JP2009100688A - 抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法、前処理装置及び遺伝子検出方法 - Google Patents

抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法、前処理装置及び遺伝子検出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】喀痰に含まれる抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、迅速、正確で高収率、かつ密閉系で液滴の飛散、コンタミネーションなどを起こすことなく、簡便・安全に、抗酸菌を喀痰から単離することが可能な前処理方法を提供する。また、本発明の前処理方法により抗酸菌を処理して遺伝子を抽出し、当該遺伝子を特異的に増幅し検出する抗酸菌の遺伝子検出方法を提供する。
【解決手段】喀痰に含まれる抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、喀痰に可溶化・雑菌除去処理剤を添加後、当該処理剤を除去することなく直接的に抗酸菌を、固体支持体もしくは当該固体支持体上に固定された非特異的リガンド、により結合・捕集することを特徴とする抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法、前処理装置及び遺伝子検出方法に関する。
抗酸菌の検査では、セミアルカリプロテアーゼを含有する喀痰溶解剤、NALC−NaOH試薬などの可溶化・雑菌処理剤による雑菌死滅過程と引き続く遠心分離法を代表とする、抗酸菌を含む部分と雑菌処理剤との分離および除去を行い、培養検査もしくは遺伝子検査等がなされている(例えば特許文献1参照)。
遠心分離法については、溶媒の粘性や、遠心中の温度上昇に伴い最終的な細胞の捕集量の低さが知られている。その捕集量の低さは、検査感度に多大な影響を与えることから遠心分離法に代わる雑菌処理剤と菌の分離方法が待ち望まれている。
抗酸菌の中でも病原性を保有若しくは疑われる菌(例として結核菌)を対象とする検査工程において臨床検査者自身の当該細菌への暴露の高さが知られている。暴露される危険性の高い操作法として、キャップの開け閉めの際の検体の飛沫(エアロゾル)の飛散が指摘されている。暴露を低くするためのひとつの方法として検査工程の自動化が考えられるが、現在の遠心分離法は、自動化することが困難でありまた自動化が可能であっても機械の大型化、装置価格の上昇など現実的に現場で導入することは難しい。
一方、常磁性表面結合担体は、臨床検査処理の自動化分野で大きな功績を挙げている。代表的な分野としては、DNA・RNAの抽出もしくは精製、タンパクの抽出若しくは精製などが挙げられる。細胞もしくは細菌の捕集分野でも常磁性表面結合担体応用の実績は存在し、抗酸菌においても遠心分離による雑菌処理剤除去後溶液に対して更なる精製および捕集のために応用されている実例が存在している(例えば特許文献2〜5参照)。
当該常磁性表面結合担体と目的捕集物質間結合による捕集効率は、バッファーの組成やpHに大きく影響されることが知られている。核酸の抽出においては、カオトロピック塩やエタノールによる脱水処理、もしくはpHの変化による担体表面電荷の最適化などがバッファーにより調節され最良の結果を得るような条件が検討されている(例えば特許文献6〜8参照)。
ところで、抗酸菌の検査の具体例として喀痰の検査があるが、喀痰の検査に際しては、喀痰の可溶化、雑菌処理剤添加および反応後、抗酸菌を含む部分と処理剤とを分離し、処理剤を除去することが必要である。従来法では、上述のように、遠心による分離と上清除去が行われていたが、安全面、自動化面、また感度の面でも問題が存在している。
特開2004−344108号公報 特表2006−517225号公報 特表2003−520048号公報 特表2002−507116号公報 特許第1915490号明細書 特開2005−118041号公報 特表2005−532072号公報 特開2003−102465号公報
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、喀痰に含まれる抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、迅速、正確で高収率、かつ密閉系で液滴の飛散、コンタミネーションなどを起こすことなく、簡便・安全に、抗酸菌を喀痰から単離することが可能な前処理方法を提供することである。また、本発明の前処理方法により抗酸菌を処理して遺伝子を抽出し、当該遺伝子を特異的に増幅し検出する抗酸菌の遺伝子検出方法を提供することである。
本発明に係る上記課題は以下の手段により解決される。
1.喀痰に含まれる抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、喀痰に可溶化・雑菌除去処理剤を添加後、当該処理剤を除去することなく直接的に抗酸菌を、固体支持体もしくは当該固体支持体上に固定された非特異的リガンド、により結合・捕集することを特徴とする抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
2.前記可溶化・雑菌除去処理剤が、その成分として、セミアルカリプロテアーゼ、N−アセチル−L−システイン(NALC)、水酸化ナトリウム(NaOH)から選ばれる物質を含有することを特徴とする前記1に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
3.前記可溶化・雑菌除去処理剤を除去した後に、抗酸菌の精製をすることを特徴とする前記1又は2に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
4.前記抗酸菌が、結核菌群に属することを特徴とする前記1〜3のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
5.前記固体支持体が、常磁性表面結合担体として機能することを特徴とする前記1〜4のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
6.前記固体支持体が、平均孔径0.2〜5.0μmの微細孔を有する膜状フィルターとして機能することを特徴とする前記1〜5のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
7.前記1〜6のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、前記可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を、それぞれ同一又は別個の容器に予め入れておき、順次、前処理操作に供することを特徴とする抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
8.抗酸菌の遺伝子検出方法であって、前記1〜7のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法により抗酸菌を処理して遺伝子を抽出し、当該遺伝子を特異的に増幅し検出することを特徴とする抗酸菌の遺伝子検出方法。
9.前記1〜7のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法を実施するための前処理装置であって、同一又は別個の容器に予め封入された可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を具備していることを特徴とする前処理装置。
本発明の上記手段により、喀痰に含まれる抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、迅速、正確で高収率、かつ密閉系で液滴の飛散、コンタミネーションなどを起こすことなく、簡便・安全に、抗酸菌を喀痰から単離することが可能な前処理方法を提供することができる。また、本発明の前処理方法により抗酸菌を処理して遺伝子を抽出し、当該遺伝子を特異的に増幅し検出する抗酸菌の遺伝子検出方法を提供することができる。
本発明の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法は、喀痰に含まれる抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、喀痰に可溶化・雑菌除去処理剤を添加後、当該処理剤を除去することなく直接的に抗酸菌を、固体支持体もしくは当該固体支持体上に固定された非特異的リガンド、により結合・捕集することを特徴とする。この特徴は請求項1〜7に係る発明に共通する技術的特徴である。
なお、本発明の好ましい形態・態様としては、前記可溶化・雑菌除去処理剤が、その成分として、セミアルカリプロテアーゼ、N−アセチル−L−システイン(NALC)、水酸化ナトリウム(NaOH)から選ばれる物質を含有することである。また、前記可溶化・雑菌除去処理剤を除去した後に、抗酸菌の精製をする態様が好ましい。更に、前記抗酸菌が、結核菌群に属するものであることが好ましい。
本発明においては、前記固体支持体が、常磁性表面結合担体として機能することが好ましい。また、前記固体支持体が、平均孔径0.2〜5.0μmの微細孔を有する膜状フィルターとして機能する態様も好ましい。
本発明の前処理方法を実施する際には、前記可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を、それぞれ同一又は別個の容器に予め入れておき、順次、前処理操作に供する態様とすることが好ましい。従って、前処理装置としては、同一又は別個の容器に予め封入された可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を具備している前処理装置を用いることが好ましい。
なお、上述の好ましい態様の説明から推測できるように、本発明の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法は、これにより抗酸菌を処理して遺伝子を抽出し、当該遺伝子を特異的に増幅し検出する抗酸菌の遺伝子検出方法に好適に適応することができる。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための最良の形態等について詳細な説明をする。
(抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法)
本発明の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法は、喀痰に可溶化・雑菌除去処理剤を添加後、当該処理剤を除去することなく直接的に抗酸菌を、固体支持体もしくは該固体支持体上に固定された非特異的リガンド、により結合・捕集することを特徴とする。
なお、本願において、「抗酸菌を、固体支持体等に結合・捕集する」とは、化学結合、物理化学的吸着などの相互作用により抗酸菌を固体支持体に捕集することをいう。
以下、各構成要素等について説明する。
〈抗酸菌〉
「抗酸菌」とは、マイコバクテリア科に属する細菌グループであるマイコバクテリウム属に属する菌の総称であるが、本願においては、特に喀痰に含まれる抗酸菌をいう。
本発明の前処理方法は、特に結核菌群に属する抗酸菌に好適に適応することができる。
なお、本発明の前処理方法は、目的に応じて処理条件を変えることにより、喀痰に含まれる雑菌、例えば、緑膿菌、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌、酵母真菌などにも適応することができる。
また、本発明の前処理方法の対象となる試料としては、喀痰が特に好適であるが、これに限らず、抗酸菌を含有する任意の物質、例えば、気管支洗浄液、骨髄液、リンパ節、膿、尿、胸水なども対象とすることができる。
〈可溶化・雑菌除去処理剤〉
本発明に係る「可溶化・雑菌除去処理剤」とは、喀痰を可溶化する作用ないし雑菌を除去する作用を有する試薬・試剤自体又はそれを含有する溶液をいう。なお、可溶化する作用又は雑菌を除去する作用のいずれか一方の作用だけを有するものであっても、両方の作用を併有するものであってもよい。
具体的には、成分として、セミアルカリプロテアーゼ、N−アセチル−L−システイン(NALC)、水酸化ナトリウム(NaOH)、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、キチン、フェノール、酢酸アンモニウムから選ばれる物質を含有する試薬・試剤等であることが好ましい。
特に、セミアルカリプロテアーゼを含有する喀痰溶解剤(例えば、スプタザイム:商品名(極東製薬工業(株)))や、N−アセチル−L−システイン(NALC)−水酸化ナトリウム(NaOH)試薬(液)が好ましい。
〈固体支持体〉
本発明に係る固体支持体としては、種々の素材を用いることができるが、基本的特性としては、水不溶性の担体であるであることが好ましい。
また、本発明において、好ましい態様として、当該固体支持体上に非特異的リガンドが固定されている態様、固体支持体は常磁性表面結合担体として機能する態様、孔径0.2〜5.0μmの微細孔を有する膜状フィルターとして機能する態様、及びこれらの態様を組合わせた態様を挙げることができる。
本発明において、水不溶性の固体支持体を形成する材料は、特に限定されるものではないが、水に不溶であればよい。ここでいう水不溶性とは、具体的に水、他のいかなる水可溶性組成を含む水溶液に溶解しない固相を意味する。固体支持体は、固定、分離等用に現在広く使用され、提案されている公知の支持体又はマトリックスのいずれであってもよい。
具体的には無機化合物、金属、金属酸化物、有機化合物又はこれらを組み合わせた複合材料を含む。試料に含まれる細胞等の目的物を固体支持体に吸着させるが、固体支持体は、細胞等の目的物を吸着させ得るものであれば、材質、形状、サイズは特に限定されない。好ましいのは、例えば、細胞の結合、したがって、核酸の結合のためには高い表面積を与える材料である。
具体的に固体支持体として使用される材料は、特に限定されるものではないが、一般にポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリアミド、ラテックスなどのような合成有機高分子、ガラス、シリカ、二酸化珪素、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの無機物又はステンレス、ジルコニアなどの金属であってもよい。これらの材料は一般に不規則な表面を持ち、例えば多孔性又は粒状、例えば粒子、繊維、ウェブ、焼結体又は篩いであることができる。
よって、本発明において用いられる固体支持体の形状としては特に限定されるものではないけれども、粒状、棒状、板状、シート、ゲル、膜、繊維、毛細管、ストリップ、フィルターなどが挙げられ、好ましくは、粒状である。粒状材料、例えばビーズは、結合能力が大きいために一般に好ましい。
粒状の形態としては、例えば球形、楕円体形、錐体、立方形、直方体形などが挙げられる。このうち球形粒子の担体は製造しやすく、使用時に、磁性支持体の回転攪拌がしやすいことからも好ましい。細胞等の目的物を吸着する固体支持体としてのビーズの平均粒径は、0.5〜10μm、好ましくは2〜6μmであることが好ましい。平均粒径が0.5μm未満である場合、当該ビーズ本体が磁性体を含有してなるものである場合は、充分な磁気応答性を発現せず、当該粒子を分離するために相当に長い時間を要し、また、分離するために相当に大きい磁力が必要となる。一方、粒径が10μmを超える場合には、当該粒子が水性媒体中で沈降しやすいものとなるため、細胞を捕捉する際に媒体を攪拌する操作が必要となる。また、粒子本体の表面積が小さくなるため、充分な量の細胞を捕捉することが困難となることがある。
《常磁性表面結合担体として機能する固体支持体》
固体支持体の表面も含めた全体が同一の材料から構成されている場合のほかに、必要に応じて複数の素材から構成されるハイブリット体であってもよい。例えば分析の自動化に対応することができるために、コア部分は酸化鉄、又は酸化クロムのような磁気応答性材料で作られ、その表面を有機合成ポリマーで被覆された複合ビーズが挙げられる。
細胞を結合させた磁性支持体を試料液から、磁石の磁力によって容易に(固液)分離・粒子の回収をすることができる点で、その磁性支持体が常磁性体、強常磁性体、及び強磁性体などの磁性体が含有されてなるものであることが好ましく、より好ましくは、常磁性体及び強常磁性体の両方又はいずれか一方が含有されてなるものである。特に残留磁化がないか又は少ない点で、強常磁性体を用いることが好ましい。
かかる磁性体の具体例としては、四三酸化鉄(Fe34)、γ−重三二酸化鉄(γ−Fe23)、各種フェライト、鉄、マンガン、コバルト、クロムなどの金属、コバルト、ニッケル、マンガンなどの各種合金を挙げることができ、これらのうち、四三酸化鉄が特に好ましい。
本発明において用いられる磁性支持体は、小粒径の粒子よりなるビーズであって、優れた磁気分離性(すなわち磁気によって短時間で分離する性能)を有し、かつ、ゆるい上下振盪の操作によって再分散し得るものであることが好ましい。
磁性ビーズにおける磁性体の含有割合は、非磁性体の有機物質の含有割合が30質量%以上であることから、70質量%以下とされるが、好ましくは、20〜70質量%、より好ましくは30〜70質量%である。この割合が20質量%未満であると、充分な磁気応答性が発現されず、所要の磁力によって短時間で粒子を分離することが困難となることがある。一方、この割合が70質量%を超えると、粒子本体表面に露出する磁性体の量が多くなるため、当該磁性体の構成成分、例えば、鉄イオンの溶出などが生じ、使用時に他の材料に悪影響を及ぼすことがあり、また、粒子本体が脆くなって実用的な強度が得られないことがある。
本発明に係る抽出方法では、細胞等を含む試料液と磁性支持体(好ましくは磁性ビーズ)とを混合し、この混合により細胞等が磁性支持体に吸着(化学吸着及び物理吸着等を含む。)すると、細胞等を効率よくその表面上に集積することができる。細胞等が磁性支持体に吸着しない場合も磁力又は遠心分力で細胞を集積することが可能である。したがって、細胞等が磁性支持体に吸着することが望ましいが、吸着しなくてもよい。
細胞、特に細菌細胞の中には、磁性支持体に吸着しない場合もある。更に確実に細胞の吸着、付着を促進するため、磁性支持体の表面に細胞に対して親和性を有する基、アミノ基、オキシカルボニルイミダゾール基、N−ヒドロキシコハク酸イミド基といった反応性に富む官能基、或いは標的の細胞に特異的に親和性を示す糖、糖タンパク質、抗体、レクチン、細胞接着因子といった「機能性物質」などを結合させるか、その表面構造の改変、結合を促進する適当なコーティングなどを施してもよい。特異的な結合としては、抗原−抗体反応を利用した結合が代表的であり、磁性支持体の表面に細胞の抗原に対して特異的な抗体をコーティングする。
本発明において、好ましい常磁性表面結合担体としては、抗酸菌と結合しうる物質、例えば、レクチン類、抗酸菌結合抗体、糖類、炭水化物類などが固体支持体表面に固定された態様が挙げられる。
試料によっては、それに含まれる細胞、特に対象菌細胞の濃度が薄い場合、大量の試料液を処理し、分離、濃縮などの操作が必要となる。細胞を磁性支持体に結合若しくは付着させて、細胞中の核酸を簡便に抽出する本発明の方法によれば、簡便な操作で迅速にそうした試料の処理ができる。特に磁性ビーズと着脱可能なカバーを付けた磁石を利用する固液分離操作は、試料が少量しかない場合にも極めて便利である。かかる場合には、分離、抽出などの過程で、細胞又は核酸のロスが生じて、目的とする核酸の最終収量が分析に好適な量を下回るケースもあるが、本発明の方法では、そうした単離途中でのロスは殆ど生じない。後工程にある核酸増幅反応、ハイブリダイゼーション、制限酵素反応、検出反応、電気泳動分析などに影響を及ぼす、カオトロープ試薬、界面活性剤、又は溶剤菌などの薬剤を本発明の方法では使用しないため、分離(単離)された核酸はそのまま増幅反応に適用することができる。したがって、試料量が微量であっても、本発明の方法によれば、細胞から高収量でしかも純度が高い核酸を分離(単離)することができる。
試料によっては、それに含まれる細胞、特に対象菌細胞の濃度が薄い場合、大量の試料液を処理し、分離、濃縮などの操作が必要となる。細胞を磁性支持体に結合若しくは付着させて、細胞中の核酸を簡便に抽出する本発明の方法によれば、簡便な操作で迅速にそうした試料の処理ができる。特に磁性ビーズと着脱可能なカバーを付けた磁石を利用する本発明における固液分離操作は、試料が少量しかない場合にも極めて便利である。かかる場合には、分離、抽出などの過程で、細胞又は核酸のロスが生じて、目的とする核酸の最終収量が分析に好適な量を下回るケースもあるが、本発明の方法では、そうした単離途中でのロスは殆ど生じない。後工程にある核酸増幅反応、ハイブリダイゼーション、制限酵素反応、検出反応、電気泳動分析などに影響を及ぼす、カオトロープ試薬、界面活性剤、又は溶剤菌などの薬剤を本発明の方法では使用しないため、分離(単離)された核酸はそのまま増幅反応に適用することができる。したがって、試料量が微量であっても、本発明の方法によれば、細胞から高収量でしかも純度が高い核酸を分離(単離)することができる。
《膜状フィルターとして機能する固体支持体》
本発明に係る固体支持体は、孔径0.2〜5.0μmの微細孔を有する膜状フィルターとしてとして機能する態様にすることも好ましい。なお、当該孔径は、細胞、血球、ウィルス、細菌などのサイズなどを考慮したものである。すなわち、当該フィルターは、試料流体中の細胞やウィルスを捕捉することを目的とするものであることから、その平均的な0.2〜5.0μmは、目的の核酸を含有する細胞あるいはウィルスの平均的な大きさに応じて選択される。例えば、0.2〜5μm、好ましくは0.5〜2μmである。
当該フィルターの材料としては、例えばセルロースアセテート、硝酸セルロース混合エステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ナイロン、ポリビニリデンジフルオリド、グラスファイバーなどを用いることができる。
《非特異的リガンドが固定されている固体支持体》
本発明に係る固体支持体は、その表面に非特異的リガンドが固定されている態様であってもよい。なお、本願において、「非特異的」リガンドとは、1種類以上、好ましくは2〜3種類以上、より好ましくは、5〜7種類以上、例えば10〜14種類以上の微生物および/または細菌属と結合できるものである。例えば、Genpoint社は、非特異的リガンドにより検体中の菌を集めて遺伝子を抽出するキットBUGS’n BEADSを開発し、結核菌用としてversion TBなどのラインナップを販売している。
リガンドと、微生物の表面上にあって結合の原因であるその結合パートナーとの間に相互作用があるのであり、細胞が沈殿により固まる場合のように、細胞と固体支持体との間に一般的な引力または会合が単にあるのではない。リガンドの非特異的特徴は、リガンドが微生物表面の一部と無差別に結合または会合できるということではなく、リガンドの結合パートナーが微生物の特定のタイプまたは種に対して特異的ではないということを指す。したがって、リガンドは、汎用結合リガンドであると見なし得る。
適した結合パートナーは、種々の微生物中に、特に種々の細菌属中に比較的広く見出されるので、かなり一般的、したがって非特異的な単離方法がもたらされる。したがって、リガンドは1つ以上の特異的な結合パートナーを有する一方で、適した結合パートナーを有している多種多様な細菌すべてと結合できるという意味で「非特異的」である。理論により拘束されることを望むのではないが、それ自体が一般に種特異的である多種多様な結合パートナーは同じリガンドと結合することができる。
結合パートナーは一般に微生物表面のタンパク質であり、種ごとに変わり得る。リガンドは非タンパク質であり、したがって抗体および誘導体ならびにそれらのフラグメントは排除される。
好ましいリガンドは炭水化物であり、単糖類、オリゴ糖類(二糖類および三糖類を含む)および多糖類が含まれる。適切な単糖類としては、適宜ピラノースおよびフラノースの形のヘキソースおよびペントース、ならびにアルドン酸およびウラオン酸、デオキシ糖またはアミノ糖、硫酸化糖および糖アルコールのような誘導体が含まれる。適切な単糖類の例としては、マンノース(例えばD−マンノース)、ガラクトース(例えばD−ガラクトース)、グルコース(例えばD−グルコース)、フルクトース、フコース(例えばL−フコース)、N−アセチル−グルコサミン、N−アセチル−ガラクトサミン、ラムノース、ガラクトサミン、グルコサミン(例えばD−グルコサミン)、ガラクツロン酸、グルクロン酸、N−アセチルノイラミン酸、メチルD−マンノピラノシド(マンノシド)、α−メチル−グルコシド、ガラクトシド、リボース、キシロース、アラビノース、サッカラート、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グリセリンおよびこれらモノマーの誘導体が含まれる。これらの中で、マンノース、ガラクトースおよびフコースが好ましい。
特に好ましいのはオリゴ糖類および多糖類である。
オリゴ糖類は、2〜12個、好ましくは4〜8個の共有結合した単糖単位を含み、これらは同じでも異なってもよく、直鎖状でも分岐状でもよく、好ましくは分岐状であり、例えば、2〜6単位のマルトース、スクロース、トレハロース、セロビオースおよびサリシン、特にマルトースを有するオリゴマンノシルである。オリゴ糖類の製造方法は、Pan et al.Infection and Immunity (1997),4199−4206に記載されている。
多糖類は、13個以上の共有結合した単糖単位を含み、これらは同じでも異なってもよく、直鎖状でも分岐状でもよく、好ましくは分岐状である。適切な多糖類は、マンノース、ガラクトース、グルコース、フルクトースまたはウロン酸を多く含み、例えばマンノースの直鎖ポリマーであって4番目のマンノースごとに1つのガラクトース側鎖を有するものと考えられているガラクトマンナン多糖である。
マンノースとガラクトースサブユニットとから構成されている多糖類は、リガンドの好ましいタイプであり、さらなる例はグアーであり、これは1,6α結合のほぼ1つ置きの単位にガラクトース側鎖を有するβ1,4結合されたマンノース主鎖を有している。マンノースとガラクトースの比率は約1.8:1〜約2:1である。
さらなる多糖類には、ガラクトース、ラムノース、arabionseおよびグルクロン酸の側鎖ポリマーと考えられるアラビアゴム(シグマG9752)、およびガラクトース、ラムノースおよびグルクロン酸の部分アセチル化ポリマーと考えられるカラヤゴム(シグマG0503)、ならびにマンノース単位で構成されたホモ多糖マンナンが含まれる。
適切なリガンドである糖誘導体としては、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸およびカラギーナン(様々な形状)が含まれる。硫酸化糖は糖誘導体の好ましい種類である。
〈前処理装置〉
本発明の前処理方法の好ましい実施態様として、前記可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を、それぞれ同一又は別個の容器に予め入れておき、順次、前処理操作に供する態様が考えられる。すなわち、前処理装置としては、同一又は別個の容器に予め封入された可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を具備している前処理装置を用いることが好ましい。
以下において、本発明の前処理方法を実施するための装置の一例について説明するが、この例の態様に限定されるものではない。
図1に前処理装置の例として、回転式抽出器の概念図を示す。当該回転式抽出容器は、基本的には、図1に示されているように円柱型容器部A、回転部B、及び蓋部Cで構成される。
円柱型容器部Aは少なくとも二つの小室(例えば図1においては、小室A1〜小室A3の三つの小室)を有し、目的に応じて小室を増設してもよい。例えば、後述する実施の形態のように集菌用小室、洗浄用小室、再懸濁用小室等を設けることができる。なお、ここでいう「小室」は、上記の可溶化・雑菌除去処理剤等を入れる容器に該当する。
回転部Bは円柱型容器部に密着可能であり、小室を部分的に塞ぐ箇所と小室のいずれか一つと外部をつなぐ開口箇所D(小室の入り口と同じ開口面積)を有する。この開口箇所Dから円柱型容器部のいずれかの小室に、試料としての溶液、懸濁液、及び固体物質や固体支持体としての磁性粒子等を出し入れすることができる。
蓋部Cは回転部Bの開口箇所Dを密閉することにより、同時に円柱型容器部Aを密閉することができる。また、当該蓋部Cは、回転式抽出容器を逆さにしたときに開口箇所Dから出てくる物質の受器の役割も果たす。
なお、回転式抽出容器の回転部Bをその開口箇所Dが溶液又は固体が入っている小室の真上に来るまで回転させた後、回転式抽出容器を逆さにして当該小室から溶液又は固体を、開口箇所Dを経由して蓋部Cに移動させる。次に、回転部Bを回転して開口箇所Dが別の小室の真上更に来るように回転させた後に、溶液又は固体を蓋部Cから開口箇所Dを経由して当該別の小室へと移動させることができる。したがって、このような回転操作や移動操作を含む操作によって試料から目的物を抽出することができる。
すなわち、当該固体が、抽出の目的物を含有している試料としての固体物質、抽出の目的物質としての固体物質、及び抽出の目的物を吸着させた固体支持体である場合、上記のような移動を含む操作で、当該固体を集めること又は目的物を吸着させた固体を集めることができる。
なお、固体が目的物または目的物を含む物質を吸着させる固体支持体であり、かつ磁性を有する支持体(以下「磁性支持体」という。)である場合には、回転式抽出容器のいずれかの箇所に磁石を当てることで、当該磁性支持体又は前記目的物あるいは目的物を含む物質を吸着させた該磁性支持体を集めることができる。
円柱型容器A、回転部B、及び蓋部Cを形成する材料としては、試料内容に応じて、金属、プラスチック等種々の公知の材料を用いることができる。好ましい材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネイト等を挙げることができる。
また、円柱型容器部A、回転部B、及び蓋部Cのサイズも試料の内容、量や分析装置等に応じて適切なサイズにすることができる。
〈抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法〉
本発明の前処理方法の基本的手順は、下記の通りである。
(i)喀痰に可溶化・雑菌除去処理剤を添加し、可溶化ないし雑菌を除去する。
(ii)喀痰を可溶化・雑菌除去した後の液体をあらかじめ固体支持体(例えば磁気ビーズ)分散液が入っている容器に入れ、固体支持体に抗酸菌を結合・捕集させる。
(iii)磁石等を用いて、抗酸菌を結合・捕集されている固体支持体(例えば磁気ビーズ)を洗浄液、溶出液が入った各容器に順次移動させ、抗酸菌を洗浄し、溶出する。
以下において、喀痰を可溶化・雑菌除去した後の液体の取り扱い手順を実施形態の典型的な例によって詳しく説明する(図1〜図3参照)。
(1)予め、円柱型容器部Aの一つの小室(A1)には集菌溶液と、磁性支持体として磁性ビーズを、別の小室(A2)には洗浄溶液を、また小室(A3)には溶菌溶液を入れておく。
(2)回転部Bの開口箇所Dから上記小室(A1)に試料を入れ、蓋部Cをセットし、密閉する。
(3)試料、集菌溶液、磁性ビーズを撹拌し、混合した後1分放置し、磁性ビーズに菌を吸着させる。
(4)回転式抽出容器を逆さにし、蓋部に磁石を当て、磁性ビーズを集め回収(集菌)する。
(5)回転式抽出容器の上下を戻し、開口箇所Dが別の小室(A2)に来るように回転部2を回転させた後に、磁石をはずし、磁性ビーズを小室(A2)に移動させる。
(6)小室(A2)において洗浄溶液1mlと磁性ビーズを撹拌混合し、洗浄する。
(7)回転式抽出容器を逆さにし、蓋部Cに磁石を当て(30秒)、洗浄済みの磁性ビーズを回収する。
(8)回転式抽出容器の上下を戻し、開口箇所Dが別の小室(A3)に来るように回転部Bを回転させた後に、磁石をはずし、磁性ビーズを小室(A3)を移動させる。
(9)小室(A2)において溶菌溶液と磁性ビーズを撹拌混合する。
(10)回転式抽出容器を逆さにし、蓋部Cをヒーターへ入れて所定温度・時間加熱し、菌を溶解する(核酸を抽出する)。
(11)蓋部Cに磁石を当て磁性ビーズを保持したままで、回転式抽出容器の上下を戻し、溶液を(A3)に戻す。
(12)蓋部Cをはずし、小室(A3)からマイクロピペット又はスポイト等で核酸抽出液を回収する。または蓋部Cに滴下口を開け、滴下口から核酸抽出液を核酸増幅検出用マイクロチップ等に滴下する。滴下口は、小室(A3)など回転式抽出容器のいずれかの箇所に設けることができるが、蓋部Cに設けるのが好ましい。蓋部Cから滴下することによって、ピペット、スポイトなどの器具および器具操作の省略、操作ミスの軽減、操作の簡便化を図ることができる。例えば溶菌溶液(100μl)のうち一定量(例えば25μl)を滴下すれば、複数回または複数項目の検査を行うことができる。滴下部分は、目薬のような形状が好ましい。目薬のように液滴として溶液を押し出すことができれば、簡便な動作で安定かつ正確に一定量の液を容器から取り出すことが可能である。
なお、上記の小室(A1)、(A2)及び(A3)は、それぞれ前述の集菌用小室、洗浄用小室、及び再懸濁用小室に相当する。上記実施例のように試料から前記目的物を分離するために、磁性ビーズ、洗浄液、再懸濁液のうち少なくとも一つがいずれかの小室に予め封入されていることが、安全、簡便であることから好ましい。
また、回転部Bは、(A1)→(A2)→(A3)の順に回るようになっており、逆回転しない、かつ回転部Bが外れないようにストッパーが付けてあり、蓋部Cも一度はめると外れないようにストッパーを付けておくことが好ましい。
上記の実施形態例から分かるように、一つの回転式抽出容器を密封した状態で、円柱型容器部Aの各小室((A1)〜(A3))及び蓋部Cのそれぞれにおいて、集菌工程、洗浄工程及び溶菌工程の処理・操作を順々に実施できる。
なお、本願において、「集菌工程」とは、目的物である菌を集菌溶液から固体支持体に吸着等させることをいう。「集菌溶液」とは、菌を固体支持体に吸着等させるために菌を溶媒に予め溶解して調製した溶液をいう。なお、菌の懸濁液もこれに含めることにする。「洗浄工程」とは、菌を吸着させた固体支持体から、余分な溶媒や試薬等を除去するために洗浄する工程をいう。また、「溶菌工程」とは、固体支持体に吸着等している菌を加熱等により、菌の細胞壁や細胞膜を破壊して核酸を溶媒中に溶出する工程をいう。「溶菌溶液」とは、菌の細胞壁や細胞膜を破壊して核酸を溶出させるための溶液をいう。
上記回転式抽出容器を使用して核酸等を抽出する際には、上記のように、各種試薬、磁性支持体(磁性ビーズ)等が必要となる。これらの試薬の中には、試料を溶解又は希釈するための溶解液又は希釈液、洗浄液、各種緩衝液なども含まれる。
なお、核酸を抽出・単離する場合には、各種緩衝液等を必要とするが、例えば、結合緩衝液(集菌溶液等)としては、例えば、酢酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の塩と、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコールとからなる緩衝液が例として挙げられる。また、洗浄緩衝液(洗浄液)としては、上記結合緩衝液を4〜5倍に希釈したものを用いてもよいが、異なる種類の緩衝液を別途用意してもよい。再懸濁液としては、水が好適である。
好ましい態様の一つとして、上記の、磁性支持体や各種試薬等必要な器材一式を予め回転式抽出容器に封入した態様のキットとしておくことが望ましい。
以上の実施形態例から分かるように、上記のような回転式抽出容器を使用することにより、従来煩雑な操作や大型で高価な装置等を必要としている生物試料又は生体由来試料からの核酸等の抽出・分離を汚染・バイオハザード等の恐れなく簡易に実施することができる。
なお、本発明において抽出の対象とすることができる核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、及びリボ核酸(RNA)の形態で存在するが、DNAとしては、プラスミドDNA、相補DNA(cDNA)、及びゲノムDNAなど、RNAとしては、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)及びリボソームRNA(rRNA)などが含まれる。なお、一本鎖又は二本鎖を問わない。単離されるDNA量の好適な範囲として0.001〜1mgである。
本願において、「遺伝子」とは、何らかの機能を発現する遺伝情報を担う核酸、すなわちDNA又はRNAをいうが、単に化学的実体であるDNA、RNAの形でいうこともある。また「塩基」とは、ヌクレオチドの核酸塩基のことをいう。
細胞膜の破壊は、公知の種々の物理的方法を用いることができる。好ましくは熱により細胞破壊が行われる。これは加熱が簡便であり、上記のように細胞膜破壊に使用した薬剤を後で除く必要がないからである。具体的には、前記の加熱は、核酸が熱により変性しない温度範囲、すなわち、70〜120℃、好ましくは80〜120℃、更に好ましくは80〜100℃で、20秒〜10分間、好ましくは20〜300秒間の加熱による。加熱条件(温度、時間)は細胞又は菌の種類(大きさ、細胞膜の組成と厚さ等)によって異なるため、上記の範囲で適宜選択する。加熱は、あらゆる適切な加熱手段により行われるが、ドライ・ヒートブロック、湯浴、マイクロウェーブ・オーブン、各種ヒーターなどが例示される。しかし、これらに限定されるものではない。
なお上記行程に加えて、熱によって水分を蒸発させることにより遊離した核酸を濃縮する工程を更に含めてもよい。加える熱は、核酸が熱により変性しない温度範囲内である。上記の細胞膜破壊が加熱により行われるために、熱による細胞膜破壊工程はこの濃縮工程を兼ねることができる。
(核酸の増幅)
上記回転式抽出容器は、抽出し、単離された核酸を核酸増幅法により増幅し、核酸の同定をすることにより細胞種を同定する方法に好適に使用することができる。すなわち、当該同定方法に上記回転式抽出容器を用いることによって、当該方法に必須の抽出・分離(単離)操作を、簡易、迅速、かつ安全に実施することができる。
具体的には、試料に含まれる細菌細胞等から抽出され、単離された核酸を、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)、SDA(Strand Displacement Amplification:鎖置換増幅法)、LCR(Ligase Chain Reaction:リガーゼ連鎖反応)、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)、TMA(Transcription−Mediared Amplification:転写増幅法)、TAS(Transcription Amplification System)、3SR(Self−Sustained Sequence Replication System:自己複製)、NASBA(Nucleic Acid Sequence−Based Amplification:核酸配列に基づく増幅法)などのDNA増幅法により増幅し、増幅された核酸の分析、例えば、塩基配列決定、ハイブリダイゼーション法、サザンプロット分析など行って、標準又は対象の塩基配列とを比較することにより細菌細胞等の種類を同定することができる。
(遺伝子検査方法)
前記回転式抽出容器は、マイクロチップを有する装置で核酸(遺伝子)を増幅し、検出する段階を含む遺伝子検査方法にも好適に使用することができる。すなわち、当該遺伝子検査方法に前記回転式抽出容器を用いることによって、当該方法に必須の抽出・分離(単離)操作を、簡易、迅速、かつ安全に実施することができる。
本発明に係る遺伝子検査方法を実施するための核酸分析装置として、マイクロチップ形態のものを含んでもよく、これによりハイスループットな分析が可能となる。
〈核酸分析装置〉
遺伝子検査方法を実施するための核酸分析装置は、マイクロポンプ、マイクロポンプを制御する制御装置、温度を制御する温度制御装置などが一体化された装置本体と、この装置本体に装着可能な核酸増幅検出用マイクロチップとからなる。予め試薬が封入されたマイクロチップの検体受容部に検体液を注入して、そのマイクロチップを核酸分析装置の本体に装着すると、送液ポンプを作動させるための機構的連結、必要であれば制御用の電気的接続もなされる。本体とこのマイクロチップとを接合させると、マイクロチップの流路も作動状態となる。したがって、好ましい態様の一例では、操作が開始されると検体及び試薬類の送液、混合、核酸の増幅、検出などが、一連の連続的工程として自動的に実施される。
送液、混合、温度の各制御に関わる制御系を受け持つユニットは、マイクロポンプとともに本発明に係る核酸分析装置の本体を構成する。この装置本体は、これに上記マイクロチップを装着することにより検体に対して共通で使用される。上記の液体の混合、送液、核酸の増幅、検出などの工程は、送液順序、容量、タイミングなどについて予め設定された条件として、マイクロポンプ及び温度の制御とともにプログラムとして核酸分析装置に搭載されたソフトウェアに組み込まれている。本発明では脱着可能な上記マイクロチップのみ交換すればよい。本発明に係る核酸分析装置は、いずれのコンポーネントも小型化され、持ち運びに便利な形態としているために、使用する場所及び時間に制約されず、作業性、操作性が良好である。送液に使用する多数のマイクロポンプユニットが装置本体側に組み込まれているので、マイクロチップはディスポーザブルタイプとして使用できる。
〈核酸増幅検出用のマイクロチップ、マイクロポンプ及びポンプの接続部〉
核酸増幅検出用マイクロチップの好ましい態様の一例として、図4に掲げる実施形態を説明する。検体受容部6、試薬収容部4について、これらの収容部の内容液を送液するマイクロポンプが設けられている。マイクロポンプは、ポンプ接続部1を介して試薬収容部4の上流側に接続され、マイクロポンプにより駆動液を試薬収容部側へ供給することによって、試薬を流路へ押し出して送液している。マイクロポンプユニットは、核酸増幅検出用マイクロチップとは別途の核酸分析装置本体に組み込まれており、マイクロチップを核酸分析装置本体に装着することによって、ポンプ接続部1からマイクロチップに接続されるようになっている。
本実施形態では、マイクロポンプとしてピエゾポンプを用いる。すなわち、流路抵抗が差圧に応じて変化する第一流路と、差圧の変化に対する流路抵抗の変化の割合が該第一流路よりも小さい第二流路と、該第一流路及び該第二流路に接続された加圧室と、該加圧室の内部の圧力を変化させるためのアクチュエータとを備えたピエゾポンプである。その詳細は、特開2001−322099号公報、特開2004−108285号公報に記載されている。
上記核酸分析装置用として用いられる核酸増幅検出用チップについては、好ましい態様の一例について、以下に記載する。その態様のマイクロチップは、少なくとも検体液受容部6、試薬収容部4、廃液貯留部、マイクロポンプ接続部1及び微細流路3を有し、各部を微細流路で連通させている。検体液(単離された核酸を含有する液)5を、検体受容部下流に設けられた核酸増幅部位を構成する流路、次いで増幅された核酸を検出する部位を構成する流路へ流して、試薬収容部4の試薬7と混合することによって核酸を分析するとともに、その結果、生じる廃液を該廃液貯留部へ移して閉じ込めることを特徴とするマイクロチップである。更に各収容部、流路、ポンプ接続部に加えて、送液制御部、逆流防止部、試薬定量部、混合部などの各エレメントが、機能的に適当な位置に微細加工技術により設置されている。
次に、マイクロチップの好ましい態様の例を示す。核酸増幅検出用のマイクロチップは、プラスチック樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどの1以上の部材を適宜組み合わせて作製される一枚のマイクロチップである。その縦横のサイズは、通常、数10mmぐらい、高さが数mm程度である。好ましくは、マイクロチップの微細流路及び躯体は、加工成形が容易で安価であり、焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂で形成される。なかでもポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリスチレンの樹脂は成型性に優れるために望ましい。微細流路は、微細加工技術によりその幅及び高さが、約10〜数100μmのサイズ、例えば幅100μm、深さ100μm程度に形成される。
〈核酸の増幅及び検出〉
本発明の前処理方法を用いて単離された核酸は、核酸増幅検出用マイクロチップの核酸増幅部位で増幅され、次いで増幅された核酸が該マイクロチップの検出部位に送られて核酸(遺伝子)の検出が行われる。核酸の増幅は、上記のようにPCR、SDA、LCR、ICAN、LAMP、TMA、TAS、3SR、NASBAなどのDNA増幅法により増幅する。増幅された核酸の分析を常法、例えばハイブリダイゼーション法、金コロイド吸着法などにより行う。
上記マイクロチップ及び核酸分析装置の全体又は一部についても、構造、構成、配置、形状形態、寸法、材質、方式、方法などを本発明の趣旨に合致する限り、種々のものにすることができる。
なお、上記回転式抽出容器は、前述の自動核酸抽出装置として上記核酸分析装置に組み込み、核酸の分析に必要な一連の操作を最初から最後まで自動的に行うことができる。これにより汚染・バイオハザード等の恐れなく一層簡易に実施することができる。
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
結核菌陰性の健常者由来の喀痰をサンプルとして、市販の喀痰溶解剤(商品名:スプタザイム(極東製薬工業(株)製))の取扱説明書に記載されている使用方法に従い、喀痰の3倍量のスプタザイム酵素液を加え、撹拌後、15分間放置した。
次に、スプタザイム処理後の溶液を4℃、3000Gで20分間、遠心分離し、上澄み液を除去した。残滓サンプルにNALC−NaOH(商品名:NALC−NaOH試薬(日水製薬(株)製))の取扱説明書に記載されている使用方法を参照し、2倍量のNALC−NaOHを加え、15分間、放置した。
さらにBCG(Bacille de Calmette et Guerin弱毒性結核菌)溶液(5×106 cfu/ml) 100μlを添加、Genpoint社BUGS’n BEADS version TBの磁気ビーズ液Capture buffer(10mg/ml) 30μl、結合バッファーBacteria binding beads 70μlを加え、撹拌混合し、静置(15分間、25℃で放置)して、磁気ビーズに菌を付着させた。
集積した磁気ビーズに5倍量のPBS(phosphate buffered saline:リン酸緩衝生理食塩水)を添加し、転倒混和を行い、磁石を容器の外側に当てて磁気ビーズを集積した状態でマイクロピペットを用いて上澄み液を吸い上げて除去した。
さらにPBS 1mlを添加し、軽く容器を振って混和して得た溶液のうち500μlをDNA抽出に供した。
以降のDNA抽出工程は、BUGS’n BEADS version TBの取扱説明書の使用方法(Preparation of bacterial DNA from samples)を参照し、溶菌試薬POWERlyse 50μlを添加し、短時間、振って混ぜた。すぐに96%エタノール 150μlを添加し、撹拌し、5分間、放置した。磁石を容器の外側に当てて磁気ビーズを集積した状態でマイクロピペットを用いて上澄み液を吸い上げて除去した。
残滓に70%エタノール 1mlを添加し、撹拌した後、磁石を容器の外側に当てて磁気ビーズを集積した状態でマイクロピペットを用いて上澄み液を吸い上げて除去した。蒸留水50μlを添加し、磁気ビーズを浮遊させる。ヒートブロック上で蓋を開けて、85℃10分間放置し、エタノールを除去した。マグネットとチューブを約2分間接触させる。磁石を容器の外側に当てて磁気ビーズを集積した状態でマイクロピペットを用いて上澄みのDNA溶液を核酸増幅に供した。
Roche社のマイコバクテリウム核酸キット(コバスTaqMan MTB)を用いて取り扱い説明書の操作方法に従い、増幅検出試薬アンプリミックス 50μlをDNA溶液 50μlに添加し、リアルタイムPCRで増幅、検出し、結核菌の核酸抽出を確認した。
なお、固体支持体としてFTAカード(商品名:FTAクラッシックカード(ワットマンジャパン(株)製))を用いたときも同様の結果が得られることを確認した。
上記実施例及び前記の詳細な説明から分かるように、本発明の手段により、迅速、正確で高収率、かつ密閉系で液滴の飛散、コンタミネーションなどを起こすことなく、簡便・安全に、抗酸菌を喀痰から単離することが可能な前処理方法を提供することができる。また、本発明の前処理方法により抗酸菌を処理して遺伝子を抽出し、当該遺伝子を特異的に増幅し検出する抗酸菌の遺伝子検出方法を提供することができる。
回転式抽出容器の構成を示す概念図 前処理方法の一例を示す概念図 抽出液等の滴下方法の一例を示す概念図 核酸増幅検出用マイクロチップの一例を示す概念図
符号の説明
A 円柱型容器部
A1、A2、A3 小室
B 回転部
C 蓋部C
D 開口箇所
1 マイクロポンプ接続部
2 送液制御部
3 微細流路
4 試薬収容部
5 検体液(単離された核酸を含有する液)
6 検体液受容部
7 試薬

Claims (9)

  1. 喀痰に含まれる抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、喀痰に可溶化・雑菌除去処理剤を添加後、当該処理剤を除去することなく直接的に抗酸菌を、固体支持体もしくは当該固体支持体上に固定された非特異的リガンド、により結合・捕集することを特徴とする抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
  2. 前記可溶化・雑菌除去処理剤が、その成分として、セミアルカリプロテアーゼ、N−アセチル−L−システイン(NALC)、水酸化ナトリウム(NaOH)から選ばれる物質を含有することを特徴とする請求項1に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
  3. 前記可溶化・雑菌除去処理剤を除去した後に、抗酸菌の精製をすることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
  4. 前記抗酸菌が、結核菌群に属することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
  5. 前記固体支持体が、常磁性表面結合担体として機能することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
  6. 前記固体支持体が、平均孔径0.2〜5.0μmの微細孔を有する膜状フィルターとして機能することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法であって、
    前記可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を、それぞれ同一又は別個の容器に予め入れておき、順次、前処理操作に供することを特徴とする抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法。
  8. 抗酸菌の遺伝子検出方法であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法により抗酸菌を処理して遺伝子を抽出し、当該遺伝子を特異的に増幅し検出することを特徴とする抗酸菌の遺伝子検出方法。
  9. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の抗酸菌の遺伝子検出のための前処理方法を実施するための前処理装置であって、同一又は別個の容器に予め封入された可溶化・雑菌除去処理剤及び固体支持体を具備していることを特徴とする前処理装置。
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