JP2009042206A - 質量分析イメージング法及び質量分析システム - Google Patents
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Abstract
【課題】大気圧下で行うことができ、自立した形状を有する試料のイメージング・プロファイルを迅速且つ正確に得ることができる質量分析イメージング法を提供する。
【解決手段】連続的に生じる帯電液滴を、移動経路に沿って質量分析器のレシービングユニットに向けて移動させるステップと、試料に含まれる分析物を脱離させて、複数の飛行経路の各々に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで前記試料を走査するステップと、前記複数の飛行経路のそれぞれに沿う前記複数の分析物がそれぞれ前記帯電液滴に閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、前記複数の飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めするステップとを備えて成る質量分析イメージング法。
【選択図】図4
【解決手段】連続的に生じる帯電液滴を、移動経路に沿って質量分析器のレシービングユニットに向けて移動させるステップと、試料に含まれる分析物を脱離させて、複数の飛行経路の各々に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで前記試料を走査するステップと、前記複数の飛行経路のそれぞれに沿う前記複数の分析物がそれぞれ前記帯電液滴に閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、前記複数の飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めするステップとを備えて成る質量分析イメージング法。
【選択図】図4
Description
本出願は、2006年11月17日に出願された「エレクトロスプレー支援レーザー脱離イオン化装置、マススペクトロメーター、及びマススペクトロメトリー法」というタイトルの米国特許出願No.11/561,131の一部継続出願である。
本発明は、分子イメージングに関し、特には、大気圧下でエレクトロスプレー支援レーザー脱離イオン化マススペクトロメトリー法を用いた質量分析イメージングに関する。
本発明は、分子イメージングに関し、特には、大気圧下でエレクトロスプレー支援レーザー脱離イオン化マススペクトロメトリー法を用いた質量分析イメージングに関する。
イメージング質量分析(IMS)は、金属、ポリマー、半導体および地質材料のような固体試料の化学的分布或いは分子分布の研究に広く用いられている。
様々な器官におけるタンパク質の空間的分布の研究においてイメージング質量分析を用いることの実現可能性を探索するために多くの試みがなされている。しかしながら、標的タンパク質の生物学的性質(例えばイオン化エネルギーに対してより不安定であること、流動的な状態である(絶えず変化している)こと)のため、そのような試みは満足できるものではなかった。
様々な器官におけるタンパク質の空間的分布の研究においてイメージング質量分析を用いることの実現可能性を探索するために多くの試みがなされている。しかしながら、標的タンパク質の生物学的性質(例えばイオン化エネルギーに対してより不安定であること、流動的な状態である(絶えず変化している)こと)のため、そのような試みは満足できるものではなかった。
近年用いられているイメージング質量分析法の一つに、二次イオン質量分析(マススペクトロメトリー)(SIMS)がある。しかし、SIMSは金属イオンや小さい有機分子のような分析物を検出することができるだけであり、ペプチドやタンパク質のような巨大分子は、イオン化される際に駄目になったり、試料の表面から効率よく脱離できなかったりするため、検出することができない。
近年用いられている別のイメージング法に、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)がある。MALDI-MSは、ペプチド分子やタンパク質分子を固体の生物試料からうまく脱離させることができ、その結果が、異常な組織である癌組織を正常組織と区別するために用いられるが、退屈な準備作業が含まれること、真空下で実行する必要があること等といった多くの障害がまだMALDIには存在する。
さらに別の、近年用いられているイメージング法に、脱離エレクトロスプレーイオン化質量分析法(DESI-MS)がある。DESI-MSは、広範囲の分子量の様々な化合物の研究が可能であり、組織スライスを移動させながら自由にタンパク質の質量分析を行うことができる。しかし、DESI-MSには、電子運搬スプレー滴を組織スライスに正確に当てるための調整が困難であること、組織スライスからタンパク質分子を脱離させられないこと、を含む多くの不利な点がある。
このように、マススペクトロメトリーによって分子イメージを得るときには様々な困難や不便さにぶつかるということが分かる。器官や組織のタンパク質の空間的分析情報は医学やバイオテクノロジーの分野において非常に重要であるため、固体の生物試料について迅速且つ便利で正確な空間分析を行うことができる質量分析イメージング法の必要性は存在する。
従って、本発明の目的は、大気圧下で行うことができ、自立した形状を有する試料のイメージング・プロファイルを迅速且つ正確に得ることができる質量分析イメージング法を提供することである。本発明のさらなる目的は、試料の実質的に連続する範囲についての質量分析結果を、望ましい短時間で得ることができるように、脱離メカニズムに対して素早く且つ障害を受けずに試料を動かすことができる質量分析イメージング法を提供することである。本発明の別の目的は質量分析イメージング法を実行するための質量分析法を提供することである。
本発明の一態様に従い、質量分析イメージング法を提供する。この質量分析イメージング法は次のステップを含む。
連続的に生じる帯電液滴を移動経路に沿って質量分析器のレシービングユニットに向けて移動させるステップ、
試料に含まれる分析物を脱離させて、複数の飛行経路の各々に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで前記試料を走査するステップ、および
前記複数の飛行経路のそれぞれに沿う前記複数の分析物がそれぞれ前記帯電液滴の中に閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、前記複数の前記飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めするステップ。
連続的に生じる帯電液滴を移動経路に沿って質量分析器のレシービングユニットに向けて移動させるステップ、
試料に含まれる分析物を脱離させて、複数の飛行経路の各々に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで前記試料を走査するステップ、および
前記複数の飛行経路のそれぞれに沿う前記複数の分析物がそれぞれ前記帯電液滴の中に閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、前記複数の前記飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めするステップ。
好ましくは、質量分析イメージング法は、さらに、試料の複数の走査領域にそれぞれ対応する複数のイオン化分析物の分析を通じて、前記試料の複数の走査領域の複数のマススペクトルを取得するステップ、試料の特徴を示す少なくとも一つの代表的な質量−電荷比(m/z)信号を複数のマススペクトルから選び出すステップ、および複数の走査領域によって示される少なくとも一つの代表的な質量−電荷比信号のそれぞれの強さに基づき試料のイメージング・プロファイルを構築するステップを含む。
本発明の別の形態に従い、イメージング・プロファイルを得ることができ、イオン化分析物を分析するための質量分析器を含む、質量分析システムを提供する。
前記質量分析システムは、前記質量分析器のレシービングユニットと、連続的に生じる帯電液滴を移動経路に沿って前記レシービングユニットに向かって移動させる手段と、試料に含まれる分析物を脱離させ複数の飛行経路に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで試料を走査する手段と、複数の飛行経路に沿う複数の分析物が複数の帯電液滴にそれぞれ閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、前記複数の飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めする手段、を含む。
本発明の他の特徴及び長所は、好適な実施形態について、添付図面を参照した以下の詳細な説明で明らかになるであろう。
前記質量分析システムは、前記質量分析器のレシービングユニットと、連続的に生じる帯電液滴を移動経路に沿って前記レシービングユニットに向かって移動させる手段と、試料に含まれる分析物を脱離させ複数の飛行経路に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで試料を走査する手段と、複数の飛行経路に沿う複数の分析物が複数の帯電液滴にそれぞれ閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、前記複数の飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めする手段、を含む。
本発明の他の特徴及び長所は、好適な実施形態について、添付図面を参照した以下の詳細な説明で明らかになるであろう。
図1に示すように、質量分析システムは、本発明に係る脱離エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ELDI-MS)を用いた大気圧下での質量分析イメージング法の好適な実施形態を実行するために用いられる。質量分析システムは、エレクトロスプレーユニット2、レーザー脱離ユニット3、試料台ユニット4、レシービングユニット5、および画像処理ソフト(図示せず)を含む。
さらに図2に示すように、エレクトロスプレーユニット2は、液体エレクトロスプレー溶媒を収容する容器21およびこの容器21の下流側に配置され、エレクトロスプレー溶媒の液滴が移動経路に沿って移動するために、当該液滴を連続的に形成するように設計されたノズル22を含む。エレクトロスプレーユニット2はさらに、前記容器21の下流側であって前記ノズル22の上流側に配置され、エレクトロスプレー溶媒をノズル22に吸い上げるためのポンプ23を含む。ノズル22は移動経路を定めるように、レシービングユニット5から長手方向(X)に離れて配置される。この実施の形態では、エレクトロスプレーユニット2はさらに、ノズル22とレシービングユニット5との間に、連続的に形成された液滴に多電荷が帯電し、当該多電荷帯電液滴がノズルを出て移動経路に沿ってレシービングユニットに向かうような強さの電位差を生じさせる電圧供給部24を含む。本実施形態では、エレクトロスプレー溶媒は酸性メタノール溶液(50%)である。また、液滴に帯電している電荷は単価および多価のどちらでも成り得る。
前記レーザー脱離ユニット3は、レーザービーム34を伝送可能なレーザー伝送機構31、前記レーザービーム34によって運ばれるエネルギーを集めるために前記レーザー伝送機構31からのレーザービーム34を受けるように設けられたレンズ32、およびレーザービーム34の経路を変えるために設けられたリフレクター33を有する。前記レーザー脱離ユニット3は、レーザー照射によって試料6に含まれる化学分子或いは生化学分子のような複数の分析物が脱離し、複数の飛行経路に沿ってそれぞれが飛行するように、前記試料にレーザーを照射するように調整される。本実施の形態では、レーザー伝送機構31は、窒素(N2)ガスレーザー(337nm,100μj,Q-スイッチ)である。
試料台ユニット4は、可動試料台41およびコンピュータ制御位置決め機構42を含む。前記試料台41は、レーザーパルス毎に試料6上のさまざまな位置にレーザースポットが形成されるように、レーザービーム34に対して移動可能である。前記コンピュータ制御位置決め機構42は、レーザービーム34に対する試料台41の移動を制御するために試料台41に電気的に接続される。本実施例では、試料台41は、長手方向(X)およびこの長手方向(X)と直交する方向(Y)に沿う平面上を移動可能である。本発明の他の実施例では、試料台41は3次元で移動可能にできる点に留意すべきである。さらにまた、試料台41とレーザービーム34との間の相対的な移動を確保できるのであれば、本発明の他の実施形態では、試料台41を固定し、レーザー脱離ユニット3によって照射されるレーザービーム34を移動可能にできる点に留意すべきである。
複数の飛行経路のそれぞれに沿う複数の分析物がそれぞれ複数の帯電液滴の中に閉じ込められ、それによって複数の対応するイオン化分析物が形成されるべく、分析物の複数の飛行経路が帯電液滴の移動経路と交差するように、試料台41はその上に載置される試料6と共にレーザービーム34に対して位置決めされる。イオン化分析物は、帯電液滴が前記移動経路に沿って前記レシービングユニットに近づき、当該帯電液滴のサイズが徐々に小さくなるにつれて前記液滴中の電荷が分析物に移動することによって形成される。
レシービングユニット5は、周囲と空気が流通する管路52を備えた質量分析器51と、当該レシービングユニット5が発生する信号を受信するための検出器52を包含する。質量分析器51は管路52を通じてイオン化分析物を受取り、当該イオン化分析物をそのm/z比(質量ー電荷比)に従って分離し、前記イオン化分析物に対応する信号を発生する。好ましくは、質量分析器51は、イオントラップ質量分析器、四重極質量分析器、トリプル四重極質量分析器、イオントラップ飛行時間型質量分析器、飛行時間/飛行時間質量分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器(FTICR)から成るグループから選ばれる。
さらに図3に示すように、本発明に係る質量分析イメージング法の好適な実施形態は、上述の質量分析システムと併せて実行される。
ステップ11では、まず自立した形状の対象物が鋭利なカミソリの刃、或いは凍結切片法によって薄片にカットされる。この薄片が試料6と呼ばれる。それから試料6はステンレス鋼の試料プレート7上に載置され、試料台ユニット4の試料台41に配置される。
ステップ12では、連続的に生じる帯電液滴が移動経路に沿ってレシービングユニット5に向かうように強制的に移動される。本実施形態では、連続的に生じる帯電液滴はエレクトロスプレーユニット2によってそのノズル21で形成され、該エレクトロスプレーユニット2によってレシービングユニット5に向かって移動させられる。
ステップ13では、試料6に含まれレーザースポットに位置する分析物を脱離させ、対応する飛行経路に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービーム34が、試料6に照射される。本実施形態では、レーザービーム34は光ファイバーユニットを通して伝送される。
ステップ14では、飛行経路に沿う脱離した分析物が帯電液滴に閉じ込められ、それによって複数の対応するイオン化分析物が形成されるべく、飛行経路と移動経路とが交差するようにレーザービーム34に対して試料6が位置決めされる。
ステップ15では、試料6の走査領域に対応するイオン化分析物を分析することにより、試料6の走査領域(即ちレーザースポットが形成される領域)のマススペクトルが取得される。
ステップ16では、試料6のさまざまな領域にレーザービーム34が照射されるように、試料6がレーザービーム34に対して移動される。
ステップ14〜16は、その後、追跡可能な方法で複数回繰り返される。換言すると、対応するイオン化分析物が生じ、対応するマススペクトルが得られるように、試料6の様々な領域にレーザービーム34が照射される。
本実施形態では、レーザービーム34が所定のラインに沿って照射されるように保持される。そして、試料台ユニット4の試料台41は、コンピュータ制御位置決め機構42に制御されることにより、レーザービーム34に対して段階的に縦方向(X)及び横方向(Y)に移動され、その結果、試料6がレーザービーム34に対して位置決めされる。例えば、縦方向(X)に移動する毎に、コンピュータ制御位置決め機構42は試料台41を横方向(Y)に段階的に移動させる。そうして、試料台41に載置されている試料6の様々な領域にレーザービーム34が連続的に照射される。結果として、試料6の各走査領域に関して、前記走査領域における前記試料6中に含まれる分析物が脱離し、対応する飛行経路に沿って飛行する。前記飛行経路は、対応するイオン化分析物が形成されるように、帯電液滴の移動経路と交差しており、前記試料6の走査領域に対応するイオン化分析物を分析することによって、対応するマススペクトルが得られる。
従って、これらの繰り返しステップが終了するまでに、試料6の走査領域にそれぞれ対応するイオン化分析物を分析することにより、前記試料6の走査領域について複数のマススペクトルがそれぞれ得られる。
好ましくは、レーザービーム34は、試料6上に100μm×150μmの領域を有するレーザスポットを形成し、レーザー伝送機構31は、5Hz〜10Hzの動作周波数を有する。試料6上の各レーザスポットに1個のマススペクトル、つまり、試料6の各走査領域に1個のマススペクトルが対応し、試料6上の1cm2の領域について大体8200から16000のマススペクトルが得られる。
ステップ17では、試料6の特徴を示す少なくとも一つの代表的な質量−電荷比(m/z)信号が、複数のマススペクトルから選び出される。
ステップ18では、試料6の複数の走査領域に示される、少なくとも一つの代表的なm/z信号のそれぞれの強さに基づいて、試料6の分子イメージング・プロファイルが構築される。
以下、本発明を、エレクトロスプレー支援レーザー脱離イオン化マススペクトロメトリーを用いた、大気状態下での質量分析イメージングを立証するためのいくつかの模範例と共に説明する。ここでは、模範例は例証目的のみのためであることに留意すべきであり、本発明に課される制限としてみなすべきではない。
用いた薬品及び器具
模範例は、以下の薬品及び器具を用いて行われる。
1.レーザー脱離ユニット:レーザービームは、波長が337nm、パルスエネルギーが120μJ、動作周波数が10Hzのパルス窒素レーザーによって伝送される。レーザービームは45°の角度で試料6に照射し、当該試料上にサイズが100×150μm2のレーザー焦点スポットを形成する。
2.質量分析器(検出器を含む):イオントラップ質量分析器、型番エスクァイア・プラス3000プラス、Bruker Dalton社(ドイツ)製。前記質量分析器は、当該分析器の入り口の外に向かって延びる、内径3mm、長さ50mmのステンレススチール管を含むように改変されており、マススペクトルは1回/秒の割合で得られる。
模範例は、以下の薬品及び器具を用いて行われる。
1.レーザー脱離ユニット:レーザービームは、波長が337nm、パルスエネルギーが120μJ、動作周波数が10Hzのパルス窒素レーザーによって伝送される。レーザービームは45°の角度で試料6に照射し、当該試料上にサイズが100×150μm2のレーザー焦点スポットを形成する。
2.質量分析器(検出器を含む):イオントラップ質量分析器、型番エスクァイア・プラス3000プラス、Bruker Dalton社(ドイツ)製。前記質量分析器は、当該分析器の入り口の外に向かって延びる、内径3mm、長さ50mmのステンレススチール管を含むように改変されており、マススペクトルは1回/秒の割合で得られる。
3.エレクトロスプレー用溶媒:0.1vol%の酢酸と50vol%のメタノールを含む水溶液、流速120μL/時、
4.マトリックス:α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-CHC)(70%のアセトニトリル(ACN)、0,1%のトリフルロ酢酸(TFA))、これは、Sigma-Aldrich社(米国)製のHPLCマトリックスである。
5.試料台ユニット:試料台は、最低移動速度0.02cm/sで移動可能である。
4.マトリックス:α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-CHC)(70%のアセトニトリル(ACN)、0,1%のトリフルロ酢酸(TFA))、これは、Sigma-Aldrich社(米国)製のHPLCマトリックスである。
5.試料台ユニット:試料台は、最低移動速度0.02cm/sで移動可能である。
模範例1―グロッシィ・ガノダーマ(Glossy Ganoderma(マンネンタケ:Ganoderma Lucidum))について、エレクトロスプレー支援レーザー脱離イオン化質量分析法(ELDI-MS)を用いたイメージング質量分析
図4(a)及び図5(a)に示すように、模範例1のために、グロッシィ・ガノダーマ(多孔菌(polypores)属)の薄片をカミソリの刃を用いて得た。図4(a)はグロッシィ・ガノダーマ薄片の写真を示しており、図5(a)は図4(a)のネガティブ・イメージを示している。グロッシィ・ガノダーマ薄片は、長さが10mm、幅が35mm、薄さが3mmであった。グロッシィ・ガノダーマの薄片は試料台ユニット4の試料台41(図1参照)に載置され、ELDI-MSを用いてイメージング質量分析を行うためにレーザービーム34(図1及び図2参照)が照射された。
図4(a)及び図5(a)に示すように、模範例1のために、グロッシィ・ガノダーマ(多孔菌(polypores)属)の薄片をカミソリの刃を用いて得た。図4(a)はグロッシィ・ガノダーマ薄片の写真を示しており、図5(a)は図4(a)のネガティブ・イメージを示している。グロッシィ・ガノダーマ薄片は、長さが10mm、幅が35mm、薄さが3mmであった。グロッシィ・ガノダーマの薄片は試料台ユニット4の試料台41(図1参照)に載置され、ELDI-MSを用いてイメージング質量分析を行うためにレーザービーム34(図1及び図2参照)が照射された。
レーザービーム34が10Hzの動作周波数、即ち1秒間にレーザー10発の動作周波数で、グロッシィ・ガノダーマの薄片を照射し、前記薄片に100×150μm2のレーザースポットを形成している間、試料台41はレーザービーム34に対して0.02cm/sの速度で縦方向(X)に移動された。その結果、グロッシィ・ガノダーマ薄片に縦方向(X)に連続して形成される2個のレーザースポットが、互いに0.02mm離れて配置される。また、試料台41は、コンピュータ制御位置決め機構42の制御により横方向(Y)に1/6mmずつ連続的に移動される。換言すると、レーザービーム34はグロッシィ・ガノダーマ薄片を縦方向(X)に60回走査し、1走査毎に異なる移動量で横方向(Y)に走査する。加えて、1秒間に1回の割合でマススペクトルが得られるが、各マススペクトルは、グロッシィ・ガノダーマ薄片に形成され、当該グロッシィ・ガノダーマ薄片の走査領域の全体を参照する10個の一連のレーザースポットの平均に対応する。結果として、横方向(Y)に「1」増加させる毎に(「1」移動させる毎に)175個のマススペクトルが得られた。さらには、グロッシィ・ガノダーマ薄片について全部で10500個のマススペクトルが得られた。
図6(a)〜(d)には、グロッシィ・ガノダーマ薄片の様々な走査領域で得られた4個のマススペクトルが示されている。図4(a)に示したものと同じグロッシィ・ガノダーマ薄片の写真が、図6(a)〜(d)のそれぞれの右上角に示されている。図6(a)〜(d)中、矢印は、図6(a)〜(d)に示すグロッシィ・ガノダーマ薄片の個々の走査領域を示すために、設けられている。
グロッシィ・ガノダーマ薄片を特徴付けるものとして、m/z=499,m/z=513,m/z=530,m/z=553,m/z=571,m/z=1034,m/z=1047を含む、複数の代表的なm/z信号を、前記グロッシィ・ガノダーマ薄片について得られたマススペクトルから選び出した。
選ばれた代表的なm/z信号と共に、全てのマススペクトルにおけるこれら代表的なm/z信号の強度を集めたが、前記マススペクトルの各々はグロッシィ・ガノダーマ薄片の異なる走査領域に対応する。その後、グロッシィ・ガノダーマ薄片のマススペクトルの代表的なm/z信号のそれぞれにおける分子イメージング・プロファイルが、マススペクトルの代表的なm/z信号の強度、即ち、グロッシィ・ガノダーマ薄片の走査領域によって表される代表的なm/z信号のそれぞれの強度に基づき、コンピュータソフトウェアを用いて構築される。図4(b)〜(h)には、上述したように選ばれた代表的なm/z信号(即ち、m/z=499,m/z=513,m/z=530,m/z=553,m/z=571,m/z=1034,m/z=1047)のそれぞれにおいて、模範例1について構築された分子イメージング・プロファイルが示されている。図5(b)〜(h)は、図4(b)〜(h)に示した分子イメージング・プロファイルのネガティブイメージを示している。前記分子イメージングファイルから、グロッシィ・ガノダーマ薄片の表面に含まれる様々な化学組成や、その相対強度及び分布が明らかになる。
模範例2―アントロディア・カンフォラータ(antridua camphorata)について、ELDI-MSを用いたイメージング質量分析
図7(a)に示すように、アントロディア・カンフォラータは牛楠(cinnamomum kanehirae)上でのみ成長する台湾特有の真菌類であるが、この薄片を、模範例2のためにカミソリの刃を用いて得た。図7(a)に、アントロディア・カンフォラータ薄片の写真を示している。アントロディア・カンフォラータの薄片は、長さが21mm、幅が3mm、薄さが1mmであった。
図7(a)に示すように、アントロディア・カンフォラータは牛楠(cinnamomum kanehirae)上でのみ成長する台湾特有の真菌類であるが、この薄片を、模範例2のためにカミソリの刃を用いて得た。図7(a)に、アントロディア・カンフォラータ薄片の写真を示している。アントロディア・カンフォラータの薄片は、長さが21mm、幅が3mm、薄さが1mmであった。
試料台41は、上述の模範例1と同じ方法で、レーザービーム34に対して縦方向(X)に移動された。その結果、薄片上に縦方向(X)に連続して形成される2個のレーザースポットが、互いに0.02mm離れて配置された。さらに、試料台41は、コンピュータ制御位置決め機構42の制御により横方向(Y)に3/26mmずつ連続的に移動された。換言すると、レーザービーム34は、アントロディア・カンフォラータ薄片を縦方向(X)に26回走査し、1走査毎に異なる移動量で横方向(Y)に走査した。また、マススペクトルが1秒間に1個の割合で得られたが、各マススペクトルは、、アントロディア・カンフォラータ薄片に形成され、アントロディア・カンフォラータの走査領域とまとめて呼ばれる、対応する一連の10個のレーザースポットの平均に相当する。
結果として、横方向(Y)に「1」移動させる毎に105個のマススペクトルが得られた。さらに、アントロディア・カンフォラータ薄片について、全部で2730個のマススペクトルが得られた。
結果として、横方向(Y)に「1」移動させる毎に105個のマススペクトルが得られた。さらに、アントロディア・カンフォラータ薄片について、全部で2730個のマススペクトルが得られた。
図7(b)〜(d)には、アントロディア・カンフォラータ薄片の様々な走査領域で得られた3個のマススペクトルが示されている。図7(a)中の矢印は、図7(b)〜(d)のマススペクトルに対応するアントロディア・カンフォラータ薄片上の特定の走査領域を示すために、設けられている。アントロディア・カンフォラータ薄片から得られたマススペクトルは2個のイオンピーク群を表している。イオンピーク群の一つは、低分子の揮発性臭気成分からなり、例えばm/z=107、m/z=139、m/z=167、及びm/z=197を含む。別のイオンピーク群は、トリテルペノイド化合物から成るが、これはアントロディア・カンフォラータ薄片に含まれる活性官能成分であり、例えばm/z=425、m/z=439、m/z=441、m/z=453、m/z=469、m/z=471、及びm/z=487を含む。これらのm/z値は、この模範例のアントロディア・カンフォラータ薄片の代表的なm/z信号として選ばれた。関連データベースに記録されている情報を参照すると、m/z=469、m/z=483、m/z=485、m/z=487、m/z=489、及びm/z=501のイオンピークは、それぞれC31H48O3、C31H46O4、C30H44O5、C29H44O6、C31H60O4、C30H44O6、C33H52O5の化学式を含む化学成分に対応し、m/z=471のイオンピークは、C30H46O4、C31H50O3、C29H42O5の化学式を含む化学成分に対応する。これら化学式は、それぞれ、分子量が470.68Da、470.73Da、及び470.64Daに対応する。
図8(b)〜(x)に示すように、代表的なm/z信号の各々においてアントロディア・カンフォラータ薄片の多数の分子イメージング・プロファイルが構築された。図8(b)〜(e)から、揮発性イオンはアントロディア・カンフォラータ薄片の表面全体に亘って比較的一様に分布していることがわかる。これは、揮発性の臭気イオンがアントロディア・カンフォラータ薄片の表面、つまり組織の表面から継続的に放出されるからである。図8(f)〜(x)から、トリテルペノイド化合物は、アントロディア・カンフォラータ薄片の両端部(即ち、図8(a)の上端部及び下端部)に、より集中し、アントロディア・カンフォラータ薄片の中心付近に少ないことが分かる。前記アントロディア・カンフォラータ薄片の両端部は、当該薄片を切り出したアントロディア・カンフォラータの外表面に対応し、アントロディア・カンフォラータの当該薄片の中心付近は当該薄片を切り出したアントロディア・カンフォラータの内部に対応する。
模範例3−カラトウキ(Angelica Sinensis Diels)についてELDI−MSを用いたイメージング質量分析
図10(a)及び図11(a)に示すように、カラトウキ、これは伝統的な中国の薬であるが、この2枚の薄片を模範例3のために得た。図10(a)はカラトウキ薄片の写真を示しており、図11(a)は図10(a)のネガティブイメージを示している。2枚のカラトウキの薄片は、それぞれ長さが2cm及び2cm、幅が2cm及び1cm、厚さが2mm及び2mmであった。
図10(a)及び図11(a)に示すように、カラトウキ、これは伝統的な中国の薬であるが、この2枚の薄片を模範例3のために得た。図10(a)はカラトウキ薄片の写真を示しており、図11(a)は図10(a)のネガティブイメージを示している。2枚のカラトウキの薄片は、それぞれ長さが2cm及び2cm、幅が2cm及び1cm、厚さが2mm及び2mmであった。
2個のカラトウキ薄片のそれぞれに縦方向(X)に続けて形成される2個のレーザースポットが、互いに0.02mm離れて配置されるように、試料台41は、レーザービーム34に対して、上述の模範例1と同じ方法で縦方向(X)に移動された。さらに、試料台41は、コンピュータ制御位置決め機構42の制御のもと、2枚のカラトウキ薄片を同時に分析するために1/15cmずつ横方向(Y)に移動された。換言すると、レーザービーム34は、カラトウキを縦方向(X)に30回走査し、1走査毎に異なる移動量で横方向(Y)に走査した。また、マススペクトルが1秒間に1個の割合で得られたが、各マスススペクトルは、カラトウキ薄片に形成され、当該カラトウキ薄片の走査領域とまとめて呼ばれる、対応する一連の10個のレーザースポットの平均に相当する。その結果として、縦方向(X)に移動する毎に、200個のマススペクトルがカラトウキ薄片から得られ、さらに、全部で6000個のマススペクトルがカラトウキ薄片から得られた。
アントロディア・カンフォラータと同様に、カラトウキは比較的強い匂いを有しており、このことは、カラトウキもまた揮発性の臭気化学成分を含んでいることを示している。図9には、2個のカラトウキ薄片のうちの一つから得られたマススペクトルが示されている。このマススペクトルから、2個のイオンピーク群が検出される。イオンピーク群の一つは低分子の揮発性臭気成分から成り、例えばm/z=163、及びm/z=191を含む。他方のイオンピーク群は、より高分子量の化学成分から成り、だいたいm/z=350からm/z=500の範囲に広がる。これらm/z値、及びいくつかの付加的なm/z値は、この模範例のカラトウキ薄片の代表的なm/z値から選ばれた。
図10(b)〜(n)に示すように、代表的なm/z信号の各々においてカラトウキ薄片の多数の分子イメージング・プロフィルが構築された。図11(b)〜(n)は、図10(b)〜(n)に示す分子イメージンプロファイルのネガティブイメージを示している。図10(b)〜(c)から、揮発性臭気低分子イオンはカラトウキ薄片の表面全体に亘って比較的一様に分布していることが分かる。これは、カラトウキ薄片の表面から揮発性臭気低分子イオンが継続的に放出されるからである。図10(d)〜(n)から、不揮発性イオンは、カラトウキ薄片を切り出したカラトウキの外表面に対応する当該薄片の外周部により集中し、前記カラトウキ薄片を切り出したカラトウキの中心部に対応する当該薄片の中心付近に、より少ないことが分かる。
模範例4−ニワトリの脳についてELDI−MSを用いたイメージング質量分析
図12(a)に示すように、長さが3cm、幅が2cm、厚さが15μmのニワトリ脳の薄片を模範例4のために、シャドン・クライオスタット(Thermo Electron, San Jose, Ca)を用いて-20℃、凍結切片法で得た。図12(a)は、クライオスタットで得られたニワトリ脳の薄片の写真を示している。上述の方法を用いてニワトリの脳の薄片にイメージング質量分析を行う前に、MALDI−MSで一般的に用いられる飽和マトリックス溶液、α-CHC(70%ACN, 0.1% TFA)を、空気圧70psiおよび流速3mL/hrで空気動作式噴霧器によって3分間、連続的にニワトリの脳薄片の表面全体に噴霧することにより前記ニワトリの脳薄片に添加した。本発明のイメージング質量分析は、マトリックスが添加されたニワトリの脳薄片について、それらを乾燥させた状態で行われた。
図12(a)に示すように、長さが3cm、幅が2cm、厚さが15μmのニワトリ脳の薄片を模範例4のために、シャドン・クライオスタット(Thermo Electron, San Jose, Ca)を用いて-20℃、凍結切片法で得た。図12(a)は、クライオスタットで得られたニワトリ脳の薄片の写真を示している。上述の方法を用いてニワトリの脳の薄片にイメージング質量分析を行う前に、MALDI−MSで一般的に用いられる飽和マトリックス溶液、α-CHC(70%ACN, 0.1% TFA)を、空気圧70psiおよび流速3mL/hrで空気動作式噴霧器によって3分間、連続的にニワトリの脳薄片の表面全体に噴霧することにより前記ニワトリの脳薄片に添加した。本発明のイメージング質量分析は、マトリックスが添加されたニワトリの脳薄片について、それらを乾燥させた状態で行われた。
ニワトリの脳薄片に縦方向(X)に続けて形成される2個のレーザースポットが、互いに0.02mm離れて配置されるように、試料台41が、レーザービーム34に対して,模範例1について上述したのと同じ方法で移動された。さらに、試料台41はコンピュータ制御位置決め機構42の制御のもと、1/30cmずつ続けて横方向(Y)に移動された。換言すると、レーザービーム34は、ニワトリの脳薄片を縦方向(X)に60回走査し、1走査毎に異なる移動量で横方向(Y)に走査する。また、マススペクトルが1秒間に1個の割合で得られたが、各マスススペクトルは、ニワトリの脳薄片に形成され、当該ニワトリの脳薄片の走査領域とまとめて呼ばれる、対応する一連の10個のレーザースポットの平均に相当する。その結果として、横方向(Y)に移動する毎に、150個のマススペクトルがニワトリの脳薄片から得られた。さらに、全部で9000個のマススペクトルがニワトリの脳薄片から得られた。
図12(b)〜(e)には、ニワトリの脳薄片のさまざまな走査領域で得られた当該脳薄片の4個のマススペクトルが示されている。図12(b)〜(e)のマススペクトルに対応するニワトリの脳薄片の走査領域を示すために、図12(a)に矢印を設けた。関連データベースに記録されている情報を参照すると、600から900までのm/z値を有するイオンピーク群は主に、リン脂質である、フォスファチジルコリン(PC)から成る。
図13(a)に示すように、凍結切片を作成するときにニワトリの脳を包埋/埋設する組織凍結溶媒である、オプティカル・テンペラチャー・カッティング(Optical Cutting Temperature(OCT)薬がニワトリの脳薄片の周囲を取り囲むように観察される。図13(b)〜(h)には、ニワトリの脳薄片について選び出されたm/z=332、m/z=84、m/z=735、m/z=761、m/z=790、m/z=762、及びm/z=938を含む代表的なm/z信号の各々において構築された複の分子イメージング・プロファイルが示されている。OCT薬はm/z=332のイオン信号に対応し、m/z=332で得られた分子イメージング・プロファイルは、図13(b)に示すように、ニワトリの脳薄片の輪郭を明確に示している。OCTイオンはニワトリの脳薄片の周辺部の周りに主に集中している。m/z=84、m/z=735、m/z=761、m/z=790、m/z=762、及びm/z=938、これらはニワトリの脳に含まれる化学物質の種類であるが、これらに対応する分子イメージング・プロファイルから、これらの化学物質の種類は、ニワトリの脳薄片の全体に比較的一様に分布していることがわかる。図14(b)〜(h)は図13(b)〜(h)のネガティブイメージを示している。
模範例5−ニワトリの心臓についてELDI−MSを用いたイメージング質量分析
ニワトリの心臓の薄片を模範例5のために、シャドン・クライオスタット(Thermo Electron, San Jose, Ca)を用いて-20℃、凍結切片法で得た。図16(a)を参照すると、ニワトリの心臓の薄片は、長さが25mm、幅が18mm、厚さが40μmであった。ニワトリの心臓薄片についてイメージング質量分析を行う前に、飽和マトリックス溶液であるα-CHC(70%ACN, 0.1% TFA)を、空気圧70psiおよび流速2.4mL/hrで空気動作式噴霧器によって15分間、連続的にニワトリの心臓薄片の表面全体に噴霧することにより前記ニワトリの心臓薄片に添加した。
ニワトリの心臓の薄片を模範例5のために、シャドン・クライオスタット(Thermo Electron, San Jose, Ca)を用いて-20℃、凍結切片法で得た。図16(a)を参照すると、ニワトリの心臓の薄片は、長さが25mm、幅が18mm、厚さが40μmであった。ニワトリの心臓薄片についてイメージング質量分析を行う前に、飽和マトリックス溶液であるα-CHC(70%ACN, 0.1% TFA)を、空気圧70psiおよび流速2.4mL/hrで空気動作式噴霧器によって15分間、連続的にニワトリの心臓薄片の表面全体に噴霧することにより前記ニワトリの心臓薄片に添加した。
ニワトリの心臓薄片に縦方向(X)に続けて形成される2個のレーザースポットが、互いに0.02mm離れて配置されるように、試料台41が、レーザービーム34に対して,模範例1について上述したのと同じ方法で移動された。さらに、試料台41はコンピュータ制御位置決め機構42の制御のもと、0.03mmずつ続けて横方向(Y)に移動された。換言すると、レーザービーム34は、ニワトリの心臓薄片を縦方向(X)に60回走査し、1走査毎に異なる移動量で横方向(Y)に走査する。また、マススペクトルは1秒間に1個の割合で得られたが、各マスススペクトルは、ニワトリの心臓薄片に形成され、当該ニワトリの心臓薄片の走査領域とまとめて呼ばれる、対応する一連の10個のレーザースポットの平均に相当する。その結果として、横方向(Y)に移動する毎に、125個のマススペクトルが得られた。さらに、全部で7500個のマススペクトルがニワトリの心臓薄片から得られた。
図15(a)には、ニワトリの心臓薄片の外周部を取り囲む脂肪に対応する、矢印で示す走査領域で得られた当該脳薄片のマススペクトルを示している。このマススペクトルは、14Daと22Daという分子量差の2つの脂質にそれぞれ対応する二つの大きなイオンピーク群を示している。ニワトリの心臓薄片を表す代表的なm/z信号として選ばれた脂質イオンピーク群のm/z信号は、m/z=643、m/z=665、m/z=687、m/z=568、m/z=582、及びm/z=596を含む。図15(b)には、ニワトリの心臓薄片の内部に位置する筋肉組織に対応する、矢印で指された走査領域で得られた当該薄片のマススペクトルが示されている。このマススペクトルは、フォスファチジルコリン(PC)に対応する一つの大きなイオンピーク群を示している。ニワトリの心臓薄片を代表するm/z信号として選ばれたPCイオンピーク群のm/z信号は、m/z=758、m/z=760、m/z=761、及びm/z=768を含む。
図16(b)には、バックグラウンドのイオン信号であるm/z=758におけるニワトリの心臓薄片について構築された分子イメージング・プロファイルが示されている。図16(c)〜(e)には、脂質を代表する22Daの分子量差群のm/z信号におけるニワトリの心臓薄片について構築された分子イメージング・プロファイルが示されている。図16(f)〜(h)には、脂質を代表する14Daの分子量差群のm/z信号におけるニワトリの心臓薄片について構築された分子イメージング・プロファイルが示されている。さらに、図16(i)〜(m)には、PCを代表するm/z信号で構築されたニワトリ心臓薄片の分子イメージング・プロファイルが示されている。図17(a)〜(m)は、それぞれ図16(a)〜(m)のネガティブイメージに対応する。
前記模範例に関して上述した結果を参照すると、エレクトロスプレー・レーザー支援マススペクトロメトリーを用いた本発明に係る質量分析イメージング法は、真菌類、植物組織、動物組織等の固体状の試料に含まれる分子を検出することができる。レーザーが試料に照射され、当該試料にレーザースポットが形成されるので、また、試料を巧みに扱いレーザービームに対してすばやく移動させることができるので、試料の様々な領域に対するレーザービームの照射が所望の短時間で完了するように当該試料を前記レーザービームによって走査することができ、その結果、試料の走査領域にそれぞれ対応する十分に多くの数のマススペクトルを得て、それによって、試料の高精度な分子イメージング・プロファイルを確保することができる。
また、全てのマススペクトルから得られる結果をまとめることによって、試料に含まれる分子の空間的分布プロファイルが作り出される。特に、試料の多数の走査領域によって表される、選ばれた代表的な質量−電荷比(m/z)信号における強度に基づき、代表的なm/z信号に対応する特定の分析物(分子)の空間的分布を描くために分子イメージング・プロファイルを構築することができる。組織表面から放出される、臭気性低分子のような揮発性分子であっても検出して、その分子イメージング・プロファイルを構築することができる。
要するに、本発明に係るエレクトロスプレーシエンレーザ脱離イオン化マススペクトロメトリーを用いた大気圧下での質量分析イメージング法は、固体状の試料に対してイメージング質量分析を直接実行することができる。非極性分子(例えばトリテルペノイド)、揮発性分子(例えば芳香性ミクロ分子)、非揮発性分子(例えば脂質)を含む分子が本発明によって検出され得て、その分子イメージング・プロファイルを構築することができる。従って、本発明は様々な分野に適用でき、様々な器官や組織における分子の空間的分布を理解する上で基礎的なメディカルサイエンスに有用であり、特に病気診断や、正常組織と異常組織の識別において有利である。
最も実用的で且つ好適な実施形態であると考えられるものに関して本発明を説明したが、本発明は開示した実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神,及びあらゆる修正や同等の変更を包含する最も広い解釈の範囲に含まれる様々な変更に及ぶことを意味する。
Claims (8)
- 以下のステップを備える質量分析イメージング法。
連続的に生成される帯電液滴を、移動経路に沿って質量分析器のレシービングユニットに向けて移動させるステップ、
試料に含まれる分析物を脱離させて、複数の飛行経路の各々に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで前記試料を走査するステップ、および
前記複数の飛行経路のそれぞれに沿う前記複数の分析物がそれぞれ前記帯電液滴に閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、前記複数の飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めするステップ。 - 請求項1に記載の質量分析イメージング法において、
前記試料は、自立した形状を有していること。 - 請求項2に記載の質量分析イメージング法において、
走査ステップでは、前記レーザービームが予め定められたラインに沿って照射するように保持され、前記試料が、前記レーザービームに対して移動可能に設けられた試料台の上に配置されること。 - 請求項3に記載の質量分析イメージング法において、
前記レーザービームが光ファイバーユニットを通して伝送されること。 - 請求項4に記載の質量分析イメージング法において、
さらに、前記試料の複数の走査領域のそれぞれに対応するイオン化分析物を分析することにより、前記試料の複数の走査領域のマススペクトルをそれぞれ取得するステップを含むこと。 - 請求項5に記載の質量分析イメージング法において、
さらに、試料の特徴を示す少なくとも一つの代表的な質量−電荷比(m/z)信号を複数のマススペクトルから選び出すステップを含むこと。 - 請求項6に記載の質量分析イメージング法において、
さらに、前記複数の走査領域によって示される少なくとも一つの代表的な質量−電荷比信号のそれぞれの強さに基づき、試料のイメージング・プロファイルを構築するステップを含むこと。 - イメージング・プロファイルを得ることができ、イオン化分析物を分析するための質量分析器を含む質量分析システムであって、以下のものを備える質量分析システム。
質量分析器のためのレシービングユニット;
連続的に生じる帯電液滴を移動経路に沿って前記レシービングユニットに向かって移動させる手段;
試料に含まれる分析物を脱離させて複数の飛行経路に沿って飛行させるに十分な照射エネルギーを有するレーザービームで前記試料を走査する手段;及び
複数の飛行経路のそれぞれに沿う複数の分析物が前記帯電液滴にそれぞれ閉じ込められ、それによって対応するイオン化分析物が形成されるべく、複数の前記飛行経路と前記移動経路が交差するようにレーザービームを位置決めする手段。
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