JP2009040692A - ヒト末梢血由来cd133/cd34陽性細胞移植による筋損傷の修復 - Google Patents

ヒト末梢血由来cd133/cd34陽性細胞移植による筋損傷の修復 Download PDF

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Masakazu Ishikawa
正和 石川
Mitsuo Ochi
光夫 越智
Takayuki Asahara
孝之 浅原
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Abstract

【課題】瘢痕を抑制しつつ、筋損傷を効率的に修復するための方法および医薬を提供することを、本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、CD133陽性細胞および/またはCD34陽性細胞を筋損傷部位に投与した場合に、瘢痕を抑制しつつ、かつ、筋損傷を効率的に修復することを見いだし、CD133陽性細胞および/またはCD34陽性細胞を含有する薬学的組成物を提供すること、そして、CD133陽性細胞および/またはCD34陽性細胞を投与する工程を包含する治療法を提供することによって、解決された。
【選択図】なし

Description

本発明は、筋損傷の修復、および/または、損傷修復における瘢痕抑制のための医薬の分野に属する。
筋損傷は医療現場において、患者のQOLを妨げる重要な損傷であるが、手術療法の困難さ及び筋組織自身の自己修復能力の高さ等から保存療法が主体であり、この分野における研究、治療法開発は十分に進歩していない。特にこの分野の研究・開発は遅れている。
筋組織の自己修復はサテライト細胞、筋由来幹細胞によるとされているが(非特許文献1)、その修復能にも限界があり、すべての損傷部位が筋組織で再生されることは非常に困難であり、多くは瘢痕を形成する。これにより筋力が低下すると共に、瘢痕組織は力学的に脆弱であるため再損傷のターゲットとなる。国内外の筋再生における細胞療法のフォーカスは損傷部位に十分な筋由来幹細胞を供給することで再生を図ろうとするものが主であるが、再生に必要な細胞を外科的に採取しなければならず、さらに必要な細胞数を得るために培養も要するため非常に侵襲的で煩雑な操作となることが予想される。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
Jankowski RJ, Haluszczak C, Trucco M, Huard J., "Flowcytometric characterization of myogenic cell populations obtained via thepreplate technique: potential for rapid isolation of muscle-derived stemcells.", "Human Gene Therapy", アメリカ合衆国、Mary Ann Liebert, Inc.,publishers, 2001年4月10日、12(6):619-28
従って、瘢痕を抑制しつつ、筋損傷を効率的に修復するための方法および医薬が求められている。
そこで本発明者らは、血管内皮前駆細胞を含む細胞分画で、高い増殖能が確認されており、かつ臨床応用に移行し易いであろうと考える末梢血由来CD133/CD34陽性細胞に着目した。本発明者らの実験により、CD133陽性細胞移植が強力に筋再生を促進することを組織学的、電気生理学的に明らかにし、上記課題を解決した。
なお、末梢血由来CD133/CD34陽性細胞は血管再生のみならず心筋再生、骨再生、神経再生を促進することが明らかになってきている(IwasakiH. et al. Circulation 2006, Matsumoto T. et al. Am J Pathol. 2006)。しかしながら、末梢血由来CD133/CD34陽性細胞が筋損傷の修復に効果的であるか否かについての解析は、行われていない。また、整形外科領域における骨格筋損傷をターゲットとしたこの細胞群の細胞移植療法開発を目的とした研究報告はいまだない。
本発明によって、瘢痕形成を抑制しつつ、筋損傷の修復を行うことが、可能となる。さらに、本発明に使用する細胞群は末梢血中を通常循環しており、臨床の場で通常用いられている機器を用いて比較的容易に分離することができる。また、自己の細胞を利用することができるため、倫理的問題点が無く、臨床応用への移行が非常に容易であるとともに、決定的な治療法が存在しない筋損傷に対するブレークスルーになると考える。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において使用する場合、用語「筋損傷」とは、筋細胞を含む身体の部位、または、筋細胞からなる身体の部位の損傷をいう。本明細書において使用する場合、用語「損傷」とは、物理的、化学的、および/または、生物学的要因によって、筋細胞を含む身体の部位または筋細胞からなる身体の部位の少なくとも一部が、潰瘍、創傷、梗塞により壊死、変性、変形、破壊、ならびに/あるいは、(形状および/または機能を)喪失することをいう。
本明細書において使用する場合、用語「修復」とは、損傷された筋細胞を含む身体の部位または筋細胞からなる身体の部位が、少なくとも部分的に損傷前の状態に戻ることをいう。
本明細書において使用する場合、用語「CD133」とは、AC133と互換可能に使用される。
本明細書において使用する場合、用語「CD133陽性細胞」とは、抗CD133抗体と反応する細胞をいう。従って、このCD133陽性細胞とは、野生型CD133を発現する細胞のみならず、抗CD133抗体と反応する変異型CD133を発現する細胞をも包含する。CD133は、分子量120kDaの糖タンパク質抗原である(Yin AH. et al.、 Blood、 1997)。CD133抗原は、ヒト胎児肝臓、骨髄、及び血液由来のCD34陽性造血幹細胞/前駆細胞の表面に選択的に発現することが知られている。CD133抗体によって、コミットされていない全てのCD34陽性細胞及び顆粒球/単核球経路にコミットされたCD34陽性細胞が染色されるが、(CD34抗体では染色される)ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)や線維芽細胞は染色されない。従って、AC133は、未成熟・未発達な細胞集団のマーカーとして用いられている。例えば、特表2005−526482には、VEGFR−1抗体を用いて臍帯血、骨髄又は末梢血などから幹細胞を分離するプロセスの前段階または後段階として、CD133(またはCD34)を標識に分離することが記載されている。また、抗CD133抗体としては、例えば、市販の抗体(ミルテニー・バイオテク社、MiltenyiBiotech GmbH)が利用可能であるが、これに限定されない。
本明細書において使用する場合、用語「CD34陽性細胞」とは、抗CD34抗体と反応する細胞をいう。従って、このCD34陽性細胞とは、野生型CD34を発現する細胞のみならず、抗CD34抗体と反応する変異型CD34を発現する細胞をも包含する。また、抗CD34抗体としては、例えば、市販の抗体(ミルテニー・バイオテク社、Miltenyi Biotech GmbH)が利用可能であるが、これに限定されない。
本明細書において使用する場合、用語「瘢痕」とは、筋損傷を受けた組織が膠原線維や結合織に置き換わる事で修復された状態をいう。
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、細胞など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、細胞である場合、細胞外マトリクスのような細胞以外の因子および目的とする細胞以外の細胞など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」細胞には、標準的な精製方法によって精製された細胞が含まれる。したがって、単離された細胞は、形質転換した細胞を包含する。
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、細胞など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
本明細書において使用される場合、「キット」とは、複数の容器、および製造業者の指示書を含み、そして各々の容器が、本発明の薬学的組成物、その他の薬剤、およびキャリアを含む製品をいう。
本明細書において「薬学的に受容可能なキャリア」は、医薬または動物薬のような農薬を製造するときに使用される物質であり、有効成分に有害な影響を与えないものをいう。そのような薬学的に受容可能なキャリアとしては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、賦形剤および/または薬学的アジュバント。
本発明の処置方法において使用される細胞の種類および量は、本発明の方法によって得られた情報(例えば、疾患に関する情報)を元に、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、投与される被検体の部位の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明のモニタリング方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。疾患状態をモニタリングする頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)のモニタリングが挙げられる。1週間−1ヶ月に1回のモニタリングを、経過を見ながら施すことが好ましい。
必要に応じて、本発明の治療では、2種類以上の薬剤が使用され得る。2種類以上の薬剤を使用する場合、類似の性質または由来の物質を使用してもよく、異なる性質または由来の薬剤を使用してもよい。このような2種類以上の薬剤を投与する方法のための疾患レベルに関する情報も、本発明の方法によって入手することができる。
(薬学的組成物)
本発明の細胞を含む組成物は、種々の癌などの治療および/または予防のための薬学的組成物の成分としても使用することが可能である。
本明細書において薬剤(すなわち、細胞)の「有効量」とは、その薬剤が目的とする薬効が発揮することができる量をいう。本明細書において、そのような有効量のうち、最小の濃度を最小有効量ということがある。そのような最小有効量は、当該分野において周知であり、通常、薬剤の最小有効量は当業者によって決定されているか、または当業者は適宜決定することができる。そのような有効量の決定には、実際の投与のほか、動物モデルなどを用いることも可能である。本発明はまた、このような有効量を決定する際に有用である。
本明細書において「薬学的に受容可能なキャリア」は、医薬または動物薬のような農薬を製造するときに使用される物質であり、有効成分に有害な影響を与えないものをいう。そのような薬学的に受容可能なキャリアとしては、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。
本発明の薬学的組成物を調製する場合、その組成物に含まれる細胞の濃度としては、1X104細胞/ml、好ましくは1X106細胞/ml、より好ましくは5X106細胞/mlが挙げられるが、これに限定されない。
本発明の薬学的組成物は、移植に適するように、処方され得る。細胞を移植するための医薬組成物を調製するためのキャリアとしては、PBS(Phosphate Buffered Saline)挙げられる。また、CD133陽性細胞移植の際には、その効果を妨げない限り、薬学的に許容できる任意の担体と混合して移植することができる。薬学的に許容できる担体としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、及び以下の実施例で用いたアテロコラーゲンなどが挙げられる。薬学的に許容できる任意の担体はまた、当該分野で周知の少量の補助物質を含み得る。本発明のCD133陽性細胞はまた、当該分野で周知の技術を用いて、迅速な放出、持続的な放出、または遅延放出を達するよう処方され得る。CD133陽性細胞はまた、筋再生治療の単独の成分として十分な効果を発揮するが、状況に応じて他の有効成分と組み合わせて使用することも考えられる。他の成分と併用する場合であっても、CD133陽性細胞が本明細書に記載されるのと同等の効果を奏する以上、それは本発明の実施に該当するものと解釈されるべきである。
上記CD133陽性細胞の移植に関する手順は、CD34陽性細胞にも使用することができる。
投与する薬学的組成物の量は、その筋欠損の程度、投与される位置、使用する薬学的組成物中の細胞の濃度などに依存する。
本発明においては、以下が提供される。
(項目1) CD133陽性細胞を含有する、筋損傷を修復するための薬学的組成物。
(項目2) 前記筋損傷が骨格筋損傷である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目3) 前記CD133陽性細胞がヒト末梢血由来である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目4) 移植用である、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目5) さらにCD34陽性細胞を含有する、項目1に記載の薬学的組成物。
(項目6) 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、項目5に記載の薬学的組成物。
(項目7) CD133陽性細胞を含有する、瘢痕を抑制するための薬学的組成物。
(項目8) 前記瘢痕が筋組織中の瘢痕である、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目9) 前記瘢痕が骨格筋組織中の瘢痕である、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目10) 前記瘢痕が骨格筋損傷によって生じる瘢痕である、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目11) 前記CD133陽性細胞がヒト末梢血由来である、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目12) 移植用である、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目13) さらにCD34陽性細胞を含有する、項目7に記載の薬学的組成物。
(項目14) 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、項目13に記載の薬学的組成物。
(項目15) CD34陽性細胞を含有する、筋損傷を修復するための薬学的組成物。
(項目16) 前記筋損傷が骨格筋損傷である、項目15に記載の薬学的組成物。
(項目17) 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、項目15に記載の薬学的組成物。
(項目18) 移植用である、項目15に記載の薬学的組成物。
(項目19) CD34陽性細胞を含有する、瘢痕を抑制するための薬学的組成物。
(項目20) 前記瘢痕が筋組織中の瘢痕である、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目21) 前記瘢痕が骨格筋組織中の瘢痕である、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目22) 前記瘢痕が骨格筋損傷によって生じる瘢痕である、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目23) 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目24) 移植用である、項目19に記載の薬学的組成物。
(移植用細胞の単離)
(1.CD133陽性細胞の調製)
CD133陽性細胞は末梢血や臍帯血、胎盤血又は骨髄などから採取することができる。実際に臨床の場で使用する場合は、取得の容易さやドナーへの負担などを考慮して、末梢血を供給源として利用するのが適しているし、末梢血を利用することで本発明の利益を最大限に享受することができる。しかし、本発明は、筋再生治療にCD133陽性細胞を使用することを特徴とするものであり、CD133陽性細胞の供給源が何であるかによって限定されるべきではないことを認識されたい。
CD133陽性細胞群をその供給源(例えば、末梢血)から分離する方法としては、当業者に周知の磁気細胞分離法(MACS:MagneticCell Sorting)、蛍光標識細胞分離法(FACS:Fluorescence Activated Cell Sorting)などが挙げられる。MACSについては、例えば、ミルテニー・バイオテク社(MiltenyiBiotech GmbH)が、FACSについては、例えば、ベクトン・ディッキンソン社(Becton、 Dickinson and Company)が、それぞれこれらの方法を実施するのに必要な試薬・機器等を供給しているので、詳細についてはそちらを参照されたい。
CD133陽性細胞の由来は、自己(auto)、同種異系(allo)、および異種(zeno)のいずれであってもよいが、本発明をヒトの治療に適用する場合、好ましくは、自己由来または同種異系由来であり、最も好ましくは、自己由来の細胞を用いる。異種供給源としては、ブタ、サル、およびその他の哺乳動物が挙げられる。
CD133陽性細胞は、上記いずれかの供給源(例えば、自己または他者(ドナー)の末梢血)から採取したものを、直接的に移植に使用することもでき、また、一旦、生体外で培養増殖した後に移植してもよい。
CD133陽性細胞は、細胞懸濁液として得ることができるので、様々な様式で移植することが可能である。例えば、細胞懸濁液の治療部位への注入や、抗原性の無いアテロコラーゲンゲルなどの担体に充填して局所注入する方法を用いることができる。
また、本発明の薬学的組成物は、急性期、すなわち、受傷後数時間以内に用いることが好ましいが、慢性期、すなわち、受傷後数年が経過した場合に用いることもできる。
なお、市販のCD133陽性細胞を購入してもよい(例えば、G-CSF動員末梢血由来CD133陽性細胞を購入)。
(2.CD34陽性細胞の調製)
上記のCD133細胞の調製には、本願発明のCD34細胞の調製法を用い、CD34の発現を指標に、単離することができる。また、市販のCD34陽性細胞を購入してもよい。
(瘢痕形成の測定法)
本発明の薬学的組成物の効果を測定する指標としては、例えば、瘢痕形成の抑制の程度が挙げられるが、これに限定されない。瘢痕形成の程度は、例えば、本発明の薬学的組成物を投与した筋損傷部位と、ネガティブコントロール(例えば、薬学的組成物を調製するために使用されたキャリアのみ)を投与した筋損傷部位とについて、マッソントリクローム染色により瘢痕組織の範囲の定量化、もしくは再生筋組織の定量化が可能であり、また、瘢痕形成のマーカー(例えば、Vimentin)の量を、例えば免疫組織染色によって比較し、瘢痕形成減少の指標とすることが可能である。
(筋再生形成の測定法)
本発明の薬学的組成物の効果を測定する指標としては、例えば、筋再生(例えば、骨格筋再生)の程度が挙げられるが、これに限定されない。筋再生の程度は、例えば、本発明の薬学的組成物を投与した筋損傷部位と、ネガティブコントロール(例えば、薬学的組成物を調製するために使用されたキャリアのみ)を投与した筋損傷部位とについて、筋再生のマーカー(例えば、Desmin)の量を、例えば免疫組織染色によって比較し、筋再生の指標とすることが可能である。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
(実施例1;免疫不全ラット骨格筋損傷モデルへのCD133陽性細胞の移植)
本実施例では免疫不全ラット骨格筋損傷モデルを用いて、ヒト末梢血由来CD133陽性細胞の筋再生能力を検討した。
骨格筋損傷モデルは以前に報告された方法を修正し作成した(Natsu K et al. Tissue Engineering 2004)。免疫不全ラットであるヌードラット(8週齢)に、ペントバルビタールナトリウム(30mg/kg)を腹腔内注射して麻酔し、右前脛骨筋を露出させて、中央に長さ6mm、幅4mm、深さ5mmの筋損傷を作成した。筋膜を縫合後、PBS50μlに懸濁したCD133陽性細胞1×10個(Cambrex社;G-CSF動員末梢血由来CD133陽性細胞)を損傷部に移植した。また、対照群として、別のラットで筋損傷を作成し、PBSのみを欠損部に注射した。それぞれの群に対し移植後1、4週にて、肉眼的評価、組織学的評価、電気生理学的評価を行った。
(実施例2;移植部の肉眼的評価)
移植後1週目、および4週目に、CD133細胞移植部、および対象(PBS注入)を肉眼的に評価した。結果を図1に示す。結果から明らかなように、細胞移植群では欠損部の陥凹が少なかった。
(実施例3;組織学的評価−1)
移植後1週目、および4週目に、組織学的評価として、常法に従いマッソントリクローム染色を行い、瘢痕組織を可視化して、顕微鏡(40倍)にて観察した。結果を図2に示す。青く染まった領域は瘢痕であり、赤く染まった領域は筋組織である。対象(PBS注入)と比較して、細胞移植群では損傷部の瘢痕組織形成が少なく、大部分を筋組織が占めていた。
次に、移植後1週目、および4週目に、組織学的評価として、常法に従い、血管をイソレクチンB4で染色した。図3Aは、顕微鏡写真(200倍)である。血管径を計測し比較した結果を図3Bに示す。細胞移植群では再生組織部における血管径が有意に大きいことが明らかである。
(実施例4;組織学的評価−2)
種々のマーカータンパク質に対する標識化抗体を用いて、種々のマーカータンパク質の発現を検出した。瘢痕形成のマーカーとして抗ビメンチン抗体を選択し、筋再生のマーカーとして抗デスミン抗体を選択し、移植細胞による再生筋組織のマーカーとして抗ヒトミトコンドリア抗体を選択した。対象(PBS注入)およびCD133陽性細胞注入部について、抗ビメンチン抗体を用いた蛍光顕微鏡での観察結果を図4に、抗デスミン抗体を用いた蛍光顕微鏡での観察結果を図5に示した。抗DAPI抗体、抗デスミン抗体、および、抗ヒトミトコンドリア抗体を用いた蛍光顕微鏡での観察結果を図6に示した。各写真の倍率を、各写真の右下に記載する。抗ビメンチン抗体を用いた場合、CD133陽性細胞移植部において瘢痕形成が少ないことが示された(図4)。抗デスミン抗体を用いた場合、CD133陽性細胞移植部において筋再生が活発であることが示された(図5)。抗DAPI抗体、抗デスミン抗体、および、抗ヒトミトコンドリア抗体を用いた場合、再生筋組織内に抗ヒトミトコンドリア抗体で染色される細胞が認められた(図6)。
(実施例5;電気生理学的評価)
電気生理学的評価として、前脛骨筋の等尺性収縮時における筋力を測定した。測定は、単一の活動電位による収縮である単収縮と、10~100Hz程度の頻度で繰り返す活動電位による収縮である強縮について行った。測定条件は、単収縮の場合、周波数1Hz・電圧10Vを使用し、強縮の場合、周波数50Hz・電圧10Vを使用した。刺激電極を、腓骨神経を刺激するように挿入し(図7)、活動電位を印加した。健側と損傷側の両方の筋力(N)を計測しその患健側比を算出した。結果を図8に示す。縦軸は、患健側比である。単収縮および強縮ともに、細胞移植群で有意な筋力の改善を認めた。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明に従って、瘢痕形成を抑制しつつ、筋損傷の修復を行う薬学的組成物が提供される。また、瘢痕形成を抑制しつつ、筋損傷の修復を行う方法もまた提供される。
図1は、移植後1週目および4週目の、CD133細胞移植部および対象(PBS注入)の写真である。 図2は、移植後1週目および4週目に、マッソントリクローム染色し、顕微鏡観察(40倍)した写真である。 図3Aは、移植後1週目および4週目に、血管をイソレクチンB4で染色し、顕微鏡観察(200倍)した写真である。図3Bは、血管径を計測し比較した結果である。 図4は、抗ビメンチン抗体を用いた蛍光顕微鏡での観察結果である。 図5は、抗デスミン抗体を用いた蛍光顕微鏡での観察結果である。 図6は、抗DAPI抗体、抗デスミン抗体、および、抗ヒトミトコンドリア抗体を用いた蛍光顕微鏡での観察結果である。 図7は、実施例5において使用した、刺激電極を腓骨神経を刺激するように挿入た写真である。 図8は、移植後1週目および4週目の、単収縮および強縮をした場合の、患健側比である。

Claims (24)

  1. CD133陽性細胞を含有する、筋損傷を修復するための薬学的組成物。
  2. 前記筋損傷が骨格筋損傷である、請求項1に記載の薬学的組成物。
  3. 前記CD133陽性細胞がヒト末梢血由来である、請求項1に記載の薬学的組成物。
  4. 移植用である、請求項1に記載の薬学的組成物。
  5. さらにCD34陽性細胞を含有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
  6. 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、請求項5に記載の薬学的組成物。
  7. CD133陽性細胞を含有する、瘢痕を抑制するための薬学的組成物。
  8. 前記瘢痕が筋組織中の瘢痕である、請求項7に記載の薬学的組成物。
  9. 前記瘢痕が骨格筋組織中の瘢痕である、請求項7に記載の薬学的組成物。
  10. 前記瘢痕が骨格筋損傷によって生じる瘢痕である、請求項7に記載の薬学的組成物。
  11. 前記CD133陽性細胞がヒト末梢血由来である、請求項7に記載の薬学的組成物。
  12. 移植用である、請求項7に記載の薬学的組成物。
  13. さらにCD34陽性細胞を含有する、請求項7に記載の薬学的組成物。
  14. 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、請求項13に記載の薬学的組成物。
  15. CD34陽性細胞を含有する、筋損傷を修復するための薬学的組成物。
  16. 前記筋損傷が骨格筋損傷である、請求項15に記載の薬学的組成物。
  17. 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、請求項15に記載の薬学的組成物。
  18. 移植用である、請求項15に記載の薬学的組成物。
  19. CD34陽性細胞を含有する、瘢痕を抑制するための薬学的組成物。
  20. 前記瘢痕が筋組織中の瘢痕である、請求項19に記載の薬学的組成物。
  21. 前記瘢痕が骨格筋組織中の瘢痕である、請求項19に記載の薬学的組成物。
  22. 前記瘢痕が骨格筋損傷によって生じる瘢痕である、請求項19に記載の薬学的組成物。
  23. 前記CD34陽性細胞がヒト末梢血由来である、請求項19に記載の薬学的組成物。
  24. 移植用である、請求項19に記載の薬学的組成物。
JP2007204732A 2007-08-06 2007-08-06 ヒト末梢血由来cd133/cd34陽性細胞移植による筋損傷の修復 Withdrawn JP2009040692A (ja)

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