JP2009182288A - 有機el素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】駆動時の発熱・高温環境で繰り返し使用しても安定して性能を発揮する有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極(金属層2及び透明電極膜3)と陰極8と、陽極と陰極8との間に挟持され少なくとも発光層5、電子輸送層6及び電子注入層7がこの順に含まれる積層体と、から構成され、電子注入層7が電子注入材料と第一の金属原子とを含み、電子輸送層6が電子輸送材料と第二の金属原子とを含み、この第二の金属原子が第一の金属原子よりも拡散しにくい金属原子であり、第一の金属原子の拡散を抑制する金属原子であることを特徴とする、有機EL素子10。
【選択図】図1

Description

本発明は、光源やディスプレイ等に使用される有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子、有機発光素子ともいう)に関する。
近年、液晶ディスプレイに代わるフラットパネルディスプレイ用のデバイスとして自発光型デバイスが注目されている。自発光型デバイスを用いたディスプレイは液晶ディスプレイと比較して、バックライト光源を必要としない、応答性が速い、視野角依存性が小さい等の特徴がある。ここで自発光型デバイスとは、具体的には、プラズマ発光素子、フィールドエミッション素子、エレクトロルミネセンス素子等がある。
このうち、エレクトロルミネセンス素子(以下、「EL素子」と記す)は、無機EL素子と有機EL素子とに大別されるが、最近特にディスプレイ用デバイスとして脚光を浴びているのは、消費電力が低い有機EL素子である。
ここで有機EL素子とは、有機化合物で構成されている発光層に到達した電子と正孔が再結合する際に生じる発光を利用した、キャリア注入型の自発光デバイスである。
ところで有機EL素子は、素子構成という観点で2種類に大別することができる。1つは、「ボトムエミッションタイプ」と呼ばれている素子である。具体的には、ガラス基板上の裏面、即ち、電極及び有機発光層が積層されていない側の面(ガラス面)から光を取り出すタイプの素子である。このタイプは、透明基板上に透明電極を形成し、その上にホール輸送層/有機発光層/電子輸送層等の有機化合物層を積層した後、さらに金属等の電極を積層することによって作製されるものである。
もう1つは、「トップエミッションタイプ」と呼ばれている素子である。具体的には、素子の最上部から光を取り出すタイプの素子である。このタイプは、ガラス基板上に金属電極を形成し、その上に電子輸送層/有機発光層/ホール輸送層等の有機化合物層を積層した後、さらに上部に透明電極を積層することによって作製されるものである。
ここで「ボトムエミッションタイプ」では透明基板を使用する必要があるが、「トップエミッションタイプ」では不透明基板の利用が可能であるため、半導体の技術をそのまま基板側で生かすことが可能となる。このため、p−SiTFT等の駆動回路だけでなく、現在反射型液晶で開発されているメモリー内蔵の画素といった、無機半導体技術が融合した素子開発の可能性をもっている。このため最近では「トップエミッションタイプ」の有機EL素子の研究開発が盛んである。
一方で、有機EL素子では、一方の電極(陰極)から電子を注入し、他方の電極(陽極)から正孔を注入する必要がある。このため、有機発光層のHOMO及びLUMOの各エネルギー準位とのエネルギー障壁を極力小さくすることが好ましい。エネルギー障壁を小さくする方法としては、低仕事関数である金属電極を電子を注入する側に設けて、高仕事関数であるITO等の無機酸化物からなる透明電極を正孔を注入する側に設ける方法が一般に知られている。
ただし実際には、必ずしも金属電極を電子を注入する側に設けなければいけないという訳ではない。通常は、素子が有する有機発光層のエネルギー準位や、有機発光層以外の素子を構成する層(正孔注入層、電子注入層等)の配置により、総合的に素子の電流効率が高くなるように設計されている。例えば、電子を注入する側にITO等の無機酸化物からなる透明電極を採用する等の場合もある。
また、総合的な電流効率アップには、電子注入層及び正孔注入層の導入が非常に効率的である。
正孔注入層の構成材料としては、低分子系材料及び高分子系材料のいずれも使用することができる。低分子系材料としては正孔輸送層の構成材料としても使用できる材料が使用される。中でも銅フタロシアニンは、耐熱性が高く、素子自体の耐熱性や寿命を向上させることがよく知られている。高分子系材料としては、例えば、ポリチオフェン(PEDOT等)、ポリアニリン等の導電性高分子が使用される。
一方、電子注入層の構成材料としては、リチウム、カルシウム等の仕事関数の小さい金属や、フッ化リチウム、酸化リチウムのような金属フッ化物、酸化物、無機酸化物、有機物ではリチウム錯体等が使用される。近年では、効率と寿命とをより向上させるために、有機化合物と金属とを共蒸着して電子注入層(及び電子輸送層のいずれか)を形成する方法が開発されている。例えば、特許文献1、特許文献2等に開示されているものがその一例として挙げられる。主に、仕事関数の小さい1A族、2A族に属する金属、所謂アルカリ金属、アルカリ土類金属等を電子注入層(及び電子輸送層のいずれか)にドープすることで電子の注入性が向上し発光効率のよい素子が得られることから注目が集まっている。中でも1A族の金属(アルカリ金属)は仕事関数が小さく、電流効率効果が大きいことが期待されよく使用されている。
しかしながら、アルカリ金属は、仕事関数が低く電子注入層にドープすることで電流効率を著しく向上させるものの、成膜工程における熱履歴、駆動時の発熱、高温環境等によって容易に拡散してしまうため、所望の素子特性を安定して得ることが困難であった。
これに対し、特許文献3では、アルカリ金属(アルカリ金属塩)を含む有機化合物層と発光層との間に拡散防止層を設ける方法が開示されている。これは金属イオンをトラップする化合物、金属や金属イオンを包接できる化合物、金属を配位することのできる配位性の化合物等を使用して、金属や金属イオンを発光層中に拡散させないという方法である。
しかしながら、アルカリ金属は、配位性の化合物が存在している状態であっても、100℃〜120℃程度の高温環境下においては、そのアルカリ金属が当該配位性の化合物に捕捉されず容易に拡散することが非特許文献1で報告されている。このため依然として所望の素子特性を安定して得ることが困難な場合があるという課題が残っていた。
特開平4−230997号公報 特開平9−17574号公報 特開2007−088015号公報 日本化学会第87春季年会(2007)予稿集、38頁、講演番号2−B1−43
以上の状況を鑑み、本発明の目的は、駆動時の発熱・高温環境で繰り返し使用しても安定して性能を発揮する有機EL素子を提供することである。また、本発明の他の目的は、電子注入性に優れ高効率である有機EL素子を提供することである。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に含まれる積層体と、から構成され、該電子注入層が電子注入材料と第一の金属原子とを含み、該電子輸送層が電子輸送材料と第二の金属原子とを含み、該第二の金属原子が第一の金属原子よりも拡散しにくい金属原子であり、該第一の金属原子の拡散を抑制する金属原子であることを特徴とする。
本発明によれば、駆動時の発熱・高温環境で繰り返し使用しても安定して性能を発揮する有機EL素子を提供することができる。また、本発明によれば、電子注入性に優れ高効率である有機EL素子を提供することができる。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に含まれる積層体と、から構成される。また、陽極から正孔を、陰極から電子をそれぞれ注入して、発光機能を有する有機化合物を含む発光層の内部で正孔と電子とを再結合することにより、本発明の有機EL素子は光を放出する。
以下、図面を参照しながら本発明の有機EL素子について説明する。
図1は、本発明の有機EL素子における第一の実施形態を示す断面図である。図1の有機EL素子10は、基板1上に、金属層2、透明導電膜3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7及び陰極8がこの順に設けられている。尚、図1の有機EL素子10は、基板側の電極(透明導電膜3)から正孔を注入し、観察者側の電極(陰極8)から電子を注入する構成を示したものである。また本発明の有機EL素子においては、基板1との密着性を得るために、基板1と金属層2との間に下引き層(図示せず)として薄いCr膜を設けてもよい。
図1の有機EL素子10は、基板1上に、一方の電極構成として、金属層2及び透明導電層3が積層されている。特に金属層2を設けるのは、観察者が陰極8側から有機EL素子を見て使用する場合に、発光層4の後方に光反射層が必要になるためである。また金属層2は光反射層として機能するのと同時に、透明導電膜3から効率よく正孔の注入を行うための陽極として機能する。このように、基板1側の電極構成を金属層2と透明導電膜3との積層構成にすることにより、高い光反射率と高い正孔注入性とを両立することが可能である。
図2は、本発明の有機EL素子における第二の実施形態を示す断面図である。図2の有機EL素子20は、図1の有機EL素子10において、電子輸送層6が、発光層5側の第一の電子輸送層61と、電子注入層7側の第二の電子輸送層62とからなる積層体となっている。
有機EL素子においては、発光層へ注入される電荷(電子、正孔)のバランスが重要であり、そのバランスを取る上で各層の界面におけるエネルギー障壁を適当に調整することが求められる場合がある。このような場合には、例えば図2で示される第二の実施形態のように、電子輸送層を複数の層からなる積層体とするのが効果的である。尚、第一の電子輸送層61はエネルギー障壁を調整するために、膜厚を薄くするのがよい。このような構成にすれば、駆動電圧の上昇が生じず、陰極8から発光層5へ電子を輸送するときに伴うエネルギー障壁はなだらかになる。
ただし、本発明の有機EL素子は上記の実施形態に限定されることはない。例えば、正孔の注入を容易にするために、透明導電膜3と正孔輸送層4との間に正孔注入層(図示せず)を設けてもよい。また正孔輸送性材料と正孔注入性材料とを混合した層をさらに設けてもよい。この他にも介在層として、電子輸送性材料と電子注入性材料とを混合した層を設けてもよい。
本発明の有機EL素子において、電子注入層7は電子注入材料と第一の金属原子とを含む層である。一方、電子輸送層6は、電子輸送材料と第二の金属原子とを含む層である。
次に、電子注入層7の構成部材について説明する。
電子注入層7に含まれる電子注入材料は、主に電子輸送性を有する有機化合物が挙げられる。具体的には、ニトロ置換フルオレノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、チアゾアゾール誘導体、クマリン誘導体、キレート化オキシノイド化合物等が挙げられるが、電子輸送性の材料であれば特にこれに限定されない。電子注入材料として、好ましくは、第一の金属原子と錯体を形成する配位子である有機化合物である。
代表的なものとしては、Alq3(アルミキノリノール)、BCP、BND、PBD、p−EtTAZ、シロール系誘導体であるPyPySPyPy、各種シクロペンタジエン誘導体、ET4、ETS1、PSP等の材料が挙げられる。
電子注入層7に含まれる第一の金属原子は、主にアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子である。好ましくは、アルカリ金属原子である。より好ましくは、セシウム原子(Cs)である。
次に、電子輸送層6の構成部材について説明する。
電子輸送層6に含まれる電子輸送材料は、主に電子輸送性を有する有機化合物が挙げられる。その有機化合物の具体例は、上記の電子注入材料の具体例と同様である。また、電子輸送材料は、電子注入材料と同種の化合物であってもよいし、異種の化合物であってもよい。電子輸送材料として、好ましくは、第二の金属原子と錯体を形成する配位子となる有機化合物である。
ここで電子輸送層6に含まれる第二の金属原子は、電子注入層7に含まれる第一の金属原子よりも拡散しにくい金属原子である。また、電子輸送層6に含まれる第二の金属原子は、第一の金属原子の拡散を抑制する金属原子でもある。第二の金属原子は、具体的には、主にアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子である。好ましくは、アルカリ金属原子である。より好ましくは、リチウム原子(Li)である。
尚、電子輸送層6が、図2に示すように、第一の電子輸送層61と第二の電子輸送層62とからなる積層体である場合、第二の電子輸送層62の構成部材は、第一の実施形態における電子輸送層6の構成部材と同様である。即ち、第二の電子輸送層62とは、電子輸送材料と第二の金属原子とからなる層である。一方、第一の電子輸送層61は、電子輸送材料のみからなる層である。即ち、図2に示される第二の実施形態においては、発光層5と、種類の異なる金属原子が含まれている層(電子注入層7及び第二の電子輸送層62)との間に、金属原子が含まれない層(第一の電子輸送層61)が設けられている。このような構成にすれば、陰極8から発光層5への第一の金属原子の拡散はさらに抑制され、より安定な素子特性を発現することができる。
また、第一の電子輸送層61及び第二の電子輸送層62に含まれる電子輸送材料とは、第一の実施形態における電子輸送層6の構成材料である電子輸送材料として挙げられる化合物と同様のものが好ましく使用される。ここで第一の電子輸送層61及び第二の電子輸送層62に含まれる電子輸送材料は、同じであっても異なっていてもよい。
以下に、電子輸送層6と電子注入層7とにおいて、それぞれ異なる種類の金属原子を含める理由について説明する。
本発明の有機EL素子において、電子輸送層6に含まれている第二の金属原子は、電子注入層7に含まれている第一の金属原子が、発光層5、正孔輸送層4等といったアノード側へ拡散してくるのを抑制する効果を有する。ここで第二の金属原子が第一の金属原子の拡散を抑制する機能を有するためには、好ましくは、以下に述べる3つの条件を満たす。
〔条件1〕電子注入層7を形成する際に、第一の金属原子と電子注入材料とを共蒸着すること
〔条件2〕第一の金属原子と電子注入材料とによって金属錯体が形成されること
〔条件3〕第二の金属元素が第一の金属元素と比較して、高温環境下で拡散しにくい金属原子であること
以下、各条件についてその詳細を説明する。
〔条件1〕を満たすのが好ましい理由は、第一の金属原子と電子注入材料とを共蒸着すると、電子注入材料と第一の金属原子との間に電荷移動錯体が形成されることにより、電極(陰極8)と電子注入層7との間の電気的接合が良好になると考えられるからである。このとき形成される電子注入層7の電子注入性が良好となるために、第一の金属原子は、好ましくは、低仕事関数の金属原子である。
ここで低仕事関数の金属原子として、代表的にはアルカリ金属とアルカリ土類金属とを挙げることができる。なぜならば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、下記の表1に示されているようにいずれの原子も仕事関数が4.0eV以下であるからである。
Figure 2009182288
この中でもCsは最も低仕事関数であることから、Csを第一の金属原子として使用するのが最も好適である。
〔条件2〕を満たすのが好ましい理由は、第一の金属原子と電子注入材料とによって金属錯体が形成されると、電子注入材料によって第一の金属原子の拡散を抑制することが可能となるからである。ここで、第一の金属原子と電子注入材料とによって金属錯体が形成されるには、好ましくは、当該電子注入材料が当該金属錯体を構成する配位子である。
配位子となる電子注入材料として、例えば、下記式(1)で示されるBCPに代表されるフェナントロリン誘導体が挙げられる。
Figure 2009182288
ここでフェナントロリン誘導体は、基本骨格中に2個の窒素原子が含まれている。この2個の窒素原子とアルカリ金属とが電気的な相互作用を引き起こすことにより金属錯体が形成される。
また、下記式(2)に示されるTPDに代表されるアリールアミン誘導体も配位子となる電子注入材料である。
Figure 2009182288
アリールアミン誘導体は、分子中に窒素原子が2個含まれている。この2個の窒素原子とアルカリ金属とが電気的な相互作用を引き起こすことにより金属錯体が形成される。
さらに、下記式(3)に示されるBNDに代表されるオキサジアゾール誘導体も配位子となる電子注入材料である。
Figure 2009182288
オキサジアゾール誘導体は、窒素原子2個と酸素原子1個とを有するオキサジアゾール環がアルカリ金属と電気的な相互作用を引き起こす。これにより金属錯体が形成される。
ただし、配位子となる電子輸送材料は、上述した化合物に限定されるものではない。つまり電子注入層7に含まれる第一の金属原子と電気的な相互作用を引き起こして金属錯体を形成するものであって、電子の注入性を向上させるものであれば特に限定されない。
次に、上記の〔条件3〕を満たすのが好ましい理由について説明する。
上述した〔条件1〕及び〔条件2〕を満たすことにより、電子注入材料と第一の金属原子との間で一種の電荷移動錯体が形成されるので、電子の注入性を向上させることは可能である。しかしながら、連続駆動による発熱や、高温条件下に晒されることにより、電子注入層7に含まれる第一の金属原子が配位子である電子注入材料を介してホッピングするという拡散現象が生じる。このように第一の金属原子の拡散現象により、素子が当初有していた電子注入性が損なわれるといったことが生じる。また、電子注入層7を成膜した後、透明電極層(陰極8)を成膜する際に生じる発熱によって、第一の金属原子の一部が拡散し、場合によっては拡散した第一の金属原子が発光層5まで到達する。また拡散した第一の金属原子が、発光層5中の蛍光材料が失活する一つの要因になっている。このように第一の金属原子が拡散する原因はまだ明らかではない。その原因の一つとして、少なくとも低仕事関数の金属材料のうち、融点が低いアルカリ金属が、発光材料等の他の部材のガラス転移点を下回る温度においても十分に拡散可能なアクティビティを有していることが考えられる。特に、Csはアルカリ金属の中でも最も低仕事関数であると同時に最も融点が低い金属原子であることから、素子を作製した直後においては高効率等といった良好な素子特性を示す反面、高温環境下にさらされた後の輝度低下が生じていると考えられる。
アルカリ金属が熱によって拡散するメカニズムについては、その詳細は明らかになってはいないが、少なくとも、以下の事項が考えられる。即ち、配位子である有機化合物(電子注入材料)のイオントラップ性や配位性の大小の他に、金属元素自体の熱揺らぎが大きい場合には確率的に配位子である有機化合物との電気的な相互作用が解かれて拡散が生じるというものである。具体的には、高温環境下では、電子注入材料との相互作用を解かれた第一の金属原子(もしくは第一の金属原子のイオン)は、容易に層内を拡散移動し、再び確率的に他の電子注入材料にトラップされるといった過程を繰り返すという現象が起こっていると考えられる。特に、Csはアルカリ金属の中でも最も低仕事関数であると同時に最も融点が低いため(28.5℃)、100℃程度の高温環境下での熱揺らぎが大きく、配位子である電子注入材料との相互作用から外れて容易に層内を移動すると考えられる。その結果、作製直後には高効率といった良好な素子特性を示す反面、高温環境下でさらされると素子の輝度低下が生じてしまう。
一方で、この金属原子の拡散の度合いは、金属種の熱的な物性に影響されることが判明している。そこで、本発明の有機EL素子は、熱揺らぎが小さく拡散し難い金属(第二の金属原子)が中心金属である金属錯体が含まれている層(電子輸送層6)を設ける。この電子輸送層6を設けることにより、たとえ熱揺らぎの大きい金属原子が拡散したとしても、この金属原子をトラップし得る配位子(電子輸送材料)は、既に、熱揺らぎが小さく拡散し難い金属と錯体を形成している。このため熱揺らぎの大きく拡散し易い金属原子は移動先を失い拡散が抑制される。これにより素子の輝度低下を抑制することができる。
この抑制の作用を実現するための具体的な方法としては、電子輸送層6に予め第一の金属原子より拡散しにくい第二の金属原子をドープし、第一の金属原子が他層に拡散するのを防ぐという方法がある。この方法において、第二の金属原子は、第二の金属原子よりも高温環境下で拡散しにくい金属原子であるとよい。例えば、高融点の金属原子を選択するとよい。
例えば、仕事関数の低いセシウムを第一の金属原子とした場合は、第二の金属原子として、好ましくは、セシウム以外のアルカリ金属やアルカリ土類金属を使用する。ここで、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の融点は、下記の表2に示される通りである。
Figure 2009182288
以上より、第一の金属原子と第二の金属原子との組み合わせとして、例えば、同じアルカリ金属同士であって、融点の高いものが第二の金属原子である組み合わせが挙げられる。好ましくは、アルカリ金属の中でも一番融点が低く低仕事関数であるCsを第一の金属原子とし、アルカリ金属の中でも一番融点が高いリチウム(Li)を第二の金属原子とする。また、第一の金属原子がアルカリ金属であり、第二の金属原子がアルカリ土類金属である組み合わせも好ましい。
次に、本発明の有機EL素子を構成する各層の構成部材について説明する。尚、電子輸送層6及び電子注入層7の構成部材については既に述べたので省略する。
基板1として、ガラス、シリコン、ガリウム砒素等の無機化合物からなる基板が挙げられる。またポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の有機化合物からなる基板も使用できる。さらに有機化合物と無機化合物とを積層したハイブリッド型の基板も使用できる。一方、ステンレス等の導電性基板に絶縁層をコートしたものを基板として使用してもよい。
金属層2を構成する部材としては、光反射率の高い金属材料を使用するとよい。例えば、Ag,Al,Pt等の金属単体及びこれらの金属単体を組み合わせた合金を使用することができる。
透明導電膜3を構成する部材としては、ITO,IZO,ITZO等の無機酸化物からなる光透過性に優れたものが、高仕事関数でもあり好ましい。
正孔輸送層4の構成部材である正孔輸送性材料として、芳香族アミン化合物が最も多く使用されている。これは、適切なイオン化ポテンシャル、正孔輸送性に加えて、電気化学的に可逆であることによるものである。中でも、トリフェニルアミン構造を持つ化合物は、立体性があり、アモルファス状態を形成するので好ましい。
正孔輸送層4の構成部材として使用される芳香族アミン化合物は、その種類は非常に多いものであるが、例えば、フェニレンジアミン誘導体であるTPD、α−NPD、さらにTPTE−1、TPAC、フルオレン基を導入したFTPD、シクロアルキレン型アミンのオリゴマーであるOTPAC、2−PN、TP、Spiro−TPDが挙げられる。以上に挙げた化合物以外にも、類似の骨格を有する種々のトリフェニルアミン誘導体が挙げられる。特に、2−PNやTPは、高い液晶性及び高い正孔移動度を有する正孔輸送性材料であるので、好ましく使用される。
本発明の有機EL素子において、正孔注入層を設ける場合は、正孔注入層の構成部材である正孔注入材料として、ポリチオフェン(PEDOT/PSS)等の導電性高分子が好ましく使用される。
発光層5の構成部材としては、蛍光性又は燐光性の有機発光材料が挙げられる。代表的なものとして、発光材料でもある各種金属錯体が挙げられる。この金属錯体において、配位子の代表例としては、8−キノリノール、ベンゾオキサゾール、アゾメチン、フラボン等が挙げられる。一方、中心金属の代表例としては、Al,Be,Zn,Ga,Eu,Ru,Pt,Cu,Ir等が挙げられる。また蛍光色素系発光材料も使用することができる、具体例としては、オキサジアゾール、ピラゾリン、ジスチリルアリレーン、シクロペンタジエン、テトラフェニルブタジエン、ビススチリルアントラセン、ペリレン、フェナントレン、オリゴチオフェン、ピラゾロキノリン、チアジアゾロピリジン、層状ペロプスカイト、p−セキシフェニル、スピロ化合物等が挙げられるが、電界発光材料であれば特にこれに限定されない。また、発光材料である各種高分子材料、例えば、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン等を使用することも可能である。
有機発光層5は、一種類の蛍光性又は燐光性の有機発光材料のみで構成されていてもよいが、有機発光材料の分子同士が非常に近接することで生じる励起子の失活を防止し、かつ高い電流効率を得るため、ホストとゲストとで構成ざれる。
ホストとしては、発光材料の分子間隔を一定間隔に保つためのネットワークを形成し、電流効率を良好に保ち、成膜し易い化合物であれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリオキシエチレン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリイソプレン、ポリイミド等の非発光性材料が挙げられる。
ゲストとして、具体的には、低分子系のAlq3、Almq3、DPVBi、π共役ポリマー系のPPV、MEH−PPV、PF、色素含有ポリマー系のPVK、TPDPES、PVOXDが挙げられる。
透明電極層(陰極8)の構成材料としては、光透過率と導電率の高いものであれば特に限定されないが、具体的には、ITO、IZO、ITZOが挙げられる。
本発明の有機EL素子を構成する各層は、好ましくは、真空装置内における抵抗加熱による真空蒸着法によって形成される。真空蒸着法によって電子輸送層6及び電子注入層7を形成する際には、好ましくは、電子輸送材料又は電子注入材料と金属とを同時に真空装置中で加熱し共蒸着を行う。こうすると金属原子が含まれる電子輸送層6及び電子注入層7となる薄膜を容易に作製することができる。
また電子輸送層6及び電子注入層7を形成する際には、素子の発光効率を向上させる目的で、それぞれ異なる有機化合物を電子輸送材料又は電子注入材料として使用して各層を形成してもよい。一方、電子輸送材料及び電子注入材料を同一の有機化合物として、構成材料の種類を減らしてもよい。
透明電極層(陰極8)を形成する際は、スパッタ法、イオンプレーティング法、蒸着法等といった真空装置を用いて膜厚やパワーを制御しながら有機材料からなる薄膜上へ成膜が行える方法を採用するのが好ましい。特に、有機EL素子は、有機薄膜を主体とする積層膜であることから、成膜時のプラズマダメージを極力抑制できる方法が好ましい。
本発明の有機EL素子における第一の実施形態を示す断面図である。 本発明の有機EL素子における第二の実施形態を示す断面図である。
符号の説明
1 基板
2 金属層
3 透明導電膜
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
61 第一の電子輸送層
62 第二の電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
10,20 有機EL素子

Claims (5)

  1. 陽極と陰極と、
    該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層、電子輸送層及び電子注入層がこの順に含まれる積層体と、から構成され、
    該電子注入層が電子注入材料と第一の金属原子とを含み、
    該電子輸送層が電子輸送材料と第二の金属原子とを含み、
    該第二の金属原子が第一の金属原子よりも拡散しにくい金属原子であり、該第一の金属原子の拡散を抑制する金属原子であることを特徴とする、有機EL素子。
  2. 前記第一の金属原子及び前記第二の金属原子がアルカリ金属原子であることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL素子。
  3. 前記第一の金属原子がセシウム原子であり、前記第二の金属原子がリチウム原子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機EL素子。
  4. 前記電子注入材料が前記第一の金属原子と錯体を形成する配位子であり、
    前記電子輸送材料が前記第二の金属原子と錯体を形成する配位子であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機EL素子。
  5. 前記電子輸送層が発光層側の第一の電子輸送層と、電子注入層側の第二の電子輸送層と、からなる積層体であり、該第一の電子輸送層には金属原子が含まれないことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機EL素子。
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