特許文献1における遊星歯車減速機構では、太陽歯車61の中心部に形成した凹スプラインは、油圧モータ56の出力軸58の外周面に形成した凸スプラインとスプライン結合する構成となっている。ところで、一般に減速機を備えた建設機械の旋回装置等においては、油浴潤滑(オイルバス方式)が採用されており、太陽歯車や遊星歯車などは、潤滑油に浸漬された状態で使用されている。
特許文献1における2段遊星歯車減速機構においても、そのように油浴潤滑が採用されているので、2段遊星歯車減速機構としては、ケーシング62,63内に充填した潤滑油に浸かっている構成になっている。そして、太陽歯車61と油圧モータ56の出力軸58とのスプライン結合部は、潤滑油中に浸った状態となっており、前記スプライン結合部に対して十分な潤滑を行える構成となっている。
ところで、近年においては建設機械のハイブリッド化が検討されており、特許文献1に記載された油圧モータ56を、電動の縦型モータに置き換えた構成にすることなどが考えられている。しかし、油圧モータ56を縦型モータに置き換えたとしても、馬力としては油圧モータ56を用いていた場合と同程度の馬力が得られるように構成すると、どうしても縦型モータの大きさが、油圧モータ56の大きさよりも大きくなってしまう。そのため、縦型モータへの置き換えを図ろうとすると、上部旋回体への装着に問題が生じてしまう。
そこで、縦型モータにおける出力軸の下端面位置を、縦型モータを収納するモータケースの内側に位置させた構成にしておくことで、長手方向の長さ寸法を短く構成することができ、上部旋回体への装着についての問題が解決できる。しかし、縦型モータの出力軸と太陽歯車の駆動軸とのスプライン結合部は、モータケースの内側に位置してしまう。そのため、前記スプライン結合部は、油浴潤滑を行っている潤滑油の油面から離間した位置に配されることになり、前記スプライン結合部に対しての潤滑が難しくなる。
本発明では、電動の縦型モータの出力軸をモータハウジング内に配設して、縦型モータの出力軸と太陽歯車の駆動軸とのスプライン結合部が、油浴潤滑を行っている潤滑油の油面から離間した位置に配されても、前記スプライン結合部に対して潤滑油の供給を行うことができる減速機付き縦型モータ装置を提供することにある。
本願発明の課題は請求項1〜4に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明の減速機付き縦型モータ装置は、減速機内に溜められる潤滑油中に、遊星歯車機構が配設され、前記遊星歯車機構における太陽歯車の駆動軸と縦型モータの出力軸とをスプライン結合させた減速機付き縦型モータ装置であって、
前記出力軸の下端面位置が、前記縦型モータを収納するモータケースの内側に位置し、前記駆動軸の外周面に凸スプラインが形成され、前記出力軸の下端部に、前記凸スプラインと係合する凹スプラインが形成され、前記縦型モータのフランジに、前記駆動軸の外周面を離間した状態で覆うカバー部が設けられ、
前記カバー部が、前記太陽歯車と同太陽歯車に噛合する遊星歯車との噛合部の上方部位に配設されてなることを最も主要な特徴となしている。
また、本願発明の減速機付き縦型モータ装置では、前記カバー部が、前記縦型モータのフランジ面に取り付けたブラケットカバーであることを主要な特徴となしている。
更に、本願発明の減速機付き縦型モータ装置では、前記カバー部が、前記縦型モータのフランジに形成されてなることを主要な特徴となしている。
更にまた、本願発明の減速機付き縦型モータ装置では、前記噛合部から噴き上げられた潤滑油を前記凸スプライン側に案内する案内面が、前記カバー部に形成されてなることを主要な特徴となしている。
本願発明では、太陽歯車の駆動軸の外周面に凸スプラインを形成し、同凸スプラインを縦型モータの出力軸に形成した凹スプラインとスプライン結合させた構成としている。しかも、縦型モータのフランジに、前記駆動軸の外周面を離間した状態で覆うカバー部を設け、同カバー部を、前記太陽歯車と同太陽歯車に噛合する遊星歯車との噛合部の上方部位に配設されるように構成している。
この構成によって、縦型モータの出力軸における下端面位置が、縦型モータを収納するモータケースの内側に位置するように構成しておくことができる。そして、縦型モータの出力軸は、モータケース内に引っ込んだ構成となるので、モータケース内に収納した縦型モータの搬送が容易となる。また、縦型モータを梱包する場合でも、縦型モータの出力軸がモータケースから突出していないので、縦型モータの出力軸がモータケースから突出している場合に比べて、梱包する容積を小さくしておくことができる。しかも、モータケースを台等の上にそのまま載置したとしても、モータケースを安定した状態で載置しておくことができる。
更に、縦型モータにおける出力軸の長さを短く構成することができるので、太陽歯車から伝達される駆動反力を、縦型モータの出力軸を支持している軸受けに近いところで受けることができる。これによって、軸受けの容積を小さく構成しておくことができ、しかも、軸受けの寿命を長くすることができる。
更に、太陽歯車の駆動軸が突出した構成となるので、縦型モータを遊星歯車機構に結合させるときには、位置合せ等が容易になる。しかも、太陽歯車が多少動き得る構成となるので、縦型モータの出力軸と太陽歯車の駆動軸とをスプライン結合させるときの芯合せの精度を、ある程度ラフな構成としておくことができる。
このため、縦型モータを遊星歯車機構に結合する作業が短時間で行うことができるようになる。特に、野外における縦型モータの交換作業時においては、縦型モータを遊星歯車機構に結合する作業を短時間で行うことができる。
また、縦型モータの出力軸における下端面位置を、縦型モータを収納するモータケースの内側に位置させた構成にしておくと、縦型モータの出力軸と太陽歯車の駆動軸とのスプライン結合部は、モータケースの内側に位置してしまうことになる。そして、スプライン結合部は、油浴潤滑を行っている潤滑油の油面から離間した位置に配されることになるので、スプライン結合部に対しての潤滑が難しくなる。
油浴潤滑を行っている潤滑油が、太陽歯車と遊星歯車との噛合部において挟み込まれると、潤滑油は、噛合部から押出されて太陽歯車及び遊星歯車の側方から噴き上げられることになる。そこで、本発明ではこの現象を利用して、噛合部から噴き上げられる潤滑油を、縦型モータのフランジに設けたカバー部内に捕捉しておくことができるように構成している。カバー部としては、前記駆動軸の外周面を離間した状態で覆う構成として、前記噛合部の上方部位に配設している。
太陽歯車の回転数が高くなるほど、噛合部からの潤滑油の吹き上げは激しくなる。そして、カバー部内には次から次へと大量の潤滑油が噴き付けられて、カバー部内に捕捉しておくことができる。カバー部内に噴き付けられた潤滑油は、凸スプラインに供給され、凸スプラインと凹スプラインとのスプライン結合部へと供給されることになる。そして、噛合部から潤滑油が次から次へと噴き上げられてくるので、カバー部内に噴き付けられた潤滑油は次から次へと噴き上げられてくる潤滑油によって、スプライン結合部へと圧送されていくことになる。
そのため、カバー部内に噴き付けられた潤滑油は、カバー部からそのまま重力によって落下するよりも、スプライン結合部に向けて圧送され続けていくことになる。そして、圧送された潤滑油は、スプライン結合部を上昇し、スプライン結合部に対する潤滑を行うことができる。
油浴潤滑を行っている潤滑油の油面レベルとして、例えば、太陽歯車が静止しているときに、太陽歯車と遊星歯車との噛合部における歯車の上面に設定されていたとしても、太陽歯車の回転に伴って潤滑油に対して遠心力が作用して、潤滑油の油面はすり鉢状の形状になってしまう。そのため、太陽歯車の駆動軸の中央付近や太陽歯車と遊星歯車との噛合部の上面部に油面が存在しない状態が生じてしまうことになる。
太陽歯車と遊星歯車との噛合部における噛合いの度合いを調節しておくことによって、前記噛合部の一部は常に潤滑油に浸かっている状態としておくことができる。そして、前記噛合部の一部を浸けている潤滑油は、噛合部から押出されて噴き上げられることになる。潤滑油としては、噛合部から上方側と下方側とに押出されることになるが、下方側に押出された潤滑油は、減速機内に溜められている潤滑油内に戻されることになる。そして、上方側に押出された潤滑油は、カバー部に噴き付けられることになる。
本願発明のカバー部としては、縦型モータのフランジに取り付けたブラケットカバーとして構成としておくことも、縦型モータのフランジに形成しておくこともできる。このようにカバー部を構成しておくことにより、太陽歯車と遊星歯車との噛合部から噴き上げられた潤滑油を、容易にカバー部内に取り込んで溜めておくことができる。そして、縦型モータの出力軸と太陽歯車の駆動軸とのスプライン結合に対する潤滑を良好に行なうことができる。
本願発明では、前記噛合部から噴き上げられた潤滑油を前記凸スプライン側に案内する案内面をカバー部に形成しておくことができる。このように構成しておくことにより、太陽歯車と遊星歯車との噛合部から噴き上げられた潤滑油を、スプライン結合部に向かって案内することができ、大量の潤滑油をカバー内に取り込むと同時にスプライン結合部に供給することができる。
図1は、本発明の実施形態に係わる建設機械に用いられる減速機付き縦型モータ装置の縦断面図である。図2は、本願発明の特徴的構成である、スプライン結合部の要部構成を模式的に示した図である。また、図5は、本願発明との比較を行うため、カバー部を形成しなかった場合に関して、スプライン結合部における要部構成を模式的に示した図である。
図1に示すように、減速機付き縦型モータ装置4は、縦型モータとして用いた電動モータ5と減速機10とを備えた構成となっている。電動モータ5は、図示せぬ旋回制御装置からの制御によって、所定の電力が供給されて回転駆動する。電動モータ5は、従来の油圧モータとほぼ同じ大きさのものを用いているが、従来の油圧モータと異なる大きさのものを用いることもできる。また、電動モータ5は、従来の油圧モータに相当する出力トルクを生じさせるために、油圧モータに比べて高速回転型のモータを用いている。
尚、以下においては、縦型モータとして電動モータ5を用いた構成について説明を行っていくが、縦型モータとして油圧モータを用いておくこともできる。そのため、本願発明は、縦型モータとして電動モータ5を用いた構成に限定されるものではない。
電動モータ5の下部側には、モータ出力軸5aの回転を減速する減速機10が設けられている。減速機10は、三段階の減速機として構成されている。三段階の減速機としては、電動モータ5からの回転を最初に減速する第一減速機11、第一減速機11で減速した回転を更に減速する第二減速機12、そして、第二減速機12で減速した回転を更にもう一度減速して出力ピニオン14を回転させる第三減速機13から構成されている。
第一減速機11と第二減速機12との間には、メカニカルブレーキ15が配設されている。また、減速機10内の潤滑油室9には潤滑油が溜められており、第一減速機11、第二減速機12、第三減速機13及びメカニカルブレーキ15は、潤滑油中に配された構成となっている。
電動旋回装置4は上部旋回体2に固定され、スイングサークル3は下部走行体1に固定されている。また、上部旋回体2にはスイングサークル3に対して外接して相対回転できるように同芯円状の外輪8(左側断面の図示は省略)が固定されている。外輪8とスイングサークル3との間で相対回転が行えるように、外輪8とスイングサークル3との間にはベアリング8aが介在されている。
そして、第三減速機13からの出力で回転される出力ピニオン14は、下部走行体1に設けたスイングサークル3に形成された内歯に噛合しており、出力ピニオン14が回転することによって、上部旋回体2は下部走行体1に対して旋回動することができる。
次に減速機10の構成及びメカニカルブレーキ15の構成について説明するが、減速機10としては三段階の減速機に限定されるものではなく、一段階の減速機を含む適宜の段数を備えた減速機として構成しておくことができる。
尚、図示例では、第一減速機11から第三減速機13における各遊星歯車11b、12b、13bが、それぞれのキャリア11d、12d、13dによって片持ち状態で支持された例を示している。しかし、各遊星歯車11b、12b、13bの支持構造としては、各遊星歯車11b、12b、13bの遊星軸11c、12c、13cにおける両端が、それぞれのキャリア11d、12d、13dによって支持された構成としておくこともできる。両端支持の支持構成は公知の支持構成であるため特に例示していないが、例えば、特開2006―220220号公報には、両端支持の支持構成が開示されている。
また、メカニカルブレーキ15の構成としては、以下で説明するブレーキ機構に限定されるものではなく、周知のブレーキ機構を用いることができる。ブレーキ機構を配設する部位としては、第一減速機11と第二減速機12との間の部位に限定されるものではない。
減速機10及びメカニカルブレーキ15は、上部旋回体2に固定された円筒状のケーシング7内に収納されている。ケーシング7は、上方から順に、内部に第一減速機11が配設される第1ケーシング7aと、内部にメカニカルブレーキ15が配設されるブレーキケーシング7bと、内部に第二減速機12及び第三減速機13の一部が配設される第2ケーシング7cと、内部に第三減速機13の残りの部分が配設される第3ケーシング7dとから構成されている。各ケーシング7a〜7dは、例えばボルト等の固定手段により隣接するケーシング同士が固定されている。
第1ケーシング7aの上端部には、電動モータ5が固定されており、第3ケーシング7dの下端部は、上部旋回体2に固定されている。図示例では、電動モータ5は、モータケース19内に配設されている。
第一減速機11は、モータ出力軸5aに設けた第一太陽歯車11aの回転を減速して、駆動トルクを増大させ、第一駆動軸11fから出力させる構成となっている。第一太陽歯車11aの回転は、第一太陽歯車11aと第1ケーシング7aの内周面に形成した第一リング歯車11eとに噛合している第一遊星歯車11bに伝えられる。
第一遊星歯車11bは、第一キャリア11dに支持された第一遊星軸11cとの間で、回転自在に支持されている。また、第一遊星軸11cから第一遊星歯車11bの抜け止めを行うため、第一遊星軸11cの上端部側には、第一リテーナ11hが取付けられている。
第一太陽歯車11aからの回転によって、第一遊星歯車11bは自転するとともに第一太陽歯車11aの外周を公転する。第一遊星歯車11bの公転運動は、第一遊星歯車11bを回転自在に支承している第一キャリア11dの回転として取り出すことができる。第一キャリア11dの回転速度は、第一太陽歯車11aの外周を公転する第一遊星歯車11bの公転速度となり、第一太陽歯車11aの回転速度よりも減速される。そして、第一キャリア11dの回転は、第一キャリア11dとスプライン結合している第一駆動軸11fに伝えられる。
第二減速機12は、第一駆動軸11fに設けた第二太陽歯車12aの回転を減速して、駆動トルクを増大させ、第二駆動軸12fから出力させる構成となっている。第二太陽歯車12aの回転は、第二太陽歯車12aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第二リング歯車12eとに噛合している第二遊星歯車12bに伝えられる。
第二遊星歯車12bは、第二キャリア12dに支持された第二遊星軸12cとの間で、回転自在に支持されている。また、第二遊星軸12cから第二遊星歯車12bの抜け止めを行うため、第二遊星軸12cの上端部側には、第二リテーナ12hが取付けられている。
第二太陽歯車12aからの回転によって、第二遊星歯車12bは自転するとともに第二太陽歯車12aの外周を公転する。第二遊星歯車12bの公転運動は、第二遊星歯車12bを回転自在に支承している第二キャリア12dの回転として取り出すことができる。第二キャリア12dの回転速度は、第二太陽歯車12aの外周を公転する第二遊星歯車12bの公転速度となり、第二太陽歯車12aの回転速度よりも減速される。そして、第二キャリア12dの回転は、第二キャリア12dにスプライン結合している第二駆動軸12fに伝えられる。
第三減速機13は、第二駆動軸12fに設けた第三太陽歯車13aの回転を減速して、駆動トルクを増大させ、第三駆動軸13fから出力させる構成となっている。第三太陽歯車13aの回転は、第三太陽歯車13aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第三リング歯車13eとに噛合している第三遊星歯車13bに伝えられる。
第三遊星歯車13bは、第三キャリア13dに支持された第三遊星軸13cとの間で、回転自在に支持されている。また、第三遊星軸13cから第三遊星歯車13bの抜け止めを行うため、第三遊星軸13cの上端部側には、第三リテーナ13hが取付けられている。
第三太陽歯車13aからの回転によって、第三遊星歯車13bは自転するとともに第三太陽歯車13aの外周を公転する。第三遊星歯車13bの公転運動は、第三遊星歯車13bを回転自在に支承している第三キャリア13dの回転として取り出すことができる。第三キャリア13dの回転速度は、第三太陽歯車13aの外周を公転する第三遊星歯車13bの公転速度となり、第三太陽歯車13aの回転速度よりも減速される。そして、第三キャリア13dの回転は、第三キャリア13dにスプライン結合している第三駆動軸13fに伝えられる。第三駆動軸13fの回転は、出力ピニオン14を回転させる回転力として用いられることになる。
このように高速回転していた電動モータ5の回転は、減速機10によって減速されて、高出力トルクの状態となって出力ピニオン14を回転させることができる。また、第一太陽歯車11aから第三太陽歯車13aの構成及び出力ピニオン14の構成としては、それぞれ駆動軸20の一端部、第一駆動軸11fの先端部、第二駆動軸12fの先端部、第三駆動軸13fの先端部を歯車形状に加工して、それぞれの軸20、11f、12f、13fと一体に形成しておくこともできる。また、それぞれの軸20、11f、12f、13fに対して回転不可の状態で嵌合させた構成としておくこともできる。
メカニカルブレーキ15は、第一減速機11と第二減速機12との間に配設され、第一減速機11の出力軸である第一駆動軸11fの回転を制動する構成となっている。即ち、メカニカルブレーキ15は、第一駆動軸11fに接合されたブレーキディスク15bを、ブレーキパッド15cを介して昇降動制御されるブレーキピストン16であり、挟圧保持したり挟圧保持を解除したりすることができる構成となっている。この構成により、第一駆動軸11fの回転に対して制動を加えることや、制動の解除を行うことができる。
ブレーキディスク15bは、第一駆動軸11fにスプライン接合やセレーション接合などによって接合されたブレーキ連結部15aの外周部に設けられている。ブレーキパッド15cは、ブレーキディスク15bの上下両面に対向する位置に一対設けられている。一対のブレーキパッド15cのうちでブレーキディスク15bの下方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキケーシング7bのパッド固定部に固定されており、ブレーキディスク15bの上方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキピストン16の下端部に取り付けられている。
ブレーキピストン16は、略環状に形成されており、ブレーキケーシング7bの段差部分に対向した形状の段差部分を備えている。そして、ブレーキケーシング7bの段差部分とブレーキピストン16の段差部分とによって油圧室17が形成されている。また、ブレーキピストン16は、上部に設けたバネ18によって下方への付勢力が与えられている。
油圧室17に対して圧油の給排を行うことで、ブレーキピストン16の上下方向への摺動を制御することができる。油圧室17への圧油の給排は、ブレーキケーシング7bに形成した油圧ポート17aから行うことができる。油圧室17に圧油が供給されると、ブレーキピストン16はバネ18を圧縮しながら上方側に押し上げられる。これにより、ブレーキピストン16によるブレーキディスク15bの挟圧保持状態が解除され、第一駆動軸11fの回転は制動されない状態となる。
油圧室17から圧油が排出されると、ブレーキピストン16はバネ18の付勢力によって下方側に押し下げられる。これにより、ブレーキディスク15bはブレーキピストン16によって挟圧保持され、第一駆動軸11fの回転は制動されることになる。
尚、本実施例において、1枚のブレーキディスク15bを用いた例を説明したが、この構成に限定されるものではなく、複数枚のブレーキディスクを用いた構成や他の周知の構成によるブレーキ機構を採用しても良い。また、ブレーキディスク15bを用いる場合に、ブレーキパッド15cをブレーキディスク15b側に設けた構成とすることもできる。
次に、図2を用いて、本願発明の特徴的構成である、第一太陽歯車11aの駆動軸20と電動モータ5のモータ出力軸5aとを結合するスプライン結合部22の構成について説明する。駆動軸20は、第一太陽歯車11aから立設されており、駆動軸20の上端部側の外周面には、凸スプライン24が形成されている。
また、モータ出力軸5aの下端部が、モータケース19内に位置するように構成されている。そして、モータ出力軸5aの端部には、駆動軸20に形成した凸スプライン24が係合する凹スプライン23が形成されている。更に、凸スプライン24の下端部側には、駆動軸20の周囲を離間した状態で覆うカバー部30が形成されており、カバー部30は、ボルト等の固着手段を介して、電動モータ5のフランジ35に取り付けられている。
ところで、図5で示すように、凹スプライン23と凸スプライン24との噛合い長さとしては、両者を相対的に位置決めするときに、長さ方向に誤差があっても両者の噛合い長さが短くなることがないように余裕をもって設定されている。即ち、凹スプライン23と凸スプライン24との噛合い状態で、凹スプライン23の噛合い端と凸スプライン24の有効端には、隙間tが設定される。
更に、凸スプライン24の切り上がり長さ分だけ、凹スプライン23よりさらに下方に切り上がり端が存在することになる。図5で示す様な構成であっても、第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの噛合部25の位置を、スプライン結合部22の近くに配設させることができれば、第一太陽歯車11aの回転中に油を、前記隙間tの部位に撥ねかけられることができる。
しかし、前記隙間tの部位となる凸スプライン24の切上端は、駆動軸20の周方向に等間隔に点在した、凸スプライン24の歯幅分の窪みとして構成されることになる。そのため、前記隙間tの部位には、潤滑油がほとんど溜まることがなく、モータ出力軸5aの回転による遠心力によって、前記隙間tの部位に撥ねかけられた油は、モータ出力軸5aの軸外側へと飛ばされてしまうことになる。そのため、スプライン結合部22の上方に油を行き渡らせることができない。
そこで、凹スプライン23と凸スプライン24との隙間tと凸スプライン24の切り上がり長さ部に、撥ねかけられた油が遠心力によって吹き飛ばされない様にするため、本願発明では、図2で示すように、駆動軸20を覆う形でカバー部30を設けている。カバー部30としては、板金部材により構成しておくことができる。
即ち、一旦、凸スプライン24の切り上がり長の部位に撥ねかけられた油は、遠心力の作用によって外側に飛ばされそうになるが、カバー部30によって受け止めておくことができる。そして、上方へと移動するエネルギーが残っている油は、更に上方のスプライン結合部22へと移動していくことになる。
カバー部30としては、第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの噛合部25の上方側における部位に、カバー部30が位置するように構成している。この構成によって、油浴潤滑を行っている潤滑油が、第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの噛合部25から押出されて、噛合部25の上方に噴き上げられると、噴き上げられた潤滑油は、噛合部25の上方に配設されたカバー部30内に噴き付けられ、カバー部30内に捕捉されることになる。
カバー部30内に捕捉された潤滑油は、重力によって落下するよりも次から次へと噴き付けられてくる潤滑油によって、スプライン結合部22の奥へ奥へと圧送され続けることになる。そして、カバー部30内からスプライン結合部22を上昇する潤滑油の量が増え、スプライン結合部22に対する潤滑を行うことができる。
潤滑油が噴き付けられるカバー部30内の部位としては、第一遊星歯車11bの公転運動によって少しずつカバー部30内で移動することになる。そのため、スプライン結合部22を上昇した潤滑油は、カバー部30内における潤滑油が噴き付けられていない部位となったスプライン結合部22のところを通って、第1ケーシング7a内に溜められている潤滑油のところまで戻っていくことになる。
尚、モータ出力軸5aの端部に凹スプライン23を形成した穴の底部近傍に、モータ出力軸5aの半径方向に貫通するキリ孔を形成しておくことで、前記穴の底部まで圧送されてきた潤滑油を軸受け26側に排出させることもできる。軸受け26側に排出された潤滑油は、軸受け26に対する潤滑と冷却とを行って、第1ケーシング7a内の潤滑油まで戻ることができる。
第一太陽歯車11aの回転数が高くなるほど、噛合部25からの潤滑油の噴き上げは激しくなる。そして、カバー部30内には次から次へと大量の潤滑油が噴き付けられてくることになり、カバー部30内に噴き付けられた潤滑油は奥へ奥へと圧送されることになる。
油浴潤滑を行っている潤滑油の油面レベルとして、例えば、第一太陽歯車11aの回転が静止しているときに、第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの噛合部25における歯車の上面に設定されていたとしても、第一太陽歯車11aの回転に伴って潤滑油に対して遠心力が作用して、潤滑油の油面はすり鉢状の形状になってしまう。そのため、第一太陽歯車11aの駆動軸20における中央付近や第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの噛合部25の上面部に油面が存在しない状態が生じてしまうことになる。
しかし、第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの噛合部25における噛合いの度合いを調整しておくことによって、噛合部25において第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの一部を、常に潤滑油に浸かっている状態にしておくことができる。そして、噛合部25の一部を浸けている潤滑油は、噛合部25から押出されて噴き上げられることになる。潤滑油としては、噛合部25から上方側と下方側とに押出されることになるが、下方側に押出された潤滑油は、第1ケーシング7a内の潤滑油に戻されることになる。そして、上方側に押出された潤滑油は、上述したように、カバー部30内に噴き付けられることになる。
本願発明では、電動モータ5のモータ出力軸5aにおける下端面位置が、電動モータ5を収納するモータケース19の内側に位置するように構成しておくことができる。即ち、モータ出力軸5aが、モータケース19内に引っ込んで収納されている構成となっているので、モータケース19内に収納した電動モータ5の搬送が容易となる。また、モータケース19を梱包する場合でも、モータ出力軸5aがモータケース19から突出していないので、モータ出力軸がモータケースから突出している場合に比べて、梱包する容積を小さくしておくことができる。更に、電動モータ5を収納したモータケース19を平らな場所に、安定した状態で載置しておくことができる。
更にまた、モータ出力軸5aの長さを短く構成しておくことができるので、第一太陽歯車11aから伝達される駆動反力を、モータ出力軸5aを支持している軸受け26に近いところで受ける構成にすることができる。これによって、軸受け26の容積を小さく構成しておくことができ、しかも、軸受け26に作用する駆動反力が小さくなるので、軸受け26の寿命を長くすることができる。
更に、第一太陽歯11a車の駆動軸20が突出した構成となるので、電動モータ5のモータ軸5aと第一太陽歯11a車の駆動軸20とをスプライン結合するときに、位置合せ等が容易になる。しかも、第一太陽歯車11aが第一遊星歯車11bに対して多少動き得る構成となっているので、モータ出力軸5aと駆動軸20とをスプライン結合させるときの芯合せの精度を、ある程度ラフな構成としておくことができる。
このため、電動モータ5を第一減速機11に連結する作業が短時間で行うことができる。特に、野外における電動モータ5の交換作業時においては、電動モータ5を第一減速機11に連結する作業が、短時間で行うことができる。
ところで、電動モータ5のモータ出力軸5aにおける下端面位置を、モータケース19の内側に位置させた構成にしておくと、モータ出力軸5aと駆動軸20とのスプライン結合部22が、モータケース19の内側に位置することになる。そして、スプライン結合部22の位置としては、油浴潤滑を行っている潤滑油の油面から離間した位置に配されることになり、スプライン結合部への潤滑が難しくなってしまう。
しかし、本願発明では、第一太陽歯車11aと第一遊星歯車11bとの噛合部25の上方部位に、上述したようにカバー部30を形成している。この構成により、噛合部25から噴き上がった潤滑油をカバー部30内に捕捉することができ、スプライン結合部22に対する潤滑を行なわせることができる。
4・・・減速機付き縦型モータ装置、5…電動モータ、10・・・減速機、11・・・第一減速機、12・・・第2減速機、13・・・第三減速機、14・・・出力ピニオン、15・・・メカニカルブレーキ、19・・・モータケース、20・・・駆動軸、22・・・スプライン結合部、23・・・凹スプライン、24・・・凸スプライン、25・・・噛合部、26・・・軸受け、30、32・・・カバー部、31、33・・・案内面、35・・・フランジ、51・・・減速機付き油圧モータ装置、52・・・油圧モータ部、53・・・減速機機構部、54・・・モータハウジング、56・・・油圧モータ、58・・・モータ出力軸、60・・・軸受け部、61・・・太陽歯車、62,63・・・ケーシング、64・・・出力ピ二オン、65・・・リングギア