以下、本発明に係る燃料噴射特性検出装置及びエンジン制御システムを具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の装置は、例えば4輪自動車用エンジン(内燃機関)を対象にするコモンレール式燃料噴射システム(高圧噴射燃料供給システム)に搭載されている。すなわちこの装置も、先の特許文献1に記載の装置と同様、ディーゼルエンジンのエンジンシリンダ内の燃焼室に直接的に高圧燃料(例えば噴射圧力「1000気圧」以上の軽油)を噴射供給(直噴供給)する際に用いられる。
はじめに、図1を参照して、本実施形態に係るコモンレール式燃料噴射制御システム(車載エンジンシステム)の概略について説明する。なお、本実施形態のエンジンとしては、4輪自動車用の多気筒(例えば直列4気筒)エンジンを想定している。詳しくは、4ストロークのレシプロ式ディーゼルエンジン(内燃機関)である。このエンジンでは、吸排気弁のカム軸に設けられた気筒判別センサ(電磁ピックアップ)にてその時の対象シリンダが逐次判別され、4つのシリンダ#1〜#4について、それぞれ吸入・圧縮・燃焼・排気の4行程による1燃焼サイクルが「720°CA」周期で、詳しくは例えば各シリンダ間で「180°CA」ずらしてシリンダ#1,#3,#4,#2の順に逐次実行される。図中のインジェクタ20は、燃料タンク10側から、それぞれシリンダ#1,#2,#3,#4用のインジェクタである。
同図1に示されるように、このシステムは、大きくは、ECU(電子制御ユニット)30が、各種センサからのセンサ出力(検出結果)を取り込み、それら各センサ出力に基づいて燃料供給系を構成する各装置の駆動を制御するように構成されている。ECU30は、吸入調整弁11cに対する電流供給量を調整して燃料ポンプ11の燃料吐出量を所望の値に制御することで、コモンレール12内の燃料圧力(燃圧センサ20aにて測定される時々の燃料圧力)を目標値(目標燃圧)にフィードバック制御(例えばPID制御)している。そして、その燃料圧力に基づいて、対象エンジンの所定シリンダに対する燃料噴射量、ひいては同エンジンの出力(出力軸の回転速度やトルク)を所望の大きさに制御している。
燃料供給系を構成する諸々の装置は、燃料上流側から、燃料タンク10、燃料ポンプ11、コモンレール12、及びインジェクタ20の順に配設されている。このうち、燃料タンク10と燃料ポンプ11とは、燃料フィルタ10bを介して配管10aにより接続されている。
ここで、燃料タンク10は、対象エンジンの燃料(軽油)を溜めておくためのタンク(容器)である。また、燃料ポンプ11は、高圧ポンプ11a及び低圧ポンプ11bを有し、低圧ポンプ11bによって上記燃料タンク10から汲み上げられた燃料を、高圧ポンプ11aにて加圧して吐出するように構成されている。そして、高圧ポンプ11aに送られる燃料圧送量、ひいては燃料ポンプ11の燃料吐出量は、燃料ポンプ11の燃料吸入側に設けられた吸入調整弁(SCV:Suction Control Valve)11cによって調量されるようになっている。すなわち、この燃料ポンプ11では、吸入調整弁11c(例えば非通電時に開弁するノーマリオン型の調整弁)の駆動電流量(ひいては弁開度)を調整することで、同ポンプ11からの燃料吐出量を所望の値に制御することができるようになっている。
燃料ポンプ11を構成する2種のポンプのうち、低圧ポンプ11bは、例えばトロコイド式のフィードポンプとして構成されている。これに対し、高圧ポンプ11aは、例えばプランジャポンプからなり、図示しない偏心カム(エキセントリックカム)にて所定のプランジャ(例えば3本のプランジャ)をそれぞれ軸方向に往復動させることにより加圧室に送られた燃料を逐次所定のタイミングで圧送するように構成されている。いずれのポンプも、駆動軸11dによって駆動されるものである。ちなみにこの駆動軸11dは、対象エンジンの出力軸であるクランク軸41に連動し、例えばクランク軸41の1回転に対して「1/1」又は「1/2」等の比率で回転するようになっている。すなわち、上記低圧ポンプ11b及び高圧ポンプ11aは、対象エンジンの出力によって駆動される。
こうした燃料ポンプ11により燃料タンク10から燃料フィルタ10bを介して汲み上げられた燃料は、コモンレール12へ加圧供給(圧送)される。そして、コモンレール12は、その燃料ポンプ11から圧送された燃料を高圧状態で蓄えてこれを、シリンダごとに設けられた配管14(高圧燃料通路)を通じて、各シリンダ#1〜#4のインジェクタ20(燃料噴射弁)へそれぞれ供給する。これらインジェクタ20(#1)〜(#4)の燃料排出口は、それぞれ余分な燃料を燃料タンク10へ戻すための配管18とつながっている。図2に、上記インジェクタ20の詳細構造を示す。なお、上記4つのインジェクタ20(#1)〜(#4)は基本的には同様の構造(例えば図2に示す構造)となっている。いずれのインジェクタ20も、燃焼用のエンジン燃料(燃料タンク10内の燃料)を利用した油圧駆動式の燃料噴射弁であり、燃料噴射に際しての駆動動力の伝達が油圧室Cd(コマンド室)を介して行われる。
同図2に示されるように、このインジェクタ20は、内開弁タイプの燃料噴射弁であり、非通電時に閉弁状態となる、いわゆるノーマリクローズ型の燃料噴射弁として構成されている。このインジェクタ20には、コモンレール12から高圧燃料が送られてくるようになっている。また、このインジェクタ20の燃料取込口には、燃圧センサ20a(図1も併せ参照)が設けられており、同燃料取込口における燃料圧力(インレット圧)の随時の検出が可能とされている。具体的には、この燃圧センサ20aの出力により、当該インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターンや、燃料圧力レベル(安定圧力)、燃料噴射圧力等を検出(測定)することができるようになっている。
このインジェクタ20の燃料噴射に際しては、二方電磁弁を構成するソレノイド20bに対する通電状態(通電/非通電)に応じて、油圧室Cdの密閉度合、ひいては同油圧室Cdの圧力(ニードル20cの背圧に相当)が増減される。そして、その圧力の増減により、スプリング20d(コイルばね)の伸張力に従って又は抗して、ニードル20cが弁筒内(ハウジング20e内)を往復動(上下)することで、噴孔20f(必要な数だけ穿設)までの燃料供給通路が、その中途(詳しくは往復動に基づきニードル20cが着座又は離座するテーパ状のシート面)で開閉される。ここで、ニードル20cの駆動制御は、いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)制御を通じて行われる。すなわち、ニードル20cの駆動部(上記二方電磁弁)には、ECU30からパルス信号(通電信号)が送られる。そして、ニードル20cのリフト量(シート面からの離間度合)が、そのパルス幅(通電時間に相当)に基づいて可変制御され、その制御に際しては、通電時間が長いほどリフト量が大きくなり、リフト量が大きくなるほど噴射率(単位時間あたりに噴射される燃料量)が大きくなる。ちなみに、上記油圧室Cdの増圧処理は、コモンレール12からの燃料供給によって行われる。他方、油圧室Cdの減圧処理は、当該インジェクタ20と燃料タンク10とを接続する配管18(図1)を通じてその油圧室Cd内の燃料が上記燃料タンク10へ戻されることによって行われる。
このように、上記インジェクタ20は、弁本体(ハウジング20e)内部での所定の往復動作に基づいて噴孔20fまでの燃料供給通路を開閉(開放・閉鎖)することにより当該インジェクタ20の開弁及び閉弁を行うニードル20cを備える。そして、非駆動状態では、定常的に付与される閉弁側への力(スプリング20dによる伸張力)でニードル20cが閉弁側へ変位するとともに、駆動状態では、駆動力が付与されることにより上記スプリング20dの伸張力に抗してニードル20cが開弁側へ変位するようになっている。そしてこの際、それら非駆動状態と駆動状態とでは、ニードル20cのリフト量が略対称に変化する。
本実施形態では、上記インジェクタ20(#1)〜(#4)の近傍、特にその燃料取込口に対して、それぞれ燃圧センサ20aが設けられている。そして、これら燃圧センサ20aの出力に基づいて、所定の噴射について、インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターン(うねり特性)を高い精度で検出することができるようになっている(詳しくは後述)。
また、図示しない車両(例えば4輪乗用車又はトラック等)には、上記各センサのほかにもさらに、車両制御のための各種のセンサが設けられている。例えば対象エンジンの出力軸であるクランク軸41の外周側には、所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)クランク角信号を出力するクランク角センサ42(例えば電磁ピックアップ)が、同クランク軸41の回転角度位置や回転速度(エンジン回転速度)等を検出するために設けられている。また、アクセルペダル(運転操作部)には、同ペダルの状態(変位量)に応じた電気信号を出力するアクセルセンサ44が、運転者によるアクセルペダルの操作量(踏み込み量)を検出するために設けられている。
こうしたシステムの中で、本実施形態の燃料噴射特性検出装置として機能するとともに、電子制御ユニットとして主体的にエンジン制御を行う部分がECU30である。このECU30(エンジン制御用ECU)は、周知のマイクロコンピュータ(図示略)を備えて構成され、上記各種センサの検出信号に基づいて対象エンジンの運転状態やユーザの要求を把握し、それに応じて上記吸入調整弁11cやインジェクタ20等の各種アクチュエータを操作することにより、その時々の状況に応じた最適な態様で上記エンジンに係る各種の制御を行っている。また、このECU30に搭載されるマイクロコンピュータは、基本的には、各種の演算を行うCPU(基本処理装置)、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM(Random Access Memory)、プログラムメモリとしてのROM(読み出し専用記憶装置)、データ保存用メモリとしてのEEPROM(電気的に書換可能な不揮発性メモリ)やバックアップRAM(ECU30の主電源停止後も車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているメモリ)、さらにはA/D変換器やクロック発生回路等の信号処理装置、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート等といった各種の演算装置、記憶装置、信号処理装置、通信装置、及び電源回路等によって構成されている。そして、ROMには、当該燃料噴射制御に係るプログラムを含めたエンジン制御に係る各種のプログラムや制御マップ等が、またデータ保存用メモリ(例えばEEPROM)には、対象エンジンの設計データをはじめとする各種の制御データ等が、それぞれ予め格納されている。
本実施形態では、ECU30が、随時入力される各種のセンサ出力(検出信号)に基づいて、その時に出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(要求トルク)、ひいてはその要求トルクを満足するための燃料噴射量を算出する。こうして、インジェクタ20の燃料噴射量を可変設定することで、各シリンダ内(燃焼室)での燃料燃焼を通じて生成される図示トルク(生成トルク)、ひいては実際に出力軸(クランク軸41)へ出力される軸トルク(出力トルク)を制御する(要求トルクへ一致させる)ようになっている。すなわち、このECU30は、例えば時々のエンジン運転状態や運転者によるアクセルペダルの操作量等に応じた燃料噴射量を算出し、所望の噴射時期に同期して、その燃料噴射量での燃料噴射を指示する噴射制御信号(駆動量)を上記インジェクタ20へ出力する。そしてこれにより、すなわち同インジェクタ20の駆動量(例えば開弁時間)に基づいて、対象エンジンの出力トルクが目標値へ制御されることになる。本実施形態では、こうした制御を行う部分(詳しくはECU30に搭載されるプログラム)が「エンジン制御手段」に相当する。
なお周知のように、ディーゼルエンジンにおいては、定常運転時、新気量増大やポンピングロス低減等の目的で、同エンジンの吸気通路に設けられた吸気絞り弁(スロットル弁)が略全開状態に保持される。したがって、定常運転時の燃焼制御(特にトルク調整に係る燃焼制御)としては燃料噴射量のコントロールが主となっている。以下、図3を参照して、本実施形態に係る燃料噴射制御の基本的な処理手順について説明する。なお、この図3の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。そして、これら各図の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、対象エンジンの各シリンダについてそれぞれ1燃焼サイクルにつき1回の頻度で順に実行される。すなわち、このプログラムにより、1燃焼サイクルで休止シリンダを除く全てのシリンダに燃料の供給が行われることになる。
同図3に示すように、この一連の処理においては、まずステップS101で、対象シリンダについて、学習を実行すべきか否かを示す学習実行フラグF1(シリンダごとに用意)に「0」が設定されているか否かを判断する。そして、このステップS101で同フラグF1に「0」が設定されている旨判断された場合には、少なくとも対象シリンダでは学習を実行しないとして、続くステップS11〜S13の処理を通じて通常の噴射制御を行う。他方、このステップS101で同フラグF1に「0」が設定されていない(「1」が設定されている)旨判断された場合には、対象シリンダで学習を実行すべく、続くステップS102及びS13の処理を通じて学習用の噴射制御を行う。
詳しくは、上記ステップS11〜S13の処理を通じて行われる通常の噴射制御では、まずステップS11で、所定のパラメータ、例えばその時のエンジン回転速度(クランク角センサ42による実測値)及び燃料圧力(燃圧センサ20aによる実測値)、さらには運転者によるその時のアクセル操作量(アクセルセンサ44による実測値)等を読み込む。そして、続くステップS12では、上記ステップS11で読み込んだ各種パラメータに基づいて(必要に応じて外部負荷による損失等も含めた要求トルクを別途算出して)噴射パターンを設定する。例えば単段噴射の場合にはその噴射の噴射量(噴射時間)が、また多段噴射の噴射パターンの場合にはトルクに寄与する各噴射の総噴射量(総噴射時間)が、それぞれ上記出力軸(クランク軸41)に生成すべきトルク(要求トルク、いわばその時のエンジン負荷に相当)に応じて可変設定される。そして、その噴射パターンに基づいて、上記インジェクタ20に対する指令値(指令信号)が設定されることになる。これにより、車両の状況等に応じて、前述したパイロット噴射、プレ噴射、アフタ噴射、ポスト噴射等が適宜メイン噴射と共に実行されることになる。
なお、この噴射パターンは、例えば上記ROMに記憶保持された所定のマップ(噴射制御用マップ、数式でも可)及び補正係数に基づいて取得される。詳しくは、例えば予め上記所定パラメータ(ステップS11)の想定される範囲について実験等により最適噴射パターン(適合値)を求め、そのマップに書き込んでおく。ちなみに、この噴射パターンは、例えば噴射段数(1燃焼サイクル中の噴射回数)、並びにそれら各噴射の噴射時期(噴射タイミング)及び噴射時間(噴射量に相当)等のパラメータにより定められるものである。こうして、上記マップは、それらパラメータと最適噴射パターンとの関係を示すものとなっている。そして、このマップで取得された噴射パターンを、別途更新(詳しくは後述)されている補正係数(例えばECU30内のEEPROMに記憶)に基づいて補正する(例えば「設定値=マップ上の値/補正係数」なる演算を行う)ことで、その時に噴射すべき噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応した上記インジェクタ20に対する指令信号を得る。なお、上記噴射パターンの設定(ステップS12)には、同噴射パターンの要素(上記噴射段数等)ごと別々に設けられた各マップを用いるようにしても、あるいはこれら噴射パターンの各要素を幾つか(例えば全て)まとめて作成したマップを用いるようにしてもよい。
こうして設定された噴射パターン、ひいてはその噴射パターンに対応する指令値(指令信号)は、続くステップS13で使用される。すなわち、同ステップS13では、その指令値(指令信号)に基づいて(詳しくは上記インジェクタ20へその指令信号を出力して)、同インジェクタ20の駆動を制御する。そして、このインジェクタ20の駆動制御をもって、図3の一連の処理を終了する。
他方、学習用の噴射制御では、上記ステップS101で学習実行フラグF1に「0」が設定されていない旨判断された場合に、続くステップS102で、学習用噴射パターンとして例えば所定の単段噴射を取得する。そして、さらに続くステップS13で、この設定された学習用噴射パターンに基づいて燃料噴射制御を行う。
ここで図4を参照して、学習実行フラグF1の設定態様について説明する。なお、この図4は、同フラグF1の設定処理について、その処理手順を示すフローチャートである。同図4の一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、1燃焼サイクルにつき1回の頻度で逐次実行される。ここで用いられる各種パラメータの値も、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
同図4に示されるように、この一連の処理に際しては、まずステップS21で、その時の燃料噴射量Q1(例えば要求トルクから演算)及び燃料圧力Pc1(燃料圧力レベル、燃圧センサ20aによる実測値)をそれぞれ取得する。そして、続くステップS22で、それら燃料噴射量Q1及び燃料圧力Pc1により定義される状態が、予め設定されている学習領域に該当するか否かを判断する。詳しくは、本実施形態では、図5に示すような態様で、学習領域が設定(例えばマップとして設定)されている。
同図5に示されるように、本実施形態では、燃料噴射量及び燃料圧力により定義される5つの学習領域A〜Eが、概ね一点鎖線TR上に設定されている。ここで一点鎖線TRは、燃料圧力が大きくなるほど燃料噴射量が大きくなる傾向(詳しくは比例傾向)を示すものである。なお、これら学習領域A〜Eのうち、未学習の領域については、予め実験等で求めた値を設定しておいても、また「値無し」の状態にしておいてもよい。
すなわち、上記ステップS22では、燃料噴射量Q1及び燃料圧力Pc1により定義される状態が、学習領域A〜Eのいずれにも該当しないか否かが判断される。そして、このステップS22で学習領域A〜Eのいずれかに該当する旨判断された場合には、続くステップS23で、学習を実行する対象のシリンダを決定する。本実施形態では、1燃焼サイクル中で学習を実行する対象シリンダは1つだけとする。
具体的には、本実施形態のECU30は、図6に示すようなテーブルを、例えばEEPROM等に記憶保持している。なお、このテーブルでは、学習領域A〜Eの全てについて、シリンダごとに、学習の有無(学習済か未学習か)及び学習時刻(学習データの更新時刻)等を識別することができるようになっている。この図6中の「○」は、そのシリンダについて既に学習が完了していることを示している。
上記ステップS23では、こうしたテーブルを参照して、例えばステップS22で検出された学習領域(領域A〜Eのいずれか)についてまだ学習されていないシリンダを、その時の学習シリンダとして選択する。なお、まだ学習されていないシリンダが複数ある場合には、そのうちでシリンダ番号(#1〜#4)の最も若いシリンダ、すなわちシリンダ#1が含まれていればシリンダ#1を、その時の学習シリンダとして選択する。また、全てのシリンダについて既に学習が行われている場合には、最も昔に学習されたデータ(学習日時が古いデータ)について再度の学習を行ってそのデータを更新(上書き)するようにする。
続くステップS24では、シリンダごとに用意された学習実行フラグF1のうち、上記ステップS23で決定した学習シリンダの学習実行フラグF1に「1」を設定する。他方、先のステップS22で学習領域がない旨判断された場合には、続くステップS25にて、全てのシリンダの学習実行フラグF1に対して「0」を設定する。そして、これら各ステップの処理を通じて、学習実行フラグF1に「0」か「1」のいずれかの値が設定された場合には、この図4の一連の処理を終了する。
この図4のステップS24で学習実行フラグF1に「1」を設定されることにより、その学習シリンダについて、先の図3の処理を通じて所定の学習用噴射パターンによる燃料噴射が行われることになる。なお、本実施形態では、学習領域(領域A〜E)ごとに学習用噴射パターンが用意(適宜の記憶装置に記憶)されており、図3のステップS102では、先のステップS22で検出された学習領域(領域A〜Eのいずれか)に応じた学習用噴射パターン(例えば噴射段数や、各噴射の噴射量、各噴射の噴射時期等)が設定されることになる。ただし、本実施形態の学習用噴射パターンとしては、上記学習領域(領域A〜E)の全てについて、単段噴射の噴射パターンが用意されている。
また、本実施形態では、先のステップS22の処理により現在の要求トルクに対応した燃料噴射量の学習領域が選択される。したがって、図3のステップS102では、その学習領域に対応した学習用噴射パターンが取得(選択)されることになる。そしてこれにより、学習に際して学習シリンダで噴射される燃料噴射量として、学習を行わない他の通常シリンダ(特に燃焼順序が学習シリンダの前後に相当するシリンダ)の燃料噴射量と同等の値が設定されることになる。
具体的には、例えば図7に示すように、アイドリング走行時などで通常シリンダでの燃料噴射量が少ない(この例では「5mm3/st」)場合に、学習シリンダだけで、例えば「50mm3/st」のような多量の燃料噴射量がなされると、トルクショック等により運転性(ドライバビリティ)の悪化が懸念されるようになる。この点、本実施形態では、通常シリンダでの燃料噴射量が少ない場合、上記学習用噴射パターンとしても、燃料噴射量の少ない(この例では「2mm3/st」)パターンが設定される。このため、学習に伴う運転性の悪化が抑制され、良好な運転性が維持されることになる。
学習シリンダでは、このようにして学習用の燃料噴射が行われる。そして、その噴射が行われている間は、インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターン(燃料圧力の推移)を、学習データとして記録する。次に、図8を参照して、データ記憶(学習データ保存)処理について説明する。なお、この図8に示す一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定処理間隔で(例えば「20μsec」間隔で)逐次実行される。また、同図8の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
同図8に示されるように、この一連の処理では、まずステップS31で、燃圧データ(時々の燃料圧力)を記録する必要があるか否かを判断する。詳しくは、記録開始前であれば、所定時間内に学習用の燃料噴射が行われるか否かを判断し、燃料噴射が行われる旨判断された場合には、記録の必要があるとして、続くステップS32へ進む。また、記録開始後であれば、記録が完了したか否かを判断し、まだ記録が完了していない(記録中である)旨判断された場合には、まだ記録の必要があるとして、続くステップS32へ進む。他方、同ステップS31で記録の必要がない旨判断された場合には、この図8の一連の処理を終了する。すなわち、この図8の一連の処理では、ステップS31で記録の必要がある旨判断された場合にのみ、ステップS32以降の処理を実行する。
ステップS32では、燃圧センサ20aによりその時の燃料圧力を実測するとともに、その実測データを所定の記憶装置(第1記憶装置、例えばECU30内のRAM等)に格納する。そして、続くステップS33では、記録完了の条件が成立しているか否かを判断する。こうして、ステップS33で記録完了の条件が成立している旨判断されるまでは、この判断処理に続けて図8の一連の処理を終了しつつ先のステップS32で継続的にその時々の燃料圧力(燃圧データ)を記録し続けるようになっている。なおここで、上記記録完了の条件としては、所望のデータが得られたこと(データ取得完了のタイミング)を示すような条件を設定しておくことが望ましい。例えば上記ステップS31で対象とする噴射開始の少し前から記録を開始するとともに、その噴射が終了して燃料圧力の変動が十分減衰したことを条件に、その記録を終了する。
ステップS33で記録完了の条件が成立している旨判断された場合には、続くステップS34で、上記ステップS32の処理を通じて記録した燃圧データが正常であるか否かを判断する。詳しくは、例えば各データが所定の許容範囲内にあるか、あるいはデータ内に大きなノイズが含まれていないかなどを判断する。
そして、このステップS34でデータが正常である旨判断された場合には、続くステップS35で、そのデータ(第1記憶装置上の対象データ)を、上記図4のステップS21で取得した燃料噴射量Q1及び燃料圧力Pc1に関連付けて所定の記憶装置(第2記憶装置、例えばECU30内のEEPROMやバックアップRAM)に格納する。そしてその後、第1記憶装置上の対象データを消去するとともに、この図8の一連の処理を終了する。この際、そのデータを、ECU30の主電源停止後も保持可能とする記憶装置(不揮発性のEEPROMやバックアップRAM)に保存することで、エンジン停止時にECU30をいったん断電して再起動した場合にも、そこに記憶されたデータは消去されずに残るようになる。
他方、同ステップS34でデータが正常ではない旨判断された場合には、第2記憶装置に対するデータの保存はしないまま、第1記憶装置上の対象データを消去するとともに、この図8の一連の処理を終了する。
なお、ステップS33で記録が完了した旨判断された場合には、ステップS31で記録の必要がない旨判断されるようになる。そしてその後、学習用の燃料噴射(学習シリンダでの学習用噴射パターンの燃料噴射)が行われるタイミングになると、再び上記ステップS32以降の処理を実行して、上記燃圧データを学習データとして記録する。こうして上記図8の処理により、学習シリンダでの学習用噴射パターンの燃料噴射について、インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターン(燃料圧力の推移)を、学習データとして記録することができる。
ここで、図9を参照して、実際の自動車の走行中に上記学習処理を行う場合を例にとって、同学習処理についてさらに説明する。なお、この図9において、(a)〜(d)は、それぞれ(a)エンジン回転速度、(b)燃料噴射量(要求トルク等に基づく演算値)、(c)燃料圧力(燃圧センサ20aによる実測値)、(d)車両速度、といった上記学習処理に関わる各パラメータの推移を示すタイミングチャートである。なお、図中のレベルa1〜e1及びa2〜e2は、それぞれ先の図5に示した学習領域の燃料噴射量及び燃料圧力のレベル(大きさ)を示している。
同図9に示されるように、この車両は、タイミングt1までアイドリング状態を維持して、同タイミングt1で加速を開始する。そして、タイミングt2でその加速を止めた後、やや減速してタイミングt3から定常走行に入り、同タイミングt3からタイミングt4までは、その定常走行を保つ。その後、車両は大きく減速していき、タイミングt5で再びアイドリング状態に戻る。
こうした運転について上記学習処理を行う場合、まずタイミングt1までの期間において、図5の学習領域Aについて学習を行う。具体的には、その時の燃料噴射量(図9(b))及び燃料圧力(図9(c))がそれぞれレベルa1,a2に相当するものとなり、先の図4のステップS22で図5の学習領域Aに対応したものである旨判断されるとともに、図3の処理を通じて、その学習領域Aに応じた学習用噴射パターンの噴射が実行されることになる。
その後も、燃料噴射量(図9(b))及び燃料圧力(図9(c))は、タイミングt2では、レベルb1,b2に、タイミングt3では、レベルc1,c2に、タイミングt4では、レベルd1,d2に、タイミングt5では、レベルe1,e2に、それぞれ相当するものとなり、各タイミングで、それぞれ図3の処理を通じて、学習領域B〜Eに応じた学習用噴射パターンの噴射が実行されることになる。
本実施形態の学習処理は、概ねこのような態様で実行される。ちなみに、図中のレベルa1〜e1及びa2〜e2は、それぞれ範囲として設定することが有効である。そうすることで、燃料噴射量及び燃料圧力がそれぞれその範囲内に含まれている間は、対象の学習領域に応じた学習用噴射パターンの噴射が実行されることになり、学習頻度の確保がより容易になる。
次に、上記学習処理を通じて取得した学習データ(第2記憶装置に保存)の用途について説明する。本実施形態では、この学習データを用いて、その時々の噴射特性を検出するとともに、その噴射特性に基づき、その時々の噴射誤差を補償するための補正係数を算出することとする。図10に、それら噴射特性検出処理及び補正係数算出処理に係る一連の処理をフローチャートとして示す。なお、この図10に示す一連の処理は、基本的には、ECU30でROMに記憶されたプログラムが実行されることにより、所定処理間隔で(例えば所定クランク角ごとに又は所定時間周期などで)逐次実行される。また、同図10の処理において用いられる各種パラメータの値は、例えばECU30に搭載されたRAMやEEPROM、あるいはバックアップRAM等の記憶装置に随時記憶され、必要に応じて随時更新される。
同図10に示すように、この一連の処理に際しては、まずステップS41で、いずれかのシリンダで多段噴射が行われたか否かを判断する。そして、このステップS41で多段噴射が行われた旨判断された場合にのみ、ステップS42以降の処理を実行する。すなわち、ステップS42以降の処理は、1回の多段噴射が行われるにつき1回の頻度で行われることになる。
ステップS42では、その時の各噴射(ただし最終段の噴射については除いてもよい)の燃料噴射量Q2(要求トルク等に基づく演算値)、燃料圧力Pc2(燃料圧力レベル、燃圧センサ20aによる実測値)、及び、対象噴射(上記ステップS41で検出された多段噴射)の燃圧データ(燃料圧力の脈動パターン)、をそれぞれ取得する。なお、ここでは図示を割愛しているが、少なくとも対象噴射が実行されている間は、別ルーチンで逐次、その時々の燃料圧力が検出、保存(例えばRAMに一時的に保存)されている。すなわち、多段噴射が行われる都度、例えばその噴射開始の少し前から、上記燃圧センサ20aによる燃料圧力の実測値の記録を開始するとともに、その噴射が終了して燃料圧力の変動が十分減衰したことを条件に、その記録を終了する。このステップS42では、そうした燃圧データを対象噴射の燃圧データとして取得する。
続くステップS43では、上記第2記憶装置(ステップS35)から、先のステップS42で取得した燃料噴射量Q2及び燃料圧力Pc2に対応する基準波形(燃料圧力の脈動パターン)を読み出す。詳しくは、例えば対象噴射がn段の噴射であれば、「n−1」段目までの各噴射の噴射量に対応する基準波形をそれぞれ読み出す。具体的には、対象噴射が3段の噴射で、燃料噴射量Q2が、1段目「5mm3/st」、2段目「10mm3/st」であれば、これら1段目及び2段目の噴射について、それぞれ「5mm3/st」に対応する基準波形と、「10mm3/st」に対応する基準波形とを、上記第2記憶装置から読み出す。なおこの際、第2記憶装置内に目的の基準波形がない(領域A〜E以外の領域である)場合には、同第2記憶装置内にあるデータ(脈動パターン)をもとに補間や外挿を行って目的の基準波形を得るようにする。詳しくは、これら補間及び外挿は、周期ずれと振幅ずれとについて別々に行う。こうすることで、検出データ数が少なくても広域にわたって比較的高い精度の基準波形を得ることができる。
さらに続くステップS44では、このステップS43で読み出した基準波形と、先のステップS42で取得した対象噴射の燃圧データとに基づいて、対象噴射の噴射特性を取得(検出)する。以下、図11〜図14を参照して、このステップS44の処理における噴射特性の検出態様について説明する。なお、これら各図において、(a)はインジェクタ20に対する指令信号(通電パルス)を示すタイミングチャート、(b)は、その指令信号に基づく燃料噴射での燃料圧力の脈動パターンを示すタイミングチャートである。
図11は、先のステップS42で取得した対象噴射の燃圧データを示すタイミングチャートである。すなわち、この燃圧データでは、同図11(a)中に実線L2aにて示す通電パルスに対して、脈動パターンが、同図11(b)に実線L2bにて示すようなパターンとなっている。
図12は、先のステップS43で読み出した基準波形の燃圧データ、すなわち対象噴射(図11)の1段目の噴射の噴射量に対応する基準波形の燃圧データを示すタイミングチャートである。この燃圧データでは、同図12(a)中に実線L1aにて示す通電パルスに対して、脈動パターンが、同図12(b)に実線L1bにて示すようなパターンとなっている。
先の図10のステップS44では、対象噴射の燃圧データ(図11の実線L2b)と基準波形の燃圧データ(図12の実線L1b)とを比較することにより、対象噴射の燃圧データから基準波形の燃圧データを減算(対応箇所をそれぞれ減算)した波形として、対象噴射の2段目の燃料噴射だけに係る脈動パターンを抽出する。
図13は、対象噴射の1段目の噴射に係る脈動パターンとそれに対応する基準波形の脈動パターンとを一致させた状態で、上記対象噴射の燃圧データ(実線L2a,L2b)と基準波形の燃圧データ(破線L1a,L1b)とを重ねて示したものである。
先の図10のステップS44では、この図13に示すような状態で、対象噴射の燃圧データから基準波形の燃圧データを減算(対応箇所をそれぞれ減算)する。こうすることで、図14に示すように、対象噴射の2段目の燃料噴射(実線L2c)だけに係る脈動パターン(実線L2c)が抽出されることになる。そして、この抽出した脈動パターン(実線L2c)に基づいて、2段目の噴射の噴射特性(噴射開始タイミングや噴射時間等)を求め、その噴射特性の誤差が大きい場合には(あるいは誤差が小さい場合も含めて常に)、続くステップS45で、その誤差を補償するための補正係数を算出、更新する。なお、ここで更新される補正係数は、例えば図3のステップS12で用いられる補正係数の1つとする。
このステップS45の処理をもって、この図10の処理は終了する。本実施形態では、上記図10の処理が逐次実行されることで、燃料噴射制御に係る補正係数が逐次更新され、また上記図3の処理により、その補正係数の反映された噴射条件で燃料の噴射が逐次実行されるようになっている。これにより、制御部品の経年変化等に起因する特性変化についてもこれが的確に補償されるようになり、噴射制御の精度についてもこれが高く維持されることになる。
以上説明したように、本実施形態に係る燃料噴射特性検出装置及びエンジン制御システムによれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
(1)所定の燃料噴射弁(インジェクタ20)により、対象エンジンの燃料燃焼を行う部分であるシリンダ内へ噴射供給する燃料供給システムに適用され、対象エンジンに対して燃料を噴射供給する際の燃料噴射特性を検出する燃料噴射特性検出装置(エンジン制御用ECU30)として、インジェクタ20に供給される燃料の圧力を逐次検出することにより同インジェクタ20の噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターンを、その時の(詳しくは単段噴射からなる所定の学習用噴射パターンについての)燃料噴射態様(燃料噴射量)及び燃料圧力レベルに対してそれぞれ関連付けて所定の記憶装置(第2記憶装置、例えばECU30内のEEPROMやバックアップRAM)に格納するプログラム(脈動パターン格納手段、図8のステップS32,S35)を備える構成とした。この第2記憶装置内の分布から、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性を把握することができるようになる。
(2)学習に際しては、無噴射実行中(例えば減速中等)やアイドリング運転中に微量の噴射(トルクに影響がないほどの微量噴射)を実行するようにした。こうすることで、運転性(ドライバビリティ)にほとんど影響を与えることなく、上記脈動パターンの検出を行うことができる。
(3)学習に際しては、通常運転中に多気筒エンジンの所定の1つのシリンダだけで他のシリンダに準ずる噴射を実行するようにした。こうすることによっても、運転性にほとんど影響を与えることなく、上記脈動パターンの検出を行うことができる。
(4)図8のステップS32においては、上記インジェクタ20により単段の燃料噴射(学習用噴射パターンに基づく噴射)を行ってその噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターンを検出、記録するとともに、図8のステップS35においては、その単段噴射の燃料噴射量を脈動パターンに関連付けるようにした。こうした構成であれば、噴射特性を得るために必要なデータ量(検出すべきデータ)が少なくなり、高い再現性で効率良く、上記燃料噴射弁の噴射特性を検出することが可能になる。
(5)上記インジェクタ20へ供給する燃料を蓄圧保持するコモンレール12と、該コモンレール12からインジェクタ20の燃料噴射口(噴孔20f)までの燃料通路(配管14)のうち、コモンレール12の燃料吐出口近傍よりも燃料下流側に位置する所定箇所についてその燃料通路内を流れる燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ(燃圧センサ20a)と、を備えるコモンレール式燃料噴射システムを適用対象とした。詳しくは、燃料圧力を検出するための燃圧センサ20aを、コモンレール12の燃料吐出側に接続された配管14のうち、コモンレール12よりもインジェクタ20の燃料噴射口の方に近い位置、より具体的には上記インジェクタ20の燃料取込口に取り付けるようにした。そして、図8のステップS32においては、燃圧センサ20aの出力に基づいて、上記インジェクタ20に供給される燃料の圧力を逐次検出するようにした。こうすることで、経時的な特性変化も含めた時々の噴射特性を示す脈動パターン(うねり特性)を高い精度で検出することが可能になる。
(6)図8のステップS32においては、燃圧センサ20aのセンサ出力を「50μsec」よりも短い間隔、詳しくは「20μsec」間隔で逐次取得するようにした。これにより、上述した脈動パターン、ひいては圧力変動の傾向をより的確に捉えることができるようになる。
(7)第2記憶装置内の脈動パターンに基づいて、対象エンジンの所定シリンダで1燃焼サイクル中に行われた多段燃料噴射(例えば図11〜図14に示した2段噴射)に係る脈動パターンから、その多段燃料噴射の2段目以降の所定段に相当するn段目の燃料噴射以降だけ(例えば図14に示した2段目の噴射だけ)に係る脈動パターンを抽出するプログラム(脈動パターン抽出手段、図10のステップS44)を備える構成とした。これにより、n段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンが高い精度で求められ、ひいてはn段目の噴射に係る噴射タイミング等を高い精度で検出することが可能になる。
(8)図10のステップS44においては、n段よりも小さい段数(詳しくは単段)の燃料噴射に係る上記第2記憶装置内の脈動パターンと上記n段の多段燃料噴射(例えば2段噴射)に係る脈動パターンとを比較(減算)することによって、前記n段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンを抽出するようにした。こうすることで、上記抽出処理を、より容易且つ的確に実現することができる。
(9)しかも、その比較に単段の燃料噴射に係る脈動パターンを用いたことで、上記多段燃料噴射に係る脈動パターンの各噴射について、それぞれ(1段ずつ別々に)補正(例えば減算又は除算等)を行うことが可能になる。そして、前記記憶装置内に単段の燃料噴射に係る各種の脈動パターンを用意しておくことで、多種多様な多段燃料噴射について、上記抽出処理を行うことが可能になる。
(10)図10のステップS44にて抽出されたn段目以降の燃料噴射だけに係る脈動パターンに基づいて、上記インジェクタ20に対する指令信号(例えば噴射タイミングや噴射時間に係る指令信号)を補正するプログラム(補正手段、図3のステップS12及び図10のステップS45)を備える構成とした。こうすることで、より高い精度での燃料噴射制御が可能になる。
(11)燃料噴射態様及び燃料圧力レベルにより定義される領域の一部について検出された第2記憶装置内の脈動パターンをもとに補間及び外挿を行って、他の部分のデータを求めるプログラム(図10のステップS43)を備えることを特徴とする。こうすることで、領域の一部だけを検出さえすれば、他の部分を求めることが可能になる。
(12)燃料噴射量と燃料圧力レベルとが同程度になる重要領域(図5中の一点鎖線TR)のデータだけを取得してその他の領域は適宜に補間や外挿を行うようにした。こうすることで、少なくとも重要領域のデータについては、高い精度のデータが得られることになる。
(13)上記各プログラムと共に、図1に示した燃料供給システムの作動に基づいて、対象エンジンに関する所定の制御を行うプログラム(エンジン制御手段)を、上記ECU30に搭載して、エンジン制御システムとして、このECU30の他に、各種センサ(燃圧センサ20a等)及びアクチュエータ(図1参照)をさらに備える構成とした。こうした構成では、上述のように燃料噴射制御態様が改善されることで、より信頼性の高いエンジン制御を行うことが可能になる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記実施形態では、1燃焼サイクル中で学習を実行する対象シリンダを1つだけとしたが、十分な運転性(ドライバビリティ)が得られる場合には、1燃焼サイクル中に2つ以上のシリンダで学習を実行するようにしてもよい。
・上記実施形態では、予め実験等により適合値を定めた適合マップ(図3のステップS12にて使用)を採用することを想定して、その適合マップによる噴射特性を補正するための補正係数を更新するようにした。しかしこれに限られず、例えばその補正係数に代えて補正後の値(補正係数を反映させた値)を、EEPROM等に格納する構成としてもよい。そしてこうした構成として、その補正後の値に十分な信頼性が得られれば、上記適合マップを必要としない構成、いわゆる適合レスの構成を採用することも可能になる。
・図4のステップS22で、対応領域がある旨判断されても、その領域について得られた学習データの学習日時(更新日時)が全てのシリンダについて新しい場合には、学習の必要はないとして、学習を行わない(ステップS25へ進む)ように構成してもよい。こうして不要な学習実行を避けることで、学習実行に伴う運転性(ドライバビリティ)悪化等が防止されることになる。
・上記実施形態では、1燃焼サイクルにつき1回の頻度で先の図4に示した学習処理を逐次行うようにした。しかも、既に学習が行われている領域についても、再度の学習を行ってそのデータを更新(上書き)するようにした。しかしこれに限られず、例えば学習頻度を少ない回数に抑える等の目的で、図4の処理に代えて、図15(図4に対応するフローチャート)に示すような処理を行うようにしてもよい。なお、この図15に示す一連の処理も、例えば1燃焼サイクルにつき1回の頻度で逐次実行する。
同図15に示すように、この一連の処理では、まずステップS51で、所定の条件であるリセット条件が成立しているか否かを判断する。そして、このステップS51でリセット条件が成立している旨判断された場合には、続くステップS511で、第2記憶装置内の学習データ(脈動パターン)を全て消去(リセット)する。他方、同ステップS51でリセット条件が成立していない旨判断された場合には、続くステップS52以降の処理を行う。なおここで、上記リセット条件は、例えば前回リセット実行からの経過時間が所定の閾値を超える(例えば計時や走行距離の積算にて検出)度に成立してリセットが実行される度に再び不成立になる条件とする。すなわち、上記ステップS511のリセット処理は、前回リセット実行からの経過時間が一定時間に達する都度、実行される。そして、次回リセットまでの期間においては、ステップS52以降の処理によって上記第2記憶装置内に学習データが蓄積されることになる。
この図15の処理では、データの更新(上書き)は行わない。したがって、ステップS52で、所定の学習領域(例えば図5の領域A〜E)について既にその全領域の学習(データ取得)が完了しているか否かを判断して、ここで全領域の学習が完了している旨判断された場合には、続くステップS58で、全てのシリンダの学習実行フラグF1に対して「0」を設定する。このように学習実行フラグF1に「0」が設定されることで、学習用の噴射が行われなくなることは前述したとおりである。
他方、ステップS52で全領域の学習は完了していない(未学習の領域がある)旨判断された場合には、続くステップS53,S54で、先の図4のステップS21,S22に準ずる処理、すなわちその時の燃料噴射量Q3及び燃料圧力Pc3(燃料圧力レベル)の取得、及び、対応領域の有無の判断を行う。そして、ステップS54で学習領域(図5)の中に対応領域がない旨判断されれば、先のステップS58へ進み、学習用の噴射は行わない。また対応領域がある場合でも、続くステップS55でその領域が既に学習済である旨判断されれば、同じく先のステップS58へ進み、学習用の噴射は行わない。
一方、ステップS55で対象の領域が未学習である旨判断されれば、続くステップS56,S57で、先の図4のステップS23,S24に準ずる処理、すなわち学習シリンダの決定を行うとともに、その学習シリンダの学習実行フラグF1に対して「1」を設定する。そしてこれにより、学習シリンダで学習用の噴射が行われるようになる。
上記図15の処理では、全領域の学習が完了してしまえば、上記ステップS511のリセット処理が実行されるまで、学習用の噴射は行われなくなる。このように学習頻度を少ない回数に抑えることで、その学習実行に伴う運転性(ドライバビリティ)悪化等が防止されることになる。
・第2記憶装置内の脈動パターンの用途は、上記抽出処理や燃料噴射特性の補正に限られるものではなく任意である。例えばその記憶装置内の脈動パターンに基づいて、燃料供給システム(図1)の異常の有無又は異常の種類を診断するプログラム(診断手段)を備える構成としてもよい。こうすることで、燃料供給システムの異常の有無を容易且つ的確に診断することが可能になる。
具体的には、例えば第2記憶装置内の複数の脈動パターンを互いに比較することにより燃料供給システムの異常の有無又は異常の種類を診断する。例えば図16に示すように、例えば燃料圧力について隣り合うパターン間の変化量(例えば振幅)を算出する。そして、同図16中に示すように、正常時は順に変化していくはずのパターン変化が途中で止まってしまった場合には、例えばインジェクタ20(燃料噴射弁)の目詰まりである旨診断(判断)する。なお、ここでは一例として、燃料圧力についてのパターン変化の例を挙げたが、その他、燃料噴射量についてのパターン変化等であっても、同様の診断を行うことができる。
また、例えば第2記憶装置内の脈動パターンの分布に基づいて、燃料供給システムの異常の有無又は異常の種類を診断することも可能である。例えば図17に示すように、異常パターン(例えば周期や振幅等の所定パラメータが許容範囲内にないパターン)と正常パターンとの分布を算出する。そして、同図17中に示すように、高噴射量・高燃料圧力の領域で選択的に異常パターンが検出された場合には、高負荷に係る異常が発生している旨診断(判断)する。なお、ここでは一例として、燃料圧力及び燃料噴射量についてそれぞれ異常・正常パターンの分布を検出する例を挙げたが、いずれか一方のみについての分布に基づいて異常の有無又は異常の種類を診断するようにしてもよい。
ここでは主な診断態様として2種類の診断態様を示したが、診断の種類に応じて最適な診断態様を採用することが望ましい。例えばステップS34で、燃圧データが異常である場合だけでなく、その時にステップS32の処理を通じて取得した燃圧データと既に保存されているデータとを比較して両者の差異が小さい場合についても、ステップS35の処理を行わない(学習データを保存しない)ようにする。こうすることで、更新回数(すなわち噴射特性が大きく変化した回数)から劣化診断等を容易に行うことが可能になる。ちなみに、上記2種類(図16、図17)の診断態様を組み合わせれば、より複雑な診断も可能になる。
・上記実施形態では、燃料圧力を検出するための燃圧センサ20a(燃料圧力センサ)を、上記インジェクタ20の燃料取込口に取り付けるようにした。しかしこれに限られず、この燃圧センサ20aを、上記インジェクタ20の内部(例えば図2の噴孔20f近傍)に設けるようにしてもよい。また、こうした燃料圧力センサの数は任意であり、例えば1つのシリンダの燃料流通経路に対して2つ以上のセンサを設けるようにしてもよい。また上記実施形態では、燃圧センサ20aを各シリンダに対して設けるようにしたが、このセンサを一部のシリンダ(例えば1つのシリンダ)だけに設け、他のシリンダについてはそのセンサ出力に基づく推定値を用いるようにしてもよい。
・上記実施形態では、「20μsec」間隔(周期)で上記燃圧センサ20aのセンサ出力を逐次取得する構成について言及したが、この取得間隔は、上述した圧力変動の傾向を捉えることができる範囲で適宜に変更可能である。ただし、発明者の実験によると、「50μsec」よりも短い間隔が有効である。
・上記燃圧センサ20aに加えて、さらにコモンレール12内の圧力を測定するレール圧センサを備える構成とすることも有効である。こうした構成であれば、上記燃圧センサ20aによる圧力測定値に加え、コモンレール12内の圧力(レール圧)も取得することができるようになる。すなわち、例えばこのレール圧に基づいて、上記燃料圧力センサの設けられていない他のシリンダの燃料圧力などを検出することが可能になる。また、このレール圧に基づいて燃料圧力レベル(燃料圧力Pc1〜Pc3)を検出することなども可能になる。
・燃料圧力レベル(燃料圧力Pc1〜Pc3)としては、上記燃圧センサ20a又はレール圧センサの出力についての平均値、例えば単位期間(例えば4ストロークエンジンにおいて1ストロークに相当する「180°CA」)ごとの平均圧力値等を用いることもできる。
・学習領域は図5に示す態様に限られず任意の態様で設定することができる。例えば少ない噴射量から多い噴射量まで、また低い燃料圧力から高い燃料圧力まで、それぞれ細かく多くの脈動パターンを取得するようにしてもよい。
・また、学習用噴射パターンとして単段噴射以外の噴射パターン(多段噴射のパターン)も用いる場合には、上記燃料圧力レベルと共に、例えば学習時の燃料噴射態様(例えば噴射段数や、各噴射の噴射量、各噴射の噴射時期等)等を、その噴射により取得した学習データ(脈動パターン)に関連付けて保存する構成が有効である。
・上記実施形態では、脈動パターンを抽出する際に減算を行うようにしたが、除算した場合にも、図14に示した波形に準ずるものを得ることができる。もっとも、学習データの種類(特に学習用噴射パターンに関わる種類)に応じて、演算態様は任意に設定することができる。
・また、第2記憶装置に格納する脈動パターンは、上記燃料噴射態様及び燃料圧力レベルに対してだけでなく、その他、インジェクタ20の駆動方式(例えばピエゾ駆動式か電磁駆動式か等)、同インジェクタ20の噴射位置(例えば吸気通路噴射か筒内噴射か等)等々にも適宜に関連付けておくことがより有効である。こうすることで、様々な用途に対応することが可能になり、使用時にデータを扱い易くなる。
・また逆に、上記脈動パターンを燃料噴射態様及び燃料圧力レベルの一方だけに関連付けた場合にも、前記(1)の効果に準ずる効果を得ることはできる。
・また、上記インジェクタ20により燃料を噴射してその噴射動作に伴う燃料圧力の脈動パターンを検出する場合、その検出は、エンジン出荷時に行っても、エンジンを車両に搭載した後に販売店で行っても、販売後に購入者が行ってもよい。
・制御対象とするエンジンの種類やシステム構成も、用途等に応じて適宜に変更可能である。
例えば上記実施形態では、一例としてディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について言及したが、例えば火花点火式のガソリンエンジン(特に直噴エンジン)等についても、基本的には同様に本発明を適用することができる。また、本発明に係る装置及びシステムは、シリンダ内に燃料を直接的に噴射する燃料噴射弁に限らず、エンジンの吸気通路又は排気通路に燃料を噴射する燃料噴射弁についても、その燃料噴射圧力の制御等のために用いることができる。また、対象とする燃料噴射弁は、図2に例示したインジェクタに限られず、任意である。例えば図2に例示した電磁駆動式のインジェクタ20に代えて、ピエゾ駆動式のインジェクタを用いるようにしてもよい。また、圧力リークを伴わない燃料噴射弁、例えば駆動動力の伝達に油圧室(コマンド室Cd)を介さない直動式のインジェクタ(例えば近年開発されつつある直動式ピエゾインジェクタ)等を用いることもできる。そして、直動式のインジェクタを用いた場合には、噴射率の制御が容易となる。そして、上記実施形態についてこうした構成の変更を行う場合には、上述した各種の処理(プログラム)についても、その細部を、実際の構成に応じて適宜最適なかたちに変更(設計変更)することが好ましい。
・上記実施形態及び変形例では、各種のソフトウェア(プログラム)を用いることを想定したが、専用回路等のハードウェアで同様の機能を実現するようにしてもよい。
12…コモンレール、14…配管(コモンレール燃料吐出側の燃料通路)、20…インジェクタ、20a…燃圧センサ、20f…噴孔、30…ECU(電子制御ユニット)。