JP2009001528A - 5’−ヒドロキシサリドマイド誘導体及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】サリドマイド代謝物である光学活性2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体、および該誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】下記式(式中,R1,R2,R3,R4,R5及びR7はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基等を表し;R6は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。)で表される光学活性2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体、および該誘導体の5−ヒドロキシル基を立体選択的にアシル化し得る酵素の存在下に、有機溶媒中でアシル化剤と作用させて光学活性エステルを生成することにより、光学分割する工程を備える製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】下記式(式中,R1,R2,R3,R4,R5及びR7はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基等を表し;R6は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。)で表される光学活性2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体、および該誘導体の5−ヒドロキシル基を立体選択的にアシル化し得る酵素の存在下に、有機溶媒中でアシル化剤と作用させて光学活性エステルを生成することにより、光学分割する工程を備える製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、サリドマイド代謝物,光学活性2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオンおよびその誘導体の酵素的光学分割法を含む合成法に関する。
50年ほど前,当時西ドイツのグリュンネルタール社が開発した催眠鎮静剤サリドマイドは,過剰服用によっても致死量に達しないなど,極めて安全な睡眠薬として大衆化された大ヒット医薬品である。しかし,販売開始後,多くの国で胎児に奇形を起こすことが判明し,5年後に販売が中止された。一旦抹消されたサリドマイドだが,その後の研究で,らい病,エイズ,がん,アフタ性口内炎,ベーチェット病といった難病に有効であることがわかり,FDAは,オーファンドラッグとして認定した(非特許文献1乃至4)。
現在はセルジーン社が製造販売している。しかし,サリドマイドは,広範囲の難病に高い活性を示すという特徴を有し期待されながらも,そのラセミ体の服用により,催奇形性を併発する重篤な副作用が見られるため,その使用にあたっては賛否両論がある。このような諸問題を回避するためには,光学活性体を薬剤として使用する必要がある(非特許文献5)。しかしながら,サリドマイドは投与後,体内でラセミ化してしまうため,たとえ光学活性体を使用しても副作用を回避できないという問題点がある(下記式(化2)、非特許文献6乃至9)。
現在はセルジーン社が製造販売している。しかし,サリドマイドは,広範囲の難病に高い活性を示すという特徴を有し期待されながらも,そのラセミ体の服用により,催奇形性を併発する重篤な副作用が見られるため,その使用にあたっては賛否両論がある。このような諸問題を回避するためには,光学活性体を薬剤として使用する必要がある(非特許文献5)。しかしながら,サリドマイドは投与後,体内でラセミ化してしまうため,たとえ光学活性体を使用しても副作用を回避できないという問題点がある(下記式(化2)、非特許文献6乃至9)。
一方,近年ではサリドマイド代謝物にも注目が集まっている。サリドマイド自身が生体内で薬理活性を発現させているか,あるいはその代謝物が発現させているかは分かっていないのが現状である。そもそもサリドマイドの分子レベルでの薬理活性発現機構自体が未解決であり,サリドマイド代謝物こそが薬理活性に最も寄与しているのではないかとも考えられる。種々の代謝物が確認されているなかで,催奇形性を示すS体の主な代謝物は(3’S)-5-ヒドロキシサリドマイドであるのに対して,催眠鎮静作用を有するR体の主な代謝物は(3’S,5’R)-cis-5’-ヒドロキシサリドマイドであることが報告されている(下記式(化3)、非特許文献10)。このため光学活性cis-5’-ヒドロキシサリドマイドの合成法を開発することは重要であると考えられる。
Randall, T. J. Am. Med. Assoc. 1990, 263, 1467. Skolnick, A. J. Am. Med. Assoc. 1990, 263, 1468. Randall, T. J. Am. Med. Assoc. 1990, 263, 1474. Muller, G. W. Chemtech 1997, 27, 21. Blaschke, G.; Kraft, H. P.; Fickentscher, K. and Kohler, F. Arzneim.-Forsch. 1979, 29, 1640. Knoche, B. and Blaschke, G. J. Chromatogr. 1994, 2, 183; Wnendt, S.; Finkam, M.; Winter, W.; Ossing, J.; Rabbe G. and Zwingenberger, K. Chirality1996, 8, 390. Winter, W. and Frankus, E. Lancet 1992, 339, 365. Nishimura, K.; Hashimoto, Y. and Iwasaki, S. Chem. Pharm. Bull. 1994, 42, 1157. Meyring, M.; Muhlbacher, J.; Messer, K.; Pustet, N. K.; Bringmann, G.; Mahnshreck, A.; Braschke, G. Anal. Chem. 2002, 74, 3726.
解決しようとする問題点は,これまでサリドマイド代謝物である5’−ヒドロキシサリドマイドの両光学活性体を効率良く得る方法がないという点であり,光学活性5’−ヒドロキシサリドマイドの両光学活性体を簡便且つ効率的に得ることである。
発明者らは酵素を用いることで,ラセミ体の5’−ヒドロキシサリドマイドの光学分割を行い,簡便・効率的に両光学活性体を得ることに成功した。
すなわち第1発明の2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体は、下記の式(1)又は式(1’)で表され、
また、第2発明の前記2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体の製造方法は,ヒドロキシル基を立体選択的にアシル化し得る酵素の存在下に,有機溶媒中でアシル化剤と作用させて光学活性エステルを生成することにより光学分割する工程を備えることを特徴とする。
すなわち第1発明の2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体は、下記の式(1)又は式(1’)で表され、
また、第2発明の前記2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体の製造方法は,ヒドロキシル基を立体選択的にアシル化し得る酵素の存在下に,有機溶媒中でアシル化剤と作用させて光学活性エステルを生成することにより光学分割する工程を備えることを特徴とする。
(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基,ハロゲン原子,ハロゲン化低級アルキル基,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基、低級アルキルチオ基,低級アルコキシカルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,シアノ基,ニトロ基,低級アルケニル基,又は低級アルキニル基を示し,R1ないしR4のうち隣接する2つの基は一緒になって置換基を有していてもよい5乃至7員環を形成してもよく;R6は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)。
これまで光学活性5’−ヒドロキシサリドマイドを得る方法はほとんどなく,合成に多段階を要するものばかりであり,本発明ではラセミ体の5’−ヒドロキシサリドマイドを酵素によって光学分割するため簡便且つ効率的に両光学活性体を得ることができ,スケールアップも容易であるという利点がある。
本明細書において,アルキル基又はアルキル部分を含む置換基(例えば,アルコキシ基,アルキルチオ基,アルコキシカルボニル基など)のアルキル部分は,直鎖状,分枝鎖状,環状,又はそれらの組み合わせいずれでもよい。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示す低級アルキル基としては,例えば,炭素数1乃至6程度のアルキル基を用いることができる。より具体的には,メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,シクロプロピル基,n−ブチル基,sec−ブチル基,イソブチル基,tert−ブチル基,シクロブチル基,シクロプロピルメチル基,n−ペンチル基,n−ヘキシル基,シクロヘキシル基などを用いることができる。
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示す低級アルコキシ基としては,例えば,炭素数1乃至6程度のアルコキシ基を用いることができる。より具体的には,メトキシ基,エトキシ基,n−プロポキシ基,イソプロポキシ基,n−ブトキシ基,sec−ブトキシ基,tert−ブトキシ基,シクロプロピルメチルオキシ基,n−ペントキシ基,n−ヘキソキシ基などを挙げることができる。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すハロゲン原子はフッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はヨウ素原子のいずれでもよい。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すハロゲン化低級アルキル基としては,上記に説明した炭素数1乃至6程度のアルキル基にフッ素原子,塩素原子,臭素原子,及びヨウ素原子からなる群から選ばれる1又は2個以上のハロゲン原子が置換した基を挙げることができる。2個以上のハロゲン原子が置換している場合には,それらは同一でも異なっていてもよい。
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すアミノ基が置換基を有する場合,置換基として,例えば,上記に説明した炭素数1乃至6程度のアルキル基又はハロゲン化アルキル基等を有していてもよい。より具体的には,炭素数1乃至6程度のアルキル基で置換されたモノアルキルアミノ基,又は炭素数1乃至6程度の2個のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基(2個のアルキル基は同一でも異なっていてもよい)などを挙げることができる。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すアルキルチオ基としては,例えば,メチルチオ基,エチルチオ基などを挙げることができる。R1,R2,R3,R4,及びR5が示すアルコキシカルボニル基としては,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基などを挙げることができる。
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すカルバモイル基が置換基を有する場合,置換基として,例えば,上記に説明した炭素数1乃至6程度のアルキル基又はハロゲン化アルキル基等を有していてもよい。カルバモイル基が2個の置換基を有する場合には,それらは同一でも異なっていてもよい。例えば,ジアルキルカルバモイル基などを好適に用いることができる。R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が示すアルケニル基又はアルキニル基に含まれる不飽和結合の数は特に限定されないが,好ましくは1乃至2個程度である。該アルケニル基又はアルキニル基は,直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよい。
R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7はそれぞれ独立に上記に定義されたいずれかの置換基を示すが,全部が同一の置換基であってもよい。また,R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7のうちの隣接する2つの基は一緒になって5乃至7員環を形成していてもよく,環は炭化水素環又は複素環のいずれでもよい。なお,該環は置換基を有していてもよい。置換基の種類,個数,置換位置は特に限定されないが,置換基として,例えば,炭素数1乃至6程度のアルキル基などを好適に用いることができる。例えば,上記の環は,1個のアルキル基,又は同一若しくは異なる2乃至4個のアルキル基を有していてもよい。なお,R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7が全て水素原子である化合物は本発明の好ましい態様である。
本発明の化合物に存在する不斉炭素は(S)又は(R)配置のいずれであってもよく,光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体はいずれも本発明の範囲に包含される。光学的に純粋な形態の異性体は本発明の好ましい態様である。また,立体異性体の任意の混合物,ラセミ体なども本発明の範囲に包含される。本発明の5’−ヒドロキシサリドマイド誘導体は置換基の種類に応じて塩を形成する場合があり,また水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが,これらの物質はいずれも本発明の範囲に包含される。
本発明の式(1)及び式(1’)を提供するための酵素的光学分割法は特に限定されないが,具体的には以下のようにして行われる。すなわち,光学分割すべきラセミ体の5’−ヒドロキシサリドマイド,もしくは誘導体とアシル化剤とを,触媒としてリパーゼを存在させ,適当な溶媒中で反応させることにより,5’−ヒドロキシサリドマイドの一方の光学活性体のみがアシル化されると共に,他方の光学活性体はアシル化されることなく未反応物として反応系に残り,両者は容易に分離させ得る。したがって,アシル化された一方の光学活性体は,そのアシル基を例えば酸による加水分解等によって除去することにより,光学活性の5’−ヒドロキシサリドマイドとして単離され,目的とする光学分割が完了するのである。
反応に使用する溶媒としては,反応に不活性な溶媒であればどのようなものでもよい。そのような溶媒としては,具体的にはtert−ブチルアルコール等の嵩高い3級アルコール系溶媒;ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,n−ブチルメチルエーテル,tert−ブチルメチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル系溶媒;ヘプタン,ヘキサン,シクロペンタン,シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム,四塩化炭素,ジクロロメタン,ジクロロエタン,トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン,トルエン,キシレン,クメン,シメン,メシチレン,ジイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド等の溶媒;超臨界二酸化炭素,イオン性液体が挙げられるが,1,4−ジオキサンが最も好ましい。
使用するアシル化剤には特に限定されないが公知,又は市販されたものが使用できる。例えば,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル等のビニルエステルなどが挙げられるが,酢酸ビニルが最も好ましい。
本発明の光学分割において,反応系内に触媒として存在させ,アシル化し得る酵素は,リパーゼまたはエステラーゼであってよい。リパーゼとしては入手可能な市販のリパーゼが全て使用可能であり,そのようなリパーゼとしては,例えば,シュードモナス属,キャンジダ属,アスペルギルス属,ムコール属等に属する微生物由来のもの,または豚などの哺乳類由来のものが好ましい。そのようなリパーゼとしては,例えば,Pseudomonas cepacia由来のリパーゼ(PCL),Pseudomonas fluorescence由来のリパーゼ(AK),Candida antarctia由来のリパーゼ(CAL),Rizomucormiehei由来のリパーゼ(RML),豚肝臓(Porcine pancreas)由来のリパーゼ(PPL)等が挙げられる。エステラーゼとしては豚肝臓由来のものが好ましい。そのようなエステラーゼとしては,豚肝臓由来のエステラーゼ(PLE)等が挙げられる。これらの酵素は精製品でも粗製品でもよく,また,その使用形態についてはこれらを粉末状そのまま用いても,適当な担体に担持させても用いてもよい。担体としてはシリカゲル等の金属酸化物などの無機材料;ポリスチレン等の有機材料などが用いられる。本発明においては特に限定されないが,Pseudomonas stutzeri由来のリパーゼ(TL)が最も好ましい。
反応は加圧下に行うこともできるが,通常は常圧で行う。反応温度は−50℃から溶媒の沸点までの間で行うことができるが,好ましくは−20℃乃至60℃である。
本発明の反応系には添加剤を用いることが可能であり,そのような添加剤の例としては水,ジメチルスルホキシド,クラウンエーテル,イオン性液体等が挙げられるが,イオン性液体が最も好ましい。
本発明の式(1)及び式(1’)を提供するための酵素的光学分割法は特に限定されないが,具体的には以下のようにして行われる。すなわち,光学分割すべきラセミ体の5’−ヒドロキシサリドマイド,もしくは誘導体とアシル化剤とを,触媒としてリパーゼを存在させ,適当な溶媒中で反応させることにより,5’−ヒドロキシサリドマイドの一方の光学活性体のみがアシル化されると共に,他方の光学活性体はアシル化されることなく未反応物として反応系に残り,両者は容易に分離させ得る。したがって,アシル化された一方の光学活性体は,そのアシル基を例えば酸による加水分解等によって除去することにより,光学活性の5’−ヒドロキシサリドマイドとして単離され,目的とする光学分割が完了するのである。
反応に使用する溶媒としては,反応に不活性な溶媒であればどのようなものでもよい。そのような溶媒としては,具体的にはtert−ブチルアルコール等の嵩高い3級アルコール系溶媒;ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,n−ブチルメチルエーテル,tert−ブチルメチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサン等のエーテル系溶媒;ヘプタン,ヘキサン,シクロペンタン,シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム,四塩化炭素,ジクロロメタン,ジクロロエタン,トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン,トルエン,キシレン,クメン,シメン,メシチレン,ジイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド,ジメチルホルムアミド等の溶媒;超臨界二酸化炭素,イオン性液体が挙げられるが,1,4−ジオキサンが最も好ましい。
使用するアシル化剤には特に限定されないが公知,又は市販されたものが使用できる。例えば,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル等のビニルエステルなどが挙げられるが,酢酸ビニルが最も好ましい。
本発明の光学分割において,反応系内に触媒として存在させ,アシル化し得る酵素は,リパーゼまたはエステラーゼであってよい。リパーゼとしては入手可能な市販のリパーゼが全て使用可能であり,そのようなリパーゼとしては,例えば,シュードモナス属,キャンジダ属,アスペルギルス属,ムコール属等に属する微生物由来のもの,または豚などの哺乳類由来のものが好ましい。そのようなリパーゼとしては,例えば,Pseudomonas cepacia由来のリパーゼ(PCL),Pseudomonas fluorescence由来のリパーゼ(AK),Candida antarctia由来のリパーゼ(CAL),Rizomucormiehei由来のリパーゼ(RML),豚肝臓(Porcine pancreas)由来のリパーゼ(PPL)等が挙げられる。エステラーゼとしては豚肝臓由来のものが好ましい。そのようなエステラーゼとしては,豚肝臓由来のエステラーゼ(PLE)等が挙げられる。これらの酵素は精製品でも粗製品でもよく,また,その使用形態についてはこれらを粉末状そのまま用いても,適当な担体に担持させても用いてもよい。担体としてはシリカゲル等の金属酸化物などの無機材料;ポリスチレン等の有機材料などが用いられる。本発明においては特に限定されないが,Pseudomonas stutzeri由来のリパーゼ(TL)が最も好ましい。
反応は加圧下に行うこともできるが,通常は常圧で行う。反応温度は−50℃から溶媒の沸点までの間で行うことができるが,好ましくは−20℃乃至60℃である。
本発明の反応系には添加剤を用いることが可能であり,そのような添加剤の例としては水,ジメチルスルホキシド,クラウンエーテル,イオン性液体等が挙げられるが,イオン性液体が最も好ましい。
以下,実施例により本発明をさらに具体的に説明するが,本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
非特許文献11乃至13を参考に合成した(+−)‐cis‐5’‐ヒドロキシサリドマイド50mg(0.18mmol)を10mLナスフラスコにとり,そこへ5.0mlの1,4−ジオキサンを加え,完全に溶解させた。そこへ加水分解酵素リパーゼTL(名糖産業製)100mgを加え攪拌し,さらに酢酸ビニル0.12mlを加えて室温にて一週間攪拌した。約12時間置きに反応溶液を極少量サンプリングし,真空ポンプにて溶媒と酢酸ビニルを除去したのち,エタノールを数滴加え懸濁させて静置し,その上澄み液をHPLC(CHIRALCEL OD-RH 4.6×150mm エタノール100% 流速0.5ml/min)によってモニタリングすることでエナンチオ過剰率を追跡した。エナンチオ過剰率がそれ以上向上しないのを確認し,反応を停止させ,シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=50/50)にてそれぞれ単離し,(3’S,5’R)−cis−ヒドロキシサリドマイドを15.5mg(31%, 70% ee),(3’R,5’S)−cis−アセトキシサリドマイドを30.6mg(53%, 90% ee)で得た(下記式(化4))。
Kaneko, T.; Lee, Y. K.; Hanafusa, T. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1962, 35, 875. Teubert, U.; Zwingenberger, K.; Wnendt, S.; Eger, K. Arch. Pharm. Pharm. Med. Chem. 1998, 331, 7. Luzzio, F. A.; Duveau, D. Y.; Lepper, E. R.; Figg, W. D. J. Org. Chem. 2005, 70, 10117. 以下に(3’S,5’R)−cis−ヒドロキシサリドマイドの化合物データを示す。分子式:C13H10N2O5M.W.:274.231H NMR : (d6-DMSO) δ 2.30 (m, 1H, CH2), 2.52 (m, 1H, CH2), 4.56 (dd, J=5.2, 12.9 Hz, 1H, CH2CHN), 5.32 (dd, J=5.1, 13.3 Hz, 1H, CHOH), 5.84 (brs, 1H, OH), 7.95 (m, 4H, Ar)[a]25D -13 (c 0.16, CHCl3)HPLC (DAICEL CHIRALCEL OJ-RH, 4.6×250 mm, EtOH=100, flow rate 0.5 ml/min, l=254 nm), tR=6.24 min(major), 6.96 min(minor), 70% ee以下に(3’R,5’S)−cis−アセトキシサリドマイドの化合物データを示す。分子式:C15H12N2O6M.W.:316.271H NMR : (d6-DMSO) δ 2.11 (s, 3H, CH3), 2.25-2.80 (m, 2H, CH2), 5.48 (dd, J=5.4, 13.2 Hz, 1H, CH2CHN), 5.86 (dd, J=5.6, 13.1 Hz, 1H, CHOAc), 5.84 (brs, 1H, OH), 7.89 (m, 4H, Ar), 11.50 (s, 1H, NH)HPLC (DAICEL CHIRALCEL OD-RH, 4.6×150 mm, EtOH=100, flow rate 0.5 ml/min, l=254 nm), tR=7.93 min(major), 8.96 min(minor), 90% ee
非特許文献11乃至13を参考に合成した(+−)‐cis‐5’‐ヒドロキシサリドマイド50mg(0.18mmol)を10mLナスフラスコにとり,そこへ5.0mlの1,4−ジオキサンと2.5mlの酢酸ビニルを加え,完全に溶解させた。そこへ加水分解酵素リパーゼTL(名糖産業製)100mgを加え恒温チャンバーにて37℃で一週間攪拌した。約12時間置きに反応溶液を極少量サンプリングし,真空ポンプにて溶媒と酢酸ビニルを除去したのち,エタノールを数滴加え懸濁させて静置し,その上澄み液をHPLC(CHIRALCEL OD-RH 4.6×150mm エタノール100% 流速0.5ml/min)によってモニタリングすることでエナンチオ過剰率を追跡した。エナンチオ過剰率がそれ以上向上しないのを確認し,反応を停止させ,シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=50/50)にてそれぞれ単離し,(3’S,5’R)−cis−ヒドロキシサリドマイドを86%ee,(3’R,5’S)−cis−アセトキシサリドマイドを72%eeで得た。そして,得られた(3’S,5’R)−cis−ヒドロキシサリドマイドをエタノールによって再結晶し,得られた結晶を濾取した。HPLCによってエナンチオ過剰率を測定したところ99%eeであった(下記式(化5))。
(3’R,5’S)−cis−アセトキシサリドマイド(72% ee)125mg(0.395mmol)を100mLナスフラスコにとり,メタノール60mlを加え完全に溶解させた。そして,p−トルエンスルホン酸37.6mg(0.198mmol)を加え24時間還流した。その後,室温まで冷却したのち,溶媒をロータリーエバポレーターにて留去し,得られた粗生成物のエナンチオ過剰率をHPLCにて測定すると72%eeであった。祖生成物をエタノールにて一度再結晶を行なうと,得られた結晶は10%ee(35mg)であったが,再度再結晶を行うとエナンチオ過剰率は99%ee(25mg)であった(下記式(化6))。
以下に(3’R,5’S)−cis−ヒドロキシサリドマイドの化合物データを下記に示す。
分子式:C13H10N2O5
M.W.:274.23
1H NMR : (d6-DMSO) δ 2.30 (m, 1H, CH2), 2.52 (m, 1H, CH2), 4.56 (dd, J=5.2, 12.9 Hz, 1H, CH2CHN), 5.32 (dd, J=5.1, 13.3 Hz, 1H, CHOH), 5.84 (brs, 1H, OH), 7.95 (m, 4H, Ar)
[a]25 D+9 (c 0.18, CHCl3)
HPLC (DAICEL CHIRALCEL OD-RH, 4.6×250 mm, EtOH=100, flow rate 0.5 ml/min, l=254 nm), tR=6.2 min(minor), 6.96 min(major), 72% ee
分子式:C13H10N2O5
M.W.:274.23
1H NMR : (d6-DMSO) δ 2.30 (m, 1H, CH2), 2.52 (m, 1H, CH2), 4.56 (dd, J=5.2, 12.9 Hz, 1H, CH2CHN), 5.32 (dd, J=5.1, 13.3 Hz, 1H, CHOH), 5.84 (brs, 1H, OH), 7.95 (m, 4H, Ar)
[a]25 D+9 (c 0.18, CHCl3)
HPLC (DAICEL CHIRALCEL OD-RH, 4.6×250 mm, EtOH=100, flow rate 0.5 ml/min, l=254 nm), tR=6.2 min(minor), 6.96 min(major), 72% ee
非特許文献11乃至13を参考に合成した(+−)‐cis‐5’‐ヒドロキシサリドマイド2.0mg(7.3μmol)を5ml試験管にとり,そこへ0.2mlのアセトンと0.1mlの酢酸ビニルを加え,完全に溶解させた。そこへ加水分解酵素リパーゼTL(名糖産業製)4.0mgを加え恒温チャンバーにて37℃で12時間インキュベーションした。反応溶液をサンプリングし,真空ポンプにて溶媒と酢酸ビニルを除去したのち,エタノールを数滴加え懸濁させて静置し,その上澄み液をHPLC(CHIRALCEL OD-RH 4.6×150mm エタノール100% 流速0.5ml/min)によって測定すると,(3’S,5’R)−cis−ヒドロキシサリドマイドを96%ee,転化収率43%,(3’R,5’S)−cis−アセトキシサリドマイドを72%ee,転化収率57%であった(下記式(化7))。
非特許文献11乃至13を参考に合成した(+−)‐cis‐5’‐ヒドロキシサリドマイド2.0mg(7.3μmol)を5ml試験管にとり,そこへ0.2mlのアセトンと0.1mlの酢酸イソプロペニルを加え,完全に溶解させた。そこへ加水分解酵素リパーゼTL(名糖産業製)4.0mgを加え恒温チャンバーにて37℃で67時間インキュベーションした。反応溶液をサンプリングし,真空ポンプにて溶媒と酢酸ビニルを除去したのち,エタノールを数滴加え懸濁させて静置し,その上澄み液をHPLC(CHIRALCEL OD-RH 4.6×150mm エタノール100% 流速0.5ml/min)によって測定すると,(3’S,5’R)−cis−ヒドロキシサリドマイドを>99.5%ee,転化収率45%,(3’R,5’S)−cis−アセトキシサリドマイドを81%ee,転化収率55%であった(下記式(化8))。
本発明の5’−ヒドロキシサリドマイド誘導体及びその製造方法は、医・農薬等に利用可能である。
Claims (2)
- 下記の式(1)又は式(1’)で表される光学的に純粋な形態の2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体。
(式中,R1,R2,R3,R4,R5,R6,及びR7はそれぞれ独立に水素原子,低級アルキル基,低級アルコキシ基,ハロゲン原子,ハロゲン化低級アルキル基,置換基を有していてもよいアミノ基,ヒドロキシル基、低級アルキルチオ基,低級アルコキシカルボニル基,置換基を有していてもよいカルバモイル基,シアノ基,ニトロ基,低級アルケニル基,又は低級アルキニル基を示し,R1ないしR4のうち隣接する2つの基は一緒になって置換基を有していてもよい5乃至7員環を形成してもよく;R6は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。) - 前記2−(5−ヒドロキシ−2,6−ジオキソピペリジン−3−イル)イソインドリン−1,3−ジオン誘導体の製造方法であって,ヒドロキシル基を立体選択的にアシル化し得る酵素の存在下に,有機溶媒中でアシル化剤と作用させて光学活性エステルを生成することにより光学分割する工程を備えることを特徴とする製造方法。
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