レベルで達成できる。