JP2009241398A - セルロースアシレートフィルムとその製造方法、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置 - Google Patents

セルロースアシレートフィルムとその製造方法、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置 Download PDF

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泰行 佐々田
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Abstract

【課題】レタデーション値が大きくて、フィルムの黄色味が低減されており、力学的強度が高い、偏光膜に直接貼り合わせることが可能なセルロースアシレートフィルム、およびその製造方法、これを用いた位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置を提供する。
【解決手段】セルロースアシレートと安定剤とを含有するセルロースアシレートフィルムを、Tc≦T<Tm0を満たす温度Tで熱処理する[Tc、Tm0は、熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度、融点をそれぞれ表す。]。
【選択図】なし

Description

本発明は、レタデーションの発現性が高く、フィルムの黄色味が低減されており、偏光膜に直接貼り合わせることが可能なセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関し、また、該セルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置に関する。
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板および画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマービニルポリマー、および、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。
これらのうち、適切な透湿度を有するセルロースアシレートフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されており、その製造方法が種々検討されている(例えば、特許文献1および2参照)。
一方、セルロースアシレートフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、および、偏光板の保護フィルム、並びに、液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。近年の液晶表示装置の広視野角化要求に伴ってレタデーションの補償性向上が求められるようになっており、偏光膜と液晶セルとの間に配置される位相差フィルムの面内方向のレタデーション値(Re;以下、単に「Re」と称することがある。)と膜厚方向のレタデーション値(Rth;以下、単に「Rth」と称することがある。)を適切に制御することが要求されている。特にReが大きいセルロースアシレートフィルムや、Nzが0〜1であるセルロースアシレートフィルムを簡便に製造することが求められている。このようなフィルムの製造方法として、セルロースアシレートフィルムを熱処理する方法が種々検討されている(例えば、特許文献3および4参照)。
特開2001−188128号公報 特開2000−352620号公報 特開2007−84804号公報 特開2007−86755号公報
しかしながら、上記の方法にしたがってReが大きなセルロースアシレートフィルムを製造しようとすると、得られるフィルムの黄色味が増大し、力学強度が低下するという問題があることが明らかになった。黄色味を抑え、力学強度を上げようとすると、Reが大きなフィルムが得られなくなることから、これらはトレードオフの関係にあった。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、Reが大きくて、フィルムの黄色味が抑えられており、力学強度が高いセルロースアシレートフィルムを提供することを本発明の目的として検討を進めた。
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、熱処理に用いるセルロースアシレートフィルム原反に安定剤を添加することにより、従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
[1] セルロースアシレートと安定剤とを含有するセルロースアシレートフィルムを、下記式(I)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(I): Tc≦T<Tm0
[式中、Tcは熱処理工程前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度(単位;℃)を表し、Tm0は熱処理工程前のセルロースアシレートフィルムの融点(単位;℃)を表す。]
[2] 前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムを、溶液製膜法によって作製することを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[3] 前記安定剤を、前記セルロースアシレートに対して0.01〜20質量%含ませることを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[4] 前記安定剤として少なくとも酸化防止剤を前記セルロースアシレートフィルムに含ませることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[5] 前記熱処理工程を酸素濃度18容量%以下の雰囲気下で実施することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[6] [1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルム。
[7] セルロースアシレートに対して安定剤と安定剤の分解物を合計で0.01〜20質量%含有し、結晶化熱量(ΔHc)が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、イエローネスインデックス(YI)値が15以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[8] 前記ΔHcが観測されないことを特徴とする[7]に記載のセルロースアシレートフィルム。
[9] [6]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする位相差フィルム。
[10] [6]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
[11] [6]〜[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、Reが大きくて、黄色味が抑制されており、力学特性が良好であるという特徴を有する。また、本発明の製造方法によれば、このような特徴を有するセルロースアシレートフィルムを簡便な方法で製造することができるとともに、製造過程で発生するベース屑を原料として再利用することもできる。さらに、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて製造される位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置は、優れた光学的性質を示す。特に、液晶表示装置に組み込むことにより、中間調表示時の黄色味を改善することができる。
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
[安定剤]
(安定剤の種類)
本発明の製造方法では、セルロースアシレートと安定剤とを含有するセルロースアシレートフィルムを、上記式(I)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理することを特徴とする。安定剤は、熱処理工程時のセルロースアシレートの着色や熱劣化を低減させるために添加するものであり、本発明において安定剤とは、セルロースアシレートポリマー自体の分解・変性を抑制する化合物であり、酸化防止剤、ラジカル禁止剤、過酸化物分解剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、光安定剤から選ばれるものをいう。本発明では、いかなる安定剤を用いてもよいが、酸化防止剤、ラジカル禁止剤を用いることが好ましく、酸化防止剤を用いることがより好ましい。それぞれ、酸化防止剤とは、熱や空気中の酸素により酸化反応が促進されることに起因すると考えられるセルロースアシレートポリマーの分解(すなわちラジカルの生成)を抑制すると考えられる化合物であり、セルロースアシレートポリマーよりも酸化されやすい化合物であり、標準酸化還元電位がセルロースアシレートポリマーよりも低い化合物が好ましい。ラジカル禁止剤とは、生成したラジカルと反応して不活性化させ、連鎖・成長反応やラジカル同士の再結合に伴うゲル化を抑制すると考えられる化合物であり、過酸化物分解剤とは、熱分解に伴って生成した過酸化物と反応して不活性化させると考えられる化合物であり、金属不活性化剤とは、フィルム中に残留・混入した金属に由来し、ラジカル的分解反応を触媒的に促進させる遷移金属イオンに吸着して、セルロースアシレートポリマーの分解を抑制すると考えられる化合物であり、酸捕獲剤とは、フィルム中に残留・混入した硫酸やカルボン酸などの分解反応を触媒的に促進させる化合物に吸着もしくは反応して、セルロースアシレートポリマーの分解を抑制すると考えられる化合物であり、光安定剤とは、熱や酸に加えて酸化反応を促進させる光線を捕捉すると考えられる化合物であり、ラジカル的分解反応を抑制したり、生成したラジカルと反応して不活性化させると考えられる化合物である。また、本発明では、安定剤の前駆体であって、セルロースアシレートフィルムとして製造したときか製造した後に安定剤として機能しうるものも安定剤として使用することができる。
酸化防止剤としては、亜リン酸骨格を有するリン酸系の化合物、チオエーテル構造を有する硫黄系の化合物、またはラクトン構造を有するラクトン系の化合物が好ましく、ラジカル禁止剤としては、水酸基で置換された芳香環を有するフェノール系の化合物、置換または無置換のアミノ基を有するアミン系の化合物が好ましく、過酸化物分解剤としては、フェノール系の化合物、アミン系の化合物が好ましく、金属不活性化剤としては、アミド結合を有するアミド系の化合物が好ましく、酸捕獲剤としては、エポキシ基を有するエポキシ系の化合物が好ましく、光安定剤としては、アミン系の化合物が好ましい。
これらの安定剤は1種類のみを用いてもよく、2種類以上混合しても良く、また、同一分子内に2種類以上の機能を備えた化合物であってもよい。
本発明において、安定剤は高温で揮発性が十分に低いことが好ましく、分子量500以上の安定剤を少なくとも一種含むことが好ましい。さらに、前記安定剤の分子量は500〜4000が好ましく、より好ましくは530〜3500であり、特に特に好ましくは550〜3000である。分子量が500以上であれば熱揮散性をより低く抑えやすく、また分子量が4000以下であればセルロースアシレートとの相溶性がより良好になる。
また、揮発性の指標として加熱時の質量減少量を用いることができ、例えば、窒素雰囲気下、240℃で1時間保持したときの質量減少量が15質量%以下であることが好ましい。より好ましい質量減少量は10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。これにより、本発明の熱処理工程中においても、安定剤の熱揮散を大幅に低減できる。
本発明における安定剤の好ましい添加量は、セルロースアシレートに対して0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.05〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜2質量%であり、特に好ましくは0.2〜1質量%である。このようにすることにより、劣化を十分に抑制しつつ、安定剤自身の分解に基づくと考えられるフィルムの経時での着色を防止することもできる。
次に、安定剤の各化合物について記述する。
(リン酸系の安定剤)
本発明において安定剤として特に好ましく用いることができるリン酸系の化合物としては、亜リン酸エステル構造を有する安定剤が好ましく、具体例は、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報等に記載されている。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている。本発明では、これらを始めとする素材の中から適宜選択して使用することができる。
本発明では高温での揮発が少ないことから、分子量500以上の酸化防止効果を有する亜リン酸エステル系安定剤を含有することが好ましい。これらの安定剤は特開2004−182979号公報の段落番号〔0023〕〜〔0039〕に記載の化合物などから選ぶことができる。
前記の分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤としては、従来公知の任意の亜リン酸エステル系安定剤を用いることができる。また、本発明で用いる亜リン酸エステルは、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下である。
好ましい亜リン酸エステル系安定剤の具体例を以下に挙げるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定剤はこれらに限定されるものではない。
(P−1)トリスノニルフェニルフォスファイト(分子量689)
(P−2)トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(分子量647)
(P−3)ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト(分子量733)
(P−4)ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量605)
(P−5)ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量633)
(P−6)2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト(分子量529)
(P−7)テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト(分子量517)
これらは、旭電化工業株式会社からアデカタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。
(硫黄系の安定剤)
本発明において安定剤として特に好ましく用いることができる硫黄系の化合物としては、次にチオエーテル構造を有する安定剤が好ましく、公知の任意のチオエーテル系安定剤を用いることができる。好ましいチオエーテル系安定剤の具体例を以下に挙げるが、本発明で用いることができるチオエーテル構造を有する安定剤はこれらに限定されるものではない。
(S1)ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量515)
(S2)ジミリスチル−3,3−チオジプロピオネート(分子量571)
(S3)ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量683)
(S4)ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(分子量1162)
これらは、住友化学株式会社からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO−412Sとしても入手可能である。
(ラクトン系の安定剤)
本発明において安定剤として特に好ましく用いることができるラクトン系の安定剤は、分子内にラクトン構造を有する化合物である。好ましい例としては、分子内に不飽和結合を有するラクトン系の化合物を挙げることができ、例えば以下の一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 2009241398
(式中R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基または炭素数6〜15のアリール基を示す。)
一般式(1)中、炭素数1〜20のアルキル基としては、直鎖または分岐状のアルキル基であってよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、2−エチルブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などが挙げられる。
一般式(1)中、炭素数7〜20のアラルキル基としては、ベンジル基、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基および2−フェニルイソプロピル基などが挙げられる。
一般式(1)中、炭素数6〜15のアリール基としては、フェニル基、トリル基およびナフチル基などが挙げられる。
一般式(1)において、R1およびR2としては、水素原子と炭素数7〜20のアリール基との組み合わせが好ましい。さらにその中でも、水素原子と炭素数8〜20のアリール基との組み合わせが好ましく、水素原子と炭素数8〜18のアリール基との組み合わせがより好ましく、水素原子と3,4−ジメチルフェニル基との組み合わせが特に好ましい。
一般式(1)において、R3およびR4としては、これらの中で炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数2〜20のアルキル基がより好ましく、炭素数3〜20のアルキル基がさらに好ましく、tert−ブチル基が特に好ましい。
一般式(1)で表わされるラクトン系化合物としては、具体的には以下のような化合物が例示される。しかしながら、本発明で用いることができるラクトン系化合物はこれらに限定されるものではない。
Figure 2009241398
Figure 2009241398
Figure 2009241398
Figure 2009241398
Figure 2009241398
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本発明では、市販のラクトン系化合物も用いることができ、例えば、HP-136(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用いることが可能である。
これらラクトン系化合物は、単独であるいは数種類混合して使用することができる。
ラクトン系化合物を使用すれば、亜リン酸エステル系やフェノール系の化合物を添加しても、着色や加熱におけるセルロースアシレート分子量変化がほとんど起こらないという利点がある。
(フェノール系の安定剤)
本発明において安定剤として好ましく用いることができるフェノール系の化合物としては、分子内にフェノール構造を有する化合物が好ましく、公知の任意のフェノール系安定剤を使用することができる。好ましい例としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。特に、ヒドロキシフェニル基に隣接する部位に置換基を有することが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基がより好ましい。
フェノール系安定剤の具体例として、例えば下記の素材を挙げることができるが、本発明で用いることができるフェノール系安定剤はこれらに限定されるものではない。
(F−1)n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル) プロピオネート(分子量531)
(F−2)テトラキス−〔メチレン−3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(分子量1178)
(F−3)トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(分子量784)
(F−4)トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕(分子量588)
(F−5)3,9−ビス−{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(分子量741)
(F−6)1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(分子量775)
(F−7)1,1,3−トリス(5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン(分子量545)
(F−8)1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}(分子量639)
(F−9)2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(分子量589)
(F−10)2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート〕(分子量643)
(F−11)N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)(分子量637)
(F−12)ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(分子量695)
これらは、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。さらに、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
フェノール系安定剤と、亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤とを混合して用いる場合、その含有比率は特に限定されないが、好ましくは1/10〜10/1(質量部)であり、より好ましくは1/5〜5/1(質量部)であり、さらに好ましくは1/3〜3/1(質量部)であり、特に好ましくは1/3〜2/1(質量部)が好ましい。
(アミン系の安定剤)
本発明において安定剤として好ましく用いることができるアミン系の化合物としては、特開昭61−63686号公報に記載の長鎖脂肪族アミン、特開平6−329830号公報に記載の立体障害アミン基を含む化合物、特開平7−90270号公報に記載のヒンダードピペリジニル系光安定剤、特開平7−278164号公報に記載の有機アミン等を挙げることができる。好ましいアミン系安定剤は、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。
より好ましいアミン系安定剤は、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)であり、その中には、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。このような化合物として、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
Figure 2009241398
上記一般式(2)において、R11及びR12は、それぞれ水素原子または置換基である。
ヒンダードアミン光安定剤化合物の具体例としては、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル。
好ましいヒンダードアミン光安定剤の例には、以下のH−1及びH−2が挙げられる。
Figure 2009241398
(エポキシ系の化合物)
本発明において安定剤として好ましく用いることができるエポキシ系の化合物として、例えば米国特許第4,137,201号明細書に記載されているエポキシ化合物を挙げることができる。このようなエポキシ化合物は酸捕捉剤としての役割を果たす。エポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシドなどの縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテルなど、金属エポキシ化合物、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(例えば、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン等)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、炭素数2〜22、脂肪酸2〜4個程度のアルキルのエステル、例えば、ブチルエポキシステアレート等)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド(例えば、エポキシ化大豆油などの組成物によって代表されるエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらは時としてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している))が含まれる。
特に好ましいのは、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物(例えば、EPON 815c)及び下記一般式(3)で表されるエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物である。
Figure 2009241398
上記一般式(3)において、nは0〜12の整数を表す。
また、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されている化合物も用いることができる。
(アミド系の化合物)
本発明において安定剤として好ましく用いることができるアミド系の化合物として、例えば以下の一般式(4)〜(6)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 2009241398
21、R22およびZは互いに同一でも異なってもよく、それぞれアルキル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロ環基を表わす。nは0〜4の整数を表わす。nが2〜4の時、複数のZは互いに同一でも異なってもよい。
21、R22およびZで定義したアルキル基は直鎖、分岐状または環状のアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、i−プロピル、t−ブチル、シクロヘキシル、t−ヘキシル、t−オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ベンジル)を表わし、R21、R22およびZで定義したアルケニル基は直鎖、分岐鎖または環状のアルケニル基(例えばビニル、アリル、2−ペンテニル、シクロヘキセニル、ヘキセニル、ドデセニル、オクタデセニル)を表わし、R21、R22およびZで定義したアリール基はベンゼン単環、縮合多環のアリール基(例えばフェニル、ナフチル、アントラニル)を表わし、R21、R22およびZで定義したヘテロ環基は、環構成原子として窒素原子、イオウ原子、酸素原子から選ばれる原子を少なくとも一つ含む5〜7員環状の基(例えばフリル、ピロリル、イミダゾリル、ピリジル、プリニル、クロマニル、ピロリジル、モルホリニル)を表わす。
以下に一般式(4)〜(6)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明で用いることができるアミド系の化合物はこれらに限定されない。
Figure 2009241398
Figure 2009241398
市販品としては、例えば、NAUGARD XL−1(ユニロイヤル)、MARK CDA−1(アデカ・アーガス)、MARK CDA−6(アデカ・アーガス)、IRGANOX MD−1024(チバガイギー)、CU−NOX(三井東圧)、旭電化工業株式会社からアデカスタブZSシリーズ(旭電化工業)、アデカスタブCDAシリーズ(旭電化工業株)等が挙げられる。
(同一分子内に2種類以上の機能を備えた化合物)
本発明において安定剤として特に好ましく用いることができる同一分子内に2種類以上の機能を備えた化合物とは、前記リン酸系の化合物に含まれる官能基、および/または前記硫黄系の化合物に含まれる官能基、および/またはフェノール系の化合物に含まれる官能基、および/またはアミン系の化合物に含まれる官能基を、同一分子内に複数含む化合物であり、同一分子内にヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基とを有する安定剤が含まれる。該安定剤は、ヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基とを同一分子内に含有していれば、その構造は特に限定されない。また、該安定剤は、低分子化合物でもよく、また高分子化合物(単分子を重合、あるいは縮合した素材)でもよい。また、ヒドロキシフェニル基あるいは亜リン酸エステル基は同一分子内であればその官能基の数は特に規定されず、それぞれ1〜20個が好ましく、1〜10個がさらに好ましく、1〜6個が特に好ましい。それらの素材は特開平10−273494号公報に記載されている。市販品として、スミライザーGP(住友化学工業株式会社)が挙げられる。
本発明の同一分子内にヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基とを有する安定剤の好ましい具体例を以下に示すが、本発明で用いることができる安定剤はこれらに限定されるものではない。
(PF−1)2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量632)
(PF−2)2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量702)
(PF−3)2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量787)
(PF−4)2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量646)
(PF−5)2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量801)
(PF−6)2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量716)
(PF−7)2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量618)
(PF−8)2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(PF−9)2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
(PF−10)2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量590)
(PF−11)2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(PF−12)2,10−ジエチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量661)
(PF−13)2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[2,2−ジメチル−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量688)
(PF−14)6−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
(その他の酸化防止剤)
本発明においては、前記酸化防止剤に加え、場合により、(R)−3,4−ジヒドロキシ−5−((S)−1,2−ジヒドロキシエチル)フラン−2(5H)−オン、トコフェロール、(1S,3R,4R,5R)−3−{[3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)アクリロイル]オキシ}−1,4,5−トリヒドロキシシクロヘキサン−1−カルボン酸、3,3’,4’,5,7−フラバンペントールなどのその他の酸化防止剤も用いることができる。
(その他のラジカル禁止剤)
本発明においては、前記ラジカル禁止剤に加え、場合により、ヨウ素、塩化鉄(III)、塩化第一銅、クロルアニル、テトラエチル−p−フェニレンジアミンなどのその他のラジカル禁止剤を用いることができる。
[添加剤]
(添加剤の範囲)
本発明で用いるセルロースアシレートフィルムには、上記の安定剤以外に添加剤を添加することができる。ここでいう添加剤とは、上記安定剤の定義に含まれない材料を広く含むものである。好ましい添加剤として、紫外線吸収剤、微粒子、光学異方性制御剤、可塑剤を挙げることができ、なかでも微粒子が好ましい。
(紫外線吸収剤)
セルロースアシレートには、紫外線防止剤を添加してもよい。紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。その添加量は、調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
これらの紫外線吸収剤は、市販品として下記のものを利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタブLA−31(旭電化工業社製)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタブLA−51(旭電化工業社製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などを挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)がある。さらにサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)がある。
(微粒子)
本発明では、セルロースアシレートに微粒子を添加することもできる。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれを用いてもよい。本発明におけるセルロースアシレートに含まれる好ましい微粒子の平均一次粒子サイズは5nm〜3μmであり、好ましくは5nm〜2.5μmであり、特に好ましくは20nm〜2.0μmである。微粒子の添加量は、セルロースアシレートに対して0.005〜1.0質量%であり、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
前記無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましく、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、およびV25の少なくとも1種が好ましく、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2である。
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250((株)日本触媒製)なども使用される。また、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業(株)製)も利用できる。SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、((株)アドマテックス 製)として利用する事もできる。さらに、モリテックス(株)製シリカ粒子(水分散物を粉体化)8050、同8070、同8100、同8150も利用できる。
次に、本発明で使用されうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。
さらに、無機化合物からなる微粒子は、セルロースアシレートフィルム中で安定に存在させるために表面処理されているものを用いることが好ましい。無機微粒子は、表面処理を施してから用いることも好ましい。表面処理法としては、カップリング剤を使用する化学的表面処理と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とがあるが、本発明においてはカップリング剤を使用することが好ましい。前記カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。微粒子として無機微粒子を用いた場合(特にSiO2を用いた場合)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。前記カップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して、0.005〜5質量%使用することが推奨され、さらには0.01〜3質量%が好ましい。
(光学異方性制御剤)
光学異方性制御剤は、分子量3000以下の有機化合物であることが好ましく、より好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物である。これらの化合物は、ポリマー鎖間で配向することにより、レタデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、本発明で特に好ましく用いられるセルロースアシレートと併用することで、フィルムの疎水性を向上させ、レタデーションの湿度変化を低減させることができる。また、紫外線吸収剤や赤外線吸収剤を併用することで、効果的にレタデーションの波長依存性を制御することもできる。本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。
目的とするRe、Rth値によっては、熱処理前のフィルムのRthをあまり変化させなかったり、下降させたりするような効果のある光学異方性制御剤も好ましく用いることができる。このような添加剤を添加することにより、熱処理時のポリマー分子の運動性を向上させることができるため、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性をさらに調整することができるため、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。レタデーション上昇剤等の光学異方性制御剤を組み合わせることにより、Nzが0〜1であるセルロースアシレートフィルムだけでなく、Nzが0未満や1より大きいセルロースアシレートフィルムも適宜、製造することができる。
レタデーションの湿度変化低減を図る観点からは、これらの添加剤の添加量は多いほうが好ましいが、添加量の増大に伴い、ポリマーフィルムのガラス転移温度(Tg)低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなる。従って、添加量は前記セルロースアシレートに対して30質量%以下が好ましく、0.1〜30質量%がより好ましく、2〜20質量%がさらに好ましい。
Rth/Re値を上昇させる観点からは、具体的には、芳香環を1個以上有する化合物が好ましく、2〜15個有することがより好ましく、3〜10個有することがさらに好ましい。化合物中の芳香環以外の各原子は、芳香環と同一平面に近い配置であることが好ましく、芳香環を複数有している場合には、芳香環同士も同一平面に近い配置であることが好ましい。また、Rthを選択的に上昇させるため、添加剤のフィルム中での存在状態は、芳香環平面がフィルム面と平行な方向に存在していることが好ましい。
(可塑剤)
本発明で用いる可塑剤は、その化合物中に繰り返し単位部分を有する高分子可塑剤であることが好ましい。高分子可塑剤は、その数平均分子量が500〜3000であるが、好ましくは数平均分子量600〜2800であり、さらに好ましくは数平均分子量700〜2500であり、特に好ましくは数平均分子量700〜2000である。ただし、本発明における高分子系可塑剤は、このような繰り返し単位部分を有する化合物のみからなるものに限定されることはなく、繰り返し単位を有さない化合物との混合物であってもよい。
また、本発明の高分子系可塑剤は使用する環境温度あるいは湿度下で(一般には室温状況、所謂25℃、相対湿度60%)、液体であっても固体であっても良い。また、その色味は少ないほど良好であり特に無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上が好ましい。
本発明で用いることのできる高分子系可塑剤としては、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤、後述するその他の高分子系可塑剤から選択される少なくとも1種の数平均分子量が500以上の可塑剤を好ましく挙げることができる。
そのうち少なくとも1種は、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、ポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤、ポリエーテルポリウレタン系可塑剤、ポリアミド系可塑剤、ポリスルフォン系可塑剤、ポリスルフォンアミド系可塑剤であることがさらに好ましく、特にはポリエステル系可塑剤、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、ポリエステルポリエーテル系可塑剤であることが好ましい。
(その他の添加剤)
本発明において好適に用いることのできるその他の添加剤については、特開2005−104148号公報を参照することができる。
《セルロースアシレートフィルムの製造方法》
[セルロースアシレート]
まず、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法に使用することができるセルロースアシレートについて説明する。
本発明の製造方法で熱処理するセルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成する主成分としてのポリマーがセルロースアシレートであるフィルムである。ここで、「主成分としてのポリマー」とは、フィルムが単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されている。アシル基の炭素原子数は2〜22のであることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、および、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が最も好ましい。
セルロースアシレートは、セルロースと複数のカルボン酸とのエステルであってもよい。すなわち、セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
セルロースアシレートのセルロースの水酸基に置換されているアセチル基(炭素数2)の置換度をSAとし、セルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度をSBとしたとき、SAおよびSBを調整することにより、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのレタデーションの発現性、レタデーションの湿度依存性の調整を行うことができる。また、Tcも調整することができ、これにより、熱処理温度を調整することができる。なお、レタデーションの湿度依存性とは、湿度によるレタデーションの変化である。
本発明のフィルムである、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムに求める光学特性により、適宜、SA+SBを調整することとなるが、好ましくは2.70<SA+SB≦3.00、より好ましくは2.88≦SA+SB≦3.00であり、さらに好ましくは2.89≦SA+SB≦2.99であり、さらにより好ましくは2.90≦SA+SB≦2.98であり、特に好ましくは2.92≦SA+SB≦2.97である。SA+SBを大きくすることにより熱処理後に得られるReを大きくし、レタデーションの湿度依存性も改善することができる。
また、SBを調整することにより、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのレタデーションの湿度依存性を調整することができる。SBを大きくすることにより、レタデーションの湿度依存性を低減させることができ、融点が下がる。レタデーションの湿度依存性および融点の低下のバランスを考慮すると、SBの範囲は、好ましくは0<SB≦2.0、より好ましくは0.1<SB≦1.0であり、さらに好ましくは0.2<SB≦0.7である。なお、セルロースの水酸基がすべて置換されているとき、上記の置換度は3となる。
セルロースアシレートは公知の方法により合成することができる。
例えば、セルロースアシレートの合成方法について、基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法としては、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法が挙げられる。具体的には、まず、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。前記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。また、前記カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
次いで、アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。さらに、エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)を含む水溶液を添加してもよい。さらに、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことにより鹸化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記中和剤などを用いて完全に中和するか、或いは、前記触媒を中和することなく水若しくは希酢酸中にセルロースアシレート溶液を投入(或いは、セルロースアシレート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理により目的物であるセルロースアシレートを得ることができる。
前記セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
また、低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。このような低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成により得ることもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。セルロースアシレートの重合度や分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定することができる。
セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
セルロースアシレートフィルムを製造する際に原料として用いるセルロースアシレートとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることができる。原料として用いる際のセルロースアシレートの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。また、前記含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。セルロースアシレートの含水率が好ましい範囲内にない場合には、セルロースアシレートを乾燥風や加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。
セルロースアシレートフィルムを製造する際には、単一種のポリマーを用いてもよいし、複数種のポリマーを用いてもよい。
[セルロースアシレート溶液]
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム(以下、明細書中において、「熱処理前のセルロースアシレートフィルム」とも称する)は、例えば、上記セルロースアシレートや各種添加剤を含有するセルロースアシレート溶液から溶液流延製膜方法によって作製することができる。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるセルロースアシレート溶液について説明する。
(溶媒)
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられるセルロースアシレート溶液の主溶媒としては、該ポリマーの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることがさらに好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を特に好ましく挙げることができ、場合により、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げることもでき、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルム」の作製に用いられるセルロースアシレート溶液の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を好適に挙げることができる。
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。好ましくは炭素数1〜4のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノールまたはブタノールであり、最も好ましくはメタノール、ブタノールである。前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するポリマーは、水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含むため、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることによって、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
また、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられる前記セルロースアシレート溶液は、乾燥過程初期においてハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上であり、且つ、セルロースエステルの貧溶媒である有機溶媒を1〜15質量%、より好ましくは1.5〜13質量%、さらに好ましくは2〜10質量%含有することが好ましい。また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めるのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させても良く、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特には0.2〜2質量%含有させてもよい。
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの作製に用いられるセルロースアシレート溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
(1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/10/5/5
(2)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/5/5/10
(3)ジクロロメタン/イソブチルアルコール=90/10
(4)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール=80/5/5/10
(5)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン=80/8/10/2
(6)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(7)ジクロロメタン/ブタノール=90/10
(8)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/ブタノール=68/10/10/7/5
(9)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
(10)ジクロロメタン/メチルアセテート/エタノール/ブタノール=70/12/15/3
(11)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/5/5/10
(12)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/ペンタノール=50/20/15/5/10
(13)ジクロロメタン/1,3−ジオキソラン/メタノール/ブタノール=70/15/5/10
(14)ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/ブタノール=75/5/10/5/5
(15)ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブチルアルコール/シクロヘキサン=60/18/3/10/7/2
(16)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/イソブチルアルコール=70/10/10/10
(17)ジクロロメタン/アセトン/エチルアセテート/ブタノール/ヘキサン=69/10/10/10/1
(18)ジクロロメタン/メチルアセテート/メタノール/イソブチルアルコール=65/15/10/10
(19)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=85/7/3/5
(20)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2
(21)ジクロロメタン=100
(22)アセトン/エタノール/ブタノール=80/15/5
(23)メチルアセテート/アセトン/メタノール/ブタノール=75/10/10/5
(24)1,3−ジオキソラン=100
(25)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/水=85/18/1.5/0.5
(26)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/ブタノール/水=87/5/5/2.5/0.5
(27)ジクロロメタン/メタノール=92/8
(28)ジクロロメタン/メタノール=90/10
(29)ジクロロメタン/メタノール=87/13
(30)ジクロロメタン/エタノール=90/10
また、場合により、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とすることもでき、詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載がある。
(溶液濃度)
調製する前記セルロースアシレート溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。
前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
(セルロースアシレート溶液の調製)
セルロースアシレート溶液の調製は、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過してセルロースアシレート溶液を得る。
本発明においては、ポリマーの溶媒への溶解性を向上させるため、ポリマーと溶媒の混合物を冷却および/または加熱する工程を含むことが好ましい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜39℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜39℃に加温する工程を含むことが好ましい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(a)または(b)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(a)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜39℃に加温する。
(b)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜39℃に冷却する。
さらに、溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜−10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜55℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜57℃に加温する工程を含むことが好ましい。
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースアシレートと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(c)または(d)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースアシレートを溶解する工程を含むことが好ましい。
(c)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜57℃に加温する。
(d)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜57℃に冷却する。
(安定剤や添加剤の添加)
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた各種の液体または固体の安定剤や添加剤を添加することができる。添加の方法は特に制限されず、通常用いられている方法を適宜選択して採用することができる。
[本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの製膜]
本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムは、上記のセルロースアシレート溶液を用いて溶液流延製膜方法により製造することができる。溶液流延製膜方法の実施に際しては、従来の方法に従い、従来の装置を用いることができる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製することができる。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
また、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムは、上記のセルロースアシレート溶液を用いずに溶融流延製膜方法により製造することもできる。溶融流延製膜方法は、ポリマーを加熱して溶融したものを支持体上に流延し、冷却してフィルムを形成する方法である。ポリマーの融点、もしくはポリマーと各種添加剤との混合物の融点が、これらの分解温度よりも低くかつ延伸温度よりも高い場合には、溶融流延製膜方法を採用することが可能である。溶融流延製膜方法については、特開2000−352620号公報などに記載がある。
本発明においては、熱処理前のセルロースアシレートフィルムの製膜の際に用いる金属支持体として金属バンドまたは金属ドラムを使用することができる。金属バンドを使用して製膜したセルロースアシレートフィルムを用いる場合は、熱処理後のフィルムのRthが低くなるという傾向があり、前記添加剤等、他のレタデーションを調整する要素にもよるが、Nzが0〜0.5であるフィルムを作製することができる。また、金属ドラムを使用して製膜したセルロースアシレートフィルムを用いる場合は、熱処理後のフィルムのRthが高くなるという傾向があり、前記添加剤等、他のレタデーションの調整する要素にもよるが、Nzが0.4以上、場合によりさらにNzが1未満の条件も満たすフィルムを作製することができる。これらの本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの熱処理後のRthの違いは、製膜過程でウェブにかかる外力が異なることに起因する、熱処理前のフィルム中に存在するセルロースアシレートポリマー鎖の面配向状態の違いが原因であると推測される。
本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムのレタデーションを制御する際には、熱処理前のセルロースアシレートフィルムにかかる力学的な履歴、すなわち製膜過程においてセルロースアシレートウェブに与えられる外力を制御しておくことが好ましい。具体的には、本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムが、大きなReを示し且つ負のRthを示す場合は、セルロースアシレートウェブを、好ましくは0.1%以上15%未満、より好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは1〜8%延伸する。なお、熱処理前のセルロースアシレートフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向へ、延伸することが好ましい。この延伸の際のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、下記式に基づいて算出されるもので5〜1000%とする。残留溶媒量は、10〜200%であることが好ましく、30〜150%であることがより好ましく、40〜100%であることがさらに好ましい。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のセルロースアシレートフィルムを110℃で3時間乾燥させたときの質量を表す]
また、大きなReを示し且つ正のRthを示す場合は、セルロースアシレートウェブを、好ましくは15〜300%、より好ましくは18〜200%、さらに好ましくは20〜100%延伸する。なお、熱処理前のセルロースアシレートフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向へ、延伸することが好ましい。この延伸の際のセルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、上記式に基づいて算出されるもので5〜1000%とする。残留溶媒量は、30〜500%であることが好ましく、50〜300%であることがより好ましく、80〜250%であることがさらに好ましい。
前記延伸の際のセルロースアシレートウェブの延伸倍率(伸び)は、金属支持体速度と剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)との周速差により達成することができる。このような延伸を行うことによって、レタデーションの発現性を調整することができる。
残留溶媒量が5%以上の状態で延伸すればヘイズが大きくなりにくく、残留溶媒量が1000%以下の状態で延伸すればセルロースアシレートポリマー鎖に加えられる外力が伝わりやすく、前記溶媒を含有した状態で実施されるセルロースアシレートウェブ延伸によるレタデーション発現性調整の効果が大きくなる傾向がある。なお、セルロースアシレートウェブの残留溶媒量は、前記セルロースアシレート溶液の濃度、金属支持体の温度や速度、乾燥風の温度や風量、乾燥雰囲気中の溶媒ガス濃度等を変更することにより、適宜調整することができる。
さらに、前記セルロースアシレートウェブを伸ばす工程においては、ウェブの膜面温度はセルロースアシレートポリマーに外力を伝える観点から低いほうが好ましく、ウェブの温度を(Ts−100)〜(Ts−0.1)℃とすることが好ましく、(Ts−50)〜(Ts−1)℃とすることがより好ましく、(Ts−20)〜(Ts−3)℃とすることがさらに好ましい。ここで、Tsは流延支持体の表面温度を表し、流延支持体の温度が部分的に異なる温度に設定されている場合には、支持体中央部における表面温度のことを表す。
このようにして伸ばされる工程を経たセルロースアシレートウェブは、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、テンターで両端をクリップされたり、ロール群で搬送したりしながら乾燥を終了する。
このようにして乾燥の終了したフィルム中の残留溶剤量は0〜2質量%が好ましく、より好ましくは0〜1質量%である。このフィルムは、そのまま熱処理ゾーンへ搬送してもよいし、フィルムを巻き取ってからオフラインで熱処理を実施してもよい。熱処理前のセルロースアシレートフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。また、一旦フィルムを巻き取る場合には、好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
製膜した本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムの膜厚80μm換算の透湿度は、100g/(m2・day)以上であることが好ましく、100〜1500g/(m2・day)であることがより好ましく、200〜1000g/(m2・day)であることがさらに好ましく、300〜800g/(m2・day)であることが特に好ましい。
本発明における透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップを評価するフィルムで蓋をして密閉したものを、40℃・相対湿度90%の条件で24時間放置した際の調湿前後の質量変化(g/(m2・day))から評価した値である。なお、透湿度は、温度の上昇に伴い上昇し、また、湿度の上昇に伴い上昇するが、各条件によらず、フィルム間における透湿度の大小関係は不変である。そのため、本発明においては40℃・相対湿度90%における前記質量変化の値を基準とする。また、透湿度は膜厚の上昇に伴い低下し、膜厚の低下に伴い上昇するため、まず実測した透湿度に実測した膜厚を乗じ、それを80で割った値を本発明における「膜厚80μm換算の透湿度」とした。
(予備延伸)
本発明においては、前記製膜したセルロースアシレートフィルムは、後述の熱処理を行う前に延伸を行うことが好ましい。以下、当該延伸を「予備延伸」とも称するが、本発明の製造方法では当該予備延伸後にさらに延伸を行っても行わなくてもよい。該予備延伸を行うことにより、熱処理工程において、ReやRthの発現性をさらに調整したり、予備延伸の方向に直交する方向への大幅な寸法変化を抑えたりすることができる。具体的には、後述の範囲内で、延伸温度を低下させたり、延伸倍率を上昇させることにより、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、予備延伸工程と熱処理工程の間に他の工程を含んでいてもよい。
本発明の製造方法では、予備延伸は、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度をTg(単位;℃)としたとき、(Tg−50)〜(Tg+50)℃で行うことが好ましい。前記予備延伸温度は、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+50)℃であり、さらに好ましくは、Tg〜(Tg+40)℃であり、最も好ましくは、(Tg+5)〜(Tg+35)℃である。ただし、予備延伸温度は後述の熱処理温度を超えることはない。予備延伸温度は熱処理温度よりも5℃以上低い温度で実施することが好ましく、熱処理温度よりも10℃以上低い温度で実施することがより好ましく、熱処理温度よりも15℃以上低い温度で実施することがさらに好ましく、熱処理温度よりも20℃以上低い温度で実施することが特に好ましく、熱処理温度よりも35℃以上低い温度で実施することが最も好ましい。
本発明においてガラス転移温度とは、本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するポリマーの運動性が大きく変化する境界温度である。本発明におけるガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(DSC)の測定パンに本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分間保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、この後、再度30℃から250℃まで昇温し、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度である。
本発明の製造方法は、本発明の製造方法に用いるセルロースアシレートフィルムを結晶化温度(Tc)以上にすることにより、X線回折で観測される構造体を成長させ、レタデーションを調整できると推定されるが、このように予めフィルムに予備延伸を実施することによってポリマーを予備延伸方向にある程度配列させることができるため、後述の熱処理工程において、予備延伸の方向に直交する方向への大きな寸法変化を与えることなく、X線回折で観測される構造体を効率的に、且つ異方的に成長させることができる。また、予備延伸温度を、熱処理温度より低くすることにより、X線回折で観測される構造体を成長させることなくセルロースアシレートポリマーを配向させることができるため、その後の熱処理工程でより効率的にX線回折で観測される構造体を成長させることができるという利点がある。
前記予備延伸の方向は特に制限されるものではなく、熱処理前のセルロースアシレートフィルムが搬送されている場合には、搬送方向に延伸する縦延伸であっても、それに直交する方向に延伸する横延伸であってもよいが、遅相軸を出そうとしている方向に直交する方向に延伸することが好ましい。例えば、IPSモードやVAモードの液晶パネル用途として好ましく用いるためには、フィルム面内の遅相軸を幅方向に出すことが好ましいため、予備延伸は縦延伸であることが好ましい。縦延伸や横延伸の方法や好ましい態様については後述する熱処理の欄を参照することができる。予備延伸倍率は1〜500%であることが好ましく、3〜400%がより好ましく、5〜300%がさらに好ましく、10〜100%がさらにより好ましい。これらの予備延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。なお、ここでいう「予備延伸倍率(%)」とは、以下の式により求められるものを意味する。
予備延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
前記予備延伸における延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20〜1000%/分であり、さらに好ましくは30〜800%/分である。
[熱処理]
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、セルロースアシレートフィルムを、下記式(1)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とする。ここで、熱処理は搬送しながら行うことが好ましい。
式(1): Tc≦T<Tm0
式(1)において、Tcは熱処理前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度を表し、単位は℃である。本発明において結晶化温度とは、セルロースアシレートフィルムを構成するポリマーが規則的な周期構造を形成する温度のことを示し、この温度を超えるとX線回折で観測される構造体が成長する。本発明における結晶化温度は、DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に、観測された発熱ピークの開始温度である。なお、この範囲で発熱ピークが観測されない場合は、結晶化温度が観測されないとみなす。Tcは通常、前述のガラス転移温度(Tg)よりも高温側に現れる。例えば、全置換度が2.85のセルローストリアセテートフィルムの結晶化温度は添加剤や製膜条件等により上下するが、約190℃であり、全置換度が2.92のセルローストリアセテートフィルムの結晶化温度は約170℃である。
式(1)において、Tm0は熱処理前のセルロースアシレートフィルムの融点を表し、単位は℃である。本発明における融点は、DSCの測定パンに熱処理前のセルロースアシレートフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に、観測された吸熱ピークの開始温度である。Tm0は通常、前述の結晶化温度(Tc)よりも高温側に現れる。例えば、全置換度が2.85のセルローストリアセテートフィルムの融点は添加剤や製膜条件等により若干上下するが、約285℃であり、全置換度が2.92のセルローストリアセテートフィルムの融点は約290℃である。
式(1)の条件を満たす温度Tでセルロースアシレートフィルムを熱処理することによって、セルロースアシレートフィルムのレタデーションの発現性を調整することができる。特に、Reを高めることができる。式(1)の条件を満たす温度Tで熱処理することによって、熱処理前よりもReが通常は15nm以上上昇するが、25nm以上上昇することが好ましく、50nm以上上昇することがより好ましい。また、100nm以上上昇することがさらに好ましく、150nm以上上昇することがさらにより好ましく、200nm以上上昇することが特に好ましい。Reの上昇幅は、前述の予備延伸の条件(温度や倍率)や熱処理の条件(特に温度)等により制御することができる。また、式(1)の条件を満たす温度Tで熱処理することによって、従来は製造することが容易ではなかったレタデーション値を有するセルロースアシレートフィルムを簡便な方法で製造することができるようになった。特に、従来は煩雑な製法によらなければ製造することができなかったNzが−0.05〜1.05、特にNzが0より大きく1未満のセルロースアシレートフィルムを簡便な方法でトタン板状のシワなく製造することができるようになった。
本発明の製造方法における熱処理温度は、下記式(1a)を満たすことが好ましく、下記式(1b)を満たすことがより好ましく、下記式(1c)を満たすことがさらに好ましい。これらの式を満たす温度を選択することによって、Re発現性が増大したり、場合により延伸方向と遅相軸の方向とが直交したりするという利点がある。
式(1a): Tc+5≦T<Tm0−5
式(1b): Tc+10≦T<Tm0−10
式(1c): Tc+15≦T<Tm0−15
本発明の製造方法にしたがって特にTc≦T<Tm0−5を満たす温度Tで延伸することによって、セルロースアシレートポリマー鎖の運動性を向上させることができるため、延伸倍率の増大に伴うフィルムの白化(ヘイズ上昇)やフィルムの切断を防ぐことができる。また、後述のように延伸速度や延伸倍率を調整することによって、セルロースアシレートポリマー鎖の凝集や配向と、同時に起こる熱緩和とのバランスを適切に制御することができる。したがって、本発明の製造方法に従うことにより、フィルム中のセルロースアシレートポリマー鎖の凝集や配列を高度に進めることができ、弾性率が大きく、湿度寸法変化が小さく、適度な透湿度を有するセルロースアシレートフィルムを製造することが可能となる。
本発明の製造方法における熱処理は、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら行うことが好ましい。搬送方向は、予備延伸時の延伸方向または延伸方向に直交する方向とすることが好ましい。セルロースアシレートフィルムの搬送手段は特に制限されないが、典型的な例としてニップロールやサクションドラムにより搬送する手段、テンタークリップで把持しながら搬送する手段、空気圧で浮上搬送する手段、隙間が狭い複数の搬送ローラにより搬送する手段などを挙げることができる。好ましいのは、ニップロールにより搬送する手段、テンタークリップで把持しながら搬送する手段、隙間が狭い複数の搬送ローラにより搬送する手段であり、より好ましいのは、テンタークリップで把持しながら搬送する手段、隙間が狭い複数の搬送ローラにより搬送する手段である。
テンタークリップで把持しながら搬送する手段は、具体的には、搬送方向に直交する線上にあるセルロースアシレートフィルム両端部をそれぞれテンタークリップで把持し、一方の端部を把持したテンタークリップと他方の端部を把持したテンタークリップとの間の距離を制御しながら搬送することにより行うことができる。テンタークリップ間の距離は、テンターレールパターンを適宜設定することにより制御することが可能である。このようにして、テンタークリップ間の距離を制御することにより、幅方向の寸法変化率を所望の値に抑制しながらセルロースアシレートフィルムを熱処理することができる。
本発明にしたがって幅方向の寸法変化を抑制することにより、幅方向の寸法変化率を−30%〜+100%とすることが好ましく、−20%〜+40%とすることがより好ましく、−10%〜+10%とすることがさらに好ましい。幅方向の寸法変化を抑制しない場合は、フィルム幅とロール間の隙間の比、搬送テンション等によって変化するが、−40%程度の寸法変化率となり、好ましくない。また、+100%以下とすることで、Reの低減、Rthの上昇(以上によるNZファクターの上昇)を許容範囲内に留めることができ、好ましい。
以上のようにすることにより、レタデーション発現性を確保しつつ、フィルムの割れやすさやトタン板状のシワを改良し、さらに広い製品幅を確保することが可能となる。また、ReやRthの湿度依存性を大幅に改良できる、という効果も得られる。
熱処理工程における、予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率は、例えば予備延伸の方向に直交する方向がフィルムの幅方向である場合、熱処理に伴う幅方向の寸法変化率として以下のようにして求めることができる。
熱処理に伴う幅方向の寸法変化率は、熱処理によってフィルムの全幅が熱処理直前よりも短くなる場合は、熱処理中の最小全幅と熱処理直前の全幅とから、次式で求めることができる。
幅方向への寸法変化率(%)=100×(熱処理中の最小全幅−熱処理直前の全幅)/熱処理直前の全幅
ここでいう熱処理中の最小全幅とは、熱処理工程中においてフィルムが幅方向に最も収縮して短くなったときの幅を意味する。例えば、全幅200cmのフィルムが熱処理中に180cmまで収縮した後に190cmまで膨張した(延伸された)場合は、熱処理中の最小全幅は180cmとなる。
熱処理によってフィルムの全幅が熱処理直前よりも短くならない場合や、熱処理工程中にフィルムが収縮するだけで膨張しない場合は、幅方向への寸法変化率は熱処理ゾーン入口におけるフィルム全幅と熱処理ゾーン出口におけるフィルム全幅とから、次式で求めることもできる。
幅方向への寸法変化率(%)=100×(熱処理直後の全幅−熱処理直前の全幅)/熱処理直前の全幅
搬送の速度は、通常は1〜500m/分であり、5〜300m/分が好ましく、10〜200m/分がより好ましく、20〜100m/分がさらに好ましい。搬送速度が、上記の下限値である1m/分以上であれば産業上、十分な生産性を確保することができるという点で好ましくなる傾向があり、上記の上限値である500m/分以下であれば実用的な熱処理ゾーン長で十分に結晶成長を進行させることができるという点で好ましくなる傾向がある。搬送速度を速くすればフィルムの着色を抑制することができる傾向があり、搬送速度を遅くすれば熱処理ゾーン長を短くすることができる傾向がある。熱処理中の搬送速度(搬送速度を決定するニップロールやサクションドラム等の装置の速度)は一定にしておくことが好ましい。
本発明の製造方法における熱処理の方法として、例えば、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を通過させる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱風をあてる方法、搬送されているセルロースアシレートフィルムに熱線を照射する方法、セルロースアシレートフィルムを昇温されたロールに接触させる方法などを挙げることができる。
好ましいのは、セルロースアシレートフィルムを搬送しながら温度Tのゾーン内を熱風をあてながら通過させる方法である。この方法によれば、セルロースアシレートフィルムを均一に加熱することができるという利点がある。ゾーン内の温度は、例えば温度センサでモニターしつつヒータで一定温度に制御することにより温度Tに維持することができる。温度Tのゾーン内のセルロースアシレートフィルムの搬送長は、製造しようとするセルロースアシレートフィルムの性質や搬送速度によって異なるが、通常は(搬送長)/(搬送するセルロースアシレートフィルムの幅)の比が0.1〜100となるように設定することが好ましく、より好ましくは0.5〜50であり、さらに好ましくは1〜20である。この比は、本明細書において縦横比と略すこともある。温度Tのゾーンの通過時間(熱処理の時間)は、通常0.01〜60分であり、好ましくは0.03〜10分であり、さらに好ましくは0.05〜5分である。前記範囲とすることにより、レタデーションの発現に優れ、フィルムの着色を抑制することができる。
本発明においては、熱処理ゾーンにおける酸素濃度を0〜18容量%にすることが好ましく、0〜10容量%にすることがより好ましく、0〜5容量%にすることがさらに好ましく、0〜2容量%にすることが特に好ましい。熱処理ゾーンの酸素濃度を低下させることによって、熱処理工程におけるセルロースアシレートの劣化をさらに低減させることができる。熱処理ゾーンの酸素濃度を低下させる方法は特に限定されないが、熱処理ゾーン内に不活性ガスを流入させる方法や、真空機器によって熱処理ゾーン内を減圧や脱気する方法等によって低下させることができ、不活性ガスとして希ガス類あるいは窒素等の気体を使用できる。
本発明の製造方法では、熱処理と同時に延伸してもよい。熱処理時の延伸方向は特に制限されるものではないが、トタン板状シワ、Re湿度依存性の改良の観点からは予備延伸時のセルロースアシレートフィルムの配向方向に直交する方向への延伸であることが好ましい。延伸の方法は特に制限されないが、例えばセルロースアシレートフィルムの両端をテンタークリップで把持し、これを搬送方向に直交する方向(幅方向)に広げながら加熱ゾーンを通過させることにより延伸することができる。また前記延伸における延伸速度は20〜10000%/分が好ましく、より好ましくは40〜1000%/分であり、さらに好ましくは50〜500%/分である。
熱処理の際には、セルロースアシレートフィルムを収縮させてもよい。当該収縮は、熱処理時に行うことが好ましい。熱処理の際にセルロースアシレートフィルムを収縮させることによって、光学特性および/または力学物性を調整することができるようになる。収縮は、熱処理の際に行うだけでなく、熱処理の前後の工程でも行うことができる。また、収縮工程は一段で行ってもよく、収縮工程と延伸工程とを繰り返し実施してもよい。
フィルムに対する収縮の方向は、特に制限されるものではないが、搬送方向に直交する方向に、収縮させることが好ましい。収縮率は熱処理温度の調整や、フィルムにかかる外力の調整によって抑制することができる。具体的には、フィルムの端部をテンタークリップで把持している場合にはレールの拡幅率などで抑制することができる。また、フィルムの端部が固定されていない場合には、密ロールゾーンを設置し、そのロール間距離の調整や、そのゾーン間でフィルムにかかるテンションの調整や、ソーン温度の調整などによって抑制することができる。
セルロースアシレートフィルムを熱処理する工程は、本発明の製造方法において1回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回行うとは、前の熱処理が終了した後に一旦温度をTc未満に下げ、その後、再び温度をTc以上Tm0未満に設定して搬送しながら熱処理を行うことを意味する。また、複数回行うとは、温度の異なる複数のゾーンを用意して搬送しながら熱処理を行うことも意味する。この場合、温度を徐々に上げていっても良い。複数回熱処理を行う場合は、すべての熱処理が完了した段階で上記の延伸倍率の好ましい範囲を満たすことが望ましい。本発明の製造方法における熱処理は、3回以下が好ましく、2回以下がより好ましい。
[熱処理後の冷却]
熱処理を終えたポリマーフィルムは、Tc未満の温度に冷却する。このとき、0.1〜500N/mの搬送張力で搬送しながら冷却することによって、最終的に得られるセルロースアシレートフィルムのレタデーション(特にRe)の湿度依存性を効果的に低減することができる。冷却時の搬送張力は、1〜400N/mであることが好ましく、10〜300N/mであることがより好ましく、50〜200N/mであることがさらに好ましい。搬送張力を0.1N/m以上にすることにより、レタデーションの湿度依存性を低減し、さらに面状も良好にしやすくなる傾向がある。また、搬送張力を500N/m以下にすることにより、レタデーションの湿度依存性を低減し、さらにReの絶対値を上げやすくなる傾向がある。
搬送張力の制御は、例えば、冷却ゾーンの直前と冷却ゾーンの後方とに、少なくとも一対の張力制御装置(例えば、ニップロールやサクションドラムなど)を配置し、それぞれの回転数を調整することによって行うことができる。具体的には、一対のテンション制御装置の送出し速度(v1)と巻取り速度(v2)との比(v2/v1)を小さくすると搬送張力は低下し、大きくすると搬送張力は上昇する。
冷却時の冷却速度は特に制限されるものではないが、好ましくは100〜1,000,000℃/分、より好ましくは1,000〜100,000℃/分、さらに好ましくは3,000〜50,000℃/分でフィルムを冷却する。このような冷却速度でフィルムを冷却する温度幅は、50℃以上であることが好ましく、100〜300℃であることがより好ましく、150〜280℃であることがさらに好ましく、180〜250℃であることが特に好ましい。
このように冷却速度を調整することによって、得られるセルロースアシレートフィルムのレタデーションの発現性をさらに調整することができる。具体的には、冷却速度を速くすることによって、レタデーションの発現性を向上させることができる。また、セルロースアシレートフィルム中の、厚み方向のポリマー鎖の配向の分布を低減させることができ、フィルムの湿度カールを抑制することができる。このような効果は、比較的速い冷却速度で冷却する温度幅を上記の好ましい範囲に制御することによって、さらに十分に得ることができる。
前記冷却速度は、加熱ゾーンの後に、加熱ゾーンより低い温度に保持された冷却ゾーンを設けておいて、これらのゾーンにセルロースアシレートフィルムを順次搬送したり、冷却ロールをフィルムと接触させたり、冷却風をフィルムに吹き付けたり、フィルムを冷却された液体に浸漬したりして制御することができる。冷却速度は、冷却工程中において常に一定であることは必要とされず、冷却工程の初期と終盤は冷却速度を小さくし、その間において冷却速度を大きくしてもよい。冷却速度は、後述する実施例に記載されるようにフィルム膜面上に配置した熱電対によって複数地点の温度を測定することにより求めることができる。
[熱処理後の延伸(再延伸)]
本発明の製造方法では、セルロースアシレートフィルムの上記の熱処理後に延伸を行ってもよい(他の延伸と区別するために「再延伸」という)。これにより、最終的に得られる透明フィルムのレタデーション(特にRe)の湿度依存性を効果的に低減することができる。特に、熱処理時の予備延伸の方向に直交する方向への寸法変化率を−10%以上、好ましくは−10〜10%とし、さらに再延伸を行うことにより、一段と効果的にレタデーションの湿度依存性を効果的に低減することができる。再延伸温度は、目的のRe、Rth値に応じて、適宜、設定することができるが、(Tg−20)〜(前記熱処理温度)℃であることが好ましく、(Tg−10)〜(前記熱処理温度−20)℃であることがより好ましく、Tg〜(前記熱処理温度−40)℃であることがさらに好ましい。ここで、Tgは熱処理前のセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(単位;℃)を表す。
再延伸の実施により、結晶部分を大きく動かすことなく、配向した非晶部分を減少させることができると考えられる。したがって、Reを大きく動かすことなく、ΔReを低減させることが可能となる。このような再延伸は、配向した非晶部分を効率的に減少させる観点から、前記熱処理工程において延伸を伴う場合には、当該延伸方向に直交する方向への再延伸であることが好ましく、前記熱処理工程が延伸を伴わない場合には、結晶の配向方向への延伸であることが好ましく、一般に、幅方向への横延伸であることがより好ましい。
再延伸は、熱処理後にセルロースアシレートフィルムがTc未満の温度まで冷却された後に行われてもよく、熱処理温度を保ったまま冷却されることなく行われてもよい。
再延伸の方法としては、上記の熱処理中の延伸の説明にて記載した方法等を採用することができる。再延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。好ましいのは、上記のニップロールの回転速度を変えることにより搬送方向に延伸する方法とポリマーフィルムの両端をテンタークリップで把持してこれを搬送方向に直交する方向に広げることより延伸する方法である。特に好ましいのは、熱処理の際に延伸を行わないか、あるいは、ニップロールの回転速度を変えることにより搬送方向に延伸しておき、熱処理後にポリマーフィルムの両端をテンタークリップで把持してこれを搬送方向に直交する方向に広げることより再延伸する態様である。
再延伸の延伸倍率はセルロースアシレートフィルムに要求するレタデーションに応じて適宜設定することができ、1〜500%が好ましく、3〜400%がより好ましく、5〜300%がさらに好ましく、10〜100%が特に好ましい。ここでいう再延伸の倍率は、以下の式により求められる。
再延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
再延伸の延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20〜1000%/分であり、さらに好ましくは30〜800%/分である。
熱処理後に再延伸を行うことにより、得られる透明フィルムのReとRthを調整することができる。例えば、再延伸の延伸温度を高くすることによって、Reをあまり変化させずにRthを低下させることができる。また、再延伸の延伸倍率を高くすることによって、Reを低下させRthを上昇させることもできる。これらは、ほぼ線形的な相関関係を示すことから、再延伸の延伸条件を適当に選択することによって、目的とするReやRthを達成しやすくなる。
熱処理が終わった後、再延伸を行う前の状態のセルロースアシレートフィルムのReやRthは特に制限されない。
《セルロースアシレートフィルム》
(本発明のセルロースアシレートフィルムの特徴)
上記の本発明の製造方法によれば、高いReを実現しながら、黄色味が低減されており、なおかつ、力学特性も良好なセルロースアシレートフィルムを得ることができる。特に、従来の製造方法では製造することが容易ではなかった、Nzが0〜1でReが50nm以上であって、さらに上記特性を備えたセルロースアシレートフィルムを比較的簡単な方法で製造することができる。
(レタデーション)
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(2)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(2): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
本明細書において、Re(λnm)、Rth(λnm)は各々、波長λ(単位;nm)における面内レタデーションおよび厚さ方向のレタデーションを表す。Re(λnm)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレタデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレタデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレタデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(3)および式(4)よりRthを算出することもできる。
式(3)
Figure 2009241398
[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する厚み方向の屈折率を表し、dはフィルムの膜厚を表す。]
式(4): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λnm)は算出される。
Rth(λnm)は前記Re(λnm)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレタデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムは、前記Reが50nm以上であることを特徴とする。また、本発明のセルロースアシレートフィルムのReは60〜400nmであることが好ましく、80〜300nmであることがより好ましい。
本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムは、上記式(I)で表されるNzが0〜1であることが好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムのNzは0.1〜0.9であることがより好ましく、0.2〜0.8であることがさらに好ましく、0.3〜0.7であることが特に好ましい。
これらのNz値は、前述の熱処理されたセルロースアシレートフィルムに対し、前述の熱処理後の延伸(再延伸)工程を適用することによって、適宜、上昇させることができる。
(湿度依存性)
本発明において、Reの湿度依存性(ΔRe)およびRthの湿度依存性(ΔRth)は、相対湿度がH(単位;%)であるときの面内方向および膜厚方向のレタデーション値:Re(H%)およびRth(H%)から、下記式に基づいて算出される。
ΔRe=Re(10%)−Re(80%)
ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%)
Re(H%)およびRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレタデーション値を測定、算出したものである。なお、相対湿度を明記せずに単にReと表記されている場合は、相対湿度60%で測定した値である。
本発明のセルロースアシレートフィルムの湿度を変化させた場合のレタデーション値は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
|ΔRe/Re|<0.5、且つ、
|ΔRth|<50
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|ΔRe/Re|<0.3、且つ、
|ΔRth|<40
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|ΔRe/Re|<0.2、且つ、
|ΔRth|<30
また、本発明のセルロースアシレートフィルムの湿度を変化させた場合のレタデーション値は、以下の関係式も満たすことが好ましい。
|ΔRe|<50
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|ΔRe|<40
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|ΔRe|<30
また以下の関係式を満たすことが最も好ましい。
|ΔRe|<20
上記湿度を変化させた場合のレタデーション値を制御することにより、外部環境が変化した場合のレタデーション変化を低下させることができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
(遅相軸)
本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムは、製造時の搬送方向とフィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0±10°もしくは90±10°であることが好ましく、0±5°もしくは90±5°であることがより好ましく、0±3°もしくは90±3°であることがさらに好ましく、場合により、0±1°もしくは90±1°であることが好ましく、90±1°であることが最も好ましい。
(結晶化熱量)
本発明のセルロースアシレートフィルムの結晶化熱量(ΔHc)は、小さい方がレタデーション発現性の観点から好ましく、0〜2.0J/gであることが好ましく、0〜1.0J/gであることがより好ましく、0〜0.5J/gであることがさらに好ましく、0J/gであること、すなわちΔHcが観測されないことが特に好ましい。結晶化熱量とは、DSCの測定パンにフィルムを20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた発熱ピークと試料のベースラインとで囲まれる面積である。
(融解熱量)
本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムの融解熱量(ΔHm)は、通常0J/gより大きく、好ましくは5〜45J/gであり、より好ましくは10〜40J/gであり、さらに好ましくは15〜35J/gである。融解熱量とは、DSCの測定パンにフィルムを5〜6mg入れ、これを窒素気流中で20℃/分で30℃から120℃まで昇温し、15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から300℃まで昇温した際に現れた吸熱ピークと試料のベースラインとで囲まれる面積である。
本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムは、上記吸熱ピークの頂点である融解温度が観測される。すなわち融解熱量が0J/gより大きい。本発明のセルロースアシレートフィルムは熱処理により、規則的な構造体を形成、もしくは肥大化させることで所望のレタデーションを発現させているため、上記融解熱量が観測される。上記の結晶化温度と融解熱量とが観測されないセルロースアシレートフィルムは、そもそも規則構造体を形成することができないため所望のレタデーションを発現することができず、本発明には適していない。すなわち、熱処理を行う前のセルロースアシレートフィルムには結晶化温度と融解温度の両方が観測されるが、熱処理を行った後のセルロースアシレートフィルムには、結晶化温度が観測されないが、融解温度は観測される。
(黄色味)
本発明の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルムは、黄色味が抑制されている点に特徴がある。本発明のセルロースアシレートフィルムの着色程度は、イエローネスインデックス(YI)値を用いて評価することができる。フィルムのYI値は、JIS K7105 6.3に従い測定し、YI値が大きいほど、着色(黄変)が悪いフィルムであることを示す。本発明のセルロースアシレートフィルムのYI値は0〜15であることが好ましく、0〜10であることがより好ましく、0〜8であることがさらに好ましく、0〜5であることが特に好ましい。熱処理により結晶化を促進したフィルムでは、ReおよびRthが制御されたフィルムを製造することができるため、これらを液晶表示装置に組み込むことにより、十分な視野角補償をすることができ、良好な視認性を確保することができていたが、従来のセルロースアシレートフィルムでは、レタデーション発現性とフィルムの着色および力学特性(脆性)とがトレードオフの関係にあった。そのため、このような液晶表示装置で中間調表示を行った場合には、表示特性が黄色味がかってしまう問題があったが、本発明では、レタデーション発現性を確保しつつ、YI値を前記範囲に調整したフィルムを製造することにより、表示特性上、実用的に問題のない液晶表示装置を提供することができる。
(引裂き強度)
本発明において、引裂き強度(エルメンドルフ引裂き法)は、フィルムの遅相軸と平行な方向、および直交する方向を長手方向として、それぞれ64mm×50mmの試料を切り出し、25℃、相対湿度60%にて2時間調湿後、軽荷重引裂き強度試験機を用いて測定し、小さい方の値をフィルムの引裂き強度とした。
本発明のセルロースアシレートフィルムの引裂き強度は、通常5g以上であり、8〜50gであることが好ましく、10〜40gであることがより好ましく、12〜30gであることがさらに好ましい。
(波打ち高さ)
本発明において、波打ち高さとは、フィルムを30cm×30cmに切り出し、水平で平滑な台の上に切り出した試料を置き、平面性不良に伴う波打ち状のシワの高さ(台からフィルムまでの距離)をノギスを用いて計測し、最大値をフィルムの波打ち高さとした。
本発明のセルロースアシレートフィルムの波打ち高さは、0〜5mmであることが好ましく、0〜3mmであることがより好ましく、0〜2mmであることがさらに好ましい。
(ヘイズ)
本発明において、セルロースアシレートフィルムのヘイズは、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、ヘイズメーター(NDH 2000:日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
本発明において、熱処理後のセルロースアシレートフィルムのヘイズは小さいほうが好ましく、1.0%以下が好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下が最も好ましい。
また、本発明において、予備延伸後、熱処理前のセルロースアシレートフィルムのヘイズは、0.5〜20%であることが好ましく、1.0〜10%であることがより好ましく、1.5〜6.0%であることがさらに好ましい。熱処理前のヘイズが0.5%未満であるとレタデーション発現性が低下する傾向にあり、20%より大きいとフィルムが脆くなる傾向にある。
(膜厚)
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は20μm〜180μmが好ましく、30μm〜160μmがより好ましく、40μm〜120μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
(透湿度)
本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、80μm換算で100g/(m2・day)以上であることが好ましい。前記80μm換算の透湿度を100g/(m2・day)以上としたフィルムを使用することで、偏光膜と直接貼合しやすくなる。前記80μm換算の透湿度としては、100〜1500g/(m2・day)がより好ましく、200〜1000g/(m2・day)がより好ましく、300〜800g/(m2・day)がさらに好ましい。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを後述のように偏光膜と液晶セルとの間に配置されない外側の保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、80μm換算で500g/(m2・day)未満であることが好ましく、100〜450g/(m2・day)がより好ましく、100〜400g/(m2・day)がさらに好ましく、150〜300g/(m2・day)が最も好ましい。このようにすることで、湿度もしくは湿熱に対する偏光板の耐久性が向上し、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
(音波伝搬速度(音速))
本発明において音波伝播速度が最大となる方向は、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、配向性測定機(SST−2500:野村商事(株)製)を用いて、超音波パルスの縦波振動の伝搬速度が最大となる方向として求めた。
(セルロースアシレートフィルムの構成)
本発明のセルロースアシレートフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のポリマーフィルムを意味する。そして、複数のセルロースアシレート溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のポリマーフィルムを製造する場合も含む。この場合、添加剤の種類や配合量、ポリマーの分子量分布やポリマーの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなポリマーフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
(表面処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)との接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
フィルム表面と機能層との接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明のセルロースアシレートフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、セルロースアシレートフィルム上に設けられる機能性層について、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、本発明のセルロースアシレートフィルム上に使用することができる。
《位相差フィルム》
本発明のセルロースアシレートフィルムは、位相差フィルムとして用いることができる。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
また、場合により、本発明のセルロースアシレートフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成してもよいし、本発明のセルロースアシレートフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
[ディスコティック液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang etal.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
[棒状液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
《偏光板》
本発明のセルロースアシレートフィルムまたは位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(セルロースアシレートフィルム)からなり、本発明のセルロースアシレートフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明のセルロースアシレートフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記セルロースアシレートフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のセルロースアシレートフィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)との間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光膜を挟んで本発明のセルロースアシレートフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
《液晶表示装置》
本発明のセルロースアシレートフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のセルロースアシレートフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にVAモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムには、レタデーションの絶対値が最小となる方向が位相差フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
(その他の表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているという特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、λ/4波長板として偏光板と組み合わせて有機EL表示装置の内部反射防止用フィルムとして用いることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムをこの用途で用いた場合、NZファクターが0.5近辺となり、斜め方向からの外光に対しても内部反射をカットできるため、特に好ましく用いることができる。
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいても好ましく用いることができる。
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
《測定法》
まず、特性の測定法および評価法を以下に示す。
[ガラス転移温度(Tg)]
DSC測定装置(DSC8230:(株)リガク製)を用い、DSCのアルミニウム製測定パン(Cat.No.8578:(株)リガク製)にセルロースアシレートフィルムを5〜6mg入れ、これを50mL/分の窒素気流中で25℃から120℃まで20℃/分の昇温速度で昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却した。この後、再度30℃から250℃まで20℃/分の昇温速度で昇温した際に2本のベースラインの中線と試料のサーモグラムとの交点の温度をフィルムのガラス転移温度とした。
[融点(Tm0)および融解熱量(ΔHm)]
DSC測定装置(DSC8230:(株)リガク製)を用い、DSCのアルミニウム製測定パン(Cat.No.8578:(株)リガク製)にセルロースアシレートフィルムを5〜6mg入れ、これを50mL/分の窒素気流中で25℃から120℃まで20℃/分の昇温速度で昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却した。この後、再度30℃から320℃まで20℃/分の昇温速度で昇温した際に現れた吸熱ピークの頂点における温度をフィルムの融点とし、フィルムの融解熱量は吸熱ピークと試料のベースラインとで囲まれる面積とした。後述の実施例および比較例中、ΔHmが0J/g以上の場合は「融解熱量あり」と表すことがあり、前記吸熱ピークが観測されない場合は「ΔHmが0J/g」もしくは「融解熱量なし」と表すこともある。
[結晶化温度(Tc)および結晶化熱量(ΔHc)]
DSC測定装置(DSC8230:(株)リガク製)を用い、DSCのアルミニウム製測定パン(Cat.No.8578:(株)リガク製)にセルロースアシレートフィルムを5〜6mg入れ、これを50mL/分の窒素気流中で25℃から120℃まで20℃/分の昇温速度で昇温して15分保持した後、30℃まで−20℃/分で冷却し、さらにこの後、再度30℃から320℃まで20℃/分の昇温速度で昇温した際に現れた発熱ピークの開始温度をフィルムの結晶化温度とし、フィルムの結晶化熱量は発熱ピークと試料のベースラインとで囲まれる面積とした。
[イエローネスインデックス(YI)値]
フィルムを色差計「Z−II OPTICAL SENSOR」を用い、透過測定で下記式(V)により黄色味(YI;イエローネスインデックス)を算出した。
式(V): YI={(1.28X−1.06Z)/Y}×(100/d)
[式中、X、Y、Zは、色差計を用い、JIS K7105の6.3に従って測定される三刺激値であり、dはフィルムの厚み(単位;μm)である。]
[置換度]
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
[レタデーション]
フィルムの幅方向5点(フィルムの中央部、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)とを長手方向に100mごとにサンプリングし、5cm□の大きさのサンプルを取り出し、前述の方法に従って評価した各点の平均値を算出し、それぞれRe、Rth、ΔRe、ΔRth、および面内の遅相軸の方向を求めた。
[偏光度]
作製した2枚の偏光板を吸収軸を平行に重ね合わせた場合の透過率(Tp)および吸収軸を直交させて重ね合わせた場合の透過率(Tc’)を測定し、下記式から偏光度(P)を算出した。
偏光度P = ((Tp−Tc’)/(Tp+Tc’))0.5
《合成例》 セルロースアセテートプロピオネートの合成
セルロース(広葉樹パルプ)150g、酢酸75gを、反応容器である還流装置を付けた5Lセパラブルフラスコに取り、60℃に調節したオイルバスにて加熱しながら、2時間激しく攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、フラッフ状を呈した。反応容器を2℃の氷水浴に30分間置き冷却した。
別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545g、硫酸10.5gの混合物を作製し、−30℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に一度に加えた。30分経過後、外設温度を徐々に上昇させ、アシル化剤の添加から2時間経過後に内温が25℃になるように調節した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120gを1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。次いで反応容器に、50質量%含水酢酸に酢酸マグネシウム4水和物を硫酸の2倍モル溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1L、33質量%含水酢酸500mL、50質量%含水酢酸1L、水1Lをこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートの沈殿は温水にて洗浄を行った。このときの洗浄条件を変化させることで、残硫酸根量を変化させたセルロースアセテートプロピオネートを得ることができる。硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96により測定できる。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまで、さらに水で洗浄を行った後、70℃で真空乾燥させた。
1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.30、プロピオニル化度2.63、重合度320であった。
本発明で用いることができる他のセルロースアシレートも同様の方法により製造することができる。
《1》 セルロースアシレートフィルムの製造と評価
(ポリマー溶液の調製)
1)セルロースアシレート
下記のセルロースアシレートA〜Dのうち表1に記載されるものを選択して使用した。各セルロースアシレートは120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、表1記載の量[質量部]を使用した。
・セルロースアシレートA:
アセチル置換度が2.45、プロピオニル置換度が0.55のセルロースアセテートプロピオネートの粉体を用いた。セルロースアシレートBの粘度平均重合度は200であった。
・セルロースアシレートB:
置換度が2.94のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートAの粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.94であった。
・セルロースアシレートC:
置換度が2.86のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートCの粘度平均重合度は300、6位のアセチル基置換度は0.89、アセトン抽出分は7質量%、質量平均分子量/数平均分子量比は2.3、含水率は0.2質量%、6質量%ジクロロメタン溶液中の粘度は305mPa・s、残存酢酸量は0.1質量%以下、Ca含有量は65ppm、Mg含有量は26ppm、鉄含有量は0.8ppm、硫酸イオン含有量は18ppm、イエローインデックスは1.9、遊離酢酸量は47ppmであった。粉体の平均粒子サイズは1.5mm、標準偏差は0.5mmであった。
・セルロースアシレートD:
置換度が2.70のセルロースアセテートの粉体を用いた。セルロースアシレートDの粘度平均重合度は250、6位のアセチル基置換度は0.84であった。
2)溶媒
下記の溶媒AまたはBから表1に記載されるものを使用した。これらの溶媒の含水率は0.2質量%以下であった。
・溶媒A
ジクロロメタン/メタノール=87/13(質量部)
・溶媒B
ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2(質量部)
3)添加剤
下記の添加剤A〜Cの中から表1に記載されるものを選択し、表1記載のセルロースアシレート量に対して下記括弧内の添加量[質量%]を使用した。
・添加剤A
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.4質量%)
・添加剤B
エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)との縮合物(数平均分子量1000)
(12.0質量%)
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.4質量%)
・添加剤C
トリフェニルホスフェート(8.0質量%)
ビフェニルジフェニルホスフェート(4.0質量%)
二酸化ケイ素微粒子(粒子サイズ20nm、モース硬度約7)(0.4質量%)
4)溶解
各実施例および比較例において、下記の溶解工程AまたはBから表1に記載されるものを選択して使用して膨潤、溶解を行った。
・溶解工程A
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒および添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2〔4.9×105N/m/sec2〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2〔9.8×104N/m/sec2〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、さらに2MPaの加圧化で90℃まで加熱し、完全溶解した。加熱時間は15分であった。この際、高温にさらされるフィルター、ハウジング、および配管はハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
次に36℃まで温度を下げ、セルロースアシレート溶液を得た。
・溶解工程B
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、前記溶媒および添加剤を投入して撹拌、分散させながら、前記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート混合物を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2〔4.9×105N/m/sec2〕)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2〔9.8×104N/m/sec2〕)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
膨潤した混合物をタンクから、軸中心部を30℃に加温したスクリューポンプで送液して、そのスクリュー外周部から冷却して−70℃で3分間となるように冷却部分を通過させた。冷却は冷凍機で冷却した−75℃の冷媒を用いて実施した。冷却により得られた混合物は、スクリューポンプで送液柱に30℃に加温し、ステンレス製の容器に移送した。
次に、30℃で2時間撹拌し、セルロースアシレート溶液を得た。
5)ろ過
得られたセルロースアシレート溶液を、絶対濾過精度10μmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの金属焼結フィルター(FH025、ポール社製)にて濾過してポリマー溶液を得た。
6)安定剤の添加
下記の安定剤A〜Cの中から表1に記載されるものを選択し、セルロースアシレート量に対し表1記載の添加量[質量%]を添加した。製膜工程直前の配管にインラインでスタチックミキサーおよびスルーザミキサーを連結しておき、これを利用して安定剤を添加した。
・安定剤A(リン酸系酸化防止剤)
PEP−36G(旭電化工業(株)製)
・安定剤B(フェノール系ラジカル禁止剤)
Irganox 1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
・安定剤C(リン酸系酸化防止剤+フェノール系ラジカル禁止剤)
スミライザーGP(住友化学(株)製)
・安定剤D(硫黄系酸化防止剤)
スミライザーTPL−R(住友化学(株)製)
・安定剤E(ラクトン系酸化防止剤)
HP−136(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
(フィルムの作製)
下記の製膜工程AまたはBから表1に記載される方を選択して使用した。
・製膜工程A
前記セルロースアシレート溶液を30℃に加温し、流延ギーサー(特開平11−314233号公報に記載)を通して15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。流延スピードは50m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをバンドから剥ぎ取り、45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥して、セルロースアシレートフィルムを得た。
・製膜工程B
前記ポリマー溶液を30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の温度は−5℃に設定し、流延スピードは100m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターでクリップした。ピンテンターで保持されたセルロースアシレートフィルムは、乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥では45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥して、セルロースアシレートフィルムを得た。
(予備延伸)
上記製膜したセルロースアシレートの透明フィルムを、ロール延伸機を用いて縦一軸延伸処理を実施した。ロール延伸機のロールは表面を鏡面処理した誘導発熱ジャケットロールを用い、各ロールの温度は個別に調整できるようにした。延伸ゾーンはケーシングで覆い表1に記載の温度とした。延伸部の前のロールは徐々に表1に記載の延伸温度に加熱できるように設定した。延伸倍率は、ニップロールの周速を調整することで制御した。縦横比(ニップロール間の距離/ベース入口幅)は0.5となるように調整し、延伸速度は延伸間距離に対して10%/分とした。
フィルムの予備延伸倍率は、フィルムの搬送方向と直交する方向に一定間隔の標線を入れ、その間隔を熱処理工程前後で計測し、下記式から求めた。
フィルムの予備延伸倍率(%)=100×(熱処理後の標線の間隔−熱処理工程前の標線の間隔)/熱処理工程前の標線の間隔
また、各実施例において、予備延伸後のフィルム幅の減少率は、10〜25%であった。
(熱処理)
下記の熱処理工程AまたはBから表1に記載される方を選択して使用した。
・熱処理工程A
得られたフィルムの両端をテンタークリップで把持した後、1分間加熱ゾーン内を通過させた。幅方向の寸法変化率は、テンターの拡縮率を変更することにより調整した。加熱ゾーンの温度、および前述の方法にしたがって求めた幅方向の寸法変化率は、表1に記載した。
・熱処理工程B
得られたフィルムを、2つのニップロール間に加熱ゾーンを有する装置を用いて熱処理した。縦横比(ニップロール間の距離/ベース幅)は3.3となるように調整し、加熱ゾーンに入る前のベース温度は25℃とし、加熱ゾーンは表1記載の温度とした。送り出しのニップロールの速度(v10)と引取りのニップロールの速度(v11)との速度比(v11/v10)は1.20とした。前述の方法にしたがって求めた幅方向の寸法変化率は、表1に記載した。
(再延伸)
得られたフィルムの両端をテンタークリップで把持した後、加熱ゾーン内で搬送方向と直交する方向に延伸した。加熱ゾーンの温度は前記熱処理温度と同じ温度に設定し、およびテンターの拡縮率から算出した延伸倍率(再延伸ゾーン入口幅に対する再延伸ゾーン出口幅の増加率)は、2%とした。なお、熱処理工程Aを用いた場合は、熱処理ゾーン入口にてテンタークリップで把持した後、テンタークリップを外すことなく、そのまま再延伸ゾーンに搬送した。
(熱処理後のセルロースアシレートフィルムの評価)
得られた各セルロースアシレートフィルムの評価を行った。結果を下記表1に示す。なお、得られた各セルロースアシレートフィルムはいずれも結晶化温度が観測されなかった。
(歩留りの評価)
前記熱処理・再延伸工程において、実施例および比較例のロールを各々50ロールずつ製造したとき、セルロースアシレートフィルムの破断が2回を超える回数生じた場合は評価×とし、1回のセルロースアシレートフィルムの破断が生じた場合は評価△とし、セルロースアシレートフィルムの破断がなかった場合は評価○とし、表1に記載した。
Figure 2009241398
表1に示したように、本発明の製造方法に従って製造されたセルロースアシレートフィルムは、レタデーション発現性に優れると同時に着色が少なく、力学強度に優れるものであった。一方、比較例101のように安定剤が入っていない場合には、レタデーション発現性に優れるが、黄色味が増大してしまうという問題があった。実施例101〜105のように安定剤の添加量を適度に増加させると着色改良効果が向上する。また、熱処理工程Aで製造されたフィルムでは、熱処理工程Bで製造されたフィルムと比較して、Reの湿度依存性が小さく、製造工程における幅方向への収縮率が抑えられるため、広い製品幅を確保できるという特徴も備えるものであった。
これに対し、本発明外の製造方法に従って製造されたセルロースアシレートフィルムは、比較例101ではフィルムが割れやすく、比較例102ではレタデーションの発現性が低く、比較例103では熱処理工程でベースが融解してしまった。なお、表1中、比較例103を除く全ての実施例および比較例において、各フィルムの融解熱量は15J/g以上であった。
《2》 セルロースアシレートフィルムの回収性の評価
(フィルム作製工程のベース屑回収)
前記「《1》セルロースアシレートフィルムの製造と評価」中、「フィルムの作製」工程で発生したフィルム両端のスリット屑を回収し、原料の30質量%を回収原料に置き換えて、「《1》セルロースアシレートフィルムの製造と評価」と同様に実施したところ、表1同様の結果が得られた。
(フィルム熱処理工程のベース屑回収)
前記「《1》セルロースアシレートフィルムの製造と評価」中、「熱処理、および再延伸」工程で発生したフィルム両端のスリット屑を回収した。これを表2記載の割合だけセルロースアシレート原料の一部として再利用し、さらに、表2記載の安定剤をセルロースアシレート量に対し表2記載の添加量[質量%]だけ「6)安定剤の添加」の時点で追加した以外は、「《1》セルロースアシレートフィルムの製造と評価」と同様に実施し、結果を表2に示した。
Figure 2009241398
なお、表2中、全ての実施例および比較例において、各フィルムの融解熱量は15J/g以上であった。
《3》 安定剤の添加方法の評価
前記、実施例102において、「《1》 セルロースアシレートフィルムの製造と評価」中、「ポリマー溶液の調製」工程の「(6)安定剤の添加」にて添加した安定剤の一部または全部を、「(4)溶解」にて、溶媒および添加剤とともに添加した以外は、実施例102と同様に実施し、結果を表3に示した。表3では、「(6)安定剤の添加」における添加を熱処理直前添加とし、「(4)溶解」における添加を溶解時添加として表示している。
Figure 2009241398
なお、表3中、全ての実施例および比較例において、各フィルムの融解熱量は15J/g以上であった。
《4》 偏光板の作製と評価
(偏光板の作製)
1)フィルムの鹸化
実施例および比較例で作成した各フィルムおよびフジタックTF80UL(富士フイルム(株)製:以下「タックA」という)を55℃に調温した1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(けん化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を通した。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記鹸化処理したフィルムのうちから2枚選び(それぞれフィルムA、フィルムBとする。)、フィルムの鹸化面を偏光膜側に配置し、これらで前記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向とが直交するようにロールツーロールで貼り合わせて偏光板を作成した。選択した2枚のフィルムの組み合わせ(フィルムAとフィルムBの組み合わせ)は、実施例101〜130、201〜206、301〜302のいずれか1枚とタックAの組み合わせ、比較例101〜103、201のいずれか1枚とタックAの組み合わせ、実施例102のフィルム2枚の組み合わせとした。
貼り合わせ工程において50ロール処理した際、全ての実施例、および比較例102〜103を用いた場合には、ベースの破断が起こらなかったのに対し、フィルムが割れやすかった比較例101および201を用いた場合には、1回以上の破断が起こり、歩留りが低下してしまった。
(偏光板の評価)
1)初期偏光度
前記偏光板の偏光度を前述した方法で算出した。
2)経時偏光度1
前記偏光板のフィルムA側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、60℃・相対湿度95%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出した。
3)経時偏光度2
前記偏光板のフィルムA側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、90℃・相対湿度0%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出した。
全ての偏光板が偏光度99.9%の良好な性能を示した。
《5》 IPS型液晶表示装置への実装評価
実施例105、107、123の各セルロースアシレートフィルムを用いて上記方法により製造した各偏光板をIPS型液晶表示装置(37型ハイビジョン液晶テレビモニター(37Z2000)、(株)東芝製)に組み込まれていた偏光板の代わりに組み込み、白表示時、および黒表示時の視認性を確認したところ、十分な視野角補償ができており、良好な視認性を確保できたことが確認できた。また、グレー表示時の視認性を確認したところ、十分な視野角補償ができていた。実施例105、123のセルロースアシレートフィルムを用いた場合は、黄色味が特に抑えられていて好ましいことが確認された。

Claims (11)

  1. セルロースアシレートと安定剤とを含有するセルロースアシレートフィルムを、下記式(I)の条件を満たす温度T(単位;℃)で熱処理する工程を含むことを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
    式(I): Tc≦T<Tm0
    [式中、Tcは熱処理工程前のセルロースアシレートフィルムの結晶化温度(単位;℃)を表し、Tm0は熱処理工程前のセルロースアシレートフィルムの融点(単位;℃)を表す。]
  2. 前記熱処理前のセルロースアシレートフィルムを、溶液製膜法によって作製することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  3. 前記安定剤を、前記セルロースアシレートに対して0.01〜20質量%含ませることを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  4. 前記安定剤として少なくとも酸化防止剤を前記セルロースアシレートフィルムに含ませることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  5. 前記熱処理工程を酸素濃度18容量%以下の雰囲気下で実施することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルム。
  7. セルロースアシレートに対して安定剤と安定剤の分解物を合計で0.01〜20質量%含有し、結晶化熱量(ΔHc)が2.0J/g以下であり、且つ融解熱量(ΔHm)が0J/gより大きく、イエローネスインデックス(YI)値が15以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
  8. 前記ΔHcが観測されないことを特徴とする請求項7に記載のセルロースアシレートフィルム。
  9. 請求項6〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする位相差フィルム。
  10. 請求項6〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
  11. 請求項6〜8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
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