JP2009232705A - グリオーマの由来の判別方法およびグリオーマ治療剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】グリオーマ細胞、特にGBMに特異的に発現する分子を見出し、これをガンの診断や治療等に用いること。
【解決手段】グリオーマ細胞の由来の判別方法であって、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメント、あるいはDBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列からの転写物の存在の有無を検出し、グリオーマ細胞がこれらのうちのいずれかを有している場合に、グリオーマ細胞がオリゴデンドロサイト由来であると判別することを特徴とする方法、ならびにCox2阻害剤およびEGFR阻害剤を含む、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマに対して有効なグリオーマ治療用医薬組成物。
【選択図】なし
【解決手段】グリオーマ細胞の由来の判別方法であって、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメント、あるいはDBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列からの転写物の存在の有無を検出し、グリオーマ細胞がこれらのうちのいずれかを有している場合に、グリオーマ細胞がオリゴデンドロサイト由来であると判別することを特徴とする方法、ならびにCox2阻害剤およびEGFR阻害剤を含む、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマに対して有効なグリオーマ治療用医薬組成物。
【選択図】なし
Description
本発明は、グリオーマの由来の判別方法に関する。詳細には、本発明は、DBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントを発現するグリオーマをオリゴデンドロサイト由来であると判別する方法に関する。さらに本発明は、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマを治療するための医薬組成物に関する。該医薬組成物はCox2阻害剤およびEGFR阻害剤を含む。
グリオーマは日本の原発性脳腫瘍の約25%を占める脳の悪性腫瘍の代表格である。その中でも悪性グリオーマにおいては、この数十年間、手術を基本として放射線治療および化学療法を補助療法とする治療がほとんど変わっておらず、新しい治療法の確立が待たれている。最近の研究から、中枢神経系組織における悪性グリオーマのうち最も悪性である多形神経膠芽腫(GBM)がガン幹細胞を含むことが示された(非特許文献1−4)。ガン幹細胞は無期限に自己再生を繰り返し、腫瘍を形成する。これまでにガン幹細胞は組織の幹細胞や分化した細胞から生じると予想されてきたが、白血病以外にはどの細胞に由来するか知られていなかった(非特許文献5および6)。
本発明者らは、近年、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)においてRasシグナル経路の活性を調節すると、ガン幹細胞の性質、すなわち、腫瘍、特にグリオーマを形成する能力を示すことを見出した(特許文献1および非特許文献7−10)。このことは、グリオーマ細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)に由来することを示唆する。しかしながら、グリオーマ細胞、特にGBMの由来について指標となるものは見出されておらず、グリオーマの由来を判別することは困難であった。
特願2007−109539
Reya, T., Morrison, S. J., Clarke, M. F. & Weissman, I. L. Stem cells, cancer, and cancer stem cells. Nature 414, 105-111 (2001).
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したがって、本発明の解決課題は、悪性腫瘍、特にグリオーマ細胞に特異的に発現している分子を見出し、これをガンの診断や治療等に用いることであった。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマに特異的なマーカー(DBCCR1Lタンパク質およびそれをコードするポリヌクレオチド)を見出した。さらに本発明者らは、Cox2阻害剤およびEGFR阻害剤を組み合わせて用いることにより、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマを効果的に治療できることも見出した。そして本発明者らは、これらの知見から本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は:
(1)グリオーマ細胞の由来の判別方法であって、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメント、あるいはDBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列からの転写物の存在の有無を調べ、グリオーマ細胞がこれらのうちのいずれかを有する場合に、グリオーマ細胞がオリゴデンドロサイト由来であると判別することを特徴とする方法、
(2)該DBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントが下記アミノ酸配列のいずれか:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列;
(b)配列番号:1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号:1のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列のフラグメントのアミノ酸配列
を有するものである、(1)記載の方法、
(3)該転写物が配列番号:1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列から転写されるmRNAである、(1)記載の方法、
(4)該DBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントの存在の有無を免疫染色法により調べる、(1)または(2)の方法、
(5)Cox2阻害剤およびEGFR阻害剤を含む、オリゴデンドロサイトに由来するグリオーマを治療するための医薬組成物、
(6)Cox2阻害剤がセレコキシブであり、EGFR阻害剤がゲフィチニブである、(5)記載の医薬組成物
を提供する。
(1)グリオーマ細胞の由来の判別方法であって、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメント、あるいはDBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列からの転写物の存在の有無を調べ、グリオーマ細胞がこれらのうちのいずれかを有する場合に、グリオーマ細胞がオリゴデンドロサイト由来であると判別することを特徴とする方法、
(2)該DBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントが下記アミノ酸配列のいずれか:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列;
(b)配列番号:1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号:1のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列のフラグメントのアミノ酸配列
を有するものである、(1)記載の方法、
(3)該転写物が配列番号:1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列から転写されるmRNAである、(1)記載の方法、
(4)該DBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントの存在の有無を免疫染色法により調べる、(1)または(2)の方法、
(5)Cox2阻害剤およびEGFR阻害剤を含む、オリゴデンドロサイトに由来するグリオーマを治療するための医薬組成物、
(6)Cox2阻害剤がセレコキシブであり、EGFR阻害剤がゲフィチニブである、(5)記載の医薬組成物
を提供する。
本発明によれば、グリオーマ、特に最も悪性である多形神経膠芽腫(GBM)を包含するグリオーマの由来を判定することができ、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマである場合に、Cox2阻害剤およびEGFR阻害剤を組み合わせて用いることにより、これを治療することができる。
本発明は、1の態様において、グリオーマ細胞の由来の判別方法であって、グリオーマ細胞におけるDBCCR1L(Deleted in Breast Cancer Chromosome Region 1 Like)タンパク質(別名:FAM5Cタンパク質)またはそのフラグメント、あるいは前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列からの転写物の存在の有無を検出し、グリオーマ細胞がこれらのうちのいずれかを有する場合に、グリオーマ細胞がオリゴデンドロサイト由来であると判別することを特徴とする方法を提供する。本発明の方法により由来を判別できるグリオーマ細胞は、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ等の動物あるいは鳥類のものであり、好ましくはヒトのグリオーマ細胞である。動物対象からの生検試料の取得は公知の手法により行うことができる。
対象において本発明の判別方法を実施する場合には、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントの存在の有無を検出することができる。対象がヒトである場合には、DBCCR1Lタンパク質は、配列番号:1のアミノ酸配列を有するものであってもよく、あるいは配列番号:1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、例えば、1〜9個、好ましくは、1〜5個、1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;ならびに配列番号:1のアミノ酸配列と50%以上の相同性、好ましくは60%以上、70%以上、80%以上の相同性、より好ましくは85%以上、90%以上の相同性、さらに好ましくは93%、95%、97%、あるいは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するものであってもよい。アミノ酸配列の相同性は、FASTA、BLASTなどの一般的な配列分析用ツールを用いて測定することができる。すなわち、本明細書においては、上記のようなDBCCR1Lタンパク質の変異体もまたDBCCR1Lタンパク質に包含されるものとする。また、本発明の判別方法を実施する場合には、グリオーマにおけるDBCCR1Lタンパク質のフラグメントの有無を調べてもよい。したがって、本明細書において、特に断らないかぎり、DBCCR1Lタンパク質という場合には、上記の変異体に加えて、DBCCR1Lタンパク質のフラグメントも包含するものとする。また、本明細書において、「DBCCR1Lタンパク質」を「DBCCR1Lポリペプチド」と言い換えることがある。ここで、本発明におけるフラグメントとは、全長のDBCCR1Lタンパク質のポリペプチド鎖の一部分をいう。また、対象がヒト以外の動物、例えば、マウス、ラット、ウシなどの他の動物の場合であっても、それらのDBCCR1Lタンパク質は本明細書にいうDBCCR1Lタンパク質に包含されうる。
本発明において、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lポリペプチドの存在の有無を調べるために、公知の手段・方法を用いることができる。例えば、免疫染色法、蛍光抗体法、免疫沈降法、ウェスタンブロット法、ラジオイムノアッセイ(RIA)法、ELISA法、ツーハイブリッドシステムなどの免疫学的なタンパク質の検出方法を含むが、DBCCR1Lポリペプチドを検出できる方法であれば、これらだけに限らない。最も好ましくは免疫染色法である。
また、対象において本発明の判別方法を実施する場合には、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lタンパク質(配列番号:1)をコードするヌクレオチド配列から転写された転写物の存在の有無を調べることができる。本発明における転写物とは、DBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列から転写された産物を意味し、例えば、mRNAまたはあらゆる他のタイプのRNA、ならびにこれらのフラグメントなどであってよい。
本発明において、グリオーマ細胞における上記転写物の存在の有無を調べるために、当業者間で一般的な手法を用いてもよい。例えば、in situ ハイブリダイゼーション法、ノ−ザンブロット法、ドットブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、PCR法、RT−PCR法などのポリヌクレオチドの検出法を含んでよい。また、マイクロアレイ(例えば、DNAマイクロアレイ、microRNAマイクロアレイ、プロテインマイクロアレイなど)を用いた遺伝子解析方法を行ってもよいが、これら以外の方法であってもよい。
本発明において、グリオーマとは神経膠細胞から発生した腫瘍の総称である。本発明の判別方法にて由来を判別できるグリオーマは、上述のごとく動物、好ましくはヒトに由来するものであり、多形神経膠芽腫(GBM)、アストローマ(星細胞腫)、髄芽腫、脳室上位腫、乏突起膠腫、脈絡叢乳頭腫などが例示されるが、これらのグリオーマ細胞に限らない。最も好ましくはGBMである。これまでに、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマ(オリゴデンドログリオーマ)のマーカーとして、Olig1、Olig2およびMyelin Basic Protein(MBP)が周知であったが、これらのタンパク質または遺伝子はほとんどのGBMにおいて検出されるため、オリゴデンドロサイト由来のGBMのマーカーとして使用できなかった。本発明では、DBCCR1Lをマーカーとして用いることにより、GBMを包含するオリゴデンドロサイト由来のグリオーマを検出できる点が最大の技術的特徴である。
グリオーマ細胞がDBCCR1Lタンパク質、そのフラグメント、または上記転写物を有しているとの判別は、生検試料において、前記タンパク質、そのフラグメント、または転写物が上記方法により腫瘍部位において他の正常部位または正常な時期と比較して高いレベルで検出されることをいい、それらは腫瘍部位のみで検出されることが好ましいが、それ以外の正常部位または正常な時期より高いレベルで検出される場合であってもよい。本発明の判別に用いることができる検出方法として最も好ましいのは免疫染色法であり、免疫染色法にて陽性と判断された場合に、グリオーマ細胞が上記タンパク質またはフラグメントを有していると判別することができる。なお、免疫染色法の手法は当業者によく知られており、当業者は、DBCCR1Lタンパク質およびそのフラグメントの有無を容易に調べることができる。
また、本発明の判別に用いることができる検出方法として、例えば、in situハイブリダイゼーション法であってもよく、in situハイブリダイゼーション法にて陽性と判断された場合に、グリオーマ細胞が上記転写物、特にmRNAを有していると判別することができる。In situハイブリダイゼーション法は当業者間において一般的な手法であり、DBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列から転写されたmRNAを容易に検出することができる。
本発明の別の態様では、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマと判別された細胞または部位を除去する工程を含むオリゴデンドロサイト由来のグリオーマの治療方法を提供する。例えば、DBCCR1Lタンパク質に対する抗体に細胞を除去するための物質を結合させることによりグリオーマ細胞を除去する工程を含んでもよいが、これ以外のグリオーマ細胞を除去する工程を含んでもよい。
本発明の判別方法は、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマを除去または治療した後、すなわち予後において、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマの存在またはその量を判別するためにも使用することができる。
本発明は、もう1つの態様において、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマの治療のための医薬組成物を提供する。該医薬組成物は、Cox(シクロオキシゲナーゼ)−2阻害剤およびEGFR阻害剤を含むものである。かかる薬剤の組み合わせは新規である。Cox−2阻害剤として、例えば、セレコキシブ(アステラス製薬)、メロキシカム、バルデコキシブ、パレコキシブ、パレコキシブナトリウム、デコラキシブ、ロフェコキシブ、エトリコキシブ、シミコキシブなどを含んでよいが、これらだけに限定されず、好ましくはセレコキシブである。一方、EGFR阻害剤として、例えば、ゲフィチニブ(アストラゼネカ株式会社)、エルロチニブ、ラパチニブ、カネルチニブ、CI−1033(ファイザー株式会社)、GW2016(グラクソ・スミスクライン株式会社)、EKB−569(ワイス株式会社)、PKI−166(ノバルティスファーマ株式会社)、CP−724、714(ファイザー株式会社)、およびBIBX−1382(ベーリンガーインゲルハイム)などであってよいが、これらだけに限定されず、好ましくはゲフィチニブである。本発明におけるCox2阻害剤とEGFR阻害剤との組み合わせは、例えば、多形神経膠芽腫(GBM)、アストローマ(星細胞腫)、髄芽腫、脳室上位腫、乏突起膠腫、脈絡叢乳頭腫などの脳神経系のグリオーマ、特にGBMに対して有効である。
本発明の医薬組成物は、上述のごとく有効成分としてCox2阻害剤とEGFR阻害剤の両方を含有する。本発明の医薬組成物は、これらの物質に加えて任意の一般的に使用される制ガン剤や担体などの成分を含有してもよい。本発明の医薬組成物に使用されうる制ガン剤としては、テモゾロマイド、シスプラチンなどが例示されるが、これらだけに限らない。本発明に使用することができる担体は、投与形態および剤形に応じて選択することができ、経口投与用には、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等を使用してもよい。さらに、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を配合することもできる。非経口投与用には、公知方法により、希釈剤としての注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、落花生油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等に溶解または懸濁させ、必要に応じて殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤等を添加して調製してもよい。
本発明の医薬組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される動物種、患者の年齢、体重、症状によって適宜決定され、一定ではないが、一般には製剤中に含有される有効成分の量が10μg〜200mg/kgである。投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。本発明の医薬組成物の有効成分であるセレコキシブとゲフィチニブの投与量は、セレコキシブについては、好ましくは1日あたり60mg/kgであり、ゲフィチニブについては、好ましくは1日あたり200mg/kgである。
本発明の医薬組成物の投与経路は、経口、非経口(例えば筋肉注射、皮内、腫瘍内、静脈内、又は皮下、又は直接注射)、局所、経皮などを含み、当業者により適宜決定されうるが、好ましくは経口投与である。また、本発明の医薬組成物と従来の制ガン療法、例えば放射線治療や化学療法などを併用してもよい。
次に、下記の実施例に用いた主な材料および方法を示すが、本発明を限定するものではない。
動物および試薬類
動物を理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)変異マウス開発チームおよび日本チャールズ・リバー株式会社から得た。全てのマウス実験を理研CDBの動物管理使用委員会に認可された以下のプロトコールで実施した。遺伝子型の解析を以前に記載した通りにPCRにより行った(Tsukada, T. et al. Oncogene 8, 3313-3322 (1993).)。特に記載がない限り、試薬類および増殖因子をそれぞれSigmaおよびPeprotechから購入した。
動物を理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)変異マウス開発チームおよび日本チャールズ・リバー株式会社から得た。全てのマウス実験を理研CDBの動物管理使用委員会に認可された以下のプロトコールで実施した。遺伝子型の解析を以前に記載した通りにPCRにより行った(Tsukada, T. et al. Oncogene 8, 3313-3322 (1993).)。特に記載がない限り、試薬類および増殖因子をそれぞれSigmaおよびPeprotechから購入した。
グリオーマ細胞塊の細胞株の樹立
ヒトグリオーマを、以前に記載した通りに、PBSで2回洗浄し、酵素で解離させ、ヒトグリオーマ細胞塊の細胞株GSC1とGSC2を樹立した(Singh, S.K. et al., Cancer Res. 63, 5821-5828 (2003))。GSC1は未分化なオリゴデンドロサイト(WHOグレードIII)に由来すると判断されている。次いで、グリオーマ細胞塊をヒトLIF(10ng/ml、サンタクルーズ、カタログ番号sc−4377)を含有する完全マウスNSC培地中で培養した。
ヒトグリオーマを、以前に記載した通りに、PBSで2回洗浄し、酵素で解離させ、ヒトグリオーマ細胞塊の細胞株GSC1とGSC2を樹立した(Singh, S.K. et al., Cancer Res. 63, 5821-5828 (2003))。GSC1は未分化なオリゴデンドロサイト(WHOグレードIII)に由来すると判断されている。次いで、グリオーマ細胞塊をヒトLIF(10ng/ml、サンタクルーズ、カタログ番号sc−4377)を含有する完全マウスNSC培地中で培養した。
ヒト脳腫瘍
11種のGBM、5種の未分化アストロサイトーマ、5種の未分化オリゴデンドログリオーマ、3種の未分化オリゴアストロサイトーマ、1種のオリゴデンドログリオーマ、1種の毛様細胞性アストロサイトーマ、1種の神経膠肉腫、および2種のGSC(GSC1とGSC2)を理化学研究所発生・再生科学総合研究センターと熊本大学医学研究科の研究指針に従って使用した。ポリ(A)+RNAをグリオーマ細胞塊からQuickPrep mRNA精製キット(GE Healthcare)を用いて調製し、cDNAをTranscription First Strand cDNA合成キット(Roche)を用いて合成した。
11種のGBM、5種の未分化アストロサイトーマ、5種の未分化オリゴデンドログリオーマ、3種の未分化オリゴアストロサイトーマ、1種のオリゴデンドログリオーマ、1種の毛様細胞性アストロサイトーマ、1種の神経膠肉腫、および2種のGSC(GSC1とGSC2)を理化学研究所発生・再生科学総合研究センターと熊本大学医学研究科の研究指針に従って使用した。ポリ(A)+RNAをグリオーマ細胞塊からQuickPrep mRNA精製キット(GE Healthcare)を用いて調製し、cDNAをTranscription First Strand cDNA合成キット(Roche)を用いて合成した。
ヌードマウスの脳への頭蓋内細胞移植
コントロール細胞およびトランスフェクト細胞を5μlの培養培地中に懸濁させ、5〜8週齢の雌のヌードマウスの脳に、10%ペントバルビタールで麻酔した後に注入した。注入部位の定位はラムダの前方2mm、矢状縫合の側方2mmおよび深さ5mmであった。
コントロール細胞およびトランスフェクト細胞を5μlの培養培地中に懸濁させ、5〜8週齢の雌のヌードマウスの脳に、10%ペントバルビタールで麻酔した後に注入した。注入部位の定位はラムダの前方2mm、矢状縫合の側方2mmおよび深さ5mmであった。
形質転換細胞を注入したマウスへの薬物の経口投与
EGFR阻害剤ゲフィチニブ(200mg/kg/日、アストラゼネカ株式会社)、およびCox−2阻害剤セレコキシブ(60mg/kg/日、アステラス製薬)を、ディスポーザル可動型動物摂食ニードル(フチガミ器械)を用いて手術後毎日経口投与した。
EGFR阻害剤ゲフィチニブ(200mg/kg/日、アストラゼネカ株式会社)、およびCox−2阻害剤セレコキシブ(60mg/kg/日、アステラス製薬)を、ディスポーザル可動型動物摂食ニードル(フチガミ器械)を用いて手術後毎日経口投与した。
RT−PCR
RT−PCRを以前に記載した通りに行った(Kondo, T. & Raff, M. Science 289, 1754-1757 (2000).)。サイクルパラメーターは、94℃20秒、58℃40秒および72℃45秒を35サイクルであった。以下のオリゴヌクレオチドDNAプライマーを合成した:dbccr1l用、5’プライマー、5’−GACAGTACACATCTACCTGAG−3’(配列番号:2)、3’プライマー、5’−CTCACCACCTCACTAGTAGAC−3’(配列番号:3)。
RT−PCRを以前に記載した通りに行った(Kondo, T. & Raff, M. Science 289, 1754-1757 (2000).)。サイクルパラメーターは、94℃20秒、58℃40秒および72℃45秒を35サイクルであった。以下のオリゴヌクレオチドDNAプライマーを合成した:dbccr1l用、5’プライマー、5’−GACAGTACACATCTACCTGAG−3’(配列番号:2)、3’プライマー、5’−CTCACCACCTCACTAGTAGAC−3’(配列番号:3)。
ヒトグリオーマの免疫組織化学的染色
ヒトグリオーマ試料を組織学的解析用にホルマリンで固定し、パラフィンで包埋した。切片(3μmの厚さ)をヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色し、DBCCR1Lで免疫標識した。免疫検出をElite Vector Stain ABCシステム(Vector laboratories)を用いて行った。免疫標識した切片をヘマトキシリンで染色することにより核を標識した。
ヒトグリオーマ試料を組織学的解析用にホルマリンで固定し、パラフィンで包埋した。切片(3μmの厚さ)をヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色し、DBCCR1Lで免疫標識した。免疫検出をElite Vector Stain ABCシステム(Vector laboratories)を用いて行った。免疫標識した切片をヘマトキシリンで染色することにより核を標識した。
免疫染色法
免疫染色法を以前に記載した通りに実施した(Kondo, T. & Raff, M. Science 289, 1754-1757 (2000).)。ウサギ抗DBCCR1L(1:50;Protein Tech Group Inc)を用いて抗原を検出し、この抗体をヤギ抗ウサギIgG−Cy3(1:400;Jackson ImmunoResearch)を用いて検出した。核を可視化するために、細胞を4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)(1μg/ml)で対比染色した。
免疫染色法を以前に記載した通りに実施した(Kondo, T. & Raff, M. Science 289, 1754-1757 (2000).)。ウサギ抗DBCCR1L(1:50;Protein Tech Group Inc)を用いて抗原を検出し、この抗体をヤギ抗ウサギIgG−Cy3(1:400;Jackson ImmunoResearch)を用いて検出した。核を可視化するために、細胞を4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)(1μg/ml)で対比染色した。
統計的解析
生存データをGraphPad Prism version 4ソフトウェアを用いるKaplan−Meier法により分析して有意性を求めた(p−値をLog−rank検定で計算した)。
生存データをGraphPad Prism version 4ソフトウェアを用いるKaplan−Meier法により分析して有意性を求めた(p−値をLog−rank検定で計算した)。
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
本発明者らは、胚期13.5日のp53(−/−)マウス(Tsukada, T., et al., Oncogene 8, 3313-3322 (1993))の脳から細胞を分離し、神経上皮細胞から神経幹細胞(NSC)を調製し、次いでこの細胞から一定条件下でアストロサイト(AST)およびオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)をすでに誘導している(特願2007−109539、Liepelt, U. et al., Brain Res. Dev. Brain Res. 51, 267-278 (1990)、Johe, K. K. et al., Genes Dev. 10, 3129-3140 (1996)、Rao, M. S,, Noble, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 3996-4001 (1998)、およびWang, S. et al., Neuron 29, 603-14 (2001))。さらに本発明者らは、これらの細胞にコントロールベクター(GFP)またはHRasL61発現ベクターをトランスフェクトし、Ras活性とp53欠失の組み合わせがASTではなくNSCとOPCを形質転換させることを示した(特願2007−109539およびBizub, D., Blair, D., Alvord, G. & Skalka, A. M., Oncogene 3, 443-448 (1988))。HRasL61発現ベクターにより形質転換された細胞をそれぞれNSC−L61、AST−L61、OPC−L61と名付けた(特願2007−109539)。インビボへの細胞移植実験、組織学的な観察、および遺伝子発現解析などにより、これらの形質転換された細胞のうちOPC−L61は腫瘍形成能、すなわちガン幹細胞としての性質を有することが示唆された(特願2007−109539)。本発明者らは、これらの形質転換された細胞およびヒトグリオーマから樹立させた細胞(GSC1とGSC2)を用いて以下の実験を行った。
本発明者らは、NSC−L61またはGSC2ではなく、OPC1−L61とGSC1の両方がOPCの新規マーカーであるDBCCR1Lタンパク質を発現していることを知見した。まず、RT−PCR法により、DBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列からのmRNAの転写がOPC、OPC−L61およびGSC1において行われることを示した(図3)。ここで、GSC1はオリゴデンドロサイト由来であると判断されている(WHOグレードIII)。次に、DBCCR1Lのタンパク質レベルにおける発現を免疫染色法を用いて調べ、DBCCR1Lタンパク質の存在をNSC−L61(図4a)およびGSC2(図4d)では陽性と判断できないのに対して、OPC−L61(図4b)およびGSC1(図4c)においては明らかに陽性であると判断できることがわかった。さらに、DBCCR1Lタンパク質がOPC−L61とGSC1でより強く発現されることをDBCCR1L抗体陽性の細胞数の割合をカウントすることにより定量的に確認した(図5)。以上の結果は、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマがDBCCR1Lタンパク質、そのフラグメント、またはDBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列からの転写物を有することを示すものである。
次いで、Cox−2シグナル経路およびEGFRシグナル経路の阻害剤がグリオーマに対して有効性を示すかどうかを調べた。すなわち、かかる組み合わせがGBMに有効であるかどうかを検討するために、NSC−L61、OPC−L61、GSC1、およびGSC2における効果を試験した。EGFR阻害剤ゲフィチニブおよびCox−2阻害剤セレコキシブが濃度依存的にNSC−L61、OPC−L61およびヒトGSCの増殖を抑制し、この組み合わせが相加効果であることを示したが、コントロールのNSCとOPCにも影響した(図1a−d)。次いで、この組み合わせが、インビボにおいて、NSC−L61、OPC−L61またはヒトGSCによって引き起こされる腫瘍形成を阻害するかどうかを調べた。OPC−L61を注入したマウスの生存時間は、コントロール(23.0±1.9d)と比較して薬物処理マウス(34.1±9.5d、p=0.005)では有意に長かった。一方、この組み合わせはNSC−L61細胞を注入したマウスには効果がなかった(処理では21±2.9d vs コントロールでは19.7±6.9d)(図2aとb)。さらに、GSC1を注入したマウスの生存時間はコントロールマウス(44.5±3.4d)と比較して薬物処理マウス(56.2±8.2d、p=0.0027)において長くなった。一方、この組み合わせはGSC2を注入したマウスには効果がなかった(薬物処理マウスでは37.6±1.1d vs コントロールでは34.6±2.9d)(図2cとd)。これらのデータは、この組み合わせがDBCCR1L陽性の悪性グリオーマの患者に有効であることを示唆する。
上で説明したように、DBCCR1Lを発現する悪性グリオーマがCox−2阻害剤とEGFR阻害剤の組み合わせで処理することに感受性があることを示した。EGFR経路が放射線と化学治療に対する耐性を媒介すること(Nyati, M. K., Morgan, M. A., Feng, F. Y., & Lawrence, T. S., Nat. Rev. Cancer 6, 876-885 (2006).)、セレコキシブが放射線感受性を高めること(Choy, H., & Milas, L., J. Natl. Cancer Inst. 95, 1440-1452 (2003).)が知られている。これらのことから、本発明のCox−2阻害剤とEGFR阻害剤の組み合わせが照射/化学治療の効率を上昇させることとあいまって、オリゴデンドロサイト由来のグリオーマの治療に極めて有効であるといえる。それゆえ、本発明は最新かつガン幹細胞特異的な治療の新しい臨床アプローチの可能性を指し示すものである。
本発明は、オリゴデンドロサイトに由来するグリオーマを判別し、それを治療する医薬組成物を提供する。そのため、悪性グリオーマの診断方法、グリオーマの新規治療方法および新薬の開発をはじめとする多くの産業分野において利用可能である。
SEQ ID NO:2: 5' primer for dbccr1l
SEQ ID NO:3: 3' primer for dbccr1l
SEQ ID NO:3: 3' primer for dbccr1l
Claims (6)
- グリオーマ細胞の由来の判別方法であって、グリオーマ細胞におけるDBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメント、あるいはDBCCR1Lタンパク質をコードするヌクレオチド配列からの転写物の存在の有無を調べ、グリオーマ細胞がこれらのうちのいずれかを有する場合に、グリオーマ細胞がオリゴデンドロサイト由来であると判別することを特徴とする方法。
- 該DBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントが下記アミノ酸配列のいずれか:
(a)配列番号:1のアミノ酸配列;
(b)配列番号:1のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列;
(c)配列番号:1のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列;あるいは
(d)(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列のフラグメントのアミノ酸配列
を有するものである、請求項1記載の方法。 - 該転写物が配列番号:1のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列から転写されるmRNAである、請求項1記載の方法。
- 該DBCCR1Lタンパク質またはそのフラグメントの存在の有無を免疫染色法により調べる、請求項1または2記載の方法。
- Cox2阻害剤およびEGFR阻害剤を含む、オリゴデンドロサイトに由来するグリオーマを治療するための医薬組成物。
- Cox2阻害剤がセレコキシブであり、EGFR阻害剤がゲフィチニブである、請求項5記載の医薬組成物。
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2008
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