JP2009191294A - 摺動部材の製造方法および摺動部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】浸窒焼入れにおいて、被処理品中に拡散させる窒素の濃度の調整のみでは限界がある耐摩耗性および耐焼付き性の向上を図ることができる摺動部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】被処理品に対して浸窒処理を行った後に焼入れを行う摺動部材1の製造方法であって、前記浸窒処理を行う際に被処理品中に拡散させる窒素の濃度を調整して、被処理品の表層に、ボイド3を有する多孔質層2を形成し、多孔質層2に、潤滑油を含浸させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、他の部材に対する摩擦面(摺動面)を有する摺動部材の製造方法および摺動部材に関する。
一般に、種々の機械を構成する鉄系鋼材等、他の部分に対する摩擦面(摺動面)を有する摺動部材については、耐摩耗性や耐焼付き性の向上等を目的として、表面処理が施される。かかる表面処理として、塩浴浸硫窒化処理が知られている。塩浴浸硫窒化処理は、窒化と浸硫とを同時に行う浸硫窒化処理が塩浴により行われるものであり、鉄系材料により構成される種々の摺動部材に広く適用されている。
塩浴浸硫窒化処理においては、表面側に硫化物と窒化物の化合物層が形成され、内部側(母材側)に窒素による拡散層が形成される。化合物層においては、そのさらに表面側は硫化物が分散する多孔質となり、内部側にいくにつれて、主に窒化鉄からなる緻密で硬い層となる。この化合物層における緻密で硬い層の下に、窒素の拡散層が存在する。こうした塩浴浸硫窒化処理によれば、被処理品の摩耗特性として、硬い窒化層による耐摩耗性の向上や、表面近傍の多孔質の硫化物の作用による耐焼付き性の向上等が得られる。
しかし、塩浴浸硫窒化処理においては、次のような問題がある。すなわち、塩浴浸硫窒化処理には、シアン酸塩や硫化物を基剤とした溶融塩の中に被処理品が浸漬される処理が含まれる。ここで用いられる溶融塩には、シアン等の毒性の高い有害物質が含まれる。つまり、塩浴浸硫窒化処理には、有害物質が必要とされる。このため、塩浴浸硫窒化処理においては、シアン等の有害物質の取扱い・管理の問題や、処理後の廃水による環境負荷の問題がある。
一方、鉄系鋼材等に施される表面処理として、浸窒焼入れという技術がある(例えば、特許文献1参照。)。浸窒焼入れは、被処理品に対して、窒素のみを浸入・拡散させた後、焼入れを行う処理である。特許文献1においては、浸窒焼入れにおいて、低炭素鋼等の鉄または鉄合金を被処理品とし、この被処理品中に表面から所定の濃度で窒素を浸透拡散させることで浸窒処理した後、急冷して焼入れを行うことで、浸窒焼入品を得る技術が開示されている。そして、かかる技術により、被処理品(浸窒焼入品)において剥離の問題がある化合物層を発生させることなく、従来の浸炭窒化処理等に比して十分に高い表面硬度が得られている。
こうした浸窒焼入れは、次のような利点を有する。まず、浸窒焼入れにおいて、浸窒処理を経て生成される窒素の拡散領域のオーステナイト化温度域はFe−C系の鋼のそれより低いことから、焼入温度の低温化が可能となる。また、焼入温度が低下することにより、処理によって被処理品に生じる歪みが小さくなるため、高い寸法精度が得られる。したがって、前記のとおり特許文献1にも記載されているように従来技術に比して高い硬度が得られる浸窒焼入れは、硬度と精度(寸法精度)との両立が可能な技術となる。また、浸窒焼入れは、毒性の高い有害物質を必要としないため、前述した塩浴浸硫窒化処理に比べて安全性の面で優れている。
このように様々な利点を有する浸窒焼入れであるが、摺動部材についての応用例はこれまでに見当たらない。浸窒焼入れにおいては、浸窒処理で被処理品中に拡散させる窒素の濃度、つまり得られる浸窒焼入品の表面に形成される窒素の拡散層において固溶する窒素の濃度(拡散窒素濃度)が、被処理品(浸窒焼入品)における表面の状態や得られる表面硬度等に大きく影響する。この点、特許文献1には、拡散窒素濃度を0.05〜1.50%とすることにより、浸窒処理後の焼入れによって得られる硬度を十分に高めることができるとともに、被処理品における窒素化合物層の発生を避けることができる旨記載されている。また、特許文献2は、機械構造用部品の表面硬化熱処理における窒素濃度や炭素濃度等に関する技術を開示するものである。この特許文献2において、窒素濃度について、0.2重量%以上として窒素濃度が高いほど耐摩耗性等が向上するが、0.8重量%を超えると空孔状の欠陥や脆い窒化物を形成しやすくなる旨の記載がある。
すなわち、浸窒処理における拡散窒素濃度の調整においては、その濃度がある程度より高くなると、被処理品の表面に多孔質層となる化合物層が形成され、この化合物層は、耐摩耗性等の向上を図るうえで好ましくないものとされている。つまり、従来は、耐摩耗性等の向上を図るための浸窒処理や浸炭窒化処理等に際し、被処理品の表面に多孔質層となる化合物層が生成しないように、拡散窒素濃度の範囲が規定されている。しかし、浸窒焼入れにおいて、拡散窒素濃度の調整により被処理品の表面に化合物層を形成しないことのみによっては、その浸窒焼入品について得られる耐摩耗性および耐焼付き性に限界がある。
特開2007−046088号公報 特開平8−174340号公報
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、浸窒焼入れにおいて、被処理品中に拡散させる窒素の濃度の調整のみでは限界がある耐摩耗性および耐焼付き性の向上を図ることができる摺動部材の製造方法および摺動部材を提供することにある。
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、被処理品に対して浸窒処理を行った後に焼入れを行う摺動部材の製造方法であって、前記浸窒処理を行う際に被処理品中に拡散させる窒素の濃度を調整して、被処理品の表層に、ボイドを有する多孔質層を形成し、前記多孔質層に、潤滑油を含浸させるものである。
請求項2においては、請求項1に記載の摺動部材の製造方法において、被処理品中に拡散させる窒素の濃度の調整を、窒素が、0.85%以上、かつ被処理品が摺動部材として形状を保持できる程度の範囲内の濃度で被処理品中に拡散するように行うものである。
請求項3においては、浸窒処理の後に、焼入れが施された摺動部材であって、表層に、前記浸窒処理で拡散させられる窒素によって形成され、ボイドを有する多孔質層を備え、前記多孔質層に、潤滑油が含浸されているものである。
請求項4においては、請求項3に記載の摺動部材において、前記浸窒処理で拡散させられる窒素が、表面から所定深さまで、0.85%以上、かつ形状が保持できる程度の範囲の濃度で固溶しているものである。
請求項5においては、摺動部材において、母材の表面部に形成された表面処理層として、表面側に形成され、浸窒処理により固溶した窒素によって生成したボイドを有し、潤滑油が含浸されている表面潤滑層と、前記表面潤滑層よりも内部側に形成され、浸窒処理により固溶した窒素が拡散している窒素拡散層と、を備えるものである。
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、浸窒焼入れにおいて、被処理品中に拡散させる窒素の濃度の調整のみでは限界がある耐摩耗性および耐焼付き性の向上を図ることができる。
本発明は、摺動部材に施される表面処理において、従来行われている浸窒焼入れを応用することで、浸窒焼入れによる効果を得るとともに、浸窒焼入品が有する耐摩耗性および耐焼付き性の点で、従来の浸窒焼入れよりも優れた表面処理を実現しようとするものである。
すなわち、本発明に係る摺動部材の製造方法は、鉄系鋼材等の被処理品に対して浸窒処理を行った後に焼入れを行うものである。そして、被処理品に施す浸窒処理を行う際に被処理品中に拡散させる窒素(以下「拡散窒素濃度」ともいう。)の濃度を調整して、被処理品の表層に、ボイドを有する多孔質層を形成し、この多孔質層に、潤滑油を含浸させる。
浸窒処理は、鉄系鋼材等の被処理品を所定の温度域に加熱することにより、表面から内部に窒素を侵入させる熱処理である。この浸窒処理においては、金属結晶格子の原子間のすきま(結晶粒界)に浸入する(固溶する)窒素の量がある程度より多くなると、その固溶した窒素によってボイド(空孔)が生成する。この浸窒処理における過剰な窒素によって生成するボイドは、被処理品の表面近傍に脆い多孔質層(窒素化合物層)を形成するものとして、従来の浸窒処理では好ましくないものとされている。つまり、従来の浸窒焼入れにおける浸窒処理では、被処理品の表面近傍に前記のようなボイドを有する多孔質層が形成されないように、被処理品に浸入させる窒素の濃度(拡散窒素濃度)が調整されている。
本発明では、このように浸窒処理において被処理品に固溶する窒素の量が過剰となることで、被処理品の表面近傍にボイドが生成して多孔質層が形成されることに着目し、この多孔質層を利用して、表面潤滑層を形成しようとするものである。すなわち、本発明においては、浸窒焼入れにおける浸窒処理に際し、拡散窒素濃度の調整により、従来の浸窒焼入れと比べて高濃度の窒素を被処理品に浸入させることで、被処理品の表層にあえてボイドを有する多孔質層を形成し、この多孔質層に、潤滑油を含浸させる。これにより、被処理品の表層に、多孔質層に潤滑油が含浸させられた表面潤滑層が形成される。
したがって、図1に示すように、本実施形態に係る摺動部材1は、浸窒処理の後に、焼入れが施されたもの(浸窒焼入品)であり、表層に、前記浸窒処理で拡散させられる窒素によって形成され、ボイド3を有する多孔質層2を備える。そして、この浸窒処理により形成される多孔質層2に、潤滑油が含浸されている。この潤滑油が含浸された多孔質層2が、摺動部材1における表面潤滑層6となる。
すなわち、本実施形態に係る摺動部材1は、母材5の表面部に形成された表面処理部として、表面潤滑層6と、窒素拡散層4とを備える。
表面潤滑層6は、摺動部材1の表面処理部において、表面側に形成され、浸窒処理により固溶した窒素によって生成したボイド3を有し、潤滑油が含浸されている層である。つまり、表面潤滑層6は、前述したように浸窒処理における拡散窒素濃度の調整により、被処理品の表層(最表面)に形成されるボイド3を有する多孔質層2に、そのボイド3が利用されて潤滑油が含浸させられたものである。
窒素拡散層4は、摺動部材1の表面処理部において、表面潤滑層6(多孔質層2)よりも内部側(母材5側)に形成され、浸窒処理により固溶した窒素が拡散している層である。窒素拡散層4は、多孔質層2の直下に形成され、多孔質層2よりも低い濃度で窒素が拡散している層の部分であり、主に窒化鉄からなる緻密で硬い層となる。つまり、窒素拡散層4は、浸窒処理に対して過剰な窒素により形成される多孔質層2によりも高い硬度を有し、浸窒焼入れによる母材5に対する硬化層となる。この窒素拡散層4の下が、表面処理が施された摺動部材1における母材5となる。
表面処理として浸窒焼入れが施された摺動部材1の基材、つまり本実施形態において浸窒焼入れの処理対象となる被処理品としては、鉄、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、鋳鉄等、あらゆる鉄系鋼材が適用可能である。ただし、十分な硬度を確保する観点からは、一般に低炭素鋼と呼ばれる鋼材や炭素含有量が約0.3%以下の鉄合金が適当である。
また、摺動部材1として用いられる対象部品としては、小型の歯車等の精密部品や自動車用部品の軸受や歯車、その他種々の歯車部品、転動部品、摺動部品など、他の部分に対する摩擦面(摺動面)を有する機械部品が広く採用され得る。
摺動部材1に施される浸窒焼入れは、被処理品に対する浸窒処理と、この浸窒処理が施された後に行われる焼入れとを含む処理である。浸窒処理は、アンモニアガスが導入される炉内において、被処理品が所定の温度域(600〜800℃程度)における一定の温度(浸窒温度)に加熱された状態で、所定時間(数十分〜数時間程度)保持されることにより行われる。
浸窒処理における炉内に対するアンモニアガスの導入は、被処理品が浸窒温度まで昇温した後に行われる。また、炉内に対するアンモニアガスの導入は、アンモニアガス単独で行われる場合のほか、被処理品の表面清浄度の確保等のため、例えば窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスとともに行われる場合がある。また、炉内に対するアンモニアガスの導入に際しては、炉内を所定気圧に保持するため、炉内からの使用済みガスの排気が継続的に行われる。
このようにして、アンモニアガスを含む炉内の浸窒雰囲気中に被処理品が置かれることにより、被処理品に対して表面から内部に窒素が浸入させられる浸窒が行われる。具体的には、炉内に導入されたアンモニアガスは、その大部分が水素(H)と窒素(N)とに分解するとともに、未分解のアンモニアガス(NH)として残留する。このように炉内に導入されたアンモニアガスが分解等することで生じるガスのうち、被処理品の浸窒に際しては、残留するアンモニアガス(NH)が分解することで生じる活性な窒素(N)が主に用いられる。つまり、被処理品の浸窒においては、アンモニアガスが分解することで水素ガス(Hガス)とともに生じる窒素ガス(Nガス)は不活性でありほとんど貢献しない。そして、残留するアンモニアガス(NH)が分解することで生じた活性の窒素(N)が、被処理品の表面から浸入してその内部に拡散することで、浸窒が行われる。
このようにして行われる浸窒処理において、被処理品の表層に、ボイド3を有する多孔質層2が形成されるように、拡散窒素濃度の調整が行われる。つまり、前記のとおり浸窒処理において被処理品に浸入する活性な窒素(N)について、過剰な窒素(N)が窒素ガス(Nガス)として結晶の間に生じることでボイド3が生成するように、拡散窒素濃度の調整が行われる。浸窒処理における拡散窒素濃度の調整は、炉内へのアンモニアガスの導入の仕方(例えば単位時間当たりの導入量等)の調整、浸窒時間(浸窒雰囲気中に被処理品が置かれる時間)の調整、浸窒温度の調整等により行われる。
本実施形態において、浸窒処理における拡散窒素濃度の調整は、例えば、0.8%より高くなるように行われる。拡散窒素濃度が0.8%以下となると、被処理品の表面近傍においてボイド3が生成しにくく、潤滑油が含浸された多孔質層2(表面潤滑層6)において十分な油膜保持性が確保できない。このことは、実験等により確認されている。表面潤滑層6において十分な油膜保持性が確保できないと、摺動部材1の摺動に際して、局部的な焼付きが発生する等の不具合が生じる。つまり、多孔質層2が有するボイド3が少ないと、多孔質層2に含浸する潤滑油について十分な含浸量が得られず、摺動部材1の摺動に際しての表面潤滑層6おける油膜保持性が不十分となり、耐摩耗性や耐焼付き性に劣ることとなる。この点、浸窒処理における拡散窒素濃度の調整が、前記のとおり0.8%より高くなるように行われることで、摺動部材1の多孔質層2において必要な量のボイド3が生成される。
このことを踏まえたうえで、摺動部材1の浸窒処理においては、被処理品中に拡散させる窒素の濃度の調整は、窒素が、0.85%以上、かつ被処理品が摺動部材1として形状を保持できる程度の範囲内の濃度で被処理品中に拡散するように行われることが好ましい。
ここで、拡散窒素濃度について、0.85%以上が好ましいことは、次のような理由による。すなわち、前述したように、浸窒処理における拡散窒素濃度の調整が0.8%より高くなるように行われることで得られるボイド3の生成量により、表面潤滑層6における油膜保持性が確保され得る。しかし、拡散窒素濃度が0.8%より高く0.85%未満の範囲である場合においては、浸窒時間や浸窒温度など、浸窒処理における拡散窒素濃度に影響する浸窒条件(浸窒環境)などによっては、表面潤滑層6における油膜保持性の確保に際して十分な量のボイド3が生成されないことがある。一方で、拡散窒素濃度が0.85%以上である場合においては、浸窒処理によって生成するボイド3の量が増大し、表面潤滑層6における油膜保持性の確保に際して十分な量のボイド3が得られる。これらのことは、実験等によりわかっている。
つまり、拡散窒素濃度が0.85%以上とされることで、摺動部材1の多孔質層2において十分なボイド3が生成されることの確実性が増し、表面潤滑層6における油膜保持性の確保が容易に行われる。以上のような理由から、拡散窒素濃度について、その範囲における下限の値として、0.85%という値が好ましく用いられる。
また、拡散窒素濃度について、前記の、被処理品が摺動部材1として形状を保持できる程度とは、浸窒処理における次のような特性に基づく。浸窒処理において、ボイド3を有する多孔質層2の形成を目的として行われる拡散窒素濃度の調整に際しては、拡散窒素濃度が高くなるにつれ、被処理品の表面近傍に生成するボイド3の量も増加する。したがって、浸窒処理において調整される拡散窒素濃度が過剰に高くなると、被処理品の表面近傍においてボイド3が過剰に発生することとなる。ボイド3が過剰に発生した多孔質層2を有する摺動部材1においては、その多孔質層2の部分(表層部分)が脆くなり、他の部材との摺動に際して、表面潤滑層6としての機能が低下し、十分な耐摩耗性が得られないこととなる。また、多孔質層2の部分が脆くなることにより、摺動部材1において、摺動部分が欠けたり剥がれたりすることで表層の一部が脱落し、摺動部材1としての形状の保持が困難となる。このように摺動部材1の表層から脱落する部分は、それなりの硬度を有するため、大きさ等によっては、摺動部材1の摺動に際して影響を及ぼし、耐摩耗性を低下させる原因となる。
つまり、拡散窒素濃度について、被処理品が摺動部材1として形状を保持できる程度とは、言い換えると、摺動に際して表層の一部が脱落する等の不具合を生じることなく摺動に耐えることができるとともに、多孔質層2に潤滑油が含浸された表面潤滑層6において十分な油膜保持性が確保でき、十分な耐摩耗性および耐焼付き性が得られる程度となる。そして、被処理品が摺動部材1として形状を保持できる程度の範囲における上限の濃度の値としては、1.2%程度が好ましいことが、実験等によりわかっている。
これらのことから、摺動部材1の浸窒処理においては、拡散窒素濃度は、0.85〜約1.2%の範囲で調整されることが好ましい。
このようにして拡散窒素濃度が調整されることで得られる摺動部材1においては、浸窒処理で拡散させられる窒素が、表面から所定深さまで、0.85%以上、かつ形状が保持できる程度の範囲の濃度で固溶していることとなる。
以上のように、被処理品に対する浸窒処理が行われた後、被処理品の焼入れが行われる。つまり、浸窒処理を受けた後の被処理品が、急冷される。この被処理品の焼入れ処理は、浸窒処理の直後に行われる場合のほか、被処理品の表層に侵入した窒素をさらに拡散させること目的として、浸窒処理後に、真空中や窒素ガス等の雰囲気中における所定の拡散時間が確保される場合がある。なお、被処理品の焼入れのための冷却剤としては、水や油やポリマー水溶液等が適宜用いられる。
浸窒処理を受けた被処理品に焼入れが施されることにより、被処理品において窒素の拡散領域におけるオーステナイトからマルテンサイトへの変態による硬化作用が得られ、所定の値以上の硬度を有する浸窒焼入品が得られる。かかる浸窒焼入品においては、ボイド3を有する多孔質層2が形成されていることとなる。
そして、多孔質層2を有する被処理品(浸窒焼入品)に対して、潤滑油の含浸が行われる。つまり、被処理品においてボイド3が存在する多孔質層2に、潤滑油が含浸させられる。多孔質層2に対する潤滑油の含浸は、ボイド3へ浸透させられた潤滑油が硬化あるいは固定されることにより行われる。
ここで、多孔質層2に含浸させられる潤滑油としては、摺動部材1としての用途や性能等に応じたものが用いられる。例えば、鉱物油系、フッ素化油、シリコーン油などの基油に、酸化防止剤、防錆剤、摩擦防止剤などの添加剤が添加されたものが用いられる。また、潤滑油の含浸方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、真空含浸や加圧含浸、あるいはこれらの組合わせによる方法が、摺動部材1の基材の種類や含浸させる潤滑油の種類等に応じて適宜用いられる。
以上のような被処理品に対する表面処理により、図1に示すように、母材5に対する表面処理層として、ボイド3を有する多孔質層2に潤滑油が含浸された表面潤滑層6と、この表面潤滑層6の下側に形成され、浸窒処理により被処理品に固溶した窒素が拡散している窒素拡散層4とを備える摺動部材1が得られる。
本実施形態に係る摺動部材1の製造方法によれば、浸窒焼入れにおいて、被処理品中に拡散させる窒素の濃度の調整のみでは限界がある耐摩耗性および耐焼付き性の向上を図ることができる。
すなわち、本実施形態に係る摺動部材1の製造方法は、浸窒焼入れにおける浸窒処理において、拡散窒素濃度の調整によってボイド3を有する多孔質層2を形成し、この多孔質層2に潤滑油を含浸させることにより、その多孔質層2を積極的に表面潤滑層6として用いるものである。これにより、高い硬度や寸法精度等の浸窒焼入れにより得られる効果を有する浸窒焼入品として、耐摩耗性および耐焼付き性の点で従来の浸窒焼入品よりも優れた摺動部材1が得られる。
本発明の実施例について説明する。本実施例では、被処理品(基材)として、SCM材の一種であるSCM420材を用い、浸窒焼入れを行った。浸窒処理は、SCM420材を、アルカリ洗浄等により洗浄した後、炉内の浸窒雰囲気中において、浸窒温度800℃、浸窒時間120分として保持した。浸窒雰囲気の形成に際しての炉内へのアンモニアガスの導入は、窒素ガスとともに行った。各ガスの炉内への導入は、アンモニアガスについては2m/hの流量で、窒素ガスについては1m/hの流量で継続的に行った。このような条件のもとでの浸窒処理の後、冷却剤として油を用い、被処理品の焼入れ(油冷)を行った。以上の処理により、本実施例の浸窒焼入品(以下「実施例品」という。)を製造した。
また、本実施例に対する比較例として、実施例品よりも拡散窒素濃度が低い浸窒焼入品(以下「比較例品」という。)を用意した。具体的には、比較例品は、その浸窒処理に際し、前述の実施例品における条件に対し、窒素ガスとともに炉内に導入するアンモニアガスの流量を1.5m/hと減少させた点についてのみ異なる条件とした。
このようにして用意した実施例品および比較例品について、顕微鏡による観察(断面組織の撮影)、表面からの窒素濃度の計測、表面近傍の硬度分布の計測(硬さ試験)、摩耗量の比較を行った。
図2は、実施例品および比較例品についての表面近傍の断面組織を表す顕微鏡写真を示す図である。図2(a)は実施例品を、同図(b)は比較例品をそれぞれ示す。図2の各写真において、上部における暗部と明部との境界線(略左右方向の境界線)が、各品における表面に対応し、これよりも下側の部分が、各品における表層部分となる。
図2(a)の写真において、実施例品の表面近傍において黒い部分で表れている空孔状の部分がボイドを示す。つまり、図2(a)から、実施例品においては、その表層に、ボイドを有する多孔質層が形成されているのがわかる。したがって、実施例品の浸窒処理に際しては、拡散窒素濃度が0.8%よりも高い状態となっており、被処理品に浸入した過剰な窒素(N)が窒素ガス(Nガス)として結晶の間に生じることで、ボイドが生成し、多孔質層が形成されている。このボイドを有する多孔質層に対して、潤滑油の含浸が行われる。
これに対し、図2(b)の写真からわかるように、比較例品においては、実施例品のようなボイドが生成していない。つまり、比較例品の浸窒処理に際しては、拡散窒素濃度が0.8%以下の状態となっており、被処理品に表面から浸入する窒素の量が少ないため、ボイドが生成されていない。したがって、比較例品においては、その表層に、ボイドを有する多孔質層が形成されておらず、多孔質層よりも低い濃度で窒素が拡散しており緻密で硬い層である窒素拡散層のみが形成されている状態となる。
このように、浸窒処理を行う際に、拡散窒素濃度を調整することで、図2(a)に示すように、被処理品の表面近傍にボイドを生成させることができ、表層に多孔質層を形成することができる。
図3は、実施例品および比較例品についての表面近傍における窒素濃度の分布を表すグラフを示す図である。図3において実施例品についてのグラフG1からわかるように、実施例品についての窒素濃度は、表面(深さ0mm)側から、深さ0.02mm程度でピークとなり、その後は表面からの深さが深くなるにつれて(内部側にかけて)徐々に減少している。浸窒処理によって被処理品の内部に拡散する窒素は、表面から0.3mm程度の部分まで検出される。ここで、実施例品の窒素濃度について、最表面層の部分において濃度が低下するのは、ボイドが存在することに基づく。このような窒素濃度分布において、窒素濃度が0.85%以上となる表層部分が、確実にボイドが生成している部分となり、多孔質層となる。したがって、実施例品においては、表面からの深さが0.03mm程度までの部分が、ボイドを有する多孔質層の部分となる。
一方、図3において比較例品についてのグラフG2からわかるように、比較例品についての窒素濃度は、表面からの深さが深くなるにつれて徐々に減少している。そして、窒素濃度が最も高くなる最表面部分における値も、ボイドが生成しない程度の値(約0.75%)となっている。
図4は、実施例品についての表面近傍における硬度分布を表すグラフを示す図である。図4に示す硬度は、ビッカース硬さ試験機において荷重を100gとした場合の測定値である。図4のグラフからわかるように、実施例品においては、ボイドの存在する最表面層の部分(表面から0.02mm程度の深さまでの部分)は若干硬度が低下するものの、その直下はビッカース硬さ(Hv)で硬度600Hv以上の緻密な浸窒硬化層(窒素拡散層)となる。つまり、実施例品においては、潤滑油が含浸する表面潤滑層となる最表面層の直下の窒素拡散層においてより高い硬度が得られる。
図5は、実施例品および比較例品についての摩耗特性を示す図である。図5に示す摩耗特性は、ピンオンディスク型の摩耗試験機による摩耗試験の結果である。本実施例では、相手材としてSUJ2(高炭素クロム軸受鋼)を用い、試験条件を、摺動速度1m/s、荷重50N、距離3.2km(摩擦時間約53min)として、摩耗試験を行った。なお、本試験では、参考品として、従来技術である塩浴浸硫窒化処理が施された品(塩浴浸硫窒化品)についての摩耗量も比較評価の対象とした。また、本試験では、実施例品については、その多孔質層に対して潤滑油の含浸を行ったものであり、比較例品および参考品については摩擦面について潤滑油を用いた。また、図5に示す摩耗特性は、本試験による実施例品の摩耗量を1とした場合の相対的な摩耗量を示すものである。
図5に示す摩耗量の比較結果において、実施例品と比較例品との比較により、比較例品についての摩耗量は、実施例品のそれよりも3倍程度の量となっていることがわかる。つまり、実施例品においては、比較例品に対して大幅な耐摩耗性の向上が図られていることがわかる。また、実施例品と参考品との比較において、実施例品の摩耗量は、従来技術による塩浴浸硫窒化品と同等程度となっており、塩浴浸硫窒化品に対して遜色がない程度の耐摩耗性を有することがわかる。
このように、摩耗特性については、実施例品は、ウエット環境下で摺動部材として用いられた場合、比較例品と比べて、最表面の表面潤滑層における良好な油膜保持性が得られ、耐摩耗性および耐焼付き性に優れた摺動部材となる。また、実施例品の参考品(塩浴浸硫窒化品)との比較においては、処理に有害物質が必要とされる塩浴浸硫窒化品と同程度の摩耗特性が得られる。つまり、実施例品においては、処理に有害物質が必要とされることなく、塩浴浸硫窒化品と同程度の摩耗特性が得られる。
以上の本実施例からわかるように、本発明によれば、処理に有害物質が必要とされず安全性の面で優れた浸窒焼入れにより、被処理品(浸窒焼入れ品)について、十分な硬度が得られるとともに、耐摩耗性および耐焼付き性の向上を図ることができる。
本実施形態に係る摺動部材の表層構造を示す図。 本発明の実施例品および比較例品の表層組織を表す写真を示す図。 本発明の実施例品および比較例品の表面近傍の窒素濃度分布を示す図。 本発明の実施例品についての表面近傍の硬度分布を示す図。 本発明の実施例品および比較例品の摩耗特性を示す図。
符号の説明
1 摺動部材
2 多孔質層
3 ボイド
4 窒素拡散層
5 母材
6 表面潤滑層

Claims (5)

  1. 被処理品に対して浸窒処理を行った後に焼入れを行う摺動部材の製造方法であって、
    前記浸窒処理を行う際に被処理品中に拡散させる窒素の濃度を調整して、被処理品の表層に、ボイドを有する多孔質層を形成し、
    前記多孔質層に、潤滑油を含浸させることを特徴とする摺動部材の製造方法。
  2. 被処理品中に拡散させる窒素の濃度の調整を、
    窒素が、0.85%以上、かつ被処理品が摺動部材として形状を保持できる程度の範囲内の濃度で被処理品中に拡散するように行うことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
  3. 浸窒処理の後に、焼入れが施された摺動部材であって、
    表層に、前記浸窒処理で拡散させられる窒素によって形成され、ボイドを有する多孔質層を備え、
    前記多孔質層に、潤滑油が含浸されていることを特徴とする摺動部材。
  4. 前記浸窒処理で拡散させられる窒素が、表面から所定深さまで、0.85%以上、かつ形状が保持できる程度の範囲の濃度で固溶していることを特徴とする請求項3に記載の摺動部材。
  5. 母材の表面部に形成された表面処理層として、
    表面側に形成され、浸窒処理により固溶した窒素によって生成したボイドを有し、潤滑油が含浸されている表面潤滑層と、
    前記表面潤滑層よりも内部側に形成され、浸窒処理により固溶した窒素が拡散している窒素拡散層と、
    を備える摺動部材。
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