JP2009159864A - T細胞系列特異的なサイレンサー活性を有するヌクレオチド及びその利用 - Google Patents

T細胞系列特異的なサイレンサー活性を有するヌクレオチド及びその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】CD4ヘルパーT細胞系列における事象の解明に有効な、CD4ヘルパーT細胞特異的な発現システムを提供する。
【解決手段】Th−POK遺伝子のシス制御領域に由来し、ヘルパーT細胞系列特異的発現を調節するためのヌクレオチドであって、真核細胞においてサイレンサー活性を有するヌクレオチド、前記ヌクレオチドならびにプロモーター又はプロモーター及びエンハンサーを含む発現ベクター、前記発現ベクターを導入してなる形質転換体、前記発現ベクターを導入してなるトランスジェニック非ヒト動物、前記発現ベクター又は形質転換体又は非ヒト動物を用いることを特徴とする、ヘルパーT細胞の機能調節剤をスクリーニングする方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、T細胞系列特異的なサイレンサー活性を有するヌクレオチド及びその利用に関する。詳しくは、T細胞系列の特定の分化段階で遺伝子の発現を調節可能なシス制御領域を用いた遺伝子導入技術に関する。
遺伝子の発現は、トランスに働く因子がシスに働く遺伝子座上の制御領域に結合することで制御されている。遺伝子の発現を正に制御するシス制御領域として、エンハンサー、プロモーターが知られている。遺伝子の発現を負に制御するシス制御領域として、サイレンサーが知られている。特定の遺伝子の時空間的な発現パターンは、シス制御領域の活性制御により規定されている。発生工学的な手法を用いてトランスジェニック動物を作製する際には、いかに目的の細胞特異的に効率よく目的の遺伝子を発現させるかが最重要であり、そのためには適切なシス制御領域を用いる必要がある。言い換えると、ある特定の細胞に目的の遺伝子を発現するトランスジェニック動物を作製するには、まず特定の細胞に特異的に機能を発揮するシス制御領域を同定することが必要となる。
CD4CD8ダブルポジティブ(DP)胸腺細胞は、ポジティブセレクションを経て、2つの機能的に異なるサブセットであるCD4CD8ヘルパーT細胞又はCD4CD8細胞傷害性T細胞(非特許文献1〜3)を生じる。MHCクラスII拘束性TCRを発現する細胞は、CD8発現を消失し、ヘルパー系列へと分化する一方、MHCクラスI拘束性TCRを発現する細胞は、CD4の発現を消失し、細胞傷害性系列へと分化する(非特許文献4、5)。進化上保存されたRunt DNA結合ドメインを有するRunxタンパク質及びそれらの共通パートナーであるCbfβ(非特許文献6、7)から構成されるRunx転写因子複合体は、T細胞分化過程でのCD4及びIL-4遺伝子のサイレンシングに重要な役割を果たすことが示されている(非特許文献8−11)。BTB/POZドメイン含有ジンクフィンガー因子ファミリー(非特許文献12)に属する転写因子であるTh−POK(cKrox又はZbtb7b)の発現は、CD4ヘルパー系列細胞の発生にとって必要かつ十分である(非特許文献13、14)。したがって、DP胸腺細胞の細胞系列決定がどのように制御されているかを理解するためには、Th−POKのヘルパー系列特異的な発現を制御する機構の解明が必要とされる。
本発明者は、最近、DP胸腺細胞におけるRunx1及びRunx3の両遺伝子の不活化によって成熟CD8T細胞の劇的な損失を起こすことを報告した(非特許文献15)。Runxタンパク質は、Groucho/TLEコリプレッサータンパク質をその標的遺伝子にリクルートするために、C末端に保存されたVWRPYモチーフを保有する(非特許文献16、17)。
これまで、T細胞特異的なトランスジェニックマウスを作製する際には、Lckプロモーター、CD2 locus control region(LCR)、CD4エンハンサー/プロモーターなどが用いられてきた。CD4遺伝子座において、CD4CD8ダブルネガティブ(DN)胸腺細胞とCD8細胞傷害性T細胞で遺伝子発現を抑制する活性をもつCD4サイレンサーが同定された(非特許文献18)。このことにより、例えばCD4エンハンサー/プロモーターとCD4サイレンサーとの組み合わせによりCD4CD8DP(ダブルポジティブ)胸腺細胞とCD4ヘルパーT細胞で特異的に発現するトランスジーンが作製可能となった。しかしながら、DP胸腺細胞とCD8細胞傷害性T細胞でサイレンサー活性を示すシス制御領域は同定されておらず、CD4ヘルパーT細胞のみで特異的に発現する有効なシス領域の組み合わせは同定されていなかった。そのため、CD4ヘルパーT細胞系列特異的に遺伝子を発現させる有効な発生工学的解析手段は知られていない。
Janeway, C.A., Jr. & Bottomly, K. Cell 76, 275-85 (1994) Germain, R.N. Nat Rev Immunol 2, 309-22 (2002) Starr, T.K., Jameson, S.C. & Hogquist, K.A. Annu Rev Immunol 21, 139-76 (2003) Singer, A. & Bosselut, R. Adv Immunol 83, 91-131 (2004) Ellmeier, W. et al. Annu Rev Immunol 17, 523-54 (1999) Kamachi, Y. et al. J Virol 64, 4808-19 (1990) Ito, Y. Genes Cells 4, 685-96 (1999) Taniuchi, I. et al. Cell 111, 621-33 (2002) Woolf, E. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 100, 7731-6 (2003) Djuretic, I.M. et al. Nat Immunol 8, 145-53 (2007) Naoe, Y. et al. J Exp Med 204, 1749-1755 (2007) Bilic, I. & Ellmeier, W. Immunol Lett 108, 1-9 (2007) He, X. et al. Nature 433, 826-33 (2005) Sun, G. et al. Nat Immunol 6, 373-81 (2005) Egawa, T. et al.J Exp Med 204, 1945-1957 (2007) Levanon, D. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 95, 11590-5 (1998) Aronson, B.D. et al. Mol Cell Biol 17, 5581-7 (1997) Sawada, S. et al. Cell 77, 917-929 (1994)
本発明の目的は、CD4ヘルパーT細胞系列における事象の解明に有効な、CD4ヘルパーT細胞特異的な発現システムを提供することにある。
本発明者は、本明細書において、胸腺細胞におけるRunx複合体機能の喪失によって、Th−POKの抑制解除が起こり、クラスI拘束性胸腺細胞のCD4CD8ヘルパー様T細胞への異常な分化が起こること、ならびにTh−POK遺伝子座に同定されたRunx結合配列は、ポジティブセレクション前のDP胸腺細胞及びCD8細胞傷害性系列細胞におけるTh−POK抑制のみならず、CD8T細胞の発生にとっても必須である転写サイレンサーとして作用することを示す。これらの結果から、Th−POK発現、よって即ち、ヘルパーT細胞への分化プログラムは、Runx複合体依存的なTh−POKのサイレンサー活性により積極的に抑制され、細胞傷害性T細胞の分化を可能とすることを実証し、本発明を完成するに至った。
即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 Th−POK遺伝子のシス制御領域に由来し、ヘルパーT細胞系列特異的発現を調節するためのヌクレオチドであって、真核細胞においてサイレンサー活性を有するヌクレオチド。
〔2〕 前記真核細胞が哺乳動物由来の細胞である、前記〔1〕に記載のヌクレオチド。
〔3〕 サイレンサー活性がCD4CD8ダブルポジティブ胸腺細胞及びCD8細胞傷害性T細胞で発揮されるものである前記〔1〕または〔2〕に記載のヌクレオチド。
〔4〕 前記ヌクレオチドが
(a)配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチド、
(b)配列番号1に記載の塩基配列において、251〜362位の領域を必須の塩基配列として含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド、
(c)配列番号1の251〜362位の領域の塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド、
(d)配列番号1の273〜362位の領域の塩基配列を少なくとも2つ直列に含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド、又は
(e)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド
からなるものである、前記〔1〕記載のヌクレオチド。
〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載のヌクレオチドならびにプロモーター又はプロモーター及びエンハンサーを含む発現ベクター。
〔6〕 目的発現遺伝子としてリコンビナーゼ遺伝子を含む、前記〔5〕記載の発現ベクター。
〔7〕 目的発現遺伝子としてドミナントネガティブ変異体遺伝子を含む、前記〔5〕記載の発現ベクター。
〔8〕 目的発現遺伝子としてレポーター遺伝子を含む、前記〔5〕記載の発現ベクター。
〔9〕 前記〔5〕〜〔8〕いずれか1項に記載の発現ベクターを導入してなる形質転換体。
〔10〕 前記〔5〕〜〔8〕いずれか1項に記載の発現ベクターを導入してなるトランスジェニック非ヒト動物。
〔11〕 前記〔10〕に記載のトランスジェニック非ヒト動物の子孫動物。
〔12〕 前記〔10〕又は〔11〕に記載の非ヒト動物から得られる組織又は細胞。
〔13〕 前記〔5〕〜〔8〕いずれか1項に記載の発現ベクター又は前記〔9〕に記載の形質転換体を用いることを特徴とする、ヘルパーT細胞の機能調節剤をスクリーニングする方法。
〔14〕 前記〔10〕又は〔11〕に記載の非ヒト動物を用いることを特徴とする、ヘルパーT細胞の機能調節剤をスクリーニングする方法。
本発明のヌクレオチドによると、Th−POKのサイレンサー活性を発揮させるために必要十分な塩基配列を提供することが可能となり、真核生物におけるTh−POKを介した転写のさらなる解明のみならず、ヘルパーT細胞発生の遺伝的プログラミングの解明に寄与することができる。本発明の発現ベクターによると、本発明のヌクレオチドを様々な用途に供する際に便利なツールを提供することができる。
本発明の発現ベクター、形質転換体及びトランスジェニック非ヒト動物によると、真核生物におけるTh−POKサイレンサーを介した転写のさらなる解明のみならず、ヘルパーT細胞発生の遺伝的プログラミングをインビトロ又はインビボで調べるためのツールを提供することができる。特定の遺伝子を連結させた本発明の発現ベクターを用いることにより、インビトロ又はインビボでヘルパーT細胞特異的に目的タンパク質を発現させることができ、当該タンパク質のヘルパーT細胞における機能の解明につながる。また、特定の遺伝子としてリコンビナーゼ遺伝子(例、Cre遺伝子)を連結させた本発明の発現ベクターを用いて、ヘルパーT細胞特異的にリコンビナーゼを発現するトランスジェニック非ヒト動物を作製することにより、ヘルパーT細胞特異的に目的の遺伝子を欠損させたトランスジェニック非ヒト動物の作出が容易になる。このような発生工学的手法に供せられるツールを提供することにより、ヘルパーT細胞の機能調節の異常に起因する病態の解明につながる。
本発明のスクリーニング方法によると、胸腺細胞の発生、分化における転写調節の中核に位置するRunx及びTh−POKの活性を調節可能な薬剤を簡便かつ高感度に選別することができる。
本発明者は、Runx1によるVWRPY依存的な抑制が成熟CD8T細胞の損失に関与しているか否かを調べるために、Runx3欠損バックグラウンドに、VWRPYモチーフを欠く変異体Runx1タンパク質を生じるRunx1Δ446アレルを導入した(Nishimura, M. et al. Blood 103, 562-70 (2004))。Runx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−Creマウスでは、90%を超えるT細胞がCD4CD8表現型を示し、脾臓CD8T細胞の数が顕著に減少した(図1a及び図5)。したがって、Runx1によるVWRPY依存的抑制は、成熟CD8T細胞の産生に関与している。
成熟CD8T細胞の損失は、少なくとも2つの機構によって起こり得、それにはMHCクラスI欠損マウスにおいて見られるようなクラスI拘束性細胞の分化阻害(Koller, B.H., et al. Science 248, 1227-30 (1990))、又はTh−POKトランスジェニックマウスにおいて知られているような、クラスI拘束性細胞のCD4CD8系列への異方向性の分化(He, X. et al. Nature 433, 826-33 (2005); Sun, G. et al. Nat Immunol 6, 373-81 (2005))が含まれる。クラスI拘束性T細胞の分化経路を調べるために、Runx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−CreマウスをMHCクラスII欠損バックグラウンドと交配させた(Grusby, M.J., et al. Science 253, 1417-20 (1991))。CD4CD8T細胞サブセットの劇的な減少がコンロトールのクラスII欠損マウスで観察された一方で、Runx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−creマウスにおいては、クラスII分子の非存在下でも、CD4CD8T細胞の分化が優性であった(図1b)。さらに、クラスII分子の非存在下において、脾臓CD4CD8T細胞の数は、コントロールのマウスよりもRunx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−creマウスで高く(図1c)、クラスI拘束性細胞の大部分が、胸腺細胞におけるRunx複合体機能が減弱された場合に、CD4CD8T細胞へと分化したことが確認された。次いで、これらのCD4CD8クラスI拘束性細胞の機能的な特性を調べた。CD4ヘルパー系列T細胞の特徴の一つは、TCR刺激後に、CD40のリガンドであるCD154の早期の誘導である(Roy, M., et al. J Immunol 151, 2497-510 (1993))。コントロールCD4T細胞及びI−A:Runx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−creマウス由来のCD4CD8クラスI拘束性細胞において、インビトロのTCR会合後のCD154発現が見られたが、コントロールCD8T細胞では見られなかった(図1d)。さらに、インターロイキン−4(IL−4)の産生が、クラスI拘束性CD4CD8細胞及び野生型CD4T細胞において検出されたが、その一方でコントロールCD8T細胞は、この能力を欠如していた。対照的に、高いインターフェロン−γ(IFN−γ)産生がコントロールCD8T細胞において検出されたが、野生型CD4T細胞及びクラスI拘束性CD4CD8細胞においては見られなかった(図1d)。これらの結果から、DP胸腺細胞における機能的なRunx複合体の損失がクラスI拘束性細胞のCD4CD8ヘルパー様T細胞への異方向性分化を誘導したと結論付ける。
したがって、本発明は、ヘルパーT細胞系列特異的発現を調節するためのヌクレオチドを提供する。前記ヌクレオチドは、Th−POK遺伝子のシス制御領域に由来し、真核細胞においてサイレンサー活性を有するヌクレオチドである。
本発明において「T細胞系列特異的」とは、胸腺内で前駆細胞がT細胞に分化、成熟、選択される過程をいう。また、前駆細胞がT細胞に分化、成熟、選択される限りにおいては、胸腺外又は胸腺と同等の微小環境を提供する再構成空間でT細胞系列特異的な過程が行われてもよい。「ヘルパーT細胞系列特異的」とは、CD4CD8ダブルポジティブ(DP)胸腺細胞がポジティブセレクションを経て、CD4CD8ヘルパーT細胞へと分化、成熟、選択される過程をいう。
本発明におけるTh−POK(cKrox又はZbtb7bともいう)とは、BTB/POZファミリーに属するZnフィンガー型の転写因子であり、その塩基配列及びアミノ酸配列は公知である。例えば、ヒト又はマウスTh−POKのゲノム情報は、NCBIに登録されたヒトHs.700874、マウスMm.262184などでその塩基配列が公表されている。Th−POK遺伝子のシス制御領域は、上記配列情報に基づいて自体公知の方法により単離することができる。
本発明において「発現の調節」とは、本発明のヌクレオチドの近辺に位置する遺伝子の転写を抑制することによって、特定のT細胞系列で遺伝子産物を発現させることをいう。
本発明のヌクレオチドとは、その近辺に位置する遺伝子の転写を抑制する核酸をいい、通常サイレンサーと称される用語と同義である。
本発明のヌクレオチドは、一実施形態において、TGCGGTモチーフ及びAGCGGTモチーフというRunx認識モチーフを含むTh−POKのシス制御領域に由来するものであり、本発明によって初めて解明された、T細胞系列特異的、具体的にはCD4CD8ダブルポジティブ胸腺細胞及びCD8細胞傷害性T細胞でサイレンサー活性を有するヌクレオチドである。
本発明のヌクレオチド中に含まれる前記TGCGGTモチーフ及びAGCGGTモチーフは、モチーフ間の上流、下流の関係は特に限定されるものではない。
「Th−POK遺伝子のシス制御領域に由来する」とは、例えばマウスTh−POK中の本発明者により見出されたRBS−1と名付けたシス制御領域の塩基配列そのものであってもよく、本発明の目的を達成しうるサイレンサー活性を有する限りRBS−1内の塩基配列が改変されていてもよい。マウスRBS−1配列、ならびにラット、イヌ、チンパンジー及びヒトRBS−1配列のアライメントは、図6に示されており、それぞれの動物由来のRBS−1配列として、マウスRBS−1(配列番号1)、ラットRBS−1(配列番号2)、イヌRBS−1(配列番号3)、チンパンジーRBS−1(配列番号4)及びヒトRBS−1(配列番号5)を示す。上記以外の動物由来のRBS−1配列も、各種動物のゲノムデータベースを検索することにより、容易に配列情報を入手することが可能であり、当該情報に基づいて自体公知の方法により単離することができる。
本発明のヌクレオチドの好ましい例として、下記(a)〜(e)が挙げられる。
(a)配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチド
本発明者によりRBS-1と名付けられた、マウスTh−POKのシス制御領域に由来する塩基配列を有するヌクレオチドである。
(b)配列番号1に記載の塩基配列において、251〜362位の領域を必須の塩基配列として含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド
RBS-1の251〜362位の領域は、サイレンサー活性を発揮するコアとなる配列である。したがって、当該領域を含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチドは、本発明のヌクレオチドとして好ましい。
ここで、配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性は、後述するレポーターアッセイにより測定することができる。同等とは、配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同じレベルのサイレンサー活性であってもよく、より高いレベルのサイレンサー活性であってもよい。レポーターアッセイにおける(a)の塩基配列からなるヌクレオチドのサイレンサー活性を1とした場合、(b)の塩基配列からなるヌクレオチドのサイレンサー活性は、通常、0.5〜100である。
(c)配列番号1の251〜362位の領域の塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド
251〜362位の領域は、サイレンサー活性を発揮するコアとなる配列であるが、かかる領域の塩基配列と70%以上の同一性、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドであっても、配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチドは、本発明のヌクレオチドとして好ましい。ここで、同一性(%)は、当該分野で慣用のホモロジー検索プログラム(例えば、BLAST、FASTA等)を初期設定で用いて決定することができる。また、MacVector9.5.2のClustalWアルゴリズムを使用することもできる。本発明において、塩基配列の「同一性」とは、比較する2種の塩基配列を整列(アラインメント)させ、整列により一致した塩基配列の数を基準となる塩基配列の総数で除して算出した割合を%で示した数字である。なお、整列により生じたギャップは、不一致と見なして算出する。また、同等のサイレンサー活性とは、前記(b)に記載した通りである。
(d)配列番号1の273〜362位の領域の塩基配列を少なくとも2つ直列に連結して含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド
配列番号1の273〜362位の領域は、単独ではサイレンサー活性をほとんど発揮しないが、当該領域を少なくとも2つ直列に連結した場合、配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有することが見出された。かかる塩基配列を含むヌクレオチドも、サイレンサーとして好ましい。配列番号1の273〜362位の領域の連結数は、少なくとも2つ、好ましくは3つである。連結の向きは、273位から362位をすべて5’から3’の向きにすることが好ましい。
(e)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド
マウスRBS-1領域の一具体例である配列番号1に記載塩基配列と完全同一ではなくても、かかる領域の塩基配列と70%以上の同一性、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の同一性を有する塩基配列を含むヌクレオチドであって、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチドは、本発明のヌクレオチドとして好ましい。ここで、同一性は、前記(c)に記載した通りである。また、同等のサイレンサー活性とは、前記(b)に記載した通りである。
本発明におけるサイレンサー活性は、Th−POKのプロモーター配列とレポーター遺伝子としてGFP遺伝子を作動可能に連結したベクター内のプロモーター配列の上流に測定対象のヌクレオチドを挿入し、マウス受精卵にマイクロインジェクションすることにより作製したトランスジェニックマウス由来のリンパ球でのGFPの発現を指標にして調べることができる。
本発明におけるサイレンサー活性は真核細胞において発揮されるものであるが、当該細胞としては、胸腺組織の発達した動物由来の細胞が好ましく、哺乳動物由来の細胞がより好ましい。哺乳動物としては、ヒトを始め、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル等の実験動物、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の家畜が挙げられる。前記動物由来の細胞の中でも、T細胞系列、すなわち、DP胸腺細胞、CD8細胞傷害性細胞などが好ましい。
本発明のヌクレオチドは、プロモーター又はプロモーター及びエンハンサーとともに発現ベクターを構成することができる。本発明は、かかる発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、真核細胞(好ましくは哺乳動物由来)に導入された場合にCD4CD8ダブルポジティブ胸腺細胞及びCD8細胞傷害性T細胞で発現抑制され、CD4ヘルパーT細胞で特異的に目的遺伝子を発現させることができる。本発明の発現ベクターは、本発明のヌクレオチドを真核細胞に導入してそのサイレンサー機能を発揮させるためのツールとなりうる。
本発明の発現ベクターに使用されるプロモーターとしては特に限定されるものではなく、発現目的遺伝子に応じて適宜選択されるが、CD4ヘルパーT細胞で特異的に目的遺伝子を発現させるためには、リンパ球、特にT細胞で作動可能なプロモーターが好ましい。プロモーターの好適な例として、CD4プロモーター、Th−POKプロモーター、CD3プロモーター等が挙げられる。
本発明の発現ベクターに使用されるエンハンサーとしては特に限定されるものではなく、本発明の目的に応じて適宜選択されるが、CD4ヘルパーT細胞で特異的に目的遺伝子を発現させるためには、リンパ球、特にT細胞で活性なエンハンサーが好ましい。エンハンサーの好適な例として、CD4エンハンサー、Th−POKエンハンサー(本発明者によりRBS−2と名付けられたTh−POKシス制御領域に由来するヌクレオチド)、CD3eエンハンサー等が挙げられる。
本発明の発現ベクターの基本骨格となるベクターは特に限定されるものではなく、本発明の目的に応じて適宜選択される。例えば、トランスジェニック動物を作製するためのターゲティングベクターとして使用する場合、形質転換を行う細胞(例えば、大腸菌)中で自己複製可能なものであればよい。例えば、市販のpBluscript(Stratagene社製)、pZErO 1.1(Invitrogen社)、pGEM−1(Promega社)等が使用可能である。
本発明の発現ベクターに導入可能な目的遺伝子は特に限定されるものではなく、本発明の目的に応じて適宜選択される。例えば、ヘルパーT細胞特異的にリコンビナーゼを発現可能なトランスジェニック動物を作製するためには、本発明の発現ベクターにリコンビナーゼ遺伝子を導入することが好ましい。リコンビナーゼ遺伝子としては、バクテリオファージP1由来のCre、酵母由来のFLPなどが挙げられる。
本発明の発現ベクターをターゲティングベクターとして用いる場合、2以上のリコンビナーゼ標的配列を含むことが好ましい。2以上のリコンビナーゼ標的配列は、同一又は反対の配向性 (orientation)で配置することができる。
リコンビナーゼ標的配列としては、当該分野で公知の配列、例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列(flox配列)、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列を使用することができる。
Cre−loxP系を利用する好ましいターゲティングベクターの例は、ある特定の遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、及び選択マーカーを含み、Cre認識配列(例えば、flox)を少なくとも3箇所に含む。Cre認識配列は、コンディショナルノックアウトで欠失させる部位を両側から挟む態様で配置される。
本発明の発現ベクターに導入可能な目的遺伝子の別の例として、ドミナントネガティブ変異体遺伝子が挙げられる。ドミナントネガティブ変異体とは、あるタンパク質に対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。ドミナントネガティブ変異体は、天然のタンパク質と競合することで間接的にその機能を阻害することができる。ドミナントネガティブ変異体は、目的タンパク質をコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、機能性部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。ドミナントネガティブ変異体遺伝子は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により作製することができる。
ドミナントネガティブ変異体遺伝子の好適な例としては、ヘルパーT細胞における機能と特定の疾患との関連が示されている、あるいは将来示されるであろう遺伝子が限定なく用いられる。一具体例として、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変異体遺伝子が例示される。かかる遺伝子を導入した本発明のベクターを用いてトランスジェニック動物を作製し、T細胞のヘルパー機能調節の異常と腸炎との因果関係を調べることにより、腸炎の病態の解明が進み、ひいては腸炎の治療薬の標的としての評価にもつながる。
本発明の発現ベクターに導入可能な目的遺伝子の別の例として、レポーター遺伝子が挙げられる。ここで、レポーター遺伝子とは、本発明のヌクレオチドのサイレンサー活性を調べるために組み込まれる目印用の遺伝子をいい、公知のあらゆるレポーター遺伝子を制限なく用いることができる。検出が簡単で定量化も可能であるという観点から、レポーター遺伝子は発光タンパク質遺伝子又は蛍光タンパク質遺伝子が好ましい。
前記発光タンパク質としては、ホタル由来のルシフェラーゼ、Renilla(ウミシイタケ)由来のルシフェラーゼなどが挙げられる。これら発光タンパク質及び当該タンパク質をコードする核酸は、公知である。
前記蛍光タンパク質としては、GFP、YFP、CFP、BFP、Venusなどのオワンクラゲ由来蛍光タンパク質及びそれらの類似体、ウミシイタケ由来蛍光タンパク質及びその類似体、DsRed、HcRed、AsRed、ZsGreen、ZsYellow、AmCyan、AcGFP、Kaedeなどのサンゴ由来蛍光タンパク質及びそれらの類似体などが挙げられる。これら蛍光タンパク質及びそれらの類似体ならびに当該タンパク質をコードする核酸は、公知である。
本発明の発現ベクターには、本発明のヌクレオチドであるサイレンサーに加え、第2のサイレンサーを含んでいてもよい。第2のサイレンサーとしては、現在使用可能な、あるいは将来使用可能となるあらゆるサイレンサーを用いることができる。好適な一具体例としてCD4のサイレンサーが挙げられる。CD4のサイレンサー配列は、Sawada, S. et al. Cell 77, 917-929 (1994)に記載されている。本発明の発現ベクターに前記2種類のサイレンサーを含むことにより、目的の細胞における目的遺伝子に対するより確実なサイレンサー活性が発揮されるので好ましい。
本発明の発現ベクター中の構成要素であるサイレンサー、プロモーター、エンハンサー及び目的遺伝子の位置は、当該分野の技術常識に基づいて適宜決定することができる。前記構成要素の連結も、当該分野で周知の方法により行うことができる。
このようにして構築された本発明の発現ベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。本発明は、かかる形質転換体を提供する。
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、動物細胞などが用いられる。エシェリヒア属菌は、本発明のヌクレオチド又は発現ベクターを調製するためにもっぱら用いられ、その他の宿主は本発明のヌクレオチドの活性等を調べるために用いられる。
エシェリヒア属菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1、JM103、JA221、HB101、C600などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)MI114などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R,NA87−11A,DKD−5D,20B−12、シゾサッカロマイセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(CHO(dhfr))、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞、ヒト293T細胞、ヒトJurkat細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110(1972)やGene,17巻,107(1982)などに記載の方法に従って行なうことができる。
バチルス属菌を形質転換するには、例えば、Molecular & General Genetics,168巻,111(1979)などに記載の方法に従って行なうことができる。
酵母を形質転換するには、例えば、Methods in Enzymology,194巻,182−187(1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って行なうことができる。
動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行)、Virology,52巻,456(1973)に記載の方法に従って行なうことができる。
前記発現ベクターを導入することにより、トランスジェニック非ヒト動物を作出することができる。本発明は、かかるトランスジェニック非ヒト動物を提供する。本発明におけるトランスジェニック非ヒト動物には、いわゆるノックアウト非ヒト動物及びノックイン非ヒト動物が含まれる。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物には、前記ヌクレオチド及び場合によってはレポーター遺伝子が対立遺伝子の両方に導入されたホモ接合動物、対立遺伝子の片方に導入されたヘテロ接合動物及びそれらの出生前の胎仔も含まれる。前記ホモ接合動物は、前記ヘテロ接合動物を交配することにより得られるものである。
用いられる非ヒト動物(本発明においては、単に動物と略す場合がある。)としては、ヒト以外の動物であれば特に限定されるものではない。好適な動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル等の実験動物ならびにウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ等の家畜が挙げられるが、遺伝子工学的に利用が容易であるところから、マウスがより好ましい。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、自体公知の方法により製造することができる。本発明のノックアウト又はノックイン非ヒト動物、胚性幹細胞、ターゲティングベクターの作製の詳細については、例えば、下記文献を参照のこと。
1.別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 「ジーンターゲティングの最新技術」(2000年、羊土社)コンディショナルターゲティング法p.115-120
2.バイオマニュアルシリーズ8 「ジーンターゲティング」−ES細胞を用いた変異マ
ウスの作製(1995年、羊土社)p.71-77
3.Sambrookら, Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, 第3版, COLD SPRING HARBOR LABORATORY PRESS, 2001年, 4.82-4.85
4.Robertson E. J. in Teratocarcinomas and embryonic stem cells-a practical approach, ed. Robertson, E. J. (IRL Press, Oxford), 1987: pp.108-112
5.Dynecki, S. M.ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A.L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.68-73
6.Dynecki, S. M. ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A. L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.75-81
このようにして得られた本発明のトランスジェニック非ヒト動物、当該動物をさらに交配して得られる子孫動物、これら動物に由来する組織又は細胞も本発明に含まれる。前記組織としては、すべての組織が挙げられ、脳、神経、骨髄、筋肉、心臓、腎臓、肝臓、血球及びその前駆体、幹細胞などが好ましい。また、前記細胞としては、前記組織中に含まれる細胞、組織中から単離された細胞、これら細胞から樹立した細胞株が挙げられ、具体的にはT細胞が好ましい。
本発明は、前記発現ベクター又は形質転換体を用いることを特徴とする、ヘルパーT細胞の機能調節剤をスクリーニングする方法(スクリーニング方法I)を提供する。スクリーニング方法Iの一具体例として、下記工程(a)〜(c)を含む。
(a)本発明の発現ベクターをT細胞に導入し、あるいは本発明の発現ベクターを既に導入したT細胞(形質転換体)と被験物質とを接触させる工程
ここで用いる発現ベクターは、本発明のサイレンサー、エンハンサー、プロモーター、およびT細胞機能調節候補遺伝子を含むベクターが例示される。発現ベクターのT細胞への導入は、常法により行うことができ、一過性に導入して発現させてもよいし、安定的に発現させてもよい。さらには、安定的に発現する細胞株から形質転換体を樹立させて用いることも可能である。
前記工程(a)において、被験物質とは、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などが挙げられる。また、これらの化合物の2種以上の混合物を試料として供することもできる。
前記T細胞(形質転換体)と被験物質との接触は、前記T細胞(形質転換体)を適当な培地中に入れ、約25〜40℃のインキュベーター中で培養し、次に、前記培地中に被験物質を添加し、インキュベートを続けることで接触がなされうる。
前記被験物質の添加量は、有効成分の種類、培地に対する溶解性、細胞の感受性等によって適宜設定することができる。
(b)前記被験物質を接触させたT細胞の培養上清中のインターロイキン4(IL4)の産生量を調べ、被験物質を接触させないT細胞の培養上清中のIL4の量と比較する工程
前記被験物質を接触させたT細胞の培養上清中のIL4の産生量は、自体公知の方法により調べることができる。感度および操作の容易性の観点から、ELISA法などを用いることが好ましい。
前記工程(b)において、被験物質を接触させないT細胞の培養上清中のIL4の量も同時にまたは別途調べ、被験物質を接触させた場合の結果と無接触の場合の結果とを比較する。
(c)前記比較結果に基づいて、IL4の産生量を変動(増加または減少)させる被験物質を選択する工程
選択する基準は、非接触の場合を基準として、培養上清中のIL4の有意な増加または減少を指標にすればよい。IL4を増加させる被験物質を選択した場合、当該物質は、ヘルパーT細胞機能増強を介した免疫応答活性化剤の候補物質となりうる。IL4を低下させる被験物質を選択した場合、当該物質は、ヘルパーT細胞機能抑制を介した免疫応答抑制剤の候補物質となりうる。
本発明は、前記トランスジェニック非ヒト動物を用いることを特徴とする、ヘルパーT細胞の機能調節剤をスクリーニングする方法(スクリーニング方法II)を提供する。スクリーニング方法IIの一具体例として、下記工程(a)〜(c)を含む。
(a)前記トランスジェニック非ヒト動物に被験物質を投与する工程
ここで用いるトランスジェニック非ヒト動物は、本発明のサイレンサー、エンハンサー、プロモーター、およびT細胞機能調節候補遺伝子を含む発現ベクターを導入された動物が例示される。
スクリーニング方法IIの工程(a)における被験物質は、スクリーニング方法Iと同様のものが挙げられる。
前記被験物質を本発明の非ヒト動物に投与する方法は特に限定されるものではないが、経口的または非経口的に投与され得る。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、気道内等の全身投与、あるいは標的細胞付近への局所投与等が挙げられる。
前記被験物質の投与量は、有効成分の種類、分子の大きさ、投与経路、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって適宜設定することができる。
(b)前記被験物質を投与した非ヒト動物における末梢血試料中のCD4T細胞とCD8T細胞との存在比を調べ、被験物質を投与しない非ヒト動物における存在比と比較する工程
被験物質を投与した非ヒト動物における末梢血試料中のCD4T細胞とCD8T細胞との存在比は、例えば、動物から採取した末梢血を用いて、フローサイトメトリーにより調べることができる。
前記工程(b)において、被験物質を投与しない非ヒト動物における末梢血試料中のCD4T細胞とCD8T細胞との存在比も同時にまたは別途調べ、投与動物の結果と非投与動物の結果とを比較する。
(c)前記比較結果に基づいて、CD4T細胞とCD8T細胞との存在比を変動(増加または低下)させる被験物質を選択する工程
工程(b)で得られた比較結果に基づき、CD4T細胞とCD8T細胞との存在比を変動(増加又は低下)させる被験物質を選択する。選択する基準は、非投与の動物を基準として、CD4T細胞とCD8T細胞との存在比の有意な増加又は低下を指標にすればよい。存在比を増加させる被験物質を選択した場合、当該物質は、ヘルパーT細胞機能増強を介した免疫応答活性化剤の候補物質となりうる。存在比を低下させる被験物質を選択した場合、ヘルパーT細胞機能抑制を介した免疫応答抑制剤の候補物質となりうる。
このようにしてスクリーニング方法IまたはIIで選択された被験物質は、ヘルパーT細胞特異的に作用し、有害な副作用を引き起こすことなく、ヘルパーT細胞の機能を調節することによって免疫応答の調節剤となりうる。
本発明のスクリーニング方法により選別されうる疾患の予防または治療剤としては特に限定されるものではないが、例えば、アレルギー疾患、自己免疫疾患、がんなどの予防または治療剤が挙げられる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
マウス
Runx1、Runx1Δ446、Runx3及びCbfβマウス系統は、以前に記載されている(Taniuchi, I. et al. Cell 111, 621-33 (2002);Naoe, Y. et al. J Exp Med 204, 1749-1755 (2007);Egawa, T. et al.J Exp Med 204, 1945-1957 (2007))。Cd4−Creマウス及びMHCクラスII(I−Aβ)欠損マウス(Grusby, M.J. et al. Science 253, 1417-20 (1991))は、それぞれChris Wilson博士及びYokosuka博士から供与された。全てのマウスは理研免疫・アレルギー科学総合研究センターの動物施設において維持され、全ての実験は動物管理のための施設のガイドラインにしたがって行われた。
フローサイトメトリー及びT細胞の単離
胸腺、脾臓、及びリンパ節から調製されたリンパ球懸濁液を、標準的なプロトコールにしたがって、フローサイトメトリーによって解析した。サイトカインの細胞内染色は、既報に従って行った(Naoe, Y. et al. J Exp Med 204, 1749-1755 (2007))。T細胞サブセットを、フローサイトメトリーによってソーティングした。
RT−PCR
Th−POKの定量RT−PCRのためのプライマー及びプローブは、以前に記載されている(He, X. et al. Nature 433, 826-33 (2005))。
クロマチン免疫沈降(ChIP)及びタイリングアレイ
抗Cbfβ2抗体及び抗Runx1抗体でのChIP実験を、既報に従って行った(Naoe, Y. et al. J Exp Med 204, 1749-1755 (2007))。RBS−1及びRBS−2を増幅するためのプライマー配列は、以下の通りである。
RBS-1:5’-cagaataggc gcgcagtta-3’(forward)(配列番号6)
RBS-1:5’-ctggctggtc caagtacaca-3’(reverse) (配列番号7)
RBS-2:5’-ctaaagagct gtgtgctaga cc-3’(forward) (配列番号8)
RBS-2:5’-gtttcaggca ggtgaggttc-3’(reverse) (配列番号9)
UP1 :5’-tgtttagttt ggcttgagcc c-3’(forward) (配列番号10)
UP1 :5’-ccctcctact cgtttcaaac-3’(reverse) (配列番号11)
ChIP−on−chip実験のためには、抗Cbfβ2抗体で合計1千万個の胸腺細胞由来の沈殿させたDNAを、製造者(NimbleGen)のプロトコールにしたがってLM−PCRで一度増幅した。50ntのオリゴヌクレオチドプローブでTh−POKローカス周辺の50kb配列をタイリングしたカスタムマイクロアレイを用いた。フォワード鎖を表すプローブは、100塩基毎に配置され、かつアレイ上の4つのランダムな位置にてプリントされた。プローブハイブリダイゼーション及びオリゴヌクレオチドアレイデータの解析は、Chromatin Immunoprecipitation Array Service(GeneFrontier)の一部として、NimbleGen Systemsで行った。
試験例1
トランスジェニックマウスの作出
基本となるトランスジェニック発現カセットベクターを、1)RNAスプライシングアクセプターシグナルを提供するための、エキソンIIの上流のPCR増幅したNotI−NcoIの1kbゲノム断片と、及び2)gfp遺伝子及びpolyAシグナルを含むNcoI−XhoI断片との、pBluescriptプラスミドのNotI−XhoI部位へのライゲーションによって作出した。Tg−aコンストラクトを作出するために用いたマウスTh−POK遺伝子のゲノム断片を、ファージライブラリー(Stratagene)から単離した。適当な制限酵素で消化して調製したゲノム断片を、基本トランスジェニック発現カセットベクターの5’ポリリンカー部位に配置した。RBS−1の3’側半分に相当する674bpのKpnI−Eco47III断片を除去するために、最初に、遠位プロモーターの上流に位置する4.4kbのHindIII−BamHIゲノム断片をpCR−TOPOベクターにクローニングした。次いで、このプラスミドを、平滑末端に変換したKpnI部位とEco47HI部位との間で分子内ライゲーションした。Tg−gコンストラクトにおける562bpのRBS−1断片又はTg−eコンストラクトにおける593bpのRBS−2断片をPCRで得て、適当な制限酵素部位を両端に付加した後、シークエンシングした。Th−POKトランスジーンを構築するためには、N末端にflag−HAエピトープタグを含む野生型Th−POKをコードするcDNAを、CD4エンハンサー/プロモーターの下流に挿入した。トランスジェニックコンストラクトのマイクロインジェクションは、RIKEN RCAI及び日本エスエルシー株式会社にて行った。
試験例2
Th−POK及びTh−POKGFPローカスからのRBS−1サイレンサーの除去
Th−POK及びTh−POKGFPローカスから674bpのKpnI−Eco47III配列を除去する標的化ベクターを構築するため、第一に、2.85kbのHindIII−KpnIゲノム断片を、pCR−TOPOベクターのHindIII−KpnI部位にライゲーションし、3’末端にSpeI部位を付加した。次いで、2.85kbのHindIII−SpeI断片を、loxP配列に隣接したneo遺伝子の下流のHindIII−XbaI部位に挿入し、5’末端にNotI部位を付加し、neo遺伝子の下流にClaI部位を付加した。3’側の長い相同領域については、9.5kbのEco47III−Eco47IIIゲノム断片を、pBluescriptベクターのHincII部位にライゲーションした(pBS/Eco47 9.5ベクター)。5’側の短い相同領域及びneo遺伝子は、NotI−ClaI消化によって調製し、pBS/Eco47 9.5ベクターのNotI−ClaI部位にライゲーションした。野生型Th−POKアレル及びTh−POKGFPアレルを持つES細胞へのトランスフェクションに先立ち、NotI消化によって標的化ベクターを直線化した。
結果
Th−POKの異所性発現は、クラスI拘束性細胞にCD4CD8細胞への異方向性の分化を誘導をするため(He, X. et al. Nature 433, 826-33 (2005);Sun, G. et al. Nat Immunol 6, 373-81 (2005))、Runx変異体マウスにおける胸腺細胞の分化中のTh−POKの発現を測定した。以前の報告(He, X. et al. Nature 433, 826-33 (2005))と一致して、Th−POK発現は、選択前のコントロールのCD69DP胸腺細胞では検出されなかった。しかし、Runx1欠損か若しくはRunx1Δ446変異のいずれかがRunx3欠損と組み合わされたCD69DP胸腺細胞においては、Th−POK転写物の40倍の増加が検出された(図2a)。さらに、Cbfβの損失の場合にTh−POK発現レベルの同様な増加は、Runx複合体がTh−POK抑制において必須の役割を果たすことを確証させた(図2a)。
Cbfβf/f:Cd4−creマウスにおいては、遺伝子の不活化後に残留したCbfβタンパク質があり、これによってCD4CD8細胞及びCD4CD8intCD8系列細胞から構成される成熟T細胞の発生を可能にした(Naoe, Y. et al. J Exp Med 204, 1749-1755 (2007))。Th−POK mRNAは、コントロールのCD8T細胞及びRunx1又はRunx3を欠損するCD8T細胞において検出できなかったものの、一方でCbfβf/f:Cd4−creマウス由来のCD4CD8intT細胞には存在した(図2b)。したがって、機能的なRunx複合体の再構築によって、Th−POK抑制が末梢CD4CD8int細胞において回復するか否かを調べた。Cbfβf/f:Cd4−creマウス由来の精製されたCD4CD8及びCD4CD8int細胞に、Cbfβ2をコードするレトロウイルスベクター又は空のベクターコントロールを形質導入した。図2cにおいて示されるように、Th−POKの発現は、CD4CD8int細胞におけるCbfβ2の再発現の際には顕著に減少したが、CD4CD8細胞では影響はなかった。これらの結果は、Runx介在性Th−POK抑制が末梢CD8T細胞において機能していることを示唆する。
Th−POKのRunx介在性抑制の根底にある機構を理解するために、Runx複合体がTh−POKローカスと直接関連するか否かを調べた。Th−POK転写産物に対する5’RACEを使用し、遠位(P1)又は近位(P2)プロモーターを用いて転写される異なる2つのエキソンIa及びIb(図3a)を検出した(データ示さず)。抗Cbfβ2抗体を用いた「ChIP−on−chip」実験によって、Th−POKローカス内において、Runx複合体が結合する2つの領域が同定された。遠位及び近位Runx結合配列(Runx−binding sequences)(それぞれRBS−1及びRBS−2)は、それぞれエキソンIaの約3.1kb上流及び約7.4kb下流に位置した(図3a)。RBS−1内には2つの保存されたRunxモチーフが存在する一方で、RBS−2内にはRunxモチーフは1つしか保存されていない(図3a及び図6、7)。抗Cbfβ2抗体及び抗Runx1抗体でのT細胞サブセットにおけるChIPアッセイを用い、Runx複合体とこれら2つの領域との間の関連性を確認した(図3b、データ示さず)。しかし、Runx複合体のRBS−1及びRBS−2への結合は、Th−POK発現細胞及び非発現細胞の両方において検出され、したがってRunx複合体のこれらの領域への結合はTh−POK抑制と相関しないことが実証された。
RBS−1及びRBS−2の機能的な活性を調べるため、一連のトランスジェニックレポーターアッセイを行った。Runx結合配列並びにエキソンIa及びIbを含む15.5kbのゲノム断片を、エキソンIIのスプライス受容配列及びレポーターgfp遺伝子を有するトランスジェニック発現カセットへ連結した(図3aのTg−a)。Tg−aで得られた3匹のファウンダー全てにおいて、GFP発現はCD4CD8int胸腺細胞で最初に検出され、CD4SP胸腺細胞で増強し、脾臓CD4T細胞でも高発現が保たれていた一方で、脾臓CD8T細胞においてはほぼ検出不可能であった(図3c)。CD4T細胞サブセット内におけるGFP細胞の割合は、ファウンダーによって様々であったが、これはおそらくトランスジーンの斑入り位置効果によるものである(Festenstein, R. et al. Science 271, 1123-5 (1996))。しかし、GFPのCD4ヘルパー系列特異的発現は全てのTg−aファウンダーにおいて見られ、15.5kb断片が、ヘルパー系列におけるTh−POKの発現を方向付ける主要なシス調節領域を含んでいたことを示す。
最も重要なTh−POK調節領域をさらに絞り込むため、15.5kb断片から5’又は3’配列を除去した。エキソンIaの5’側の6.5kbセグメント(Tg−b)は、胸腺細胞分化の間のヘルパー系列特異的な発現を調節するのに十分であったが、RBS−2を含む593bp断片の3’側配列(図3に示す(Tg−e))は、CD4T細胞におけるGFP発現を維持するために必要であり(図3c)、RBS−2が転写エンハンサーとして機能することが示唆された。RBS−1の3’側半分(6.5kb上流配列内に含まれる674bpのKpnI−Eco47III断片)の除去(Tg−c)は、CD4ヘルパー系列細胞のみならず、CD8細胞傷害性系列細胞においてもGFP発現をもたらし、RBS−1が、CD8系列細胞におけるレポーター遺伝子を抑制するのに必要な転写サイレンサーであることを示した。10.1kbの5’側配列を欠くトランスジーン(Tg−f)もまた、CD4及びCD8T細胞両方におけるGFP発現を方向付けたが、RBS−1の進化的に保存された562bp断片(Tg−g)を包含させることで(図6に示す)CD8細胞傷害系列細胞におけるGFPの効率的な抑制をもたらし(図3c)、RBS−1配列がサイレンサー活性を持つ結果と一致していた。
RBS−1サイレンサーの潜在的な生理機能を調べるため、ES細胞における相同組み換えによって、Th−POKローカスから674bpのKpnI−Eco47III配列を除去した(図4a及び図8)。1つのTh−POKアレル内のRBS−1の欠失は、Th−POKトランスジェニックマウス(He, X. et al. Nature 433, 826-33 (2005); Sun, G. et al. Nat Immunol 6, 373-81 (2005))及びRunx1Δ446/Δ446:Runx3flox/flox: Cd4−creマウス(図1a)の両方において見られたような、末梢CD8T細胞の損失をもたらした(図4b)。さらに、Th−POKの抑制解除がCD69DP胸腺細胞において見られた(図4c)。さらに、選択前のCD69DP胸腺細胞におけるTh−POKの抑制解除を、相同組み換えによってTh−POKのコーディング配列がgfp遺伝子と置換されたマウスを利用して調べた。Th−POKGFPのヘテロ接合体マウスにおけるGFP発現により、単一の細胞レベルでのTh−POK遺伝子の発現を検討することが可能である。Th−POKGFPローカスからのGFP発現はCD69DP胸腺細胞においては検出されなかったが、RBS−1(図4aにおけるTh−POKGFP:SΔローカス)の欠失によりCD69DP胸腺細胞において、低レベルではあるが、GFPの均一な発現が誘導された(図4d)。これらの結果は、Th−POK抑制及びCD8細胞傷害性T細系列の特定にとってRBS−1が必須であることを実証する。
上記結果は、ヘルパー系列特異的なTh−POKの発現が、RBS−1サイレンサー(その活性は、Runx複合体の結合に依存する)によって制御されていることを明らかにする。したがって、RBS−1をTh−POKサイレンサーと呼ぶ。
Th−POK遺伝子の発現は、DP胸腺細胞において、また胸腺細胞を細胞傷害性系列へ発生させる際に、Runx依存的Th−POKサイレンサーによって抑制される。Runx複合体は、Th−POKローカスと2つの領域(Runx結合配列(Runx−binding sequences)(RBS)−1及びRBS−2)と会合する。RBS−1は、DP胸腺細胞及び細胞傷害性系列細胞においてTh−POK発現を抑制するのに必須な転写サイレンサーとして作用する一方で、RBS−2は、少なくとも末梢CD4T細胞におけるレポータートランスジーンの発現を維持するために必要な転写エンハンサーとして機能する(図7、マウスRBS−2(配列番号12)、ラットRBS−2(配列番号13)、イヌRBS−2(配列番号14)、チンパンジーRBS−2(配列番号15)及びヒトRBS−2(配列番号16))。したがって、Th−POK遺伝子のヘルパー系列特異的発現は、Runx複合体の結合に依存するサイレンサー活性を有するRBS−1サイレンサー(Th−POKサイレンサー)によって制御されている。
Th−POKを発現する細胞でもRunx複合体がTh−POKサイレンサーと会合していることから、Th−POKサイレンサー活性の特異性はRunx複合体の結合により制御されているものではないと考えられる。これは、IL-4サイレンサー(その活性がRunx複合体の結合と相関する)によるIL-4遺伝子の抑制とは異なる(Djuretic, I.M. et al. Nat Immunol 8, 145-53 (2007); Naoe, Y. et al. J Exp Med 204, 1749-1755 (2007))。したがって、Th−POKサイレンサー活性の制御において、Th−POKサイレンサーと結合したRunx因子と相互作用するさらなる分子、あるいはTh−POKサイレンサーに結合しているRunx複合体の翻訳後修飾が中心的な役割を有する可能性が考えられる。
前駆細胞において2つの相対する運命が誘導される場合に、一次系列決定転写因子間の相互排他的なループ、又は拮抗的相互作用がしばしば見られる(Rothenberg, E.V. Nat Immunol 8, 441-4 (2007); Orkin, S.H. Nat Rev Genet 1, 57-64 (2000))。このループ内では、2つの転写因子は、互いの発現を抑制し合うか、又は互いの活性を拮抗し合う。Th−POKは近年、Runx依存的Cd4サイレンサー活性を阻害することが記載された(Wildt, K.F. et al. J Immunol 179, 4405-14 (2007))。これは、これらの2つの因子間の拮抗的相互作用を支持するものである。本研究は、CD4ヘルパー対CD8細胞傷害性T細胞に対するDP胸腺細胞の系列特異性を制御する転写因子のネットワークの一端を明らかにしたものであり、Th−POK及びRunx複合体標的遺伝子の同定は、このネットワークのさらなる解明に役立つであろう。
Th−POKサイレンサーの欠失の際のCD69DP胸腺細胞集団におけるTh−POKの抑制解除は、サイレンサーによるTh−POK抑制が全てのDP胸腺細胞においてMHC/TCR相互作用による選択に先立って機能していることを示す。したがって、MHCクラスIIとの相互作用によるTCRシグナルが、Th−POKサイレンサー活性に対して拮抗的に働き、Th−POKの発現を誘導する可能性が考えられる。あるいは、クラスI拘束性TCRの結合が、Th−POKサイレンサー活性を維持するシグナルを提供し、ポジティブセレクション中及び細胞傷害性T細胞分化過程でTh−POK発現を抑制する可能性が考えられる。ヘルパー系列の分化決定には、TCRとMHCクラスIIとの相互作用による持続性のTCRシグナルが必要と考えられていることは(Yasutomo, K., et al. Nature 404, 506-10 (2000); Liu, X. & Bosselut, R. Nat Immunol 5, 280-8 (2004); Sarafova, S.D. et al. Immunity 23, 75-87 (2005) 、クラスII拘束性TCRシグナリングの抗サイレンサー機能を支持する。この場合、Th−POKサイレンサーの機能解除は、TCRシグナルに依存しないTh−POKサイレンサーの機能解除機構が獲得するまでは、ある特定の期間クラスII特異的TCRシグナルに依存して居ると考えられる。これらの結果により、Th−POKサイレンサー活性を制御する機構は、TCRシグナリングにおける定性的及び継続的な差を判定するセンサーとして作用することが示唆される。Th−POKサイレンサーと複合体化した結合因子の同定を含む、Th−POK抑制の制御経路のさらなる研究は、外部刺激によって開始されるシグナルが、どのようにして細胞核における遺伝子プログラムへと変換されるかを明らかにするであろう。
本発明によれば、Th−POKのサイレンサー活性を発揮させるために必要十分な塩基配列を提供することが可能となり、真核生物におけるTh−POKサイレンサーを介した転写のさらなる解明のみならず、ヘルパーT細胞発生の遺伝的プログラミングをインビトロ又はインビボで調べるためのツールを提供することができる。かかるツールを用いて、ヘルパーT細胞の機能調節の異常に起因する病態を解明することが可能である。本発明のスクリーニング方法によると、胸腺細胞の発生、分化における転写調節の中核に位置するRunx及びTh−POKの活性を調節可能な薬剤を簡便かつ高感度に選別することができる。
図1aは、示されたマウス由来のリンパ節αβT細胞上のCD4及びCD8発現を示す。 図1bは、示されたマウス由来のリンパ節αβT細胞上のI−A MHCクラスII分子の存在下(II)又は非存在下(II)でのCD4及びCD8の発現を示す。 図1cは、以下のマウスにおける脾臓CD4CD8αβT細胞の細胞数を示す:クラスII:コントロールマウス(レーン1)、クラスII:コントロールマウス(レーン2)、クラスII:Runx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−Creマウス(レーン3)及びクラスII:Runx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−Creマウス(レーン4)。 図1dは、コントロールCD4、CD8、及びクラスI拘束性CD4CD8細胞上でのインビトロTCR刺激42時間後のCD154の発現(左のパネル)を示す。最初のインビトロTCR刺激に続いて、5日間培養された細胞の再刺激6時間後に解析されたIL−4(中央のパネル)及びIFN−γ(右のパネル)の細胞内染色。 図2aは、以下のマウス由来の、ソーティングされたCD69DP胸腺細胞における正規化されたTh−POK発現レベルを示す:野生型(レーン1)、Runx1f/f:Cd4−Cre(レーン2)、Runx1Δ446/Δ446(レーン3)、Runx3f/f:Cd4−Cre(レーン4)、Runx1f/f:Runx3f/f:Cd4−cre(レーン5)、Runx1Δ446/Δ446:Runx3f/f:Cd4−Cre(レーン6)、Cbfβf/f:lck−cre(レーン7)及びCbfβf/f:Cd4−Cre(レーン8)。レーン9は、コントロールCD4CD8SP胸腺細胞におけるTh−POK発現レベルを示す。 図2bは、示された遺伝子型のマウスにおけるCD4及びCD8末梢αβT細胞中の正規化されたTh−POKの発現レベルを示す。 図2cは、Runx複合体機能の再構築後の正規化されたTh−POKの発現レベルを示す。Cbfβf/f:Cd4−Creマウス由来の精製されたCD4CD8及びCD4CD8int細胞に、コントロールレトロウイルスベクター(GFP)又はCbfβ2をコードするベクター(Cbfβ2)を形質導入した。 図3aは、マウスTh−POKローカスの構造を示す。マウスTh−POKローカスの構造は、上部に黒い線として示される。丸は、推定Runxモチーフを表し、赤のものは進化的に保存されたRunxモチーフを示す。黒い長方形は、エキソンを表し、緑の各バーは、ChIP−on−chip実験における個々のオリゴヌクレオチドプローブのシグナル強度を表す。青い長方形は、NimbleGenのシステムソフトウェアであるSignalMapによって同定されたRunx結合配列(RBSs)を表す。各レポータートランスジーンコンストラクトのマップ(Tg−aからTg−g)が示される。示される制限部位は、Eco47III(E47)、EcoRV(RV)、HindIII(H)、KpnI(Kp)及びXhoI(X)である。 図3bは、示されたT細胞サブセットにおけるRunx複合体とRBS−1及びRBS−2との結合を示す、抗Cbfβ2抗体でのChIP実験の結果を示す。保存されたRunxモチーフを含むエキソンIaの上流1kbの領域(UP1)及びTCRβエンハンサー(TCRβ)をそれぞれ、陰性及び陽性コントロールとして用いた。 図3cは、各コンストラクトの代表のトランスジェニック系統由来の、示されたT細胞サブセットにおけるGFP発現パターンを示すヒストグラムである。破線は、非トランスジェニック同腹子のコントロールを示す。ヒストグラムにおける数字は、GFP陽性細胞の割合を示し、カッコ内の数字は、GFP細胞におけるGFPの平均蛍光強度を示す。得られたトランスジェニック系統の総数に対するGFP発現トランスジェニック系統の数が、右に示される。 図4aは、Th−POK、Th−POKSΔ、Th−POKGFP及びTh−POKGFP:SΔローカスの概略構造を示す。Th−POKGFPローカスは、ES細胞における相同組み換えによってTh−POKのコーディング配列をgfp遺伝子で置換することによって作出した。RBS−1サイレンサーを、相同組み換えによってTh−POK又はTh−POKGFPローカスから除去し、それぞれTh−POKSΔ又はTh−POKGFP:SΔローカスを生成する。エキソン及びloxP配列を、それぞれ黒い長方形及び黒い三角形として示す。 図4bは、野生型(+/+)マウス、Th−POKSΔヘテロ接合性(SΔ/+)マウス及びTh−POKヘミ接合性形質転換(Th−POK Tg)マウス由来のリンパ節αβT細胞上のCD4及びCD8発現を示す。 図4cは、Th−POKサイレンサーの欠失の際にソーティングされたCD69DP胸腺細胞におけるTh−POKの抑制解除を示す、それらの細胞における正規化されたTh−POK発現レベルを示すグラフである。 図4dは、示された胸腺細胞サブセットにおけるTh−POKGFP及びTh−POKGFP:SΔアレルからのGFP発現を示す。破線及び太線は、それぞれコントロールマウス及びTh−POK+/GFP(+/GFP)マウス又はTh−POK+/GFP:SΔ(+/GFP:SΔ)マウスにおけるGFP発現を示す。カッコ内の数字は、全CD69DP胸腺細胞におけるGFPの平均蛍光強度を示す。 図5は、脾臓CD4及びCD8αβT細胞の絶対数を示すグラフである。示されたマウス由来のCD4CD8サブセット(CD8)を含む脾臓CD4CD8(CD4)及びCD8細胞の細胞数を、平均+/−SDとして示す。 図6は、マウス、ラット、イヌ、チンパンジー及びヒトにおける、RBS−1の配列アライメントを示す。影付きの区域は、保存された配列の領域を示す。点線は、最大のアライメントを維持するために導入したギャップを示す。2つの保存されたRunx認識モチーフは、オレンジの線で囲まれている。KpnI制限酵素部位は、黒い線として示される。アライメントは、MacVector9.5.2のClustalWアルゴリズムを用いて作成された。 図7は、マウス、ラット、イヌ、チンパンジー及びヒトにおける、RBS−2の配列アライメントを示す。影付きの領域は、保存された配列の領域を示す。点線は、最大のアライメントを維持するために導入したギャップを示す。保存されたRunx認識モチーフは、オレンジの線で囲まれており、マウス配列において非保存的なRunxモチーフは、オレンジの線で印付けられている。アライメントは、MacVector9.5.2のClustalWアルゴリズムを用いて作成された。 図8は、ES細胞における相同組み換えによってTh−POKサイレンサーを除去するための標的化ストラテジーを示す。(a)野生型Th−POKローカス、標的化ベクター及び標的化されたTh−POKNSΔローカスの構造。674bpのKpnI−Eco47IIIゲノム断片を、Th−POKNSΔローカスにおけるTh−POKローカスから除去した。ES細胞におけるneo遺伝子を、Creリコンビナーゼをコードする発現ベクターの一過性導入によって取り除き、Th−POKSΔを作出した。エキソン及びloxP配列は、それぞれ黒い長方形及び黒い三角形として示される。サザンブロットで用いたプローブDNAは、灰色の長方形として示される。制限酵素部位は、以下のように示される:EcoRI(RI)、Eco47III(E47)、HindIII(H)及びKpnI(Kp)。(b)相同組み換え及びneo遺伝子の除去を確認するためのES細胞クローンのサザンブロット。同一の標的化ストラテジーを用いて、Th−POKGFPローカスからTh−POKサイレンサーを除去した。

Claims (14)

  1. Th−POK遺伝子のシス制御領域に由来し、ヘルパーT細胞系列特異的発現を調節するためのヌクレオチドであって、真核細胞においてサイレンサー活性を有するヌクレオチド。
  2. 前記真核細胞が哺乳動物由来の細胞である、請求項1に記載のヌクレオチド。
  3. サイレンサー活性がCD4CD8ダブルポジティブ胸腺細胞及びCD8細胞傷害性T細胞で発揮されるものである請求項1または2に記載のヌクレオチド。
  4. 前記ヌクレオチドが
    (a)配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチド、
    (b)配列番号1に記載の塩基配列において、251〜362位の領域を必須の塩基配列として含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド、
    (c)配列番号1の251〜362位の領域の塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド、
    (d)配列番号1の273〜362位の領域の塩基配列を少なくとも2つ直列に含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド、又は
    (e)配列番号1に記載の塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるヌクレオチドと同等のサイレンサー活性を有するヌクレオチド
    からなるものである、請求項1記載のヌクレオチド。
  5. 請求項1〜4いずれかに記載のヌクレオチドならびにプロモーター又はプロモーター及びエンハンサーを含む発現ベクター。
  6. 目的発現遺伝子としてリコンビナーゼ遺伝子を含む、請求項5記載の発現ベクター。
  7. 目的発現遺伝子としてドミナントネガティブ変異体遺伝子を含む、請求項5記載の発現ベクター。
  8. 目的発現遺伝子としてレポーター遺伝子を含む、請求項5記載の発現ベクター。
  9. 請求項5〜8いずれか1項に記載の発現ベクターを導入してなる形質転換体。
  10. 請求項5〜8いずれか1項に記載の発現ベクターを導入してなるトランスジェニック非ヒト動物。
  11. 請求項10に記載のトランスジェニック非ヒト動物の子孫動物。
  12. 請求項10又は11に記載の非ヒト動物から得られる組織又は細胞。
  13. 請求項5〜8いずれか1項に記載の発現ベクター又は請求項9に記載の形質転換体を用いることを特徴とする、ヘルパーT細胞の機能調節剤をスクリーニングする方法。
  14. 請求項10又は11に記載の非ヒト動物を用いることを特徴とする、ヘルパーT細胞の機能調節剤をスクリーニングする方法。
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