JP2009051786A - 臓器の保存方法および細胞の分離方法 - Google Patents

臓器の保存方法および細胞の分離方法 Download PDF

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Abstract

【課題】膵臓等の所定の臓器から生きた状態の膵島等の細胞をより高い確率で分離して取り出すことが可能となる臓器の保存方法を提供すること。
【解決手段】膵臓1内の細胞を酸素化するための保存液を膵臓1の膵管1aに注入する工程を備える臓器の保存方法によって膵臓1を保存する。この保存方法では、摘出してから所定時間経過した後であっても、膵臓1内の細胞の酸素分圧の低下を抑制することが可能になり、膵臓1から生きた状態の膵島をより高い確率で分離して取り出すことが可能になる。
【選択図】図2

Description

本発明は、人体内から取り出された所定の臓器を保存するための臓器の保存方法およびこの臓器の保存方法で保存された臓器から所定の細胞を分離して取り出すための細胞の分離方法に関する。
膵臓からのインシュリン分泌がなくなってしまうインシュリン依存糖尿病(1型糖尿病)に対する治療法として、糖尿病患者に対して膵臓を移植する膵臓移植が行われている。この膵臓移植は大規模な手術であり、患者の体の負担が大きい。そこで、患者の体の負担を軽減するための治療法として、膵臓に含まれる膵島を取り出してこの膵島を糖尿病患者に移植する膵島移植が行われている(たとえば、非特許文献1参照)。
膵臓から膵島を分離して取り出すためには、まず、心臓死あるいは脳死の患者から膵臓を摘出し、膵島の分離が行われる所定の場所まで摘出された膵臓を運搬する必要がある。摘出後、運搬等の際に膵臓を保存するための方法として、従来から、フッ素系樹脂であるパーフロロカーボン(PFC)を分散させたフッ素樹脂分散液であるPFC溶液と、UW液(University of Wisconsin solution)との2層の液体からなる保存液に膵臓を浸す方法が提案されている。
後藤昌史、外4名、「ヨーロッパにおける膵島移植」、今日の移植、株式会社日本医学館、2005年6月、Vol.18、No.4、P401−408
しかしながら、PFC溶液とUW液とからなる保存液に浸した状態で膵臓を保存した後に、膵臓から膵島を分離した場合、多くの膵島細胞が死んでしまい、膵島移植を行っても、移植の効果が少ないことが本願発明者あるいは他の研究者の研究により明らかになってきている。
そこで、本発明の課題は、膵臓等の所定の臓器から生きた状態の膵島等の細胞をより高い確率で分離して取り出すことが可能となる臓器の保存方法およびこの臓器の保存方法で保存された臓器から所定の細胞を分離して取り出すための細胞の分離方法を提供することにある。
上記の課題を解決するため、本願発明者は種々の検討を行った。その結果、所定の臓器内の細胞を酸素化するための保存液を所定の管内に注入して臓器を保存することで、臓器から細胞を分離する際に、生きた状態の細胞をより高い確率で分離して取り出すことが可能であることを知見するに至った。
本発明はかかる新たな知見に基づくものであり、本発明は、体内から取り出された臓器を保存する臓器の保存方法において、臓器は膵臓であり、膵臓内の細胞を酸素化するための保存液を膵臓の膵管に注入する工程を備えることを特徴とする。
また、上述の新たな知見に基づいて、本発明は、体内から取り出された臓器を保存する臓器の保存方法において、臓器は肝臓であり、肝臓内の細胞を酸素化するための保存液を肝臓の肝管に注入する工程を備えることを特徴とする。
本発明の臓器の保存方法では、膵臓の膵管あるいは肝臓の肝管に、内部の細胞を酸素化するための保存液を注入している。そのため、摘出してから所定時間経過した後であっても、膵臓あるいは肝臓内の表面細胞だけでなく全細胞の酸素分圧の低下を抑制することが可能になる。その結果、膵臓等の所定の臓器から細胞を分離する際に、生きた状態の細胞をより高い確率で分離して取り出すことが可能となる。
本発明において、保存液には、人工酸素運搬体が含まれていることが好ましい。このように構成すると、保存液内の酸素濃度を比較的短時間でかつ容易に上げることが可能になる。
本発明の臓器の保存方法は、この臓器の保存方法で臓器を保存する臓器保存工程と、臓器保存工程後に、臓器内の所定の細胞を臓器から分離して取り出す細胞分離工程とを備える細胞の分離方法に用いることができる。この細胞の分離方法では、細胞分離工程において、臓器を収納する臓器収納容器が配置される循環路内で、臓器を分解するための消化酵素入りの輸液を循環させるとともに、臓器収納容器を通過した輸液の溶存酸素量を増加させながら臓器を分解することが好ましい。このように構成すると、所定の臓器から細胞を分離する際に、生きた状態の細胞をさらに高い確率で分離して取り出すことが可能となる。また、保存液に人工酸素運搬体が含まれている場合には、消化酵素入りの輸液を循環させて臓器を分解する際に、人工酸素運搬体が輸液の中に混ざる。そのため、分離される細胞に対してより効果的に酸素を提供することが可能になる。
以上のように、本発明にかかる臓器の保存方法および細胞の分離方法では、所定の臓器から生きた状態の細胞をより高い確率で分離して取り出すことが可能となる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(膵島の分離方法)
図1は、本発明の実施の形態にかかる膵島の分離方法を説明するための図である。
本形態では、臓器としての膵臓1(図2参照)から所定の細胞としての膵島が分離されて取り出される。すなわち、本形態の細胞の分離方法は、膵島の分離方法である。
膵臓1からの膵島の分離は、図1に示す手順で行われる。すなわち、まず、心臓死または脳死の患者の体内から膵臓1を摘出し、膵島の分離が行われる所定の場所まで摘出された膵臓1を運搬する。その後、膵管に逆行性に、たとえばコラゲナーゼ等の消化酵素(具体的には、消化酵素入りの消化溶液)を注入する。膵管に消化酵素を注入することで、膵臓1全体に消化酵素を行き渡らせることができる。
その後、輸液を用いて膵臓1の分解(消化)を行う。また、膵臓1を分解した後の輸液に対して、遠心分離処理等の処理を行うことで、膵島と他の細胞とを分離する(すなわち、膵島を純化する。)。
以下、患者の体内から摘出された分解前の膵臓1を保存する臓器保存工程としての膵臓の保存工程と、この膵臓の保存工程で保存された膵臓1から膵島を分離して取り出す細胞分離工程としての膵島の分離工程を順次、説明する。
(膵臓の保存工程)
図2は、本発明の実施の形態にかかる膵臓1の保存状態を説明するための図である。
本形態の膵臓の保存工程は、心臓死または脳死の患者から摘出された膵臓1を膵島の分離が行われる所定の場所まで運搬等する際の膵臓の保存工程であり、この工程では、以下の保存方法で膵臓1が保存されている。すなわち、本形態の膵臓1の保存方法では、図2に示すように、断熱材付の保存容器2の中に収納された状態で、冷蔵されて膵臓1が保存されている。また、保存容器2の上端側は、上蓋3で覆われている。
膵臓1の膵管1aには、膵臓1内の細胞を酸素化するための保存液としての第1の保存液(以下、「第1保存液」とする。)が注入されている。具体的には、シリンジ(注射器)を用いて、膵管1aの端部から第1保存液が膵管1aに注入されている。
第1保存液は、酸素濃度が比較的高い液体である。たとえば、第1保存液は、酸素の運搬機能を有する人工酸素運搬体を含む(すなわち、人工酸素運搬体入りの)UW液あるいは人工酸素運搬体入りのハンクス平衡塩溶液(Hank´s溶液)である。または、第1保存液は、溶存酸素量を増加させた状態のUW液あるいはHank´s溶液である。なお、もともと溶存酸素量の多いPFC溶液を第1保存液とすることも可能である。
ここで、UW液等に含まれる人工酸素運搬体は、たとえば、人間の赤血球から得られるヘモグロビンを所定の膜等の内部に封入した人工赤血球である。また、人工酸素運搬体は、活性炭、ゼオライト等の多孔性物質であっても良い。
保存容器2には、膵臓1内の細胞を構成する細胞膜のナトリウムポンプ機能の低下を抑制するための第2の保存液4(以下、「第2保存液4」とする)が注入されている。本形態の第2保存液4は、UW液5とPFC溶液6とからなる2層の液体である。なお、PFC溶液6の比重はUW液5の比重よりも大きいため、図2に示すように、PFC溶液6は、保存容器2の下側に溜っている。また、第2保存液4は、必ずしも膵臓1内の細胞膜のナトリウムポンプ機能の低下を抑制する機能を備えていなくて良く、たとえば、生理食塩水であっても良い。
本形態では、保存容器2内の膵臓1が第2保存液4に完全に浸るように、保存容器2に第2保存液4が注入されている。具体的には、膵管1aの端部がUW液5の中に配置されるように、保存容器2に第2保存液4が注入されている。
膵臓1を保存容器2内に保存する際には、まず、膵管1aに第1保存液を注入し、第1保存液を注入した後の膵臓1を第2保存液4に浸す。なお、第2保存液4に膵臓1を浸した後に、膵管1aに第1保存液を注入しても良い。
(膵島の分離工程)
図3は、本発明の実施の形態にかかる膵島の分離工程で使用される膵島分離装置10の概略構成を示す概念図である。
本形態の膵島の分離工程では、図3に示す膵島分離装置10が使用される。この膵島分離装置10は、膵臓1を分解するための消化酵素入りの輸液が循環する循環路12と、消化酵素が注入された後の膵臓1を収納する臓器収納容器としてのチャンバー13と、循環路12に輸液を注入し、また、循環路12から輸液を取り出すための輸液交換用口14と、輸液交換用口14から注入された輸液がたまる輸液バッグ15と、循環路12で輸液を循環させるために輸液を吐出するポンプ16と、輸液に酸素を溶解させて輸液の溶存酸素量を増加させる中空糸膜モジュール17と、チャンバー13内の温度を検出する温度センサ18と、温度センサ18での検出結果に基づいてチャンバー13内の輸液の温度を所定の温度に維持するための熱交換器19とを備えている。
なお、本形態の膵島分離装置10で使用される輸液はたとえば、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよび塩素等を含有するアセテートリンゲル液である。
循環路12は、複数の可撓性の管状部材(たとえば、シリコンゴム製のチューブ)によって構成されている。また、チャンバー13を基準とすると、循環路12内には、チャンバー13、輸液交換用口14、輸液バッグ15、ポンプ16、中空糸膜モジュール17および熱交換器19がこの順番で配置されており、これらの各構成間には、循環路12を構成する管状部材が配置されている。
チャンバー13には消化酵素が注入された後の膵臓が収納され、また、輸液交換用口14から循環路12に輸液が注入される。そのため、消化酵素入りの輸液が循環路12を循環する。
チャンバー13は、たとえば、容器本体と蓋とからなる金属製の密閉容器である。輸液交換用口14は、T型の継手である。この輸液交換用口14には、循環路12に輸液を注入する際、輸液が収納された輸液容器(図示省略)が接続され、循環路12から輸液を取り出す際、輸液を回収するための回収容器が接続される。
輸液バッグ15は、たとえば、プラスチック製の容器である。輸液交換用口14と輸液バッグ15とを接続する管状部材の端部、および、輸液バッグ15とポンプ16とを接続する管状部材の端部は、輸液バッグ15内にたまった輸液の中に配置されている。ポンプ16は、たとえば、ローラーポンプである。本形態では、輸液バッグ15からポンプ16に向かって輸液が流入し、ポンプ16は、中空糸膜モジュール17に向かって輸液を吐出する。
中空糸膜モジュール17には、ポンプ16からの輸液が流入し、また、中空糸膜モジュール17から熱交換器19に向かって輸液が流出する。また、中空糸膜モジュール17には、酸素ボンベ等からなる酸素供給源21が接続されており、酸素供給源21から中空糸膜モジュール17に気体状の酸素が供給される。この中空糸膜モジュール17は、略円筒状に形成されたハウジング(図示省略)と、このハウジングの内部に配置された複数の中空糸膜(図示省略)とを備えている。本形態では、中空糸膜の内部を輸液が通過し、ハウジングの内部かつ中空糸膜の外部に酸素供給源21から気体状の酸素が供給される。
なお、中空糸膜モジュール17に代えて、平膜モジュールが配置されても良いし、中空糸膜や平膜以外の精密ろ過膜を酸素透過膜として有する膜モジュール、あるいは、シリコンゴム等で形成された酸素透過膜を有する膜モジュールが配置されても良い。
熱交換器19は、所定の液体で満たされた容器22と、容器22に入っている液体内に配置される管部23と、容器22内の液体を加熱するためのヒータ(図示省略)とを備えている。この熱交換器19では、温度センサ18での検出結果に基づいて、ヒータがオンまたはオフし、容器22内の液体の温度を制御することで、管部23を通過する輸液の温度を調整する。また、管部13を通過する輸液の温度を調整することで、チャンバー3内の輸液の温度を所定の温度に維持する。
以上の膵島分離装置10を用いて、本形態の膵島の分離工程では、膵臓1を収納するチャンバー13が配置される循環路12内で、膵臓1を分解するための消化酵素入りの輸液を循環させる。また、中空糸膜モジュール17によって、チャンバー13を通過した輸液の溶存酸素量を増加させながら膵臓1を分解する。
(本形態の主な効果)
以上のように、本形態では、膵臓1内の細胞を酸素化するための第1保存液を膵管1aに注入している。そのため、摘出してから所定時間経過した後であっても、膵臓1内の表面細胞だけでなく全細胞の酸素分圧の低下を抑制することが可能になる。その結果、膵臓1から膵島を分離する際に、生きた状態の膵島をより高い確率で分離して取り出すことが可能となる。
この効果を豚の膵臓を用いて測定した酸素分圧の実験データに基づいて詳細に説明する。図4は、豚の膵臓を用いて測定した酸素分圧の実験データを説明するための図であり、(A)は実験データを示すグラフであり、(B)は実験条件を示す表である。
なお、以下の各条件A1〜D1における膵管への第1保存液等の注入および膵臓の保存は4℃の条件下で行った。また、以下の各条件A1〜D1で5個の膵臓を用いて酸素分圧を測定した。また、膵臓の酸素分圧を測定する際には、膵臓の長手方向の中心位置において、膵臓の長手方向に直交する厚さ方向(横断面方向)の最表層の小葉、中心部および中心部と最表層との中間位置の3箇所で酸素分圧を測定した。
図4(B)に示すように、酸素で飽和したPFC溶液を膵重量に対して等量、膵管に注入し、UW液とPFC溶液とからなる保存液に膵臓を浸して保存した場合(条件A1)、酸素で飽和したPFC溶液を膵重量に対して半量、膵管に注入し、UW液とPFC溶液とからなる保存液に膵臓を浸して保存した場合(条件B1)、溶液内の酸素濃度を上げていない通常のHank´s溶液を膵重量に対して半量、膵管に注入し、UW液とPFC溶液とからなる保存液に膵臓を浸して保存した場合(条件C1)、溶液内の酸素濃度を上げていない通常のHank´s溶液を膵重量に対して半量、膵管に注入し、UW液からなる保存液に膵臓を浸して保存した場合(条件D1)のそれぞれの7時間経過後の膵臓の酸素分圧を測定した。
その結果、図4(A)に示すように、酸素で飽和して、膵臓内の細胞を酸素化する機能を有するPFC溶液を膵管に注入した条件A1、B1では、酸素分圧の平均値および標準偏差はそれぞれ、10.9±4.3kPa、7.8±2.2kPaであった。一方、膵臓内の細胞を酸素化する機能を有しないHank´s溶液を膵管に注入した条件C1、D1では、酸素分圧の平均値および標準偏差はそれぞれ、3.2±0.3kPa、2.7±0.9kPaであった。
すなわち、膵臓内の細胞を酸素化する機能を有するPFC溶液を膵管に注入した条件A1、B1での酸素分圧は、膵臓内の細胞を酸素化する機能を有しないHank´s溶液を膵管に注入した条件C1、D1での酸素分圧よりも高い値を示した。また、条件A1での酸素分圧は、条件B1での酸素分圧よりも高い値を示した。この結果から、膵臓内の細胞を酸素化する機能を有する第1保存液をより多く膵管に注入した方が所定時間経過後の酸素分圧が高くなることがわかる。
このように、膵臓1内の細胞を酸素化する機能を有する第1保存液を膵管に注入することで、摘出してから所定時間経過した後であっても、膵臓内の細胞の酸素分圧の低下を抑制することが可能となる。その結果、膵臓から膵島を分離する際に、生きた状態の膵島をより高い確率で分離して取り出すことが可能となる。
また、第1保存液に、人工酸素運搬体が含まれている場合には、第1保存液内の酸素濃度を比較的短時間でかつ容易に上げることが可能になる。
本形態では、膵島の分離工程において、膵臓1を収納するチャンバー13が配置される循環路12内で、膵臓1を分解するための消化酵素入りの輸液を循環させ、中空糸膜モジュール17によって、チャンバー13を通過した輸液の溶存酸素量を増加させながら膵臓を分解している。そのため、膵臓1から膵島を分離する際に、生きた状態の膵島をさらに高い確率で分離して取り出すことが可能となる。
この効果を、豚の膵臓から膵島を分離する膵島の分離実験の結果に基づいて詳細に説明する。この分離実験では、まず、消化酵素が注入、充填された後の豚の膵臓をチャンバー13内に収納した。その後、輸液交換用口14から1000mlの輸液を注入し、ポンプ16を起動して、循環路12で輸液を循環させた。膵島分離装置10から所定の間隔で輸液のサンプリングを行い、チャンバー13内の膵臓の消化状態が十分だと思われた時点で、輸液交換用口14から膵臓消化液(輸液)を回収した。より多くの膵島細胞を回収するために、輸液交換用口14から1000mlの新たな輸液を注入しながら引き続き回収を継続した。1000mlの新たな輸液が循環路12を循環するのに要する時間は5分である。チャンバー13内が十分に希釈され、膵臓消化産物が回収できなくなるまでこの作業を継続した。通常、この作業に要する時間は、40〜70分位である。このように輸液を交換しながら、膵臓を分解し、回収された膵臓消化液に対して、遠心分離処理を行って、膵島と他の細胞とを分離する。
なお、この実験で、豚の膵臓に注入された消化酵素は、リベラーゼ(具体的には、Liberase Hi(ロシュ・ダイアグノスティックス社製))であり、循環路12で循環する輸液は、アセテートリンゲル液である。また、この実験では、温度センサ18と熱交換器19とによって、チャンバー13内の輸液の温度を37℃に保っている。
この分離実験では、ポンプ16を起動して、循環路12で輸液を循環させる際に、酸素供給源21から気体状の酸素を中空糸膜モジュール17に供給した。具体的には、酸素供給源21から濃度99.5%の酸素を供給した。酸素が供給されると、循環路12内の輸液の溶存酸素量が増加した。具体的には、循環路12に注入された直後は8mg/lであった輸液の溶存酸素量は、循環時間とともに次第に増加し、5分後には、30mg/lを超え、10分を経過すると、33〜34mg/lに収束した。
なお、この分離実験で使用された中空糸膜の細孔径の径は0.1〜0.2μmであり、中空糸膜の内径D1は、1.8mmであり、中空糸膜の外径は2.7mmである。また、中空糸膜モジュール全体の有効膜面積は2500cmである。
このような条件で膵島細胞の分離を行い、分離された膵島細胞を24時間培養した後に、膵島細胞の、アドシン二燐酸(ADP)とアドシン三燐酸(ATP)との比であるADP/ATPの値を測定した。その結果、膵島細胞のADP/ATPの値は0.019であった。一方、比較のため、中空糸膜モジュール17を使用せずに(すなわち、輸液の中に酸素を溶解させずに)、かつ、その他の条件を同じにして膵島細胞を分離し、分離された膵島細胞を24時間培養した後に、その膵島細胞のADP/ATPの値を測定すると、その値は0.078であった。なお、これらの測定では、測定装置として、Promega社製の「GloMax20/20nLuminometer」を使用するとともに、ADPおよびATP測定キット「ApoGlowAssaykit」を使用した。
ここで、ADP/ATPは、本願発明者である後藤昌史らによって提案されている指標であり、このADP/ATPの値と膵島の機能との関係については、後藤昌史ら他3名著の「American Journal of Transplanatation 2006;6:P2483−2487」に詳しく記載されている。このADP/ATPの値が小さいと、分離後の膵島の機能が維持されていることを意味しており、本形態の膵島分離装置1を用いると、分離後の膵島の機能が大幅に維持されていることがわかる。なお、通常、ADP/ATPの値が0.1より大きいとその膵島は膵島移植に不適とされている。
以上のように、本形態の膵島の分離工程によれば、膵臓から生きた状態の膵島をより高い確率で分離して取り出すことが可能になる。また、インシュリン発生能力の高い膵島を分離して取り出すことが可能になる。なお、第1保存液に人工酸素運搬体が含まれている場合には、消化酵素入りの輸液を循環させて臓器を分解する際に、人工酸素運搬体が輸液の中に混ざる。そのため、分離される膵島に対してより効果的に酸素を提供することが可能になる。
(他の実施の形態)
上述した形態では、膵臓1を例に本発明の実施の形態にかかる臓器の保存方法を説明しているが、本発明の臓器の保存方法は、肝臓にも適用可能である。たとえば、本発明の臓器の保存方法を肝臓に適用する場合には、肝臓内の細胞を酸素化するための第1保存液を肝臓の肝管に注入して肝臓を保存すれば良い。この際には、細胞を構成する細胞膜のナトリウムポンプ機能の低下を抑制するための第2保存液に肝臓を浸して保存することが好ましい。この場合には、たとえば、第1保存液として人工酸素運搬体入りのUW液が用いられる。また、第2保存液としてUW液が用いられるが、第2保存液は生理食塩水であっても良い。
この場合には、摘出してから所定時間経過した後であっても、肝臓の細胞の酸素分圧の低下を抑制することが可能となり、その結果、肝臓から細胞を分離する際に、生きた状態の細胞をより高い確率で分離して取り出すことが可能となる。なお、この保存方法で保存した肝臓から肝細胞を分離して取り出す際には、膵島分離装置10と同様の構成を備える細胞分離装置を用いることが好ましい。
本発明の実施の形態にかかる膵島の分離方法を説明するための図である。 本発明の実施の形態にかかる膵島の保存状態を説明するための図である。 本発明の実施の形態にかかる膵島の分離工程で使用される膵島分離装置の概略構成を示す概念図である。 豚の膵臓を用いて測定した酸素分圧の実験データを説明するための図であり、(A)は実験データを示すグラフであり、(B)は実験条件を示す表である。
符号の説明
1 膵臓(臓器)
1a 膵管
12 循環路
13 チャンバー(臓器収納容器)

Claims (4)

  1. 体内から取り出された臓器を保存する臓器の保存方法において、
    上記臓器は膵臓であり、
    上記膵臓内の細胞を酸素化するための保存液を上記膵臓の膵管に注入する工程を備えることを特徴とする臓器の保存方法。
  2. 体内から取り出された臓器を保存する臓器の保存方法において、
    上記臓器は肝臓であり、
    上記肝臓内の細胞を酸素化するための保存液を上記肝臓の肝管に注入する工程を備えることを特徴とする臓器の保存方法。
  3. 前記保存液には、人工酸素運搬体が含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の臓器の保存方法。
  4. 請求項1から3いずれかに記載の臓器の保存方法で前記臓器を保存する臓器保存工程と、上記臓器保存工程後に、前記臓器内の所定の細胞を前記臓器から分離して取り出す細胞分離工程とを備え、
    上記細胞分離工程では、前記臓器を収納する臓器収納容器が配置される循環路内で、前記臓器を分解するための消化酵素入りの輸液を循環させるとともに、上記臓器収納容器を通過した上記輸液の溶存酸素量を増加させながら前記臓器を分解することを特徴とする細胞の分離方法。
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