以下,本発明の好ましい実施の形態を説明する。図1は,本発明にかかる空調設備を備えた建物1の構成を概略的に示す説明図である。建物1は複数の階層を有する。建物1の各階には,ベランダ2が設けられている。また,建物1の各階には,一台の空冷式の室外機5と一台の室内機6との組み合わせからなる冷房専用の空調機セット(空冷パッケージユニット方式のエアコン)Pが複数セットずつ備えられている。図1に示す例では,建物1の各階ごとに備えられた複数セットの空調機セットPを省略して,各階ごとに空調機セットPを1セットずつ示している。
さらに,各空調機セットPにおいて,一対の室外機5と室内機6が冷媒配管7によって接続されている。室内機6は各階の室内の天井に設けられている。室外機5は,その室外機5に冷媒配管7によって接続された室内機6,即ち,対応する室内機6が配置された階のベランダ2に配置されている。従って,ベランダ2には,一階分の複数セットの空調機セットPの室外機5,即ち,複数台の室外機5が配置されている。冷媒配管7は,室外機5から室内機6に向かって冷媒を通流させる冷媒液配管7aと,室内機6から室外機5に向かって冷媒を通流させる冷媒ガス配管7bとによって構成されている。室外機5と室内機6の各構成については,後に詳しく説明する。
なお,室外機5と室内機6を同じ階に配置することにより,室外機5と室内機6の高低差を小さくすることができるので,冷媒配管7のうち縦引き配管部分を短くすることができる。又,冷媒配管7を横引き配管のみにすることも可能である。従って,縦引き配管部分と横引き配管部分を含めた冷媒配管7全体の長さを最大冷媒配管長以下に十分短くすることができ,配管抵抗を少なくして,空調機セットPの冷房能力を十分確保できる。また,冷媒を送給する動力を低減して,省電力,省コストを図ることができる。さらに,室外機5の設置スペースを各階のベランダ2に分散することにより,室外機5の高密度配置の弊害,即ち,高温排気による外気温度の上昇を緩和できる。
また,各空調機セットPごとに,室外機5から室内機6に向かって流れる冷媒液配管7a内の冷媒を熱媒により冷却する冷媒冷却用熱交換器8がそれぞれ備えられている。各冷媒冷却用熱交換器8は,対応する冷媒液配管7aの途中にそれぞれ介設されている。冷媒冷却用熱交換器8も,その冷媒冷却用熱交換器8が介設されている冷媒配管7が接続された室内機6,即ち,対応する室内機6が配置された階のベランダ2に配置されている。従って,ベランダ2には,複数台の室外機5の他に,一階分の複数セットの空調機セットPの冷媒冷却用熱交換器8,即ち,複数台の冷媒冷却用熱交換器8が配置されている。なお,冷媒冷却用熱交換器8は,プレート型熱交換器であり,室外機5と比較して小さいため,ベランダ2に配置しても室外機5の配置の邪魔にならない。熱媒としては,水又はブラインが使用される。
建物1の屋上階RFには,熱媒を冷却する熱媒冷却機10が配置されている。各階の総てのベランダ2に配置された全部の冷媒冷却用熱交換器8は,熱媒を通流させる熱媒配管11によって,一つの熱媒冷却機10に接続されている。また,熱媒配管11には,熱媒を循環させるための図示しないポンプが介設されており,ポンプも屋上階RFに配置されている。
熱媒配管11は,熱媒冷却機10から冷媒冷却用熱交換器8に向かって熱媒を通流させる熱媒供給配管11aと,冷媒冷却用熱交換器8から熱媒冷却機10に向かって冷媒を通流させる熱媒回収配管11bとによって構成されている。熱媒配管11は,各階のベランダ2と屋上階RFとの間で縦引き配設されており,各階のベランダ2では,横引き配設されている。熱媒供給配管11aは,各階の高さで一本ずつ分岐して,さらに,この分岐管(図示せず)が各冷媒冷却用熱交換器8の近傍で一本ずつ細管11cに分岐して,この細管11cが,各冷媒冷却用熱交換器8の熱媒入口にそれぞれ接続するように配設され,各冷媒冷却用熱交換器8に熱媒を分流させて供給する構成になっている。熱媒回収配管11bは,各冷媒冷却用熱交換器8の熱媒出口に一本ずつ接続された細管11dを各冷媒冷却用熱交換器8の近傍で一本ずつ合流させて,さらに,この合流管を各階の高さで一本ずつ合流させ,この合流管(図示せず)を熱媒冷却機10に接続するように配設され,各冷媒冷却用熱交換器8から熱媒を回収して熱媒冷却機10に戻す構成となっている。
図2に示すように,各冷媒冷却用熱交換器8の近傍には,熱媒配管11のバイパス管11eが,各冷媒冷却用熱交換器8に対してそれぞれ並列に設けられている。バイパス管11eの上流端は,熱媒供給配管11aの細管11cの途中に接続され,バイパス管11eの下流端は,熱媒回収配管11bの細管11dの途中に接続されている。
バイパス管11eには,バイパス開閉弁V1が介設されている。また,細管11cにおいてバイパス管11eの分岐位置より下流側には,開閉弁V2が介設されている。細管11dにおいてバイパス管11eの合流位置より上流側には,開閉弁V3が介設されている。バイパス開閉弁V1を閉じて,開閉弁V2,V3を開くと,バイパス管11eへの熱媒の通流を遮断し,冷媒冷却用熱交換器8に熱媒を通流させる状態となり,バイパス開閉弁V1を開いて,開閉弁V2,V3を閉じると,バイパス管11eに熱媒を通流させ,冷媒冷却用熱交換器8への通流を遮断する状態となる。このように,バイパス開閉弁V1,開閉弁V2,V3の各開閉操作によって,バイパス管11eへの熱媒の通流と冷媒冷却用熱交換器8への熱媒の通流を切り換える構成となっている。即ち,バイパス開閉弁V1を有するバイパス管11e,開閉弁V2を有する熱媒供給配管11aの細管11c,開閉弁V3を有する熱媒回収配管11bの細管11dによって,冷媒冷却用熱交換器8への熱媒の通流と遮断を切り換えられる切換管路12が形成されている。この切換管路12は,各冷媒冷却用熱交換器8に対応させて備えられており,各切換管路12の通流と遮断の切り換えを個別に行うことにより,各冷媒冷却用熱交換器8への熱媒の通流と遮断を個別に切り換えることができる。
熱媒は,熱媒冷却機10において冷却され,熱媒供給配管11aを通過して屋上階RFから各ベランダ2の冷媒冷却用熱交換器8に向かって下降し,冷媒冷却用熱交換器8又はバイパス管11eを通流した後,熱媒回収配管11bを通過して屋上階RFの熱媒冷却機10に向かって上昇して,再び熱媒冷却機10において冷却される。熱媒冷却機10において冷熱が与えられた熱媒が冷媒冷却用熱交換器8を通流する場合,室外機5において圧縮・凝縮された冷媒と熱交換して,冷媒に冷熱が与えられ過冷却される。
次に,空調機セットPと冷媒冷却用熱交換器8によって構成される冷凍サイクルについて詳細に説明する。図2に示すように,室外機5は,アキュームレータ13と,圧縮機14と,四方弁15と,凝縮器16とを備えている。また,前記四方弁15,アキュームレータ13,圧縮機14,四方弁15,凝縮器16の順に冷媒を通流させる室外機内流路17を内蔵している。さらに,室外機5には,外気を吸い込む図示しない吸い込み口と,外気を排出する図示しないフードとが設けられている。
四方弁15は4つの出入口15a,15b,15c,15dを備えている。四方弁15の内部は,第1の出入口15aと第2の出入口15bとが接続され,第3の出入口15cと第4の出入口15dとが接続された状態となっている。第1の出入口15aには,室内機6の冷媒入口に接続された室外機内流路17が接続されている。第2の出入口15bには,アキュームレータ13の冷媒入口に接続された室外機内流路17が接続されている。第3の出入口15cには,圧縮機14の冷媒出口に接続された室外機内流路17が接続されている。第4の接続口15dには,凝縮器16の冷媒入口に接続された室外機内流路17が接続されている。なお,アキュームレータ13の冷媒出口に接続された室外機内流路17は圧縮機14の冷媒入口に接続され,凝縮器16の冷媒出口に接続された室外機内流路17は室内機6の冷媒出口に接続されている。
室内機6は,膨張弁18と,蒸発器19とを備えている。さらに,前記膨張弁18,蒸発器19の順に冷媒を通流させる室内機内流路20を内蔵している。
冷媒冷却用熱交換器8は,プレート型熱交換器である。図2に示すように,冷媒冷却用熱交換器8は,冷媒を通過させる器内冷媒流路22と,熱媒を通過させる器内熱媒流路23とを内蔵している。
室外機内流路17には,室外機5の冷媒入口を介して冷媒ガス配管7bの下流端が接続され,室外機5の冷媒出口を介して冷媒液配管7aの上流端が接続されている。器内冷媒流路22には,冷媒冷却用熱交換器8の冷媒入口を介して冷媒液配管7aの上流側が接続され,冷媒冷却用熱交換器8の冷媒出口を介して冷媒液配管7aの下流側が接続されている。室内機内流路20には,室内機6の冷媒入口を介して冷媒液配管7aの下流端が接続され,室外機5の冷媒出口を介して冷媒ガス配管7bの上流端が接続されている。即ち,室外機内流路17,冷媒液配管7a,器内冷媒流路22,冷媒液配管7a,室内機内流路20,冷媒ガス配管7bの順に冷媒を循環させる冷媒循環回路24が構成されている。
一方,器内熱媒流路23には,冷媒冷却用熱交換器8の熱媒入口を介して熱媒供給配管11aの下流端(細管11cの下流端)が接続され,冷媒冷却用熱交換器8の熱媒出口を介して熱媒回収配管11bの上流端(細管11dの上流端)が接続されている。即ち,熱媒供給配管11a,器内熱媒流路23,熱媒回収配管11bの順に熱媒を通流させる熱媒供給回路25が構成されている。
空調機セットPを運転させると,室外機5,冷媒冷却用熱交換器8,室内機6の順に冷媒循環回路24内の冷媒が循環する。即ち,室内機6の蒸発器19から室外機5に送給された冷媒は,四方弁15,アキュームレータ13を介して圧縮機14に送給され,圧縮機14によって圧縮されて高温高圧で吐出され,四方弁15を介して凝縮器16に送給され,凝縮器16において凝縮し,冷媒冷却用熱交換器8内の器内冷媒流路22を通過し,室内機6に送給される。室内機6に送給された冷媒は,膨張弁18において断熱膨張し,蒸発器19において蒸発して,室外機5に戻る。また,室外機5の図示しない吸い込み口から外気が吸い込まれ,凝縮器16において冷媒が冷熱を吸収して凝縮するとき,凝縮器18の周囲で外気が高温となり,図示しないフードから放出され,ベランダ2の外側に向かって排気される。また,室内機6において冷媒が蒸発するとき,蒸発器19の周囲に冷気が発生し,室内機6内に備えられた図示しない送風機により冷気が送風され,室内に給気される。これにより,室内空気が冷却される。
冷媒が器内冷媒流路22を通流するとき,バイパス開閉弁V1を閉じ,かつ,開閉弁V2,V3を開くことにより,熱媒冷却機10において冷熱が与えられた熱媒が器内熱媒流路23内に通流している状態にしておくと,冷媒冷却用熱交換器8において,器内冷媒流路22を通流する冷媒と器内熱媒流路23を通流する熱媒とが熱交換する。即ち,熱媒冷却機10において冷熱が与えられ器内熱媒流路23に送給された熱媒と,室外機5において圧縮・凝縮され器内冷媒流路22に送給された冷媒とが熱交換して,冷媒が過冷却される。このように,室外機5において圧縮・凝縮された後室内機6において膨張・蒸発する前に,冷媒を過冷却すると,圧縮・凝縮された冷媒が過冷却された分だけ空調機セットPの冷房能力を増加させることができる。一方,冷媒が器内冷媒流路22を通過するとき,バイパス開閉弁V1を開き,かつ,開閉弁V2,V3を閉じることにより,器内熱媒流路23内に熱媒が通流していない状態にしておくと,室外機5において圧縮・凝縮された冷媒が,冷媒冷却用熱交換器8において熱媒と熱交換せず,素通りして室内機6に供給される。以上のようなバイパス開閉弁V1,開閉弁V2,V3の開閉操作を各空調機セットPに対応して設けられた切換管路12について個別に行うことにより,各空調機セットPの運転モードを,冷媒を過冷却する過冷却運転,冷媒を過冷却せず運転する過冷却停止運転のいずれかに個別に切り替えることができる。
図1に示すように,屋上階RFに配置された熱媒冷却機10は,冷凍した熱媒を貯留することにより冷熱を蓄熱する熱媒冷却用蓄熱装置27と,熱媒冷却用蓄熱装置27内の熱媒に冷熱を与える製氷用冷凍機28とを備えている。
熱媒冷却用蓄熱装置27は,スタティック型外融式の氷蓄熱装置であり,熱媒を貯留して冷熱を蓄熱する蓄熱槽30と,蓄熱槽30内部に設けられた蓄熱槽内熱交換器31とによって構成されている。蓄熱槽30は,屋上階RFに配置され,熱媒供給配管11aの上流端と熱媒回収配管11bの下流端が接続されている。即ち,熱媒配管11によって,270台の冷媒冷却用熱交換器8が,熱媒冷却用蓄熱装置25の蓄熱槽30に接続されている。前述の熱媒供給回路25は,蓄熱槽30,熱媒供給配管11a,器内熱媒流路23,熱媒回収配管11bの順に熱媒を循環させる。熱媒は,製氷用冷凍機28の蓄熱運転によって,蓄熱槽30を介して冷却される。
製氷用冷凍機28は,屋上階RFに配置されており,図示しない冷凍機内熱交換器を内蔵している。蓄熱槽内熱交換器31と冷凍機内熱交換器は,製氷用熱媒を通流させる製氷用熱媒配管33によって接続されており,蓄熱槽内熱交換器31,製氷用熱媒配管33,冷凍機内熱交換器の順に製氷用熱媒を循環させる製氷用熱媒循環回路34が構成されている。
ここで,熱媒冷却機10における冷熱の蓄熱(製氷)運転について説明する。製氷用冷凍機28において冷却された製氷用熱媒は,製氷用熱媒配管33によって製氷用冷凍機28から製氷用熱交換器31に送給され,製氷用熱交換器31の周囲の熱媒と熱交換して,熱媒に冷熱を与え,製氷用熱媒配管33によって再び製氷用冷凍機28に戻り,冷却される。このように,製氷用冷凍機28において生成された冷熱が,製氷用熱媒を介して蓄熱槽30内の熱媒に供給され,熱媒が冷凍されて氷状となる。製氷用熱交換器31の周囲で冷凍された熱媒は,蓄熱槽30内に氷として蓄積される。即ち,冷凍された熱媒を貯留することにより蓄熱槽30内に冷熱を蓄熱する。この蓄熱(製氷)運転は,電気料金の安い夜間電力を使用して行うことが好ましい。この場合,熱媒冷却機10の運転にかかる電気料金を削減し,ひいては,空調設備全体の運転にかかる電気料金を削減できる。
なお,蓄熱槽30内に氷として蓄積された熱媒は,熱媒供給回路25内を流れる冷水と熱交換して冷熱を冷水に付与し続ける。そして,その冷水は,前述のように各冷媒冷却用熱交換器8に供給されて冷媒に冷熱を与え,再び蓄熱槽30内に貯留され,蓄熱運転によって冷凍される。
前述のように,室外機5と室内機6を接続する冷媒配管7は,圧縮機の吸入圧力低下や配管抵抗増加等を防止して冷房能力を十分確保するための最大冷媒配管長が決められているため,冷媒循環回路24は熱輸送の距離に制約がある。一方,熱媒供給回路25は,冷水を熱媒とする水循環系であり,熱媒配管11の長さには,冷媒配管7のような配管長の制約が無く,長距離の熱輸送に適している。そのため,室内機6に対応する室外機5を同じ階のベランダ2に配置することにより,冷媒配管7をできるだけ短くして,冷媒冷却用熱交換器8を各階のベランダ2に配置し製氷用冷凍機28と蓄熱槽30を屋上階RFに配置することにより,熱媒配管11の長さを冷媒配管7と比較して長くすることが好ましい。この場合,空調機セットPの冷房能力を十分確保できる。
例えば,過冷却運転中に蓄熱槽30内に蓄積された氷の量が不足しそうになった場合は,任意の空調機セットPの運転モードを過冷却停止運転に切り換える。例えば,賄う冷房負荷が比較的低い状態にある空調機セットPを選択して,過冷却停止運転に切り換える。即ち,選択した空調機セットPについて,バイパス開閉弁V1を開いて開閉弁V2,V3を閉じることにより,冷媒冷却用熱交換器8への熱媒の通流を遮断し,バイパス管11eに熱媒を通流させ,過冷却を行わずに冷媒を通流させる。また,仮に,過冷却運転中に熱媒配管11,熱媒配管11に備えたポンプ,蓄熱槽30等が故障して,熱媒供給回路25の熱媒の供給が不可能になった場合も,任意の空調機セットPの運転モードを過冷却停止運転に切り換える。こうすることにより,過冷却運転時より冷房能力を低下させながらも,過冷却停止運転による冷房運転を継続させることができる。このように,空調機セットPごとに独立して過冷却運転することが可能であり,各空調機セットPが賄う冷房負荷,蓄熱槽30や熱媒配管11の状態等に応じて,各空調機セットPごとに,柔軟に過冷却運転又は過冷却停止運転のいずれかに運転モードを選択できる。なお,運転モードを過冷却停止運転に切り換えた空調機セットPの冷房能力が零になることはなく,過冷却停止運転時と同じ冷房能力が維持できる。即ち,本発明の空調設備は,過冷却運転時の冷房能力について,過冷却停止運転時の冷房能力に相当する冗長性が確保されている。
また,本発明の空調設備は,過冷却運転によって空調機セットP一組ごとの冷房能力を向上させることにより,過冷却運転のための構成を有しない従来型の空調設備よりも,空調機セットPのセット数を減少させることができる。これにより,ベランダ2に室外機5を低密度に配置できる。即ち,各室外機5が互いの排気を吸い込まないように,各室外機5を互いに十分な間隔を設けて配置できる。従って,高温排気の吸い込みによる室外機5の熱交換能力低下や,運転停止が起こる心配が無い。なお,冷媒冷却用熱交換器8は,プレート型熱交換器であり,室外機5と比較して小さく,省スペースを実現でき,ベランダ2に配置しても室外機5の低密度配置の邪魔にならない。
次に,過冷却運転の効果について,より具体的に説明する。本発明者は,本発明の空調設備を設置する建物を具体的に想定し,想定した建物の設計熱負荷に必要な空調機セットPの個数,各空調機セットPに必要な冷房能力,各空調機セットPの消費電力等を試算した。また,想定した建物に,冷媒冷却用熱交換器8を備えず過冷却運転を行わない従来型の空調設備を設置する場合と比較した。
想定した建物1は6階建てであり,1階から6階までの各階は,IDCとして使用される。建物1の1階から6階までの各階の空調エリアは,それぞれ約2500m2程度である。また,各階の空調エリアにおける床面積当たりの設計熱負荷は,約0.8kW/m2と定められている。即ち,各空調エリアに必要な設計熱負荷は,約2000kW程度である。
なお,IDCは,一般的な電算センターより高密度に発熱するため,顕熱負荷が高い。また,室内に人間が出入りすることが少なく,通常は無人であり,保守員などが必要なときに小人数入室する。従って,人体から発生する水蒸気が微少であり,潜熱負荷が極小である。
建物1の1階から6階までの各階には,一台の空冷式の室外機5と一台の室内機6からなる冷房専用の空調機セット(空冷パッケージユニット方式のエアコン)Pが45セットずつ備えられる。建物1全体では,45セット×6階=270セットの空調機セットPが備えられる。従って,ベランダ2には,45台の室外機5の他に,一階分の45セットの空調機セットPの冷媒冷却用熱交換器8,即ち,45台の冷媒冷却用熱交換器8が配置される。1階から6階までの総てのベランダ2に配置された全部で270台の冷媒冷却用熱交換器8は,熱媒を通流させる熱媒配管11によって,熱媒冷却機10の蓄熱槽30に接続されている。蓄熱槽30の容積は約271m3程度であり,IPF(氷充てん率)は約40%程度である。製氷用冷凍機28の定格能力は約971kW(276Rt)程度であり,COP(成績係数)は約2.00程度である。
各空調機セットPの定格能力(室外機5の周囲の外気温度(室外機5に吸気される空気の温度)が35℃のときの冷房能力)は,過冷却停止運転では約37.5kW程度であり,過冷却運転では約45kW程度である。各階の各空調エリアに必要な設計熱負荷約2000kWは,空調機セットP45セット分の過冷却運転によって賄うことができる。また,過冷却運転時の各空調機セットPの冷房能力は,過冷却停止運転時よりも約20%程度向上する。換言すれば,仮に過冷却運転時に熱媒配管11,熱媒配管11に備えたポンプ,蓄熱槽30等が故障して,熱媒供給回路25の熱媒の供給が不可能になった場合も,空調設備の冷房能力が零になることはなく,過冷却停止運転時と同じ冷房能力,即ち,過冷却運転の約80%程度の冷房能力が維持できるといえる。即ち,この空調設備の過冷却運転時の冷房能力については,約80%程度の冗長性が確保されている。
なお,定格能力の運転時に,圧縮機16の駆動等により必要とされる各室外機5の消費電力は,過冷却停止運転時も過冷却運転時も,約14.2kW程度である。各空調機セットPのCOPは,定格能力の過冷却停止運転時で約2.64程度,定格能力の過冷却運転時で約3.17程度である。
従来型の空調設備の場合,各空調機セットPの定格能力は上記の過冷却停止運転時と同じ約37.5kW程度のままであり,各階の各空調エリアに必要な設計熱負荷約2000kWを賄うためには,1階分の空調機セットPを45セット以上備える必要がある。しかしながら,室外機5をベランダ2に十分な間隔を設けて配置することができず,室外機5の高温排気によって外気温度が35℃以上に上昇する虞がある。この場合,各空調機セットPは定格能力で運転できず,冷房能力が37.5kW以下に低下するため,冷房能力の低下を考慮して,さらに空調機セットPを増加させる必要がある。また,冷媒循環量を増加させるために圧縮機16の駆動力を増加させることにより,室外機5の消費電力が上昇する虞がある。
これに対し,本発明の空調設備の場合,45台の室外機5は互いの排気を吸い込まないようにベランダ2に低密度に配置することができる。過冷却停止運転時も過冷却運転時も,外気温度が約35℃以上になることを防止できる。従って,過冷却停止運転時も過冷却運転時も,定格能力以上の冷房能力で運転できる。
本発明者は,建物1に従来型の空調設備を設けた場合に,各階の設計熱負荷約2000kWを賄うために必要な空調機セットPの個数と,室外機5周囲の外気温度,各空調機セットPの冷房能力,各室外機5の消費電力を試算した。その結果,建物1の各階にそれぞれ必要な空調機セットPの個数は56セットであり,6階建ての建物1全体では,必要な空調機セットPの個数は56セット×6階=336セットである。このとき,各ベランダ2に配置された56台の室外機5周囲の外気温度(室外機5の吸気温度)は,各室外機5の排気により,約40℃程度に上昇する。
ここで,各空調機セットPの冷房能力,各室外機5の消費電力の試算に使用した能力線図について説明する。図3は,単体の空調機セットPの冷房能力と外気温度の関係を示した能力線図である。図4は,単体の空調機セットPの消費電力と外気温度の関係を示した能力線図である。図3において,横軸は外気温度(℃)を示し,縦軸は冷房能力(kW)を示している。図4において,横軸は外気温度(℃)を示し,縦軸は消費電力(kW)を示している。
外気温度が約40℃程度の場合,図3の能力線図から理解されるように,各空調機セットPの冷房能力は約36.0kW程度となり,図4の能力線図から理解されるように,各室外機5の消費電力は,約15.1kW程度である。さらに,外気温度は約43℃程度に上昇する場合があることが経験上明らかである。外気温度約43℃程度の場合,図3の能力線図から理解されるように,各空調機セットPの冷房能力は約35.4kW程度に減少する。なお,中間期(春季及び秋季),冬季では,夏季より外気温度が下がるため,夏季と比較して,より節電できる(COPが向上する)。
また,建物1に従来型の空調設備を設けた場合の各空調機セットPのCOPは約2.38程度である。
即ち,本発明者の試算によれば,本発明の空調設備を適用することにより,従来型の空調設備と比較して,建物1の各階にそれぞれ必要な空調機セットPを11セット減少(約20%程度減少)させることができる。従って,各ベランダ2に配置される室外機5と冷媒冷却用熱交換器8の数をそれぞれ11台減少させ,互いに間隔を広くとることができる。さらに,外気温度を約4℃程度低下させることができる。各空調機セットPの冷房能力を,過冷却停止運転時において約1.5kW程度増加(約4%程度増加)させることができる。各室外機5の消費電力を約0.9kW程度減少(約6%程度減少)させることができる。各空調機セットPのCOPを約0.26程度増加(約10%程度増加)させることができる。
また,本発明者は,建物1に本発明の空調設備を設けた場合と,従来型の空調設備を設けた場合について,空調設備に必要な年間消費電力と年間電力料金をそれぞれ試算した。図5は,本発明の空調設備と従来型の空調設備の年間消費電力を示すグラフであり,図6は,本発明の空調設備と従来型の空調設備の年間消費電力を比較した表である。図7は,本発明の空調設備と従来型の空調設備の年間電力料金を示すグラフであり,図8は,本発明の空調設備と従来型の空調設備の年間消費電力を比較した表である。図5において,縦軸は,空調設備全体の年間消費電力(kW)を示し,グラフ棒aは本発明の空調設備の年間消費電力を示し,グラフ棒bは従来型の空調設備の年間消費電力を示している。図7において,縦軸は,空調設備全体の年間電力料金(万円)を示し,グラフ棒cは本発明の空調設備の年間電力料金を示し,グラフ棒dは従来型の空調設備の年間電力料金を示している。
ここで,図5〜図8のグラフ及び表に示した年間消費電力と年間電力料金の試算の際に想定した熱負荷形状を,図9及び図10に示す。図9は,想定した一日の熱負荷を示すグラフである。図10は,想定した年間の熱負荷を示すグラフである。図9において,横軸は1日の時刻を示し,縦軸は,1日の全熱負荷に対する熱負荷の割合(%)を示している。図10において,横軸は月数を示し,縦軸は,1年間の全熱負荷に対する熱負荷の割合(%)を示している。図9に示すように,1日の熱負荷の時間変動については,気温の変動による外気温度の変動を考慮して,時間変動70%〜100%と仮定した。また,図10に示すように,1年間の熱負荷の季節変動については,気温の変動による外気温度の変動を考慮して,季節変動80%〜100%と仮定した。
図5及び図6に示すグラフ及び表から理解されるように,本発明の空調設備は,従来型の空調設備の約94%程度に年間消費電力を削減できる。また,図7及び図8に示すグラフ及び表から理解されるように,本発明の空調設備は,従来型の空調設備の約92%程度に年間電力料金を削減できる。
さらに,本発明者は,建物1に本発明の空調設備を設けた場合と,従来型の空調設備を設けた場合について,設備費(イニシャルコスト)及び電気料金(ランニングコスト)を比較した。本発明の空調設備に必要な設備費は,従来型の空調設備より,熱媒供給回路3の設備費の約11040万円程度増額する。一方,本発明の空調設備は,従来型の空調設備より空調機セットPが66セット少ないので,単体の空調機セットPの設備費は約80万円程度とすると,約5280万円程度減額できる。従って,本発明の空調設備の設備費は,従来型の空調設備より約5760万円程度の増額となる。しかしながら,本発明の空調設備は,前述のように従来型の空調設備より消費電力を削減でき,図7及び図8に示すグラフ及び表から理解されるように,年間では約2256万円の電気料金の削減が可能である。従って,本発明の空調設備にかかる設備費の増額分は,電気料金の削減により,約2年間程度で回収することが可能である。そして,設備費を回収した後,即ち,本発明の空調設備を設置してから約2年経過後も,電気料金を低額に抑えることができる。従って,設備費及び空調設備設置後の総ての電気料金を含めた全額を比較すると,本発明の空調設備は,従来型の空調設備より経済性を高めることが可能であると理解される。
また,本発明者は,8月の最大負荷日(年間の最大負荷日),8月の代表日(夏季代表日)及び1月の代表日(冬季代表日)における各消費電力を,本発明の空調設備と従来型の空調設備について,それぞれ試算した。図11は,8月の最大負荷日における,本発明の空調設備の消費電力を試算した結果を示すグラフである。図12は,8月の最大負荷日における,従来型の空調設備の消費電力を試算した結果を示すグラフである。図13は,8月の代表日における,本発明の空調設備の消費電力を試算した結果を示すグラフである。図14は,8月の代表日における,従来型の空調設備の消費電力を試算した結果を示すグラフである。図15は,1月の代表日における,本発明の空調設備の消費電力を試算した結果を示すグラフである。図16は,1月の代表日における,従来型の空調設備の消費電力を試算した結果を示すグラフである。図11〜図16において,横軸は1日の時刻を示し,縦軸は,空調設備全体の消費電力(kW)を示している。また,図11,図13,図15において,グラフ棒eは熱媒冷却機10の蓄熱運転に必要な消費電力を示し,グラフ棒fは過冷却運転に必要な消費電力を示している。
図11〜図16のグラフより,本発明の空調設備は,電力需要の平準化ができることがわかる。特に,図13のグラフから理解されるように,8月の代表日では,熱媒冷却機10の蓄熱運転は夜間のみ行えばよく,電力の夜間移行が実現されている。また,図15のグラフから理解されるように,1月の代表日では,熱媒冷却機10の蓄熱運転は夜間の約4時間のみ行えばよい。
かかる本発明の空調設備によれば,熱媒供給回路3によって冷媒を過冷却し,冷媒が過冷却された分だけ空調機セットPの冷房能力を増加させることができるので,IDCのような熱負荷の高い施設であっても,空調機セットPの設置台数を適正な数に減少させることができる。この場合,各ベランダ2に配置される室外機5と冷媒冷却用熱交換器8の設置台数が減少するので,これらの間の間隔を互いに広くとり,各ベランダ2の面積に対して低密度に配置できるため,外気温度を適正な温度に保つことができる。従って,各空調機セットPの冷房能力が損なわれず,高効率な定格能力の運転が可能である。これにより,各室外機5の消費電力を減少させることができ,各空調機セットPのCOPを増加させることができる。
さらに,空調設備全体の消費電力と電力料金を削減できる。電気料金の削減により設備費の増額分を回収し,設備費及び空調設備設置後の総ての電気料金を含めた全額を低減できる。
また,蓄熱運転を夜間に行うことにより,電力の夜間移行が可能であり,電力需要の平準化ができる。安価な夜間電力を活用することで,空調設備全体の電力料金をさらに削減できる。
以上,本発明の好適な実施の形態の一例を示したが,本発明はここで説明した形態に限定されないことは勿論であり,適宜変更実施することが可能である。本発明の空調設備は,実施の形態に示したIDCとしての建物1の他,例えば百貨店,オフィスビルに適用しても有効である。また,セントラル方式の空調設備と本発明の空調設備を組み合わせて,建物に設置しても良い。この場合も,建物の空調設備全体の能力を増強し,省電力を図ることができる。
本実施の形態では,室内機6に対応する室外機5を同じ階のベランダ2に配置したが,冷媒配管長の制約を満たす場合であれば,室外機5を他の階のベランダ2や,屋上階RFに配置することもできる。
建物1は6階建てとしたが,勿論,6階以外の階数としても良い。階数の増加により,屋上階RFの熱媒冷却機10と1階の冷媒冷却用熱交換器8との間の距離が大きくなっても,熱媒配管11は長距離の冷熱輸送が可能であるため,最上階の空調機セットPから1階の空調機セットPまで,冷媒の過冷却を十分に行うことができる。
本実施の形態では,室外機5と室内機6をそれぞれ一台ずつ備えた空調機セットPについて説明したが,空調機セットは,例えば,複数台の室内機を室内機の台数より少ない台数の室外機に接続して構成されたマルチパッケージエアコンや,ビル用マルチであっても良い。例えば,図17に示すように,2台の室内機6a,6bを1台の室外機5に接続するマルチパッケージエアコンP’の場合は,冷媒液配管7aを冷媒冷却用熱交換器8の下流で2本に分岐させ,一方の分岐管に室内機6aを接続し,他方の分岐管に室内機6bを接続する。また,冷媒ガス配管7bの上流側を2本に分岐させ,一方の分岐管に室内機6aの冷媒出口を接続し,他方の分岐管に室内機6bの冷媒出口を接続する。即ち,冷媒液配管7a,室内機6aに備えた室内機内配管20a,冷媒ガス配管7b,室外機内配管17をこの順に接続した冷媒循環回路と,冷媒液配管7a,室内機6bに備えた室内機内配管20bと,冷媒ガス配管7b,室外機内配管17をこの順に接続した冷媒循環回路とを構成する。室内機6a,6bに分岐させて送給する圧縮・凝縮された冷媒を冷媒冷却用熱交換器8にて過冷却することにより,マルチパッケージエアコンP’全体の冷房能力を向上させることができる。
空調機セットPは,冷房専用のものであってもよいが,例えばヒートポンプ方式のパッケージエアコン等,冷房運転の他に暖房運転を行うことも可能な構成のものであってもよい。例えば,図2において,室外機5内の凝縮器16は,冷房運転時に凝縮器として作用し,暖房運転時に蒸発器として作用する熱交換器として構成する。また,室内機6内の蒸発器19は,冷房運転時に蒸発器として作用し,暖房運転時に凝縮器として作用する熱交換器として構成する。四方弁15は,冷房運転時には第1の接続口15aと第2の接続口15bとを接続し,第3の接続口15cと第4の接続口15dとを接続した状態にし,暖房運転時には第1の接続口15aと第4の接続口15dとを接続し,第2の接続口15bと第3の接続口15cとを接続した状態にするように,切り換え動作が可能な構成とする。さらに,室内機6内には,冷房運転時に蒸発器19に通流させる冷媒を膨張させる膨張弁(図示せず)を備える。冷房運転時には,室内機6内の熱交換器(蒸発器19),四方弁15,アキュームレータ13,圧縮機14,四方弁15,室外機5内の熱交換器(凝縮器16),膨張弁18,室内機6内の熱交換器(蒸発器19)の順に冷媒を循環させる。一方,四方弁15を切り換えて,室内機6内の凝縮器として作用する熱交換器,膨張弁18,室外機5内の蒸発器として作用する熱交換器,四方弁15,アキュームレータ13,圧縮機14,四方弁15,室内機6内の凝縮器として作用する熱交換器の順に冷媒を循環させることができる。この場合,室内機6内の熱交換器において冷媒が冷熱を吸収して凝縮するとき,室内機6内の熱交換器の周囲に暖気が発生し,室内機6内に備えられた図示しない送風機により暖気が送風されて室内に給気され,室内を暖房することができる。このような,冷房運転と暖房運転が可能な構成の空調機セットPを備えた空調設備においても,各空調機セットPを冷房運転させる際,本発明を好適に実施可能である。
熱媒としては,本実施の形態に示した冷水の他,フロン系冷媒,CO2(二酸化炭素),アンモニア系冷媒,氷スラリーを使用することもできる。また,熱媒冷却用蓄熱装置25は,スタティック型外融式の氷蓄熱装置として説明したが,勿論,その他種々の蓄熱装置としても良い。例えば,外融式であっても内融式であっても良く,ダイナミック型の蓄熱装置であっても良い。
また,冷媒冷却用熱交換器8の熱媒の通過をコントローラによって制御しても良い。例えば,図18に示すように,1階から6階までの各階に,コントローラ37をそれぞれ設ける。各室外機5に,各室外機5の運転状態(圧縮機16の運転状態)を検出する図示しないセンサーを設け,センサーの運転情報信号を,そのセンサーが設けられた室外機5が配置された階のコントローラ37に送信するように構成する。また,室内の温度を測定する図示しない温度センサーを,室内機6内部に設け,温度センサーの温度検出信号を,その温度センサーが設けられた室内機6が配置された階のコントローラ37に送信するように構成する。さらに,蓄熱槽30に,蓄熱槽30内部に貯留されている蓄氷量を検出する図示しない蓄氷量センサーを設け,蓄氷量センサーからの残蓄氷量検出信号を,1階から6階までの各階のコントローラ37にそれぞれ送信するように構成する。コントローラ37は,運転情報信号,温度検出信号,残蓄氷量検出信号に基づいて,制御信号をバイパス開閉弁V1,開閉弁V2,V3に送信して,バイパス開閉弁V1,開閉弁V2,V3を操作する。この場合,各階の室内の温度と各空調機セットPの稼働状態に応じて,各空調機セットPの過冷却停止運転と過冷却運転を個別に自動的に切り替えることができるので,不必要な過冷却運転を行うことがなく,蓄熱槽30内の蓄熱を有効に利用できる。
例えば,ある空調機セットPが過冷却停止運転状態であるときに,運転情報信号と温度検出信号により,室内機6が設置された室内の温度が目標値より上昇し,かつ,その室内機6に対応する室外機5がフルロードであることが検出された場合は,その空調機セットPの冷房能力を増加させる必要があるので,過冷却運転状態にする。即ち,その空調機セットPが配置された階のコントローラ37の制御信号によって,その空調機セットPに対応するバイパス開閉弁V1を閉じ,かつ,開閉弁V2,V3を開く。これにより,熱媒を冷媒冷却用熱交換器8に通過させ,冷媒配管7からの冷媒が熱媒との熱交換により過冷却されるようにする。一方,例えば,室内の温度がほぼ目標値である場合は,冷房能力を増加させる必要は無いので,コントローラ37から制御信号を送信せず,その空調機セットPを過冷却停止運転状態に維持する。また,室内の温度が目標値より上昇していても,室外機5がフルロードでない場合は,室外機5をフルロードにすればよいので,その空調機セットPを過冷却停止運転状態に維持する。そして,ある空調機セットPが過冷却運転状態であるときに,室内の温度がほぼ目標値である場合や,室外機5がフルロードでない場合は,冷房能力を低減させても良いので,過冷却停止運転状態にする。即ち,コントローラ37の制御信号によってバイパス開閉弁V1を開き,かつ,開閉弁V2,V3を閉じる。これにより,熱媒をバイパス管11eに通過させ,冷媒を過冷却させず冷媒冷却用熱交換器8を素通りさせる。なお,夜間の蓄熱運転は年間を通じて常に行い,蓄熱した冷熱は昼間に使いきるように操作することが好ましい。こうすることにより,安価な夜間電力を利用して経済性を高めることができる。中間期(春季及び秋季),夏季では,冬季より外気温度が上がるが,冷媒を過冷却することにより,高いCOPで運転できる。
また,熱媒配管11内の熱媒を室外機5に対して散水するための散水配管を備えても良い。図19に示すように,各室外機5の近くを通過する熱媒配管11から,散水配管40を分岐させ,各室外機5の図示しない吸い込み口の付近にノズル41を設け,各散水配管40をノズル41にそれぞれ接続する。さらに,各散水配管40を開閉する開閉弁V4を介設する。また,総ての冷媒冷却用熱交換器8より上流側の熱媒配管11に,即ち,冷媒冷却用熱交換器8に分岐する位置より上流側に,熱媒配管11内の熱媒の循環量を制御する開閉弁V5を介設する。この場合,緊急時に蓄熱槽30内の熱媒を散水することにより,外気温度を下げることができる。従って,空調機セットPの冷房能力を直ちに増加させることができる。例えば熱媒冷却機10が故障して過冷却ができない場合であっても,過冷却停止運転時以上の冷房能力(過冷却運転時の約80%以上の冷房能力)で運転できる。
本実施の形態では,熱媒冷却機10を建物1の屋上階RFに配置した構成としたが,熱媒冷却機10は,建物1の地下階に配置しても良い。また,冷媒冷却用熱交換器における前記冷媒の冷却を地域冷暖房システムを利用して行う構成としても良い。例えば,図20に示すように,建物1の下の地中に地域冷暖房システムの熱供給配管43を設置し,熱媒配管11を熱供給配管43に接続する。そして,熱供給配管43から熱媒供給配管11aを介して各冷媒冷却用熱交換器8に熱媒を供給し,熱媒によって冷媒を冷却した後,熱媒回収配管11bを介して熱媒を熱供給配管43に戻す。こうして,地域冷暖房システムと各冷媒冷却用熱交換器8との間で熱媒を循環させ,熱媒を介して地域冷暖房システムの熱源プラントから供給される冷熱によって,各冷媒冷却用熱交換器8にて冷媒を過冷却する。なお,地域冷暖房システムを利用する場合,経済性を高めるためには,中間期(春季及び秋季),冬季では,可能な限り各空調機セットPの能力で冷房負荷を処理し,地域冷暖房システムからの熱媒の受け入れ量を少なくし,熱料金を抑えることが好ましい。