JP2009262827A - 車輌用操舵装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】運転者により操舵部材が保舵状態とされた場合に、保舵状態に適した操舵補助力を応答性よく発生することができる車輌用操舵装置を提供する。
【解決手段】制御部30は、転舵角センサ6が検出する転舵角及び車速センサ32が検出する車速から推定される車輌の横すべり角と視線角検出手段31が検出する運転者の視線角との角度差に基づいて、操舵補助力を調整する。横すべり角及び視線角の角度差が小さい場合、即ち保舵状態又は保舵状態に近い状態においては、モータ4が発生する操舵補助力を増加させるように制御部30が操舵補助力の調整を行う。ステアリングホイール1の操舵角が中立位置を含む所定範囲内の場合には、制御部30は操舵補助力の調整を行わない。運転者の視線角が変化した時の変化量又は変化の加速度が所定量を超えた場合には、この変化に基づく操舵補助力の調整を行わずに、変化前の操舵補助力の調整結果を維持して行う。
【選択図】図1

Description

本発明は、操舵部材の操舵量に基づいてアクチュエータにて操舵補助力を発生させることにより、運転者が操舵のために要する労力負担を軽減することができる車輌用操舵装置に関する。
車輌の操舵は、運転者による操舵部材(ステアリングホイール)の回転を、車輪の操向のために設けられた舵取機構に伝えることで行われる。舵取機構の中途には油圧シリンダ又は電動モータ等の操舵補助用のアクチュエータが配され、このアクチュエータにより操舵に係る補助力を発生させることによって、操舵のための運転者の労力負担を軽減する車輌用操舵装置(所謂、パワーステアリング装置)が広く普及している。
特許文献1においては、ステアリングホイールの操舵角と車輪の転舵角の比である舵角伝達比が車速に応じて変更可能な舵角伝達比可変式操舵機構を有する操舵装置において、車輌の旋回中に軌道を修正する操作を容易に違和感なく行うことができる操舵装置が提案されている。この操舵装置は、運転者による操舵角と運転者の視線方向とを検出して、操舵角が大きいほど舵角伝達比及び運転者に伝わる操舵反力を大きくすると共に、検出した視線方向と車輌の進行方向との夾角に応じて操舵反力を変更する。これにより、車速及び操舵角から定まる操舵反力が、運転者の視線に応じて補正されるため、運転者が期待する方向へ舵角を調整する操作がやり易くなり、旋回中の操縦安定性が向上する。
また、特許文献2においては、運転者の行動意図を確実に検出することができる運転行動意図検出装置が提案されている。例えば運転者の居眠り状態又はわき見状態等を検出し、運転者に対する警報の発生又は操舵制御等を行って車輌の車線逸脱を防止するなど、運転行動意図検出装置を用いることによって車輌の走行に係る安全性を向上することができる。運転行動意図検出装置は、CCD(Charge Coupled Device)カメラ及び赤外線照射器によるデータから運転者の視線方向データを算出し、算出した視線方向データが所定視線方向から逸脱しているか否かを判定し、逸脱していた場合にはその経過時間を算出すると共に、運転者の視線の移動速度を算出する。運転行動意図検出装置は、先行車接近度合い及び自車速度から、視線逸脱判断閾値及び視線移動速度判断閾値を算出し、視線逸脱経過時間と視線逸脱判断閾値とを比較すると共に、視線移動速度と視線移動速度判断閾値とを比較して、それぞれの比較結果に応じて運転者の行動意図を判断する。
特開平10−226351号公報 特開2002−331849号公報
電動パワーステアリング装置は、操舵部材に加わるトルクを検出するためのトルクセンサを備えており、検出されたトルクに応じてモータに印加する電流を制御することによって、操舵トルクに応じた操舵補助力を発生する。例えば、操舵トルクが大きい場合にはモータに印加する電流量を増加することによって操舵部材の操作性を高めることができ、操舵トルクが小さい場合にはモータに印加する電流量を減少することによって操舵部材の安定性を高めることができる。
また、例えば交差点を曲がる際などの車輌の旋回時のように、運転者が操舵部材を一定量回転させた状態で保持する保舵運転を行う場合がある。近年においては、操舵部材に加わるトルクの変化率(微分値)又は操舵部材の操舵角等に応じて操舵部材の保舵状態を判定し、この判定結果に応じてモータに印加する電流量を調整することにより、保舵運転に適した操舵補助力を発生することができる車輌用操舵装置が提案されている。例えば保舵状態と判定した場合に操舵補助力を増加させることによって、運転者が操舵部材を保持するために必要な負担を軽減することができる。
しかしながら、保舵状態の判定を行う従来の車輌用操舵装置は、操舵部材に加わるトルクの変化率又は操舵部材の操舵角等をセンサにより検出して判定を行うが、保舵状態であると判定できるのは運転者が保舵運転を開始した後であり、操舵補助力を保舵運転に適したものに調整できるのは更にその後である。よって、運転者の運転に対して操舵補助力の調整が若干遅れるため、運転者に違和感を生じさせるという問題がある。
特許文献1に記載の操舵装置は、保舵状態を考慮した制御を行うものではなく、運転者の視線方向と車輌の進行方向との夾角が大きくなるほど操舵反力を小さく設定する構成である。即ち、運転者の視線方向と車輌の進行方向とが一致する可能性の高い保舵状態では操舵反力は大きく設定されるため、運転者が操舵部材を保持するために必要な負担を軽減することはできない。また特許文献1の構成は、舵角伝達比が車速に応じて変更可能な構成の操舵装置、即ち操舵部材と車輪の舵取機構とが機械的に分離された所謂ステアバイワイヤー方式の操舵装置に特化したものであり、その他の構成の操舵装置には適用できない。
また、特許文献2に記載の運転行動意図検出装置は、わき見運転、車線変更又は通常運転等の行動意図を検出するものであり、これらの行動意図に応じて操舵装置の制御を行うことができるが、保舵状態の判定を行うことはできないため、上述の問題を解決し得るものではない。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、運転者により操舵部材が保舵状態とされた場合に、応答性よく保舵状態に適した操舵補助力を発生することができる車輌用操舵装置を提供することにある。
本発明に係る車輌用操舵装置は、車輌に設けられた操舵部材の操舵量に基づいてアクチュエータを駆動し、該アクチュエータにより前記操舵部材の操舵補助力を発生させる車輌用操舵装置において、基準位置に対する前記操舵部材を操作する運転者の視線角を検出する視線角検出手段と、車輪の中立位置に対する該車輪の転舵角を検出する転舵角検出手段と、前記車輌の車速を検出する車速検出手段と、前記転舵角及び車速を基に、前記車輌の横すべり角を推定する横すべり角推定手段と、前記視線角検出手段が検出した視線角と前記横すべり角推定手段が推定した横すべり角との差に基づいて、前記アクチュエータが発生する操舵補助力を調整する操舵補助力調整手段とを備えることを特徴とする。
また、本発明に係る車輌用操舵装置は、前記操舵補助力調整手段が、前記視線角と前記横すべり角との差が小さい場合に、操舵補助力の調整量が大きくなるように、操舵補助力の調整を行うようにしてあることを特徴とする。
また、本発明に係る車輌用操舵装置は、前記操舵補助力調整手段が、前記操舵部材の操舵角又は前記転舵角が中立位置を含む所定舵角範囲内の場合に、操舵補助力の調整を行わないようにしてあることを特徴とする。
また、本発明に係る車輌用操舵装置は、前記操舵補助力調整手段が、前記視線角検出手段が検出した視線角の変化量が所定量を超えた場合、又は、前記視線角の変化の加速度が所定量を超えた場合に、視線角の変化前の操舵補助力の調整結果を維持して行うようにしてあることを特徴とする。
本発明による場合は、基準位置(例えば、車輌の正面方向などを基準位置とすることができる)に対する運転者の視線角を検出する手段、車輌の車輪の中立位置に対する転舵角を検出する手段、及び車輌の横すべり角を推定する手段を車輌に搭載する。ここで中立位置とは、車輌を直進させる車輪の位置又は角度である。視線角の検出は、例えばカメラにより運転者を撮像し、撮像により得られた画像を基に行うことができ、赤外線センサなどを用いて行うこともできる。視線角の検出についてはこれらの既知の技術を利用すればよい。車輌の転舵角は、車輪の転舵角を直接的に検出するか、又は操舵部材の操舵角等に基づいて算出することができる。また、車輌の横すべり角は、車速及び転舵角に基づいて公知の方法で推定することができる。
車輌が旋回する場合などにおいては、運転者の視線角は車輌の横すべり角にほぼ一致するため、視線角と横すべり角との差から保舵状態であるか否かを推定することができる。また、保舵状態となる前であっても、視線角と横すべり角との差が小さい場合には、保舵状態に至ることが予想できる。本発明の車輌用操舵装置は、視線角と横すべり角との差に応じてアクチュエータを制御し、発生する操舵補助力を調整する構成とすることによって、保舵状態に適した操舵補助力を応答性よく発生することができ、操舵部材を保持するために必要な負担を応答性よく確実に軽減することができる。操舵部材に加わるトルクの変化率又は操舵部材の操舵角等のみから保舵状態を判定する場合と比較して、視線角に基づいて保舵状態をより早く判定することができる。これにより、運転者は違和感を生じることなく、車輌の運転を快適に行うことができる。
また、本発明による場合は、運転者の視線角と車輌の横すべり角との差が小さい場合、即ち保舵状態又は保舵状態に近い状態においては、操舵補助力の調整量を大きくすることによって運転者の操舵に係る負担をより軽減する。反対に、運転者の視線角と車輌の横すべり角との差が大きい場合、即ち保舵状態でない場合においては、操舵補助力の調整量を小さくする。これらにより、保舵状態での負担が軽減されるため、運転者は車輌の保舵運転を快適に行うことができる。
また、本発明による場合は、操舵部材の操舵角又は車輪の転舵角等の角度を検出し、検出した角度が中立位置を含む所定範囲内の場合には、保舵状態であっても操舵補助力の調整を行わない。よって操舵角が中立位置を含む所定範囲内の場合、車輌は直進状態又は直進に近い状態であるため、操舵補助力の調整を行わないことによって、車輌を直進させる運転操作の操作性が低下することを防止でき、車輌の直進の安定性を高めることができる。
また、本発明による場合は、運転者の視線角を検出すると共に、視線角が変化したときの変化量又は変化の加速度を取得し、変化量又は加速度が所定量を超えた場合には、保舵状態であっても操舵補助力の調整を行わない。運転者が運転中に道路標識又は信号等を視認するために視線を進行方向から一瞬外すような場合、視線角の変化量又は変化の加速度は比較的大きい。そこで、変化量又は加速度が所定量を超えた場合に操舵補助力の調整を行わない(ただし、直前の調整結果は維持する)ことによって、一瞬の視線の変化により操舵補助力が頻繁に変動することを防止でき、運転者が安定した運転を行うことができる。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。図1は、本発明に係る車輌用操舵装置の構成を示す模式図である。図において1は、図示しない車輌の操舵を行うためのステアリングホイール(操舵部材)である。ステアリングホイール1は、車輌の舵取動作を行う舵取機構20に操舵軸10を介して連結されている。操舵軸10の中途には、ステアリングホイール1の操舵角を検出するための操舵角センサ3、ステアリングホイール1に加わる操舵トルクを検出するトルクセンサ2、操舵補助用のモータ4、及びモータ4の回転を操舵軸10へ伝えるための減速歯車機構5等が配されている。
ステアリングホイール1は、車輌の車室内部に着座した運転者に対向するように、操舵軸10の上端に同軸的に固定されており、操舵軸10は、運転者によるステアリングホイール1の回転操作に応じて軸回りに回転するようにしてある。操舵軸10は、ステアリングホイール1が固定される入力軸11と、入力軸11に図示しないトーションバーを介して連結される出力軸12と、出力軸12にユニバーサルジョイントを介して連結される連結軸13とを備えている。また、連結軸13は、舵取機構20のピニオン軸21にユニバーサルジョイントを介して連結されている。
舵取機構20は、操舵軸10の下端に連結されるピニオン軸21と、ピニオン軸21のピニオンに噛合するラック歯を有するラック軸22とを備えるラックピニオン式の舵取機構として構成されている。ラック軸22は、図示しない車輌の前部に、左右方向への摺動自在に延設してあり、ラック軸22の左右両端は、各別のタイロッド23、23及びナックルアーム24、24を介して操向用の車輪25、25に連結されている。
この構成により、ステアリングホイール1の回転操作に応じた操舵軸10の回転がピニオン軸21へ伝えられ、ピニオン軸21の回転がラック軸22の摺動に変換され、この摺動が左右両端のタイロッド23、23及びナックルアーム24、24を介して操向用の車輪25、25に伝えられて車輪25、25の向きが変更されることによって、車輌の操舵が行われる。
また、ステアリングホイール1の操舵角を検出する操舵角センサ3は、例えば操舵軸10に設けたレゾルバ又はロータリエンコーダ等のセンサを用いて操舵軸10の相対的な回転量を検出し、検出した回転量から予め設定された基準位置(中立位置)を基に絶対的な操舵角を算出することで、操舵角の検出を行うことができる。操舵角センサ3は検出結果を制御部30へ与える。
トルクセンサ2は、操舵軸10の入力軸11の周りに配されており、運転者がステアリングホイール1を操作することによって入力軸11に加わる操舵トルクを、トーションバーに生じる捩れによって検出し、検出結果を制御部30へ与える。ただし、トルクセンサ2はレゾルバを用いて構成することもでき、上述の操舵角センサ3もまたレゾルバを用いて構成することができるため、1つのレゾルバを兼用して操舵角センサ3及びトルクセンサ2を実現する構成であってもよい。
また、舵取機構20には、車輪25、25の転舵角を検出するための転舵角センサ6が配設してある。転舵角センサ6は、例えばラック軸22が収容されるハウジングなどに設けたリニアエンコーダを用いてラック軸22の軸長方向の移動量又は移動位置を検出し、検出した移動量又は移動位置に応じた車輪25、25の向きを算出することによって、転舵角の検出を行うことができる。なお、転舵角センサ6が検出する転舵角は、車輌が直進するときの車輪25、25の向きを中立位置とし、この中立位置に対する車輪25、25の角度を検出する。転舵角センサ6は、車輌の中立位置に対する転舵角を検出し、検出した転舵角を制御部30へ与える。
操舵補助力を発生するモータ4は、操舵軸10の中途部に、操舵軸10と軸心を交差させて配設されている。モータ4の出力軸は減速歯車機構5のウォームに繋げられ、また、操舵軸10の出力軸12の途中には減速歯車機構5のウォームホイールが嵌合されており、モータ4の回転はウォーム及びウォームホイールによる減速歯車機構5を介して出力軸12へ伝達される。モータ4の回転は制御部30により制御されている。モータ4の回転により発生する操舵補助力によって、運転者のステアリングホイール1に対する操作を補助し、舵取のための労力負担を軽減することができる。
本発明に係る車輌用操舵装置は、基準位置に対する運転者の視線角を検出する視線角検出手段31を備えている。基準位置には、例えば車輌の正面方向を用いることができるが、これに限るものではない。視線角検出手段31は、既知の技術を用いればよく、例えば一又は複数のカメラを用いて運転者を撮像し、撮像により取得した運転者の画像を基に、運転者の頭部の位置及び向き等を判定し、更に運転者の眼球の移動を判定することによって、運転者の視線角を検出することができる。一又は複数のカメラは、車輌内の運転席近傍(インストルメントパネルなど)に運転席へ向けて配設すればよい。ただし、視線角検出手段31による視線角の検出方法はこれに限るものではなく、その他の方法で視線角を検出してもよい。例えば運転者の頭部にヘッドマウントディスプレイを装着して、ヘッドマウントディスプレイの移動を検出することで頭部の移動を検出し、ヘッドマウントディスプレイに搭載したカメラで運転者の目を撮像して眼球の移動を検出するなどにより視線角を検出することもできる。視線角検出手段31は、運転者の視線角の検出結果を制御部30へ与える。
制御部30は、トルクセンサ2が検出する操舵トルク、操舵角センサ3が検出するステアリングホイール1の操舵角、転舵角センサ6が検出する車輪25、25の転舵角、車速センサ32が検出する車速、及び視線角検出手段31が検出する運転者の視線角等の種々の検出結果が与えられており、これらの検出結果に基づいてモータ4の回転方向、回転量及び回転速度等を制御している。具体的には、制御部30はCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等の演算部、ROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等による記憶部、及びモータ4へ印加する駆動電圧又は駆動電流を生成するモータ駆動回路等を備えて構成されている。
また、制御部30は、転舵角センサ6が検出する転舵角及び車速センサ32が検出する車速を基に演算を行って、車輌の横すべり角を推定する機能を有している。図2は、車輌の横すべり角を説明するための模式図であり、旋回中の車輌及び車輪を模式的に示したものである。車輌の横すべり角βとは、車輌の重心点Pから見た車輌の速度ベクトル、即ち車輌の前後方向(図中に一点鎖線の矢印で示す方向)と車輌の実際の運動方向(進行方向)とのなす角度であり、車輌の車速及び車輪の転舵角に応じて変化する。
車輌の横すべり角βは、公知の方法により求めることができる(参考文献:”自動車の運動と制御”第2版、安部正人著、山海堂)。図2において、車輌の質量をmとし、車輌のホイールベースをlとし、車輌重心点P及び前車軸の間の距離をlf とし、車輌重心点P及び後車軸の間の距離をlr とする。また、車輌の車速をVとし、前輪の舵角(転舵角)をδとすると、車輌重心点Pの横すべり角βは、以下の(式1)で表される。
Figure 2009262827
なお、Aはスタビリティファクタと呼ばれる定数であり、以下の(式2)で表される。また、(式1)及び(式2)において、比例定数Kf は前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワーであり、Kr は後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワーである。
Figure 2009262827
よって、制御部30は、転舵角センサ6の検出結果から前輪の転舵角δを取得し、車速センサ32の検出結果から車速Vを取得して、上記(式1)による演算を行うことによって、車輌の横すべり角βを推定することができる。
次に、制御部30によるモータ4の制御処理、即ち車輌用操舵装置による操舵補助処理について説明する。車輌用操舵装置の制御部30は、トルクセンサ2が検出する操舵トルクに基づいてモータ4への駆動電圧又は駆動電流の印加量を変化させる処理を基本的な処理として行う。図3は、操舵トルクに基づくモータ4の制御処理を説明するためのグラフである。図示のグラフの横軸には、トルクセンサ2が検出する操舵トルクが示してあり、ステアリングホイール1を右回りに回転した場合に加わる操舵トルクを正とし、左回りに回転した場合に加わる操舵トルクを負としてある。また縦軸には、操舵トルクに応じてモータ4に印加される駆動電流(の絶対値)が示してあり、これはモータ4にて発生される操舵補助力に略等しい。
制御部30は、トルクセンサ2の検出する操舵トルクの値が0又はその近傍の場合(例えば運転者がステアリングホイール1に力を加えず車輌が直進する場合などに相当する)、モータ4を駆動せず、操舵補助力を発生させない。また、制御部30は、車速などに基づく車輌の走行状態に応じた複数の駆動電流−操舵トルク特性を予め記憶している(図示の例ではA〜Cの3つの特性を記憶している)。トルクセンサ2により一定以上の操舵トルクが検出された場合、制御部30は車輌の走行状態に基づいて一の駆動電流−操舵トルク特性を選択し、選択した特性に従って操舵トルクに応じた駆動電流値を決定する。
本発明に係る車輌用操舵装置の制御部30は、上述のように操舵トルクに基づいて決定された駆動電流値を、視線角検出手段31が検出する運転者の視線角に基づいて調整し、調整した駆動電流値の電流をモータ4へ印加するようにしてある。即ち、制御部30は、モータ4にて発生される操舵補助力を運転者の視線角に基づいて調整する操舵補助力調整手段として動作する。図4は、運転者の視線角に基づく操舵補助力の調整処理を説明するための模式図である。なお、図4においては、運転者60の視線の方向を矢印aで示し、車輌50の前後方向(一点鎖線で示す)に対する運転者の視線の方向の角度(視線角)をαで示してある。また、車輌50の進行方向を矢印bで示し、車輌の前後方向に対する進行方向の角度(横すべり角)をβで示してある。
車輌50が直進し且つ運転者60が前方を向いている場合(図4(A)参照)、運転者60の視線方向aと車輌の進行方向bとは略一致する。即ち、車輪の中立位置に対する転舵角が0°であると共に横すべり角βが0°であり、且つ基準位置(車輌50の前後方向)に対する運転者60の視線角αが0°である場合、横すべり角βと視線角αとの角度差θは0°である。また換言すれば、図4(A)に示す視線方向aが、視線角検出手段31が検出する運転者の視線角の基準位置である。
例えば運転者60が車輌50を右折させるためにステアリングホイール1を回転操作する場合、運転者60の視線方向aは右折先の目標地点へ向けられ、車輌50の進行方向bがステアリングホイール1の回転操作に伴って右方向へ変動する(図4(B)参照)。このときの運転者60の視線方向aと車輌50の進行方向bとの角度差、即ち運転者60の視線角αと車輌50の横すべり角βとの角度差θは、運転者60が行うステアリングホイール1の回転操作に伴って徐々に小さくなる。
その後、運転者60がステアリングホイール1の回転操作を終えて保舵状態に至った場合、運転者60の視線方向aと車輌50の進行方向bとは略一致する(図4(C)参照)。即ち、運転者60の視線角α及び車輌50の横すべり角βが同じ角度であり、角度差θが0°となる。
図5は、運転者の視線角に基づく操舵補助力の調整処理を説明するためのグラフであり、横軸に車輌の横すべり角と運転者の視線角との角度差θを示し、縦軸に操舵補助力(駆動電流)を調整するための調整係数(調整量)を示してある。車輌用操舵装置の制御部30は、転舵角センサ6により車輪25、25の転舵角を取得すると共に車速センサ32により車輌の車速を取得して、転舵角及び車速から上記(式1)に基づいて車輌の横すべり角を推定し、また、視線角検出手段31から運転者60の視線角を取得して、横すべり角と視線角との角度差θを算出する。制御部30は、図示の調整係数−角度差θの対応関係を予め記憶しており、算出した角度差θに応じた調整係数を決定する。
制御部30は、図3に示した駆動電流−操舵トルク特性に基づいて決定された駆動電流値に、図5に示した対応関係を基に決定した調整係数を乗じて駆動電流値を調整し、調整した駆動電流値の電流をモータ4へ印加する。これにより、モータ4は調整された駆動電流に応じた操舵補助力を発生し、この調整された操舵補助力が減速歯車機構5を介して操舵軸10へ伝達されることによって、運転者60の操舵補助が行われる。
算出した角度差θ(の絶対値)が所定角度より大きい場合(θ>θ1又はθ<−θ1の場合)、制御部30は、図5に示した対応関係から調整係数(調整量)を1.0と決定する(即ち、調整は行われない)。これは例えば図4(B)に示す状態に対応する。
また、角度差θが所定角度より小さい場合(−θ1≦θ≦θ1の場合)、角度差θが小さいほど調整係数(調整量)は大きく、角度差θが大きいほど調整係数(調整量)は小さな値となり、制御部30はこの調整係数を操舵トルクに基づいて決定した駆動電流値に乗じる。よって制御部30は、角度差θが小さいほど大きな駆動電流をモータ4に印加し、調整する操舵補助力を大きくしている。これは例えば図4(C)に示す保舵状態に対応し、制御部30は保舵状態で操舵補助力を増加させる。また、制御部30は、角度差θが大きいほど小さな駆動電流をモータ4に印加し、調整する操舵補助力を小さくしている。
しかし、角度差θが小さい全ての場合について、制御部30が操舵補助力を調整して増加させると、例えば図4(A)に示す直進状態であっても操舵補助力が増加し、車輌の直進安定性が損なわれる虞がある。そこで、制御部30は、操舵角センサ3が検出するステアリングホイール1の操舵角が中立位置を含む所定の舵角範囲内である場合には、図5に示した対応関係に基づく操舵補助力の調整を行わず、図3に示した駆動電流−操舵トルク特性に基づいて決定された駆動電流値に従ってモータ4に操舵補助力を発生させる。なお、操舵角センサ3が検出する操舵角に代えて、転舵角センサ6が検出する車輪25、25の転舵角が中点位置を含む所定範囲内であるか否かを判定する構成であってもよい。
また、運転者60の視線角は必ずしも安定して固定されているわけではなく、例えば車輌の走行中に運転者が道路標識又は信号等を視認するために視線を一瞬外す場合などもある。このような場合、横すべり角及び視線角の角度差θに基づいて制御部30が操舵補助力の調整を行うと、短期間に操舵補助力が大きく変動する虞がある。そこで、制御部30は、視線角検出手段31が検出した視線角の変化を調べ、変化量又は変化の加速度が所定量を超える場合には、変化した視線角に基づく調整を行わず、視線角が変化する前の調整係数を用いて操舵補助力を調整する。即ち、制御部30は、視線角の変化量又は加速度が所定量を超える場合、この視線角の検出結果を採用せず、視線角が変化する前の調整結果を維持する。
図6は、本発明に係る車輌用操舵装置の制御部30が行う操舵補助力の調整処理の手順を示すフローチャートである。制御部30は、車輌のイグニッションスイッチのオン又はエンジンの始動等により処理を開始し、まず初期化処理によって調整係数を1.0に初期化する(ステップS1)。その後、制御部30は、トルクセンサ2が検出する操舵トルクと、車速センサ32による車速などの車輌の走行状態とを基に、予め記憶した駆動電流−操舵トルク特性(図3参照)から基本となる駆動電流(操舵補助力)を決定する(ステップS2)。
次いで、制御部30は、視線角検出手段31による運転者の視線角の検出を行う(ステップS3)と共に、転舵角センサ6に基づく車輌の転舵角の検出を行う(ステップS4)。その後、制御部30は、ステップS4で検出した転舵角及びステップS2で検出した車速を基に車輌の横すべり角の推定を行い(ステップS5)、検出した視線角及び推定した車輌の横すべり角の角度差を算出する(ステップS6)。また、制御部30は、操舵角センサ3が検出するステアリングホイールの操舵角が中立位置を含む所定の舵角範囲内であるか否かを調べる(ステップS7)。
操舵角が所定の舵角範囲内でない場合(S7:NO)、制御部30は、ステップS6にて算出した角度差を基に、予め記憶した調整係数−角度差の対応関係(図5参照)から調整係数を決定する(ステップS8)。次いで、制御部30は、視線角検出手段31が検出する運転者の視線角の変化を取得して、視線角の変化量(又は加速度)が所定量を超えるか否かを調べ(ステップS9)、視線角の変化量が所定量を超えない場合には(S9:NO)、操舵補助力の調整を行うための調整係数をステップS8にて決定した調整係数に更新し、更新した調整係数による操舵補助力の調整を実施する(ステップS10)。視線角の変化量が所定量を超える場合(S9:YES)、調整係数の更新は行わずに、以前の調整係数による操舵補助力の調整結果を実施する(ステップS11)。
また、ステップS7にて操舵角が中立位置を含む所定の舵角範囲内の場合(S7:YES)、制御部30は操舵補助力の調整を停止する(ステップS12)。ステップS10、S11又はS12の処理が終了した後、制御部30は、車輌のイグニッションスイッチのオフ又はエンジンの停止等により処理を終了するか否かの判断を行い(ステップS13)、処理を終了しない場合には(S13:NO)、ステップS2へ戻って上述の処理を繰り返し行う。処理を終了すると判断した場合(S13:YES)、制御部30は操舵補助力の調整処理を終了する。
以上の構成の車輌用操舵装置においては、運転者60の視線角を検出する視線角検出手段31を備え、転舵角センサ6が検出する転舵角及び車速センサ32が検出する車速から推定される車輌の横すべり角と運転者60の視線角との角度差θに基づいて、モータ4に印加する駆動電流を調整して操舵補助力を調整する構成とすることにより、保舵状態に適した操舵補助力をモータ4にて応答性よく発生することができる。また、車輌50の横すべり角及び運転者60の視線角の角度差θが小さい場合、即ち保舵状態又は保舵状態に近い状態においては、モータ4が発生する操舵補助力を増加させるように制御部30が操舵補助力の調整を行うことによって、運転者60がステアリングホイール1を保持するために必要な負担を応答性よく確実に軽減することができる。これにより、運転者60は違和感を生じることなく、車輌50の運転を快適に行うことができる。
また、ステアリングホイール1の操舵角又は車輪25、25の転舵角が中立位置を含む所定範囲内の場合には、制御部30が操舵補助力の調整を行わない構成とすることにより、車輌50が直進状態又は直進に近い状態においてステアリングホイール1の操作性が低下することを防止でき、車輌50の直進走行の安定性を高めることができる。また、運転者60の視線角が変化したときの変化量又は変化の加速度が所定量を超えた場合には、この変化に基づく操舵補助力の調整を行わずに、変化前の調整を継続して行う構成とすることにより、運転者60の一瞬の視線変化により操舵補助力が頻繁に変動することを防止でき、運転者60が安定した運転を行うことができる。
なお、本実施の形態においては、操舵角センサ3がステアリングホイール1の相対的な回転量を検出し、検出した回転量及び予め設定された中立位置を基に絶対的な操舵角を算出して制御部30へ与える構成としたが、これに限るものではなく、操舵角センサ3がステアリングホイール1の相対的な回転量を検出して制御部30へ与え、制御部30が与えられた回転量及び中立位置を基に絶対的な操舵角を算出する構成としてもよい。同様に、転舵角センサ6がラック軸22の移動量又は移動位置を検出し、検出した移動量又は移動位置に応じた車輪25、25の向き(転舵角)を算出して制御部30へ与える構成としたが、これに限るものではなく、転舵角センサ6がラック軸22の移動量又は移動位置を検出して制御部30へ与え、制御部30が与えられた移動量又は移動位置を基に転舵角を算出する構成としてもよい。また、制御部30が図3に示すように複数の駆動電流−操舵トルク特性を記憶しており、車輌の走行状態などに応じて一の特性を選択する構成としたが、これに限るものではなく、制御部30が駆動電流−操舵トルク特性を1つのみ記憶しておく構成であってもよい。また、車輌の転舵角を転舵角センサ6の検出結果としたが、これに限るものではなく、車輪25、25の転舵角は操舵部材1の回転角度から算出することができるため、制御部30は操舵角センサ3が検出する操舵角を基に車輌の転舵角を取得してもよい。
本発明に係る車輌用操舵装置の構成を示す模式図である。 車輌の横すべり角を説明するための模式図である。 操舵トルクに基づくモータの制御処理を説明するためのグラフである。 運転者の視線角に基づく操舵補助力の調整処理を説明するための模式図である。 運転者の視線角に基づく操舵補助力の調整処理を説明するためのグラフである。 本発明に係る車輌用操舵装置の制御部が行う操舵補助力の調整処理の手順を示すフローチャートである。
符号の説明
1 ステアリングホイール(操舵部材),2 トルクセンサ,3 操舵角センサ,4 モータ(アクチュエータ),5 減速歯車機構,6 転舵角センサ(転舵角検出手段),10 操舵軸,11 入力軸,12 出力軸,13 連結軸,20 舵取機構,21 ピニオン軸,22 ラック軸,23 タイロッド,24 ナックルアーム,25 車輪,30 制御部(横すべり角推定手段、操舵補助力調整手段),31 視線角検出手段,32 車速センサ(車速検出手段),50 車輌,60 運転者,α 視線角,β 横すべり角

Claims (4)

  1. 車輌に設けられた操舵部材の操舵量に基づいてアクチュエータを駆動し、該アクチュエータにより前記操舵部材の操舵補助力を発生させる車輌用操舵装置において、
    基準位置に対する前記操舵部材を操作する運転者の視線角を検出する視線角検出手段と、
    車輪の中立位置に対する該車輪の転舵角を検出する転舵角検出手段と、
    前記車輌の車速を検出する車速検出手段と、
    前記転舵角及び車速を基に、前記車輌の横すべり角を推定する横すべり角推定手段と、
    前記視線角検出手段が検出した視線角と前記横すべり角推定手段が推定した横すべり角との差に基づいて、前記アクチュエータが発生する操舵補助力を調整する操舵補助力調整手段と
    を備えることを特徴とする車輌用操舵装置。
  2. 前記操舵補助力調整手段は、前記視線角と前記横すべり角との差が小さい場合に、操舵補助力の調整量が大きくなるように、操舵補助力の調整を行うようにしてあること
    を特徴とする請求項1に記載の車輌用操舵装置。
  3. 前記操舵補助力調整手段は、前記操舵部材の操舵角又は前記転舵角が中立位置を含む所定舵角範囲内の場合に、操舵補助力の調整を行わないようにしてあること
    を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輌用操舵装置。
  4. 前記操舵補助力調整手段は、前記視線角検出手段が検出した視線角の変化量が所定量を超えた場合、又は、前記視線角の変化の加速度が所定量を超えた場合に、視線角の変化前の操舵補助力の調整結果を維持して行うようにしてあること
    を特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の車輌用操舵装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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KR101527135B1 (ko) * 2013-12-17 2015-06-16 현대오트론 주식회사 파워 스티어링 시스템 및 그 제어 방법
JP2017187825A (ja) * 2016-04-01 2017-10-12 マツダ株式会社 運転支援装置

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