以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
[1]基本構成
高周波回路たとえばRFIDタグ(無線タグ)の基本構成を図1に示す。第1素子であるRFIDタグチップ(無線タグチップ)1に伝送線路2a,2bを介して送受信用の第2素子であるアンテナ放射部(受信含む;電波放射部ともいう)3が接続されている。さらに、伝送線路2a,2bとアンテナ放射部3との接続点に、クローズスタブ4が接続されている。
上記伝送線路2a,2bおよびクローズスタブ4は、RFIDタグチップ1とアンテナ放射部3との接続間にある整合回路(整合手段)として機能する。
このRFIDタグの等価回路を図2に示す。すなわち、アンテナ放射部3とクローズスタブ4との並列回路が伝送線路2a,2bを介してRFIDタグチップ1に接続された状態にあり、アンテナ放射部3のインピーダンスをZa、クローズスタブ4のインピーダンスをZac、RFIDタグチップ1のインピーダンスをZp、伝送線路2a,2b相当の長さをLoで表している。
RFIDタグチップ1がアンテナ放射部3と整合するためには、Zpの複素共役と給電点を近い値にする必要がある。
一般に、アンテナは、その使用用途によって必要な指向性が決まり、その指向性を実現するための形状も制限される。結果、アンテナ放射部3のインピーダンスZaも使用用途によりおおむね決まってしまう。よって、ここでは、アンテナ放射部3のインピーダンスZaを既知のものとする。また、RFIDタグチップ1のインピーダンスZpも既知のものとする。
本実施形態では、ZaとZpが既知の場合の、周りの誘電体の影響を受け難いRFIDアンテナの設計の考え方を示す。
ここで、クローズスタブ4とアンテナ放射部3との接続点のインピーダンスをZacとし、RFIDタグチップ1側からアンテナを見た給電点のインピーダンスをZaclとすると、ZaclはZacおよびZoにより数式1のように表される。
ここで、複素数ZacをRZac + j×IZacとすると、Zaclの実部は数式2、虚部は数式3のように表される。
ここで、tanβLoが“0”から“1”前後程度であり、かつ|Zac|に比べZoが十分に大きい場合、数式2は数式4で近似でき、数式3は数式5で近似できる。
尚、tanβLoが“0”から“1”前後程度となるのは、線路長Loが該当線路内の波長の1/8前後以下の場合である。
ここで、RFIDタグの周辺の誘電体がRFIDアンテナに与える影響をアンテナ素子上の実効比誘電率εeffで表す。この場合、アンテナ素子上の波長短縮率は数式6で表される。
なお、参考として、主な物質の比誘電率を図3に示す。誘電率εと真空の比誘電率εoとの比ε/εoを比誘電率とよぶ。比誘電率は無次元量であり、用いる単位系によらず、一定の値をとる。
また、伝送線路2a,2bにおける伝送波長のみの影響を受けた特性インピーダンスの値を数式7で表し、伝送波長のみの影響を受けたZacの変化を数式8のように表す。
この場合、Zo、Zacの実効比誘電率εeffに対する変化を、本実施形態では数式7および数式8を用いて数式9および数式10のように表すものとする。
尚、数式9および数式10における括弧内の値の変化は、実効比誘電率の変化による伝送波長短縮率の影響を示している。また数式9および数式10における分母は、実効比誘電率の変化によるアンテナ空間周辺の波動インピーダンスの変化による影響を示している。
尚、数式9が示すZoと実効比誘電率εeffの関係は、伝送線路の特性として知られており、数式10が示すZacと実効比誘電率εeffの関係は、実測もしくは電磁界シミュレータの算出結果などから見出したものである。
上記したようにRFIDタグチップ1のインピーダンスZpはその実部の絶対値と比較して絶対値の大きい負の虚部を持つ。よって、ZpとZaclの整合を考える場合、まずZpの複素共役の虚部を、Zaclの虚部の近似式である数式5と一致させることを考える。
ここで、実効比誘電率εeffが変化した場合のZaclの虚部は、数式5のβに数式6を代入し、Zoに数式9を代入し、Zacに数式10を代入することで表すことができる。ここで、|ZacW|に比べZoWが十分に大きい場合、数式5の括弧内の値はほぼ“1”となるため、実効比誘電率εeffが変化した場合のZaclの虚部は数式11のようになる。
ここで、tan(βoLo√εeff)がゼロから1前後程度と考え、
のように近似すると、数式11は数式13のように近似される。
数式13から、Zaclの虚部に対し実効比誘電率εeffが与える影響は特性インピーダンスZoWに対する伝送波長の変化のみとなっていることが分かる。これは、数式11におけるtan(βoLo√εeff)の実効比誘電率εeffに対する変化と、分母√εeffで表される波動インピーダンスの変化による影響が打ち消しあった結果である。
ZoWは、伝送線路2a,2bの特性インピーダンスである。例えば、伝送線路2a,2bがコプレーナ・ストリップ線路である場合、伝送波長が変化しても伝送線路2a,2bの特性インピーダンスは一定である。すなわち、ZoW(λo/√εeff)=ZoWとなる。よってtan(βoLo√εeff)が“0”から“1”前後程度で、かつ|ZacW|に比べZoWが十分に大きい場合、数式13が成立し、Zaclの虚部は実効比誘電率εeffによらず一定となる。
尚、上記ZoWの伝送線路2a,2bが伝送波長の変化に対してロバストな特性を持つ線路断面を有するものであれば、tan(βoLo√εeff)が“0”から“1”前後程度で、かつ|ZacW|に比べZoWが十分に大きい場合、Zaclの虚部は実効比誘電率εeffの変化に対しロバストな特性をもつ。
上記したように、アンテナ放射部3とRFIDタグチップ1を整合させるには、ZaclをRFIDタグチップ1のインピーダンスZpの複素共役と一致させる必要がある。つまり、−Im[Zp]を数式11と一致させる。このことから、アンテナ放射部3とクローズスタブ4の接続点からRFIDタグチップ1の給電点までをつなぐ伝送線路2a,2bの長さLoは数式14で求まる。
尚、tanの逆関数は複数の値を持つが、ここではその複数の値のうち、“0”以上で最も小さい値からLoを求めるものとする。
ここで、特性インピーダンスZoWを決定する線路断面の構造は既知とし、RFIDアンテナの設計において考慮する実効比誘電率の範囲をε1からε2とした場合、Zpと上記2種類のεeffを数式14に代入すると、2種類の線路長Lo1,Lo2が求まる。実際の線路長は、これら2つの値の範囲内で定めればよい。尚、特性インピーダンスZoWが大きければ大きいほど、数式11のtanの一般角は小さくなり、数式12が成立する。その結果、ε1の時とε2の時のIm[Zacl]の変化が小さくなり、線路長Lo1,Lo2の差も小さくなる。このことから、上記ZoWは,アンテナ指向性などのアンテナ特性に影響を与えない範囲でなるべく大きくすることが望ましい。
一方、特性インピーダンスZoWが大きいほど、線路長Lo1,Lo2の値は小さくなることが数式14から分かる。そして、一般に、伝送線路2a,2bに大きな特性インピーダンスを与えるためには、大きな線路間隔が必要となる。仮に、線路長Lo1の値が上記ZoWを実現するために必要な伝送線路2a,2bの線路間隔よりも小さい場合、伝送線路2a,2bの特性は安定しない。よって、伝送線路2a,2bの特性の安定性を考慮する場合、Loは伝送線路2a,2bの線路間隔より十分に大きな値であることが望ましい。以上から、上記ZoWの上限は、伝送線路2a,2bの線路間隔と長さによって制限されることが分かる。
ここで、参考までに、Zaclの虚部が周波数の変化に対しロバストとなる条件について数式5を利用して考える。周波数fに対するZaclの虚部の変化は、数式5、数式9、および数式10から数式15のように表される。
ここで、εeffは“1”とし、ZoW(λ)は上記の通り伝送波長の変化に対し一定とする。そのため、周波数fに対する(すなわち伝送波長λに対する)Zaclの虚部の変化を小さくするためには、“tanβo(λo/λ)Lo”の変化を数式15の括弧内の値の変化で打ち消す必要がある。よって、|ZacW|がZoWに対しある程度の大きさとなる必要がある。例えば、
“tanβo(λo/λ)Lo”が“0.5”から“1”まで変化する場合、|ZacW|/ZoWは“0”から“0.707”程度に変化する必要がある。|ZacW|/ZoWが“0.707”となる場合、|ZacW|に比べZoWが十分に大きいとはいえない。
すなわち、Zaclの虚部が実効比誘電率εeffの変化に対しロバストとなる条件
(|ZacW|に比べてZoWが十分に大きいこと)と、周波数の変化に対しロバストとなる条件は、トレードオフの関係にあることが分かる。
尚、実効比誘電率εeffの変化に対しロバストな条件と、周波数の変化に対しロバストな条件の違いは、当然アンテナの形状にも顕在化する。周波数の変化に対しロバストなアンテナ、すなわちRFID用広帯域アンテナにおいては、上記のように|ZacW|がZoWに対しある程度の大きさとなる必要がある。RFID用広帯域アンテナと実効比誘電率εeffに対しロバストなアンテナのクローズスタブの特性インピーダンスZoWcが同じ場合、|ZacW|を大きくするためにはクローズスタブ4の線路長Lcを大きくする必要がある。以上のことから、RFID用広帯域アンテナは実効比誘電率εeffに対しロバストなアンテナと比べ、クローズスタブ4の線路長が長くなる。
以上から、Zpの虚部からZoWとLoが定まることがわかった。この時点で図2における未知数はクローズスタブ4のZcのみである。Zcについては数式2もしくは数式4とZpの実部を一致させる条件から求めればよい。本実施形態では、数式4とZpの実部からZcを決定する手順を示す。ZaclとZpの実部を一致させる条件は数式4より数式16となる。
ここで、Zacの逆数(アドミタンス)をYacとすると数式17となる。
クローズスタブ4とアンテナ放射部3は並列に接続されているため、Yacはクローズスタブ4のアドミタンスYcとアンテナ放射部3のアドミタンスYaの加算で表される。ここで、数式17のβに数式6を代入した場合、ZaclとZpの実部を一致させる条件は数式19となる。
尚、クローズスタブ4の線路長をLcとした場合、Ycの実効比誘電率εeffに対する変化は数式18で表される。
ここで、上記のように、設計を行うRFIDタグに対応させる実効比誘電率の範囲がε1からε2である場合、アンテナ素子上の実効比誘電率がε1の場合とε2の場合の放射部アドミタンスYa1とYa2を測定するか、もしくは電磁界シミュレーションで算出する。Ya1を数式19のYaに代入し、ε1とLoを数式19に代入すればYcが求まる。そして、数式18にYoWc(λo/√ε1)とε1を代入すればLc1が求まる。同様にして、ε2の場合の各パラメータを数式19に代入すればLc2も求まる。以上から、クローズスタブ4の線路長Lcは上記2つの値の範囲内で定めればよい。
尚、数式18のZoWcは、εeff=1の時のクローズスタブ4の線路の特性インピーダンスである。アンテナ放射部3とクローズスタブ4の接続点は、RFIDタグチップ1の給電点に至る伝送線路2a,2bに接続されている。よって、ここでは、伝送線路2a,2bおよびクローズスタブ4の線路の断面形状が同じであるとする。すなわち、ZoW=ZoWcとなる。
また、数式19の右辺は二乗となっているためアンテナ素子上の実効比誘電率がε1の場合のYcは2種類求まるが、数式18におけるLcがゼロ以上で最小となる方をLc1の値とする。アンテナ素子上の実効比誘電率がε2の場合のLc(Lc2)についても同様とする。
これまでは、実効比誘電率がε1の時とε2の時で、RFIDタグチップ1のインピーダンスZpが変化しない場合に、誘電体の影響を受け難いRFIDタグのアンテナについて記述した。しかし、RFIDタグチップ1も電気回路であるため、チップ周辺の誘電体の影響を受けてZpの値が変わる。以後に、アンテナ素子上の実効比誘電率がε1の時のそのアンテナ素子の給電点に実装されたRFIDタグチップ1のインピーダンスをZp1とし、同様にε2の時はZp2とした場合の各種アンテナパラメータについて記述する。
まず、アンテナ放射部3とクローズスタブ4の接続点からRFIDタグチップ1の給電点までをつなぐ伝送線路2a,2bのパラメータZoW,Loについて考える。伝送線路2a,2bのZoWについては伝送波長のみの変化に対しては一定と考える。すなわち、
“ZoW(λo/√εeff)=ZoW”とする。
数式14のZp,εeffに上記Zp1,ε1を代入して得られる式と、Zp2,ε2を代入して得られる式とを連立させ、Loを消去すると、数式20が求まる。一方、ZoWを消去すると、数式21が求まる。ZoWは数式20が成立する値とし、Loは数式21が成立する値を後々調整する際の目安とすればよい。
尚、Loの目安は、数式14に数式20が成立するZoW,ε1,Zp1(もしくは数式20が成立するZoW,ε2,Zp2)を代入して求めてもよい。
尚、先にLoを求める場合、Loは数式21が成立するLoとする。そしてZoWについては、数式22に数式21が成立するLo,ε1,Zp1を代入して得られる値を後々調整する際の目安とすればよい。
以上から、数式20および数式21が成立するZoW,Loによりアンテナを設計すれば,Im[Zacl]と−Im[Zp]とは実効比誘電率が変化してもほぼ一致することとなる。尚、数式9から分かるように、数式20で算出されるZoWは実効比誘電率が“1”の時のZoと同一となる。
尚、“βoLo√ε2”が90°になると、数式11によるIm[Zacl]は無限大となる。−Im[Zp]が無限大になることはないと考えると、Loがアンテナ上でとり得る値は数式23で制限される。
この制限内ではZp1とZp2の間に数式24が成立する。
尚、数式24はε1よりε2が大きい場合である。ε1よりε2が小さい場合、数式24のZp1とZp2の関係は入れ替わる。
以上のことから、Zp1とZp2の間で数式24が成立しないか、数式20(もしくは数式22)で算出したZoWが非常に大きいか非常に小さい場合、実際にアンテナに設ける整合回路において数式20(もしくは数式22)で算出したZoWを再現できない場合もある。そのような場合は、該当整合回路で構成し得る、特性インピーダンスのなかで前記算出値に最も近い値をもつ伝送線路2a,2bの断面形状を新たな伝送線路2a,2bの断面形状とする。そして、その断面形状から新たな“ZoW(λo/√εeff)”を求める。数式14にε1,Zp1を代入し、さらに新たな“ZoW(λo/√εeff)”を代入し、Lo1を求める。数式14にε2とZp2を代入し、さらに新たな“ZoW(λo/√εeff)”を代入し、Lo2を求める。そして新たに求めたLo1とLo2の値の範囲内での値を、後々調整する際のLoの目安とすればよい。
尚、上記した実効比誘電率がε1の時とε2の時で、Zpが変化しない場合とは、Zp1とZp2が等しい場合と考えることができる。
次に、アンテナ素子上の実効比誘電率の変化の影響を受け、Zpの値が変わる場合のクローズスタブ4の線路長を、数式18および数式19から求める。すなわち、Zp1を数式19のZpに代入し、Ya1をYaに代入し、ε1をεeffに代入し、Loを代入することで、Ycが求まる。そして、Yc,ε1,“YoWc(λo/√ε1)”を数式18に代入すれば、Lc1が求まる。同様にして、ε2の場合の各パラメータを数式18および数式19に代入すれば、Lc2も求まる。以上から、クローズスタブ4の線路長Lcは、上記2つの値の範囲内を目安とすればよい。
なお、ZoWと伝送線路の断面形状の関係は以下のWebサイトで算出することができる。
http://www1.sphere.ne.jp/i-lab/ilab/
http://www1.sphere.ne.jp/i-lab/ilab/tool/cps.htm
[2]具体例
次に、具体例について説明する。ここでは、物流管理に使用するRFIDラベル用のアンテナ(RFIDアンテナ)を例に挙げて説明をする。尚、RFIDアンテナとは、RFIDタグからRFIDタグチップを除いた部分と定義する。
物流管理用のRFIDラベルはダンボールに貼り付けられて入出庫管理に使用される。この際、RFIDアンテナはダンボールの中身の影響を受ける。そのため、ダンボールの中身によってRFIDの読取エリアが変化する。例えば、ハンディ型RFID読取装置によりRFIDラベルの情報を読み取る場合、ハンディ型RFID読取装置の使用者はダンボールの中身ごとに異なるRFIDラベルの読取エリアを把握する必要がある。さらに、各ダンボールごとの読取エリアまでハンディ型RFID読取装置を移動させなければならない。以上の要因から、物流管理用のRFIDラベルには、ダンボールの中身に関わらず安定した特性が必要とされる。
次に、RFIDラベルに要求される指向性について考える。入出庫管理においては、RFIDラベルを安定して読めると同時に、ハンディ型RFID読取装置の使用者が意図しないRFIDラベルは読まないようにする必要がある。これは、実際に入出庫を行っている物品のRFIDラベル以外のラベル情報をハンディ型RFID読取装置が読み取ってしまうと、入出庫管理データに不整合が生じるためである。そのため、ラベル情報の読取作業を行う作業者にとって、RFIDラベルの読取エリアは一目でわかるものでなければならない。例えば、ダンボールの上面あるいは下面にRFIDラベルが貼られていた場合、ラベルの向きを目視で確認しづらいため、RFIDラベルの読取エリアが不明確となる。ハンディ型RFID読取装置の使用者にとって、RFIDラベルの読取エリアを明確にするという観点に立った場合、RFIDラベルの読取エリアはラベル面に対し垂直方向のみとする方がよい。この場合、ハンディ型RFID読取装置の使用者から見て水平になっているRFIDラベルは、使用者の位置からは読取れないことが明確となる。
そこで、RFIDラベル用のアンテナは、ダンボールの中身によらず、その最大利得方向がラベル面に対し垂直となるアンテナとする。
ダンボールの中身の影響はアンテナ素子上の実効比誘電率の変化で表せる。上記した通り、アンテナインピーダンスに対しては、実効比誘電率の変化に伴う伝送波長の変化と波動インピーダンスの変化の両方が大きな影響を与える。一方、アンテナ指向性については、両者のうち、伝送波長の変化による影響が支配的である。そのため指向性に関して広帯域で安定したアンテナであれば、実効比誘電率の変化に対しても指向性は安定する。
アンテナ面の軸方向に最大利得方向をもつ広帯域アンテナとして、A型アンテナが知られている。A型アンテナは、図4に示すように、グランド面と、そのグランド面に存する給電点と、その給電点から立ち上がって屈曲しグランド面に接する直角三角形のアンテナ放射部3とからなる。グランド面の代わりに、グランド面の反対側にイメージ電流の流れる線路を持つと考えれば、図5のような左右対称の二等辺三角形のアンテナ放射部3を持つ平面アンテナと考えることができる。よって、ここでは、図5のようなアンテナのアンテナ放射部3をRFIDタグチップ1と整合させることを考える。
整合周波数fは、各国のRFID用周波数において中間の周波数となる915MHzとする。この場合、実効比誘電率が“1”の時の波長λoは約328mmとなる。
次に、RFIDアンテナの設計において考慮する実効比誘電率ε1とε2を定める。従来提案されている広帯域アンテナは、給電点に接続する素子のインピーダンス(アドミタンス)の虚部が“0”に近い値の場合に、広帯域で整合するアンテナが多く、図5で示したアンテナ放射部3も同様である。この場合、アンテナの指向性が安定している実効比誘電率の範囲内では、実効比誘電率の増加に伴い給電点インピーダンス(アドミタンス)の実部と虚部は周期的に増減を繰り返す。また、その実部がその周期において極値となる場合、その実部と対応する虚部は“0”に近い値をとる。図6および図7は、実効比誘電率の変化に伴う、図5のアンテナ放射部3のアドミタンスYaの実部と虚部の変化をそれぞれ示したグラフである。上記した給電点アドミタンスの周期性が、図6および図7から見て取れる。
ここで、数式19に注目すると、数式19を満たすYcも、Yaの実部と虚部の周期の影響を受けることが分かる。よって、Ycも、実効比誘電率の変化に対し、周期性を持つ。一般的に、チップインピーダンスの実部Re[Zp]は小さな値である。そして、数式16から、RZacはRe[Zp]よりも小さくする必要がある。Rzacを小さくするためには、クローズスタブ4のインピーダンスZcを小さくする必要がある。結果、クローズスタブ4のアドミタンスYcは、非常に大きな値となる。Ycの虚部の絶対値に比べるとYaの虚部の絶対値は小さいため、数式19を満たすYcの周期性に支配的な影響力をもつのはYaの実部であることが分かる。実効比誘電率の任意の範囲εareaでYaが最大値もしくは最小値となる場合、それに対応するYcも、範囲εareaでの上限と下限に近い値となると考えられる。そこで、本実施形態のアンテナ設計で考慮する実効比誘電率の範囲をYaの実部から決定する。
本実施形態では、範囲εareaでのYa実部が極値となる実効比誘電率の値をε1とし、
ε1以後、Ya実部が迎える次の極値の実効比誘電率をε2とする。ε1とε2の差が大きいほど、実効比誘電率の変化に対してロバストなアンテナの設計は難しくなる。その場合、範囲εareaの上限εmaxを上記ε2より小さくするか、下限εminをε1より大きくする。そして、新たな範囲εarea2内でのYaの最小値および最大値と、それらをもたらす実効比誘電率の値から、新たなε1とε2を定めればよい。
本実施形態では、ε1を大気の比誘電率(ほぼ1)とする。図6を見ると、実効比誘電率1の時にYa実部が極大値となることがわかる。また、図6において、実効比誘電率1以後の極小値の頂点は実効比誘電率“4”前後となっている。よって、本実施形態では、ε2を実効比誘電率“4”とする。
次に、上記のように決定した実効比誘電率の値ε1とε2の場合におけるRFIDタグチップ1のインピーダンスZp1,Zp2を求める。RFIDタグチップ1のインピーダンスは、実効比誘電率の他にチップとアンテナ素子の接合材や実装方法などの影響などを受け変化する。本実施形態では、Zp1,Zp2は、上記接合材や実装方法等の影響も考慮した場合のチップ側のインピーダンスとする。
例えば、上記チップが実装されたRFIDアンテナを比誘電率がε1である物体内部に埋めた状態で、読取距離が最大となるようにアンテナ形状を調整する。このアンテナ形状は、Zp1,Zp2を求めるためのものであるため、ダイポールアンテナにチップを搭載してクローズスタブを接続したような単純な構成でよい。この場合、RFIDアンテナの調整パラメータは、ダイポールアンテナの長さとクローズスタブの線路長となる。
調整後のアンテナと同じ形状でチップを搭載していないアンテナを用意し、それを比誘電率がε1である物体内部に埋めた状態で給電点インピーダンスを測定する。この測定値が上記Zp1の複素共役となる。
もしくは、調整後のアンテナ形状を電磁界シミュレータ等に入力し、読取距離を測定した環境を入力した上で、給電点インピーダンスを算出する。この算出値が上記Zp1の複素共役となる。
同様の方法で、実効比誘電率がε2の時の前記Zp2の複素共役も得ることができる。
また、RFIDの読取距離にはアンテナの利得も影響する。そしてアンテナ調整に伴いアンテナ利得が大きく変化する場合がある。この場合、読取距離からアンテナ利得の影響を差し引いた値が最大となるアンテナ形状を特定する。そして、特定したアンテナ形状の給電点インピーダンスを測定あるいは算出する。
尚、実効比誘電率がε1とε2である物体は、その大きさがRFIDアンテナの近傍界よりも大きい物体とする。
本実施形態におけるRFIDタグチップ1は、例えばZp1が“10−j140”とし、Zp2が“10−j190”とする。
このZp1,Zp2,ε1,ε2を数式20に代入すると、ZoWは約273Ωとなる。次に、Zp1,Zp2,ε1,ε2を数式21に代入すると、Loは約24.7mmとなる。ここで、アンテナ放射部3とクローズスタブ4の接続点からRFIDタグチップ1の給電点までをつなぐ伝送線路2a,2bは、コーポレーナ・ストリップ線路とする。この場合、ZoWは、周波数(波長)にかかわらず一定となる。そして、ZoWおよびε1、もしくはε2を数式9に代入することで、ε1もしくはε2の時の伝送線路2a,2bの特性インピーダンスZoが算出できる。本実施形態では、ε1は“1”のため、ε1の時の特性インピーダンスは約273Ω、ε2=“4”の時の特性インピーダンスは約136.5Ωとなる。
次に、実効比誘電率が“1”の場合に特性インピーダンスが273Ωとなるコーポレーナ・ストリップ線路が現実的に可能かどうか確かめる。コーポレーナ・ストリップ線路は、線路間隔が4mm、線路幅が2mmであり、実効比誘電率が“1”である場合に特性インピーダンスは約295Ωとなる。後述するアンテナ形状の微調整を行う際は、実効比誘電率によって変化するZpに対し、Zaclの変化量を調整することとなる。その際、Zaclの変化が大きい場合よりも、小さい場合の方がZpの変化に合わせ易い。このことから、ZoWは、数式20での計算結果より若干大きいことが望ましい。また、ZoWが大きい場合、Loは数式14での計算結果より小さくなる。よって、295Ωを本実施形態のZoWとし、22mmをLoの長さの目安とする。
Zpの変化は、RFIDタグチップ1を選択した時点で決まってしまうのに対し、Zaclの変化はアンテナ設計者がコントロールできる。よって、アンテナ設計者にとってZpとZaclの整合を行い易くするために、上記のようにアンテナ放射部3とクローズスタブ4の接続点からRFIDタグチップ1の給電点までをつなぐ伝送線路2a,2bの特性インピーダンスZoWおよび線路長Loを決める。
次に、数式18および数式19からLcを求める。数式19のYaに代入するYa1,Ya2は図6からYa1=0.00735+j×0.00159、Ya2=0.00169+j×0.00215とする。また、クローズスタブ4の線路断面形状が伝送線路2a,2bと同じとする。この場合、YoWcは、上記ZoWの逆数となる。ε1の時の各パラメータを数式18および数式19に代入すると、Lc1は約5.8mmとなる。ε2の時の各パラメータを数式18および数式19に代入すると、Lc2は約7.9mmとなる。実際のアンテナ製造においては、0.1mm単位でアンテナ形状をコントロールすることは難しい。また、各Lcに対する線路間隔(4mm)の割合が大きい。よって、本実施形態では、8mmをLcの長さの目安とする。
図5の平面アンテナに整合回路を加えたRFIDアンテナの構成を図8に示している。
すなわち、二等辺三角形のアンテナ放射部3の底辺部略中央に所定間隔の切欠きが形成され、その切欠き部の両端からアンテナ放射部3の内側に向いて略垂直方向に一対の伝送線路2a,2bが立ち上がり、その伝送線路2a,2bの先端側が互いに向き合う状態に屈曲してRFIDタグチップ1の両端にそれぞれ接続されている。伝送線路2a,2bは同一線路幅であり、伝送線路2a,2bの互いの伝送線路間隔は伝送線路幅より広い。伝送線路2a,2bは、それぞれの線路幅が例えば2mm、互いの線路間隔が例えば4mmであり、A−A線に沿う断面の図9に示すように、ペット材質10上にプリント配線である上記線路間隔を開けて装着される。RFIDタグチップ1の幅は例えば1mm程度である。
さらに、上記切欠き部の両端に、伝送線路2a,2bの立ち上がり方向と反対の方向にわずかに突出する状態に、コの字形のクローズスタブ4が接続されている。クローズスタブ4は、切欠き部の両端から垂直に延びる両脚部の間隔が例えば伝送線路2a,2bの線路間隔と同じ4mm、線路幅が例えば伝送線路2a,2bと同じ2mmである。
この図8のRFIDアンテナにおいて、伝送線路2a,2bの長さLoはα点からγ点までの点線経路の長さに相当し、クローズスタブ4の長さLcはα点からβ点までの点線経路の長さに相当する。この場合、二等辺三角形のアンテナ放射部3の切欠き部分より外側に突出している部分であるクローズスタブ4の脚部間隔が例えば4mmであるため、クローズスタブ4の長さLcは値の大きいLc2を切り上げている。しかし、8mmという長さに対しても、脚部間隔が占める割合は比較的大きい。そのため、Lcに対する脚部間隔の大きさの割合を小さくするため、クローズスタブ4の脚部間隔を小さくとってもよい。例えば、クローズスタブ4の脚部間隔を2mm、線路幅を2mmとすると、“YoWc”は約0.004となる。
尚、一般に伝送線路2a,2bの線路間隔を小さくすると、“YoWc”の値は大きくなる。ε1の時の各パラメータを数式18および数式19に代入すると、Lcは約7.1mmとなる。ε2の時の各パラメータを数式18および数式19に代入すると、Lcは約9.6mmとなる。以上から、Lcの目安を9mmとしても良い。
この場合、伝送線路2a,2bの線路間隔とクローズスタブ4の脚部間隔とが異なるため、RFIDアンテナの形状は図10のようになる。すなわち、二等辺三角形のアンテナ放射部3の底辺部略中央に所定間隔の切欠きが形成され、その切欠き部の両端からアンテナ放射部3の内側に向いて一対の伝送線路2a,2bが一旦拡がる状態に立ち上がり且つアンテナ放射部3の底辺部に対して略垂直の方向に延びている。そして、伝送線路2a,2bの先端側が互いに向き合う状態に屈曲してRFIDタグチップ1の両端にそれぞれ接続されている。伝送線路2a,2bは、それぞれの線路幅が例えば2mm、互いの線路間隔が例えば4mmであり、RFIDタグチップ1の幅は例えば1mm程度である。さらに、上記切欠き部の両端に、伝送線路2a,2bの立ち上がり方向と反対の方向にわずかに突出する状態に、コの字形のクローズスタブ4が接続されている。クローズスタブ4は、切欠き部の両端から垂直に延びる両脚部の間隔が例えば伝送線路2a,2bの線路間隔より狭い2mm、線路幅が例えば伝送線路2a,2bと同じ2mmである。
図8のRFIDアンテナの給電点インピーダンスZaclの実部と虚部、およびアンテナ放射部3が成す平面に対する垂直方向の利得のシミュレーション結果を図11に示す。各パラメータを算出する際の近似誤差、測定誤差、シミュレーション誤差等の要因により、図11の各値はRFIDタグチップ1のインピーダンスZpの複素共役からズレてしまう。そのため、実際のRFIDアンテナの設計においては、形状パラメータが多少異なる複数のアンテナにチップを実装したRFIDを用意し、各アンテナの形状におけるRFIDの読取距離を測定して実際のアンテナの形状を決定する。
例えば、図8のRFIDアンテナの場合、伝送線路2a,2bの線路幅および線路間隔は、その伝送線路2a,2bを削り取ることによって変更できる。よって、上記のように算出したLoの値を目安に、Loが多少異なる複数のRFIDアンテナを用意し、その各RFIDの伝送線路2a,2bの線路幅および線路間隔の変更については削り取りによって対処する。
[3]変形例
変形例として、図12に示す形状のRFIDアンテナがある。すなわち、伝送線路2a,2bにおけるRFIDタグチップ1側への屈曲部に、オープンスタブ5a,5bが接続される。オープンスタブ5a,5bは、伝送線路2a,2bの立ち上がり方向にそのまま真っ直ぐに延びる一対の線路からなり、伝送線路2a,2bおよびクローズスタブ4と共に、整合回路(整合手段)として機能する。
この場合、伝送線路2a,2bの線路長をLo1、オープンスタブ5a,5bの線路長をLo2で示している。オープンスタブ5a,5bの線路長Lo2については、開放端を削り取ることで調整可能である。
オープンスタブ5a,5bの線路長Lo2が大きいほど、給電点インピーダンスの虚部は大きくなる。よって、給電点インピーダンスZacl2をZpと整合させる場合、Lo1の長さは図8のアンテナ形状のLo以下となる。従ってオープンスタブ5a,5bの線路長は伝送線路2a,2bの線路長よりも長いことが望ましい。
また、この図12のRFIDアンテナにおけるLo1の長さとLo2の長さの合計が図8のRFIDアンテナのLoとほぼ同じであれば、図12のRFIDアンテナの給電点インピーダンスは図8のRFIDアンテナのそれと比べ実部は大きくなり、虚部は小さくなる。また、Lo1に比べLo2の割合が大きくなるほど、給電点インピーダンスの差は大きくなる。このことは、図13のスミスチャートを参照すれば分かる。
図13のスミスチャートにおいて、X点が図8のRFIDアンテナのLoがLo1と同じ場合の給電点インピーダンスを示すものとすれば、図8のRFIDアンテナのLoが“Lo1+Lo2“の大きさである場合の給電点インピーダンスは、スミスチャートにおけるY点に存する。このY点および上記X点は、スミスチャートにおける同心円上にある。また、図12のRFIDアンテナの給電点インピーダンスは、アドミタンス実部が一定の軌跡上の例えばZ点に存する。尚、このスミスチャートの原点は、伝送線路2a,2bの特性インピーダンスであるとする。
一方、図14に示すように、オープンスタブ5a,5bが伝送線路2a,2bに対して直角方向に拡がる形状としてもよい。
なお、図14はオープンスタブ5a,5bの開放端の相互間隔を最大化した形状であり、それよりも開放端の相互間隔が狭い形状の例を図15に示している。すなわち、図15に示すオープンスタブ5a,5bの伝送線路2a,2bと接続する基端部同士の間隔はオープンスタブ5a,5bの開放端部同士の間隔よりも狭い。
図8に示したRFIDアンテナのアンテナインピーダンスは、Zpの複素共役と比べ虚部が大きい。よって、オープンスタブ5a,5bを設け、そのオープンスタブ5a,5bの線路長Lo2によってアンテナ形状の調整を行うことを考える。
上記したように、オープンスタブ5a,5bの開放端を削り取ることによってそのオープンスタブ5a,5bの線路長Lo2を調整することが可能である。そこで、伝送線路2a,2bの線路長Lo1の値が異なり、オープンスタブ5a,5bの線路長Lo2がアンテナ放射部3と接触しない程度で十分大きい値(例えば28mm)となる図14のようなRFIDアンテナを複数用意する。尚、用意する複数のRFIDアンテナの伝送線路2a,2bの線路長Lo1の値は、図8のRFIDアンテナの伝送線路2a,2bの線路長Loの値たとえば数式21の算出値24.7mmより短いものとする。こうして用意した各RFIDアンテナにRFIDタグチップ1を実装し、オープンスタブ5a,5bの線路長Lo2を少し削り取って変更する。変更するごとに、ε1からε2の間の実効比誘電率の環境下たとえばεeff=1,
εeff=2,εeff=3,εeff=4でRFIDの読取距離を測定し、伝送線路2a,2bの線路長Lo1およびオープンスタブ5a,5bの線路長Lo2の値を決定する。
尚、伝送線路2a,2bの線路長Lo1の値のみ異なる複数のRFIDアンテナを用意しているが、ZoWやYoWcすなわち伝送線路2a,2bの線路幅や線路間隔、もしくはクローズスタブ4の長さLcが異なる複数のRFIDアンテナを用意してもよい。
この変形例におけるRFIDアンテナの具体的な一例として、伝送線路2a,2bの線路長Lo1が13.5mmで、オープンスタブ5a,5bの線路長Lo2が10mmの場合の、給電点インピーダンスZaclの実部と虚部、およびアンテナ放射部3が成す平面に対する垂直方向の利得のシミュレーション結果を図16に示す。
このようにオープンスタブを設けたRFIDアンテナの場合、クローズスタブのみの場合と比べ容易に調整が出来るという利点を有する。
前記した例において、RFID用チップはZp1が“10−j140”としZp2は“10−j190”であり、これらとチップ側から見た給電点のインピーダンスZaclを整合させる場合について記載した。一方、RFIDは大量生産することでコストを抑えるため、量産によるチップのバラツキ、アンテナ形状のバラツキなども考慮する必要がある。例えば、各インピーダンスの虚部は整合していると仮定し、RFID用チップのインピーダンスの実部が“10”である場合、電力損失が1/4以内となるチップ側から見た給電点のインピーダンスZaclの実部の範囲を計算すると、概ね“3.4 ≦ Re[Zacl] ≦ 30”となる。このようにインピーダンスの実部の差と電力損失は非線形の関係にある。
このような場合に量産バラツキを考慮してアンテナを設計するには、チップ側から見た給電点のインピーダンスZaclの実部の設計目標値をRFID用チップのインピーダンスの実部より大きめに設定する。すなわち、前記した例におけるZp1とZp2の実部を“10”より大きく設定し、新しいZp1とZp2 の値で前記したような計算を行い、アンテナ形状の各寸法の目安を計算する。これはZp1とZp2が同値の場合においても同様である。
例えば、RFID用チップのインピーダンスの実部が“10”であり、電力損失が1/4以内の範囲を基準にするならば、下限“3.4”と上限“30”の中間値“16.7”を新しいZp1とZp2の実部とすればよい。尚、Zp1とZp2の虚部は、各々に対応する実効比誘電率の時の第一素子のインピーダンスZchipと略同一とする。
尚、各インピーダンスの虚部は整合していると仮定した場合、RFID用チップのインピーダンスの実部がRe[Zchip]であり電力損失がPlossである時の、電力損失がPloss以内の範囲の上限と下限の値は数式25で算出できる。
次に、本発明を携帯端末などのアンテナに適用する場合について記載する。これは、第1素子がシールド線による整合回路であり、第2素子がアンテナ放射部の実施例であり、RFID用アンテナの場合と異なり、一般的な通信機器はアンテナとの接続端子は虚部が“0”となるよう整合されている。そこで、アンテナ素子上の実効比誘電率がε1の場合Zaclが“10+j140”であり、ε2の場合Zaclが“10+j190”の場合に給電点と接続するシールド線による整合回路について記載する。
アンテナ端子は一般的に特性インピーダンスは50Ωとされている。また、シールド線路により整合回路を構成した場合、シールド線路は外界の影響をほとんど受けないためアンテナ周辺の誘電体の影響も受けない。よって本例示では、“10+j140”と“10+j190”の中間値 “10+j165”をシールド線による整合回路で50Ωに整合する。
例えば、シールド線として特性インピーダンスが50Ωの同軸線路を使い、単一スタブ整合を行う事を考える。単一スタブが図17のような構成であり、同軸線路の伝送波長がλsである場合、図中のLs1が約0.276λsでありLs2が約0.021λsである時に図中の第1のスタブ点171は約50Ωで整合する。尚、図中のZosは同軸線路の特性インピーダンスであり、第2のスタブ点172は図の通り短絡されているものとする。
上記したような携帯端末の場合、携帯端末側のアンテナに対し影響を与える誘電体として人間の手が考えられる。また携帯端末が携帯型RFID読取装置の場合、送信出力が小さく読取距離が短いことが考えられる。この場合、携帯端末側のアンテナがID読取を行うRFIDの貼付対象の影響を受ける。よって、携帯端末側のアンテナを設計する際は、人間の手の影響を考慮してε1を設定し、人間の手とRFIDの貼付対象の両者の影響を考慮しε2を設定する事になる。
このように本発明では、RFIDタグチップ1とアンテナ放射部3との接続間に、当該RFIDタグ上の伝送波長短縮率と周りの波動インピーダンスの変化とを打ち消す整合回路を設けていることにより、周りの誘電体から受ける影響を取り除いて取り付け対象物を選ばずに良好な通信特性を得ることができる。