JP2009014433A - 固体支持体において生体分子の修飾を分析する方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】生体分子を固定化した導電性固体支持体上で、前記生体分子の修飾を検出することを含む、修飾を受けた生体分子の検出方法。前記方法に使用するための導電性固体支持体及びキットも提供される。
【選択図】図9
Description
一方、タンパク質の翻訳後修飾を解析する方法として、タンパク質間相互作用が利用されている。糖鎖を特異的に認識して結合することができるレクチンタンパク質を用いたレクチンブロット(非特許文献1)や抗体−抗原反応を利用した抗リン酸化アミノ酸抗体によるウェスタンブロット(非特許文献2)などが例としてあげられる。
本発明の要旨は以下の通りである。
(2)導電性固体支持体上に固定化された生体分子がペプチドである(1)記載の方法。
(3)(a) 導電性固体支持体上に固定化された生体分子と、修飾を受けた生体分子を認識して結合することができる物質とを接触させる工程、及び
(b)前記物質と修飾を受けた生体分子との特異的な結合を検出する工程を含む、(1)又は(2)記載の方法。
(4)導電性固体支持体上に固定化された生体分子がペプチドであり、修飾を受けた生体分子を特異的に認識して結合することができる物質がレクチン、修飾を特異的に認識して結合するペプチド及び抗体からなる群より選択される(3)記載の方法。
(6)修飾を受けた生体分子を特異的に認識して結合することができる物質が標識されている(3)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)様々な修飾を受けた生体分子を特異的に認識して結合することができる2種類以上の物質にそれぞれ異なる標識がなされている(6)記載の方法。
(9)修飾を受けた生体分子を同定する工程をさらに含む(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)修飾を受けた生体分子を質量分析により同定する(9)記載の方法。
(11)質量分析が、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析である(10)記載の方法。
(12)修飾を受けた生体分子を同定する前に断片化する工程をさらに含む(9)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(14)導電性固体支持体が表面にカーボン層を有する(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)カーボン層がダイヤモンド様炭素被膜である(14)記載の方法。
(16)カーボン層が化学修飾されている(14)又は(15)記載の方法。
(17)(1)〜(16)のいずれかに記載の方法において使用するための表面にカーボン層を有する導電性固体支持体。
(18)(1)〜(16)のいずれかに記載の方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する導電性固体支持体を含む前記キット。
また、様々な種類の翻訳後修飾を特異的に認識して結合する2種類以上の物質をそれぞれ異なる試薬(例えば、励起波長の異なる蛍光標識試薬)で標識し、それを同一の固体支持体上で相互作用させることにより、複数の修飾を1枚の固体支持体上で検出することができる。
さらに、修飾を検出した同一の固体支持体上で質量分析を行うことにより、支持体に固定化された修飾を受けている生体分子の同定を行うことができる。
本発明は、生体分子を固定化した導電性固体支持体上で、前記生体分子の修飾を検出することを含む、修飾を受けた生体分子の検出方法を提供する。
導電性固体支持体に固定化する生体分子は、修飾を受けるものであればいかなるものであってもよく、ペプチド、核酸、これらの誘導体などを例示することができる。
本明細書においてペプチドには、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、それらの複合体が含まれる。ペプチド誘導体としては、その他のペプチドと融合した融合ペプチド、ポリエチレングリコールなどのポリマーに結合させた化学修飾ペプチド、翻訳後修飾されたペプチドなどが含まれる。
DNAおよびRNA等の核酸を保持する場合は、アミノ基、カルボジイミド基、エポキシ基、ホルミル基または活性化エステル基を導入するのが好ましい。
静電層を基板またはカーボン層と共有結合させずに形成する場合には、例えば、カーボン層を製膜する際に前記アミノ基含有化合物を製膜装置内に導入することによって、アミノ基を含有する炭素系皮膜を製膜する。製膜装置内に導入する化合物として、アンモニアガスを用いてもよい。また、表面処理層は、密着層を形成した後にアミノ基を含有する皮膜を形成するといった、複層であってもよく、この場合もアンモニアガスを含んだ雰囲気で行ってもよい。製膜は、例えばプラズマ法によって実施できる。
基板を、非置換または一置換されたアミノ基を有する化合物を含有する溶液中に浸漬することにより、静電層を形成する場合に、アミノ基含有化合物としてポリアリルアミンを用いると、基板との密着性に優れ、生体分子の固定化量がより向上する。アミノ基含有化合物とともにシランカップリング剤が共存する溶液に基板を浸漬することにより、静電層を形成することもできる。
静電層の厚みは、1nm〜500μmであることが好ましい。
1.ドットブロットだけではなく、電気泳動をしたゲルからエレクトロブロッティングでタンパク質を溶出し、溶出されたタンパク質をプロテインチップ基板上に固定化できる。従って、固定化したいタンパク質の発現系の構築やクロマトグラフィーシステムによる精製をする必要がない.
2.チップ基板を質量分析(例えば、MALDI-TOF/MS)のターゲットプレートとして用いることができる.
生体分子を導電性固体支持体に固定するには、例えば、試料中の生体分子をゲル電気泳動で分離し、ゲル中に分離された生体分子を導電性固体支持体上に転写すればよい。あるいは、従来の方法であるドットプロットによる固定でもよい。
試料中の生体分子を分離するために使用できるゲル電気泳動法としては、アガロースゲル電気泳動法、sievingアガロースゲル電気泳動法、変性アガロースゲル電気泳動法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法、等電点ゲル電気泳動法および二次元電気泳動法などを例示することができる。これらのゲル電気泳動法については、特開2006-292680号公報、特開2006-170857号公報、特開2004-138596号公報などを参照されたい。
電気泳動後、ゲルを、導電性固体支持体に載る大きさに切り出し、ゲルと導電性固体支持体とを密着させて、ゲル中に分離された生体分子を導電性固体支持体上に転写することができる。導電性固体支持体への転写方法としては、例えば、毛細管現象を利用したキャピラリー式ブロッティング、ポンプにより吸引するバキューム式ブロッティングおよび電気的手法を用いるエレクトロブロッティングが挙げられる。核酸を転写する場合は、キャピラリー式ブロッティングを使用するのが好ましく、ペプチドを転写する場合は、エレクトロブロッティングを使用するのが好ましい。
エレクトロブロッティングにおいては、タンク式、セミドライ式およびセミウェット式のいずれも使用することができるが、バッファー使用量の少なさや、反応時間の短さ等の観点からセミドライ式エレクトロブロッティングを使用するのが好ましい。ブロッティング装置としては、市販のエレクトロブロッティング装置を使用することができる。エレクトロブロッティングにおける通電条件は、定電圧、200V以下、好ましくは0.1〜10Vで、1〜500分間、好ましくは5〜100分間が好ましい。ただし、電圧を金属基板の酸化電位より高くすると金属の溶出がおこるため、基板金属の酸化電位より低い電圧で行うのが好ましい。
(b)前記物質と修飾を受けた生体分子との特異的な結合を検出する工程を含んでもよい。
導電性固体支持体上に固定化された生体分子がペプチドである場合、修飾(翻訳後修飾)を受けた生体分子を特異的に認識して結合することができる物質としては、レクチン、修飾を特異的に認識して結合するペプチド、抗体(特にアセチル化、アミド化、脱アミド化、プレニル化、ホルミル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、メチル化、ミリストイル化、リン酸化 、ユビキチン化 、リボシル化、硫酸化、カルボキシル化、SUMO化を認識する抗体)などを例示することができる。レクチンは、タンパク質に付加している糖鎖を認識して特異的に結合する。例えば、コンカナバリンAは、α結合型マンノースと末端グルコース基を認識して特異的に結合する。コムギ胚芽凝集素は、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びシアル酸を認識して特異的に結合する。修飾を受けた場合のみに特異的に結合するペプチドについては、例えばユビキチン化修飾を特異的に認識する26SプロテアソームのRPN10サブユニット(Ref, Mol Cell Proteomics. 2005 Jun;4(6):741-51.)、ユビキチン結合ドメインを含むペプチド(Ref, Mol Cell Proteomics. 2007 Apr;6(4):601-10.)があげられる。抗体とは、抗原刺激の結果、免疫反応によって生体内に誘導されるタンパク質で、抗原と特異的に結合する活性をもつものを指し、翻訳後修飾を特異的に認識する抗体とは修飾残基ならびにその修飾残基を含む誘導体を抗原として産出された抗体をいう。翻訳後修飾を特異的に認識する抗体としては、抗アセチル化抗体Anti-acetyl-Histone H4(Upstate, cat#06-866), 抗グリコシル化抗体CTD110.6(Pierce, cat#1858781), 抗メチル化アルギニン抗体(Abcam, cat#ab49197), 抗リン酸化トレオニン抗体 p-Thr (BDI141) (Santa Cruz, cat#sc-57562), 抗リン酸化トレオニン抗体 p-Thr (4D11) (Santa Cruz, cat#sc-65490), 抗リン酸化チロシン抗体 p-Tyr (PY99) (Santa Cruz, cat#sc-7020), 抗リン酸化チロシン抗体p-Tyr (PY20) (Santa Cruz, cat#sc-508), 抗リン酸化チロシン抗体p-Tyr (PY350) (Santa Cruz, cat#sc-18182) , 抗リン酸化セリン抗体(Chemicon, cat#AB1603)、抗ユビキチン化抗体(Biomol, UW8995-0001), SUMO化(Biomol, UW8955-0001), 抗ニトロチロシン抗体(Sigma, N0409)などが知られている。
本発明の方法は、修飾を受けた生体分子を同定する工程をさらに含んでもよい。修飾を受けた生体分子を同定する前に、導電性固体支持体に固定化された生体分子を断片化(例えば、酵素で分解)し、断片化により得られた分解物を質量分析してもよい。
酵素分解では、塩はイオン化を阻害するため、塩濃度を薄くするか、揮発性の塩を使用するのが好ましい。また、酵素分解反応中の溶液乾燥は切断反応を停止させるため、湿度を保って乾燥を防ぐのが好ましい。
生体分子の断片化は、導電性固体支持体上で行ってもよいし、生体分子を分離するゲル中で行ってもよい。
ペプチドを同定するためのデータベースとしては、例えば、Mascot、MS−Tag、Peptide Search、PepFrag、SEQUESTなどが挙げられる(実験医学別冊、ポストゲノム時代の実験講座2、プロテオーム解析法、羊土社(2000))。
質量分析方法として、電気的相互作用を利用して原子・分子のイオンを質量の違いによって分析する手法を使用できる。このような質量分析方法は、イオンの生成・分離・検出の3つの工程を含む。
分析対象が固定化された導電性固体支持体にマトリックス溶媒を添加し、乾燥させる。マトリックス溶媒としては、α-シアノヒドロキシ桂皮酸、シナピン酸などを含むものを使用できる。本発明においては、0.5〜80%、好ましくは1〜50%のα-シアノヒドロキシ桂皮酸、1〜80%、好ましくは20〜70%のアセトニトリルを含むマトリックス溶媒を用いるのが好ましい。マトリックス溶媒はさらにトリフルオロ酢酸を含んでいてもよい。このようなマトリックスを用いることによりマトリックス溶媒がレーザーのエネルギーを効果的に吸収して、そのエネルギーが間接的にペプチドに伝わり、イオン化が起こる。次ぎに該導電性固体支持体を、MALDI−TOF MSのフラットターゲットに設置する。そして、MassLynxソフトウエア等を用いて質量分析を開始する。MassLynxによって測定と解析の全てをコントロールすることができる。測定時に、自動測定のパラメーターファイルと、測定後に行うデータプロセスおよびデータベース解析のプロセスファイル、ならびに試料リストなどを作成する。データプロセシングは、ProteinLynxソフトウエアを用いてMassLynx上で行うことができる。取り込まれたデータから質量スペクトルを作成し、作成されたスペクトルは、MaxEnt 3ソフトウエア(Micromass社)により、精度を高めた後、モノアイソトピック・ピークデータに変換する。続いてキャリブレーションを行い質量誤差約50ppmの最終データとする。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
序論
プロテインチップは、疾患関連タンパク質等のタンパク質をプロファイルし、そしてタンパク質間相互作用(抗体-抗原相互作用1-5、タンパク質-小分子相互作用1,6および酵素-基質相互作用7,8を含む)を分析するのに有用な道具である。分析用プロテインチップの最も一般的な形態は抗体マイクロアレイで、特定の抗原に結合する抗体を固相表面に整列させたものである。多くの研究グループが、ガラスまたはシリコンスライドの表面に直に抗体を配置して、抗体-抗原相互作用を定量的に検出してきた1,4,5,9-11。例えば、Sreekumar et al.11は1枚のガラススライド上に146個の抗体をスポットし、タンパク質発現レベルをモニターして放射線誘発タンパク質を検出した。抗体のほかに、組換えタンパク質等の種々の精製タンパク質が、プロテインチップの化学修飾された表面に固定化された。MacBeath and Schreiber1は、アルデヒド含有シランで処理したガラススライドの表面に組換えタンパク質を共有結合により固定化し、タンパク質間相互作用を分析した。Houseman et al12は、金皮膜ガラススライド上に高密度ペプチドチップを構築し、キナーゼ-基質特異性およびキナーゼ反応の動力学を分析した。この金皮膜ガラススライドは、表面プラズモン共鳴(SPR)により相互作用をモニターするのに利用可能である。彼らは、SPRおよびホスホイメージング(phosphoimaging)を用いて固定化ペプチドのリン酸化を特徴付けた。
タンパク質
低分子量マーカータンパク質、ペプチドマーカーキット、CyDye reactive Dye、およびペプチドマーカーキットはGE Healthcare (Piscataway, NJ, USA)より購入した。ホスホリラーゼb、ウシ血清アルブミン(BSA)、炭酸脱水酵素、トリプシンインヒビター、イムノグロブリンG (IgG)、インスリン、プロテインA、およびカルモジュリン(CaM)は、Sigma Aldrich (St. Louis, MO, USA)より購入した。コンカナバリンA (ConA)は、和光純薬(大阪、日本)より入手した。4 kDaのホルモン様ペプチドは、Hanada et al.19,20に記載の方法にしたがってダイズから精製した。カルモジュリン結合性ペプチド(CBP)(配列 KRRWKKNFIAVSAANRFKKISSSGALC(配列番号1))は、東レ・リサーチセンター(神奈川、日本)によって合成された。酵母タンパク質は、酵母野生株 (Fred Sharman氏から供与; 所属 Department of Biochemistry and Biophysics, University of Rochester Medical Center, Rochester, New York 14642.)より抽出した。抽出物を40,000 x gで20分間遠心し、得られた上清を0.22μmのメンブレーンフィルターにかけた。乳棒およびモルタルを用いてダイズタンパク質を子葉から2-DE用溶解バッファー21に抽出した。これらのタンパク質サンプルを、GE Healthcareのマニュアルにしたがって、Cy3もしくはCy5マレイミドまたはNHSエステル標識試薬で標識した。
Cy3標識タンパク質は、Typhoon 9410 (GE Healthcare)を用いて、励起波長532 nmおよび放出フィルター580 nmで検出した。同様に、Cy5標識タンパク質は励起波長633 nmおよび放出フィルター670 nmで検出した。蛍光強度はImageQuant (GE Healthcare)を用いて定量した。
ダイヤモンド様炭素膜は、イオン支援成膜法(ion-assisted deposition method)22によってステンレス基板(SUS410, 東洋鋼鈑株式会社、山口、日本)上に形成した。すなわち、ターボ分子ポンプにより8 x 10-3 Pa下で真空化した反応器にステンレス基板を入れ、次にフィードガスとして水素を用いてプラズマ洗浄した。水素ガスの流速は40 sccmにコントロールし、基板に対する自己バイアスRFパワーは 100 Wであった。処理後、メタンガスおよび水素ガスを反応器に導入し、常温で基板上にダイヤモンド様炭素膜を形成した。メタンガスおよび水素ガスの流速は、それぞれ47.5 sccmおよび2.5 sccmであった。反応器内の作動圧力および基板に対するRFパワーは、それぞれ3 Paおよび200 Wに保持した。ダイヤモンド様炭素膜の表面は、塩素ガスを用いて塩素化し、そしてフィードガスとしてアンモニアを流速18 sccmおよび作動圧力3 Paで用いてプラズマによりアミノ化した。ダイヤモンド様炭素膜のアミノ化された表面にカルボキシル基を導入するために、0.14 M無水コハク酸および0.1 Mホウ酸ナトリウムを含有する1-メチル-2-ピロリドン溶液に25℃で10分間基板を浸漬した。次に、基板を脱イオン水ですすぎ、真空乾燥した。ダイヤモンド様炭素膜の表面に結合させたカルボキシル基を活性化するため、0. 2 M N-エチル-N’-1-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロライド、0.2 M N-ヒドロキシスクシンイミドおよび0.1 M K2HPO4/KH2PO4を含有する水溶液中に基板を25℃で20分間浸漬した。次に、基板を脱イオン水ですすぎ、100℃で真空乾燥した。このDLC基板は、日本パーカライジング株式会社(東京、日本)より市販されている。
SDS-PAGEは、Laemmli23の方法に以下の改変を加えて実施した。すなわち、薄いスラブゲル(80 x 60 x 0.3 mm)を用いて、電気泳動は5 mAで実施した。トリシンSDS-PAGEは、Schagger and von Jagow24が記載する方法に以下の改変を加えて実施した。すなわち、薄いスラブゲル(80 x 60 x 0.3 mm)を用いて、電気泳動は5 mAで実施した。
ゲル電気泳動後、ゲルを10% (v/v)メタノールに30秒間、次に新たに調製した10%メタノールに3分間浸し、脱イオン水ですすいだ。半乾式ブロッティング装置を用いて、タンパク質をゲルからDLC基板にエレクトロブロッティングした。本発明者らはブロッティング溶液として1 Mホウ酸バッファー(pH 8.0)を用いた。2枚のフィルターペーパー(3MM; Whatman, Florham Park, NJ, USA)をブロッティング溶液に浸し、ゲルまたはフィルターペーパー上の余分な溶液を除去した。DLC基板を半乾式ブロッティング装置の陰極炭素層上に置き、その上にゲルおよび2枚の湿ったフィルターペーパーを重ねた。R.T.で 2 Vで1時間エレクトロブロッティングを行った後、DLC基板を脱イオン水ですすいだ。
Bio-Rad Laboratories (Hercules, CA, USA)のReadyStrip IPG Strips (7 cm, pH 3-10, NL)およびPROTEAN IEF Cellを用いて、酵母タンパク質(50μg)およびダイズタンパク質(20μg)を分離した。製造業者によって提供された処理プログラムを使用した。半乾式ブロッティング装置(SUS、東京、日本)を用いて、ゲルで分離したタンパク質をDLC基板にエレクトロブロッティングした25。
タンパク質同定のため、エレクトロブロッティングによってDLC基板上に固定化したタンパク質を、該チップに添加したプロテアーゼにより消化した。すなわち、リシルエンドペプチダーゼ(和光純薬;1μg/ml)またはトリプシン(Promega, Madison, WI, USA; 15μg/ml)を含有する1 μlのプロテアーゼ溶液[5 mM NH4HCO3 (pH 8.0)に溶解]をDLC基板に添加した。オンチップ消化は、ペトリ皿を用いて、湿潤環境下で、37℃で、少なくとも5時間実施した。消化後、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸で飽和したマトリックス溶液[50% (v/v)アセトニトリル/0.1% (v/v)トリフルオロ酢酸に溶解]をチップに分注した。消化物を、MALDI-TOF MS (TofSpec-2E, Micromass, Manchester, UK)を用いて分析した。チップ上に固定化されたタンパク質を、Mascotサーバー(http://www.matrixscience.com/)を用いてペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)法により同定した。
チップ上にタンパク質を固定化した後、表面に残っている活性基をブロック試薬N102 (NOFコーポレーション、東京、日本)でブロックした。IgG、インスリン、またはダイズ4-kDaホルモン様ペプチドとの相互作用を分析するためには、10 μg/mlのIgG、インスリンまたは4-kDaペプチドを含有するTBSバッファー(20 mM Tris-HCl, pH 7.5, 150 mM NaCl)中でプロテインチップを1時間インキュベートした。次にプロテインチップをTBSバッファーで洗浄し、脱イオン水ですすいだ。CaMとCBP間の相互作用を分析するためには、TBSバッファーの代わりに、10 μg/mlのCaMを含有するTBSCバッファー(20 mM Tris-HCl, pH 7.5, 150 mM NaClおよび 2 mM CaCl2)を用いた。Cy3またはCy5蛍光を用いて、これらのプロテインチップをイメージ化した。イメージマッチングは、ImageQuantを用いて分析した。オンチップ消化は、上記「材料および方法」に記述するように実施した。消化物をMALDI-TOF MSにより測定した。
Cy3標識ダイズタンパク質(20μg)を2-DEで分離し、DLC基板にエレクトロブロッティングした。ブロッキング後、10 μg/mlのCy5標識ConAを含有するTBSバッファー中でこのチップをインキュベートした。Cy3およびCy5蛍光についてチップをスキャンした。次に、上記「材料および方法」に記述するようにオンチップ消化を実施した。消化物をMALDI-TOF MSにより測定した。
DLC基板の作製およびプロテインチップの調製
ダイヤモンド様炭素膜を、非導電性ガラスまたはシリコン基板の代わりに導電性ステンレス基板上に、イオン支援成膜法により形成した。次に、このDLC基板の表面をNHSエステルにより活性化した(図1-A)。その結果得られる化学修飾されたDLC基板は、共有結合によりタンパク質を固定化することができる。このDLC基板は導電性なので、本発明者らは、高密度プロテインチップを作製するために、ゲルで分離したタンパク質を半乾式ブロッティング装置を用いたエレクトロブロッティングによってゲルから基板上に固定化できるであろうと予測した(図1-B)。
本発明者らは、DLC基板上にエレクトロブロッティングしたタンパク質を同定する方法を開発した。すなわち、本発明者らは、その中でCy3標識酵母タンパク質を分離した2種類の2-DEゲルを調製した。1つのゲル中のタンパク質をクーマシー・ブリリアント・ブルー(CBB)染色により可視化した(図3-A)。他方のゲル中のタンパク質をDLC基板にエレクトロブロッティングし、Cy3蛍光を用いてDLC基板上で検出した(図3-B)。ゲル中およびDLC基板上のCy3蛍光を比較することにより、ブロッティング効率は約50%と推定されたが、これはタンパク質の特性により変動した。低分子量タンパク質はゲルから容易に溶出した。分子量に加えて、スポット中のタンパク質の量がブロッティング効率に影響した。多くの場合、タンパク質の量が少ないほどブロッティングで高収率を示した。ブロッティング後、Cy3シグナルを検出するのに用いたDLC基板にプロテアーゼ溶液を添加し、タンパク質のオンチップ消化を実施した。次に、チップ上で得られた消化物にマトリックス溶液を添加し、このチップをMALDI-TOF MSターゲットプレートとしてセットして消化物の質量を測定した。全ての生のマススペクトルを自動的に処理し、そして選択されたモノアイソトピック質量をSWISS-PROTデータベースを用いて検索した。20個のタンパク質スポット(図3に示す)を分析し、オンチップ消化を用いてPMFによりうまく同定した(表3)。オンチップ消化により生成したペプチドのシーケンスカバー率は15-60%であった。これは、タンパク質データベースおよびPMFを用いてタンパク質を同定するのに十分であった。オンチップ消化および従来のゲル内消化によって得られるシーケンスカバー率は殆ど同等であって、DLC基板を用いて作製したプロテインチップがゲルで分離したタンパク質の同定に有用であることを示していた。
1)タンパク質間相互作用
本発明者らは、DLC基板上でタンパク質間相互作用分析を実施することの可能性を研究した。DLC基板表面のNHSエステル活性基は、溶液中で2〜3時間後に共有結合活性を失う。この不活性化は好都合である。なぜなら、リガンドタンパク質のインキュベーション中に起こる非特異的結合および汚染を減少させるからである。しかし、リガンドタンパク質とのインキュベーション後にブロックしないと、ゼータ電位による非特異的タンパク質結合がDLC基板上に観察される。この非特異的結合は非共有結合であり、高濃度の有機溶媒(例えば、メタノール)の添加によって抑制することが可能であった。しかし、有機溶媒はタンパク質間相互作用を阻害する。したがって、表面上でタンパク質と結合していない部位(protein-unbinding sites) をブロックする必要があった。タンパク質性ブロッキング試薬はオンチップ消化を用いるMS分析には適さないので、本発明者らは合成ポリマーブロッキング試薬であるN102を用いた。この試薬はタンパク質と結合していない部位をブロックすることができ、かつMALDI-TOF MSによるDLC基板上でのタンパク質質量測定になんら影響を及ぼさなかった。
ダイズ由来の43-kDaホルモン受容体様タンパク質は、ダイズ由来4-kDaホルモン様ペプチド(Kd=1.80 x 10-8 M)および哺乳動物由来インスリンと結合する19,20。Cy3で標識したダイズ子葉タンパク質を2-DEで分離し、DLC基板にエレクトロブロッティングした(図5-A)。ブロッキング後、Cy5標識4-kDaペプチドおよびインスリンをそれぞれ含むTBSバッファーを用いてプロテインチップをインキュベートした。Cy5蛍光により相互作用するペプチドを検出した(図5-B)。Cy3およびCy5で検出したスポットをチップ上でトリプシン消化し、このプロテインチップをMALDI-TOF MS分析にかけた。本発明者らは、43-kDaタンパク質とインスリン(図5-C)および43-kDaタンパク質と4-kDaペプチド(図5-D)の対になったシグナルを検出した。
本発明者らは、α-マンノース基およびα-グルコース基を含むN結合型オリゴ糖鎖に特異的に結合する一種のレクチンであるコンカナバリンA (Con A)を用いて、プロテインチップ上におけるグリコシル化タンパク質の翻訳後修飾の検出を試みた。本研究において、本発明者らは、Con Aを用いてDLC基板上でダイズ子葉中の糖タンパク質を分析した。Cy3で標識したダイズ子葉タンパク質を2-DEにより分離し、DLC基板にエレクトロブロッティングした(図7-A)。このプロテインチップを、Cy5標識Con Aを含むTBSバッファー中でインキュベートし、蛍光によりイメージ化した(図7-B)。Cy5標識Con A由来シグナルを2つの主要スポットで検出した。これらのスポットをチップ上でトリプシン消化し、次にMALDI-TOF MSにより測定した(図7-C)。これらのタンパク質(スポット1および2)は、SWISS-PROTおよびEntrezデータベースを用いたPMFによって、β-コングリシニンβサブユニット(BAA23361)および43-kDa受容体様タンパク質 (BAA03681)と同定された。β-コングリシニンβサブユニットは、Con Aと相互作用する糖鎖を有する26。本研究において、本発明者らはプロテインチップ上におけるタンパク質間相互作用分析を用いて、β-コングリシニンの他に、43-kDa受容体様タンパク質のグリコシル化をも示した。
本発明者らは、α-マンノース基およびα-グルコース基を含むN結合型オリゴ糖鎖に特異的に結合するレクチンであるコンカナバリンA (Con A)と、N-アセチルグルコサミン( GlcNAc )およびシアル酸に特異的に結合するレクチンであるWGA(小麦胚芽凝集素)を用いて、1枚のプロテインチップを作成し、チップ上での複数の翻訳後修飾の同時検出を行った。
まず、サンプルとしてダイズ抽出タンパク質を準備し、Cy2でラベルした。糖鎖を持つオブアルブミン(OVA)をポジティブコントロールとし、糖鎖をもたないウシ血清アルブミン(BSA)をネガティブコントロールとして、それぞれCy2でラベルした。
SDS-PAGEでCy2-ダイズ抽出タンパク質、Cy2-OVA、Cy2-BSAを分離したゲルを2枚準備し、1枚をCBB染色した(図8-A)。残りの1枚をエレクトロブロッティングしてプロテインチップを作成して、作成したプロテインチップ上でのCy2蛍光で分離したタンパク質を検出した(図8-B)。
次に、SDS-PAGEよりも分離能が高い二次元電気泳動のゲルからプロテインチップを作成し、複数の翻訳後修飾の検出を行った。Cy2-ダイズ抽出タンパク質を二次元電気泳動で分離し、プロテインチップを作成した(図9-A)。プロテインチップ上で、2種類のレクチン(ConAとWGA)を異なる蛍光波長(Cy5,Cy3)で標識して、プロテインチップ上で相互作用させたあと、Cy5(上)とCy3(下)の蛍光でそれぞれ検出した(図9-B)。SDS-PAGEの結果と同様に、Cy5-ConAは2つのスポット上(Spot1,2)で相互作用が検出され、Cy3-WGAは1つのスポット上(Spot1)で相互作用が検出された(図9-B)。オンチップ消化とMALDI-TOF MS測定により、これらのスポットはβ-コングリシニンβサブユニット(Spot1)とβ-コングリシニンαサブユニット(Spot2)であることが明らかになった。このように、SDS-PAGEよりも分離が良い二次元電気泳動でタンパク質を分離した場合、明瞭なスポットとして1枚のプロテインチップで複数の翻訳後修飾を同時に検出できて、迅速に同定できることが示された。
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カルモジュリン結合性ペプチド(CBP)のアミノ酸配列を示す。(Oryctolagus cuniculus (rabbit)由来、 PDB database, ACCESSION 2BBM_B)
Claims (18)
- 生体分子を固定化した導電性固体支持体上で、前記生体分子の修飾を検出することを含む、修飾を受けた生体分子の検出方法。
- 導電性固体支持体上に固定化された生体分子がペプチドである請求項1記載の方法。
- (a) 導電性固体支持体上に固定化された生体分子と、修飾を受けた生体分子を認識して結合することができる物質とを接触させる工程、及び
(b)前記物質と修飾を受けた生体分子との特異的な結合を検出する工程を含む、請求項1又は2記載の方法。 - 導電性固体支持体上に固定化された生体分子がペプチドであり、修飾を受けた生体分子を特異的に認識して結合することができる物質がレクチン、修飾を特異的に認識して結合するペプチド及び抗体からなる群より選択される請求項3記載の方法。
- レクチンが、ミヤコグサレクチン、ピーナッツレクチン、ダイズレクチン、ヒマレクチン、モクワンジュレクチン、インゲンマメレクチン、タチナタマメレクチン(別名コンカナバリンA)、レンズマメレクチン、エンドウマメレクチン、ソラマメレクチン、小麦胚芽凝集素、ジャガイモレクチン、ヨウシュチュウセンアサガオ(別名DSAレクチン)及びカブトガニレクチンからなる群より選択される請求項4記載の方法。
- 修飾を受けた生体分子を特異的に認識して結合することができる物質が標識されている請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
- 様々な修飾を受けた生体分子を特異的に認識して結合することができる2種類以上の物質にそれぞれ異なる標識がなされている請求項6記載の方法。
- 標識が、シアニン誘導体、ナノ結晶及びナノ粒子からなる群より選択される請求項6又は7記載の方法。
- 修飾を受けた生体分子を同定する工程をさらに含む請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
- 修飾を受けた生体分子を質量分析により同定する請求項9記載の方法。
- 質量分析が、レーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析である請求項10記載の方法。
- 修飾を受けた生体分子を同定する前に断片化する工程をさらに含む請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
- 修飾を受けた生体分子がペプチドであり、プロテアーゼで分解することにより断片化する請求項12記載の方法。
- 導電性固体支持体が表面にカーボン層を有する請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
- カーボン層がダイヤモンド様炭素被膜である請求項14記載の方法。
- カーボン層が化学修飾されている請求項14又は15記載の方法。
- 請求項1〜16のいずれかに記載の方法において使用するための表面にカーボン層を有する導電性固体支持体。
- 請求項1〜16のいずれかに記載の方法において使用するためのキットであって、表面にカーボン層を有する導電性固体支持体を含む前記キット。
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