JP2009025234A - 硬組織の評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】X線回折法に基づいて硬組織を評価する際に、硬組織を破壊することなく測定を行うことができるようにし、もって、硬組織の評価を簡単且つ短時間で行えるようにする。
【解決手段】X線源1から出射したX線を硬組織4に入射させ、硬組織4で回折して硬組織4の透過側に出射したX線をX線検出器5で検出する硬組織の評価方法である。X線源1はMoKα線以上のエネルギを有する特性X線を発生し、硬組織4は自身の長手方向にc軸配向した性質を有し、硬組織4は自身の長手方向がX線の光軸と交差するように配置され、X線検出器5はc軸に対応する格子面である(002)面で回折した回折線の子午線A−A方向の強度を検出し、さらにX線検出器5は参照面である(310)面で回折した回折線の子午線A−A方向の強度を検出し、参照面と(002)面の回折線強度との比較に基づいて硬組織を評価する。
【選択図】図1

Description

本発明は、生体骨、生体歯等といった生体硬組織、人工骨等といった骨補てん材料、骨置換材料等といった硬組織代替材料等といった硬組織の評価方法に関する。特に、本発明は、X線回折法に基づいた硬組織の評価方法に関する。
従来、X線回折法を用いて硬組織を評価する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。この従来の方法においては、(1)硬組織を構成する結晶の結晶軸のうちのa軸及びc軸の配向性を判断できるようにX線の入射方向と試料表面との角度を設定し、(2)c軸の配向性を知りたい場合には、ブラッグ角度2θが26°前後の回折線を用い、そして(3)a軸、c軸及びそれ以外の方向に対する回折強度を比較することにより、硬組織の内部の結晶の配向性を測定し、その配向性に基づいて硬組織を評価している。
特許文献1の段落[0019]には、(002)と(310)面からの回折強度は、それぞれa軸、c軸の配向の強さを示すため、その比を取ることで、相対的な配向性が解析可能である、と記載されている。なお、a軸が(310)面に対応し、c軸が(002)面に対応する。そして、段落[0020]には、c軸の配向性を知りたい場合には、ブラッグ角度2θが26°前後の回折線を用いればよい、と記載されている。これらの記載から判断すれば、特許文献1には、X線としてCuKα線(波長1.54Å)の特性線を用い、試料で反射した状態の回折線の強度を検出する構造の、いわゆる反射法の回折法に基づいて回折線の強度を測定していることが明らかである。
特開2003−121390(第2〜4頁、図1、図2) 中野貴由他7名,「再生医学と材料工学の融合 HAp結晶の配向性を利用した生体硬組織の評価」,BOUNDARY,日本,2001年8月15日,第17巻第8号,第10−13頁
上記のような反射法の回折法を用いる場合には、透過法の回折法(すなわち試料の透過側に配置したX線検出器によって回折線を検出する方法)を用いる場合とは異なって、測定対象である硬組織、例えば骨を切断することにより、X線を入射させる面を外部に露出させなければならない。骨の評価を行う場合、測定者は骨の長手方向における回折線の強度分布を測定することが多い。この場合、反射法の回折法に基づいて測定を行うときには、骨を多数の薄い片に切断した上で、それらの切片の1つ1つに対して測定を繰り返して行わなければならなかった。この作業は非常に面倒であり、しかも測定結果にばらつきが発生し易かった。
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、X線回折法に基づいて硬組織を評価する際に、その硬組織を破壊することなく測定を行うことができるようにすることを目的とする。そして、そのように非破壊での測定を可能とすることにより、測定を簡単且つ短時間で行えるようにし、しかも硬組織のうちの異なった複数の部位に対する測定を簡単且つ短時間に行えるようにすることを目的とする。
本発明に係る硬組織の評価方法は、X線源から出射したX線を硬組織に入射させ、該硬組織で回折して該硬組織の透過側に出射したX線をX線検出手段で検出し、前記X線源はMoKα線以上のエネルギを有する特性X線を発生し、前記硬組織は自身の長手方向にc軸配向した性質を有しており、前記硬組織は自身の長手方向がX線の光軸と交差するように配置され、前記X線検出手段のX線受光面において前記硬組織の長手方向と平行であってX線の光軸を通る線を子午線とするとき、前記X線検出手段は、前記c軸に対応する格子面である(002)面で回折した回折線の前記子午線方向の強度を検出し、前記X線検出手段は、(002)面以外の格子面である参照面で回折した回折線の前記子午線方向の強度を検出し、前記参照面の回折線強度と前記(002)面の回折線強度との比較に基づいて硬組織を評価することを特徴とする。
硬組織とは、例えば、生体硬組織、骨補てん材料、硬組織代替材料等である。生体硬組織とは、例えば生物の骨や歯である。骨補てん材料とは、例えば人工骨である。硬組織代替材料とは、例えば骨置換材料である。硬組織は、一般に、多数の六方晶系の結晶が配列することによって形成されている。骨に代表されるように、硬組織には一定方向から荷重が加わることが多い。例えば、生物の大腿骨にはその長手方向に荷重が加わることが多い。正常な硬組織に関しては、力学的に荷重がかかる方向に結晶のc軸が配向している。もちろん、硬組織は骨に代表されるように正確に直線状の物質ではないので、その内部の結晶がどの部分でも正確に骨の長手方向にc軸配向しているわけではない。しかしながら、適宜の長さを有する硬組織の中央の所定領域内では、結晶が硬組織の長手方向にほぼ正確にc軸配向していると考えられる。
硬組織代替材料とは、例えば(1)アパタイトセラミックスやアルミナセラミックスに代表される非金属無機材料、(2)ステンレス鋼、Co−Cr合金、チタン合金等といった金属材料である。さらに、セラミックスには、生体活性セラミックスや生体不活性セラミックスがある。さらに、生体活性セラミックスには、リン酸カルシウム系セラミックス、シリカ系ガラス、結晶化ガラス等がある。さらに、リン酸カルシウム系セラミックスとして、例えばヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム等がある。ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム等は、例えば人工歯根、皮膚端子、金属コーティング材等として使われている。
本発明に係る硬組織の評価方法は、硬組織を構成する結晶の配向をX線回折強度によって分析し、その分析された結晶の配向に基づいて硬組織を評価するものである。ここで、結晶の配向とは、高分子固体を構成する単位組織(微結晶)が一定方向に配列することである。また、配向には、面配向、一軸配向、らせん配向、二重配向等の種類が考えられる。
面配向は、例えばポリエチレンフィルムに見られるものであり、c軸がフィルム面内にあってそれ以外には配向性がないものである。一軸配向は、c軸が繊維方向に配向するものである。らせん配向は、例えば木綿、麻に見られるものであり、c軸が繊維方向と一定の傾きを持つものである。そして、二軸配向は、ある結晶面が繊維軸を含む一定の面に平行なものである。
例えば、正常な硬組織の配向性を予め調べておき、評価の対象である試料、例えば硬組織代替材料の配向性をX線回折法に基づいて調べ、それらの配向性を比較すれば、硬組織代替材料が正常か、正常でないかの評価を行うことができる。例えば、硬組織の代表的な成分であるヒドロキシアパタイトの配向性をX線回折法に基づいて調べ、正常なものと再生中のものとを比較することにより、ヒドロキシアパタイトの再生過程を知ることができる。
結晶の回折強度と結晶の配向性との関係について説明すれば、例えば(002)面からの回折線強度は結晶軸の1つであるc軸の配向の強さを示すものである。また、(100)面や(300)面は結晶軸の他の1つであるa軸の配向の強さを示すものである。但し、(100)面や(300)面からの回折ピークは回折プロファイル(すなわちX線回折図形)上で他の回折ピークと重なり合ってしまうため正確な強度を示さないおそれがあるので、(100)面や(300)面に代えて(310)面からの回折線強度をa軸の配向強さを示す参照面であると考えるのが実用的である。
考え方によっては、測定対象の硬組織に関して、c軸の配向強さを示す(002)面からの回折線強度だけを測定し、その測定値を標準の硬組織の(002)面からの回折線強度と比較すれば、測定対象の硬組織に関する評価を行うことができるとも考えられる。しかしながら、(002)面からの回折線強度、あるいはその他の種々の格子面からの回折線強度は複数の硬組織間でバラツキがある。つまり、複数の硬組織の個体間でバラツキがある。そこで、回折線強度を比較するに際しては、単に(002)面における回折線強度を比較するのではなく、基準となる参照面を予め決めておいて、その参照面からの回折線の強度を測定し、(002)面の強度と参照面の強度との比を計算し、得られた強度比に基づいて結晶の配向性を分析することが望ましい。これにより、複数の硬組織間での個体間のバラツキを解消できる。この場合、参照面は特別の格子面に限られるものではないが、例えば上記のように、回折ピークの特定が容易である(310)面を選定することが望ましい。
本発明によれば、CuKαよりもエネルギが高いMoKα線を用いるので、硬組織の透過側に強い回折線を得ることができ、しかも波長が短いために回折角2θが低角度になるので、透過法に基づいたX線回折法を行うことが可能である。そして、透過法によるX線回折法においては、骨組織をスライスによって破壊する必要が無く、短時間に簡単に測定を行うことができ、しかも骨組織を破壊されていないそのままの状態で保存できる。さらに、骨組織を破壊しないで済むので、骨組織の長手方向の分析を行う場合には、スライスによって複数の骨の薄片を試料片として形成することなく、単に骨組織を長手方向に所定間隔ずつ、ずらして測定を行えば良い。このため、測定処理が極めて簡単であり、測定の精度も高めることができる。
次に、本発明に係る硬組織の評価方法においては、前記硬組織を位置不動に支持した状態で、前記(002)面の回折線強度及び前記参照面(例えば(310)面)の回折線強度を検出することが望ましい。入射X線に対する硬組織の角度を変えることなく一定に固定した状態で、(002)面や参照面からの回折線の強度測定を連続して行うことにすれば、回折線強度比データを短時間で得ることができる。通常のX線回折の当業者であれば、(002)面の回折線を求めるといえばX線測定系を(002)面に適合した回折条件に設定し、他方、(310)面の回折線を求めるといえばX線測定系を(310)面に適合した回折条件に設定し直す、というのが一般的である。しかしながら、このような測定方法では測定時間が非常に長くかかってしまう。これに対し、硬組織の姿勢及びX線測定系の条件を一定に固定した状態で(002)面及び参照面の回折線強度を測定することにすれば、測定処理が非常に簡単であり、測定時間が非常に短くて済む。
次に、本発明に係る硬組織の評価方法において、前記X線検出手段は平面内での位置分解能を有する2次元X線検出手段であることが望ましい、こうすれば、前記(002)面の回折線強度及び前記参照面の回折線強度は前記2次元X線検出手段のX線受光面内の異なる位置で同時に検出される。この構成により、回折線強度比データを短時間で得ることができる。
次に、本発明に係る硬組織の評価方法においては、前記硬組織の長手方向が鉛直方向とほぼ平行になるように当該硬組織を立てて配置し、且つ前記X線源から前記硬組織へX線を当該硬組織に対して垂直方向(すなわち前記鉛直方向に対する水平方向から)入射させることが望ましい。この構成によれば、不定形な硬組織を安定した状態で支持することができ、しかも測定の再現性を高く維持できる。前記硬組織の長手方向を鉛直方向に設定し、X線を硬組織へ垂直方向から入射させる場合には、c軸に対応する格子面である(002)面から最も強い回折線を検出していない状態であると考えられるが、硬組織の回折線に基づいた極点図の分布はブロードなプロファイルを呈するので、評価の結果に間違いが生じる心配はない。
次に、本発明に係る硬組織の評価方法においては、前記硬組織を自身の長手方向に移動させることにより、硬組織に入射するX線の位置を当該長手方向で変化させることが望ましい。これにより、試料である硬組織を試料台上で固定状態に置いたままで、硬組織の長手方向の結晶の配向性のデータを連続的に採取できる。
次に、本発明に係る硬組織の評価方法において、前記参照面は(310)面であることが望ましい。参照面は複数の硬組織間の個体間のバラツキを解消するために設定される格子面であり、基本的には、(002)面と直角でありc軸から遠く離れた格子面であることが望まれる。この意味からすれば、(100)面や(300)面であることが合理的であると考えられるが、(100)面や(300)面は回折線プロファイル上で他の回折ピークと切り離して読取ることが難しいピークであり、これに対して(310)面は回折線プロファイル上で他のピークから離れて単独で存在するので、参照強度として好適である。
次に、本発明に係る硬組織の評価方法において、前記硬組織は生物の骨であり、当該骨は自身の長手方向にc軸配向していることが望ましい。本発明は、この種の骨の結晶の配向性を非常に短時間で正確に測定することができる。特に、長手方向の分布を測定することに関して、非常に有利である。
本発明に係る硬組織の評価方法によれば、エネルギが高いMoKα線を用いるので、硬組織の透過側に強い回折線を得ることができ、しかも波長が短いため回折角2θが低角度になるので、透過法に基づいたX線回折法を行うことが可能である。そして、透過法によるX線回折法においては、骨組織をスライスによって破壊する必要が無く、短時間に簡単に測定を行うことができ、しかも骨組織を破壊されていないそのままの状態で保存できる。さらに、骨組織を破壊しないで済むので、骨組織の長手方向の分析を行う場合には、スライスによって複数の骨の薄片を試料片として形成することなく、単に骨組織を長手方向に所定間隔ずつ、ずらして測定を行えば良い。このため、測定処理が極めて簡単であり、測定の精度も高めることができる。
以下、本発明に係る硬組織の評価方法を一実施形態に基づいて説明する。図1はその評価方法を実現するX線測定系の一実施形態を示している。この実施形態では、硬組織の一例である生体骨、特にマウスの大腿骨を評価する場合を例示する。同図において、X線源1から放射されたX線はモノクロメータ2によって単色化され、コリメータ3で平行化された後、試料である硬組織4に照射される。硬組織4を構成する結晶の格子面と入射X線との間でブラッグの回折条件が満たされると回折線が発生し、その回折線がX線検出器5を露光する。
X線源1はMoKα(波長約0.71Å)の特性X線を発生する。それ以上のエネルギを有する特性X線、例えばAgkα(波長約0.56Å)であっても良い。モノクロメータ2はグラファイトの単結晶によって形成することができる。モノクロメータ2はX線源1から放射されたX線からMoKαの特性線を選択的に取り出す。なお、モノクロメータ2に代えてMoKαを透過させることができるフィルタを用いることもできる。コリメータ3は2つのスリットを並べてなる、いわゆるダブルスリットコリメータによって構成されている。一対のスリットのそれぞれの径は例えば直径0.3mmである。
硬組織4は本実施形態では図2(a)及び(b)に示すようなマウスの大腿骨である。(a)は大理石骨病にかかったマウスの大腿骨(OP/OP)であり、(b)は正常なマウスの大腿骨(control)である。大理石骨病の大腿骨の長さL1はL1=14.6mmであり、正常な大腿骨の長さL2は16.9mmであった。これらの骨4はいずれか1つが選択されて測定に供される。一般に骨は六方晶系の結晶によって形成されている。通常、結晶系は3つの結晶軸であるa軸、b軸、及びc軸によって規定される。正常な骨の内部においては、結晶のc軸が骨の長手方向に一致するように多数の結晶が並んでいる。つまり、骨4は力学的に荷重がかかる長手方向にc軸配向するという性質を持っている。もちろん、骨4は正確に直線状の形状を有しておらず、不定形に曲がった状態であることが多いが、長手方向とは骨4が全体的に延びる方向のことである。
図1に示すX線測定系において、X線源1からX線検出器5の中心に至るX線の中心軸線、いわゆるX線光軸を含む水平面は測定の基準となる平面であり、この面は赤道面と呼ばれている。本実施形態では水平面を赤道面としているが、場合によっては水平面から適宜に傾いた面を赤道面とする場合もある。そして、X線検出器5のX線受光面において、赤道面に直交しX線光軸を通る線A−Aは子午線と呼ばれている。図1において矢印XYZで3次元方向が示されているが、XY平面は赤道面と平行な面であり、Z方向は子午線と平行の方向である。本実施形態では、c軸配向の方向である骨4の長手方向がX線光軸と交差するように、特にほぼ直角に交差するように骨4が固定配置されている。
図1において、矢印Proは生物の体の中央に向かう方向を示し、矢印Disは末端方向を示し、矢印Antは体の前方を示し、矢印Posは体の後方を示し、矢印Medは体の内側方向を示し、そして矢印Latは体の外側方向を示している。
試料である骨4は、その長手方向が垂直方向となるように、つまり結晶のc軸方向が垂直方向となるように固定状態に配置されている。そして、水平方向からX線が骨4に入射する。骨4をその長手方向が垂直方向となるように固定する方法は自由である。例えば、チャック機構を備えた試料支持装置によって支持しても良いし、粘土等といった固着剤によって骨4を支持台上に固定しても良い。本実施形態では、X−Yの水平面内で平行移動できると共にその水平面に対して直角のZ方向にも平行移動できる支持機構、すなわち3次元空間内で水平移動できる支持機構によって骨4が支持されている。X−Y平面内の平行移動は骨4のセンタリング、すなわち骨4の所望の測定点をX線光路上にセットするための移動である。また、Z方向への平行移動は骨4の測定点を骨4の長手方向で変化させるための移動である。
X線検出器5は、平面内で位置分解能を有する2次元X線検出器であり、例えば、X線受光面が一様な厚さの蓄積性蛍光体の層によって形成された検出器プレートや、2次元CCDセンサを備えた2次元X線検出器によって構成できる。2次元CCDセンサはX線を直接に検出するCCDX線センサであっても良いし、蛍光体によってX線を光に変換した後にその光を検出するCCD光センサであっても良い。図1では、蓄積性蛍光体によって構成された検出器プレートを用いるものとする。この検出器プレート5のX線受光面がX線像によって露光されると、そのX線像に対応したエネルギ像が蓄積される。そして、所定の読取り装置によってレーザ光等といった輝尽励起光で検出器プレート5のX線受光面を走査すると、輝尽励起光が照射された部分のエネルギ像が発光し、この発光をホトマルチプライヤ等といった光電変換器によって読取ることにより、検出器プレート5に蓄積されたX線像を読取ることができる。符号6はダイレクトビームストッパを示している。
図3は、骨4と同じ材料の無配向の試料にMoKαを入射させたときに得られたX線プロファイルを示している。横軸が回折角度2θで縦軸が回折線強度を示している。このプロファイルから分かるように、骨4にMoKα線を照射すると、回折角度2θ=12.0°のところに(002)面の回折線が得られ、2θ=18.0°のところに(310)面の回折線が得られる。
従って、図1において、c軸が垂直方向となるように固定された骨4に水平方向からX線を入射させたとき、検出器プレート5のX線受光面上の2θ=12.0°のリング軌跡上に(002)面の回折線が得られ、2θ=18.0°のリング軌跡上に(310)面の回折線が得られる。図1の骨4内に描かれた符合7で示す複数の平行線は(002)面を模式的に表示している。MoKαの入射X線が水平方向から入射する場合、(002)面の回折線で最も強度の強いものが符号7で示す(002)面から発生する。この状態の(002)面は、(002)面の回折ピークが2θ=12.0°のところに現れることを考慮すれば、θ=6.0°である。
本測定では骨4のc軸方向の配向を知りたいわけであり、その意味ではθ=6.0°ではなく、θ=0°に在る(002)面の回折強度を測定することが合理的である。しかしながら、実験的にθ=6.0°とθ=0°の配向性にはほとんど変化はなく、θ=0°の回折強度に代えてθ=6.0°の回折強度を利用しても、評価の結果は実用的には変わりがないことが分かった。以下、この点について説明する。
図4(a)は骨4と同じ材料の無配向試料に関する(002)面の一般的な極点図形を示している。図4(b)は図4(a)の横軸B−Bに沿った極点図形の断面プロファイルを示している。図4(a)及び図4(b)から分かるように、試料の傾き角度αがα=0°のときと、α=6.0°のときと、α=9.0°のときの回折線強度I(0)、I(6)、I(9)にはほとんど差が無い。つまり、骨4の回折線は非常にブロード(幅広)である。このため、α=0°に代えてα=6.0°の回折線を測定点としても結果的には大きな差が出ないということである。
このことは、図5のグラフからも分かることである。図5は、図1のX線測定系を用いて、図2(b)の正常骨(control)及び図2(a)の大理石骨病の骨(op/op)のぞれぞれに関して、骨の傾き角度χ(横軸)を変化させながら、(002)面と(310)面の回折線強度比を測定した実験の結果のグラフである。このグラフから分かるように、正常骨(曲線E)であっても大理石骨病の骨(曲線F)であっても、傾きχ=0°のときの強度比と傾きχ=6.0°のときの強度比にはほとんど差が無く、傾き0°に代えて傾き6.0°の回折線を測定点としても結果的には大きな差が出ないということが分かった。
なお、図4(b)において、鎖線Gは本実施形態で参照面として用いられている(310)面の極点図形の断面プロファイルを参考として示している。この断面プロファイルの元となる極点図形の図示は省略している。(310)面の回折線強度は傾き角αの高角度領域に強いピークを有し、傾き角αが0°の近傍で強度が弱くなっている。本実施形態では、(310)面の回折線強度と(002)面の回折線強度の比をとることにしているが、(002)面の回折線強度も(310)面の回折線強度も図1の子午線A−Aの部分の強度を読んでいるので、結果的には、図4(b)のα=6.0°のところのIaとIbとを測定したことになっている。
なお、図4(c)は配向性が非常に高い金属材料の極点図形の断面プロファイルを参考のために描いてある。このように、配向性の高い物質に関しては、格子面の傾き角度が6°や9°程度の小さい角度だけ傾いた場合であっても回折線強度は大きく変化するので、本発明の硬組織の評価方法を適用することは難しいと考えられる。
本実施形態では、長手方向が垂直方向に一致するように配置された骨4に対して水平方向からMoKαのX線を入射し、骨4内の結晶格子面で回折したX線を骨4の後方に配置(すなわち透過側に配置)した検出器プレート5で検知する。検出器プレート5のX線受光面上には、回折角2θ=12.0°のリング状領域に(002)面の回折線が得られ、2θ=18.0°のリング状領域に(310)面の回折線が得られる。次に、レーザ光を輝尽励起光とする公知の構成の読取り装置によって子午線A−A方向の回折線強度を読取る。具体的には、評価対象面である(002)面及び参照面である(310)面の回折線リングを含み子午線A−Aを中心とする所定幅Wの矩形領域の回折線強度を積算、すなわち積分して、(002)面及び(310)面の回折線ピークを含む回折プロファイルを得る。本実施形態では積分範囲をW=10mmに設定する。一般的な読取り装置の分解能は0.1mmであるので、W=10mmは読取り装置によって100画素(ピクセル)を読み取ることによって実現できる。このように、子午線A−Aの局所的な強度ではなく積分強度を測定するのは、子午線A−A部分だけでは強度の強いX線が得られないからである。
次に、上記のようにして得られた回折プロファイル中の(002)面及び(310)面の積分強度を算出し、さらにそれらの比I(002)/I(310)を求める。実験によれば、正常(すなわち健常)の骨ではその比の値が「15」程度であり、健常でない骨の値はそれよりも小さくなる。場合によっては、「1」程度となることがある。このため、X線回折法によって骨の(002)面と(310)面との回折線強度比を求め、その値を予め求めておいた正常な骨の強度比と比較すれば、測定対象の骨が正常であるか否かを迅速且つ正確に評価できる。
本実施形態では、結晶のc軸に沿った方向である骨4の長手方向を垂直方向にセットしているので、子午線A−A方向に観測された(002)面の回折線強度は骨4のc軸方向の配向度を与える。また、(002)面だけの回折強度を評価するのではなく、参照面である(310)面の回折強度との比をとった上で評価を行うので、複数の骨4の個体間でのバラツキを解消でき、信頼性の高い評価を行うことができる。
従来の評価方法では、X線としてCuKα(波長約1.54Å)を用いていた。この特性線はMoKα(波長約0.71Å)に比べてエネルギが低い。MoKα線を用いた本実施形態の評価方法は透過法(すなわち、X線源から見て試料の後方にX線検出器を配置してそのX線検出器によって回折線を検出する方法)に従ってX線回折測定を行うものであるが、CuKαを用いて透過法の測定を行った場合には満足できる結果が得られなかった。その理由は、CuKαのエネルギが低いこと、及びCuKαを用いたときの(002)面及び(310)面の回折角度が大きいことである。CuKαを用いたときの(002)面の回折角度は2θ=26°であり、(310)面の回折角度は2θ=39.7°である。
図6(a)は、NISTのアパタイトの粉末標準試料を直径1.5mmのガラスキャピラリに詰め込み、50kV、90mAで得られたCuKα線でそのアパタイト試料を10分間露光すると共に透過法配置のX線検出器によって回折線を検出したときに得られた2次元回折像を示している。また、図6(b)は、同じアパタイト試料を同じ電力量で得られたMoKα線で同じ時間露光したときに透過法配置のX線検出器によって得られた2次元回折像を示している。これらの図から明らかなように、MoKαを用いた場合には鮮明な回折線が得られて(002)面や(310)面の回折線強度を正確に求めることができるが、CuKαを用いた場合には回折線が不鮮明であり回折線強度を正確に求めることができない。このため、CuKα線を用いる場合には透過法に基づいたX線回折法によって骨の評価を行うことは不可能であることが分かる。
以上のように、本実施形態によれば、CuKαよりもエネルギの高いMoKα線を用いるので、骨4の透過側に強い回折線を得ることができ、しかも波長が短いため回折角2θが低角度になるので、透過法に基づいたX線回折法を行うことが可能である。そして、透過法によるX線回折法においては、骨4をスライスによって破壊する必要が無く、短時間に簡単に測定を行うことができ、しかも骨4を破壊されていないそのままの状態で保存できる。さらに、骨4を破壊しないで済むので、骨4の長手方向の分析を行う場合には、スライスによって複数の骨の薄片を試料片として形成することなく、単に骨4を長手方向に所定間隔ずつ、ずらして測定を行えば良い。このため、測定処理が極めて簡単であり、測定の精度も高めることができる。
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、上記実施形態ではX線としてMoKα(波長約0.71Å)を用いたが、これに代えてAgKα(波長約0.56Å)を用いることができる。上記実施形態では図1に例示したX線測定系を用いたが、X線測定系は図1に示した構成以外の任意の構成とすることができる。上記実施形態では硬組織の一例である生物の生体骨、特に大腿骨を評価する場合を例示したが、評価の対象は生体骨以外の任意の硬組織とすることができる。
上記実施形態では、骨4の長手方向を垂直上下方向に設定し、X線を水平方向(θ=0°)から骨4に入射させた。この構成により、X線測定系の構造を簡単にすることができ、骨4を支持するための構造も簡単にすることができた。しかしながら、本発明を実施するにあたっては、骨等といった硬組織の支持方法及び入射X線の入射角度θを上記実施形態以外の条件に設定することも可能である。
また、上記の実施形態では参照面として(310)面を用いたがその他の格子面を参照面とすることも可能である。但し、参照面としては、評価対象面である(002)面に対して直角で、c軸からできるだけ離れている面であることが望ましい。
図1のX線測定系を用いて、図2(a)の大理石骨病を患ったマウスの大腿骨及び図2(b)の正常なマウスの大腿骨に関してX線回折法の測定及び評価を行った。骨に関しては、図2(a)及び(b)の数字1〜10の測定点を設定した。骨の下端を試料支持台上に粘土等によって固定し、試料支持台を図1のZ方向へ平行移動させることにより、測定点1〜10を1個所ずつX線光路上の測定位置に置いて測定を行った。測定中は骨4を固定状態に置き、1つの測定点に対して約1分間のX線露光を行った。その結果、図7及び図8に示す結果を得た。
図7(a)〜(e)は、図2(a)の大理石骨病の骨(op/op)における1,3,5,7,9のそれぞれの測定点に関して得られた2次元回折像を示している。また、図8の曲線Bは、図7(a)〜(e)の各回折図形における(002)面の子午線方向の回折強度と(310)面の子午線方向の回折強度との比をプロットして得られた曲線である。また、図7(f)〜(j)は、図2(b)の正常な骨(control)における1,3,5,7,9のそれぞれの測定点に関して得られた2次元回折像を示している。また、図8の曲線Cは、図7(f)〜(j)の各回折図形における(002)面の子午線方向の回折積分強度と(310)面の子午線方向の回折積分強度との比をプロットして得られた曲線である。なお、曲線Dは大理石骨病の骨(op/op)の赤道方向の強度比を示しており、曲線Eは正常な骨(control)の赤道方向の強度比を示している。
曲線Cから分かるように、正常な骨(図2(b))の中央部分の強度比は高く、両端部の強度比は低い。このことから、中央部分はきれいにc軸配向しており、両端部へ向かうに従って配向度が低くなることが分かる。また、正常な骨でc軸配向している部分の強度比は約「14」である。他方、曲線Bから分かるように、正常でない骨に関しては強度比が全体的に低く、骨の長手方向の分布に大きな差が無い。つまり、骨の中央部分のc軸配向がきれいに揃っていないことが分かる。
本発明に係る硬組織の評価方法を実施できるX線光学系の一例を示す図である。 硬組織の一例である生体大腿骨を示しており、(a)は大理石骨病にかかったマウスの大腿骨を示し、(b)は正常なマウスの大腿骨を示している。 骨と同じ材料である無配向試料の回折線図形である。 (002)面の極点図形の一例を示す図である。 硬組織の入射X線に対する傾き角度を変化させたときの(002)面の回折線と(310)面の回折線の強度比の変化を示すグラフである。 CuKα線を用いた透過法測定によって得られた回折線図形とMoKα線を用いた透過法測定によって得られた回折線図形とを並べて示す図である。 図1のX線測定系を用いて図2の骨を試料として測定を行ったときに得られた測定データである回折線図形を示す図である。 図7の回折線図形に基づいて得られた強度比データをグラフとして示す図である。
符号の説明
1.X線源、 2.モノクロメータ、 3.コリメータ、 4.硬組織(骨)、
5.X線検出器、 6.ダイレクトビームストッパ、 7.(002)面、
Pro.生物の体の中央に向かう方向、 Dis.末端方向、 Ant.体の前方、
Pos.体の後方、 Med.体の内側方向、 Lat.体の外側方向

Claims (7)

  1. X線源から出射したX線を硬組織に入射させ、該硬組織で回折して該硬組織の透過側に出射したX線をX線検出手段で検出し、
    前記X線源はMoKα線以上のエネルギを有する特性X線を発生し、
    前記硬組織は自身の長手方向にc軸配向した性質を有しており、
    前記硬組織は自身の長手方向がX線の光軸と交差するように配置され、
    前記X線検出手段のX線受光面において前記硬組織の長手方向と平行であってX線の光軸を通る線を子午線とするとき、
    前記X線検出手段は、前記c軸に対応する格子面である(002)面で回折した回折線の前記子午線方向の強度を検出し、
    前記X線検出手段は、(002)面以外の格子面である参照面で回折した回折線の前記子午線方向の強度を検出し、
    前記参照面の回折線強度と前記(002)面の回折線強度との比較に基づいて硬組織を評価する
    ことを特徴とする硬組織の評価方法。
  2. 請求項1記載の硬組織の評価方法において、
    前記硬組織を位置不動に支持した状態で、前記(002)面の回折線強度及び前記参照面の回折線強度を検出する
    ことを特徴とする硬組織の評価方法。
  3. 請求項1又は請求項2記載の硬組織の評価方法において、
    前記X線検出手段は平面内での位置分解能を有する2次元X線検出手段であり、
    前記(002)面の回折線強度及び前記参照面の回折線強度は前記2次元X線検出手段のX線受光面内の異なる位置で同時に検出される
    ことを特徴とする硬組織の評価方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の硬組織の評価方法において、
    前記硬組織の長手方向が鉛直方向とほぼ平行になるように当該硬組織を立てて配置し、
    前記X線源から前記硬組織へX線を該硬組織に対する垂直方向から入射させる
    ことを特徴とする硬組織の評価方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の硬組織の評価方法において、
    前記硬組織を自身の長手方向に移動させることにより、硬組織に入射するX線の位置を当該長手方向で変化させること
    を特徴とする硬組織の評価方法。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の硬組織の評価方法において、前記参照面は(310)面であることを特徴とする硬組織の評価方法。
  7. 請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の硬組織の評価方法において、前記硬組織は生物の骨であり、当該骨は自身の長手方向にc軸配向していることを特徴とする硬組織の評価方法。
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